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特許7246666構造部材設計方法、構造部材設計プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】構造部材設計方法、構造部材設計プログラム
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/18 20060101AFI20230320BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20230320BHJP
   G06F 30/13 20200101ALI20230320BHJP
【FI】
E04C5/18 ESW
E04G21/12 105A
G06F30/13
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022580341
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2022036135
【審査請求日】2023-01-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520036019
【氏名又は名称】株式会社Arent
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大北 尚永
(72)【発明者】
【氏名】丸山 篤史
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 大樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 律視
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-45741(JP,A)
【文献】特開2009-30403(JP,A)
【文献】特開2013-125383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/00-5/20
E04G 21/12
G06F 30/00-30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物のパネルゾーンに対して接続された構造部材が有する主筋部材の接続関係を設計する構造部材設計方法であって、
前記構造物の構造を記述した設計データから前記パネルゾーンの箇所を抽出するステップ、
前記抽出したパネルゾーンに対して接続されている前記構造部材を前記設計データから抽出するステップ、
前記抽出した前記構造部材の内部に組み込まれる主筋部材の本数および配置を前記抽出した前記構造部材ごとにセットするステップ、
前記抽出した前記構造部材のうち前記主筋部材の本数および配置が同じであるものをペアリングするステップ、
前記ペアリングした前記構造部材が有する前記主筋部材を互いに接続するように前記接続関係をセットするステップ、
前記接続関係をセットするステップにおいてセットした前記接続関係にしたがって前記主筋部材を配置したと仮定したとき、前記接続関係によって接続されない前記主筋部材が互いに衝突するか否かを計算するステップ、
前記接続関係によって接続されない前記主筋部材が衝突する場合はその衝突する前記主筋部材のうち少なくともいずれかの位置を移動させることにより衝突を回避するステップ、
前記接続関係をセットした前記主筋部材に対して継手をセットするステップ、
前記継手と前記主筋部材が衝突するかまたは異なる前記主筋部材に対してセットした各前記継手が互いに衝突する場合は、前記継手をセットした前記主筋部材または前記継手をセットしていない前記主筋部材のうち少なくともいずれかの位置を移動させることにより、前記継手の衝突を回避するステップ、
を有することを特徴とする構造部材設計方法。
【請求項2】
前記継手をセットするステップにおいては、前記主筋部材を所定長さで切断するとともにその切断箇所において前記継手をセットし、
前記継手の衝突を回避するステップにおいて、前記継手をセットした前記主筋部材を移動させる場合は、前記継手によって接続されている各前記主筋部材を連動して移動させ、
前記継手の衝突を回避するステップにおいて、前記継手をセットした前記主筋部材を移動させる場合は、前記接続関係によって接続されている前記主筋部材を連動して移動させる
ことを特徴とする請求項1記載の構造部材設計方法。
【請求項3】
前記構造部材設計方法はさらに、前記切断した前記主筋部材の長さを1つ以上指定する長さ指定を受け取るステップを有し、
前記継手をセットするステップにおいては、前記長さ指定が指定する長さに満たない指定長さ未満を有する前記主筋部材が前記切断によって生じる場合は、
前記切断によって生じる切断後主筋部材と前記指定長さとの間の差によって生じる余剰部分の総和を最小化する、
前記切断後主筋部材の本数を最小化する、
前記指定長さ未満を有する前記主筋部材の本数を最小化する、
のうち少なくともいずれかを実施する
ことを特徴とする請求項2記載の構造部材設計方法。
【請求項4】
前記構造部材設計方法はさらに、前記切断した前記主筋部材の長さを1つ以上指定するとともに各長さの優先順位を指定する長さ指定を受け取るステップを有し、
前記継手をセットするステップにおいては、前記長さ指定が指定する長さに満たない指定長さ未満を有する前記主筋部材が前記切断によって生じる場合は、前記1つ以上指定する長さのうち前記優先順位が高い順に、前記主筋部材の長さとして採用する
ことを特徴とする請求項2記載の構造部材設計方法。
【請求項5】
前記構造部材設計方法は、コンピュータによって実行され、
前記継手をセットするステップは、前記継手をセットする位置と前記継手の種類を指定するために用いるユーザインターフェースを前記コンピュータの画面上に表示するステップを有する
ことを特徴とする請求項1記載の構造部材設計方法。
【請求項6】
前記継手をセットするステップにおいては、前記継手の種類として、
機械式継手、圧接継手、重ね継手、
のうち少なくともいずれかを指定する種類指定を受け取り、前記種類指定が指定する前記継手をセットする
ことを特徴とする請求項1記載の構造部材設計方法。
【請求項7】
前記継手をセットするステップにおいては、前記主筋部材を所定長さで切断するとともにその切断箇所において前記継手をセットし、
前記継手をセットするステップにおいて、前記継手の種類として前記重ね継手を受け取った場合は、前記切断する前記主筋部材を記述したデータを2つの前記主筋部材のデータに分割するとともに前記継手の形状と前記継手のサイズを記述したデータを作成し、
