(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】核酸送達用組成物及び核酸含有組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/34 20170101AFI20230320BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230320BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230320BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230320BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230320BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230320BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20230320BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230320BHJP
A61P 29/02 20060101ALI20230320BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230320BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
A61K47/34 ZNA
A61K47/42
A61K48/00
A61K9/10
A61K9/14
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/713
A61P29/02
A61P35/00
A61P19/02
(21)【出願番号】P 2019529762
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2018026199
(87)【国際公開番号】W WO2019013255
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2017135547
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】金沢 貴憲
(72)【発明者】
【氏名】高島 由季
(72)【発明者】
【氏名】茨木 ひさ子
(72)【発明者】
【氏名】白石 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中田 叡
(72)【発明者】
【氏名】入山 友輔
(72)【発明者】
【氏名】大塚 敬一朗
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/085407(WO,A1)
【文献】特表平11-501642(JP,A)
【文献】TANAKA, K. et al.,Cytoplasm-responsive nanocarriers conjugated with a functional cell-penetrating peptide for systemi,Int. J. Pharm.,2013年,Vol.455, No.1-2,pp.40-47,ISSN: 0378-5173
【文献】J Mater Sci: Mater Med,2009年,Vol.20, pp.1849-1857
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 48/00
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコールセグメントと疎水性ポリエステルセグメントとが連結したブロック型コポリマーと、アルギニン及びリジンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を含有する
5~20残基のペプチドとを含有する、核酸送達用組成物
であって、前記ペプチドが、直接又は結合基を介して脂溶性基を含有する、組成物。
【請求項2】
前記脂溶性基が、置換基を有していてもよい(C4~C30)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、置換基を有していてもよい(C4~C30)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基、及び置換基を有していてもよい(C7~C30)の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基からなる群より選択される基である、請求項
1に記載の核酸送達用組成物。
【請求項3】
前記ペプチドが、さらにヒスチジンを含有する、請求項1
又は2に記載の核酸送達用組成物。
【請求項4】
前記ペプチドが、アルギニン及びヒスチジンを含有する、請求項1から
3の何れか1つに記載の核酸送達用組成物。
【請求項5】
前記ペプチドにおいて、アルギニン残基及びヒスチジン残基の合計数が、ペプチド全残基の合計数に対し、50~100%である、請求項
4に記載の核酸送達用組成物。
【請求項6】
前記ブロック型コポリマーのポリエチレングリコールセグメントの平均分子量が、1,000~10,000であり、疎水性ポリエステルセグメントの平均分子量が、1,000~10,000である、請求項1から5の何れか1つに記載の核酸送達用組成物。
【請求項7】
前記ブロック型コポリマーが、ポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエチレングリコール-ポリ(乳酸-グリコール酸コポリマー)又はポリエチレングリコール-ポリ乳酸である、請求項1から6の何れか1つに記載の核酸送達用組成物。
【請求項8】
前記ブロック型コポリマーが、ポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)である、請求項1から7の何れか1つに記載の核酸送達用組成物。
【請求項9】
前記ブロック型コポリマーと前記ペプチドが粒子を形成している、請求項1から8のいずれか1つに記載の核酸送達用組成物。
【請求項10】
前記粒子の粒径が、50nm以下である、請求項9に記載の核酸送達用組成物。
【請求項11】
ポリエチレングリコールセグメントと疎水性ポリエステルセグメントとが連結したブロック型コポリマーの水溶性有機溶剤溶液と、アルギニン及びリジンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を含有する
5~20残基のペプチドの水溶液とを混合した後、有機溶剤を除去する工程を含む、請求項1から10の何れか1つに記載の核酸送達用組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1から8の何れか1つに記載の核酸送達用組成物が、核酸を含有する、核酸含有組成物。
【請求項13】
請求項9又は10に記載の核酸送達用組成物が核酸を含有する核酸含有組成物であって、前記核酸が、ブロック型コポリマーとペプチドと共に粒子を形成している、核酸含有組成物。
【請求項14】
前記粒子の粒径が、50nm以下である、請求項13に記載の核酸含有組成物。
【請求項15】
前記核酸が、RNA干渉を利用したRNA又はアンチセンス核酸である、請求項12から14のいずれか1つに記載の核酸含有組成物。
【請求項16】
前記核酸が、siRNA又はmiRNAである、請求項12から15のいずれか1つに記載の核酸含有組成物。
【請求項17】
ポリエチレングリコールセグメントと疎水性ポリエステルセグメントとが連結したブロック型コポリマーの水溶性有機溶剤溶液と、アルギニン及びリジンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を含有する
5~20残基のペプチドの水溶液とを混合し、有機溶剤を除去した後、核酸を混合する工程を含む、請求項12から16の何れか1つに記載の核酸含有組成物の製造方法。
【請求項18】
請求項12から16の何れか1つに記載の核酸含有組成物が、さらに低分子薬剤を含有する、核酸含有組成物。
【請求項19】
請求項1から10の何れか1つに記載の核酸送達用組成物を含む、核酸送達用キット。
【請求項20】
ポリエチレングリコールセグメントと疎水性ポリエステルセグメントとが連結したブロック型コポリマーを含有する第1の組成物と、アルギニン及びリジンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を含有する
5~20残基のペプチドを含有する第2の組成物とを含有する、核酸送達用キット
であって、前記ペプチドが、直接又は結合基を介して脂溶性基を含有する、キット。
【請求項21】
請求項12から16及び18の何れか1つに記載の核酸含有組成物を有効成分として含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸、特にsiRNAを標的患部の細胞内に送達するための担体組成物、及びそれを用いた核酸含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸医薬品は、疾病の原因分子に対して直接作用することにより疾患を治療できるため、酵素阻害剤などの従来の低分子医薬品では効果が期待できない疾病に対しても、有効な治療方法として期待されている。
しかし、siRNA等の核酸は、血中で容易に分解され、不安定であるため、これらを核酸医薬として幅広い疾患に適用するために、血中投与が可能であり、全身投与によって標的組織に効率よく送達する方法の開発が求められている。
【0003】
核酸医薬の送達システムとして、高分子キャリアを利用する方法が報告されている。例えば、メトキシポリエチレングリコールセグメント(以下、MPEGと呼ぶ)及びポリ(ε-カプロラクトン)セグメント(以下、PCLと呼ぶ)からなるブロック型コポリマー(以下、MPEG-PCLと呼ぶ)と、システイン、ヒスチジン及びアルギニンからなる10残基のペプチドとをコンジュゲーションして得られるポリマーを用いる、siRNAの送達システムが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。該核酸送達システムは、疎水性のPCLをコアとするミセル構造を有し、siRNAが、正電荷を帯びたペプチドとの静電相互作用により該ミセルに担持され、血中安定性と細胞内取り込み能を両立できること、また担癌モデルマウスを用いた検討においても、高い治療効果が得られることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】インターナショナル ジャーナル オブ ファーマシューティクス,455巻,40-47頁(2013年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血中投与により機能発現させる核酸医薬において、該核酸医薬の安定性を確保すると共に、細胞内導入率が高く、効率的に該核酸医薬の機能発現をさせることができ、かつ低い細胞毒性である核酸送達用組成物及び核酸含有組成物が求められている。特に、siRNAのような短鎖核酸医薬にも適用できる核酸送達用組成物及び核酸含有組成物が求められている。
【0006】
本発明の目的は、細胞毒性が低く、高い治療有効性を実現する、核酸送達用組成物及び核酸含有組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、非特許文献1に基づきMPEG-PCLとペプチドをコンジュゲーションして得られるポリマーを用いて研究を行ったが、該ポリマーミセルに起因する細胞毒性が確認された。
その後、本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意努力した結果、MPEG-PCLにペプチドをコンジュゲーションするのではなく、脂溶性基を有する正電荷のペプチドとsiRNAの静電相互作用複合体をミセル内部に非共有結合的に内包することで、細胞毒性を示すことなく、核酸分子の良好な細胞内導入効果を発揮し、インビボにおいて高い治療効果が得られることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
【0008】
1.ポリエチレングリコールセグメントと疎水性ポリエステルセグメントとが連結したブロック型コポリマーと、アルギニン及びリジンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を含有する4~30残基のペプチドとを含有する、核酸送達用組成物。
2.前記ペプチドが、直接又は結合基を介して脂溶性基を含有する、1.に記載の核酸送達用組成物。
3.前記脂溶性基が、置換基を有していてもよい(C4~C30)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、置換基を有していてもよい(C4~C30)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基、及び置換基を有していてもよい(C7~C30)の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基からなる群より選択される基である、2.に記載の核酸送達用組成物。
4.前記ペプチドが、さらにヒスチジンを含有する、1.から3.の何れか1つに記載の核酸送達用組成物。
5.前記ペプチドが、アルギニン及びヒスチジンを含有する、1.から4.の何れか1つに記載の核酸送達用組成物。
6.前記ペプチドにおいて、アルギニン残基及びヒスチジン残基の合計数が、ペプチド全残基の合計数に対し、50~100%である、5.に記載の核酸送達用組成物。
【0009】
7.前記ブロック型コポリマーが、ポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエチレングリコール-ポリ(乳酸-グリコール酸コポリマー)又はポリエチレングリコール-ポリ乳酸である、1.から6.の何れか1つに記載の核酸送達用組成物。
8.前記ブロック型コポリマーが、ポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)である、1.から7.の何れか1つに記載の核酸送達用組成物。
9.前記ブロック型コポリマーと前記ペプチドが粒子を形成している、1.から8.のいずれか1つに記載の核酸送達用組成物。
10.前記粒子の粒径が、50nm以下である、9.に記載の核酸送達用組成物。
【0010】
11.ポリエチレングリコールセグメントと疎水性ポリエステルセグメントとが連結したブロック型コポリマーの水溶性有機溶剤溶液と、アルギニン及びリジンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を含有する4~30残基のペプチドの水溶液とを混合した後、有機溶剤を除去する工程を含む、1.から10.の何れか1つに記載の核酸送達用組成物の製造方法。
【0011】
12.1.から8.の何れか1つに記載の核酸送達用組成物が、核酸を含有する、核酸含有組成物。
13.9.又は10.に記載の核酸送達用組成物が核酸を含有する核酸含有組成物で
あって、前記核酸が、ブロック型コポリマーとペプチドと共に粒子を形成している、核酸含有組成物。
14.前記粒子の粒径が、50nm以下である、13.に記載の核酸含有組成物。
15.前記核酸が、RNA干渉を利用したRNA又はアンチセンス核酸である、12.から14.のいずれか1つに記載の核酸含有組成物。
16.前記核酸が、siRNA又はmiRNAである、12.から15.のいずれか1つに記載の核酸含有組成物。
【0012】
17.ポリエチレングリコールセグメントと疎水性ポリエステルセグメントとが連結したブロック型コポリマーの水溶性有機溶剤溶液と、アルギニン及びリジンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を含有する4~30残基のペプチドの水溶液とを混合し、有機溶剤を除去した後、核酸を混合する工程を含む、12.から16.の何れか1つに記載の核酸含有組成物の製造方法。
【0013】
18.前記12.から16.の何れか1つに記載の核酸含有組成物が、さらに低分子薬剤を含有する、核酸含有組成物。
19.前記1.から10.の何れか1つに記載の核酸送達用組成物を含む、核酸送達用キット。
20.ポリエチレングリコールセグメントと疎水性ポリエステルセグメントとが連結したブロック型コポリマーを含有する第1の組成物と、アルギニン及びリジンからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を含有する4~30残基のペプチドを含有する第2の組成物とを含有する、核酸送達用キット。
21.前記12.から16.及び18.の何れか1つに記載の核酸含有組成物を有効成分として含む、医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、細胞毒性が低く、高い治療有効性を実現する、核酸送達用組成物及び核酸含有組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る核酸含有組成物に対するマウスマクロファージ株化様細胞の細胞生存率を示すグラフである。
【
図2】本実施形態に係る核酸含有組成物のマウスマクロファージ株化様細胞における細胞内への導入率を示すグラフである。
【
図3A】本実施形態に係る核酸含有組成物のマウスマクロファージ株化様細胞におけるTNF-αの産生量への影響を示すグラフである。
【
図3B】本実施形態に係る核酸含有組成物のマウスマクロファージ株化様細胞におけるIL-6の産生量への影響を示すグラフである。
【
図4】本実施形態に係る核酸含有組成物のCIAマウスにおける後肢の肥厚増加率への影響を示すグラフである。
【
図5】本実施形態に係る核酸含有組成物のCIAマウスにおける臨床スコアへの影響を示すグラフである。
【
図6】本実施形態に係る核酸含有組成物のCIAマウスの四肢におけるRelAの産生量への影響を示すグラフである。
【
図7】本実施形態に係る核酸含有組成物のCIAマウスの四肢におけるTNF-αの産生量への影響を示すグラフである。
【
図8】本実施形態に係る核酸含有組成物のCIAマウスの四肢におけるIL-6の産生量への影響を示すグラフである。
