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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】放熱性塗料組成物及び放熱性被膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20230320BHJP
   C09D 163/02 20060101ALI20230320BHJP
   C08G 59/14 20060101ALI20230320BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D163/02
C08G59/14
C09D5/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019076433
(22)【出願日】2019-04-12
(65)【公開番号】P2020172609
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小平 良祐
(72)【発明者】
【氏名】横山 和孝
(72)【発明者】
【氏名】小林 貴宣
(72)【発明者】
【氏名】酒井 恵
(72)【発明者】
【氏名】水野 俊之
(72)【発明者】
【氏名】中谷 了
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴公
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-102465(JP,A)
【文献】特開2009-102623(JP,A)
【文献】特開2003-208980(JP,A)
【文献】特開平8-100051(JP,A)
【文献】特開平7-252345(JP,A)
【文献】特表2018-517008(JP,A)
【文献】特表2008-534721(JP,A)
【文献】特開2012-107215(JP,A)
【文献】特開2001-196357(JP,A)
【文献】国際公開第2006/120993(WO,A1)
【文献】特開平8-301975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
C08G 59/00- 59/72
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱性被膜を形成するための放熱性塗料組成物であって、
エポキシ樹脂を含む主鎖及び前記主鎖に結合され5~101の炭素を含む直鎖状の側鎖を含むプレポリマーと、硬化剤とを含有し、
前記プレポリマーは、以下の化学式(1)で表される放熱性塗料組成物。
【化1】
ここでR はエポキシ樹脂、R は5~101の炭素を含む直鎖状の化合物、nは1~1000の整数である。
【請求項2】
前記Rは、アルキレンオキシドの共重合体を含む請求項1に記載の放熱性塗料組成物。
【請求項3】
前記Rは、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドのランダム共重合体を含む請求項2に記載の放熱性塗料組成物。
【請求項4】
前記Rは、19のエチレンオキシド及び3のプロピレンオキシドを含む請求項3に記載の放熱性塗料組成物。
【請求項5】
前記Rは、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含む請求項1~請求項4のいずれか1つの項に記載の放熱性塗料組成物。
【請求項6】
放熱性被膜を形成するための放熱性塗料組成物であって、
エポキシ樹脂を含む主鎖及び前記主鎖に結合され5~101の炭素を含む直鎖状の側鎖を含むプレポリマーと、硬化剤とを含有し、
前記プレポリマーは以下の化学式(2)で表される放熱性塗料組成物。
【化2】
ここで、xは0~50の整数であり、yは0~50の整数であり、x+y=2~50の関係を満たす。また、lは1~15の整数、mは1~15の整数、nは1~1000の整数である。エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの配列はランダムであってよい。
【請求項7】
金属部材の表面への放熱性被膜の製造方法であって、
エポキシ樹脂を含む主鎖及び前記主鎖に結合され5~101の炭素を含む直鎖状の側鎖を含むプレポリマーと、硬化剤とを混合した混合液を調製する第1工程と、
前記混合液を前記金属部材の表面に塗布する第2工程と、
前記混合液が塗布された前記金属部材を加熱する第3工程とを含み、
前記プレポリマーは、以下の化学式(1)で表される放熱性被膜の製造方法。
【化1】
ここでR はエポキシ樹脂、R は5~101の炭素を含む直鎖状の化合物、nは1~1000の整数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性塗料組成物及び放熱性塗料組成物を含む放熱性被膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
