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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】刻印機
(51)【国際特許分類】
   B41K 3/36 20060101AFI20230320BHJP
   B21C 51/00 20060101ALN20230320BHJP
【FI】
B41K3/36 D
B21C51/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019133560
(22)【出願日】2019-07-19
(65)【公開番号】P2021016977
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】502134292
【氏名又は名称】ベクトル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】宮木 將介
(72)【発明者】
【氏名】瀧井 理人
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】実開昭51-037013(JP,U)
【文献】特表2009-538750(JP,A)
【文献】特開2010-105124(JP,A)
【文献】特開平03-218884(JP,A)
【文献】特公昭49-016735(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0056494(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102006052421(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41K 3/36
B21C 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンケースと、該ペンケースの内部に収容された円筒状の電磁コイルと、この電磁コイルによって形成された磁界により電磁コイル内側の移動空間に沿って駆動される鉄心と、前記ペンケースの先端前方側に設けられたスタイラスホルダーと、該スタイラスホルダーによって支持された軸受部材と、前記鉄心の先端側に取り付けられて前記軸受部材を挿通したスタイラスを有する刻印機であって、
前記ペンケースにおいて前記鉄心の後端側を収容する内奥部に、前記鉄心の上死点において前記鉄心の衝突を受けるダンパー部材が設置され、該ダンパー部材と前記ペンケースの最奥部との間にクッション部材が介挿されるとともに、
前記ダンパー部材が、前記内奥部に挿入され、前記鉄心を受ける金属製のホルダー部材と、該ホルダー部材の周面と前記ペンケースの内奥部内周面との隙間に介挿される弾性体を備えたことを特徴とする刻印機。
【請求項2】
前記鉄心が円柱状であり、前記ペンケースの内奥部が丸穴状であり、前記ホルダー部材が円筒状であり、前記ホルダー部材の外周面と前記ペンケースの内奥部内周面との間に弾性体からなるOリングが介挿されたことを特徴とする請求項1に記載の刻印機。
【請求項3】
前記ホルダー部材の先端側外周と後端側外周にフランジ部が形成され、前記先端側外周のフランジ部と前記後端側外周のフランジ部の間の前記ホルダー部材外周面に前記Oリングを収容可能な周溝型の収容部が形成されたことを特徴とする請求項2に記載の刻印機。
【請求項4】
前記ペンケースの先端部にスタイラスホルダーが装着され、前記ペンケースの先端側外周部に設けられたフックピンに係止するアングルフック部を備えた取付金具により、前記スタイラスホルダーが支持されたことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の刻印機。
【請求項5】
前記スタイラスホルダーが弾性部材を介し前記取付金具によって前記ペンケースの先端部に押圧固定されたことを特徴とする請求項4に記載の刻印機。
【請求項6】
前記ペンケースの内部に電磁コイルが取り付けられ、該電磁コイルの内側に軸受ホルダーを介し鉄芯軸受が着脱自在に取り付けられたことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の刻印機。
【請求項7】
前記ホルダー部材が筒型であり、その内周部に雌ねじ部が形成されたことを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の刻印機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刻印機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や建設機械などの自動化された工場において、ロット番号等の英数字や合いマークなどの刻印を行うためにマーキング装置(刻印機)が使用されている。例えば下記の特許文献1には、往復運動するピストンと、このピストンの先端部に装着されてピストンの往復運動に追従して移動するスタイラスを備え、このスタイラスの先端部でワーク表面を打刻して刻印する刻印機が開示されている。
【0003】
特許文献1には、ペンケースと、ペンケース内で往復運動するピストンと、ピストンを基端側に付勢する弾性部材と、このピストンの往復運動に追従して先端部でワークの表面を打刻するスタイラスを備えたマーキング装置が開示されている。
