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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】防錆塗料組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20230320BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230320BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20230320BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230320BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D5/02
C09D5/08
C09D7/61
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020539533
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2019033673
(87)【国際公開番号】W WO2020045487
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2018162870
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 太一
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108395743(CN,A)
【文献】特開平06-200188(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102888136(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106118402(CN,A)
【文献】特開平11-116856(JP,A)
【文献】特開2002-053769(JP,A)
【文献】国際公開第2014/014063(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/036210(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/119784(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/129784(WO,A1)
【文献】特表2014-515771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカナノ粒子を含むバインダー(A)と、
亜鉛粉末および亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種の亜鉛系粉末(B)と、
リン酸アルミニウム系化合物(C)と、
導電性顔料(D)と、
前記亜鉛系粉末(B)、前記リン酸アルミニウム系化合物(C)および前記導電性顔料(D)以外の顔料(E)と、
水と
を含有し、且つ、
前記亜鉛系粉末(B)と、前記リン酸アルミニウム系化合物(C)前記導電性顔料(D)および前記顔料(E)の合計との質量比[(B)/{(C)+(D)+(E)}]が、0.5~5.5であり、
水の含有量が10~90質量%である
防錆塗料組成物。
【請求項2】
前記亜鉛系粉末(B)の含有割合が、防錆塗料組成物中の固形分中80質量%以下である請求項1に記載の防錆塗料組成物。
【請求項3】
顔料体積濃度(PVC)が、70%以上である請求項1または2に記載の防錆塗料組成物。
【請求項4】
前記導電性顔料(D)が、酸化亜鉛である請求項1~のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物。
【請求項5】
一次防錆塗料組成物である請求項1~のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物。
【請求項6】
シリカナノ粒子を含むバインダー(A)および水を含有する第1剤と、
亜鉛粉末および亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種の亜鉛系粉末(B)を含有する第2剤と
を有する防錆塗料組成物キットであり、
前記第1剤および前記第2剤から選ばれる少なくとも一つがリン酸アルミニウム系化合物(C)を含有し、前記第1剤および前記第2剤から選ばれる少なくとも一つが導電性顔料(D)を含有し、且つ
前記防錆塗料組成物キットの総量中、前記亜鉛系粉末(B)と、前記リン酸アルミニウム系化合物(C)および前記導電性顔料(D)の合計との質量比[(B)/{(C)+(D)}]が、0.1~7.0であり、
水の含有量が、前記第1剤および前記第2剤を混合して調製される組成物において10~90質量%となる量である
防錆塗料組成物キット。
【請求項7】
前記第1剤および前記第2剤から選ばれる少なくとも一つが、
前記亜鉛系粉末(B)、前記リン酸アルミニウム系化合物(C)および前記導電性顔料(D)以外の顔料(E)
をさらに含有する請求項に記載の防錆塗料組成物キット。
【請求項8】
前記第2剤が、前記亜鉛系粉末(B)、前記リン酸アルミニウム系化合物(C)および導電性顔料(D)を含有する請求項またはに記載の防錆塗料組成物キット。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物、または請求項のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物キットから形成された防錆塗膜。
【請求項10】
請求項に記載の防錆塗料組成物、または請求項のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物キットから形成された一次防錆塗膜。
【請求項11】
基材と、前記基材上に形成された、請求項に記載の防錆塗膜または請求項10に記載の一次防錆塗膜とを有する防錆塗膜付き基材。
【請求項12】
[1]基材に請求項1~のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物、または請求項のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物キットの第1剤および第2剤を混合して得られる混合物を塗装する工程と、
[2]前記基材に塗装された前記防錆塗料組成物または前記混合物を硬化させて、前記基材上に防錆塗膜を形成する工程と
を有する、防錆塗膜付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆塗料組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁および陸上タンク等の大型鉄鋼構造物の建造中における発錆を防止する目的で、鋼板表面に一次防錆塗料組成物(以下「塗料組成物」を単に「塗料」とも記載する)が塗装されている。このような一次防錆塗料としては、ウォッシュプライマー、ノンジンクエポキシプライマー、エポキシジンクリッチプライマー等の有機一次防錆塗料や、シロキサン系結合剤および亜鉛粉末を含有する無機ジンク一次防錆塗料が知られている。これらの一次防錆塗料のうち、溶接性に優れた無機ジンク一次防錆塗料が最も広く用いられている。
【0003】
しかしながら、シロキサン系結合剤および亜鉛粉末を含有する無機ジンク一次防錆塗料は、揮発性有機溶剤を多く含む。近年、多くの国において、環境負荷の低減が要求されており、揮発性有機溶剤を全く、またはほとんど放出しない一次防錆塗料が望まれている。よって、揮発性有機溶剤の代わりに水を使用する方法(水系化)が検討されてきた。そのような水系化された無機ジンク塗料組成物の例は、特許文献1~3に記載されている。
【0004】
特許文献1には、無機系のコロイダルシリカ主体のバインダーと、亜鉛粉末、水性アルミニウム顔料およびリン酸塩系顔料とを含有する水系塗料組成物が開示されている。特許文献2~3には、無機系のシランベースバインダーと、亜鉛粉末および導電性顔料とを含有する水系塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-053769号公報
