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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】耐水耐油ヒートシール紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/46 20060101AFI20230320BHJP
   B65D 65/42 20060101ALI20230320BHJP
   D21H 19/38 20060101ALI20230320BHJP
   D21H 19/56 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
D21H19/46
B65D65/42 C
D21H19/38
D21H19/56
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020127382
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2022024664
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2022-10-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】鉄穴口 晃
(72)【発明者】
【氏名】大木 孝将
(72)【発明者】
【氏名】山下 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】福永 正明
(72)【発明者】
【氏名】紺屋本 博
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-049397(JP,A)
【文献】特許第6580291(JP,B1)
【文献】特許第6939976(JP,B2)
【文献】特開2016-165891(JP,A)
【文献】特開2005-247338(JP,A)
【文献】特開2002-013095(JP,A)
【文献】特開平09-111697(JP,A)
【文献】特開平11-350382(JP,A)
【文献】特開2022-011705(JP,A)
【文献】本間 太郎ら,塗工顔料のアスペクト比と塗工紙物性,紙パ技協誌,2005年,59 巻 4 号, p. 515-522,DOI https://doi.org/10.2524/jtappij.59.515
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 19/46
B65D 65/42
D21H 19/38
D21H 19/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂とワックスと無機扁平顔料とを含む塗工層を有し、
前記塗工層が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、ワックスを3質量部以上15質量部以下、無機扁平顔料を15質量部以下含むことを特徴とする耐水耐油ヒートシール紙。
【請求項2】
紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂とワックスと無機扁平顔料とを含む塗工層を有し、
前記塗工層が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、無機扁平顔料を15質量部以下含み、
前記塗工層に含まれるワックスが、カルナバワックスであることを特徴とする耐水耐油ヒートシール紙。
【請求項3】
紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂とワックスと無機扁平顔料とを含む塗工層を有し、
前記塗工層が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、無機扁平顔料を15質量部以下含み、
前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂であることを特徴とする耐水耐油ヒートシール紙。
【請求項4】
前記塗工層が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、ワックスを3質量部以上、無機扁平顔料を15質量部以下含むことを特徴とする請求項2または3に記載の耐水耐油ヒートシール紙。
【請求項5】
前記塗工層が、ガラス転移温度が100℃以下の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の耐水耐油ヒートシール紙。
【請求項6】
前記紙基材と塗工層との間に、目止め層を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の耐水耐油ヒートシール紙。
【請求項7】
ワックスと顔料の質量比(ワックス:顔料)が、10:90~80:20であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の耐水耐油ヒートシール紙。
