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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】スティック砥石および研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 11/00 20060101AFI20230320BHJP
   B24B 23/04 20060101ALI20230320BHJP
   B24B 23/02 20060101ALI20230320BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20230320BHJP
   B24D 3/28 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
B24D11/00 F
B24B23/04
B24B23/02
B24D3/00 320A
B24D3/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022123479
(22)【出願日】2022-08-02
【審査請求日】2022-08-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391062595
【氏名又は名称】大明化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597022425
【氏名又は名称】株式会社ジーベックテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(74)【代理人】
【識別番号】100196140
【弁理士】
【氏名又は名称】岩垂 裕司
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 槙一
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 真之介
(72)【発明者】
【氏名】丸山 友紀
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-264976(JP,A)
【文献】特開2006-035414(JP,A)
【文献】特開2001-225273(JP,A)
【文献】特開2000-288949(JP,A)
【文献】特開2004-142042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部をワークの研磨対象面に押し付けて当該研磨対象面の研磨を行う棒状のスティック砥石において、
軸線方向に延びる複数本の無機長繊維と、前記無機長繊維に含浸し硬化した樹脂と、を備え、
先端面には、前記無機長繊維の断面が露出し、
前記軸線方向と交差する方向に撓む弾性を備え、
前記無機長繊維は、アルミナ成分80~90重量%と、シリカ成分20~10重量%と、を備え、
前記無機長繊維の結晶構造は、中間アルミナを備え、
前記シリカ成分は、非結晶状態であり、
前記無機長繊維のBET比表面積は、28.7m /g以下であることを特徴とするスティック砥石。
【請求項2】
前記無機長繊維のBET比表面積は、12.5m /g以下であることを特徴とする請求項1に記載のスティック砥石。
【請求項3】
前記無機長繊維のアルミナ成分が85重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のスティック砥石。
【請求項4】
前記樹脂は、エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のスティック砥石。
【請求項5】
曲げ強度は500MPa以上、曲げ弾性は50GPa以上であることを特徴とする請求項1に記載のスティック砥石。
【請求項6】
請求項1に記載のスティック砥石を振動工具に装着し、
前記スティック砥石の先端部を、ワークの研磨対象面に押し付けながら、前記軸線方向に振動させることを特徴とする研磨方法。
【請求項7】
請求項1に記載のスティック砥石を振動工具に装着し、
前記スティック砥石の先端部を、ワークの研磨対象面に押し付けながら、前記軸線方向および前記スティック砥石の軸線と交差する方向に振動させることを特徴とする研磨方法。
【請求項8】
請求項1に記載のスティック砥石を回転工具に装着し、
前記スティック砥石の先端部を、ワークの研磨対象面に押し付けた状態で回転させ、
前記スティック砥石の断面は、円形であることを特徴とする研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スティック砥石に関する。また、スティック砥石を用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機長繊維の集合糸の束に樹脂を含侵、硬化させてなる棒状のスティック砥石は、特許文献1に記載されている。同文献のスティック砥石は、金型の研磨に用いられる。スティック砥石は、その断面が矩形または円形であり、その軸線と交差する方向に撓む弾性を備える。無機長繊維の集合糸は、スティック砥石の軸線方向に延びており、スティック砥石の先端面には、集合糸の断面が露出する。
【0003】
特許文献1では、ワークの研磨対象面を研磨する際に、スティック砥石の基部を工具ホルダに保持させる。また、工具ホルダを工作機械のスピンドルに接続し、スピンドルを回転させて、スティック砥石の先端面をワークの研磨対象面に押し付ける。ここで、工具ホルダは、スピンドルの回転を、スピンドルの軸線方向の直線往復運動および回転運動に変換する。従って、スティック砥石の先端部は、ワークに断続的に押し付けられて、研磨対象面を研磨する。また、スティック砥石の先端部は、ワークに回転状態で接触して研磨対象面を研磨する。
【0004】
