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  • 特許-ブレーキ摩擦材 図1
  • 特許-ブレーキ摩擦材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】ブレーキ摩擦材
(51)【国際特許分類】
   F16D 69/02 20060101AFI20230320BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
F16D69/02 B
C09K3/14 520F
C09K3/14 520M
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019038459
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2020143692
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】福島 浩司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将隆
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/013078(WO,A1)
【文献】特開2016-130212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 69/02
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材、バインダ、潤滑剤及び充填剤を含むブレーキ摩擦材であって、
前記潤滑剤は、等方性黒鉛材からなり、
前記等方性黒鉛材は、真密度が2.10~2.18g/cm であることを特徴とするブレーキ摩擦材。
【請求項2】
前記等方性黒鉛材は、みかけ密度が1.70~1.80g/cmであることを特徴とする請求項に記載のブレーキ摩擦材。
【請求項3】
前記等方性黒鉛材は、平均細孔半径が1.5~2.5μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のブレーキ摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ブレーキ摩擦材から発せられる粉塵による環境汚染が問題となっている。以前、摩擦材の繊維基材に使用されていた石綿は、健康障害を発生するおそれがあり、石綿に代わる材料が種々検討されており、健康障害を発生するおそれのないセラミック繊維が注目されている。また、潤滑剤として使用されている重金属である銅による環境汚染も問題となっており、銅の代替材料として黒鉛が注目されるようになってきている。
【0003】
特許文献1には、銅成分の含有量を抑えながらも、高速高負荷制動時でも耐摩耗性の低下を抑制しつつ安定した高い摩擦係数を確保する非石綿系摩擦材として、繊維基材、結合材、潤滑剤、及び、有機・無機充填剤を含み、銅成分の摩擦材組成物全体に対する配合割合が5重量%以下であるとともに、金属単体としての鉄及び鉄系合金をいずれも非含有とした非石綿系摩擦材が提案されている。そして、この非石綿系摩擦材では、潤滑剤として、X線回折における(002)面のd値が0.336~0.342nmである炭素材が、摩擦材組成物全体に対して2~6重量%配合されている。
【0004】
また、特許文献1では、上記した炭素材として、膨張黒鉛が例示されている。上記膨張黒鉛は、結晶子がランダムに配向されるため、結晶子端面どうしの摩擦によって、過度な潤滑性を生じにくくできることが記載されている。膨張黒鉛とは、通常の黒鉛を熱膨張させることにより得られるものであり、熱膨張の方法として、黒鉛に硫酸などの酸からなる膨張性物質をインターカレートする方法等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-193632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記された発明は、潤滑剤として銅に変わって黒鉛を使用するようになったため、別の様々な課題が生じるようになった。
すなわち、黒鉛は、異方性の高い材料であるため、ブレーキパッドの成形時に粒子が配向したり、偏析が生じると、ブレーキの利き具合にムラが生じやすくなるという問題がある。また、結晶子をランダムに配向させるため、膨張黒鉛を使用すると、他の繊維基材、充填剤、結合材と比べて密度が軽くなるため、偏析をおこしやすくなるという問題もある。
【0007】
本発明では、前記課題に鑑み、潤滑剤として黒鉛を使用した場合であっても、粒子の配向や偏析が生じにくく、ブレーキの利きが安定して得られるブレーキ摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のブレーキ摩擦材は、繊維基材、バインダ、潤滑剤及び充填剤を含むブレーキ摩擦材であって、上記潤滑剤は、等方性黒鉛材からなることを特徴とする。
【0009】
上記のように、本発明のブレーキ摩擦材は、繊維基材、バインダ、潤滑剤及び充填剤を含むブレーキ摩擦材であって、上記潤滑剤は、等方性黒鉛材からなる。上記等方性黒鉛材は、粒子の内部構造に方向性がないので、ブレーキ摩擦材中の等方性黒鉛材には、粒子の方向による異方性が発生せず、ブレーキの利きが安定して得られる。