【
図9】本実施形態に係る核酸含有組成物の膵臓癌細胞皮下移植マウスにおける腫瘍体積への影響を示すグラフである。
【
図10】本実施形態に係る核酸含有組成物の膵臓癌細胞皮下移植マウスにおける体重への影響を示すグラフである。
【
図11】本実施形態に係る核酸含有組成物の膵臓癌細胞皮下移植マウスにおける腫瘍体積への影響を示すグラフである。
【
図12】本実施形態に係る核酸含有組成物の膵臓癌細胞皮下移植マウスにおける体重への影響を示すグラフである。
【
図13】本実施形態に係る核酸含有組成物のヒト肺胞基底上皮腺癌細胞におけるスフェロイド浸透性を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である。
【
図14】本実施形態に係る核酸含有組成物のマウス乳癌細胞におけるスフェロイド浸透性を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である。
【
図15】本実施形態に係る核酸含有組成物のマウス乳癌細胞における細胞内への導入率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、標的組織及び標的細胞へ核酸分子を送達するための核酸送達用組成物であって、ポリエチレングリコールセグメントと疎水性ポリエステルセグメントとのブロック型コポリマーと、アルギニン及びリジンから選択される少なくとも一つを含有する4~30残基のペプチドとを含有する組成物に関する。更に、核酸を含む、核酸含有組成物に関する。以下に、本発明の詳細を説明する。
【0017】
まず、本明細書における化学構造の記載に用いる用語を説明する。
尚、本発明中「n-」はノルマル、「i-」はイソ、「s-」はセカンダリー、「t-」はターシャリーを意味する。
「由来する基」とは、対象となる分子から任意の位置の水素原子を取り除いた基を意味する。
【0018】
「置換基を有していてもよい」とは、無置換であるか、又は少なくとも1つの置換基で置換されていることを意味する。
【0019】
「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。
【0020】
直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状の飽和炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、シクロへキシル基、シクロへキシルメチル基、シクロへキシルエチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基、イソオクチル基、イソデシル基、イソドデシル基、イソテトラデシル基、イソヘキサデシル基、イソオクタデシル基、t-オクチル基、t-デシル基、t-ドデシル基、t-テトラデシル基、t-ヘキサデシル基、t-オクタデシル基等が具体例として挙げられる。
本明細書において(Ca~Cb)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基は、炭素原子数がa~b個よりなる、前記直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であり、前記直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基の例から、各々の指定の炭素原子数の範囲で選択される。
【0021】
本明細書において、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状の飽和炭化水素基であり、その具体例は、前記直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基に包含される。なお、環状のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状の飽和炭化水素基には包含されない。本明細書において(Ca~Cb)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基は、炭素原子数がa~b個よりなる、前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基の例から、各々の指定の炭素原子数の範囲で選択される。
【0022】
直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基は、少なくともいずれか1カ所に炭素-炭素二重結合を有する、直鎖状、分岐鎖状又は環状の不飽和炭化水素基であり、例えば、1-プロペニル基、1-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-1,3-ブタジエニル基、1-オクテニル基、1-デセニル基、1-ドデセニル基、1-テトラデセニル基、1-ヘキサデセニル基、1-シクロヘキセニル基、3-シクロヘキセニル基、1-オクタデセニル基、cis-9-オクタデセニル基、9-ヘキサデセニル基等が挙げられる。
本明細書において(Ca~Cb)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基は、炭素原子数がa~b個よりなる、前記直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基であり、前記直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基の例から、各々の指定の炭素原子数の範囲で選択される。
【0023】
アリール基は、炭素環アリール基又は複素環アリール基を意味する。
炭素環アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
複素環アリール基は、環を構成する原子中に、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選択される1乃至5個のヘテロ原子を含有する、単環系又は縮合環系のアリール基を意味し、例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、キノリル基、キナゾリニル基、ナフチリジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、イソキサゾリル基、トリアゾリル基、チエニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、インドリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、イミダゾピリジル基等が挙げられる。
【0024】
直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基とは、いずれか1カ所の水素原子が炭素環アリール基で置換された、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、4-フェニルブチル基、3-フェニルブチル基、5-フェニルペンチル基、6-フェニルへキシル基、8-フェニルオクチル基等が挙げられる。好ましくは4-フェニルブチル基、5-フェニルペンチル基、6-フェニルへキシル基、8-フェニルオクチル基等が挙げられる。
本明細書において(Ca~Cb)の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基は、炭素原子数がa~b個よりなる、前記直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基であり、前記直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基の例から、各々の指定の炭素原子数の範囲で選択される。
【0025】
アルコキシ基は、前記直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が、オキシ基に結合した基を意味し、例えば、メトキシ基、n-プロポキシ基、シクロプロピルメチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソプロポキシ基、s-ブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基、t-ブトキシ基、n-オクチルオキシ基等が挙げられる。
本明細書において(Ca~Cb)のアルコキシ基は、炭素原子数がa~b個よりなる、前記アルコキシ基であり、前記アルコキシ基の例から、各々の指定の炭素原子数の範囲で選択される。
【0026】
(C2~C12)のアルケニルオキシ基とは、少なくともいずれか1カ所に炭素-炭素二重結合を有し、炭素原子数が2~12である、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基がオキシ基に結合した基を意味し、例えば、1-プロペニルオキシ基、1-ブテニルオキシ基、2-メチル-2-ブテニルオキシ基、2-メチル-1,3-ブタジエニルオキシ基、1-オクテニルオキシ基、1-デセニルオキシ基、1-シクロヘキセニルオキシ基、3-シクロヘキセニルオキシ基等が挙げられる。
【0027】
アラルキルオキシ基は、前記の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基が、オキシ基に結合した基を意味し、具体的に(C7~C8)のアラルキルオキシ基は、前記(C7~C8)の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基が、オキシ基に結合した基を意味し、例えば、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等が挙げられる。
【0028】
アリールオキシ基は、前記アリール基が、オキシ基に結合した基を意味し、例えば、炭素環アリールオキシ基又は複素環アリールオキシ基であり、特には、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、ピリジルオキシ基等が挙げられる。
【0029】
(C1~C6)のアルキレン基は、前記(C1~C6)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基から、任意の位置の水素原子を取り除いた2価の置換基であり、例えば、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-1,1-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、2,2-ジメチル-プロパン-1,3-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、3-メチルブタン-1,2-ジイル基、シクロプロパン-1,2-ジイル基等が挙げられる。
【0030】
アルキルチオ基は、前記直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が、チオ基に結合した基を意味し、具体的に(C1~C8)のアルキルチオ基は、前記(C1~C8)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が、チオ基に結合した基を意味し、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、イソプロピルチオ基、シクロプロピルメチルチオ基、シクロペンチルチオ基、n-ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられる。
アラルキルチオ基は、前記直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基が、チオ基に結合した基を意味し、具体的に(C7~C8)のアラルキルチオ基は、前記(C7~C8)の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基が、チオ基に結合した基を意味し、例えば、ベンジルチオ基、フェネチルチオ基等が挙げられる。
【0031】
アリールチオ基は、前記アリール基が、チオ基に結合した基を意味し、例えば、炭素環アリールチオ基又は複素環アリールチオ基であり、特には、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等が挙げられる。
【0032】
アルキルスルフィニル基は、前記直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が、スルフィニル基に結合した基を意味し、具体的に(C1~C8)のアルキルスルフィニル基は、前記(C1~C8)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が、スルフィニル基に結合した基を意味し、例えば、メチルスルフィニル基、イソプロピルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基等が挙げられる。
アラルキルスルフィニル基は、前記直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基が、スルフィニル基に結合した基を意味し、具体的に(C7~C8)のアラルキルスルフィニル基は、前記(C7~C8)の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基が、スルフィニル基に結合した基を意味し、例えば、ベンジルスルフィニル基、フェネチルスルフィニル基等が挙げられる。
【0033】
アリールスルフィニル基は、前記アリール基が、スルフィニル基に結合した基を意味し、例えば、炭素環アリールスルフィニル基又は複素環アリールスルフィニル基であり、特には、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、ピリジルスルフィニル基等が挙げられる。
【0034】
アルキルスルホニル基は、前記直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が、スルホニル基に結合した基を意味し、具体的に(C1~C8)のアルキルスルホニル基は、前記(C1~C8)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が、スルホニル基に結合した基を意味し、例えば、メチルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基等が挙げられる。
アラルキルスルホニル基は、前記直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基が、スルホニル基に結合した基を意味し、具体的に(C7~C8)のアラルキルスルホニル基は、前記(C7~C8)の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基が、スルホニル基に結合した基を意味し、例えば、ベンジルスルホニル基、フェネチルスルホニル基等が挙げられる。
【0035】
アリールスルホニル基は、前記アリール基が、スルホニル基に結合した基を意味し、例えば、炭素環アリールスルホニル基又は複素環アリールスルホニル基であり、特には、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、ピリジルスルホニル基等が挙げられる。
【0036】
モノアルキルアミノ基は、1つの前記の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が、アミノ基に結合した基を意味し、具体的に(C1~C10)のモノアルキルアミノ基は、1つの前記(C1~C10)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が、アミノ基に結合した基である。例えば、メチルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ネオペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、n-オクチルアミノ基等が挙げられる。
ジアルキルアミノ基は、同一又は異なる2つの前記の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が、アミノ基に結合した基を意味し、具体的に(C2~C20)のジアルキルアミノ基は、同一又は異なる2つの前記(C1~C10)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基が、アミノ基に結合した基である。例えばジメチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、N-メチル-N-シクロヘキシルアミノ基等が挙げられる。
【0037】
環状アミノ基は、環を構成する原子として少なくとも1個の窒素原子を含有する3~11員の飽和の複素環から、窒素原子に結合する1つの水素原子を取り除いた基である。具体例としては、モルホリノ基、ピペラジン-1-イル基、4-メチルピペラジン-1-イル基、ピペリジン-1-イル基、ピロリジン-1-イル基等が挙げられる。
【0038】
モノアリールアミノ基は、1つの前記アリール基が、アミノ基に結合した基を意味し、例えば、炭素環アリールアミノ基又は複素環アリールアミノ基であり、特には、フェニルアミノ基、ナフチルアミノ基、ピリジルアミノ基等が挙げられる。
ジアリールアミノ基は、同一又は異なる2つの前記アリール基が、アミノ基に結合した基を意味し、例えば、ジ(炭素環アリール)アミノ基、ジ(複素環アリール)アミノ基又はN-(炭素環アリール)-N-(複素環アリール)アミノ基であり、特には、ジフェニルアミノ基、N-フェニル-N-ピリジルアミノ基等が挙げられる。
【0039】