砥石に用いられる砥材は、特許文献2に記載されている。同文献の砥材は、樹脂が含浸した無機長繊維からなる。無機長繊維は、アルミナ成分80~90重量%と、シリカ成分20~10重量%と、を備える。無機長繊維の結晶構造は、ムライト結晶と、中間アルミナと、を備える。ムライト結晶の平均粒径は、25nm~70nmである。同文献の砥材は、無機長繊維がアルミナ成分を80重量%以上含むので、無機長繊維の硬度が高い。また、ムライト結晶の平均粒径が25nm以上なので、ワークを研磨、研削する研削力が大きい。
【0005】
特許文献2には、上記の砥材からなる直方体形状の砥石が記載されている。ワークを研磨する際に、砥石は、長手方向に延びる側面の全体がワークの研磨対象面に押し付けられる。また、砥石は、研磨対象面に沿って、往復移動させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6832555号公報
【文献】特開平10-183427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載された砥石用の砥材を棒状に成形してスティック砥石とすれば、スティック砥石は、十分な研削力を備えることができる。しかし、近年の金型の精密化に伴って、特許文献2に記載された砥石用の砥材からなるスティック砥石では、研磨によって所望の表面粗さを得ることができない場合がある。また、発明者らが鋭意検討したところ、特許文献2に記載された砥石用の砥材からなるスティック砥石では、スティック砥石の耐摩耗性に改善の余地があることが判明した。
【0008】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、ワークの研磨対象面の表面粗さの向上と、耐摩耗性の向上と、を図ることができるスティック砥石を提供することにある。また、この
ようなスティック砥石を用いた研磨方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、無機長繊維が、アルミナ成分80~90重量%とシリカ成分20~10重量%とを備え、無機長繊維の結晶構造が中間アルミナとムライトとを備える砥材をスティック砥石に採用した場合には、その結晶構造におけるムライト結晶の結晶子が大きい程、ワークの研磨対象面にスクラッチ(研磨キズ)を発生させやすいという知見を得た。
【0010】
また、本発明者らは、鋭意検討の結果、無機長繊維が、アルミナ成分80~90重量%とシリカ成分20~10重量%とを備え、無機長繊維の結晶構造が中間アルミナとムライトとを備える砥材をスティック砥石に採用した場合には、その結晶構造におけるムライト結晶の結晶子が大きい程、スティック砥石の耐摩耗性に影響を与えるという知見を得た。すなわち、大きな結晶子を備える無機長繊維では、ムライト化が進んでいる。ムライト化が進むと、無機長繊維は、脆化する。ここで、無機長繊維を使用した棒状のスティック砥石を用いてワークの研磨対象面を研磨する際には、スティック砥石の先端部を研磨対象面に押し付ける。また、棒状のスティック砥石は軸線と交差する方向に撓む弾性を備えるので、先端部をワークに押し付けたときに、スティック砥石が研磨対象面で跳ねたり、ビビリを発生させたりすることが少なく、スティック砥石に破損や折れが発生する可能性も低い。従って、スティック砥石の先端部を研磨対象面に押し付ける際には、その弾性を考慮した比較的大きな押し付け力で押し付けて、所望の研削力を確保する。このため、スティック砥石の先端部には負荷がかかりやすく、先端面に露出する無機長繊維のムライト化が進んでいる場合には、無機長繊維が脆く崩れ、摩耗しやすくなる。
【0011】
この一方、本発明者らは、無機長繊維が、アルミナ成分80~90重量%と、シリカ成分20~10重量%と、を備える砥材をスティック砥石に採用した場合には、無機長繊維の比表面積が所定の値以下であれば、ムライト結晶がなくても、スティック砥石の研削力を確保できるという知見を得た。すなわち、無機長繊維がアルミナ成分を80重量%以上備えれば、スティック砥石の硬度を確保できる。また、無機長繊維の比表面積を所定の値以下とすれば、無機長繊維が大気中の水分を吸収して、無機長繊維に含侵した樹脂の硬化を阻害することを防止、或いは抑制できる。さらに、無機長繊維の比表面積を所定の値以下とすれば、無機長繊維は細孔や凹凸が少ないので、無機長繊維に含侵した樹脂に気泡が残留することを抑制できる。従って、気泡により樹脂の含侵不良が発生することを抑制できる。これにより、スティック砥石の先端部がワークに押し付けられて研磨対象面を研磨しているときに、無機長繊維が脆く崩れることが抑制され、無機長繊維がワークに食いつく。さらに、棒状のスティック砥石によってワークを研磨、研削する際には、直方体形状の砥石のように長手方向に延びる側面の全体を研磨対象面に接触させてワークを研磨する場合とは異なり、スティック砥石の弾性を考慮した押し付け力で先端部を研磨対象面に押し付けることができる。従って、スティック砥石は、所定の研削力を備えることができる。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、先端部をワークの研磨対象面に押し付けて当該研磨対象面の研磨を行う棒状のスティック砥石において、軸線方向に延びる複数本の無機