【請求項8】
JIS P8140:1998に規定される「紙及び板紙-吸水度試験方法-コッブ法」に準拠して、接触時間1800秒で測定した吸水度(コッブ値)の最高値が15g/m以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の耐水耐油ヒートシール紙。
【請求項9】
J.TAPPI No.41:2000に規定される「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」に準拠して、耐油層表面の任意の5点で測定したキットナンバーの最低値が、6以上であることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の耐水耐油ヒートシール紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水耐油ヒートシール紙、特に食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いられる、耐水性、耐油性、ヒートシール適性を有し、長期保管が可能な耐水耐油ヒートシール紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境中にごみとして流出したプラスチックが、半永久的に分解されず生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されることなどから、プラスチックごみが大きな問題として取り上げられている。対策としては、プラスチックをバイオマス由来材料、生分解性材料である紙に代替することが提案されている。
一方で従来から、紙製の包装材料を食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材などに成形する場合、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂に代表される熱可塑性樹脂を押出しラミネート法等により包装材料に積層させ、ヒートシール適性を付与することが一般に行われている。
【0003】
しかしながら、これらの熱可塑性樹脂のラミネートでは10~30g/m程度の熱可塑性樹脂を使用しており、プラスチック量の削減が十分でない。このことから現在、紙基材上に熱可塑性樹脂分散体を含む水又は溶剤分散液を塗工することで、積層される塗工層を薄膜・減量化した包装紙が提供されている(特許文献1等)。
ただし、塗工紙は、紙製の包装材料を食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材などに成形するまでは、ロール状に巻回されて保管されるが、室温での長期間保管時にブロッキングが発生してしまう問題がある。このことから、良好なブロッキング耐性とヒートシール適性を兼ね備えた包装紙の提供が必要である。
また、塗工時にはピンホールが発生する場合もあり、特に耐水性や耐油性が要求される包装紙においては、このピンホールによって十分な耐水性、耐油性が得られない場合があることから、上記包装紙は良好な耐ピンホール性を持つことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6580291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特に食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いられる、耐水性、耐油性、ヒートシール適性を有すると共に長期保管が可能な耐水耐油ヒートシール紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂とワックスと顔料とを含む塗工層を有することを特徴とする耐水耐油ヒートシール紙。
2.前記塗工層が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、ワックスを3質量部以上、顔料を15質量部以下含むことを特徴とする1.に記載の耐水耐油ヒートシール紙。
3.前記塗工層に含まれるワックスが、カルナバワックスであることを特徴とする1.または2.に記載の耐水耐油ヒートシール紙。
4.前記塗工層が、ガラス転移温度が100℃以下の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする1.~3.のいずれか一項に記載の耐水耐油ヒートシール紙。
5.前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂であることを特徴とする1.~4.のいずれか一項に記載の耐水耐油ヒートシール紙。
