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特許7246595毛包原基、毛包原基の製造方法、及び毛包原基に含まれる細胞の活性化方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】毛包原基、毛包原基の製造方法、及び毛包原基に含まれる細胞の活性化方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230320BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20230320BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20230320BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12N5/0775
C12N5/077
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018210524
(22)【出願日】2018-11-08
(65)【公開番号】P2020074718
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】景山 達斗
(72)【発明者】
【氏名】楯 芳樹
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0271913(US,A1)
【文献】国際公開第2017/073625(WO,A1)
【文献】特表2010-534072(JP,A)
【文献】国際公開第2008/001938(WO,A1)
【文献】Koh-ei Toyoshima. et al.,Fully functional hair follicle regeneration through the rearrangement of stem cells and their niches,Nat. Commun.,2012年04月17日,3:784,doi: 10.1038/ncomms1784
【文献】Chong Hyun Won et al.,Hair growth promoting effects of adipose tissue-derived stem cells.,J. Dermatol. Sci.,2010年02月,Vol.57, No.2,p.134-137,doi: 10.1016/j.jdermsci.2009.10.013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 15/00
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮系細胞が凝集して形成された上皮系細胞凝集部と、
毛乳頭細胞及び/又は毛球部毛根鞘細胞である間葉系細胞が凝集して形成され、且つ、その一部が前記上皮系細胞凝集部の一部と結合した間葉系細胞凝集部と、
前記間葉系細胞凝集部に含まれる前記間葉系細胞と接する脂肪由来間葉系幹細胞とを含み、
非接着状態である、毛包原基。
【請求項2】
毛包原基スフェロイドである、請求項1に記載の毛包原基。
【請求項3】
前記上皮系細胞の数と前記間葉系細胞の数との合計に対する、前記脂肪由来間葉系幹細胞の数の比率が0.01以上である、請求項1又は2に記載の毛包原基。
【請求項4】
前記上皮系細胞の数に対する、前記脂肪由来間葉系幹細胞の数の比率が0.02以上である、請求項1乃至のいずれかに記載の毛包原基。
【請求項5】
前記間葉系細胞の数に対する、前記脂肪由来間葉系幹細胞の数の比率が0.02以上である、請求項1乃至のいずれかに記載の毛包原基。
【請求項6】
上皮系細胞と、毛乳頭細胞及び/又は毛球部毛根鞘細胞である間葉系細胞と、脂肪由来間葉系幹細胞とを培養液中に分散し混合して共培養することにより、非接着状態の毛包原基を形成することを含む、毛包原基の製造方法。
【請求項7】
前記上皮系細胞と、前記間葉系細胞と、前記脂肪由来間葉系幹細胞とを細胞非接着性表面上で共培養する、
請求項に記載の毛包原基の製造方法。
【請求項8】
前記共培養により形成された前記毛包原基は、前記脂肪由来間葉系幹細胞を用いない以外は同一の方法で形成された毛包原基に含まれる間葉系細胞に比べて、活性化された前記間葉系細胞を含む、
請求項又はに記載の毛包原基の製造方法。
【請求項9】
前記活性化された間葉系細胞は、少なくとも一つの発毛関連遺伝子の発現量が、前記脂肪由来間葉系幹細胞を用いない以外は同一の方法で形成された毛包原基に含まれる間葉系細胞のそれより増加している、
請求項に記載の毛包原基の製造方法。
【請求項10】
上皮系細胞と、毛乳頭細胞及び/又は毛球部毛根鞘細胞である間葉系細胞との共培養により形成される非接着状態の毛包原基において、
脂肪由来間葉系幹細胞をさらに加えて、前記上皮系細胞と前記間葉系細胞と前記脂肪由来間葉系幹細胞とを培養液中に分散し混合して前記共培養を行うことにより、前記毛包原基に含まれる前記間葉系細胞を活性化する、
間葉系細胞の活性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛包原基、毛包原基の製造方法、及び毛包原基に含まれる細胞の活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体外で毛包原基を形成し、当該毛包原基を生体に移植して毛髪を再生させる技術の開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、規則的な配置の微小凹部からなるマイクロ凹版に、間葉系細胞及び上皮系細胞を播種し、酸素を供給しながら混合培養することにより、毛包原基を形成させる工程を備えることを特徴とする再生毛包原基の集合体の製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、体性に由来する複数の体性細胞種からなる原始的な器官様をなし得る細胞塊の製造方法であって、当該複数種の体性細胞を含む培養液を用意し、当該複数種の体性細胞培養液を混合後、その混合細胞培養液にWntシグナル活性化剤を添加し、当該Wntシグナル活性化剤を含有する培養液を所定期間にわたり非平面接触性培養に委ね、当該非平面接触性培養した培養物の培地をWntシグナル活性化剤非含有培地と交換し、更に所定期間培養する、ことを含んでなり、ここで当該複数の体細胞の少なくとも1種は未分化状態を保っている、方法。が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/073625号