長繊維と、前記無機長繊維に含浸し硬化した樹脂と、を備え、先端面には、前記無機長繊維の断面が露出し、前記軸線方向と交差する方向に撓む弾性を備え、前記無機長繊維は、アルミナ成分80~90重量%と、シリカ成分20~10重量%と、を備え、前記無機長繊維の結晶構造は、中間アルミナを備え、前記シリカ成分は、非結晶状態であり、前記無機長繊維のBET比表面積は、28.7/g以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明のスティック砥石では、無機長繊維のシリカ成分は非結晶状態である。従って、無機長繊維の結晶構造は、ムライト結晶を有さない。従って、ムライト結晶に起因して、ワークの研磨対象面にスクラッチ(研磨キズ)が発生することを回避できる。よって、研磨対象面の表面粗さを向上させることができる。また、本発明のスティック砥石では、無機長繊維のシリカ成分は非結晶状態である。従って、無機長繊維は、ムライト化によって脆化していない。さらに、無機長繊維のBET比表面積は、28.7/g以下である。このようなBET比表面積を備える無機長繊維は、細孔や凹凸が少ないので、吸湿が抑制される。従って、無機長繊維が大気中の水分を吸収して、無機長繊維に含浸した樹脂の硬化を阻害することを防止、或いは抑制できる。また、このようなBET比表面積を備える無機長繊維は、細孔や凹凸が少ないので、無機長繊維に含浸した樹脂に残留する気泡に起因して、スティック砥石に樹脂の含浸不良が発生することを回避、或いは抑制できる。これにより、無機長繊維の脆化と、スティックの破損を抑制できるので、スティック砥石の先端部を、ワークの研磨対象面に押し付けて研磨を行う際に、スティック砥石の耐摩耗性が向上する。
【0014】
この一方、無機長繊維は、アルミナ成分を80重量%以上備えるので、その硬度を確保することが容易である。また、28.7/g以下のBET比表面積を備える無機長繊維では、吸湿により樹脂の硬化が阻害されてスティック砥石が脆くなることを抑制できる。さらに、BET比表面積が小さければ、無機長繊維に含浸した樹脂に残留する気泡に起因してスティック砥石に樹脂の含浸不良が発生することにより、スティック砥石が破損しやすくなることを抑制できる。従って、スティック砥石の先端部を、ワークの研磨対象面に押し付けて研磨を行う際に、無機長繊維およびスティック砥石が脆く崩れることが抑制され、無機長繊維がワークに食いつく。さらに、棒状のスティック砥石によってワークを研磨、研削する際には、直方体形状の砥石のように長手方向に延びる側面の全体を研磨対象面に接触させてワークを研磨する場合とは異なり、先端部を研磨対象面に押し付けて研磨を行うことができる。また、棒状のスティック砥石は、その軸線と交差する方向に撓む弾性を備えるので、先端部を研磨対象面に押し付けた場合でも、スティック砥石が研磨対象面で跳ねたり、ビビリを発生させたりすることが少なく、スティック砥石に破損や折れが発生する可能性も低い。従って、スティック砥石の先端部を、スティック砥石の弾性を考慮した押し付け力で研磨対象面に押し付けて、所望の研削力を得ることができる。よって、スティック砥石は、その結晶構造にムライト結晶を備えていなくても、その研削力を確保できる。
【0015】
本発明において、前記無機長繊維のBET比表面積は、12.5m /g以下であることが望ましい。このようにすれば、BET比表面積が12.5m /gよりも大きい場合と比較して、スティック砥石の研削力が向上する。また、このようにすれば、BET比表面積が12.5m /gよりも大きい場合と比較して、耐摩耗性が向上する。
【0016】
本発明において、前記無機長繊維のアルミナ成分が85重量%以上であることが望ましい。このようにすれば、無機長繊維の硬度をより高くすることが容易である。従って、スティック砥石の研削力を確保することが容易となる。
【0017】
本発明において、前記樹脂は、エポキシ樹脂とすることができる。
【0018】
本発明において、曲げ強度は500MPa以上、曲げ弾性率は50GPa以上であるものとすることができる。このようにすれば、スティック砥石の先端部を研磨対象面に押し付ける押し付け力を大きくして、所望の研削力を得ることが容易となる。
【0019】
次に、本発明の研磨方法は、上記のスティック砥石を振動工具に装着し、前記スティック砥石の先端部を、ワークの研磨対象面に押し付けながら、前記軸線方向に振動させることを特徴とする。スティック砥石の先端部をワークの研磨対象面に押し付けながら行う研
磨方法には、スティック砥石の先端面をワークの研磨対象面に押し付けながら行う研磨方法が含まれる。
【0020】
また、本発明の研磨方法は、上記のスティック砥石を振動工具に装着し、前記スティック砥石の先端部を、ワークの研磨対象面に押し付けながら、前記軸線方向および前記スティック砥石の軸線と交差する方向に振動させることを特徴とする。スティック砥石の先端部をワークの研磨対象面に押し付けながら行う研磨方法には、スティック砥石の先端面をワークの研磨対象面に押し付けながら行う研磨方法が含まれる。
【0021】
さらに、本発明の研磨方法は、上記のスティック砥石を回転工具に装着し、前記スティック砥石の先端部を、ワークの研磨対象面に押し付けた状態で回転させ、前記スティック砥石の断面は、円形であることを特徴とする。スティック砥石の先端部をワークの研磨対象面に押し付けながら行う研磨方法には、スティック砥石の先端面をワークの研磨対象面に押し付けながら行う研磨方法が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】スティック砥石の斜視図である。
図2図1のスティック砥石を用いたワークの研磨方法の説明図である。
図3図1のスティック砥石を用いたワークの研磨方法の別の例の説明図である。
図4】円柱形状のスティック砥石の斜視図である。
図5図4のスティック砥石を用いたワークの研磨方法の説明図である。
図6図4のスティック砥石を用いたワークの研磨方法の別の例の説明図である。
図7】スティック砥石の製造方法のフローチャートである。
図8】実施例1の無機長繊維にX線を照射して取得した回折チャートである。
図9】比較例2の無機長繊維にX線を照射して取得した回折チャートである。
図10】実施例1のスティック砥石により研磨したワークの研磨対象面の粗さ曲線である。
図11】実施例2のスティック砥石により研磨したワークの研磨対象面の粗さ曲線である。
図12】比較例1のスティック砥石を用いた場合のワークの研磨対象面の粗さ曲線である。
図13】比較例2のスティック砥石により研磨したワークの研磨対象面の粗さ曲線である。
図14】比較試験終了後のワークの研削量を示すグラフである。
図15】比較試験終了後のスティック砥石の摩耗量のグラフである。
図16】実施例2のスティック砥石側面の写真である。
