(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】電解精製装置および電解精製方法
(51)【国際特許分類】
C25C 5/04 20060101AFI20230320BHJP
C25C 7/00 20060101ALI20230320BHJP
G21C 19/44 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
C25C5/04
C25C7/00 302Z
G21C19/44 250
(21)【出願番号】P 2019181235
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 等
(72)【発明者】
【氏名】大森 孝
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5650053(US,A)
【文献】特開平8-239799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00- 7/08
G21C 19/00
C25D 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解溶媒液よりも比重が大きい粒状を成す対象物を含む前記電解溶媒液を保持し、内面の少なくとも一部が導電性を有する電解槽と、
前記電解槽に電源から電流を供給して前記電解槽の内面を作用電極とする電流供給部と、
前記電解槽の少なくとも一部を回転させて遠心力により前記対象物を前記電解槽の内面に接触させる回転駆動部と、
を備える、
電解精製装置。
【請求項2】
前記電解槽は、前記対象物よりも貴な酸化還元電位を有する材料で形成されている、
請求項1に記載の電解精製装置。
【請求項3】
前記電解槽の回転の中心位置であり、かつ前記電解槽の内面から離間された位置に対極が設けられている、
請求項1または請求項2に記載の電解精製装置。
【請求項4】
前記対極を囲み、少なくとも一部がメッシュ状を成すガス拡散抑制部を備える、
請求項3に記載の電解精製装置。
【請求項5】
電解が進行したときに前記電解槽の回転を一旦停止して再び前記電解槽を回転させる制御を行う制御部を備える、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電解精製装置。
【請求項6】
前記電解槽は、
前記電解溶媒液を保持する外容器と、
前記外容器の内側に着脱自在に取り付けられ、かつ前記作用電極となる導電性を有し、少なくとも一部がメッシュ状を成して前記対象物を保持する内容器と、
を備える、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電解精製装置。
【請求項7】
前記電解槽の内面に設けられ、内側に向かって突出する邪魔板を備える、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電解精製装置。
【請求項8】
電解溶媒液よりも比重が大きい粒状を成す対象物を含む前記電解溶媒液を内面の少なくとも一部が導電性を有する電解槽に保持させるステップと、
前記電解槽に電源から電流を供給して前記電解槽の内面を作用電極とするステップと、
前記電解槽の少なくとも一部を回転させて遠心力により前記対象物を前記電解槽の内面に接触させるステップと、
を含む、
電解精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電解精製装置および電解精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、使用済核燃料中に含まれるウランまたはプルトニウムなどの有用な物質を溶融塩電解精製装置により回収する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電解溶媒中に設けた電解の対象物を電気化学的に溶解または還元する場合には、対象物の表面積を大きくするほど処理速度を速めることができる。しかし、個々の対象物の質量が小さい場合、例えば、粉末のような形状を有する場合には、対象物と電極の電気的接触を維持できないと電気化学反応は継続しない。一方、電解による物質移動を考慮すると電解溶媒中の対象物のイオン濃度は一定に保つことが有効である。ここで、攪拌などで電解溶媒中に流れを作る場合には、対象物が拡散されてしまうため、対象物と電極の電気的接触を維持することが困難となる。対象物の面積増加(細粒化)、対象物と電極の電気的接触の維持、電解溶媒中のイオン濃度の安定化を同時に達成できることが望ましいが、それぞれの要求に相反する作用が含まれるため、従来技術では、対象物を細粒化すればするほど電解を維持することが困難となるという課題がある。
