(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】回り止め機構
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20230320BHJP
【FI】
F16J15/34 Z
F16J15/34 H
(21)【出願番号】P 2019096821
(22)【出願日】2019-05-23
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503227553
【氏名又は名称】イーグルブルグマンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】喜藤 雅和
(72)【発明者】
【氏名】田中 寛志
(72)【発明者】
【氏名】根岸 雄大
(72)【発明者】
【氏名】瀧ヶ平 宜昭
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-108570(JP,U)
【文献】実開平01-171911(JP,U)
【文献】特開2017-133466(JP,A)
【文献】特開平10-159760(JP,A)
【文献】特開2017-024620(JP,A)
【文献】特開2002-098189(JP,A)
【文献】米国特許第04688807(US,A)
【文献】中国特許出願公開第101802467(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F16B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取り付けられる回転側要素とともに周方向に回転する回転摺動環と、静止側要素に固定される静止摺動環とが相対摺動する摺動部品に用いられ、前記回転摺動環を前記回転側要素に対し回り止めし、若しくは前記静止摺動環を前記静止側要素に対し回り止めする回り止め機構であって、
前記回り止め機構は、凹部と、前記凹部内に嵌入される嵌入部と、から構成されており、前記凹部の内面若しくは前記嵌入部の外面
における前記凹部の内面と前記嵌入部の外面との接触領域に、凹状を成すディンプル部が設けられて
おり、
前記ディンプル部は、前記摺動環の軸方向に長寸の形状に形成されている回り止め機構。
【請求項2】
前記接触領域と、前記接触領域を除く非接触領域とにかけて、前記ディンプル部が延設されている請求項1に記載の回り止め機構。
【請求項3】
前記ディンプル部は、前記摺動環の軸方向に長径の楕円状に形成されている請求項1
または2に記載の回り止め機構。
【請求項4】
前記ディンプル部は、前記嵌入部の外面に複数設けられている請求項1ないし
3のいずれかに記載の回り止め機構。
【請求項5】
前記接触領域と、前記接触領域を除く非接触領域とにかけて、前記複数のディンプル部を備えたディンプル形成領域が形成されている請求項
4に記載の回り止め機構。
【請求項6】
前記複数のディンプル部同士を連通する連通溝が設けられている請求項
4または
5に記載の回り止め機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を軸封するメカニカルシール等の摺動部品に適用される回り止め機構に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部品は、流体機器のハウジングと該ハウジングを貫通するように配置される回転軸との間に装着して使用されるものであり、ハウジング等により構成される静止側要素に固定される静止摺動環の摺動面と、回転軸等の回転側要素とともに回転する回転摺動環の摺動面とを周方向に摺接させて、被密封流体の漏れを防ぐものである。
【0003】
このような摺動部品にあっては、回転軸に固定されるカラー等の回転側要素に軸方向に突設されたドライブピンが回転摺動環の背面に形成される凹部に嵌合することで、この回転摺動環は回転側要素に対し回り止めされ、回転軸とともに回転する構造となっている。同様にハウジング等の静止側要素に突設されたノックピンが静止摺動環の背面の凹部に嵌合することで、この静止摺動環は静止側要素に対し回り止めされ、静止状態を維持する構造となっている。