図17】比較例1のスティック砥石側面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態であるスティック砥石を説明する。
【0024】
(スティック砥石)
図1は、スティック砥石の斜視図である。図2は、図1のスティック砥石を用いたワークの研磨方法の説明図である。図3は、図1のスティック砥石を用いたワークの研磨方法の別の例の説明図である。図4は、円柱形状のスティック砥石の斜視図である。図5は、図4のスティック砥石を用いたワークの研磨方法の説明図である。図6は、図4のスティック砥石を用いたワークの研磨方法の別の例の説明図である。
【0025】
図1に示すように、スティック砥石10は、棒状であり、その断面は、矩形である。本例では、スティック砥石10は、長方形の断面を備える。スティック砥石10は、その軸
線Lに沿った軸線方向に延びる複数本の無機長繊維15と、無機長繊維15に含浸し固化した樹脂16と、を備える。無機長繊維15は、多結晶質の繊維であり、アルミナ成分80~90重量%と、シリカ成分20~10重量%と、を備える。スティック砥石10の先端面17aには、無機長繊維15の断面が露出する。
【0026】
スティック砥石10は、その軸線Lと交差する方向に撓む弾性を備える。スティック砥石10の曲げ強度は、500MPa以上である。スティック砥石10の曲げ弾性は、50GPa以上である。より好ましくは、スティック砥石10の曲げ強度は、800MPa以上であり、スティック砥石10の曲げ弾性は、65GPa以上である。なお、図1等では、便宜上、無機長繊維15を鎖線で示しているが、無機長繊維15はスティック砥石10の先端から基端側まで連続して延びている。また、複数本の無機長繊維15は、スティック砥石10の軸線Lに対して傾斜する場合があるが、その場合の傾斜角度は、10°程度であり、最大でも20°を超えることはない。
【0027】
(研磨方法)
図2に示すように、スティック砥石10は、その基端部分が手持ち式の振動工具のヘッドに装着されて使用される。振動工具は、例えば、エアー振動工具、或いは超音波振動工具である。振動工具は、ヘッドに取り付けたスティック砥石10を、軸線方向に往復移動(振動)させる。スティック砥石10が研磨するワークWは、例えば、樹脂成型のための金型である。
【0028】
ワークWの研磨に際して、スティック砥石10は、その先端部17がワークWの研磨対象面Sに斜めから押し当てられる。すなわち、スティック砥石10は、その軸線Lと研磨対象面Sとの角度θが鋭角となる姿勢で、研磨対象面Sに押し当てられる。本例では、スティック砥石10は、長方形の断面の一方の長辺が研磨対象面Sに対向している。また、ワークWの研磨に際して、スティック砥石10は、軸線Lに沿った方向から、所定の押し付け力Fで、ワークWの研磨対象面Sに押し付けられる。さらに、スティック砥石10は、図2に矢印で示すように、ワークWの研磨に際して、軸線方向に振動させられる。振動工具11がエアー振動工具の場合には、エアー振動工具は、5000st/min以上でスティック砥石10を振動させる。振動工具11が超音波振動工具の場合には、超音波振動工具は、15kHz以上でスティック砥石10を振動させる。
【0029】
また、スティック砥石10は、図3に示すように、その先端面17aがワークWの研磨対象面Sに垂直方向から押し当てられて、ワークWを研磨する場合がある。この場合にも、スティック砥石10は、軸線Lに沿った方向から押し付け力Fで研磨対象面Sに押し付けられる。また、図3に実線の矢印で示すように、スティック砥石10は、振動工具11により、軸線方向に振動させられる。振動工具11がエアー振動工具の場合には、エアー振動工具は、5000st/min以上でスティック砥石10を振動させる。振動工具11が超音波振動工具の場合には、超音波振動工具は、15kHz以上でスティック砥石10を振動させる。
【0030】
ここで、図3に実線で示す矢印および鎖線の矢印で示すように、エアー振動工具を用いる場合には、スティック砥石10は、エアー振動工具により、軸線方向および軸線Lと直交する方向に振動させられる場合もある。この場合、エアー振動工具は、スティック砥石10を軸線方向に振動させるストロークの間に、スティック砥石10を楕円の軌道に沿ってスイングさせて、軸線方向および軸線Lと直交する方向の振動を実現させる。この場合、エアー振動工具は、5000st/min以上でスティック砥石10を振動させる。
【0031】
また、エアー振動工具を用いる場合には、図2に示すように、スティック砥石10の先端部17を研磨対象面Sに斜めから押し当ててワークWを研磨する際にも、スティック砥
石10を軸線方向および軸線Lと直交する方向に振動させる場合がある。
【0032】
また、図5に示すように、スティック砥石10は、その基端部分が手持ち式の回転工具11´のヘッドに装着されて使用される場合がある。この場合、回転工具11´に装着するスティック砥石は、図4に示すように、断面が円形のスティック砥石10´が望ましい。すなわち、回転工具11´には、円柱形状のスティック砥石10´を装着することが望ましい。回転工具11´は、例えば、電動回転工具またはエアー回転工具である。図5に実線の矢印で示すように、回転工具11´は、スティック砥石10´を、その軸線回りに、回転させる。
【0033】
図5に示すように、ワークWの研磨に際して、スティック砥石10´は、その先端部17がワークWの研磨対象面Sに斜めから押し当てられる。すなわち、スティック砥石10´は、その軸線Lと研磨対象面Sとの角度θが鋭角となる姿勢で、研磨対象面Sに押し当てられる。また、ワークWの研磨に際して、スティック砥石10´は、軸線Lに沿った方向から、所定の押し付け力Fで、ワークWの研磨対象面Sに押し付けられる。さらに、スティック砥石10´は、先端部17が研磨対象面Sに押し付けられた状態で、軸線回りに回転させられる。回転工具11´は、100回転/min以上でスティック砥石10を回転させる。
【0034】