【0005】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、電解の処理効率を向上させることができる電解精製技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る電解精製装置は、電解溶媒液よりも比重が大きい粒状を成す対象物を含む前記電解溶媒液を保持し、内面の少なくとも一部が導電性を有する電解槽と、前記電解槽に電源から電流を供給して前記電解槽の内面を作用電極とする電流供給部と、前記電解槽の少なくとも一部を回転させて遠心力により前記対象物を前記電解槽の内面に接触させる回転駆動部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、電解の処理効率を向上させることができる電解精製技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】第1実施形態の電解精製方法を示すフローチャート。
【
図5】電解槽の回転を一旦停止した電解精製装置を示す断面図。
【
図6】電解槽の回転を再開した電解精製装置を示す断面図。
【
図7】第3実施形態の電解精製装置を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、電解精製装置および電解精製方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態の電解精製装置および電解精製方法について
図1から
図2を用いて説明する。
【0010】
図1の符号1は、第1実施形態の電解精製装置である。この電解精製装置1は、例えば、酸化物などの対象物2を電気分解して所定の還元物を生成するものである。対象物2は、固体であり、粉状にされた状態で電解溶媒液3に投入される。対象物2が微細な粒子となっていることで、対象物2の表面積を大きくすることができる。なお、対象物2は、電解溶媒液3よりも比重が大きいものにする。つまり、対象物2の比重に応じて電解溶媒液3を適宜選定する。
【0011】
例えば、対象物2としては酸化ウランなどがある。電解溶媒液3としては塩化リチウム溶融塩などがある。なお、その他の電気化学反応を起こす物質を対象物2または電解溶媒液3としても良い。第1実施形態では、電解精製装置1を用いて酸化ウランを還元してウランを生成する態様を例示する。また、ウランを含む対象物2からウラン以外の不純物を取り除くために、電解精製装置1を用いても良い。
【0012】
電解精製装置1は、電解槽4と回転軸5と回転駆動部6と電流供給部7と中央電極部8とヒータ9と直流電源10と制御部11とを備える。
【0013】
電解槽4は、底部を有する円筒形状を成す部材である。この電解槽4に電解溶媒液3が保持される。また、電解槽4は、導電性を有する材料で形成されている。この電解槽4は、直流電源10から電流が供給されることで、電解反応を生じさせる電極として機能するようになっている。つまり、還元の対象物2の電気化学反応を起こさせる作用電極として電解槽4が機能する。
【0014】
電解槽4を作用電極として対象物2をイオン化する電気溶解操作を行う場合において、対象物2の酸化還元電位より安定な酸化還元電位を有する物質を、電解槽4の材料として選択する。つまり、電解槽4は、対象物2よりも貴な酸化還元電位を有する材料で形成されている。このようにすれば、対象物2が電解溶媒液3に溶け出す電荷をかけたときに電解槽4が溶け出すことがなくなる。
【0015】
例えば、Fe、Ni、Mo、Taなどの金属、SUS、インコネル(登録商標)、ハステロイ(登録商標)などの合金、炭素繊維を用いた複合素材などを、電解槽4の材料として選択することができる。これらの材料は、対象物2の種類、使用する電解溶媒液3の種類、処理時の温度などにより適宜選択して使用できる。
【0016】
回転軸5は、電解槽4の底部に接続されている。この回転軸5により電解槽4が周方向に回転可能に支持されている。なお、回転軸5も導電性を有する材料で形成されている。
【0017】
回転駆動部6は、例えば、電動モータで構成される機器である。この回転駆動部6は、回転軸5を介して電解槽4に接続されている。回転駆動部6の駆動力により電解槽4が回転するようになっている。なお、回転駆動部6の駆動力で回転する部材は、電解槽4のみであり、中央電極部8とヒータ9とは回転せずに固定的に配置されている。
【0018】
