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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】超音波探傷装置および超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20230320BHJP
【FI】
G01N29/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019210543
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021081360
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 摂
(72)【発明者】
【氏名】今崎 一人
(72)【発明者】
【氏名】浦口 晃平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳介
(72)【発明者】
【氏名】千星 淳
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-029397(JP,A)
【文献】特開平08-062194(JP,A)
【文献】実開平04-136565(JP,U)
【文献】特開昭57-120856(JP,A)
【文献】特開平04-184252(JP,A)
【文献】特開平08-015236(JP,A)
【文献】特開2008-203203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00-G01J 3/52
G01N 29/00-G01N 29/52
G01N 21/84-G01N 21/958
G01N 27/60-G01N 27/92
G01B 11/00-G01B 11/30
G21C 17/00-G21C 17/14
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の内部の検査対象の欠陥を探傷する超音波探傷装置であって、
前記容器の外側から探傷する外側探傷機構と、
前記容器の内側から探傷する内側探傷機構と、
を備え、
前記外側探傷機構は、
前記容器の外側に配される外側プローブと、
前記外側プローブを保持する外側プローブ保持駆動機構と、
前記外側プローブによる超音波の受発信を駆動し前記検査対象からの反射波に基づいて信号処理を行う外側超音波探傷器と、
を有し、
前記内側探傷機構は、
前記容器の内側に配される内側プローブと、
前記内側プローブを保持する内側プローブ保持駆動機構と、
前記内側プローブによる超音波の受発信を駆動し前記検査対象からの反射波に基づいて信号処理を行う内側超音波探傷器と、
を有
前記検査対象は、その内面に第1の溶接層が形成された原子炉圧力容器の内側において、前記第1の溶接層の上に形成された第2の溶接層の上に完全溶け込みの全周溶接による第3の溶接層で接合され長辺部と短辺部とを有する平板および前記第3の溶接層である、
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
前記外側プローブ保持駆動機構および前記内側プローブ保持駆動機構の少なくとも一方は、前記外側プローブまたは前記内側プローブが前記検査対象の短辺部の溶接線に対して直交方向の探傷条件を形成可能に構成されていることを特長とする請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記外側プローブ保持駆動機構および前記内側プローブ保持駆動機構の少なくとも一方は、前記外側プローブまたは前記内側プローブが前記検査対象の長辺部の溶接線に対して直交方向の探傷条件を形成可能に構成されていることを特長とする請求項1または請求項2に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
前記外側プローブと当該外側プローブからの超音波の入射面のなす外側設置角度、および前記内側プローブと当該内側プローブからの超音波の入射面のなす内側設置角度の少なくとも一方について、所定の誤差範囲に収まっているか否かを判定する設置角度判定部をさらに備えることを特長とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の超音波探傷装置。
【請求項5】
前記設置角度判定部を含み、前記設置角度判定部が、前記所定の誤差範囲に収まっていないと判断した場合に、所期の誤差範囲にプローブが設置されている場合と同様の超音波を入射可能な状態に移行させる設置角度補正機構を備えることを特長とする請求項4に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
容器の内部の検査対象の欠陥を探傷する超音波探傷方法であって、
内側探傷機構を用いて前記容器の内側から探傷する内側探傷ステップと、
外側探傷機構を用いて前記容器の外側から探傷する外側探傷ステップと、
を有し、
前記外側探傷機構は、
前記容器の外側に配される外側プローブと、
前記外側プローブを保持する外側プローブ保持駆動機構と、
前記外側プローブによる超音波の受発信を駆動し前記検査対象からの反射波に基づいて信号処理を行う外側超音波探傷器と、
を有し、
前記内側探傷機構は、
前記容器の内側に配される内側プローブと、
前記内側プローブを保持する内側プローブ保持駆動機構と、
前記内側プローブによる超音波の受発信を駆動し前記検査対象からの反射波に基づいて信号処理を行う内側超音波探傷器と、
を有し、
前記検査対象は、その内面に第1の溶接層が形成された原子炉圧力容器の内側において、前記第1の溶接層の上に形成された第2の溶接層の上に完全溶け込みの全周溶接による第3の溶接層で接合され長辺部と短辺部とを有する平板および前記第3の溶接層である、
ことを特徴とする超音波探傷方法
【請求項7】
前記内側探傷ステップは、
前記内側プローブを前記検査対象としての平板の長手方向に沿って設置する内側プローブ第1設置ステップと、
前記内側プローブ第1設置ステップの後に前記内側プローブを用いて探傷する内側プローブ第1探傷ステップと、
前記内側プローブを前記平板の溶接長辺部に沿って設置する内側プローブ第2設置ステップと、
前記内側プローブ第2設置ステップの後に前記内側プローブを用いて探傷する内側プローブ第2探傷ステップと、
を有することを特徴とする請求項6に記載の超音波探傷方法。
【請求項8】
