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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】近傍界エアープローブ及び検査装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/42 20060101AFI20230320BHJP
   G01R 29/10 20060101ALI20230320BHJP
   H01Q 9/30 20060101ALI20230320BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
H01Q1/42
G01R29/10 B
H01Q9/30
H01Q17/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022066327
(22)【出願日】2022-04-13
【審査請求日】2022-04-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505031370
【氏名又は名称】株式会社キャンドックス システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】植木 豊
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-255347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/42
G01R 29/10
H01Q 9/30
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波吸収材で形成されるレドームベースと、
前記レドームベースに設けられ、ネットワークアナライザから信号が入力されるコネクタ部と、
第1の面と前記第1の面とは反対側の第2の面とを有し前記レドームベースに対して固定される板状の基材、及び
前記基材の前記第1の面及び前記第2の面の少なくとも一方に設けられ、前記コネクタ部に入力される信号を進行波型の電波として放出する導体
を有するプローブ部と、
前記電波の放出方向に沿って電波透過性を有する透過面、及び
前記基材のうち前記第1の面及び前記第2の面に対向する面がそれぞれ前記第1の面及び前記第2の面に対して傾斜する電磁波吸収材で形成された傾斜面
を有し、前記レドームベースとともに前記プローブ部を覆う、レドームと
を有し、
前記レドームの前記透過面に対向する前記基材の端面の板厚に沿う方向の大きさは、前記電波のうち測定する最低周波数の波長λの半分であるλ/2より大きい、近傍界エアープローブ。
【請求項2】
前記プローブ部は、テーパードスロットアンテナとして形成される、請求項1に記載の近傍界エアープローブ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の近傍界エアープローブと、
前記近傍界エアープローブの前記透過面に対向し、被測定物であるDUTが前記電波の近傍界の位置に配置される被測定物配置部と
を有する、検査装置。
【請求項4】
前記近傍界エアープローブの前記コネクタ部に所定の信号を入力するネットワークアナライザを有する、請求項3に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、近傍界エアープローブ及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動通信システムのアンテナは、半導体チップに一体化されてきている。このようなDUT(Device Under Test)としての通信モジュール(アンテナモジュール)は、通信特性等の検査を行ってから出荷することが求められる。例えば大量生産される通信モジュールは、各種機器に取り付けられる前にそれぞれの通信性能が検査されることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-097147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電波の放射元の電波の電界強度、磁界強度等を測定する場合、DUTとしての通信モジュールと、プローブ(カプラ)との電磁結合による影響が生じることを避けることが必要となる。このため、DUTとしての通信モジュールと、プローブ(カプラ)との距離を、遠方界となる距離を取って測定することが行われている。すなわち、通信モジュールは、通常、遠方界で通信特性が測定されることが行われている。しかし、測定機器に対してより近い近傍界で通信特性を測定することができれば、より多くの通信モジュールを省スペースで検査することができることになる。そして、近傍界では、DUT及びプローブの電界と磁界とが混在する電磁界となるため、遠方界に比べて通信特性を測定することが難しい、といった問題がある。
