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特許7247071プラント制御装置、プラント制御方法、および発電プラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】プラント制御装置、プラント制御方法、および発電プラント
(51)【国際特許分類】
   F01K 23/10 20060101AFI20230320BHJP
   F01D 21/00 20060101ALI20230320BHJP
   F01K 13/02 20060101ALI20230320BHJP
   F01K 23/14 20060101ALI20230320BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
F01K23/10 B
F01D21/00 Z
F01K13/02 A
F01K23/14
F02C7/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019181647
(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公開番号】P2021055651
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390014568
【氏名又は名称】東芝プラントシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】アルズレイギ ムハマド アミン アッバス
(72)【発明者】
【氏名】当房 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】岩田 雄太
(72)【発明者】
【氏名】梶原 美珠
(72)【発明者】
【氏名】千葉 忍
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-180370(JP,A)
【文献】特開2004-60573(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0226932(US,A1)
【文献】特開2019-11721(JP,A)
【文献】国際公開第2018/082879(WO,A1)
【文献】特開2015-194086(JP,A)
【文献】特開2003-20913(JP,A)
【文献】特開2005-36685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01K 23/10
F01D 21/00
F01K 13/02
F01K 23/14
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を燃焼させる燃焼器と、
前記燃焼器からの燃焼ガスにより駆動されるガスタービンと、
前記ガスタービンからの排ガスの熱を用いて蒸気を生成する排熱回収ボイラと、
前記排熱回収ボイラからの前記蒸気により駆動される蒸気タービンと、
前記ガスタービンと連結された第1軸と、
前記蒸気タービンと連結された第2軸と、
前記第1軸の回転数が前記第2軸の回転数に追い付いたときに、前記第1軸と前記第2軸とを嵌合により結合させるクラッチと、
を備える発電プラントを制御するプラント制御装置であって、
前記発電プラントを停止させる際に、前記蒸気タービンを停止させて前記第2軸の回転数を定格回転数から降下させ始め、前記蒸気タービンの停止後に前記燃焼器の燃焼を継続しながら前記第1軸の回転数を前記定格回転数から降下させ始める第1停止制御部と、
前記第1軸の回転数が第1回転数に降下した場合に、前記燃焼器の燃料を遮断して前記ガスタービンを停止させる第2停止制御部であって、前記第1軸の回転数が前記第2軸の回転数に前記第1回転数以下の第2回転数で追い付いて前記クラッチが嵌合するように、前記ガスタービンを停止させる第2停止制御部と、
を備えるプラント制御装置。
【請求項2】
前記第1停止制御部は、前記クラッチが離脱している間に、前記第1軸の回転数を前記定格回転数から前記第1回転数に降下させる、請求項1に記載のプラント制御装置。
【請求項3】
前記第2回転数は前記第1回転数よりも低く、前記燃焼器の燃料が遮断された後に前記クラッチが嵌合する、請求項1または2に記載のプラント制御装置。
【請求項4】
前記第2回転数は前記第1回転数と同じであり、前記燃焼器の燃料が遮断されると同時に前記クラッチが嵌合する、請求項1または2に記載のプラント制御装置。
【請求項5】
前記第1停止制御部は、前記第2軸の回転数が第3回転数に降下したときに、前記第1軸の回転数を前記定格回転数から降下させ始める、請求項1から4のいずれか1項に記載のプラント制御装置。
【請求項6】
前記第3回転数は、前記第1回転数以下である、請求項5に記載のプラント制御装置。
【請求項7】
前記第3回転数は、前記第1回転数よりも高い、請求項5に記載のプラント制御装置。
【請求項8】
前記第1軸は、前記第1軸の共振周波数に依存する危険速度を有し、
前記第2回転数は、前記危険速度よりも低い、請求項1から7のいずれか1項に記載のプラント制御装置。
【請求項9】
前記危険速度と前記第2回転数との差は、200RPM以上である、請求項8に記載のプラント制御装置。
【請求項10】
燃料を燃焼させる燃焼器と、
前記燃焼器からの燃焼ガスにより駆動されるガスタービンと、
前記ガスタービンからの排ガスの熱を用いて蒸気を生成する排熱回収ボイラと、
前記排熱回収ボイラからの前記蒸気により駆動される蒸気タービンと、
前記ガスタービンと連結された第1軸と、
前記蒸気タービンと連結された第2軸と、
前記第1軸の回転数が前記第2軸の回転数に追い付いたときに、前記第1軸と前記第2軸とを嵌合により結合させるクラッチと、
を備える発電プラントを制御するプラント制御方法であって、
前記発電プラントを停止させる際に、前記蒸気タービンを停止させて前記第2軸の回転数を定格回転数から降下させ始め、前記蒸気タービンの停止後に前記燃焼器の燃焼を継続しながら前記第1軸の回転数を前記定格回転数から降下させ始め、
前記第1軸の回転数が第1回転数に降下した場合に、前記燃焼器の燃料を遮断して前記ガスタービンを停止させ、この際、前記第1軸の回転数が前記第2軸の回転数に前記第1回転数以下の第2回転数で追い付いて前記クラッチが嵌合するように、前記ガスタービンを停止させる、
ことを含むプラント制御方法。
【請求項11】
燃料を燃焼させる燃焼器と、
前記燃焼器からの燃焼ガスにより駆動されるガスタービンと、
前記ガスタービンからの排ガスの熱を用いて蒸気を生成する排熱回収ボイラと、
前記排熱回収ボイラからの前記蒸気により駆動される蒸気タービンと、
前記ガスタービンと連結された第1軸と、
前記蒸気タービンと連結された第2軸と、
前記第1軸の回転数が前記第2軸の回転数に追い付いたときに、前記第1軸と前記第2軸とを嵌合により結合させるクラッチと、
を備える発電プラントであって、
前記発電プラントを停止させる際に、前記蒸気タービンを停止させて前記第2軸の回転数を定格回転数から降下させ始め、前記蒸気タービンの停止後に前記燃焼器の燃焼を継続しながら前記第1軸の回転数を前記定格回転数から降下させ始める第1停止制御部と、
前記第1軸の回転数が第1回転数に降下した場合に、前記燃焼器の燃料を遮断して前記ガスタービンを停止させる第2停止制御部であって、前記第1軸の回転数が前記第2軸の回転数に前記第1回転数以下の第2回転数で追い付いて前記クラッチが嵌合するように、前記ガスタービンを停止させる第2停止制御部と、
をさらに備える発電プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プラント制御装置、プラント制御方法、および発電プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼器と、ガスタービンと、排熱回収ボイラと、蒸気タービンとを組み合わせて構成するコンバインドサイクル(C/C)発電プラントが知られている。燃焼器は、燃料を燃焼させて燃焼ガスを排出し、ガスタービンは、燃焼器からの燃焼ガスにより駆動される。排熱回収ボイラは、ガスタービンの排ガスから熱回収して蒸気を生成し、蒸気タービンは、排熱回収ボイラが生成する蒸気により駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-148002号公報