前記側探傷ステップは、
前記外側プローブを原子炉圧力容器の長手方向に沿って設置する側プローブ設置ステップと、
前記側プローブ設置ステップの後に前記側プローブを用いて探傷する側プローブ探傷ステップと
有することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の超音波探傷方法。
【請求項9】
前記内側探傷ステップおよび前記外側探傷ステップの後に、前記平板および平板溶接長辺部について、前記外側探傷機構による探傷結果と前記内側探傷機構による探傷結果の照合、確認を実施する照合、確認ステップをさらに有することを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれか一項に記載の超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波探傷装置および超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷試験は、非破壊で構造材の表面および内部の健全性を確認できる技術であり、様々な分野で欠かせない検査技術となっている。小型の超音波送受信用圧電素子を並べ、圧電素子ごとにタイミング(遅延時間)をずらして超音波を発信することにより任意の波形を形成できるフェーズドアレイ超音波探傷試験(PAUT:Phased Array Ultrasonic Test)は、工業用途でも広く用いられている。所定の角度しか超音波を発信できない単眼プローブに比べ、1回の探傷で広範囲を探傷したり、複数の角度で探傷したり、ビームの制御によっては複雑形状に対応したりと、様々な点で拡張性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4096014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今般、原子力や火力等の大規模発電プラントや社会インフラ設備は高経年化が進み、検査対象となる部位や検出すべき欠陥の種類が、従来に比べて増えてきている。
【0005】
これまで検査が求められていた部位は、そもそも検査を想定して作られていたり、加工性の限界(溶接等)により検査対象が露出していたりと、超音波探傷におけるアクセスが容易な対象が大部分であった。一方、経年変化によって検査を想定していなかった部位でのリスクが顕在化してきており、そのような対象は製造時にUT対象となっていない、一体鍛造等で検査対象位置の形状が複雑である等、通常の手法ではUTが適用できないケースがある。例えば原子炉内のジェットポンプを保持するライザーブレースアームの原子炉圧力容器との接合部は、通常の全周溶接の部分ではあるが、アクセス性の限られた原子炉内から探傷するには多くの探傷姿勢が要求され装置にかかる負担が大きくなる。すなわち、探傷姿勢の要求が多い場合、装置が複雑化し原子炉内の狭隘部へ侵入できない場合が出たり、それを回避するために姿勢ごとに装置を取り替えたりする場合には検査には膨大なコストを要することになる。
【0006】
沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器外から炉内溶接部を探傷する技術が知られているが、対象が容器貫通部(スタブチューブ)に限定されている。また、原子炉圧力容器の内側から探傷する範囲が明示されていない。
【0007】
そこで本発明の実施形態は、原子炉内のジェットポンプを保持するライザーブレースアームの原子炉圧力容器との接合部のようなアクセス性の限られた部位を、確実に探傷することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本実施形態に係る超音波探傷装置は、容器の内部の検査対象の欠陥を探傷する超音波探傷装置であって、前記容器の外側から探傷する外側探傷機構と、前記容器の内側から探傷する内側探傷機構と、を備え、前記外側探傷機構は、前記容器の外側に配される外側プローブと、前記外側プローブを保持する外側プローブ保持駆動機構と、前記外側プローブによる超音波の受発信を駆動し前記検査対象からの反射波に基づいて信号処理を行う外側超音波探傷器と、を有し、前記内側探傷機構は、前記容器の内側に配される内側プローブと、前記内側プローブを保持する内側プローブ保持駆動機構と、前記内側プローブによる超音波の受発信を駆動し前記検査対象からの反射波に基づいて信号処理を行う内側超音波探傷器と、を有前記検査対象は、その内面に第1の溶接層が形成された原子炉圧力容器の内側において、前記第1の溶接層の上に形成された第2の溶接層の上に完全溶け込みの全周溶接による第3の溶接層で接合され長辺部と短辺部とを有する平板および前記第3の溶接層である、ことを特徴とする。
【0009】
上述の目的を達成するため、本実施形態に係る超音波探傷方法は、容器の内部の検査対象の欠陥を探傷する超音波探傷方法であって、内側探傷機構を用いて前記容器の内側から探傷する内側探傷ステップと、外側探傷機構を用いて前記容器の外側から探傷する外側探傷ステップと、を有し、前記外側探傷機構は、前記容器の外側に配される外側プローブと、前記外側プローブを保持する外側プローブ保持駆動機構と、前記外側プローブによる超音波の受発信を駆動し前記検査対象からの反射波に基づいて信号処理を行う外側超音波探傷器と、を有し、前記内側探傷機構は、前記容器の内側に配される内側プローブと、前記内側プローブを保持する内側プローブ保持駆動機構と、前記内側プローブによる超音波の受発信を駆動し前記検査対象からの反射波に基づいて信号処理を行う内側超音波探傷器と、を有し、前記検査対象は、その内面に第1の溶接層が形成された原子炉圧力容器の内側において、前記第1の溶接層の上に形成された第2の溶接層の上に完全溶け込みの全周溶接による第3の溶接層で接合され長辺部と短辺部とを有する平板および前記第3の溶接層である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、原子炉内のジェットポンプを保持するライザーブレースアームの原子炉圧力容器との接合部のようなアクセス性の限られた部位を、確実に探傷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の構成を示す縦断面図である。
図2】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の変形例の構成を示す縦断面図である。