【0005】
本発明は、遠方界はもちろん、近傍界において、DUTとしての通信モジュールの通信特性を測定可能な近傍界エアープローブ及び検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る近傍界エアープローブは、電磁波吸収材で形成されるレドームベースと、コネクタ部と、プローブ部と、レドームとを有する。コネクタ部は、レドームベースに設けられ、ネットワークアナライザから信号が入力される。プローブ部は、板状の基材と導体とを有する。基材は、第1の面と第1の面とは反対側の第2の面とを有し、レドームベースに対して固定される。導体は、基材に設けられ、コネクタ部に入力される信号を進行波型の電波として放出する。レドームは、レドームベースとともにプローブ部を覆う。レドームは、電波の放出方向に沿って電波透過性を有する透過面と、基材のうち第1の面及び第2の面に対向する面がそれぞれ第1の面及び第2の面に対して傾斜する電磁波吸収材で形成された傾斜面とを有する。レドームの透過面に対向する基材の端面の板厚に沿う方向の大きさは、電波のうち測定する最低周波数の波長λの半分であるλ/2より大きい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、遠方界はもちろん、近傍界において、DUTとしての通信モジュールの通信特性を測定可能な近傍界エアープローブ及び検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る検査装置を示す概略的なブロック図。
図2】実施形態に係る検査装置の近傍界エアープローブを示す概略図。
図3図2に示す矢印IIIで示す方向から近傍界エアープローブを見た概略図。
図4図2に示す矢印IVで示す方向から近傍界エアープローブを見た概略図。
図5図2から図4に示す近傍界エアープローブのアンテナ部の一例を示す概略図。
図6】DUT及び近傍界エアープローブの電磁界を示す概略図。
図7】レドームでの電波の反射の状態を示す説明図。
図8】DUTと近傍界エアープローブとの距離関係に応じた周波数と伝送特性との関係を示すグラフ。
図9】DUTと近傍界エアープローブとの距離関係と伝送特性との関係を示すグラフ。
図10】実施形態に係る検査装置の一部を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1から図9を用いて一実施形態に係る検査装置10について説明する。
【0010】
図1に示すように、本実施形態に係る検査装置10は、近傍界エアープローブ12と、ネットワークアナライザ14とを有する。
【0011】
本実施形態に係る近傍界エアープローブ12は、近傍界エアープローブ12の後述するRFコネクタ部24に所定の信号を入力するネットワークアナライザ14とともに、被測定物であるDUT(Device Under Test)18を検査するときに用いる。本実施形態では、DUT18は、半導体チップにアンテナが一体化された通信モジュール(アンテナモジュール)、すなわち、アンテナ内蔵型通信デバイスであるとして説明する。
【0012】
図2は、本実施形態に係る近傍界エアープローブ12をある側方から見た概略図を示す。図3は、図2中の矢印IIIで示す方向から近傍界エアープローブ12を見た概略図を示す。図4は、図2中の矢印IVで示す方向から近傍界エアープローブ12を見た概略図を示す。
【0013】
図2から図4に示すように、本実施形態に係る近傍界エアープローブ12は、レドームベース22と、RFコネクタ部(給電部)24と、アンテナ部(プローブ部)26と、レドーム28とを有する。
【0014】
