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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】静電容量式近接センサ
(51)【国際特許分類】
   H01H 36/00 20060101AFI20230320BHJP
   G01V 3/08 20060101ALI20230320BHJP
   E05F 15/73 20150101ALI20230320BHJP
   B60J 5/10 20060101ALN20230320BHJP
【FI】
H01H36/00 J
G01V3/08 D
E05F15/73
B60J5/10 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019009097
(22)【出願日】2019-01-23
(65)【公開番号】P2020119726
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000220125
【氏名又は名称】東京パーツ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久保 守
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-81013(JP,A)
【文献】特開2017-219393(JP,A)
【文献】特開2002-57564(JP,A)
【文献】特開2002-39708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 36/00
G01V 3/08
H03K 17/955
B60J 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を出力する発振手段と、
センサ電極を含み、前記高周波信号が入力されるLCR共振回路と、
前記センサ電極の容量に応じた判定電圧信号を出力するセンサ回路と、
前記判定電圧信号に基づいて前記センサ電極への人体の近接を検出する制御部を備え、
前記制御部は、較正ステップと検出ステップの実行を制御するステップ制御を行い、
前記ステップ制御は、通常ルーチンとして前記較正ステップと前記検出ステップを交互に繰り返し実行する制御を含み、
前記較正ステップでは、
前記較正ステップの各々において、物体が前記センサ電極に近接していないときの前記LCR共振回路の共振周波数fresを検出するために、前記高周波信号の周波数が以下のように変更され、
n-1回目の較正ステップにおける、前記高周波信号の周波数をf n-1 、前記判定電圧信号をV n-1 とし、
n回目の較正ステップにおける、前記高周波信号の周波数をf 、前記判定電圧信号をV とし、
n+1回目の較正ステップにおける、前記高周波信号の周波数をf n+1 、前記判定電圧信号をV n+1 としたとき、
>V n-1 かつ f >f n-1 の場合は、f n+1 >f に設定され、
>V n-1 かつ f <f n-1 の場合は、f n+1 <f に設定され、
<V n-1 かつ f >f n-1 の場合は、f n+1 <f に設定され、
<V n-1 かつ f <f n-1 の場合は、f n+1 >f に設定され、
前記共振周波数fresが検出された場合、前記共振周波数fresに基づいて検出周波数fが設定されるとともに、前記共振周波数fresの高周波信号を前記LCR共振回路に入力した際の判定電圧信号Vresに基づいて第1閾値Vth1が設定され、
前記検出ステップでは、
前記LCR共振回路に前記検出周波数fの前記高周波信号を入力した状態で検出された前記判定電圧信号と、前記第1閾値Vth1との比較結果に基づいて、前記センサ電極への人体の近接を検出する、
ことを特徴とする静電容量式近接センサ。
【請求項2】
前記較正ステップでは、
>Vn-1 かつ Vn+1≒V の場合に、
前記共振周波数fresが、fとfn+1の近傍にあるとみなされる、
ことを特徴とする請求項に記載の静電容量式近接センサ。
【請求項3】
前記較正ステップでは、
n+2回目の較正ステップにおける、前記高周波信号の周波数をfn+2としたとき、
>Vn-1 かつ Vn+1≒V かつ fn+1>f の場合は、
n+2>fn+1 に設定され、
>Vn-1 かつ Vn+1≒V かつ fn+1<f の場合は、
n+2<fn+1 に設定される、
ことを特徴とする請求項またはに記載の静電容量式近接センサ。
【請求項4】
前記ステップ制御は、前記通常ルーチンとは別に、特別ルーチンとして前記較正ステップを複数回連続して実行する制御を含み、