装置の放熱を促進するために、装置の表面に形成される放熱性被膜が公知である。放熱性被膜は、一般的に、アクリル樹脂等の樹脂からなる母材と、母材に保持されたカーボンブラック等の無機粒子からなる放熱性フィラーとを含む(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-281514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の放熱性被膜は、放熱性フィラーを必須の構成としている。そのため、母材に適した放熱性フィラーの選択や、放熱性フィラーの調製、母材への放熱性フィラーの分散等を行なう必要がある。また、放熱性フィラーには、母材の劣化を促進するものもある。放熱性フィラーを省略することができれば、放熱性被膜の作製が容易になる。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑み、放熱性フィラーを省略することができる放熱性塗料組成物及び放熱性塗料組成物を含む放熱性被膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の第1の態様は、放熱性被膜を形成するための放熱性塗料組成物であって、エポキシ樹脂を含む主鎖及び前記主鎖に結合され5~101の炭素を含む直鎖状の側鎖を含むプレポリマーと、硬化剤とを含有する放熱性塗料組成物である。
【0007】
この態様によれば、放熱性フィラーを省略することができる放熱性塗料組成物を提供することができる。側鎖は、柔軟性を有し、様々な立体配座をとることができる。そのため、側鎖の回転や振動等を含む分子運動によって、側鎖におけるエネルギー消費が増加すると共に、側鎖と外部の気体分子や液体分子との接触が増加し、放熱が促進すると考えられる。また、主鎖のエポキシ樹脂が水酸基を含むため、主鎖は水酸基を介して金属の表面の酸化膜と水素結合することができる。そのため、放熱性塗料組成物の金属の表面に対する接着性を向上させることができる。
【0008】
上記の態様において、前記プレポリマーは、以下の化学式(1)で表される。
【化1】
ここでRはエポキシ樹脂、Rは5~101の炭素を含む直鎖状の化合物、nは1~1000の整数である。
【0009】
この態様によれば、アミンとエポキシ樹脂との反応を利用して側鎖が主鎖に結合されたプレポリマーを生成することができる。
【0010】
上記の態様において、前記Rは、アルキレンオキシドの共重合体を含むとよい。
【0011】
この態様によれば、放熱性塗料組成物の金属の表面に対する接着性を向上させることができる。側鎖がO(エーテル結合部)を含むため、側鎖はOを介して金属の表面の酸化膜と水素結合することができる。そのため、放熱性塗料組成物の金属の表面に対する接着性を向上させることができる。
【0012】
上記の態様において、前記Rは、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドのランダム共重合体を含むとよい。また、前記Rは、19のエチレンオキシド及び3のプロピレンオキシドのランダム共重合体を含むことが好ましい。
【0013】
また、前記Rは、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂であるとよい。
【0014】
上記の態様において、前記プレポリマーは、以下の化学式(2)で表される。
【化2】
ここで、xは0~50の整数であり、yは0~50の整数であり、x+y=2~50の関係を満たす。また、lは1~15の整数、mは1~15の整数、nは1~1000の整数である。エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの配列はランダムであってよい。
【0015】
本発明の他の態様は金属部材の表面への放熱性被膜の製造方法であって、エポキシ樹脂を含む主鎖及び前記主鎖に結合され5~101の炭素を含む直鎖状の側鎖を含むプレポリマーと、硬化剤とを混合した混合液を調製する第1工程と、前記混合液を前記金属部材の表面に塗布する第2工程と、前記混合液が塗布された前記金属部材を加熱する第3工程とを含む放熱性被膜の製造方法である。
【0016】
この態様によれば、比較的簡単な手法で金属部材の表面に放熱性被膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上の構成によれば、放熱性フィラーを省略することができる放熱性塗料組成物及び放熱性塗料組成物を含む放熱性被膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】放熱性能試験に使用する試験容器
図2】放熱性被膜の耐熱性試験結果を示すグラフ
図3】放熱性被膜の耐久性試験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
(放熱性塗料組成物)
実施形態に係る放熱性塗料組成物は、金属部材の表面に放熱性被膜を形成するために使用される。放熱性塗料組成物は、エポキシ樹脂を含む主鎖及び前記主鎖に結合され5~101の炭素を含む直鎖状の側鎖を含むプレポリマーと、硬化剤とを含有する。前記プレポリマーは以下の化学式(1)で表される。
【化1】
ここで、Rはエポキシ樹脂である。また、Rは5~101の炭素を含む直鎖状の化合物である。また、nは1~1000の整数である。また、Rは30~100の炭素を含む直鎖状の化合物であってもよい。また、nは1~100の整数であってもよい。
【0021】
化学式(1)のRで表される組成物のエポキシ樹脂は、例えばグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。