レドームベース22は、例えば略矩形状の板材として形成される。レドームベース22の一方の面22a側(近傍界エアープローブ12の外側の面側)には、RFコネクタ部24が設けられ、他方の面22b側(近傍界エアープローブ12の内側の面側)には、アンテナ部26が設けられる。レドームベース22はレドーム28と同じ後述する素材で形成されることが好適である。
【0015】
RFコネクタ部24は、例えば上限周波数が40GHzの2.92mmコネクタ、上限周波数が65GHzの1.85mmコネクタ等が用いられる。なお、上限周波数が40GHzの2.92mmコネクタは、Kコネクタなどと称されるもの、またはその同等品を用いることができる。上限周波数が65GHzの1.85mmコネクタは、Vコネクタなどと称されるもの、またはその同等品を用いることができる。また、目的の上限周波数がさらに高い場合、上限周波数が例えば120GHzの適宜のコネクタが使用され得る。
【0016】
なお、RFコネクタ部24に接続される、ケーブルを含むコネクタ(ケーブルコネクタ)は、ネットワークアナライザ14に接続される。
【0017】
アンテナ部26は、薄板状の基材32と、この基材32上に形成された導体34a,34bとを有し、扁平状に形成される。導体34a,34bは、コネクタ部24に入力される信号を進行波型の電波として放出する。
【0018】
図5は、アンテナ部26の基材32の一方の面(第1の面)32a側を見た状態を示す概略図である。図5中の実線は、基材32の一方の面32a側に存在する導体34aの縁を示す。破線は、基材32の他方の面(第2の面)32b側に存在する導体34bの縁を示す。図5に示すように、アンテナ部26は、進行波型(非共振型)の平面アンテナとして形成される。本実施形態の例では、テーパードスロットアンテナ(TSA)の一種で、対蹠(アンチポーダル)型であるビバルディアンテナを例にして説明する。
【0019】
基材32は、例えば略長方形状の誘電体基板が用いられる。基材32は、板厚が数ミリメートル以内の薄板として形成される。基材32は、端面33a,33b,33c,33dの面積に比べて、少なくとも一方側に導体34a,34bが形成される1対の面32a,32bの面積が大きい。そして、基材32は、レドームベース22の他方の面22bに直交して配置される。
【0020】
基材32の一方の面32aの導体34aと、他方の面32bの導体34bとは、電波を放射する位置が、例えば図5中の上下で対称又は略対称に形成される。導体34a,34bは、例えば数μm程度の薄膜状の金属材等の導電性を有する物質で形成されていても、例えばスパッタリング等により数μm厚に形成されていてもよい。導体34a,34bは、薄膜状に形成されることにより、DUT18側からの放射電磁界に垂直で、後述する伝送特性S21に影響を及ぼし得る面積を狭くすることができる。
【0021】
導体34a,34bを基材32の一方の面側から見たとき、スロット35の幅Wは、レドームベース22の他方の面22b(基材32の基端側端面33d)から先端側端面33aに向かうにつれて徐々に広がる。そして、アンテナ部26は、スロット35間から広い周波数帯域の波を単一方向に放射する。
【0022】
本実施形態では、アンテナ部26は、例えば5Gと称される第5世代移動通信システムで用いられる、いわゆるミリ波帯(28GHz及びその周囲)の周波数の電波含む周波数帯域を検査可能に形成される。
【0023】
なお、例えば第5世代移動通信システムでは、ミリ波帯として例えば90GHz程度までの拡張が検討されているという情報がある。本実施形態に係る近傍界エアープローブ12は、アンテナ部26及びRFコネクタ部24等の形状、大きさ、素材等を適宜に設定することで、90GHz程度を含む周波数帯域の電波を検査可能、すなわち、28GHzから90GHz程度までの周波数の電波を検査可能に形成される。
【0024】
また、アンテナ部26は、波長が0.1~1mm程度のサブミリ波帯(300GHz~3000GHz)の範囲の周波数帯域を検査可能としてもよい。
【0025】
本実施形態では、対蹠(アンチポーダル)型テーパードスロットアンテナとして、ビバルディアンテナを用いる例について説明するが、基材32の一方の面32aにレドームベース22から離れるにつれて徐々に広がるスロット35が形成された導体34a,34bが形成されていてもよい。
【0026】
なお、アンテナ部26は、RFコネクタ部24と導体34a,34bとの接続部に、定在波が発生してDUT18の測定に影響を及ぼし得ることを避けるグランド(GND)板(図示せず)を有する。グランド板は、基材32に、DUT18側に対して導体34a,34bと平行に薄膜として設置することで、DUT18側及びRFコネクタ部24側の電磁結合を抑制する構造であればよい。