図3】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の検査対象の例としてのライザ管のライザーブレースアームとその取り付け部を示す斜視図である。
図4】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位としての平板の溶接部とその周辺を示す平面図である。
図5】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位としての平板の溶接部とその周辺を示す側面図である。
図6】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位としての平板の溶接部とその周辺を示す斜視図である。
図7】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位としての平板の溶接部の溶接基準線長辺部を説明するための概念的な平面図である。
図8】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位としての平板の溶接部の溶接基準線短辺部を説明するための概念的な側面図である。
図9】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位への超音波の主音線の第1の進行状態を説明するための概念的な図10のIX-IX線矢視断面図である。
図10】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位への超音波の主音線の第1の進行状態を説明するための概念的な平面図である。
図11】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位への超音波の主音線の第1の進行状態を説明するための概念的な図10のXI-XI線矢視断面図である。
図12】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位への超音波の主音線の第2の進行状態を説明するための概念的な図13のXII-XII線矢視断面図である。
図13】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位への超音波の主音線の第2の進行状態を説明するための概念的な平面図である。
図14】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位への超音波の主音線の第2の進行状態を説明するための概念的な図13のXIV-XIV線矢視断面図である。
図15】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の説明のための超音波の進行方向と欠陥の方向との第1の関係を示す概念的な斜視図である。
図16】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の説明のための超音波の進行方向と欠陥の方向との第1の関係を示す概念的な平面図である。
図17】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の溶接部の欠陥の第1の例を示す斜視図である。
図18】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の溶接部の欠陥の第1の例を示す平面図である。
図19】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の溶接部の欠陥の第1の例を示す側面図である。
図20】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の説明のための超音波の進行方向と欠陥の方向との第2の関係を示す概念的な斜視図である。
図21】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の説明のための超音波の進行方向と欠陥の方向との第2の関係を示す概念的な平面図である。
図22】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の溶接部の欠陥の第2の例を示す斜視図である。
図23】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の溶接部の欠陥の第2の例を示す平面図である。
図24】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の溶接部の欠陥の第2の例を示す側面図である。
図25】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の超音波の発信方向の第1の例を示す平面図である。
図26】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の超音波の発信方向の第1の例を示す縦断面図である。
図27】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の超音波の発信方向の第1の例の変形例を示す縦断面図である。
図28】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の超音波の発信方向の第2の例を示す平面図である。
図29】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の超音波の発信方向の第2の例を示す縦断面図である。
図30】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の説明のための超音波の進行方向と欠陥の方向との第3の関係を示す概念的な斜視図である。
図31】第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の説明のための超音波の進行方向と欠陥の方向との第3の関係を示す概念的な平面図である。
図32】第1の実施形態に係る超音波探傷の手順を示すフロ―図である。
図33】第2の実施形態に係る超音波探傷装置の構成を示す縦断面図である。
図34】第2の実施形態に係る超音波探傷装置による超音波の進行を示す縦断面図である。
図35】第2の実施形態に係る超音波探傷装置による超音波信号強度の時間変化を示すグラフである。
図36】第2の実施形態に係る超音波探傷装置が所期の範囲から傾いている場合の超音波の進行を示す縦断面図である。
図37】第2の実施形態に係る超音波探傷装置が所期の範囲から傾いている場合の超音波信号強度の時間変化を示すグラフである。