前記継手をセットするステップにおいて、前記継手の種類として前記機械式継手または前記圧接継手を受け取った場合は、前記主筋部材を記述したデータに対して前記継手の位置を記述したデータを付加するとともに前記継手の形状と前記継手のサイズを記述したデータを作成することにより、前記主筋部材を記述したデータを2つの前記主筋部材のデータに分割することなく前記継手をセットする
ことを特徴とする請求項6記載の構造部材設計方法。
【請求項8】
前記構造部材設計方法はさらに、前記機械式継手または前記圧接継手によって接続された2つの前記主筋部材のうちいずれかの位置を手動調整するステップを有し、
前記手動調整するステップにおいては、前記機械式継手または前記圧接継手をセットした前記主筋部材を記述したデータを2つの前記主筋部材のデータに分割した上で、分割後の前記主筋部材のうち前記手動調整を実施するほうの位置を変更する
ことを特徴とする請求項7記載の構造部材設計方法。
【請求項9】
前記構造部材設計方法は、コンピュータによって実行され、
前記構造部材設計方法はさらに、前記継手と前記主筋部材それぞれの配置を前記コンピュータの画面上に表示するステップを有し、
前記機械式継手と前記圧接継手は、互いに異なる形状で前記画面上に表示され、
前記重ね継手は、前記重ね継手をセットした位置において、前記重ね継手によって接続された前記主筋部材が互いに重なり合うように、前記画面上で表示される
ことを特徴とする請求項6記載の構造部材設計方法。
【請求項10】
前記構造部材設計方法はさらに、前記継手のサイズを指定するサイズ指定を受け取るステップを有し、
前記継手が機械式継手である場合、前記サイズ指定は、前記継手をセットする前記主筋部材の直径ごとに、前記継手のサイズを指定し、
前記継手の衝突を回避するステップにおいては、前記サイズ指定が指定するサイズにしたがって、前記継手の衝突を回避する
ことを特徴とする請求項1記載の構造部材設計方法。
【請求項11】
前記構造部材設計方法はさらに、前記継手のサイズを指定するサイズ指定を受け取るステップを有し、
前記継手が圧接継手である場合、前記サイズ指定は、前記継手をセットする前記主筋部材の直径に対する前記継手のサイズの比率によって、前記継手のサイズを指定し、
前記継手の衝突を回避するステップにおいては、前記サイズ指定が指定するサイズにしたがって、前記継手の衝突を回避する
ことを特徴とする請求項1記載の構造部材設計方法。
【請求項12】
前記構造部材設計方法はさらに、前記継手のサイズを指定するサイズ指定を受け取るステップを有し、
前記継手が重ね継手である場合、前記サイズ指定は、前記主筋部材の強度または種類と、前記構造部材を構成するコンクリートの強度との組み合わせごとに、前記主筋部材が互いに重なり合う長さを指定し、
前記継手の衝突を回避するステップにおいては、前記重なり合う部分が他の前記主筋部材と衝突しないようにする
ことを特徴とする請求項1記載の構造部材設計方法。
【請求項13】
前記継手をセットするステップにおいては、前記主筋部材を所定長さで切断するとともにその切断箇所において前記継手をセットし、
前記構造部材設計方法はさらに、前記切断された前記主筋部材の本数を集計してその結果を提示するステップを有する
ことを特徴とする請求項1記載の構造部材設計方法。
【請求項14】
前記構造部材設計方法はさらに、前記切断した前記主筋部材の長さを1つ以上指定する長さ指定を受け取るステップを有し、
前記切断された前記主筋部材の本数を集計するステップにおいては、前記主筋部材の長さごとに前記主筋部材の本数を集計する
ことを特徴とする請求項13記載の構造部材設計方法。
【請求項15】
前記構造部材は、前記構造物の柱または前記構造物の梁または前記構造物の基礎である
ことを特徴とする請求項1記載の構造部材設計方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項記載の構造部材設計方法をコンピュータに実行させることを特徴とする構造部材設計プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、構造物のパネルゾーンに対して接続された構造部材の接続関係を設計する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物を形成する柱と梁が交差する領域は、パネルゾーンと呼ばれる。パネルゾーンにおいては、柱と梁が交差することに加えて、これらの内部に配置されている主筋部材(主に鉄筋)も交差することになる。建築物を設計する際には、柱や梁などの構造部材の位置やサイズなどを設計することに加えて、これらの主筋部材の位置やサイズなどを設計することが必要である。
【0003】
下記特許文献1は、主筋を接続する方法として、『位置合わせ接続』『延長して接続』『曲げて接続』を例示している(同文献の0087~0088)。これらの接続方法は、仕口部(パネルゾーンに相当)における主筋部材の接続関係を規定する態様について説明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-045741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような従来の設計方法においては、パネルゾーンにおいて主筋部材を相互に接続する手順を規定している。しかし、主筋部材を接続することにより他の主筋部材と衝突する場合があり、このような衝突を回避することについては十分検討されていなかった。また実際の主筋部材は、製造上や運搬上などの観点から、あらかじめ1本の長さが規定されており、継手によって主筋部材を接続することにより、全長を調整する。このとき継手とその周辺の部材が衝突する可能性があり、従来技術においてこのような衝突を回避することについては十分検討されていなかった。
【0006】
本開示は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、衝突を回避しつつ主筋部材を接続するとともに、継手をセットした場合において継手と他の部材との間の衝突を回避することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る構造部材設計方法は、パネルゾーンに対して接続されている主筋部材を互いにペアリングする接続関係をセットし、前記接続関係を維持しながら主筋部材間の衝突を回避し、前記主筋部材に対して継手をセットした場合は、前記主筋部材間の衝突または前記継手間の衝突を回避する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る構造部材設計方法によれば、衝突を回避しつつ主筋部材を接続するとともに、継手をセットした場合において継手と他の部材との間の衝突を回避することができる。本開示のその他の課題、構成、利点などについては、以下の実施形態の説明を参照することによって明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に係る構造部材設計プログラム12を実行するコンピュータ1の構成図である。
