(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】注入可能な油中水型エマルション及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 9/107 20060101AFI20230320BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230320BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20230320BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230320BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20230320BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230320BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20230320BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20230320BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20230320BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230320BHJP
A61K 49/18 20060101ALI20230320BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
A61K9/107
A61K47/34
A61K47/14
A61K47/44
A61K47/06
A61K45/00
A61K31/704
A61K31/4745
A61K31/282
A61K39/395 M
A61K39/395 N
A61K49/18
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020503016
(86)(22)【出願日】2018-07-16
(86)【国際出願番号】 EP2018069272
(87)【国際公開番号】W WO2019016138
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-05-11
(32)【優先日】2017-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】508061930
【氏名又は名称】アンスティテュ ギュスタブ ルシ
(73)【特許権者】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ サイアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】520018392
【氏名又は名称】ユニベルシテ パリ-サクレー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク デシャン
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー ド バエール
(72)【発明者】
【氏名】ランブロス テリカス
(72)【発明者】
【氏名】トマ イゾアルド
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ ホアン
(72)【発明者】
【氏名】ロランス モワンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ ツァピス
(72)【発明者】
【氏名】エリアス ファタール
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-505326(JP,A)
【文献】特開2008-208045(JP,A)
【文献】特表2005-503398(JP,A)
【文献】特開平10-158152(JP,A)
【文献】特開2001-089319(JP,A)
【文献】特表2018-534310(JP,A)
【文献】米国特許第06592883(US,B1)
【文献】国際公開第2017/087520(WO,A1)
【文献】国際公開第00/076525(WO,A1)
【文献】特表2016-516824(JP,A)
【文献】Journal of Materials Chemistry B,2014年,Vol.2,p.7605-7611
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/107
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続油相と、液滴の形態で分散された水相とを含む油中水エマルションであって、前記水相がポリエステルベースのナノ粒子と少なくとも1つの治療薬とを含
み、
前記ポリエステルベースのナノ粒子が、ポリ乳酸(ポリラクチド)、ポリグリコール酸(ポリグリコリド)、ラクチド-グリコリドコポリマー、ラクチド-グリコリド-co-ポリエチレングリコールコポリマー、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリブチルアセトン、ポリバレロラクトン、ポリリンゴ酸、ポリラクトン、及びそれらの混合物に基づくナノ粒子からなる群から選択され、
油相が少なくとも1つの植物油を含むか、あるいは油相が、ケシ種子油からのヨウ素化脂肪酸のエチルエステル、8~12個の炭素原子を含む中鎖長を有するトリグリセリド、又は主にスクアレンで構成される鉱油を含む、上記油中水エマルション。
【請求項2】
水相の液滴のサイズが10μm~100μmである、請求項
1に記載のエマルション。
【請求項3】
治療薬が、免疫調節剤、抗癌薬製品、抗血管新生薬製品、抗感染薬製品、
及び抗炎症薬製品
から選択される、請求項1
又は2に記載のエマルション。
【請求項4】
抗癌性医薬品が、アルキル化剤、白金誘導体、細胞毒性抗生剤、抗微小管剤、アントラサイクリン、トポイソメラーゼI型及びII型阻害剤、フルオロピリミジン、シチジン類似体、アデノシン類似体、メトトレキサート、フォリン酸、酵素、抗血管剤、抗血管新生剤、抗有糸分裂剤、キナーゼ阻害剤、ホルモン、モノクローナル抗体、放射性元素、腫瘍溶解性ウイルス、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項
3に記載のエマルション。
【請求項5】
治療薬が、ドキソルビシン、イリノテカン、オキサリプラチン、及びそれらの混合物からなる群から選択される抗癌性医薬品である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項6】