【文献】特開平2-308903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リジッド結合タイプのC/C発電プラントでは、ガスタービンと蒸気タービンとが同じ回転軸に連結されている。一方、クラッチ結合タイプのC/C発電プラントでは、ガスタービンが第1回転軸に連結され、蒸気タービンが第2回転軸に連結されており、第1回転軸がクラッチにより第2回転軸と結合されまたは切り離される。具体的には、クラッチの嵌合により第1回転軸が第2回転軸と結合され、クラッチの離脱により第1回転軸が第2回転軸と切り離される。なお、発電機は一般に、ガスタービンと共に第1回転軸に連結されている。
【0005】
クラッチ結合タイプのC/C発電プラントの停止方法は、リジッド結合タイプのC/C発電プラントの停止方法とは異なっている。一般に、クラッチ結合タイプのC/C発電プラントを停止させる際には、クラッチが離脱した後に蒸気タービンの回転降下を開始し、その後にガスタービンの回転降下を開始する。この場合、ガスタービンの回転降下は蒸気タービンの回転降下よりも速いため、やがてガスタービンの回転数が蒸気タービンの回転数に追い付き、クラッチが再び嵌合する。
【0006】
クラッチが嵌合すると、ガスタービンと蒸気タービンは結合された状態で回転降下するため、ガスタービンは、速く回転降下することを妨げられ、ゆっくりと回転降下することになる。そのため、ガスタービンの回転数が、燃焼器の燃料を遮断する回転数に降下するまでの期間が長くなり、燃焼器の燃料を遮断するタイミングが遅れる。その結果、燃焼器は、燃料が遮断されるまでの長い期間、火炎を保ち続けることになり、燃料が無駄に消費されてしまう。
【0007】
そこで、本発明の実施形態は、発電プラントを停止させる際の燃料の無駄を低減することが可能なプラント制御装置、プラント制御方法、および発電プラントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一の実施形態によれば、プラント制御装置は、燃料を燃焼させる燃焼器と、前記燃焼器からの燃焼ガスにより駆動されるガスタービンと、前記ガスタービンからの排ガスの熱を用いて蒸気を生成する排熱回収ボイラと、前記排熱回収ボイラからの前記蒸気により駆動される蒸気タービンと、前記ガスタービンと連結された第1軸と、前記蒸気タービンと連結された第2軸と、前記第1軸の回転数が前記第2軸の回転数に追い付いたときに、前記第1軸と前記第2軸とを嵌合により結合させるクラッチと、を備える発電プラントを制御する。前記装置は、前記発電プラントを停止させる際に、前記蒸気タービンを停止させて前記第2軸の回転数を定格回転数から降下させ始め、前記蒸気タービンの停止後に前記燃焼器の燃焼を継続しながら前記第1軸の回転数を前記定格回転数から降下させ始める第1停止制御部を備える。前記装置はさらに、前記第1軸の回転数が第1回転数に降下した場合に、前記燃焼器の燃料を遮断して前記ガスタービンを停止させる第2停止制御部であって、前記第1軸の回転数が前記第2軸の回転数に前記第1回転数以下の第2回転数で追い付いて前記クラッチが嵌合するように、前記ガスタービンを停止させる第2停止制御部を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の発電プラントの構成を示す模式図である。
図2】第1実施形態のプラント停止方法を示すフローチャートである。
図3】第1実施形態のプラント停止方法を説明するためのトレンドグラフである。
図4】第2実施形態のプラント停止方法を説明するためのトレンドグラフである。
図5】第3実施形態のプラント停止方法を説明するためのトレンドグラフである。
図6】比較例の発電プラントの構成を示す模式図である。
図7】比較例のプラント停止方法を示すフローチャートである。
図8】比較例のプラント停止方法を説明するためのトレンドグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1から図8では、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
(比較例)
以下、比較例のプラント構成やプラント停止方法について説明する。本比較例のプラント構成は、クラッチ結合タイプに相当し、本比較例のプラント停止方法は、リジッド結合タイプのプラント停止方法をクラッチ結合タイプに当てはめたものに相当する。リジッド結合タイプでは、ガスタービンと蒸気タービンがクラッチによらずに同じ回転軸に連結されている。
【0012】
(1)比較例のプラント構成
図6は、比較例の発電プラント100の構成を示す模式図である。
【0013】
図6の発電プラント100は、発電プラント100の動作を制御するプラント制御装置101を備え、さらには、ガスタービン(GT)102と、蒸気タービン(ST)103と、排熱回収ボイラ104と、MCV弁(加減弁)105と、燃料調節弁106と、圧縮機107と、燃焼器108と、蒸発器109と、ドラム110と、過熱器111と、タービンバイパス調節弁112と、復水器113と、循環水ポンプ114と、海水115の取込部および排出部と、燃料116の供給部と、発電機117と、第1回転軸118と、第2回転軸119と、クラッチ120と、第1検出用歯車121と、第2検出用歯車122と、蒸気配管123と、主配管124と、バイパス配管125と、タービン排気管126と、発電機遮断器127とを備えている。発電機遮断器127は、送電線128を介して系統グリッド129と接続されている。図6の発電プラント100はさらに、火炎検出器FD1と、GT回転数検出器SP1と、ST回転数検出器SP2と、MWトランスデューサMW-Trとを備えている。この発電プラント100は、ガスタービン102と蒸気タービン103がクラッチ120の嵌合により結合される「クラッチ結合タイプの一軸型コンバインドサイクル発電プラント」である。
【0014】
最初に、クラッチ120について説明する。クラッチ120の実際の構造は複雑であるが、図6はこれを模式化して図示している。このクラッチ120は、一般にSSSクラッチ(Synchro-Self-Shifting)と呼ばれるタイプであり、ガスタービン102および発電機117と連結された第1回転軸118と、蒸気タービン103と連結された第2回転軸119とを結合することや、第1回転軸118と第2回転軸119とを切り離すことが可能である。前者の場合、クラッチ120は嵌合の状態にあり、後者の場合、クラッチ120は離脱の状態にある。これら嵌合や離脱は、プラント制御装置101が関与して生じるものではない。SSSクラッチの名前通り、第2回転軸119の回転数が第1回転軸118の回転数に到達(同期、Synchro)すると、遠心力の作用でクラッチ120が自動的に嵌合し、第2回転軸119の回転数が第1回転軸118より低下すると、クラッチ120が自動的に離脱する。
【0015】
発電プラント100のプラント起動時とプラント停止時には、クラッチ120は離脱しており、第1回転軸118の回転数と第2回転軸119の回転数が異なる運転状況が生じる。そこで、第1回転軸118には第1検出用歯車121が設けられており、第1検出用歯車121に近接してGT回転数検出器SP1が設置されている。GT回転数検出器SP1は、第1回転軸118の回転数(ガスタービン102および発電機117の回転数)を検出し、回転数の検出結果をプラント制御装置101に出力する。また、第2回転軸119には第2検出用歯車122が設けられており、第2検出用歯車122に近接してST回転数検出器SP2が設置されている。ST回転数検出器SP2は、第2回転軸119の回転数(蒸気タービン103の回転数)を検出し、回転数の検出結果をプラント制御装置101に出力する。
【0016】
発電プラント100がプラント起動を終えて通常の運転状態になると、クラッチ120は嵌合しており、GT回転数検出器SP1とST回転数検出器SP2が検出する回転数は同じになる。この場合、ガスタービン102と蒸気タービン103は実質的に1本の回転軸に結合されている状態にあるので、発電機117はガスタービン102と蒸気タービン103の両方により駆動されて発電を行う。
【0017】
燃料調節弁106は、燃料配管上に設けられている。燃料調節弁106を開弁すると、燃料配管から燃焼器108に燃料116が供給される。圧縮機107は、その入口から空気を導入し、燃焼器108に圧縮空気を供給する。燃焼器108は、燃料116を圧縮空気中の酸素と共に燃焼させ、高温・高圧の燃焼ガスを発生させる。火炎検出器FD1は、燃焼器108内の火炎を検出し、火炎の検出結果をプラント制御装置101に出力する。
【0018】