すなわちこれらの摺動環の背面の凹部と、この凹部に嵌入されるドライブピンやノックピン等の回り止め部材の嵌入部とによって構成される回り止め機構は、摺動面を介し互いに摺動する摺動環の摺動トルクを受けて、摺動環の供回りを規制するように機能している(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-207147号公報(第2頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような摺動部品に適用される回り止め機構にあっては、摺動環同士の回転摺動により、摺動環の背面側の凹部内面と嵌入部外面との当接箇所に発生する振動等を原因として、嵌入部や凹部に摩耗や破損が生じ易く、回り止め機構の耐久性に乏しかった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、摩耗や破損の発生を抑制して耐久性の高い摺動部品用の回り止め機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の回り止め機構は、
回転軸に取り付けられる回転側要素とともに周方向に回転する回転摺動環と、静止側要素に固定される静止摺動環とが相対摺動する摺動部品に用いられ、前記回転摺動環を前記回転側要素に対し回り止めし、若しくは前記静止摺動環を前記静止側要素に対し回り止めする回り止め機構であって、
前記回り止め機構は、凹部と、前記凹部内に嵌入される嵌入部と、から構成されており、前記凹部の内面若しくは前記嵌入部の外面に、凹形状を成すディンプル部が設けられている。
これによれば、凹部の内面若しくは凹部内に嵌入された嵌入部の外面に設けられたディンプル部に、周囲の流体が導入されることで、嵌入部の外面と凹部の内面との間に、流体膜を生成できるため、この流体膜によって嵌入部と凹部との接触個所を良好な潤滑状態にして、回り止め機構の摩耗や破損の発生を抑制することができる。
【0008】
前記嵌入部の外面と前記凹部の内面との接触領域と、前記接触領域を除く非接触領域とにかけて、前記ディンプル部が延設されている。
これによれば、凹部の内面と嵌入部の外面との非接触領域から導入した流体を接触領域に向けて排出し易く、この接触領域に流体膜を確実に生成できる。
【0009】
前記ディンプル部は、前記摺動環の軸方向に延設されている。
これによれば、摺動環に軸方向に作用する振動を利用して、ディンプル部の全面に流体を導入し易い。
【0010】
前記ディンプル部は、前記摺動環の軸方向に長径の楕円状に形成されている。
これによれば、楕円状に形成されたディンプルの端部まで流体を導入し易い。
【0011】
前記ディンプル部は、前記嵌入部の外面に複数設けられている。
これによれば、凹部内の潤滑性を高めることができる。
【0012】
前記嵌入部の外面と前記凹部の内面との接触領域と、前記接触領域を除く非接触領域とにかけて、前記複数のディンプル部を備えたディンプル形成領域が形成されている。
これによれば、凹部の内面と嵌入部の外面との非接触領域に溜めた流体を接触領域に導入することができる。
【0013】
前記複数のディンプル部同士を連通する連通溝が設けられている。
これによれば、各ディンプル部に常に流体が供給され、潤滑性を維持することができる。
【0014】
前記複数のディンプル部は、同一ピッチに離間している。
これによれば、凹部内に均質な流体膜を生成することができる。
【0015】
前記複数のディンプル部は、同一形状に設けられている。
これによれば、凹部内に均質な流体膜を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例のメカニカルシールの構造を示す断面図である。
【
図3】実施例1のメカニカルシールに被密封流体とバリア液が充填されている態様を示す図である。
【
図4】実施例1の回り止め機構の嵌合態様を示し、流体膜が形成されている態様を示す要部断面図である。
【
図5】実施例1の変形例における回り止め機構の嵌合態様を示す斜視図である。
【
図6】実施例2の回り止め機構の嵌合態様を示し、流体膜が形成されている態様を示す斜視図である。
【
図7】実施例2の変形例1における回り止め機構の嵌合態様を示す要部断面図である。
【
図8】実施例2の変形例2における回り止め機構の嵌合態様を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る回り止め機構を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0018】