図38】第2の実施形態に係る超音波探傷装置が所期の範囲より傾いている場合の超音波の入射方向の修正を説明する縦断面図である。
図39】第2の実施形態に係る超音波探傷装置が所期の範囲より傾いている場合の超音波の入射方向の修正を行った結果を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る超音波探傷装置および超音波探傷方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重畳する説明は省略する。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置100の構成を示す縦断面図である。
【0014】
図1は、本実施形態に係る超音波探傷装置100を、原子炉圧力容器1の内側に設けられたライザーブレースアーム2(図3)の原子炉圧力容器1内側への取り付け部分の部材である平板3およびその溶接部である平板溶接層5を、検査対象11とする探傷装置に適用した場合を示す。
【0015】
超音波探傷装置100は、外側探傷機構110および内側探傷機構120を有する。
【0016】
外側探傷機構110は、外側プローブ111、外側プローブ保持駆動機構112、外側超音波探傷器113、外側監視操作部114、外側機構制御部115、および遠隔目視機構118を有する。
【0017】
外側プローブ111は、原子炉圧力容器1の外側に配され、原子炉圧力容器1を介して、検査対象10に超音波を送受信する。
【0018】
外側プローブ保持駆動機構112は、外側プローブ111を保持するとともに、原子炉圧力容器1の外側において外側プローブ111を所期の位置に移動する。
【0019】
外側超音波探傷器113は、外側プローブ111に電位差を印加するとともに、外側プローブ111からの受信波形を増幅の上、出力する。
【0020】
遠隔目視機構118は、外側プローブ111の設置位置、角度等、外側プローブ111や外側プローブ保持駆動機構112のアクセス経路の状態等を、光学的に観察可能とする、たとえば、カメラや撮像器などの機構である。
【0021】
外側監視操作部114は、外側超音波探傷器113から出力された検査対象11からの受信波形や、外側プローブ保持駆動機構112の現在位置、あるいは遠隔目視機構118により得られるその映像を表示するとともに、外側超音波探傷器113の条件設定や外側プローブ保持駆動機構112の条件設定、適宜の指示を入力可能なユーザインタフェースである。ここで、外側超音波探傷器113の条件は、たとえば検査対象10への超音波の入射角であり、外側プローブ保持駆動機構112の条件は、たとえば、探傷する想定欠陥との角度方向の指定などである。
【0022】
外側機構制御部115は、以上の各部の動作の相互関係の調整、全体のプロセスの進行制御などを行う。
【0023】
ここで、外側監視操作部114および外側機構制御部115は、計算機システムでもよいし、あるいは、PC、モニタ、制御盤等の複数の装置を組み合わせて構成してもよい。
【0024】
内側探傷機構120は、内側プローブ121、内側プローブ保持駆動機構122、内側超音波探傷器123、内側監視操作部124、および内側機構制御部125を有する。
【0025】
内側探傷機構120を構成する各部は、外側探傷機構110を構成する各部と同様であるが、内側プローブ121の移動範囲は、上述の原子炉圧力容器1の内側に設けられたライザーブレースアーム2の原子炉圧力容器1内側への取り付け部分の部材である平板3およびその平板溶接層5の周辺を移動する。内側プローブ保持駆動機構122は、このため、外側プローブ保持駆動機構112とは異なり、原子炉圧力容器1内で、内側プローブ121を移動駆動する。また、原子炉圧力容器1内での探傷は、基本的には水中の狭所であることから、外側探傷機構110のような遠隔目視機構118は設けていない。なお、部分的な確認をするために遠隔目視機構118と同様な装置を設けてもよい。
【0026】
図2は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の変形例の構成を示す縦断面図である。
【0027】
図2では、図1で示す外側機構制御部115および内側機構制御部125に代えて、全体制御部105を有する。その他の点では、図1で示す超音波探傷装置100と同様である。
【0028】
このように、外側機構制御部115および内側機構制御部125に代えて、全体を統合制御する全体制御部105を設けてもよい。この場合は、外側探傷機構110と内側探傷機構120とが、互いに連携して探傷を行う場合には、外側探傷機構110と内側探傷機構120とが相互に条件成立の確認信号の授受を行わなくともよくなり、探傷を効率的に進める上で有効である。
【0029】
図3は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の検査対象の例としてのライザ管のライザーブレースアームとその取り付け部を示す斜視図である。図4は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位としての平板の溶接部とその周辺を示す平面図、図5は、側面図である。
【0030】
原子炉圧力容器1は、原子炉圧力容器母材1aと、原子炉圧力容器内面ライナ(第1の溶接層)1bすなわち原子炉圧力容器母材1aの内面に施された肉盛溶接部とを有する。
【0031】
原子炉圧力容器母材1aは、主に低合金鋼であるが、一般的な炭素鋼やオーステナイト系ステンレス鋼やニッケル基合金等、あるいはその他の金属であってもよい。
【0032】
原子炉圧力容器内面ライナ1bは、TIG溶接、MIG溶接、MAG溶接、被覆アーク溶接、レーザ溶接、サブマージアーク溶接、エレクトロスラグ溶接等が考えられ、材料もオーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル基合金に加え、一般的な炭素鋼や低合金鋼等であってもよい。また、肉盛りを複数層で行う場合、例えば初層等、所望の層において異なる材料や工法を用いたものでもよい。
【0033】
また、第1の溶接層である原子炉圧力容器内面ライナ1bの表面に形成される第2の溶接層4についても、施工法および材料は、原子炉圧力容器内面ライナ1bと同様である。
【0034】
沸騰水型原子炉においては、図示しないジェットポンプへの原子炉冷却材の供給側の配管であるライザ管2aがライザーブレースアーム2によって、原子炉圧力容器1の内壁に取り付けられている。ライザーブレースアーム2のうち、直接、原子炉圧力容器1の内壁に取り付けられるのは、平板3である。