ガスタービン102は、燃焼器108からの燃焼ガスにより駆動されることで、第1回転軸118を回転させる。発電機117は、第1回転軸118に接続されており、第1回転軸118の回転を利用して発電を行う。発電機117が発電した電力は、発電機遮断器127やMWトランスデューサMW-Trが設けられた送電線128に送られ、送電線128を介して系統グリッド129に送電される。このとき、MWトランスデューサMW-Trは、発電機117の電力(出力)を測定し、この測定した電力量をプラント制御装置101に送信する。
【0019】
ガスタービン102から排出されたガスタービン排ガスA1は、排熱回収ボイラ104に送られる。排熱回収ボイラ104は、ガスタービン排ガスA1の熱を用いて主蒸気A2を生成する。蒸発器109、ドラム110、および過熱器111は、排熱回収ボイラ104内に設けられており、排熱回収ボイラ104の一部を構成している。ドラム110内の水は、蒸発器109に送られ、蒸発器109内でガスタービン排ガスA1により加熱されることで飽和蒸気となる。飽和蒸気は、過熱器111に送られ、過熱器111内でガスタービン排ガスA1により過熱されることで過熱蒸気となる。排熱回収ボイラ104により生成された過熱蒸気は、主蒸気A2として蒸気配管123に排出される。
【0020】
蒸気配管123は、主配管124とバイパス配管125とに分岐している。主配管124は蒸気タービン103に接続されており、バイパス配管125は復水器113に接続されている。MCV弁105は、主配管124に設けられている。タービンバイパス調節弁112は、バイパス配管125に設けられている。
【0021】
MCV弁105を開弁すると、主配管124からの主蒸気A2が蒸気タービン103に供給される。蒸気タービン103は、主蒸気A2により駆動されることで第2回転軸119を回転させる。クラッチ120が嵌合している状態では、蒸気タービン103はガスタービン102と共に1本の回転軸を回転させるので、発電機117は、ガスタービン102と蒸気タービン103の両方により駆動される。蒸気タービン103を駆動した主蒸気A2は、蒸気タービン103から排出されて排気蒸気となり、タービン排気管126を通じて復水器113に送られる。
【0022】
一方、タービンバイパス調節弁112を開弁すると、バイパス配管125からの主蒸気A2が、蒸気タービン103をバイパスして復水器113に送られる。復水器113に送られた主蒸気A2や前述の排気蒸気は循環水ポンプ114が供給する海水115により冷却されて凝縮する。
【0023】
プラント制御装置101は、発電プラント100の起動や停止など、発電プラント100の様々な運転を制御する。例えば、プラント制御装置101は、燃料調節弁106、MCV弁105、およびタービンバイパス調節弁112を制御して、ガスタービン102や蒸気タービン103や排熱回収ボイラ104の運転操作を行う。以下、本比較例の発電プラント100の停止方法について説明する。
【0024】
(2)比較例のプラント停止方法
図7は、比較例のプラント停止方法を示すフローチャートである。
【0025】
このフローチャートを実現するのは、プラント制御装置101の内部に収納されるソフトウェアである。なお、以下の説明中に使用される具体的な数値は、説明上の便宜と容易な理解のために記載する一例である。また後述の図8のトレンドグラフも併せて参照すれば、より容易な理解の一助となる。
【0026】
発電プラント100の停止(プラント停止)が開始される前、発電プラント100は通常運転中であり、クラッチ120は嵌合中である。通常運転中においては、ガスタービン102は定格出力の200MWで発電運転しており、蒸気タービン103も定格出力の100MWで発電運転しており、両タービンは300MWの合計出力(以下、コンバインド出力と呼ぶ)で運転中である。
【0027】
プラント停止が開始されると(ステップS100)、燃料調節弁106の開度を一定レートで低減させてガスタービン(GT)出力降下を行い(ステップS101)、コンバインド出力は300MWから次第に低減していく。プラント停止で重視されることは、極力ガスタービン102と蒸気タービン103に負担が少なくなるように、停止操作を行うことである。ステップS101のように燃料調節弁106の開度を一定レートで低減させると、燃料116の量は徐々に減少する。これにより、例えばガスタービン排ガスA1の温度も徐々に低下して、後にガスタービン102を停止する際に発生する熱応力も軽減される。ガスタービン排ガスA1の保有する熱エネルギーが低下すると主蒸気A2の熱量(温度、圧力、流量)も低下するので、蒸気タービン(ST)出力降下が行われ(ステップS102)、その発電量は100MWから次第に低減していく。
【0028】
MWトランスデューサMW-Trが検出するコンバインド出力が60MWまで低下したとき(ステップS104 YES)、ガスタービン出力降下を中断する(ステップS105)。加えて、燃料調節弁106の開度の低減操作も中断されて、ガスタービン102は一定の出力状態に保持される。このとき、60MWのコンバインド出力の内訳は次のとおりである。すなわち、ガスタービン102は25MWで保持され、蒸気タービン103は35MWで保持され、合計で60MWの発電を行っている。
【0029】
なお、コンバインドサイクル発電プラントが有する一般的な特徴であるが、低出力状態ではガスタービン出力よりも蒸気タービン出力の方が大きくなるヒートバランス(熱平衡)を示す。この理由は、ガスタービン102は低出力においても、発電の仕事に加えて圧縮機107を駆動するための仕事に相当量の燃料116が供給されているからである。このため、ガスタービン排ガスA1は高い熱量の主蒸気A2を発生させるので、蒸気タービン103の出力の方が大きくなる。
【0030】
ガスタービン102を25MW一定の出力状態で保持している間に、蒸気タービン103の停止操作を行い(ステップS106)、その結果、蒸気タービン103の発電量は35MWから低減していく。この停止操作では、MCV弁105の開度を一定レートで低減させて徐々に蒸気タービン103の出力を降下させて、最終的にMCV弁105は全閉になる。MCV弁105が全閉したとき蒸気タービン103は停止完了となり、その発電量は零となるので、コンバインド出力はガスタービン出力だけの25MWになる。このとき、MCV弁105が閉弁されるに従い、余剰となった主蒸気A2はタービンバイパス弁112を通じて復水器113に流入させて逃がし、ドラム110も圧力を一定に保持するように操作される。
【0031】
ステップS106の前のステップS105でガスタービン出力を25MWで保持するが、その保持出力25MWは次の視点で選択される必要がある。すなわち、i)もし25MW以下にガスタービン出力を低下させると、ガスタービン排ガスA1の温度が低温になり過ぎ、その結果、冷たい主蒸気A2が蒸気タービン103に流入して熱応力が発生する等、蒸気タービン103の運転に支障がでる。ii)逆に、25MW以上のガスタービン出力を維持しながら蒸気タービン103を停止すると、未だ主蒸気A2は高い熱量を保有しており、タービンバイパス弁112を通じて復水器113に流入する主蒸気A2は復水器113にとって負担となる。具体的にはこの高い熱量により、復水器113の出入り口の海水温度差が環境保全上で許容される温度(一般には7℃)以上になる問題を呈する。保持出力25MWは、このi)とii)のトレードオフとして選定する必要がある。
【0032】
蒸気タービン103は60HZ対応のタービンであり、その定格回転数は3600RPM(Revolutions Per Minute)である。蒸気タービン103が停止完了(MCV弁105が全閉)すると、蒸気タービン103を駆動するトルクが無くなり、蒸気タービン103の回転数(以下、ST回転数とも呼ぶ)は3600RPMから降下を始める(ステップS107)。そして、まさに蒸気タービン103の回転数がガスタービン102の回転数(以下、GT回転数とも呼ぶ)より僅かに低下した瞬間に、クラッチ113は自動的に離脱する(ステップS108)。その後、ST回転数は更に降下していくが、蒸気タービン103の有する大きな慣性により、ST回転数はゆっくりと緩慢なレートで降下する。
【0033】