図2】構造部材設計プログラム12の動作を説明するフローチャートである。
図3】S201において抽出するパネルゾーン301を表示する画面例である。
図4】パネルゾーン抽出部121がパネルゾーン301を抽出する手順を説明する模式図である。
図5】S203における主筋部材設定画面の例である。
図6】ユーザが主筋部材設定画面上で主筋部材の位置を指定する過程を示す模式図である。
図7】主筋部材設定画面のその他の構成要素を説明する図である。
図8】主筋部材設定画面上において柱を分割する例を示す。
図9】S206におけるマニュアル接続設定画面の例である。
図10】ユーザがマニュアル接続設定画面上で主筋部材の接続関係をセットする過程を示す模式図である。
図11】ペアリングされた主筋部材の接続関係を記述したデータの構造を示す模式図である。
図12】パネルゾーンに対して接続されている柱と梁それぞれに対してペアリングを実施する前における主筋部材の3次元モデルの例である。
図13】S207における自動配筋の結果として主筋部材が衝突する例を示す平面図である。
図14】自動配筋部126が主筋部材の衝突を回避した後の例を示す。
図15】実施形態2に係る構造部材設計プログラム12を実行するコンピュータ1の構成図である。
図16】実施形態2における構造部材設計プログラム12の動作を説明するフローチャートである。
図17】継手の種類を示す模式図である。
図18】継手をセットすることによって衝突が生じる例である。
図19】継手設定部127が新たな継手をセットした場合における主筋部材のデータ構造を示す模式図である。
図20】継手設定部127が主筋部材を分割するときにおける分割後の主筋部材の長さを指定するユーザインターフェースの例である。
図21】継手設定部127が主筋部材を分割するときにおける分割位置を指定するユーザインターフェースの例である。
図22】継手設定部127が継手を画面表示する例を示す。
図23】継手設定部127が継手を画面表示する別例を示す。
図24】機械式継手のサイズを設定するユーザインターフェースの例である。
図25】圧接継手のサイズを設定するユーザインターフェースの例である。
図26】重ね継手のサイズを設定するユーザインターフェースの例である。
図27】主筋部材の本数を集計した結果を提示するユーザインターフェースの例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1>
図1は、本開示の実施形態1に係る構造部材設計プログラム12を実行するコンピュータ1の構成図である。構造部材設計プログラム12は、建築物のパネルゾーンに対して接続された構造部材(例:柱、梁)が有する主筋部材の接続関係を設計することにより、その建築物の構造を設計する処理を実装したプログラムである。コンピュータ1は、プロセッサ11と記憶部13を備える。プロセッサ11は構造部材設計プログラム12を実行する。以下では記載の便宜上、構造部材設計プログラム12を各処理ステップの動作主体として説明する場合があるが、構造部材設計プログラム12を実際に実行するのはプロセッサ11であることを付言しておく。
【0011】
ユーザ端末2は、コンピュータ1とやり取りして構造部材設計プログラム12に対してユーザからの指示を通知し、その処理結果を構造部材設計プログラム12から受け取ってディスプレイなどの適当なデバイス上で表示する。コンピュータ1とユーザ端末2は、適当なネットワークを介して互いに通信することにより、コンピュータ1による処理結果をユーザ端末2に対して通知し、あるいはユーザ端末2からコンピュータ1に対する指示を送受信することができる。
【0012】
構造部材設計プログラム12は、サブモジュールとして、パネルゾーン抽出部121、構造部材抽出部122、主筋セット部123、ペアリング部124、接続関係セット部125を備える。構造部材設計プログラム12および各サブモジュールの動作については後述する。
【0013】
図2は、構造部材設計プログラム12の動作を説明するフローチャートである。本フローチャートは、ユーザが構造部材設計プログラム12をコンピュータ1上で起動し、所定のメニューなどから本フローチャートを実施するように指示することによって開始される。以下図2の各ステップについて説明する。
【0014】
図2:ステップS201)
パネルゾーン抽出部121は、建築物の設計データを記憶部13から読み取る。設計データは、建築物を構成する柱と梁、柱と梁に対して接続されたパネルゾーン、などの構造を記述したデータである。パネルゾーン抽出部121は、設計データからパネルゾーンの箇所を抽出し、そのリストを保持する。パネルゾーンの箇所は、設計データ上において柱と梁が互いに接続されている箇所を探索することにより、抽出することができる。本ステップの1例は後述する。
【0015】
図2:ステップS201:補足)
本ステップは、例えばユーザが構造部材設計プログラム12上のメニューから本ステップを実施するように構造部材設計プログラム12に対して指示し、さらに設計データのファイルパスなどを指定することによって、開始することができる。設計データは例えば建築物のCADデータである。以下のステップも同様に、各ステップを実施するように指示するメニューをユーザが選択することによって、開始することができる。
【0016】
図2:ステップS202)
構造部材抽出部122は、S201において抽出したパネルゾーンに対して接続されている構造部材(柱または梁)を抽出する。説明の便宜上、本実施形態1においては柱を抽出することとする。
【0017】
図2:ステップS203)
主筋セット部123は、後述する主筋部材設定画面を、ユーザ端末2が備えるディスプレイ上に表示する。ユーザは主筋部材設定画面上で構造部材(本実施形態1においては柱)を選択し、その構造部材の内部に配置する主筋部材(鉄筋)の本数と位置を、主筋部材設定画面上でセットする。本ステップの詳細は、主筋部材設定画面の具体例と併せて後述する。主筋部材の本数と配置が既にセットされている構造部材については、本ステップを省略してもよい。
【0018】
図2:ステップS204)
ペアリング部124は、パネルゾーンの断面上において対向して配置されている構造部材のうち、主筋部材の本数と配置が同じものを全て抽出する。ペアリング部124は、抽出した構造部材をペアリングする。ここでいうペアリングとは、ペアリングされた構造部材の内部の主筋部材が実際の建築物において互いに接続される旨を、構造部材設計プログラム12内部において指定することである。ペアリング部124は、ペアリングの結果を記憶部13へ格納する。パネルゾーンの断面上において、主筋部材の本数と配置が同じではない構造部材は、ペアリングの対象外となる。