前記制御部は、第2閾値Vth2と、この第2閾値Vth2よりも小さい第3閾値Vth3を設定し、
前記特別ルーチンは、任意のnについて、
>Vth2 または V<Vth3
の場合に実行される、
ことを特徴とする請求項からのいずれか一項に記載の静電容量式近接センサ。
【請求項5】
人体が前記センサ電極に近接したときの前記LCR共振回路の共振周波数をfhumとしたとき、
res>fhum
である、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の静電容量式近接センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のリアバンパー内に設置され、ユーザの足部を検出する静電容量式近接センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両ドア(バックドアやスライドドア等)の開閉のために車両の下部に設置された静電センサを用いてユーザの足部を検出し、その検出結果に基づいて車両ドアの開閉を行う技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、ユーザの足部を検出する複数の下段静電センサと、ユーザの足部を除く身体を検出する上段静電センサ、を有する車両ドア開閉装置が記載されている。この車両ドア開閉装置では、下段静電センサのセンサ部の1つからの検出信号と上段静電センサからの検出信号が得られた場合に、車両のドアを開駆動又は閉駆動するための駆動信号がドア駆動装置へ出力される。一方、下段静電センサのセンサ部の2つ以上から検出信号が得られた場合には、駆動信号がドア駆動装置へ出力されないようにしている。
【0004】
特許文献1の車両ドア開閉装置によれば、下段静電センサの少なくとも2つのセンサ部でユーザを検出すると車両ドアの開閉を開始しない又は停止するため、ユーザの安全性を保つことができるとされている。
【0005】
また、特許文献2には、車両ドアを非接触で作動させるための2つの近接センサを有するセンサユニットが記載されている。このセンサユニットをテールゲートの開閉用として用いる場合には、センサユニットは車両のリアバンパー内に車両の横断方向と平行に配置され、一方の近接センサの検出領域が他方の近接センサの検出領域を越えて突出するようにしている。
【0006】
特許文献2のセンサユニットによれば、少なくとも2つの近接センサによって生成される信号を評価することにより、Y方向の動きと、X方向またはZ方向の動きとを区別することができ、ユーザによる車両ドアの開閉要求を精度良く検出できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-21238号公報
【文献】特表2014-500414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2に記載されているような静電容量式センサは、周囲の環境(例えば、温度、湿度、周囲の構造物等)によって出力が変化し易い問題がある。
特に共振方式の静電容量式センサでは、共振点付近の周波数を用いて信号の変化を検出するため、共振点の変化に伴う誤検出を招き易いという問題がある。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、誤検出を抑制し、人体の近接を高い信頼性をもって検出することができる共振方式の静電容量式近接センサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の静電容量式近接センサの一実施態様は、
高周波信号を出力する発振手段と、
センサ電極を含み、前記高周波信号が入力されるLCR共振回路と、
前記センサ電極の容量に応じた判定電圧信号を出力するセンサ回路と、
前記判定電圧信号に基づいて前記センサ電極への人体の近接を検出する制御部を備え、
前記制御部は、較正ステップと検出ステップの実行を制御するステップ制御を行い、
前記ステップ制御は、通常ルーチンとして前記較正ステップと前記検出ステップを交互に繰り返し実行する制御を含み、
前記較正ステップでは、
前記較正ステップの各々において、物体が前記センサ電極に近接していないときの前記LCR共振回路の共振周波数fresを検出するために、前記高周波信号の周波数が所定の規則に従って変更され、
前記共振周波数fresが検出された場合、前記共振周波数fresに基づいて検出周波数fが設定されるとともに、前記共振周波数fresの高周波信号を前記LCR共振回路に入力した際の判定電圧信号Vresに基づいて第1閾値Vth1が設定され、
前記検出ステップでは、
