(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】飲料用演出グラス
(51)【国際特許分類】
H04R 1/02 20060101AFI20230320BHJP
【FI】
H04R1/02 103Z
H04R1/02 101B
(21)【出願番号】P 2022166531
(22)【出願日】2022-09-28
【審査請求日】2022-10-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510286433
【氏名又は名称】株式会社ネットアプリ
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】西田 誠
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-196402(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0060017(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00ー1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に湾曲した上部開口を有する有底の筒状体であるグラス本体と、
平坦な板状の振動板と、
前記グラス本体の側面にスピーカーを固定する固定機構とを備えており、
前記振動板は前記グラス本体の側面に位置し、
前記振動板の表面は前記グラス本体の側面に連結または密着しており、
前記振動板は前記グラス本体の側面と少なくとも一箇所は連結されており、
前記固定機構は前記スピーカーを前記振動板方向に向けた状態で前記振動板の近傍に固定し、
前記振動板はその表面を前記スピーカーの方向に向けた状態で前記グラス本体の側面に連結または密着しており、
前記振動板の鉛直方向の長さは前記グラス本体の鉛直方向の長さの半分よりも長く、
前記振動板の鉛直方向の長さは前記グラス本体の鉛直方向の長さよりも短く、
前記スピーカーから出た音が前記振動板を振動し、
前記振動板の振動が前記グラス本体の内壁面に伝搬
し、
前記グラス本体内部に前記スピーカーの音を共振させるための中空構造のチャンバーを備え、
前記チャンバーはその内部に空気が充填された空間を備え、
前記チャンバーの側面と前記振動板の表面との間の距離が18[mm]以下であり、
前記チャンバーの容積は前記グラス本体の容積の1/3以上の大きさを有し、
前記スピーカーの音が前記チャンバー内部の空気が充填された空間で共振することを特徴とする飲料用演出グラス。
【請求項2】
前記グラス本体の内壁面と前記グラス本体内の飲料に囲まれた空間で前記スピーカーの音が共振することを特徴とする請求項1に記載の飲料用演出グラス。
【請求項3】
前記グラス本体の上部開口の径が前記グラス本体の内壁面の底面の径に比して大きいことを特徴とする請求項1~2のいずれか一項に記載の飲料用演出グラス。
【請求項4】
前記振動板と前記グラス本体は音響インピーダンスが同じ材料を用いていることを特徴とする請求項
1に記載の飲料用演出グラス。
【請求項5】
前記スピーカーと前記振動板との距離が18[mm]以下であることを特徴とする請求項
1に記載の飲料用演出グラス。
【請求項6】
前記スピーカーと前記振動板との距離が可変であることを特徴とする請求項
1に記載の飲料用演出グラス。
【請求項7】
前記振動板の上端部エリアの厚さが前記振動板の下端部エリアの厚さに比して薄いことを特徴とする請求項
1に記載の飲料用演出グラス。
【請求項8】
前記スピーカーと前記振動板との距離が18[mm]以下の状態で前記スピーカーを前記振動板の近傍に固定可能であり、
前記スピーカーと前記振動板が非接触の状態で前記スピーカーを前記振動板の近傍に固定可能であることを特徴とする請求項
1に記載の飲料用演出グラス。
【請求項9】
前記チャンバーはその上部に透明な上端面を備え、
前記チャンバーの側面は全て透明であり、
前記振動板は透明であり、
前記グラス本体の側面は全て透明であり、
前記グラス本体の内壁面と前記チャンバーの側面の距離は1[cm]以下であることを特徴とする請求項
1に記載の飲料用演出グラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料用演出グラスに関する。
【背景技術】
【0002】
飲料を入れる機能以外に様々な機能を持ったグラスが開発されている。