【文献】特開2013-078344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、十分な発毛関連特性を有する毛包原基を製造する方法は、未だ確立されてはいない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、優れた発毛関連特性を有する毛包原基、毛包原基の製造方法、及び毛包原基に含まれる細胞の活性化方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る毛包原基は、上皮系細胞と、間葉系細胞と、間葉系幹細胞とを含む。本発明によれば、優れた発毛関連特性を有する毛包原基が提供される。
【0009】
前記毛包原基において、前記間葉系幹細胞は、脂肪由来間葉系幹細胞であることとしてもよい。前記毛包原基において、前記間葉系細胞は、毛乳頭細胞、及び/又は、毛球部毛根鞘細胞であることとしてもよい。前記毛包原基は、毛包原基スフェロイドであることとしてもよい。
【0010】
前記毛包原基において、前記上皮系細胞の数と前記間葉系細胞の数との合計に対する、前記間葉系幹細胞の数の比率が0.01以上であることとしてもよい。前記毛包原基において、前記上皮系細胞の数に対する、前記間葉系幹細胞の数の比率が0.02以上であることとしてもよい。前記毛包原基において、前記間葉系細胞の数に対する、前記間葉系幹細胞の数の比率が0.02以上であることとしてもよい。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る毛包原基の製造方法は、上皮系細胞と、間葉系細胞と、間葉系幹細胞とを共培養することにより毛包原基を形成することを含む。本発明によれば、優れた発毛関連特性を有する毛包原基の製造方法が提供される。
【0012】
前記方法においては、前記上皮系細胞と、前記間葉系細胞と、前記間葉系幹細胞とを細胞非接着性表面上で共培養することとしてもよい。
【0013】
前記方法において、前記共培養により形成された前記毛包原基は、前記間葉系幹細胞を用いない以外は同一の方法で形成された毛包原基に含まれる間葉系細胞に比べて、活性化された前記間葉系細胞を含むこととしてもよい。この場合、前記活性化された間葉系細胞は、少なくとも一つの発毛関連遺伝子の発現量が、前記間葉系幹細胞を用いない以外は同一の方法で形成された毛包原基に含まれる間葉系細胞のそれより増加していることとしてもよい。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る間葉系細胞の活性化方法は、上皮系細胞と間葉系細胞との共培養により形成される毛包原基において、間葉系幹細胞をさらに加えて前記共培養を行うことにより、前記毛包原基に含まれる前記間葉系細胞を活性化する。本発明によれば、間葉系細胞の発毛関連特性を効果的に向上させる、間葉系細胞の活性化方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた発毛関連特性を有する毛包原基、毛包原基の製造方法、及び毛包原基に含まれる細胞の活性化方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本実施形態に係る実施例1において製造された毛包原基について、培養1日目の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
図1B】本実施形態に係る実施例1において製造された毛包原基について、培養2日目の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
図1C】本実施形態に係る実施例1において製造された毛包原基について、培養3日目の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
図2A】本実施形態に係る実施例1において製造された培養3日目の毛包原基において蛍光染色された上皮系細胞の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
図2B】本実施形態に係る実施例1において製造された培養3日目の毛包原基において蛍光染色された脂肪由来幹細胞の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
図2C】本実施形態に係る実施例1において製造された培養3日目の毛包原基において蛍光染色された上皮系細胞、毛乳頭細胞、及び脂肪由来幹細胞の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
図3A】本実施形態に係る実施例2において、毛包原基のVersican遺伝子発現量を評価した結果を示す説明図である。
図3B】本実施形態に係る実施例2において、毛包原基のBMP4遺伝子発現量を評価した結果を示す説明図である。
図3C】本実施形態に係る実施例2において、毛包原基のALP遺伝子発現量を評価した結果を示す説明図である。
図4A】本実施形態に係る実施例3において製造された毛包原基について、培養1日目の位相差顕微鏡写真の一例を示す説明図である。
図4B】本実施形態に係る実施例3において製造された毛包原基について、培養3日目の位相差顕微鏡写真の一例を示す説明図である。
図4C】本実施形態に係る実施例3において製造された毛包原基について、培養3日目の位相差顕微鏡写真の他の例を示す説明図である。
図5A】本実施形態に係る実施例4において、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=1:1:0の数比で形成され、マウスに移植された毛包原基の様子を撮影した写真を示す説明図である。
図5B】本実施形態に係る実施例4において、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=2:2:1の数比で形成され、マウスに移植された毛包原基の様子を撮影した写真を示す説明図である。
図5C】本実施形態に係る実施例4において、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=4:4:1の数比で形成され、マウスに移植された毛包原基の様子を撮影した写真を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0018】
