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  • -酸ドープ膜の結合方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】酸ドープ膜の結合方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230320BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20230320BHJP
   H01M 8/1027 20160101ALN20230320BHJP
   H01M 8/103 20160101ALN20230320BHJP
   H01M 8/1053 20160101ALN20230320BHJP
   H01M 8/1069 20160101ALN20230320BHJP
   H01M 8/1072 20160101ALN20230320BHJP
   H01M 8/1062 20160101ALN20230320BHJP
   H01M 8/1081 20160101ALN20230320BHJP
   H01M 8/1088 20160101ALN20230320BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230320BHJP
【FI】
B32B27/00 A
B32B7/025
H01M8/1027
H01M8/103
H01M8/1053
H01M8/1069
H01M8/1072
H01M8/1062
H01M8/1081
H01M8/1088
H01M8/10 101
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020545131
(86)(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 US2019019935
(87)【国際公開番号】W WO2019169064
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-10-20
(31)【優先権主張番号】62/636,384
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522322723
【氏名又は名称】ジェイテック・エナジー・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロニー・ジー・ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・アシュフォード・ナイト
(72)【発明者】
【氏名】テドリック・ディー・キャンベル
(72)【発明者】
【氏名】マルコム・モーゼス・ジョンソン
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-032276(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087958(WO,A1)
【文献】特表2005-527948(JP,A)
【文献】特開2006-324140(JP,A)
【文献】特開2011-165347(JP,A)
【文献】特開2012-054066(JP,A)
【文献】特開2000-038472(JP,A)
【文献】特開2010-245019(JP,A)
【文献】特開2008-153174(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0106790(KR,A)
【文献】中島利誠、後藤信行,耐熱性高分子材料 -ポリベンズイミダゾールを中心として-,生産研究,日本,東京大学生産技術研究所 第4部,1969年09月,21巻・9号(1969.9),第12頁~第17頁,URL:https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/22041/files/sk021009003.pdf,[2021年10月26日検索],インターネット
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 65/00-65/82
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
H01M 4/86- 4/98
C25B 1/00-9/20;13/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚以上の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを結合する方法であって、下記の順序で、