蒸気タービン103が停止完了した後、燃料調節弁106の開度を一定レートで低減させてガスタービン出力降下を再開し(ステップS109)、その発電量は25MWから次第に低減していく。MWトランスデューサMW-Trが検出するガスタービン出力が5MWまで低下したとき(ステップS110 YES)、発電機遮断器127を開放して解列する(ステップS111)。解列したときに発電機MWは零になり、コンバインド出力も零になる。なお、本比較例のプラント停止方法は、リジッド結合タイプの発電プラントの停止方法に準じた方法なので、蒸気タービン103が停止完了した直後に、ガスタービン出力降下を再開する。これが、後述する第1実施形態と異なる手順として指摘される点である。解列する前のガスタービン102の回転数は定格3600RPMであるが、解列後は3600RPM以下に降下を開始する。しかし、このときガスタービン102には圧縮機107を駆動するために相当量の燃料116が未だ供給されており、燃料116が多量に供給された状態のガスタービン102をここでいきなり停止することは出来ない。そこで、更に燃料調節弁106の開度を低減させて(ステップS112)、ガスタービン102の回転数を降下させる(ステップS113)。GT回転降下中のガスタービン102も圧縮機107を駆動するので、この圧縮機はいわばブレーキの作用を有し、GT回転数は高速のレートで迅速に降下する。
【0034】
やがて、高速のレートで迅速に降下するGT回転数は、緩慢なレートで降下するST回転数に追い付く。具体的には、GT回転数が3000RPMまで低下したとき(ステップS114 YES)、両タービンの回転数は一致し(ステップS115 YES)、このときクラッチ120は再び嵌合する(ステップS116)。そして、結合状態のガスタービン102と蒸気タービン103は、3000PMから一緒になって回転降下を行う(ステップS117)。この結合状態での回転数を、以下「GT・ST回転数」と呼ぶ。GT・ST回転数は、それまでの両タービンの回転数の降下レートの中間の値、すなわちGT回転数より遅い降下レートであり、且つST回転数より速い降下レートで降下する。
【0035】
GT回転数検出器SP1が検出するGT・ST回転数が1200RPMまで低下したとき(ステップS118 YES)、燃料調節弁106は充分に低開度となり、燃料116も小量となるので、ここでガスタービン102を停止し(ステップS119)、燃料調節弁106は閉止する。これにより、燃料116は遮断されて零になる。GT・ST回転数は更に低下して最終的には極低回転でターニング運転に入り(ステップS120)、プラント停止の操作は完了する(ステップS121)。
【0036】
図8は、比較例のプラント停止方法を説明するためのトレンドグラフあり、本比較例のプラント停止方法をより直截に可視化するために用意されたものである。
【0037】
上記と重複するがこれを簡単に説明すれば、プラント停止が開始される前、コンバインド出力は300MWで運転中である。プラント停止が開始されると、燃料116を所定レートで低減させて、コンバインド出力は300MWから次第に低減していく。
【0038】
コンバインド出力が60MW(ガスタービン出力が25MW)まで低下したとき、燃料116の低減を一旦中断する。そして、蒸気タービン(ST)103の停止を開始する。蒸気タービン103の停止が完了すると、クラッチ120が離脱して、ST回転数は3600RPMから降下を始める。それと同時に、ガスタービン出力降下を再開し、ガスタービン出力は25MWから徐々に低下し、5MWまで低下したときに解列する。符号T3は、コンバインド出力が25MWから5MWに低下するまでの時間を表す。
【0039】
解列後のGT回転数は3600RPMから高速のレートで降下して、3000RPMにまで低下したときST回転数に追い付き、両タービンの回転数は一致し、このときクラッチ120は再び嵌合する。
【0040】
このクラッチ120の嵌合以後のGT回転数(GT・ST回転数)は、それまでのGT回転数より遅い降下レートとなる。その結果、GT回転数が3600RPMから1200RPMに低下するまでに長い時間(T1)を要する。GT回転数が1200RPMまで低下したとき燃料116を遮断し、ガスタービン102を停止する。その後、クラッチ120が嵌合した状態で、両タービンはゆっくりと回転降下してターニング運転に入る。
【0041】
(3)比較例の問題1
図8が端的に示すように、比較例のプラント停止方法は、解列後にGT回転数が未だ3000RPMという高い回転数にあるときにクラッチが再嵌合する方法であり、燃料がまだ供給されている最中にクラッチが再嵌合する方法である。この結果、このクラッチ嵌合以後のGT回転数は、蒸気タービンが有する大きな慣性の影響を受けて、緩慢なレートで降下することを余儀なくされて、1200RPMに到達するまでT1という長時間を要する。このことは、燃料が発電に寄与することなく無駄に消費される時間(T1)が長く継続するという問題を生じる。
【0042】
(4)比較例の問題2
クラッチ嵌合が行われるとき、第1回転軸118と第2回転軸119は物理的に互いを「揺る」ようにして結合するので、ガスタービンや発電機へのショックは避けられない。それは具体的には、ガスタービンや発電機の軸受け振動の増大となって観測され、特にクラッチに近い発電機軸受けの振動発生が顕著である。この振動発生は、発電プラントの停止過程のみならず、発電プラントの起動過程においても起こる事象ではある。しかし、クラッチ嵌合が必ず定格回転数(3600RPM)で行われるプラント起動に対し、プラント停止では次に述べる危険速度で行われる可能性があり、その場合問題は深刻化する。以下、危険速度とクラッチ嵌合の係わりにつき説明する。
【0043】
一般に、回転軸は共振による大きな振動が発生する危険速度(危険回転数)を有し、発電プラントのタービンや発電機の回転軸もその例外ではない。危険速度は、当該回転軸の固有振動による共振が発生する速度(回転数)であり、当該回転軸の固有振動数(共振振動数)に依存する。よって、危険速度の数値は発電プラントの回転軸毎に異なるが、おおよそ定格回転数の70%から80%の回転数域になることが多い。理由は、回転軸を設計する際に、危険速度の1.2倍から1.3倍程度に定格回転数を定めることが多いからである。
【0044】
以下、比較例の回転軸(第1回転軸118と第2回転軸119の結合体)が定格回転数の80%に危険速度を有する事例について説明する。この80%の回転数は、2880RPM(3600×0.8)であり、クラッチ120が嵌合する回転数である3000RPMは、2880RPMの充分近傍にある。すなわち、比較例のクラッチ120が嵌合する回転数は、危険速度域内にあるといえる。換言すれば、比較例のプラント停止方法では、大きな振動発生を伴う危険速度の生じるタイミングとクラッチ嵌合のタイミングとが重なり、軸受け振動を助長するので、最悪の場合は設備を損壊させる惧がある。この設備損壊を防止するため、軸受け振動が所定の閾値を超えたことを検知すると緊急ガスタービン停止による保護措置を入れることが考えられる。しかし、これでは安定したプラント停止方法とはならない。
【0045】
(第1実施形態)
(1)第1実施形態のプラント構成
図1は、第1実施形態の発電プラント100aの構成を示す模式図である。
【0046】
図1の発電プラント100aは、発電プラント100aの動作を制御するプラント制御装置101aを備えている。図1の発電プラント100aはさらに、図6の発電プラント100と同様の機能を有するガスタービン(GT)102と、蒸気タービン(ST)103と、排熱回収ボイラ104と、MCV弁(加減弁)105と、燃料調節弁106と、圧縮機107と、燃焼器108と、蒸発器109と、ドラム110と、過熱器111と、タービンバイパス調節弁112と、復水器113と、循環水ポンプ114と、海水115の取込部および排出部と、燃料116の供給部と、発電機117と、第1回転軸118と、第2回転軸119と、クラッチ120と、第1検出用歯車121と、第2検出用歯車122と、蒸気配管123と、主配管124と、バイパス配管125と、タービン排気管126と、発電機遮断器127とを備えている。図1の発電機遮断器127は、図6の発電機遮断器127と同様に、送電線128を介して系統グリッド129と接続されている。図1の発電プラント100aはさらに、図6の発電プラント100と同様の機能を有する火炎検出器FD1と、GT回転数検出器SP1と、ST回転数検出器SP2と、MWトランスデューサMW-Trとを備えている。この発電プラント100aは、ガスタービン102と蒸気タービン103がクラッチ120の嵌合により結合される「クラッチ結合タイプの一軸型コンバインドサイクル発電プラント」である。
【0047】
本実施形態のプラント制御装置101aは、比較例のプラント制御装置101と同様の機能を有しているが、比較例のプラント制御装置101とは異なる機能も有している。一方、図1に示す発電プラント100aのその他の構成要素の機能は、図6に示す発電プラント100の対応する構成要素の機能と同様である。
【0048】
(2)第1実施形態のプラント停止方法
