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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】紫外線吸収吸着フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230320BHJP
   C09J 7/50 20180101ALI20230320BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20230320BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20230320BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20230320BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20230320BHJP
   C09D 133/06 20060101ALI20230320BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
B32B27/00 M
B32B27/00 101
C09J7/50
C09J7/38
C09J183/04
C09D5/00 D
C09D7/48
C09D133/06
C09D133/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019094345
(22)【出願日】2019-05-20
(65)【公開番号】P2020189408
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000237237
【氏名又は名称】フジコピアン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆史
(72)【発明者】
【氏名】小村 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 教一
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-183485(JP,A)
【文献】特開2015-140375(JP,A)
【文献】特開2007-145881(JP,A)
【文献】特開2005-335163(JP,A)
【文献】特開2000-044921(JP,A)
【文献】特表2015-526556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
C09J1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面にアンカー層、吸着層をこの順に積層した吸着フィルムであって、前記吸着層が少なくとも1種のシリコーン組成物を前記アンカー層上に積層した後、付加反応で硬化させたシリコーン系吸着層であり、前記アンカー層にアクリルポリオール樹脂を85~93重量%、紫外線吸収剤を0.30~1.80g/m含有し、前記アンカー層の塗工量が3~12g/mであることを特徴とする吸着フィルム。
【請求項2】
前記アンカー層中の前記紫外線吸収剤がベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤であることを特徴とする、請求項1に記載の吸着フィルム。
【請求項3】
前記吸着層が前記シリコーン組成物として少なくともビニル基含有ポリジメチルシロキサン組成物、メチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、シリコーンレジンを含有するシリコーン組成物を付加反応で硬化してなり、前記吸着層の厚みが3~20μmであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の吸着フィルム。
【請求項4】
前記吸着フィルムの波長355nmの紫外線透過率が1.5%以下であることを特徴とする、請求項1~3に記載の吸着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体に、貼り付けたり、取り外しが可能で、可視光の透過性が良く、基材と吸着層との間に両者とが十分な密着力を持つ紫外線吸収能を持つアンカー層を設けた吸着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
写真や印刷物、樹脂製品等は紫外線により劣化する。写真や印刷物では退色、樹脂製品では表面の白化やひび割れが発生する。これらの劣化を防止するためには、製品自体に紫外線吸収剤を含有させたり、紫外線吸収能のある樹脂層を表面に設ける方法が考えられる。
【0003】
それ以外にも、紫外線吸収能のある保護フィルムを製品の表面に貼り付ける方法が考えられる。この場合には、紫外線からの保護が不要となった場合に、被着体から容易に取り外すことができ大変便利である。