6.前記塗工層に含まれる顔料が、無機扁平顔料であることを特徴とする1.~5.のいずれか一項に記載の耐水耐油ヒートシール紙。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒートシール適性を有すると共に長期保管が可能な耐水耐油ヒートシール紙を提供することができる。本発明の耐水耐油ヒートシール紙は、耐ピンホール性に優れており、耐水性、耐油性に優れている。本発明の耐水耐油ヒートシール紙は、食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂とワックスと顔料とを含む塗工層を有することを特徴とする耐水耐油ヒートシール紙(以下、ヒートシール紙ともいう)に関する。
【0009】
(紙基材)
紙基材は、パルプ、填料、各種助剤等を含む紙料を抄紙して得られる。
本発明のヒートシール紙を、食品と接触する用途に使用する場合、紙基材の各材料として、食品添加物として認可を受けている、またはFDA認証取得済み等、食品安全性に適合したものを使用することが好ましい。
【0010】
パルプとしては、針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)、未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)、未晒クラフトパルプ(LUKP)、サルファイトパルプ(SP)等の木材の化学パルプ、グランドパルプ(GP)、リファイナグランドパルプ(RGP)、ストーングランドパルプ(SGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の木材の機械パルプ、ケナフ、バガス、竹、麻、ワラなどから得られた非木材パルプ、古紙を原料とし、脱墨工程にて古紙に含まれるインキを除去した古紙パルプなど、公知のパルプを適宜配合して用いることが可能である。これらの中で、異物混入が発生し難いLBKP、NBKP等の化学パルプが好ましく、また、古紙パルプの配合量が少ないことが好ましい。具体的には、化学パルプの配合量が80%以上であることが好ましく、化学パルプの配合量が100%であることが特に好ましい。また、古紙パルプの配合量が10%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、含まないことが最も好ましい。
【0011】
填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの無機填料、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料等の公知の填料を使用することができる。なお、填料は、必須材料ではなく、使用しなくてもよい。
【0012】
各種助剤としては、ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などのサイズ剤、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、歩留剤、濾水性向上剤、凝結剤、硫酸バンド、嵩高剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が例示可能であり、必要に応じて適宜選択して使用可能である。
【0013】
紙基材の製造(抄紙)方法は特に限定されるものではなく、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、ギャップフォーマー型、ハイブリッドフォーマー型(オントップフォーマー型)等のツインワイヤー抄紙機等、公知の製造(抄紙)方法、抄紙機が選択可能である。また、抄紙時のpHは酸性領域(酸性抄紙)、疑似中性領域(疑似中性抄紙)、中性領域(中性抄紙)、アルカリ性領域(アルカリ性抄紙)のいずれでもよく、酸性領域で抄紙した後、紙層の表面にアルカリ性薬剤を塗工してもよい。また、紙基材は1層であってもよく、2層以上の多層で構成されていてもよい。
【0014】
さらに、紙基材の表面を各種薬剤で処理することが可能である。使用される薬剤としては、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、表面サイズ剤、耐水化剤、保水剤、増粘剤、滑剤などを例示することができ、これらを単独あるいは2種類以上を混合して用いることができる。さらに、これらの各種薬剤と顔料を併用してもよい。顔料としてはカオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコア-シェル型などの有機顔料などを単独または2種類以上混合して使用することができる。
【0015】
紙基材の表面処理の方法は特に限定されるものではないが、ロッドメタリングサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、カーテンコーターなど公知の塗工装置を用いることができる。
この様にして得られる紙基材としては、上質紙、中質紙、塗工紙、片艶紙、クラフト紙、片艶クラフト紙、晒クラフト紙、グラシン紙、板紙、白板紙、ライナーなどの各種公知のものが例示可能である。
【0016】