第1の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを第1の基板上に配置して第1のフィルム/基板アセンブリを形成し、第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを第2の基板上に配置して第2のフィルム/基板アセンブリを形成する工程と、
第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを軟化させるのに十分な温度まで第1及び第2のフィルム/基板アセンブリを加熱する工程と、
第1の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムが第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムに接触するように第2のフィルム/基板アセンブリを第1のフィルム/基板アセンブリの上に位置づける工程であり、第1および第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムのポリベンゾイミダゾールポリマー鎖が一時的に分断されて、第1の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムのポリベンゾイミダゾールポリマー鎖が第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムのポリベンゾイミダゾールポリマー鎖と相互作用することを可能にする、工程と、
第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを再加水分解する工程であり、第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムのポリベンゾイミダゾールポリマー鎖が再形成され、互いに連結されて第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを結合するようにする、工程と
を含む方法。
【請求項2】
第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムのそれぞれが、酸ドープポリベンゾイミダゾール膜である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各酸ドープポリベンゾイミダゾール膜がゾル-ゲル法で製造されたものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ゾル-ゲル法がポリリン酸を使用する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムのそれぞれが、ポリ[2,2’-(p-フェニレン)-5,5’-ビベンゾイミダゾール](p-PBI)でできている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第1及び第2の多孔質基板のそれぞれが、1nm~100nmの範囲の孔径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
第1及び第2のフィルム/基板アセンブリが、300℃の温度に加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
第1及び第2のフィルム/基板アセンブリの加熱後であって第2のフィルム/基板アセンブリを第1のフィルム/基板アセンブリの上に位置づける前に、第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムそれぞれの露出面にポリマー溶媒のコーティングを塗布する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ポリマー溶媒がポリリン酸である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第1及び第2のフィルム/基板アセンブリが、220℃の温度に加熱される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
第2のフィルム/基板アセンブリが第1のフィルム/基板アセンブリの上に位置づけられたときに、第1及び第2のフィルム/基板アセンブリに圧力を印加する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
第1及び第2のフィルム/基板アセンブリに、0.01~10psiの圧力が印加される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを再加水分解する工程が、第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを酸浴中に配置する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを再加水分解する工程が、第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを脱イオン水浴中に配置する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