【0004】
被着体に容易に取り付け、取り外しが可能なフィルムとしては、基材の一方の面に吸着層を設けた吸着フィルムなどが存在する(特許文献1参照)。前記吸着層として、被着体を破損しないために、被着体に貼付ける際は弱い力で確実に貼付き、剥離の際には、小さい剥離力で容易に剥離できることが求められる。このような機能を持つ吸着層としては、シリコーン組成物を付加反応で硬化してなるシリコーン樹脂からなる、付加反応型シリコーン系吸着層が挙げられる(特許文献2参照)。
【0005】
また、従来より吸着フィルムにおいて被着体の紫外線劣化を防止するためフィルムに紫外線吸収剤を含有することが行われている。特許文献3には、基材と、粘着剤層とを有し、前記粘着剤層にアクリル系共重合体及びトリアジン系紫外線吸収剤を含有する、紫外線吸収能を有する画面保護フィルムが開示されている。
【0006】
本発明者らが、付加反応型シリコーン樹脂に紫外線吸収剤を、紫外線吸収能が優れるレベルまで含有させたところ、付加反応型シリコーン樹脂と紫外線吸収剤の相溶性が悪くなり、吸着層が白濁して、保護フィルムとしては不適当であった。
【0007】
さらに、紫外線吸収剤には、付加反応型シリコーン樹脂中において付加反応抑制剤として働くものがあり、紫外線吸収能が優れるレベルまで前記シリコーン組成物に含有させると、シリコーン組成物の付加反応が抑制されてシリコーン樹脂の硬化が不足する。この結果、被着体に吸着フィルムを貼付けた後に、被着体から剥離する際に吸着層の一部が剥がれて被着体に付着する、いわゆる糊残りをおこしてしまうため、紫外線吸収剤を付加反応型シリコーン樹脂に含有して、紫外線吸収能のある吸着層となすのは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-198785号公報
【文献】特開2004-59800号公報
【文献】特開2016-130276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、被着体に、貼り付けたり、取り外しが可能で、可視光の透過性が良く、基材と吸着層との間に両者とが十分な密着力を持つ紫外線吸収能を持つアンカー層を設けたことで、被着体を紫外線劣化から保護し、被着体からの剥離時に吸着層の糊残りのない吸着フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、樹脂からなる基材の一方の面に、シリコーン組成物を付加反応で硬化してなるシリコーン樹脂からなる、シリコーン系吸着層を設置した吸着フィルムにおいて、前記基材と吸着層の間に、アクリルポリオール樹脂と紫外線吸収剤からなるアンカー層を設けることで、十分な紫外線吸収能を有し、可視光の透過性がよく、基材および吸着層と十分な密着力を得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
さらに、本発明の吸着フィルムは、紫外線吸収能を持つアンカー層を含む構成により、基材とシリコーン系吸着層の密着性が良好であるので、打ち抜き加工や機械切断などを行ってもシリコーン系吸着層が剥れず、また紫外線レーザーによる切断などの加工も可能であり、多様な加工方法に対して良好な加工特性を持つ。
【0012】
第1発明は、基材の片面にアンカー層、吸着層をこの順に積層した吸着フィルムであって、前記吸着層が少なくとも1種のシリコーン組成物を付加反応で硬化してなり、前記アンカー層にアクリルポリオール樹脂を85~93重量%、紫外線吸収剤を0.30~1.80g/m含有し、前記アンカー層の塗工量が3~12g/mであることを特徴とする吸着フィルムである。
【0013】
第2発明は、前記アンカー層中の前記紫外線吸収剤がベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤であることを特徴とする、第1発明に記載の吸着フィルムである。
【0014】
第3発明は、前記吸着層が前記シリコーン組成物として少なくともビニル基含有ポリジメチルシロキサン組成物、メチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、シリコーンレジンを含有するシリコーン組成物を付加反応で硬化してなり、前記吸着層の厚みが3~20μmであることを特徴とする、第1発明または第2発明に記載の吸着フィルムである。
【0015】
第4発明は、前記吸着フィルムの波長355nmの紫外線透過率が1.5%以下であることを特徴とする第1発明~第3発明のいずれかに記載の吸着フィルムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の吸着フィルムは、樹脂からなる基材の一方の面に、シリコーン組成物を付加反応で硬化してなるシリコーン樹脂からなる、シリコーン系吸着層を設置した吸着フィルムにおいて、前記基材と吸着層の間に、アクリルポリオール樹脂と紫外線吸収剤からなるアンカー層を設けてなり、紫外線からの保護のために被着体に貼付け、不要となった場合に容易に剥離することができ、さらに打ち抜き加工や紫外線レーザーによる加工に対して良好な加工特性を持つものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の吸着フィルムを、その構成要素に基づいて、さらに詳しく説明する。
