(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】ディーゼルパティキュレートフィルタの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B01D 41/04 20060101AFI20230320BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20230320BHJP
F01N 3/021 20060101ALI20230320BHJP
B08B 3/08 20060101ALN20230320BHJP
【FI】
B01D41/04
B08B3/04 Z
F01N3/021
B08B3/08 Z
(21)【出願番号】P 2017174712
(22)【出願日】2017-09-12
【審査請求日】2020-08-20
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 試験日: 平成29年4月21日 試験場所: 函館日野自動車株式会社にて 試験を行った者: 池川祐、今西勇平
(73)【特許権者】
【識別番号】000220804
【氏名又は名称】東京濾器株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀律
(72)【発明者】
【氏名】片岡 寛貴
(72)【発明者】
【氏名】池川 祐
(72)【発明者】
【氏名】五十幡 大
(72)【発明者】
【氏名】伊豫田 健一
(72)【発明者】
【氏名】漆原 浩
(72)【発明者】
【氏名】大矢 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】今西 勇平
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】土屋 知久
【審判官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-270688(JP,A)
【文献】特開平7-24488(JP,A)
【文献】特開昭51-125959(JP,A)
【文献】特開2002-361052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D39/00-41/04
B01D46/00-46/54
B08B3/02-3/14
F01N3/02-3/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガス中に含まれる、P、S、Ca、およびZnから選択される少なくとも一つの元素の化合物であるアッシュ成分が堆積したディーゼルパティキュレートフィルタの洗浄方法であって、
前記アッシュ成分が堆積したディーゼルパティキュレートフィルタを、当該アッシュ成分を水に可溶化させる、洗浄成分
であるクエン
酸を含有する洗浄液に浸漬することにより、前記アッシュ成分を水に溶解させて除去することを特徴とする、ディーゼルパティキュレートフィルタの洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄成分の濃度が0.1mol/l以上であることを特徴とする、請求項1記載のディーゼルパティキュレートフィルタの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」)に堆積した、アッシュ成分を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のディーゼルエンジンから排出される排気ガス中には、主として固体炭素から形成される粒子状物質(PM)の他に、アッシュ(ASH)成分が含まれている。アッシュ成分の主な構成要素は、潤滑油由来のCa、Znのような金属塩である。アッシュ成分は、前記粒子状物質と共にDPF上に捕集される。この際、前記アッシュ成分等がDPFのセル内の細孔に詰まる形で堆積することとなる。アッシュ成分等がDPFに堆積すると、フィルタが目詰まりする結果、十分な性能を発揮できない。したがって、DPFに堆積したアッシュ成分等を除去することが必要となる。
【0003】
粒子状物質については、DPFの上流に装着した酸化触媒の酸化反応によって生じる燃焼熱や排気ガスから得られる熱でDPF内部温度を上昇させ、二酸化炭素等に分解することによって除去する方法や、DPFの上流に装着した酸化触媒の酸化反応によって生じる窒素酸化物と排気ガスから得られる熱で二酸化炭素などに分解することによって除去する方法が知られている。一方で、そのような粒子状物質の除去処理が行われても、アッシュは燃焼または気化することなくDPFに残留する。
【0004】
従来においては、アッシュ成分が堆積したDPFに対して水を高圧で噴霧することで、物理的にアッシュ成分を除去する方法によって洗浄していた。しかしながら、水洗浄ではアッシュ成分を十分に除去することができない場合があり、出荷時と同等のフィルタ性能を発揮することができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、たとえば特許文献1のように、フィルタの多孔質隔壁に形成される排気ガス通路に石鹸水等の洗剤水溶液を浸漬させ、フィルタ隔壁に付着しているアッシュ成分を隔壁から剥がすとともに、フィルタに向けて高圧気体を吹き付けることにより、アッシュ成分を隔壁から押して除去する方法が存在する。
【0007】
しかしながら、このような方法でも、DPFに堆積したアッシュ成分をフィルタの性能が十分に回復するほどには除去することができない。