第1及び第2の基板が多孔質基板である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年2月28日に出願した米国仮出願第62/636,384号の優先権を主張するものであり、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギー若しくは化学エネルギーの電気エネルギーへの変換、又はその逆は、さまざまな方法で行うことができる。例えば、公知の電気化学セル又はバッテリーは、化学反応に依拠し、酸化されている反応物のイオンと電子は、別々の経路で還元されている反応物へと移動させられる。具体的には、電子は、それが働く外部負荷によって配線を介して電気的に移動させられ、一方、イオンは、電解質セパレーターを通して伝導される。
【0003】
しかしながら、バッテリータイプの電気化学セルは、バッテリーケーシングの領域がその中に収容できる利用可能な反応物の量を制限するため、限られた量のエネルギーしか生成できない。そのような電気化学セルは、電極間に逆極性電流/電圧を印加することによって、再充電されるように設計することができるが、そのような再充電は、別個の電源を必要とする。また、再充電プロセス中には、電気化学セルは、典型的には使用できない。
【0004】
燃料セルは、バッテリータイプの電気化学セルに付随する問題を克服する目的で開発された。従来の燃料セルでは、化学反応物が、連続的に、電気化学セルに供給され、電気化学セルから除去される。バッテリーと同様の形で、燃料セルは、電子及び非イオン化種の通過を概して阻害する膜電極アセンブリ(MEA)中の選択的電解質を通して、イオン化種を伝導することによって動作する。
【0005】
もっとも一般的なタイプの燃料セルは、一方の電極を通して水素を通過させ、他方の電極を通して酸素を通過させる、水素-酸素燃料セルである。電解質セパレーター膜の両側の多孔質電極は、化学反応に関与する電子を、外部回路を介して外部負荷に接続するために使用される。水素イオンは、水素及び酸素の化学反応電位の下、電解質セパレーターを通してセルの酸素側に伝導される。酸素側で、電子及び水素イオンは、水素を再構成し、酸素との反応を完了し、システムから放出された水の生成をもたらす。水素及び酸素がセルに連続的に供給されると、連続電流が生成される。
【0006】
また、電力を生成するために、機械的熱機関が設計され、使用されている。そのような機械的熱機関は、熱力学サイクルで動作するが、このとき、作業流体を圧縮するためのピストン又はタービンを用いて軸仕事が行われる。圧縮プロセスは低温で実施され、圧縮後、作業流体は、より高温に加熱される。その高温で、作業流体は、ピストン又はタービン等の負荷に対して膨張することが可能になり、それによって軸仕事が生じる。作業流体を使用するすべての機関を動作させるための鍵は、作業流体を低温で圧縮するために要する仕事量が、その作業流体を高温で膨張させることによって生じる仕事量よりも少ないことである。これは、作業流体を使用するすべての熱力学機関に当てはまる。
【0007】
例えば、蒸気機関は、ランキン熱力学サイクルで動作するが、このとき、水が高圧にポンピングされ、次いで、加熱されて蒸気になり、ピストン又はタービンによって膨張されて仕事をする。内燃機関は、オットーサイクルで動作するが、このとき、低温の大気がピストンにより圧縮され、次いで、シリンダー内で燃料を燃焼させることによって、非常に高温に加熱される。サイクルが継続するにしたがい、加熱された空気がピストンに対して膨張し、より低温の圧縮プロセスで消費される仕事量よりも多い仕事量をもたらす。
【0008】
スターリング機関は、高効率で、且つより多様な熱源の選択をもたらす機関を提供する目的で、スターリングサイクルで動作するように開発された。理想的なスターリング熱力学サイクルは、高温入熱及び低温排熱で動作する機関の理論最大効率を定める理想的なカルノーサイクルと同等の効率を有する。しかしながら、スターリング機関には、すべての機械的機関と同様に、信頼性の問題及びその機械稼働部に関連する効率損失という難点がある。
【0009】
機械的熱機関に特有のこれらの問題を回避する目的で、アルカリ金属熱電気化学変換(AMTEC)セルが、熱電気化学熱機関として設計された。AMTEC熱機関は、高温で、ナトリウム等のイオン化可能な作業流体を電気化学セル(膜電極アセンブリ、MEA)に通すことにより、圧力を利用して、電位及び電流を生成する。電極は、電流を外部負荷に接続する。電解質セパレーターを隔てた圧力差が溶融ナトリウム原子を電解質に通すと、電気的仕事が行われる。ナトリウムは、電解質に入る際にイオン化され、それによって、外部回路に電子を放出する。電解質の反対側では、バッテリー及び燃料セルタイプの電気化学セルで起こるプロセスとほぼ同じように、ナトリウムイオンが、電解質から出るときに、電子と再結合してナトリウムを再構成する。再構成されたナトリウムは、低圧高温であり、膨張した気体として電気化学セルから出る。次いで、この気体は冷却され、凝縮して液体状態に戻る。得られた低温の液体は、次いで、再加圧される。AMTEC機関の動作は、ランキン熱力学サイクルと近似している。