【0018】
(全体構成)
本発明の吸着フィルムは、樹脂からなる基材の一方の面にアンカー層を設け、その上にシ
リコーン組成物を付加反応で硬化してなるシリコーン樹脂からなる、シリコーン系吸着層
を設けた吸着フィルムであって、前記アンカー層がアクリルポリオール樹脂と紫外線吸収
剤からなる吸着フィルムである。
【0019】
(基材)
本発明の吸着フィルムの構成要素のうち、樹脂からなる基材としては、一般的な樹脂フィルムが使用可能だが、アンカー層との密着性、保護フィルムとしての強度や、基材としてのフィルムの価格、入手性や打ち抜き、紫外線レーザー等の加工特性から、特にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが良好に使用できる。
【0020】
前記基材の厚みは、12~200μmが好適であり、25~125μmがより好適である。基材厚が12μm未満では、保護フィルムとしては強度不足となる。厚みが200μmより厚くなると、柔軟性が無くなって被着体からの剥離が困難となる。また剥離時に被着体を損傷する場合があり、価格も高くなる。
【0021】
前記基材には、所望に応じて表面にコロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、火炎処理などの処理を行ってもよい。
【0022】
(アンカー層)
本発明では、基材と吸着層の間にアンカー層を設ける。前記アンカー層の材料としては、基材およびシリコーン系吸着層とアンカー層との密着性や、紫外線吸収剤との相溶性、加工特性などから、アクリルポリオール樹脂が良好である。アクリルポリオール樹脂をアンカー層の主剤とすることで、基材とシリコーン系吸着層との密着力が確保でき、また、前記アンカー層をアクリルポリオール樹脂と紫外線吸収剤よりなすことで、可視光において透明であって紫外線吸収能を持つ。
【0023】
前記アンカー層の塗工量は、3~12g/mが好適であり、3~10g/mがより好適である。アンカー層の塗工量が3g/m未満では、アンカー層中に含有できる紫外線吸収剤の量が少なくなるため、十分な紫外線吸収能を持つことが困難になる。塗工量が12g/mより多くなると、柔軟性が無くなって吸着フィルムの被着体からの剥離が困難となる。また価格も高くなる。
【0024】
前記アンカー層中に含有する紫外線吸収剤としては、紫外線レーザーによる切断加工適性までを考慮すると、加工を行うレーザーの紫外線波長に吸収をもつものが適当であり、例えば波長355nmの紫外線レーザーに対しては、ベンゾトリアゾール骨格を持つものが波長355nm付近に吸収特性を持つために好適に用いられる。
【0025】
前記ベンゾトリアゾール骨格を持つ紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tertブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tertブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tertブチル-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tertブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tertアミルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-(3”,4”,5”,6”-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5’-メチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tertブチル-4-メチルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-tertオクチル-6-ベンゾトリアゾリル)フェノールなどが挙げられる。
【0026】
前記紫外線吸収剤の前記アンカー層中の含有量は、0.30~1.80g/mの範囲が好適である。この範囲内であると、前記アンカー層が紫外線を十分吸収することが可能になる。含有量が0.30g/m未満では、紫外線吸収能が低くなる。含有量が1.80g/mを超えると、アンカー層を構成するアクリルポリオール樹脂との相溶性が低下して、紫外線吸収剤が析出したり、アンカー層が白濁したりする不具合を起こす。また、アンカー層に積層して設けられる付加反応型シリコーン樹脂からなる吸着層の付加反応を阻害して硬化不足の原因となり、吸着層が被着体への糊残りをおこす。