【0019】
図2:ステップS205)
接続関係セット部125は、S204の結果にしたがって、ペアリングされた構造部材を互いに接続する。接続関係セット部125は、その接続関係を記述したデータを、記憶部13へ格納する。
【0020】
図2:ステップS206)
接続関係セット部125は、後述するマニュアル接続設定画面を、ユーザ端末2が備えるディスプレイ上に表示する。ユーザはマニュアル接続設定画面上において、S205のなかでペアリングされなかった構造部材の内部の主筋部材を、マニュアル作業によって接続する。接続関係セット部125は、その接続関係を記述したデータを、記憶部13へ格納する。本ステップの詳細は、マニュアル接続設定画面の具体例と併せて後述する。
【0021】
図2:ステップS207)
自動配筋部126は、以上のステップによってセットされた主筋部材の接続関係にしたがって、主筋部材を実際に配置したと仮定し、パネルゾーン内部も含めた主筋部材の配置関係を計算する。このとき、主筋部材が衝突するか否かを併せて計算する。衝突の例などについては後述する。
【0022】
図2:ステップS208)
自動配筋部126は、設計データから、主筋部材のサイズ、材料、強度、などの特性を記述した主筋特性データを記憶部13から読み取る。自動配筋部126は、以上のステップにおいて互いに接続した主筋部材間の接続関係および主筋部材のサイズなどの特性にしたがって、主筋部材の3次元モデルを作成する。自動配筋部126は、作成した3次元モデルを、ユーザ端末2のディスプレイ上で表示する。3次元モデルを提示する意義については、その例と併せて後述する。
【0023】
図3は、S201において抽出するパネルゾーン301を表示する画面例である。パネルゾーン301は、構造部材設計プログラム12が設計する建築物が有する柱と梁が交差する箇所である。パネルゾーン抽出部121は、後述する手順によってパネルゾーン301を建築物の設計データから抽出し、図3のように画面表示する。パネルゾーン抽出部121は、図3の画面を生成してユーザ端末2に対して送信し、ユーザ端末2はその画面上でパネルゾーン301を表示することができる。
【0024】
図4は、パネルゾーン抽出部121がパネルゾーン301を抽出する手順を説明する模式図である。図4において、(a)柱1と柱2によって表される柱、(b)梁1と梁3によって表される梁(便宜上、第1梁と呼ぶ)、(c)梁2と梁4によって表される梁(便宜上、第2梁と呼ぶ)、がパネルゾーンにおいて交差している。
【0025】
パネルゾーン抽出部121は、設計データよりこれら3つの構造部材の位置やサイズなどの形状情報を取得する。パネルゾーン抽出部121は、取得した形状情報にしたがって、柱と第1梁が交差することによって生じる平面領域を特定するとともに、柱と第2梁が交差することによって生じる平面領域を特定する。パネルゾーン抽出部121は、特定した平面領域と柱によって囲まれる3次元空間を、これら3つの部材が交差するパネルゾーンとして抽出することができる。構造部材抽出部122は、これらの過程において用いた構造部材とパネルゾーンとの間の関係にしたがって、パネルゾーンに対して接続されている構造部材を特定できる。
【0026】
図5は、S203における主筋部材設定画面の例である。主筋セット部123は、図5に例示する主筋部材設定画面をユーザ端末2に対して送信し、ユーザ端末2はその画面を表示する。主筋部材設定画面は、ユーザが指定した構造部材(柱または梁)の内部に組み込む主筋部材(鉄筋)の本数および配置を、ユーザがマニュアル操作によって指定するために用いる画面である。図5の中央は、ユーザが指定したパネルゾーンの断面図を示す。平面図上の白丸は、構造部材を配置することができる候補位置である。ユーザはこの平面図上において、構造部材を配置する箇所を指定する。構造部材を配置する位置の白丸は黒丸に置き換わっている。構造部材が柱である場合と梁である場合いずれにおいても、同様の画面を用いることができる。
【0027】
図6は、ユーザが主筋部材設定画面上で主筋部材の位置を指定する過程を示す模式図である。この例において、ユーザはパネルゾーンの断面図の4隅に主筋部材を配置し、それ以外の候補位置における主筋部材を削除している。構造部材の場所によっては高い強度が必要ではない場合もあり、そのような場合においては例えば4隅のみ主筋部材を配置すれば足りるので、図6が示すように主筋部材の本数と配置を変更してもよい。
【0028】
図7は、主筋部材設定画面のその他の構成要素を説明する図である。図7に示す例において、主筋部材設定画面は、パネルゾーンの断面上に配置されている主筋部材に対してロック設定を指定するロックアイコン(例えば701~704)を有する。ロック設定は、S207の自動配筋処理において、主筋部材をどのように移動させるかを指定する属性設定である。
【0029】
自動配筋処理において主筋部材を仮配置したとき、主筋部材同士が衝突する可能性がある。主筋部材の配置はパネルゾーンごとにユーザが主筋部材設定画面上でマニュアル設定する場合があるからである。後述するように、自動配筋部126は衝突した主筋部材の位置を移動させることによって衝突を回避するが、そのとき位置を移動させず固定する主筋部材を、ロック設定によって指定することができる。例えばアイコン704に対してその旨を指定した場合、アイコン704から延伸する直線に沿った横方向5つの主筋部材(図7においては実際には2つの主筋部材が配置されている)は、自動配筋処理において移動しない。
【0030】
自動配筋処理において衝突回避のためにいずれかの主筋部材を移動させるとき、連動して移動させることが望ましい別の主筋部材が存在する場合がある。典型的には同一線上に配置されている主筋部材は連動して移動することが望ましい。ロック設定によってそのような連動して移動させる主筋部材セットを指定することができる。例えばアイコン703に対してその旨を指定した場合、アイコン703から右へ向かって延伸する直線に沿った横方向5つの主筋部材(図7においては実際には2つの主筋部材が配置されている)は、自動配筋処理において連動して移動する(すなわち移動方向と移動量が互いに等しくなるように移動する)。
【0031】
主筋部材設定画面上においては、主筋部材の位置そのものを移動させることもできる。主筋部材間の間隔設定705を選択して入力画面を開き、設定したい間隔を入力することにより、主筋部材の位置を移動させることができる。
【0032】
主筋部材設定画面は、パネルゾーンの断面上において配置した主筋部材を、その断面に対して直交する平面上で見たときの各主筋部材の配置を、ビュー706上で併せて画面表示することもできる。ビュー706は、構造部材の側面図、透過図、などによって構成することができる。
【0033】