【0010】
AMTEC技術については、多数の文献がある。例えば、Qiuya Niらによる、「Conceptual design of AMTEC demonstrative system for 100 t/d garbage disposal power generating facility」(Chinese Academy of Sciences、Inst. of Electrical Engineering、Beijing、China)を参照されたい。別の代表的文献は、Intersociety Energy Conversion Engineering Conference and Exhibit(IECEC)、第35回、Las Vegas、NV(2000年7月24~28日)、Collection of Technical Papers. Vol.2(A00-37701 10-44)である。また、American Institute of Aeronautics and Astronautics、190、1295~1299頁、レポート番号-AIAA Paper 2000-3032も参照されたい。
【0011】
AMTEC熱機関には、アルカリ金属作業流体の高腐食性の性質により、信頼性問題がある。AMTEC機関はまた、有用性が非常に限定されている。具体的には、AMTEC機関は、イオン伝導性固体電解質が高温でしか実用的な伝導性レベルに達しないため、極めて高温でしか作動させられない。実際、アルカリ金属作業流体が、サイクルを進んでいく間常に、その溶融温度を超える温度に維持されなければならないため、低温加圧プロセスでさえ、比較的高温で行わなければならない。機械式ポンプ、更には磁気流体力学ポンプが、低温作業流体を加圧するために使用されている。
【0012】
上述の従来の機械的機関及び熱電気化学熱機関の欠点を克服する目的で、ジョンソン熱電気化学変換器(JTEC:Johnson Thermo-Electrochemical Converter)システム(2003年4月28日に出願された米国特許第7,160,639号に開示され、その内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる)が発明された。典型的なJTECシステムは、ある温度で動作する第1の電気化学セル(MEA)と、第1の温度とは異なる温度で動作する第2の電気化学セル(MEA)と、2つのセルを接続する熱交換器を含む導管システムと、導管システム中に含まれる作業流体としてのイオン化可能な気体(例えば、水素又は酸素)の供給源とを含む熱機関である。各MEAスタックは、作業流体のイオンを伝導することができる非多孔質膜を含み、その両側には、多孔質電極が位置する。
【0013】
JTECでは、入口側の電極に電子を放出することによって、作業流体が各MEAスタックを通過し、それによって膜を通してイオン(プロトン)を反対側の電極に伝導することができる。作業流体イオンが膜から出るとき、反対側の電極が、外部負荷又は制御装置を通過した電子を作業流体イオンに再供給し、作業流体が反対側の電極内で再構成される。電気負荷が取り付けられたMEAを隔てて水素圧力差が印加された場合、この圧力差は、水素が高圧から低圧へと通過するときに、負荷に電力を供給する。このプロセスはまた、逆にも作用する。電圧及び電流をMEAに印加して、水素を低圧から高圧にポンピングすることができる。
【0014】
圧力差の下で動作するため、高温セルは、低温セルよりも高い電圧を有し、ネルンストの式と一致する。他の機関と同様に、作業流体、ここでは水素は、低温で圧縮され、高温で膨張させられて、正味出力を生成する。両MEAを通して一貫した電流は、一定の圧力差を維持する。両セルを通して電流(I)は同じであるため、電圧差は、高温セルで水素の膨張によって生成される電力が低温セルのものよりも高いことを意味する。
【0015】
広範な使用に適したJTECの開発に伴い、多くの難題に遭遇してきたが、これはとりわけ、水素を作業流体として使用することに付随する問題に関するものである。例えば、水素分子はサイズが小さいため、導管システムの小さな欠陥による水素漏出が生じ得る。具体的には、水素漏出は、高温セルと低温セルとの間の導管連結器の相互接続継手で生じ得る。そのような漏出は、膜を隔てた作業流体の圧力差を減少させる点で、また、それにより電気出力及びシステム効率全般を低下させる点で望ましくない。
【0016】