本実施形態に係る毛包原基は、上皮系細胞と、間葉系細胞と、間葉系幹細胞とを含む。毛包原基は、生体外で形成される細胞凝集塊である。このため毛包原基は、再生毛包原基と呼ばれることもある。毛包原基は、発毛関連特性を有する。すなわち、毛包原基(より具体的には、当該毛包原基に含まれる細胞)は、発毛関連遺伝子を発現する。発毛関連遺伝子は、発毛に関連する遺伝子(例えば、発毛の促進に関連する遺伝子)であれば特に限られないが、例えば、Versican、ALP(アルカリフォスファターゼ)、BMP4、Nexin、Notch1、Wnt10b、LEF1(Lymphoid Enhancer Factor-1)、Shh(Sonic hedgehog)、MSX2(Msh homeobox2)及びβ-Cateninからなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0019】
また、例えば、毛包原基は、生体に移植されることで発毛する。このため、毛包原基は、生体への移植に好ましく用いられる。すなわち、毛包原基は、移植用毛包原基であることとしてもよい。なお、毛包原基は、移植に用いることなく、そのまま研究等の他の用途に供することもできる。
【0020】
毛包原基に含まれる上皮系細胞は、発毛関連特性(例えば、発毛関連遺伝子の発現、及び/又は、間葉系細胞との共培養による毛包原基の形成)を有するものであれば、特に限られない。上皮系細胞は、毛包組織(例えば、毛包組織のバルジ領域の外毛根鞘最外層、及び又は、毛母基部)に由来する細胞であってもよく、皮膚組織に由来する細胞であってもよく、生体外で幹細胞(例えば、人工多能性幹(iPS)細胞、胚性幹(ES)細胞、又は胚性生殖(EG)細胞)から誘導された細胞であってもよい。上皮系細胞は、生体から採取された初代細胞であってもよく、予め培養された細胞(例えば、継代培養された細胞、及び/又は、株化された細胞)であってもよい。
【0021】
上皮系細胞は、例えば、サイトケラチンを発現する細胞として特定される。上皮系細胞は、上皮幹細胞であることが好ましい。上皮幹細胞は、例えば、サイトケラチン15、及び/又は、CD34を発現する細胞として特定される。
【0022】
上皮系細胞は、ヒト由来であることが好ましいが、非ヒト動物(ヒト以外の動物)由来であってもよい。非ヒト動物は、特に限られないが、非ヒト脊椎動物(ヒト以外の脊椎動物)であることが好ましい。非ヒト脊椎動物は、特に限られないが、非ヒト哺乳類であることが好ましい。非ヒト哺乳類は、特に限られないが、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、又は有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ)であってもよい。
【0023】
毛包原基に含まれる間葉系細胞は、発毛関連特性(例えば、発毛関連遺伝子の発現、及び/又は、上皮系細胞との共培養による毛包原基の形成)を有するものであれば、特に限られない。間葉系細胞は、成体毛包組織(例えば、毛乳頭及び/又は毛球部毛根鞘)に由来する細胞であってもよく、皮膚組織(胎児、幼体、成体のいずれの皮膚組織であってもよい。)に由来する細胞であってもよく、生体外で幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞、又はEG細胞)から誘導された細胞であってもよい。間葉系細胞は、生体から採取された初代細胞であってもよく、予め培養された細胞(例えば、継代培養された細胞、及び/又は、株化された細胞)であってもよい。
【0024】
間葉系細胞は、例えば、Versican及びALPを発現する細胞として特定される。具体的に、間葉系細胞は、毛乳頭細胞、及び/又は、毛球部毛根鞘細胞であることが好ましい。毛乳頭細胞及び毛球部毛根鞘細胞は、Versican及びALPを発現する。
【0025】
間葉系細胞は、ヒト由来であることが好ましいが、非ヒト動物(ヒト以外の動物)由来であってもよい。非ヒト動物は、特に限られないが、非ヒト脊椎動物(ヒト以外の脊椎動物)であることが好ましい。非ヒト脊椎動物は、特に限られないが、非ヒト哺乳類であることが好ましい。非ヒト哺乳類は、特に限られないが、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、又は有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ)であってもよい。
【0026】
毛包原基に含まれる間葉系幹細胞は、中胚葉性組織(間葉)に由来する体性幹細胞であれば、特に限られない。間葉系幹細胞は、例えば、骨髄由来間葉系幹細胞であることとしてもよいが、脂肪由来間葉系幹細胞(以下、「脂肪由来幹細胞」という。)であることが好ましい。
【0027】
脂肪由来幹細胞は、生体の脂肪組織(皮下脂肪に限られず、他の脂肪組織であってもよい。)に由来する間葉系幹細胞であってもよく、当該脂肪由来幹細胞への分化能を有する幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞、又はEG細胞)から生体外で誘導された細胞であってもよい。脂肪由来幹細胞は、生体から採取された初代細胞であってもよく、予め培養された細胞(例えば、継代培養された細胞、及び/又は、株化された細胞)であってもよい。
【0028】
脂肪由来幹細胞は、その培養系における基材への接着性に関し、商業的に入手可能な培養容器の底面(ポリスチレン等の樹脂製の表面)に接着する間葉系幹細胞として特定される。脂肪由来幹細胞は、その分化能に関し、例えば、骨細胞、脂肪細胞、及び軟骨細胞への分化能を有する(すなわち、骨細胞、脂肪細胞、及び軟骨細胞のいずれにも分化可能な)間葉系幹細胞として特定される。
【0029】
脂肪由来幹細胞は、その細胞表面マーカーに関し、例えば、CD73、CD90及びCD105が陽性である間葉系幹細胞として特定される。この場合、脂肪由来幹細胞は、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105及びCD166が陽性である間葉系幹細胞として特定されてもよい。さらにこの場合、脂肪由来幹細胞は、CD13、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105及びCD166が陽性である間葉系幹細胞として特定されてもよい。
【0030】
脂肪由来幹細胞は、上記の細胞表面マーカーが陽性であることに加え、CD14、CD34及びCD45が陰性である間葉系幹細胞、又は、CD14、CD31及びCD45が陰性である間葉系幹細胞として特定されてもよい。この場合、脂肪由来幹細胞は、CD14、CD19、CD34、CD45及びHLA-DRが陰性である間葉系幹細胞、又は、CD14、CD31、CD34及びCD45が陰性である間葉系幹細胞として特定されてもよい。また、前者の場合、脂肪由来幹細胞は、CD11b、CD14、CD19、CD34、CD45、CD79a及びHLA-DRが陰性である間葉系幹細胞として特定されてもよい。
【0031】