また、アンテナ部26の基材32には、例えば電磁波吸収材が配置されていてもよい。
【0027】
レドーム28は、アンテナ部26を覆うように形成される。レドーム28は、有底筒状に形成される。レドーム28は、電磁波吸収材で形成される筒状部42と、電波透過性素材で形成される先端部(透過面)44とを有する。
【0028】
筒状部42は、電磁波吸収材として、例えばフェライト又は、フェライトと同等の働きを有する素材(磁性材料)で形成される。なお、本実施形態では、筒状部42は、電磁波をミリ波帯のうち、必要な周波数帯(例えば28-60GHz)で損失及び変性を与えない材質で形成される。筒状部42は、電磁波をミリ波帯のうち、必要な周波数帯(例えば28-60GHz)で損失及び変性を与えない大きさに形成される。
なお、電磁波吸収材としては、磁性材料のほか、例えば、導電性材料、誘電体吸収材料等であってもよい。
【0029】
筒状部42は、基材32の一方の面32aに対向する第1の傾斜部43aと、基材32の他方の面32bに対向する第2の傾斜部43bとを有する。
【0030】
第1の傾斜部43aは、基材32の一方の面32aに対して対向するが、平行でなく、傾斜する内側面(傾斜面)を有する。本実施形態では、説明の簡略化のため、第1の傾斜部43aの内側面と、内側面とは反対側の外側面とは平行であるように図示するが、平行であっても、平行でなくてもよい。例えば、第1の傾斜部43aは、基材32の基端側端面33dから先端側端面33aに近づくにつれて基材32の一方の面32aに対する距離が近づく。同様に、第2の傾斜部43bは、基材32の他方の面32bに対して対向するが、平行でなく、傾斜する内側面(傾斜面)を有する。本実施形態では、説明の簡略化のため、第2の傾斜部43bの内側面と、内側面とは反対側の外側面とは平行であるように図示するが、平行であっても、平行でなくてもよい。例えば、第2の傾斜部43bは、基材32の基端側端面33dから先端側端面33aに近づくにつれて基材32の他方の面32bに対する距離が近づく。第1の傾斜部43a及び第2の傾斜部43bは、平面であってもよく、凹面又は凸面など、曲面であってもよい。
【0031】
第1の傾斜部43aと第2の傾斜部43bとの周方向には、第3の傾斜部43c及び第4の傾斜部43dが形成される。第3の傾斜部43cは、基材32の先端側端面33aに隣接する端面33bに対して平行でなく、傾斜する。例えば、第3の傾斜部43cは、基材32の基端側端面33dから先端側端面33aに近づくにつれて基材32の端面33bに対する距離が近づく。第4の傾斜部43dは、基材32の先端側端面33aに隣接し、端面33bとは反対側の端面33cに対して平行でなく、傾斜する。例えば、第4の傾斜部43dは、基材32の基端側端面33dから先端側端面33aに近づくにつれて基材32の端面33cに対する距離が近づく。
【0032】
先端部44は、筒状部42の一端を閉塞する状態に設けられる。先端部44は、例えば電波透過性素材で平板状に形成される。先端部44は、例えば、樹脂、紙等の繊維が用いられることが好適である。先端部44の樹脂材としては、減衰を抑制し、高周波特性に優れたPTFEや、ポリプロピレンが用いられることが好適である。先端部44の外表面と、先端部44のうちアンテナ部26の先端側端面33aが対向する内側面とは平行である。先端部44は、電波の放出方向に沿って電波透過性を有していればよい。
【0033】
なお、図2及び図3中、基材32の先端側端面33aの板厚に対して、レドーム28の先端部44における基材32の先端側端面33aの板厚に沿う方向の大きさを大きくした。レドーム28の先端部44における基材32の先端側端面33aの板厚に沿う方向の大きさは、電波のうち測定する最低周波数の波長λの半分、すなわち、λ/2より多少広くなっていればよい。なお、レドーム28の先端部44における基材32の先端側端面33aの板厚に沿う方向の大きさがλ/2以下である場合、近傍界エアープローブ12の広帯域性を損ない得ることが実験結果から得られている。
【0034】
筒状部42の他端は開口42aを有する。筒状部42の他端には、レドームベース22が嵌合される。すなわち、筒状部42の他端には、レドームベース22が嵌合される。レドーム28とレドームベース22との嵌合関係は、レドーム28の筒状部42の外側の電磁界の影響を抑制できればよい。