【0027】
また、本発明の紫外線吸収吸着フィルムは、波長355nmの紫外線透過率が1.5%以下であることが好ましい。透過率が1.5%以下であると、十分な紫外線吸収能を持つと共に、紫外線レーザーによる加工適性を有するようになる。
【0028】
本発明のアンカー層に使用するアクリルポリオール樹脂としては、例えば、分子内に1個以上の水酸基を有する重合性単量体と、これに共重合可能な別の単量体とを共重合させることによって得られる共重合体が挙げられ、水酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2-ジヒドロキシメチルブチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシアルキルマレエート、ポリヒドロキシアルキルフマレートなどが挙げられる。また、これらと共重合可能な単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル(C1~C12)、マレイン酸、マレイン酸アルキル、フマル酸、フマル酸アルキル、イタコン酸、イタコン酸アルキル、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、3-(2-イソシアネート-2-プロピル)-α-メチルスチレン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。そして、これら単量体を、適当な溶剤および重合開始剤の存在下において共重合させることによって、アクリルポリオール樹脂を得ることができる。
【0029】
本発明におけるアンカー層は、アクリルポリオール樹脂を使用することによって、アクリルポリオール樹脂中の水酸基とシリコーン系吸着層中のSiH基とが、シリコーン組成物を付加反応させる際に架橋されて、アンカー層と吸着層との界面の密着力が向上するものである。
【0030】
なお、本発明においてアンカー層中のアクリルポリオール樹脂を架橋、特にイソシアネート系化合物で架橋すると、アクリルポリオール樹脂の水酸基がイソシアネートのNCO基との架橋反応に使用されるために、前記SiH基との架橋可能な水酸基が少なくなり、前記のアンカー層と吸着層との界面の密着力が向上する効果が得られづらくなる。よって本発明においては、アクリルポリオール樹脂はアンカー層中では架橋させずに使用する。したがって本発明のアンカー層にはイソシアネート系化合物などの架橋剤を含有しないほうが好ましい。
【0031】
アクリルポリオール樹脂は、水酸基価が固形分にて20~90(mgKOH/g)の範囲のものを使用するのが好ましい。水酸基価が20未満であるとアンカー層と吸着層との密着力が弱く、吸着層が基材から離脱しやくなる。水酸基価が90を超えるとアンカー層中のアクリルポリオール樹脂由来の水酸基が吸着層をなすシリコーン組成物のSiH基を消費しすぎて、付加反応によるシリコーン樹脂の十分な硬化が得られない。
【0032】
本発明におけるアクリルポリオール樹脂のアンカー層中含有量は85~97重量%の範囲が好ましい。含有量が85重量%未満では、相対的に紫外線吸収剤の含有量が多くなりし、前述したアクリルポリオール樹脂と紫外線吸収剤との相溶性の低下や、アンカー層に積層して設けられる付加反応型シリコーン樹脂からなる吸着層の付加反応を阻害して硬化不足の原因となる。含有量が97重量%を超えると、相対的に紫外線吸収剤の含有量が少なくなり、十分な紫外線吸収能が得られない。
【0033】
(吸着層)
本発明の吸着フィルムの吸着層としては、被着体に確実に貼着し、紫外線にさらされたあとでも、糊残りなく剥離可能であることが必要である。このような用途の吸着層としては天然、合成ゴムやシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等の樹脂や、これらの個々の樹脂を硬化剤で硬化したものが使用可能であるが、耐候性や耐光性がある点から、シリコーン組成物を熱による付加反応で硬化してなる、付加反応型のシリコーン樹脂が特に好適に使用可能である。付加反応型のシリコーン樹脂で吸着層を形成し、本発明の基材、アンカー層と組み合わせることで、被着体の紫外線劣化を防止し、しかも可視光の透過性が良く、さらに打ち抜き加工や紫外線レーザーによる加工に対して良好な加工特性を持つことが可能となり、不要となった場合に被着体から糊残りなく容易に剥離する吸着フィルムとすることができる。
【0034】
本発明の吸着層に用いる前記付加反応型のシリコーン樹脂としては、シリコーン組成物として1分子中に2個以上のビニル基を有するポリオルガノシロキサンとシリコーンレジン、および硬化剤としてSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの付加反応により熱硬化してなるものが好適に用いられる。シリコーン組成物として前記ポリオルガノシロキサン、前記シリコーンレジンおよび前記SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有し、熱硬化することで、好適な吸着層が得られる。