治療薬が、抗血管新生モノクローナル抗体、抗CTLA-4モノクローナル抗体、抗PD-1モノクローナル抗体、抗PD-L1モノクローナル抗体、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項
3に記載のエマルション。
【請求項7】
前記ポリエステルベースのナノ粒子が酸化鉄粒子をさらに含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のエマルションを含むことを特徴とする医薬品。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のエマルション、ならびに少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項10】
癌の治療に使用するための、請求項
4~
6のいずれか1項に記載のエマルション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、安定で注射可能な油中水型の治療用エマルションに関する。また、特に癌の治療のための前記エマルションの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肝動脈化学療法-塞栓術は、手術不能な肝細胞癌及び血管過剰転移などの特定の肝腫瘍の標準治療である。この治療は、腫瘍動脈に直接、化学療法薬(一般的にはドキソルビシン)の注射と虚血性動脈塞栓術を組み合わせたものである。化学療法薬は、化学療法薬が以前に「充填」されたベクターの使用により、腫瘍動脈でゆっくりと持続的に放出される。このベクターは、理想的には、診断特性(画像化の可視性)と治療特性(化学療法薬の制御された持続放出)を備えている必要がある。しかしながら、現在使用されているベクター(Lipiodol(登録商標)又は充填されたビーズ)には、このセラノスティック特性(診断及び治療)はない。装填されたビーズは、化学療法薬(イオン交換機構)を装填できるポリビニルアルコールベースのミクロスフェアであり、70~700μmの様々なサイズで入手できる。これらのビーズは、腫瘍の化学療法薬への曝露の著しい増加と全身毒性の減少をすでに実証しているが、造影剤は含まれていない。したがって、手技中の化学療法薬の投与を正確に観察し、手技後の腫瘍内の化学療法薬の濃度を定量化することは不可能である。さらに、現在、ビーズにドキソルビシンとイリノテカンを充填することが可能なだけある。
【0003】
リピオドールは、X線透視下で見える疎水性(油)放射線不透過性造影剤の特性と腫瘍動脈に対する選択性に使用される。したがって、リピオドールを含む化学療法エマルションの製造は、肝腫瘍における化学療法薬の選択的かつ可視的な送達への希望を高めるのに役立つ。しかしながら、これらのリピオドール化エマルションのセラノスティック特性は、安定性が低いために制限される。化学療法薬とリピオドールの相分離は数分以内に起こる。非常に急速に、エマルションの2つの相は互いに分離し、水に可溶な化学療法薬は腫瘍からほぼ完全に消失する。さらに、3方活栓による2本の注射器(化学療法薬1本とリピオドール1本)の反復ポンピングにより乳化が得られるため、術者間で技術を再現することはできない。この安定性の低さにより、腫瘍組織に化学療法薬がランダムに集中する。様々な手法(ミキサー、超音波、乳化剤)及び様々なタイプのリピオドールエマルション(水中油に対して油中水型、リピオドールと化学療法薬の異なる比率)を改善するために前臨床研究で使用されているが、エマルションの安定性と再現性、それらのどれも成功していない。
【0004】
現在まで、医薬品エマルションを安定化するために合成界面活性剤が使用されてきた。しかしながら、このタイプの乳化剤は、直接的又は間接的に毒性と環境関連の問題を引き起こす。特に、非経口投与中に、これらの薬剤の特定の細胞毒性及び溶血挙動が観察されている。
【発明の概要】
【0005】
したがって、本発明の目的は、経時的に、特に少なくとも24時間にわたって安定である、新規の治療用油中水型エマルションを提供することである。
【0006】
本発明の目的はまた、好ましくはセラノスティック特性を有する新規の安定したエマルションを提供することである。
【0007】
本発明の目的は、少なくとも1つの抗癌剤を含み、従来のエマルションよりも高い程度の腫瘍選択性を有する新規の安定したエマルションを提供することでもある。
【0008】
本発明の目的はまた、種々の治療薬を充填することが可能であり、磁気共鳴画像法(MRI)により潜在的に視認可能な新規エマルションを提供することである。
【0009】
本発明の目的はまた、合成界面活性剤又は鉱物粒子で安定化された通常のエマルションよりも毒性が少なく、刺激性が低い、新規な生分解性、生体適合性エマルションを提供することである。
【0010】
したがって、本発明は、連続油相及び液滴の形態で分散された水相を含む油中水型エマルションに関し、前記水相はポリエステルベースのナノ粒子及び少なくとも1つの治療薬を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、様々な濃度のポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)ナノ粒子で得られたエマルションの光学顕微鏡画像である。
【
図2】
図2は、異なるリピオドール/生理食塩水比で得られたエマルションの光学顕微鏡画像を表す。
【
図3】
図3は、Turbiscanを使用した、15mg/mLのナノ粒子で安定化された3/1エマルションの24時間にわたるクリーミングのモニタリングを表す。
【
図4】
図4は、Turbiscanを使用した、(エマルションの前と15分後の)ナノ粒子によって安定化されていない3/1エマルションの15分間にわたる相分離のモニタリングを示す。
【
図5】
図5は、エマルションの注入性に関するものである。
図5Aは、2mm/sの速度で異なる比率でProgreat 2.4Fカテーテルを介したエマルションの注入性に関するものである(曲線「a」は、油/水比が8:3であるエマルションに対応する;曲線「b」は、油/水比が3:1であるエマルションに対応する;曲線「c」は、油/水比が6:1であるエマルションに対応する;曲線「d」は、リピオドール単独に対応する)。
図5Bは、異なる注入速度(a:6mm/s、b:4mm/s、c:2mm/s、d:1mm/s)での3/1エマルションの注入性に関するものである。
図5cは、2mm/sの速度で異なる比率で18G針を介したエマルションの注入可能性に関するものである(a:リピオドール単独;b:3:2比率;c:6:1比率、及びd:8:3比率)。
【
図6】
図6は、Turbiscanを使用した、20mg/mlドキソルビシンの濃度での15mg/mLのナノ粒子で安定化された3/1エマルションの24時間にわたるクリーミングのモニタリングを表す。
【
図7】
図7は、Turbiscanを使用した、20mg/mlドキソルビシンの濃度でのナノ粒子によって安定化されていない4/1エマルションの4時間にわたる相分離のモニタリングを表す。
【
図8】
