(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物及びそれを用いたボールペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/18 20060101AFI20230320BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/00
(21)【出願番号】P 2019118656
(22)【出願日】2019-06-26
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-148043(JP,A)
【文献】特開2012-021072(JP,A)
【文献】特開2012-183690(JP,A)
【文献】特開2018-070741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B43K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)電子供与性呈色性有機化合物からなる成分と(ロ)電子受容性化合物からなる成 分と(ハ)前記(イ)成分および(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可 逆的に生起させる反応媒体とを含んでなる可逆熱変色性組成物を内包する可逆熱変色性マ イクロカプセル顔料と、合成層状シリケートと、グリセリンと、1価の陽イオンの無機塩 と、剪断減粘性付与剤と、水とを含んでな
るインキ組成物であって、前記合成層状シリケートが、B型粘度計、 回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が20mPa・s未満であ
るとともに、前記合成層状シリケートの配合割合がインキ組成物総質量に対して0.05~0.5質量%であり、前記剪断減粘性付与剤が、架橋型アクリル酸重合体、多糖類、および会合型増粘剤から選ばれる1種以上であるとともに、前記剪断減粘性付与剤の配合割合がインキ組成物総質量に対して0.05~0.2質量%であることを特徴とする可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記剪断減粘性付与剤が架橋型アクリル酸重合体および多糖類から選ばれる1種以上である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記合成層状シリケートが、ヘクトライトである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記1価の陽イオンの無機塩含有量が、水性インキ組成物の総質量を基準として、1~10質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記グリセリンの含有量が1価の陽イオンの無機塩の含有量より質量基準で多く含まれてなる請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記1価の陽イオンの無機塩がアルカリ金属の塩である請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
EL型粘度計、回転速度1rpm、20℃にて測定した時の粘度が、100~400mPa・sである、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物を収容してなることを特徴とするボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物に関するものである。さらに詳しくは、顔料の分散安定性に優れ、耐乾燥性、筆跡の発色性に優れた可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物に関するものである。また、本発明は、その組成物を用いたボールペンにも関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロカプセル顔料を利用した可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物の提案がなされている。マイクロカプセル顔料を用いたインキは、長期保管時のインキ保存安定性に課題があった。そこで、マイクロカプセル顔料とマイクロカプセル顔料と比重の異なるマイクロカプセル粒子と、水と高分子凝集剤を含むビヒクルを含み、ビヒクルが比重調整されてなるインキ組成物が知られている(例えば、特許文献1)。しかしながら前記インキ組成物は、マイクロカプセル顔料とマイクロカプセル粒子を高分子凝集剤によりゆるい凝集状体にして沈降抑制をしているが十分でなかった。また、キサンタンガムやサクシノグルカンなどの剪断減粘性付与剤を配合した所謂ゲルインキとすることなどが提案されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、前記インキは、ペン先で水分が蒸発した際に強固な乾燥皮膜を形成しやすく、耐乾燥性を低下させる傾向があり、マイクロカプセル顔料の沈降抑制と耐乾燥性を両立することが困難であり、これまでの技術は、改良の余地があった。
【0003】
一方、前記課題に対して、さらにスメクタイトなどを併用し、マイクロカプセル顔料の沈降抑制と、耐乾燥性の改良を試みている(例えば、特許文献3)。しかしながら、若干の改良はみられるものの、インキの保存安定性に課題が生じるなど、さらなる改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-224295号公報
【文献】特開平9-124993号公報
【文献】国際公開WO2011/115046号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、分散安定性が良好でインキ組成物の保存安定性に優れ、ボールペンに用いた際にも筆跡の発色性が高く、筆記性、筆跡乾燥性、耐乾燥性能に優れた可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物およびそれを用いたボールペンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物(以下、場合により、「ボールペン用水性インキ組成物」または「水性インキ組成物」、「インキ組成物」、「組成物」と表すことがある。)に、合成層状シリケート、グリセリン、1価の陽イオンの無機塩(以下、場合により、「無機塩」と表すことがある。)、剪断減粘性付与剤を併用することなどにより前記課題が解決された。
すなわち、本発明は、
「1.(イ)電子供与性呈色性有機化合物からなる成分と(ロ)電子受容性化合物からなる成分と(ハ)前記(イ)成分および(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とを含んでなる可逆熱変色性組成物を内包する可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、合成層状シリケートと、グリセリンと、1価の陽イオンの無機塩と、剪断減粘性付与剤と、水とを含んでなり、前記合成層状シリケートが、B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が20mPa・s未満であることを特徴とする可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物。
2.前記合成層状シリケートが、ヘクトライトである、第1項に記載の組成物。
3.前記1価の陽イオンの無機塩含有量が、水性インキ組成物の総質量を基準として、1~10質量%である、第1項または第2項に記載の組成物。
4.前記グリセリンの含有量が1価の陽イオンの無機塩の含有量より質量基準で多く含まれてなる第1項~第3項のいずれか1項に記載の組成物。
