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特許7247292加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる電子機器及び方法
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  • 特許-加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる電子機器及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる電子機器及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20230320BHJP
   G16H 50/20 20180101ALI20230320BHJP
   A61B 3/14 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
G06N20/00
G16H50/20
A61B3/14
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021152457
(22)【出願日】2021-09-17
(65)【公開番号】P2022186568
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】110120195
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】522096916
【氏名又は名称】宏碁智醫股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】▲チェン▼ 孟哲
(72)【発明者】
【氏名】▲イン▼ 銘佐
(72)【発明者】
【氏名】謝 易庭
【審査官】宮司 卓佳
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112446875(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111325726(CN,A)
【文献】JIE,Zhanming他,Better Modeling of Incomplete Annotations for Named Entity Recognition,Proceedings of NAACL-HLT 2019,2019年06月07日,p.729-p.734,https://aclanthology.org/N19-1979.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 20/00
G16H 50/20
A61B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる電子機器であって、
トランシーバと、
前記トランシーバに結合されたプロセッサとを具え、該プロセッサは、
前記トランシーバを通して学習データを取得し、
前記学習データに対応する損失関数ベクトルを機械学習アルゴリズムに基づいて計算し、該損失関数ベクトルは、前記加齢による黄斑変性症の第1段階に対応する第1損失関数値、及び前記加齢による黄斑変性症の第2段階に対応する第2損失関数値を含み、
前記第1段階と前記第2段階との段階差に応じて第1ペナルティ重み値を生成し、
前記第2損失関数値及び前記第1ペナルティ重み値により前記第1損失関数値を更新して、更新した損失関数ベクトルを生成し、
前記更新した損失関数ベクトルにより前記分類モデルを学習させる
ように構成されている電子機器。
【請求項2】
前記損失関数ベクトルが、前記加齢による黄斑変性症の第3段階に対応する第3損失関数値をさらに含み、前記プロセッサが、
前記第1段階と前記第3段階との段階差である第2段階差に応じて第2ペナルティ重み値を生成し、
前記第3損失関数値及び前記第2ペナルティ重み値により前記第1損失関数値を更新して、前記更新した損失関数ベクトルを生成する
ようにさらに構成されている、請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記第2段階差が前記段階差よりも大きく、前記第2ペナルティ重み値が前記第1ペナルティ重み値よりも大きい、請求項2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記第1ペナルティ重み値が前記段階差に比例する、請求項1に記載の電子機器。
【請求項5】
前記学習データが、加齢による黄斑変性症の段階の注記を付けた眼底像を含む、請求項1に記載の電子機器。
【請求項6】