【0035】
なお、筒状部42の開口42aは、測定周波数の波長との共振を誘導しない大きさである。
【0036】
図1に示すように、ネットワークアナライザ14は、信号源62、切替器64、受信機66a,66b,66c、方向性結合器68a,68bを有する。信号源62から切替器64の双方の分岐に対して方向性結合器68a,68bを経由し基準信号受信器66aが接続される。また、信号源62に接続される切替器64の一方の分岐には、ネットワークアナライザ14の第1ポート14aを介して近傍界エアープローブ12が接続される。近傍界エアープローブ12の接続先には、方向性結合器68aを経由して反射信号用の受信機66bが接続される。切替器64の他方の分岐にはネットワークアナライザ14の第2ポート14bを介してDUT18が接続される。DUT18の接続先には方向性結合器68bを経由して伝送信号用の受信機66cが接続される。
【0037】
図6は、DUT18に対して近傍界エアープローブ12の先端部44を適宜の距離に近づけた状態で、ネットワークアナライザ14の信号源62から適宜の信号を出力したときに、近傍界エアープローブ12の外周に形成される電磁界を示す概略図である。
【0038】
近傍界エアープローブ12は、DUT18に対して、所定の向きに対向又は当接させて用いられる。近傍界エアープローブ12のアンテナ部26による電波放射方向と、DUT18による電波放射方向とは平行である。また、近傍界エアープローブ12のアンテナ部26の電波の放射方向に沿う軸は、DUT18の電波のエピセンターに一致することが好適である。
【0039】
上述したように、レドーム28の筒状部42は、電磁波吸収材で形成されるため、近傍界エアープローブ12の電波を吸収し、熱損失させる。また、レドーム28の筒状部42は、近傍界エアープローブ12だけでなく、DUT18の電波を吸収し、熱損失させる。そして、レドーム28の筒状部42は、DUT18から近傍界エアープローブ12のアンテナ部26への不要な電磁結合を防止するとともに、近傍界エアープローブ12のアンテナ部26からDUT18への不要な電磁結合を防止する。このように、近傍界エアープローブ12は、レドーム28の筒状部42により、アンテナ部26の側面(基材32の一方の面32a及び他方の面32b側)への電磁結合を避けることができる。
【0040】
図7は、アンテナ部26から放射される電波の反射の例、及び、DUT18から放射される電波の反射の例を示す概略図である。
【0041】
例えば、レドーム28の第1の傾斜部43aの内側面にアンテナ部26からの電波が当たると、その電波の一部は、入射角θ1と同じ反射角θ1で反射する。このため、反射した電波は、同方向に反射せず、レドーム28内で電波が反射して共鳴することを防止することができる。なお、レドーム28の第2の傾斜部43bの外側に電波(DUT18からの不要な電磁波)が当たると、その電波の一部は、入射角度θ2と同じ反射角度θ2で反射する。このため、レドーム28の内側をアンテナ部26の一方の面32a及び他方の面32bに対して傾斜面として形成することで、共鳴を防止することができる。したがって、S12の測定時に不要な信号が入力されることを防止することができる。
【0042】
なお、アンテナ部26からの電波の一部は、レドーム28の筒状部42で吸収されず、輻射電波がレドーム28の第1の傾斜部43aの外側面に対して角度θ1で放出され得る。また、DUT18からの電波の一部は、レドーム28の筒状部42で吸収されず、輻射電波がレドーム28の第1の傾斜部43aの内面に対して角度θ2でアンテナ部26に向かい得る。しかし、DUT18からの電波の一部は、電磁波吸収材である筒状部42を通っているため、先端部44から入る電波に比べて無視できるほどに小さくなり得、また、上述したように共鳴が防止される。
【0043】
ここで、DUT18の反射特性(反射係数)であるSパラメータをS11とし、伝送特性(伝送係数)であるSパラメータをS21とする。ネットワークアナライザ14は、反射特性S11として、入射信号に対する反射信号の各周波数における振幅データ、入射信号に対する反射信号の各周波数における位相の変化量を検出する。また、ネットワークアナライザ14は、図8に示すように、伝送特性S21として、入射信号に対する伝送信号の各周波数における振幅データ、入射信号に対する伝送信号の各周波数における位相の変化量を検出する。