5.前記1価の陽イオンの無機塩がアルカリ金属の塩である第1項~第4項のいずれか1項に記載の組成物。
6.前記剪断減粘性付与剤が多糖類である第1項~第5項のいずれか1項に記載の組成物。
7.EL型粘度計、回転速度1rpm、20℃にて測定した時の粘度が、100~400mPa・sである、第1項~第6項のいずれか1項に記載の組成物。
8.第1項~第7項のいずれか1項に記載の組成物を収容してなることを特徴とするボールペン。」に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、可逆熱変色性インキ組成物に、合成層状シリケート、グリセリン、1価の陽イオンの無機塩(以下、これら3成分をまとめて、「比重調整剤」と表すことがある)を用いることで、マイクロカプセル顔料と比重調整剤を含んだインキビヒクルの比重を近似させることができ、マイクロカプセル顔料がインキ組成物中で均一に分散することが可能となる。さらに、剪断減粘性付与剤と特定の合成層状シリケートを含むことにより、比較的低粘度の剪断減粘性を有するインキ組成物、所謂ゲルインキにおいても、マイクロカプセル顔料が凝集、浮遊、沈降することなく、優れた耐乾燥性と筆記感を備えることができる。さらに、ゲル形成をした際にも離奬することなく、安定的にインキ組成物を保つことが可能となるなど、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に用いられる加熱消色型の可逆熱変色性組成物の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0010】
本発明による可逆熱変色性水性インキ組成物は、マイクロカプセル顔料と、特定の合成層状シリケート、グリセリン、1価の陽イオンの無機塩、剪断減粘性付与剤、水とを含んでなる。
【0011】
本発明において、インキ組成物中に特定の合成層状シリケート、グリセリン、1価の陽イオンの無機塩を含むことで、マイクロカプセル顔料の比重とインキビヒクルの比重を近似させることができ、マイクロカプセル顔料を安定的に分散することができる。
以下、本発明による水性インキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0012】
(合成層状シリケート)
本発明による可逆熱変色性水性インキ組成物は、B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が20mPa・s未満である合成層状シリケートを含んでなる。本発明に用いる合成層状シリケートは、マイクロカプセルの表面に作用するもので有り、マイクロカプセル顔料を、安定的に均一に分散を保つことを可能とするものであり、これらは、2種以上用いてもよい。
【0013】
前記合成層状シリケートは、B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が20mPa・s未満であるが、20mPa・s以上のものを用いると、インキ粘度が高くなりすぎるため筆記性が低下するだけでなく、剪断減粘性付与剤と共に用いると、マイクロカプセル顔料の凝集が非常に強くなり、剪断減粘性付与剤の3次元的な構造の中から水が排出され、保持されている水分が分離して液状にしみ出してくる、いわゆる離奬を起こすことが有り、インキ組成物としての経時安定性を損なうことや、ボールペンの保管状態の違いで、筆跡が薄くなることや、筆記できなくなる恐れがある。
【0014】
本発明に用いる合成層状シリケートは、ユニットセルが局部的な電荷を有する分散性に優れた素材であり、マイクロカプセル顔料表面に作用し、マイクロカプセル顔料を緩やかに凝集させることができる。そして、剪断減粘性付与剤と併用することで、剪断減粘性付与剤が形成した、3次元的な構造の中に、緩やかな凝集体を配置することにより、マイクロカプセル顔料の分散安定性が得られることとなる。前記合成層状シリケートはゲルを形成することがなく、より多く添加することができるため、マイクロカプセル顔料表面への十分な作用効果が期待できる
【0015】
前記合成層状シリケートの配合割合としては、インキ組成物の総質量に対して、0.01質量%~1.0質量%であることが好ましく、0.05質量%~0.5質量%がより好ましい。この範囲より少ないと所望するマイクロカプセル顔料の安定性が得られ難く、この範囲より多く配合しても更なるマイクロカプセル顔料安定性の向上は得られない。さらに、粘度が上昇して、筆記性能に影響を与える恐れがある。前記範囲であると、マイクロカプセル顔料は沈降や浮遊することなく、インキ中で安定に存在できるので、好ましい。
【0016】
前記合成層状シリケートとして具体的には、サポナイト、スチーブンサイト、ヘクトライトなどが挙げられるが、ヘクトライトを用いると、マイクロカプセル顔料の安定性を付与できるので好ましい。より具体的には、LAPONITE JS、LAPONITE RDS、LAPONITE S482、LAPONITE XLS(以上、商品名、ビックケミー・ジャパン(株)製)などが挙げられる。
【0017】
本発明による可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物は、グリセリンを含んでなる。本発明に用いるグリセリンは、インキ組成物の比重調整剤の他、保湿剤として働く。グリセリンを用いることにより、後述する1価の陽イオンの無機塩が析出することを抑制する働きを有する。さらに、保湿剤として、インキ組成物を筆記具に用いた際に、筆記先端が乾燥するドライアップに対しての効果も有する。
【0018】
グリセリンの配合割合としては、インキ組成物の総質量に対して、1質量%~30質量%であることが好ましく、5質量%~25質量%がより好ましい。この範囲より少ないと後述する無機塩の析出を抑制し難しくなり、この範囲より多いとインキ粘度が高くなって吐出を阻害するだけでなく、筆跡が乾きにくくなる傾向がある。前記範囲であると、適切なインキ粘度を保ちつつ無機塩の析出を抑制でき、インキビヒクルの比重調整にも寄与することができるので、好ましい。
【0019】
本発明による可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物は、さらに、1価の陽イオンの無機塩を含んでなる。前記無機塩は、インキ組成物の比重調整剤として働く。1価の陽イオンの無機塩を配合することで、比較的比重の大きいマイクロカプセル顔料に対しても沈降を抑制することができる。本発明に用いる1価の陽イオンの無機塩としては、陽イオンがアルカリ金属であることが好ましい。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。より具体的な1価の陽イオンの無機塩としては、前記アルカリ金属のハロゲン化物や、硫酸塩などが挙げられ、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸セシウムなどが挙げられる。2価以上の陽イオンの無機塩はそれ自体の水溶性が高くなく、また水和した状態でも特定の陰イオンと難水溶性の塩を形成して析出を生じやすいため、比重調整を目的とした多量の添加には不適切である。
【0020】
1価の陽イオンの無機塩の配合割合としては、インキ組成物の総質量に対して、1質量%~10質量%であることが好ましく、3質量%~8質量%がより好ましい。この範囲より少ないと所望のビヒクル比重に調整することが困難であり、この範囲より多いと筆記具としたときにペン先の僅かな乾燥でも析出を生じやすくなる傾向がある。前記範囲であると、前記グリセリンとの組み合わせにより析出することなく所望のビヒクル比重に調整できるので、好ましい。
【0021】
(剪断減粘性付与剤)