実施例1に係るメカニカルシール用回り止め機構につき、
図1から
図5を参照して説明する。以下、
図1の紙面右側を大気領域である機外側、紙面左側を機内側として説明する。
【0019】
図1に示されるように、実施例1の摺動部品としてのメカニカルシール1は、回転軸2とともに回転する回転摺動環としての回転密封環4と、シールカバー10に配設されたコイルスプリング8により付勢されているリテーナ18から押圧される静止摺動環としての静止密封環6と、を備えた静止形のメカニカルシール1である。また、本実施例のメカニカルシール1は、機外側のシールカバー10と機内側のシールカバー10’に対し回り止めされる円環状の静止密封環6,6’と、回転軸2に固定されたスリーブ3に対し回り止めされる回転密封環4,4’とが、軸方向に同一方向を向いて配設されているタンデム型のメカニカルシール1である。このメカニカルシール1は、シールカバー10,10’に回り止めピンとしてのノックピン7,7’を介して固定された円環状のケース9に回り止めされている静止密封環6,6’を有する静止側要素Sと、回転軸2とともに回転する回転密封環4,4’を有する回転側要素Rとで主に構成されている。
【0020】
図1を用いて、回転側要素R及び静止側要素Sをより詳しく説明する。
図1に示されるように回転側要素Rは、回転軸2に固定状態で取付けられたスリーブ3と、該スリーブ3に固定された回転環保持部材20,20’と、該回転環保持部材20,20’から機外側にそれぞれ略水平に延出する回り止めピンとしてのドライブピン5,5’と、該ドライブピン5,5’を介して回転軸2から伝えられる回転力によって周方向に回転する円環状の回転密封環4,4’と、から主に構成されている。
【0021】
静止側要素Sは、シールカバー10,10’が軸方向に隣接するように配置され、連結ボルト11をシールカバー10,10’の軸方向に挿通させて機器本体Mに固定されている。また、シールカバー10,10’には、リテーナ18,18’を背面側から軸方向に向けて付勢するコイルスプリング8,8’と、回転密封環4,4’と摺接される静止密封環6,6’の供回りを防止するノックピン7,7’とが取り付けられている。ノックピン7,7’は、ケース9,9’の背面側から軸方向に向けて係合するようになっており、ケース9,9’は、シールカバー10,10’内において、静止密封環6,6’の外径側に内嵌されている。
【0022】
また、
図1に示されるようにシールカバー10は、径方向に形成されたバリア液流入口19とクエンチング液流入口49を有し、またシールカバー10’は径方向に形成されたフラッシング液流入口39とバリア液流出口29を有している。バリア液流入口19から流入されたバリア液Bは、ケース9によって径方向に連通されている連通路L1を通過し、後述する空間Zに流入され、空間Zからバリア液流出口29へ流動するようになっている。また、バリア液Bは、被密封流体Hよりも高圧になるように流体圧は管理されている。本実施例のメカニカルシール1は、上述したようにタンデム型であり、軸方向に同様に配置された構成を有しているため、以下は機外側の静止密封環6、回転密封環4等の構成について説明し、機内側の構成については説明を省略する。
【0023】
図1に示されるように、シールカバー10は、軸方向視環状に形成されており、リテーナ18を軸方向に向けて付勢するようにコイルスプリング8が周方向に等配に複数配設されている。このようにコイルスプリング8が複数等配に配設されていることで、リテーナ18が静止密封環6の背面6aを均等な面圧で、回転密封環4に向けた付勢力を軸方向に伝達するように構成されている。また、シールカバー10には、周方向に等配されているコイルスプリング8よりも外周側に穴部10aが同様に周方向に等配に形成されており、この穴部10aに後述するノックピン7の圧入部27が圧入固定されるようになっている。
【0024】
次に、ケース9について詳しく説明する。