このマーキング装置を用いて金属やプラスチックからなるワークの表面に印字を行うには、ピストンおよびスタイラスを振動させてワーク表面の規定位置に点打刻を行い、このスタイラスを振動ペンごと移動させながらワークの必要な位置毎に打刻を繰り返す。
この操作により、ワーク表面の必要な位置に文字、数字、記号などをマーキングすることができる。また、スタイラスを一ヵ所で振動させるとその部分にドットが形成されるので、そのドットを所定のパターンになるように複数形成することにより、いわゆる二次元コードを形成することができる。
【0004】
図8は、従来の一般的な電磁式刻印機Dの一例を示す。刻印機Dにおいて、シリンダ状のペンケース100の内周部に駆動用の筒型の電磁コイル101が設けられ、この電磁コイル101によって円柱状の鉄心102が往復駆動される。電磁コイル101の内側に筒状の軸受103が設置され、軸受103の内側に摺動自在に鉄心102が支持されている。
ペンケース先端側の筒状のスタイラスホルダー104に軸受け部材105が装着され、鉄心102の先端側にピン状のスタイラス106が取り付けられ、このスタイラス106の先端部が軸受け部材105の先方に突出されている。スタイラス106の先端部がワーク107の刻印面に対向され、スタイラス106の振動によってワーク107の刻印面に打刻できるようになっている。
【0005】
電磁コイル101は駆動回路108に接続され、駆動回路108からの制御信号によって電磁コイル101への通電が制御される。
ペンケース100の先端側のスタイラスホルダー104にはスタイラス106に戻り力を作用させるための圧縮ばね110が収容され、鉄心102に対し圧縮ばね110によってスタイラス106を従属動作させることでスタイラス106を往復駆動することができる。図8において符号112は空気抜き孔を示す。
【0006】
図8に示す刻印機Dを数値制御可能なXY軸移動機構上に設置し、スタイラス106による打刻位置を移動することにより、図11に示すようにワーク107の刻印面に文字や図柄等を刻印することができる。
【0007】
ところで、刻印機Dを長時間使用するとスタイラス106が損耗するので刻印機Dにおいてはスタイラス106を交換自在な構成とする必要がある。
図12は、図8に示す刻印機Dを分解した状態の一例を示すが、ペンケース100の上部にヘッド部115が着脱自在に取り付けられている。このヘッド部115をペンケース100の上部から取り外すことで、鉄心102とクッション部材116を取り外すことができる。
また、ペンケース100の先端側(下端側)にスタイラスホルダー104が螺合されており、スタイラスホルダー104をペンケース100の先端部から分離するとスタイラス106と圧縮ばね110を取り出すことができるので、スタイラス106を交換することができる。
【0008】
従来の刻印機Dは、ペンケース100の内部に電磁コイル101と軸受103が固定され、これらが一体化され、ペンケース100の先端部内周面にねじ部117が形成されている。
また、筒型のスタイラスホルダー104の基端側にフランジ部104aが形成され、このフランジ部104aの外周にねじ部104bが形成されている。このため、ペンケース100側のねじ部117からねじ部104bを外すことでスタイラスホルダー104をペンケース100から取り外すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-99798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図8に示す従来の刻印機Dにあっては、鉄心102の上死点位置ストッパーとしてフッ素ゴムからなるリング状のクッション部材116がヘッド部115の内奥部に設置されている。
刻印機Dの内部は鉄心102の往復振動により100~110℃程度の温度に上昇する可能性があり、耐熱性に優れたフッ素ゴムからなるクッション部材116を設けることでクッション部材116の熱劣化を防止している。
【0011】
しかし、フッ素ゴムは、常温において優れた制振性を有するものの、100℃程度の高温では制振性が低下する特徴を有している。このため、鉄心102が上死点に移動し、クッション部材116に鉄心102が衝突した場合、クッション部材116の反発力で鉄心102が元の位置に落ち着くまでに時間がかかり、高温での打刻動作に支障を来すおそれがあった。
具体的には、鉄心102が元の位置に落ち着く前に打刻動作した場合、鉄心102の上死点位置がばらつくことになり、刻印時の打刻力にばらつきを生じる問題がある。打刻力のばらつきを抑えるため、鉄心102が元の位置に落ち着く時間を考慮するように次の打刻点までの移動速度を制御すると、打刻時間が長くなるという問題が生じる。
【0012】
また、従来の刻印機Dは、上述のようにスタイラスホルダー104をペンケース100から取り外すことでスタイラス106の交換ができる構造となっている。刻印機Dにおいて、スタイラス以外に軸受103も損耗し易い部品であるので、軸受103も単独で交換できる構造となっていることが望ましい。
しかし、従来の刻印機Dにあっては、鉄心の軸受103がペンケース100の内部に圧入または接着により固定されている。このため、軸受103を交換するために、ペンケース100と電磁コイル101と軸受103を纏めて交換する必要があり、軸受103の交換のためのコストが高く、交換に時間もかかる問題があった。