例えば特許文献1~3には本願発明者が発明した飲料用演出グラスが開示されている。この飲料用演出グラスは、グラス本体と、グラス本体の底部から内部側にのびており携帯電話又はスマートフォンを格納するための格納部と、グラス本体の側面から内部側にのびており携帯電話の電波を通過させるための導波部を備えている。この飲料用演出グラスはグラス本体内に飲料を充填した状態でも携帯電話の電波を導波部を通して外部に出して無線通信できる。
特許文献4には本願発明者が発明した飲料用演出グラスが開示されている。この飲料用演出グラスは、グラス側面に固定された映像表示装置と、グラス本体内部に配置された反射鏡とを備えてりおり、映像表示装置の映像を疑似的にグラス内部に投影する演出が可能なグラスである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6337256号
【文献】特許第6406742号
【文献】特許第6432960号
【文献】特許第6488049号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1~4の飲料用演出グラスは、グラス内で音やサウンドを増幅することが不可能である。
【0005】
本発明は上記問題を鑑み、グラス内で音やサウンドを増幅し、その増幅した音やサウンドをグラス本体の上部開口より効率良く拡散する飲料用演出グラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の飲料用演出グラスは、水平方向に湾曲した上部開口を有する有底の筒状体であるグラス本体と、平坦な板状の振動板と、前記グラス本体の側面にスピーカーを固定する固定機構とを備えており、前記振動板は前記グラス本体の側面に位置し、前記振動板は前記グラス本体の側面に連結または密着しており、前記振動板は前記グラス本体の側面と少なくとも一箇所は連結されており、前記固定機構は前記スピーカーを前記振動板方向に向けた状態で前記振動板の近傍に固定し、前記振動板はその表面を前記スピーカーの方向に向けた状態で前記グラス本体の側面に連結または密着しており、前記振動板の鉛直方向の長さは前記グラス本体の鉛直方向の長さの半分よりも長く、前記振動板の鉛直方向の長さは前記グラス本体の鉛直方向の長さよりも短く、前記スピーカーから出た音が前記振動板を振動し、前記振動板の振動が前記グラス本体の内壁面に伝搬することを特徴とする。
また、前記グラス本体の内壁面と前記グラス本体内の飲料に囲まれた空間で前記スピーカーの音が共振することを特徴とする。
また、前記グラス本体の上部開口の径が前記グラス本体の内壁面の底面の径に比して大きいことを特徴とする。
また、前記振動板と前記グラス本体は音響インピーダンスが同じ材料を用いていることを特徴とする。
また、前記スピーカーと前記振動板との距離が18[mm]以下であることを特徴とする。
また、前記スピーカーと前記振動板との距離が可変であることを特徴とする。
また、前記振動板の上端部エリアの厚さが前記振動板の下端部エリアの厚さに比して薄いことを特徴とする。
また、前記スピーカーと前記振動板との距離が18[mm]以下の状態で前記スピーカーを前記振動板の近傍に固定可能であり、前記スピーカーと前記振動板が非接触の状態で前記スピーカーを前記振動板の近傍に固定可能であることを特徴とする。
また、前記グラス本体内部に前記スピーカーの音を共振させるための中空構造のチャンバーを備え、前記チャンバーはその内部に空気が充填された空間を備え、前記チャンバーの側面と前記振動板の表面との間の距離が18[mm]以下であり、前記チャンバーの容積は前記グラス本体の容積の1/3以上の大きさを有し、前記スピーカーの音が前記チャンバー内部の空気が充填された空間で共振することを特徴とする。
また、前記チャンバーはその上部に透明な上端面を備え、前記チャンバーの側面は全て透明であり、前記振動板は透明であり、前記グラス本体の側面は全て透明であり、前記グラス本体の内壁面と前記チャンバーの側面の距離は1[cm]以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の飲料用演出グラスは、グラス近傍に固定されたスピーカーの音をグラス側面の振動板で直接受けて、その振動板の振動(音)を(連結部より)グラス本体に伝搬させ、その振動をグラス本体内の空間で共振させることにより増幅させることが可能である。
本発明の飲料用演出グラスは、スピーカー近傍に配置された平坦な振動板で音を直接受ける方式のため、グラス本体に音(振動)を効率良く伝搬することが可能であり様々な径のスピーカーに対応出来る。また、電気を使わないため省エネである。
本発明の飲料用演出グラスは、グラス本体(より厳密にはグラス内壁面)と飲料(の水面n)との間の空間(又はグラス本体内壁面と飲料(の水面)に囲まれた空間或いは水面より上のグラス本体内の空間)で音(振動)を共振増幅させる方式のためグラス本体内の飲料(液体)の水面の高さを調節することによりグラス本体内の共振周波数を変えることができる。つまり、飲料の量を調節することによりグラス本体内で共振するスピーカーの音を変えることができる(つまりグラス内の飲料の量の増減により音色が返る演出が可能)。