紙基材の坪量は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は20g/m以上600g/m以下のものが好ましい。食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に使用するヒートシール紙の場合は、25g/m以上600g/m以下のものがより好ましく、特に袋、蓋材、または後述する軟包装材用途に使用するヒートシール紙の場合は、30g/m以上150g/m以下のものが、容器、箱、カップ用途に使用するヒートシール紙の場合は、150g/m以上350g/m以下のものがより好ましい。なお、軟包装材とは、構成としては、柔軟性に富む材料で構成されている包装材であり、一般には紙、フィルム、アルミ箔等の薄く柔軟性のある材料を、単体あるいは貼り合せた包装材を指す。また、形状としては、袋など、内容物を入れることにより立体形状を保つような包装材を指す。
また、紙基材の密度は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は0.5g/cm以上1.0g/cm以下のものが好ましい。
【0017】
(塗工層)
本発明のヒートシール紙は、紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂とワックスと顔料とを含む塗工層を有する。
塗工層はヒートシール適性を付与する層であり、具体的には、加熱、加圧することで接着対象に接着することができる層である。ヒートシール適性を有することにより、特に食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途において、包装形態への成形や形状の維持、密封性の確保などが容易となる。
【0018】
・熱可塑性樹脂
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、製紙分野においてヒートシール層の形成に用いられているものを特に制限することなく使用することができ、例えば、ガラス転移温度が100℃以下であるものを用いることができる。熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、-20℃以上85℃以下であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂の融点は、80℃以上120℃以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエステル樹脂(PET)、エチレンメタクリル酸共重合樹脂(EMAA)、エチレンメチルアクリレート共重合樹脂(EMA)、エチレンアクリル酸共重合樹脂(EAA)、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、スチレンアクリル酸エステル共重合樹脂、ポリ乳酸樹脂等を用いることができる。また、熱可塑性樹脂は、1種あるいは2種類以上を混合して使用することができる。これらの中で、ヒートシール適性の高いエチレンアクリル酸共重合樹脂が好ましい。
【0019】
・ワックス
本発明で使用するワックスは、特に制限されず、アルカン化合物を主体とするパラフィン系ワックス、カルナバやラノリンなどの動植物由来の天然油脂系ワックス、シリコーンまたはシリコーン化合物を含有するシリコーン含有系ワックス、フッ素化合物を含有するフッ素含有系ワックスなどを用いることができる。ワックスは、1種あるいは2種類以上を混合して使用することができる。これらの中で、カルナバワックスが好ましい。
【0020】
本発明において、ワックスの配合量は特に限定されるものではないが、乾燥重量で熱可塑性樹脂100質量部に対して、ワックスを3質量部以上含むことが好ましく、4質量部以上含むことがより好ましい。ワックスの配合量が3質量部未満であると、ブロッキング耐性が十分に得られない場合がある。また、乾燥重量で熱可塑性樹脂100質量部に対して、ワックスを15質量部以下含むことが好ましく、12質量部以下含むことがより好ましい。ワックスの配合量が15質量部を超えてもブロッキング耐性は飽和してほとんど向上せず、コストが増加する。
【0021】
・顔料
本発明で使用する顔料は、特に制限されず、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコア-シェル型などの有機顔料等を用いることができる。また、顔料は、1種あるいは2種類以上を混合して使用することができる。これらの中で、耐水性向上の点から、無機扁平顔料が好ましい。なお、扁平顔料とは、アスペクト比が10以上の顔料を意味する。
【0022】
本発明において、顔料の配合量は特に限定されるものではないが、乾燥重量で熱可塑性樹脂100質量部に対して、顔料を15質量部以下含むことが好ましく、12質量部以下含むことがより好ましい。顔料の配合量が15質量部を超えると、耐水性が十分に得られない場合がある。また、乾燥重量で熱可塑性樹脂100質量部に対して、顔料を0.1質量部以上含むことが好ましく、3質量部以上含むことがより好ましい。顔料の配合量が0.1質量部未満である場合には、耐ピンホール性が低下する場合がある。
【0023】
