(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】心筋核医学画像データのスコアリング
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20230320BHJP
【FI】
G01T1/161 D
(21)【出願番号】P 2018232845
(22)【出願日】2018-12-12
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】玉村 直之
(72)【発明者】
【氏名】西川 和宏
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-219490(JP,A)
【文献】再公表特許第2013/047496(JP,A1)
【文献】特表2017-512577(JP,A)
【文献】特表2013-534154(JP,A)
【文献】特開2011-025005(JP,A)
【文献】特開2016-156644(JP,A)
【文献】特表2016-504084(JP,A)
【文献】特開2014-076288(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0066861(US,A1)
【文献】倉田 聖,冠動脈CTAを用いた冠動脈狭窄とその心筋リスク領域の自動抽出と定量評価,日本循環器学会専門医誌 循環器専門医,2015年09月,第23巻第2号,217-222,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcsc/23/2/23_217/_pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161-1/166
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置の処理手段がプログラム命令を実行することにより、前記装置が遂行する方法であって、
冠動脈アンギオグラム画像データから、冠動脈及び左心室心筋を抽出すること、及び、前記抽出した左心室心筋を、前記抽出した冠動脈の支配域に基づいて分割することと;
前記分割した各心筋領域の体積を算出することと;
前記冠動脈アンギオグラム画像データとコレジストレーションがなされた心筋核医学画像データに基づいて、前記分割された心筋領域ごとに、放射線カウント値に基づくスコアリングを行うことと;
前記心筋領域ごとに、前記スコアリングの結果を前記体積に基づいて補正することと;
を含む、方法。
【請求項2】
前記抽出した左心室心筋を、前記抽出した冠動脈の支配域に基づいて分割することは、ボロノイ法を用いて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補正することは、
前記心筋領域ごとに、左心室心筋全体の体積に対する該心筋領域の体積の割合を算出することと;
前記心筋領域ごとに、前記スコアリングの結果に前記割合を乗算することと;
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
処理手段と記憶手段とを備える装置であって、前記記憶手段はプログラム命令を備え、該プログラム命令は、前記処理手段に実行されると、前記装置に、請求項1から3のいずれかに記載の方法を遂行させるように構成される、装置。
【請求項5】
装置の手段で実行されると、前記装置に、請求項1から3のいずれかに記載の方法を遂行させるように構成されるプログラム命令を備える、コンピュータプログラム。
【請求項6】
冠動脈アンギオグラム画像データから、冠動脈及び左心室心筋を抽出すると共に、前記抽出した左心室心筋を、前記抽出した冠動脈の支配域に基づいて分割する手段と;
前記分割した各心筋領域の体積を算出する手段と;
前記冠動脈アンギオグラム画像データとコレジストレーションがなされた心筋核医学画像データに基づいて、前記分割された心筋領域ごとに、放射線カウント値に基づくスコアリングを行う手段と;
前記心筋領域ごとに、前記スコアリングの結果を前記体積に基づいて補正する手段と;
を備える、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、心筋核医学画像データのスコアリングに関する。
【背景技術】
【0002】