図8は、ナノ粒子を含まない(菱形の曲線)、15mg/ml濃度のナノ粒子(三角形の曲線)、及び充填されたビーズ(四角の曲線)を伴う、20mg/ml濃度のドキソルビシンが充填された3/1比のリピオドール化エマルションからのドキソルビシンのインビトロ放出に関する。
【
図9】
図9は、20mg/mL濃度のイリノテカンを含むナノ粒子(NP)によって安定化されたエマルション(丸)、安定化されていないエマルションと比較して3/1比であるもの(三角)、イリノテカンが充填されたビーズを有するもの(菱形)及びイリノテカンを含まないもの(四角)を用いた、イリノテカンのインビトロ放出に関する。
【
図10】
図10は、濃度15mg/mL、比率3/1(三角形)、3/2(四角)、及び1/1(菱形)のNPで安定化されたエマルションによるイリノテカンのインビトロ放出に関する。
【
図11】
図11は、ナノ粒子の安定化の有無にかかわらず、異なる比率のリピオドールとオキサリプラチンで調製されたエマルションでの白金のインビトロ放出の比率を示す。菱形の曲線は、ナノ粒子なしの3/1の比率に対応し、四角の曲線は、ナノ粒子の3/1の比率に対応し、三角形の曲線は、ナノ粒子の2/1の比率に対応し、十字の曲線は、ナノ粒子で1/1の比率に対応する。
【
図12】
図12は、ナノ粒子の安定化の有無にかかわらず、異なるリピオドールとオキサリプラチンの比率で製造されたエマルションでインビトロ放出された白金の量を示す。菱形の曲線は、ナノ粒子なしの3/1の比率に対応し、四角の曲線は、ナノ粒子の3/1の比率に対応し、三角形の曲線は、ナノ粒子の2/1の比率に対応し、十字の曲線は、ナノ粒子で1/1の比率に対応する。
【
図13】
図13は、15mg/mL濃度を有するNPにより安定化された3/1比を有するリピオドール化エマルションからのイピリムマブのインビトロ放出に関する。
【
図14】
図14は、左肝動脈へのピカリングリピオドール化エマルション(点線)又は従来のリピオドール化エマルション(実線)の注射後のオキサリプラチンの血漿薬物動態に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
油相
本発明によるエマルションは、連続油相(又は脂肪相)を含む。
【0013】
一実施形態によれば、本発明による油相は、少なくとも1つの油を含む。油相は、単一の油又は複数の異なる油の混合物で構成されてもよい。
【0014】
油相を構成するために、任意の油又は任意の適切な医薬品油を使用してもよい。
【0015】
「油」という用語は、周囲温度(25℃)及び大気圧(760mmHg)で水及び液体と非混和性の非水性化合物を指すと理解される。
【0016】
本発明に適した油のうち、特に脂肪酸、脂肪酸エステル、及び鉱油(特にスクアレンなど)を挙げることができる。
【0017】
海洋油、特に魚油、特にサケ油についても言及することができる。例えば、魚油に含まれる多価不飽和脂肪酸の1つであるエチルイコサペンテートを挙げることができる。
【0018】
本発明による油相は、好ましくは注射可能な油、好ましくは注射可能な植物油を含む。
【0019】
注射可能な油の中で、特にHippamgaonkarら,(2010)AAPS Pharm Sci Tech,11(4),p.1526-1540による論文に記載されているような、当業者に周知のものを挙げることができる。
【0020】
一実施形態によれば、本発明による油相は、長鎖トリグリセリド(LCT)及び/又は中鎖トリグリセリド(MCT)を含む。LCTの中では、トリオレイン、大豆油、ベニバナ油、ゴマ油、ヒマシ油が挙げられる。MCTの中では、分画されたココナッツ油、実際には、製品MIGLYOL810(登録商標)又は812(登録商標)、Neobee(登録商標)M-5又はCaptex(登録商標)300などのカプリル酸/カプリン酸のトリグリセリドが挙げられる。
【0021】
カプリル酸/カプリン酸/リノール酸のトリグリセリド(MIGLYOL818(登録商標))、カプリル酸/カプリン酸/コハク酸のトリグリセリド(MIGLYOL829(登録商標))、又はMIGLYOL840(登録商標)(国際化粧品成分の命名法(INCI)名:プロピレングリコールジカプリレート/ジカプレート)についても言及できる。
【0022】
一実施形態によれば、油相は、少なくとも1つの植物油、特にヒマシ油、ゴマ油、ケシ油、オリーブ油、大豆油、ヤシ油、トリオレイン及びそれらの混合物を含む。
【0023】
一実施形態によれば、油相は、放射線不透過性にするためにヨウ素で変性された少なくとも1つの油を含む。これらの油のうち、ケシの種子油、亜麻仁油(J Pharm Sci,102:4150,2013を参照)、Labrafac WL1349(Attia et al.,Macromol Biosci,2017)、ヒマシ油(ACS Nano,8(10),10537,2014)又はさらにビタミンEについて言及することができる。
【0024】
一実施形態によれば、油相は、ケシの実油からのヨウ素化脂肪酸のエチルエステルを含み、特にリピオドールから構成される。
【0025】
リピオドールは、ケシの実油からのヨウ素化脂肪酸のエチルエステルで構成される。43~53%のヨウ素が含まれる。ケシの実油のケン化により調製され、脂肪酸が石鹸の形で放出され、その後、塩化ヨウ素によりヨウ素化され、最後にエタノールによりエステル化される。ケシの実の油は、黒いケシの実(Papaver somniferum)から抽出される。この油に含まれる主な脂肪酸はリノール酸とリノレン酸である。リピオドールは、放射線検査との関連で造影剤としても使用される。
【0026】
一実施形態によれば、油相は、特に8~12個の炭素原子を含む中鎖長を有するトリグリセリド、又は主にスクアレンで構成される鉱油を含む。
【0027】
一実施形態によれば、本発明によるエマルションの油相は、化合物をさらに含み、その質量の100%は、以下を含む10%~95%の鉱油を含む:
-炭素原子が16個未満の0.05%~10%の炭化水素鎖;
-炭素原子が28個を超える0.05%~5%の炭化水素鎖;
-パラフィン(タイプ)炭化水素鎖の質量とナフテン(タイプ)炭化水素鎖の質量の比に対応する2~6のP/N比を有する。
【0028】
一実施形態によれば、本発明によるエマルションの油相は、特許出願FR2955776に記載されているものなど、SEPPICによって市販されているMONTANIDE製品から選択される少なくとも1つの化合物を含むことができる。
【0029】
本発明によるエマルションの油相はまた、少なくとも1つの界面活性剤を含んでもよい。
【0030】
一実施形態によれば、油相の体積と水相の体積との比は4:1~3:3である。好ましくは、この比は4:1、3:1、2:1、3:2、又は3:3に等しく、好ましくは3:1である。
【0031】
一実施形態によれば、本発明によるエマルションは、前記エマルションの総重量に対して40重量%から80重量%、好ましくは60重量%から80重量%の油相を含む。
【0032】
水相
本発明によるエマルションは、分散された水相を含む。本発明による水相は、少なくとも水を含む。
【0033】