電流供給部7は、例えば、スリップリングまたはロータリーコネクタなどの回転接続用コネクタ(電流導入端子)で構成される部品である。電流供給部7は、回転軸5に設けられている。この電流供給部7には、直流電源10が接続されている。直流電源10から電流供給部7を介して回転軸5に電流が流れ、さらに電解槽4に電流が流れる。
【0019】
中央電極部8は、導電性を有して棒状を成す部材である。この中央電極部8は、電解槽4の回転の中心位置であり、かつ電解槽4の底面(内面)から離間された位置に設けられている。この中央電極部8には、直流電源10が接続されている。中央電極部8は、直流電源10から電流が供給されることで、電解反応を生じさせる電極として機能するようになっている。
【0020】
第1実施形態では、作用電極としての電解槽4に対応する対極として中央電極部8が機能する。なお、対極を成す中央電極部8が、作用電極を成す電解槽4の内面から離間された位置に設けられているため、短絡が生じることがない。つまり、中央電極部8は、回転する電解槽4に対して電気的に絶縁された状態で設置する。
【0021】
ヒータ9は、電解槽4の周囲を囲み、電解槽4の内部の電解溶媒液3を加熱する電気炉である。特に、融点の高い電解溶媒液3を用いる場合にヒータ9が設けられる。なお、融点が常温程度の低いものである場合には、ヒータ9の構成を省略しても良い。
【0022】
直流電源10は、電解槽4と中央電極部8とに電流を供給する。なお、第1実施形態では、理解を助けるために、電極用の直流電源10のみを図示しているが、回転駆動部6およびヒータ9に対して電力を供給する電源(図示略)も設けられている。
【0023】
制御部11は、回転駆動部6とヒータ9と直流電源10とを制御する。つまり、制御部11は、電解精製装置1を統括的に制御する。
【0024】
本実施形態の制御部11は、プロセッサおよびメモリなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の電解精製方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0025】
第1実施形態では、中央電極部8が直流電源10の正極に接続されて陽極(アノード)となる。また、電解槽4が直流電源10の負極に接続されて陰極(カソード)となる。なお、電解反応の目的とする対象物2に応じて、陽極と陰極とを変更しても良い。例えば、中央電極部8を陰極とし、電解槽4を陽極としても良い。
【0026】
また、電解を行うときに、回転駆動部6を駆動させることにより、電解槽4を回転させる。電解槽4に保持されている電解溶媒液3は、電解槽4の回転とともに回転される。そして、電解槽4が回転することで生じる遠心力により、対象物2が電解槽4の内周面(内面)に接触するようになる。
【0027】
対象物2は、電解溶媒液3よりも比重が大きいため、この比重差を利用して充分な量の対象物2が、電解槽4の内周面に圧着され、かつ内周面に沿って堆積されるようになる。このように、粉状にされて個々の対象物2の質量が小さい場合でも、電解溶媒液3の液中で対象物2が浮遊拡散せずに、対象物2と作用電極(電解槽4)との電気的接続を維持できる。対象物2を電解槽4の内周面に安定的に接触させることで、電解における処理速度および電流効率などを向上させることができる。
【0028】
電解槽4は、高速で回転するため同時に電解溶媒液3も電解槽4と一緒に回転する。そのため、電解溶媒液3の液中に挿入される中央電極部8の設置位置は、電解溶媒液3の流動の影響を受け難い回転の中心位置にする。特に、中央電極部8にて析出物を生成させる操作を行う場合には、電解溶媒液3の流動の影響を受け難い位置に中央電極部8を配置することが望ましい。
【0029】
なお、電解槽4は、電解により対象物2から互いに密度が異なる第1生成物(例えば、還元物)と第2生成物(例えば、酸化物)とが生成された場合に、これら第1生成物と第2生成物とを遠心力により分離させる遠心分離機としても機能させることができる。
【0030】
次に、電解精製装置1が実行する電解精製方法について
図2のフローチャートを用いて説明する。この電解精製装置1の動作によって受動的に生じる作用を含めて説明する。なお、
図1を適宜参照する。
【0031】
図2に示すように、まず、ステップS11において、作業者は、電解溶媒液3よりも比重が大きい粒状を成す対象物2を含む電解溶媒液3を電解槽4に投入する。ここで、電解溶媒液3は電解槽4に保持される。なお、ヒータ9を動作させて電解溶媒液3の加熱を行っても良い。
【0032】
次のステップS12において、制御部11は、直流電源10から電解槽4と中央電極部8とに電流を供給する。ここで、電解槽4の内面が作用電極となり、中央電極部8が対極となる。