【0013】
本発明は前記事情に鑑みなされたものであり、鉄心の上死点位置を規定する部分に特別な構造を採用し、刻印機の内部が100℃程度に温度上昇する環境下であっても鉄心の上死点位置のばらつきを抑制できるようにした刻印機の提供を目的とする。
また、本発明は分解が容易であり、スタイラスを含めて鉄心軸受の交換を容易にできるようにした刻印機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
(1)本発明は、ペンケースと、該ペンケースの内部に収容された円筒状の電磁コイルと、この電磁コイルによって形成された磁界により電磁コイル内側の移動空間に沿って駆動される鉄心と、前記ペンケースの先端前方側に設けられたスタイラスホルダーと、該スタイラスホルダーによって支持された軸受部材と、前記鉄心の先端側に取り付けられて前記軸受部材を挿通したスタイラスを有する刻印機であって、前記ペンケースにおいて前記鉄心の後端側を収容する内奥部に、前記鉄心の上死点において前記鉄心の衝突を受けるダンパー部材が設置され、該ダンパー部材と前記ペンケースの最奥部との間にクッション部材が介挿されるとともに、前記ダンパー部材が、前記内奥部に挿入され、前記鉄心を受ける金属製のホルダー部材と、該ホルダー部材の周面と前記ペンケースの内奥部内周面との隙間に介挿される弾性体を備えたことを特徴とする。
【0015】
ペンケースの内奥部に鉄心の上死点位置で鉄心を受けるダンパー部材を設け、このダンパー部材を金属製のホルダー部材とその外周に装着された弾性体とから構成し、ペンケースの最奥部とダンパー部材との間にクッション部材を配置した。
この構成により、鉄心が上死点位置に移動した場合にダンパー部材に衝突し、クッション部材を変形させるが、ダンパー部材がペンケース内壁との摩擦によってクッション部材へ伝達される運動エネルギーの一部を減衰する。また、クッション部材が変形された状態から元の状態に戻る際にも同様の作用が生じるため、クッション部材の反発力を低減できる。
【0016】
結果として、鉄心の位置が元に戻る場合の復元時間を大幅に短縮できる。また、ペンケース内部の温度が常温より高くなった場合であっても鉄心位置が元に戻る復元時間を大幅に短縮できる。
このため、鉄心位置の復元時間を考慮し、次の打刻点への移動速度を低く抑える必要がなくなり、高速動作を維持したまま、ペンケース内を鉄心が移動する時の上死点位置のばらつきを抑制でき、打刻力のばらつきの無い、正確な打刻ができる打刻機を提供できる。
また、鉄心からの衝撃を、ダンパー部材を介しクッション部材に伝達するのでクッション部材の耐久性向上効果を得ることができる。
【0017】
(2)本発明において、前記鉄心が円柱状であり、前記ペンケースの内奥部が丸穴状であり、前記ホルダー部材が円筒状であり、前記ホルダー部材の外周面と前記ペンケースの内奥部内周面との間に弾性体からなるOリングが介挿された構成が好ましい。
【0018】
上述の構造を採用し、Oリングを介挿したホルダー部材を設けることで、クッション部材の変形が元に戻る反発力を大幅に低減できる効果を得ることができ、鉄心が移動する場合の上死点位置のばらつきを抑制でき、打刻力のばらつきの無い、正確な打刻ができる打刻機を提供できる。
【0019】
(3)本発明において、前記ホルダー部材の先端側外周と後端側外周にフランジ部が形成され、前記先端側外周のフランジ部と前記後端側外周のフランジ部との間の前記ホルダー部材外周面に前記Oリングを収容可能な周溝型の収容部を形成した構成を採用できる。
【0020】
ホルダー部材の先端側と後端側のフランジ間の外周面にOリングを介挿すると、鉄心の衝撃を受けたホルダー部材が移動する場合に抵抗が発生する。このため、鉄心からの衝撃を一部減衰させてクッション部材に伝達できる。またクッション部材が復元するときにもこの抵抗により反発力を抑えることができる。
このため、鉄心からの衝撃によりクッション部材に生成する変形量を削減することができ、クッション部材の変形が元に戻る反発力を大幅に低減できる効果を得ることができ、鉄心が移動する場合の上死点位置のばらつきを抑制でき、打刻力のばらつきの無い、正確な打刻ができる打刻機を提供できる。
【0021】
(4)本発明において、前記ペンケースの先端部にスタイラスホルダーが装着され、前記ペンケースの先端側外周部に設けられたフックピンに係止するアングルフック部を備えた取付金具により、前記スタイラスホルダーを支持した構成が好ましい。
【0022】
この構造であれば、アングルフックをフックピンから取り外す操作によりスタイラスホルダーをペンケースの先端部から簡単に取り外すことができる。スタイラスホルダーをペンケースから取り外すことにより、スタイラスを交換できる。
【0023】
(5)本発明において、前記スタイラスホルダーが弾性部材を介し前記取付金具によって前記ペンケースの先端部に押圧固定された構成を採用できる。
【0024】
(6)本発明において、前記ペンケースの内部に電磁コイルが取り付けられ、該電磁コイルの内側に軸受ホルダーを介し鉄心軸受が着脱自在に取り付けられた構成を採用できる。
【0025】
前述の如くスタイラスホルダーをペンケースの先端部から取り外すことにより、鉄心をペンケースの内部から取り出し可能となり、鉄心を取り出すことにより、ペンケースの内部から鉄心軸受を取り出し可能となる。