【0010】
本発明のブレーキ摩擦材では、上記等方性黒鉛材は、真密度が2.10~2.18g/cmであることが望ましい。
本発明のブレーキ摩擦材において、上記等方性黒鉛材の真密度が2.10~2.18g/cmであると、完全な黒鉛構造をとっておらず、層状構造は余り発達していないので、粒子の方向による異方性が発生せず、適度な摺動性を確保することができる。
なお、黒鉛の真密度は、黒鉛化の進行度合いを示し、完全に黒鉛化が進行した黒鉛であれば2.26g/cmとなり、黒鉛化が不完全であれば、真密度が低下する。また、真密度とは、物質の真実の状態の密度をいい、物体の表面や内部の気孔の部分を除いた物体そのものの体積で物体の質量を割った値が真密度となる。
【0011】
本発明のブレーキ摩擦材では、上記等方性黒鉛材は、みかけ密度が1.70~1.80g/cmであることが望ましい。
本発明のブレーキ摩擦材において、上記等方性黒鉛材のみかけ密度が1.70~1.80g/cmであると、ブレーキ摩擦材中の他の成分である繊維基材、充填剤などとの密度差が小さくなり、ブレーキ摩擦材製造時の偏析を小さくすることができるので、安定したブレーキの利きが得られる。
なお、みかけ密度とは、物体の表面の気孔の体積は除くが、内部の気孔の体積を含めて求めた密度を意味し、液中ひょう量法(天秤法)と呼ばれる密度がわかっている液体(例えば、水など)中に天秤をセットし、その中に試料を入れ、質量と浮力を測定し、密度を算出することにより得られる。
【0012】
本発明のブレーキ摩擦材では、上記等方性黒鉛材は、平均細孔半径が1.5~2.5μmであることが望ましい。
本発明のブレーキ摩擦材において、等方性黒鉛材の平均細孔半径は、等方性黒鉛材の粒子を構成する微粒子の間にできる隙間の大きさを反映しているが、本発明で用いる等方性黒鉛材は、平均細孔半径が1.5~2.5μmであり、微粒子間の隙間が小さく、小さな微粒子が集合していると考えられるので、粒子自体に方向性がなく、ブレーキ摩擦材として使用した際、初期の摩擦抵抗が変動しにくい。
【0013】
上記平均細孔半径<r>は、水銀ポロシメータで細孔分布を測定し、全細孔容積v、全細孔表面積Sから下記の(1)式を用いて算出することができる。
<r>=2v/S・・・(1)
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明のブレーキ摩擦材の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、従来のブレーキ摩擦材の一例を模式的に示す断面図である。
【0015】
(発明の詳細な説明)
[ブレーキ摩擦材]
まず、本発明のブレーキ摩擦材について説明する。
【0016】
本発明のブレーキ摩擦材は、繊維基材、バインダ、潤滑剤及び充填剤を含むブレーキ摩擦材であって、上記潤滑剤は、等方性黒鉛材からなることを特徴とする。
【0017】
本発明のブレーキ摩擦材を構成する潤滑剤は、等方性黒鉛材からなる。
図1は、等方性黒鉛材を潤滑剤として用いたブレーキ摩擦材の一例を模式的に示す断面図であり、図2は、従来から用いられている黒鉛粒子を潤滑剤として用いたブレーキ摩擦材の一例を模式的に示す断面図である。
【0018】
黒鉛は、強固な共有結合でa軸方向につながった6角網面が充分に発達しており、上記6角網面を構成する炭素原子がc軸方向に弱いファンデルワールス力で結合し、積層された構造を有している。積層された6角網面の層は、各層の間で剥離しやすく、強い方向性を有している。
【0019】
従って、天然黒鉛などを潤滑剤として使用しようとすると、粉砕する際、黒鉛の粒子の弱い部分に沿って粉砕され、結晶方向に沿ってアスペクト比が高い扁平形状の黒鉛となり易い。このため、ブレーキ摩擦材30を作製するための混合粉末をプレス成形する際に、図2に示すように、他の材料からなる粉末32と潤滑剤31とからなる混合粉末中、潤滑剤31は、金型13のなかで横向きに配列しやすく、特に金型33中、最初に充填される底の部分の異方比が大きくなりやすく、その結果、ブレーキの利きが不安定になる。
【0020】
しかしながら、本発明で用いる等方性黒鉛材は、細かなコークス粒子とピッチとを含む混合物を、静水圧成形法等を用いて等方的な圧力を加えて成形し、その後、焼成、黒鉛化して得られた焼結体を粉砕して用いている。従って、得られる等方性黒鉛材の粉末からなる潤滑剤11は、図1に示すように、等方的な構造と特性を有している。従って、プレス等の成形法によりブレーキ摩擦材10を作製する際に、金型13中どのような充填の仕方をしても、粒子の方向に基づく異方性は生じない。従って、本発明の摩擦材は、図1に示すように、他の材料からなる粉末12と潤滑剤11とが均一に混合され、ブレーキの利きが安定したブレーキ摩擦材となる。
【0021】
本発明のブレーキ摩擦材では、上記等方性黒鉛材は、真密度が2.10~2.18g/cmであることが望ましい。
本発明のブレーキ摩擦材において、上記等方性黒鉛材の真密度は、2.10~2.18g/cmであるので、完全な黒鉛構造をとっておらず、層状構造は余り発達していないので、等方的特性を有し、適度な摺動性を確保することができる。
【0022】
本発明のブレーキ摩擦材では、上記等方性黒鉛材は、みかけ密度が1.70~1.80g/cmであることが望ましい。
等方性黒鉛材中の気孔率(%)は、下記の(2)式により得られる。
[(真密度-みかけ密度)/真密度]×100・・・(2)