【0033】
次のステップS13において、制御部11は、回転駆動部6の駆動を開始する。この回転駆動部6の駆動力により電解槽4が回転を開始する。ここで、電解槽4を回転させたときに生じる遠心力により対象物2が電解槽4の内面に接触される。この電解槽4の回転と電解反応とを所定時間継続する。
【0034】
次のステップS14において、制御部11は、所定時間経過後、電解槽4の回転を停止させるとともに、直流電源10からの電流の供給を停止する。
【0035】
次のステップS15において、作業者は、電解槽4の内部で還元された対象物2(還元物)を取り出す。そして、処理を終了する。
【0036】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の電解精製装置1Aについて
図3を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0037】
第2実施形態の電解精製装置1Aは、対極としての中央電極部8を囲み、少なくとも一部がメッシュ状を成すガス拡散抑制部12を備える。
【0038】
ガス拡散抑制部12は、円筒形状を成す部材である。その中心軸に中央電極部8が配置される。ガス拡散抑制部12は、中央電極部8とともに電解溶媒液3に浸される。ガス拡散抑制部12の下部は、メッシュ状となっており、微細な多数の孔が設けられている。
【0039】
このようにすれば、対極としての中央電極部8の表面でガス13が発生した場合であっても、ガス拡散抑制部12の内部にガス13が保持される。電解槽4の回転により、電解溶媒液3が流動しても、ガス13が拡散されずに済むようになる。
【0040】
例えば、電解槽4の内周面に保持された対象物2が、金属物と、窒素または酸素との化合物である場合に、陰極(カソード)である電解槽4にて、対象物2に電子が与えられて還元が起こる。ここで、対象物2に電気化学的に結合している窒素または酸素などがイオンとなって分離される。なお、対象物2は、窒素または酸素の化合物から金属物に転換される。
【0041】
対象物2から分離されたイオンは、ガス拡散抑制部12のメッシュ状の部分を通過して、陽極(アノード)となる中央電極部8に到達する。このイオンは、中央電極部8で0価になりガス13が発生する。このときに発生したガス13が電解槽4の回転で電解溶媒液3の液中に拡散してしまうと、電解槽4の内周面(内面)で生成された金属物と再反応し、電解効率を低下させる原因となる。そこで、第2実施形態では、中央電極部8の周囲にガス拡散抑制部12を設けることで、ガス13をガス拡散抑制部12の内側に保持し、ガス13の拡散を抑制するようにし、電解効率が低下されないようにしている。
【0042】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の電解精製装置1Bについて
図4から
図7を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0043】
第3実施形態の制御部11は、電解が進行したときに電解槽4の回転を一旦停止して再び電解槽4を回転させる制御を行う。このようにすれば、電解が進行して対象物2から比重が異なる少なくとも2種類の物質が生じたときに、比重が軽い方の物質を電解溶媒液3に露出させることができる。
【0044】
図4に示すように、電解槽4の回転による遠心力で対象物2が電解槽4の内周面(内面)に堆積された場合に、電解溶媒液3に露出される部分が積極的に中央電極部8(対極)に対峙して還元反応が進んでしまう。
【0045】
例えば、対象物2が金属の酸化物14である場合に、電解還元反応がある程度進むと、還元された還元物15(金属物)と、残された酸化物14との2種類の物質が生じる。ここで、対象物2が電解槽4の内周面(内面)に堆積している場合には、この対象物2の表面側(電解溶媒液3に露出している側)は、還元物15で覆われてしまう。そして、未還元の酸化物14が還元物15に覆われてしまい、酸化物14の還元反応が進まなくなることがある。なお、還元物15は酸化物14よりも比重が重くなっている。つまり、電解槽4の内部で比重が軽い方の物質が重い方の物質に覆われて還元反応が進まなくなることがある。
【0046】
また、対象物2の粒子が微細の場合には、粒子間の空隙が小さく、作用電極としての電解槽4の内周面で分離したガス成分が、電解槽4の内周面から分離される経路を確保できなくなり、電解反応が終息することになる。
【0047】