更に、開路電圧が1ボルトを超え得る従来の燃料セルとは異なり、MEAスタックを隔てた水素圧力差によるネルンスト電圧は、わずか約0.2ボルト程度である。したがって、多くのセルは、有用な出力電圧レベルを達成するために、直列に接続しなければならない。更に、各JTECセルは、有用なレベルの出力電流を達成し、膜抵抗による電圧損失を最小限にするために、広い膜/電極表面積を有する必要がある。すなわち、個々のセルの低い動作電圧、及び入手可能な膜材料の低い伝導性を考慮すると、有用なレベルの電力を生成するために、広い膜表面積が必要とされる。直接結合膜構造体は、漏出を起こしやすい導管連結器を排除することにより、水素漏出に関する前記難題を軽減する。
【0017】
したがって、熱電機関に使用されるもののような膜は、出力電圧を最大限にするのに十分に高いイオン伝導性に加え、作業流体、例えば、水素ガス又は任意の気体及び同伴伝導体(例えば、酸素)の膜を横切る圧力誘発拡散、並びにそれに伴う電気出力及び効率の低下を最小限にするのに十分に高い拡散バリヤー性を有する必要がある。しかしながら、有用なイオン伝導性を有する入手可能な水素イオン伝導性膜材料、例えば、DuPont Corp.社製のポリマーであるNafion(登録商標)は、一般に、分子拡散バリヤー性が極めて低く、動作に要する圧力差の損失をもたらす。反対に、高い分子拡散バリヤー性を有する入手可能な膜材料、例えば、セラミックイオン伝導体は、一般に、特に低温から中温で、比較的低いイオン伝導性を有し、そのような材料を使用すると、高いシステムインピーダンス及び高い分極損失につながる。したがって、カルノーに相当するサイクルに近似可能であり、且つ従来の機械的機関に伴う信頼性及び効率の悪さの問題を排除する熱電気化学熱機関を提供するために、入手可能な高バリヤー、高イオン又はプロトン伝導性の材料を大表面積薄膜として使用する実用的な方法が必要とされている。
【0018】
このために、固体ポリマー電解質の使用への関心が大きく高まっている。従来の代替的膜材料、例えば、Nafionは、その伝導性が水の利用可能性に左右され、そのため最適動作のために外部加湿を要するが、それとは異なり、固体ポリマー電解質のプロトン伝導性は、水の利用可能性には左右されず、そのため外部加湿を用いずに高温で動作する。そのために、固体ポリマー電解質用に特に関心の高い1つの膜は、ポリベンゾイミダゾール(PBI)ポリマーをベースとする。PBIポリマーは、その優れた熱及び化学安定性で名高いポリマー群である。より具体的には、PBIは、その芳香族構造及び芳香族構造の結合の強く堅固な性質により、高い熱及び化学安定性を本質的に有する。
【0019】
薄膜を流延することができるPBI溶液を作るための方法が開発された。具体的には、溶液から膜を流延し、次いで、その膜をリン酸(PA)でドープして、ポリマーをプロトン伝導性にすることによって、PBIフィルムを固体ポリマー電解質として使用することができる。例えば、J. S. Wainrightら、「Acid-doped polybenzimidazoles: a new polymer electrolyte」、Journal of the Electroochemical Society、142(7)(1995)を参照されたい。
【0020】
Xiaoらは、PAドープPBI膜を合成することができる、「PPA法」(ポリリン酸法)と称されるゾル-ゲル法を開発した(例えば、L.Xiaoら、「High-temperature polybenzimidazole fuel cell membranes via a sol-gel process」、Chemistry of Materials、17(21)、5328~333頁(2005)を参照)。ポリリン酸(PPA)法によって合成された酸ドープゲル膜は、ポリマーの繰り返し単位当たりの酸含有量が高く、これは、高いプロトン伝導性、及びポリマーを燃料セル用途で使用可能にする程度の機械的特性を保有する膜をもたらす。したがって、酸ドープPBI膜は、燃料セル用途での使用に特に望ましい。しかしながら、酸ドープPBIベース膜の限界の一つは、それ自体とも他の材料とも容易に結合しないことである。したがって、PBI膜に結合して電気化学セルスタックを作るために使用されるサブアセンブリを形成することが困難になる。したがって、酸ドープPBI膜を効率的に結合する方法を提供することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】米国特許第7,160,639号
【非特許文献】
【0022】
【文献】Conceptual design of AMTEC demonstrative system for 100 t/d garbage disposal power generating facility、Qiuya Niら(Chinese Academy of Sciences、Inst. of Electrical Engineering、Beijing、China)
【文献】Intersociety Energy Conversion Engineering Conference and Exhibit(IECEC)、第35回、Las Vegas、NV(2000年7月24~28日)、Collection of Technical Papers. Vol.2(A00-37701 10-44)