脂肪由来幹細胞は、その細胞表面マーカーに関し、上記陽性マーカーと、上記陰性マーカーとの任意の組み合わせにより特定されてもよい。具体的に、脂肪由来幹細胞は、例えば、CD73、CD90及びCD105が陽性であり、且つ、CD11b、CD14、CD19、CD34、CD45、CD79a及びHLA-DRが陰性である間葉系幹細胞として特定される。また、脂肪由来幹細胞は、例えば、CD13、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105及びCD166が陽性であり、CD14、CD31及びCD45が陰性である間葉系幹細胞として特定される。また、脂肪由来幹細胞は、例えば、CD73、CD90及びCD105が陽性であり、且つ、CD14、CD19、CD34、CD45及びHLA-DRが陰性である間葉系幹細胞として特定される。また、脂肪由来幹細胞は、例えば、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105及びCD166が陽性であり、且つ、CD14、CD31、CD34及びCD45が陰性である間葉系幹細胞として特定される。
【0032】
脂肪由来幹細胞は、ヒト由来であることが好ましいが、非ヒト動物(ヒト以外の動物)由来であってもよい。非ヒト動物は、特に限られないが、非ヒト脊椎動物(ヒト以外の脊椎動物)であることが好ましい。非ヒト脊椎動物は、特に限られないが、非ヒト哺乳類であることが好ましい。非ヒト哺乳類は、特に限られないが、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、又は有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ)であってもよい。
【0033】
毛包原基に含まれる上皮系細胞、間葉系細胞、及び間葉系幹細胞の各々の数は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限られず、適宜調整される。すなわち、毛包原基において、上皮系細胞の数に対する、間葉系細胞の数の比率は、例えば、0.01以上であることとしてもよく、0.05以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、0.15以上であることがより一層好ましく、0.20以上であることが特に好ましい。
【0034】
上皮系細胞の数に対する、間葉系細胞の数の比率は、例えば、10.0以下であることとしてもよく、7.0以下であることとしてもよく、5.0以下であることとしてもよい。上皮系細胞の数に対する、間葉系細胞の数の比率は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0035】
毛包原基において、上皮系細胞の数と間葉系細胞の数との合計に対する、間葉系幹細胞の数の比率は、例えば、0.01以上であることとしてもよく、0.05以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、0.15以上であることがより一層好ましく、0.20以上であることが特に好ましい。
【0036】
上皮系細胞の数と間葉系細胞の数との合計に対する、間葉系幹細胞の数の比率は、例えば、3.0以下であることとしてもよく、1.5以下であることとしてもよい。上皮系細胞の数と間葉系細胞の数との合計に対する、間葉系幹細胞の数の比率は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0037】
毛包原基において、上皮系細胞の数に対する、間葉系幹細胞の数の比率は、例えば、0.02以上であることとしてもよく、0.10以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.30以上であることがより一層好ましく、0.40以上であることが特に好ましい。
【0038】
上皮系細胞の数に対する、間葉系幹細胞の数の比率は、例えば、3.0以下であることとしてもよく、1.5以下であることとしてもよい。上皮系細胞の数に対する、間葉系幹細胞の数の比率は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0039】
毛包原基において、間葉系細胞の数に対する、間葉系幹細胞の数の比率は、例えば、0.02以上であることとしてもよく、0.10以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.30以上であることがより一層好ましく、0.40以上であることが特に好ましい。
【0040】
間葉系細胞の数に対する、間葉系幹細胞の数の比率は、例えば、3.0以下であることとしてもよく、1.5以下であることとしてもよい。間葉系細胞の数に対する、間葉系幹細胞の数の比率は、上記下限値のいずれかと、上記上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0041】
毛包原基は、上皮系細胞と、間葉系細胞と、間葉系幹細胞とを共培養することにより形成される。すなわち、本実施形態に係る方法(以下、「本方法」という。)は、上皮系細胞と、間葉系細胞と、間葉系幹細胞とを共培養することにより毛包原基を形成することを含む、毛包原基の製造方法を包含する。共培養は、上皮系細胞と、間葉系細胞と、間葉系幹細胞とを混合して培養することにより行う。
【0042】
共培養の方法は、上皮系細胞、間葉系細胞、及び間葉系幹細胞が凝集して毛包原基を形成する方法であれば特に限られないが、例えば、当該上皮系細胞と、当該間葉系細胞と、当該間葉系幹細胞とを細胞非接着性表面上で共培養することが好ましい。
【0043】
ここで、細胞非接着性表面は、上皮系細胞、間葉系細胞、及び間葉系幹細胞が実質的に接着しない表面であれば特に限られない。すなわち、細胞非接着性表面は、例えば、上皮系細胞、間葉系細胞、及び間葉系幹細胞が接着せず浮遊状態で維持される表面、又は、当該上皮系細胞、間葉系細胞、及び間葉系幹細胞が緩く接着するものの、トリプシン処理等の酵素処理を施すことなく、ピペッティング等の培養液を流動させる操作で当該上皮系細胞、間葉系細胞、及び間葉系幹細胞が容易に脱離する表面である。細胞非接着性表面を有する培養容器としては、例えば、商業的に入手可能な、各ウェルの底面に細胞非接着コーティングが施されたマルチウェルプレートを用いることができる。また、国際公開第2017/073625号に記載されたマイクロ凹版も好ましく用いることができる。
【0044】
上皮系細胞と、間葉系細胞と、間葉系幹細胞とを共培養する(例えば、上皮系細胞、間葉系細胞、及び間葉系幹細胞を培養液中に分散し混合して培養する)ことにより、当該上皮系細胞、間葉系細胞、及び間葉系幹細胞が自発的に凝集して、毛包原基が形成される。形成された毛包原基は、例えば、上皮系細胞同士が自発的に凝集して形成された上皮系細胞凝集部と、間葉系細胞同士が自発的に凝集して形成され、且つその一部が当該上皮系細胞凝集部の一部と結合した間葉系細胞凝集部と、を含み、さらに、当該間葉系細胞凝集部に含まれる間葉系細胞と接して存在する間葉系幹細胞を含む。
