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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】貼り合わせ仮固定用光硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 4/00 20060101AFI20230320BHJP
   C08F 20/58 20060101ALI20230320BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20230320BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20230320BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20230320BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
C09J4/00
C08F20/58
C08F2/44 Z
C08F2/38
C09J11/06
C09J11/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019117271
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021004276
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】青野 智史
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-052885(JP,A)
【文献】特開平10-130309(JP,A)
【文献】特開平05-209160(JP,A)
【文献】国際公開第2013/039226(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157129(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合反応性モノマー(A)、連鎖移動剤(B)及び光重合開始剤(C)を含有し、さらに、水溶性可塑剤(d1)及び/又は水溶性フィラー(d2)を含有する、貼り合せ仮固定用光硬化性樹脂組成物であって、成分(A)が、分子内に1つ以上のOH基を持つラジカル重合反応性モノマー(A1)を含有し、成分(A)中の成分(A1)の含有量が、80重量%~100重量%である、貼り合せ仮固定用光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
成分(B)が、チオール基を持つ化合物又はα-メチルスチレンダイマーである、請求項記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
光硬化性樹脂組成物中の成分(B)の含有量が0.7~15重量%である、請求項1又は2記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
成分(d2)を含有し、成分(d2)が、第1の水溶性フィラー(d2-1)及び第2の水溶性フィラー(d2-2)の組み合わせであり、ここで、成分(d2-1)及び成分(d2-2)の組み合わせは発泡性を有する、請求項のいずれか一項記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項のいずれか一項記載の光硬化性樹脂組成物であって、光硬化性樹脂組成物は成分(d2)を含有し、第3の水溶性フィラー(d2-3)が溶解した水系溶剤が、光硬化性樹脂組成物の仮固定を解除するための水系溶剤として用いられ、光硬化性樹脂組成物に含まれる成分(d2)の少なくとも一部と前記成分(d2-3)との組み合わせは発泡性を有する、請求項のいずれか一項記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
成分(d2)を含有するが、成分(d1)を含まない、請求項1~5のいずれか一項記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
成分(d1)を含有し、成分(d1)の重量平均分子量が50~500である、請求項1~5のいずれか一項記載の光硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼り合わせ仮固定用光硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性を有するポリマーは、様々な用途で用いられている。ある部材を一時的に何か別の部材に接着させる仮固定は、そのような用途の一つである。仮固定の用途では、目的の加工等の後に仮固定に用いた接着剤を取り除く必要があるため、水での洗浄によって除去できるポリマーが好適とされている。しかし、水溶性ポリマーを仮固定の用途で使用する場合、まず水等の溶剤に溶解させて溶液とし、必要量を塗布した後に一定時間加熱すること等によって溶剤を飛散させる必要がある。
【0003】
一方で、紫外線(UV)硬化系プラスチックは、成形の容易性、軽量等の特徴により、光学関連材料に幅広く用いられている。特許文献1には、部材を加工する際の仮固定材として、疎水性の成分を含む紫外線硬化性樹脂組成物が開示されている。特許文献1では、仮固定材の硬化膜を有する基材を80℃程の高温の水に数十分間浸漬させて、仮固定材の硬化膜を膨潤させてから、剥離することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-100831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたような疎水性の成分を含む紫外線硬化性樹脂組成物は、一度硬化してしまうと分子同士が架橋するため、水への溶解性がほとんど無くなってしまう。そして、特許文献1に開示された仮固定材の除去方法は、時間がかかる上に、熱に弱い部材には使用できない。これに対して、有機溶剤に溶解させて仮固定材を除去する方法は、環境への影響が懸念される。このため、水や、洗剤水溶液、クエン酸等の弱酸性水溶液といった環境負荷の少ない水系溶剤にて簡便に溶解する仮固定剤への開発が待たれている。