前記LCR共振回路に前記検出周波数fの前記高周波信号を入力した状態で検出された前記判定電圧信号と、前記第1閾値Vth1との比較結果に基づいて、前記センサ電極への人体の近接を検出する、
ことを特徴とする。
【0011】
本発明の静電容量式近接センサは、さらなる特徴として、
「前記較正ステップでは、
n-1回目の較正ステップにおける、前記高周波信号の周波数をfn-1、前記判定電圧信号をVn-1とし、
n回目の較正ステップにおける、前記高周波信号の周波数をf、前記判定電圧信号をVとし、
n+1回目の較正ステップにおける、前記高周波信号の周波数をfn+1、前記判定電圧信号をVn+1としたとき、
>Vn-1 かつ f>fn-1 の場合は、fn+1>f に設定され、
>Vn-1 かつ f<fn-1 の場合は、fn+1<f に設定され、
<Vn-1 かつ f>fn-1 の場合は、fn+1<f に設定され、
<Vn-1 かつ f<fn-1 の場合は、fn+1>f に設定されること」、
「前記較正ステップでは、
>Vn-1 かつ Vn+1≒V の場合に、
前記共振周波数fresが、fとfn+1の近傍にあるとみなされること」、
「前記較正ステップでは、
n+2回目の較正ステップにおける、前記高周波信号の周波数をfn+2としたとき、
>Vn-1 かつ Vn+1≒V かつ fn+1>f の場合は、
n+2>fn+1 に設定され、
>Vn-1 かつ Vn+1≒V かつ fn+1<f の場合は、
n+2<fn+1 に設定されること」、
「前記ステップ制御は、前記通常ルーチンとは別に、特別ルーチンとして前記較正ステップを複数回連続して実行する制御を含み、
前記制御部は、第2閾値Vth2と、この第2閾値Vth2よりも小さい第3閾値Vth3を設定し、
前記特別ルーチンは、任意のnについて、
>Vth2 または V<Vth3
の場合に実行されること」、
「人体が前記センサ電極に近接したときの前記LCR共振回路の共振周波数をfhumとしたとき、
res>fhum
であること」、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の静電容量式近接センサによれば、短い時間で共振周波数fresを最新のものに更新して検出を行うため、周囲環境が変化しても常に最新の検出周波数で検出を行うことができ、誤検出や検出漏れを防止して、人体の近接を高い信頼性をもって検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサの自動車への設置状態を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサの概略構成を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサおける周波数特性であり、検出物がない状態S11と検出物がある状態S21を示すグラフである。
図4】本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサによる足部の検出状態を示す模式図である。
図5】本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサにおいて実行するステップ制御を説明するためのメインのフローチャートである。
図6】本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサにおける通常ルーチンの較正ステップを説明するためのフローチャートである。
図7】通常ルーチンの較正ステップについて説明するためのグラフである。
図8】通常ルーチンの較正ステップについて説明するためのグラフである。
図9】通常ルーチンの較正ステップについて説明するためのグラフである。
図10】通常ルーチンの較正ステップについて説明するためのグラフである。
図11】通常ルーチンの較正ステップについて説明するためのグラフである。
図12】通常ルーチンの較正ステップについて説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態例を説明する。
【0015】
本発明の一実施形態例に係る静電容量式近接センサ1は、図1のように自動車100のリアバンパ101内に設置され、ユーザがリアバンパ101の下側に足部を差し入れる動作をすると、バックドア102の開閉制御を自動的に実現するものである。
【0016】
本例の近接センサ1は、図2のブロック図に示すように、主にLCR共振回路10、センサ回路20およびマイコン30で構成されている。
【0017】
LCR共振回路10は、コイルLとコンデンサCと抵抗Rがこの順で直列に接続されたLCR直列共振回路と、センサ電極11を備えている。