心筋の機能を調べるために、核医学の手法がしばしば用いられる。そのような手法の一つに心筋シンチグラムがあり、これは、静脈から投与した放射性薬剤が心筋に取り込まれる様子を、放射性薬剤から放出される放射線を検出して画像化する技術である。X線を利用するCTが、血管等の組織の形状情報を得ることを目的とするのに対し、心筋シンチグラムでは、心筋へ流れる血液の量や、エネルギー代謝のような、心筋の機能を調べることを目的とする
【0003】
心筋シンチグラムの評価の手法として、従来から、放射線カウント値に基づく点数付(以下、スコアリング)が用いられてきた。放射線カウント値は、放射性薬剤の取り込み量を反映している。この手法では、心筋をいくつかの領域に分割し、領域ごとにスコアリングを行うことで、評価の参考となる情報を提供することが多い。領域分割の手法としては、左前下行枝領域、左回旋枝領域、右冠動脈領域として単純に3分割したモデルや、日本心臓核医学会や日本核医学会、米国心臓協会で共通して用いられている、17セグメントモデルがしばしば用いられる。
【0004】
また、下記特許文献1には、CTやMRIで取得した冠動脈の形態画像に基づいて、冠動脈の支配領域を特定し、その支配領域毎にSPECT画像を解析することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、心筋領域の臨床的な重要性は、領域ごとに異なっている。つまり、仮に2つの領域でスコアリングの結果が同じであったとしても、その臨床的な重要性は異なる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本願では、上記の課題を解決する発明であって、心筋核医学画像データをスコアリングする発明を開示する。この発明は、
冠動脈アンギオグラム画像データから、冠動脈及び左心室心筋を抽出すること、及び、前記抽出した左心室心筋を、前記抽出した冠動脈の支配域に基づいて分割することと;
前記分割した各心筋領域の体積を算出することと;
前記冠動脈アンギオグラム画像データとコレジストレーションがなされた心筋核医学画像データに基づいて、前記分割された心筋領域ごとに、放射線カウント値に基づくスコアリングを行うことと;
前記心筋領域ごとに、前記スコアリングの結果を前記体積に基づいて補正することと;
を含む。
【0008】
心筋領域のスコアリングの結果をその領域の体積に基づいて補正することにより、スコアリングの結果に各領域の重要性が反映される。このため、スコアリングの結果を臨床的により有用なものとすることができる。
【0009】
前記抽出した左心室心筋を、前記抽出した冠動脈の支配域に基づいて分割することは、例えばボロノイ法を用いて行ってもよい。
【0010】
ボロノイ法を用いることにより、冠動脈走行の個人間の違いを反映させて領域分割を行うことができる。このため、解析対象の画像データのそれぞれについて、適切な領域分割を行うことができる。ボロノイ法を用いた領域分割に、上述の体積補正を行うことにより、心筋核医学画像データのスコアリングの結果を、臨床的により有用なものとすることができる。例えば、より治療優先度の高い領域を特定することが可能となる場合がある。
【0011】
好適な実施形態において、前記補正することは、
前記心筋領域ごとに、左心室全体の体積に対する該心筋領域の体積の割合を算出することと;
前記心筋領域ごとに、前記スコアリングの結果に前記割合を乗算することと;
を含んでもよい。
【0012】
本発明の実施形態の一例には、装置の処理手段がプログラム命令を実行することにより、前記装置が遂行する方法であって、
冠動脈アンギオグラム画像データから、冠動脈及び左心室心筋を抽出すること、及び、前記抽出した左心室心筋を、前記抽出した冠動脈の支配域に基づいて分割することと;
前記分割した各心筋領域の体積を算出することと;
前記冠動脈アンギオグラム画像データとコレジストレーションがなされた心筋核医学画像データに基づいて、前記分割された心筋領域ごとに、放射線カウント値に基づくスコアリングを行うことと;
前記心筋領域ごとに、前記スコアリングの結果を前記体積に基づいて補正することと;
を含む、方法が含まれる。
【0013】
本発明の実施形態の別の例には、装置の処理手段に実行されると、前記装置に、上記方法を遂行させるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムが含まれる。
本発明の実施形態の別の例には、処理手段及び記憶手段を備える装置であって、前記記憶手段にプログラム命令を格納し、前記プログラム命令が、前記処理手段に実行されると、前記装置に、上記方法を遂行させるように構成される、装置が含まれる。