本発明による可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物は、剪断減粘性付与剤を含んでなる。本発明に用いることができる剪断減粘性付与剤としては、特に限定されず、従来からボールペン用水性インキ組成物に用いられる剪断減粘性付与剤を用いることができる。具体的には、架橋型アクリル酸重合体や、多糖類、会合型増粘剤が挙げられる。
【0022】
前記多糖類としては、ヘテロ多糖体が挙げられる。具体的には、キサンタンガム、ウェランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100~800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ダイユータンガム等を挙げることができる。
【0023】
前記会合型増粘剤としては、会合性疎水性基によってポリエステル系、ポリエーテル系、ウレタン変性ポリエーテル系、ポリアミノプラスト系などの会合型増粘剤や、アルカリ膨潤会合型増粘剤、ノニオン会合型増粘剤などが挙げられる。これらの剪断減粘性付与剤は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0024】
前記剪断減粘性付与剤は、インキ組成物全量中、0.05~0.2質量%とすることにより、インキ組成物中でマイクロカプセル顔料が凝集、浮遊、沈降することを抑制する効果と、ペン先の乾燥に起因するカスレや筆記不能の発生を抑制する効果を共に満たし、経時後も良好な筆記性能を示すボールペンレフィル、ボールペンを得ることができる。
【0025】
例えば、前記剪断減粘性付与剤として、キサンタンガムを単独で用いると、特に加温時にマイクロカプセル顔料の沈降を生じやすい。沈降抑制のためには、キサンタンガムの添加量を増加する必要があるが、この場合、筆跡の線割れや追従性の低下といった副作用をもたらす。一方、本発明で用いる合成層状シリケートを単独で用いても静置粘度への寄与はないため、長期保管でのマイクロカプセル顔料の沈降を抑制することは難しく、単独では、ボールペン用水性インキ組成物には使用し難い。
【0026】
前記剪断減粘性付与剤が、インキ組成物全量中0.05質量%未満では、前記合成層状シリケートの寄与があってもインキ粘度が低すぎてマイクロカプセル顔料の、浮遊、沈降を抑制する効果に若干乏しく、一方、剪断減粘性付与剤がインキ組成物全量中0.2質量%を越えると、マイクロカプセル顔料を凝集させる力が強くなるため、濃く滑らかな筆跡を得ることが難しくなる傾向がある。前記剪断減粘性付与剤は、インキ組成物全量中0.05~0.2質量%であり、且つ、前記合成層状シリケートは、インキ組成物中0.05~0.5質量%であることが好ましく、また、前記剪断減粘性付与剤と前記合成層状シリケートの質量比を1:0.5~1:3と することが好ましく、より好ましくは、1:1~1:3であり、さらに好ましくは、1:2~1:3である。前記範囲にあると、インキ組成物の安定性や耐乾燥性が特に良好なまま、濃く滑らかな筆跡を奏することが可能となる。
【0027】
前記剪断減粘性付与剤としては、多糖類を用いることが好ましい。多糖類を用いることで、少ない添加量でより強い剪断減粘性を付与することができるため、剪断減粘性付与剤の被膜による耐乾燥性の低下を抑えやすく、且つ、他の剪断減粘性付与剤と比べて塩類の影響を受けにくくなるためである。特に、多糖類としてキサンタンガムを用いると、多糖類の中では比較的弱い乾燥被膜を有するため、より好ましい。
【0028】
本発明による可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物は、合成層状シリケートとグリセリンと1価の陽イオンの無機塩を含んでなるが、どれひとつが欠けても、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の比重とインキビヒクルの比重をほぼ同じとし、安定的な分散状態に保つことができない。すなわち、グリセリン単独でマイクロカプセル顔料を安定的に分散することができるだけの比重を得るためには、多量に配合することが必要となり、筆跡乾燥性の低下をもたらす。また、1価の陽イオンの無機塩は、インキ粘度をあげることなくある程度比重を高くすることができるが、水分蒸発を抑制することができないため、無機塩が析出してしまう恐れがある。グリセリンと無機塩の併用系とすることで、保湿効果を保ちながら、ある程度比重を調整することができる。しかしながら、グリセリン単独、無機塩単独あるいは、グリセリンと無機塩の併用系では、マイクロカプセル顔料が凝集、浮遊、沈降などを起こし、均一に分散することができない。そこで、合成層状シリケート単独では均一に分散できても、それを長期にわたって維持することはできないが、本発明に用いる合成層状シリケートをグリセリンと無機塩の併用系に配合することで、合成層状シリケートがマイクロカプセル顔料表面に作用し、マイクロカプセル顔料が浮遊したり沈降したりすることを抑制し、均一に分散状態を維持することができる。更には剪断減粘性付与剤を併用することで、長期保管時のインキ安定性をより高めるとともに、静置時にはボールペンチップを下向きに保管してもインキが流出することのない、濃く滑らかな筆跡を有するボールペンを奏することが可能となる。
【0029】
本発明による可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物は、比重の異なる2種以上の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を用いてもよいが、本発明で言う比重の異なる2種とは、従来の構造粘性を有する所謂ゲルインキにおいては、浮遊、沈降すること無しに均一に分散した状態に保持することが可能であるが、比重調整をした低粘度の水溶液中においては、浮遊や沈降などの異なる挙動を示すものを言う。
【0030】
具体的には、マイクロカプセル顔料に内包する材料や組成、マイクロカプセルの形状、粒子径、マイクロカプセル壁膜の膜材、膜厚、内包物と壁膜の比率などが異なるものが、比重の異なるものとしてあげられる。
【0031】
本発明に用いることができる可逆熱変色性マイクロカプセル顔料について以下に説明する。前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する加熱消色型(加熱により消色し、冷却により発色する)の可逆熱変色性組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を適用できる。
【0032】
また、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔHB=8~50℃)を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度(t1)以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度(t4)以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t2~t3の間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で色彩記憶性を有する加熱消色型(加熱により消色し、冷却により発色する)の可逆熱変色性組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料も適用できる
【0033】
以下に前記可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を
図1のグラフによって説明する。
【0034】
図1において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全に消色した状態に達する温度t
4(以下、完全消色温度と称す)における濃度を示す点であり、Bは消色し始める温度t