【0006】
本発明は、水への高い溶解性をもつ硬化物を与える、貼り合せ仮固定用の光硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に関する。
[1]ラジカル重合反応性モノマー(A)、連鎖移動剤(B)及び光重合開始剤(C)を含有する、貼り合せ仮固定用光硬化性樹脂組成物であって、成分(A)が、分子内に1つ以上のOH基を持つラジカル重合反応性モノマー(A1)を含有することを特徴とする、貼り合せ仮固定用光硬化性樹脂組成物。
[2]さらに、水溶性可塑剤(d1)を含有する、[1]の光硬化性樹脂組成物。
[3]成分(d1)の重量平均分子量が50~500である、[2]の光硬化性樹脂組成物。
[4]さらに、水溶性フィラー(d2)を含有する、[1]~[3]のいずれかの光硬化性樹脂組成物。
[5]さらに、水溶性フィラー(d2)を含有するが、水溶性可塑剤(d1)を含まない、[1]の光硬化性樹脂組成物。
[6]成分(B)が、チオール基を持つ化合物又はα-メチルスチレンダイマーである、[1]~[5]のいずれかの光硬化性樹脂組成物。
[7]光硬化性樹脂組成物中の成分(B)の含有量が0.7~15重量%である、[1]~[6]のいずれかの光硬化性樹脂組成物。
[8]成分(d2)が、第1の水溶性フィラー(d2-1)及び第2の水溶性フィラー(d2-2)の組み合わせであり、ここで、成分(d2-1)及び成分(d2-2)の組み合わせは発泡性を有する、[4]~[7]のいずれかの光硬化性樹脂組成物。
[9][4]~[8]のいずれかの光硬化性樹脂組成物であって、第3の水溶性フィラー(d2-3)が溶解した水系溶剤が、光硬化性樹脂組成物の仮固定を解除するための水系溶剤として用いられ、光硬化性樹脂組成物に含まれる成分(d2)の少なくとも一部と前記成分(d2-3)との組み合わせは発泡性を有する、[4]~[8]のいずれかの光硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水への高い溶解性をもつ硬化物を与える、貼り合せ仮固定用の光硬化性樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[用語の定義]
「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方の意味を有する。
「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくとも一方の意味を有する。
「ラジカル重合反応性モノマー(A)」を「成分(A)」ともいう。「連鎖移動剤(B)」等についても同様である。
【0010】
[貼り合せ仮固定用光硬化性樹脂組成物]
貼り合せ仮固定用光硬化性樹脂組成物(以下、単に「光硬化性樹脂組成物」ともいう)は、ラジカル重合反応性モノマー(A)、連鎖移動剤(B)及び光重合開始剤(C)を含有し、成分(A)が、分子内に1つ以上のOH基を持つラジカル重合反応性モノマー(A1)を含有する。
【0011】
光硬化性樹脂組成物は、ディスペンサーや各種印刷法等によって部材に塗付した後に別の部材と貼り合わせ、UV照射によって瞬時に硬化し固定できる。
光硬化性樹脂組成物は、その硬化物が水への高い溶解性を有することから、水系溶剤を用いた場合において、光硬化性樹脂組成物によって固定された部材同士の剥離性に優れる。特に、低温(例えば、25~70℃)での水洗(水による洗浄、弱アルカリ性や弱酸性、中性の洗剤水溶液による洗浄、又は、クエン酸のような弱酸性水溶液による洗浄)にて、前記固定された部材同士を容易に剥離することができる。
【0012】
<ラジカル重合反応性モノマー(A)>
ラジカル重合反応性モノマー(A)は、ラジカル重合反応性の官能基を有するものであれば特に限定されない。ラジカル重合反応性の官能基は、不飽和二重結合含有基であれば特に限定されないが、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)又は(メタ)アクリロイル基が好ましく、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
【0013】
<<分子内に1つ以上のOH基を持つラジカル重合反応性モノマー(A1)>>
ラジカル重合反応性モノマー(A)は、分子内に1つ以上のOH基を持つラジカル重合反応性モノマー(A1)を含む。成分(A1)中のOH基の数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1が特に好ましい。よって、成分(A1)は、分子内に1~5のOH基を持つラジカル重合反応性モノマーを含むことが好ましく、分子内に1~3のOH基を持つラジカル重合反応性モノマーを含むことがより好ましく、分子内に1つのOH基を持つラジカル重合反応性モノマーを含むことが特に好ましい。
【0014】
成分(A1)としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー、アルキル基が1以上の酸素原子で中断されているヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー、ポリオールのポリ(メタ)アクリレートモノマー(但し、水酸基を含有する)、N-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドモノマー、ヒドロキシ基で置換されたアリール基を有する(メタ)アクリルアミドモノマー等が挙げられる。
【0015】
ここで、アルキル基、アルキル基が1以上の酸素原子で中断されているヒドロキシアルキル基及びヒドロキシアルキル基のアルキル部分の炭素原子総数は、1~18であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、2~4であることが特に好ましい。アリール基の炭素原子数は6~20であることが好ましい。また、アリール基は、フェニル基であることが好ましい。
【0016】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0017】
アルキル基が1以上の酸素原子で中断されているヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