図8は、主筋部材設定画面上において柱を分割する例を示す。ユーザは主筋部材設定画面上において、構造部材(柱または梁)を分割することができる。主筋セット部123が分割した構造部材に対してそれぞれ別のIDを割り当てることにより、構造部材設計プログラム12は以後それらを別個の構造部材として管理する。分割前の構造部材はそれぞれ同一の主筋部材を有しているが、分割によってそれらの主筋部材も分割されることになる。ユーザは分割後の構造部材に対して改めて主筋部材の配置と本数を指定することができる。例えば柱の下方は上方よりも主筋部材を多くする、などの個別設定が可能である。ユーザは反対に、構造部材を統合することもできる。ただし主筋部材の配置、本数、材質などが全て一致している構造部材同士に限る。分割することにより発生する構造部材の個数は、建築物の仕様や業界標準などによって適宜定めることができる。例えば柱は2分割のみ可能、梁は2分割または3分割のみ可能、などである。
【0034】
図9は、S206におけるマニュアル接続設定画面の例である。接続関係セット部125は、図9に例示するマニュアル接続設定画面をユーザ端末2に対して送信し、ユーザ端末2はその画面を表示する。マニュアル接続設定画面は、構造部材の内部の主筋部材を、ユーザがマニュアル作業によって接続するために用いる画面である。
【0035】
ユーザは図9に示す画面上において、まず接続関係をセットする2つの構造部材(この例においては梁Aと梁B)を選択する。ユーザは梁Aのいずれかの主筋部材と梁Bのいずれかの主筋部材をそれぞれ画面上で選択し、これらを接続する旨をさらに画面上で指定する。接続関係セット部125は、その接続関係を記述したデータを記憶部13に保存する。ユーザは、梁Aと梁Bそれぞれのその他の主筋部材についても同様に接続関係をセットする。
【0036】
図10は、ユーザがマニュアル接続設定画面上で主筋部材の接続関係をセットする過程を示す模式図である。構造部材AとBそれぞれのパネルゾーン断面図上において、主筋部材を小さい黒丸によって示している。ユーザが選択した主筋部材は、黒丸の周囲を円が囲むことによって示している。ユーザが接続関係をセットした主筋部材は、大きい黒丸に変更されている。この例においては、ユーザは構造部材AとBそれぞれの4隅に配置されている主筋部材を互いに接続するように、接続関係をセットしている。
【0037】
図11は、ペアリングされた主筋部材の接続関係を記述したデータの構造を示す模式図である。S204~S205またはS206においてペアリング(互いに接続されている旨を指定すること)された主筋部材は、そのペアを構成する主筋部材のIDおよびその主筋部材の属性パラメータをセットにしたデータによって、ペアリングされた旨が記憶部13内に保存される。
【0038】
主筋部材の属性パラメータとしては、例えばオフセット値が挙げられる。ユーザは、マニュアル接続設定画面上において、主筋部材の配置と本数が同一ではない2つの構造部材間であっても、主筋部材を接続するように指定することができる。このときその2つの主筋部材は、図11右下に示すように、屈折して接続されることになる。主筋セット部123は、この屈折の開始点から終端までの距離を、オフセット値として主筋部材ごとに保存する。
【0039】
図12は、パネルゾーンに対して接続されている柱と梁それぞれに対してペアリングを実施する前における主筋部材の3次元モデルの例である。S204~S206においてペアリングする前の時点においては、パネルゾーンを挟んで対向配置された構造部材の内部の主筋部材は、互いに接続されていない状態となっている。ペアリングは、これらの主筋部材を互いに接続する旨を指定することを意味する。S205における自動接続またはS206におけるマニュアル接続によって、例えば図12に示す主筋部材1201と1202を互いに接続する旨の接続関係をセットする。
【0040】
図13は、S207における自動配筋の結果として主筋部材が衝突する例を示す平面図である。図13に示す例において、柱が有する主筋部材1301と梁が有する主筋部材1302が衝突している。これは、例えば主筋部材設定画面においてユーザが主筋部材1301を4隅近傍へ移動させたことに起因している。
【0041】
図13に示すような主筋部材同士の衝突は、例えば衝突している主筋部材のIDなどをリストとして提示することにより、データとしてユーザに対して提示することができる。しかしユーザとしては、主筋部材のリストのみを提示されても、その主筋部材がどのような態様で衝突しているのかを把握することが困難な場合がある。そこで自動配筋部126はS208において、主筋部材の実際の配置を3次元モデルとして視覚的に提示することとした。これによりユーザは、図12図13に例示するような3次元モデル上においてその衝突状態を視覚的に把握できる。
【0042】
図14は、自動配筋部126が主筋部材の衝突を回避した後の例を示す。自動配筋部126は、図13において衝突している主筋部材1301を、柱断面上における中央寄りへ移動させることにより、主筋部材1301と1302との間の衝突を回避した。図14はその結果を示す。衝突を回避する処理は、ユーザがその処理を実施するように指定したとき実施してもよいし、S207(自動配筋)において自動的に実施してもよい。
【0043】
自動配筋部126は、衝突回避のために移動させる主筋部材を選択する際に、図7において説明したロック設定を反映させる。すなわち、(a)固定指定した主筋部材は移動させずその他の主筋部材を移動させる、(b)連動して移動するように指定した主筋部材セットは連動して移動させる。例えば主筋部材1302が固定指定されている場合、主筋部材1302は移動させずその他の主筋部材を移動させる。あるいは主筋部材1301と1303が連動指定されている場合、これらの移動方向と移動量は同一となる。
【0044】
自動配筋部126は、移動させる主筋部材を決定した後、その移動方向と移動量を決定する。移動方向と移動量は、例えば移動後の主筋部材の配置間隔が断面図上(すなわちパネルゾーン内)においてできる限り均等となるようにすればよい。例えば衝突を無視して主筋部材を均等配置したときの各主筋部材の位置と、移動させる主筋部材の位置との間の差分を、移動ベクトルとして用いることができる。自動配筋部126は、その移動ベクトルにしたがって、衝突が回避されるまで主筋部材を移動させればよい。例えば、各主筋部材を均等配置したときと移動後の主筋部材配置との間の2乗和が最も小さくかつ衝突が回避されるような配置を、最終的に採用すればよい。
【0045】