3(以下、消色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Cは発色し始める温度t
2(以下、発色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Dは完全に発色した状態に達する温度t
1(以下、完全発色温度と称す)における濃度を示す点である。
【0035】
また、線分EFの長さが変色のコントラストを示す尺度であり、線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ヒステリシス幅ΔHと記す)であり、このΔH値が大きい程、変色前後の各状態の保持が容易である。
【0036】
ここで、t4とt3の差、或いは、t2とt1の差(Δt)が変色の鋭敏性を示す尺度である。
【0037】
更に、可逆熱変色性組成物の発消色状態のうち常温域では特定の一方の状態(発色状態)のみ存在させると共に、前記可逆熱変色性組成物による筆跡を摩擦により生じる摩擦熱により簡易に変色(消色)させるためには、完全消色温度(t4)が50~95℃であり、且つ、発色開始温度(t2)が-50~10℃であると好ましい。
【0038】
ここで、発色状態が常温域で保持でき、且つ、筆跡の摩擦による変色性を容易とするために何故完全消色温度(t4)が50~95℃、且つ、発色開始温度(t2)が-50~10℃であるかを説明すると、発色状態から消色開始温度(t3)を経て完全消色温度(t4)に達しない状態で加温を止めると、再び第一の状態に復する現象を生じること、及び、消色状態から発色開始温度(t2)を経て完全発色温度(t1)に達しない状態で冷却を中止しても発色を生じた状態が維持されることから、完全消色温度(t4)が常温域を越える50℃以上であれば、発色状態は通常の使用状態において維持されることになり、発色開始温度(t2)が常温域を下回る-50~10℃の温度であれば消色状態は通常の使用において維持される。
【0039】
前述の完全消色温度(t4)の温度設定において、発色状態が通常の使用状態において維持されるためにはより高い温度であることが好ましく、しかも、摩擦による摩擦熱が完全消色温度(t4)を越えるようにするためには低い温度であることが好ましい。よって、完全消色温度(t4)は、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃である。更に、前述の発色開始温度(t2)の温度設定において、消色状態が通常の使用状態において維持されるためにはより低い温度であることが好ましく、-50~5℃が好適であり、-50~0℃がより好適である。本発明においてヒステリシス幅(ΔH)は50℃~100℃の範囲であり、好ましくは55~90℃、更に好ましくは60~80℃である。
【0040】
本発明による筆記具用水性インキ組成物に用いることが出来るマイクロカプセル顔料は、前記変色温度域よりも高温側に完全消色温度(t4)を有する可逆熱変色性組成物を用いることもできる。
【0041】
前記可逆熱変色性組成物の発消色状態のうち常温域では特定の一方の状態(発色状態)のみ存在させると共に、前記可逆熱変色性組成物による筆跡を加熱消去具等から得られる熱により消色させるためには、完全消色温度(t4)が80℃以上とし、且つ、発色開始温度(t2)が15℃以下である。ここで、発色状態が常温域で保持でき、且つ、消色状態は通常の使用において維持されるために何故完全消色温度(t4)が80℃以上、且つ、発色開始温度(t2)が15℃以下であるかを説明すると、発色状態から消色開始温度(t3)を経て完全消色温度(t4)に達しない状態で加温を止めると、再び第一の状態に復する現象を生じること、及び、消色状態から発色開始温度(t2)を経て完全発色温度(t1)に達しない状態で冷却を中止しても発色を生じた状態が維持されることから、完全消色温度(t4)が常温域を越える80℃以上であれば、発色状態が夏場の車内等の高温環境下で維持され、発色開始温度(t2)が常温域を下回る15℃以下の温度であれば消色状態は通常の使用において維持される。更に、完全消色温度(t4)が90℃以上であれば、発色状態は高温環境下でより維持され、発色開始温度(t2)が10℃以下であれば、消色状態が通常の使用状態でより維持される。よって、前記温度設定は筆記面に変色状態の筆跡を選択して択一的に視認させるための重要な要件であり、筆跡は所期の目的を達成することができる。前述の完全消色温度(t4)の温度設定において、発色状態が高温環境下で維持されるためにはより高い温度であることが好ましく、完全消色温度(t4)は、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上である。更に、前述の発色開始温度(t2)の温度設定において、消色状態が通常の使用状態において維持されるためにはより低い温度であることが好ましく、-50~10℃が好適であり、-50~5℃がより好適である。なお、可逆熱変色性組成物を予め発色状態にするためには冷却手段としては汎用の冷凍庫にて冷却することが好ましいが、冷凍庫の冷却能力を考慮すると、-50℃迄が限度であり、従って、完全発色温度(t1)は-50℃以上である。本発明においてヒステリシス幅(ΔH)は70℃~150℃の範囲である。
【0042】
前記可逆熱変色性組成物を用いることで、重要書類などに形成した筆跡が夏場の車内などの高温環境下で放置しても消色することがなく、筆記具用水性インキ組成物としての適用範囲を広げることができる。さらに、摩擦部材による擦過により、消去しにくくなることから、書類の真贋を判別することに用いることができる。
【0043】
以下に可逆熱変色性組成物を構成する(イ)、(ロ)、(ハ)成分について説明する。
【0044】
本発明において(イ)成分は、顕色剤である成分(ロ)に電子を供与し、成分(イ)が有するラクトン環などの環状構造が開環することにより発色する電子供与性呈色性有機化合物からなるものである。このような電子供与性呈色性有機化合物としては、ジフェニルメタンフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、ピリジン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類などを挙げることができる。
【0045】
成分(ロ)の電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群(酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群)、電子空孔を有する化合物群等がある。
【0046】
活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール-アルデヒド縮合樹脂等を挙げることができる。又、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩であってもよい。
【0047】
前記(イ)成分および(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体の(ハ)成分としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類を挙げることができる。
【0048】
前記(ハ)成分として好ましくは、色濃度-温度曲線に関し、大きなヒステリシス特性(温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線が、温度を低温側から高温側へ変化させる場合と、高温側から低温側へ変化させる場合で異なる)を示して変色する、色彩記憶性を示す可逆熱変色性組成物を形成できる5℃以上50℃未満のΔT値(融点-曇点)を示すカルボン酸エステル化合物が用いられる。このような化合物としては、種々のものが提案されており、それらから任意に選択して用いることができるが、具体的には下記のようなものが挙げられる。
