(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】含フッ素ビニルエーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 303/22 20060101AFI20230320BHJP
C07C 309/20 20060101ALI20230320BHJP
C07C 59/135 20060101ALI20230320BHJP
C07C 51/347 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
C07C303/22
C07C309/20
C07C59/135
C07C51/347
(21)【出願番号】P 2019149462
(22)【出願日】2019-08-16
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】堀 開史
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-018454(JP,A)
【文献】国際公開第98/043952(WO,A1)
【文献】特表平07-505164(JP,A)
【文献】特表平09-507840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(式(1)中、XはSO
2A、又はCOA(Aはハロゲン原子、又はOR
a(R
aは置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基)であり、Yはハロゲン原子、又はOR
b(R
bは置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基)、又はOM(Mはアルカリ金属、又はアルカリ土類金属)であり、mは1~6の整数、nは0~3の整数である。)
で表される含フッ素2-アルコキシプロピオン酸誘導体と、
下記一般式(2):
R
1R
2R
3Si(OM’)・・・(2)
(式(2)中、M’はアルカリ金属、又はアルカリ土類金属であり、R
1~R
3は各々独立に置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基、又はOM’’(M’’はアルカリ金属又はアルカリ土類金属)である。)
で表されるシラノール化合物とを接触・混合させる工程を含
み、
前記シラノール化合物が、リチウムトリメチルシラノラート、リチウムトリエチルシラノラート、リチウムトリイソプロピルシラノラート、リチウム(tert-ブチル)ジメチルシラノラート、リチウムトリフェニルシラノラート、ジリチウムジメチルシランジオラート、ジリチウムジエチルシランジオラート、ジリチウムジフェニルシランジオラート、ナトリウムトリメチルシラノラート、ナトリウムトリエチルシラノラート、ナトリウムトリイソプロピルシラノラート、ナトリウム(tert-ブチル)ジメチルシラノラート、ナトリウムトリフェニルシラノラート、ジナトリウムジメチルシランジオラート、ジナトリウムジエチルシランジオラート、及びジナトリウムジフェニルシランジオラートからなる群から選ばれる化合物であることを特徴とする、
下記一般式(3):
【化2】
(式(3)中、m、nは前記一般式(1)のm、nと同じであり、ZはSO
2B、又はCOB(BはOH、OM’、又はR
1R
2R
3Siである(M’、R
1~R
3は、それぞれ前記一般式(2)のM’、R
1~R
3と同じである。))
で表される含フッ素ビニルエーテルの製造方法。
【請求項2】
前記一般式(2)で表されるシラノール化合物の使用量が、前記一般式(1)で表される含フッ素2-アルコキシプロピオン酸誘導体の使用量に対して、モル等量で2~5倍である、請求項
1に記載の含フッ素ビニルエーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸基、又はカルボン酸基を有する含フッ素ビニルエーテルの製造方法に関する。より詳細には、燃料電池用隔膜、燃料電池用触媒バインダーポリマー、食塩電解用隔膜等のフッ素系高分子電解質の原材料となり得る含フッ素ビニルエーテルを収率良く製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用隔膜、燃料電池用触媒バインダーポリマー、食塩電解用隔膜等として、フッ素系高分子電解質膜が主に使用されている。食塩電解による苛性ソーダや塩素の製造法としてイオン交換膜法が広く採用されており、その隔膜であるイオン交換膜として、ペルフルオロカルボン酸ポリマー(8)とペルフルオロスルホン酸ポリマー(9)の積層タイプの膜が主に用いられている(例えば、非特許文献1を参照)。
【化1】
(式(8)中、pは0~6の整数、qは1~6の整数)
【化2】
(式(9)中、p’は0~6の整数、q’は1~6の整数)