本発明の飲料用演出グラスは、振動板とグラス本体は少なくとも一箇所は連結されている箇所が有り、更に振動板とグラス本体の音響インピーダンスが同じある(マッチングが取れている)ためエネルギーロスが殆ど無しに音(振動)をグラス内に伝えることが可能。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態の飲料用演出グラスを示す斜視図(a)及び断面図(b)
【
図3】グラス本体と振動板のサイズの関係の例示す断面図(a)及び断面図(b)
【
図4】第2の実施の形態の飲料用演出グラスを示す断面図
【
図5】スピーカー又は音波発生源からの音波の拡散の様子を示す概要図
【
図6】第3の実施の形態の飲料用演出グラスを示す断面図
【
図7】第3の実施の形態の飲料用演出グラスの透過光路を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0009】
[飲料用演出グラスの第1の実施の形態]
以下、本発明の飲料用演出グラスの第1の実施の形態を図面を用いて示す。
図1に示すように、飲料用演出グラス1は水平方向に湾曲した上部開口11を有する有底の筒状体であるグラス本体10と、平坦な板状の振動板20と、グラス本体10の側面にスピーカー100を固定する固定機構15とから概略構成される。
グラス本体10は
図1(a)または
図1(b)のように水平方向に湾曲した上部開口11を有する有底の筒状体であり、飲料Lをその内部に充填できる。グラス本体10は振動板20で受けたスピーカー100の音(振動)を共振させるための共鳴管(共振管)として機能する。
図1(b)のようにグラス本体10の内部に入れる飲料Lの水面の高さhを調整することにより、グラス本体10内での音の共振(共鳴)周波数を変化させる事ができる。ここで一つ注意点があり、それはグラス本体10(厳密にはグラス本体10内壁面)の材料についてである。本発明の飲料用演出グラス1はスピーカー100の音増幅のためにグラス内壁面13と飲料Lの間の空間30(又は飲料Lとグラス内壁面13に囲まれた空間)で振動板20の音(振動)を共鳴(共振)させる必要があるため、グラス本体10の材料(厳密にはグラス本体10内壁面を構成する材料)は音響インピーダンスの大きさが水と同じかそれ以上の材料を用いた方が良い。何故なら、仮に音響インピーダンスの値が水のそれに比して低い材質(例えば密度の低い木材や発泡スチロール)をグラス本体10(より厳密にはグラス内壁面13)の材料として用いると、飲料Lの水面で反射した音(空気の振動)がグラス内壁面13で再反射せずに吸収或いは透過してしまうため空間30で共振現象が起こり難くなり、結果としてグラス本体10内の音の共振又は共鳴の強さ(或いは共振のQ値)が弱くなるからである(音響インピーダンスやQ値、音の共振については音響工学の専門書を参照されたい)。グラス本体10の材料として適しているのは水より密度の高い材料(例えば金属等の音をよく反射する材料など)が挙げられる。
振動板20は振動板20の近傍に固定されたスピーカー100の音(振動)を効率良く受ける(取り込む)ための平坦な振動板である。スピーカー100より出力された音(振動)によりグラス本体10側面に位置する振動板20を振動(または励起)させ、その振動がグラス本体10(より厳密にはグラス本体10の内壁面13)に伝わり(結果として飲料Lも振動し)、グラス内の空間30で共振を起こす(空間30の空気を共振振動させる)。つまり、グラス本体10の内壁面13と飲料Lの間との空間30(より厳密にはグラス本体10の内壁面13と飲料Lの水面の間の空間)でスピーカー100の音(振動)が共振する。
図1(a)または
図1(b)のように固定機構15により振動板20の近傍にスピーカー100が配置されるため、スピーカー100から発生した微細の振動も振動板20はキャッチすることができる。なお、振動板20の駆動には電気を一切用いないため省エネである(振動板20は純粋にスピーカー100の音圧のエネルギーによってのみ振動または駆動する)。なお、振動板20はスピーカー100により励起(駆動)された音(振動)をグラス本体10内部に伝搬させる必要があるため、振動板20とグラス本体10の側面は少なくとも一箇所は連結(結合)されてなければならない。振動板20の振動は連結箇所16を通ってグラス本体10に伝わる。音の伝送効率を考えると連結箇所16は振動板20とグラス本体10が最短距離で直結出来るようにグラス本体10側面が良い。