【0049】
まず、前記(ハ)成分として、特開2006-137886号公報などに記載されている下記一般式(1)で示される化合物が好適に用いられる。
【化1】
(式中、R
1は水素原子又はメチル基を示し、mは0~2の整数を示し、X
1、X
2のいずれか一方は-(CH2)nOCOR2又は-(CH2)nCOOR2、他方は水素原子を示し、nは0~2の整数を示し、R2は炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を示し、Y
1及びY
2は水素原子、炭素数1~4のアルキル基、メトキシ基、又は、ハロゲンを示し、r及びpは1~3の整数を示す。)
【0050】
前記式(1)で示される化合物のうち、R1が水素原子の場合、より広いヒステリシス幅を有する可逆熱変色性組成物が得られるため好適であり、更にR1が水素原子であり、且つ、mが0の場合がより好適である。
【0051】
なお、式(1)で示される化合物のうち、より好ましくは下記一般式(2)で示される化合物が用いられる。
【化2】
(式中のRは炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基を示すが、好ましくは炭素数10~24のアルキル基、更に好ましくは炭素数12~22のアルキル基である。)
【0052】
更に、前記(ハ)成分として、下記一般式(3)で示される化合物を用いることもできる。
【化3】
(式中、Rは炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基を示し、m及びnはそれぞれ1~3の整数を示し、X及びYはそれぞれ水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲンを示す。)
【0053】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(4)で示される化合物を用いることもできる。
【化4】
(式中、Xは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、メトキシ基、ハロゲン原子のいずれかを示し、mは1~3の整数を示し、nは1~20の整数を示す。)
【0054】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(5)で示される化合物を用いることもできる。
【化5】
(式中、Rは炭素数1~21のアルキル基又はアルケニル基を示し、nは1~3の整数を示す。)
【0055】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(6)で示される化合物を用いることもできる。
【化6】
(式中、Xは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子のいずれかを示し、mは1~3の整数を示し、nは1~20の整数を示す。)
【0056】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(7)で示される化合物を用いることもできる。
【化7】
(式中、Rは炭素数4~22のアルキル基、シクロアルキルアルキル基、シクロアルキル基、炭素数4~22のアルケニル基のいずれかを示し、Xは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子のいずれかを示し、nは0又は1を示す。)
【0057】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(8)で示される化合物を用いることもできる。
【化8】
(式中、Rは炭素数3~7のアルキル基を示し、Xは水素原子、メチル基、ハロゲン原子のいずれかを示し、Yは水素原子、メチル基のいずれかを示し、Zは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1又は2のアルコキシ基、ハロゲン原子のいずれかを示す。)
【0058】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(9)で示される化合物を用いることもできる。
【化9】
【0059】
式(9)中、Rは炭素数4~22のアルキル基、炭素数4~22のアルケニル基、シクロアルキルアルキル基、又はシクロアルキル基のいずれかを示し、Xは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子のいずれかを示し、Yは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子のいずれかを示し、nは0又は1を示す。
【0060】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(10)で示される化合物を用いることもできる。
【化10】
【0061】
式(10)中、Rは炭素数3~18のアルキル基、炭素数6~11のシクロアルキルアルキル基、炭素数5から7のシクロアルキル基、又は炭素数3~18のアルケニル基のいずれかを示し、Xは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、又はハロゲン原子のいずれかを示し、Yは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、又はハロゲン原子のいずれかを示す。
【0062】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(11)で示される化合物を用いることもできる。
【化11】
【0063】
式(11)中、Rは炭素数3~8のシクロアルキル基又は炭素数4~9のシクロアルキルアルキル基を示し、nは1~3の整数を示す。
【0064】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(12)で示される化合物を用いることもできる。
【化12】
【0065】
(式(12)中、Rは炭素数3~17のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、又は炭素数5~8のシクロアルキルアルキル基を示し、Xは水素原子、炭素数1~5のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、又はハロゲン原子を示し、nは1~3の整数を示す。)
【0066】
更に、電子受容性化合物として炭素数3~18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物を用いたり(特開平11-129623号公報、特開平11-5973号公報)、特定のヒドロキシ安息香酸エステルを用いたり(特開2001-105732号公報)、没食子酸エステル等を用いた(特公昭51-44706号公報、特開2003-253149号公報)加熱発色型(加熱により発色し、冷却により消色する)の可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料を適用することもできる。
【0067】
前記(イ)成分、(ロ)成分、(ハ)成分の構成成分の割合は、濃度、変色温度、変色形態や各成分の種類に左右されるが、一般的に所望の変色特性が得られる成分比は、(イ)成分1に対して、(ロ)成分0.1~50、好ましくは0.5~20、(ハ)成分1~800、好ましくは5~200の範囲である(前記割合はいずれも質量基準である)。また、各成分は各々二種以上を混合して用いてもよい。
【0068】
前記可逆熱変色性組成物はマイクロカプセルに内包して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料として使用される。これは、種々の使用条件において可逆熱変色性組成物は同一の組成に保たれ、同一の作用効果を奏することができるからである。