ポリオールのポリ(メタ)アクリレートモノマー(但し、水酸基を含有する)としては、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ポリペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
N-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドモノマーとしては、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0020】
ヒドロキシ基で置換されたアリール基を有する(メタ)アクリルアミドモノマーとしては、N-(2-ヒドロキシフェニル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシフェニル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0021】
分子内に2つ以上のOH基を持つラジカル重合反応性モノマーとしては、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
成分(A1)としては、光硬化性樹脂組成物の硬化物の水への溶解性(水溶性)がより高まる観点から、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー、グリセリンモノ(メタ)アクリレート及びN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドモノマーからなる群より選択される1種以上が好ましい。
成分(A1)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0023】
<<成分(A1)以外のラジカル重合反応性モノマー(A2)>>
成分(A1)以外のラジカル重合反応性モノマー(A2)は、成分(A1)以外のラジカル重合反応性の官能基を有するものであれば特に限定されない。成分(A2)としては、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリルアミド基を有する(メタ)アクリルアミドモノマー等が挙げられる。なお、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーは、(メタ)アクリルアミド基を有する(メタ)アクリレートモノマーを含まない。
【0024】
<<<(メタ)アクリレートモノマー>>>
(メタ)アクリレートモノマーとしては、脂環式(メタ)アクリレートモノマー、芳香族(メタ)アクリレートモノマー、アルキル(メタ)アクリレートモノマー、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルの(メタ)アクリレートモノマー、ヘテロ環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー等が挙げられる。
【0025】
脂環式(メタ)アクリレートモノマーは、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ノルボルネン(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルの(メタ)アクリレートモノマーとしては、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
ヘテロ環構造を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
芳香族(メタ)アクリレートモノマーは、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート、フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、ナフタレン(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
(メタ)アクリレートモノマーは、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルの(メタ)アクリレートモノマー又はヘテロ環構造を有する(メタ)アクリレートモノマーを含むことが好ましい。
【0031】
<<<(メタ)アクリルアミドモノマー>>>
(メタ)アクリルアミドモノマーとしては、例えば、下記式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0032】
【化1】
【0033】
〔式中、
は、水素原子又はメチル基であり、
及びRは、互いに独立して、水素原子、アルキル基、又は、非置換もしくはアルキル基で置換されているアリール基であるか、あるいは、
及びRは、これらが結合するN原子と一緒になって、酸素原子を含むことができる脂環式基(好ましくは、モルホリノ基)を形成する〕
【0034】
アルキル基の炭素原子数及びアリール基は、好ましいものを含め、前記した通りである。また、モルホリノ基は、モルホリンの第二級アミンの部分の水素原子が除去された一価の基をいう。
【0035】
(メタ)アクリルアミドモノマーの具体例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド等の炭素数1~4のアルキル基を有するN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等の炭素数1~4のアルキル基を有するN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N-フェニル(メタ)アクリルアミド、N-(2-メチルフェニル)(メタ)アクリルアミド等の非置換又はアルキル基で置換されたアリール基を有する(メタ)アクリルアミド;4-(メタ)アクリロイルモルホリン等の環状構造を有する(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0036】
成分(A2)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0037】