前記損失関数ベクトルがバイナリ交差エントロピー関数に対応する、請求項5に記載の電子機器。
【請求項7】
前記プロセッサが、前記学習データに対応する正規化確率ベクトルを機械学習アルゴリズムに基づいて計算し、前記加齢による黄斑変性症の段階に対応するワンホット符号化ベクトルを、前記眼底像の前記注記に応じて生成し、前記正規化確率ベクトル及び前記ワンホット符号化ベクトルを前記バイナリ交差エントロピー関数に入力して、前記損失関数ベクトルを生成する、請求項6に記載の電子機器。
【請求項8】
前記更新した損失関数ベクトルにおける更新した損失関数値が、前記第2損失関数値と前記第1ペナルティ重み値との第1乗算値を含む、請求項2に記載の電子機器。
【請求項9】
前記損失関数値が、前記第3損失関数値と前記第2ペナルティ重み値との第2乗算値をさらに含む、請求項8に記載の電子機器。
【請求項10】
加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる方法であって、
プロセッサが、学習データを取得するステップと、
前記プロセッサが、前記学習データに対応する損失関数ベクトルを機械学習アルゴリズムに基づいて計算するステップであって、該損失関数ベクトルは、前記加齢による黄斑変性症の第1段階に対応する第1損失関数値、及び前記加齢による黄斑変性症の第2段階に対応する第2損失関数値を含むステップと、
前記プロセッサが、前記第1段階と前記第2段階との段階差に応じて第1ペナルティ重み値を生成するステップと、
前記プロセッサが、前記第2損失関数値及び前記第1ペナルティ重み値により前記第1損失関数値を更新して、更新した損失関数ベクトルを生成するステップと、
前記プロセッサが、前記更新した損失関数ベクトルにより前記分類モデルを学習させるステップと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる電子機器及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
加齢による黄斑変性症(AMD:age-related macular degeneration)の、臨床症状の重症度に応じた分類は、第1段階、第2段階、第3段階、及び第4段階である。現在、一部の関係者は、人工知能(AI:artificial intelligence)モデルを用いて眼底像を分析して、加齢による黄斑変性症の重症度を分類している。これらの関係者は、医療関係者が注記を付けたデータを用いて、人工知能モデルを学習させることができる。一般に、医療関係者は、加齢による黄斑変性症を眼底像中の黄斑領域に応じて分類する。しかし、異なる医療関係者は黄斑領域の異なる識別を有し得る。従って、異なる医療関係者が注記を付けた学習データによって学習させた人工知能モデルは過学習の問題を有することがあり、これにより人工知能モデルの分類精度を低下させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
技術課題
異なる医療関係者は黄斑領域の異なる識別を有し得る。従って、異なる医療関係者が注記を付けた学習データによって学習させた人工知能モデルは過学習の問題を有することがあり、これにより人工知能モデルの分類精度を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
課題の解決策
本発明は、加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる電子機器及び方法を提供し、これらの電子機器及び方法は、加齢による黄斑変性症用の分類モデルを高い精度で得られるように学習することができる。
【0005】
本発明による、加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる電子機器は、プロセッサ及びトランシーバを含む。プロセッサは受信機に結合されている。プロセッサは次のステップを実行するように構成されている。トランシーバを通して学習データを取得する。学習データに対応する損失関数ベクトルを機械学習アルゴリズムに基づいて計算し、この損失関数ベクトルは、加齢による黄斑変性症の第1段階に対応する第1損失関数値、及び加齢による黄斑変性症の第2段階に対応する第2損失関数値を含む。第1ペナルティ重み値を、第1段階と第2段階との段階差に応じて生成する。第1損失関数値を、第2損失関数値及び第1ペナルティ重み値により更新して、更新した損失関数ベクトルを生成する。次に、更新した損失関数ベクトルにより分類モデルを学習させる。
【0006】