【0045】
この場合、毛包原基に含まれる間葉系幹細胞の総数のうち、50%以上、好ましくは70%以上の数の間葉系幹細胞は、間葉系細胞凝集部に接して存在する(例えば、毛包原基に含まれる間葉系幹細胞の総数のうち、50%以上、好ましくは70%以上の数の間葉系幹細胞は、間葉系細胞凝集部に含まれる)こととしてもよい。また、これらの場合、毛包原基に含まれる間葉系幹細胞の総数のうち、50%以上、好ましくは70%以上の数の間葉系幹細胞は、上皮系細胞凝集部に接することなく存在する(例えば、毛包原基に含まれる間葉系幹細胞の総数のうち、50%以上、好ましくは70%以上の数の間葉系幹細胞は、上皮系細胞凝集部に含まれない)こととしてもよい。
【0046】
毛包原基においては、例えば、間葉系細胞凝集部が内核部を構成するとともに、上皮系細胞凝集部が、当該間葉系細胞凝集塊の外周を覆う外層を構成することとしてもよい(いわゆるコアシェル型の毛包原基)。また、毛包原基においては、例えば、互いに隣接する間葉系細胞凝集部と上皮系細胞凝集部とが、その外表面の一部同士を接して存在することとしてもよい。このように、毛包原基は、間葉系細胞凝集部と上皮系細胞凝集部とを含むことが好ましいが、毛包原基においては、例えば、間葉系細胞と上皮系細胞とがそれぞれ分散して配置されることとしてもよい(いわゆるランダム型の毛包原基)。これら毛包原基において、少なくとも一部の間葉系幹細胞は、上述のとおり、間葉系細胞と接して存在する。
【0047】
細胞非接着表面上では、非接着状態の毛包原基が製造される。ここで、非接着状態の毛包原基とは、細胞非接着表面に接着せず浮遊状態にある毛包原基、又は、当該細胞非接着表面に緩く接着しているが、トリプシン処理等の酵素処理を施すことなく、ピペッティング等の培養液を流動させる操作で当該細胞非接着性表面から容易に脱離する毛包原基である。
【0048】
毛包原基は、毛包原基スフェロイドであることとしてもよい。毛包原基スフェロイドは、略球状の細胞凝集塊である。毛包原基スフェロイドは、非接着状態で形成され、容易に回収される。このため、毛包原基スフェロイドは、生体への移植に好ましく用いられる。
【0049】
間葉系幹細胞を含む共培養により形成された毛包原基は、例えば、当該間葉系幹細胞を用いない以外は同一の方法で形成された毛包原基に含まれる間葉系細胞に比べて、活性化された間葉系細胞を含む。
【0050】
ここで、間葉系細胞の活性化は、当該間葉系細胞の発毛関連特性の向上を意味する。具体的に、間葉系細胞の発毛関連特性の向上は、例えば、当該間葉系細胞の発毛関連遺伝子の発現量の増加、及び/又は、当該間葉系細胞を用いて形成された毛包原基の発毛特性の向上(例えば、生体に移植された当該毛包原基から生える毛の数及び/又は長さの増加)を含む。
【0051】
すなわち、例えば、間葉系幹細胞との共培養により活性化された間葉系細胞は、少なくとも一つの発毛関連遺伝子の発現量が、当該間葉系幹細胞を用いない以外は同一の方法で形成された毛包原基に含まれる間葉系細胞のそれより増加している。
【0052】
間葉系細胞において発現する発毛関連遺伝子は、当該間葉系細胞の発毛への寄与に関連する遺伝子であれば特に限られないが、例えば、Versican、ALP、BMP4、Nexin及びNotch1からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0053】
具体的に、間葉系幹細胞を含む毛包原基に含まれる活性化間葉系細胞は、例えば、RT-PCRで測定されるVersican遺伝子の発現量が、当該間葉系幹細胞を用いない以外は同一の方法で形成された毛包原基に含まれる間葉系細胞のそれの1.2倍以上であることとしてもよく、1.5倍以上であることが好ましく、1.8倍以上であることがより好ましく、2.0倍以上であることが特に好ましい。
【0054】
また、間葉系幹細胞を含む毛包原基に含まれる活性化間葉系細胞は、例えば、RT-PCRで測定されるALP遺伝子の発現量が、当該間葉系幹細胞を用いない以外は同一の方法で形成された毛包原基に含まれる間葉系細胞のそれの1.2倍以上であることとしてもよく、1.5倍以上であることが好ましく、1.7倍以上であることが特に好ましい。
【0055】
また、間葉系幹細胞を含む毛包原基に含まれる活性化間葉系細胞は、例えば、RT-PCRで測定されるBMP4遺伝子の発現量が、当該間葉系幹細胞を用いない以外は同一の方法で形成された毛包原基に含まれる間葉系細胞のそれの1.1倍以上であることとしてもよく、1.2倍以上であることが好ましく、1.3倍以上であることが特に好ましい。
【0056】
間葉系幹細胞を含む共培養により形成された毛包原基は、例えば、当該間葉系幹細胞を用いない以外は同一の方法で形成された毛包原基に含まれる上皮系細胞に比べて、活性化された上皮系細胞を含む。
【0057】
ここで、上皮系細胞の活性化は、当該上皮系細胞の発毛関連特性の向上を意味する。具体的に、上皮系細胞の発毛関連特性の向上は、例えば、当該上皮系細胞の発毛関連遺伝子の発現量の増加、及び/又は、当該上皮系細胞を用いて形成された毛包原基の発毛特性の向上(例えば、生体に移植された当該毛包原基から生える毛の数及び/又は長さの増加)を含む。
【0058】
すなわち、例えば、間葉系幹細胞との共培養により活性化された上皮系細胞は、少なくとも一つの発毛関連遺伝子の発現量が、当該間葉系幹細胞を用いない以外は同一の方法で形成された毛包原基に含まれる上皮系細胞のそれより増加している。
【0059】
上皮系細胞において発現する発毛関連遺伝子は、当該上皮系細胞の発毛への寄与に関連する遺伝子であれば特に限られないが、例えば、Wnt10b、LEF1、Shh、MSX2及びβ-Cateninからなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0060】
具体的に、間葉系幹細胞を含む毛包原基に含まれる活性化上皮系細胞は、例えば、RT-PCRで測定される発毛関連遺伝子(例えば、Wnt10b、LEF1、Shh、MSX2及びβ-Cateninからなる群より選択される1以上)の発現量が、当該間葉系幹細胞を用いない以外は同一の方法で形成された毛包原基に含まれる間葉系細胞のそれより大きい。
【0061】
このように、本方法による毛包原基の製造は、活性化された間葉系細胞を含む毛包原基の製造、すなわち、活性化された毛包原基の製造であるともいえる。このため、本方法は、上皮系細胞と間葉系細胞との共培養により形成される毛包原基において、間葉系幹細胞をさらに加えて当該共培養を行うことにより、当該毛包原基に含まれる当該間葉系細胞を活性化する、間葉系細胞の活性化方法を含む。