【文献】特表2014-515771号公報
【文献】国際公開第2017/129784号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無機ジンク防錆塗料が塗装された基材は、その後、エポキシ系塗料等の重防食塗料で上塗り塗装されて、最終的には、海水等に没水され、電気防食が施される場合がある。電気防食された環境下では、ダメージ部からの塗膜の剥離(クリープ)が問題となるため、無機ジンク防錆塗料には、塗膜の剥離ができるだけ少ない様な耐電気防食性が要求される。
【0007】
揮発性有機溶剤を多く含む従来の無機ジンク防錆塗料(以下「溶剤系無機ジンク防錆塗料」ともいう)は、耐電気防食性を充分に確保できていた。しかしながら、水系化された無機ジンク防錆塗料(以下「水系無機ジンク防錆塗料」ともいう)は、耐電気防食性が不充分であった。
【0008】
また、水系無機ジンク防錆塗料が塗装された基材は、従来の溶剤系無機ジンク防錆塗料が塗装された基材と同様に、通常は加工工程において溶接される。溶接欠陥(ブローホール等)が多い場合、生産性の障害となるため、水系無機ジンク防錆塗料には、溶接性を損なわないことも要求される。さらに、水系無機ジンク防錆塗料が塗装された基材は、建造工程の間、屋外等の腐食環境に暴露されるため、単膜での防錆性も必要とされる。
【0009】
本発明者らが検討したところ、従来の水系無機ジンク防錆塗料では、耐電気防食性と、単膜での溶接性および防錆性とを同時に達成することが困難であった。
本発明の課題は、前述した従来技術における課題を解決しようとするものであって、耐電気防食性と、単膜での溶接性および防錆性とに優れた塗膜を形成可能な防錆塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、以下の組成を有する防錆塗料組成物により前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、例えば、以下の(1)~(14)に関する。
【0011】
(1)シリカナノ粒子を含むバインダー(A)と、亜鉛粉末および亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種の亜鉛系粉末(B)と、リン酸アルミニウム系化合物(C)と、導電性顔料(D)と、水とを含有し、且つ、前記亜鉛系粉末(B)と、前記リン酸アルミニウム系化合物(C)および前記導電性顔料(D)の合計との質量比[(B)/{(C)+(D)}]が、0.1~7.0である防錆塗料組成物。
(2)さらに、前記亜鉛系粉末(B)、前記リン酸アルミニウム系化合物(C)および前記導電性顔料(D)以外の顔料(E)を含有する前記(1)に記載の防錆塗料組成物。
(3)前記亜鉛系粉末(B)と、前記リン酸アルミニウム系化合物(C)、前記導電性顔料(D)および前記顔料(E)の合計との質量比[(B)/{(C)+(D)+(E)}]が、0.5~5.5である前記(2)に記載の防錆塗料組成物。
(4)前記亜鉛系粉末(B)の含有割合が、防錆塗料組成物中の固形分中80質量%以下である前記(1)~(3)のいずれかに記載の防錆塗料組成物。
(5)顔料体積濃度(PVC)が、70%以上である前記(1)~(4)のいずれかに記載の防錆塗料組成物。
(6)前記導電性顔料(D)が、酸化亜鉛である前記(1)~(5)のいずれかに記載の防錆塗料組成物。
(7)一次防錆塗料組成物である前記(1)~(6)のいずれかに記載の防錆塗料組成物。
(8)シリカナノ粒子を含むバインダー(A)および水を含有する第1剤と、亜鉛粉末および亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種の亜鉛系粉末(B)を含有する第2剤とを有する防錆塗料組成物キットであり、前記第1剤および前記第2剤から選ばれる少なくとも一つがリン酸アルミニウム系化合物(C)を含有し、前記第1剤および前記第2剤から選ばれる少なくとも一つが導電性顔料(D)を含有し、且つ前記防錆塗料組成物キットの総量中、前記亜鉛系粉末(B)と、前記リン酸アルミニウム系化合物(C)および前記導電性顔料(D)の合計との質量比[(B)/{(C)+(D)}]が、0.1~7.0である防錆塗料組成物キット。
(9)前記第1剤および前記第2剤から選ばれる少なくとも一つが、前記亜鉛系粉末(B)、前記リン酸アルミニウム系化合物(C)および前記導電性顔料(D)以外の顔料(E)をさらに含有する前記(8)に記載の防錆塗料組成物キット。
(10)前記第2剤が、前記亜鉛系粉末(B)、前記リン酸アルミニウム系化合物(C)および導電性顔料(D)を含有する前記(8)または(9)に記載の防錆塗料組成物キット。
(11)前記(1)~(6)のいずれかに記載の防錆塗料組成物、または前記(8)~(10)のいずれかに記載の防錆塗料組成物キットから形成された防錆塗膜。
(12)前記(7)に記載の防錆塗料組成物、または前記(8)~(10)のいずれかに記載の防錆塗料組成物キットから形成された一次防錆塗膜。
(13)基材と、前記基材上に形成された、前記(11)に記載の防錆塗膜または前記(12)に記載の一次防錆塗膜とを有する防錆塗膜付き基材。
(14)[1]基材に前記(1)~(7)のいずれかに記載の防錆塗料組成物、または前記(8)~(10)のいずれか1項に記載の防錆塗料組成物キットの第1剤および第2剤を混合して得られる混合物を塗装する工程と、[2]前記基材に塗装された前記防錆塗料組成物または前記混合物を硬化させて、前記基材上に防錆塗膜を形成する工程とを有する、防錆塗膜付き基材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防錆塗料組成物は、エポキシ系塗料等の重防食塗料で上塗り塗装された場合の耐電気防食性と、単膜での溶接性および防錆性とに優れた塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例欄の溶接性試験で用いた、防錆塗料組成物を塗装済みのサンドブラスト処理板を示す図である。
図2図2は、上記サンドブラスト処理板の溶接条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の防錆塗料組成物等について詳細に説明する。
[防錆塗料組成物]
本発明の防錆塗料組成物(以下「本組成物」ともいう)は、シリカナノ粒子を含むバインダー(A)と、亜鉛粉末および亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種の亜鉛系粉末(B)と、リン酸アルミニウム系化合物(C)と、導電性顔料(D)と、水とを含有する。本組成物は、前記(B)、(C)および(D)以外の顔料(E)をさらに含有することができる。
【0015】
<シリカナノ粒子を含むバインダー(A)>
バインダー(A)は、シリカナノ粒子を含む。
シリカナノ粒子は、平均粒子径がナノサイズであれば特に限定されない。シリカナノ粒子の平均粒子径は、通常4~400nmである。平均粒子径は、動的光散乱法により測定することができる。シリカナノ粒子としては、非晶質の水性のシリカナノ粒子が挙げられる。
【0016】
バインダー(A)は、アルコキシシラン、アルコキシシランの加水分解物、およびアルコキシシランの加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種(以下「アルコキシシラン系成分」ともいう)をさらに含有することが好ましい。また、バインダー(A)は、前記シリカナノ粒子を均一に造膜させるために、架橋剤、硬化触媒、および添加剤から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0017】
バインダー(A)に好ましく含まれるアルコキシシラン系成分としては、例えば、テトラアルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン、フェニルアルコキシシラン、メルカプトアルキルアルコキシシラン、アミノアルキルアルコキシシラン、ウレイドアルキルアルコキシシラン、チオシアナトアルキルアルコキシシラン、カルボキシアルキルアルコキシシラン、グリシジルオキシアルキルアルコキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(アルコキシシリルアルキル)アミン、これらの加水分解物、これらの加水分解縮合物が挙げられる。