ここで、スティック砥石10´を回転工具11´に装着して研磨を行う場合においても、図6に示すように、スティック砥石10´の先端面17aをワークWの研磨対象面Sに垂直方向から押し付けて、回転させる場合がある。この場合にも、スティック砥石10´は、軸線Lに沿った方向から押し付け力Fで研磨対象面Sに押し付けられる。また、回転工具11´は、100回転/min以上でスティック砥石10を回転させる。
【0035】
ここで、上記のいずれの研磨方法においても、スティック砥石10によりワークの研磨対象面Sを研磨する際には、スティック砥石10を研磨対象面Sに押し付ける押し付け力Fや、研磨対象面Sの側からの反力などに起因して、スティック砥石10がその軸線Lと交差する方向に撓むことがある。
【0036】
なお、スティック砥石10、10´は、振動工具などに装着せずに、使用することもできる。この場合、作業者は、スティック砥石10、10´の先端部17をワークWの研磨対象面Sに押し付けて、手研磨を行う。
【0037】
(スティック砥石の製造方法)
図7は、スティック砥石10の製造方法のフローチャートである。図7に示すように、スティック砥石10の製造方法は、紡糸工程ST1、仮焼工程ST2、焼結工程ST3、樹脂含浸成形工程ST4をこの順に備える。紡糸工程ST1では、塩基性塩化アルミニウムとコロイダルシリカとポリビニルアルコールから成る水性の紡糸原液を乾式紡糸して前駆体繊維を得る。仮焼工程ST2では、前駆体繊維を900℃以上、1300℃以下で焼成してセラミックス化して、無機長繊維を得る。焼結工程ST3では、無機長繊維を1300℃以上の高温で、20秒前後、加熱する。焼結工程ST3における加熱温度は仮焼工程ST2における加熱温度よりも高い。
【0038】
樹脂含浸成形工程ST4は、無機長繊維を適宜に引き揃えて集合糸とする。また、樹脂含浸成形工程ST4では、集合糸に、エポキシ樹脂、または、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させる。さらに、樹脂含浸成形工程ST4では、樹脂が含侵した集合糸を引き揃えて集合糸の束とする。さらに、樹脂含浸成形工程ST4では、樹脂が含侵した集合糸の束を、所定形状の開口を備えるダイスを通過するように引き出し、しかる後に加熱炉を経由させて硬化させる。その後、樹脂が硬化した集合糸の束を、所定の長さに切り揃え
る。これにより、所定の長さ寸法と、所定の断面形状と、を備えるスティック砥石10を得る。
【0039】
以下に製造方法の具体的な例を示す。まず、紡糸工程ST1では、アルミニウムイオン13.2重量%、塩素イオン11.45重量%含有する塩基性塩化アルミニウムの水溶液を34kg、二酸化ケイ素を20重量%含有するコロイダルシリカ7.5kgに、平均重合度1700の部分ケン化ポリビニルアルコール2.5kgを溶解して、粘度が約1000ポイズ/20℃の紡糸原液を調製する。次に、紡糸原液を1000ホールの紡糸ノズルから押し出して乾式紡糸する。仮焼工程ST2では、紡糸した無機長繊維を900℃~1300℃で焼成しセラミック化して、集合糸を得る。その後、焼結工程ST3では、この集合糸を1300℃~1400℃のパイプ炉に通し、張力を付した状態で第1のボビンに連続的に巻き取る。この時、加熱時間が20秒となるように集合糸の通過速度を調節する。ここで、集合糸は、複数の第1のボビンに巻き取られる。
【0040】
樹脂含浸成形工程ST4では、複数の第1のボビンのそれぞれから集合糸を繰り出して、未硬化の樹脂が貯留された樹脂槽を経由させる。また、樹脂槽を経由して樹脂が含侵した集合糸を引き揃えて束とし、加熱炉を経由させる。
【0041】
集合糸および集合糸の束に含浸させる樹脂は、以下の組成を有するものとすることができる。
エポキシ樹脂(jER828 三菱ケミカル社製) 100重量部
テトラヒドロメチル無水フタル酸(H N 2 2 0 0 日立化成社製) 85重量部
イミダゾール(2 E 4 M Z - C N 四国化成社製) 2重量部
【0042】
ここで、樹脂含浸成形工程ST4では、樹脂が含浸した集合糸の束が、加熱炉に至る前に、所定形状の開口を備えるダイスを経由させる。これにより、樹脂が含浸した集合糸の束の断面形状をダイスの開口形状に対応する形状とする。また、樹脂含浸成形工程ST4では、加熱炉を経由することにより含侵した樹脂が硬化する。従って、樹脂が硬化した集合糸の束を、所定の寸法に切断する。これにより、ダイスの開口が矩形の場合には、所定の長さ寸法で矩形の断面を備えるスティック砥石が得られる。ダイスの開口が円形の場合には、所定の長さ寸法で円形の断面を備えるスティック砥石が得られる。
【0043】
(実施例1)
実施例1のスティック砥石10は、棒状であり、軸線と直交する断面形状が矩形である。スティック砥石10の厚み寸法(断面の短手方向の寸法)は1mmであり、幅寸法(断面の長手方向の寸法)は4mm、長さ寸法は100mmである。スティック砥石10の曲げ強度は1200MPa、曲げ弾性は110GPaである。
【0044】
実施例1のスティック砥石10は、無機長繊維15と、無機長繊維15に含浸する樹脂16と、を備える。無機長繊維15は、アルミナ成分85重量%と、シリカ成分15重量%と、を備える。無機長繊維15の結晶構造は、中間アルミナを備える。シリカ成分は、非結晶状態である。すなわち、無機長繊維15の結晶構造は、ムライト結晶を有さない。無機長繊維15のBET比表面積は、15m/g以下である。本例では、無機長繊維15のBET比表面積は、12.5m/gである。スティック砥石10の先端面17aには、無機長繊維15の断面が露出している。
【0045】
実施例1のスティック砥石10の製造時において、仮焼工程ST2の加熱温度は1000℃である。焼結工程ST3の加熱温度は1350℃である。焼結工程ST3における加熱時間は、20秒である。
【0046】
BET比表面積は、気体吸着法(BET法)により求めた比表面積である。BET比表面積は、焼結工程ST3の終了後、樹脂含浸成形工程ST4の前に測定している。
【0047】