センサ電極11には、自動車100のユーザの足部を検出するために、高周波信号生成部33から所定の高周波信号Sが入力される。
センサ電極11は、コイルLの下流側で且つコンデンサCの上流側のセンサ電極接続点P1に、コンデンサCと並列に接続されている。このセンサ電極11に人体の足部等が近接すると、センサ電極11の自己静電容量が増加する。
本例のコイルLのインダクタンスは4.7mH、コンデンサCの静電容量は7pF、抵抗Rの抵抗は470Ωであるが、これらの値は適宜設定することができる。
【0018】
センサ電極11は、リアバンパ101の内側に自動車100の車幅方向(図1の紙面垂直方向)に沿って直線状に配される。
センサ電極11の材料は特に限定されるものではなく、絶縁電線、同軸ケーブル、銅板等の導電性金属板などを用いることができ、絶縁電線や同軸ケーブルを用いる場合には、1往復以上となるように折り曲げて使用することにより容易に電極面積を増して感度調整を行うことができる。
【0019】
センサ回路20は、半波整流用のダイオード21と、ローパスフィルタを構成する固定抵抗22とコンデンサ23、および増幅器(バッファ回路)24を有する。
このセンサ回路20は、LCR共振回路10から出力された電気信号に基づいて、センサ電極11の自己静電容量に応じた判定電圧信号Sを出力する。具体的には、センサ回路20は、コンデンサCの下流側で且つ抵抗Rの上流側の検出点P3における電気信号に基づいて判定電圧信号Sを出力する。ダイオード21はコンデンサCと検出点P3の間の整流点P2に接続されている。
なお、センサ回路20は、センサ電極11の自己静電容量に応じた判定電圧信号Sを出力するものであれば任意の回路構成が可能である。また、抵抗Rの抵抗値を低くすることにより、ノイズの影響を受けにくくすることができる。
【0020】
本例のように、LCR共振回路10のコンデンサCの下流側で且つ抵抗Rの上流側の検出点P3の電気信号をセンサ回路20に入力することにより、入力インピーダンスの高い安価な検出回路を用いてセンサ電極11の自己静電容量を検出することができる。具体的には、本例の近接センサ1では、LCR共振回路10に流れる電流を電圧に変換してセンサ回路20に入力しており、センサ回路20はセンサ電極11に直接、接続されていない。このため、センサ回路20によるセンサ電極11の自己静電容量に対する影響が少なく、環境温度変化等によってセンサ回路20の入力インピーダンスが多少変化しても、センサ電極11の自己静電容量を検出することができる。
【0021】
マイコン30は、ADコンバータ31、制御部32、高周波信号生成部33を有する。ADコンバータ31は、センサ回路20から入力された判定電圧信号SをA/D変換し、判定信号Sとして制御部32に出力する。制御部32は、詳しくは後述するが、高周波信号生成部33に制御信号Sを出力する他、判定信号S(言い換えれば判定電圧信号S)に基づき人の足部がセンサ電極11に近接したと判断した場合には人の検出信号Sを出力する。発振手段としての高周波信号生成部33は、詳しくは後述するが、制御部32から入力される制御信号Sに基づき、所定の周波数および所定のデューティ比の高周波信号SをLCR共振回路10に出力する。
【0022】
本例では高周波信号Sとして、矩形波状の高周波信号を用いている。高周波信号Sの周波数は、特に限定されるものではないが、本例のように近接センサ1をリアバンパ101内に設置してユーザの足部を検出する用途では、検出領域や検出感度を考慮すると200kHz以上1000kHz以下が好ましい。なお、高周波信号Sとしては、矩形波に限らず正弦波や三角波等であってもよい。
【0023】
LCR共振回路10に入力された高周波信号Sは、コイルLとコンデンサC(およびセンサ電極11の自己静電容量)により歪まされ、立上がりおよび立下がりが遅れた鋸歯状波に近い波形となり、ダイオード21により半波整流される。そして、検出点P3における電気信号は、ローパスフィルタを構成する固定抵抗22とコンデンサ23によって平滑化された後、バッファ回路24を介して直流に近い判定電圧信号Sが出力される。
【0024】
図3は、ある一定の周囲環境下において、LCR共振回路10に入力される高周波信号Sの周波数f(横軸)と、判定電圧信号S(縦軸)との関係を示している。図3において、S11は物体がセンサ電極11に近接していないときのグラフであり、S21は人の足部がセンサ電極11に近接したときのグラフである。
図3に示されるように、人の足部がセンサ電極11に近接したときの共振周波数fhumは、物体がセンサ電極11に近接していないときの共振周波数fresよりも低い。これは、人の足部がセンサ電極11に近接すると、センサ電極11の自己静電容量が増えることによる。