【0044】
DUT18と近傍界エアープローブ12のレドーム28の先端部44との距離dが0、すなわち接触する状態を距離d0(図示せず)とする。図6に示すように、距離dが距離d0、ある距離d1、ある距離d2=2・d1、ある距離d3=3・d1の位置での伝送特性S21をネットワークアナライザ14を用いて検出した。すなわち、ネットワークアナライザ14の信号源62から適宜の信号を出力し、受信機66a,66b,66cで信号を受信し、伝送特性S21を検出した。
【0045】
ここで、近傍界エアープローブ12は、DUT18の直近ではDUT18の電磁界成分の領域の影響を受けるが、DUT18との距離dが大きくなり、DUT18と近傍界エアープローブ12とが離れることによってDUT18の電磁波の指向性が定まる遠方界に移行する。この遠方界となるDUT18からの距離dは、アンテナの開口径をDとすると、一般に、
2D/λ<d
として表される。周波数が28GHz(波長λが例えば略10.7mm)で開口径D=15mmであれば、大きめにとって例えばd>60mmでなければ遠方界に移行しない。
【0046】
このとき、例えば28GHzの周波数であれば、波長は10mm程度となる。このため、レドーム28の先端部44と基材32の先端側端面33aとの距離が1~2mmなど、適宜の距離離れていても、例えば、d1=1mm、d2=2mm、d3=3mmとする場合、近傍界エアープローブ12は、何れもDUT18の近傍界の影響を受ける。
【0047】
図8に示すように、距離d0のグラフにおいて、本実施形態のDUT18を用いると、周波数が高くなるにつれて振幅[dB]が上がる傾向となった。これは、距離dがd0からd3に向かって大きくなっても同じ傾向となった。例えば、距離d1のグラフに所定係数を乗算すると、他の距離d2,d3のグラフに一致又は略一致する傾向が見られた。すなわち、本実施形態に係る近傍界エアープローブ12を用いると、図9に示す線Laのように、距離dを大きくすると、近傍界、遠方界かかわらず、S21が略線型的に小さくなる傾向が得られた。なお、図9に示す線Lbのように、一般には、遠方界(例えば距離d≧dnとなる領域)に近づくにつれて、伝送特性S21が略線型的に小さくなる傾向が得られるが、近傍界(例えば距離d<dnとなる領域)では、略線型的ではなく、バラツキが生じることが分かる。
【0048】
この傾向(符号Laで示す傾向)により、本実施形態に係る近傍界エアープローブ12を用いることにより、近傍界においても、DUT18の特性を測定することができる。このため、本実施形態に係る近傍界エアープローブ12を用いることにより、アンテナ部26からレドーム28の先端部44を通してDUT18に向けて適宜の電波を放射しながら、レドーム28の筒状部42によりDUT18の近傍界での影響を防止することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、DUT18と近傍界エアープローブ12の外観であるレドーム28の先端部44との間の距離dを用いる例について説明した。近傍界エアープローブ12のアンテナ部26の先端側端面33aと、レドーム28の先端部44の先端面との間の距離を小さくすることにより、DUT18と近傍界エアープローブ12のレドーム28の先端部44の先端面との間の距離dを、DUT18と近傍界エアープローブ12のアンテナ部26の先端側端面33aとの間の距離と同視できる。
【0050】
また、近傍界エアープローブ12の先端部44とDUT18との間の距離が、遠方界の距離である場合、DUT18と近傍界エアープローブ12のアンテナ部26の先端側端面33aとの距離は遠方界の距離となる。距離dが遠方界の距離dn(図8参照)である場合、近傍界における距離d0,d1,d2,d3と略同じ形のグラフが得られた。すなわち、本実施形態に係る近傍界エアープローブ12を用いると、図6図8及び図9に示すように、距離dを大きくすると、遠方界においても、S21が略線型的に小さくなる傾向が得られた。
【0051】
この傾向により、本実施形態に係る近傍界エアープローブ12を用いることにより、近傍界だけでなく、遠方界においても、DUT18の特性を測定することができる。
【0052】