つまり、振動板20(厳密には振動板20の表面)はグラス本体10の側面に(密着した状態で)連結すると良い(また、連結箇所16または密着箇所の面積は大きければ大きい程伝送効率は高くなる)。なお、振動板20の配置には一つ注意事項が有り、それは振動板20はグラス本体10の底面や底部付近に配置することは避けた方が良いということである。何故なら、仮に振動板20をグラス本体10の底面や底部に設けると、振動板20と共振用の空間30の距離(つまり飲料Lの水面までの距離)が長くなりその分だけ音又は音波が(グラス本体10側面に振動板20を取り付けた場合に比して)減衰して空間30に伝わるためである。音のエネルギーロスを避けるためにも振動板20の表面は前記グラス本体の側面(可能なら側面の中心付近の高さの位置)に連結または密着させる方が望ましい。
なお、スピーカー100から出力された音が振動板20の表面で無用な乱反射や拡散を起こすのを防ぐため振動板20は突起部等が存在しない平坦な板状の形状が望ましい。振動板20の材料としては音響インピーダンスが高くかつ軽量な(つまり振動し易い)材料が適している。なお、振動板20は
図1(a)や
図1(b)に示すようにグラス本体の側面に接した状態で(或いは面した状態で)グラス本体側面に連結されている。また、振動板20はスピーカー100の音波を受けるために、振動板20はその表面をスピーカー100の方向に向けた状態で前記グラス本体10の側面に連結または密着している(つまり、振動板20はスピーカー100は互いに向かい合っている)。
固定機構15はスピーカー100を振動板20方向に向けた状態で振動板20の近傍(つまりグラス側面近傍)に固定するための部材である(つまり振動板20とスピーカー100は互いに向かい合った状態で固定されている)。固定機構15としては係止、ネジ機構、マグネット機構、ポケット機構の他に
図1(a)又は
図1(b)のような多軸アーム機構等が挙げられる。
図1(a)又は
図1(b)のように固定機構15として多軸アームを用いれば振動板20とスピーカー100の距離dを調整することが可能になる。距離dを大きくすれば振動板20にスピーカー100の音(振動)が届き難くなるため、グラス本体10内での音(振動)の共振の大きさを小さくできる。つまり、距離dを増減させることによりグラス本体10内で共鳴(共振)する音のボリュームを調整できる。なお、距離dが小さければ小さい程、スピーカー100と振動板20間の音のエネルギーの伝送ロスが減る(原理的には距離d=0つまりスピーカー100と振動板20が密着状態の時に音波の伝送ロスが最小になる)。
本発明の飲料用演出グラス1はスピーカー100の音(振動)をグラス本体10に伝搬させてグラス本体10内部の空間30(厳密には飲料Lとグラス本体内壁面に囲まれた空間または飲料Lの水面より上のグラス内壁面13間の空間)で共振又は共鳴させて増幅させる方式のため、
図1(b)のように飲料Lの量の増減(より厳密には飲料Lの水面の高さhの増減)によりグラス本体10内に共鳴する音を変えることができる。つまり、本発明の飲料用演出グラス1はグラス内部のお酒(飲料)の量により音色が変る飲料用演出グラスである。
【0010】
振動板20とスピーカー100との間の距離dについて補足説明をする。
人間の耳が聞きとれる音の周波数範囲は、20[Hz]から20,000[Hz]の範囲(これを可聴領域と言う)だと言われている。空気中の音の速度は約340[m/s]~約360[m/s]のため、空気中を伝わる20,000[Hz](つまり可聴領域の最も高い周波数)の音の波長は約17[mm]から18[mm]になる(詳細は音響工学の専門書を参照されたい)。
物理の基本法則(厳密には最小作用の原理)又は音波の基本的な性質により音波発生源から放射された音波はエネルギーが伝わりやすい部分を優先して回折等をしながら物質内や空間内を拡散していく。そのため音波発生源(つまりスピーカー100)と振動板20の距離dが音波の波長に比して相対的に大きくなればなる程、(その波長の)音波はスピーカー100の裏側に回折し易くなったり、スピーカー100の周囲の空間に(放射状に)拡散し易くなるため振動板20には届き難くなる(音の拡散や放射による減衰や回折については音響工学やスピーカーの専門書を参照されたい)。例えば
図5のように仮に距離dが音波の波長の5倍(つまり5λ長[m])の大きさになると
図5のように音は音波として上下方向にも拡散して弱まり、更にスピーカー100から出力した音波の殆どはスピーカー100の裏側に回り込んだり(回折したり)振動板20には残り僅かしか届かなくなる。