【0035】
平板3は、溶接により取り付けられる。また、平板3の取付け部分には、原子炉圧力容器内面ライナ1bの表面(原子炉圧力容器1の内表面)に、さらに、平板状の第2の溶接層4が形成されている。したがって、平板3の取付け部分には、第1の溶接層である原子炉圧力容器内面ライナ1b、第2の溶接層4、および第3の溶接層である平板溶接層5が形成されている。
【0036】
ここで、第3の溶接層である平板溶接層5は、フルペネトレーションの開先による完全溶け込み溶接部である。溶接金属終端部から所定の範囲は、平板3の全長以下であれば任意に定める範囲でよく、例えば1インチ、25mm、2インチや50mm等を超音波探傷に求められる範囲としてよい。
【0037】
図6は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位としての平板の溶接部とその周辺を示す斜視図である。また、図7は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位としての平板の溶接部の溶接基準線長辺部を説明するための概念的な平面図、図8は、概念的な側面図である。図6ないし図8では、第1の溶接層1bの図示は省略している。
【0038】
平板3は、断面が長方形の板であり、幅の広い2つの長辺側面3aと、幅の狭い2つの短辺側面3bとを有する。ここで、溶接基準線長辺部8aおよび溶接基準線短辺部8bの2種類の溶接基準線を定義する。
【0039】
具体的には、溶接基準線長辺部8aおよび溶接基準線短辺部8bを、平板3の2つの長辺側面3aと2つの短辺側面3bのそれぞれの延長面と仮想平面Sとの交線のそれぞれ、長辺部を溶接基準線長辺部8aとし、短辺部を溶接基準線短辺部8bとして、導かれたものとして定義する。
【0040】
ここで、仮想平面Sは、図7に示すように、第3の溶接層である平板溶接層5の互いに反対側の部分、たとえば、平板3の2つの長辺側面3a側の部分、あるいは平板3の2つの短辺側面3b側の部分の、それぞれの表面ビード幅中点どうしを含む面である。あるいは、仮想平面Sとして、当該平板3の取り付け部における原子炉圧力容器1の内面の接平面に平行な面であって、第2の溶接層4から、平板3の長手方向に沿った平板溶接層5の脚長の半分の高さだけ離れた面としてもよい。
【0041】
以下、上記のように構成した本実施形態による超音波探傷装置100の作用について説明する。
【0042】
まず、外側探傷機構110の作用を説明する。
【0043】
図9は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位への超音波の主音線の第1の進行状態を説明するための概念的な図10のIX-IX線矢視断面図、図10は、平面図、図11は、図10のXI-XI線矢視断面図である。
【0044】
プローブ10から、検査対象11に超音波を出射した状態を示している。実線矢印は、主音線12を示す。ここで、主音線12は、ベクトルUである。また、プローブ10は、本実施形態においては、図1に示すように、外側プローブ111または内側プローブ121であり、図10に示すようにx軸およびy軸方向に沿って配置されている。また、検査対象11は、平板3および平板溶接層5である。また、以下、説明の便宜上、図9における上下方向を鉛直方向、左右方向を水平方向と呼ぶこととする。後述する図12ないし図14についても同様である。
【0045】
ここで、主音線12を含めて、体系の基準となる面を基準面11aと定義する。図9ないし図11では、基準面11aとして検査対象11の水平表面をとった場合を例にとって示している。これは、具体的には、たとえば、外側プローブ111から超音波を入射する面、すなわち、原子炉圧力容器母材1aの外側表面である。例えば半径が1mを超えるような緩やかな曲面は平面で近似してもよい。また、外側プローブ111の最下面等、管理したい座標系に応じて他の面を基準面としてもよい。
【0046】
図9ないし図11に示す第1の進行状態においては、プローブ10からの主音線12は、x軸に沿って、基準面11aすなわち検査対象11の表面に、基準面11aに垂直な方向(鉛直方向)に対して角度αの方向で入射し、検査対象11内を、基準面11aに垂直な方向(鉛直方向)に対して角度βの方向に進んでいる。
【0047】
ベクトルUで表示する主音線12は、主音線水平成分Uhと主音線鉛直成分Uvとに分解できる。すなわち、主音線12を基準面11aに投影した主音線水平成分Uhと、これに垂直な方向の主音線鉛直成分Uvとに分解できる。
【0048】
図12は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位への超音波の主音線の第2の進行状態を説明するための概念的な図13のXII-XII線矢視断面図、図13は、平面図、図14は、図13のXIV-XIV線矢視断面図である。
【0049】
図12ないし図14に示す第2の進行状態においては、プローブ10からの主音線は、x軸に対して平面的に角度γだけずれた方向で、基準面11aすなわち検査対象11の表面に、基準面11aに垂直な方向(鉛直方向)に対して角度αの方向で入射し、検査対象11内を、基準面11aに垂直な方向(鉛直方向)に対して角度βの方向に進んでいる。
【0050】
ベクトルUで表示する主音線12は、主音線水平成分Uhと主音線鉛直成分Uvとに分解できる。すなわち、主音線12を基準面11aに投影した主音線水平成分Uhと、これに垂直な方向の主音線鉛直成分Uvとに分解できる。また、主音線水平成分Uhは、x方向成分Uhxとy方向成分Uhyとに分解できる。
【0051】
図15は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の説明のための超音波の進行方向と欠陥の方向との第1の関係を示す概念的な斜視図であり、図16は、平面図である。
【0052】
図15に示す場合は、検査対象11における溶接線13の方向は、主音線12の方向と、ほぼ直交している。
【0053】
以下、溶接線13の位置および方向は、それぞれ図7および図8を用いて説明した溶接基準線長辺部8aおよび溶接基準線短辺部8bの定義に基づいて設定されるものである。以下、図21、22、図30、31等においても同様である。
【0054】
主音線12および溶接線13を、基準面11aに投影すると、図16の平面図と同様の関係となる。このように、基準面11aに投影された溶接線13と、基準面11aに投影された主音線12のベクトルの水平成分Uhとは、同様にほぼ直交している。