<連鎖移動剤(B)>
連鎖移動剤(B)は、連鎖移動反応を起こす成分である。ここで、連鎖移動反応とは、ラジカル重合において、成長ラジカルが重合系中の他の化学種と反応し、成長の停止、ラジカルの移動及び成長の再開始を伴う反応をいう。成分(B)としては、α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;四塩化炭素、クロロホルム等のハロゲン類;及び、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ノルマルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、チオグリセロール等のチオール基を持つ化合物からなる群から選ばれる一種以上が挙げられ、チオール基を持つ化合物又はα-メチルスチレンダイマーが好ましい。
成分(B)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0038】
<光重合開始剤(C)>
光重合開始剤(C)は、エネルギー線の照射によりラジカルを発生する化合物であれば特に限定されない。成分(C)は、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、ベンゾフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン-1,2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-メチルチオ]フェニル]-2-モルホリノプロパンー1-オン、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、オリゴ2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノール、オリゴ2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノール、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、イソプロピルチオキサントン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、[4-(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタン、2,4-ジエチルチオキサントン、2ークロロチオキサントン、ベンゾフェノン、エチルアントラキノン、ベンゾフェノンアンモニウム塩、チオキサントンアンモニウム塩、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、1,4ジベンゾイルベンゼン、10-ブチル-2-クロロアクリドン、2,2’ビス(o-クロロフェニル)4,5,4’,5’-テトラキス(3,4,5-トリメトキシフェニル)1,2’-ビイミダゾール、2,2’ビス(o-クロロフェニル)4,5,4’,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、4-ベンゾイルジフェニルエーテル、アクリル化ベンゾフェノン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、o-メチルベンゾイルベンゾエート、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエチルエステル、活性ターシャリアミン、カルバゾール・フェノン系光重合開始剤、アクリジン系光重合開始剤、トリアジン系光重合開始剤、ベンゾイル系光重合開始剤等が挙げられる。
【0039】
成分(C)の市販品としては、DKSHジャパン製のKIP-150、BASF製の、Irgacure184、Irgacure819、Irgacure127、Irgacure1173等のIrgacure(登録商標)シリーズ、Darocur1173等のDarocur(登録商標)シリーズ、Lucirin TPO等のLucirin(登録商標)シリーズ、ESACUR日本シイベルヘグナー社のESACURE 1001M等が挙げられる。成分(A)のラジカル反応において未硬化の要因となる酸素阻害を受けにくくするという観点、さらには成分(A)及び水への溶解性の観点からIrgacure1173(イルガキュア1173)やIrgacure184(イルガキュア184)が好ましい。
成分(C)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0040】
<更なる成分(D)>
光硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、更なる成分(D)を含むことができる。成分(D)として、水溶性可塑剤(d1)、水溶性フィラー(d2)、無機物を含むチキソ付与剤(d3)、水溶性高分子(d4)、非水溶性フィラー、シランカップリング剤、界面活性剤、スリップ剤、重合禁止剤、光増感剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤、溶剤、成分(A)以外のラジカル重合反応性成分等が挙げられ、水溶性可塑剤(d1)、水溶性フィラー(d2)が好ましい。光硬化性樹脂組成物が水溶性可塑剤(d1)、水溶性フィラー(d2)及び/又は無機物を含むチキソ付与剤(d3)を含む場合、剥離性がより高まる。
成分(D)は、それぞれ、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0041】
<<水溶性可塑剤(d1)>>
水溶性可塑剤(d1)は、光硬化性樹脂組成物及びその硬化物の硬さ等の性質をコントロールする際に添加される成分である。水溶性可塑剤(d1)とは、高分子ではなく、水及び光硬化性樹脂組成物のいずれにも溶解する、ラジカル反応性のない材料をいう。成分(d1)としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体等のポリオキシアルキレン、ポリビニルアルコール;ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;澱粉分解物、ヒドロキシプロピルエーテル化澱粉、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、キサンタンガム等の多糖類;等が挙げられる。