アシル基は、水素原子、前記の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、前記の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基、アリール基、又は前記の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基がカルボニル基に結合した基を意味し、具体的に(C1~C9)のアシル基は、水素原子、(C1~C8)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、(C2~C8)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基、アリール基、又は(C7~C8)の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基がカルボニル基に結合した基を意味し、例えば、ホルミル基、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ピリジルカルボニル基等が挙げられる。
【0040】
アルコキシカルボニル基は、前記のアルコキシ基がカルボニル基に結合した基を意味し、具体的に(C2~C9)のアルコキシカルボニル基は、前記(C1~C8)のアルコキシ基がカルボニル基に結合した基を意味し、例えば、メトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基等が挙げられる。
アラルキルオキシカルボニル基は、前記のアラルキルオキシ基が、カルボニル基に結合した基を意味し、具体的に(C8~C9)のアラルキルオキシカルボニル基は、前記(C7~C8)のアラルキルオキシ基が、カルボニル基に結合した基を意味し、例えば、ベンジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0041】
アシルオキシ基は、前記アシル基がオキシ基に結合した基を意味し、具体的に(C1~C9)のアシルオキシ基は、前記(C1~C9)のアシル基がオキシ基に結合した基を意味し、例えば、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基、ピリジルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
アルコキシカルボニルオキシ基は、前記のアルコキシカルボニル基がオキシ基に結合した基を意味し、具体的に(C2~C9)のアルコキシカルボニルオキシ基は、前記(C2~C9)のアルコキシカルボニル基がオキシ基に結合した基を意味し、例えば、メトキシカルボニルオキシ基、t-ブトキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
アラルキルオキシカルボニルオキシ基は、前記のアラルキルオキシカルボニル基がオキシ基に結合した基を意味し、具体的に(C8~C9)のアラルキルオキシカルボニルオキシ基は、前記(C8~C9)のアラルキルオキシカルボニル基がオキシ基に結合した基を意味し、例えば、ベンジルオキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0042】
アシルアミノ基は、前記アシル基がアミノ基に結合した基を意味し、具体的に(C1~C9)のアシルアミノ基は、前記(C1~C9)のアシル基がアミノ基に結合した基を意味し、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
【0043】
アルコキシカルボニルアミノ基は、前記アルコキシカルボニル基がアミノ基に結合した基を意味し、具体的に(C2~C9)のアルコキシカルボニルアミノ基は、前記(C2~C9)のアルコキシカルボニル基がアミノ基に結合した基を意味し、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
アラルキルオキシカルボニルアミノ基は、前記アラルキルオキシカルボニル基がアミノ基に結合した基を意味し、具体的に(C8~C9)のアラルキルオキシカルボニルアミノ基は、前記(C8~C9)のアラルキルオキシカルボニル基がアミノ基に結合した基を意味し、例えば、ベンジルオキシカルボニルアミノ基等が挙げられる。
【0044】
アルキルスルホニルアミノ基は、前記アルキルスルホニル基がアミノ基に結合した基を意味し、具体的に(C1~C8)のアルキルスルホニルアミノ基は、前記(C1~C8)のアルキルスルホニル基がアミノ基に結合した基を意味し、例えば、メタンスルホニルアミノ基が挙げられる。
アリールスルホニルアミノ基は、前記アリールスルホニル基がアミノ基に結合した基を意味し、例えば、炭素環アリールスルホニルアミノ基又は複素環アリールスルホニルアミノ基であり、特には、ベンゼンスルホニルアミノ基、ピリジルスルホニルアミノ基等が挙げられる。
【0045】
置換基を有するカルバモイル基は、前記モノアルキルアミノ基(例えば、前記(C1~C10)のモノアルキルアミノ基)、前記ジアルキルアミノ基(例えば、前記(C2~C20)のジアルキルアミノ基)、前記環状アミノ基、前記モノアリールアミノ基又は前記ジアリールアミノ基が、カルボニル基に結合した基を意味し、例えば、ジメチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基等が挙げられる。
置換基を有するスルファモイル基は、前記モノアルキルアミノ基(例えば、前記(C1~C10)のモノアルキルアミノ基)、前記ジアルキルアミノ基(例えば、前記(C2~C20)のジアルキルアミノ基)、前記環状アミノ基、前記モノアリールアミノ基又は前記ジアリールアミノ基が、スルホニル基に結合した基を意味し、例えば、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基等が挙げられる。
置換基を有するカルバモイルオキシ基としては、置換基を有する前記カルバモイル基が、オキシ基に結合した基を意味し、例えば、ジメチルカルバモイルオキシ基、フェニルカルバモイルオキシ基等が挙げられる。
置換基を有するスルファモイルアミノ基は、置換基を有する前記スルファモイル基が、アミノ基、前記モノアルキルアミノ基(例えば、前記(C1~C10)のモノアルキルアミノ基等)、又は前記モノアリールアミノ基の窒素原子に結合した基を意味し、例えば、ジメチルスルファモイルアミノ基等が挙げられる。
置換基を有するウレイド基は、置換基を有する前記カルバモイル基が、アミノ基、前記モノアルキルアミノ基(例えば、前記(C1~C10)のモノアルキルアミノ基等)、又は前記モノアリールアミノ基の窒素原子に結合した基を意味し、例えば、トリメチルウレイド基、1-メチル-3-フェニル-ウレイド基等が挙げられる。
【0046】
シリル基としては、トリ(C1~C6)アルキルシリル基又はモノ(C1~C6)アルキルジアリールシリル基、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基等が挙げられる。
【0047】
[ブロック型コポリマーについて]
本発明は、ポリエチレングリコールセグメントと、疎水性ポリエステルセグメントのブロック型コポリマーを用いる。
【0048】
ブロック型コポリマーにおける、該ポリエチレングリコールセグメントは、エチレンオキシ基(-CH2CH2O-)単位の繰り返し構造を有するポリエチレングリコール鎖を含むセグメントである。該ポリエチレングリコールセグメントの重合度は、例えば、5~12,000であり、好ましくは20~700であり、より好ましくは、30~400であり、さらに好ましくは30~200であり、特に好ましくは、40~100である。またポリエチレングリコールセグメントの平均分子量は、例えば200~500,000、好ましくは500~30,000であり、より好ましくは1,000~10,000であり、さらに好ましくは1,000~7,000であり、さらにより好ましくは、1,000~6,000であり、特に好ましくは1,000~3,000である。なお、本発明で用いる平均分子量とは、ポリエチレングリコール標準品(シグマアルドリッチ社製)を基準としたGPC法(Gel Permeation Chromatography)により測定されるピークトップ分子量(重量平均)である。
【0049】
該ポリエチレングリコールセグメントの一方の末端は、後述する疎水性ポリエステルセグメントと直接的に連結されているか、あるいは、結合基を介して疎水性ポリエステルセグメントと連結されている。もう一方の末端は、特に限定されるものではなく、ポリエチレングリコールの末端のヒドロキシ基であってもよく、又は末端のヒドロキシ基を修飾した任意の末端基であってもよい。したがって、もう一方の末端の末端基としては、水素原子、ヒドロキシ基、置換基を有していてもよい(C1~C12)のアルコキシ基、置換基を有していてもよい(C2~C12)のアルケニルオキシ基、置換基を有していてもよい(C7~C20)のアラルキルオキシ基等を挙げることができる。前記(C1~C12)のアルコキシ基、(C2~C12)のアルケニルオキシ基、(C7~C20)のアラルキルオキシ基における置換基としては、ヒドロキシ基、アミノ基、ホルミル基、カルボキシ基等が挙げられる。好ましくは、前記置換基を有していてもよい(C1~C6)のアルコキシ基であり、より好ましくは、(C1~C6)のアルコキシ基であり、さらに好ましくは、(C1~C3)のアルコキシ基であり、さらにより好ましくはメトキシ基である。
【0050】
また、前記末端基を介して、標的指向性分子を有してもよい。標的指向性分子としては、糖、脂質、ペプチド及びタンパク質並びにそれらの誘導体、又は葉酸等が挙げられる。その中で、例えば肝臓等に特異性高く効率的に送達する観点では、脂質、糖が挙げられる。このような脂質としては、コレステロール、脂肪酸等の脂質(例えば、ビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)、ビタミンA,ビタミンD)、ビタミンK等の脂溶性ビタミン(例えば、アシルカルニチン)、アシルCoA等の中間代謝物、糖脂質、グリセリド、それらの誘導体等が挙げられる。
糖としては、アシアロ糖タンパク質受容体と相互作用を有する糖誘導体が挙げられる。「アシアロ糖タンパク質受容体」は肝臓細胞表面に存在し、アシアロ糖タンパク質のガラクトース残基を認識して、その分子を細胞内に取り込み分解する作用を持つ。「アシアロ糖タンパク質受容体と相互作用する糖誘導体」は、ガラクトース残基と類似した構造を持ち、アシアロ糖タンパク質受容体との相互作用により細胞内に取り込まれる化合物が好ましく、例えば、GalNac(N-アセチルガラクトサミン)誘導体、ガラクトース誘導体及びラクトース誘導体が挙げられる。
また、脳に特異性高く効率的に送達する観点では、糖(例えば、グルコース、スクロース等)が挙げられる。また、がん組織に特異性高く効率的に送達する観点では、葉酸やペプチド(例えば、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸配列を含有する環状ペプチド等)が挙げられる。また、各臓器の細胞表面にある各種タンパク質に相互作用することにより、当該臓器に特異性高く効率的に送達できるという観点では、受容体のリガンド、抗体、それらの断片のペプチド又はタンパク質が挙げられる。
【0051】
ブロック型コポリマーにおける、ポリエチレングリコールセグメントと、疎水性ポリエステルセグメントは、直接的あるいは適切な結合基を介して間接的に連結されていてもよいが、好ましくは直接的に連結されている。ポリエチレングリコールセグメントと、疎水性ポリエステルセグメントが直接的に連結される結合様式は、ポリエチレングリコールセグメントの末端ヒドロキシ基と、疎水性ポリエステルセグメントの末端カルボキシ基とで形成されるエステル結合であることが好ましい。ポリエチレングリコールセグメントと、疎水性ポリエステルセグメントが間接的に連結される場合の結合基としては、2つのポリマーセグメントを化学結合により連結する基であれば、特に限定されるものではなく、ポリエチレングリコールセグメントの末端基及び疎水性ポリエステルセグメントの末端基と結合できる官能基から形成される結合基であれば良い。好ましくは、(C1~C6)のアルキレン基である。該結合基のポリエチレングリコールセグメントとの結合様式は、ポリ(オキシエチレン)基の末端酸素原子によるエーテル結合が好ましく、疎水性ポリエステルセグメントとの結合様式はアミド結合又はエステル結合であることが好ましい。
【0052】
ブロック型コポリマーにおける、疎水性ポリエステルセグメントとは、分子内にカルボキシ基とヒドロキシ基を有するモノマーが重縮合した疎水性のセグメントである。疎水性ポリエステルセグメントを構成するモノマーが単一であるホモ重合体であってもよく、二種以上の共重合体であってもよい。単一のモノマーで構成される疎水性ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)及びポリ乳酸が挙げられる。二種以上モノマーで構成される疎水性ポリエステルとしては、ポリ(乳酸-グリコール酸コポリマー)が挙げられる。特に、ポリ(ε-カプロラクトン)が好ましい。
疎水性ポリエステルセグメント(例えば、上記ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ乳酸及びポリ(乳酸-グリコール酸コポリマー))の平均分子量は、例えば500~30,000であり、好ましくは1,000~10,000であり、より好ましくは1,000~8,000であり、さらに好ましくは、1,000~7,000であり、さらにより好ましくは1,000~3,000である。
その他の態様として、ポリ乳酸の平均分子量は、好ましくは、4,000~6,000である。ポリ(乳酸-グリコール酸コポリマー)の平均分子量は、好ましくは、6,000~8,000である。
【0053】
上述のような該ブロック型コポリマーとしては、モノメトキシポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)共重合体、モノメトキシポリエチレングリコール-ポリ乳酸共重合体、及びモノメトキシポリエチレングリコール-ポリ(乳酸-グリコール酸コポリマー)共重合体が挙げられ、好ましい例としては、モノメトキシポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)共重合体が挙げられる。中でもポリエチレングリコールの平均分子量が1,000~6,000、ポリ(ε-カプロラクトン)の平均分子量が1,000~6,000である、モノメトキシポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)共重合体が好ましく、ポリエチレングリコールの平均分子量が1,000~3,000、ポリ(ε-カプロラクトン)の平均分子量が1,000~3,000である、モノメトキシポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)共重合体が特に好ましい。なお、前記ポリ乳酸、及び前記乳酸-グリコール酸コポリマーの乳酸部分は、D体、L体、及びD体とL体との混合物のいずれを用いてもよいが、D体とL体との混合物が好ましい。
【0054】
[ブロック型コポリマーの製造方法について]
本発明のブロック型コポリマーは、公知の方法により製造することができる。
例えば、ポリエチレングリコールセグメントと、疎水性ポリエステルセグメントを、適切な結合様式により結合させる方法で製造することができる。また、ポリエチレングリコールセグメントの末端ヒドロキシ基を開始点とし、環状エステルモノマーとの開環重合により、逐次重合反応させてブロック型コポリマーを調製してもよい。好ましくは、ポリエチレングリコールセグメントの末端ヒドロキシ基を開始点とし、環状エステルモノマーとの開環重合により、逐次重合反応させてブロック型コポリマーを調製する。ポリエチレングリコールセグメントに対する環状エステルモノマーの仕込み比を変化させることにより、各ユニットの種々の平均分子量(重合度)を有する共重合体を得ることが可能である。環状エステルモノマーとしてε-カプロラクトンを用いることで、ポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)が製造され、ジラクチドを用いることで、ポリエチレングリコール-ポリ乳酸が製造される。ジラクチド及びグリコリドを用いることで、ポリエチレングリコール-ポリ(乳酸-グリコール酸コポリマー)が製造される。具体的な製造方法としては、例えば、バイオマテリアルズ,24巻,3563-3570頁(2003年)、バイオマテリアルズ,26巻,2121-2128頁(2005年)、インターナショナル ジャーナル オブ ファーマシューティクス,182巻,187-197頁(1999年)などを参照できる。
【0055】
[ペプチドについて]
本発明は、アルギニン及びリジンからなる群より選択される少なくとも一つを含有する4~30残基のペプチドを用いる。
該ペプチドの結合様式はペプチド結合であり、α結合体であってもβ結合体であってもよく、その混合物であってもよい。該ペプチドを構成するアミノ酸残基としては、天然アミノ酸又は非天然アミノ酸であってもよく、L体、D体のいずれでも特に限定されずに用いることができる。
【0056】
該ペプチドは、脂溶性基を直接又は結合基を介して含有することが好ましい。脂溶性基を含有することで、ブロック型コポリマーの疎水性ポリエステルセグメントとの疎水性相互作用が増し、核酸送達用組成物又は核酸含有組成物の安定性が向上する。
前記ペプチドが含有する脂溶性基は、脂溶性の基であれば、特に限定されないが、例えば、置換基を有していてもよい(C4~C30)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、置換基を有していてもよい(C4~C30)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基及び置換基を有していてもよい(C7~C30)の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基から選択され、好ましくは、置換基を有していてもよい(C8~C20)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、置換基を有していてもよい(C8~C20)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基及び置換基を有していてもよい(C8~C20)の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基から選択される。また、別の形態として、前記脂溶性基は、好ましくはコレステロールに由来する基及び脂溶性ビタミンに由来する基から選択される。
【0057】