【0018】
アルコキシシランにおけるアルコキシ基の炭素数は、通常は5以下、好ましくは3以下である。
テトラアルコキシシランとしては、好ましくはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシランが挙げられる。
【0019】
アルキルアルコキシシランとしては、好ましくはC1~C16-アルキルアルコキシシラン、より好ましくはC1~C16-アルキルトリアルコキシシランが挙げられ、特に好ましくはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン(PTMO)、n-プロピルトリエトキシシラン(PTEO)、イソブチルトリメトキシシラン(IBTMO)、イソブチルトリエトキシシラン(IBTEO)、オクチルトリメトキシシラン(OCTMO)、オクチルトリエトキシシラン(OCTEO)が挙げられる。
【0020】
フェニルアルコキシシランとしては、好ましくはフェニルトリアルコキシシランが挙げられ、より好ましくはフェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0021】
メルカプトアルキルアルコキシシランとしては、好ましくは3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MTMO)、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン(MTEO)が挙げられる。
【0022】
アミノアルキルアルコキシシランとしては、好ましくは3-アミノプロピルトリメトキシシラン(AMMO)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(AMEO)、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(DAMO)、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N′-ジアミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(TriAMO)、N,N′-ジアミノエチル-3-アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0023】
ウレイドアルキルアルコキシシランとしては、好ましくは3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
チオシアナトアルキルアルコキシシランとしては、好ましくは3-チオシアナトプロピルトリメトキシシラン、3-チオシアナトプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0024】
カルボキシアルキルアルコキシシランとしては、好ましくは3-カルボキシプロピルトリメトキシシラン、3-カルボキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
グリシジルオキシアルキルアルコキシシランとしては、好ましくは3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0025】
ビス(アルコキシシリルアルキル)アミンとしては、好ましくはビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミンが挙げられる。
前記架橋剤としては、例えば、n-プロピルジルコネート、ブチルチタネート、チタンアセチルアセトネートが挙げられる。前記架橋剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記硬化触媒としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸等の有機酸、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸、カセイソーダ、カセイカリ、N,N-ジメチルエタノールアミン、テトラキス(トリエタノールアミン)ジルコナート等が挙げられる。前記硬化触媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
バインダー(A)としては、シリカナノ粒子とアルコキシシラン系成分とを含み、架橋剤および/または硬化触媒をさらに含む、無機/有機ハイブリッド型バインダーが好ましい。
【0027】
バインダー(A)を含有する本組成物を調製する際には、バインダー(A)および水を含有する水系バインダーを用いることができる。このような水系バインダーとしては、水性シリカゾルを用いることができ、市販されている製品としては、例えば、「Dynasylan SIVOシリーズ」(エボニック ジャパン(株)製)、「スノーテックスシリーズ」(日産化学(株)製)が挙げられる。特に、常温硬化が可能であり、膜厚がミクロンオーダー以上である防錆塗膜を形成でき、優れた性能を発揮する点から、「Dynasylan SIVO140」(SiO2含有割合14.25質量%、固形分濃度22.5質量%)が好ましい。
【0028】
水系バインダーは、市販されている無機/有機ハイブリッド型水系バインダー(例えば、前記Dynasylan SIVO140)に、水性シリカゾルを追加して調整してもよい。このようにして、水系バインダー中の固形分中のSiO2含有割合を相対的に多くすることで、亜鉛系粉末(B)が、効果的に犠牲防食作用を発揮することができ、重防食塗料等で上塗りされた場合の耐電気防食性や単膜の防錆性を向上させる。
【0029】
無機/有機ハイブリッド型水系バインダーに任意で添加する水性シリカゾルとしては、酸性、中性またはアルカリ性のシリカゾルを使用することができるが、前記無機/有機ハイブリッド型水系バインダーが酸性の場合(例えば、「Dynasylan SIVO140」の場合)、任意で添加する水性シリカゾルは、混合後の貯蔵安定性の点から、酸性のシリカゾルであることが好ましい。
【0030】
任意で添加する水性シリカゾルは、非晶質の水性シリカナノ粒子とともに、別のゾルゲル形成性の水性の元素酸化物、例えば酸化アルミニウム、ケイ素/アルミニウム酸化物、酸化チタン、酸化ジルコニウム、および酸化亜鉛から選択される少なくとも1種の酸化物を含有してもよく、中でも、ケイ素/アルミニウム酸化物を含有することが好ましい。任意で添加する水性シリカゾルに含まれるシリカナノ粒子の平均粒子径は、通常4~400nmである。平均粒子径は、動的光散乱法により測定することができる。
【0031】
このような水性シリカゾルの市販品としては、例えば、酸性シリカゾルの分散質の表面がアニオン性の酸性シリカゾルである「スノーテックス O」、「スノーテックス OL」、「スノーテックス OYL」や、表面がカチオン性の酸性シリカゾルである「スノーテックス AK」、「スノーテックス AK-L」、「スノーテックス AK-YL」(日産化学(株)製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
SiO2含有割合は、本組成物の固形分中、または本組成物から形成された防錆塗膜中、通常は0.5~30.0質量%、好ましくは1.0~20.0質量%、より好ましくは2.0~15.0質量%である。SiO2含有割合が前記範囲にあると、耐電気防食性と、単膜での溶接性および防錆性との点で好ましい。本組成物の固形分中のSiO2含有割合および前記防錆塗膜中のSiO2含有割合とは、シリカナノ粒子由来のSiO2成分と、アルコキシシラン系成分が加水分解縮合したSiO2成分との合計の含有割合を意味する。なお、該シリカナノ粒子由来のSiO2成分は、任意で添加した水性シリカゾル由来のSiO2成分を含む。
【0033】
本組成物の固形分とは、水および有機溶剤等の揮発成分を除いたものであり、本組成物を硬化させたときに塗膜として残存する成分を指す。
本組成物におけるシリカナノ粒子とアルコキシシラン系成分との含有質量比(シリカナノ粒子/アルコキシシラン系成分)は、好ましくは0.1~3.0、より好ましくは0.2~2.0である。なお、該シリカナノ粒子は、任意で添加した水性シリカゾルに含まれるシリカナノ粒子を含む。
【0034】
<亜鉛系粉末(B)>