【0022】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビス(ヒドロキシフェニル)C1-10アルカン骨格を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等)、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、フェノールノボラック型、ノニルフェノールノボラック型等のアルキルフェノールノボラック型、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等)、含フルオレン型エポキシ樹脂(例えば、9,9-ビス(グリシジルオキシアリール)フルオレン(例えば、9,9-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(6-グリシジルオキシ-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-グリシジルオキシ-1-ナフチル)フルオレン等)、9,9-ビス(グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン(例えば、9,9-ビス(4-(2-グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(6-(2-グリシジルオキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-(2-グリシジルオキシエトキシ)-1-ナフチル)フルオレン等の9,9-ビス(グリシジルオキシ(ポリ)C2-4アルコキシアリール)フルオレン等))を用いることができる。
【0023】
これらのエポキシ樹脂は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
エポキシ樹脂は、塗膜の物性(例えば、柔軟性等)を向上させるために変性エポキシ樹脂であってもよい。変性の方法としては、例えば、ウレタン変性、フェノール変性、アミン変性等が挙げられる。
【0025】
化学式(1)のRで表される組成物の5~101の炭素を含む直鎖状の化合物は、例えばポリアルキレンオキシドや直鎖状のアルキル基等が挙げられる。直鎖状のアルキル基は、例えば炭素数が4、8、又は12であってよい。
【0026】
ポリアルキレンオキシドは、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、ヘキセンオキシド群から選択される少なくとも1つを含むとよい。ポリアルキレンオキシドは、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドのランダム共重合体であってよい。また、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドのランダム共重合体は、1~30のエチレンオキシド及び1~3のプロピレンオキシドの共重合体であってよく、19のエチレンオキシド及び3のプロピレンオキシドの共重合体であることが好ましい。
【0027】
直鎖状のアルキル基は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチルトリメチレングリコール、3-メチル-ペンタン-1,5-ジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-4,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,2-オクタデカンジオール等である。
【0028】
プレポリマーは、例えば以下の化学式(2)で示す化合物であってよい。
【化2】
ここで、xは0~50の整数であり、yは0~50の整数であり、x+y=2~50の関係を満たす。また、lは1~15の整数、mは1~15の整数、nは1~1000の整数である。エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの配列はランダムであってよい。xとyとの組み合わせは、例えば、x=9とy=1、x=3とy=19、x=10とy=31、x=29とy=6等が好ましい。
【0029】
硬化剤は、例えば、アミン類(脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、変性アミン(ポリアミンエポキシ樹脂アダクト等))、ポリアミド樹脂、三級及び二級アミン(ピペリジン、トリエチレンジアミン等)、イミダゾール類(2-メチルイミダゾール、2-メチル-4-メチルイミダゾール等)、ポリメルカプタン、ポリスルフィド、酸無水物類(脂肪族カルボン酸無水物、脂環族カルボン酸無水物等)、フェノール樹脂等である。
【0030】
放熱性塗料組成物のプレポリマーは、アルコールやアセトン等の有機溶剤に可溶な樹脂である。プレポリマーと硬化剤とを混合し、加熱することによってプレポリマーのエポキシ基が互いに架橋し、三次元網目構造を形成する。プレポリマーに更に他のエポキシ樹脂を加えた後に、硬化剤の添加及び加熱をしてもよい。この場合、プレポリマー及び他のエポキシ樹脂のエポキシ基が互いに架橋する。すなわち、放熱性塗料組成物は、化学式(1)で示すプレポリマー以外に他のエポキシ樹脂を含んでもよい。他のエポキシ樹脂は、例えば、上述した化学式(1)のRに適用可能なエポキシ樹脂と同様であってよい。また、このプレポリマーの濃度は、5wt%~30wt%であることが好ましく、硬化剤の濃度は3wt%~10wt%であることが好ましい。