この音の波としての性質による回折や拡散によるエネルギーロスを防ぐためには距離dは少なくとも18[mm]以下である事が望ましい。別の言い方をすると距離dは人間の可聴領域の最も高い周波数(20,000[Hz])の1波長分(18[mm])以下であることが望ましい(距離dを1波長分以下にすることによりスピーカー100の音波が波として殆ど拡散させない状態で振動板20に伝える事が出来る)。
距離dを18[mm]以下にすることにより可聴領域の最も高い周波数部分(20,000[Hz])の音波も(周囲の空間に無駄に)拡散させずに効率よく振動板20に送る事が可能である(つまり距離dを18[mm]以下にすることにより飲料用演出グラス1の上部開口11から出力される20,000[Hz]近傍の帯域の音量又は音のエネルギーを大きくする事が可能になる)。
なお、可聴領域の低周波部分の音波の波長については、可聴領域の低周波部分(つまり20[Hz])の音波は1波長の長さが約18[m]と(可聴領域の高周波部分の波長18[mm]に比して)非常に巨大な値になる。そのため、距離dが可聴領域の最も高い周波数(20,000[Hz])の1波長分(18[mm])以下の条件を満たしてさえいれば自動的に距離dが可聴領域の最も低い周波数(20[Hz])の1波長分以下(18[m])の条件も満たすことになる。別の言い方をすれば、距離dが18[mm]以下になるようにしさえすれば可聴領域の全周波数帯域(20[Hz]から20,000[Hz])に渡って回折や拡散によるエネルギーロスを低くすることが出来る(これは周波数が低くなるほど波長が長くなる音波の基本原理による)。
また、距離dが18[mm]以下になるようにしさえすれば可聴領域の全周波数帯域に渡って振動板20へ効率良く(エネルギーロスが少なく)音波を送れるため飲料用演出グラス1の上部開口11から出力(又は放射)する音(音波)の周波数特性が(可聴領域の全周波数帯域に渡って)フラットにすることが出来る(つまり飲料用演出グラス1の音質が良くなる)。
距離dを1波長分以下にすることによりスピーカー100の音波が波として殆ど拡散させない状態で振動板20に伝える事が出来る
【0011】
振動板20とスピーカー100との間の距離dについて補足説明をする。
距離d=0つまり振動板20とスピーカー100を完全に接触(又は密着)した状態でスピーカー100をグラス本体10の側面に固定してしまうと、音波放射時にはスピーカー100が微細振動しているためスピーカー100と振動板20の接触箇所で機械的に何度も微細な接触又は衝突の繰り返しが発生し振動板20が破損してしまう恐れがある(つまり距離d=0の場合に音波放射時の振動でスピーカー100と振動板20の間でチャタリングが常時発生し続ける状態になってしまう)。このスピーカー100と振動板20の機械的な接触の繰り返しによる衝突音は音ノイズにもなるため音質を劣化させる原因にもなる。これを防ぐには振動板20とスピーカー100を僅かだけ離れた状態(つまり両者が非接触の状態)でスピーカー100を振動板20の近傍に固定すると良い。距離d>0の状態でスピーカー100を固定する具体的な方法としては振動板20とスピーカー100の間にスペーサーを挟む方法や中空の定位置で物体(スピーカー100)を固定出来る多軸アームを用いる方法等が考えられる。
0[mm]<距離d<18[mm]にすることにより振動板20とスピーカー100の接触音(衝突音)ノイズを防ぎながら且つスピーカー100の音波が波として殆ど拡散させない状態で振動板20に伝える事が可能である。
【0012】
グラス本体10と振動板20について補足説明をする。
本発明の飲料用演出グラス1は
図1(b)のように振動板20にて集音されたスピーカー100の音(振動)をグラス本体10に伝搬させてグラス本体10内部の空間30で共振又は共鳴させる。そのため、振動板20とグラス本体10の連結部での音(振動)のエネルギーの伝送ロス(より厳密には連結部16での反射ロス)を減らすために、振動板20とグラス本体10の音響インピーダンスは一致(インピーダンスマッチング又は整合)させておく方が望ましい。そのため振動板20とグラス本体10は音響インピーダンスが同じ材料を用いていることが望ましい(音響インピーダンスについての詳細は
図2または音響工学やスピーカーの専門書を参照されたい)。
少なくとも連結部16近傍のエリアにおけるグラス本体10の材料の音響インピーダンスと振動板20を構成する材料の音響インピーダンスは一致(マッチング)させておく方が望ましい。連結部16エリアにおける振動板20とグラス本体10双方の材料の音響インピーダンスを一致(マッチング)させることにより連結部16での音波の反射ロスを抑えることが可能である。
【0013】