ユーザは、図13または図14の3次元モデルを見た上で、そのパネルゾーンを指定して主筋部材設定画面(図5)を呼び出し、改めて主筋部材の配置や本数をセットしてもよい。自動配筋部126が図14のように衝突を自動的に回避したとしても、例えば施工現場の作業効率を考慮すると、別の主筋部材を移動させたほうが望ましい場合や、移動量もしくは移動方向を変えたほうがよい場合など、必ずしも自動衝突回避の結果が望ましくない場合も考えられる。そのような望ましくない状況が発生するか否かを把握するためには主筋部材の3次元モデルをユーザが視覚的に見ることが有用であると考えられる。衝突箇所のIDなどをリスト表示するのみでは、そのような状況が発生するか否か、あるいは発生するとしてどのような態様であるのか、などを把握することは困難だからである。主筋部材の3次元モデルを提示することは、そのような観点において有用である。
【0046】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る構造部材設計プログラム12は、建築物の構造を記述した設計データ(例えばCADデータ)からパネルゾーンを抽出し、パネルゾーンに対して接続されている構造部材の内部の主筋部材の本数および配置をセットし、主筋部材の本数および配置が同じ構造部材同士をペアリングしてそれらの主筋部材を接続する。パネルゾーンを起点としてそのパネルゾーンに対して接続されている構造部材を特定することにより、パネルゾーン内における主筋部材の接続関係を適切にセットすることができる。また主筋部材の配置と本数が同一である構造部材については自動ペアリングすることもできるので、主筋部材の設計作業を効率的に進めることができる。
【0047】
本実施形態1に係る構造部材設計プログラム12は、主筋部材設定画面(図5)を提示し、ユーザは同画面上においてパネルゾーンの断面図上で主筋部材の本数と配置を指定することができる。例えばCADデータからインポートした構造部材内の主筋部材が過剰または過少であるような場合においても、ユーザは同画面上で主筋部材を適切に配置することができる。1例として、建築物の下方の柱は主筋部材を多く変更し、上方の柱は主筋部材を少なく変更する、などのマニュアル設計が可能である。
【0048】
本実施形態1に係る構造部材設計プログラム12は、主筋部材設定画面などによってセットされた主筋部材の接続関係にしたがって主筋部材を実際の建築物において配置したと仮定したとき主筋部材が衝突するか否かを計算し、その結果を例えば主筋部材の3次元モデルなどの視覚的手段によって提示する。これによりユーザは、主筋部材の配置や本数が適切であるか否かを容易に把握し、改めて主筋部材設定画面などによってその配置や本数を調整することができる。
【0049】
本実施形態1に係る構造部材設計プログラム12は、主筋部材を実際に配置したと仮定したとき主筋部材が衝突する場合は、その衝突を回避するように、主筋部材の位置を移動させる。例えば移動後の主筋部材の配置間隔がパネルゾーン内においてなるべく均等となるように、主筋部材を移動させる。これにより、例えばユーザが主筋部材設定画面上でセットした主筋部材の本数と配置が衝突を招く場合であっても、ユーザに負担をかけることなくその衝突を回避し、実際に施工可能な主筋部材構造を設計することができる。
【0050】
本実施形態1に係る構造部材設計プログラム12は、衝突回避のために主筋部材を移動させる際に、移動させずに位置を固定する主筋部材を主筋部材設定画面上であらかじめ設定しておき(ロック設定)、その設定にしたがって、移動させる主筋部材を選択する。これにより、例えば建築物の構造との関係において移動させることが望ましくない主筋部材についてはあらかじめ位置を固定しておき、その他の主筋部材のみを移動させることができる。したがって、構造強度などのパラメータを最適に維持しつつ、主筋部材の衝突を自動的に回避することができ、主筋部材の設計効率が高まる。
【0051】
本実施形態1に係る構造部材設計プログラム12は、衝突回避のために主筋部材を移動させる際に、連動して移動させる主筋部材セットを主筋部材設定画面上であらかじめ設定しておき(ロック設定)、その設定にしたがって、移動させる主筋部材を選択する。これにより、例えば建築物の構造との関係において連動して移動させることが望ましい主筋部材についてはあらかじめ連動ロックをかけておき、それらを連動して移動させることができる。例えばパネルゾーンの断面図上で対向して配置されている主筋部材は連動移動させることが望ましい場合は、そのような連動移動をあらかじめ指定しておくことができる。これにより位置固定ロックと同様に、構造強度などのパラメータを最適に維持しつつ、主筋部材の衝突を自動的に回避することができ、主筋部材の設計効率が高まる。
【0052】
本実施形態1に係る構造部材設計プログラム12は、例えば主筋部材の配置または本数が互いに異なることによって自動ペアリングされなかった構造部材について、マニュアル接続設定画面によって手動で主筋部材の接続関係をセットできる。これにより、構造部材を配置したのみでは主筋部材がパネルゾーン内において接続されない場合であっても、その接続関係を画面上で視覚的にセットすることができる。
【0053】
<実施の形態2>
実施形態1においては、パネルゾーンに対して接続された主筋部材をペアリングするとともに、ペアリングされていない主筋部材同士が互いに衝突することを回避する構成例を説明した。実際の主筋部材は、製造上や運搬上などの観点から、あらかじめ1本の長さが規定されている場合がある。したがって、実施形態1に基づき主筋部材の接続関係をセットしたとしても、実際には短い主筋部材を継手によって連結する必要が生じることがある。さらに継手部分はある程度の断面サイズを有するので、継手とその近傍の主筋部材が衝突しないように配慮する必要もある。そこで本実施形態2においては、実施形態1によって接続関係をセットした主筋部材を所定長さで切断してその箇所に継手をセットする構成例について説明する。
【0054】
図15は、本開示の実施形態2に係る構造部材設計プログラム12を実行するコンピュータ1の構成図である。構造部材設計プログラム12は、サブモジュールとして、実施形態1で説明したものに加え、さらに継手設定部127を備える。継手設定部127は、衝突回避しつつ主筋部材をペアリングした後において、主筋部材の切断位置(すなわち継手をセットする位置)を設定するとともに、その位置に継手をセットする。具体的な動作例については後述する。
【0055】
図16は、実施形態2における構造部材設計プログラム12の動作を説明するフローチャートである。実施形態1で説明したステップS208の後に、ステップS1601を実施する。S1601において、継手設定部127は、後述する手順にしたがって、主筋部材に対して継手をセットする。その他は実施形態1と同様である。
【0056】