【0014】
本発明の実施形態の別の例には、
冠動脈アンギオグラム画像データから、冠動脈及び左心室心筋を抽出すると共に、前記抽出した左心室心筋を、前記抽出した冠動脈の支配域に基づいて分割する手段と;
前記分割した各心筋領域の体積を算出する手段と;
前記冠動脈アンギオグラム画像データとコレジストレーションがなされた心筋核医学画像データに基づいて、前記分割された心筋領域ごとに、放射線カウント値に基づくスコアリングを行う手段と;
前記心筋領域ごとに、前記スコアリングの結果を前記体積に基づいて補正する手段と;
を備える装置が含まれる。
【0015】
実施形態によっては、前記冠動脈アンギオグラム画像データは、CTを用いて取得された画像データであることができる。実施形態によっては、前記冠動脈アンギオグラム画像データは、MRIを用いて取得された画像データであることができる。
実施形態によっては、前記心筋核医学画像データは、SPECTで取得された画像データであることができる。実施形態によっては、前記心筋核医学画像データは、PETで取得された画像データであることができる。
【0016】
現時点で好適と考えられる本願発明の具現化形態のいくつかを、特許請求の範囲に含まれる請求項に特定している。しかしこれらの請求項に特定される構成が、本願明細書及び図面に開示される新規な技術思想の全てを含むとは限らない。出願人は、現在の請求項に記載されているか否かに関わらず、本願明細書及び図面に開示される新規な技術思想の全てについて、特許を受ける権利を有することを主張するものであることを記しておく。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明を実施し得るシステムのハードウェア構成を説明するための図である。
【
図2】心筋シンチグラムデータのスコアリングを行う処理の例を示す。
【
図3】冠動脈支配領域に基づく左心室心筋の分割の例を示す。
【
図4】心筋シンチグラムデータのスコアリング結果の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ、本願に開示される技術思想の好適な実施形態の例を説明する。
【0019】
図1は、本発明を実施し得るシステム100のハードウェア構成を説明するための図である。
図1に描かれるように、システム100は、ハードウェア的には一般的なコンピュータと同様であり、CPU102,主記憶装置104,大容量記憶装置106,ディスプレイ・インターフェース107,周辺機器インタフェース108,ネットワーク・インターフェース109などを備えることができる。一般的なコンピュータと同様に、主記憶装置104としては高速なRAM(ランダムアクセスメモリ)を使用することができ、大容量記憶装置106としては、安価で大容量のハードディスクやSSDなどを用いることができる。システム100には、情報表示のためのディスプレイを接続することができ、これはディスプレイ・インターフェース107を介して接続される。またシステム100には、キーボードやマウス、タッチパネルのようなユーザインタフェースを接続することができ、これは周辺機器インタフェース108を介して接続される。ネットワーク・インターフェース109は、ネットワークを介して他のコンピュータやインターネットに接続するために用いられることができる。
【0020】
大容量記憶装置106には、オペレーティングシステム(OS)110や、コレジストレーションプログラム120、領域分割・体積算出プログラム122、スコアリング・重み付けプログラム124が格納される。システム100の最も基本的な機能は、OS110がCPU102に実行されることにより提供される。コレジストレーションプログラム120は、CT画像データ130と核医学画像データ132とのサイズ・位置合わせ(コレジストレーション;co-registration)を行うためのプログラムである。領域分割・体積算出プログラム122は、本願によって開示される新規な処理に関するプログラム命令を備えている。当該命令の少なくとも一部がCPU102に実行されることにより、システム100は、CT画像データ(冠動脈CTアンギオグラム画像データ130)のセグメンテーション、すなわち、領域分割を自動で行うことができる。領域分割・体積算出プログラム122はさらに、各領域の体積や、全体に対する体積割合を計算させることができる。
【0021】