図5に示すように、電解槽4の回転を一旦停止することで、遠心力が無くなり、電解槽4の内周面に堆積されていた酸化物14と還元物15との両方が、電解槽4の底面に一旦沈殿する。
【0048】
図6に示すように、酸化物14と還元物15との沈殿後に電解槽4を再び回転させることで、比重が軽い方の物質である酸化物14を電解溶媒液3に露出させることができる。このように、酸化物14と還元物15との比重差を利用して、比重が軽い方の物質である酸化物14を表面側に集積させることができる。そして、再び電解反応を継続させることができる。
【0049】
次に、第3実施形態の電解精製装置1Bが実行する電解精製方法について
図7のフローチャートを用いて説明する。この電解精製装置1の動作によって受動的に生じる作用を含めて説明する。なお、
図4から
図6を適宜参照する。
【0050】
図7に示すように、まず、ステップS21において、作業者は、電解溶媒液3よりも比重が大きい粒状を成す対象物2を含む電解溶媒液3を電解槽4に投入する。ここで、電解溶媒液3は電解槽4に保持される。なお、ヒータ9を動作させて電解溶媒液3の加熱を行っても良い。
【0051】
次のステップS22において、制御部11は、直流電源10から電解槽4と中央電極部8とに電流を供給する。ここで、電解槽4の内面が作用電極となり、中央電極部8が対極となる。
【0052】
次のステップS23において、制御部11は、回転駆動部6の駆動を開始する。この回転駆動部6の駆動力により電解槽4が回転を開始する。ここで、電解槽4を回転させたときに生じる遠心力により対象物2が電解槽4の内面に接触される。この電解槽4の回転と電解反応とを所定時間継続する。ここで、対象物2が金属の酸化物14である場合には、還元された還元物15と、残された酸化物14との2種類の物質が生じる。
【0053】
次のステップS24において、制御部11は、回転駆動部6の駆動を停止し、電解槽4の回転を一旦停止させる。ここで、遠心力が無くなり、電解槽4の内周面に堆積されていた酸化物14と還元物15との両方が、電解槽4の底面に一旦沈殿する。
【0054】
次のステップS25において、制御部11は、再び回転駆動部6の駆動を開始し、電解槽4の回転を再開する。なお、ステップS24からステップS25を複数回に亘って繰り返しても良い。
【0055】
次のステップS26において、制御部11は、所定時間経過後、電解槽4の回転を停止させるとともに、直流電源10からの電流の供給を停止する。
【0056】
次のステップS27において、作業者は、電解槽4の内部で還元された対象物2(還元物)を取り出す。そして、処理を終了する。
【0057】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の電解精製装置1Cについて
図8を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0058】
第4実施形態の電解槽4Cは、外容器16と、この外容器16の内側に着脱自在に取り付けられる内容器17とを備える。
【0059】
外容器16および内容器17は、底部を有する円筒形状を成す部材である。内容器17の外径は、外容器16の内径よりも若干小さくなっている。つまり、内容器17を外容器16の内部に挿入することができる。
【0060】
外容器16および内容器17は、作用電極となる導電性を有する材料で形成されている。また、回転軸5は、外容器16の底部に接続されている。この回転軸5により外容器16が周方向に回転可能に支持されている。
【0061】
第4実施形態では、直流電源10から電流供給部7を介して回転軸5に電流が流れ、さらに外容器16に電流が流れる。そして、外容器16から内容器17に電流が流れる。つまり、外容器16と内容器17とが同電位となる。内容器17は、直流電源10から電流が供給されることで、電解反応を生じさせる電極として機能するようになっている。つまり、還元の対象物2の電気化学反応を起こさせる作用電極として内容器17が機能する。
【0062】
また、電解溶媒液3は、外容器16に保持される。さらに、内容器17の底部は、メッシュ状を成している。つまり、内容器17の底部には、微細な多数の孔が設けられている。この内容器17の底部がメッシュ状であることで、対象物2を保持しつつ、電解溶媒液3が通過可能となっている。つまり、外容器16から内容器17を取り外すと、電解溶媒液3がろ過されて、対象物2のみを取り出すことができる。なお、電解により生成された生成物または溶解残差物を外容器16の内部に留めることができる。
【0063】