【0003】
ペルフルオロカルボン酸ポリマー(8)は、下記一般式(10)で表されるカルボン酸モノマーとテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体を製膜した後、加水分解反応を施すことにより得られる。
【化3】
(式(10)中、p及びqは上記一般式(8)と同じであり、Rは炭素数1~10のアルキル基である。)
【0004】
上記一般式(10)で表されるカルボン酸モノマーは、例えば、下記のルートで製造できることが知られている。
【化4】
【0005】
しかしながら、上記一般式(10)で表されるカルボン酸モノマーにおいて、p=0の場合、カルボン酸モノマーの合成が困難であるという問題がある。すなわち、p=0であるカルボン酸モノマーを合成する場合、p=1以上の場合と同様の脱炭酸・ビニル化反応を行うと、環化反応が主反応となり、目的とするカルボン酸モノマーの収率が極めて低くなることが知られている。
【0006】
p=0の上記一般式(10)で表されるカルボン酸モノマーの合成法として、特許文献1には、CF3CF(COF)O(CF2)2CO2Meを水酸化ナトリウムでケン化し、固体状のCF3CF(CO2Na)O(CF2)CO2Naを得た後、加熱・脱炭酸反応によりCF2=CFO(CF2)2CO2Naを取得した後、アルキル化剤と反応させて、カルボン酸モノマー(CF2=CFO(CF2)2CO2CH3)を製造する方法が開示されている。しかしながら、当該方法では、CF3CF(CO2Na)O(CF2)CO2Naを加熱・脱炭酸反応する前に十分に乾燥させる必要があるため、反応操作が煩雑となり、工業的製造法とは言い難い。
【0007】
一方、ペルフルオロスルホン酸ポリマー(9)は、下記一般式(11)で表されるスルホン酸モノマーとTFEとの共重合体を製膜した後、加水分解反応を施すことにより得られる。
【化5】
(式(11)中、p’及びq’は上記一般式(9)と同じである。)
【0008】
上記一般式(11)で表されるスルホン酸モノマーは、例えば、下記のルートで製造できることが知られている。
【化6】
【0009】
しかしながら、上記一般式(11)で表されるスルホン酸モノマーにおいて、p’=0の場合、スルホン酸モノマーの合成が困難であるという問題がある。すなわち、p’=0であるスルホン酸モノマーを合成する場合、p’=1以上の場合と同様の脱炭酸・ビニル化反応を行うと、環化反応が主反応となり、目的とするスルホン酸モノマーの収率が極めて低くなることが知られている。
【0010】
p’=0の上記一般式(11)で表されるスルホン酸モノマーの合成法として、特許文献2には、CF3CF(COF)O(CF2)2SO2Fを水酸化ナトリウム水溶液で中和処理後、水を留去して粉末状のCF3CF(CO2Na)O(CF2)2SO3Naを取得した後、加熱・脱炭酸反応によりCF2=CFO(CF2)2SO3Naを合成した後、PCl5、さらにはNaFと反応させることにより、スルホン酸モノマー(CF2=CFO(CF2)2SO2F)を取得する方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、CF3CF(CO2Na)O(CF2)2SO3Naを加熱・脱炭酸反応させる前に、水分を十分に乾燥させる必要があるため、反応操作が煩雑となり、工業的製造法とは言い難い。
このため、簡便な手法で、効率よくカルボン酸モノマー、もしくはスルホン酸モノマーが取得可能な新たな方法の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際出願公開第03/002505号
【文献】特開2004-18454号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】日本学術振興会・フッ素化学第155委員会編「フッ素化学入門 先端テクノロジーに果すフッ素化学の役割」(2004年),225-228頁
【文献】Russian Journal of Applied Chemistry 81巻(2008) 95-99頁
【文献】Journal of Fluorine Chemistry 129巻(2008),535-540頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上記現状を考慮し、含フッ素ビニルエーテルを簡便に、収率良く製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、含フッ素2-アルコキシプロピオン酸誘導体とシラノール化合物を接触・混合撹拌することにより、目的物である含フッ素ビニルエーテルを収率良く得られる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]下記一般式(1):
【化7】
(式(1)中、XはSO