【0042】
成分(d1)の重量平均分子量は、1,000未満であり、50~500であることが好ましく、50~300であることが特に好ましい。成分(d1)の重量平均分子量が前記範囲であると、光硬化性樹脂組成物の粘度を効率的に増加させることができ、且つUV硬化後の光硬化性樹脂組成物の水溶性も高い。重量平均分子量の測定方法としては、オリゴマーやポリマー等の分子量が比較的高い成分については、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果を、標準ポリスチレンの検量線を用いて換算する手法が一般に知られている。また、モノマーは分子量分布を有さないため、構造式から求めることができる。
成分(d1)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0043】
<<水溶性フィラー(d2)>>
水溶性フィラー(d2)とは、光硬化性樹脂組成物には溶解しないが、水に溶解する、フィラーをいう。水溶性フィラー(d2)は、光硬化性樹脂組成物及びその硬化物の硬さ等の性質をコントロールする際に添加される成分である。水溶性フィラー(d2)としては、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム等の炭酸塩化合物系フィラー;過炭酸ナトリウム等の過炭酸塩化合物系フィラー;塩化ナトリウム、塩化アンモニウム等のハロゲン化物系フィラー;ポリリン酸アミド、ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミン等のリン酸塩化合物系フィラー;マグネシウム粉末、アルミニウム粉末等の軽金属系フィラー;水素化ホウ素ナトリウム、水素化ナトリウム等の水素化物系フィラー;クエン酸、酒石酸、ビタミンC(即ち、L-アスコルビン酸)等の有機酸系フィラー;等が挙げられる。
【0044】
水系溶剤への溶解性がより高まる点から、成分(d2)は、炭酸塩化合物系フィラー、ハロゲン化物系フィラー及び有機酸系フィラーであることが好ましい。
成分(d2)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0045】
成分(d2)は、2種以上の水溶性フィラーの組み合わせであり、前記水溶性フィラーの組み合わせは発泡性を有することが好ましい。ここで、発泡性とは、水と接触することにより、発泡する性質を意味する。このような発泡性を有する発泡剤となる成分(d2)は、第1の水溶性フィラー(d2-1)及び第2の水溶性フィラー(d2-2)からなる。ここで、成分(d2-1)及び成分(d2-2)の組み合わせは発泡性を有するが、成分(d2-1)及び成分(d2-2)の一方のみでは、発泡性を有さない。
【0046】
光硬化性樹脂組成物が発泡剤を含む場合、その硬化物を水系溶剤により剥離する際に、成分(d2-1)及び成分(d2-2)が水と接触することにより発泡する。これにより、光硬化性樹脂組成物の硬化物が崩壊しやすくなり、剥離効率がより高まる。このような成分(d2-1)及び成分(d2-2)の組み合わせとして、炭酸塩化合物系フィラー及び有機酸系フィラーの組み合わせ、過炭酸ナトリウム及び有機酸系フィラーの組み合わせ等が挙げられる。なお、成分(d2-1)及び成分(d2-2)は、成分(d2-1)及び成分(d2-2)の組み合わせが発泡性を有する限り、さらなる水溶性フィラーを含んでいてもよい。
【0047】
さらに、発泡剤を構成する水溶性フィラーの一部が水系溶剤に存在し、前記発泡剤を構成する水溶性フィラーの少なくとも残部が光硬化性樹脂組成物に存在していてもよい。即ち、成分(d2-1)(又は、成分(d2-2))に相当する水溶性フィラーが光硬化性樹脂組成物に存在し、成分(d2-2)(又は、成分(d2-1))に相当する成分が水系溶剤に存在していてもよい。このような場合でも、光硬化性樹脂組成物の硬化物を水系溶剤により剥離する際に、成分(d2-1)及び成分(d2-2)が接触するため、上記した理由と同様にして、剥離効率がより高まる。よって、任意の水溶性フィラー(d2)を含む光硬化性樹脂組成物は、第3の水溶性フィラー(d2-3)が溶解した水系溶剤が、光硬化性樹脂組成物の仮固定を解除するための水系溶剤として用いられ、前記成分(d2)の少なくとも一部と前記成分(d2-3)との組合せは発泡性を有する、光硬化性樹脂組成物であることも好ましい。
【0048】
ここで、光硬化性樹脂組成物に含まれる任意の水溶性フィラー(d2)の少なくとも一部と水系溶剤に含まれる第3の水溶性フィラー(d2-3)との組合せは発泡性を有する。前記「任意の水溶性フィラー(d2)」は、成分(d2-1)、又は、成分(d2-1)及び成分(d2-2)の組み合わせであってもよい。なお、前記「任意の水溶性フィラー(d2)の少なくとも一部」のみ、又は、成分(d2-3)のみでは、発泡性を有さない。また、成分(d2-3)は、前記任意の成分(d2)の少なくとも一部との組み合わせが発泡性を有する限り特に限定されず、成分(d2-1)又は成分(d2-2)であってもよい。このような任意の成分(d2)と成分(d2-3)との組み合わせの具体例として、任意の成分(d2)が、炭酸塩化合物系フィラー、又は、炭酸塩化合物系フィラーと有機酸系フィラーとの組み合わせであり、成分(d2-3)が、炭酸塩化合物又は有機酸系フィラーが挙げられる。
【0049】
<<無機物を含むチキソ付与剤(d3)>>
無機物を含むチキソ付与剤(d3)は、少量の添加で増粘又はチキソ化効果の高いものであれば特に限定されない。成分(d3)に含まれる無機物としては、フュームドシリカ、炭酸カルシウム、カーボンブラック、カオリン、クレー、活性白土、ケイ砂、ケイ石、ケイ藻土、無水ケイ酸アルミニウム、含水ケイ酸マグネシウム、タルク、パーライト、ホワイトカーボン、マイカ微粉末、ベントナイト等が挙げられる。また、成分(d3)は、無機物のみからなっていてもよく、脂肪酸及び/又は樹脂酸で表面処理された無機物であってもよい。
成分(d3)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0050】
<<水溶性高分子(d4)>>