【0008】
本発明の目的は、簡便、且つ高い除去率で、DPFに堆積したアッシュ成分を除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、排気ガス中に含まれる、P、S、Ca、およびZnから選択される少なくとも一つの元素の化合物であるアッシュ成分が堆積したディーゼルパティキュレートフィルタの洗浄方法であって、
前記アッシュ成分が堆積したディーゼルパティキュレートフィルタを、当該アッシュ成分を水に可溶化させることができる洗浄成分を含有する洗浄液に浸漬することにより、前記アッシュ成分を水に溶解させて除去することを特徴とする、ディーゼルパティキュレートフィルタの洗浄方法である。
【0010】
また、前記洗浄成分の濃度は、0.1mol/l以上であることが好ましい。
【0011】
また、前記洗浄成分としては、クエン酸、クエン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、および酒石酸などが挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、簡便、且つ高い除去率で、DPFのセル内のアッシュを除去することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】アッシュが堆積した状態のパティキュレートフィルタ。
【
図2】水洗浄した後の
図1のパティキュレートフィルタ。
【
図3】本発明の洗浄方法により
図1のアッシュがほぼ完全に除去されたパティキュレートフィルタ。
【
図4】洗浄成分とアッシュ除去率との関係(実施例1)を表すグラフ。
【
図5】各濃度のクエン酸溶液に浸漬して、経時によるアッシュ除去率を測定した結果(実施例2)を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の形態について説明するが、本発明の範囲は、実施例を含めた当該記載に限定されるものではない。
【0015】
(アッシュ成分)
前述した通り、排気ガス中には、主として個体炭素から形成される粒子状物質が含まれるほかに、アッシュ成分も含まれている。アッシュ成分は、前記粒子状物質と共にパティキュレートフィルタに捕集される。
【0016】
アッシュ成分は、たとえば硫酸カルシウムCaSO4、リン酸亜鉛カルシウムCa19Zn2(PO4)14のようなCa、Zn、P、およびSを含む塩である。なお、Ca、Zn、およびPは機関潤滑油に由来し、Sは燃料や機関潤滑油に由来すると考えられる。
【0017】
たとえばCaSO4は石こうの主成分であり、特にDPFのセルに堆積すると物理的に除去し難く、且つ極めて水に溶け難いため、従来の水のみの洗浄では除去することが困難である。
【0018】
<洗浄液>
本発明で用いられる洗浄液は、アッシュ成分を水に可溶化する役割を果たすものである。アッシュ成分を水に可溶化させることにより除去する。
【0019】
水に可溶化させる方法としては、アッシュ成分と反応して塩を形成する方法や、錯体を形成する方法が考えられる。
【0020】
洗浄液としては、アッシュ成分を水に可溶化する役割を果たすものであれば限定されるものではないが、たとえば洗浄成分として、クエン酸、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、および酒石酸などを含むものが挙げられる。これらの化合物の一部の官能基が、CaやZn原子をキャプチャーして錯体化合物を形成することにより、この錯体化合物が水に可溶な構造となる。その中でも毒性が少なく、かつ除去効果の高いものという観点から、洗浄成分としては、クエン酸およびクエン酸ナトリウムを含むものが好ましい。
【0021】
前記洗浄成分の濃度としては、洗浄成分の官能基数、アッシュ成分中の金属の価数等によって若干の差異はあるものの、0.1mol/l以上であれば十分な洗浄力を有する。
【0022】
前記洗浄液には、洗浄性能を損ねない範囲で、他の任意成分を添加してもよい。
【0023】
<洗浄方法>
本実施形態に係る洗浄方法は、アッシュ成分が堆積したDPFを、当該アッシュ成分を水に可溶化させる洗浄成分を含有する洗浄液に浸漬することにより、アッシュ成分を水に溶解させて除去する方法である。
【0024】
DPFに堆積したアッシュ成分を除去する場合、洗浄液にDPFを浸漬することが有効である。洗浄液にDPFを浸漬することで、洗浄液中の洗浄成分がアッシュ成分中の化合物と十分に反応したり錯体を形成したりすることによってアッシュ成分を水に可溶化させることを助ける。
【0025】
また、洗浄液にDPFを浸漬することでDPFのセル中のアッシュ成分を水に可溶化させた後、DPFに対して水による洗浄を行うことが有効である。
【0026】
水による洗浄の方法としては、高圧洗浄機を用いた水の直接噴霧など、通常用いられている方法で行うことができる。
【実施例】
【0027】
次に、実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
(洗浄液の適性実験)
洗浄成分として、クエン酸、硝酸、シュウ酸、酢酸、ギ酸、酒石酸、重曹、およびクエン酸ナトリウムを用い、再生前のDPFに堆積したアッシュ成分中のCaおよびZnの除去率を測定した。除去率は、Ca及びZnの合計量に基づいている。具体的な手順は以下の通りである。
【0029】
(1)DPFに堆積したアッシュ成分をサンプリングした。
(2)アッシュ成分をXRF(蛍光X線分析)により定量分析した。