本例の近接センサ1では、ある一定の周囲環境下において、fresは約450kHz、fhumは約445kHzであるが、周囲環境が変わってもfresとfhumの差は約5kHzとほぼ一定である。
また、物体がセンサ電極11に近接していないときのピーク電圧(図3の点P11の電圧)と、人の足部がセンサ電極11に近接したときのピーク電圧(図3の点P21の電圧)は、周囲環境が変わってもほぼ同じVresである。
【0025】
次に、本発明における人の足部の検出方法の一例を簡単に説明する。
まず、物体がセンサ電極11に近接していないときの共振周波数fresよりも5kHz低い周波数を検出周波数fに設定する。つまり、この例では人の足部がセンサ電極11に近接したときの共振周波数fhumを検出周波数fに設定している。
【0026】
また、物体がセンサ電極11に近接していないときに共振周波数fresの高周波信号SをLCR共振回路10に入力した際の判定電圧信号(図3の点P11の電圧)をVres、物体がセンサ電極11に近接していないときに検出周波数f(fhum)の高周波信号をLCR共振回路10に入力した際の判定電圧信号(図3の点PB1の電圧)をVとしたとき、
<Vth1<Vres
の関係を満足する第1閾値Vth1が設定される。
【0027】
検出を行う際は、共振周波数fresに基づいて決定された検出周波数fの高周波信号SをLCR共振回路10に印加する。だだし、気候や周囲の環境の変化に応じて、fresが変化するため、後述の較正ステップと検出ステップの実行を制御するステップ制御を行うことによって、fresを常に最新のものに更新し、この最新のfresに基づいて検出周波数fを再設定している。
【0028】
本例の近接センサ1は、図4に示すように、ユーザ40が足部41をリアバンパー101の下方に差し入れると、ある一定の周囲環境下において判定電圧信号SがVからVresに変化し、第1閾値Vth1以上になる。この状態が検出されると、制御部32は人の検出信号Sを出力し、バックドア102の開閉制御が行われる。
【0029】
次に、本例の近接センサ1による動作を図5図6のフローチャートを用いて説明する。
【0030】
(ステップS0)
まず、電子キーを携帯したユーザが自動車100に近づくと、車載の認証システムと電子キーとの間で無線通信が行われ、当該自動車の正規の電子キーであることの認証が行われる。なお、この認証は、スマートエントリーシステムにおける公知の認証方法で行うことができる。
正規の電子キーであることの認証が行われると、近接センサ1が駆動する。
【0031】
(ステップS1)
制御部32はセンサーシステムの初期化を実行し、内部レジスタやメモリのクリアを実行するとともに、通常フラグをOFFにし、較正フラグをONにする。
なお、通常フラグがONの場合は、通常時の制御として較正ステップと検出ステップを交互に実行するステップ制御が行われ、通常フラグがOFFの場合は、特別時の制御として較正ステップだけを連続して行う制御が行われる。
【0032】
(ステップS2~S3)
制御部32は、高周波信号生成部33から出力する高周波信号Sの周波数を所定のデューティ比で発振させる。また、センサ回路20から入力された最新の判定電圧信号SをADコンバータ31がA/D変換すると、ADコンバータ31から最新の判定信号Sが制御部32に出力される。
【0033】
(ステップS4)
通常フラグがONの場合はステップS5に進み、通常フラグがOFFの場合はステップS6に進む。なお、近接センサ1の駆動初期は、ステップS1にて通常フラグがOFFになっているため常にステップS6に進む。
【0034】
(ステップS5)
最新の判定電圧信号Sが所定の範囲内にない場合は、通常時ではないと判断してステップS6に進む。一方、最新の判定信号Sが所定の範囲内にある場合は、ステップS8に進む。なお、本例では、第2閾値Vth2をV+0.8V、第3閾値Vth3をV-0.1Vに設定し、判定電圧信号SがV-0.1V~V+0.8Vの範囲内にない場合、通常時ではないと判断している。
【0035】
(ステップS6)
通常時でないときは、特別時の較正を行う。
まず、制御部32は、高周波信号生成部33からLCR共振回路10に入力する高周波信号Sの周波数掃引を行うように制御する。本例では、この周波数掃引はスタート周波数200kHzからストップ周波数600kHzまで指定された掃引速度で行われる。
上記の周波数掃引を行うことで、図3に示したグラフS11が得られ、物体がセンサ電極11に近接していないときのLCR共振回路10の共振周波数fresと、共振周波数fresの高周波信号をLCR共振回路10に入力した際の電圧信号Vres(点P11の電圧)が検出される。なお、本例の近接センサ1では、ある一定の環境下において共振周波数fresは261kHz、電圧信号Vresは2.72Vであった。