【0062】
本実施形態に係る毛包原基は、上述のとおり、生体への移植に好ましく用いられる。すなわち、本方法によれば、生体に移植されることで毛が生える毛包原基が製造される。
【0063】
毛包原基を生体に移植して当該毛包原基から毛を生やす場合、当該生体は特に限られず、ヒトであってもよいし、非ヒト動物であってもよい。非ヒト動物は特に限られないが、非ヒト哺乳類であることが好ましい。非ヒト哺乳類は、特に限られないが、例えば、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、又は有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ)であってもよい。毛包原基の生体への移植は、当該生体の皮膚への移植であることが好ましい。皮膚への移植は、例えば、皮下移植であってもよいし、皮内移植であってもよい。
【0064】
毛包原基の製造及びその動物への移植は、医学的用途であってもよいし、研究用途であってもよい。すなわち、例えば、脱毛を伴う疾患の治療又は予防のために、当該疾患を患っている又は患う可能性のあるヒト患者に移植する目的で毛包原基を製造し、又は当該毛包原基を当該ヒト患者に移植することとしてもよい。
【0065】
脱毛を伴う疾患は、特に限られないが、例えば、男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)、女子男性型脱毛症(Female Androgenetic Alopecia:FAGA)、分娩後脱毛症、びまん性脱毛症、脂漏性脱毛症、粃糠性脱毛症、牽引性脱毛症、代謝異常性脱毛症、圧迫性脱毛症、円形脱毛症、神経性脱毛症、抜毛症、全身性脱毛症、及び症候性脱毛症からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0066】
また、例えば、脱毛を伴う疾患の治療又は予防に使用され得る物質の探索、及び/又は当該疾患の機構に関与する物質の探索のために、毛包原基を製造し、又は当該毛包原基を非ヒト動物に移植することとしてもよい。
【0067】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0068】
[上皮系細胞の採取]
胎齢18日のC57BL/6マウス胎児より背部の皮膚組織を採取し、中尾らが報告した方法(Koh-ei Toyoshima et al. Nature Communications, 3, 784, 2012)を一部改変して、ディスパーゼ処理を4℃で1時間、30rpm震盪条件で行い、当該皮膚組織の上皮層と間葉層とを分離した。その後、上皮層に100U/mLのコラゲナーゼ処理を1時間20分施し、さらにトリプシン処理を10分施すことで、上皮系細胞を単離した。
【0069】
[間葉系細胞の調製]
間葉系細胞としては、毛乳頭細胞を用いた。すなわち、商業的に入手可能なヒト毛乳頭細胞(PromoCell社)を継代培養し、継代4代目~6代目(P4~P6)の当該ヒト毛乳頭細胞を用いた。培養液としては、商業的に入手可能な毛乳頭細胞用培養培地(PromoCell社)を用いた。
【0070】
[間葉系幹細胞の調製]
間葉系幹細胞としては、脂肪由来幹細胞を用いた。すなわち、商業的に入手可能なヒト脂肪由来幹細胞(Lonza社)を継代培養し、継代4代目~6代目(P4~P6)の当該ヒト脂肪由来幹細胞を用いた。培養液としては、商業的に入手可能なDMEM培養培地(Sigma社)を用いた。
【0071】
[毛包原基の製造]
毛包原基を形成するための培養容器として、各ウェルが、細胞非接着コーティングが施された丸底(凹状に湾曲した細胞非接着性底面)を有する、商業的に入手可能な96マルチウェルプレートを用いた。
【0072】
そして、各ウェルに、上皮系細胞及び毛乳頭細胞をそれぞれ4×10個/ウェル、及び脂肪由来幹細胞を2×10個/ウェル(全細胞数が1×10個/ウェル)となるように混合して播種し、共培養を3日間行った。培養液としては、毛乳頭細胞培養培地(Follicle Dermal Papilla Cell Growth Medium kit、PromoCell社)と、HuMedia-KG2とを体積比1:1で混合して調製された混合培地を用いた。
【0073】
[結果]
図1A図1B、及び図1Cには、それぞれ培養1日目、培養2日目、及び培養3日目に、1つのウェル内で形成された毛包原基の蛍光顕微鏡写真を示す。図1A図1Cに示す毛包原基において、毛乳頭細胞は、蛍光試薬VybrantDiOにより緑色に蛍光染色され、脂肪由来幹細胞(図中の「ADSC」)は、蛍光試薬VybrantDilにより赤色に蛍光染色された。
【0074】
図1A図1B、及び図1Cに示すように、培養時間が経過するにつれて、上皮系細胞同士が自発的に凝集して上皮系細胞凝集部を形成するとともに、毛乳頭細胞同士も自発的に凝集して毛乳頭細胞凝集部を形成して、毛包原基スフェロイドが形成された。この毛包原基スフェロイドにおいて、多くの脂肪由来幹細胞は、毛乳頭細胞凝集部に分布していた。
【0075】
図2A図2B、及び図2Cには、培養3日目に、1つのウェルで形成された毛包原基の蛍光顕微鏡写真を示す。この毛包原基において、上皮系細胞は、抗サイトケラチン15抗体を介して緑色に蛍光染色され、全ての細胞の細胞核は、蛍光試薬DAPIにより青色に蛍光染色され、脂肪由来幹細胞は、蛍光試薬VybrantDilにより赤色に蛍光染色された。図2Aには、上皮系細胞に対応する緑色の蛍光画像を示し、図2Bには、脂肪由来幹細胞に対応する赤色の蛍光画像を示し、図2Cには、上皮系細胞、毛乳頭細胞、及び脂肪由来幹細胞に対応する3色の蛍光画像を示している。
【0076】
図2Aに示すように、上皮系細胞は、毛包原基の一部として、上皮系細胞凝集部を形成した。一方、図2Cに示すように、毛乳頭細胞は、毛包原基の他の一部として、毛乳頭細胞凝集部を形成した。これら上皮系細胞凝集部と毛乳頭細胞凝集部とは、その一部が互いに接するよう隣接して形成されていた。そして、図2B及び図2Cに示すように、脂肪由来幹細胞の多くは、毛乳頭細胞凝集部に存在していた。
【実施例2】
【0077】
[上皮系細胞の採取]
上述の実施例1と同様に、胎齢18日のC57BL/6マウス胎児の皮膚組織から、上皮系細胞を単離した。
【0078】
[間葉系細胞の調製]
上述の実施例1と同様に、間葉系細胞として、毛乳頭細胞を調製した。
【0079】
[間葉系幹細胞の調製]
上述の実施例1と同様に、間葉系幹細胞として、脂肪由来幹細胞を調製した。
【0080】
[毛包原基の製造]