図2は、第1実施形態のプラント停止方法を示すフローチャートである。
【0049】
このフローチャートを実現するのは、プラント制御装置101aの内部に収納されるソフトウェアである。なお、以下の説明中に使用される具体的な数値は、説明上の便宜と容易な理解のために記載する一例である。また後述の図3のトレンドグラフも併せて参照すれば、より容易な理解の一助となる。
【0050】
発電プラント100aの停止(プラント停止)が開始される前、発電プラント100aは通常運転中であり、クラッチ120は嵌合中である。通常運転中においては、ガスタービン102は定格出力の200MWで発電運転しており、蒸気タービン103も定格出力の100MWで発電運転しており、両タービンは300MWの合計出力(コンバインド出力)で運転中である。
【0051】
プラント停止が開始されると(ステップS200)、燃料調節弁106の開度を一定レートで低減させてガスタービン(GT)出力降下を行い(ステップS201)、コンバインド出力は300MWから次第に低減していく。プラント停止で重視されることは、極力ガスタービン102と蒸気タービン103に負担が少なくなるように、停止操作を行うことである。ステップS201のように燃料調節弁106の開度を一定レートで低減させると、燃料116の量は徐々に減少する。これにより、例えばガスタービン排ガスA1の温度も徐々に低下して、後にガスタービン102を停止する際に発生する熱応力も軽減される。ガスタービン排ガスA1の保有する熱エネルギーが低下すると主蒸気A2の熱量(温度、圧力、流量)も低下するので、蒸気タービン(ST)出力降下が行われ(ステップS202)、その発電量は100MWから次第に低減していく。
【0052】
MWトランスデューサMW-Trが検出するコンバインド出力が60MWまで低下したとき(ステップS204 YES)、ガスタービン出力降下を中断する(ステップS205)。加えて、燃料調節弁106の開度の低減操作も中断されて、ガスタービン102は一定の出力状態に保持される。このとき、60MWのコンバインド出力の内訳は次のとおりである。すなわち、ガスタービン102は25MWで保持され、蒸気タービン103は35MWで保持され、合計で60MWの発電を行っている。
【0053】
ガスタービン102を25MW一定の出力状態で保持している間に、蒸気タービン103の停止操作を行い(ステップS206)、その結果、蒸気タービン103の発電量は35MWから低減していく。この停止操作では、MCV弁105の開度を一定レートで低減させて徐々に蒸気タービン103の出力を降下させて、最終的にMCV弁105は全閉になる。MCV弁105が全閉したとき蒸気タービン103は停止完了となり、その発電量は零となるので、コンバインド出力はガスタービン出力だけの25MWになる。このとき、MCV弁105が閉弁されるに従い、余剰となった主蒸気A2はタービンバイパス弁112を通じて復水器113に流入させて逃がし、ドラム110も圧力を一定に保持するように操作される。
【0054】
なお、ステップS206の前のステップS205でガスタービン出力を25MWで保持する理由は、比較例のステップS105の場合と同じであり、説明は省略する。
【0055】
蒸気タービン103は60HZ対応のタービンであり、その定格回転数は3600RPMである。蒸気タービン103が停止完了(MCV弁105が全閉)すると、蒸気タービン103を駆動するトルクが無くなり、蒸気タービン103の回転数(ST回転数)は3600RPMから降下を始める(ステップS207)。そして、まさに蒸気タービン103の回転数がガスタービン102の回転数(GT回転数)より僅かに低下した瞬間に、クラッチ113は自動的に離脱する(ステップS208)。その後、ST回転数は更に降下していくが、蒸気タービン103の有する大きな慣性により、ST回転数はゆっくりと緩慢なレートで降下する。
【0056】
以上のプラント停止手順は、比較例と同じである。本実施形態のプラント停止手順は、以下の点で比較例と相違する。
【0057】
ST回転数が3600RPMから降下している間も、ガスタービン102の出力は25MWで保持する。そして、ST回転数検出器SP2が検出するST回転数が1200RPMまで低下したとき(ステップS209 YES)、ガスタービン出力降下を再開する(ステップS210)。ガスタービン出力降下を再開すると、ガスタービンの発電量は25MWから次第に低減していく。MWトランスデューサMW-Trが検出するガスタービン出力が5MWまで低下したとき(ステップS211 YES)、発電機遮断器127を開放して解列する(ステップS212)。解列したときに発電機MWは零になり、コンバインド出力も零になる。
【0058】
解列前のGT回転数は定格3600RPMであるが、解列後のGT回転数は3600RPM以下に降下を開始する。しかし、このときガスタービン102には圧縮機107や燃焼器108を駆動するために相当量の燃料116が未だ供給されており、更に燃料調節弁106の開度を低減させて(ステップS213)、GT回転数を更に降下させる(ステップS214)。GT回転降下中のガスタービン102も圧縮機107を駆動するので、この圧縮機107はいわばブレーキの作用を有し、GT回転数は比較的高速のレートで1200RPMに向けて迅速に降下する。このとき、クラッチ120は離脱中なので、蒸気タービン103の有する大きな慣性の影響を受けることなく、ガスタービン102は単独で速やかに1200RPMに回転降下する。これが比較例と相違する。プラント制御装置101aがステップS206~S214の処理を行う機能は、第1停止制御部の一例である。また、ステップS209の回転数「1200RPM」は、第3回転数の一例である。
【0059】
GT回転数検出器SP1が検出するGT回転数が1200RPMまで低下したとき(ステップS215 YES)、燃料調節弁106は充分に低開度となり、燃料116も小量となるので、ここでガスタービン102を停止する(ステップS216)。このとき燃料調節弁106は閉止し、燃料116は遮断されて零になる。このようにGT回転数が1200RPMに低下してからガスタービン102を停止する理由は、前述するとおり、燃料116の量を充分に小さくしてガスタービン102の排ガス温度も低温にして、熱応力等の面でガスタービン102に大きな負担とならないようにするためである。本実施形態では、ステップS216の前まで燃焼器108の燃焼が継続され、ステップS216で燃焼器108の燃焼116が遮断される。ステップS215の回転数「1200RPM」は、第1回転数の一例である。
【0060】
ガスタービン102を停止した後も、GT回転数は高速のレートで降下する。そして、GT回転数が900RPMにまで低下したとき(ステップS217 YES)、GT回転数は、緩慢なレートで降下するST回転数に追い付き、両タービンの回転数は一致する(ステップS218 YES)。このときクラッチ120は再び嵌合する(ステップS219)。プラント制御装置101aがステップS215~S219の処理を行う機能は、第2停止制御部の一例である。また、ステップS217の回転数「900RPM」は、第2回転数の一例である。
【0061】
そして、結合状態のガスタービン102と蒸気タービン103は、900PMから一緒になって回転降下を行う(ステップS220)。この結合状態での回転数を、上述のように「GT・ST回転数」と呼ぶ。GT・ST回転数の降下レートは、それまでのGT回転数の降下レートとST回転数の降下レートの中間のレートとなる。GT・ST回転数は更に低下して最終的には極低回転でターニング運転に入り(ステップS221)、プラント停止の操作は完了する(ステップS222)。GT・ST回転数は、900PMから緩慢なレートで降下するが、既にガスタービン102は停止状態にあり、この運転域で回転降下が遅れても大きな問題は生じない。
【0062】
図3は、第1実施形態のプラント停止方法を説明するためのトレンドグラフであり、本実施形態のプラント停止方法をより直截に可視化するために用意されたものである。
【0063】
上記と重複するがこれを簡単に説明すれば、プラント停止が開始される前、コンバインド出力は300MWで運転中である。プラント停止が開始されると、燃料116を所定レートで低減させて、コンバインド出力は300MWから次第に低減していく。
【0064】
コンバインド出力が60MW(ガスタービン出力が25MW)まで低下したとき、燃料116の低減を一旦中断する。そして、蒸気タービン(ST)103の停止を開始する。蒸気タービン103の停止が完了すると、クラッチ120が離脱して、ST回転数は3600RPMから降下を始める。このとき、ST回転数はゆっくりと緩慢なレートで降下していき、ST回転数が3600RPMから1200RPMに低下するまでに時間(T4)を要する。