ここで無機長繊維15の結晶構造がムライト結晶を有さないことは、X線回折を用いて評価した。具体的には、実施例1において、焼結工程ST3の終了後、樹脂含浸成形工程ST4の前に、無機長繊維15にX線を照射して、回折チャートを取得した。そして、回折チャートにおいて、2θが26°の近傍に、ムライトの(210)面の回折線のピークが現れていないことを確認した。図8は、実施例1の無機長繊維15にX線を照射して取得した回折チャートである。図8の回折チャートでは、2θが26°の近傍にピークはない。
【0048】
(実施例2)
実施例2のスティック砥石10は、棒状であり、軸線と直交する断面形状が矩形である。スティック砥石10の厚み寸法(断面の短手方向の寸法)は1mmであり、幅寸法(断面の長手方向の寸法)は4mm、長さ寸法は100mmである。スティック砥石10の曲げ強度は1200MPa、曲げ弾性は108GPaである。
【0049】
実施例2のスティック砥石10は、無機長繊維15と、無機長繊維15に含浸する樹脂16と、を備える。無機長繊維15は、アルミナ成分85重量%と、シリカ成分15重量%と、を備える。無機長繊維15の結晶構造は、中間アルミナを備える。シリカ成分は、非結晶状態である。すなわち、無機長繊維15の結晶構造は、ムライト結晶を有さない。無機長繊維15のBET比表面積は、15m/gよりも大きく、30m/g以下である。本例では、無機長繊維15のBET比表面積は、28.7m/gである。スティック砥石10の先端面17aには、無機長繊維15の断面が露出している。
【0050】
実施例2のスティック砥石10の製造時において、仮焼工程ST2の加熱温度は1000℃である。焼結工程ST3の加熱温度は1330℃である。焼結工程ST3における加熱時間は、20秒である。
【0051】
また、図示は省略するが、実施例2の無機長繊維15にX線を照射して取得した回折チャートでは、2θが26°の近傍に、ピークはない。
【0052】
ここで、実施例1の焼結工程ST3の加熱温度は、実施例2の焼結工程ST3の加熱温度と比較して、高い。これにより、実施例1のスティック砥石10における無機長繊維15のBET比表面積は、実施例2のスティック砥石10における無機長繊維15のBET比表面積の半分以下となっている。言い換えれば、スティック砥石10の製造時における焼結工程ST3の加熱温度および加熱時間を制御することにより、無機長繊維15のBET比表面積を制御することができる。
【0053】
なお、実施例1のスティック砥石10における無機長繊維15の結晶構造は、焼結によって結晶構造にムライト結晶が現れる直前の状態である。
【0054】
(比較例1)
比較例1のスティック砥石は、棒状であり、軸線Lと直交する断面形状が矩形である。比較例1のスティック砥石の厚み寸法(断面の短手方向の寸法)は1mmであり、幅寸法(断面の長手方向の寸法)は4mm、長さ寸法は100mmである。比較例1のスティック砥石の曲げ強度は1100MPa、曲げ弾性は105GPaである。
【0055】
比較例1のスティック砥石は、軸線方向に延びる複数本の無機長繊維と、無機長繊維に含浸する樹脂と、を備える。無機長繊維は、アルミナ成分85重量%と、シリカ成分15
重量%と、を備える。無機長繊維の結晶構造は、中間アルミナを備える。シリカ成分は、非結晶状態である。すなわち、無機長繊維の結晶構造は、ムライト結晶を有さない。無機長繊維のBET比表面積は、30m/gよりも大きい。本例では、無機長繊維のBET比表面積は、51.0m/gである。比較例1のスティック砥石の先端面には、無機長繊維の断面が露出している。
【0056】
比較例1のスティック砥石の製造時において、仮焼工程ST2の加熱温度は1000℃である。焼結工程ST3の加熱温度は1310℃である。焼結工程ST3における加熱時間は、20秒である。
【0057】
比較例1の焼結工程ST3の加熱温度は、実施例1、2の焼結工程ST3の加熱温度よりも低い。この結果、比較例1の無機長繊維のBET比表面積は、実施例1、2の無機長繊維のBET比表面積よりも大きくなっている。なお、無機長繊維のBET比表面積は、焼結工程ST3の加熱温度および加熱時間を調節することにより、制御できる。
【0058】
ここで、図示は省略するが、比較例1の無機長繊維にX線を照射して取得した回折チャートでは、2θが26°の近傍に、ピークは現れない。
【0059】
(比較例2)
比較例2のスティック砥石は、棒状であり、軸線Lと直交する断面形状が矩形である。比較例2のスティック砥石の厚み寸法(断面の短手方向の寸法)は1mmであり、幅寸法(断面の長手方向の寸法)は4mm、長さ寸法は100mmである。比較例2のスティック砥石の曲げ強度は1200MPa、曲げ弾性は120GPaである。
【0060】
比較例2のスティック砥石は、軸線方向に延びる複数本の無機長繊維と、無機長繊維に含浸する樹脂と、を備える。無機長繊維は、アルミナ成分85重量%と、シリカ成分15重量%と、を備える。無機長繊維の結晶構造は、ムライト結晶と、中間アルミナと、を備える。ムライト結晶の結晶粒子の平均粒径は、30nm以上である。無機長繊維のBET比表面積は、0.5m/gである。比較例2のスティック砥石の先端面には、無機長繊維の断面が露出している。
【0061】
比較例2のスティック砥石の製造時において、仮焼工程ST2の加熱温度は1000℃である。焼結工程ST3の加熱温度は1390℃である。焼結工程ST3における加熱時間は、30秒である。
【0062】
比較例2の焼結工程ST3の加熱温度は、実施例1、2の焼結工程ST3の加熱温度よりも高い。また、比較例2の焼結工程ST3の加熱時間は、実施例1、2の焼結工程ST3の加熱時間よりも長い。これにより、比較例2のスティック砥石は、結晶構造にムライト結晶を備える。言い換えれば、比較例2のスティック砥石の製造時における焼結工程ST3の加熱温度および加熱時間を制御することにより、無機長繊維の結晶構造におけるムライト結晶の有無を制御できる。
【0063】