【0031】
プレポリマーの溶剤は、揮発性の有機溶剤であることが好ましく、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等の酢酸エステル類、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノルマルヘプタン等の炭化水素類、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類等、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジメチルセロソルブ等のエーテル類等を用いることができる。
【0032】
また、塗膜の物性(例えば、柔軟性等)を向上させるために、エポキシ樹脂及び変性エポキシ樹脂の他に、他の樹脂を混合してもよい。例えば、フェノール系樹脂(例えば、フェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂等)、キシレン樹脂、トルエン樹脂、ケトン樹脂、クマロン樹脂、石油樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂等を用いることができる。
【0033】
本発明の放熱性塗料組成物には、その他の成分として、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、増粘剤、沈降防止剤、たれ防止剤、ツヤ消剤、レベリング剤、反応触媒、光安定化剤、紫外線吸収剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら成分は、市販品を好適に使用することができる。
【0034】
(放熱性被膜)
放熱性被膜は、基材の表面に形成される被膜であり、上記の放熱性塗料組成物に含まれるプレポリマーと硬化剤との反応物を含む。基材は、例えば熱交換器のハウジングやチューブ、コアであってよい。熱交換器は、例えば車両のインタークーラーやラジエータであってよい。基材は、鉄やアルミニウム、それらの合金から形成された金属部材であるとよい。
【0035】
放熱性被膜の厚さは、例えば5μm~50μmであることが好ましい。
【0036】
放熱性被膜は、主鎖を構成するエポキシ樹脂に含まれる水酸基を介して金属の表面の酸化膜と水素結合する。また、放熱性被膜は、側鎖のポリアルキレンオキシドに含まれるOを介して金属の表面の酸化膜と水素結合する。これらにより、放熱性被膜は、金属部材である基材と比較的強固に結合することができる。
【0037】
放熱性被膜を形成する放熱性塗料組成物のプレポリマーの側鎖は、柔軟性を有し、様々な立体配座をとることができる。そのため、側鎖の回転や振動等を含む分子運動によって、側鎖におけるエネルギー消費が増加すると共に、側鎖と外部の気体分子や液体分子との接触が増加し、放熱性被膜の放熱性が向上すると考えられる。側鎖は、基材の表面の酸化膜に水素結合する酸素原子を有するアルキレンオキシドの共重合体であることが好ましい。この水素結合によって、放熱性被膜の密着性が向上する。
【0038】
(放熱性被膜の製造方法)
金属部材の表面への放熱性被膜の製造方法は、エポキシ樹脂を含む主鎖及び前記主鎖に結合され5~101の炭素を含む直鎖状の側鎖を含むプレポリマーと、硬化剤とを混合した混合液を調製する第1工程と、前記混合液を前記金属部材の表面に塗布する第2工程と、前記混合液が塗布された前記金属部材を加熱する第3工程とを含む。第3工程によって、基材の表面においてプレポリマーと硬化剤とが反応して固化すると共に、溶剤が揮発する。これにより、基材の表面に放熱性被膜が形成される。第1工程では、プレポリマー及び硬化剤に加えて、他のエポキシ樹脂を混合してもよい。
【実施例
【0039】
(被膜形成方法の実施例)
プレポリマーは、化学式(1)においてRをビスフェノールA型エポキシ樹脂、Rを19のエチレンオキシド及び3のプロピレンオキシドのランダム共重合体としたもの、すなわち化学式(2)に示す化合物においてxを3、yを19としたものを使用した。硬化剤は、ポリアミド系硬化剤を使用した。プレポリマーの濃度が8wt%、硬化剤の濃度が4wt%となるようにブチルセロソルブで希釈して混合液を調製した。基材はアルミニウム板(A1050、長さ150mm×幅70mm×厚み0.8mm)を使用した。エアスプレーによって混合液を基材の一方の表面に適量噴霧することによって、基材の一方の表面に混合液を塗布した。続いて、加熱炉を使用して、混合液を塗布した基材を100℃で15分間加熱した。加熱により、プレポリマーのエポキシ基が互いに架橋して基材の表面において固化すると共に、ブチルセロソルブが揮発し、基材の表面に放熱性被膜が形成された。加熱後の放熱性被膜の厚さを放熱性被膜の厚さとした。放熱性被膜の厚さは、エアスプレーによる放熱性塗料の噴霧量によって調節することができる。このように形成されたサンプルを実施例1とする。
【0040】
(放熱性能試験)