内容器17の上端部には、外容器16の上端部に係合される係合部18が設けられている。例えば、外容器16の上端部に周方向に並んだ複数の凹部または凸部が形成され、これらの凹部また凸部に内容器17の係合部18が係合される。そして、回転駆動部6の駆動力により外容器16が回転されると、この外容器16の回転とともに内容器17が回転されるようになっている。そして、外容器16および内容器17が回転することで生じる遠心力により、対象物2が内容器17の内周面(内面)に接触するようになる。対象物2を内容器17の内周面に安定的に接触させることで、電解における処理速度および電流効率などを向上させることができる。
【0064】
第4実施形態では、電解を終えたときに内容器17を外容器16から取り外す。このようにすれば、還元された対象物2を電解溶媒液3の液中から容易に取り出すことができる。
【0065】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態の電解精製装置1Dについて
図9を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0066】
第5実施形態の電解精製装置1Dは、電解槽4Dの内周面(内面)に設けられ、内側に向かって突出する邪魔板19を備える。
【0067】
邪魔板19は、水平方向に突出する板状を成し、その板面が水平方向および周方向に広がる部材となっている。さらに、複数の邪魔板19が電解槽4Dの内周面に上下方向に並んで設けられている。
【0068】
例えば、電解槽4が回転したときに生じる遠心力により、電解溶媒液3が電解槽4の内周面に押し付けられ、その液面の中央が凹状に変形してしまうことがある。このように、電解溶媒液3の液面が凹状になってしまうと、電解溶媒液3と対極である中央電極部8との接触面積が低下してしまう。つまり、中央電極部8が電解溶媒液3に挿入されている部分の寸法を確保できなくなる。また、遠心力を大きくすると、電解槽4の縁辺から電解溶媒液3が漏洩することにもなり得る。
【0069】
第5実施形態では、電解槽4の内周面に邪魔板19が設けられていることで、電解溶媒液3の液面が凹状に変形されることを抑制する。そして、電解溶媒液3と対極である中央電極部8との接触面積が低下してしまうことを抑制するようにしている。そのため、電解における処理速度および電流効率などを向上させることができる。
【0070】
また、邪魔板19が内容器17の内部で水平方向および周方向に広がるように設けられていることで、内容器17の内周面で電解溶媒液3がせり上がることを抑制し、電解溶媒液3の液面の高さを一定に保つことができる。そのため、邪魔板19が設けられていない場合よりも、電解槽4の回転速度を速めて遠心力を大きくすることができる。そして、より多くの対象物2を電解槽4の内周面に堆積させることができる。
【0071】
なお、第5実施形態の邪魔板19は、その板面が水平方向および径方向に広がるように設けられているが、その他の態様でも良い。例えば、邪魔板19が、その板面が垂直方向に広がるように設けられても良い。
【0072】
本実施形態に係る電解精製装置および電解精製方法を第1実施形態から第5実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0073】
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0074】
なお、本実施形態では、電解槽4の全体が導電性を有するものとなっているが、その他の態様であっても良い。例えば、電解槽4の下半分の電解溶媒液3が接触する部分のみが導電性を有するものであっても良い。
【0075】
なお、本実施形態では、電解槽4の全体が回転して遠心力を発生させる態様となっているが、その他の態様であっても良い。例えば、例えば、電解槽4の下半分の電解溶媒液3が接触する部分のみが回転して遠心力を発生させるものであっても良い。
【0076】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、電解槽の少なくとも一部を回転させて遠心力により対象物を電解槽の内面に接触させる回転駆動部を備えることにより、電解の処理効率を向上させることができる。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0078】
1(1A,1B,1C,1D)…電解精製装置、2…対象物、3…電解溶媒液、4(4C,4D)…電解槽、5…回転軸、6…回転駆動部、7…電流供給部、8…中央電極部、9…ヒータ、10…直流電源、11…制御部、12…ガス拡散抑制部、13…ガス、14…酸化物、15…還元物、16…外容器、17…内容器、18…係合部、19…邪魔板。