2A、又はCOA(Aはハロゲン原子、又はOR
a(R
aは置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基)であり、Yはハロゲン原子、又は
OR
b(R
bは置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基)、又はOM(Mはアルカリ金属、又はアルカリ土類金属)であり、mは1~6の整数、nは0~3の整数である。)
で表される含フッ素2-アルコキシプロピオン酸誘導体と、
下記一般式(2):
R
1R
2R
3Si(OM’)・・・(2)
(式(2)中、M’はアルカリ金属、又はアルカリ土類金属であり、R
1~R
3は各々独立に置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基、又はOM’’(M’’はアルカリ金属又はアルカリ土類金属)である。)
で表されるシラノール化合物とを接触・混合させる工程を含
み、
前記シラノール化合物が、リチウムトリメチルシラノラート、リチウムトリエチルシラノラート、リチウムトリイソプロピルシラノラート、リチウム(tert-ブチル)ジメチルシラノラート、リチウムトリフェニルシラノラート、ジリチウムジメチルシランジオラート、ジリチウムジエチルシランジオラート、ジリチウムジフェニルシランジオラート、ナトリウムトリメチルシラノラート、ナトリウムトリエチルシラノラート、ナトリウムトリイソプロピルシラノラート、ナトリウム(tert-ブチル)ジメチルシラノラート、ナトリウムトリフェニルシラノラート、ジナトリウムジメチルシランジオラート、ジナトリウムジエチルシランジオラート、及びジナトリウムジフェニルシランジオラートからなる群から選ばれる化合物であることを特徴とする、下記一般式(3):
【化8】
(式(3)中、m、nは前記一般式(1)のm、nと同じであり、ZはSO
2B、又はCOB(BはOH、OM’、又はR
1R
2R
3Siである(M’、R
1~R
3は、それぞれ前記一般式(2)のM’、R
1~R
3と同じである。))
で表される含フッ素ビニルエーテルの製造方法。
[2
]前記一般式(2)で表されるシラノール化合物の使用量が、前記一般式(1)で表される含フッ素2-アルコキシプロピオン酸誘導体の使用量に対して、モル等量で2~5倍である、[1
]に記載の含フッ素ビニルエーテルの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、含フッ素ビニルエーテルを簡便に、収率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0019】
本発明は、下記一般式(1):
【化9】
(式(1)中、XはSO
2A、又はCOA(Aはハロゲン原子、又はOR
a(R
aは置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基)であり、Yはハロゲン原子、又は
OR
b(R
bは置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基)、又はOM(Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属)であり、mは1~6の整数、nは0~3の整数である。)
で表される含フッ素2-アルコキシプロピオン酸誘導体と、
下記一般式(2):
R
1R
2R
3Si(OM’)・・・(2)
(式(2)中、M’はアルカリ金属、又はアルカリ土類金属であり、R
1~R
3は各々独立に置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基、又はOM’’(M’’はアルカリ金属又はアルカリ土類金属)である。)
で表されるシラノール化合物とを接触・混合させる工程を含むことを特徴とする、下記一般式(3):
【化10】
(式(3)中、m、nは前記一般式(1)のm、nと同じであり、ZはSO
2B、又はCOB(BはOH、OM’、又はR
1R
2R
3Siである(M’、R
1~R
3は、それぞれ前記一般式(2)のM’、R
1~R
3と同じである。))
で表される含フッ素ビニルエーテルの製造方法である。
【0020】
なお、本明細書において、上記一般式(1)で表される含フッ素2-アルコキシプロピオン酸誘導体を「化合物(1)」、上記一般式(2)で表されるシラノール化合物を「化合物(2)」、上記一般式(3)で表される含フッ素ビニルエーテルを「化合物(3)」と称する場合がある。
【0021】
本発明において化合物(1)と化合物(2)を接触・混合させることにより、化合物(3)が得られる詳細な理由については明らかではないが、以下に示すようなメカニズムによると推定される。