前記脂溶性基におけるアルキル基、アルケニル基及びアラルキル基が有する置換基としては、スルファニル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、スルファモイル基、炭素環アリール基、複素環アリール基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルフィニル基、アラルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アラルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、置換基を有するスルファモイル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アラルキルオキシカルボニルオキシ基、置換基を有するカルバモイルオキシ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、環状アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アラルキルオキシカルボニルアミノ基、置換基を有するウレイド基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、置換基を有するスルファモイルアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、置換基を有するカルバモイル基及びシリル基等を挙げることができる。ここで、前記炭素環アリール基、複素環アリール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、置換基を有するスルファモイル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、置換基を有するカルバモイルオキシ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、環状アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、置換基を有するウレイド基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、置換基を有するスルファモイルアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、置換基を有するカルバモイル基及びシリル基等は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、及び(C1~C8)のアルコキシ基、(C7~C8)のアラルキルオキシ基等により置換されていてもよい。
【0058】
例えば、アルコキシ基としては、(C1~C8)のアルコキシ基が挙げられる。
例えば、ハロゲン原子で置換されたアルコキシ基としては、ハロゲン原子で置換された(C1~C8)のアルコキシ基が挙げられ、その具体例としては、トリフルオロメトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基等が挙げられる。
例えば、ハロゲン原子で置換されたアルコキシカルボニルオキシ基としては、ハロゲン原子で置換された(C2~C9)のアルコキシカルボニルオキシ基が挙げられ、その具体例としては、トリフルオロメトキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0059】
前記ペプチドが含有する脂溶性基は、より好ましくは、(C15~C20)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であり、さらに好ましくは、(C15~C20)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、さらにより好ましくは、ヘプタデシル基又はオクタデシル基であり、特に好ましくは、ヘプタデシル基である。
【0060】
前記脂溶性基における脂溶性ビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKが挙げられる。
【0061】
前記ペプチドが含有する脂溶性基は、ペプチドのN末端のアミノ基又はC末端のカルボキシ基に、直接又は結合基を介して結合する。脂溶性基が、置換基を有していてもよい(C4~C30)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、置換基を有していてもよい(C4~C30)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい(C7~C30)の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基であり、前記アルキル基、アルケニル基、又はアラルキル基が、直接ペプチドのN末端と結合する場合、N末端アミノ基と、前記アルキル基、前記アルケニル基、又は前記アラルキル基の炭素原子が、直接結合する。しかし、前記アルキル基、前記アルケニル基、又は前記アラルキル基が、N末端アミノ基と、適切な結合基を介して結合する態様が、調製し易さの点で好ましい。
適切な結合基としては、-CO-、-O-CO-、-NH-CO-、-NH-(CH2)α-CO-、-NH-(CH2)α-NHCO-、-NH-(CH2)α-OCO-、-O-(CH2)α-CO-、-O-(CH2)α-NHCO-、-O-(CH2)α-OCO-及び-NH-(CH2)2-SS-(CH2)2-NHCO-等が挙げられる。ここで、αは1~12の整数であり、好ましくは4~12の整数であり、より好ましくは6~12の整数である。
適切な結合基は、特に好ましくは、-CO-である。
【0062】
脂溶性基が置換基を有していてもよい(C4~C30)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、置換基を有していてもよい(C4~C30)の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい(C7~C30)の直鎖状又は分岐鎖状のアラルキル基であり、前記アルキル基、前記アルケニル基、又は前記アラルキル基が、直接ペプチドC末端と結合する場合、前記アルキル基、前記アルケニル基、又は前記アラルキル基が、C末端カルボキシ基のヒドロキシ基を置き換えて、ケトン型構造で結合する。しかし、前記アルキル基、前記アルケニル基、又は前記アラルキル基が、C末端カルボキシ基と、適切な結合基を介して結合する態様が、調製し易さの点で好ましい。
適切な結合基としては、オキシ基、アミノ基又はチオ基が好ましい。前記結合基としてオキシ基(酸素原子)を用いる場合、前記脂溶性基である置換基を有していてもよい(C4~C30)のアルキル基、置換基を有していてもよい(C4~C30)のアルケニル基又は置換基を有していてもよい(C7~C30)のアラルキル基は、エステル結合の様式にて前記ペプチドに結合する。また、前記結合基としてアミノ基を用いる場合、前記アルキル基、前記アルケニル基、又は前記アラルキル基は、アミド結合の様式にて前記ペプチドに結合する。前記結合基としてチオ基(硫黄原子)を用いる場合、前記アルキル基、前記アルケニル基、又は前記アラルキル基は、チオエステル結合の様式にて前記ペプチドに結合する。
また、C末端カルボニル基への別の適切な結合基としては、-NH-(CH2)α-NH-、-NH-(CH2)α-O-、-O-(CH2)α-NH-、-O-(CH2)α-O-及び-NH-(CH2)2-SS-(CH2)2-NH-等が挙げられる。ここで、αは1~12の整数であり、好ましくは4~12の整数であり、特に好ましくは6~12の整数である。
【0063】
脂溶性基がコレステロールに由来する基又は脂溶性ビタミンに由来する基である場合は、コレステロール又は脂溶性ビタミンのヒドロキシ基から水素原子を取り除いた部分と、前記ペプチドC末端カルボキシ基からヒドロキシ基を取り除いた部分(以下、C末端カルボニル基と呼ぶ)とで、エステル結合の様式にて結合することが好ましい。あるいは、前記ペプチドC末端カルボニル基と、-(CH2)α-NH-又は-(CH2)α-O-等の結合基を介して結合することが好ましい。ここで、αは1~12の整数であり、好ましくは4~12の整数であり、特に好ましくは6~12の整数である。
脂溶性基がコレステロールに由来する基又は脂溶性ビタミンに由来する基である場合の別の形態としては、コレステロール又は脂溶性ビタミンのヒドロキシ基から水素原子を取り除いた部分と、前記ペプチドN末端アミノ基とで、-CO-、-(CH2)α-CO-、-(CH2)α-NHCO-、-(CH2)α-OCO-、-(CH2)2-SS-(CH2)2-NHCO-等の結合基を介して結合することが好ましい。ここで、αは1~12の整数であり、好ましくは4~12の整数であり、特に好ましくは6~12の整数である。
【0064】
該ペプチドの残基数は、4~30であり、好ましくは5~20であり、より好ましくは5~15であり、さらに好ましくは、6~12であり、特に好ましくは8~10である。
該ペプチドは、アルギニン及びリジンからなる群より選択される少なくとも一つを含有する。アルギニン及びリジンは中性条件下で正電荷を帯びているため、静電相互作用により負電荷を持つ核酸と複合体を形成することが出来る。さらに、アルギニンはグアニジンユニットを有することによって、細胞膜あるいはエンドソームなどのオルガネラ膜との相互作用により核酸送達の効率を向上できるため、該ペプチドは、少なくとも1つのアルギニンを有することが好ましい。
【0065】
該ペプチドを構成する、その他のアミノ酸残基としては、例えばグリシン、β-アラニン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン等の炭化水素系アミノ酸、プロリン、トリプトファン等の環状系アミノ酸、システイン等の硫黄系アミノ酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸等を用いることができる。システイン等の硫黄系アミノ酸は、分子間でジスルフィド結合を形成することにより、核酸送達用組成物又は核酸含有組成物の安定性を向上させる点で好ましい。一方、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸は、酸性の生体環境下においてプロトン化し、塩を形成することにより、核酸送達の効率を向上できる点で好ましい。
【0066】
上述の観点から、アルギニン及びヒスチジンを共に含有することが好ましい。両残基の合計数は、ペプチド全残基の合計数に対し、50~100%であることが好ましく、75~100%であることがさらに好ましい。
この様なペプチドの好ましい配列例として、N末端から
システイン-ヒスチジン-ヒスチジン-アルギニン-アルギニン-アルギニン-アルギニン-ヒスチジン-ヒスチジン-システイン(配列番号18)、
システイン-ヒスチジン-ヒスチジン-アルギニン-アルギニン(配列番号25)、
ヒスチジン-ヒスチジン-アルギニン-アルギニン-アルギニン-アルギニン-ヒスチジン-ヒスチジン(配列番号26)、
ヒスチジン-ヒスチジン-ヒスチジン-ヒスチジン-アルギニン-アルギニン-アルギニン-アルギニン(配列番号27)、
アルギニン-アルギニン-アルギニン-アルギニン-ヒスチジン-ヒスチジン-ヒスチジン-ヒスチジン(配列番号28)等が挙げられる。
【0067】
該ペプチドを構成するアミノ酸残基の組み合わせは、好ましくは、
アルギニン及びヒスチジン、
アルギニン、ヒスチジン及びシステイン、
又は、リジン、ヒスチジン及びシステインであり、
さらに好ましくは、アルギニン、ヒスチジン及びシステインである。
【0068】
[ペプチドの製造方法について]
ペプチドの合成法は、多くの方法が知られている。例えば、ペプチド固相合成は、日本化学会編「第5版実験化学講座 16」(丸善,2005年、283-326頁)等に記載されている。本発明のペプチドは、例えば上記文献に記載の公知の方法を用いて合成できる。
脂溶性基が直接N末端と結合したペプチドは、ペプチドの末端アミノ基と、アルデヒド基やケトン基、適切な脱離基(ハロゲン、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基など)、エポキシ基等を有する、前記脂溶性基に対応する化合物とを既知のN-アルキル化条件などにより反応させることで製造できる。
前記脂溶性基が、ペプチドのN末端アミノ基と、結合基を介して結合したペプチドは、末端アミノ基と、カルボン酸、エステル、活性エステル(N-ヒドロキシスクシンイミド化等)、酸クロリド、活性化炭酸ジエステル(4-ニトロフェニル化炭酸ジエステル等)、イソシアネート等を有する、対応する脂溶性基を有する化合物とを既知のN-カルボニル化条件などにより反応させることで製造できる。
脂溶性基が直接C末端と結合したペプチドは、ペプチドの末端カルボン酸を、酸クロリド、酸無水物、エステルへ変換し、該酸クロリド、酸無水物、エステルを、対応する脂溶性基を有する有機金属化合物等(例えば、グリニヤール反応剤、有機リチウム化合物、有機亜鉛化合物等)とを既知のケトン化反応条件などにより反応させることで製造できる。
脂溶性基が、ペプチドのC末端カルボキシ基と、結合基を介して結合したペプチドは、ペプチドの末端カルボキシ基と、アミノ基、ヒドロキシ基又はチオール基を有する、対応する脂溶性基を有する化合物とを既知の縮合反応により反応することで製造できる。また、ペプチドの末端カルボキシ基をエステル、活性エステル(N-ヒドロキシスクシンイミド化等)、酸クロリド等へ変換した基質を用いて、既知の縮合反応などにより反応させることもできる。
前記、N-アルキル化条件、N-カルボニル化条件、ケトン化反応条件、縮合反応の条件の具体的な反応条件としては、例えば、{コンプリヘンシブ オーガニック トランスフォーメーションズ セカンド エディション(Comprehensive Organic Transformations Second Edition)1999年、ジョン ウィリー アンド サンズ(John Wiley & Sons, INC.)}等を参照することができる。これら既知の文献に記載の方法、それに準じた方法、又はこれらと常法とを組み合わせることにより本発明のペプチドを製造することができる。
【0069】
[核酸送達用組成物について]
本発明の核酸送達用組成物は、ポリエチレングリコールセグメントと疎水性ポリエステルセグメントとが連結したブロック型コポリマーと、アルギニン及びリジンからなる群より選択される少なくとも一つを含有する4~30残基のペプチドを含有する。前記ブロック型コポリマーと前記ペプチドの好ましい態様は、上述の通りである。
【0070】
前記ブロック型コポリマーと前記ペプチドの含有比率としては、前記ペプチド1当量に対して、前記ブロック型コポリマーが、好ましくは0.05~50当量であり、より好ましくは0.2~2.0当量であり、特に好ましくは0.5~1.5当量である。
前記ブロック型コポリマーと前記ペプチドとは、粒子を形成することが好ましく、その粒子径は、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、30nm以下が特に好ましい。ブロック型コポリマーの疎水性ポリエステルセグメントと、前記ペプチドの脂溶性基とが、疎水性相互作用により会合することにより、ミセル粒子が形成されると考えられる。
【0071】
前記粒子径は、動的光散乱法により、光散乱粒子径測定装置(例えば、Malvern Instruments社製、Zetasizer Nano ZS;大塚電子(株)製、DLS-7000など)を用いて測定できる。光散乱粒子径測定装置は、キュムラント平均粒径や、質量平均粒径を測定できる。いずれの光散乱粒子径測定装置も、互換可能に使用できるが、好ましくは、Malvern Instruments社製、Zetasizer Nano ZSで測定されるキュムラント平均粒径が用いられる。
【0072】
次に、本発明の核酸送達用組成物の作製法について説明する。
本発明の核酸送達用組成物の作製法は、特に限定されないが、50nm程度以下の粒子径の粒子を含む核酸送達用組成物又は核酸含有組成物が高い再現性で作製できるという観点で、以下の方法で作製することが好ましい。まず、前記ブロック型コポリマーを水溶性有機溶剤に溶解し、ブロック型コポリマーの溶液を調製する。別途、前記ペプチドを水に溶解し、ペプチドの水溶液を調製し、これを前記ブロック型コポリマーの水溶性有機溶剤溶液と混合する。この混合溶液から、有機溶剤を除去することで、該核酸送達用組成物が水分散液の形態で作製される。作製された核酸送達用組成物の溶液に、更に希釈、撹拌、超音波照射、透析、濃縮等の操作を適宜実施してもよい。
【0073】
前記水溶性有機溶剤としては例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール等のアルコール溶媒、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル溶媒、アセトン等のケトン溶媒、アセトニトリル等のニトリル溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒等が挙げられる。好ましくは、エーテル溶媒が用いられる。中でも、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール及びジメチルスルホキシドから選択される1つ以上の溶媒を用いることが好ましく、テトラヒドロフランを用いることがより好ましい。
水としては、水、生理食塩水、グルコース水溶液、リン酸緩衝生理食塩水[PBS]や4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸[HEPES]等の緩衝液等を用いることができる。
【0074】
混合溶液から有機溶剤を除去する方法としては例えば、限外ろ過膜を用いる方法(例えば、透析又は、遠心式限外ろ過デバイスを用いる方法等)及び溶媒留去法等が挙げられるが、限外ろ過膜を用いる方法が好ましい。
また、各成分の溶液及びそれら混合液のpHは、粒子形成能を阻害しない範囲で適宜調整することが可能である。pHは好ましくは5~9、より好ましくは6.5~8.0であり、さらに好ましくは7.0~8.0である。pHの調整は、溶媒として緩衝液を使用することで、容易に行うことができる。各成分の溶液、及びそれら混合液の緩衝液の塩の濃度は、粒子形成能を阻害しない限り適宜調整することが可能であるが、好ましくは1mM~300mM、より好ましくは5mM~150mMである。