本発明の塗工層は、熱可塑性樹脂とワックスと顔料とを含む。ワックスは、ブロッキングの発生を防止するが、ピンホールの発生の原因となる場合がある。ワックスと顔料を組み合わせて熱可塑性樹脂に配合することにより、塗工層におけるピンホールの発生を抑えることができる。ワックスと顔料との配合比は、ブロッキング耐性と耐ピンホール性とを両立できる範囲内であれば特に限定されないが、ワックス:顔料の質量比は、10:90~80:20であることが好ましく、20:80~70:30であることがより好ましい。
【0024】
本発明のヒートシール紙は、塗工層と紙基材とを有するものであればよく、目止め層、印刷層、遮光層、水蒸気バリア層、ガスバリア層等の他の層を有することができ、塗工層と紙基材の間に目止め層を有することが好ましい。
(目止め層)
目止め層は、塗工層用塗工液の紙基材への沈み込みを抑えることにより、塗工層の性能低下を防ぐものである。目止め層を有することにより、塗工層におけるピンホール、筋ムラ等の塗工欠陥の発生を少なくすることができ、耐水性、耐油性を高めることができる。
目止め層は、塗工層用塗工液の紙基材への沈み込みを抑えることができるものであれば特に制限されないが、例えば、熱可塑性樹脂と顔料を含むことが好ましい。また、目止め層には、必要に応じてサイズ剤、耐水化剤、撥水剤、染料、界面活性剤等を含有させることができる。
熱可塑性樹脂と顔料としては、目止め層に用いられている公知のものを使用することができる。目止め層における顔料の配合量は、目止め効果を発揮できる範囲内であれば特に制限されないが、例えば、熱可塑性樹脂100質量部に対して、顔料を50質量部以上200質量部以下含むことが好ましい。
【0025】
塗工層、目止め層の塗工方法は特に限定されるものではなく、公知の塗工装置および塗工系で塗工することができる。例えば、塗工装置としてはブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター等が挙げられる。また、塗工系としては、水等の溶媒を使用した水系塗工、有機溶剤等の溶媒を使用した溶剤系塗工などが挙げられる。本発明のヒートシール紙は、食品等と接触する用途に用いられる場合があるため、水系塗工であることが、食品安全性の点から好ましい。
塗工液の粘度、固形分濃度等は、用いる塗工装置、塗工系等に応じて、適宜調整することができる。
【0026】
塗工層の塗工量(乾燥重量)は、片面あたり1g/m以上20g/m以下であることが好ましい。塗工量が片面あたり1g/m未満では、耐水性、耐油性、ヒートシール適性が低下する。また、塗工量が片面あたり20g/mを超えても耐水性、耐油性、ヒートシール適性はほとんど向上せず、コストが増加する。塗工層は、1層であってもよく、2層以上の多層で構成してもよい。塗工層を2層以上の多層で構成する場合は、全ての塗工層を合計した塗工量を上記範囲とすることが好ましい。
また、目止め層を設ける場合は、その塗工量(乾燥重量)は、3g/m以上20g/m以下であることが好ましい。
【0027】
本発明のヒートシール紙は、JIS P8140:1998に規定される「紙及び板紙-吸水度試験方法-コッブ法」に準拠して、接触時間1800秒で測定した吸水度(コッブ値)の最高値が15g/m以下であることが好ましく、5g/m以下であることがより好ましい。
本発明のヒートシール紙は、J.TAPPI No.41:2000に規定される「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」に準拠して、耐油層表面の任意の5点で測定したキットナンバーの最低値が、6以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、12であることが最も好ましい。
【0028】
本発明の耐水耐油ヒートシール紙は、食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材などの包装用途に用いられる耐水耐油ヒートシール紙とすることが可能である。これらの中で、特に容器、箱、カップ、より好ましくは飲料用カップ用途に好適に使用することができる。
【実施例
【0029】
(評価方法)
(1)耐水性
JIS P8140:1998 紙及び板紙-吸水度試験方法-コッブ法により、塗工層表面の任意の2点でcobb1800秒を測定した。測定した2点の平均値を耐水性の値として採用した。
(2)耐油性
J.TAPPI No.41:2000 紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法により、塗工層表面の任意の3点でキットナンバーを測定した。3点測定したキットナンバーの中央値を耐油性の値として採用した。
【0030】
(3)ヒートシール適性
(ヒートシール条件)
得られたヒートシール紙から1辺100mmの正方形の試験片を2枚切り出し、塗工層同士を接触させて、加圧温度160℃、加圧圧力2kgf/cm、加圧時間0.5秒でヒートシールした。
ヒートシールした試験片を手で剥離させた際の、剥離部分を目視で観察し、以下の基準でヒートシール適性を評価した。