このため、鉄心軸受を交換する必要が生じた場合、スタイラスホルダーと鉄心の取り外しを行うことでペンケースから鉄心軸受を容易に取り出すことができ、従来構造ではできなかった鉄心軸受けの交換を可能とする。
【0026】
(7)本発明において、前記ホルダー部材が筒型であり、その内周部に雌ねじ部が形成された構成を採用できる。
【0027】
ホルダー部材をペンケースから取り外す場合、ホルダー部材の雌ねじ部に螺合可能な雄ねじ部を有するロッド部材をペンケースの内部に挿入し、雌ねじ部に雄ねじ部を螺合してペンケースからロッド部材を介してホルダー部材を簡単に引き出すことができる。
ホルダー部材の取り出しが簡単になることで、クッション部材、ホルダー部材、弾性体のいずれかの交換やメンテナンスのために作業を容易にできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、クッション部材へ伝達される鉄心からの衝撃エネルギーの一部をダンパー部材が減衰する。また、クッション部材が変形された状態から元の状態に戻る際にも同様の作用が生じるため、クッション部材からの反発力も低減できる。
結果として、鉄心の位置が元に戻る場合の復元時間を大幅に短縮でき、ペンケース内部の温度が高くなった場合であっても鉄心の位置が元に戻る場合の復元時間を大幅に短縮できる。
このため、ペンケース内を鉄心が移動する場合の上死点位置のばらつきを抑制でき、打刻力のばらつきの無い、正確な打刻ができる打刻機を提供できる。また、鉄心からの衝撃についてダンパー部材を介しクッション部材に伝達するのでクッション部材の耐久性も向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第1実施形態に係る刻印機を示す断面図である。
図2】同刻印機の側面図である。
図3】同刻印機においてペンケースの内奥部に設置されるダンパー部材の断面図である。
図4】同刻印機の分解図である。
図5図5(A)は従来の刻印機のペンケースに収容されているクッション部材と鉄心とスタイラスと圧縮ばねの一例を示す側面図、図5(B)は図5(A)に示す構造を適用した刻印機において20℃の場合にクッション部材が示すバウンド特性を示すグラフ、図5(C)は図5(A)に示す構造を適用した刻印機において100℃の場合にクッション部材が示すバウンド特性を示すグラフである。
図6図6(A)は実施例1の刻印機のペンケースに収容されるクッション部材と鉄心とスタイラスと圧縮ばねの一例を示す側面図、図6(B)は図6(A)に示す構造を適用した刻印機において20℃の場合にクッション部材が示すバウンド特性を示すグラフ、図6(C)は図6(A)に示す構造を適用した刻印機において100℃の場合にクッション部材が示すバウンド特性を示すグラフである。
図7図7(A)は実施例2の刻印機のペンケースに収容されるクッション部材と鉄心とスタイラスと圧縮ばねの一例を示す側面図、図7(B)は図7(A)に示す構造を適用した刻印機において20℃の場合にクッション部材が示すバウンド特性を示すグラフ、図7(C)は図7(A)に示す構造を適用した刻印機において100℃の場合にクッション部材が示すバウンド特性を示すグラフである。
図8】従来の刻印機の一例を示す図であり、鉄心を上死点に位置させた状態を示す断面図である。
図9】同従来の刻印機の一例を示す図であり、鉄心を打刻位置まで下降させた状態を示す断面図である。
図10】同従来の刻印機の一例を示す図であり、鉄心を上死点位置まで上昇させた状態を示す断面図である。
図11】同従来の刻印機の一例によりワークの刻印面に文字を打刻した状態を示す斜視図。
図12】同従来の刻印機の一例における分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明に係る第1実施形態の刻印機について、図面を適宜参照しながら説明する。
図1図2は第1実施形態の刻印機を示すもので、この実施形態の刻印機Aは、図示略の3軸ステージ機構などの駆動機構により全体を水平方向のX軸方向とY軸方向に移動自在に、かつ、鉛直方向のZ軸方向に沿って移動自在に支持されている。
3軸ステージ機構はX軸とY軸とZ軸のそれぞれの軸に沿って移動自在にステージが設けられ、それらの各軸のステージを支持する支柱や支持体、アクチュエーターなどを備えて構成される公知の駆動機構である。
各軸をスクリュウ軸としてスクリュウ軸に沿ってステージが移動される機構、各軸に取り付けられたリニアアクチュエーターによってステージが移動される機構など公知の種々の機構があるが、本実施形態では刻印機AをX軸方向とY軸方向とZ軸方向に3軸移動できる構造であれば、公知の範囲でいずれの構造の3軸ステージ機構を用いても良い。
XYZ軸に沿う方向に刻印機Aを移動するステージ機構は、XYZ軸に沿う方向それぞれ設けられた案内レールに加工ヘッドを支持するステージ(架台)を備え、各ステージを案内レールに沿って移動自在に支持した一般的な3軸ステージ機構を広く採用することができる。
【0031】
図1に示す第1実施形態の構成において、刻印機Aは下向きに円筒状のペンケース2を有し、その下端部にピン型のスタイラス3が着脱自在に取り付けられている。