【0075】
前記調製方法において、各成分の溶液調製時及びそれらの混合時の温度は、ポリマーの溶解度を考慮して設定することが好ましく、通常、0℃以上であり、好ましくは0~60℃であり、より好ましくは、5~40℃である。
前記調製方法において、混合液を静置することにより平衡化する時間を設けてもよい。具体的には、例えば0℃~60℃で、0.1~50時間静置されることが好ましい。
【0076】
本発明の核酸送達用組成物には、例えば、様々な製剤型の核酸含有組成物を調製するため、通常使用されている薬学的に許容される添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、賦形剤、増量剤、充填剤、結合剤、湿潤剤、滑沢剤、潤滑剤、界面活性剤、崩壊剤、溶剤、可溶化剤、分散剤、緩衝剤、安定化剤、懸濁化剤、溶解補助剤、保存剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、等張化剤、粘稠化剤、色素、香料等を使用できる。かかる添加剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を任意の比率で組み合わせて使用してもよい。これらその他の成分の種類や使用量等の詳細は、本発明の核酸送達用組成物又は核酸含有組成物の目的、用途、使用方法等に応じて、当業者であれば適宜決定することが可能である。
【0077】
製剤型としては、注射剤及び点滴剤等が望まれているため、塩化ナトリウム;緩衝用塩;ブドウ糖、乳糖、マンニトール等の糖類;水溶性セルロース類;ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子;水;グリセロール、エタノール、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ポリエチレングリコール、クレモフォール等の水溶性有機溶媒等をさらに添加できる。
【0078】
本発明は、前記核酸送達用組成物を含み、該核酸送達用組成物に核酸を添加する方法が記載された添付文書を一体に包装したキットを包含する。
本発明は、ポリエチレングリコールセグメントと疎水性ポリエステルセグメントとが連結したブロック型コポリマーを含有する第1の組成物と、アルギニン及びリジンからなる群より選択される少なくとも一つを含有する4~30残基のペプチドを含有する第2の組成物を一体に包装したキットを包含する。該キットは、前記第1の組成物と前記第2の組成物とを混合して、前記核酸送達用組成物を作製する方法が記載された添付文書を含んでいてもよい。該ブロック型コポリマーと該ペプチドの含有比率は、核酸送達用組成物と同様である。該ブロック型コポリマーと該ペプチドは、前記添加剤や溶剤と共に充填されていて良い。
【0079】
[核酸含有組成物について]
本発明は、前記ブロック型コポリマーと前記ペプチドからなる核酸送達用組成物に、核酸を含有させた核酸含有組成物を包含する。該核酸含有組成物は、その核酸分子を標的組織に送達し、細胞内に導入することができる。本発明を用いることにより、生理活性を有する核酸を、生体内の様々な核酸分解因子を回避して標的組織まで送達し、該核酸を標的細胞に導入し、エンドソームから脱出させることにより、核酸を細胞内へ放出させ、該核酸の機能を発揮させることができる。
【0080】
本発明において、用いられる核酸は特に制限されず、DNA、RNA、その他天然の核酸、及びそれらの修飾核酸等が挙げられる。また、該核酸としては、一本鎖状態の核酸であっても、二本鎖状態の核酸であってもよい。該核酸は、生体内に送達された後、生体、組織、細胞等に対して何らかの生理活性作用を有することが好ましい。
該核酸としては、プラスミドDNA、siRNA、miRNA、アンチセンス核酸、shRNA、pre-miRNA、pri-miRNA、mRNA、デコイ核酸、リボザイム、DNAアプタマー、RNAアプタマー、DNA酵素、各種抑制遺伝子(癌抑制遺伝子等)等が挙げられ、修飾核酸も含まれる。
【0081】
該修飾核酸としては、例えば、核酸のリン酸部分がホスホロチオエート、メチルホスホナート、ホスフェートトリエステル、ホスホロアミデート等に修飾された核酸や、ミセル粒子の安定化等のために、コレステロールやビタミンE等の疎水性官能基が結合された核酸等を挙げることができる。糖部分(リボース又はデオキシリボース)が修飾された核酸の例としては、ヘキシトールヌクレオチド(HNA)、シクロヘキセンヌクレオチド(CeNA)、ペプチド核酸(PNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオヌクレオチド(TNA)、モルホリノ核酸、トリシクロ-DNA(tcDNA)、2’-O-メチル化ヌクレオチド、2’-O-メトキシエチル(MOE)化ヌクレオチド、2’-O-アミノプロピル(AP)化ヌクレオチド、2’-フルオロ化ヌクレオチド、2’-F-アラビノヌクレオチド(2’-F-ANA)、架橋化ヌクレオチド(BNA(Bridged Nucleic Acid))、2’-O-(N-メチルアセトアミド)(NMA)化ヌクレオチド、2’-O-メチルカルバモイルエチル(MCE)化ヌクレオチド等の修飾ヌクレオチドを含む核酸を挙げることができる。架橋化ヌクレオチドとしては、LNAとも称されるロックド核酸(Locked Nucleic Acid(登録商標))、当業者に知られた他の架橋化ヌクレオチド等が挙げられる。また、Journal of Medicinal Chemistry, 2016, 59, pp 9645-9667、Medicinal Chemistry Communication, 2014, 5, pp 1454-1471、Future Medicinal Chemistry, 2011, 3, pp 339-365、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 2008, 18, pp 2296-2300、国際公開第2007/090071号、国際公開2017/142054号等にも、修飾されたヌクレオチドが、開示されている。
【0082】
用いる核酸の種類は、その核酸の薬理活性を発揮させて、薬効を得るための目的や用途に応じて、適宜選択することができる。
例えば、プラスミドDNAとしては、標的組織の細胞において所望の機能を発揮し得るものであれば良い。かかるプラスミドDNAは種々のものが知られており(例えば、マイクロバイオロジースペクトラム、2巻、6号、2014年)、核酸送達用組成物の用途に応じて所望のプラスミドDNAを選択することが可能である。
siRNA及びmiRNAとしては、RNA干渉(RNAi)を利用して目的の遺伝子発現を抑制し得るものであれば良い。RNA干渉の標的遺伝子としては、特に限定されないが、癌(腫瘍)遺伝子、抗アポトーシス遺伝子、細胞周期関連遺伝子、増殖シグナル遺伝子、転写因子遺伝子等が挙げられる。またRNAの塩基長は限定されない。
【0083】
また、アンチセンス核酸としては、標的遺伝子のmRNA、mRNA前駆体又はncRNA(ノンコーディングRNA;例えばリボソームRNA、転移RNA、miRNA等)に対して相補的な一本鎖のDNA、RNA及び/又はそれらの構造類似体であるものであれば良い。アンチセンス核酸の標的は特に限定されず、アンチセンス核酸の塩基長も特に限定されない。また、国際公開第2013/089283号、国際公開第2017/068791号、国際公開第2017/068790号又は国際公開第2018/003739号等に記載されているような、アンチセンス核酸と該核酸に相補的なRNAオリゴヌクレオチドを含む二本鎖オリゴヌクレオチド、及びアンチセンス核酸と該核酸に相補的なPNAオリゴヌクレオチドを含む二本鎖オリゴヌクレオチド、及びアンチセンス核酸と該核酸に相補的なDNAオリゴヌクレオチドを含む二本鎖オリゴヌクレオチド等を用いても良い。
【0084】
また、アンチセンス核酸として、アンチセンス核酸と該核酸に相補的なRNAを含むオリゴヌクレオチドとが、連結されたオリゴヌクレオチドや、アンチセンス核酸と該核酸に相補的なPNAオリゴヌクレオチドとが連結されたオリゴヌクレオチド、アンチセンス核酸と該核酸に相補的なDNAを含むオリゴヌクレオチドとが連結されたオリゴヌクレオチドを用いてもよい。前記オリゴヌクレオチドの連結は、直接的であっても、生理的条件で分解されるオリゴヌクレオチドに由来する基や、非ヌクレオチド構造を含む連結基等を介して間接的であってもよい。そのようなオリゴヌクレオチドは、例えば、国際公開第2017/131124に記載されている。
【0085】
「非ヌクレオチド構造を含む連結基」は、少なくとも1つの「非ヌクレオチド構造」を構成単位として有する連結基である。非ヌクレオチド構造としては、例えば核酸塩基を有さない構造が挙げられる。非ヌクレオチド構造を含む連結基は、例えば、国際公開第2012/017919号、国際公開第2013/103146号、国際公開第2013/133221号、国際公開第2015/099187号、国際公開第2016/104775号等に記載されており、非ヌクレオチド構造を含む連結基を有するオリゴヌクレオチドの合成法も、これら文献を参照できる。
【0086】
「生理的条件で分解されるオリゴヌクレオチド」は、生理的条件にて各種DNase(デオキシリボヌクレアーゼ)及びRNase(リボヌクレアーゼ)等の酵素によって分解されるオリゴヌクレオチドであればよく、該オリゴヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、その一部あるいは全部において、塩基、糖若しくはリン酸結合に化学修飾がされていてもよく、されていなくてもよい。「生理的条件で分解されるオリゴヌクレオチド」は、例えば、ホスホジエステル結合を少なくとも1つ含み、好ましくはホスホジエステル結合で連結されたオリゴヌクレオチドであり、より好ましくはDNA又はRNAであり、さらに好ましくはRNAである。
生理的条件で分解されるオリゴヌクレオチドは、生理的条件で分解されるオリゴヌクレオチド内において部分的に相補的な配列を含んでいてもよく、含んでいなくてもよいが、好ましくは、部分的に相補的な配列を含まない。そのようなオリゴヌクレオチドの例として、ホスホジエステル結合で連結された(N)k(Nは、それぞれ独立してアデノシン、ウリジン、シチジン、グアノシン、2’-デオキシアデノシン、チミジン、2’-デオキシシチジン、または2’-デオキシグアノシンであり、kは1~40の整数(繰り返し数)である)を挙げることができる。中でも、kは好ましくは3~20であり、より好ましくは4~10であり、さらに好ましくは4~7であり、さらにより好ましくは、4又は5であり、特に好ましくは4である。
【0087】
本発明において、該核酸は、特にRNA干渉を利用した標的遺伝子の発現抑制作用を有するRNA又はアンチセンス核酸が好ましく、siRNA又はmiRNAがより好ましく、siRNAがより好ましい。siRNAの塩基長は、好ましくは10~30塩基であり、より好ましくは15~25塩基であり、さらに好ましくは20~30塩基であり、さらにより好ましくは20~25塩基であり、特に好ましくは21塩基である。
アンチセンス核酸の塩基長は、例えば、8~40塩基であり、好ましくは、10~30塩基であり、より好ましくは、11~20塩基であり、さらに好ましくは、12~14塩基であり、特に好ましくは、13塩基である。前記二本鎖オリゴヌクレオチドや、アンチセンス核酸と該核酸に相補的なRNAオリゴヌクレオチド又はPNAオリゴヌクレオチドとが連結されたオリゴヌクレオチドの場合には、アンチセンスの配列を有する部分(すなわち、生理活性を有する部分)の好適な塩基長は、前記のアンチセンス核酸の塩基長と同様である。
【0088】
本発明において、前記ブロック型コポリマーと前記ペプチドとを含有する前記核酸送達用組成物に、核酸を添加して核酸含有組成物を調製する場合、これらの構成成分の相互作用により複合体が形成されていることが好ましい。
ペプチドが脂溶性基を有する場合、アニオン性荷電体である核酸とカチオン性荷電体であるペプチドとが静電相互作用により会合し、更にブロック型コポリマーの疎水性ポリエステルセグメントとペプチドの脂溶性基部分とが疎水性相互作用により会合することで、ミセル粒子が形成されていることが好ましい。
【0089】
ペプチドが脂溶性基を有さない場合、アニオン性荷電体である核酸とカチオン性荷電体であるペプチドとが静電相互作用により複合体を形成し、該複合体が、ブロック型コポリマーの疎水性ポリエステルセグメント同士の疎水性相互作用により自己会合することで形成されるミセル粒子の内部に取り込まれていることが好ましい。
【0090】
該核酸含有組成物のペプチドと核酸の含有比率は、前記複合体が形成される条件であれば特に制限されない。前記含有比率は、ペプチドの総カチオン数(N値)と、核酸の総アニオン数(P値)の比で規定される、N/P比(N値をP値で除した値)で表されることが好ましい。
本発明の核酸含有組成物において、N/P比は特に限定されないが、好ましくは1~100であり、より好ましくは1~50であり、さらに好ましくは5~30であり、さらにより好ましくは5~20であり、特に好ましくは、5~15であり、最も好ましくは、10である。その他の態様として、N/P比は、好ましくは、20~30である。N/P比を前記範囲内に収めることで、核酸分解酵素に対する安定性の向上と、細胞内導入率の向上の両立が可能となる。
【0091】
前記核酸含有組成物の調製方法は、特に限定されず、ブロック型コポリマー、ペプチド及び核酸を、適当な溶剤を用いて混合することで調製することができる。50nm程度以下の粒子径の粒子を含む核酸送達用組成物又は核酸含有組成物が高い再現性で作製できるとういう観点で、水に分散した状態の核酸送達用組成物を前述の方法で作製した後、前記核酸を混合することで、該核酸含有組成物が水中に分散した状態で作製されることが好ましい。作製された核酸含有組成物溶液は、更に希釈、撹拌、超音波照射、透析、濃縮等の操作を適宜付加してもよい。
【0092】
ペプチドが脂溶性基を含有しない場合、ペプチドの水溶液と核酸の水溶液とを混合し、さらに前記ブロック型コポリマーの水溶性有機溶剤の溶液を混合した後に、有機溶剤を除去することで、該核酸含有組成物が水分散液の形態で作製される。作製された核酸含有組成物の溶液に、更に希釈、撹拌、超音波照射、透析、濃縮等の操作を適宜実施してもよい。
前記水溶性有機溶剤は、核酸送達用組成物の作製法で前述した通りである。
水としては、通常、水や生理食塩水、グルコース水溶液、PBSや、HEPESの緩衝液等を用いることができる。
混合溶液から有機溶剤を除去する方法、各成分の溶液及びそれら混合液のpH、各成分の溶液調製時及びそれら混合時における温度、混合液を静置して平衡化する時間は、核酸送達用組成物の作製法で前述した通りである。
【0093】
本発明の核酸含有組成物において、前記ブロック型コポリマーと、前記ペプチドと、前記核酸とは粒子を形成していることが好ましく、その粒子径は、100nm以下が好ましい。上記調製法に従うことで、100nm以下の粒子径の粒子を含む核酸含有組成物が得られる。さらに、腫瘍組織への浸透性の向上により、抗腫瘍効果が向上するという観点から、核酸含有組成物の粒子の粒子径は、50nm以下がより好ましく、40nm以下がさらに好ましく、30nm以下が特に好ましい。前記粒子は、ブロック型コポリマーの疎水性ポリエステルセグメント同士の疎水性相互作用、又は該疎水性ポリエステルセグメントとペプチドの脂溶性基部分との疎水性相互作用により、ミセル構造を有していると考えられる。
【0094】
前記粒子径は、前記核酸送達用組成物と同様、動的光散乱法により、測定できる。
【0095】
本発明の核酸含有組成物は、さらに低分子薬剤を含有してもよい。低分子薬剤を含有する本発明の核酸含有組成物は、上述した核酸含有組成物の調製時に、さらに低分子薬剤を添加することで、作製できる。該低分子薬剤は、核酸含有組成物の前記粒子の内部に包含されていることが好ましい。内包できる低分子薬剤としては、特に限定されないが、各種抗がん剤、中枢神経系疾患治療薬、各種抗生物質、末梢神経疾患治療薬、感覚器官疾患治療薬、循環器官疾患治療薬、呼吸器官系疾患治療薬、消化器官系疾患治療薬、ホルモン剤、泌尿生殖器官疾患治療薬、外皮疾患治療薬、歯科口腔疾患治療薬、ビタミン剤、滋養強壮薬、細胞賦活用剤及び抗アレルギー剤等が挙げられる。これらの薬物の内、1種が単独で内包されてもよく、2種以上が内包されてもよい。
【0096】
内包される好ましい物質は抗がん剤である。使用可能な抗がん剤は特に制限されないが、例えば、次の化合物を挙げることができる:シクロホスファミド水和物、イホスファミド、チオテパ、ブスルファラン、メルファラン、ニムスチン、ラニムスチン、ダカルパジン、テモゾロミド等のアルキル化剤;メトトレキサート、ペメトレキセドナトリウム水和物、フルオロウラシル、ドキシフルリジン、カペシタビン、タガフール、シタラビン、ゲムシタビン、フルダラビン燐酸エステル、ネララビン、クラドリビン、レボホリナートカルシウム等の代謝拮抗剤;ドキソルビシン、ダウノルビシン、プラルビシン、エピルビシン、イダルビシン、アクラルビシン、アムルビシン、ミトキサントロン、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ブレオマシイン、プペロマシン、ジノスタチンスチマラマー、カリケアマイシン等の抗生物質、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、パクリタキセル、ドセタキセル等の微小管阻害剤;アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、ファドロゾール塩酸塩水和物等のアロマターゼ阻害剤;シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン等の白金製剤;イリノテカン、ノギテカン、エトポシド、ソブゾキサン等のトポイソメラーゼ阻害剤;プレドニゾロン、デキサメサゾンなどの副腎皮質ステロイド;サリドマイド、レナリドマイド等のサリドマイド誘導体;ボルテゾミブ等のプロテアーゼ阻害剤。これらの抗がん剤は、商業的に入手可能であり、1種が内包されてもよく、2種以上が内包されてもよい。
【0097】
核酸含有組成物の作製に用いる、前記低分子薬剤の濃度は、その使用目的に応じて適宜設定することができるが、例えば、10~1000μM、好ましくは20~500μM、より好ましくは40~200μMである。