化合物(1)と化合物(2)との接触により、化合物(1)のXで表される官能基は、SO2A、CO2Aのいずれの場合も、XがORの場合は加熱することにより直接、Aがハロゲン原子の場合は一旦-S(O)2OSiR1R2R3、または-C(O)OSiR1R2R3を経由し、加熱することによりZへと変換される。
一方、化合物(1)の-C(O)Yで表される官能基は、YがORの場合は加熱することにより直接、Yがハロゲン原子である場合は化合物(2)との接触により一旦-C(O)OSiR1R2R3を経由し、加熱することにより化合物(3)へと変換される。
また、YがOMである場合は、化合物(1)と化合物(2)とを接触混合し、そのまま加熱することにより化合物(3)へと変換される。
【0022】
<含フッ素2-アルコキシプロピオン酸誘導体(化合物(1))>
化合物(1)において、XはSO2A、又はCOA(Aはハロゲン原子、又はORa(Raは置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基)であり、Yはハロゲン原子、又はORb(Rbは置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基)、又はOM(Mはアルカリ金属、又はアルカリ土類金属)であり、mは1~6の整数、nは0~3の整数である。
化合物(1)の入手性、合成のし易さの観点から、mは2~4、nは0~1であることが好ましい。
ハロゲンとしては、F、Clが好ましい。
Rのうち炭素数1~10個の炭化水素基としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、フェニル基が化合物(1)の合成の容易さの観点から好ましい。
【0023】
化合物(1)は、例えば、FCO(CF
2)
m-1X(XはSO
2A、又はCOA)とヘキサフルオロプロピレンオキシドの付加反応により合成することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【化11】
【0024】
<シラノール化合物(化合物(2))>
化合物(2)において、M’はアルカリ金属又はアルカリ土類金属であるが、化合物(2)の入手性、合成のし易さの観点から、M’はアルカリ金属が好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、化合物(1)との反応性の観点から、ナトリウムが特に好ましい。化合物(2)において1分子にM’が2個以上ある場合、各々のM’は同じであってもよいし異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
化合物(2)において、R1~R3は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基、又はOM’’(M’’はアルカリ金属又はアルカリ土類金属)である。各々のR1~R3は同じでも異なっていてもよい。
R1~R3について「置換されていてもよい炭化水素基」としては、例えば、脂肪族炭化水素基、フェニル基等の芳香族炭化水素基、及び炭化水素基中の水素原子が全てフッ素原子に置換されたトリフルオロメチル基等のフッ素置換炭化水素基等が挙げられる。
なお、上記炭化水素基は、必要に応じて、官能基を有していてもよい。このような官能基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、ニトリル基(-CN)、エーテル基(-O-)、カーボネート基(-OCO2-)、エステル基(-CO2-)、カルボニル基(-CO-)、スルフィド基(-S-)、スルホキシド基(-SO-)、スルホン基(-SO2-)、ウレタン基(-NHCO2-)等が挙げられる。
R1~R3について、各々の炭化水素基の炭素数は1~10個であるが、化合物(2)の入手性から炭素数1~8個がより好ましく、化合物(1)との反応性の観点から炭素数1~6個が特に好ましい。
R1~R3としては、メチル基、エチル基、ビニル基、アリル基、1-メチルビニル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フルオロメチル基等の脂肪族炭化水素基;ベンジル基、フェニル基、ニトリル置換フェニル基、フルオロ化フェニル基等の芳香族炭化水素基等が例示されるが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ベンジル基、フェニル基がより好ましく、メチル基、エチル基、iso-プロピル基、tert-ブチル基、フェニル基が特に好ましい。
【0025】