【0035】
以下に付加反応型シリコーン樹脂を使用した吸着層について、更に詳しく説明する。
【0036】
(シリコーン樹脂吸着層)
本発明の吸着層に用いるシリコーン樹脂の性状としては、ゴムのような柔軟性を持っていて被着体の表面に対しても、吸着層の面が被着体表面に沿うことが求められる。さらに剥離の際には、小さい剥離力で容易に剥離できることが求められる。また、少なくとも厚み5μm以上で、塗布及び加熱処理だけで吸着層を設けるためには、シリコーン組成物の硬化反応に際して、白金触媒などの付加反応触媒のもとで、150℃以下の低温短時間で深部まで硬化し、透明で耐熱性、圧縮永久歪み特性に優れかつ低粘度で液状タイプである、1分子中に2個以上のビニル基を有するジオルガポリシロキサンとシリコーンレジン、および硬化剤としてSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加反応により熱硬化する付加反応型液状シリコーン組成物の使用が好ましい。
【0037】
1分子中に2個以上のビニル基を有するジオルガノポリシロキサンとしては、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンと、両末端及び側鎖にビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンと、末端にのみビニル基を有する分岐状ジオルガノポリシロキサンと、末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ジオルガノポリシロキサンとから選ばれる少なくとも1種を用いると良い。
【0038】
これらのジオルガノポリシロキサンの1形態としては、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンで、下記一般式(化1)で表わされる化合物である。
【0039】
【化1】
【0040】
(式中Rは下記の有機基、nは整数を表す。)
【0041】
【化2】
【0042】
(式中Rは下記の有機基、n、mは整数を表す。)
【0043】
このビニル基以外のケイ素原子に結合した有機基(R)は異種でも同種でもよいが、具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、フェニル基、トリル基、などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部をハロゲン原子、シアノ基などで置換した同種、または異種の非置換または置換の脂肪族不飽和基を除く1価炭化水素基で、好ましくはその少なくとも50モル%がメチル基であるものなどが挙げられるが、このジオルガノポリシロキサンは単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0044】
両末端および側鎖にビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンは、上記一般式(化1)中のRの一部がビニル基である化合物である。末端にのみビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンは、上記一般式(化2)で表わされる化合物である。末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンは、上記一般式(化2)中のRの一部がビニル基である化合物である。
【0045】
1分子中に2個以上のビニル基を有するジオルガノポリシロキサンの重量平均分子量としては、20,000~700,000の範囲のものが好ましい。前記のジオルガノポリシロキサンの重量平均分子量が20,000未満であると、硬化性が低下したり、被着体への粘着力が低下してしまう。また、700,000を超えてしまうと、組成物の粘度が高くなりすぎて製造時の撹拌が困難になる。
【0046】
本発明の吸着層に用いられるシリコーンレジンとしては、M単位(RSiO1/2:Rはメチル基、フェニル基などの1価の有機基)、D単位(RSiO2/2)、T単位(RSiO3/2)、Q単位(SiO4/2)からなるシリコーンレジンを用いる事ができるが、なかでも吸着層の粘着力を向上させる効果が大きいことから、M単位とQ単位からなる、いわゆる従来公知のMQ型オルガノポリシロキサンレジン(以下MQレジンと略す場合あり)を含有することが好適である。前記MQレジンの吸着層中含有量は、0.01~20.00重量%の範囲とすることが好ましい。特に0.10~15.00重量%の範囲がより好適である。含有量が0.01重量%未満だと、粘着力を向上する効果が得られづらい。含有量が20.00重量%を超えると粘着力が強くなりすぎて、吸着層を被着体から剥離する際に、被着体である薄膜基板や薄膜シートを破損するおそれがある。
【0047】