放熱性被膜の放熱性の評価は、次の放熱性能試験によって行った。図1に示すように、底部を切り取った直方体のスチール缶1(長さ130mm×幅50mm×高さ100mm、厚み0.8mm)の底部を、放熱性被膜2を形成した基材3で閉塞することによって試験容器4を作製した。基材3は、放熱性被膜2が形成された面が下側(外側)を向くように配置した。スチール缶1と基材3とは接着剤によって液密に結合した。試験容器4の上部及び側部は、厚さ30mmの発泡スチロール6(断熱材)で覆われている。試験容器4は、発泡スチロール6を介して台7の上に配置し、基材3を他の構造体から十分に離れた位置に配置した。試験容器4の上部には、液体の注入口が形成されている。試験容器4の内部には、試験開始時に100℃に加熱したエンジンオイル350mLを投入した。投入したエンジンオイルは、試験容器の内部に設けた撹拌棒8によって200rpmで撹拌した。また、試験容器4の内部にはエンジンオイルの温度を測定するための熱電対9が設けられている。また、測定装置の外部(発泡スチロールの外方)には、外気温度を測定するための熱電対(不図示)が設けられている。測定は、外気温度が室温(約22℃)の環境下で実施し、投入したエンジンオイルの温度が100℃から低下し、85℃になったときを時間0として、以後のエンジンオイルの温度を記録した。また、参照試験として、放熱性被膜を有しない基材を底部とした試験容器を用いて、同様の放熱性能試験(温度測定)を行なった。
【0041】
上記の試験において、実施例1の放熱性被膜の厚さを20~30μmとした場合の結果を測定した。エンジンオイルは、基材を介した放熱により時間の経過と共に温度が低下する。底部の基材が放熱性被膜を有する場合は、基材が放熱性被膜を有しない場合(参照試験)と比較して、エンジンオイルの温度Tsの低下が大きいことが確認された。単位時間(1s)当たりのエンジンオイルの温度Tsから外気温度Taを減じた値の自然対数(ln(Ts-Ta))の変化量を放熱速度Vs、Vrと定義する。基材が放熱性被膜を有するときの放熱速度をVs、基材が放熱性被膜を有しないとき(参照試験)の放熱速度をVrとする。また、参照試験の放熱速度Vrに対する放熱速度Vsの比を放熱速度比R(=(Vs-Vr)/Vr×100)と定義する。図2に示すように、実施例1では放熱速度比は約36%となり、放熱性被膜を有しない場合より高い値となることが確認された。したがって、実施例1に係る放熱性被膜は、フィラーを用いること無く基材の放熱性を向上させることができる。
【0042】
(放熱性被膜の耐熱性試験)
上述した放熱性被膜を用いて耐熱性試験を実施した。耐熱性試験では、加熱処理を行っていない実施例1のサンプルと、150℃で500時間加熱処理し、その後放置して室温(約22℃)まで冷却した実施例1のサンプルとを作成した。各サンプルについて上述した放熱性能試験を行い、それぞれの放熱速度比を測定した。図2に放熱性被膜の耐熱性試験結果を示す。図2から加熱処理を行っていないサンプルでは放熱速度比が36%であったのに対して、加熱処理を行ったサンプルでは放熱速度比が35%であった。この結果から、本実施例に係る放熱性被膜は、加熱処理によって放熱性能が劣化しないことが確認された。この理由としては、主鎖及び側鎖のOが、アルミニウム等の基材の表面の酸化膜に水素結合したためであると考えられる。
【0043】
(放熱性被膜の熱、水、湿度に対する耐久性試験)
側鎖の有無による放熱性被膜の耐久性を確認するために、実施例1に対して化学式(1)におけるRをHとしたプレポリマーを使用してサンプル(比較例1)を作成した。実施例1と比較例1とは、プレポリマーの化学式(1)におけるRが相違する点を除き、他の構成は同一である。第1の耐熱性試験では、実施例1及び比較例1のサンプルを150℃で240時間加熱し、その後放置して室温(約22℃)まで冷却する処理を行った。また、第2の耐熱性試験では、加熱時間を延長した例として、150℃で500時間加熱し、その後放置して室温(約22℃)まで冷却する処理を行った。耐水性試験では、実施例1及び比較例1のサンプルを50℃の水に240時間浸漬し、その後放置して室温(約22℃)まで冷却した。耐湿性試験では、実施例1及び比較例1のサンプルを50℃かつ湿度95%で240時間加熱し、その後放置して室温(約22℃)まで冷却した。各処理を行った実施例1及び比較例1のサンプルに対して、JIS K5600-5-6-1999に準じたクロスカット法による被膜耐性試験を行った。クロスカット法では、カッターナイフで被膜を碁盤目状に100個の1mm×1mmの領域を区画し、各領域の被膜の表面に粘着テープを貼り付けた。そして、粘着テープを引き離した後に被膜が剥離せずに基材上に残存した領域の数を数え、全領域の数に対する残存した領域の数を残存面積率(%)とした。残存面積率が大きいほど、基材に対する被膜の結合性、すなわち耐久性が高い。
【0044】
図3は、各処理を行った実施例1及び比較例1のサンプルの耐久性試験結果を示すグラフである。実施例1のサンプルでは、第1及び第2の耐熱性試験、耐水性試験、及び耐湿性試験のいずれの試験を行なった後でも残存面積率は100%であり、放熱性被膜の剥がれは確認されなかった。一方、比較例1のサンプルでは、各試験を行なうと残存面積率が低下することが確認された。特に、耐水性試験又は耐湿性試験を行なった比較例1のサンプルでは残存面積率が50%まで低下することが確認された。以上の試験から、19のエチレンオキシド及び3のプロピレンオキシドからなる側鎖を備えたプレポリマーから形成した放熱性被膜の耐久性が高いことが判る。これは側鎖に含まれるOが基材の表面の酸化膜と水素結合を形成していることに起因すると考えられる。
【符号の説明】
【0045】
1 :スチール缶
2 :放熱性被膜
3 :基材
4 :試験容器
6 :発泡スチロール
7 :台
8 :撹拌棒
9 :熱電対
図1
図2
図3