図1(b)のようにグラス本体10の上部開口11の径R1(或いは直径R1)がグラス本体10の(内壁面の)底面12の径R2(或いは直径R2)に比して大きくしても良い(つまりグラス内壁面13をグラス底面12に対して傾斜させても良い)。こうすることによりグラス本体10内部の形状がホーンスピーカーのホーン(又はホーン部)と同じ形状になるためグラス本体10内部の空間で共鳴した音を上部開口11より広範囲に拡散できる(ホーンスピーカーやホーンの詳細については音響工学やスピーカーの専門書を参照されたい)。
以上のように、本発明の飲料用演出グラス1は、飲料を充填するグラス本体10が音(振動)を共鳴させる共鳴管と音を拡散させるスピーカーホーンの2つの機能を有しているため、グラス本体10内部の飲料Lの量(厳密にはグラス内の飲料Lの水面の高さ)により、上部開口11より拡散される音を大きく変化させる事が可能なのが最大の特長である。
また、振動板20とグラス本体10の材料の音響インピーダンスをマッチング(整合)させればエネルギーロスを非常に抑えた飲料用演出グラス1を作成することも可能である。
また、振動板20とスピーカー100との距離dを18[mm]以下にする事により可聴領域の全周波数帯域(20[Hz]から20,000[Hz])に渡ってスピーカー100から出力される音の拡散や回折によるエネルギーロスが少ない飲料用演出グラス1を作成することも可能である。
【0014】
グラス本体10と振動板20のサイズについて補足説明する。
物理の基本法則(厳密には最小作用の原理)により音波は(音波発生源を中心に)拡散しながら物体や空間中を伝搬する性質がある。そのためスピーカー100から出力された音波(又は空気の振動)を出来るだけ(グラス本体10周囲の空間に)漏らすことなく振動板20で受ける(取り込む)ためには振動板20のサイズは出来るだけ大きい方が良い。理想的には振動板20のサイズはスピーカー100の前面(音が出力されるエリア)を覆う事が可能な程大きいサイズが望ましい。
一方、振動板20のサイズがグラス本体100に比して大きくし過ぎると、振動板20で受けたスピーカー100の音波(音のエネルギー)の大部分が
図3(b)のように振動板20の上部の外周近傍のエリアや角のエリアから漏れて(周囲の空間に)拡散してしまいエネルギー効率が極端に悪くなる。例えば仮に
図3(b)のように振動板20の鉛直方向の長さh2がグラス本体の鉛直方向の長さh1(又は高さ)より遥かに大きく(つまりh1<<h2に)するとスピーカー100の音波(音のエネルギー)の大部分は(振動板20から)グラス本体10に伝搬せずに、振動板20外周近傍のエリアや角部から周囲の空間へ漏れて拡散してしまう。別の言い方をすると物理の基本法則(厳密には最小作用の原理)により波のエネルギーは伝わりやすい部分に優先して伝わる性質があるため音のエネルギーの大部分がグラス本体10に伝わらずに振動板20の上端部の外周近傍のエリアや角部より空間に放出される。
そこで、本発明の飲料用演出グラス1では
図1(b)や
図3(a)のように、振動板20の鉛直方向の長さh2がグラス本体10の鉛直方向の長さh1の半分よりも長く、且つ、振動板20の鉛直方向の長さh2がグラス本体10の鉛直方向の長さh1よりも短くしている(つまりh1/2<h2<h1)。こうすることによりスピーカー100の音波をグラス本体10(厳密にはグラス本体10の内部の空間)に効率よく伝える事が可能になり且つ様々な径のサイズのスピーカー100(厳密にはh1の半分の大きさ以内のサイズの全てのスピーカー)に対応出来る。
【0015】
振動板20の厚さについて補足説明する。
振動板20の厚さを極端に厚くし過ぎるとスピーカー100の音波により振動板20が振動し難くなるので(つまり振動板20の厚さを厚くし過ぎると振動板としての機能が低下するので)、振動板20の厚さは最低でも5[mm]以下にした方が良い。金属等の強度の有る材料を振動板20に用いる際は振動板20の厚さは1[mm]以下でも良い。樹脂などを用いる場合は強度の問題が有る為、3[mm]~5[mm]の厚さが望ましい。
【0016】
以下、本発明の飲料用演出グラスの第2の実施の形態を図面を用いて示すが、上記第1の実施の形態の飲料用演出グラス1と同一の構成となる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施の形態では
図4に示すように、振動板20の上端部エリアの厚さd1が振動板20の下端部エリアの厚さd2に比して薄くしている(つまりd1<d2)。これは飲料用演出グラス1をテーブルに置いた際の衝撃で(薄い)振動板20の下端部が破損する事を防止するための処置である。アルコール摂取時はどのような人間でも力の加減が難しく、飲料用演出グラス1を強い勢いでテーブルに置くケースがあり、その衝撃で薄い振動板20が意図せず割れてしまう事があるが、それを防止するための(補強)措置である。また、d1<d2にすることにより飲料用演出グラス1の重心を下げることが可能なため飲料用演出グラス1の安定性が増す。