ペンケース2は、筒状の本体部2Aとその上端部に一体化されたヘッド部材2Bからなり、本体部2Aの上部がヘッド部材2Bで閉じられている。本体部2Aの下端部には筒状のスタイラスホルダー6が装着され、スタイラスホルダー6の先端側内部に厚肉筒型の軸受部材7が支持され、この軸受部材7の貫通孔7aを通過して下方に突出するようにスタイラス3が設けられている。
【0032】
本体部2Aの内周部に筒型の電磁コイル8が取り付けられ、この電磁コイル8の内周面に軸受ホルダー4を介し円筒状の鉄心軸受9が装着され、鉄心軸受9の内側に円柱状の鉄心13が配置されている。軸受ホルダー4は、金属製の円筒体からなり、その内側に鉄心軸受9が圧入されている。軸受ホルダー4と鉄心軸受9は一体化されているので、鉄心軸受9を後述する如く交換する場合は、軸受ホルダー4とともに交換することとなる。
【0033】
ヘッド部材2Bの内径は本体部2Aの内径と同等に形成され、ヘッド部材2Bの上端部には天井壁10が形成されている。本体部2Aの内部空間はヘッド部材2Bの内部空間と連続され、これら連続された空間の上部は天井壁10により閉じられている。
鉄心13はその上部をヘッド部材2Bの内部空間に到達させ、その下部を本体部2Aの内上部に位置させるようにペンケース2の内部に収容されている。このため、ヘッド部材2Bの内部空間はペンケース2の内奥部に位置している。なお、鉄心13にはその上面と下面に達する空気抜き孔13aが形成されている。
【0034】
ヘッド部材2Bの内上部(内奥部)にはダンパー部材12とリング状のクッション部材15が収容されている。
ダンパー部材12は、図3に拡大して示すように金属製の厚肉円筒状のホルダー部材14と、ホルダー部材14の上端部に形成されたフランジ部14bと、ホルダー部材14の下端部に形成されたフランジ部14cから構成されている。ホルダー部材14の外周部には、上下のフランジ部14b、14cに挟まれるように周溝型の収容部14dが形成され、この収容部14dにゴム等の弾性材料からなるOリング(弾性体)17が上下に3列巻回されている。
【0035】
ホルダー部材14の中心部に形成されている貫通孔14eの内底部側に雌ねじ部14fが形成されている。ホルダー部材14においてフランジ部14b、14cの外径はヘッド部材2Bの内径と同一か若干小さい径とされ、ホルダー部材14をヘッド部材2Bの内奥部に挿入できるように構成されている。また、ホルダー部材14の収容部14dに巻回されているOリング17は、それらの外周部を収容部14dから若干外側に出すように巻回されている。すなわち、収容部14dの深さよりOリング17の直径の方が若干大きく形成されているので、各Oリング17の最も外側の部分はフランジ部14b、14c外周端よりも若干外側に突出されている。
【0036】
以上の構成により、ヘッド部材2Bの内奥部にホルダー部材14を挿入した状態において3つのOリング17はヘッド部材2Bの内周面に押圧されるので、ホルダー部材14は、ヘッド部材2Bの内奥部において図1に示す位置に係止される。
クッション部材15はシリコンゴム、例えば、制振型のシリコンゴム、あるいは、フッ素樹脂などの弾性を有する耐熱樹脂からなり、ヘッド部材2Bの内奥部の最も奥側に収容され、ホルダー部材14によりヘッド部材2Bの内奥部の最も深い位置に係止されている。図1の例においてクッション部材15は角形断面のリング状に形成されている。
【0037】
鉄心13の下端部には取付部20を介しスタイラス3が取り付けられ、スタイラス3の周囲にコイル型の圧縮ばね21が巻装されている。図1に示す状態において圧縮ばね21の下端は軸受け部材7に支持され、圧縮ばね21の上端は取付部20に接触されているので、圧縮ばね21を介し鉄心13が図1に示す位置に支持されている。
圧縮ばね21は、圧縮コイルばねからなり、鉄心13が下降してスタイラス3を下方に所定長さ押し出した場合に軸受部材7に支持されて縮小し、鉄心13に反力を与える。電磁コイル8からの電磁力により鉄心13が下降し、次いで電磁コイル8からの電磁力が解消された場合、ばね部材21の反発力により鉄心13は上方に押し戻され元の位置に復帰する。
スタイラス3の先端部3aは円錐形状に加工されている。スタイラス3は鉄心13に対し取付部20を介し着脱自在に取り付けられ、スタイラス3の先端部が摩耗した場合にスタイラス3を単独で交換できるように構成されている。
【0038】
前記スタイラスホルダー6は、軸受部材7を支持した小径筒型の本体部6aと、この本体部6aの基端側(上端側)に形成されたフランジ部6bとからなり、フランジ部6bを本体部2Aの先端部(下端部)に押し付けて本体部2Aに一体化されている。
本体部2Aの先端部(下端部)外周面に、その周回りに定間隔で2本の円柱状のフックピン18が突設され、これらのフックピン18に係止するように以下に説明する取付金具19が設けられている。
【0039】
取付金具19は、スタイラスホルダー6を挿通可能なリング部19Aと、このリング部19Aの外周端2箇所からリング部19Aと直角方向に延出されたアングルフック部19Bを有している。アングルフック部19Bはリング部19Aの周方向に180゜間隔で2つ形成されている。アングルフック部19Bの先端側には鉤爪状のフック爪19cが形成され、このフック爪19cがペンケース下部のフックピン18に係止されている。
【0040】