【0065】
ST回転数が1200RPM(第3回転数)まで低下したとき、ガスタービン出力降下を再開する。ガスタービン出力降下を再開すると、ガスタービン出力は25MWから徐々に低下し、5MWまで低下したとき解列する。ガスタービン出力(コンバインド出力)が25MWから5MWに低下するまでに時間(T3)を要する。
【0066】
解列後のGT回転数は3600PMから高速のレートで降下し、GT回転数が1200RPMまで低下したとき、燃料116を遮断し、ガスタービン102を停止する。このとき、GT回転数が3600RPMから1200RPM(第1回転数)に低下するまでは、比較的短い時間(T2)で済む。これが比較例との違いである。
【0067】
ガスタービン102を停止した後も、GT回転数は降下を継続する。そして、GT回転数が900RPM(第2回転数)にまで低下したとき、GT回転数はST回転数に追い付き、両タービンの回転数は一致し、このときクラッチ120は再び嵌合する。その後、クラッチ120が嵌合した状態で、両タービンはゆっくりと回転降下してターニング運転に入る。
【0068】
(3)第1実施形態の効果1
図3図8を比較すれば、本実施形態における3600RPMから1200RPMの低下に要する時間(T2)は、比較例のそれ(T1)に比べて極めて短い時間ことは明白である。この結果、比較例のプラント停止方法に伴う「燃料が長く無駄に供給される問題」が、本実施形態では解消または大きく緩和されている。これを実現するために、本実施形態においては、ST回転数が1200RPMまで低下するのを待って、ガスタービン出力の25MWからの再降下を開始させている。よって、本実施形態のGT回転数が1200RPMまで低下したときには、ST回転数は必ず1200RPM以下に降下している。すなわち、本実施形態では、両タービンの回転数が一致しクラッチが嵌合するのは、必ず1200RPM(燃料を遮断する回転数)以下の回転数である。
【0069】
さらに、本実施形態では、燃料が遮断された状態でクラッチが嵌合する。クラッチが嵌合するときは、両回転軸が相手を「揺する」挙動となり、その結果、ガスタービンや発電機の軸受け振動が増大すると既に述べた。この揺すりは、比較例ではガスタービンの燃焼中に行われるのに対し、本実施形態では燃料が遮断された後(ガスタービンは既に停止)に行われる。よって、本実施形態によれば、比較例に比べて安全でリスクの少ないプラント停止方法を実現できる。
【0070】
さらに、本実施形態では、GT回転数が3600RPMから1200RPMに降下する間は、クラッチは必ず離脱中であり、ガスタービン(と発電機)は単独での回転降下となる。これにより、蒸気タービンの有する大きな慣性の影響を受けることなく、ガスタービンは単独で速やかに3600RPMから1200RPMに回転降下することができ、迅速に燃料を遮断することが可能となる。このようなプラント停止方法を可能にしたのは、ガスタービンの燃料を遮断する回転数である1200RPMにまでST回転数が低下した後に、ガスタービンの回転降下を開始したからである。
【0071】
(4)第1実施形態の効果2
第1実施形態では、2880RPMの近傍という危険速度域から大きく離れた900RPMでクラッチ120が嵌合するので、比較例のようなクラッチ嵌合が助長してガスタービンや発電機の軸受け振動が増大する問題は解消されている。すなわち、本実施形態によれば、クラッチ嵌合が危険速度域を避けて行われるプラント停止方法が実現する。
【0072】
上述のように、危険速度は、回転軸の固有振動による共振が発生する速度(回転数)であり、回転軸の固有振動数(共振振動数)に依存する。よって、危険速度の数値は発電プラントの回転軸毎に異なるが、おおよそ定格回転数の70%から80%の回転数域になることが多い。ちなみに、比較例(第1回転軸118と第2回転軸119の結合体の危険速度)と第1実施形態(第1回転軸118の単独の危険速度)の間においても、危険速度は変わってくる。しかし、この危険速度の数値上でのバラツキを勘案しても、第1実施形態のプラント停止方法は、危険速度域を避けてクラッチ嵌合が行われる効果を有すると言える。なぜなら、危険速度に対して燃料を遮断する回転数が顕著に低いからである。別の言い方をすると、比較例と第1実施形態との間で危険速度が変わってくるといっても、第1実施形態の危険速度も2880RPMに近い値(例えば2800RPM)であり、この値は900RPMから大きく離れている。なお、以下の説明では、説明を分かりやすくするために、第1実施形態やその他の実施形態の危険速度も2880RPMであるとして説明する。
【0073】
本明細書では、燃料を遮断する回転数を1200RPM(定格回転数の33%)とする事例を説明してきたが、この遮断回転数も各発電プラント毎(ガスタービンの機種ごと)に異なる数値となる。しかし、定格回転数の70%から80%の比較的高い回転数で燃料を遮断するガスタービンは、非常に稀なモデル機種と考えられる。合理的な商用ガスタービンの設計としては、定格回転数の30%から40%の低い回転数で燃料を遮断するのが一般的である。なぜならば、1200RPM(定格回転数の33%)に回転が低下してから燃料を遮断する理由は、燃料の量を充分に小さくしてガスタービンの排ガス温度も低温にして熱応力等の面でガスタービンに大きな負担となることを避けることにあるからである。もし70%から80%の高回転域で燃料を遮断した場合は、未だ多量にある燃料をいきなり遮断することを意味し、ガスタービンにとって厳しいプラント停止方法となる。すなわち、危険速度域が存在する70%から80%の高回転数に対し、燃料を遮断する回転数は充分に低い回転数であることが一般的である。よって、燃料が遮断された以後にクラッチ嵌合を行う本実施形態のプラント停止方法を採用すれば、危険速度域とクラッチ嵌合回転数が重なることは回避される。
【0074】
なお、上述の説明では、第1実施形態では2880RPMの近傍という危険速度域から大きく離れた900RPMでクラッチ120が嵌合すると説明した。本実施形態では、クラッチ120が嵌合する回転数は、危険速度から200RPM以上離れていることが望ましく、危険速度から300RPM以上離れていることがより望ましい。よって、危険速度が2880RPMの場合には、クラッチ120が嵌合する回転数は、2680RPM以下であることが望ましく、2580RPM以下であることがより望ましい。これにより、上述のような共振が発生することを抑制することが可能となる。
【0075】
(5)第1実施形態の変形例
但し、発電プラントによっては、ここで述べる第1実施形態の変形例によるプラント停止方法が必要となるケースがある。その理由は、本変形例の発電プラント(第1回転軸118)は、約80%の高回転数域(2880RPM近傍)での危険速度に加えて、別の危険速度域を低回転域に有するからである。すなわち、本変形例の第1回転軸118は定格回転数の30%に危険速度を有し、この30%の回転数は1080RPM(3600×0.3)である。
【0076】
第1実施形態の停止方法では、クラッチ嵌合が行われる900RPMは充分にこの近傍で、危険速度域に該当して、共振により軸受け振動が増大する。そこで本変形例は、1080RPMより大きく離れた700RPMでクラッチ嵌合するようなプラント停止方法を採用する。そのためには、第1実施形態におけるST回転数が1200RPMまで低下したとき(ステップS209 YES)、ガスタービン出力降下を再開する(ステップS210)するのに替わり、本変形例はST回転数が1000RPMまで低下したとき、ガスタービン出力降下を再開する。このST回転数が200RPM低下したことに対応して、クラッチ嵌合の回転数も200RPM低下して700RPMで嵌合する。これにより、危険速度域とクラッチ嵌合回転数が重なる問題は回避される。本変形例において、1000RPMは第3回転数の一例であり、1200RPMは第1回転数の一例であり、700RPMは第2回転数の一例である。
【0077】
なお、危険速度の1080RPMと、クラッチ120が嵌合する回転数の700RPMとの差は、380RPMであることに留意されたい。よって、この場合のクラッチ120が嵌合する回転数は、危険速度から200RPM以上離れており、さらには危険速度から300RPM以上離れている。
【0078】
(6)第1実施形態の考察