【文献】American Institute of Aeronautics and Astronautics、190、1295~1299頁、レポート番号-AIAA Paper 2000-3032
【文献】J. S. Wainrightら、「Acid-doped polybenzimidazoles: a new polymer electrolyte」、Journal of the Electroochemical Society、142(7)(1995)
【文献】L.Xiaoら、「High-temperature polybenzimidazole fuel cell membranes via a sol-gel process」、Chemistry of Materials、17(21)、5328~333頁(2005)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
一実施形態では、本発明は、2枚以上の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを結合する方法に関する。この方法は、下記の順序で、第1の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを第1の基板上に配置して第1のフィルム/基板アセンブリを形成し、第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを第2の基板上に配置して第2のフィルム/基板アセンブリを形成する工程と、第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを軟化させるのに十分な温度まで第1及び第2のフィルム/基板アセンブリを加熱する工程と、第2のフィルム/基板アセンブリを第1のフィルム/基板アセンブリの上に位置づける工程であり、第1の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムが第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムに接触し且つ第1の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムのポリベンゾイミダゾールポリマー鎖が第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムのポリベンゾイミダゾールポリマー鎖と相互作用するようにする、工程と、第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを再加水分解する工程であり、第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムのポリベンゾイミダゾールポリマー鎖が再形成され、互いに連結されて第1及び第2の酸ドープポリベンゾイミダゾールフィルムを結合するようにする、工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態による方法の概略図である。
図2】本発明の別の実施形態による方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態をここに記載する。開示される実施形態は、さまざまな代替的な形態、及びそれらの組合せで実施することができる本発明の例示的なものにすぎない。本明細書で使用するとき、「例示的な」という用語は、説明、見本、モデル、又はパターンとしての役割を果たす実施形態を指して広く用いられる。図は、必ずしも一定の縮尺ではなく、一部の図は、特定の構成要素の詳細を示すために誇張又は矮小化されていることがある。別の例では、周知の構成要素、システム、材料、又は方法は、本発明を不明瞭にしないように、詳細に記載されていない。したがって、本明細書に開示される少なくとも一部の特定の構造上及び機能上の詳細は、制限するものと解釈されるべきではなく、単に、特許請求の範囲の根拠として、及び本発明をさまざまな形で使用するために当業者に教示するための代表的な根拠として解釈されるべきである。
【0026】
ある特定の専門用語は、以下の説明において便宜上使用されるにすぎず、制限するものではない。「近位」、「遠位」、「上向き」、「下向き」、「下部」、及び「上部」という語は、言及される図中の方向を示す。「内向きに」、及び「外向きに」という語は、本発明によるアセンブリ及びその指定される部分の幾何学的中心に向かう方向、及びこの中心から離れる方向をそれぞれ指す。本明細書に特に記載されない限り、単数形の用語「a」、「an」、及び「the」は、一つの要素に限定されず、「少なくとも1つ」を意味するものと解釈すべきである。専門用語には、上記の語、その派生語、及び同様の意味の語が含まれる。
【0027】