【0069】
前記可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル化する方法としては、界面重合法、界面重縮合法、in Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。更にマイクロカプセルの表面には、目的に応じて二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与することや、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
【0070】
ここで、可逆熱変色性組成物とマイクロカプセル壁膜の質量比は7:1~1:1、好ましくは6:1~1:1の範囲を満たす。
【0071】
可逆熱変色性組成物の壁膜に対する比率が前記範囲より大になると、壁膜の厚みが肉薄となり過ぎ、圧力や熱に対する耐性の低下を生じ易く、壁膜の可逆熱変色性組成物に対する比率が前記範囲より大になると発色時の色濃度及び鮮明性の低下を生じ易くなる。
【0072】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、粒子径が0.1~5μm、好ましくは0.1~3μm、より好ましくは0.5~3μmの範囲である。前記マイクロカプセル顔料は粒子径が5μmを越えると分散安定性を得難くなることがあり、また、粒子径が0.1μm未満では高濃度の発色性を示し難くなる。粒子径はベックマン・コールター株式会社製;Multisizer 4eを用いて測定し、分布図から存在する粒子径を判定する。
【0073】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料には、その機能に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、溶解助剤、防腐・防黴剤、非熱変色性染料や顔料等の各種添加剤を添加することができる。
【0074】
なお、マイクロカプセル顔料中またはインキ組成物中には、非熱変色性の染料或いは顔料を配合して、温度変化により有色(1)から有色(2)への互変性を呈する熱変色像を形成できるよう構成することができる。
【0075】
本発明のインキ組成物には、更に、8糖以上の澱粉糖化物及び/又はその還元物(以下、糖類という)を30質量%以上含む糖混合物を配合しても良い。これにより、耐乾燥性を更に向上させることができると共に、垂れ下がり防止性能を付与することができる。
【0076】
前記糖混合物としては、好ましくは8糖以上の糖類を50%以上含むものであり、より好ましくは8糖以上の糖類を70%以上含むものである。
耐乾燥性を付与するためには、ある程度の乾燥皮膜の形成が必要であるが、単糖や二糖は乾燥皮膜の形成が充分でないので耐乾燥性に対する効果が小さく、吸水性が高いためにボールペンに適用した場合、チップを下向き(倒立)で放置することによる垂れ下がりが発生しやすい。また、3糖~7糖程度では、単糖や二糖に比べて吸水性は低くなるが、十分な耐乾燥性を得るには至らない。
更に、十分な耐乾燥性を得るために多量の添加を試みると、吸水性が高くなり垂れ下がりの原因になったり、添加した糖が溶解しきれずにインキ組成物中の固形分が増加し、耐乾燥性が低下することがある。
前記糖類は分子量が大きくなるに従い吸湿性が低くなり、乾燥皮膜を形成し易くなる特徴を有することから、8糖以上の糖類を用いることで高湿度下での垂れ下がりを防止できると共に、耐乾燥性も向上する。更に、耐熱性、耐酸性、耐微生物性等の性能も向上し、インキ中で安定した状態を維持できる。
【0077】
前記8糖以上の糖類としては、澱粉の酵素分解等によって得られる澱粉糖化物や、該澱粉糖化物の末端基を還元した還元澱粉糖化物を用いることができる。また、澱粉を分解していくと、様々な重合度の糖類が生成するため、8糖以上の糖類のみを完全に単離することは技術的に困難であり、製造コストもかかってしまう。そこで、7糖以下の糖類が存在する糖混合物において、前記8糖以上の糖類を30質量%以上含むものを使用することができ、それにより、インキ中で前記性能を十分に得ることができ、耐乾燥性及び垂れ下がり防止性能を付与できる。
【0078】
前記糖混合物としては、澱粉を分解(例えば、酵素分解)して得られる生成物等が挙げられる。前記糖混合物は、インキ組成物全量中、0.5~10.0質量%とすることができる。0.5質量%以上であれば、耐乾燥性の向上が効果的に得られ、10.0質量%以下であれば、配合によりインキ組成物の粘度が上昇して泣き出しやボテの原因になったり、追従性を妨げるといった問題を容易に回避することができ、更には良好な耐乾燥性に悪影響を与えることもない。前記糖混合物は、インキ組成物全量中、好ましくは1.0~8.0質量%である。
【0079】
本発明によるインキ組成物は、必要に応じてpH調整剤、防腐剤或いは防黴剤等の添加剤を添加することができる。
【0080】
前記pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、トリエタノールアミンやジエタノールアミン等の水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物、リン酸、乳酸、アミノ酸等の酸性化合物、などが挙げられる。
【0081】
防腐剤あるいは防黴剤としては、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3オン、N-(n-ブチル)-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバマート、ベンゾトリアゾール及びフェノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジンなどが挙げられる。
【0082】
また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。また、水溶性樹脂として、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどを用いることができる。さらに、樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂など含むエマルジョンを添加することができる。
【0083】
さらには、溶剤の浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン、アニオン、カチオン系界面活性剤、ジメチルポリシロキサンなどの消泡剤を添加することもできる。
【0084】
本発明による可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物は、20℃でEL型粘度計を用いて1rpmで測定したインキ粘度が100~400mPa・sであり、より好ましくは150~350mPa・sである。この範囲とすることで、従来の所謂ゲルインキボールペンでは難しかった濃く滑らかな筆跡を得ることが可能となる。本発明のインキ組成物は、比較的低粘度の剪断減粘性を有するインキに用いた際に、特に効果を発揮する。
【0085】
本発明によるインキ組成物は、剪断減粘性を有することから、ボールペン用水性のインキとして特に有用である。
【0086】
(ボールペンレフィル)
本発明のインキ組成物を、インキ収容管に収容し、ボールペンチップと、直接又は接続部材を介して嵌合することにより、ボールペンレフィルを形成することができる。
【0087】
前記ボールペンチップは、特に限定されず、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させて形成したボール抱持部にボールを抱持したチップ、金属材料のドリル等による切削加工して形成したボール抱持部にボールを抱持したチップ、金属又はプラスチック成形体内部に樹脂製のボール受け座を設け、ボールを抱持したチップ等を挙げることができる。