水溶性高分子(d4)は、ラジカル重合反応性の官能基を有さず、水及び光硬化性樹脂組成物のいずれにも溶解する性質を有する高分子であれば特に限定されない。成分(d4)としては、水溶性可塑剤(d1)で例示した成分が挙げられる。
【0051】
水溶性高分子(d4)の重量平均分子量は、1,000以上であり、1,000~100,000であることが好ましく、1,000~50,000以下であることがより好ましく、1,000~20,000以下であることが特に好ましい。成分(d4)の重量平均分子量が前記範囲であると、光硬化性樹脂組成物の粘度を効率的に増加させることができる。
成分(d4)は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0052】
<<成分(A)以外のラジカル重合反応性成分>>
成分(A)以外のラジカル重合反応性成分としては、ラジカル重合反応性の官能基を有するものであれば特に限定されない。このような成分(A)以外のラジカル重合反応性成分としては、(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられ、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。
【0053】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、脂肪族系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系、ポリエステル系又はこれらの組合せのポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。
【0054】
エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーは、エポキシ樹脂中の全てのエポキシ基が(メタ)アクリル酸と反応しているオリゴマーである。エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーは、エポキシ樹脂中の一部のエポキシ基が(メタ)アクリル酸と反応しているオリゴマー、すなわち、樹脂中にエポキシ基と(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーを含んでいてもよい。ここで、エポキシ樹脂として、芳香族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂及びその他のエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0055】
成分(A)以外のラジカル重合反応性成分の重量平均分子量は、特に限定されないが、1,000超であることが好ましく、3,000~100,000であることがより好ましく、5,000~50,000であることが特に好ましい。即ち、成分(A)の重量平均分子量は、特に限定されないが、1,000以下であることが好ましい。
【0056】
上記した成分以外の更なる成分は、光硬化性樹脂組成物で通常用いられている成分であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択できる。
【0057】
<<成分(D)の好ましい態様>>
光硬化性樹脂組成物は、水溶性可塑剤(d1)及び/又は水溶性フィラー(d2)を含むことが好ましい。また、光硬化性樹脂組成物は、水溶性フィラー(d2)を含む場合、水溶性可塑剤(d1)を含まないものであってもよい。
【0058】
(組成及び特性等)
<粘度>
光硬化性樹脂組成物の粘度は、特に限定されないが、25℃で、100~100,000mPa・sであることが好ましい。光硬化性樹脂組成物の粘度が、前記範囲であることにより、ディスペンサーや各種印刷法等によってより簡便に塗付できる場合がある。粘度は、E型粘度計を用い、大気圧下、25℃で、適切なコーンプレートと回転速度を選定して測定できる。
【0059】
<組成>
光硬化性樹脂組成物において、成分(A)中、成分(A1)の含有量は、30~100重量%である。UV硬化性がより優れる観点から、成分(A)中の成分(A1)の含有量は、35~100重量%であることが好ましく、40~100重量%であることがより好ましく、80重量%~100重量%がさらに好ましく、100重量%が特に好ましい。
【0060】
成分(A)は、光硬化性樹脂組成物の主剤として、光硬化性樹脂組成物中、52重量%以上であることが好ましく、55重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることがさらに好ましく、80重量%以上であることが特に好ましい。
【0061】
成分(B)は、エネルギー線硬化性及びUV硬化後の水溶性等の観点から、光硬化性樹脂組成物中、0.7~15重量%であることが好ましく、0.9~10重量%であることがより好ましく、1.0~7.0重量%であることが特に好ましい。
【0062】
成分(C)は、エネルギー線硬化性及びUV硬化後の水溶性等の観点から、光硬化性樹脂組成物中、0.1~10重量%であることが好ましく、0.5~8.0重量%であることがより好ましく、1.0~7.0重量%であることが特に好ましい。
【0063】
光硬化性樹脂組成物が成分(d1)を含む場合、成分(d1)の含有量は、成分(A)及び成分(d1)の合計100重量部に対して、50重量部未満であることが好ましく、1~40重量部であることがより好ましく、1~35重量部であることが特に好ましい。
【0064】
光硬化性樹脂組成物が成分(d2)を含む場合、成分(d2)の含有量は、成分(A)の100重量部に対して、70重量部未満であることが好ましく、1~60重量部であることがより好ましく、5~50重量部であることが特に好ましい。
【0065】
光硬化性樹脂組成物が成分(d1)及び(d2)以外の成分(D)を含む場合、成分(d1)及び(d2)以外の成分(D)の含有量は、成分(A)並びに成分(d1)及び(d2)以外の成分(D)の合計100重量部に対して、50重量部未満であることが好ましく、1~40重量部であることがより好ましく、1~20重量部であることが特に好ましい。
【0066】
(光硬化性樹脂組成物の製造方法)