スコアリング・重み付けプログラム124も、本願によって開示される新規な処理に関するプログラム命令を備えている。当該命令の少なくとも一部がCPU102に実行されることにより、システム100は、プログラム122によって分割された心筋領域のそれぞれについて、心筋シンチグラム画像データ132を参照して、放射線カウント値に基づくスコアリングを行う。スコアリング・重み付けプログラム124は更に、領域分割・体積算出プログラム122によって計算された体積割合を、スコアリングの結果に乗算することにより、スコアリングの結果を補正する。
【0022】
大容量記憶装置106にはさらに、CT画像データ130及び核医学画像データ132が格納されていることができる。CT画像データ130は、冠動脈CTアンギオグラムにより得られた画像データである。冠動脈CTアンギオグラムは、造影剤を使って冠動脈をCTで画像化する技術であり、冠動脈狭窄・虚血性心疾患の検査によく用いられる技術である。CT画像データ130は、各画素値がCT値に対応する3次元画像データであり、領域分割・体積算出プログラム122による解析又は操作の対象となる。
【0023】
核医学画像データ132は、心筋シンチグラムにより得られた画像データである。心筋シンチグラムは核医学に基づく技術であり、静脈から投与した放射性薬剤が心筋に取り込まれる様子を、放射性薬剤から放出される放射線を検出して画像化する技術である。核医学技術としては、通常SPECTが用いられるが、PETが用いられる場合もある。放射性薬剤としては、SPECT用製剤として塩化タリウム(201TlCl)注射液、テトロホスミンテクネチウム(99mTc Tetrofosmin)注射液、ヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc MIBI)注射液、15-(4-ヨードフェニル)- 3(R,S)-メチルペンタデカン酸(123I)注射液や、PET用製剤として13N-アンモニアや塩化ルビジウム(82RbCl)注射液などがある。本例での画像データ132は、SPECTによって得られた画像データである。心筋シンチグラム画像データ132は、各画素値が放射線カウント値に対応する3次元画像データであり、スコアリング・重み付けプログラム124による解析又は操作の対象となる。
【0024】
大容量記憶装置106にはさらに、領域分割・体積算出プログラム122によって特定された各領域を特定する領域データ140や、領域分割・体積算出プログラム122によって計算された、各領域の体積や体積割合のデータ142、スコアリング・重み付けプログラム124によって計算されたスコアのデータ144等を格納していてもよい。
【0025】
システム100は、
図1に描かれた要素の他にも、電源や冷却装置など通常のコンピュータシステムが備える装置と同様の構成を備えることができる。コンピュータシステムの実装形態には、記憶装置の分散・冗長化や仮想化、複数CPUの利用、CPU仮想化、DSPなど特定処理に特化したプロセッサの使用、決定の処理をハードウェア化してCPUに組み合わせることなど、様々な技術を利用した様々な形態のものが知られている。本願で開示される発明は、どのような形態のコンピュータシステム上に搭載されてもよく、コンピュータシステムの形態によってその範囲が限定されることはない。本明細書に開示される技術思想は、一般的に、(1)処理手段に実行されることにより、当該処理手段を備える装置またはシステムに、本明細書で説明される各種の処理を遂行させるように構成される命令を備えるプログラム、(2)当該処理手段が当該プログラムを実行することにより実現される装置またはシステムの動作方法、(3)当該プログラム及び当該プログラムを実行するように構成される処理手段を備える装置またはシステムなどとして具現化されることができる。前述のように、ソフトウェア処理の一部はハードウェア化される場合もある。
【0026】
また、システム100の製造販売時や起動時には、CT画像データ130やSPECT画像データ132は、大容量記憶装置106の中に記憶されていない場合が多いことに注意されたいCT画像データ130やSPECT画像データ132は、例えば周辺機器インタフェース108やネットワーク・インターフェース109を介して外部の装置からシステム100に転送されるデータであってもよい。データ140,142,144は、領域分割・体積算出プログラム122やスコアリング・重み付けプログラム124の少なくとも一部がCPU102に実行された結果として、大容量記憶装置106に記憶されたデータであってもよい。本願で開示される発明の範囲は、記憶装置に画像データ等格納されているか否かによって限定されるものではないことを、念のために記しておく。