図2に示されるようにケース9は、軸方向視円環の筒状に形成された筒部90と、該筒部90から内径側に突出して軸方向に延設された柱状の嵌入部としての突出部91と、該筒部90に径方向に貫通形成された連通路L1と、から主に形成されている。突出部91は連通路L1と同位相、すなわち周方向及び径方向に対向する位置に配置されている。突出部91は、周方向に面して配置される一対の平面からなる側壁部91aと、内径方向に面する平面からなる底部91bとから構成された角柱状に形成されており、側壁部91aには、側面視楕円状で底部が断面視湾曲状に形成された側壁部91aの面よりも窪んだ凹部であるディンプル部14が複数形成されている。また、静止密封環6の外周面6cには、軸方向に亘って矩形状の凹部6dが形成されており、先述したケース9の突出部91が遊嵌するように大形に形成されている。これによりケース9の突出部91が静止密封環6の凹部6d内に径方向若しくは軸方向から挿入され、周方向に嵌合するようになっており、回転密封環4と摺接される静止密封環6の供回りを防止することができるようになっている。すなわち凹部6dと突出部91とにより回り止め機構が構成されている。
【0025】
次に
図3を用いて、本実施例のメカニカルシール1稼働時において、被密封流体Hと、被密封液体としてのバリア液Bと、漏れ側である大気Aとが占有する領域を説明する。
図3に示されるように、機内側である紙面左方側には、被密封流体Hが回転密封環4’と静止密封環6’との摺動部E’によって密封されている。機外側である紙面右方側には、大気Aが回転密封環4と静止密封環6との摺動部Eによって区画されている。また、回転密封環4’と静止密封環6’との摺動部E’と、回転密封環4と静止密封環6との摺動部Eとの間に形成されている空間Zには、バリア液流入口19から流入されたバリア液Bが密封されている。
【0026】
また、バリア液流入口19から流入されたバリア液Bは、回転密封環4と静止密封環6との摺動部Eと、回転密封環4’と静止密封環6’との摺動部E’と、シールカバー10,10’とから形成される空間Zに充填され、バリア液流出口29から流出されるようになっている。また、バリア液Bは被密封流体Hより高圧になるように管理されているので、摺動部E’の摺動不良により異常が発生したとしても、被密封流体Hが空間Z側へ流入することを抑えるように構成されている。
【0027】
図4を用いて、本実施例のメカニカルシール1稼働時における、ケース9と静止密封環6との嵌合態様について詳しく説明する。リテーナ18(
図1参照)を介してコイルスプリング8に付勢された静止密封環6に対向する回転密封環4が周方向に回転すると、この静止密封環6の凹部6d内に遊嵌状態で嵌入された突出部91の側壁部91aが、凹部6dの一方の内壁面6eに周方向に押圧状態で当接することで、静止密封環6の供回りを規制する。ケース9の突出部91における側壁部91aには、ディンプル部14が各々軸方向に長径に形成され、径方向及び軸方向に所定ピッチで離間してマトリックス状に整然と並設された状態で複数形成されている。このようにすることで、バリア液Bをディンプル部14内に滞留させることができ、突出部91の側壁部91aと凹部6dの一方の内壁面6e間に均一な流体膜Fが形成されるようになっている。尚、ケース9’と静止密封環6’については、被密封流体Hを凹部6d’内に導入するようになっている。
【0028】
図5(a)に示されるように、突出部91における側壁部91aのディンプル部14と、各ディンプル部14同士の間隙に形成される平坦なランド部15とからなり平面状に形成されるディンプル形成領域Dは、軸方向の両端側まで広く延設されている。すなわちディンプル形成領域Dは、側壁部91aと凹部6dの内壁面6eとの接触領域S1と、側壁部91aと凹部6dの内壁面6eとの非接触領域S2とにかけて延設されており、バリア液流入口19から流入されたバリア液Bを、非接触領域S2から接触領域S1に向けて導入させ易くなっている。よって、バリア液Bを凹部6dの軸方向及び径方向の内奥まで導入させ、より広い領域で流体膜Fを得ることができる。
【0029】
また、
図5(a)に示されるように、ディンプル部14は、軸方向に長径な楕円形状であることに加え、回転密封環4と静止密封環6との摺動による微振動により、接触領域S1近傍の非接触領域S2に形成されているディンプル部14a内に溜められている流体を接触領域S1側へ排出し易くなっている。また、
図5(b)に示されるように、凹部6dの内壁面6eに対して、複数のディンプル部14のうち一部のディンプル部14bを横過するように突出部91を配置することとしてもよい。
【0030】
ここで
図6に示されるように、上述した突出部91に形成されていた複数のディンプル部14の変形例として、静止密封環6の凹部6dの内壁面6eに、複数のディンプル部24を形成してもよい。また、内壁面6eの両端にかけて複数のディンプル部24を形成させることで、流体を導入し易い。