ここで、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有することは、X線回折を用いて評価した。すなわち、比較例2において、焼結工程ST3の終了後、樹脂含浸成形工程ST4の前に、無機長繊維にX線を照射して、回折チャートを取得した。そして、回折チャートにおいて、2θが26°の近傍に、ムライトの(210)面の回折線のピークが現れていることを確認した。図9は、比較例2の無機長繊維にX線を照射して取得した回折チャートである。図9に示す回折チャートには、2θが26°の近傍に、ピークが現れる。
【0064】
また、無機長繊維の結晶構造におけるムライト結晶の平均粒径は、上記の回折チャート
に基づいて、以下の一般式により算出した。
【0065】
【数1】

hkl:(210)面の平均粒径
λ:X線の波長
θ:X線の視斜角
β1/2:X線回折による結晶構造2θが26°付近に現れるムライトの(210)面の回折線の半値幅
【0066】
(比較試験)
実施例1、2のスティック砥石10および比較例1、2のスティック砥石を用いてワークWを研磨する比較試験を行った。図10は、実施例1のスティック砥石10を用いて研磨したワークの研磨対象面の粗さ曲線である。図11は、実施例2のスティック砥石10を用いて研磨したワークの研磨対象面の粗さ曲線である。図12は、比較例1のスティック砥石を用いて研磨したワークの研磨対象面の粗さ曲線である。図13は、比較例2のスティック砥石を用いて研磨したワークの研磨対象面の粗さ曲線である。図14は、実施例1、2のスティック砥石10および比較例1、2のスティック砥石を用いてワークWを研磨した比較試験終了後のワークWの研削量を示すグラフである。図15は、実施例1、2のスティック砥石10および比較例1、2のスティック砥石を用いてワークWを研磨した比較試験終了後の各スティック砥石の摩耗量のグラフである。
【0067】
比較試験では、実施例1、2のスティック砥石10および比較例1、2のスティック砥石の基端部分を手持ち式の振動工具11のヘッドに装着して、ワークWの研磨対象面Sを研磨した。振動工具は、エアー振動工具である。研磨対象のワークWは、金型である。ワークWの材質は、S50C(機械構造用炭素鋼)である。
【0068】
より具体的には、図2に示すように、ワークWの研磨に際して、実施例1、2のスティック砥石10および比較例1、2のスティック砥石を、その軸線Lと研磨対象面Sとの角度θが30°の角度となる姿勢とした。また、実施例1、2のスティック砥石10の先端部17および比較例1、2のスティック砥石の先端部を、6Nの押し付け力Fで、研磨対象面Sに押し当てた。さらに、実施例1、2のスティック砥石10および比較例1、2のスティック砥石を、振動工具11により軸線方向に21000st/minで振動させた。そして、ワークWに対する乾式の研磨加工を、研磨面積30mm×30mmに対して、3分間連続して行った。
【0069】
図14に示す比較試験後のワーク研削量のグラフから分かるように、実施例1、2のスティック砥石10は、比較例2のスティック砥石と比較して、同等の研削力を備えることが認められる。すなわち、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有さなくとも、無機長繊維15のBET比表面積が30m/g以下のスティック砥石10であれば、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶と中間アルミナと備え、ムライト結晶の結晶粒子の平均粒径が30nm以上のスティック砥石と同等の研削力を得ることが可能である。
【0070】
次に、図14に示す比較試験後のワーク研削量のグラフから分かるように、比較例1のスティック砥石は、比較例2のスティック砥石と比較して、研削力が劣る。すなわち、無
機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有さず、無機長繊維15のBET比表面積が30m/gよりも大きい比較例1のスティック砥石は、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶と中間アルミナと備え、ムライト結晶の結晶粒子の平均粒径が30nm以上の比較例2のスティック砥石と比較して研削力が劣る。
【0071】
また、図10図11に示す実施例1、2のスティック砥石10を用いて研磨した場合のワークWの研磨対象面Sの粗さ曲線におけるスクラッチの発生は、図13に示す比較例2のスティック砥石を用いて研磨した場合のワークWの研磨対象面Sの粗さ曲線におけるスクラッチの発生よりも少ない。すなわち、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有さない実施例1、2のスティック砥石10を用いて研磨を行った場合には、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有する比較例2のスティック砥石を用いて研磨を行った場合と比較して、スクラッチの発生を抑制できる。
【0072】
さらに、実施例1のスティック砥石10により研磨した場合のワークWの研磨対象面Sの表面粗さは、Rz2.0μmである。実施例2のスティック砥石10により研磨した場合のワークWの研磨対象面Sの表面粗さは、Rz1.9μmである。比較例2のスティック砥石により研磨した後のワークWの研磨対象面Sの表面粗さは、Rz4.1μmである。従って、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有さない実施例1、2のスティック砥石10を用いて研磨を行った場合には、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有する比較例2のスティック砥石を用いて研磨を行った場合と比較して、ワークWの研磨対象面Sの表面粗さを向上させることができる。
【0073】