第1実施形態では、3600RPMから1200RPMへの低下に要する時間(T2)は短くなるが、その替わりガスタービン出力を25MWで保持する待ち時間(T4)が長くなる。但し、T4の待ち時間中は25MWの発電を行っているので、T4の期間に供給される燃料は(比較例におけるT1での燃料のように)無駄に消費されているわけではない。しかし、一方では極力短時間でターニング運転入り(ステップS221)に移行させて、プラント停止時間を早くしたいというニーズがあるのも事実である。典型的には、プラント設備の点検・修理・メンテナンス作業等を早急に開始したい場合に備えるためである。この観点からは、25MWでの待ち時間(T4)は、プラント停止に要する時間を長引かせている一面を有する。次に述べる第2実施形態は、この点の改善を図るためのプラント停止方法である。
【0079】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。第2実施形態の発電プラントの構成は、プラント制御装置101aに搭載するソフトウェアを除き、第1実施形態の発電プラント100aの構成と同じである。第1実施形態と第2実施形態とのソフトウェアの相違は、ガスタービン出力を25MWから降下するタイミングにある。すなわち、第1実施形態ではST回転数が1200RPMに低下したときにガスタービン出力降下を再開する(ステップS210)のに対し、第2実施形態ではST回転数がR1[RPM]に低下したときにガスタービン出力降下を再開する。この場合、R1[RPM]と1200RPMとの間にはR1>1200の関係がある。第2実施形態では、ガスタービン出力降下を再開するタイミングが早くなる分、プラント停止に要する時間を短くできる。R1の値の算出方法等については、以下に詳述する。
【0080】
なお、本実施形態のプラント構成については、図1を参照されたい。また、本実施形態のプラント停止方法の流れについては、図2を参照されたい。この際、例えばステップS209の「1200RPM」は前述の「R1[RPM]」に読み替える。
【0081】
図4は、第2実施形態のプラント停止方法を説明するためのトレンドグラフである。
【0082】
これを説明すれば、プラント停止が開始される前、コンバインド出力は300MWで運転中である。プラント停止が開始されると、燃料116を所定レートで低減させて、コンバインド出力は300MWから次第に低減していく。
【0083】
コンバインド出力が60MW(ガスタービン出力が25MW)まで低下したとき、燃料116の低減を一旦中断する。そして、蒸気タービン(ST)103の停止を開始する。蒸気タービン103の停止が完了すると、クラッチ120が離脱して、ST回転数は3600RPMから降下を始める。以上のプラント停止手順は、第1実施形態と同じである。
【0084】
第2実施形態のプラント停止手順は、以下の事項が第1実施形態と相違する。ST回転数はゆっくりと緩慢なレートで降下していき、ST回転数がR1[RPM]に低下したとき、ガスタービン出力降下を再開する。R1の値については後述する。本実施形態のR1[RPM]は、第3回転数の一例である。
【0085】
ガスタービン出力降下を再開すると、ガスタービン出力は25MWから徐々に低下し、5MWまで低下したとき解列する。ガスタービン出力(コンバインド出力)が25MWから5MWに低下するまでに時間(T3)を要するのは、第1実施形態と同じである。
【0086】
解列後のGT回転数は3600PMから高速のレートで降下し、GT回転数が1200RPMにまで低下したとき、GT回転数はST回転数に追い付き、両タービンの回転数は一致し、このときクラッチ120は再び嵌合する。これと同時に燃料116を遮断し、ガスタービン102を停止する。このとき、GT回転数が3600RPMから1200RPMに低下するまでに時間(T2)を要するのは、第1実施形態と同じである。また、ST回転数が3600RPMから1200RPMに低下するまでに時間(T4)を要するのも、第1実施形態と同じである。その後、クラッチ120が嵌合した状態で、両タービンはゆっくりと回転降下してターニング運転に入る。本実施形態の1200RPMは、第1回転数の一例であり、かつ第2回転数の一例である。
【0087】
このように、第2実施形態では、GT回転数とST回転数が1200RPMに低下したときに、燃料116の遮断とクラッチ120の嵌合を同時に行う。これを実現するR1[RPM]は、次のように算出することが可能である。
【0088】
図4において、ST回転数が3600RPMから1200RPMに降下するのにT4を要するので、ST回転数の降下レートは次の(1)式で表せる。
【0089】
ST回転数の降下レート=(3600-1200)/T4
=2400/T4 -(1)
ここで、T4(およびT2とT3)の時間は全て「分」の単位を有する。
【0090】
従って、ST回転数がR1[RPM]から1200RPMに低下するのに要する時間は、式(1)を利用して次の(2)式で表される。
【0091】
R1から1200RPMになる時間=(R1-1200)÷ST回転数の降下レート
=(R1-1200)T4/2400 -(2)
一方、ガスタービン出力降下を再開して25MWから解列を経てGT回転数が1200RPMに低下するのに要する時間は、次の(3)式で表される。
【0092】
25MWから1200RPMになる時間=T3+T2 -(3)
第2実施形態のプラント停止方法においては、ST回転数が1200RPMになるタイミングと、GT回転数が1200RPMになるタイミングとを一致させる。そのためには(2)式=(3)式という関係を満たせばよい。すなわち、次の(4)式を満たすR1を求めればよい。
【0093】
(R1-1200)T4/2400=T3+T2 -(4)
(4)式を解いてR1は(5)式として求まる。
【0094】
R1=2400(T3+T2)/T4+1200 -(5)
先にR1>1200の大小関係と記載したが、R1は下記(6)式に表す回転数差だけ1200RPMより高い回転数である。
【0095】
回転数差=2400(T3+T2)/T4 -(6)
第2実施形態は、第1実施形態より(6)式の回転数差の分だけ早くガスタービン出力降下の再開が開始されるので、プラント停止時間は短縮される。
【0096】
この短縮時間を算出するには、(6)をST回転数の降下レート((1)式)で除算すればよい。
【0097】
短縮時間=2400(T3+T2)/T4÷(2400/T4)
=T3+T2 -(7)
(1)第2実施形態の効果と考察
第2実施形態では、1200RPMにおいてガスタービン停止とクラッチ再嵌合が同時に行われるようにしたので、比較例における問題を排除しながら、第1実施形態よりもプラント停止時間の短縮が可能となる。この短縮される時間は、(7)式で与えられるT3+T2である。この理由を簡単に言えば、第1実施形態(図3)はガスタービン出力を25MWで保持する待ち時間はT4であるのに対し、第2実施形態(図4)では25MWで保持する待ち時間がT4-(T3+T2)と短いからである。このことは、図3図4との比較から容易に読み取ることができる。
【0098】
上記に関連して第2実施形態(図4)と第1実施形態(図3)と比較する場合、ST回転数が基準となって時間が整理されることを念頭に置くと理解の一助となる。具体的には、図4図3において、「ST回転数が3600RPMから降下を開始する時刻」および「ST回転数が1200RPMに到達する時刻」は同じである(この場合の時刻とは、プラント停止が開始されたときを起点の0として、起算される時間(時刻)である)。それ故に、ST回転数1200RPMの到達時刻に対して、燃料の遮断がどれだけ早いか遅いかという視点での比較が可能となる。この見方によっても、図4図3より(T3+T2)だけ燃料の遮断が早いことが判る。
【0099】
なお、比較例(図8)では、ST回転数が3600RPMから降下を開始する時刻はこれらと同じであるが、ST回転数が1200RPMに到達する時刻はこれらと異なり(クラッチ嵌合で降下レートが(1)式とは異なるため)、このST回転数基準を適用することはできない。
【0100】
以下、燃料の遮断を更に早くした(T3+T2より早くした)場合のプラント停止方法に簡単に触れる。その場合は、早期化の度合いに応じて(5)式で求まるR1より高い回転数でガスタービン出力降下を再開すれば、燃料の遮断は早期化できる。しかし、その場合にはST回転数とGT回転数は1200RPM以上の回転数で一致することになり、つまり燃料が遮断される前にクラッチが嵌合するので、比較例に類似したプラント停止方法となる。このことは、T3+T2が早期化の限界であることを意味する。
【0101】
(2)第2実施形態の変形例