図17は、継手の種類を示す模式図である。継手の種類としては例えば、機械式継手、圧接継手、重ね継手などがある。機械式継手は、主筋部材間を接続するための部材によって継手を構成する。例えば矩形のボックスに対して左右から主筋部材を挿入し、ボックス内にコンクリートを充填することによって主筋部材を固定する。圧接継手は、主筋部材同士を圧接することによってその主筋部材を接続する。重ね継手は、主筋部材同士を重ね合わせた上でその重ね合わせ部分の周囲に別部材を巻き付けるなどによって固定する。いずれの場合においても、継手部分はある程度の断面サイズ(主筋部材が延伸する方向に対して直交する平面内のサイズ)を有する。したがって新たな継手をセットすることにより、その継手が隣接する主筋部材と衝突する可能性がある。
【0057】
図18は、継手をセットすることによって衝突が生じる例である。図18上段において2つの主筋部材は衝突していない。しかし継手設定部127が下側の主筋部材を上述の理由によって切断してその位置に新たな継手(この例においては機械式継手)をセットすることにより、その新たな継手と上側の主筋部材が衝突する。そこで継手設定部127は、新たな継手をセットした後、改めて実施形態1と同様に、いずれかの主筋部材を移動させることにより、主筋部材と継手との間の衝突を回避する。継手と主筋部材が衝突するか否か、衝突する場合における移動方向と移動量、などについては、継手のサイズを考慮して実施形態1におけるS207と同様に実施することができる。隣接する継手間において衝突が生じる場合も同様である。衝突回避処理は自動配筋部126が実施してもよいし、継手設定部127が自動配筋部126と同様の処理を実施してもよい。
【0058】
継手の衝突を回避する際には、継手が新たにセットされた主筋部材であっても、実施形態1においてペアリングされた主筋部材(連動指定を含む)は互いに連動して移動させる。さらに、継手が新たにセットされることによって切断された主筋部材も、連動して移動させる。継手部分においてそれらの主筋部材は接続されているからである。
【0059】
図19は、継手設定部127が新たな継手をセットした場合における主筋部材のデータ構造を示す模式図である。継手設定部127が主筋部材を切断することによって2本の主筋部材が生じた場合、その2つの主筋部材それぞれについてIDを付与するとともに、始端と終端のうちいずれに対して継手がセットされるかを定義し、さらに継手の形状および大きさを定義することができる。図19左図はその場合におけるデータ構造の例である。あるいはこれに代えて、データ構造上では1本の主筋部材だが、その主筋部材上における継手が設置された位置を定義するとともに、継手の形状およびサイズを定義することができる。図19右図はその場合におけるデータ構造の例である。
【0060】
オブジェクト(柱、梁、継手などのような構造物内の物体)個数が増加すると、データ量や演算負荷が飛躍的に増加する可能性がある。図19右図のデータ構造は、オブジェクト個数を抑制する観点から有用である。他方で重ね継手の場合は、継手によって接続する2つの主筋部材は独立して存在しているので、2つの主筋部材として取り扱うことが望ましい。したがって重ね継手については図19左図のデータ構造を用いることとする。機械式継手または圧接継手については、図19右図のデータ構造を原則として用いる。ただし機械式継手または圧接継手によって接続された2つの主筋部材のうちいずれかの位置をマニュアル調整する場合は、その時点で主筋部材のデータ構造を分割して図19左図のデータ構造に変更する。以上の処理は継手設定部127が実施してもよいし、その他適当な機能部が実施してもよい。
【0061】
図20は、継手設定部127が主筋部材を分割するときにおける分割後の主筋部材の長さを指定するユーザインターフェースの例である。継手設定部127は、図20に示すユーザインターフェースを画面表示し、ユーザは同画面上のリスト内の長さのうちいずれか1つ以上を指定することができる。さらに、デフォルトで用いる継手の種類を選択することもできる。継手設定部127は、ユーザが選択した長さの範囲内で主筋部材を自動分割し、その分割位置に対して、指定された種類の継手をセットする。
【0062】
継手設定部127は、継手をセットする位置(すなわち主筋部材を分割する位置)として最適な位置を、自動的に選択する。例えば7800mmの主筋部材であれば4000mm+4000mmに分割し、7400mmの主筋部材であれば3500mm+4000mmに分割する、などの分割態様が考えられる。このとき生じる端数の取り扱いについては、例えば以下のようなものが考えられる。
【0063】
(端数の取り扱いの例その1)継手設定部127が主筋部材を分割することにより、余剰部分が生じる場合がある。例えば7800mmの主筋部材を4000mm+4000mmに分割したとき、200mmの余剰部分が生じる。継手設定部127は、構造物全体にわたるこのような余剰部分の総和が最小となるように、継手位置をセットする。
【0064】
(端数の取り扱いの例その2)継手設定部127は、分割後の主筋部材の本数が最小となるように、継手位置をセットする。例えば、なるべく長い主筋部材を優先的に用いることにより、分割後の主筋部材の本数を抑えることができる。
【0065】
(端数の取り扱いの例その3)継手設定部127は、例その1で説明したような余剰部分が生じる分割後主筋部材の本数が最小となるように、継手位置をセットする。例えば7800mmの主筋部材を4000mm+4000mmに分割する場合、分割後主筋部材がそれぞれ3900mmと3900mmであれば、100mmの余剰部分が2つ生じることになる。これに対して分割後主筋部材が4000mmと3800mmであれば、200mmの余剰部分が1つ生じることになる。継手設定部127は後者を選択する。
【0066】
(端数の取り扱いの例その4)継手設定部127は、例その1で説明したような余剰部分が生じる場合は、ユーザが図20の画面上で選択した長さのうち、優先度が高いものから順に採用する。例えば短いものから順に採用することができる(この場合、図20においては3500mmが最も優先度が高い)。この優先度は継手設定部127があらかじめ規定しておいてもよいし、ユーザが図20の画面上で指定することもできる。
【0067】
図21は、継手設定部127が主筋部材を分割するときにおける分割位置を指定するユーザインターフェースの例である。継手設定部127は、図20で説明したような自動分割に代えてまたはこれと併用して、ユーザが指定する位置において継手をセットすることもできる。ユーザは継手の種類を指定することもできる。図21左図において、ユーザは継手の平面位置を指定する、図21右図はその指定位置の断面図である。ユーザが指定した平面位置に存在する主筋部材のうちいずれに対して継手をセットするかを指定する。図21右図においては上段の5本の主筋部材のうち2本に対して継手をセットすることを指定する例を示した。
【0068】