【0031】
以上、実施例1及び変形例において説明したように、回転軸2に取り付けられる回転側要素Rとともに周方向に回転する回転密封環4と、静止側要素Sに固定される静止密封環6とが相対摺動する摺動部品に用いられ、回転密封環6を回転側要素Rに対し回り止めし、若しくは静止密封環6を静止側要素Sに対し回り止めする回り止め機構であって、回り止め機構は、静止密封環6の背面に形成された凹部6dと、該凹部6d内に嵌入されるケース9の突出部91と、から構成されており、凹部6dの内面若しくは突出部91の外面に、凹形状を成すディンプル部14が設けられていることから、凹部6dの内面若しくは凹部内に嵌入された突出部91の外面に設けられたディンプル部14に、周囲の流体が導入されることで、突出部91の外面と凹部6dの内面との間に、流体膜Fを生成できるため、この流体膜Fによって突出部91と凹部6dとの接触個所を良好な潤滑状態にして、回り止め機構の摩耗や破損の発生を抑制することができる。
【0032】
また、
図5(b)に示されるように、突出部91の外面と凹部6dの内面との接触領域S1と、該接触領域S1を除く非接触領域S2とにかけて、ディンプル部14bが延設されていることから、凹部6dの内面と突出部91の外面との非接触領域S2から導入した流体を接触領域S1に向けて排出し易く、この接触領域S1に流体膜Fを確実に生成できる。
【0033】
また、ディンプル部14は、摺動環としての静止密封環6の軸方向に延設されていることから、静止密封環6に軸方向に作用する振動を利用して、ディンプル部14の全面に流体を導入し易い。
【0034】
また、ディンプル部14は、摺動環としての静止密封環6の軸方向に長径の楕円状に形成されていることから、楕円状に形成されたディンプルの端部まで流体を導入し易い。
【0035】
また、ディンプル部14は、突出部91の側壁部91aに複数設けられていることから、凹部6d内の潤滑性を高めることができる。
【0036】
また、複数のディンプル部14は、同一ピッチに離間していることから、凹部6d内に均質な流体膜Fを生成することができる。
【0037】
また、複数のディンプル部14は、同一形状に設けられていることから、凹部6d内に均質な流体膜Fを生成することができる。
【0038】
また、突出部91の外面と凹部6dの内面との接触領域S1と、該接触領域S1を除く非接触領域S2とにかけて、複数のディンプル部14を備えたディンプル形成領域Dが形成されていることから、凹部6dの内面と嵌入部の外面との非接触領域S2に溜めた流体を接触領域S1に導入することができる。
【実施例2】
【0039】
次に、実施例2に係るメカニカルシール用回り止め機構につき、
図7および
図8を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0040】
実施例2におけるメカニカルシール用回り止め機構について説明する。
図7に示されるように、本実施例においては、リテーナ18を省略しコイルスプリング8が静止密封環6の背面に接して付勢するものであり、静止密封環6の背面6aに径方向且つ矩形に切欠かれた切欠き部6bが形成され、シールカバー10の側面に形成された穴部10bに圧入された水平方向に延びるノックピン7Aが切欠き部6bに嵌入されることにより、静止密封環6が回転密封環4との摺動による供回りを規制させるものである。
【0041】
図7に示されるように、ノックピン7Aは、シールカバー10の穴部10bと略同径に形成され、穴部10bに圧入固定可能な固定部としての圧入部27と、この圧入部27よりも大径に形成され、シールカバー10から略水平に突出される嵌入部17と、から主に構成されている。
【0042】
また、ノックピン7Aの嵌入部17は、静止密封環6の背面6a側にノックピン7Aの配置に対応して形成された凹部としての切欠き部6b内に、軸方向に遊嵌状態で嵌入するように配設され、回転密封環4との摺動による静止密封環6の周方向の移動を規制しつつ、軸方向への移動を許容されるようになっている。この切欠き部6bは、ノックピン7Aの嵌入部17よりも大形且つ軸方向に長寸に形成されている。
【0043】