本発明のブレーキ摩擦材では、上記(2)式により得られる気孔率は、14~22%であるので、本発明で用いられる等方性黒鉛材は、黒鉛粒子中に微細な気孔を上記の割合で有する黒鉛粒子であり、上記のように気孔率が大きいと、激しい摩擦が生じた際に、発生するガスの逃げ道を確保することができ、フェード現象等を防止することができる。
【0023】
本発明のブレーキ摩擦材では、上記等方性黒鉛材は、平均細孔半径が1.5~2.5μmであることが望ましい。
【0024】
本発明のブレーキ摩擦材では、等方性黒鉛材の平均細孔半径は、粒子を構成する微粒子の間にできる隙間の大きさを反映しているが、本発明で用いる等方性黒鉛材は、平均細孔半径が1.5~2.5μmであり、微粒子間の隙間が小さく、小さな微粒子が集合していると考えられるので、粒子自体に方向性がなく、ブレーキ摩擦材として使用した際、初期の摩擦抵抗が変動しにくい。
【0025】
さらに、等方性黒鉛材からなる潤滑剤は、小さな微粒子が集合しているので、適切な範囲で潤滑性能を発揮するので、ブレーキ摩擦材の摩耗や振動を防止する役割を果たしている。
【0026】
本発明のブレーキ摩擦材中の上記潤滑剤の配合量は、特に限定されるものではないが、5~30vol%が望ましい。
本発明のブレーキ摩擦材では、潤滑剤としての特性を損なわない範囲で他の潤滑性を有する成分、例えば、三硫化アンチモン、二硫化モリブデン等を含んでいてもよい。
【0027】
本発明のブレーキ摩擦材は、上記した潤滑剤の他に、繊維基材、バインダ及び充填剤を含む。
本発明のブレーキ摩擦材を構成する繊維基材は、特に限定されるものではないが、例えば、セラミック繊維、金属繊維、有機繊維、又は、上記繊維の混合繊維が挙げられる。
【0028】
上記セラミック繊維は、特に限定されるものではないが、例えば、シリカ繊維、ロックウール、ウォラストナイト、ガラス繊維、SiC繊維、炭素繊維等が挙げられる。上記金属繊維は、特に限定されるものではないが、例えば、スチール繊維、銅繊維、ステンレス繊維、真鍮繊維、鉄-アルミニウム合金繊維等が挙げられる。上記有機繊維は、特に限定されるものではないが、例えば、アラミド繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、麻、綿などが挙げられる。本発明のブレーキ摩擦材を構成する繊維基材は、上記した基材繊維のうち少なくとも2種を混合したものであってもよい。上記した繊維のなかでは、ガラス繊維が特に望ましい。
【0029】
本発明のブレーキ摩擦材中の上記繊維基材の配合量は、特に限定されるものではないが、3~30vol%が望ましく、5~20vol%がより望ましい。
【0030】
本発明のブレーキ摩擦材を構成するバインダは、ブレーキ摩擦材を構成する各成分を結合させる役割を有し、ブレーキ摩擦材の強度を高め、ブレーキ摩擦材の破壊を防止する役割を果たしている。
上記バインダの種類は、特に限定されるものではないが、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ゴム等が挙げられる。これらのバインダは、2種類以上を併用してもよい。これらのなかでは、フェノール樹脂がより望ましい。
本発明のブレーキ摩擦材中の上記バインダの配合量は、特に限定されるものではないが、5~40vol%が望ましく、10~30vol%がより望ましい。
【0031】
本発明のブレーキ摩擦材を構成する充填剤は、ブレーキ摩擦材の摩擦係数を高めるとともに、ドラムやディスクに付着する分解生成物のクリーニングをする役割を果たしている。上記充填剤の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、有機充填剤や無機充填剤等が挙げられる。
【0032】
有機充填剤は、特に限定されるものではないが、例えば、カシューダスト、ゴム粉等が挙げられる。無機充填剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化鉄、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ケイ酸マグネシウム、亜鉛、アルミナ、酸化鉄、錫、マイカ等が挙げられる。これらの充填剤は、2種以上を併用したものであってもよい。
【0033】
本発明のブレーキ摩擦材中の上記充填剤の配合量は、特に限定されるものではないが、20~50vol%がより望ましい。
【0034】
本発明のブレーキ摩擦材では、上記した成分のほかに、pH調整剤として、水酸化カルシウム等を配合してもよい。
【0035】
[ブレーキ摩擦材の製造方法]
本発明のブレーキ摩擦材を製造する際には、上記の等方性黒鉛材からなる潤滑剤の他、繊維基材、バインダ、潤滑剤、充填剤及びpH調整剤等の各材料を、強度、接着性、摩擦特性、摩耗特性、鳴き性能などのブレーキ性能を満足する配合となるように配合量を調整して混合し、次いで、常温にて圧縮成形(予備成形)し、次いで、予め接着剤を塗布した裏金とともに加熱圧縮成形し、さらに熱処理を行った後、溝加工や表面研磨を施すことにより、作製することができる。
【0036】
本発明のブレーキ摩擦材は、車両等のディスクプレーキ用パッドやブレーキシュー等に使用することができる。
【符号の説明】
【0037】
10、30 ブレーキ摩擦材
11、31 潤滑剤
12、32 他の材料からなる粉末
13 金型
図1
図2