亜鉛系粉末(B)は、亜鉛粉末および亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種である。亜鉛系粉末(B)は、鋼材の発錆を防止する防錆顔料として作用する。
亜鉛合金粉末としては、例えば、亜鉛と、アルミニウム、マグネシウムおよび錫から選択される少なくとも1種との合金の粉末が挙げられる。好ましくは、亜鉛-アルミニウム合金、亜鉛-錫合金が挙げられる。
【0035】
亜鉛系粉末(B)を構成する粒子の形状としては、球状や鱗片状などの様々な形状が挙げられる。粒子形状が球状である亜鉛粉末の市販品としては、例えば、「F-2000」(本荘ケミカル(株)製)が挙げられる。粒子形状が鱗片状である亜鉛粉末の市販品としては、例えば、「STANDART Zinc flake GTT」、「STANDART Zinc flake G」(ECKART GmbH製)が挙げられる。粒子形状が鱗片状である亜鉛合金粉末の市販品としては、例えば、亜鉛とアルミニウムとの合金である「STAPA 4 ZNAL7」、亜鉛と錫との合金である「STAPA 4 ZNSN30」(ECKART GmbH製)が挙げられる。
【0036】
亜鉛系粉末(B)としては、亜鉛粉末および亜鉛合金粉末の一方または両方を用いることができ、亜鉛粉末および亜鉛合金粉末のそれぞれも1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
従来の水系無機ジンク防錆塗料は、通常、バインダー成分の一部として、有機系官能基を持つアルコキシシランやその他の有機系バインダーを含有し、且つ、塗料中に、揺変剤、消泡剤、湿潤剤、表面調整剤、沈殿防止剤、タレ防止剤、乾燥剤、流動性調整剤、分散剤、色分れ防止剤等の添加剤を含有する。これらの成分は、亜鉛粉末に接触し、または亜鉛粉末を被覆することで、亜鉛粉末の犠牲防食作用を阻害することがある。さらに、これらの成分は、塗膜中に残存することで当該塗膜と上塗り塗膜との付着性に影響を与えることがある。また、水系無機ジンク防錆塗料の場合、亜鉛粉末は多量の水中に分散されるため、表面が酸化されて、犠牲防食作用が低下し易い欠点もある。これらの因子によって、従来の水系無機ジンク防錆塗料は、エポキシ系塗料等の重防食塗料で上塗り塗装された場合の耐電気防食性が不充分である。本組成物は、以下に説明する各種要件により、水系無機ジンク防錆塗料でありながら良好な耐電気防食性を得ることができる。
【0038】
本組成物または本組成物から形成された防錆塗膜において、亜鉛系粉末(B)と、リン酸アルミニウム系化合物(C)および導電性顔料(D)の合計との質量比[(B)/{(C)+(D)}]は、0.1~7.0であり、好ましくは0.5~7.0であり、より好ましくは1.0~6.0である。
【0039】
前記質量比[(B)/{(C)+(D)}]が前記範囲にあると、耐電気防食性と、単膜での溶接性および防錆性との面で好ましい。前記質量比が前記範囲の上限を超えると、防錆性、耐電気防食性および溶接性が劣る傾向にある。一方、前記質量比が前記範囲の下限値未満であると、防錆性が不良となる傾向にある。
【0040】
本組成物または本組成物から形成された防錆塗膜において、亜鉛系粉末(B)と、リン酸アルミニウム系化合物(C)、導電性顔料(D)および顔料(E)の合計との質量比[(B)/{(C)+(D)+(E)}]は、0.5~5.5であることが好ましい。
【0041】
前記質量比[(B)/((C)+(D)+(E))]が前記範囲にあると、耐電気防食性と、単膜での溶接性および防錆性との面で好ましい。本組成物の前記質量比が前記範囲の上限を超えると、形成される防錆塗膜中の亜鉛系粉末(B)の割合が高くなるため、溶接時に発生する亜鉛ヒューム量が増加し、溶接作業者の健康面への悪影響が懸念されるとともに、溶接性が不良となることがある。一方、本組成物の前記質量比が前記範囲の下限値未満であると、形成される防錆塗膜中((C)+(D)+(E))成分の割合が高くなるため、亜鉛系粉末(B)の粒子間の接触が疎になり、犠牲防食効果が得られにくく、防錆性および耐電気防食性が不充分となることがある。
【0042】
亜鉛系粉末(B)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
亜鉛系粉末(B)の含有割合は、本組成物の固形分中、または本組成物から形成された防錆塗膜中、通常は80質量%以下、好ましくは40~70質量%、より好ましくは45~60質量%である。本発明では導電性顔料(D)を用いているので、亜鉛系粉末(B)の含有割合が前記範囲であっても、良好な犠牲防食作用を得ることができる。
【0043】
<リン酸アルミニウム系化合物(C)>
リン酸アルミニウム系化合物(C)は、鋼材の発錆を防止する防錆顔料として作用するだけでなく、塩水噴霧防食性の改善、および本組成物からなる防錆塗膜が重防食塗料等で上塗りされた場合の耐電気防食性の改善に有効である。例えば、リン酸アルミニウム系化合物(C)を用いることにより、従来の水系無機ジンク防錆塗料では困難であった耐電気防食性を向上させることでき、従来の溶剤系無機ジンク防錆塗料と同程度の性能を達成することができる。
【0044】
リン酸アルミニウム系化合物(C)としては、例えば、ピロリン酸アルミニウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、オルトリン酸アルミニウム、亜リン酸アルミニウムが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ピロリン酸アルミニウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム等の縮合リン酸アルミニウムであり、より好ましくは、トリポリリン酸二水素アルミニウムである。
【0045】
本発明では、リン酸アルミニウム系化合物(C)を処理剤で処理してなるリン酸アルミニウム系顔料を用いてもよい。ここで、前記処理としては、表面処理、変成処理、混合処理等が挙げられる。好ましくは、ピロリン酸アルミニウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム等の縮合リン酸アルミニウムを前記処理してなるリン酸アルミニウム系顔料である。本発明では、前記リン酸アルミニウム系顔料を含有する防錆塗料組成物も、リン酸アルミニウム系化合物(C)を含有する防錆塗料組成物に該当するものとする。
【0046】
前記処理は、例えば、リン酸アルミニウム系化合物(C)のpH調整やリン酸イオンの溶出量を調整するために行うことができる。前記処理に使用される処理剤としては、例えば、後述する導電性顔料(D)または顔料(E)のうち、Si、Zn、MgおよびCaから選ばれる少なくとも1種を含有する顔料や、モリブデン酸が挙げられる。また、前記処理に使用される処理剤としては、耐電気防食性向上の観点からは、Mgを含有する顔料が好ましい。
【0047】
リン酸アルミニウム系顔料としては、縮合リン酸アルミニウムを前記処理してなる顔料が好ましく、トリポリリン酸二水素アルミニウムを前記処理してなる顔料がより好ましい。また、防食性の観点から、縮合リン酸アルミニウムをモリブデン酸で処理してなる顔料がより好ましく、トリポリリン酸二水素アルミニウムをモリブデン酸で処理してなる顔料がさらに好ましい。また、耐電気防食性向上の観点からは、縮合リン酸アルミニウムをMgで処理してなる顔料がより好ましく、トリポリリン酸二水素アルミニウムをMgで処理してなる顔料がさらに好ましい。
【0048】
なお、例えば質量比[(B)/{(C)+(D)}]や各成分の含有割合の算出において、リン酸アルミニウム系顔料の内、リン酸アルミニウム系化合物(C)以外の成分(前記処理に用いられた処理剤またはその混合物)は、後述の導電性顔料(D)または顔料(E)に含める。
【0049】
リン酸アルミニウム系顔料の市販品としては、例えば、トリポリリン酸二水素アルミニウムをSiおよびZnを含む処理剤で表面処理してなる「K-WHITE #84」(テイカ(株)製)、トリポリリン酸二水素アルミニウムをCaおよびZnを含む処理剤で表面処理してなる「K-WHITE CZ610」(テイカ(株)製)、トリポリリン酸二水素アルミニウムをマグネシウムを含む処理剤で表面処理してなる「K-WHITE G105」(テイカ(株)製)、トリポリリン酸二水素アルミニウムをモリブデン酸を含む処理剤で変成処理してなる「LFボウセイ PM-303W」(キクチカラー(株)製)が挙げられる。
【0050】