次に制御部32は、図3に示した検出周波数fと、第1閾値Vth1を設定する。
本例では、検出周波数fは、共振周波数fresよりも5kHz低く設定している。また、第1閾値Vth1は、図3の電圧信号Vres(もしくはV)に基づいて設定されるが、本例では、物体がセンサ電極11に近接していない状態において検出周波数fの高周波信号をLCR共振回路10に入力した際の電圧信号Vに、電圧信号Vresの12%を加算した値としている。
【0036】
(ステップS7)
特別時の較正を行った後は、通常フラグをONにし、ステップS2に戻る。
【0037】
(ステップS8)
較正フラグを参照し、この較正フラグがONの場合はステップS100に進み、較正フラグがOFFの場合はステップS10に進む。なお、近接センサ1の駆動初期は、ステップS1にて較正フラグがONになっているため、常にステップS100に進む。
【0038】
(ステップS100)
通常時の較正ステップを、図6のフローチャートに沿って実行する。この通常時の較正ステップは、物体がセンサ電極11に近接していないときのグラフS11図3参照)が周囲の環境等によって変化しても、人体の近接を正しく検出できるようにするために行われるものである。
なお、以下の説明では、
n-1回目の較正ステップにおける、高周波信号Sの周波数をfn-1、判定電圧信号をVn-1
n回目の較正ステップにおける、高周波信号Sの周波数をf、判定電圧信号をV
n+1回目の較正ステップにおける、高周波信号Sの周波数をfn+1、判定電圧信号をVn+1
n+2回目の較正ステップにおける、高周波信号Sの周波数をfn+2、
としている。
【0039】
(ステップS101)
>Vn-1の場合はステップS101に進み、それ以外はステップS106に進む。
【0040】
(ステップS102~S105)
信号上昇中のフラグをONにした後、f>fn-1の場合は高周波信号Sの周波数を僅かに上げ(S104)、f<fn-1の場合は高周波信号Sの周波数を僅かに下げ(S105)、その後、ステップS9に進む。
【0041】
(ステップS106)
<Vn-1の場合はステップS107に進み、それ以外(すなわちV≒Vn-1の場合)はステップS111に進む。
【0042】
(ステップS107~S110)
信号上昇中のフラグをOFFにした後、f>fn-1の場合は高周波信号Sの周波数を僅かに下げ(S109)、f<fn-1の場合は高周波信号Sの周波数を僅かに上げ(S110)、その後、ステップS9に進む。
【0043】
(ステップS111)
≒Vn-1の場合において、信号上昇中のフラグがONのときはステップS112に進み、信号上昇中のフラグがOFFのときはステップS113に進む。なお、本例では、VとVn-1との差が0.08V以下の場合、V≒Vn-1と見なしている。
【0044】
(ステップS112)
信号上昇中のフラグがONの状態でV≒Vn-1の場合には、共振周波数fresが検出されたものと判断し、検出周波数fと第1閾値Vth1が設定される。
【0045】
(ステップS113~S115)
>fn-1の場合は高周波信号Sの周波数を僅かに上げ(S114)、f<fn-1の場合は高周波信号Sの周波数を僅かに下げ(S115)、その後、ステップS9に進む。
【0046】
上記ステップS101からS115の通常時の較正ステップでは、以下のことを行っている。
すなわち、ステップS101からS105では、V>Vn-1かつf>fn-1の場合には、fn+1>fに設定している。
これは、図7に示すように、高周波信号Sの周波数をfn-1からfに上げた際に、判定電圧信号がVn-1からVに上昇している場合は、fn-1よりもfのほうが現環境下における共振周波数fresに近づいているため、この共振周波数fresを短時間で検出するために、次回の較正ステップにおける高周波信号Sの周波数fn+1をfよりも若干高く設定するものである。
また、ステップS101からS105では、V>Vn-1かつf<fn-1の場合には、fn+1<fに設定している。
これは、図8に示すように、高周波信号Sの周波数をfn-1からfに下げた際に、判定電圧信号がVn-1からVに上昇している場合は、fn-1よりもfのほうが現環境下における共振周波数fresに近づいているため、この共振周波数fresを短時間で検出するために、次回の較正ステップにおける高周波信号Sの周波数fn+1をfよりも若干低く設定するものである。
【0047】
また、ステップS106からS110では、V<Vn-1かつf>fn-1の場合には、fn+1<fに設定している。