培養容器としては、上述の実施例1と同様に、96マルチウェルプレートを用いた。そして、上皮系細胞、毛乳頭細胞、及び脂肪由来幹細胞の数の比率を変えて、上述の実施例1と同様に、混合培地を用いて、各ウェルで当該上皮系細胞、毛乳頭細胞、及び脂肪由来幹細胞の共培養を行った。
【0081】
具体的に、実施例2-1として、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=2:2:1の数比で共培養を行った。すなわち、各ウェルに、上皮系細胞及び毛乳頭細胞をそれぞれ4×10個/ウェル、及び脂肪由来幹細胞を2×10個/ウェル(全細胞数が1×10個/ウェル)となるように混合して播種し、共培養を3日間行った。
【0082】
同様に、実施例2-2として、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=4:4:1の数比で共培養を行った。すなわち、各ウェルに、上皮系細胞及び毛乳頭細胞をそれぞれ4×10個/ウェル、及び脂肪由来幹細胞を1×10個/ウェル(全細胞数が9×10個/ウェル)となるように混合して播種し、共培養を3日間行った。
【0083】
また、実施例2-3として、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=8:8:1の数比で共培養を行った。すなわち、各ウェルに、上皮系細胞及び毛乳頭細胞をそれぞれ4×10個/ウェル、及び脂肪由来幹細胞を0.5×10個/ウェル(全細胞数が8.5×10個/ウェル)となるように混合して播種し、共培養を3日間行った。
【0084】
一方、比較例2-1として、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=1:1:0の数比で共培養を行った。すなわち、脂肪由来幹細胞を用いることなく、各ウェルに、上皮系細胞及び毛乳頭細胞をそれぞれ4×10個/ウェル(全細胞数が8×10個/ウェル)となるように混合して播種し、共培養を3日間行った。
【0085】
[発毛関連遺伝子のPCR解析]
3日間の培養により形成された毛包原基の遺伝子発現量をRT-PCRにより解析した。RT-PCRで用いたプライマーの塩基配列は、Versicanについて、Forward Primerは「5‘-GCTGCAAAAGAGTGTGAAAA-3’」、Reverse Primerは「5‘-AGTGGTAACGAGATGCTTCC-3’」であり、BMP4について、Forward Primerは「5‘-GCCCGCAGCCTAGCAA-3’」、Reverse Primerは「5‘-CGGTAAAGATCCCGCATGTAG-3’」であり、ALPについて、Forward Primerは「5‘-ATTGACCACGGGCACCAT-3’」、Reverse Primerは「5‘-CTCCACCGCCTCAGCA-3’」であり、コントロールとして用いたGAPDHについて、Forward Primerは「5‘-ACCACAGTCCATGCCATCAC-3’」、Reverse Primerは「5‘-TCCACCACCCTGTTGCTGTA-3’」であった。
【0086】
[結果]
図3A図3B、及び図3Cには、上皮系細胞、毛乳頭細胞、及び脂肪由来幹細胞の数の比を変えた共培養により形成された毛包原基のVersican遺伝子、BMP4遺伝子、及びALP遺伝子の発現量をそれぞれ解析した結果を示す。具体的に、図3A図3B、及び図3Cには、脂肪由来幹細胞を用いることなく形成された比較例2-1の毛包原基(図中の「1:1:0」)、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=2:2:1の数比で形成された実施例2-1の毛包原基(図中の「2:2:1」)、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=4:4:1の数比で形成された実施例2-2の毛包原基(図中の「4:4:1」)、及び上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=8:8:1の数比で形成された実施例2-3の毛包原基(図中の「8:8:1」)のそれぞれについて、当該比較例2-1における遺伝子発現量を「1」とした場合の、相対的な遺伝子発現量(図の縦軸)を示す。
【0087】
図3A及び図3Cに示すように、脂肪由来幹細胞を用いて形成された全ての毛包原基において、脂肪由来幹細胞を用いることなく形成された毛包原基(図中の「1:1:0」)に比べて、Versican遺伝子及びALP遺伝子の発現量が増加していた。特に、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=2:2:1の数比で形成された毛包原基(図中の「2:2:1」)におけるVersican遺伝子及びALP遺伝子の発現量は、顕著に大きかった。
【0088】
また、図3Bに示すように、BMP4遺伝子については、実施例2-2(図中の「4:4:1」)及び実施例2-3(図中の「8:8:1」)において発現量の増加は認められなかったが、脂肪由来幹細胞の比率が比較的大きい実施例2-1(図中の「2:2:1」)においては、脂肪由来幹細胞を用いることなく形成された毛包原基(図中の「1:1:0」)に比べて、BMP4遺伝子の発現量が顕著に増加していた。
【0089】
すなわち、上皮系細胞と毛乳頭細胞との共培養により形成される毛包原基において、脂肪由来幹細胞をさらに加えて当該共培養を行うことにより、当該毛包原基の発毛関連遺伝子の発現量(具体的には、当該毛包原基に含まれる毛乳頭細胞によるVersican遺伝子、BMP4遺伝子、及びALP遺伝子の発現量)を効果的に増加させることができることが確認された。
【実施例3】
【0090】
[マルチウェル培養容器の作製]
毛包原基スフェロイドを形成するための共培養に用いるマルチウェル培養容器を、上述した特許文献1と同様にして作製した。すなわち、まずCADソフト(V Carve Pro 6.5)を用いて、作製するマルチウェルのパターンをコンピューターで設計した。次いで、切削機を用いて、設計したパターン通りにオレフィン系樹脂基板を切削することで、当該パターンを有する凹鋳型を作製した。この鋳型にエポキシ樹脂(クリスタルリジン、日新レジン株式会社製)を流し込み、1日硬化させ、その後、離型することで、上述の設計されたパターンを有する凸鋳型を形成した。形成した凸鋳型を24ウェルプレートの底面に固定し、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を流し込んで固化し、その後、離型することで、PDMS基板に規則的なパターンで形成されたマルチウェル(各ウェルの直径は1mm、深さは1mm)を有するマルチウェル培養容器(以下、「PDMSスフェロイドチップ」という。)を作製した。