一実施形態によれば、本発明によるエマルションは、前記エマルションの総重量に対して20重量%~60重量%、好ましくは20重量%~40重量%の水相を含む。
【0034】
本発明による水相は、1ミクロンより大きいサイズの液滴の形態である。
【0035】
一実施形態によれば、水相の液滴のサイズは、10μm~100μm、好ましくは20μm~50μmである。
【0036】
ナノ粒子
本発明の水相は、少なくとも1つのポリエステルベースのナノ粒子を含む。
【0037】
エマルションの製剤に固体粒子を使用すると、合成界面活性剤の使用を減らすか、さらには回避することができ、非常に安定した界面が得られる。固体粒子によって安定化されたこのようなエマルションは、ピカリングエマルションと呼ばれる。ピカリングエマルションは、ほとんどの用途で従来のエマルションをピカリングエマルションで置き換えることができるように、界面活性剤によって安定化された従来のエマルションの基本特性を保持する。それらの「界面活性剤を含まない」性質により、特に化学塞栓療法などの生物医学的応用にとって非常に魅力的である。
【0038】
一実施形態によれば、本発明によるナノ粒子は生分解性である。
【0039】
生分解性ポリエステルベースのナノ粒子は、エマルションの水/油界面を安定させるための固体粒子として使用される。これらのナノ粒子は毒性が低く、これらのナノ粒子の存在下では限られた炎症反応が観察される。したがって、本発明によるエマルションは、合成界面活性剤又は鉱物粒子で安定化された通常のエマルションよりも生分解性、生体適合性、潜在的に毒性が低い、又は刺激物が少ないという利点を示す。
【0040】
本発明によるナノ粒子は、当業者に周知のポリマーナノ粒子である。
【0041】
本発明によれば、これらのナノ粒子は、1μm未満の少なくとも2つの寸法を有する固体粒子である。好ましくは、これらのナノ粒子は、1μm未満のサイズ(それらが光散乱によって測定したる合)の平均を有するマトリックスコアを備えたナノスフェアである。
【0042】
好ましくは、ナノ粒子は200nmの平均サイズを有する。それらは通常、50nm~400nmで構成され、より正確には100nm~300nmで構成される。
【0043】
本発明の文脈において、「サイズ」という用語は直径を指す。
【0044】
一実施形態によれば、本発明のエマルションは、本明細書で上記に定義された5~25mg/ml、好ましくは15mg/mlのナノ粒子を含む。
【0045】
本発明によるナノ粒子は、ポリエステルベースである。上述のように、それらは好ましくは固体であり、したがって少なくとも1つのポリエステルで構成される。
【0046】
一実施形態によれば、ポリエステルベースのナノ粒子は、ポリ乳酸(ポリラクチド)、ポリグリコール酸(ポリグリコリド)、ラクチド-グリコリドコポリマー(異なるラクチド/グリコール比を有する)、ラクチド-グリコリド-co-ポリエチレングリコール共重合体、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリブチルアセトン、ポリバレロラクトン、ポリリンゴ酸、ポリラクトン、及びそれらの混合物に基づくナノ粒子からなる群から選択される。
【0047】
一実施形態によれば、ポリエステルベースのナノ粒子はさらに、酸化鉄粒子を含み、好ましくは5nm~30nmの間、好ましくは10nmに等しいサイズを有する。
【0048】
注入にピカリングエマルションを使用する利点は、ベクターの油性及び/又は酸化鉄粒子の取り込みにより、MRIで検出できる可能性があることである。現在、MRIは、CTスキャンと比較して肝細胞癌の検出に有意に高い診断に関して、その精度及び感度のため、患者にますます使用されている。したがって、造影剤が、本発明に従って使用される安定化ナノ粒子に導入されている。酸化鉄粒子は、効果的なT2造影剤と考えられる。したがって、一実施形態によれば、治療薬は水滴の内部にカプセル化され、酸化鉄粒子はこれらの水滴を安定化するナノ粒子に組み込まれる。単一の注射可能な形態の酸化鉄ナノ粒子を含む治療薬を有することにより、投与後の薬物療法がどうなるかを監視することが可能になる。
【0049】
治療薬
本発明によるエマルションは、少なくとも1つの治療薬を含む。
【0050】
本発明によれば、前記治療薬は、水相の液滴内にカプセル化される。
【0051】
このカプセル化は、特定のタイプの治療薬、特にモノクローナル抗体などの壊れやすい分子を保護し、したがって安定化する手段を提供するという点で有利である。
【0052】
タンパク質構造に起因するモノクローナル抗体は、特定の金属及び油/有機溶媒の存在下で、熱、光、pHにさらされたとき、又は強く撹拌されたときに劣化する場合がある。これらは壊れやすい分子であり、その取り扱いにより、凝集又は変性のリスクが生じる可能性がある。保護システムが提供されていない限り、ベクターに組み込まれている間、それらは変更及び変性される危険がある。現在入手可能なエマルションは、これらの活性成分の輸送及びその制御放出を可能にするのに役立たない。治療薬含む水滴と油の間に安定化ナノ粒子を介して物理的障壁を導入することにより、抗体は安定した状態になる。
【0053】
一実施形態によれば、治療薬は、免疫調節剤、抗癌薬製品、抗血管新生薬製品、抗感染薬製品、抗炎症薬製品、造影剤、放射性薬剤及び感染薬の中から選択される。
【0054】
本発明によれば、「免疫調節剤」という用語は、免疫応答を調節することができる化合物を指す。
【0055】
治療薬の中で、腫瘍抗原を標的とする抗体について言及することもできる。本発明によれば、「腫瘍抗原」という用語は、細胞の表面に特異的に存在する分子を指す(例えば、血管内皮成長因子、CTLA-4、PD1又はPDL-1)。
【0056】
本発明によれば、用語「抗血管新生薬製品」は、既存の血管(例えば、ベバシズマブ、スニチニブ又はソラフェニブ)からの新しい血管の成長(血管新生)のプロセスを阻害するように設計された薬剤を指す。
【0057】
本発明によれば、用語「抗感染薬製品」は、微生物起源の感染症の治療を目的とする医薬品を指す(例えば、抗生物質、抗ウイルス薬又は抗真菌薬)。抗生物質の中で、例えばアモキシシリン又はセファゾリンが言及され得る。
【0058】
本発明によれば、「抗炎症薬製品」という用語は、炎症の治療を目的とする薬剤を指す(ステロイド性及び非ステロイド性抗炎症薬)。例えば、メチルプレドニゾロン又はケトプロフェンが言及され得る。
【0059】
本発明によれば、「造影剤」という用語は、人為的にコントラストを増加させ、それにより解剖学的構造又は自然にわずか又はコントラストのない構造を見ることができる物質を指す。より具体的には、ヨウ素化造影剤、MRI造影剤及び製品又はラジオ素子について言及することができる。
【0060】
本発明によれば、「放射性元素」という用語は、高エネルギー光子の放出をしばしば伴うα、β又はγ放射線を放出する化学元素を指す。これらの元素は、核医学で、低線量での診断目的、及び癌の治療のための高線量での治療目的で使用される(例えば、テクネチウム-99m、フッ素-18、ヨウ素-123、イットリウム-90、ヨウ素-131又はホルミウム-166)。