化合物(2)としては、リチウムトリメチルシラノラート、リチウムトリエチルシラノラート、リチウムトリイソプロピルシラノラート、リチウム(tert-ブチル)ジメチルシラノラート、リチウムトリフェニルシラノラート、ジリチウムジメチルシランジオラート、ジリチウムジエチルシランジオラート、ジリチウムジフェニルシランジオラート、ナトリウムトリメチルシラノラート、ナトリウムトリエチルシラノラート、ナトリウムトリイソプロピルシラノラート、ナトリウム(tert-ブチル)ジメチルシラノラート、ナトリウムトリフェニルシラノラート、ジナトリウムジメチルシランジオラート、ジナトリウムジエチルシランジオラート、及びジナトリウムジフェニルシランジオラートが入手が容易であるという理由で好ましい。
【0026】
化合物(2)は市販品を使用しても構わないし、例えば、ハロゲン化シラン、シラノール、シロキサン等の入手可能な化合物から合成してもよい。
【0027】
化合物(2)の合成方法としては、例えば、下記に示すように、ハロゲン化シラン(R1R2R3SiZ1)(式中、R1~R3は化合物(2)と同じである。Z1はフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を示す。)を加水分解により、シラノール(R1R2R3SiOH)(式中、R1~R3は化合物(2)と同じである。)やシロキサン(R1R2R3SiOSiR1R2R3)(式中、R1~R3は化合物(2)と同じである。)に変換した後、シラノールの場合はM’、M’H、RM’等(M’は化合物(2)と同じである。Rは炭素数1~10個のアルキル基、アリール基を示す)、シロキサンの場合はM’OH、M’2O、M’NH2、RM’等(M’は化合物(2)と同じである。Rは炭素数1~10個のアルキル基、アリール基を示す)と反応させることにより、化合物(2)を合成することができる。
【0028】
上記シラノールとの反応に用いる、M’としては、Li、Na、K等が挙げられ、M’Hとしては、LiH、NaH、KH等が挙げられ、RM’としては、n-C4H9Li、sec-C4H9Li、tert-C4H9Li、CH3Li、C6H5Li、n-C4H9Na、n-C4H9K等があげられる。中でも、シラノールとの反応性、及び工業的に取り扱う場合の反応操作性の観点から、M’H、RM’が好ましく、NaH、KH、n-C4H9Li、CH3Liがより好ましい。
上記M’、M’H、RM’の使用量は、上記シラノール中の水酸基1モルに対して、0.95モル~2モルであることが好ましい。また、反応温度は-100℃~200℃であることが好ましく、反応時間は0.01時間~100時間であることが好ましい。
【0029】
上記シロキサンとの反応に用いる、M’OHとしては、LiOH、NaOH、KOH等が挙げられ、M’2Oとしては、Li2O、Na2O、K2O等が挙げられ、M’NH2としては、LiNH2、NaNH2、KNH2等が挙げられ、RM’としては、n-C4H9Li、sec-C4H9Li、tert-C4H9Li、CH3Li、C6H5Li、n-C4H9Na、n-C4H9K等があげられる。中でも、シロキサンとの反応性、及び工業的に取り扱う場合の反応操作性の観点から、M’OH、RM’が好ましく、NaOH、KOH、n-C4H9Li、CH3Liがより好ましい。
上記M’OH、M’2O、M’NH2、RM’の使用量は、上記シロキサン中のシロキサン結合(Si-O-Si)1モルに対して、0.95モル~4モルであることが好ましい。また、反応温度は-100℃~200℃であることが好ましく、反応時間は0.01時間~100時間時間であることが好ましい。
【0030】
なお、M’OHを使用する場合、反応系内に水が発生する場合があるが、発生した水を除去するために、脱水剤として、例えば、LiH、NaH、KH、MgO、CaO、CaCl2、MgSO4、Na2SO4、モレキュラーシーブス、活性アルミナ等を反応系内に添加しても差し支えない。
LiH、NaH、KH、MgO、CaO、CaCl2、MgSO4、Na2SO4の使用量は、上記シロキサン中のシロキサン結合(Si-O-Si)1モルに対して、0.95モル~4モルであることが好ましい。モレキュラーシーブス、活性アルミナの使用量は、上記シロキサン中のシロキサン結合(Si-O-Si)1モルに対して、1g~180gであることが好ましい。
【0031】
【0032】
<含フッ素ビニルエーテル(化合物(3))の製造>
化合物(1)と化合物(2)とを接触・混合させることにより、化合物(3)を得ることができる。
本実施形態の製造方法において、混合撹拌時には、溶媒を用いることが好ましい。
上記溶媒としては、反応時に不活性であればよく、各種の非プロトン性極性溶媒を用いることができ、例えば、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,4-ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、4-メチルテトラヒドロピラン等の各種のエーテル基含有溶媒、アセトニトリル等のニトリル基含有溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド等のスルホン基含有溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル基含有溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド基含有溶媒等が挙げられる。中でも、化合物(3)を収率良く得るため、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、4-メチルテトラヒドロピラン等のエーテル基含有溶媒の使用が好ましい。