前記ジオルガノポリシロキサンおよびシリコーンレジンとの組み合わせにおいて、硬化反応に用いる硬化剤は、公知のものでよいが、前記硬化剤の例として、分子内にSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。それらの中でも、特にメチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーを使用することが好ましい。前記コポリマーのメチルハイドロジェンシロキサン部分は、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するものが好ましく用いられるが、実用上からは分子中に2個の≡SiH結合を有するものをその全量の50重量%までとし、残余を分子中に少なくとも3個の≡SiH結合を含むものとすることがよい。分子の形状としては、直鎖状、分岐状、環状のものを使用できる。
【0048】
また、前記ビニル基を有するジオルガノポリシロキサン中のビニル基(A)に対する、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSiH基(B)のモル比(A)/(B)が1.0~2.0の範囲となるように配合することが好ましい。モル比(A)/(B)が1.0未満では硬化密度が不足して、これに伴い凝集力、保持力が低くなってしまうことがあり、逆に2.0を超えると硬化密度が高くなり、適度な粘着力が得られず、また前記アンカー層表面の水酸基とSiH基との架橋による十分な密着力が得られづらくなる。
【0049】
硬化反応に用いる付加反応触媒は、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物、白金-オレフィン錯体、白金-ビニル基含有シロキサン錯体、ロジウム錯体、ルテニウム錯体などが挙げられる。また、これらのものをイソプロパノール、トルエンなどの溶剤や、シリコーンオイルなどに溶解、分散させたものを用いてもよい。硬化した吸着層は、シリコーンゴムのような柔軟性を持ったものとなり、この柔軟性が被着体との密着を容易にさせるものである。
【0050】
前記付加反応触媒の添加量はシリコーン組成物の合計100重量部に対し、貴金属分の重量比率として5~2,000ppm、特に10~500ppmとすることが好ましい。5ppm未満では硬化性が低下して硬化密度が低くなり、保持力が低下することがあり、2,000ppmを超えると塗工液の使用可能時間が短くなる場合がある。
【0051】
本発明に係るシリコーン組成物の市販品の形状は、無溶剤型、溶剤型、エマルション型があるが、いずれの型も使用できる。なかでも、無溶剤型は、溶剤を使用しないため、安全性、衛生性、大気汚染の面で非常に利点がある。但し、無溶剤型であっても、所望の膜厚を得るための粘度調節のために、必要に応じてトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソパラフィンなどの脂肪族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、1、4-ジオキサンなどのエーテル系溶剤、またはこれらの混合溶剤などが使用される。
【0052】
前記溶剤の添加量はシリコーン組成物の合計100重量部に対し、20~1,000重量部、特に25~900重量部とすることが好ましい。20重量部未満では、吸着層とアンカー層の密着力が低くなって剥離する場合があり、1,000重量部を超えると、シリコーン組成物の塗工液の粘度が低くなりすぎるので、塗工後から硬化までの間に、塗工された吸着層が一部流動し、吸着層表面の平滑性が低下してしまう。
【0053】
本発明の吸着層の性状としては、ゴムのような柔軟性を持っていて被着体への貼着時に被着体の表面の凹凸に追従して密着力を確保することが求められる。そして、例えば前記の保護フィルムとして使用する場合、吸着層の膜厚は、被着体に対する吸着層の密着面方向の剪断力を確保するために少なくとも3μm以上、通常は3~20μmが好ましく、3~10μmであることがより好ましい。3μm未満であると被着体に対する保護部材の密着面方向の剪断力が確保できず、特に長期貼り付け時には、吸着フィルムが被着体から剥がれ易い。また、吸着層の厚みが20μmを超える場合には、吸着層を構成する樹脂の使用量が多くなり、吸着フィルムの製造コストの上昇を招いてしまう。また、紫外線レーザー加工において、吸着フィルムの切断が困難になる。
【0054】
本発明における吸着層の形成方法としては、吸着層を構成する樹脂を有機溶剤に溶解し粘度を調整した樹脂溶液を塗工する方法や、吸着層を構成する樹脂を水に分散し塗工する方法等の公知の方法を用いることができる。前記有機溶剤としては一般の有機溶剤を特に制限無く用いることができる。例えば、前記の粘度調節のための有機溶剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
本発明の吸着層のコーティング法としては、コンマナイフコーター、ダイコーター、リバースコーターなどが挙げられる。
【0056】