図22は、継手設定部127が継手を画面表示する例を示す。図22上段は機械式継手を表示する例、図22中段は圧接継手を表示する例、図22下段は重ね継手を表示する例である。機械式継手と圧接継手は、互いに異なる形状によって表示することが望ましい。図22においては機械式継手を矩形で表し、圧接継手を楕円で表したが、これに限るものではない。重ね継手は、主筋部材が互いに重なり合うように表示することによって表示すると、重ね継手の位置および重ね合わせ長さを視覚的に把握できるので、ユーザにとって便宜である。
【0069】
図23は、継手設定部127が継手を画面表示する別例を示す。機械式継手と圧接継手については、画面表示上は主筋部材が切断されていないかのように表示してもよい。図23左図は切断位置を表示する例であり、図23右図は切断位置を表示しない例である。いずれの場合においても、継手をセットした位置(すなわち主筋部材を切断した位置)は継手設定部127によって内部的に管理されている。
【0070】
図24は、機械式継手のサイズを設定するユーザインターフェースの例である。継手設定部127は図24のユーザインターフェースを画面表示し、ユーザは例えば主筋部材の直径ごとに(図24におけるD10、D13などが直径を表している)、機械式継手のサイズを設定することができる。あるいは個別の主筋部材ごとに機械式継手のサイズを設定してもよい。機械式継手のサイズは、全長(主筋部材の延伸方向に沿った長さ)と外形(主筋部材の延伸方向に対して直交する平面内における断面の辺長さ)によって指定することができる。継手設定部127(または自動配筋部126)は、指定されたサイズにしたがって、継手と周辺部材との間の衝突を回避する。
【0071】
図25は、圧接継手のサイズを設定するユーザインターフェースの例である。継手設定部127は図25のユーザインターフェースを画面表示し、ユーザは例えば主筋部材の直径に対する比率を用いて、圧接継手のサイズを設定することができる。圧接継手のサイズは、圧接によってふくらむ部分の直径A、主筋部材の延伸方向に沿ったふくらみ部分の長さBによって規定することができる。さらに、圧接工程によって主筋部材が縮む長さCを併せて規定することができる。図25においては、主筋直径Dに対するAの倍率が1.4、Bの倍率が1.1、Cの倍率が1.5(いずれも主筋部材に対して圧接継手のほうが大きい)を指定した例を示した。継手設定部127(または自動配筋部126)は、指定されたサイズにしたがって、継手と周辺部材との間の衝突を回避する。
【0072】
図26は、重ね継手のサイズを設定するユーザインターフェースの例である。継手設定部127は図26のユーザインターフェースを画面表示する。ユーザは、主筋部材の種類または強度と、構造部材(柱または梁または基礎)を構成するコンクリートの強度との組み合わせごとに、重ね継手を構成する主筋部材同士の重ね合わせ部分の長さ(図26における長さL)を指定することができる。主筋部材の強度が主筋部材の種類によってあらかじめ規定されている場合は、主筋部材の種類とコンクリート強度との組み合わせごとに、Lを指定すればよい。図26はその例を示した。重ね継手における重ね合わせ部分は、各主筋部材を延長することによって形成することができる。継手設定部127(または自動配筋部126)は、指定された重ね合わせ部分の長さおよび重ね合わせる主筋の直径にしたがって、重ね合わせ部分と他の主筋部材との間の衝突を回避する。
【0073】
図27は、主筋部材の本数を集計した結果を提示するユーザインターフェースの例である。継手設定部127は、継手をセットすることによって生じた分割後主筋部材を含む、主筋部材の総数を、主筋部材の長さ(分割後主筋部材であれば分割後の長さ)ごとに集計する。主筋部材の長さは、図20においてユーザが選択したものである。集計はユーザがその旨を指示したとき実施してもよいし、継手をセットするごとに集計しておきユーザが集計結果を表示するように指示したとき結果のみ表示してもよい。集計結果を提示することにより、ユーザは実際に必要となる主筋部材の数をその長さごとに(すなわち実際に提供することができる分割後主筋部材の種別ごとに)把握することができる。
【0074】
<本開示の変形例について>
本開示は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0075】
以上の実施形態において、構造部材設計プログラム12が図2(または図16)の各ステップを実施することを説明したが、各ステップのうち全部または一部を、設計者がマニュアル作業によって実施することも可能である。例えば各ステップのうち全部または一部を表計算ソフトウェアのマクロによって実装し、これを実行することにより、画面上で設計結果を視認しながら微調整を実施することができる。
【0076】
以上の実施形態において、構造部材設計プログラム12およびそのサブモジュールは、ソフトウェアに代えて、回路デバイス(例:Field Programmable Gate Array:FPGA)などのハードウェアによって実装することもできる。
【0077】
以上の実施形態において、コンピュータ1とユーザ端末2は、必ずしも別装置でなくてもよく、これらを単一のコンピュータ上に構成してもよい。この場合、ユーザ端末2が画面表示する各画面は、これに代えてコンピュータ1が備える表示デバイス上で画面表示することになる。
【0078】
以上の実施形態において、建築物が備えるパネルゾーンとこれに接続される構造部材(柱または梁または基礎)が備える主筋部材について説明したが、本開示は建築物に限るものではなく、同様の構造を備えた構造物一般について適用することができる。すなわち本開示の対象は、建築構造物、土木構造物、プラント、その他同様の構造を有する構造物一般について適用することができる。この場合、本開示におけるパネルゾーンに対応するのは、構造物の高さ方向に延伸する構造部材とこれに対して直交する方向に延伸する構造部材が交差する領域となることを付言しておく。
【符号の説明】
【0079】
1:コンピュータ
12:構造部材設計プログラム
121:パネルゾーン抽出部
122:構造部材抽出部
123:主筋セット部
124:ペアリング部
125:接続関係セット部
126:自動配筋部
127:継手設定部
13:記憶部
2:ユーザ端末
【要約】
本開示は、衝突を回避しつつ主筋部材を接続するとともに、継手をセットした場合において継手と他の部材との間の衝突を回避することができる技術を提供することを目的とする。本開示に係る構造部材設計方法は、パネルゾーンに対して接続されている主筋部材を互いにペアリングする接続関係をセットし、前記接続関係を維持しながら主筋部材間の衝突を回避し、前記主筋部材に対して継手をセットした場合は、前記主筋部材間の衝突または前記継手間の衝突を回避する(図15参照)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27