嵌入部17は角柱状に形成され、その外周面17bには、径方向に及び軸方向に複数のディンプル部34aがマトリックス状に整然と並設され、かつ複数のディンプル部34aを径方向に形成された矩形状の連結溝部34bによって連結させた連結ディンプル部34が軸方向に複数条形成されている。より詳しくは、連結ディンプル部34は、複数のディンプル部34aと連結溝部34bとから形成されており、複数のディンプル部34aは、側面視楕円状で底部が断面視湾曲状に形成されており、また、軸方向に長径部が形成され、軸方向に所定ピッチで離間している。連結溝部34bは、同一幅及び同一深さで断面視矩形状に穿設されており、径方向に並設された複数のディンプル部34aを連通させるように径方向に形成されている。このことから、各ディンプル部34aに常に流体が供給され、潤滑性を維持することができ、流体膜Fを嵌入部17の外周面17bと切欠き部6bとの当接面の全面に亘り形成させることができるようになっている。なお、連結溝部34bは、複数のディンプル部34aを径方向に連通させるものに限られず、複数のディンプル部34aを軸方向に連通させるものでもよいし、あるいは複数のディンプル部34aを径方向且つ軸方向に連通させるものであっても構わない。
【0044】
図8に示されるように、嵌入部17に形成された連結ディンプル部34の変形例として、ノックピン7Bの径方向の外面17aと内面17cとに開放されて同一幅及び同一深さで断面視矩形状に穿設された連通溝部44bが形成されている連通ディンプル部44を配設することとしてもよい。このようにすることで、ノックピン7Bの外面17aから流体を導入させ、各ディンプル部44aに常に流体が供給させることができ、より潤滑性を維持させることができる。
【0045】
また、特に図示しないが、回転密封環4をスリーブ3に対し回り止めするドライブピン5の外周面に、上述したノックピン7Aと同様に連結ディンプル部または連通ディンプル部が形成されていてもよい。
【0046】
以上、実施例2及び変形例において説明したように、複数のディンプル部34a同士を連通する連通溝部34bが設けられていることから、各ディンプル部34aに常に流体が供給され、潤滑性を維持することができる。
【0047】
上述したように、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0048】
例えば、前記実施例では、ノックピン7A、7Bの嵌入部17を角柱状と説明したが、これに限られず、円柱状や六角柱状としてもよい。
【0049】
また、前記実施例では、突出部91にディンプル部14が形成されていたが、これに限られず、ドライブピン5にディンプル部が形成されていてもよい。
【0050】
また、前記実施例では、静止密封環6若しくは回転密封環4に回り止め機構を構成する凹部が形成されているが、これに限らず例えば、メカニカルシールに静止密封環6をシールカバー10に係止する係止体、若しくは回転密封環4をスリーブ3に係止するための係止体が構成されている場合、当該係止体に凹部が形成されてもよい。また例えば、シールカバー10若しくはスリーブ3に凹部が形成されてもよく、該凹部に嵌入される嵌入部が静止密封環6若しくは回転密封環4に設けられても構わない。
【0051】
また、前記実施例では、タンデム型のメカニカルシール1に回り止め機構が適用されているが、これに限らず本発明に係る回り止め機構は、シングル型、ダブル型のメカニカルシールに適用されてもよいし、スラスト軸受等の摺動部品に適用されてもよい。
【0052】
また、前記実施例1の変形例で説明したように、凹部の内壁面にディンプル部を設ける事項を、実施例2等においても適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 メカニカルシール(摺動部品)
2 回転軸
3 スリーブ
4,4’ 回転密封環
5,5’ ドライブピン
6,6’ 静止密封環
6a 背面
6b 切欠き部(凹部)
6c 外周面
6d 凹部
6e 内壁面
7,7’ ノックピン
7A ノックピン
7B ノックピン
8 コイルスプリング
9 ケース
10 シールカバー
10a 穴部
10b 穴部
11 連結ボルト
14 ディンプル部
14a ディンプル部
14b ディンプル部
17 嵌入部
17b 外周面
19 バリア液流入口
20 回転環保持部材
27 圧入部
29 バリア液流出口
34 連結ディンプル部
34b 連結溝部
44 連通ディンプル部
44b 連通溝部
B バリア液
D ディンプル形成領域
E 摺動部
F 流体膜
H 被密封流体
M 機械本体
L1 連通路
R 回転側要素
S 静止側要素
S1 接触領域
S2 非接触領域
Z 空間