また、前記チップはバネ体によりボールを前方に付勢させる構成であってもよい。
前記ボールは、特に限定されず、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂、ゴム等の0.1~3.0mm径程度のものが適用でき、好ましくは0.3~1.5mm、より好ましくは0.3~1.0mmのものである。
【0088】
本発明のインキ組成物を収容するインキ収容管は、特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体を用いることができる。
【0089】
前記ボールペンチップと前記インキ収容管は、直接又は接続部材を介して嵌合され、本発明のインキ組成物及び必要によりインキ逆流防止体組成物を充填してボールペンレフィルを形成することができる。
【0090】
前記インキ逆流防止体組成物は不揮発性液体及び/又は難揮発性液体からなり、具体的には、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α-オレフィン、α-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等を挙げることができる。これらは、一種を単独で、又は二種以上を併用することもできる。
前記不揮発性液体及び/又は難揮発性液体には、ゲル化剤を添加して、好適な粘度まで増粘させることが好ましい。ゲル化剤は、特に限定されず、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイト等の粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、セルロース系化合物等を挙げることができる。更に、前記液状のインキ逆流防止体組成物と、固体の逆流防止体を併用することもできる。
【0091】
前記ボールペンチップ先端には、ペン先乾燥防止用の樹脂被膜を固着させることもでき、チップ先端部のボールと、ボール抱持部と、ボールとボール抱持部の間隙を覆うように固着することにより、チップ先端部の乾燥防止及びインキ組成物中の媒体の揮発を防止できる。
前記樹脂被膜を形成する樹脂としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂を用いることができる。
【0092】
(ボールペン)
前記ボールペンレフィルを、軸筒内に収容してキャップ式のボールペンを得ることができる。また、前記ボールペンレフィルを、軸筒内に収容して出没式のボールペンを得ることもできる。この場合、ボールペンレフィルは、チップが外気に晒された状態で軸筒内に収納されており、出没機構の作動によって軸筒開口部から筆記先端部が突出する。
前記出没機構については、ノック式、回転式、スライド式等を挙げることができる。
前記ノック式については、軸筒後端部や軸筒側面にノック部を有し、該ノック部の押圧により、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成、あるいは、軸筒に設けたクリップ部を押圧することにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成等を挙げることができる。
前記回転式については、軸筒後部に回転部を有し、該回転部を回すことによりボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成等を挙げることができる。
前記スライド式については、軸筒側面にスライド部を有し、該スライドを操作することによりボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成、あるいは、軸筒に設けたクリップ部をスライドさせることにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成等を挙げることができる。
【0093】
前記出没式ボールペンは、軸筒内に複数のボールペンレフィルを収容してなり、出没機構の作動によっていずれかのボールペンレフィルの筆記先端部が軸筒前端開口部から出没する複合タイプの出没式ボールペンであってもよい。
【0094】
本発明によるインキ組成物は、前記の通りボールペンに具備することが出来、その筆記具を用いて筆跡を形成することが可能であり、その筆跡は、指による擦過や加熱具又は冷熱具の適用により変色させることができる。
【0095】
加熱具としては、抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等を充填した加熱変色具、ヘアドライヤーの適用が挙げられるが、好ましくは、簡便な方法により変色可能な手段として摩擦部材が用いられる。特に、擦過時に実質的に磨耗しない弾性体が好ましい。
【0096】
前記摩擦部材としては、弾性感に富み、擦過時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー、プラスチック発泡体等の弾性体が好適である。前記摩擦部材の材質としては、シリコーン樹脂やSEBS樹脂(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体)、ポリエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー等が用いられる。前記摩擦部材は筆記具と別体の任意形状の部材である摩擦体とを組み合わせて筆記具セットを得ることもできるが、筆記具に摩擦部材を設けることにより、携帯性に優れたものとなる。
【0097】
前記冷熱具としては、ペルチエ素子を利用した冷熱変色具、冷水、氷片などの冷媒を充填した冷熱変色具や保冷剤、冷蔵庫や冷凍庫の適用などが挙げられる。
【0098】
前記熱変色性の筆跡は、加熱変色具又は冷熱変色具の適用により変色させることができる。前記加熱変色具としては、PTC素子等の抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等の媒体を充填した加熱変色具、スチームやレーザー光を用いた加熱変色具、ヘアドライヤーの適用が挙げられるが、好ましくは、通電加熱変色具が用いられる。前記通電加熱変色具としては、サーマルヘッド、ヒートローラー、ホットスタンプを用いた通電加熱変色具が挙げられる。
【実施例】
【0099】
本発明を、諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0100】
(マイクロカプセル顔料Aの製造)
(イ)成分として2-(2-クロロアニリノ)-6-ジ-n-ブチルアミノフルオラン4.5質量部、(ロ)成分として2,2-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.0質量部、4,4’-(1-メチルペンチリデン)ビスフェノール3.0質量部、(ハ)成分としてカプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0質量部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を加温溶解し、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー25.0質量部、助溶剤50.0質量部を混合した溶液を、8%ポリビニルアルコール水溶液中で乳化分散し、加温しながら撹拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5質量部を加え、更に撹拌を続けて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料懸濁液を得た。前記懸濁液を遠心分離して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Aを単離した。