リン酸アルミニウム系化合物(C)あるいはリン酸アルミニウム系顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
リン酸アルミニウム系化合物(C)の含有割合は、本組成物の固形分中、または本組成物から形成された防錆塗膜中、通常は0.5~70質量%、好ましくは1~50質量%、より好ましくは2~40質量%である。リン酸アルミニウム系化合物(C)の含有割合が前記範囲にあると、得られる防錆塗膜の防錆性と耐電気防食性とに優れる。
【0051】
<導電性顔料(D)>
導電性顔料(D)は、亜鉛系粉末(B)およびリン酸アルミニウム系化合物(C)と併用されることで、亜鉛系粉末(B)の犠牲防食作用を向上させ、防錆性を向上させる。
以下、犠牲防食作用について具体的に説明する。防錆塗料組成物において、亜鉛系粉末の犠牲防食効果をより発揮するためには、亜鉛がイオン化した際に発生する電子を効率的に鋼材等の基材へ供給させることが重要である。通常、塗膜中の亜鉛粒子同士を密に接触させることにより、この通電効果を得ることができ、特に塗膜中の亜鉛系粉末の含有割合が大きい(例えば80質量%超)場合や、バインダー中の有機樹脂の含有割合が小さいまたは有機樹脂が存在しない場合は、亜鉛粒子同士が接触するのに適している。しかしながら、塗膜中の亜鉛系粉末の含有割合が小さい場合(例えば80質量%以下)や、バインダー中の有機樹脂の含有割合が比較的大きい場合、亜鉛粒子同士の接触が少なくなり、犠牲防食作用が低下する。本発明では、導電性顔料(D)を塗膜に含有させることによって、導電性顔料(D)が、亜鉛系粉末(B)を接続する役割を果たし、これらの通電効果を補うことができる。その結果、効果的な犠牲防食効果を得ることができ、良好な防錆性を発揮させることができる。
【0052】
導電性顔料(D)としては、例えば、酸化亜鉛、亜鉛系粉末(B)以外の金属粉末または金属合金粉末、炭素粉末が挙げられる。これらの中でも、安価で導電性の高い酸化亜鉛が好ましい。
【0053】
酸化亜鉛の市販品としては、例えば、「酸化亜鉛1種」(堺化学工業(株)製)、「酸化亜鉛3種」(ハクスイテック(株)製)が挙げられる。
亜鉛系粉末(B)以外の金属粉末または金属合金粉末としては、例えば、Fe-Si粉、Fe-Mn粉、Fe-Cr粉、磁鉄粉、リン化鉄が挙げられる。金属粉末または金属合金粉末の市販品としては、例えば、「フェロシリコン」(キンセイマテック(株)製)、「フェロマンガン」(キンセイマテック(株)製)、「フェロクロム」(キンセイマテック(株)製)、「砂鉄粉」(キンセイマテック(株)製)、「フェロフォス2132」(オキシデンタル ケミカルコーポレーション製)が挙げられる。
【0054】
炭素粉末としては、例えば、着色顔料として用いられるカーボンブラックが挙げられる。炭素粉末の市販品としては、例えば、「三菱カーボンブラックMA-100」(三菱化学(株)製)が挙げられる。
【0055】
導電性顔料(D)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
導電性顔料(D)の含有割合は、本組成物の固形分中、または本組成物から形成された防錆塗膜中、通常は0.1~50質量%、好ましくは1~40質量%、より好ましくは2~30質量%である。本組成物中の導電性顔料(D)の含有割合が前記範囲にあると、得られる塗膜は防錆性に優れる。
【0056】
<顔料(E)>
顔料(E)は、上述した(B)、(C)および(D)以外の顔料であって、例えば、上述した(B)、(C)および(D)以外の、体質顔料、着色顔料、防錆顔料が挙げられる。
【0057】
顔料(E)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
顔料(E)を用いる場合、顔料(E)の含有割合は、本組成物の固形分中、または本組成物から形成された防錆塗膜中、通常は1.0~60.0質量%、好ましくは2.0~50.0質量%、より好ましくは3.0~40.0質量%である。
【0058】
(体質顔料)
体質顔料は、一般的な塗料に使用される無機顔料であれば特に制限されないが、例えば、カリ長石、ソーダ長石、カオリン、マイカ、シリカ、ガラス粉末、タルク、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、珪酸ジルコニウム、珪灰石、珪藻土が挙げられる。また、体質顔料は、熱分解によりガスを発生する無機顔料であってもよい。体質顔料としては、カリ長石、カオリン、シリカ、ガラス粉末が好ましく、耐電気防食性向上の観点からは、カオリンがより好ましい。カオリンを用いる場合、その含有割合は、耐電気防食性向上の観点から、本組成物の固形分中、または本組成物から形成された防錆塗膜中、通常は0.1~60質量%、好ましくは1~40質量%、より好ましくは5~30質量%である。なお、体質顔料に分類されるシリカとしては、平均粒子径が通常1~10μmのシリカ粒子を用いることができる。
【0059】
体質顔料の市販品としては、例えば、カリ長石である「セラミックスパウダーOF-T」(キンセイマテック(株)製)、「マイカパウダー100メッシュ」((株)福岡タルク工業所製)、カオリンである「Satintone W」(BASF社製)、珪酸ジルコニウムである「A-PAX45M」(キンセイマテック(株)製)、「FC-1タルク」((株)福岡タルク工業所製)、「シリカQZ-SW」((株)五島鉱山製)、「沈降性硫酸バリウム 100」(堺化学(株)製)、珪藻土である「ラヂオライト」(昭和化学工業(株))が挙げられる。
体質顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
《ガラス粉末》
ガラス粉末は、一般的に、ガラスを構成する化合物を約1,000~1,100℃で所定の時間加熱溶融し、冷却後、粉砕装置で粉末状に整粒したものである。ガラスを構成する化合物としては、例えば、SiO2、B23、Al23、ZnO、BaO、MgO、CaO、SrO、Bi23、Li2O、Na2O、K2O、PbO、P25、In23、SnO、CuO、Ag2O、V25、およびTeO2が挙げられる。PbOもガラスを構成する化合物として用いることができるが、環境に対し悪影響となることがあるため、PbOは用いないことが望ましい。
【0061】
400~800℃の軟化点を有するガラス粉末は、本組成物からなる防錆塗膜が400~900℃の高温で加熱された際に亜鉛系粉末(B)の酸化防止剤として作用するため好ましい。ガラス粉末の軟化点は、リトルトン粘度計を用い、粘度係数ηが107.6に達したときの温度で判別する方法により求められる。
【0062】
ガラス粉末の市販品としては、例えば、「NB122A」(軟化点400℃)、「AZ739」(軟化点605℃)、および「PFL20」(軟化点700℃)(セントラル硝子(株)製)が挙げられる。
【0063】
また、ガラスを構成する化合物の一つであるB23は、それ単独で軟化点が約450℃のガラス状の物質であり、ガラス粉末として用いることができる。B23の市販品としては、例えば、「酸化ほう素」(関東化学(株)製 鹿1級試薬)が挙げられる。
【0064】
ガラス粉末は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ガラス粉末を用いる場合、ガラス粉末の含有割合は、本組成物の固形分中、または本組成物から形成された防錆塗膜中、好ましくは0.05~26質量%、より好ましくは0.15~20質量%、さらに好ましくは0.5~15質量%である。
【0065】
《熱分解によりガスを発生する無機顔料》
熱分解によりガスを発生する無機顔料は、例えば、500~1,500℃での熱分解によって、CO2、F2等のガスを発生する無機顔料である。熱分解によりガスを発生する無機顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、フッ化カルシウムが挙げられる。本組成物がこのような無機顔料を含有する場合、その塗膜で被覆された基材を溶接する際に、溶接時の溶融プール内において、シリカナノ粒子を含むバインダー(A)の塗膜形成固形分、ならびに成分(B)、(C)、(D)および(E)に由来するガスにより生じた気泡を、上記無機顔料由来のガスとともに、溶融プール内から除去することができる。
【0066】
熱分解によりガスを発生する無機顔料の市販品としては、例えば、「蛍石400メッシュ」(キンセイマテック(株)製)、「NS#400」(日東粉化工業(株)製)、「炭酸マグネシウム」(富田製薬(株)製)、「炭酸ストロンチウムA」(本荘ケミカル(株)製)が挙げられる。