アングルフック部19Bは、リング部19Aに対し直角に立設された支持片19dを有し、この支持片19dの先端側の側部に切欠部19eを設けることで支持片19dの先端にフック爪19cが形成されている。フック爪19cの先端部下面側にフック爪19cの先端を先窄まり状とする傾斜面19fが形成され、フック爪19cの付け根の部分であって前記切欠部19eの奥側にフックピン18を受けるための半円形状の受部19gが形成されている。
フックピン18を切欠部19eに挿入し、受部19gにフックピン18を収容させるようにフック爪19cでフックピン18を係止することで、スタイラスホルダー6をペンケース2の下端部に取付金具19によって固定することができる。
なお、リング部19Aに2つ設けられているアングルフック部19Bのフック爪19cは、図1に示すようにペンケース2の周回り方向に同じ向きに形成されている。
取付金具19のリング部19Aとスタイラスホルダー6のフランジ部6bとの間に、ゴムからなるOリング22が介挿されている。
【0041】
取付金具19は、スタイラスホルダー6の本体部6aにリング部19Aを挿通し、フック爪19cをフックピン18に係止することで、Oリング22をスタイラスホルダー6のフランジ部6bに押し付けている。従って、取付金具19は、スタイラスホルダー6のフランジ部6bをペンケース2の下端部に押し付け固定している。
【0042】
刻印機Aにおいて電磁コイル8に対し配線24を介し駆動用の制御回路25が接続されている。駆動回路25から電磁コイル8に通電することで磁界を発生させることができ、この磁界により鉄心13を鉄心軸受9に沿って所定距離下降させることができる。
鉄心13が下降することでスタイラス3も下降する。鉄心13が下降するとばね部材21を圧縮するので鉄心13に反力が作用する。ここで制御回路25から電磁コイル8への通電を停止すると、ばね部材21の反力により鉄心13は元の位置に戻り、スタイラス3も元の位置に戻る。制御回路25から、例えば矩形波を印加するとスタイラス3は上下に所定距離間欠的に移動するので、スタイラス3を上下方向に振動させることができる。
【0043】
なお、図1ではワークWの刻印面を単純な平面形状として描いているが、ワークは機械部品であれば種々の形状の立体形であるので、平面に限らず、円周面や凹凸を有する立体面であるが、説明の簡略化のために図では平面状に描いている。例えば、ワークがコンロッドやピストンなどの機械部品であれば刻印面は円周面や曲面となる場合がある。
【0044】
従って、刻印機Aはスタイラス3の先端部3aをその下方に設置されたワークWの刻印面に打ち付けることによりドット形状をワークWに打刻することができ、3軸ステージ機構によってワークの刻印面に対するドット形状の打刻位置を順次変更することで文字やバーコードなどの刻印ができるようになっている。一例として図11に示すように打刻したドットの集合体としてアルファベット文字を刻印することができる。
【0045】
図1に示す構成の刻印機Aにおいては、鉄心13が図1に示す上死点に位置している状態から下降して下死点まで鉄心13が下降し、ワークWに打刻することができる。
また、下死点から鉄心13が上昇して上死点に戻る場合、鉄心13の上方に位置するホルダー部材14の底部に鉄心13の上端部が衝突して停止する。
この衝突の際、ホルダー部材14は若干上方に移動し、クッション部材15を若干押圧して変形させる。クッション部材15はシリコンゴムまたはフッ素ゴムからなるので、良好な制振性を発揮するとともに、変形後元の形状に戻り、ホルダー部材14を若干下方に押し返す。クッション部材15が元の形状に戻ると駆動回路25の指令により電磁コイル8が発生させた磁界に応じて鉄心13が再び下方に移動する。
【0046】
刻印機Aを用いて連続運転し、打刻を行うと、電磁コイル8の温度が徐々に上昇し、連続運転の時間が長い場合、100~110℃程度の温度まで上昇することがある。
クッション部材15は耐熱性に優れたシリコンゴムあるいはフッ素ゴムから構成されているので、上述の温度上昇に耐えることができ、長時間の運転にも支障はない。
ただし、シリコンゴムやフッ素ゴムは、100℃程度の温度に加熱された場合、制振性が低下する傾向がある。ここで言及する制振性の低下とは、クッション部材15が変形後、元の形状に戻る場合の反発力が、常温の場合の反発力より強くなることを意味する。
【0047】
駆動回路15は電磁コイル8に送る電力のタイミングを調節し、一定間隔で鉄心13を上下動させているので、電磁コイル8の発熱に伴い、クッション部材15の反発力が強くなると、鉄心13の位置が元の位置に落ち着く前に鉄心13を駆動するおそれが発生する。この場合、鉄心13の上死点位置がばらつくこととなり、刻印時の打刻力がばらつくこととなる。
【0048】
本実施形態の刻印機Aにおいては、鉄心13の上死点位置にホルダー部材14を設けているので、鉄心13がホルダー部材14の底部に衝突すると、その衝撃力をホルダー部材14が受けて移動する。ホルダー部材14は、上下3列設けたOリング17により支持されてヘッド部材2Bの内奥部に支持されているので、ホルダー部材14が受ける衝撃の一部をホルダー部材14が移動することで吸収する。
ホルダー部材14が移動することでクッション部材15も変形されるが、その変形量は、ホルダー部材14が無く、鉄心13がクッション部材15に直接衝突する場合よりも軽減される。このため、鉄心13が元の位置に落ち着くまでの時間を大幅に短縮できる。
一例として、後述する実施例において示すように、従来構造に対し本実施形態の構造を採用することで、鉄心13が元の位置に落ち着くまでの時間を半分程度またはそれ以下に削減できる。