【0061】
本発明によれば、用語「感染性因子」は、感染性疾患(細菌、ウイルス、プリオン、酵母及び寄生虫など)を引き起こす原因となる生物学的因子を指す。
【0062】
一実施形態によれば、本発明によるエマルションは、治療薬として、少なくとも1つの抗癌剤を含む。
【0063】
好ましくは、抗癌薬は、アルキル化剤、白金誘導体、細胞毒性抗生剤、抗微小管剤、アントラサイクリン、I型及びII型トポイソメラーゼ阻害剤、フルオロピリミジン、シチジン類似体、アデノシン類似体、メトトレキサート、フォリン酸、酵素、抗血管剤、抗血管新生剤、抗有糸分裂剤、特に紡錘体毒剤、キナーゼ阻害剤、ホルモン、モノクローナル抗体、放射性元素、腫瘍溶解性ウイルス及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0064】
アルキル化剤のうち、例えば、シクロホスファミド、メルファラン、イホスファミド、クロラムブシル、ブスルファン、チオテパ、プレドニムスチン、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ステプトゾトシン、デカルバジン、テモゾロミド、プロカルバジン及びヘキサメチルメラミンについて言及することができる。
【0065】
白金誘導体の中で、特にシスプラチン、カルボプラチン及びオキサリプラチンについて言及することができる。
【0066】
細胞傷害性抗生物質の中で、例えば、ブレオマイシン、マイトマイシン及びダクチノマイシンについて言及することができる。
【0067】
抗微小管剤の中で、特にビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン及びタキソイド(パクリタキセル及びドセタキセル)について言及することができる。
【0068】
アントラサイクリンの中で、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ミトキサントロン及びロソキサントロンについて言及することができる。
【0069】
トポイソメラーゼI型及びII型阻害剤の中で、例えばエトポシド、テニポシド、アムサクリン、イリノテカン、トポテカン及びトムデックスについて言及することができる。
【0070】
代謝拮抗剤の中で、メトトレキサート又はヒドロキシ尿素に言及することができる。
【0071】
フルオロピリミジンの中で、5-フルオロウラシル、UFT、又はフロクスウリジンを挙げることができる。
【0072】
シチジン類似体の中で、5-アザシチジン、シタラビン、ゲムシタビン、6-メルカプトムリン、及び6-チオグアニンを挙げることができる。
【0073】
アデノシン類似体の中で、例えばペントスタチン、シタラビン又はリン酸フルダラビンを挙げることができる。
【0074】
様々な酵素及び化合物の中で、L-アスパラギナーゼ、ヒドロキシ尿素、トランス-レチノイン酸、スラミン、デキスラゾキサン、アミフォスチン、ハーセプチン、ならびにエストロゲン及びアンドロゲンホルモンについても言及することができる。
【0075】
抗血管剤の中で、コンブレタスタチン誘導体、例えばCA4P、カルコン又はコルヒチン、例えばZD6126、及びそのプロドラッグを挙げることができる。
【0076】
抗血管新生剤の中で、ベバシズマブ、ソラフェニブ又はリンゴ酸スニチニブについて言及することができる。
【0077】
チロシンキナーゼ阻害剤治療薬の中で、イマチニブ、ゲフィチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、バンデタニブ及びエルロチニブに言及することができる。
【0078】
紡錘体毒性剤の中で、ビンクリスチン、ビンブラスチン、タキソール及びタキソテールについて言及することができる。
【0079】
放射性元素のうち、テクネチウム-99m、フッ素-18、ヨウ素-123、リン-32、ストロンチウム-89、イットリウム-90、ヨウ素-131、ホルミウム-166、レニウム-186及びエルビウム-169について言及することができる。
【0080】
腫瘍溶解性ウイルスの中で、T-VECに言及することができる。
【0081】
好ましくは、治療薬は、ドキソルビシン、イリノテカン、オキサリプラチン及びそれらの混合物からなる群から選択される抗癌薬である。
【0082】
一実施形態によれば、本発明によるエマルションは、治療薬として、少なくとも1つの抗原標的化抗体、より具体的には少なくとも1つのモノクローナル抗体を含む。
【0083】
一実施形態によれば、抗体は、抗血管新生モノクローナル抗体、抗CTLA-4モノクローナル抗体、抗PD-1モノクローナル抗体、抗PD-L1モノクローナル抗体、及びそれらの混合物からなる群から選択される腫瘍抗原標的化抗体である。
【0084】
抗血管新生モノクローナル抗体の中でも、特にベバシズマブに言及することができる。
【0085】
抗CTLA-4モノクローナル抗体のうち、特にイピリムマブ及びトレメリムマブについて言及することができる。
【0086】
抗PD-1モノクローナル抗体の中でも、特にニボルマブ及びペンブロリズマブについて言及することができる。
【0087】
抗PD-L1モノクローナル抗体の中でも、特にアテゾリズマブ及びアベルマブについて言及することができる。
【0088】
一実施形態によれば、本発明によるエマルションは、5~25mg/mlの治療薬を含む。
【0089】
好ましくは、エマルションが治療薬としてドキソルビシンを含む場合、治療薬の濃度は10~25mg/mlであり、及び好ましくは20mg/mlに等しい。
【0090】
好ましくは、エマルションが治療薬としてイリノテカンを含む場合、治療薬の濃度は20mg/mlに等しい。
【0091】
好ましくは、エマルションが治療薬としてオキサリプラチンを含む場合、治療薬の濃度は5mg/mlに等しい。
【0092】
好ましくは、エマルションが治療薬としてイピリムマブを含む場合、治療薬の濃度は5mg/mlに等しい。
【0093】
本発明はまた、本明細書で上記に定義されたエマルションを含むことを特徴とする医薬品に関する。
【0094】
本発明はまた、本明細書で上記に定義されたエマルション、ならびに少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0095】
これらの医薬組成物は、本発明による少なくとも1つのエマルション(少なくとも1つの治療薬を含む)の有効用量、ならびに少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0096】
前記賦形剤は、医薬形態及び所望の投与様式に従って、当業者に知られている通常の賦形剤から選択される。
【0097】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、動脈内、局所、局所、気管内、鼻腔内、経皮、又は直腸投与用の本発明の医薬組成物では、エマルションは、単一の単位投与形態で投与され、上記の障害又は疾患の治療のための動物及びヒトへの従来の医薬賦形剤との混合物で投与され得る。