【0098】
本発明の核酸含有組成物は、各種疾患の原因となる細胞又は組織を標的として、所望の核酸を送達し、細胞内へ導入する治療(遺伝子治療)に用いることができる。
本核酸含有組成物による治療対象となる疾患としては特に限定されないが、がん(例えば肺癌、腎臓癌、脳腫瘍、肝癌、乳癌、大腸癌、神経芽細胞腫及び膀胱癌等)、循環器疾患、運動器疾患及び中枢系疾患等が挙げられる。
本発明の核酸含有組成物は、薬剤の製造において一般に使用されるその他の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、核酸送達用組成物への添加剤と同様の添加剤などが挙げられる。かかる添加剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を任意の比率で組み合わせて使用してもよい。これらその他の成分の種類や使用量等の詳細は、医薬組成物の目的、用途、使用方法等に応じて、当業者であれば適宜決定することが可能である。
【0099】
本発明の核酸含有組成物は、様々な製剤型を採用できるが、通常は、注射剤(中でも静脈内注射剤)及び点滴剤が採用される。例えば、単位投与量のアンプルの状態等で提供される。別の形態としては、経鼻投与、経口投与、経皮投与、経眼投与などが採用される。
【0100】
本発明の核酸含有組成物は、インビトロ又はインビボにおいて標的細胞又は組織と接触させることにより、標的細胞又は組織に核酸を送達する。インビトロにおいて好ましい接触方法としては、培養前の培地に予め核酸含有組成物を添加する方法(リバーストランスフェクション法)、及び培養中の培地に後から核酸含有組成物を添加する方法(フォワードトランスフェクション法)が挙げられる。またインビボにおいて好ましい接触方法としては、局所投与や血中投与等が挙げられる。これらの方法により、標的細胞へ、核酸を導入することができ、該核酸分子の生理活性機能を効率的に発揮させることができる。
【0101】
ヒトなどの霊長類に加えて、様々な他の哺乳類の疾患を、本発明の核酸含有組成物により治療、予防、改善することができる。例えば、それだけに限らないが、ウシ(cow)、ヒツジ(sheep)、ヤギ、ウマ(horse)、イヌ(dog)、ネコ(cat)、テンジクネズミ、又は他のウシ(bovine)、ヒツジ(ovine)、ウマ(equine)、イヌ(canine)、ネコ(feline)、マウスなどの齧歯類の種を含めた哺乳類の種の疾患を治療することができる。また、本発明の核酸含有組成物は、鳥類(例えば、ニワトリ)などの他の種の疾患を治療することができる。
【0102】
本発明の核酸含有組成物を、ヒトを含む動物に投与又は摂取する場合、その投与量又は摂取量は、対象の年齢、体重、症状、健康状態、組成物の種類(医薬品、飲食品など)等に応じて、適宜選択されるが、その投与量又は摂取量は、含有する核酸に換算して0.0001mg/kg/日~100mg/kg/日であることが好ましい。
【実施例】
【0103】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
以下の実施例において、ブロック型コポリマーの構造は、ポリエチレングリコールセグメント及び疎水性ポリエステルセグメントの種類と分子量を順に示して表す。例えば、分子量が2,000のモノメトキシポリエチレングリコール[MPEG]と、分子量が5,000のポリ(ε-カプロラクトン)[PCL]のブロック型コポリマーは、「MPEG-PCL(2000-5000)」と略記する。モノメトキシポリエチレングリコールとポリ(乳酸-グリコール酸)のコポリマーは、「MPEG-PLGA」、モノメトキシポリエチレングリコールとポリ乳酸のコポリマーは「MPEG-PLA」と略記する。実施例において、「MPEG-PLGA」のポリ(乳酸-グリコール酸)部分の乳酸部分、及び「MPEG-PLA」のポリ乳酸部分は、D体とL体の混合物である。
ペプチドの配列は、N末端からC末端へ順に、IUPAC-IUBガイドラインの1文字表記によって示す。例えば、N末端から、システイン-ヒスチジン-アルギニンであるペプチドの場合は、「CHR」と略記する。特に記載が無い限り、アミノ酸は天然型である。さらに、このペプチドのN末端アミノ基に、-CO-基を介してヘプタデシル基が結合している場合は、「STR-CHR」と略記する。
「FBS」はウシ胎児血清を、「FBS(+)」は前記FBSが添加されていることを、「FBS(-)」は前記FBSが添加されていないことを、「DMEM」はダルベッコ改変イーグル培地を、「PBS」はリン酸緩衝生理食塩水を、「HEPES」は4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸を、「EDTA」はエチレンジアミン四酢酸を、「LPS」はリポポリサッカライドを、「w/o型エマルジョン」は、油相に水滴が分散する油中水型のエマルジョンを意味する。
また、以下の実施例及び
図1~12において、「Example」は、実施例を意味し、「Comparative」は、比較例を意味する。
【0104】
以下の実施例において使用したブロック型コポリマーは、シグマアルドリッチ、日油等より入手できる。
ペプチドは、当業者に公知の通常の方法によって合成できる。
siRNAは、株式会社ジーンデザイン、株式会社ニッポンジーン又はコスモ・バイオ株式会社等から入手できる。尚、配列表記において、「(M)」は、その直前の塩基が2’-O-メチル化ヌクレオチドであることを意味し、「(L)」は、その直前の塩基がLNA(locked nucleic acid)を意味し、小文字のアルファベットはデオキシリボヌクレオチドを意味し、大文字のアルファベット(前記(M)付のアルファベットは除く)はリボヌクレオチドを意味し、「^」はホスホロチオエート結合を意味し、「5」は、そのヌクレオチドの塩基が5-メチルシトシンであることを意味する。核酸送達用組成物の調製に用いた核酸は以下の通りである。
【0105】
siRNA(VEGF):血管内皮細胞増殖因子遺伝子を標的として設計され、センス鎖として、5’-CCAUGAAGCCCUGGAGUGCtt-3’(配列番号1)、アンチセンス鎖として5’-GCACUCCAGGGCUUCAUCGtt-3’(配列番号2)を用い、常法により2本鎖を形成させたsiRNAである。
Chol-siRNA(VEGF):血管内皮細胞増殖因子遺伝子を標的として設計され、センス鎖5’末端にコレステロール[Chol]が付加されており、センス鎖として、5’-CCAUGAAGCCCUGGAGUGCtt-3’(配列番号1)、アンチセンス鎖として5’-GCACUCCAGGGCUUCAUCGtt-3’(配列番号2)を用い、常法により2本鎖を形成させたsiRNAである。
siRNA(RelA):転写因子RelA遺伝子を標的として設計され、センス鎖として、5’-GGUGCAGAAAGAAGACAUUtt-3’(配列番号3)、アンチセンス鎖として5’-AAUGUCUUCUUUCUGCACCtt-3’(配列番号4)を用い、常法により2本鎖を形成させたsiRNAである。
siRNA(Plk1):ポル様キナーゼ1遺伝子を標的として設計され、センス鎖として、5’-AGAU(M)CACCCU(M)CCUU(M)AAAU(M)-3’(配列番号5)、アンチセンス鎖として5’-UAUUUAAG(M)GAGGGUGAU(M)CUUU-3’(配列番号6)を用い、常法により2本鎖を形成させたsiRNAである。
【0106】
siRNA(Cont1):コントロール用として設計され、センス鎖として、5’-AUCCGCGCGAUAGUACGUAtt-3’(配列番号7)、アンチセンス鎖として5’-UACGUACUAUCGCGCGGAUtt-3’(配列番号8)を用い、常法により2本鎖を形成させたsiRNAである。
siRNA(Cont2):コントロール用として設計され、センス鎖として、5’-CUUACGCUGAGUACUUCGAtt-3’(配列番号9)、アンチセンス鎖として5’-UCGAAGUACUCAGCGUAAGtt-3’(配列番号10)を用い、常法により2本鎖を形成させたsiRNAである。
siRNA(Luc):ルシフェラーゼ遺伝子を標的として設計され、センス鎖として、5’-CUUACGCUGAGUACUUCGAtt-3’(配列番号11)、アンチセンス鎖として5’-UCGAAGUACUCAGCGUAAGtt-3’(配列番号12)を用い、常法により2本鎖を形成させたsiRNAである。
FAM-siRNA(Cont1):コントロール用として設計され、アンチセンス鎖の5’末端に蛍光標識である6-カルボキシフルオレセイン[6FAM]が付加されており、センス鎖として、5’-AUCCGCGCGAUAGUACGUAtt-3’(配列番号7)、アンチセンス鎖として5’-UACGUACUAUCGCGCGGAUtt-3’(配列番号8)を用い、常法により2本鎖を形成させたsiRNAである。
【0107】
ここで、センス鎖5’末端へのCholの付加は、5’末端のヒドロキシ基から水素原子を取り除いた部分に、
式: -P(=O)-O-(CH2)6-N(H)C(=O)-
で表される基を介して、Cholの1つのヒドロキシ基から水素原子を取り除いた部分が、結合していることを意味する。なお、式中、カルボニル基の炭素原子がCholの1つのヒドロキシ基から水素原子を取り除いた部分に結合し、リン原子は、5’末端のヒドロキシ基から水素原子を取り除いた部分に結合する。
また、アンチセンス鎖5’末端への6FAMの付加は、5’末端のヒドロキシ基から水素原子を取り除いた部分に、
式: -P(=O)-O-(CH2)6-N(H)-
で表される基を介して、6FAMの1つのカルボキシ基からヒドロキシ基を取り除いた部分が、結合していることを意味する。なお、式中、窒素原子が6FAMの1つのカルボキシ基からヒドロキシ基を取り除いた部分に結合し、リン原子は、5’末端のヒドロキシ基から水素原子を取り除いた部分に結合する。
【0108】
ASO(Srb1):スカベンジャー受容体クラスBメンバー1遺伝子を標的として設計され、5’-T(L)^5(L)^a^g^t^c^a^t^g^a^c^t^T(L)^5(L)-3’(配列番号21)であるアンチセンス核酸である。
HDO(ApoB):アポリポタンパクB遺伝子を標的として設計され、アンチセンス鎖として5’-G(L)^5(L)^a^t^t^g^g^t^a^t^T(L)^5(L)^A(L)-3’(配列番号22)、センスとして5’-U(M)^G(M)^A(M)^AUACCAAU^G(M)^C(M)-3’(配列番号23)を用い、常法により2本鎖を形成させた二本鎖オリゴヌクレオチド(HDO)である。
ss-HDO(ApoB):アポリポタンパクB遺伝子を標的として設計され、5’-U(M)^G(M)^A(M)^AUACCAAUGCAAAAG(L)^5(L)^a^t^t^g^g^t^a^t^T(L)^5(L)^A(L)-3’(配列番号24)であり、常法により分子内で2本鎖を形成させた、一本鎖オリゴヌクレオチドである。
【0109】
ドセタキセル分析時の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、以下の条件で測定した。
HPLC条件例:
カラム:XBridge BEH C18、4.6mm×150mm、粒子径3.5μm
オーブン温度:35℃
溶媒:アセトニトリルと0.1%酢酸ナトリウム水溶液の混合溶液
アセトニトリル:0.1%酢酸ナトリウム水溶液の比率(体積比)は、5分間は、50:50とし、その後10分間は、90:10とした。
流速:1.0mL/分
検出波長:230nm
【0110】
≪試験群A-1:核酸送達用組成物の調製1≫
実施例1
MPEG-PCL(2000-2000)(9.6mg)をテトラヒドロフラン(1.0mL)に溶解し、528μLを抜き出した(A液)。STR-CHHRRRRHHCで表される配列のペプチド(配列番号13)(4.0mg)を50mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,1.6mL)に溶解して、798μL抜き出し、これに100mMジチオトレイトール(750μL)を混合した(B液)。B液にA液を混合して撹拌後、10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,1650μL)で希釈し、遠心式フィルターユニット(Amicon Ultra、メンブレンNMWL3,000、メルクミリポア社製)を用いて、約900μLまで濃縮した。さらに、10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,2400μL)による希釈と濃縮を2回繰り返し、核酸送達用組成物を得た。
上記で得られた核酸送達用組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定したところ、22nmであった。
【0111】
≪試験群A-2:核酸送達用組成物の調製2≫
実施例2~8
表1に記載のブロック型コポリマーとペプチド(配列番号13~17)を用いて、実施例1と同様の方法により、核酸送達用組成物を得た。得られた核酸送達用組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定した結果を、表1に示した。
【0112】
【0113】
≪試験群A-3:核酸送達用組成物の調製3≫
実施例9
MPEG-PCL(2000-2000)(9.6mg)をテトラヒドロフラン(1.0mL)に溶解し、52.8μLを抜き出した(A液)。STR-CHHRRRRHHCで表される配列のペプチド(配列番号13)(4.0mg)を50mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,1.6mL)に溶解して、39.4μL抜き出し、これに100mMのジチオトレイトール(37.5μL)と10mMのHEPESの緩衝液(pH=7.4,77μL)を混合した(B液)。B液にA液を混合して撹拌後、10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,165μL)で希釈し、遠心式フィルターユニット(Amicon Ultra、メンブレンNMWL3,000、メルクミリポア社製)を用いて、約100μLまで濃縮した。さらに、10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,240μL)による希釈と濃縮を2回繰り返し、核酸送達用組成物を得た。
上記で得られた核酸送達用組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定したところ、21nmであった。
【0114】
≪試験群B-1:核酸含有組成物の調製1≫
実施例10
siRNA(VEGF)(150μg)を10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,2250μL)で希釈した(C液)。実施例1にて得られた核酸送達用組成物に、C液を混合して撹拌することで、核酸含有組成物を得た。この場合は、N/P比は10である。
上記で得られた核酸含有組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定したところ、29nmであった。
【0115】
≪試験群B-2:核酸含有組成物の調製2≫
実施例11~18
表2に記載のブロック型コポリマー及びペプチド(配列番号13~16)を用いて、実施例1と同様の方法により、核酸送達用組成物を得た後、該核酸送達用組成物を用い実施例10と同様の方法により、N/P比が10の核酸含有組成物を得た。得られた核酸含有組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定した結果を、表2に示した。
【0116】
【0117】
≪試験群B-3:核酸含有組成物の調製3≫
実施例19
siRNA(VEGF)の代わりにsiRNA(Cont1)を用いて、実施例10と同様の方法により、N/P比が10の核酸含有組成物を得た。
上記で得られた核酸含有組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(大塚電子、DLS-7000)を用い、動的光散乱法により質量平均粒径を測定したところ、27nmであった。
【0118】
≪試験群B-4:核酸含有組成物の調製4≫
実施例20~22
siRNA(VEGF)の代わりに表3に記載のsiRNAを用いて、実施例10と同様の方法により、核酸含有組成物を得た。得られた核酸含有組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定した結果を、表3に示した。
【0119】
【0120】
表3から、siRNAの配列を変えても、同程度の粒径の粒子が得られることが確認できた。
【0121】
≪試験群B-5:核酸含有組成物の調製5≫
実施例23~25
MPEG-PCL(2000-2000)(10mg)をテトラヒドロフラン(1.0mL)に溶液した(A1液)。STR-CHHRRRRHHCで表される配列のペプチド(配列番号13)(6.5mg)を10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,1.0mL)に溶解した(B1液)。siRNA(RelA)(1.0mg)を水(1.0mL)に溶解した(C1液)。B1液とC1液を体積比1:1で混合すると、N/P比は5となる。前記体積比を2:1、4:1、又は6:1で混合すると、N/P比はそれぞれ、10、20、30となる。
下記には、N/P比は10の場合の核酸含有組成物の調製例を示す。A1液(15.6μL)をテトラヒドロフラン(44.4μL)で希釈し、全体量を60μLとした(A2液)。B1液(10μL)を10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,140μL)で希釈し、全体量を150μLとした(B2液)。C1液(5μL)を水(145μL)で希釈し、全体量を150μLとした(C2液)。
B2液にC2液を混合し5秒間撹拌した後、A2液を混合し撹拌した。遠心式フィルターユニット(Amicon Ultra、メンブレンNMWL3,000、メルクミリポア社製)を用いて、濃縮した。さらに、水(480μL)による希釈と濃縮を3回繰り返し、核酸送達用組成物を得た。これを、水で希釈し全体量を500μLとした。
【0122】