【0027】
次に、
図2を用いて、本願に開示される新規なスコアリング処理の例である、処理200の流れを説明する。処理200は、例えば、領域分割・体積算出プログラム122やスコアリング・重み付けプログラム124等がCPU102に実行されることにより、システム100が遂行する処理であることができる。
【0028】
ステップ202は処理の開始を示す。ステップ204では、冠動脈CTアンギオグラム画像データ130と心筋シンチグラム画像データ132との位置合わせ(コレジストレーション;co-registration)が行われる。すなわち、冠動脈CTアンギオグラム画像データ130と心筋シンチグラム画像データ132との間で、体の向きや大きさ、位置を3次元的に合致させる。この処理を行うことにより、これら2つの画像データを利用することが容易になる。例えば、冠動脈CTアンギオグラム画像データ130に重ねて心筋シンチグラム画像データ132を表示することが可能となる。コレジストレーション処理は、コレジストレーションプログラム120がCPU102に実行されることにより、システム100が遂行する処理であってもよい。
【0029】
コレジストレーション機能は、市場で入手可能な多くの医用画像データ解析プログラムに含まれているので、本実施例においても、そのようなプログラムに実装されている既存の手法を使って、コレジストレーションを行ってもよい。コレジストレーションは、例えば残差平方和を利用して行うことができる。例えば、CT画像かSPECT画像の一方を回転させたりサイズを変更したりして、他方の画像と画素毎の差を計算し、その平方和が最小となる場合に、コレジストレーションが完了したとすることができる。コレジストレーションは手動による方法によってもよい。すなわち、CT画像130と核医学画像132を共に画像として表示し、マウス等の操作によって、一方の画像を平行移動したり回転させたりして、他方の画像と合わせる方法によって行っても良い。
【0030】
以下の説明において、画像データ130と132とは、コレジストレーションがなされたものであるものとして理解されたい。実施形態によっては、画像データ130と132との間のコレジストレーションは、既に完了している場合がある。例えば、画像データ130及び132が、CTとSPECTとを一体化した装置により一緒に取得されたものである場合は、冠動脈CTアンギオグラム画像データ130と心筋シンチグラム画像データ132とのコレジストレーションは、装置から出力された段階で、既に完了している場合がある。その場合はもちろん、ステップ208の処理は不要である。そのような実施形態では、コレジストレーションプログラム120も不要であろう。
【0031】
ステップ206では、冠動脈CTアンギオグラム画像データ130から、冠動脈及び左心室心筋を抽出すると共に、抽出した左心室心筋を、抽出した冠動脈の支配域に基づいて分割する。
【0032】
冠動脈CTアンギオグラム画像データから冠動脈や左心室心筋を抽出する機能も、市場で入手可能な多くのCT画像データ解析プログラムに含まれている。また、前掲の特許文献1にもこれらの抽出方法が記載されている。本実施例においても、そのような既存の手法を使って、心筋抽出を行ってもよい。
【0033】
冠動脈CTアンギオグラム画像データを、抽出した冠動脈の支配域に基づいて分割することは、例えばボロノイ法を用いて行うことができる。ボロノイ法に基づいてCT画像を分割する手法は既に知られており、例えば
https://www.cg.tuwien.ac.at/research/publications/2009/termeer-2009-scmr/
に、その例を見ることができる。
【0034】
なお、実施形態によっては、CT画像とSPECT画像のコレジストレーションを行うために、CT画像及び/又はSPECT画像の心筋輪郭抽出を要することがある。そのような実施形態においては、ステップ206(の中の少なくとも心筋抽出処理)は、ステップ204より先に行われることになるだろう。
【0035】
実施形態によっては、ステップ206における領域分割の結果を、領域データ140として、大容量記憶装置106に格納してもよい。例えば、コレジストレーション後の画像データ130や132と同じ要素配列を有し、各要素の値が領域の識別値(1,2,3など)であるデータとして、領域データ140を構成し、格納することが可能である。
【0036】