(3)洗浄液100ml(洗浄成分:1mol/l)にアッシュ成分2gを加え、30分間静置した。
(4)(3)の溶液をろ過して得られた残渣成分の重量を測定し、且つ残渣成分をXRFにより定量分析した。
(5)上記(2)(4)の分析結果から算出したCaとZnの減少量を用いて除去率を求めた。除去率は、以下のような計算式を用いて計算した。
【0030】
除去率(%)=100×(洗浄液浸漬によるCaおよびZn減少量)/(アッシュ中のCaおよびZn量)
【0031】
水のみの場合を含めた洗浄成分毎の除去率を、
図3に示す。また、表1においては除去率と共に洗浄成分の毒性について示す。
【0032】
表1中の毒性を表すスコアについては、以下の通りである。
◎:無害
△:濃度によって有害
×:有害
【0033】
【0034】
上記結果から、除去率の数値的には硝酸が最も高いものの、毒性に問題があることがわかる。一方、クエン酸は、硝酸の次に除去率が高く、且つ毒性がほとんどないため、洗浄液としての適性を有していることがわかる。
【0035】
<実施例2>
(クエン酸を用いた、濃度および時間によるアッシュ溶解条件の検討)
アッシュ成分が堆積したDPFを、0.1mol/l、0.2mol/l、0.3mol/lの濃度に調整したクエン酸溶液に浸漬して、経時によるアッシュ除去率を測定した結果を、
図4に示す。具体的な手順は以下の通りである。
【0036】
(1)DPFに堆積したアッシュ成分をサンプリングした。
(2)アッシュ成分をXRF(蛍光X線分析)により定量分析した。
(3)規定濃度のクエン酸溶液100mlにアッシュ成分2gを加え、規程時間静置した。
(4)(3)の溶液をろ過して得られた残渣成分の重量を測定し、残渣成分をXRFにより定量分析した。
(5)上記(2)(4)の分析結果から算出したCaとZnの減少量を算出し、除去率を求めた。除去率の計算については、実施例1と同様である。
【0037】
図4の結果より、おおむね5分程度でアッシュ成分の除去率がピークを迎えることがわかる。また、クエン酸濃度については、0.1mol/l以上の低濃度でも実用上十分な除去性能(約60%~78%)を示していることがわかる。なお、濃度をある程度以上上げても除去率が100%に近づかない理由は、化学平衡に達しているからであると考えられる。
【0038】
<実施例3>
(アッシュ除去による圧損改善効果)
本実施例では、実際に道路を運行した車体から回収したDPFを用いた。従って、回収したDPFは、エンジンから排出されたアッシュ成分が堆積している。各DPFは、使用(走行)条件が異なる。各DPFを回収し、水洗浄した後の実機圧損および、さらに1mol/l濃度のクエン酸に30分間浸漬した後の実機圧損を測定した結果を表2に示す。通常、フィルタにアッシュ成分が多く堆積するほど実機圧損が増加し、フィルタの性能に悪影響を及ぼすこととなる。
【0039】
なお、アッシュ量および実機圧損の値については、以下のようにして測定した。
【0040】
(回収時DPFのアッシュ重量および実機圧損測定)
(1)回収したDPFに対し、エンジンを使用して粒子状物質の燃焼除去を実施後に、圧損測定を行った。
(2)エンジンからDPFを取り外し、DPF重量を測定した。
(3)触媒生産時重量との差を算出し、アッシュ重量とした。
【0041】
(洗浄後DPFのアッシュ重量および実機圧損測定)
(1)洗浄後のDPFに対し、エンジンを使用して乾燥実施後に圧損測定を行った。
(2)エンジンからDPFを取り外し、DPF重量を測定した。
(3)触媒生産時重量との差を算出し、アッシュ重量とした。
【0042】
ここで、上記使用(走行)条件については以下の通りである。なお、回収品(2)については水洗浄のみ、回収品(4)については、クエン酸洗浄のみを行ったものである。
回収品(1):73.7万km市場走行品
回収品(2):60.6万km市場走行品
回収品(3):89.9万km市場走行品
回収品(4):64.4万km市場走行品
【0043】
【0044】
表2の結果から、水洗浄のみでも実機圧損は低下しているものの、アッシュ成分の除去が不十分であることがわかる。DPFの洗浄を行う実際の現場では、水洗浄後に再度の圧損上昇が短期間に起きるという問題が生じている。表2の結果から、その問題は、アッシュ成分の除去が不十分であることに起因することが明らかとなった。
【0045】
一方で、クエン酸を含む洗浄液への浸漬を行った場合は、回収品(4)のように水洗浄せずに直接クエン酸洗浄したものを含め、いずれの回収品においてもアッシュ成分のほとんどが除去できており、実機圧損も新品時(3kPa)同等まで改善した。
【0046】
すなわち、このような洗浄方法によるアッシュ成分の除去効果は非常に高く、既に水洗浄を実施してトラブルになっているDPFに対しても有効であることがわかる。
【0047】
図1は、DPFの水洗浄前の写真である。
図2は、このDPFを水洗浄した後の写真である。
図3は、このDPFをクエン酸洗浄した後の写真である。
【0048】
図1で白く見えるものがアッシュ成分である。
図2では、単に水洗浄しただけでは白いアッシュ成分が依然として除去できていないことがわかる。
図3では、アッシュ成分がクエン酸を含む洗浄液への浸漬によりほぼすべて除去されていることがわかる。
【0049】
上記実施形態、実施例及び比較例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。上記の構成は、適宜組み合わせて実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。