また、「第1の」や「第2の」等の用語は、明確にする目的で提示されるにすぎないことも理解されたい。これらの用語により特定される要素又は構成要素、及びそれらの動作は、容易に交換することができる。
【0028】
本発明は、2枚以上の酸ドープPBIフィルム又は膜を結合する方法に関する。より詳細には、本発明は、好ましくはPPAを用いて、ゾル-ゲル法で製造され、より好ましくはPPA法により合成された、2枚以上の酸ドープポリマーフィルム又は膜を結合する方法に関する。更に詳細には、本発明は、PPA法により合成された2枚以上のPAドープポリマーフィルム又は膜を結合する方法に関する。この方法の解説の残りの部分は、2枚のそのようなフィルム又は膜を結合する概要に関するが、必要に応じて方法を単に反復又は再現して、追加のフィルム又は膜を結合することができることを理解されたい。また、本明細書中の解説の残りの部分は、主としてポリマー膜に関するが、この方法が任意のポリマーフィルムに十分に適用できることを理解されたい。
【0029】
PPA法では、PPAは、高度に酸ドープされたPBI膜の製造において、重縮合試薬及び流延溶媒の双方として使用される。酸ドープPBI膜は、酸の存在により、極めて吸湿性である。したがって、酸ドープPBI膜が大気に曝露されると、膜の曝露面に水の層が形成され、それによって、PBI膜を別のPBI膜を含むいかなるものに結合するのも非常に困難になる。
【0030】
したがって、2枚の酸ドープPBI膜を結合できるようにするために、酸ドープPBI膜と相互作用して膜をつなぎ合わせるための媒介の役割を果たす材料、又はポリマー結合を一時的に分断して、膜が相互作用できるようにする材料のいずれかを使用しなければならない。本発明は、後者の筋書きに関する。より詳細には、本発明は、2枚の酸ドープPBI膜間の結合を分断し、その後、これらの結合を再構成する。
【0031】
図1を参照すると、結合法を実施するために、第1及び第2の酸ドープPBIフィルム又は膜10、12が形成される。一実施形態では、膜10、12のポリマーは、ポリ-2,2’’-(m-フェニレン)-5,5’’-ビベンゾイミダゾール(m-PBI)又はポリ[2,2’-(p-フェニレン)-5,5’-ビベンゾイミダゾール](p-PBI)である。好ましくは、各フィルム又は膜10、12は、酸ドープp-PBIフィルム又は膜である。一実施形態では、第1及び第2の酸ドープPBIフィルム又は膜10、12は、PPA法によって形成される。典型的には、PPA法によって形成されたフィルム又は膜は、互いに結合しない。しかしながら、本発明は、そのようなフィルム又は膜を結合する方法を提供する。
【0032】
次に、第1の酸ドープPBI膜10は、第1の基板14上に配置されて、第1の膜/基板アセンブリ(又は第1のフィルム/基板アセンブリ)を形成し、第2の酸ドープPBI膜12は、第2の基板16上に配置されて、第2の膜/基板アセンブリ(又は第2のフィルム/基板アセンブリ)を形成する。好ましくは、第1及び第2の基板14、16は、互いに対称をなす。好ましくは、第1及び第2の基板14、16は、耐薬品性基板である。また、一実施形態では、第1及び第2の基板14、16は、多孔質基板である。一実施形態では、第1及び第2の多孔質基板14、16は、1nm~100cmの範囲の孔径を有する。次いで、第1及び第2の膜/基板アセンブリは、第1及び第2の酸ドープPBI膜それぞれのポリマーを効果的に軟化させるために、既定の持続時間にわたり既定の温度に加熱される。好ましくは、第1及び第2の膜/基板アセンブリは、PBIのTgから200度以内の温度に加熱される。
【0033】
一実施形態では、各膜/基板アセンブリは、およそ300℃の温度に加熱される。そのような温度で、より詳細に後述するように、リン酸は、再びPPAに変換されて2枚の膜の結合をもたらす。
【0034】
別の実施形態では、各膜/基板アセンブリは、およそ200℃~およそ250℃の温度に加熱され、続いて、ポリマー溶媒が、軟化された第1及び第2の酸ドープPBI膜それぞれの片面に塗布又はコーティングされる。より好ましくは、各膜/基板アセンブリは、およそ220℃の温度に加熱される。
【0035】
一実施形態では、各膜/基板アセンブリは、ホットプレート18上に配置され、既定の温度に加熱される。一実施形態では、既定の加熱持続時間は、およそ5~15分、より好ましくは、およそ10分の加熱である。加熱の結果、第1及び第2の酸ドープPBI膜10、12は、効果的に軟化される。
【0036】