〇:紙基材内で剥離(紙基材が破壊される)
×:塗工層間で剥離
【0031】
(4)ブロッキング性
ASTM D918-81、Standard Test Method for Blocking Resistance of Paper and Paperboardにより、塗工層同士を接触させて、60℃、RH75%条件にて24時間保管した後のブロッキングの度合いを評価した。評価が○であれば実用上問題がない。なお、この評価方法は、製品の倉庫等での保管を想定した評価方法である。
[評価基準]
○:ブロッキングしない、もしくは軽度のブロッキングであり、容易に剥がすことができる
×:強くブロッキングしており、容易に剥がすことができない
(5)耐ピンホール性
界面活性剤を含んだ染色液(界面活性剤:ティポールエイト0.2%、染料:ブリリアントブルー0.05%、表面張力28.4mN/m)を塗工層表面の任意の2点にそれぞれ10ml滴下し、10秒後に染色液をふき取った後、滴下した箇所の染色の有無を確認した。評価が○であれば実用上問題がない。
[評価基準]
○:5cm四方の中にピンホールによる染色が10個未満
×:5cm四方の中にピンホールによる染色が10個以上
【0032】
[実施例1]
(塗工層用塗工液の調製)
熱可塑性樹脂(Michelman社製:MICHEM PRIME 498345N.S)、カルナバワックス(Michaelman社製:MICHEM LUBE 160RPH.S)、カオリン(イメリス社製:バリサーフHX、アスペクト比95)を、固形分質量比でそれぞれ、100.0/6.0/10.0部となるように調製し、塗工層用塗工液を得た。
【0033】
(目止め層用塗工液の調製)
熱可塑性樹脂(Michelman社製:MICHEM PRIME 498345N.S)、カオリン(イメリス社製:バリサーフHX)を固形分質量比でそれぞれ、100.0/100.0部となるように調製し、目止め層用塗工液を得た。
【0034】
(耐水耐油ヒートシール紙の作製)
紙基材(坪量200g/mのカップ原紙)の片面に、目止め層用塗工液を乾燥重量で塗工量8.0g/mとなるようにバーブレード法で塗工、乾燥した後、その上に塗工層用塗工液を乾燥重量で塗工量3.5g/mとなるようにバーブレード法で塗工、乾燥し、耐水耐油ヒートシール紙を得た。
【0035】
[実施例2]
塗工層用塗工液における熱可塑性樹脂、ワックス、顔料の固形分質量比を、100.0/10.0/5.0部とした以外は、実施例1と同様にして、耐水耐油ヒートシール紙を得た。
[実施例3]
塗工層用塗工液における熱可塑性樹脂、ワックス、顔料の固形分質量比を、100.0/10.0/10.0部とした以外は、実施例1と同様にして、耐水耐油ヒートシール紙を得た。
【0036】
[比較例1]
紙基材(坪量200g/mのカップ原紙)の片面に、熱可塑性樹脂(Michelman社製:MICHEM PRIME 498345N.S)を乾燥重量で塗工量10.0g/mとなるようにバーブレード法で塗工、乾燥し、耐水耐油ヒートシール紙を得た。
[比較例2]
塗工層用塗工液として熱可塑性樹脂(Michelman社製:MICHEM PRIME 498345N.S)のみを乾燥重量で塗工量5.0g/mとなるように塗工した以外は、実施例1と同様にして、耐水耐油ヒートシール紙を得た。
[比較例3]
塗工層用塗工液における熱可塑性樹脂、ワックス、顔料の固形分質量比を、100.0/0/20.0部とした以外は、比較例1と同様にして、耐水耐油ヒートシール紙を得た。
[比較例4]
塗工層用塗工液における熱可塑性樹脂、ワックス、顔料の固形分質量比を、100.0/0/10.0部とした以外は、実施例1と同様にして、耐水耐油ヒートシール紙を得た。
[比較例5]
塗工層用塗工液における熱可塑性樹脂、ワックス、顔料の固形分質量比を、100.0/6.0/0部とした以外は、比較例1と同様にして、耐水耐油ヒートシール紙を得た。
[比較例6]
塗工層用塗工液における熱可塑性樹脂、ワックス、顔料の固形分質量比を、100.0/6.0/0部とした以外は、実施例1と同様にして、耐水耐油ヒートシール紙を得た。
【0037】
【表1】
【0038】
本発明である実施例1~3で得られたヒートシール紙は、ブロッキング耐性に優れていた。また、耐ピンホール性に優れており、耐水性、耐油性に優れていた。
塗工層が熱可塑性樹脂のみからなる比較例1、2で得られたヒートシール紙は、ブロッキングが起こり、長期保管性に劣っていた。また、比較例1で得られたヒートシール紙は、耐ピンホール性に劣り、耐水性、耐油性に劣っていた。塗工層がワックスを含まない比較例3、4で得られたヒートシール紙は、ブロッキングが起こり、長期保管性に劣っていた。また、耐水性に劣っていた。塗工層が顔料を含まない比較例5、6で得られたヒートシール紙は、ブロッキングは起こらなかったが、耐ピンホール性に劣り、耐水性、耐油性に劣っていた。また、目止め層を有さない比較例1、3、5で得られたヒートシール紙は、目止め層を有する比較例2、4、6で得られたヒートシール紙と比較して、塗工層の塗工量が2倍以上であるにも関わらず、耐水性、耐油性に劣っていた。