同様に、N/P比が20の場合は、A1液(31.2μL)とB1液(20μL)を用いて調製し、N/P比が30の場合は、A1液(46.8μL)とB1液(30μL)を用いて調製した。
得られた核酸含有組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(大塚電子、DLS-7000)を用い、動的光散乱法により質量平均粒径を測定した結果を、表4に示した。
【0123】
【0124】
≪試験群B-6:核酸含有組成物の調製6≫
実施例26~27
MPEG-PCL(2000-2000)(5.0mg)をテトラヒドロフラン(1mL)に溶解し、18μL抜き出し、テトラヒドロフラン(60μL)で希釈し、全体量を78μLとした(A液)。表5に示した配列のペプチド(配列番号18~19)(5.0mg)を10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,2.0mL)に溶解して、N/P比が10となるように抜き出し、10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4)で希釈し、全体量を150μLとした(B液)。siRNA(VEGF)(50μg)を10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,1.0mL)で希釈した後、60μL抜き出し、さらに10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,90μL)で希釈し、全体量を150μLとした(C液)。
C液にB液を混合し、5秒間撹拌した後、A液を混合し撹拌した。これを10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,0.4mL)で希釈し、遠心式フィルターユニット(Amicon Ultra、メンブレンNMWL3,000、メルクミリポア社製)を用いて、濃縮した。さらに、10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,0.8mL)による希釈と濃縮を3回繰り返し、核酸送達用組成物を得た。これを、10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4)で希釈し全体量を1.0mLとした。
得られた核酸含有組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定した結果を、表5に示した。
【0125】
【0126】
≪試験群B-7:核酸含有組成物の調製7≫
実施例28~29
siRNA(VEGF)(15μg)を10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,225μL)で希釈した(C液)。また、Chol-siRNA(VEGF)(15.8μg)を10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,225μL)で希釈した(D液)。実施例9にて得られた核酸送達用組成物に、C液又はD液を混合し撹拌することで、核酸含有組成物を得た。この場合は、N/P比は5である。
上記で得られた核酸含有組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定した結果を、表6に示した。
【0127】
【0128】
≪試験群A-4:核酸送達用組成物の調製4≫
実施例30
実施例1のペプチドの代わりに表7のペプチド(配列番号20)を用い、実施例1と同様の方法で、核酸送達用組成物を得た。得られた核酸送達用組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定した結果を、表7に示した。
【0129】
【0130】
≪試験群B-8:核酸含有組成物の調製8≫
実施例31
実施例1の代わりに実施例30で得られた核酸送達用組成物を用いて、実施例10と同様の方法により、N/P比が10の核酸含有組成物を得た。得られた核酸含有組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定したところ、28nmであった。
【0131】
≪試験群B-9:核酸含有組成物の調製9≫
実施例32~33
MPEG-PCL(2000-2000)(9.6mg)をテトラヒドロフラン(1.0mL)に溶解し、52.8μLを抜き出した(A液)。STR-CHHRRRRHHCで表される配列のペプチド(配列番号13)(4.0mg)を50mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,1.6mL)に溶解して、39.4μL抜き出し、これに100mMのジチオトレイトール水溶液(37.5μL)と10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,77μL)を混合した(B液)。ドセタキセル(5.0mg)をテトラヒドロフラン(1.0mL)に溶解し、15.0μL又は、30.0μLを抜き出した(C液)。siRNA(VEGF)(150μg)を10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,2250μL)で希釈した(D液)。
B液にA液とC液を順に混合し撹拌した後、10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,165μL)で希釈し、遠心式フィルターユニット(Amicon Ultra、メンブレンNMWL3,000、メルクミリポア社製)を用いて、約100μLまで濃縮した。さらに、10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,240μL)による希釈と濃縮を2回繰り返し、ドセタキセル含有の核酸送達用組成物を得た。ここにC液を混合し撹拌することで、ドセタキセル含有の核酸含有組成物を得た。この場合は、N/P比は10である。
上記で得られたドセタキセル含有の核酸含有組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定した結果と、HPLCによる定量分析により算出したドセタキセルの内包量及び内包率を表8に示した。なお、内包率は、ドセタキセルの仕込み量(C液に含まれるドセタキセルの重量)に対する内包量を百分率で表した値である。
【0132】
【0133】
≪試験群B-10:核酸含有組成物の調製10≫
実施例34
MPEG-PCL(2000-2000)(9.6mg)をテトラヒドロフラン(1.0mL)に溶解し、52.8μLを抜き出した(A液)。STR-CHHRRRRHHCで表される配列のペプチド(配列番号13)(4.0mg)を50mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,1.6mL)に溶解して、39.4μL抜き出し、これに100mMのジチオトレイトール水溶液(37.5μL)と10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,77μL)を混合した(B液)。ドセタキセル(5.0mg)をテトラヒドロフラン(1.0mL)に溶解し、30.0μLを抜き出した(C液)。siRNA(VEGF)(150μg)を10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,2250μL)で希釈した(D液)。
B液にA液とC液を順に混合し撹拌した後、10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,165μL)で希釈し、室温下24時間静置することにより、テトラヒドロフランを自然蒸発させた。その後、遠心式フィルターユニット(Amicon Ultra、メンブレンNMWL3,000、メルクミリポア社製)を用いて、約100μLまで濃縮した。さらに、10mMのHEPES緩衝液(pH=7.4,240μL)による希釈と濃縮を2回繰り返すことで、ドセタキセル含有の核酸送達用組成物を得た。ここにC液を混合し撹拌することで、ドセタキセル含有の核酸含有組成物を得た。この場合は、N/P比は10である。
上記で得られたドセタキセル含有の核酸含有組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定した結果と、HPLCによる定量分析により算出したドセタキセルの内包量及び内包率を表9に示した。
【0134】
【0135】
比較例1
文献(International Journal of Pharmaceutics,vol.455,p.40-47,2013)を参考に、MPEG-PCL(2000-2000)と、CHHRRRRHHCで表される配列のペプチド(配列番号18)をコンジュゲーションして得られるポリマーを作製した。siRNA(Cont1)をN/P比が10となるように混合し、複合体を得た。
上記で得られた複合体を、光散乱粒子径測定装置(大塚電子、DLS-7000)を用い、動的光散乱法により質量平均粒径を測定したところ、88nmであった。
【0136】
≪試験群C:インビトロ評価 細胞毒性≫
マウスマクロファージ株化様細胞RAW264.7細胞1×10
5 個をDMEM (含10% FBS、100 U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン)10 mLに懸濁し、細胞培養用フラスコに播種し、37℃、5%二酸化炭素条件下にて培養した。培養したRAW264.7細胞(約80%コンフルエント)をPBSで2回洗浄後、0.25% trypsin-EDTA溶液によりフラスコから剥離させ、10% FBS含有DMEMを添加し、2×10
5 個/mLの細胞懸濁液とした。これを96ウェルプレートに100μLずつ播種し、24時間培養した。培地(FBS(-))90μLに培地交換し、実施例19及び比較例1で調製したサンプルを、1ウェルあたりsiRNA(Cont1)が100nMとなるように添加して(トランスフェクション)、37 ℃、5%二酸化炭素条件下で4時間培養した。細胞の生存性をCellTiter-Blue(登録商標)Cell Viability Assay(プロメガ社製)を用いて測定した。各群n=8で実施した。コントロール(水)を基準とした際の細胞生存率の平均値を、
図1に示す。なお、
図1中、「control」はコントロールを意味し、「Cell Viability」は、細胞生存率を意味し、エラーバーは、標準偏差を示す。
図1に示す通り、比較例1の複合体は細胞生存率が約60%であったのに対し、本発明の核酸含有組成物は約80%であり、低毒性であることが示された。
【0137】
≪試験群D:インビトロ評価 細胞内取込み効率≫
マウスマクロファージ株化様細胞RAW264.7細胞1×105 個をDMEM(含10% FBS、100U/mLペニシリン、100U/mLストレプトマイシン) 10 mLに懸濁し、細胞培養用フラスコに播種し、37℃、5%二酸化炭素条件下にて培養した。培養したRAW264.7細胞(約80%コンフルエント)をPBSで2回洗浄後、0.25%trypsin-EDTA溶液によりフラスコから剥離させ、10%FBS含有DMEMを添加し、1×105個/mLの細胞懸濁液とした。これを24ウェルプレートに100μLずつ播種し、24時間培養した。FBS(-)の培地900μLに交換し、実施例23~25と同様の方法でFAM-siRNA(Cont1)を内包した各サンプル(N/P比が10、20、30)を、1ウェルあたりFAM-siRNA(Cont1)が100nMとなるように添加して(トランスフェクション)、37℃、5%二酸化炭素条件下で6時間培養した。トランスフェクション後、細胞をPBSで2回洗浄し、0.25% trypsin-EDTA溶液を300μL加え37℃、5%二酸化炭素条件下で5分間培養した。培地(FBS(+):前記10%FBS含有DMEM)700μLを加え細胞を剥離した後、剥離した細胞懸濁液をエッペンドルフチューブに回収し、遠心分離後、上清を吸引し、PBS(1mL)で1回洗浄して遠心分離した。上清を吸引除去後、PBS(500μL)を加え、200メッシュのナイロン網でろ過し細胞懸濁液を回収した。この細胞懸濁液についてFlow Cytometry(FACS Canto、Becton Dickinson)にて測定し、細胞への取り込み効率を評価した。前方散乱光に対して側方散乱光を表示したプロット上で、細胞集団にゲートをかけ、目的細胞群のコントロールにおける蛍光強度に対する細胞数のプロットで、95%の細胞が含まれる範囲をP1領域とし、それよりも蛍光強度の強い範囲をP2領域とした。FAM-siRNA(Cont1)が細胞に取り込まれるとP2領域の細胞数が増大するため、細胞集団のP2領域に含まれる細胞の割合をFAM-siRNA(Cont1)の細胞への取り込み量の指標とした。
【0138】
コントロールとして、トランスフェクション時に、FAM-siRNA(Cont1)を単独で添加した系と、遺伝子又は核酸導入試薬を含むキットである、LipoTrust(登録商標)EX Oligo(北海道システム・サイエンス(株)製)を用いて、当該キットのプロトコールに従った系を、同時に実施した。
【0139】
各群n=8で実施した。結果を
図2に示す。なお、
図2中、「siRNA only」は、前記FAM-siRNA(Cont1)を単独で添加した系を意味し、「LipoTrust」は、前記LipoTrust(登録商標)EX Oligoを用いて当該キットのプロトコールに従った系を、「Cell Uptake」は、細胞導入率を、「Uptake」は導入率を意味する。
図2では、導入率の平均値を示し、エラーバーは、標準偏差を示す。LipoTrust群と比較したP値(Dunnettテスト)を*の数で示し、*はP<0.001である。
図2に示す通り、本発明の核酸含有組成物においては、トランスフェクション6時間で細胞内取り込みはいずれも80%を超え、細胞内導入能は十分であることが認められた。
【0140】
≪試験群E:インビトロ評価 マクロファージを用いた炎症性サイトカインの産生抑制効果≫
マウスマクロファージ株化様細胞RAW264.7細胞1×105 個を(含10% FBS、100U/mLペニシリン、100U/mLストレプトマイシン) 10 mLに懸濁し、細胞培養用フラスコに播種し、37℃、5%二酸化炭素条件下にて培養した。培養したRAW264.7細胞(約80%コンフルエント)をPBSで2回洗浄後、0.25%trypsin-EDTA溶液によりフラスコから剥離させ、10%FBS含有DMEMを添加し、1×105個/mLの細胞懸濁液とした。これを24ウェルプレートに100μLずつ播種し、24時間培養した。FBS(-)の培地900μLに交換し、実施例23~25と同じ方法で調製した各サンプル(N/P比は10、20又は30)を、1ウェルあたりsiRNA(RelA)が0.5μgとなるように添加して(トランスフェクション)、37℃、5%二酸化炭素条件下で6時間培養した。トランスフェクションした細胞をPBSで2回洗浄し、培地(FBS(-))を1ウェルあたり1000μLずつ加えて37℃、5%二酸化炭素条件下で18時間培養した。さらに、PBSで2回洗浄し、培地(FBS(+):前記10%FBS含有DMEM)を1ウェルあたり900μLずつ加えて、LPS水溶液 (2μg/ml)100μLを添加し、37℃、5%二酸化炭素条件下で8時間培養した。前記LPS刺激8時間後に、培地上清を回収し、サンプルとした。使用時まで-40℃で保存した。これを原液のまま用いて腫瘍壊死因子(TNF-α)及びインターロイキン-6(IL-6)の産生量をQuantikine(登録商標)ELISA kit(R&Dシステムズ社製)によって測定した。なお、ELISAによる測定は前記キットのプロトコールに従って行った。
【0141】
比較例として、上述のトランスフェクション及びLPS刺激を行わず、代わりに水を添加した系(Control)と、トランスフェクションを行わず代わりに水を添加した系(LPSのみ)と、トランスフェクション時に、siRNA(RelA)を単独で添加した系(siRNAのみ)を、同時に実施した。
【0142】
各群n=8で実施した。TNF-αの産生量を
図3Aに、IL-6の産生量を
図3Bに示す。なお、
図3A及び
図3B中、「control」は、前記Controlの系を、「LPS only」は、前記LPSのみの系を、「siRNA only」は、前記siRNAのみの系を意味する。
図3A及び
図3Bには、平均値を示し、エラーバーは、標準偏差を示す。LPSのみの群と比較したP値(Dunnettテスト)を*の数で示し、*はP<0.001である。
図3A及び
図3Bに示す通り、本発明の核酸含有組成物は、LPSのみの場合とsiRNAのみの場合に比較して有意に炎症性サイトカインの産生を抑制した。
【0143】
≪試験群F:インビボ評価 CIAマウスの関節炎治療効果≫
F-1:CIA(コラーゲン誘発関節炎)マウスの作製
氷冷下にて、完全フロイントアジュバント(CFA)へ、等量のII型コラーゲン溶液(2mg/mL)を滴下しながらホモジナイズしエマルジョンを調製した。同様に、不完全フロイントアジュバント(IFA)へ、等量のII型コラーゲン溶液(2mg/mL)を滴下しながらホモジナイズしエマルジョンを調製した。調製したエマルジョンは、水面に滴下しても球体を維持することでw/o型エマルジョンを形成したことを確認して実験に用いた。
8週令雄性DBA/1Jマウスを用い、CIAマウスを作製した。以下にCIA マウス作製のスケジュールを示す。-21日目に調製したII型コラーゲンとCFAから得られたエマルジョン100μLを、尾根部に皮内投与し、初回免疫誘導を行った。0日目に調製したII型コラーゲンとIFAから得られたエマルジョン100μLを同様に皮内投与し、追加で免疫誘導した。この際に、皮内投与が確実に行われたことを投与部位が白く隆起したことで確認した。
【0144】
F-2:核酸含有組成物の投与と薬理効果
実施例24と同様の方法で作製した、siRNA(RelA)の核酸含有組成物(N/P比が20)を、上述のF-1に示したCIAマウスに対し、-1、1、5、9日目に、1個体あたりのsiRNA(RelA)の投与量が20μg/日となるように尾静脈内投与を行い、15日目まで観察した(各群n=5で実施した)。