【0055】
ここで、溶接線13と主音線12との直交方向の探傷条件を、溶接線13と主音線12とがほぼ直交する状態が確保されることと定義する。ここで、ほぼ直交するとは、基準面11aに投影された溶接線13と主音線12の水平成分Uhのなす交差角度Θが、90°を含む所定の範囲内にある場合をいう。所定の範囲としては、たとえば、90°±20°の範囲としてもよい。
【0056】
図17は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の溶接部の欠陥の第1の例を示す斜視図、図18は、平面図、図19は、側面図である。
【0057】
外側探傷機構110による探傷において、溶接線と直交方向の探傷条件を用いた場合、融合不良、ブローホール、スラグ巻き込み等といった種々の溶接欠陥や、溶接線と平行方向に進展する割れ、応力腐食割れ等の経年的に発生する割れを検出することができる。また、水素フレーキングのような原子炉特有の欠陥検出にも有効である。
【0058】
ここで、欠陥は、図17および図18に示す平板溶接層5に生じた横割れ欠陥3d、図17および図19に示す平板3に生じた横割れ欠陥3eである。横割れ欠陥3dおよび横割れ欠陥3eのいずれも、平板3の長手方向に垂直な方向、すなわち、原子炉圧力容器1の拡がる方向に平行に延びている。
【0059】
図20は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の説明のための超音波の進行方向と欠陥の方向との第2の関係を示す概念的な斜視図であり、図21は、平面図である。
【0060】
図20に示す場合は、検査対象11における溶接線13の方向は、主音線12の方向と、ほぼ同じ方向である。主音線12および溶接線13を、基準面11aに投影すると、図21の平面図と同様の関係となる。このように、基準面11aに投影された溶接線13と、基準面11aに投影された主音線12のベクトルの水平成分Uhとは、同様にほぼ同じ方向を向いている。
【0061】
ここで、溶接線13と主音線12との平行方向の探傷条件を、溶接線13の方向と主音線12の方向がほぼ一致する、すなわちほぼ平行となる状態が確保されることと定義する。ここで、ほぼ平行となるとは、基準面11aに投影された溶接線13と主音線12の水平成分Uhのなす交差角度Θが、0°を含む所定の範囲内にある場合をいう。所定の範囲としては、たとえば、0°±20°の範囲としてもよい。
【0062】
図22は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の溶接部の欠陥の第2の例を示す斜視図であり、図23は、平面図、図24は、側面図である。
【0063】
外側探傷機構110による探傷において、溶接線と平行方向の探傷条件を用いた場合にも、融合不良、ブローホール、スラグ巻き込み等といった種々の溶接欠陥や、溶接線と直交する方向に進展する割れ、応力腐食割れ等の経年的に発生する割れを検出することができる。また、水素フレーキングのような原子炉特有の欠陥検出にも有効である。
【0064】
ここで、欠陥は、図22および図23に示す平板溶接層5から平板3に亘って生じた縦割れ欠陥3f、図22および図24に示す平板溶接層5に生じた縦割れ欠陥3gである。縦割れ欠陥3fおよび縦割れ欠陥3gのいずれも、平板3の長手方向に平行な方向、すなわち、原子炉圧力容器1の拡がる方向に垂直な方向に延びている。
【0065】
次に、内側探傷機構120の作用を説明する。
【0066】
図25は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の超音波の発信方向の第1の例を示す平面図であり、図26は、縦断面図、図27は、第1の例の変形例を示す縦断面図である。
【0067】
内側プローブ121は、原子炉圧力容器1の内側の平板3の長辺側面3aの表面あるいは第3の溶接層である平板溶接層5上に設置される。
【0068】
内側プローブ121から発せられ平板3の内部に入射した超音波は、平板3内を伝搬した後に、平板溶接層5に到達する。平板3への入射角度によっては、図27に示すように、内側プローブ121が設置されている入射側の長辺側面3aとは反対側の長辺側面3aで反射した後に、平板溶接層5に到達する。
【0069】
内側プローブ121については、基準面は平板3の長辺側面3aもしくは平板溶接層5の平板溶接長辺部5aをとることができる。あるいは、内側プローブ121の最下面等、管理したい座標系に応じてその他の面をとってもよい。
【0070】
外側プローブ111と同様に、内側プローブ121においても、主音線Uは主音線水平成分Uhと主音線鉛直成分Uvとに分解できる。このとき、内側プローブ121は、スキップ、すなわち、例えば平板3の対面(図27で下側の長辺側面3a)や設置表面(図27で上側の長辺側面3a)で1回以上超音波を反射させて伝搬させることもできる。このときでも、主音線水平成分Uhは主音線Uを基準面に投影した2次元の成分となることは同様である。
【0071】
内側プローブ121から得られる主音線Uと溶接線13の幾何関係に基づく平行方向の探傷条件、直交方向の探傷条件については、外側プローブ111の場合と同様に定義できる。しかしながら、内側プローブ121の場合は、外側プローブ111の場合に対して制約がある。
【0072】
図28は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の超音波の発信方向の第2の例を示す平面図、図29は、縦断面図である。
【0073】
図28および図29に示すように、内側プローブ121は、平板3の長辺側面3aの表面あるいは第3の溶接層である平板溶接層5上に設置されるものである。
【0074】
平板溶接層5の溶接線のうち、平板溶接長辺部5aについては、基準面とほぼ平行な方向に形成されている。一方、平板溶接短辺部5bについては、平行方向の探傷条件および直交方向の探傷条件のいずれも成立することが困難である。これを、図を用いて説明する。
【0075】
図30は、第1の実施形態に係る超音波探傷装置の対象部位がライザ管のライザーブレースアームの場合の説明のための超音波の進行方向と欠陥の方向との第3の関係を示す概念的な斜視図であり、図31は、平面図である。
【0076】
図30および図31において、プローブ10は、検査対象11の上面に設置されており、この上面が基準面11aとなる。プローブ10から発せられ検査対象11内に入射した超音波の主音線12のベクトルUを基準面11aへ投影した成分は水平成分Uhとなる。