なお、本実施形態では周波数が高くなるにつれて振幅[dB]が上がる傾向となる例について説明したが、DUT18によっては、周波数が高くなるにつれて振幅[dB]が下がる傾向となることもある。
【0053】
したがって、本実施形態によれば、遠方界はもちろん、近傍界において、DUT18としての通信モジュール(DUT18)の通信特性を測定可能な近傍界エアープローブ12及び検査装置10を提供することができる。
【0054】
本実施形態で用いたアンテナ部26の基材32及び導体34a,34bは、図示した形状に限らず、適宜の形状が用いられ得る。また、アンテナ部26は、基材(誘電体基板)32で導体34a,34bがサンドイッチされた構造など、種々の構造が許容される。この場合、導体34a,34bは、一方の基材32の例えば一方の面32aに設けられることとなる。すなわち、アンテナ部26は、所望する測定周波数や、DUT18に応じて適宜に形成される。
【0055】
以下、複数の近傍界エアープローブ12を組み込んだ検査装置10について、図10を用いて説明する。なお、図10中は、ネットワークアナライザ14の信号源62及び切替器64の図示を省略する。
【0056】
検査装置10は、電波遮蔽性を有するボックス80を有する。ボックス80は、互いに電波干渉しないように区画された複数のブース(被測定物配置部)82を有する。
【0057】
各ブース82には、ネットワークアナライザ14に接続される複数の近傍界エアープローブ12が配置される。
【0058】
また、各ブース82には、検査のためにDUT18が各ブース82に対して出し入れ可能に配置される。ボックス80のブース82は、DUT18の出し入れを容易としながら、検査時には、近傍界エアープローブ12及びDUT18の電波を遮蔽するように形成される。一例として、DUT18に接続されるケーブルのRFコネクタ86がDUT18を出し入れする扉84に固定される。そして、DUT18が検査される場合、扉84のRFコネクタ86に接続されると、近傍界エアープローブ12とDUT18とが所定距離d(近傍界の影響を受ける距離)となるように調整される。
【0059】
このようにして、DUT18を近傍界エアープローブ12に対して近傍界の所定距離(d0でもよい)に配置して、DUT18の通信特性を検査することができる。このため、本実施形態に係る近傍界エアープローブ12は、例えば大量生産されるDUT(同種又は異種の通信モジュール)18を省スペースで検査するときに用いることができる。したがって、本実施形態に係る検査装置10は、省スペースで多数のDUT18に対し同時又は同時期に通信特性を検査することができる。
【0060】
本実施形態によれば、近傍界において、DUT18としての通信モジュール(DUT18)の通信特性を測定可能な検査装置10を提供することができる。
【0061】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0062】
10…検査装置、12…近傍界エアープローブ、14…ネットワークアナライザ、22…レドームベース、24…RFコネクタ部、26…アンテナ部、28…レドーム、32…基材、33a…先端側端面、33d…基端側端面、34a,34b…導体、35…スロット、42…筒状部、42a…開口、43a-43d…傾斜部、44…先端部(透過面)、62…信号源、64…切替器、66a,66b,66c…受信機、68a,68b…方向性結合器。

【要約】
【課題】 遠方界はもちろん、近傍界において、DUTとしての通信モジュールの通信特性を測定可能な近傍界エアープローブ及び検査装置を提供する。
【解決手段】 近傍界エアープローブは、レドームベースと、コネクタ部と、プローブ部と、レドームとを有する。コネクタ部は、レドームベースに設けられ、ネットワークアナライザから信号が入力される。プローブ部は、板状の基材と導体とを有する。基材は、第1の面と第1の面とは反対側の第2の面とを有し、レドームベースに対して固定される。導体は、基材に設けられ、コネクタ部に入力される信号を進行波型の電波として放出する。レドームは、レドームベースとともにプローブ部を覆う。レドームは、電波の放出方向に沿って電波透過性を有する透過面と、基材のうち第1の面及び第2の面に対向する面がそれぞれ第1の面及び第2の面に対して傾斜する電磁波吸収材で形成された傾斜面とを有する。
【選択図】 図7

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10