熱分解によりガスを発生する無機顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
(着色顔料)
上述した(B)、(C)および(D)以外の着色顔料は、無機系着色顔料および有機系着色顔料から選択される少なくとも1種である。無機系着色顔料としては、導電性顔料(D)以外の無機系着色顔料であれば特に制限されないが、例えば、酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物;銅・クロム・マンガン、鉄・マンガン、鉄・クロム、コバルト・チタン・ニッケル・亜鉛、コバルト・クロム・チタン・亜鉛の複合酸化物等が挙げられる。有機系着色顔料としては、例えば、フタロシアニングリーンおよびフタロシアニンブルー等の有機系着色顔料が挙げられる。
【0068】
着色顔料の市販品としては、例えば、「TITONE R-5N」(堺化学工業(株)製)、「弁柄No.404」(森下弁柄工業(株)製)、「ダイピロキサイドブラック #9510」(大日精化工業(株)製)、「Heliogen Green L8690」(BASFジャパン(株)製)、および「FASTOGEN Blue 5485」(DIC(株)製)が挙げられる。
着色顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
(防錆顔料)
上述した(B)、(C)および(D)以外の防錆顔料としては、例えば、モリブデンおよびモリブデン化合物、リン酸亜鉛系化合物、リン酸カルシウム系化合物、リン酸マグネシウム系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸カルシウム系化合物、亜リン酸ストロンチウム系化合物、シアナミド亜鉛系化合物およびホウ酸塩化合物が挙げられる。
【0070】
《モリブデンおよびモリブデン化合物》
本組成物を塗装した鋼材を屋外に暴露した場合、塗膜中の亜鉛系粉末(B)が水や酸素、炭酸ガスと反応することで、塗膜表面に白錆(酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛等の混合物)を生成することがある。白錆を生成した当該塗膜の表面に、上塗り塗料からなる上塗り塗膜が形成された場合、塗膜間の付着性が低下してしまうことがある。このような問題に対しては、上塗り塗料を塗装するに先だって、塗膜表面の白錆を適当な手段により除去する除去作業を必要とするが、作業の工程上の要求や特定の用途によっては、このような除去作業が全く許されないことがある。
【0071】
モリブデン(金属モリブデン)およびモリブデン化合物は、形成される防錆塗膜の前記白錆の発生を低減する、亜鉛系粉末(B)の酸化防止剤(いわゆる白錆抑制剤)として作用する。本組成物は、モリブデンおよびモリブデン化合物の一方または両方を含有することができる。
【0072】
モリブデン化合物としては、例えば、三酸化モリブデン等のモリブデン酸化物、硫化モリブデン、モリブデンハロゲン化物、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、珪モリブデン酸、モリブデン酸亜鉛等のモリブデン酸の金属塩、モリブデン酸のアルカリ金属塩、リンモリブデン酸のアルカリ金属塩、珪モリブデン酸のアルカリ金属塩、モリブデン酸カルシウム等のモリブデン酸のアルカリ土類金属塩、リンモリブデン酸のアルカリ土類金属塩、珪モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、モリブデン酸のマンガン塩、リンモリブデン酸のマンガン塩、珪モリブデン酸のマンガン塩、モリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩、リンモリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩、珪モリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩が挙げられる。
【0073】
モリブデン化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
モリブデンおよびモリブデン化合物の一方または両方を用いる場合、モリブデンおよびモリブデン化合物の含有量の合計は、亜鉛系粉末(B)100質量部に対して、好ましくは0.05~5.0質量部、より好ましくは0.3~3.0質量部、さらに好ましくは0.5~2.0質量部である。含有量が前記範囲にある場合、亜鉛系粉末(B)の充分な酸化防止作用が得られるとともに、亜鉛系粉末(B)の活性の低下を防ぎ、塗膜の防食性を維持することができる。
前記防錆顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
<その他の成分>
本組成物は、その他の成分として、添加剤等を、本発明の目的および効果を損なわない範囲で適宜含有してもよい。
添加剤としては、例えば、揺変剤、消泡剤、湿潤剤、表面調整剤、沈殿防止剤、タレ防止剤、乾燥剤、流動性調整剤、分散剤、色分れ防止剤、皮張り防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤が挙げられる。具体的な塗料用添加剤としては、例えば、ポリカルボン酸系揺変剤、脂肪酸ポリアマイド系揺変剤、酸化ポリエチレン系揺変剤、ウレタン会合系揺変剤、アクリルポリマー系揺変剤、変性ウレア系揺変剤;変性シリコーン系消泡剤、ポリマー系消泡剤;変性シリコーン系表面調整剤、アクリルポリマー系表面調整剤、フッ素含有ポリマー系表面調整剤、ジアルキルスルホ琥珀酸塩系表面調整剤;ヘクトライト、ベントナイト、スメクタイト等のクレイ系沈殿防止剤が挙げられる。
添加剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
<水>
本組成物は、シリカナノ粒子を含むバインダー(A)を溶解または分散させるために水を含有する。ここで、水は、後述する第1剤を製造する時に使用された水であってもよいし、バインダー(A)と、必須成分である亜鉛系粉末(B)、リン酸アルミニウム系化合物(C)および導電性顔料(D)や、前述した「その他の成分」とを混合する調製過程において、加えられた水であってもよい。
【0076】
水は、本組成物の必須成分として含まれ、バインダー(A)の溶媒あるいは分散媒として機能し、本組成物中でバインダー(A)を安定に保持する機能を有する。よって、適切な水系塗料組成物の粘度を保ち、スプレー・刷毛・ローラーなどの作業性を良好に維持できる。このような観点から、本組成物中の水の含有割合は、通常は10~90質量%。好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~70質量%である。
【0077】
<親水性有機溶剤>
本組成物は、必要に応じて親水性有機溶剤を含有していてもよい。
親水性有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2-ブトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、エチルアルコール、2-メトキシエタノール、ジアセトンアルコール、ジオキサン、エチレングリコール、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテルが挙げられる。
【0078】
親水性有機溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本組成物が親水性有機溶剤を含有する場合、前記(B)~(E)の水への溶解性や分散性の向上、本組成物の被塗物(基材)に対する湿潤性の改善、および塗膜の乾燥性・硬化性が向上する点で好ましい。ただし、親水性有機溶剤の添加量が多い場合は、前記(B)~(E)の水への溶解性や分散性が向上するものの、揮発性有機化合物(VOC)低減という環境上の規制からは好ましくない。このような観点から、本組成物中の親水性有機溶剤の含有割合は、通常は15質量%未満、好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%未満である。また、本組成物中の、親水性有機溶剤を含めた有機溶剤の含有割合も、通常は15質量%未満、好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%未満である。