【0033】
本実施形態の製造方法において、化合物(2)の使用量は、化合物(1)に対して、モル当量以上用いることが好ましく、化合物(1)のモル当量に対して1.5~10倍用いることがより好ましく、化合物(1)のモル当量に対して2~5倍用いることが最も好ましい。化合物(2)の使用量が上記範囲内にあることにより、含フッ素ビニルエーテルを一層収率良く製造できる。
【0034】
混合撹拌の温度は、-80℃~300℃であることが好ましく、より好ましくは-20℃~250℃である。混合撹拌の温度が上記範囲よりも低い場合は有機溶媒の存在下で化合物(2)や、生成した化合物(3)が析出することがあるので好ましくない。混合撹拌の温度が上記範囲よりも高い場合は副生成物が増加するので好ましくない。
【0035】
混合撹拌の時間は、0.01~50時間であることが好ましく、より好ましくは0.1~10時間である。
【0036】
本実施形態の製造方法において、目的物である化合物(3)とともに、副生物として下記一般式(4)で表されるプロトン付加体(以下、化合物(4))
【化13】
(式(4)中、m、nは前記一般式(1)のm、nと同じであり、Zは前記一般式(3)のZと同じである。)
が生成する場合があるが、例えば、非特許文献3に記載のように、化合物(4)に対してリチウムヘキサメチルジシラジドのような嵩高い塩基を添加すると、化合物(4)は化合物(3)に容易に変換できることが知られている。
【0037】
本実施形態の製造方法において、目的物である化合物(3)とともに、副生物として上記化合物(4)以外に、下記一般式(5)で表されるシロキサン(以下、化合物(5))
R1R2R3SiOSiR1R2R3・・・(5)
(式(5)中、R1~R3は上記一般式(2)のR1~R3と同じである)、
及び/又は下記一般式(6)で表されるケイ素化合物(以下、化合物(6))
R1R2R3SiOR・・・(6)
(式(6)中、R1~R3は上記一般式(2)のR1~R3と同じであり、Rは上記一般式(1)のRa及び/又はRbと同じである)
及び/又は下記一般式(7)で表されるフッ素原子含有ケイ素化合物(以下、化合物(7))
R1R2R3SiF・・・(7)
(式(7)中、R1~R3は上記一般式(2)のR1~R3と同じである)
が生成する。
さらに当該反応により金属フッ化物(M’F)(M’は上記一般式(2)と同じである)も反応系に存在する場合がある。
【0038】
目的物である化合物(3)と、副生成物である化合物(5)~(7)を含む反応混合物から、化合物(3)を分離除去する方法としては、各種の除去方法を採用することができる。
例えば、蒸留操作による分離除去、有機溶媒や水による抽出分離除去等があげられる。なお、金属フッ化物(M’F)が析出・懸濁した懸濁液が形成される場合には、あらかじめ金属フッ化物を濾過により除去してから分離精製を行っても構わない。
例えば、蒸留操作による分離除去方法では、反応後の溶液又は懸濁液から蒸留操作により、使用した溶媒と化合物(5)~(7)とを留去すると、化合物(3)を取得することができる。留去した溶媒、化合物(5)~(7)を含む留去物は、さらに蒸留操作、抽出操作等により、溶媒、化合物(5)~(7)を各々分離しても構わない。
有機溶媒や水による抽出分離除去方法では、例えば、反応後の溶液又は懸濁液から蒸留操作等により使用した溶媒を留去した後、残渣に水を添加すると化合物(3)が溶解するため、濾過操作等により化合物(3)を取得することができる。
上記の分離除去操作により得られた化合物(5)及び/又は化合物(7)は、上記シラノール化合物(化合物(2))の合成について説明したように、化合物(5)及び/又は化合物(7)は化合物(2)に容易に変換することができ、再度、化合物(1)と混合撹拌させると化合物(3)を得ることができる。
【0039】
以上のように、本発明は、燃料電池用隔膜、燃料電池用触媒バインダーポリマー、食塩電解用隔膜等の各種のフッ素系高分子電解質の原材料となる含フッ素ビニルエーテルを収率良く製造することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例及び比較例において使用された分析方法は、以下の通りである。
核磁気共鳴分析(NMR):1H-NMR、19F-NMRによる分子構造解析