本発明の1つの好適例では、上記損失関数ベクトルが、加齢による黄斑変性症の第3段階に対応する第3損失関数値をさらに含む。上記プロセッサは次のステップを実行するようにさらに構成されている。第2ペナルティ重み値を、第1段階と第3段階との第2段階差に応じて生成する。次に、第1損失関数値を、第3損失関数値及び第2ペナルティ重み値により更新して、更新した損失関数ベクトルを生成する。
【0007】
本発明の1つの好適例では、第2段階差が上記段階差よりも大きく、第2ペナルティ重み値が第1ペナルティ重み値よりも大きい。
【0008】
本発明の1つの好適例では、第1ペナルティ重み値が上記段階差に比例する。
【0009】
本発明の1つの好適例では、上記学習データが、加齢による黄斑変性症の段階の注記を付けた眼底像を含む。
【0010】
本発明の1つの好適例では、上記損失関数ベクトルがバイナリ交差(クロス)エントロピー関数に対応する。
【0011】
本発明の1つの好適例では、上記プロセッサが、上記学習データに対応する正規化確率ベクトルを上記機械学習アルゴリズムに基づいて計算し、加齢による黄斑変性症の段階に対応するワンホット符号化ベクトルを上記眼底像の注記に応じて生成し、これらの正規化確率ベクトル及びワンホット符号化ベクトルを上記バイナリ交差エントロピー関数に入力して、上記損失関数ベクトルを生成する。
【0012】
本発明の1つの好適例では、上記更新した損失関数ベクトルにおける更新した損失関数値が、上記第2損失関数値と上記第1ペナルティ重み値との第1乗算値を含む。
【0013】
本発明の1つの好適例では、上記更新した損失関数値が、第3損失関数値と上記第2ペナルティ重み値との第2乗算値をさらに含む。
【0014】
本発明による、加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる方法は、次のステップを含む。学習データを取得する。この学習データに対応する損失関数ベクトルを機械学習アルゴリズムに基づいて計算し、この損失関数ベクトルは、加齢による黄斑変性症の第1段階に対応する第1損失関数値、及び加齢による黄斑変性症の第2段階に対応する第2損失関数値を含む。第1ペナルティ重み値を、第1段階と第2段階との段階差に応じて生成する。第1損失関数値を、第2損失関数値及び第1ペナルティ重み値により更新して、更新した損失関数ベクトルを生成する。次に、更新した損失関数ベクトルにより分類モデルを学習させる。
【発明の効果】
【0015】
以上に基づけば、本発明の電子機器は、ペナルティ重み値を用いて、機械学習アルゴリズムの損失関数値を更新し、更新した損失関数値を用いて分類モデルを学習させることができる。本発明は、分類モデルの過学習を防止して分類モデルの精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態による、加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる電子機器の概略ブロック図である。
図2】本発明の一実施形態による、損失関数ベクトルを更新することの概略図である。
図3】本発明の一実施形態による、加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態の説明
前述したことをより分かり易くするために、図面を伴ういくつかの実施形態を以下のように詳細に説明する。以下の実施形態は、本発明を実現することができる例として具体的に引用する。それに加えて、可能な際には常に、図面及び実施形態中の同じ参照番号を有する要素/構成要素/ステップは、同一または同様の構成要素を表す。
【0018】
加齢による黄斑変性症を分類するための分類モデルは、医療関係者が注記を付けた学習データ(例えば、加齢による黄斑変性症の段階の注記を付けた眼底像)に基づいて生成することができる。しかし、医療関係者が決定した注記付きの学習データは、必ずしも正しくないことがある。例えば、医療関係者は、加齢による黄斑変性症の第1段階を加齢による黄斑変性症の第2段階として分類することがある。分類モデルが、これらの容易に混同されるデータに過度に焦点を当てると、分類モデルは過学習によりその一般化(汎化)能力を失い得る。本発明は、加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる方法を提案し、この方法は、過学習の分類モデルを得るための学習を防止することができる。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態による、加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させるための電子機器100の概略図である。電子機器100は、プロセッサ110、記憶媒体120、及びトランシーバ130を含むことができる。この分類モデルは、加齢による黄斑変性症の第1段階、第2段階、第3段階、及び第4段階に入力されるデータを分類するように構成することができる。