光硬化性樹脂組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び任意成分である更なる成分(成分(D)等)を混合する工程を含む製造方法により得られる。
【0067】
[用途]
光硬化性樹脂組成物は、仮固定材として用いることができる。光硬化性樹脂組成物は、水晶振動子、ガラスレンズ、プラスチックレンズ及び光ディスクの加工における仮固定に適用可能である。
【0068】
(仮固定材)
仮固定とは、一方の部材をもう一方の部材に、光硬化性樹脂組成物の硬化物を介して、一時的に接着させることをいう。光硬化性樹脂組成物の硬化物は、後に除去されて、これにより、一方の部材ともう一方の部材との光硬化性樹脂組成物の硬化物による接着性が失われ、仮固定が解除される。これにより、仮固定の目的を達成する。光硬化性樹脂組成物の硬化物は、水系溶剤により除去されることが好ましい。
【0069】
<仮固定方法>
光硬化性樹脂組成物を用いた部材の仮固定方法は、光硬化性樹脂組成物を用いて基材を貼り合わせる工程と、光硬化性樹脂組成物を硬化させて基材を接着して、仮固定する工程と、仮固定した基材を加工する工程と、加工した基材を水系溶剤と接触させて、硬化した光硬化性樹脂組成物を除去する工程とを含む。
【0070】
また、光硬化性樹脂組成物を用いた加工体の製造方法としては、下記工程(A)~(D)を含む方法が挙げられる。
(A)(a1)一方の基材に、光硬化性樹脂組成物を適用して、光硬化性樹脂組成物層を形成する工程と、(a2)光硬化性樹脂組成物層の上にもう一方の基材を貼り合わせて、積層体を得る工程と、
(B)工程(A)で得られる積層体にエネルギー線を照射して、接着体を得る工程と、
(C)接着体を加工して、粗加工体を得る工程と、
(D)粗加工体から、光硬化性樹脂組成物の硬化物を除去して、加工体を得る方法を含む。
【0071】
工程(A)は、工程(a1)及び工程(b1)である。工程(a1)は、一方の基材に、光硬化性樹脂組成物を適用して、光硬化性樹脂組成物層を形成する工程である。基材の材質は、特に制限はないが、紫外線を透過できる材料からなる基材が好ましい。このような紫外線を透過できる材料としては、水晶、ガラス、プラスチック等が挙げられる。
【0072】
光硬化性樹脂組成物を基材に適用する方法は、特に限定されず、刷毛塗り法、スクリーン印刷法、グラビア印刷、スプレー法、ディップ法、バーコーター、ロールコーター、スピンコーター、ダイコーター、ディスペンサー、その他の公知の塗布手段が挙げられる。光硬化性樹脂組成物を適用して形成される光硬化性樹脂組成物層の厚みは、特に限定されないが、10~1,000μmであることが好ましく、50~500μmであることが特に好ましい。
【0073】
工程(a2)は、光硬化性樹脂組成物層の上にもう一方の基材を貼り合わせて、積層体を得る工程である。光硬化性樹脂組成物層を形成した基材の上に、光硬化性樹脂組成物層に接するようにもう一方の基材を載置して、基材同士を貼り合わせることにより積層体が得られる。工程(a2)において、積層体を加圧処理する工程を含んでいてもよい。
【0074】
工程(B)は、工程(A)で得られる積層体にエネルギー線を照射して、接着体を得る工程である。積層体にエネルギー線を照射することにより、一方の基材及びもう一方の基材の間の光硬化性樹脂組成物が硬化し、基材同士が接着する。
【0075】
エネルギー線は、特に限定されず、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線を使用することができる。エネルギー線は、紫外線であるのが好ましい。紫外線の光源としては、紫外線(UV)が発せられる光源を使用することができる。紫外線の光源としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ、ハロゲンランプ、パルスキセノンランプ、LED等が挙げられる。エネルギー線の積算光量は、例えば、365nmにおいて500~10,000mJ/cmであることが好ましく、1,000~8,000mJ/cmであることが特に好ましい。
【0076】
工程(C)は、接着体を加工して、粗加工体を得る工程である。加工としては、例えば、仮固定された接着体を所望の形状に切断、研削、研磨、孔開けを施すこと、塗装すること等が挙げられ、得られる加工体に応じて適宜設定される。
【0077】
工程(D)は、粗加工体から、光硬化性樹脂組成物の硬化物を除去して、加工体を得る方法である。光硬化性樹脂組成物の硬化物を除去する方法は、粗加工体と水系溶剤とを接触させる方法が挙げられ、例えば、水系溶剤を光硬化性樹脂組成物の硬化物にスプレー塗布する方法、水系溶剤中に粗加工体を浸漬する方法等が挙げられる。粗加工体と水系溶剤とを接触させる方法により、粗加工体から光硬化性樹脂組成物の硬化物は、基材から剥離するか、溶解することにより除去される。
【0078】
水系溶剤としては、水、水と有機酸との混合溶媒、水と界面活性剤との混合溶媒、又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。また、水系溶剤は、前記成分(2d-3)が溶解した水系溶剤であってもよい。
有機酸は、カルボキシル基、スルホ基等の基を有する有機化合物の酸であり、クエン酸、酒石酸、乳酸、ビタミンC等が挙げられる。有機酸は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
界面活性剤は、非イオン性、陰イオン性、および陽イオン性からなるものが挙げられる。界面活性剤は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1,2-プロパンジオール等のアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル;シクロヘキサノン等が挙げられる。親水性有機溶媒は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
水系溶剤は、水もしくは水と有機酸との混合溶媒であることが好ましい。特に、光硬化性樹脂組成物が炭酸塩化合物系フィラー(例えば、重炭酸ナトリウム)を含み、水系溶剤が有機酸(例えば、クエン酸)を含む場合は、粗加工体と水系溶剤との接触において、炭酸塩化合物と有機酸との接触によって発泡が生じ、光硬化性樹脂組成物の硬化物が効率的に除去できる。