続いて、ポリマー溶媒のコーティング20が、軟化された第1及び第2の酸ドープPBI膜10、12それぞれの露出面に塗布され、これは、別の材料又は膜表面に結合される。好ましくは、ポリマー溶媒は、ポリ酸、より好ましくはポリリン酸である。ポリマー溶媒が塗布された面は、次いで、互いに接触させられるが、加熱された多孔質基板のうちの1つの上に位置づけられたままである。より特定すると、第2の膜/基板アセンブリは、第1の酸ドープPBIフィルム(より特定すると、第1の膜10のポリリン酸が塗布されている面)が第2の酸ドープPBIフィルム(より特定すると、第2の膜12のポリリン酸が塗布されている面)と接触するように、第1の膜/基板アセンブリの上に位置づけられる。好ましくは、第1及び第2の酸ドープPBI膜10、12の十分な接触、例えば、クランプ又はクリスプで留められたアセンブリの場合のような接触を確実にするために、第1及び第2の膜/基板アセンブリは、重ね合わせられたときに圧力を印加される(例えば、第2の膜/基板アセンブリの上に配置された重り22によって)。一実施形態では、およそ0.01~10psiの圧力がアセンブリに印加される。互いに接触している2枚の膜又はフィルムに圧力を印加するための公知のどの方法も本発明での使用に適し得ることは、当業者により理解される。
【0037】
ポリマー溶媒(又は、変換されたPPA)は、第1及び第2の酸ドープPBI膜10、12のPBIポリマー鎖を分断し、それによって、第1及び第2の酸ドープPBI膜10、12が相互作用できるようにし、より特定すると、第1及び第2の酸ドープPBI膜10、12のPBIポリマー鎖が相互作用できるようにする。この間、第1及び第2の膜/基板アセンブリは、依然として加熱されている。加熱は、第1及び第2の酸ドープPBI膜10、12のPBIポリマー鎖が相互作用できるようにするのに十分な持続時間、例えば、およそ5分間行われる。PBIポリマー鎖の相互作用に十分な時間を与えた後、第1及び第2の膜/基板アセンブリから熱源が取り除かれ、第1及び第2の膜/基板アセンブリが再加水分解される。より特定すると、各アセンブリの第1及び第2の酸ドープPBI膜10、12が再加水分解される。例えば、第1及び第2の膜/基板アセンブリそれぞれは、それらが再加水分解できるように、より特定すると、第1及び第2の酸ドープPBI膜10、12が再加水分解できるように、酸浴又は脱イオン水浴24中に配置してもよい。酸浴又は脱イオン水浴24は、好ましくは、室温から酸又は脱イオン水の沸点未満の温度までの範囲の温度に維持される。それによって、第1及び第2の酸ドープPBI膜10、12の双方のPBIポリマー鎖が再形成されて互いに連結され、これは、PBI結合膜構造体26中の第1及び第2の酸ドープPBI膜10、12を効果的に結合する。更に、多孔質基板14、16は、第1及び第2の酸ドープPBI膜が再加水分解されて、永久的に結合した審美的に満足のいく構造体になることを可能にする。
【0038】
図2を参照すると、別の実施形態では、本発明は、複数材料媒介層を使用して、p-PBI膜又はフィルムを金属基板に結合する方法に関する。まず、ポリマー溶媒、例えば、ポリアミン酸が、金属基板30上に直接流延される。金属基板30は、多孔質であっても非多孔質であってもよい。このポリアミン酸コーティングは、その後、例えば、規定の熱勾配プログラムを使用して、金属基板30に結合されたポリイミド(PI)膜32の形成をもたらすように、部分的に硬化される。次いで、部分的に硬化したPI表面32上にm-PBI層34が流延され、次いで、この構造体は、同じ規定の熱勾配プログラムに供され、これにより、m-PBI34表面とPI32表面との間の永久的結合がもたらされる。次いで、予熱されたp-PBI溶液36が、PI32表面に結合されたm-PBI層34上に流延され、その直後に、この流延された予熱されたp-PBI溶液36は、脱イオン水又はリン酸のいずれかを使用して加水分解され、これにより、p-PBI表面36とm-PBI表面34との界面に永久的結合がもたらされる。その後、酸ドープp-PBI膜を結合するための前記手順を使用して、この構造体に他のp-PBI膜を結合してもよい。
【0039】
直接熱電気機関には、温度依存性の電気化学反応電位を有する電気化学的に活性な材料の固体電極が含まれる。電極は、電解質セパレーターと組み合わせて構成され、膜電極アセンブリを形成する。膜電極アセンブリは、対にまとめられ、それによって、所与の対の各膜電極アセンブリは、他方の膜電極アセンブリとイオン的及び電気的に相互接続される。上述の方法は、そのような膜電極アセンブリの水素膜を接続するために使用することができる。
【0040】
上述の実施形態に、その広い発明概念から逸脱することなく変更を行うことが可能であることは、当業者には明らかである。そのような変更、組合せ、及び変形はすべて、本開示及び添付の特許請求の範囲の範囲により、本明細書に組み込まれる。したがって、本発明は、開示される特定の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内の修正形態を包含することが意図されることを理解されたい。
【符号の説明】
【0041】
10 第1の酸ドープPBIフィルム又は膜
12 第2の酸ドープPBIフィルム又は膜
14 第1の基板
16 第2の基板
18 ホットプレート
20 コーティング
22 重り
24 酸浴又は脱イオン水浴
26 PBI結合膜構造体
30 金属基板
32 ポリイミド(PI)
34 m-PBI
36 p-PBI
図1
図2