【0020】
プロセッサ110は、例えば、中央処理装置(CPU:central processing unit)、または他のプログラマブルな汎用または専用マイクロコントロールユニット(MCU:micro control unit)、マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP:digital signal processor)、プログラマブル・コントローラ、特定用途向け集積回路(ASIC:application specific integrated circuit)、グラフィックス・プロセシングユニット(GPU:graphics processing unit)、イメージシグナルプロセッサ(ISP:image signal processor)、イメージ・プロセシングユニット(IPU:image processing unit)、数値演算ユニット(ALU:arithmetic logic unit)、結合プログラマブル論理回路(CPLD:complex programmable logic unit)、フィールドプログラマブル・ゲートアレイ(FPGA:field programmable gate array)、または他の同様な素子、あるいは上記の素子の組合せである。プロセッサ110は、記憶媒体120及びトランシーバ130に結合することができ、記憶媒体120に記憶されている複数のモジュール及び種々のアプリケーションプログラムにアクセスしこれらを実行して、電子機器100の機能を実行することができる。
【0021】
記憶媒体120は、例えば、あらゆる種類の固定または着脱可能なランダムアクセスメモリ(RAM:random access memory)、読出し専用メモリ(ROM:read-only memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ(HDD:hard disc drive)、半導体ドライブ(SSD:solid state drive)、または同様な素子、あるいは上記の素子の組合せであり、プロセッサ110によって実行することができる複数のモジュールまたは種々のアプリケーションプログラムを記憶するように構成されている。
【0022】
トランシーバ130は、信号を無線または有線の様式で送信し受信する。トランシーバ130は、低ノイズ増幅、インピーダンス整合、周波数混合、周波数のアップコンバージョンまたはダウンコンバージョン、フィルタ処理、増幅、及び他の類似の機能のような動作を実行することもできる。
【0023】
プロセッサ110は、上記分類モデルを学習させるための学習データ集合を、トランシーバ130を通して取得することができる。この学習データ集合は、多数の学習データを含むことができる。これらの学習データは、例えば、加齢による黄斑変性症の段階の注記を付けた眼底像である。
【0024】
図2は、本発明の一実施形態による、損失関数ベクトル23を更新することの概略図である。上記分類モデルは、例えば機械学習モデルである。プロセッサ110は、上記学習データに対応する損失関数ベクトル23を、機械学習アルゴリズムに基づいて計算することができる。加齢による黄斑変性症は第1段階、第2段階、第3段階、及び第4段階を含むので、損失関数ベクトル23は、それぞれ第1段階、第2段階、第3段階、及び第4段階に対応する4つの損失関数値を含むことができる。しかし、本発明はそのことに限定されない。例えば、損失関数ベクトル23は任意数の損失関数値を含むことができる。本実施形態では、損失関数ベクトル23を[e(1) e(2) e(3) e(4)]として表すことができ、ここにe(1)は第1段階に対応する損失関数値であり、e(2)は第2段階に対応する損失関数値であり、e(3)は第3段階に対応する損失関数値であり、そしてe(4)は第4段階に対応する損失関数値である。
【0025】
上記機械学習アルゴリズムの損失関数は、例えば、バイナリ交差エントロピー関数20である。プロセッサ110は、損失関数ベクトル23を、バイナリ交差エントロピー関数20により生成することができる。具体的には、上記分類モデルを学習させるプロセスでは、上記機械学習アルゴリズムのソフトマックス(Softmax:登録商標)関数が正規化確率ベクトル21を出力することができる。正規化確率ベクトル21は、それぞれ第1段階、第2段階、第3段階、及び第4段階に対応する4つの正規化確率を含むことができる。しかし、本発明はそのことに限定されない。例えば、正規化確率ベクトル21は任意数の正規化確率を含むことができる。本実施形態では、正規化確率ベクトル21を[p(1) p(2) p(3) p(4)]として表すことができ、ここにp(1)は第1段階の正規化確率であり、p(2)は第2段階の正規化確率であり、p(3)は第3段階の正規化確率であり、そしてp(4)は第4段階の正規化確率である。正規化確率は式(1)に示すように0~1の閉区間に属し、ここにp(j)は加齢による黄斑変性症の第j段階の正規化確率である。