コントロールとして、生理食塩水を尾静脈内投与した系(Non-treated CIA mice)、siRNA(RelA)を単独で尾静脈内投与した系(siRNA only)、メトトレキサート90μgを含有したメトトレキサート溶液(メトトレキサート1.08mgを75μLのNaOH水溶液(0.1M)と、生理食塩水2325μLに溶解した溶液から、200μLを使用)を腹腔内投与した系(MTX)を同時に実施した。また、コラーゲン誘発を行わない、かつ薬剤の投与を行わないDBA/1Jマウスを正常マウス群(normal mice)とした(各群n=5で実施した)。
薬理効果の指標として、後肢踝関節部位の肥厚と下記臨床スコアを用いた。
後肢踝関節部位の肥厚は、マイクロメーターを用いて測定した。初回免疫後から、週2-3回測定を行った。
臨床スコアは下記の様に算出した。
前肢:指一本が腫れるにあたって0.5ポイントを加算。前肢全体が腫れるにあたって1ポイントを加算。したがって、前肢における最大臨床スコアは3ポイントとする。
後肢:指一本が腫れるにあたって0.5ポイントを加算。後肢全体が腫れるにあたって1ポイントを加算。後肢を引きずりながら歩く行動に対し1ポイントを加算。したがって、後肢における最大臨床スコアは4.5ポイントとする。
以上より、一匹当たりの最大臨床スコアは15ポイントとなる。
【0145】
後肢の肥厚増加率を
図4に、臨床スコアを
図5に示す。なお、
図4中、「percentage increase of paw thickness」は、後肢肥厚増加率(%)を意味し、
図5中、「Clinical score」は、臨床スコアを意味する。
図4及び
図5では、平均値を示し、エラーバーは、標準偏差を示す。実施例24投与群と比較したP値(Dunnettテスト)を*の数で示し、*はP<0.05であり、**はP<0.02であり、***はP<0.01であり、****はP<0.002である。
図4に示す通り、未治療、siRNAのみ、MTX投与群において、後肢の肥厚の増加が認められた。一方で本発明の核酸含有組成物を投与した群においては、肥厚はほとんど確認されなかった。
図5に示す通り、未治療、siRNAのみ、MTX投与群において、臨床スコアは顕著な増加が認められた。一方で本発明の核酸含有組成物を投与した群においては、臨床スコアの増加は僅かであった。
【0146】
F-3:四肢組織における標的分子RelAのサイレンシング効果及び炎症性サイトカイン産生抑制効果
上記15日目においてマウスを麻酔後に安楽死させ、四肢の組織を回収した。この組織は使用時まで-40℃で保存した。組織には、組織1g当たり10mLのLysis bufferを加えて、可能な限り細断し、氷冷下で均質化(ホモジナイズ)した。このホモジナイズされた懸濁液を遠心分離し、上清を回収した。この上清は使用時まで-40℃で保存した。前記上清を原液のまま用いて、組織1g当たりの、標的分子であるRelAの産生量と、炎症性のサイトカインである腫瘍壊死因子(TNF-α)、インターロイキン-6(IL-6)の産生量をQuantikine(登録商標)ELISA kit(R&Dシステムズ社製)によって測定した。なお、ELISAによる測定は前記キットのプロトコールに従って行った。各群n=5で実施した。
【0147】
RelAの産生量を
図6に、TNF-αの産生量を
図7に、IL-6の産生量を
図8に示す。
図6から
図8には、平均値を示し、エラーバーは、標準偏差を示し、実施例24投与群と比較したP値(Dunnettテスト)を*の数で示す。
図6中、**はP<0.01であり、*はP<0.005である。
図7及び
図8中、**はP<0.005であり、***は、P<0.002であり、****はP<0.001である。
図6に示す通り、未治療、siRNAのみの群、MTX投与群に比較して、本発明の核酸含有組成物を投与した群はRelAの産生を顕著に抑制した。したがって、本発明の核酸含有組成物は、全身投与によって炎症部位に到達後、免疫担当細胞に取り込まれ、RNA干渉を発揮したことが示唆された。
図7及び
図8に示す通り、未治療、siRNAのみ、MTX投与群に比較して、本発明の核酸含有組成物を投与した群は、TNF-α及びIL-6の産生量を、有意に抑制した。また、正常マウスとの比較においても、同等の産生量となった。
これら結果より、関節リウマチの病態形成において中心的な役割を担う二つの炎症性サイトカインの産生を、本発明の核酸含有組成物を投与することで顕著に抑制可能であることが示された。さらに、この抑制効果は現在の関節リウマチ治療薬におけるアンカードラッグであるメトトレキサート(MTX)よりも高いことが示された。
【0148】
≪試験群G-1:インビボ評価 膵臓癌細胞皮下移植マウスの抗腫瘍効果(1)≫
6週齢の雄性BALB/c-nuマウスの皮下に膵臓癌細胞(BxPC-3)を5×106個/100μlを移植した。がん腫瘤が平均として約100mm3となった日(移植から19日目)を治療0日目として、0、3、8、11、14、17日目に、各マウスにsiRNA(Plk1)の投与量が1個体あたり25μg/日となるように、実施例20で調製したサンプルを尾静脈投与した。その後、29日目まで観察した(各群n=4で実施した)。
コントロールとして、10%HEPES緩衝液を尾静脈内投与したマウス(HEPES)を、同時に観察した(各群n=4で実施した)。
【0149】
投与開始後の腫瘍体積の変化を
図9に、体重の変化を
図10に示す。 なお、
図9及び又は
図10中「Tumor volume」は腫瘍体積を意味し、「Body Weight」は体重を意味し、「days」は日数を意味する。
図9及び
図10には、平均値を示し、エラーバーは、標準偏差を示す。
図10中、実施例20投与群と比較したP値(Studentテスト)を*の数で示し、***はP<0.001である。
図9に示すように、HEPESを投与した群に比べて、本発明の核酸含有組成物を投与した群では、腫瘍体積の増加が大幅に抑制されており、顕著な抗腫瘍効果が確認された。また、
図10に示されるように、マウスの体重の変化について、HEPESを投与した群と本発明の核酸含有組成物を投与した群で、差は認められなかったため、本発明の核酸含有組成物の毒性は低いことが示された。
【0150】
≪試験群G-2:インビボ評価 膵臓癌細胞皮下移植マウスの抗腫瘍効果(2)≫
6週齢の雄性BALB/c-nuマウスの皮下に膵臓癌細胞(BxPC-3)を5×106個/100μlを移植した。がん腫瘤が平均として約100mm3となった日(移植から16日目)を治療0日目として、0、4、7、10、13、17、20、24、28日目に、各マウスにsiRNA(Plk1)の投与量が25μgとなるように、実施例20で調製したサンプルを尾静脈投与した。その後、38日目まで観察した(各群n=5で実施した)。
コントロールとして、10%HEPES緩衝液を尾静脈内投与したマウス(HEPES)を同時に実施した(N=4)。さらにコントロールとして、siRNA(Plk1)の代わりにsiRNA(Luc)を用い、実施例20に記載の方法で調製したサンプルを尾静脈投与したマウス(siRNA(Luc))も同時に観察した(各群n=5で実施した)。
また、38日目に、siRNA(Plk1)投与群とHEPES投与群に関して、定法に従って血液生化学的検査を実施した。
【0151】
投与開始後の腫瘍体積の変化を
図11に、体重の変化を
図12に、血液生化学的検査の結果を表10に示す。 なお、
図11及び
図12中「Tumor volume」は腫瘍体積を意味し、「Body Weight」は体重を意味し、「days」は日数を意味する。
図11及び
図12には、平均値を示し、エラーバーは、標準偏差を示す。実施例20投与群と比較したP値(Wilcoxonテスト)を*の数で示し、*はP<0.001である。表10の各項目は、平均値±標準偏差として示した。
【表10】
【0152】
図11に示すように、HEPESやsiRNA(Luc)を投与した群に比べて、本発明の核酸含有組成物を投与した群では、腫瘍体積の増加が大幅に抑制されており、顕著な抗腫瘍効果が確認された。また、HEPESを投与した群とsiRNA(Luc)を投与した群では、抗腫瘍効果における差が見られないため、本抗腫瘍効果はPlk1のノックダウンに由来することが示唆された。
図12及び表10に示されるように、マウスの体重の変化、血液生化学的検査における各パラメータについて、各群で差は認められなかったため、本発明の核酸含有組成物の毒性は低いことが示された。
【0153】
≪試験群H:インビトロ評価 スフェロイド浸透性≫
ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞A549細胞1×105 個をDMEM(含10% FBS、100U/mLペニシリン、100U/mLストレプトマイシン) 10 mLに懸濁し、細胞培養用フラスコに播種し、37℃、5%二酸化炭素条件下にて培養した。培養したA549細胞(約80%コンフルエント)をPBSで2回洗浄後、0.25%trypsin-EDTA溶液によりフラスコから剥離させ、10%FBS含有DMEMを添加し、1×105個/mLの細胞懸濁液とした。これをスフェロイド用96 ウェルプレート (PrimeSurfaceTM MS-9096U 96well plate、住友ベークライト) に2.0×104個/ウェルで播種し、4日間培養することでA549凝集塊(スフェロイド)を作製した。培養した各ウェル中のA549スフェロイドの培地を50μL除去し、実施例23及び25と同様の方法でFAM-siRNA(Cont1)を内包した各サンプル(N/P比が10、又は30)を、1ウェルあたりFAM-siRNA(Cont1)が200nMとなるように添加して(トランスフェクション)、37℃、5%二酸化炭素条件下で10時間培養した。溶液を除去し、4%パラホルムアルデヒド-リン酸緩衝液を100μL/ウェルで添加し10分間反応させ、スフェロイドを固定した。PBSで2回洗浄し、水200μLに置換した後、共焦点レーザー顕微鏡(FV1000DIX81、オリンパス)において、スフェロイド表面から200 μmの位置の断面を撮影した。
【0154】
コントロールとして、トランスフェクション時に、FAM-siRNA(Cont1)を単独で添加した系と、FAM-siRNA(Cont1)とSTR-CHHRRRRHHCで表される配列のペプチドをN/P比が10又は30で混合した複合体を添加した系を同時に実施した。
【0155】
結果を
図13に示す。なお、
図13中、「siRNA only」は、前記FAM-siRNA(Cont1)を単独で添加した系を意味し、「siRNA+peptide」は、FAM-siRNA(Cont1)とSTR-CHHRRRRHHCで表される配列のペプチドを混合した複合体を添加した系を意味し、「siRNA+peptide+MPEG-PCL」は本発明の核酸含有組成物(前記FAM-siRNA(Cont1)、STR-CHHRRRRHHCで表される配列のペプチド及びMPEG-PCL(2000-2000)を混合した複合体(実施例23又は25と同様))を添加した系を意味する。
【0156】
図13に示す通り、siRNA単独及びsiRNAとのペプチドの複合体(N/P比が10)では、スフェロイドへの浸透性は低いことが示された。また、siRNAとペプチドとの複合体(N/P比が30)においては、スフェロイドの崩壊が観察され、高い細胞毒性が示唆された。一方で、本発明の核酸含有組成物は、いずれのN/P比においても、スフェロイドへの高い浸透性を示し、またスフェロイドの崩壊も無かった。
【0157】
≪試験群B-10:核酸含有組成物の調製10≫
実施例35~37
siRNA(VEGF)の代わりに表11に記載の核酸を用いて、実施例10と同様の方法により、核酸含有組成物を得た。得られた核酸含有組成物中の粒子について、光散乱粒子径測定装置(Malvern Instruments、Zetasizer Nano ZS)を用い、動的光散乱法によりキュムラント平均粒径を測定した結果を、表11に示した。
【0158】
【0159】
≪試験群H-2:インビトロ評価 スフェロイド浸透性2≫
マウス乳癌細胞4T1細胞1×105 個をRPMI1640培地(含10% FBS、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシン)10 mLに懸濁し、細胞培養用フラスコに播種し、37℃、5%二酸化炭素条件下にて培養した。培養した4T1細胞(約80%コンフルエント)をPBSで2回洗浄後、0.25%trypsin-EDTA溶液によりフラスコから剥離させ、10%FBS含有RPMI1640を添加し、1×105個/mLの細胞懸濁液とした。これをスフェロイド用96 ウェルプレート (PrimeSurfaceTM MS-9096U 96well plate、住友ベークライト) に1.0×104個/100μL/ウェルで播種し、3日間培養することで4T1凝集塊(スフェロイド)を作製した。培養した各ウェル中の4T1スフェロイドの培地を50μL除去し、実施例10と同様の方法でFAM-siRNA(Cont1)を内包した各サンプル(N/P比が10)を、1ウェルあたりFAM-siRNA(Cont1)が100nMとなるように添加して(トランスフェクション)、37℃、5%二酸化炭素条件下で6時間培養した。溶液を除去し、4%パラホルムアルデヒド-リン酸緩衝液を90μL/ウェルで添加し30分間反応させ、スフェロイドを固定した。PBSで2回洗浄し、水200μLに置換した後、共焦点レーザー顕微鏡(FV1000DIX81、オリンパス)において、スフェロイド表面から80 μmの位置の断面を撮影した。
【0160】
コントロールとして、トランスフェクション時に、FAM-siRNA(Cont1)を単独で添加した系を同時に実施した。
【0161】
結果を
図14に示す。なお、
図14中、「siRNA only」は、前記FAM-siRNA(Cont1)を単独で添加した系を意味し、「siRNA+peptide+MPEG-PCL」は本発明の核酸含有組成物(前記FAM-siRNA(Cont1)、STR-CHHRRRRHHCで表される配列のペプチド及びMPEG-PCL(2000-2000)を混合した複合体(実施例10と同様))を添加した系を意味する。
【0162】
図14に示す通り、siRNA単独では、スフェロイドへの浸透性は低いことが示された。一方で、本発明の核酸含有組成物は、スフェロイドへの高い浸透性を示した。
【0163】
≪試験群D-2:インビトロ評価 細胞内取込み効率2≫
マウス乳癌細胞4T1細胞1×105 個をRPMI1640培地(含10% FBS、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシン)10 mLに懸濁し、細胞培養用フラスコに播種し、37℃、5%二酸化炭素条件下にて培養した。培養した4T1細胞(約80%コンフルエント)をPBSで2回洗浄後、0.25%trypsin-EDTA溶液によりフラスコから剥離させ、10%FBS含有RPMI1640培地を添加し、1×105個/mLの細胞懸濁液とした。これを24ウェルプレートに1mLずつ播種し、24時間培養後PBSで2回洗浄した。その後、FBS(-)のRPMI1640培地900μLに交換し、実施例10と同様の方法でFAM-siRNA(Cont1)を内包した各サンプル(N/P比が10)を、1ウェルあたりFAM-siRNA(Cont1)が100nMとなるように添加して(トランスフェクション)、37℃、5%二酸化炭素条件下で6時間培養した。トランスフェクション後、細胞をPBSで2回洗浄し、0.25% trypsin-EDTA溶液を300μL加え37℃、5%二酸化炭素条件下で5分間培養した。培地(FBS(+):前記10%FBS含有RPMI1640)700μLを加え細胞を剥離した後、剥離した細胞懸濁液をエッペンドルフチューブに回収し、遠心分離後、上清を吸引し、PBS(1mL)で1回洗浄して遠心分離した。上清を吸引除去後、PBS(500μL)を加え、200メッシュのナイロン網でろ過し細胞懸濁液を回収した。この細胞懸濁液についてFlow Cytometry(FACS Canto、Becton Dickinson)にて測定し、細胞への取り込み効率を評価した。前方散乱光に対して側方散乱光を表示したプロット上で、細胞集団にゲートをかけ、目的細胞群のコントロールにおける蛍光強度に対する細胞数のプロットで、95%の細胞が含まれる範囲をP1領域とし、それよりも蛍光強度の強い範囲をP2領域とした。FAM-siRNA(Cont1)が細胞に取り込まれるとP2領域の細胞数が増大するため、細胞集団のP2領域に含まれる細胞の割合をFAM-siRNA(Cont1)の細胞への取り込み量の指標とした。
【0164】
コントロールとして、トランスフェクション時に、FAM-siRNA(Cont1)を単独で添加した系と、遺伝子又は核酸導入試薬を含むキットである、LipoTrust(登録商標)EX Oligo(北海道システム・サイエンス(株)製)を用いて、当該キットのプロトコールに従った系を、同時に実施した。
【0165】
各群n=8で実施した。結果を
図15に示す。なお、
図15中、「siRNA only」は、前記FAM-siRNA(Cont1)を単独で添加した系を意味し、「LipoTrust」は、前記LipoTrust(登録商標)EX Oligoを用いて当該キットのプロトコールに従った系を、「siRNA+peptide+MPEG-PCL」は本発明の核酸含有組成物(前記FAM-siRNA(Cont1)、STR-CHHRRRRHHCで表される配列のペプチド及びMPEG-PCL(2000-2000)を混合した複合体(実施例10と同様))を添加した系を、「Cell Uptake」は、細胞導入率を、「Uptake」は導入率を意味する。
図15では、導入率の平均値を示し、エラーバーは、標準偏差を示す。LipoTrust群と比較したP値(Dunnettテスト)を*の数で示し、*はP<0.001である。
図15に示す通り、本発明の核酸含有組成物においては、トランスフェクション6時間で細胞内取り込みはおよそ80%であり、細胞内導入能は十分であることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明によれば、細胞毒性が低く、高い治療有効性を実現する、核酸送達用組成物及び核酸含有医薬組成物が提供される。かかる組成物は、例えば、治療用の医薬組成物として使用でき、その産業上の価値は極めて大きく、疾病の原因分子を制御して、治療効果を得るための核酸医薬治療剤を提供することができる。
【0167】
日本国特許出願2017-135547(出願日:2017年7月11日)の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
【配列表】