【0017】
以下、本発明の飲料用演出グラスの第3の実施の形態を図面を用いて示すが、先述の第1の実施の形態の飲料用演出グラス1と同一の構成となる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施の形態では
図6に示すように、グラス本体10内部にスピーカー100の音を共振させるための中空構造のチャンバー40(空気室)を備え、チャンバー40はその内部に空気が充填された空間45を備え(音波共振用の空気充填空間)、スピーカー100の音又は音波がチャンバー40内部の空気が充填された空間45で共振することを特徴とする。
振動板20で受けたスピーカー100の音(又は音波)を効率良くチャンバー40内の空間に伝搬させるために
図6のように振動板20表面とチャンバー40の側面の間の距離d3(より厳密には最短距離)は18[mm]以下にしても良い。18[mm]は人間の可聴周波数帯の高周波の上限(周波数20,000[Hz])の音波の波長の長さであり。距離d3を18[mm]にすることにより周波数20,000[Hz]の高周波領域を含む人間の可聴周波数帯の全帯域に渡って効率良くピーカー100の音をチャンバー40(厳密にはチャンバー40内の音共振用の空間45)に送信できる。つまり、d3を18[mm]より短くすることにより音波エネルギーの放射拡散のロスが少ない状態で音を振動板20又はスピーカー100からチャンバー40へ伝える事が出来る。
本実施の形態ではグラス本体10の内部にチャンバー40を備えることにより共振又は共振によるスピーカー100の音(又は振動板20に伝わった音)の共振又は共振による増幅効果を飛躍的に高める事が出来る。
なお、水は空気に比して音響インピーダンスが高い物質では有るがd3が18[mm]以下程度の距離であればスピーカー100の出力が仮に100[W]以下の場合でも、その音は飲料Lや水中を通ってチャンバー40に十分に伝わる事も追記しておく。水中で発した声でも10、20[cm]程度なら水中内でも十分人間に聞こえる音量で伝わるし、肺活量が高い人間が発した声は1[m]以内の距離なら水中でも聞く事が十分可能な事も追記しておく。
なお、チャンバー(英:chamber)は空気部屋等を表す言葉であるが日本語の発音ではチェンバーと発音される事も有るが本願明細ではチャンバーの表記に統一する。
チャンバー40をグラス本体10内部に固定する方法や固定器具43としてはマグネット機構や係止機構やネジ機構或いは接着や溶着による固定方法や固定器具を用いても良い。
チャンバー40は内部の空間45に飲料Lが入り込まないために気密性又は水密性を持たせても良い。
【0018】
チャンバー40の容積(又は体積)は音波共振用の空間である空間45の容積(又は体積)を十分に確保するためにグラス本体10の容積の少なくとも1/3以上が望ましい。チャンバー40の容積又は体積をグラス本体10の容積の1/3以上にすることにより可聴周波数帯の中である程度長い波長の周波数帯の音(振動板20から伝わったスピーカー100の音)の成分をチャンバー40(空間45)で共振又は共振増幅させる事が可能になる。
なお、音波や共振の基本原理によりチャンバー40の容積(より厳密には空間45の容積)を大きくすればするほどチャンバー40(厳密には空間45)で共振または共振増幅する音波の波長は長くなる(つまり周波数は低くなる)。このため共振させたい音波の周波数が低い場合はそのターゲット周波数に合わせてチャンバー40の容積の大きさや長さを調節しても良い。例えばチャンバー40(空間45)で共振(共振増幅)させる音の周波数のターゲットを低くしたい場合はチャンバー40の容積をグラス本体10の容積の半分以上の大きさにしても良い。ただし、チャンバー40の容積を大きくするとその分だけグラス本体10の飲料Lの入れるエリアが減じるのでその点は注意が必要である。
チャンバー40に飲料Lや水を入排出出来る給水口や排出孔を設けて空間45内の任意の高さまで飲料Lを注入できるようにしても良い。こうする事によりチャンバー40に充填されている飲料Lの水位の高さでチャンバー40(空間45)で共振(共振増幅)させる音の周波数の高低を調整することが可能になる。なお、入排出出来る給水口は空間45の気密性や水密性を高めるためにしっかり封が出来る事が望ましい。
【0019】
図6や
図7のようにチャンバー40の側面41とグラス本体10の側面と振動板20を透明にすることによりチャンバー40側面とグラス本体10側面越しに(チャンバー40側面とグラス本体10側面を透過して)ユーザーUから見てグラス本体10の反対側のエリアやスピーカー100を視認出来るようにしても良い。
図6や