p(j)∈[0, 1] ---(1)
【0026】
一方、プロセッサ110は、加齢による黄斑変性症の段階に対応するワンホット符号化ベクトル22を、上記学習データ(即ち、加齢による黄斑変性症の段階の注記を付けた眼底像)の注記に応じて生成することができる。ワンホット符号化ベクトル22は、それぞれ第1段階、第2段階、第3段階、及び第4段階に対応する4つの符号化値を含むことができる。しかし、本発明はそのことに限定されない。例えば、ワンホット符号化ベクトル22は任意数の符号化値を含むことができる。本実施形態では、ワンホット符号化ベクトル22を[c(1) c(2) c(3) c(4)]として表すことができ、ここにc(1)は第1段階の符号化値であり、c(2)は第2段階の符号化値であり、c(3)は第3段階の符号化値であり、そしてc(4)は第4段階の符号化値である。この符号化値は「0」または「1」とすることができる。ワンホット符号化ベクトル22は1つの符号化値「1」及び3つの符号化値「0」を含むことができ、ここに符号化値「1」は、加齢による黄斑変性症の段階のうち上記学習データ中に注記が付いた段階に対応し、符号化値「0」は、加齢による黄斑変性症の段階のうち上記学習データ中に注記が付いていない段階に対応する。例えば、上記学習データに第3段階としての注記が付いている際に、ワンホット符号化ベクトル22は[0010]として表すことができる。
【0027】
正規化確率ベクトル21及びワンホット符号化ベクトル22を取得した後に、プロセッサ110は、正規化確率ベクトル21及びワンホット符号化ベクトル22をバイナリ交差エントロピー関数20に入力して、損失関数ベクトル23を生成する。
【0028】
一般に、より小さい絶対値を有する段階差を有する2つの段階は、区別することがより困難である。より大きい絶対値を有する段階差を有する2つの段階は、区別することがより容易である。例えば、眼底像を第1段階及び第2段階の一方として分類することは、この眼底像を第1段階及び第3段階の一方として分類することよりも困難である。換言すれば、第1段階が第2段階として誤判定される確率はより高いのに対し、第1段階が第3段階として誤判定される確率はより低い。分類モデルが、より小さい段階差を有する段階どうしを区別することに過度に焦点を当てると、過学習が発生し得る。分類モデルの過学習を防止するために、プロセッサ100は、ペナルティ重み値を用いて分類モデルの損失関数値を更新し、更新した損失関数値により分類モデルを学習させることができる。
【0029】
具体的には、プロセッサ110は、損失関数ベクトル23と重み行列24とを乗算して、更新した損失関数ベクトル25を生成し、更新した損失関数ベクトル25により分類モデルを学習させることができる。更新した損失関数ベクトル25のサイズは、損失関数ベクトル23のサイズと同じにすることができる。損失関数ベクトル23が[e(1) e(2) e(3) e(4)]として表されるものと仮定すれば、プロセッサ110は、更新した損失関数ベクトルを式(2)により計算することができ、ここにMは重み行列24であり、[e(1)’ e(2)’ e(3)’ e(4)’]は更新した損失関数ベクトル25である。更新した損失関数ベクトル25は、第1段階の更新した損失関数e(1)’、 第2段階の更新した損失関数e(2)’、 第3段階の更新した損失関数e(3)’、及び第4段階の更新した損失関数e(4)’を含むことができる。
[e(1)’ e(2)’ e(3)’ e(4)’]=[e(1) e(2) e(3) e(4)]・M ---(2)
【0030】
更新した損失関数ベクトル25における更新した損失関数値は式(3)で表すことができ、ここにe(i)’は第i段階の更新した損失関数値(または更新した損失関数ベクトル25の第i行の要素)を表し、e(j)’は第j段階の損失関数値(または損失関数ベクトル23の第j行の要素)を表し、a(i,j)は第i段階及び第j段階に対応する誤差重み値を表し、b(i,j)は第i段階及び第j段階に対応するペナルティ重み値を表す。iまたはjは1~4の閉区間に属する(即ち、i∈[1, 4]かつj∈[1, 4]である)。異なる段階に対する誤差重み値は同じにすることも異ならせることもできる。
e(i)’=Σj,j≠ie(j)・(a(i,j)+b(i,j)) ---(3)
【0031】