【0098】
通常の慣行に従って、各患者の適切な投与量は、投与方法、体重及び患者の反応に基づいて医師によって決定される。
【0099】
本発明はまた、医薬品として使用するための本明細書で上に定義されたエマルションに関する。
【0100】
本発明はまた、癌の治療におけるその使用のための本明細書で上記に定義されたエマルションに関する。
【0101】
本発明は、その態様の別の1つによれば、患者への本発明によるエマルションの有効用量の投与を含む、癌を治療するための治療方法にも関する。
【実施例】
【0102】
実施例1:生分解性PLGAナノ粒子の調製
PLGAナノ粒子は、すでに文献に開示されているエマルション蒸発法に従って調製された(Astete,C E;Sabliov,C M Synthesis and Characterisation of PLGA Nanoparticles.J.Biomater.Sci.Polym.Ed.2006,17(3),247-289)。100mgのPLGAを5mlのジクロロメタンに溶解し、2.5mg/mlのPVAを含む水溶液20 mlで1分間、40%の力で超音波処理(VibraCell sonicator, Fisher Scientific, France)により乳化した。次に、有機溶媒を周囲温度で、磁気撹拌しながら2時間蒸発させた。蒸発後、NPを超遠心分離(LE-80K Ultracentrifuge Beckman Coulter Optima(商標))により4℃、37,000gで1時間精製した。上清を除去した後、NPを50mg/mlのトレハロース(凍結防止剤)を含む水溶液に再び懸濁した。次に、NPの懸濁液を凍結乾燥した。使用前に、凍結乾燥されたNPは、MilliQ水に目的の濃度で再分散された。
【0103】
実施例2:異なる濃度のPLGAナノ粒子によって安定化された生理食塩水の油中水エマルションの取得
エマルションは、3ウェイストップコックを介して2つの10mlシリンジを70秒間繰り返し、ポンピング(70プッシュ-プルサイクル)することで、リピオドール(Guerbet,France)/生理食塩水比3/1(v/v)で調合された。最初のシリンジにはリピオドールが含まれ、2番目のシリンジは空であり、3番目のシリンジに配置された生理食塩水は、シリンジポンプを介して流量1mL/分でシステムに徐々に導入される。水相は、生理食塩水中の様々な濃度のナノ粒子の懸濁液である(
図1を参照)。
【0104】
実施例3:異なる油/水比でPLGAナノ粒子により安定化された生理食塩水の油中水エマルションの取得
エマルションは、可変リピオドール/生理食塩水比で15mg/mlナノ粒子の濃度で、実施例1と同じプロトコールに従って製剤化された(
図2を参照)。
【0105】
実施例4:「落下試験」によるエマルションの配向の決定
各エマルションについて、エマルションの種類(油中水又は水中水)を、リピオドール(先にスーダン赤で着色)と生理食塩水(先にメチレンブルーで着色)を含む2つの溶液を使用した比色試験により決定した。溶液の1つの小さな液滴を、試験したエマルションの液滴に追加した。エマルションの連続相は、溶液の液滴とエマルションの液滴が最終的に混和する可能性を観察することで明らかになった。乳化直後に試験を実施した。
【0106】
得られたエマルションが油中水型であることを示す手段として、水相又はリピオドール相に染料を添加することにより、15mg/mlのナノ粒子で3/1比のエマルションの比色分析を行った。実際、エマルション滴の連続相は、水ではなくリピオドールで着色される。
【0107】
実施例5:ナノ粒子により安定化エマルション対非安定化エマルションの安定性の研究
エマルションは、Turbiscan(登録商標)MA 2000(Formulation,L’Union,France)を使用して分析した。エマルションを含むチューブは、システムからの外乱を避けるために、デバイスから取り外したり、測定の終了まで触れたりしなかった。測定は、システムの進化に応じて所定の時間に実行された。この監視は、強度の変化が無視できるようになるまで行われた。Turbiscan装置を使用すると、希釈せずにサンプルの可逆的(クリーミングと沈降)及び不可逆的(コアレッセンスと偏析)の不安定化現象を測定できる(
図3及び4)。
【0108】
実施例6:ナノ粒子により安定化された油中水型エマルションの注入性の研究
エマルションの注入性は、テクスチャアナライザー(TA-XT2、Texture Technologies)を使用して調査した。測定は、血管マイクロカテーテル(直径:2.4 F)又は18ゲージ針のいずれかに接続された1mlの「Medallion」シリンジ(Merit(登録商標))を使用して実行された。様々な油/水の比率(8/3、3/1、及び6/1)が2mm/sの速度で研究され、3/1の比率については、様々な注入率が試験された。油のみ(リピオドール)をコントロールとして使用した(
図5)。
【0109】
実施例7:ナノ粒子により安定化されたドキソルビシンが充填されたリピオドール化水中油型エマルションの取得
エマルションは、実施例2と同じプロトコールに従って製剤化された。水相は、エマルションの製剤化のために生理食塩水(Adriblastine,Pfizer,USA)で10又は20mg/mlの濃度で再構成された塩酸ドキソルビシンからなる。エマルションは、異なるリピオドール/ドキソルビシン比、異なる濃度のドキソルビシン及び異なる濃度のナノ粒子を使用して製造された(以下の表1を参照)。
【0110】
【0111】
得られた治療用エマルションはすべて、油中水配向、つまり使用条件に関係なく逆配向のものであった。
【0112】
実施例8:ナノ粒子により安定化されたドキソルビシンが充填された油中水型リピオドール化エマルションの安定性
分析は、実施例5で使用したプロトコールに従って実行された。様々なエマルションのクリーミングは、Turbiscanで迅速に観察されたが、24時間監視しても相分離はなかった(
図6)。
【0113】
対照的に、PLGAナノ粒子なしで製造されたドキソルビシンの治療用エマルションは、非常に迅速かつ完全な相分離を示した(5時間未満)(
図7)。
【0114】
実施例9:ナノ粒子により安定化されたモノクローナル抗体を充填した油中水型リピオドール化エマルションの取得
エマルションは、実施例2と同じプロトコールに従って製剤化された。水相は、抗体(5mg/mlのIpilimumab、Yervoy、Bristol Myers Squibb)から構成される。エマルションは、15mg/mlのナノ粒子濃度で3/1のリピオドール/イピリムマブ比で製造された。
【0115】
得られたエマルション得られたエマルションは、油中水型であり、数週間にわたって安定であった。ナノ粒子なしで調製されたエマルションとは異なり、抗体の凝集は観察されなかった。
【0116】