【0101】
なお、前記マイクロカプセル顔料Aの粒子径はMultisizer 4e(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定したところ、0.5~5.0μmの範囲であり、完全消色温度は60℃、完全発色温度は-10℃であり、温度変化により黒色から無色、無色から黒色へ可逆的に色変化する。
【0102】
(マイクロカプセル顔料Bの製造)
(イ)成分、(ロ)成分、(ハ)成分を下記の通りとした以外は、マイクロカプセル顔料Aと同じ方法でマイクロカプセル顔料Bを得た。
(イ)成分として3-(4-ジエチルアミノ-2-ヘキシルオキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド2.0質量部
(ロ)成分として2,2-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン8.0質量部
(ハ)成分としてカプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0質量部
なお、前記マイクロカプセル顔料Bの粒子径はMultisizer 4e(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定したところ、0.5~5.0μmの範囲であり、完全消色温度は60℃、完全発色温度は-10℃であり、温度変化により青色から無色、無色から青色へ可逆的に色変化する。
【0103】
(実施例1)
(可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物の製造)
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料A 17.0質量部
塩化ナトリウム(1価の陽イオンの無機塩) 3.0質量部
グリセリン 22.5質量部
合成層状シリケートA(LAPONITE S-482) 0.1質量部
剪断減粘性付与剤A(多糖類、キサンタンガム) 0.1質量部
糖混合物(三和澱粉工業(株)製、商品名:サンデック#100)2.5質量部
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量部
防腐剤(プロキセルXL-2) 0.2質量部
水 52.8質量部
上記組成物をPRIMIX社製ホモディスパーにより撹拌混合を行い、可逆熱変色性水性インキ組成物を得た。
なお前記インキ組成物の粘度は294mPa・sであった。
【0104】
(実施例2~11、比較例1~7)
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1、表2に示したとおりに変更して、実施例2~11、比較例1~7のインキ組成物を得た。これらの例で使用した材料の詳細は以下の通りである。
【0105】
【0106】
【表2】
(1)黒色マイクロカプセル顔料
(2)青色マイクロカプセル顔料
(3)B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が2mPa・sの合成層状シリケート(ヘクトライト)、ビックケミー・ジャパン(株)製、商品名:LAPONITE S-482
(4)B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が2mPa・sの合成層状シリケート(ヘクトライト)、ビックケミー・ジャパン(株)製、商品名:LAPONITE RDS
(5)B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が20mPa・s以上の合成層状シリケート(ヘクトライト、ゲル状であるため、正確な測定ができない)、クニミネ工業(株)製、商品名:スメクトン-SWF
(6)多糖類、キサンタンガム
(7)多糖類、サクシノグリカン
(8)架橋型アクリル酸共重合体、富士フイルム和光純薬(株)製、商品名:ハイビスワコー105
(9)三和澱粉工業(株)製、商品名:サンデック#100
(10)第一工業製薬(株)製、商品名:プライサーフAL(11)Lonza社製、商品名:プロキセルXL-2
【0107】
実施例1~11、比較例1~7で得られたインキ組成物について、以下の通り評価した。結果を表3に示す。
【0108】
【0109】
(マイクロカプセル顔料分散安定性試験)
各インキをポリプロピレン容器に充填して密封した後、50℃で30日間放置し、各インキの状態を目視により観察した。
○:初期同等に均一に分散しており、明確な変化は見られない。
×:マイクロカプセル顔料が沈降、またはインキの相分離やインキ成分の析出が見られる。
【0110】
(筆記試験)
ボールペンとして、(株)パイロットコーポレーション製フリクションボール(登録商標)07を用い、筆記可能であることを確認したボールペンレフィルを、ペン先を露出した状態で室温下(25℃)及び50℃恒温槽内に横置きで60日放置した後、筆記用紙に手書きで丸を1行に12個連続筆記し、何行目から正常に筆記できるかを確認した。
◎:書き始めから正常に筆記できる。
○:1行目から正常に筆記できる。
△:3行目以内に正常な筆記ができる。
×:正常な筆記に4行以上を要する、または筆記できない。
【0111】
表3の結果から明らかなように、実施例1~11のインキ組成物は、マイクロカプセル顔料の分散安定性に優れ、ボールペンに用いた際にも、筆記性能に優れたものであった。一方、比較例1のインキ組成物は、マイクロカプセル顔料の沈降等は見られなかったが、ボールペンではインキが出すぎることにより、紙面に顕著なニジミが発生するために正常な筆記が困難であった。比較例2のインキ組成物は、外観上の異常は明確でないが、50℃に放置したボールペンは筆記できず、25℃に放置したボールペンにおいては、かすれや筆跡が薄くなるなど、マイクロカプセル顔料の経時的な沈降が起こっていると思われ、筆記性能が劣っていた。比較例3のインキ組成物は、マイクロカプセル顔料の沈降が見られ、筆記先端に塩が析出しており、筆記することができなかった比較例4のインキ組成物は、マイクロカプセル顔料の沈降が見られ、筆跡が薄くなっていた。比較例5、6のインキ組成物は、剪断減粘性付与剤の添加量が多いことから、粘度が高くなり、その効果でマイクロカプセル顔料の沈降は見られないが、筆記先端の耐乾燥性が劣り、50℃に放置したボールペンでは、筆記することができなかった。室温に放置したボールペンにおいても、筆記性がかなり劣っていた。比較例7のインキ組成物は、無機塩の影響により、スメクタイトのゲル化能が強くなりすぎて、保持されている水分が分離して液状にしみ出して、離漿が起こっており、上澄みが発生し、インキ組成物としての性能が劣っていた。前記の通り、本発明のインキ組成物およびそれを用いたボールペンは、優れたもので有った。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明による可逆熱変色性水性インキ組成物は、ボールペン用水性のインキとして用いることができる。
【符号の説明】
【0113】
t1 加熱消色型の可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の完全発色温度
t2 加熱消色型の可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の発色開始温度
t3 加熱消色型の可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の消色開始温度
t4 加熱消色型の可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の完全消色温度
ΔH ヒステリシス幅