ステップ208では、ステップ206で分割された領域の各々について、体積を計算する。体積の計算は、例えば、CT画像データ130において、分割された各領域に含まれる画素数に基づいて行ってもよい。
【0037】
またステップ208では、心筋領域ごとに、左心室心筋全体の体積に対する該心筋領域の体積の割合も計算する。この割合は例えば、各領域に含まれる画素数を、左心室心筋全体の画素数で割り算することにより、計算することができる。
【0038】
実施形態によっては、ステップ208における体積や割合の計算結果を、体積・割合データ142として、大容量記憶装置106に格納してもよい。
【0039】
ステップ210では、ステップ206で分割された領域の各々について、心筋シンチグラム画像データ132における対応する領域のカウント値を調べ、そのカウント値に基づいて、各領域をスコアリングする。スコアリングの手法は様々であってよいが、例えば次のような手法を用いても良い。
【0040】
(1)各領域につき、領域内の全ての画素値を、当該領域内の最大画素値に対する割合に換算する。例えば百分率に換算することがあり、その換算値を%uptakeと称する。
(2)領域毎に、%uptakeの平均値を算出する。
(3)算出した平均%uptake値に対して、予め設定した閾値に従って点数(スコア)を付ける。例えば、100%~80%は0点、80%~70%は1点、70%~60%は2点、60%~50%は3点、50%未満は4点などとすることができる。実施形態によっては、これらの閾値を使用者が任意に設定してもよいし、正常群における平均値とバラつきの程度から設定してもよい。
【0041】
他にも、Subtraction ScoreやMismatch Score、Severity Score、Extent Scoreなどのような、既知のスコアリング法を用いてもよい。また、各画素値を領域内の最大画素値に対する割合に換算するのではなく、Washout rate、すなわち負荷検査時の信号強度(カウント値・画素値)から安静検査時の信号強度を減算したものを負荷時の信号強度で割った値に換算してもよい。そして、Washout rateに基づいてスコアリングを行ってもよい。
【0042】
実施形態によっては、使用者が手動でスコアリングを行ってもよい。例えば、左心室心筋を極座標展開して表示した画像の、色合いや、領域内における低い画素値の広がり具合を勘案して、点数付けを行ってもよい。手動による点数付けは、アーチファクトの除去を行いやすいという利点がある。例えば、閾値を用いた自動処理において、領域内の極々一部に限局して極端に低い画素値が存在する場合に、その画素値に引きずられて領域全体の平均値が低下し、スコアが高くなってしまうことが考えられるが、目視でスコアリングを行うと、そのような極端な画素値(領域)をスコアの評価から除外するという措置を、容易にとることができる。
【0043】
実施形態によっては、このスコアリングは、領域毎に、当該領域に含まれる全ての画素を使って行われてもよい。実施形態によっては、当該領域の一部の画素のみを使って行われてもよい。
【0044】
実施形態によっては、各領域について、負荷検査時のスコアから安静検査時のスコアを減算してもよい。
【0045】
実施形態によっては、ステップ210におけるスコアリングの結果を、スコアデータ144として、大容量記憶装置106に格納してもよい。
【0046】
ステップ212では、冠動脈の支配領域に基づいて(ステップ206で)分割した領域のそれぞれについて、ステップ210で行ったスコアリングの結果に、ステップ208で計算した体積割合を乗じ、重み付けを行う。
【0047】
実施形態によっては、ステップ212において重み付けを行ったスコアリングの結果を、スコアデータ144として、大容量記憶装置106に格納してもよい。
【0048】
ステップ214では、重み付けを行ったスコアリングの結果を表示する。表示の例については、
図3,4を用いて後述する。
【0049】
ステップ216は処理の終了を示す。
【0050】
図3は、ステップ206で行われる、左心室心筋の分割の様子を図示したものである。
図3には、左心室心筋の二次元展開表示が描かれており、それがLAD(左前下行枝)支配領域、LCX(左回旋枝)支配領域、RCA(右冠動脈)支配領域に分割されていることが分かる。LADの一部として扱われることの多いDiag(対角枝)についても、その支配領域が区分されている。
【0051】
図3には、ステップ208で行われる、各領域の体積計算の結果も示されている。