さらに、図15に示す比較試験後のスティック砥石の摩耗量のグラフから、実施例1、2のスティック砥石10の摩耗量は、比較例1、2のスティック砥石の摩耗量よりも少ないことが分かる。従って、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有さず、無機長繊維15のBET比表面積が30m/g以下のスティック砥石10は、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有さず、無機長繊維15のBET比表面積が30m/gよりも大きい比較例1のスティック砥石よりも、耐摩耗性が向上している。また、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有さず、無機長繊維15のBET比表面積が30m/g以下のスティック砥石10は、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有する比較例2のスティック砥石よりも、耐摩耗性が向上している。
【0074】
ここで、図14に示す比較試験後のワークWの研削量のグラフによれば、無機長繊維15のBET比表面積が15m/g以下である実施例1のスティック砥石10は、BET比表面積が15m/gを超える実施例2のスティック砥石10よりも研削力が向上している。また、図15に示す比較試験後のスティック砥石の摩耗量のグラフによれば、無機長繊維15のBET比表面積が15m/g以下である実施例1のスティック砥石10は、BET比表面積が15m/gを超える実施例2のスティック砥石10を用いたスティック砥石10よりも耐摩耗性が向上している。
【0075】
(作用効果)
実施例1、2のスティック砥石10では、無機長繊維15のシリカ成分は非結晶状態である。従って、無機長繊維15の結晶構造は、ムライト結晶を有さない。これにより、ムライト結晶に起因してワークの研磨対象面にスクラッチ(研磨キズ)が発生することを抑制できる。よって、研磨対象面の表面粗さを向上させることができる。
【0076】
また、実施例1、2のスティック砥石10では、無機長繊維15のシリカ成分は非結晶状態である。すなわち、無機長繊維15の結晶構造は、ムライト結晶を有さない。よって、無機長繊維15は、ムライト化によって脆化していない。
【0077】
さらに、実施例1、2のスティック砥石10では、無機長繊維15のBET比表面積は、30m/g以下である。このようなBET比表面積を備える無機長繊維15は、細孔や凹凸が少ないので、吸湿が抑制される。従って、無機長繊維15が大気中の水分を吸収して、無機長繊維15に含浸した樹脂16の硬化を阻害することを防止、或いは抑制できる。
【0078】
さらに、このようなBET比表面積を備える無機長繊維15は、細孔や凹凸が少ないので、無機長繊維15に含浸した樹脂16に残留する気泡に起因して樹脂16の含浸不良が発生することを抑制できる。よって、スティック砥石10が脆弱になることを抑制できる。
【0079】
図16は、実施例2のスティック砥石10の側面の写真である。図17は比較例1のスティック砥石の側面の写真である。図17に示すように、BET比表面積が大きい無機長繊維15を備える比較例1のスティック砥石では、樹脂16に残留した気泡に起因して樹脂16の含浸不良が発生しており、その表面が荒れている(写真では、荒れた部分が白く現れている)。これに対して、無機長繊維15のBET比表面積が30m/g以下の実施例2のスティック砥石10の表面には、荒れは、見られない。すなわち、無機長繊維15のBET比表面積が30m/g以下の実施例2のスティック砥石10には、樹脂16の含浸不良が認められない。なお、実施例1のスティック砥石10の側面を撮影した場合には、図16の写真と同様の写真を得ることができる。従って、実施例1のスティック砥石10においても、樹脂16の含浸不良は認められない。
【0080】
ここで、実施例1、2のスティック砥石10では、無機長繊維15がアルミナ成分を80重量%以上備える。従って、無機長繊維15の硬度を確保できる。また、30m/g以下のBET比表面積を備える無機長繊維15では、吸湿によって樹脂16の硬化が阻害されて実施例1、2のスティック砥石10が脆くなることが抑制される。さらに、30m/g以下のBET比表面積を備える無機長繊維15を有する実施例1、2のスティック砥石10では、樹脂の含浸不良の発生が抑制されるので、実施例1、2のスティック砥石10が脆弱になることが抑制される。これに加えて、スティック砥石10は、側面の全体をワークWの研磨対象面に接触させて研磨を行う直方体形状の砥石とは異なり、先端部17をワークWの研磨対象面に押し付けて研磨を行う。また、スティック砥石10は、その軸線Lと交差する方向に撓む弾性を備えるので、スティック砥石10の先端部17を、スティック砥石10の弾性を考慮した押し付け力Fで研磨対象面に押し付けることができる。よって、実施例1、2のスティック砥石10は、その結晶構造にムライト結晶を備えていなくても、研削力を確保できる。
【符号の説明】
【0081】
10…スティック砥石、11…振動研磨工具、15…無機長繊維、16…樹脂、17…先端部、17a…先端面、ST1…紡糸工程、ST2…仮焼工程、ST3…焼結工程、ST4…樹脂含浸成形工程
【要約】
【課題】ワークの研磨対象面の表面粗さの向上と、耐摩耗性の向上と、を図ることができるスティック砥石を提供すること。
【解決手段】実施例1、2のスティック砥石10は、先端部17をワークWの研磨対象面Sに押しつけて当該研磨対象面Sの研磨を行う。実施例1、2のスティック砥石10は、無機長繊維15と、無機長繊維15に含浸し硬化した樹脂16と、を備える。無機長繊維15は、アルミナ成分80~90重量%と、シリカ成分20~10重量%と、を備える。無機長繊維15の結晶構造は、中間アルミナを備え、シリカ成分は、非結晶状態である。無機長繊維15のBET比表面積は、30m/g以下である
【選択図】 図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17