【0079】
工程(D)における水系溶剤の温度は、特に限定されず、25~70℃であることが好ましい。また、工程(D)における粗加工体と水系溶剤との接触時間は、粗加工体から、光硬化性樹脂組成物の硬化物を除去できる条件であれば特に限定されず、当業者によって適宜設定できる。光硬化性樹脂組成物の硬化物の水への溶解を加速させる観点から、超音波等により水系溶剤を振動させることが好ましい。工程(D)により、仮固定は解除され、仮固定の目的は達成される。
【0080】
光硬化性樹脂組成物を用いた加工体の製造方法により得られる加工体としては、水晶振動子、ガラスレンズ、プラスチックレンズ及び光ディスクが挙げられる。
【実施例
【0081】
本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。表における値は、特に断らない限り重量部である。
【0082】
(使用成分)
<成分(A):ラジカル重合反応性モノマー>
<<成分(A1):分子内に1つ以上のOH基を持つラジカル重合反応性モノマー>>
HEAA:N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(KJケミカル製)
HO-250:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(共栄社化学製)
<<成分(A2):その他のラジカル重合反応性モノマー>>
IB:イソボルニルアクリレート(共栄社化学製)
<成分(B):連鎖移動剤>
MSD-100:α-メチルスチレンダイマー(三井化学製)
カレンズMT PE1:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(昭和電工製)
カレンズMT BD1:1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン(昭和電工製)
<成分(C):光重合開始剤>
イルガキュア1173:2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASF製)
【0083】
<成分(D):更なる成分>
<<成分(d1):水溶性可塑剤>>
精製グリセリン:グリセリン(阪本薬品工業製)(重量平均分子量(Mw):92)
PEG#300:ポリエチレングリコール(ライオン製)(重量平均分子量(Mw):300)
<<成分(d2):水溶性フィラー>>
重曹:重炭酸ナトリウム(トクヤマ製)
クエン酸:クエン酸(ミヨシ石鹸製)
<<成分(d3):チキソ付与剤>>
アエロジル200:ヒュームドシリカ(アエロジル製)
NKC130:ヒュームドシリカ(アエロジル製)
<<成分(d4):水溶性高分子>>
PEG#1000:ポリエチレングリコール(ライオン製)(重量平均分子量(Mw):1,000)
ペノンJE66:ヒドロキシプロピルエーテル化澱粉(日澱化学製)(重量平均分子量(Mw):16,000)
【0084】
〔評価条件〕
(1)固定性
2枚のスライドガラス基板を用意した。一枚のスライドガラス基板上に光硬化性樹脂組成物を30mg塗布してから、もう一枚のスライドガラスを貼り合わせ、厚みが100μmとなるように組成物を押しつぶした。メタルハライドランプ(アイグラフィックス製、M06-L31)にて3,000mJ/cmのUVを照射した後、手で2枚のガラスそれぞれ持って動かし、剥がれないかどうかを確認した。
○:剥がれない
×:剥がれる
【0085】
(2)剥離性
上記の「(1)固定性」を確認した試験片を2Lビーカーに入れ、50℃の水(実施例13及び14はクエン酸2wt%水溶液)を500g程度注いだ。そのビーカーを超音波洗浄器(エスエヌディー製、US-20PS)に入れて液温を50℃に保ったまま最も弱いレベル(5段階の1段目)の超音波をかけた。その後、どの程度の時間で組成物が溶解して2枚のガラスが剥がれるかを確認した。
◎:光硬化性樹脂組成物が20分以内で溶解し、ガラスが剥がれた
○:光硬化性樹脂組成物が40分以内で溶解し、ガラスが剥がれた
△:光硬化性樹脂組成物が1時間以内で溶解し、ガラスが剥がれた
×:光硬化性樹脂組成物が1時間以内ではガラス同士が剥がなかった
【0086】
〔光硬化性樹脂組成物の製造方法〕
表1~表2に記載の配合比に従い、各成分を撹拌機付きフラスコで均一になるまで30分攪拌混合した。このうち、PEG#1000又はぺノンJE66を含むものに関しては60℃で加熱しながらさらに30分~1時間撹拌し、固体成分を溶解させることにより、実施例及び比較例の液状の光硬化性樹脂組成物を得た。
【0087】
結果を表1~表2に示す。各成分の配合量の値は全て重量部である。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
表1及び表2から、実施例の光硬化性樹脂組成物は、固定性に優れていた。実施例1~6と実施例7~8との比較より、成分(D)が成分(d1)である場合は、成分(D)を含まない場合や成分(D)が成分(d4)である場合に対して、剥離性に優れていた。
実施例8~9と実施例10との比較より、成分(D)が成分(d1)に加えて、成分(d3)を含む場合は、成分(D)が成分(d1)のみを含む場合と同様に、剥離性に優れていた。
実施例11と実施例8との比較より、成分(d2)が発泡剤である場合は、特に剥離性に優れていた。
実施例12と実施例8との比較より、成分(d2)が発泡剤に含まれる一部の水溶性フィラーのみである場合であっても、剥離性に優れていた。
実施例13と実施例11との比較より、水系洗浄液に含まれる第3の水溶性フィラー及び光硬化性樹脂組成物に含まれる水溶性フィラーの組み合わせが発泡性を有する場合は、これらの成分の両方が光硬化性樹脂組成物に含まれる場合と同様に、剥離性に特に優れていた。
実施例14と実施例1等との比較により、光硬化性樹脂組成物が成分(d2)を含むが成分(d1)を含まない場合であって、水系洗浄液に含まれる水溶性フィラーと、光硬化性樹脂組成物に含まれる水溶性フィラーとの組み合わせが発泡性を有する場合は、剥離性により優れていた。
一方、比較例1の組成物は、成分(B)を含まないため、剥離性が劣っていた。また、比較例2の組成物は、成分(A1)を含まないため、剥離性が劣っていた。