抗体の完全性は、変性状態のウエスタンブロット法によりチェック及び検証された。ポリアクリルアミドゲルで泳動を行い、2%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)でサンプルを調製した(当業者に既知の方法)。電気泳動は120Vで90分間実施し、膜への転写は100Vで45分間実施した。膜をエタノールで洗浄し、ポンソーレッドで抗体の曝露を行った。
【0117】
ナノ粒子は実際、治療薬、この例ではイピリムマブの完全性を維持する上での有効性を実証した。
【0118】
実施例10:ナノ粒子により安定化されたリピオドール化エマルションからのドキソルビシンのインビトロ放出の研究
3/1の比を有し、20mg/mlの濃度でドキソルビシンを充填したリピオドール化エマルションからのドキソルビシンの生体外放出(2種類:ナノ粒子なし、15mg/ml濃度のナノ粒子あり)又はドキソルビシンを充填したビーズから25mg/ml(DCビーズ、生体適合性サイズ300-500μm)の濃度が評価された。0.8mLのエマルション(4mgのドキソルビシンに相当)又は0.16mLのビーズをGeBAflexチューブ(カットオフ:12-14kDa;GeneBio-ApplicationLtd)に導入した。これらのチューブを40mlの緩衝生理食塩水(TRIS、pH7.4)に浸し、37℃、150rpmのインキュベーターに入れた。事前に決められた時間に、アリコート(80μL)を収集し、同量のTRISで置き換えた。
【0119】
放出されたドキソルビシンの量は、96ウェルマイクロプレートで492nmの光学密度を測定することで定量化された(
図8)。
【0120】
実施例11:ナノ粒子により安定化されたリピオドール化エマルションからのイリノテカンのインビトロ放出の研究
エマルションは、実施例2と同じプロトコールに従って製剤化された。水相は、イリノテカン(塩酸イリノテカン三水和物、20mg/mL;Campto(登録商標)、ファイザー)で構成される。
【0121】
リピオドール化エマルション(4種類:ナノ粒子比3/1なし;ナノ粒子15mg/mL濃度で、比率3/1;3/2;1/1)又は20mg/mL濃度のイリノテカンで充填されたビーズ(DCビーズ、生体適合性サイズ300-500μm)からのイリノテカンのインビトロ放出を評価した。0.8mLのエマルション(比率3/1、3/2、及び1/1のエマルションの場合、それぞれ4mg、6.4mg、及び8mgのイリノテカンに対応)又は0.08mLの充填ビーズをGeBAflexチューブ(カットオフ:12-14kDa;GeneBio-ApplicationLtd)に導入した。これらのチューブを40mLの緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)に浸し、150rpmの速度で37℃のインキュベーターに入れた。所定の時間に、アリコート(0.5mL)を収集し、等量のPBSで置き換えた。
【0122】
放出されたイリノテカンの量は、370nmのUV分光法によって定量化された(
図9及び10)。
【0123】
実施例12:ナノ粒子により安定化されたリピオドール化エマルションからのオキサリプラチンのインビトロ放出の研究
エマルションは、実施例2と同じプロトコールに従って製剤化された。水相は、オキサリプラチン(Eloxatin(登録商標)、5mg/mL、Sanofi-Aventis)から構成される。
【0124】
リピオドール化エマルション(4種類:ナノ粒子比3/1なし;ナノ粒子15mg/mL濃度で、3/1;3/2;1/1の比率)からのインビトロでのオキサリプラチンの放出を評価した。エマルション0.8ml(それぞれ比率3/1、3/2、及び1/1のエマルションのオキサリプラチン1mg、1.33mg、及び2mgに対応)。これらのチューブを40mlの緩衝生理食塩水(25mM酢酸、pH6.8)に浸し、37rpm、150rpmのインキュベーターに入れた。所定の時間に、アリコート(0.1mL)を収集した。
【0125】
放出された白金の量は、誘導的に結合されたプラズマ質量分析(ICP-MS)によって定量化された(
図11及び12)。
【0126】
実施例13:異なる油に基づいて製剤化されたナノ粒子により安定化された油中水型エマルション
エマルションは、実施例2と同じプロトコールに従って3/1の比率で製剤化された。水相は、20mg/mLの濃度の生理食塩水又はドキソルビシンのいずれかで構成される。油相は、オリーブ油、ゴマ油、ヒマシ油、ケシの実油又はミグリオールのいずれかで構成される。すべてのエマルションは、15mg/mlの濃度のナノ粒子で調合される。
【0127】
エマルションは比色試験による油中水型であり、1週間以上安定である。
【0128】
実施例14:生分解性PLGA-FeOナノ粒子の調製
ポリ(乳酸-co-グリコール酸)-酸化鉄[PLGA-FeO]ナノ粒子は、実施例1で説明したのと同じ方法に従って調製された。オレイン酸(25mg/mL、サイズ10nm、Ocean、USA)で装飾されたFe3O4ナノ粒子の500μL溶液を5mLのジクロロメタンに事前に溶解した100mgのPLGAに加え、2.5mg/mLのPVAを含む20mLの水溶液で超音波処理(VibraCell sonicator、Fisher Scientific、フランス)で40%の力で1分間乳化した。次に、有機溶媒を周囲温度で、磁気撹拌しながら2時間蒸発させた。蒸発後、懸濁液を3000rpmで5分間遠心分離し、上清を除去し、ペレットを脱イオン水で濯いだ。遠心分離プロセスを2回繰り返した。次に、NPを超遠心分離(LE-80K Ultracentrifuge Beckman Coulter Optima(商標))で4℃、37,000gで1時間精製した。上清を除去した後、NPを50mg/mlのトレハロース(凍結防止剤)を含む水溶液に再び懸濁した。次に、NPの懸濁液を凍結乾燥した。使用前に、凍結乾燥されたNPは、MilliQ水に目的の濃度で再分散された。
【0129】
実施例15:異なる濃度のPLGA-FeOナノ粒子により安定化された生理食塩水のリピオドール化油中水型エマルションの取得
エマルションは、異なる濃度のPLGA-FeOナノ粒子(20、15、又は10mg/mL)で、実施例2と同じプロトコールに従って製剤化された。エマルションは、比色試験による油中水型である。
【0130】
実施例16:PLGA-FeOナノ粒子により安定化されたドキソルビシンのリピオドール化油中水型エマルションの取得
エマルションは、実施例2と同じプロトコールに従って、ドキソルビシン20mg/ml及びPLGA-FeOナノ粒子15g/mLの濃度で製剤化された。油中水型エマルションが得られた。
【0131】
実施例17:エマルションの微細構造
エマルションの微視的構造は、WLLレーザー(488及び563nmの励起波)及びCS263x/1.40液浸対物レンズを備えた共焦点レーザー走査顕微鏡(LeicaTCSSP8-STED、ドイツ)によって観察された。エマルションの液滴の変形を防ぐために、サンプルを湾曲したスライドガラスに載せた。PLGA-FeOナノ粒子を使用して、エマルションを製剤化して、透過状態で見ることができるようにした(ドキソルビシンの発光スペクトルとの干渉効果を回避する)。ドキソルビシンの蛍光は、590nmのレーザー照射下で600~710nmのフィルターで観察された。赤色蛍光発光は連続モードで収集された。