図7のようにチャンバー40はその上部に透明な上端面42を備え、チャンバー40の側面41を全て透明にして、振動板20を透明にして、グラス本体10の側面を全て透明にすることによりユーザーUがグラス本体10の上部開口11の方向からグラス本体10側面と振動板20、そしてチャンバー40の側面41と上端面42越しにグラス本体10の周りの風景や物体0又はスピーカー100を視認出来るようにしても良い。上端面42は光の無用な乱反射を抑え視認性を高めるために平坦な方が望ましい。
透明なチャンバー40をグラス本体10内に配置することによりグラス本体10内部に飲料L充填の有無に関わらず(又は飲料Lの光透過率の大小に関わらず)常に透明なエリアを常時グラス本体10内に強制的に作り出す事が可能である(つまり、チャンバー40を透明にする事によりチャンバー40を光透過トンネルとしても利用出来るようになる)。
通常、グラス本体10内部に充填される飲料Lは水だけでなくビールやワイン等の色の付いた光透過性の低い飲料の場合も有るが、そのような光透過性の低い飲料がグラス本体10内に充填されている場合でもグラス本体10及び振動板20越しにスピーカー100や物体0がユーザーUから見て視認出来るようにグラス本体10の内壁面13とチャンバー40の側面41の距離d4(より厳密には最長距離)は1[cm]以下にしても良い。距離d4を1[cm]以下にする事により光透過性が非常に低い飲料L(例えば赤ワイン等)がグラス本体10内に充填されている場合もグラス本体10内のチャンバー40(透明領域)を経由又は通過する事によりグラス本体10内に侵入した光はグラス本体10を透過又は貫通する事が可能である(1[cm]以下の距離ならか光透過性が低い飲料でも光は透過又は貫通する事が可能)。
距離d4<1[cm]にする事によりグラス本体10内の飲料Lの光透過性の有無に関わらず飲料用演出グラス1(グラス本体10)に側面から侵入した光は
図6や
図7の光路Wで示されるように様に振動板20とグラス本体10側面を透過した後にチャンバー40の側面41とチャンバー内部の空間45を経由してグラス本体10の外部に至りユーザーUの眼でその光を視認する事が可能である。距離d4<1[cm]にする事によりグラス本体10の飲料L中にスピーカーやグラス周辺の風景が浮かび上がる演出が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、グラス内で音やサウンドを共振増幅し、その増幅した音やサウンドをグラス本体の上部開口より効率良く拡散する飲料用演出グラスである。以上より本発明は産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0021】
L 飲料(液体)
d 距離(スピーカーと振動板間の距離)
W 光路(透過する光の光路)
U ユーザー
h 高さ(水面までの高さ)
h1 グラス本体の鉛直方向の長さ(グラス本体の縦方向の長さ)
h2 振動板の鉛直方向の長さ(振動板の縦方向の長さ)
d1 振動板の上端部エリアの厚さ
d2 振動板の下端部エリアの厚さ
d3 距離(振動板表面とチャンバー側面間の距離)
d4 距離(グラス本体内壁面とチャンバー側面の間の距離)
O 物体
R1 径(上部開口の径)
R2 径(グラス本体の内壁面の底面の径)
1 飲料用演出グラス
10 グラス本体
11 上部開口
12 底面(グラス本体の内壁面の底面)
13 グラス内壁面(グラス本体10の内壁面)
14 底部
15 固定機構
16 連結箇所
20 振動板
30 空間(共振用の空間又はグラス本体10内壁面と飲料Lで囲まれた空間)
40 チャンバー(音波共振用の空気室又は中空構造の箱)
41 側面
42 上端面
43 チャンバー用固定器具(チャンバーをグラス本体内に固定するための固定器具)
45 空間(音波共振用の空気充填空間)
100 スピーカー
【要約】
【課題】 本発明はグラス内で音やサウンドを増幅し、その増幅した音やサウンドをグラス本体の上部開口より効率良く拡散する飲料用演出グラスを提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明の飲料用演出グラスは水平方向に湾曲した上部開口を有する有底の筒状体であるグラス本体と、平坦な板状の振動板と、前記グラス本体にスピーカーを固定する固定機構とを備えており、前記振動板は前記グラス本体の側面に位置し、前記振動板は前記グラス本体の側面又は底部と少なくとも一箇所は連結されており、前記固定機構は前記スピーカーを前記振動板方向に向けた状態で前記振動板の近傍に固定し、前記スピーカーから出た音が前記振動板を振動し、前記振動板の振動が前記グラス本体に伝搬し、前記振動が前記グラス本体内の空間に伝搬し、前記振動が前記空間で共振することを特徴とする。
【選択図】
図1