【0077】
いま、溶接線13が、検査対象11において、図30の上下方向に形成されている場合、この溶接線13の基準面11aへの投影は、図31に示すように、点状となる。
【0078】
したがって、このような溶接線13の場合には、基準面11aへ投影された主音線12と溶接線13との関係から明らかなように、直交方向の探傷条件および平行方向の探傷条件のいずれの条件も、満たすことができない。
【0079】
このような主音線12と溶接線13との関係は、図28に示す平板溶接層5の平板溶接長辺部5aの上に設置され内側プローブ121と、平板溶接層5の平板溶接短辺部5bとの関係と同じである。
【0080】
したがって、内側プローブ121を用いた場合、平板溶接層5の平板溶接短辺部5bについては、内側プローブ121から発せられる主音線12の水平成分Uhと直交および平行方向の探傷条件を形成することはできない。そのため、本実施形態においては、平板溶接層5の平板溶接短辺部5bについて直交方向の探傷条件もしくは平行方向の探傷条件を形成可能なのは、外側プローブ111に限られることとなる。
【0081】
図32は、第1の実施形態に係る超音波探傷方法の手順を示すフロ―図である。
【0082】
超音波探傷方法は、内側探傷機構120による探傷(ステップS10)、外側探傷機構110による探傷(ステップS20)、および照合・確認(ステップS30)を有する。
【0083】
ここで、図32では、内側探傷機構120による探傷(ステップS10)の後に外側探傷機構110による探傷(ステップS20)を実施する場合を例にとって示しているが、外側探傷機構110による探傷(ステップS20)の後に内側探傷機構120による探傷(ステップS10)を実施することでもよい。
【0084】
内側探傷機構120による探傷(ステップS10)においては、まず、内側プローブ121を平板3の長手方向に沿って設置する(ステップS11)。次に、この状態で、内側プローブ121を用いた探傷を実施する(ステップS12)。次に、内側プローブ121を平板溶接長辺部5aに沿って設置する(ステップS13)。次に、この状態で、内側プローブ121を用いた探傷を実施する(ステップS14)。なお、ステップS11およびステップS12と、ステップS13およびステップS14とは、順序を逆にして、ステップS13、ステップS14、ステップS11、ステップS12の順に実施してもよい。
【0085】
外側探傷機構110による探傷(ステップS20)においては、まず、外側プローブ111を原子炉圧力容器1の長手方向に沿って設置する(ステップS21)。次に、この状態で、外側プローブ111を用いた探傷を行う(ステップS22)。
【0086】
照合・確認(ステップS30)は、ステップS10およびステップS20の両者が終了した後に実施する。照合・確認(ステップS30)は、平板3および平板溶接長辺部5aについて、内側探傷機構120による探傷(ステップS10)の結果と、外側探傷機構110による探傷(ステップS20)の結果を、照合し、確認するステップS31を有する。
【0087】
以上のことから、平板3および平板溶接層5を検査対象11として超音波探傷を実施する場合は、外側プローブ111および内側プローブ121の両者を用いて行う必要があるため、外側探傷機構110および内側探傷機構120を用いる本実施形態における超音波探傷装置100および超音波探傷方法が有効であり、アクセス性の限られた部位を、確実に探傷することができる。
【0088】
[第2の実施形態]
図33は、第2の実施形態に係る超音波探傷装置の構成を示す縦断面図である。
【0089】
本実施形態は、第1の実施形態の変形であり、設置角度補正機構130をさらに備える。その他の点では、第1の実施形態と同様である。
【0090】
設置角度補正機構130は、外側設置角度判定部131a、外側補正演算部132a、外側補正動作部133a、および、内側設置角度判定部131b、内側補正演算部132b、および内側補正動作部133bを有する。
【0091】
外側設置角度判定部131aは、外側プローブ111と超音波入射面のなす角度を設置角度φ1とし、設置角度φ1が所定の角度Φ10の誤差範囲に収まっているか否かを判定する。外側補正演算部132aは、外側設置角度判定部131aにより得られた設置角度Φ1を、所定の角度Φ10の誤差範囲内に納めるための補正計算を行う。外側補正演算部132aは、補正計算結果に基づく補正動作指令を外側補正動作部133aに出力し、外側補正動作部133aは補正動作を行う。
【0092】
内側設置角度判定部131bは、内側プローブ121と超音波入射面のなす角度を設置角度φ2とし、設置角度φ2が所定の角度Φ20の誤差範囲に収まっているか否かを判定する。内側補正演算部132bは、内側設置角度判定部131bにより得られた設置角度Φ2を、所定の角度Φ20の誤差範囲内に納めるための補正計算を行う。内側補正演算部132bは、補正計算結果に基づく補正動作指令を内側補正動作部133bに出力し、内側補正動作部133bは補正動作を行う。
【0093】
ここで、外側設置角度判定部131aおよび内側設置角度判定部131bによる判定方法については、たとえば、プローブそのものから発せられる超音波を用いる第1の方式と、それ以外の機構を備える第2の方式がある。
【0094】
まず、設置角度Φが、所期の範囲内にあるか否かを判定する第1の方式について説明する。
【0095】
図34は、第2の実施形態に係る超音波探傷装置による超音波の進行を示す縦断面図であり、図35は、超音波信号強度の時間変化を示すグラフである。図34および図35は、設置角度Φが、所期の範囲内にある場合を示す。
【0096】
図35における超音波信号強度の時間的強度の最初のピークは、検査対象11の表面である基準面111aでの反射波に対応する。この場合、最初のピークの値は、強度レベルA1より高く強度レベルA2より小さい、すなわち、強度レベルA1と強度レベルA2の間にある。
【0097】
図36は、第2の実施形態に係る超音波探傷装置が所期の範囲から傾いている場合の超音波の進行を示す縦断面図であり、図37は、超音波信号強度の時間変化を示すグラフである。設置角度Φが所期の角度範囲内になく、その範囲から逸脱して傾いているこのケースの場合、基準面111aからの反射波のプローブ10への戻り量が減少する。この場合、図37に示すように、超音波信号強度の時間変化の最初のピークの値が低下する。この結果、最初のピーク値が、強度レベルA1よりも低くなる。