測定装置:JNM-ECZ400S型核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製)
溶媒:重クロロホルム、重水
基準物質:CFCl3(0ppm)
【0042】
[実施例1]
窒素雰囲気下、ネジ口試験管にCF3CF(COF)OCF2CF2SO2F(1g、2.89mmol)を加え、0℃に冷却した。次に、1Mのナトリウムトリメチルシラノラートを含有するテトラヒドロフラン(THF)溶液(シグマアルドリッチ社製、11.6mL、11.6mmol)を15分間かけて滴下した。滴下後、得られた反応混合物は19F-NMRで測定すると、原料のCF3CF(COF)OCF2CF2SO2Fは消失し、1H-NMRで測定すると、ヘキサメチルジシロキサンの生成が確認された。該反応混合物から減圧下でTHFとヘキサメチルジシロキサンを留去した後、ジエチレングリコールジメチルエーテル(4.0g)を加えて、140℃で3時間撹拌した。得られた反応混合物は19F-NMRを測定すると、原料のCF3CF(COF)OCF2CF2SO2Fは消失し、CF2=CFOCF2CF2SO3Naが2.72mmol(収率94%)生成していることがわかった。
CF2=CFOCF2CF2SO3Na
19F-NMR:δ(ppm)-134.9(1F)、-124.2(1F)、-118.5(2F)、-116.8(1F)、-84.8(2F)
【0043】
[実施例2]
窒素雰囲気下、ネジ口試験管にCF3CF(COF)OCF2CF2CO2Me(1g、3.1mmol)を加え、0℃に冷却した。次に、1Mのナトリウムトリメチルシラノラートを含有するTHF溶液(シグマアルドリッチ社製、9.3mL、9.3mmol)を15分間かけて滴下した。滴下後、得られた反応混合物は19F-NMRで測定すると、原料のCF3CF(COF)OCF2CF2CO2Meは消失し、1H-NMRで測定すると、ヘキサメチルジシロキサン、及びメチルトリメチルシリルエーテルの生成が確認された。
該反応混合物から減圧下でTHF、ヘキサメチルジシロキサン、及びメチルトリメチルシリルエーテルを留去した後、ジエチレングリコールジメチルエーテル(4.0g)を加え、150℃で3時間撹拌した。得られた反応混合物は、19F-NMRを測定すると、原料のCF3CF(COF)OCF2CF2CO2Meは消失し、CF2=CFOCF2CF2CO2Naが2.36mmol(収率76%)生成していることがわかった。
CF2=CFOCF2CF2SO3Na
19F-NMR:δ(ppm)-134.6(1F)、-124.5(1F)、-119.6(2F)、-117.1(1F)、-87.3(2F)
【0044】
[実施例3]
窒素雰囲気下、ネジ口試験管にCF3CF(COF)OCF2CF2SO2Fと炭酸ナトリウムから合成したCF3CF(CO2Na)OCF2CF2SO2F(1g、2.73mmol)を加え、0℃に冷却した。次に、1Mのナトリウムトリメチルシラノラートを含有するテトラヒドロフラン(THF)溶液(シグマアルドリッチ社製、5.46mL、5.46mmol)を15分間かけて滴下し、さらに室温で2時間撹拌した。得られた反応混合物は19F-NMRで測定すると、原料のCF3CF(CO2Na)OCF2CF2SO2Fは消失し、1H-NMRで測定すると、ヘキサメチルジシロキサンの生成が確認された。該反応混合物から減圧下でTHFとヘキサメチルジシロキサンを留去した後、ジエチレングリコールジメチルエーテル(4.0g)を加えて、140℃で3時間撹拌した。得られた反応混合物は19F-NMRを測定すると、原料のCF3CF(COF)OCF2CF2SO2Fは消失し、CF2=CFOCF2CF2SO3Naが2.35mmol(収率86%)生成していることがわかった。
CF2=CFOCF2CF2SO3Naが得られたことを他の実施例と同様に確認した。
【0045】
[比較例1]
窒素雰囲気下、50mLの3口フラスコに、水酸化ナトリウム(1g、24.2mmol)、アセトニトリル(13.0g)を入れ、反応器を水浴中で内部の温度を20℃に保ちながらCF3CF(COF)OCF2CF2SO2F(2.06g、5.95mmol)を添加した。添加終了後、20℃で4時間撹拌した。
得られた反応混合物7.0gを容量30mLの加圧容器に入れ内部を窒素雰囲気とした後に、160℃で3時間加熱すると、脱炭酸反応が起こり、得られた反応混合物は19F-NMRを測定すると、CF3CFHOCF2CF2SO3Naのみが収率96%で生成していることがわかった。
CF3CFHOCF2CF2SO3Na
19F-NMR:δ(ppm)-145.7(1F)、-117.4(2F)、-84.7(1F)、-83.6(3F)、-82.3(1F)
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、食塩電解用隔膜等のフッ素系高分子電解質の原材料となり得る含フッ素ビニルエーテルを収率良く製造することができる。