これは、図9に示すように、高周波信号Sの周波数をfn-1からfに上げた際に、判定電圧信号がVn-1からVに低下している場合は、fn-1よりもfのほうが現環境下における共振周波数fresから遠のいているため、この共振周波数fresを短時間で検出するために、次回の較正ステップにおける高周波信号Sの周波数fn+1をfよりも若干低く設定するものである。
また、ステップS106からS110では、V<Vn-1かつf<fn-1の場合には、fn+1>fに設定している。
これは、図10に示すように、高周波信号Sの周波数をfn-1からfに下げた際に、判定電圧信号がVn-1からVに低下している場合は、fn-1よりもfのほうが現環境下における共振周波数fresから遠のいているため、この共振周波数fresを短時間で検出するために、次回の較正ステップにおける高周波信号Sの周波数fn+1をfよりも若干高く設定するものである。
【0048】
また、ステップS111からS112では、V>Vn-1かつVn+1≒Vの場合には、fとfn+1の近傍に共振周波数fresがあるとみなしている。
これは、図11図12に示すように、判定電圧信号がVn-1からVに上昇した直後の較正ステップにおいて、Vn+1とVがほぼ同じレベルである場合には、fとfn+1がほぼ共振周波数fresであるとみなすことができるためである。なお、本例では、図11のように高周波信号Sの周波数を上げながら共振周波数を検出した場合も、図12のように高周波信号Sの周波数を下げながら共振周波数を検出した場合も、いずれもfn+1を共振周波数fresとしている。
また、共振周波数fresが検出されると、本例では共振周波数fresよりも5kHz低い周波数を検出周波数fに設定している。
また、物体がセンサ電極11に近接していないときに共振周波数fresの高周波信号をセンサ回路10に入力した際の判定電圧信号Vn+1図11の点Pn+1の電圧)と、物体がセンサ電極11に近接していないときに検出周波数fの高周波信号をセンサ回路10に入力した際の判定電圧信号V図11の点PB1の電圧)に基づいて、第1閾値Vth1を設定している。
【0049】
また、ステップS113からS115では、V>Vn-1かつVn+1≒Vかつfn+1>fの場合には、fn+2>fn+1に設定している。
また、ステップS113からS115では、V>Vn-1かつVn+1≒Vかつfn+1<fの場合には、fn+2<fn+1に設定している。
これらの設定は、図11のように高周波信号Sの周波数を上げながら共振周波数fresを見つける場合と、図12のように高周波信号Sの周波数を下げながら共振周波数fresを見つける場合のいずれの場合にも、常に図3の点P11を乗り越えるように較正ステップを実行するためである。このように較正ステップを実行することにより、極めて短い時間で共振周波数fresを最新のものに更新することができる。
【0050】
(ステップS9)
通常時の較正ステップを図6のフローチャートに沿って実行した後、較正フラグをOFFにする。
【0051】
(ステップS10)
ステップ8において較正フラグがOFFであれば、検出ステップを実行し、足部の検出判定を行う。この検出判定では、ステップS112で更新された検出周波数fと第1閾値Vth1が用いられる。具体的には、LCR共振回路10に検出周波数fの高周波信号Sを入力した状態で、判定電圧信号Sが第1閾値Vth1以上となったことを検出すると、センサ電極11への人体(足部)の近接を検出し、制御部32は人の検出信号Sを出力し、バックドア102の開閉制御が行われる。
【0052】
(ステップS11)
足部の検出判定を行った後、較正フラグをONにする。
【0053】
以上のように、本例の静電容量式近接センサ1では、ステップS100(ステップS101~S115)の通常時の較正ステップを行った後は、較正フラグがOFFとなる。また、ステップS10の検出ステップを行った後は、較正フラグがONとなる。そして、制御部32は、ステップS100の通常時の較正ステップとステップS10の検出ステップの実行を制御するステップ制御を行う。このステップ制御は、突発的な大きな環境変化がない場合(ステップS5の判定がYesの場合)には、ステップS8においてステップS100とステップS10とに交互に振り分け、通常ルーチンとして通常時の較正ステップと検出ステップを交互に繰り返し実行するように制御される。
【0054】
また、本例の静電容量式近接センサ1では、較正ステップの各々において、物体がセンサ電極11に近接していないときのLCR共振回路10の共振周波数fresを検出するために、高周波信号Sの周波数が前述した所定の規則に従って変更される。