【0091】
このPDMSスフェロイドチップは、酸素透過性に優れたPDMS製の基板にウェルが形成されているため、当該ウェル内で培養される細胞、及び細胞凝集塊には、培養期間を通じて、適切な量の酸素が供給される。
【0092】
[上皮系細胞の採取]
上述の実施例1と同様に、胎齢18日のC57BL/6マウス胎児の皮膚組織から、上皮系細胞を単離した。
【0093】
[間葉系細胞の調製]
上述の実施例1と同様に、間葉系細胞として、毛乳頭細胞を調製した。
【0094】
[間葉系幹細胞の調製]
上述の実施例1と同様に、間葉系幹細胞として、脂肪由来幹細胞を調製した。
【0095】
[毛包原基の大量製造]
培養容器としては、上述のようにして作製したPDMSスフェロイドチップを用いた。そして、PDMSスフェロイドチップの各ウェルに、上皮系細胞及び毛乳頭細胞をそれぞれ4×10個/ウェル、及び脂肪由来幹細胞を2×10個/ウェル(全細胞数が1×10個/ウェル)となるように混合して播種し、共培養を3日間行った。培養液としては、毛乳頭細胞培養培地(Follicle Dermal Papilla Cell Growth Medium kit、PromoCell社)と、HuMedia-KG2とを体積比1:1で混合して調製された混合培地を用いた。
【0096】
[結果]
図4A及び図4Bには、それぞれ培養1日目及び培養3日目においてウェル内で形成されていた毛包原基の高倍率での位相差顕微鏡写真を示し、図4Cには、培養3日目においてウェル内で形成されていた毛包原基の低倍率での位相差顕微鏡写真を示す。
【0097】
図4A図4Cに示すように、PDMSスフェロイドチップの各ウェル内で上皮系細胞、毛乳頭細胞、及び脂肪由来幹細胞を共培養することにより、毛包原基が形成された。図4Bに示すように、毛包原基は、上皮系細胞が凝集して形成された上皮系細胞凝集部と、毛乳頭細胞が凝集して形成された毛乳頭細胞凝集部とを含み、脂肪由来幹細胞(図中の「ADSC」)の多くは、当該毛乳頭細胞凝集部に存在していた。また、図4Cに示すように、PDMSスフェロイドチップを用いることにより、サイズが均一な大量の毛包原基を同時に製造できることが確認された。
【実施例4】
【0098】
[上皮系細胞の採取]
上述の実施例1と同様に、胎齢18日のC57BL/6マウス胎児の皮膚組織から、上皮系細胞を単離した。
【0099】
[間葉系細胞の調製]
上述の実施例1と同様に、間葉系細胞として、毛乳頭細胞を調製した。
【0100】
[間葉系幹細胞の調製]
上述の実施例1と同様に、間葉系幹細胞として、脂肪由来幹細胞を調製した。
【0101】
[毛包原基の製造]
培養容器としては、上述の実施例1と同様に、96マルチウェルプレートを用いた。そして、上皮系細胞、毛乳頭細胞、及び脂肪由来幹細胞の数の比率を変えて、各ウェルで当該上皮系細胞、毛乳頭細胞、及び脂肪由来幹細胞の共培養を行った。培養液としては、毛乳頭細胞培養培地(Follicle Dermal Papilla Cell Growth Medium kit、PromoCell社)と、HuMedia-KG2とを体積比1:1で混合して調製された混合培地を用いた。
【0102】
具体的に、実施例4-1として、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=2:2:1の数比で共培養を行った。すなわち、各ウェルに、上皮系細胞及び毛乳頭細胞をそれぞれ4×10個/ウェル、及び脂肪由来幹細胞を2×10個/ウェル(全細胞数が1×10個/ウェル)となるように混合して播種し、共培養を3日間行った。
【0103】
同様に、実施例4-2として、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=4:4:1の数比で共培養を行った。すなわち、各ウェルに、上皮系細胞及び毛乳頭細胞をそれぞれ4×10個/ウェル、及び脂肪由来幹細胞を1×10個/ウェル(全細胞数が9×10個/ウェル)となるように混合して播種し、共培養を3日間行った。
【0104】
一方、比較例4-1として、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=1:1:0の数比で共培養を行った。すなわち、脂肪由来幹細胞を用いることなく、各ウェルに、上皮系細胞及び毛乳頭細胞をそれぞれ4×10個/ウェル(全細胞数が8×10個/ウェル)となるように混合して播種し、共培養を3日間行った。
【0105】
[マウスへの移植]
上述のようにして形成した毛包原基を培養3日目に回収して、ヌードマウスの皮内に移植した。すなわち、ヌードマウスにイソフルラン吸引麻酔を施し、その背部をイソジンで消毒した。次いで、Vランスマイクロメス(日本アルコン)を用いて、皮膚の表皮層から真皮層下部に至る移植創を形成した。そして、この移植創に、毛包原基を20個ずつ注入した。なお、ヌードマウスの飼育及び移植実験は、横浜国立大学動物実験専門委員会の指針を遵守して行った。
【0106】
[結果]
図5A図5B、及び図5Cにはそれぞれ、脂肪由来幹細胞を用いることなく形成された比較例2-1の毛包原基(図5A中の「1:1:0」)、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=2:2:1の数比で形成された実施例4-1の毛包原基(図5B中の「2:2:1」)、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=4:4:1の数比で形成された実施例4-2の毛包原基(図5C中の「4:4:1」)、をマウスに移植してから30日後の時点で撮影された、当該毛包原基から再生した毛の写真を示す。
【0107】
図5Aに示すように、脂肪由来幹細胞を含まない毛包原基からの発毛は、極僅かであった。また、図5Cに示すように、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=4:4:1の数比で形成された毛包原基からの発毛は、脂肪由来幹細胞を含まない毛包原基のそれに比べると多かった。さらに、図5Bに示すように、上皮系細胞:毛乳頭細胞:脂肪由来幹細胞=2:2:1の数比で形成された毛包原基からの発毛は特に顕著であり、明確な発毛が認められた。
【0108】
すなわち、毛包原基を形成するための共培養において、上皮系細胞及び毛乳頭細胞に脂肪由来幹細胞をさらに加えることによって、当該毛包原基の発毛能力を向上させることができることが確認された。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
【配列表】
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