従って、刻印機Aの内部が100℃程度に加熱された場合であっても、鉄心13の移動に対するクッション部材15からの影響が無くなり、スタイラス3を常温と同等の条件で駆動しても刻印時の打刻力がばらつくという問題を生じなくなる。
【0049】
また、図1の構成では鉄心13がホルダー部材14に衝突した場合、ホルダー部材14のフランジ部14bがクッション部材15を押圧する。フランジ部14bの外径は鉄心13の外径より大きいので、鉄心13が直接クッション部材15に衝突するよりもクッション部材15に与える衝撃を軽減できる。このため、クッション部材15の劣化を抑制することができ、クッション部材15の交換時期を延ばすことができる。
【0050】
本実施形態の刻印機Aは、スタイラス3の交換を従来の刻印機よりも容易に実施することができる。
本実施形態の刻印機Aは、取付金具19によってスタイラスホルダー6をペンケース2に固定している。
図2に示すようにフック爪19cがペンケース2のフックピン18に係止されているので、ペンケース2を固定したまま、取付金具19を図2に示す状態から左回りに所定角度回転させると、フックピン18からフック爪19cを外すことができる。
取付金具19をフックピン18から外すことで、スタイラスホルダー6の固定力を解除できるのでスタイラスホルダー6をペンケース2から簡単に取り外すことができる。
なお、図12に示す従来構造のようにペンケース100のねじ部117にスタイラスホルダー104のねじ部104bを螺合する構造では、打刻時の振動によりねじが緩まないようにねじ部104bのトルク管理を厳格に行う必要がある。この点、フック爪19cをフックピン18に係合する構造では上述のトルク管理は不要となり、フック爪19cをフックピン18に係合するのみの操作でスタイラスホルダー6の固定を完了できる。
【0051】
スタイラスホルダー6を取り外すことで、鉄心13をペンケース2から抜き出すことができ、スタイラス3が自由になるので、スタイラス3の交換ができる。
従来の刻印機Dでは図12に示すようにスタイラスホルダー104を分離するためにスタイラスホルダー104を何周か回転させてねじ部104bの螺合を解除することが必要である。これに対し、本実施形態の刻印機Aでは取付金具19を数10゜回転させてフックピン18からフック爪19cを取り外すという操作のみでスタイラスホルダー6を取り外すことができ、従来よりも簡単にスタイラス3の交換ができる。
【0052】
本実施形態の刻印機Aは、更に、従来の刻印機Dでは簡単ではなかった鉄心軸受9の交換を簡単に行うことができる。
上述のようにスタイラスホルダー6を外すと、スタイラス3と鉄心13をペンケース2から簡単に抜き出すことができ、鉄心13を外した後は、軸受ホルダー4から鉄心軸受9を簡単に外すことができるので、ペンケース2から鉄心軸受9のみを引き出して鉄心軸受9のみを簡単に単独交換できる。
【0053】
上述のように鉄心軸受9を外した後、ホルダー部材14を取り外すことができる。ホルダー部材14を取り外す際、ホルダー部材14に形成した雌ねじ部14fに螺合可能なねじ軸を備えたロッド状の工具などを用いることができる。この工具をペンケース2の先端部から挿入して雌ねじ部14fにねじ軸を螺合し、ねじ軸とともに引き抜くことでホルダー部材14を簡単に引き抜くことができる。
図4に本実施形態の刻印機Aを分解した状態を示す。図4に示すように分解することにより、スタイラス3の交換の他に、ホルダー部材14やOリング17の交換、鉄心軸受9の交換なども容易に行うことができる。
以上説明したように図1に示す刻印機Aであるならば、フックピン18からフック爪19cを取り外すことによりスタイラスホルダー6を外すことができ、これにより軸受ホルダー4と鉄心軸受9、ホルダー部材14、クッション部材15を順次取り外すことができる。
よって、本実施形態の刻印機Aは、分解が容易であり、軸受ホルダー4と鉄心軸受9、ホルダー部材14、クッション部材15の交換を容易にできる特徴を有する。
【実施例
【0054】
図5(A)は従来の刻印機Dのペンケース100に収容したフッ素ゴムのクッション部材116と鉄心102とスタイラス106と圧縮ばね110を備えた構造を示す。
そして、この構造を採用した場合に20℃において鉄心102が振動し、クッション部材116に衝突することによって生じるバウンド特性について図5(B)に示し、105℃の場合に得られる同バウンド特性について図5(C)に示す。
【0055】
試験に用いた刻印機は、JIS規定SUM23からなる円柱状の鉄心(直径16mm、長さ37mm、外周面の一部に幅14mmの空気移動用の平面部を設けた構造)を用い、ペンケースの内部で上下方向に8~9mm振動させた刻印機による測定結果を示す。
この刻印機には、ペンケースの内壁部に274回巻きコイルを有する電磁コイルを適用した。駆動条件は、24.5A/4.3ms通電ON、130ms通電OFFの条件を採用した。
駆動部の電圧:80V(コンデンサ充放電回路)、ペン部=鉄心(スタイラス振幅):10mm、コイル巻き数:274、コイル線径:0.8mm、スタイラス軸径:5mmに設定している。
図5(B)に示すように20℃の場合は、フッ素ゴムのクッション部材116が良好な制振性を発揮するので、スタイラス3の変位のピーク値が8mmであり、打刻を示す最初のピーク幅は18mSとなり、その他のピークは生じていない。