式(3)に示すように、プロセッサ110は、損失関数値e(2)、損失関数値e(3)、または損失関数値e(4)により、更新した損失関数値e(1)’を生成することができる。例えば、更新した損失関数値e(1)’は、損失関数値e(2)とペナルティ重み値b(1,2)との乗算値e(2)・b(1,2)、損失関数値e(3)とペナルティ重み値b(1,3)との乗算値e(3)・b(1,3)、及び損失関数値e(4)とペナルティ重み値b(1,4)との乗算値e(4)・b(1,4)を含むことができる。
【0032】
プロセッサ110は、第i段階及び第j段階に対応するペナルティ重み値b(i,j)を、第i段階と第j段階との段階差(即ち、i-j)により計算することができる。一実施形態では、ペナルティ重み値b(i,j)が、式(4)に示すように、第i段階と第j段階との段階差(即ち、i-j)の絶対値に比例することができる。例えば、第1段階と第3段階との段階差|1-3|が第1段階と第2段階との段階差|1-2|よりも大きいので、第1段階及び第3段階に対応するペナルティ重み値b(1,3)は、第1段階及び第2段階に対応するペナルティ重み値b(1,2)よりも大きい。
b(i,j)∝|i-j| ---(4)
【0033】
各誤差重み値a(i,j)が1に等しく、ペナルティ重み値b(i,j)が(式(5)に示すように)第i段階と第j段階との段階差に0.1を乗じた値に等しいものと仮定する。その結果、式(2)中の重み行列24は式(6)のように表すことができる。プロセッサ110は、損失関数ベクトル23と重み行列24とを乗算して、更新した損失関数ベクトル25を生成することができる。更新した損失関数ベクトル25を得た後に、プロセッサ110は、更新した損失関数ベクトル25により、加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させることができる。
b(i, j)=0.1・|i-j| ---(5)
【数1】
【0034】
図3は、本発明の一実施形態による、加齢による黄斑変性症用の分類モデルを学習させる方法のフローチャートである。この方法は図1に示す電子機器100によって実現することができる。ステップS301では、学習データを取得する。ステップS302では、この学習データに対応する損失関数ベクトルを機械学習アルゴリズムに基づいて計算する。この損失関数ベクトルは、加齢による黄斑変性症の第1段階に対応する第1損失関数値、及び加齢による黄斑変性症の第2段階に対応する第2損失関数値を含む。ステップS303では、第1段階と第2段階との段階差に応じて第1ペナルティ重み値を生成する。ステップS304では、第2損失関数値及び第1ペナルティ重み値により第1損失関数値を更新して、更新した損失関数ベクトルを生成する。ステップ305では、更新した損失関数ベクトルにより分類モデルを学習させる。
【0035】
要約すれば、本発明の電子機器は、ペナルティ重み値を用いて、機械学習アルゴリズムの損失関数値を更新することができる。この電子機器は、他の分類の損失関数値を用いて、特定の分類の損失関数値を更新することができる。他の分類とこの特定の分類とが容易に混同される分類である際には、電子機器はより小さいペナルティ重み値を他の分類に与える。他の分類とこの特定の分類とが容易に混同されない分類である際には、電子機器はより大きいペナルティ重み値を他の分類に与える。このようにして、更新した損失関数値によって学習させた分類モデルは、容易に混同される分類どうしを区別することに過度に焦点を当てることによる過学習がない。その結果、本発明の電子機器は分類モデルの精度を向上させることができる。
【0036】
本発明は上述した実施形態を参照しながら説明してきたが、排他的であること、あるいは本発明を開示した明確な形態または好適な実施形態に限定することは意図していない。本発明の精神及び範囲から逸脱することなしに、説明した実施形態に変更を加えることができることは、通常の当業者にとって明らかである。従って、本発明の範囲は、本明細書に添付した特許請求の範囲及びその等価物によって規定され、特許請求の範囲では、特に断りのない限り、用語はその最も広義の合理的な感覚を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の電子機器によって学習させた分類モデルは、容易に混同される分類どうしを区別することに過度に焦点を当てることによる過学習がない。その結果、本発明の電子機器は、分類モデルの精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0038】
100:電子機器
110:プロセッサ
120:記憶媒体
130:トランシーバ
20:バイナリ交差エントロピー関数
21:正規化確率ベクトル
22:ワンホット符号化ベクトル
23:損失関数ベクトル
24:重み行列
25:更新した損失関数ベクトル
S301、S302、S303、S304:ステップ
図1
図2
図3