【0079】
<顔料体積濃度(PVC)>
本組成物は、顔料体積濃度(PVC)が、好ましくは70%以上であり、より好ましくは70~90%であり、さらに好ましくは75~85%である。本発明において、顔料体積濃度(PVC)とは、本組成物の固形分中の、顔料成分と添加剤中の固体粒子とが占める割合(体積基準)を、百分率で表した濃度を指す。
PVC = [全ての顔料成分の体積合計+添加剤中の固体粒子の体積合計]/[塗料組成物中の固形分の体積]×100(%)
【0080】
「顔料成分」としては、亜鉛系粉末(B)、リン酸アルミニウム系化合物(C)、導電性顔料(D)および顔料(E)が挙げられる。塗料組成物中の固形分であって顔料成分以外の成分としては、バインダー(A)と添加剤中の固体粒子とが挙げられる。
【0081】
PVCの算出にあたっては、各成分の質量とその真密度(以下単に「密度」ともいう)から、各成分の体積を算出する。
本組成物中の固形分(不揮発分)の体積は、本組成物の固形分の質量および密度から算出することができる。前記質量および密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。
【0082】
前記顔料成分の体積は、用いた顔料成分の質量および密度から算出することができる。前記質量および密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。例えば、本組成物の不揮発分より顔料成分と他の成分とを分離し、分離された顔料成分の質量および密度を測定することで算出することができる。添加剤中の固体粒子についても同様である。
【0083】
<防錆塗料組成物の用途等>
本組成物は、好ましくは、主に船舶、海洋構造物、プラント、橋梁および陸上タンク等の大型構造物用鋼材の塗装において、一次防錆塗料組成物として使用される。一次防錆塗料組成物は、大型構造物の建造工程の溶断、溶接などに支障を与えることなく、建造期間中の鋼材を錆から守ることが求められる。
【0084】
前記一次防錆塗料組成物は、通常、前記鋼材等の基材に塗装され、一次防錆塗膜を形成する。その塗装される基材には、例えば、ISO 8501-1における除錆度Sa2 1/2以上に相当する条件のブラスト処理が行われる。
【0085】
さらに、本組成物から形成された防錆塗膜の表面には、エポキシ樹脂系、塩化ゴム系、油性系、エポキシエステル系、ポリウレタン樹脂系、ポリシロキサン樹脂系、フッ素樹脂系、アクリル樹脂系、ビニル樹脂系、および無機ジンク系等の塗料を上塗りして上塗り塗膜を形成することができる。前記防錆塗膜は上塗り塗膜との付着性にも優れている。
【0086】
[防錆塗料組成物キット]
本発明の防錆塗料組成物キット(以下「本キット」ともいう)は、シリカナノ粒子を含むバインダー(A)および水を含有する第1剤と、亜鉛粉末および亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種の亜鉛系粉末(B)を含有する第2剤とを有する。
【0087】
ここで、第1剤および第2剤から選ばれる少なくとも一つがリン酸アルミニウム系化合物(C)を含有し、前記第1剤および前記第2剤から選ばれる少なくとも一つが導電性顔料(D)を含有する。
【0088】
本キットの総量中、亜鉛系粉末(B)と、リン酸アルミニウム系化合物(C)および導電性顔料(D)の合計との質量比[(B)/{(C)+(D)}]は、0.1~7.0であり、好ましくは0.5~7.0であり、より好ましくは1.0~6.0である。
【0089】
第1剤および第2剤から選ばれる少なくとも一つは、顔料(E)を含有することが好ましい。第2剤は、亜鉛系粉末(B)、リン酸アルミニウム系化合物(C)および導電性顔料(D)を含有することが好ましく、さらに顔料(E)を含有することがより好ましい。
【0090】
第1剤は、通常、前記バインダー(A)および水を含有する水系バインダーである。第1剤(または水系バインダー)中のSiO2含有割合は、通常は0.5~50.0質量%、好ましくは1.0~30.0質量%、より好ましくは2.0~15.0質量%である。第1剤の固形分(または前記バインダー(A))中のSiO2含有割合は、50~95質量%が好ましく、60~90質量%がより好ましい。
【0091】
第1剤および第2剤から選ばれる少なくとも一つは、上述したその他の成分を含有することができる。
第1剤および第2剤における各成分の含有割合は、第1剤および第2剤を混合して本組成物を調製した際の各成分の含有割合が[防錆塗料組成物]欄に記載した範囲になるよう適宜設定することができる。
本キットを構成する第1剤および第2剤を混合することにより、本組成物を容易に調製することができる。
【0092】
[防錆塗膜、一次防錆塗膜、防錆塗膜付き基材およびその製造方法]
本発明の防錆塗膜付き基材は、基材と、前記基材上に形成された防錆塗膜および/または一次防錆塗膜とを有する。ここで前記防錆塗膜および一次防錆塗膜は、本組成物または本キットから形成される。
【0093】
本組成物または本キットから形成される防錆塗膜および/または一次防錆塗膜の、電磁式膜厚計によって測定される平均乾燥膜厚は、通常は30μm以下、好ましくは5~25μmである。
【0094】
本発明の防錆塗膜付き基材の製造方法は、[1]基材に本組成物を塗装する工程と、[2]前記基材に塗装された前記本組成物を硬化させて、前記基材上に防錆塗膜を形成する工程とを有する。
【0095】
基材としては、鉄、鋼、合金鉄、炭素鋼、マイルドスチール、合金鋼等の鉄鋼を挙げることができ、具体的には、前述した大型構造物用鋼材等の鋼材が挙げられる。前記基材は、必要により、ISO 8501-1における除錆度Sa2 1/2以上に相当する条件でブラスト処理されていることが好ましい。
【0096】
本組成物は、例えば、本キットを構成する第1剤および第2剤を混合して得られる。
基材上に防錆塗料組成物を塗装する方法としては、例えば、基材上に防錆塗料組成物を塗布する、あるいは基材を防錆塗料組成物に含浸してから取り出す、という方法が挙げられる。前記防錆塗料組成物を塗布する方法としては、特に制限はなく、エアスプレー、エアレススプレー等の従来公知の方法を適用することができる。
【0097】
塗装機としては、一般的に造船所、製鐵所等で塗装する場合、主にエアレススプレーやライン塗装機が用いられる。ライン塗装機は、ライン速度、塗装機内部に設置されたエアスプレー、エアレススプレー等の塗装圧力、スプレーチップのサイズ(口径)の塗装条件によって、膜厚の管理をする。
【0098】
前記防錆塗料組成物は、基材上に塗布された後、硬化される。硬化方法としては、特に制限はなく、従来公知の硬化方法を適用することができる。例えば、基材上に塗布された前記防錆塗料組成物は、空気中に放置すると、当該組成物中の水と任意に含まれる親水性有機溶剤とが揮発し、硬化する。このとき、必要に応じて、塗膜を加熱して乾燥させてもよい。加熱方法としては、例えば、燃焼ガス、石油バーナー、電熱線加熱、誘導加熱、遠赤外線加熱装置などによるトンネル型の加熱システムを使用する方法や、ガスや石油バーナーによる直接加熱方法、あるいは赤外線照射や誘導加熱システムを使用する方法などが挙げられる。
【実施例
【0099】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
実施例等で使用した原料は以下の通りである。
・無機/有機ハイブリッド型水系バインダー
「Dynasylan SIVO140」:
エボニック ジャパン(株)製
(SiO2含有割合14.25質量%、
固形分濃度22.5質量%、密度1.1g/cm3
・水性シリカゾル「スノーテックスAK-L」:
日産化学(株)製(SiO2含有割合20.5質量%、
固形分濃度21.2質量%、密度1.0g/cm3
・表面調整剤「TEGO Twin 4000」:
エボニック ジャパン(株)製(密度1.0g/cm3
・亜鉛粉末「F-2000」:
本荘ケミカル(株)製(密度7.1g/cm3
・トリポリリン酸二水素アルミニウム(モリブデン酸処理)
「LFボウセイ PM-303W」:
キクチカラー(株)製(密度3.0g/cm3
・トリポリリン酸二水素アルミニウム(Si・Zn処理)
「K-WHITE #84」:
テイカ(株)製(密度3.1g/cm3
・トリポリリン酸二水素アルミニウム(Ca・Zn処理)
「K-WHITE CZ610」:
テイカ(株)製(密度2.5g/cm3
・トリポリリン酸二水素アルミニウム(Mg処理)
「K-WHITE G105」:
テイカ(株)製(密度2.6g/cm3
・酸化亜鉛「酸化亜鉛3種」:
ハクスイテック(株)製(密度5.8g/cm3
・カリ長石「セラミックスパウダーOF-T」:
キンセイマテック(株)製(密度2.7g/cm3
・カオリン「Satintone W」:
BASF社製(密度2.6g/cm3
・シリカ粉末「QZ-SW」:(株)五島鉱山製(密度2.7g/cm3
・モリブデン酸カルシウム「LFボウセイ MC-400WR」:
キクチカラー(株)製(密度3.2g/cm3
・リン酸亜鉛「LFボウセイ ZP-N」:
キクチカラー(株)製(密度3.3g/cm3
・リン酸三カルシウム「第三リン酸カルシウム」:
太平化学産業(株)製(密度2.7g/cm3
前記原料の顔料組成は、表1の通りである。
【0100】
【表1】
【0101】
[調製例1]第1剤の調製
無機/有機ハイブリッド型水系バインダーとして14.7質量部のDynasylan SIVO140、水性シリカゾルとして6.3質量部のスノーテックスAK-L、20.0質量部の脱イオン水、および表面調整剤として0.06質量部のTEGO Twin 4000を容器に仕込み、25℃で1時間攪拌して、第1剤である(A-1)を調製した。
【0102】
さらに各原料の仕込量を、表2に記載の割合に変更した以外は、前記(A-1)の調製と同様の操作を行い、(A-2)~(A-4)を調製した。
【0103】
【表2】
【0104】
[実施例1~26、比較例1~8]防錆塗料組成物の調製
第1剤と各粉末の材料(第2剤)とを表3-1~表3-3に記載された割合(質量部)でポリエチレン製容器に仕込み、ハイスピードディスパーで5分間分散処理を行い、防錆塗料組成物を調製した。
【0105】
【表3-1】
【0106】
【表3-2】
【0107】
【表3-3】
【0108】
[評価方法・評価基準]
(1)屋外曝露防錆性
実施例、比較例で得られた各防錆塗料組成物を、構造用鋼板(JIS G3101:2015、SS400、寸法:150mm×70mm×2.3mm、サンドブラスト加工)に、その乾燥膜厚が15μmとなるように塗装した。乾燥膜厚は、電磁式膜厚計「LE-370」((株)ケット科学研究所製)を用いて測定した。次いで、塗装された前記組成物をJIS K5600-1-6:2016の規格に準拠し、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内で7日間乾燥させて、構造用鋼板上に防錆塗膜が形成された試験板を作成した。
【0109】
前記試験板を、屋外暴露台(中国塗料(株)大竹研究所敷地内)に設置し、3ヶ月間放置した。試験板は、試験板の塗装面が南側を向き、かつ、試験板が水平に対して45度となるように傾いた状態で固定した。2ヶ月間放置後の試験板全面に対する、発錆した試験板表面の面積比率(%)を測定して、発錆の発生状態をASTM(American Society for Testing and Materials)規格D-610の基準に従って下記のように評価し、7点以上を合格とした。
[発錆の状態の評価基準(ASTM D610)]
10:発錆を認めない、または発錆の面積比率は0.01%以下
9:発錆の面積比率は0.01%を超え0.03%以下
8:発錆の面積比率は0.03%を超え0.1%以下
7:発錆の面積比率は0.1%を超え0.3%以下
6:発錆の面積比率は0.3%を超え1%以下
5:発錆の面積比率は1%を超え3%以下
4:発錆の面積比率は3%を超え10%以下
3:発錆の面積比率は10%を超え16%以下
2:発錆の面積比率は16%を超え33%以下
1:発錆の面積比率は33%を超え50%以下
0:発錆の面積比率は50%を超え100%以下
【0110】
(2)塩水噴霧防食性
前記屋外曝露防錆性評価と同様にして、試験板を作成した。得られた試験板を、JIS K5600-7-1:2016に準拠し、温度が35℃±2℃のスプレーキャビネット内に入れ、塩化ナトリウム水溶液(濃度5%)を試験板の防錆塗膜に噴霧し続け、噴霧開始時から300時間後の防錆塗膜の発錆状態をASTM規格D-610の基準に従って、屋外曝露防錆性と同様に評価し、7点以上を合格とした。
【0111】
(3)電気防食性試験
前記屋外曝露防錆性評価と同様にして、試験板を作成した。得られた試験板の防錆塗膜上に、ハイソリッド型エポキシ塗料である、「CMP ノバ 2000」(中国塗料(株)製)を、エアスプレーガンで乾燥膜厚が約320μmとなるようにスプレー塗装し、次いで温度23℃、相対湿度50%の雰囲気で7日間乾燥することで上塗り塗膜付き試験板を形成した。乾燥膜厚は、電磁式膜厚計「LE-370」((株)ケット科学研究所製)を用いて測定した。
【0112】
前記上塗り塗膜付き試験板に、電気電流密度が5mA/m2以下になるよう亜鉛陽極を接続し、鋼板まで達する深さのスクライブを試験板の幅方向に入れて、40℃の3%塩水中に180日間浸漬した後のスクライブからの上塗り塗膜の剥がれの大きさを下記評価基準に従い評価した。評価B以上(剥がれの大きさが20mm未満)を合格とした。
[剥がれの大きさと評価基準]
S:10mm未満
A:10mm以上15mm未満
B:15mm以上20mm未満
C:20mm以上30mm未満
D:30mm以上
【0113】
(4)溶接性試験
2枚のサンドブラスト処理板(JIS G3101:2015,SS400、下板寸法:600mm×100mm×12mm、上板寸法:600mm×50mm×12mm)の表面に、ライン塗装機を用いて、実施例、比較例で得られた各防錆塗料組成物を、その乾燥膜厚が15μmとなるように塗装した。乾燥膜厚は、電磁式膜厚計「LE-370」((株)ケット科学研究所製)を用いて測定した。次いで、塗装された前記組成物をJIS K5600-1-6:2016の規格に従い、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内で7日間乾燥させ、図1(a)に示されるような上板および下板を準備した。図1(a)~(c)において、サンドブラスト処理板のうちの密な斜線部は塗装箇所を示す。
【0114】
次いで、炭酸ガス自動アーク溶接法により、図2(a)~(c)に示されるように、所定のトーチ角度およびトーチシフトを保ちつつ、上板と下板とを両層(初層側、終層側)同時に溶接した。このときの溶接条件を表4に示す。
【0115】
【表4】
【0116】
溶接性は次のように評価した。初層側の溶接線にレーザーノッチ(V字型カット)を入れ、終層側の溶接部を溶接線に沿ってプレスで破断し、破断面に発生しているブローホールの合計面積(ブローホールの幅×長さ×個数)を評価面積で割り、ブローホール発生率(%)を算出した。評価B以上(ブローホール発生率が10%未満)を合格とした。
[ブローホール発生率と評価基準]
S:1%未満
A:1%以上5%未満
B:5%以上10%未満
C:10%以上
【0117】
〔実施例・比較例評価〕
表3-1~3-3より、以下の点が示される。
防錆塗料組成物がリン酸アルミニウム系化合物(C)を含有することで、前記(C)を含有していない場合よりも塩水噴霧防食性および耐電気防食性が良好であった(実施例1、6~9、比較例1)。リン酸アルミニウム系化合物(C)以外の防錆顔料を使用した場合、屋外曝露防錆性、塩水噴霧防食性、耐電気防食性の両立が困難であった(実施例1、22~25、比較例5~7)。
【0118】
防錆塗料組成物が導電性顔料(D)の酸化亜鉛を含有することで、前記酸化亜鉛を含有してない場合よりも屋外曝露防錆性が良好であった(実施例1~5、24、比較例8)。
質量比[(B)/{(C)+(D)}]が7.0以下である場合、屋外曝露防錆性、塩水噴霧防食性、耐電気防食性および溶接性に優れていたが、質量比[(B)/{(C)+(D)}]が7.0を超える場合、屋外曝露防錆性、塩水噴霧防食性、耐電気防食性および溶接性のいずれか、または複数が劣っていた(実施例、比較例2~4)。さらに、顔料(E)として、カオリンを使用した場合、耐電気防食性がより優れていた(実施例20と実施例1、19との比較、実施例25と実施例24との比較)。
【符号の説明】
【0119】
10・・・サンドブラスト処理板(下板)
20・・・サンドブラスト処理板(上板)
図1
図2