【0052】
図4に、ステップ210,212で行われるスコアリングの結果とその表示の例を、従来法による結果と比較しながら、図示する。
図4には6つのグラフが描かれているが、それぞれ、左心室心筋の二次元展開図を冠動脈支配領域に基づいて分割したものに、スコアリングの結果を記入したものである。
図3と
図4は、同じ被験者について連続して収集したCT画像、SPECT画像に基づいて得られたものであるので、領域分割の様子は
図3と
図4で共通である。
【0053】
図4の上段の3つは従来法による結果で、下段の3つは本発明による結果を示す。また、左端の列は、負荷時測定から得られたスコアを示し、中央の列は安静時測定から得られたスコアを示し、右端の列は負荷時スコアから安静時スコアを減算した値を示している。この例において、各スコアは、放射性薬剤として99mTc-テトロホスミンを使ったSPECTデータに基づいて得られている。スコアが高いほど、放射性薬剤の取り込み量が少ないことを示しており、すなわち、冠動脈の狭窄や、心筋の機能の減退が生じている可能性が高いことを示している。
【0054】
左端の列の上段と下段のグラフを比較すると、体積補正がない場合、負荷時に最もスコアが高い冠動脈支配領域は、LCX支配領域となる。すなわち、臨床上最も注意すべき領域は、LCX支配領域とされる。しかし体積補正がある場合、負荷時に最もスコアが高い冠動脈支配領域、すなわち臨床上最も注意すべき領域は、LAD支配領域となる。
【0055】
以上、好適な実施例を用いて本願発明を詳しく説明してきたが、上記の説明や添付図面は、本願発明の範囲を限定する意図で提示されたものではなく、むしろ、法の要請を満たすために提示されたものである。本願発明の実施形態には、ここで紹介されたもの以外にも、様々なバリエーションが存在する。例えば、実施形態によっては、冠動脈アンギオグラム画像データとして、上述の例で使用したCTデータではなく、MRIデータを用いる場合もある。また、実施形態によっては、心筋核医学画像データとして、上述の例で使用したSPECTデータでなく、PETを用いて取得したデータを用いる場合もある。明細書又は図面に示される各種の数値もいずれも例示であり、これらの数値は発明の範囲を限定する意図で提示されたものではない。明細書又は図面に紹介した各種の実施例に含まれている個々の特徴は、その特徴が含まれることが直接記載されている実施例と共にしか使用できないものではなく、ここで説明された他の実施例や説明されていない各種の具現化例においても、組み合わせて使用可能である。特にフローチャートで紹介された処理の順番は、紹介された順番で実行しなければならないわけではなく、実施者の好みや必要性に応じて、順序を入れ替えたり並列的に同時実行したり、さらに複数のブロックを一体不可分に実装したり、適当なループとして実行したりするように実装してもよい。これらのバリエーションは、全て、本願で開示される発明の範囲に含まれるものであり、処理の実装形態によって発明の範囲が限定されることはない。請求項に決定される処理の記載順も、処理の必須の順番を決定しているわけではなく、例えば処理の順番が異なる実施形態や、ループを含んで処理が実行されるような実施形態なども、請求項に係る発明の範囲に含まれるものである。
【0056】
更に例えば、領域分割・体積算出プログラム122やスコアリング・重み付けプログラム124の実施形態には、単一のプログラムであるようなものや、複数の独立のプログラムから構成されるプログラム群であるようなものが含まれうる。これら2つのプログラムは、実施形態によっては単一のプログラムとして提供されるだろう。実施形態によっては、コレジストレーションプログラム120も含んだ形で提供されるだろう。よく知られているように、プログラムの実装形態には様々なものがあり、それらのバリエーションは全て、本願で開示される発明の範囲に含まれるものである。現在の特許請求の範囲で特許請求がなされているか否かに関わらず、出願人は、本願に開示される発明の思想を逸脱しない全ての形態について、特許を受ける権利を有することを主張するものであることを記しておく。
【符号の説明】
【0057】
100 システム
102 CPU
104 主記憶装置
106 大容量記憶装置
107 ディスプレイ・インターフェース
108 周辺機器インタフェース
109 ネットワーク・インターフェース
120 コレジストレーションプログラム
122 領域分割・体積算出プログラム
130 冠動脈CTアンギオグラム画像データ
132 心筋シンチグラム画像データ