【0132】
実施例18:エマルションのMRI定量化の評価
この画像診断法が腫瘍ファントムに含まれる油の比率を定量化する目的に効果的に機能することを確認するために、エマルションをMRIで評価した。
【0133】
これを行うために、9つの腫瘍ファントムを作成し、それぞれに様々な割合のリピオドールを含むエマルションを充填した。次に、リピオドールのチューブ(収集IP-OP及びIdeal IQ)の存在下で各ファントムに対して3T MRIを実行した。最後に、参考としてリピオドール=100%を使用して、各ファントムの脂肪の割合を計算した(以下の表2を参照)。
【0134】
【表2】
表2:MRIによる、リピオドールのレベルが低下しているエマルション中のリピオドールの割合の定量化
【0135】
実施例19:活性成分を充填したリピオドール化水中油型エマルションの取得
エマルションは、実施例2と同じプロトコールに従って製剤化された。水相は、供給業者が推奨する治療濃度で以前に再構成された活性成分から構成されるか、又は市販形態の濃度の水溶液中の活性成分から直接構成される。エマルションは、ナノ粒子の濃度15mg/mlで、溶液比3/1のリピオドール/有効成分に基づいて製造された。
【0136】
水相は、ゲムシタビン(40mg/mL)、フルダラビン(25mg/mL)、クラモキシル(200mg/mL)、セファゾリン(330mg/mL)、スニチニブ(0.5mg/mL)、メチルプレドニゾロン(10mg/mL)又はケトプロフェン(25mg/mL)のいずれかで構成される。
【0137】
得られた治療用乳剤はすべて、比色試験による油中水型のものであった。
【0138】
実施例20:液滴のサイズ
液滴のサイズの測定は、画像解析技術(Flowcell FC200S+HR、Occhio、ベルギー)を使用して粒子カウンターで行った。まずエマルションを油で20倍に希釈し、次に分析用に0.5mLの希釈エマルションを400μmのスペーサーを通して導入する。各サンプルは、生理食塩水とイピリムマブを含むサンプルについて、(日)D7と異なる日(D0、D7、D35)に少なくとも4回測定された。計算は少なくとも500ドロップで行われた。
【0139】
【表3】
表3:15mg/mLのナノ粒子を含む溶液中のリピオドール/有効成分のエマルションの液滴のサイズ
【0140】
実施例21:ナノ粒子により安定化されたリピオドール化エマルションからのイピリムマブのインビトロ放出の研究
エマルションは、実施例9と同じプロトコールに従って製剤化された。リピオドール化エマルションからのイピリムマブのインビトロ放出(3/1比、ナノ粒子の濃度15mg/mL)を評価した。1mgのイピリムマブに対応する0.8mLのエマルションを20 mLの緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)を含むチューブに入れ、37℃にて150rpmの速度でインキュベーターに入れた。所定の時間に、アリコート(300μL)を収集し、等量のPBSで置き換えた。放出されたイピリムマブの量は、BCA(ビシンコニン酸)タンパク質アッセイ法:ビシンコン酸に基づく比色タンパク質アッセイにより定量された(
図13)。
【0141】
実施例22:インビトロ研究:オキサリプラチンを充填した油中水型リピオドール化エマルションからの肝臓の化学塞栓形成
この研究のためのエマルションは、実施例12と同じプロトコールに従って製剤化された。
【0142】
この研究の実験プロトコールは、動物実験倫理委員会によって検証されている。肝臓のVX2腫瘍を全身麻酔下でニュージーランドの白いウサギに経皮的に移植した(手順に関して、ケタミン20-40mg/kg及びキシラジン3-5mg/kg、イソフルラン3-5%(誘導のため)、1.5-3%をO2と混合して1L/分で筋肉注射する)。
【0143】
VX2腫瘍細胞の移植から2週間後、肝内動脈内注入がインターベンショナルラジオロジストによって行われた。これは、全身麻酔下で、X線血管造影テーブルを備えた部屋で透視下で行われた。まず、大腿動脈を外科的に露出させ、4F血管造影カテーテルでカテーテルを挿入した。次に、2.4Fマイクロカテーテルを使用して、肝動脈の左枝の選択的カテーテル挿入と0.5mLのエマルション(0.625mgのオキサリプラチン)の注入を行った。
【0144】
オキサリプラチンの血漿濃度を測定するために、静脈血のサンプル(2mL)を注射後5、10、20、30、及び60分で採取した。
【0145】
ウサギの4つのグループを準備した:
グループ1:ナノ粒子で安定化されていない従来のオキサリプラチンエマルションを投与されたウサギ。このグループは注射の1時間後に安楽死させた(n=4)
グループ2:ナノ粒子で安定化されたオキサリプラチンエマルションを投与されたウサギ。このグループは注射の1時間後に安楽死させた(n=5)
グループ3:ナノ粒子で安定化されていない従来のオキサリプラチンエマルションを投与されたウサギ。このグループは、注射の24時間後に安楽死させた(n=4)
グループ4:ナノ粒子で安定化されたオキサリプラチンエマルションを投与されたウサギ。このグループは注射の24時間後に安楽死させた(n=5)。
【0146】
安楽死の直後に、腫瘍を測定し、数えるためにMRIを実施した。肝臓を摘出し、腫瘍と同様に左右の肝葉からの組織サンプルを別々に解剖し、白金の定量のためにミキサーで均質化した。白金は、プラズマ質量分析法(ICP-MS)によって分析された。
【0147】
オキサリプラチンの薬物動態:
2種類のエマルションの注入後のオキサリプラチンの薬物動態を表4及び
図14にまとめる。ピカリングエマルションの注入後のオキサリプラチンの血漿ピーク(Cmax)は、従来のエマルション(0.49±0.14ng/mL対1.08±0.41ng/mL、p<0.01)と比べて有意に低い、1時間での曲線下面積(AUC)は、ピカリングエマルションの方が有意に低い(19.8±5.9対31.8±14.9、p=0.03)。
【0148】
【表4】
表4:注入されたエマルションの種類及び安楽死の時間による肝臓組織中のオキサリプラチンの平均濃度(ng/mg)
【0149】
肝臓及び組織中のオキサリプラチンの濃度:
組織中のオキサリプラチンの濃度を表4及び5に示す。24時間では、ピカリングエマルションを使用した場合、腫瘍/左葉の比率は従来のエマルションと比較して有意に高い(43.4±42.9対14.5±6.6、p=0.04)。
【0150】
【表5】
表5:注入されたエマルションのタイプ及び安楽死の時間による肝臓腫瘍のオキサリプラチンの平均濃度(ng/mg)
【0151】
1時間で従来のエマルションを使用した場合の腫瘍及び左葉におけるオキサリプラチンの有意に高い濃度は、オキサリプラチンの急速な放出を誘発するエマルションの低い安定性レベルと一致する。逆に、ピカリングエマルションからのオキサリプラチンの徐放により、1時間での非標的臓器(右葉)の全身曝露が少なくなり、腫瘍への曝露が24時間を超える傾向になる。