第2実施形態におけるR1の算出においては、実際にプラント停止したときの実機データ(ST回転数の降下レート(1)式)を必要とする。従って、第2実施形態を実際に導入する際には、最初は暫定的に第1実施形態によるプラント停止方法を試行し、実機データを取得した後に第2実施形態に移行する逐次的なアプローチが必要となる。その場合、図4(と図3)におけるST回転数の降下グラフは右下がりの直線で表現したが、実際にはST回転数は僅かに凹形状を成すカーブ状に降下するので、「直線」を仮定して算出されたR1は些少であるが誤差を有する。これに配慮して実際に適用するR1には適切なマージンを付与し、上記(5)式で求まるR1より若干低い回転数とし、1200RPMより少し低い回転数でクラッチ嵌合が行われるようにするのが現実的である。この変形例による停止方法によれば、1200RPMで燃料遮断(ガスタービン停止)が行われた後、数秒程度の経過を待ってクラッチ嵌合が行われる。よって、タービン設備への機械的なショック(ガスタービン停止とクラッチ嵌合)を時間差で分離して緩和する効果も期待できるので、より望ましい停止となる。プラント停止時間の短縮効果は、(7)式より若干目減りするものの、それは充分に正当化されよう。
【0102】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態のプラント停止方法を説明するためのトレンドグラフである。
【0103】
第3実施形態は、第2実施形態に類似するが、燃料の節約を目的とするプラント停止方法である。そのため、ST回転数の降下を待つ間、第2実施形態ではガスタービン出力を25MWで保持するのに対し、第3実施形態ではガスタービン出力を5MWで保持して燃料の節約を図る。
【0104】
なお、本実施形態のプラント構成については、図1を参照されたい。また、本実施形態のプラント停止方法の流れについては、図2を参照されたい。この際、例えばステップS209の「1200RPM」は後述の「R2[RPM]」に読み替える。
【0105】
以下、図5を説明する。プラント停止が開始される前、コンバインド出力は300MWで運転中である。プラント停止が開始されると、燃料116を所定レートで低減させて、コンバインド出力は300MWから次第に低減していく。
【0106】
コンバインド出力が60MW(ガスタービン出力が25MW)まで低下したとき、燃料116の低減を一旦中断する。そして、蒸気タービン(ST)103の停止を開始する。蒸気タービン103の停止が完了すると、クラッチ120が離脱して、ST回転数は3600RPMから降下を始める。以上のプラント停止手順は、第2実施形態と同じである。
【0107】
第3実施形態のプラント停止手順は、以下の事項が第2実施形態と相違する。蒸気タービン103の停止が完了すると、直ちにガスタービン出力降下を再開する。ガスタービン出力降下を再開すると、ガスタービン出力は25MWから徐々に低下し、5MWまで低下したときにガスタービン出力は5MWに保持される。このとき、25MWから5MWに低下するまでに時間(T3)を要するのは第2実施形態と同じである。その間にもST回転数はゆっくりと緩慢なレートで降下していき、ST回転数がR2[RPM]に低下したとき解列する。R2の値については後述する。本実施形態のR2[RPM]は、第3回転数の一例である。
【0108】
解列後のGT回転数は3600PMから高速のレートで降下し、GT回転数が1200RPMにまで低下したとき、GT回転数はST回転数に追い付き、両タービンの回転数は一致し、このときクラッチ120は再び嵌合する。これと同時に燃料116を遮断し、ガスタービン102を停止する。このとき、GT回転数が3600RPMから1200RPMに低下するまでに時間(T2)を要するのは、第2実施形態と同じである。また、ST回転数が3600RPMから1200RPMに低下するまでに時間(T4)を要するのも、第2実施形態と同じである。その後、クラッチ120が嵌合した状態で、両タービンはゆっくりと回転降下してターニング運転に入る。本実施形態の1200RPMは、第1回転数の一例であり、かつ第2回転数の一例である。
【0109】
このように、第3実施形態では、第2実施形態と同様に、GT回転数が1200RPMに低下したときに、ガスタービン停止とクラッチ嵌合を同時に行う。これを実現するR2[RPM]は、R1を算出したときと同様に、次のように求まる(算出過程は省略)。
【0110】
R2=2400(T2/T4)+1200 -(8)
(1)第3実施形態の効果と考察
第3実施形態は、ガスタービン出力を5MWで保持するようにしたので、ガスタービン出力を25MWで保持する第2実施形態よりも燃料が少なくて済み、燃料が節約でき、ひいては経済的なプラント停止方法を実現できる。
【0111】
しかし一方では、5MWはガスタービン定格出力200MWの2.5%(一般に極低負荷と呼ばれる運転領域)なので、場合によっては第3実施形態ではガスタービンの安定した運転に支障をきたす惧がある。例えば系統グリッド129にいわゆる系統擾乱が起きた場合、系統周波数は大きく変動して、ガスタービン制御に備わるDROOP制御は燃料を急減させて、最悪のケースではリバースパワー(逆電力)により解列に至る。
【0112】
これと比較するに、25MWで保持する第2実施形態では、同様のDROOP制御による燃料急減が起こったとしても、より高い25MWではリバースパワーには至らず、ガスタービンの発電運転はより安定したものになる。
【0113】
本明細書に使用する5MWや25MWの数値(ST回転数の降下を待つ間に保持するガスタービン出力)は、あくまで説明の便宜のための例である。しかし、第1から第3のいずれの実施形態を採用するにしても、これら5MWや25MWに相当するガスタービン出力の値は、ガスタービン運転の安定と経済性のトレードオフの観点から慎重に選定される必要がある。
【0114】
以下、プラント停止時間を、第3実施形態(図5)と第2実施形態(図4)との間で比較する。先に述べたST回転数が時間の基準になることは、このケースにも当てはまり、ST回転数が1200RPMに到達する時刻は、図5図4で同じ時刻(ST停止完了からT4が経過したとき)である。すなわち、両実施形態において、燃料の遮断は同じ時刻であり、プラント停止時間は同じである。一見すると、ガスタービン出力を25MWから5MWに低減する工程(時間T3に相当)を先行的に行うので、第3実施形態の方がより早いプラント停止を可能にするように思える。しかし、(8)式で与えられるR2は(7)式で与えられるR1より低い回転数(遅れた時刻)なので、両実施形態のプラント停止時間は同じとなる。もし(8)式より高いR2(早い時刻)を設定して解列を行った場合、ST回転数とGT回転数は1200RPM以上の回転数で一致し、それは燃料が遮断される前にクラッチが嵌合するプラント停止方法であり、望ましい停止方法ではない。
【0115】
(2)第3実施形態の変形例
本実施形態で算出されたR2は、第2実施形態のR1と同様に些少の誤差を有する。そこで、第3実施形態の変形例は、これに配慮して実際に適用するR2には適切なマージンを付与し、上記(8)式で求まるR2より若干低い回転数とし、1200RPMより少し低い回転数でクラッチ嵌合が行われるようにする。本変形例の方が現実的で、より望ましい停止方法となるのは第2実施形態の変形例と同様である。
【0116】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置、方法、およびプラントは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置、方法、およびプラントの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0117】
100、100a:発電プラント、101、101a:プラント制御装置、
102:ガスタービン、103:蒸気タービン、104:排熱回収ボイラ、
105:MCV弁(加減弁)、106:燃料調節弁、107:圧縮機、
108:燃焼器、109:蒸発器、110:ドラム、
111:過熱器、112:タービンバイパス調節弁、113:復水器、
114:循環水ポンプ、115:海水、116:燃料、117:発電機、
118:第1回転軸、119:第2回転軸、120:クラッチ、
121:第1検出用歯車、122:第2検出用歯車、123:蒸気配管、
124:主配管、125:バイパス配管、126:タービン排気管、
127:発電機遮断器、128:送電線、129:系統グリッド、
FD1:火炎検出器、SP1:GT回転数検出器、SP2:ST回転数検出器、
MW-Tr:MWトランスデューサ、A1:ガスタービン排ガス、A2:主蒸気
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8