【0098】
このように、設置角度Φが所期の角度範囲内にある場合と所期の範囲内にない場合とで、最初のピーク値が、それぞれ、強度レベルA1よりも高くなり、低くなるように、強度レベルA1の値を設定することにより、設置角度Φが所期の角度範囲内にあるか否かを判定することができる。
【0099】
また、プローブ10から発せられて基準面111aで反射した反射波のプローブ10戻るまでの伝搬時間は、設置角度Φが所期の範囲内にない場合には、設置角度Φが所期の角度範囲内にある場合に比べて、長くなる。したがって、図35に示す設置角度Φが所期の角度範囲内にある場合における最初のピークのゼロクロス時刻T1に対して、図37に示すように有意な遅れがある場合には、設置角度Φが所期の角度範囲内にないと判定することができる。なお、最初のピークの立ち上がり時刻T1に代えて立ち上がり時刻を用いてもよい。
【0100】
このように、反射波の最初のピークの強度に加えて、その時刻を併せて用いることにより、設置角度Φが所期の角度範囲内にあるか否かについて、さらに確実な判定をすることができる。
【0101】
また、例えばアレイプローブであれば、複数素子から発せられた超音波の伝搬時間を測定することで、定量的な傾き量や表面の凹凸も測定することができる。
【0102】
さらに、表示部に表示された超音波信号の波形をみて、設置角度Φが所期の角度範囲内にあるか否かの判定を行ってもよい。
【0103】
次に、設置角度Φが所期の範囲内にあるか否かを判定する第2の方式については、例えばレーザ距離計、超音波距離計、カメラ等のような非接触距離測定手段でもよいし、リミットスイッチやスペーサ等のような機械的に接触する手段でもよい。
【0104】
外側設置角度判定部131aおよび内側設置角度判定部131bに関するこのような手段は、外側探傷機構110であれば外側プローブ111または外側プローブ保持駆動機構112に、内側探傷機構120であれば内側プローブ121または内側プローブ保持駆動機構122に、あるいは検査対象11そのものに取り付けてもよい。
【0105】
外側設置角度判定部131aおよび内側設置角度判定部131bは、上述の第1の方式と第2の方式を組み合わせてもよい。あるいは、外側プローブ111および内側プローブ121の複数の設置場所での結果を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
次に、設置角度補正機構130の外側補正演算部132aおよび内側補正演算部132bの内容を説明する。
【0107】
図38は、第2の実施形態に係る超音波探傷装置が所期の範囲より傾いている場合の超音波の入射方向の修正を説明する縦断面図である。また、図39は、第2の実施形態に係る超音波探傷装置が所期の範囲より傾いている場合の超音波の入射方向の修正を行った結果を示す縦断面図である。
【0108】
外側補正演算部132aおよび内側補正演算部132bについても、大きく2つのパターンが考えられる。
【0109】
第1のパターンは、プローブ10そのものから発せられる超音波を用いる方式である。プローブ10から発せられる超音波を用いる場合は、特にアレイプローブを用いる場合に相性がよい。図39に示すように、設置角度φを加味して入射角αを調節することで最終的な屈折角βを所望の角度とすることができる。外側補正演算部132aおよび内側補正演算部132bは、所望する屈折角βと設置角度Φに基づいて、入射角αを導出する。
【0110】
第2のパターンは、外側補正演算部132aおよび内側補正演算部132bは、入射角αを順次変更する演算を行い、外側機構制御部115および内側機構制御部125にそれぞれ出力し、実際に入射角αを順次変化させる方式である。
【0111】
外側補正動作部133aおよび内側補正動作部133bは、外側補正演算部132aおよび内側補正演算部132bが算出した補正量に基づいて、それぞれ、補正動作を行う。
【0112】
外側補正動作部133aおよび内側補正動作部133bは、図33に示すように、それぞれ、外側プローブ111および内側プローブ121のそれぞれに直接結合して、それぞれからの超音波の入射角αを変化させる。
【0113】
なお、外側補正動作部133aおよび内側補正動作部133bは、例えば回転ステージ、ゴニオステージのような回転機構を有するものとして、それぞれ、外側プローブ保持駆動機構112および内側プローブ保持駆動機構122を駆動することによって最終的な屈折角βを所望の角度とする方式としてもよい。
【0114】
以上のように、本第2の実施形態においては、設置角度を補正することにより、所期の角度範囲内で主音線を伝搬させることができ、さらに超音波探傷を確実に実施することができる。
【0115】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0116】
また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。また、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0117】
実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0118】
1…原子炉圧力容器、1a…原子炉圧力容器母材、1b…原子炉圧力容器内面ライナ(第1の溶接層)、2…ライザーブレースアーム、2a…ライザ管、3…平板、3a…長辺側面、3b…短辺側面、3d、3e…横割れ欠陥、3f、3g…縦割れ欠陥、4…第2の溶接層、5…平板溶接層(第3の溶接層)、5a…平板溶接長辺部、5b…平板溶接短辺部、8…溶接基準線、8a…溶接基準線長辺部、8b…溶接基準線短辺部、10…プローブ、11…検査対象、12…主音線、13…溶接線、100…超音波探傷装置、105…全体制御部、110…外側探傷機構、111…外側プローブ、112…外側プローブ保持駆動機構、113…外側超音波探傷器、114…外側監視操作部、115…外側機構制御部、118…遠隔目視機構、120…内側探傷機構、121…内側プローブ、122…内側プローブ保持駆動機構、123…内側超音波探傷器、124…内側監視操作部、125…内側機構制御部、130…設置角度補正機構、131a…外側設置角度判定部、131b…内側設置角度判定部、132a…外側補正演算部、132b…内側補正演算部、133a…外側補正動作部、133b…内側補正動作部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39