本発明の吸着フィルムは、JIS-K7136で規定されるヘーズ値が5.0%以下が好ましく、2.0%以下がより好ましい。ヘーズ値が5.0%を超えると、写真や印刷物を被着体とした場合に被着体が鮮明に見えない。
【0057】
(セパレータ)
本発明においては、吸着層の表面の汚れや異物付着を防いだり、吸着フィルムのハンドリングを向上させる目的で、プラスチックフィルムからなるセパレータを吸着層面に貼り合わせて用いることが好適である。前記セパレータは、剥離性の高いプラスチックフィルムよりなり、所望により、前記プラスチックフィルムの表面に剥離剤を形成したものが使用される。
【実施例
【0058】
以下、実施例と比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、各実施例中の「部」は特に断ることのない限り重量部を示したものである。
【0059】
(実施例1~13、比較例1~6)
厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材の片面にコロナ放電処理を行い、表2、表3の実施例1~13、比較例1~6に記載の処方にて混合した各実施例、比較例の各アンカー層塗工液を、乾燥後の塗工量が表2、表3記載の各々の値になるように調整して、各基材のコロナ放電処理した面に塗工し、100℃で2分間有機溶剤を除去する為に加熱乾燥して各アンカー層を形成した。その上に下記表1の各吸着層塗工液を乾燥後の厚みが表2、表3記載の厚みになるように塗工した後、100℃で2分間有機溶剤を除去する為に加熱乾燥してから150℃で100秒間加熱して塗工液を硬化させて各吸着層を形成し、実施例1~13、比較例1~6の吸着フィルムを作製した。作製した各吸着フィルムを幅25mmに切断して、厚み1mmのソーダガラス板に各吸着フィルムの吸着層を貼着して積層物を作製した。
【0060】
【表1】
単位:重量部
【0061】
各実施例、比較例の材料構成比、評価結果を表2、表3に、各評価方法を下記に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
(評価方法)
【0065】
(アンカー層と基材との密着性評価)
実施例1~13、比較例1~6のアンカー層までを形成した吸着フィルムにおいて、アンカー層を指擦りして、基材とアンカー層の密着性を目視観察し、次の基準により評価した。
◎:指擦り50回で、基材からの脱落無し。
○:指擦り10回以上、50回未満で基材から脱落有り。
×:指擦り10回未満で、基材からの脱落有り。
【0066】
(吸着層とアンカー層の密着性評価)
実施例1~13、比較例1~6の吸着フィルムの吸着層を指擦りして、アンカー層と吸着層の密着性を目視観察し、次の基準により評価した。
◎:指擦り15回で、基材からの脱落無し。
○:指擦り5回以上、15回未満で基材から脱落有り。
×:指擦り5回未満で、基材からの脱落有り。
【0067】
(紫外線吸収能)
前記実施例1~13、比較例1~6で作製した吸着フィルムの波長355nmでの紫外線透過率を測定し、以下の基準にて評価を行った。
評価基準
◎:透過率が1.0%以下
○:透過率が1.0%を超えて1.5%以下
×:透過率が1.5%を超える
【0068】
(ヘーズ値評価結果)
前記実施例1~13、比較例1~6で作製した吸着フィルムのヘーズ値をJIS-K7136に準拠した方法で測定し、以下の基準にて評価を行った。
◎:ヘーズ値が2.0%以下
○:ヘーズ値が2.0%を超えて5.0%以下
×:ヘーズ値が5.0%を超える
測定器:日本電色工業株式会社製NDH-2000
【0069】
(紫外線吸収剤の析出)
前記実施例1~13、比較例1~6で作製したソーダガラス板と各吸着フィルムの積層物を常温で1週間静置後、目視確認する方法にて紫外線吸収剤の析出の有無を確認した。
◎:析出が見られない。
○:わずかに析出が見られるが、問題ない。
×:析出が見られる。
【0070】
(吸着層の糊残り性評価)
前記実施例1~13、比較例1~6で作製したソーダガラス板と各吸着フィルムの積層物において、積層物を180℃で2分間加熱したのちに室温まで冷却し、冷却後吸着フィルムを速度300mm/minで180°剥離を行い、吸着フィルム剥離後のソーダガラス板への吸着層の付着を目視確認する方法にて、糊残りの評価を行った。
評価基準
◎:吸着層のソーダガラス板上への付着がない。
○:吸着層のソーダガラス板上に、0.5mm以下の微細な点状の付着がある。
×:吸着層のソーダガラス板上に、0.5mm以上の大きさの付着がある。
【0071】
(加工性評価)
前記実施例1~13、比較例1~6で作製したソーダガラス板と各吸着フィルムの積層物に、紫外線レーザー加工機にて紫外線レーザーを照射して加工特性を確認し、以下の基準にて評価を行った。
照射レーザー:波長355nm、パルス幅30ns、周波数10kHz、パルスエネルギー10μJ/pulse
○:吸着フィルムが紫外線レーザーで切断できた。
×:吸着フィルムが紫外線レーザーで切断できなかった。