【0056】
これに対し図5(C)に示すように、105℃の場合は、クッション部材116の制振性が低下するので、打刻を示す第1のピーク以外に、第2~第5のピークが出現し、第1のピーク~第5のピークが終了するまでに要する時間は114mSとなった。即ち、105℃の場合は、クッション部材116の制振性の低下から、スタイラスの位置が安定するまで、20℃の場合よりも6.3倍も長い時間を要することとなった。
【0057】
図6(A)は実施例1の刻印機のペンケース2に収容したシリコンゴム(制振型シリコンゴム)のクッション部材15とホルダー部材14と鉄心13とスタイラス3と圧縮ばね21を備えた構造を示す。なお、実施例1では先の実施形態で用いたホルダー部材と構造は類似であるが、その外周に1本のOリング(弾性体)のみを巻回したホルダー部材を適用した。その他、刻印機の構成と駆動条件は、先の例と同等である。
図6(A)に示す構造を採用した場合に20℃において鉄心13が振動し、ホルダー部材に衝突することによって生じるバウンド特性について図6(B)に示し、105℃の場合に得られるバウンド特性について図6(C)に示す。
【0058】
図6(B)に示すように20℃の場合は、フッ素ゴムのクッション部材116ほどではないが制振型シリコンゴムのクッション部材15が制振性を発揮し、更にホルダー部材14が鉄心13の衝突による衝撃の一部を吸収するので、打刻を示す第1のピーク以外に第2のピークも生じたが、第1の変位のピーク幅と第2の変位のピーク幅を合計した値は32mSとなった。
【0059】
これに対し図6(C)に示すように、105℃の場合は、クッション部材の制振性が低下し、打刻を示す第1のピーク以外に、第2~第3のピークが出現し、第1のピーク~第3のピークが終了するまでに要する時間は57mSとなった。即ち、105℃の環境下では、クッション部材116の制振性の低下から、スタイラス先端の位置が安定するまで、20℃の場合よりも2倍弱の時間を要することとなった。
しかし、ホルダー部材を設けていない場合を示す図5(C)のバウンド特性の時間(114ms)よりも短い時間(57ms)でスタイラスの変位を安定化することができたので、ホルダー部材を設けた効果を得ることができた。
【0060】
図6(B)に示すように20℃においてスタイラスが安定するまでに32msを要しているので、図5(B)に示す従来装置の20℃の場合の戻り時間より、図6(B)の戻り時間の方が長くなっている。
しかし、スタイラスが安定するまでに32msを要することは刻印機において許容範囲の時間であり、図6(C)に示すように105℃の場合にスタイラスが安定するまでに57msの戻り時間を要しているので、図6(A)の構造であってもダンパー部材を設置することの効果は確認できた。
【0061】
図7(A)は実施例2の刻印機のペンケース2に収容したシリコンゴム(制振型シリコンゴム)のクッション部材15とホルダー部材14と鉄心13とスタイラス3と圧縮ばね21を示す。なお、実施例2は先の実施形態で用いたホルダー部材14と同等の構造(Oリングを3つ設けた構造)を採用した。
この構造を採用した場合に20℃において鉄心13が振動し、ホルダー部材14に衝突することによって生じるバウンド特性について図7(B)に示し、105℃の場合に得られるバウンド特性について図7(C)に示す。
【0062】
図7(B)に示すように20℃の場合は、フッ素ゴムのクッション材と同じように、制振型シリコンゴムのクッション部材が制振性を発揮し、更にホルダー部材14が鉄心13の衝突による衝撃の一部を吸収するので、スタイラスが安定するまでのピーク幅は15mSとなった。
【0063】
更に、図7(C)に示すように、105℃の場合は、クッション部材の制振性が低下し、第2のピークが出現するが、第1のピーク、第2のピークが終了してスタイラスが安定するまでに要する時間は45mSとなった。
即ち、図7(A)に示す構造を採用すると、図5(B)に示す従来の刻印機Dの20℃の場合の戻り時間よりも短く、かつ、105℃の場合は図5(C)に示す従来の刻印機Dの105℃の場合の戻り時間に対し、半分以下の時間でスタイラスが安定した。
【0064】
このことは、先の実施形態で説明した構造を採用すると、20℃の場合と105℃の場合のいずれにおいてもスタイラス3が安定するまでのピークを短い時間で安定化できたこととなる。
このことから、先に説明したダンパー部材12を設けた実施形態の構造であれば、クッション部材15の変形が戻ってスタイラス3が安定するまでの戻り時間を20℃の場合も105℃の場合も従来の刻印機Dよりも短縮できたことがわかる。特に、105℃の場合は、本発明者が最も好ましい目標値と考える50ms以下に短縮することができた。
【符号の説明】
【0065】
A…刻印機、2…ペンケース、3…スタイラス、5…ケース部材、
6…スタイラスホルダー、7…軸受部材、8…電磁コイル、9…鉄心軸受、
12…ダンパー部材、13…鉄心、14…ホルダー部材、14b、14c…フランジ部、14d…収容部、14f…雌ねじ部、15…クッション部材、
17…弾性体(Oリング)、18…フックピン、19…取付金具、
19c…アングルフック部、21…圧縮ばね、25…駆動回路、W…ワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12