そして、共振周波数fresが検出された場合、共振周波数fresに基づいて検出周波数fが設定され、共振周波数fresの高周波信号SをLCR共振回路10に入力した際の判定電圧信号Vresに基づいて第1閾値Vth1が設定される。
また、検出ステップでは、LCR共振回路10に検出周波数fの高周波信号Sを入力した状態検出された判定電圧信号Sと、第1閾値Vth1との比較結果に基づいて、センサ電極11への人体の近接を検出する。
このため、突発的な大きな環境変化がない場合には、周囲環境が変化しても常に最新の検出周波数で検出を行うことができ、誤検出や検出漏れを防止して、人体(足部)の近接を高い信頼性をもって検出することができる。
【0055】
また、本例の静電容量式近接センサ1では、
>Vn-1かつf>fn-1の場合は、fn+1>fに設定され、
>Vn-1かつf<fn-1の場合は、fn+1<fに設定され、
<Vn-1かつf>fn-1の場合は、fn+1<fに設定され、
<Vn-1かつf<fn-1の場合は、fn+1>fに設定される。
このため、共振周波数fresを最短で更新することができ、人体(足部)の近接を最短で検出して検出漏れを抑制することができる。
【0056】
また、本例の静電容量式近接センサ1では、較正ステップにおいて、
>Vn-1かつVn+1≒Vの場合に、
共振周波数fresがfとfn+1の近傍にあるとみなしている。
このため、共振周波数fresを最短かつ極めて高い精度で更新することができ、人体(足部)の近接を高い信頼性をもって最短で検出することができる。
【0057】
また、本例の静電容量式近接センサ1では、
>Vn-1かつVn+1≒Vかつfn+1>fの場合は、fn+2>fn+1に設定され、
>Vn-1かつVn+1≒Vかつfn+1<fの場合は、fn+2<fn+1に設定される。
このため、図11のように高周波信号Sの周波数を上げながら共振周波数fresを見つける場合と、図12のように高周波信号Sの周波数を下げながら共振周波数fresを見つける場合のいずれの場合にも、最短時間で共振周波数fresを最新のものに更新することができる。
【0058】
また、本例の静電容量式近接センサ1では、ステップ制御は、通常ルーチンとは別に、特別ルーチンとして較正ステップを複数回連続して実行する制御(ステップS6)を備えている。具体的には、制御部32は、第2閾値Vth2(本例ではV+0.8V)と、この第2閾値Vth2よりも小さい第3閾値Vth3(本例ではV-0.8V)を設定し、V>Vth2またはV<Vth3の場合に、特別ルーチンが実行される。
これにより、例えば車両の駐車場所の環境が大きく変化して共振周波数fresが大きく変化した場合にも、最短時間で共振周波数fresを最新のものに更新することができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態例を説明したが、本発明は上記の実施形態例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態例を適宜に変形できることは言うまでもない。
【0060】
例えば、上記の実施形態例のステップ112では、V>Vn-1かつVn+1≒Vの場合にfn+1をfresとしているが、fresはfとfn+1の近傍にあるとみなすことができるため、fをfresとしたり、fとfn+1の中間の周波数をfresとしてもよい。
【0061】
また、上記の実施形態例では検出周波数fを共振周波数fresよりも低い周波数に設定しているが、共振周波数fresに基づいて検出周波数fを設定するのであれば、共振周波数fresよりも高い周波数に設定してもよい。なお、検出周波数fの設定の仕方に応じて第1閾値Vth1の設定の仕方も変更される。但し、上記の実施形態例のように検出周波数fを共振周波数fresよりも低い周波数に設定すれば、人体と水の分別判定を行うことも可能である。
【0062】
また、上記の実施形態例では静電容量式近接センサを車両のリアバンパー内に装着した場合を説明したが、本発明の静電容量式近接センサは車両のスライドドアなどにも適用できるものである。
【符号の説明】
【0063】
1 静電容量式近接センサ
10 LCR共振回路
11 センサ電極
L コイル
C コンデンサ
R 抵抗
20 センサ回路
21 ダイオード
22 固定抵抗
23 コンデンサ
24 増幅器(バッファ回路)
30 マイコン(マイクロコンピュータ)
31 ADコンバータ
32 制御部
33 高周波信号生成部
40 ユーザ
41 足部
100 自動車
101 リアバンパー
102 バックドア
P1 センサ電極接続点
P2 整流点
P3 検出点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12