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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】ポリケトンコンパウンド
(51)【国際特許分類】
   C08L 73/00 20060101AFI20230320BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20230320BHJP
   C08J 5/16 20060101ALI20230320BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
C08L73/00
C08L23/06
C08J5/16 CES
C08J5/16 CEZ
B29C45/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021518694
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2019076716
(87)【国際公開番号】W WO2020074349
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】102018125067.3
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510057615
【氏名又は名称】カール・フロイデンベルク・カー・ゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】ヘルバッハ,ビヨルン
(72)【発明者】
【氏名】ズッター,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】フィーツ,ローラント
(72)【発明者】
【氏名】シャウバー,トーマス
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-121334(JP,A)
【文献】特表平10-504854(JP,A)
【文献】特開平08-053585(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107739501(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
90.0~98.0重量%の脂肪族ポリケトンと2.0~10.0重量%の超高分子量ポリエチレンとを含み、
前記脂肪族ポリケトンは、摂氏210~230度の融点、60000~100000の数平均分子量および/または132000~320000の重量平均分子量、2.2~3.2の多分散度を有し、
前記超高分子量ポリエチレンは、100万g/mol超の分子量及び10~300μmの平均粒径を有するものである脂肪族ポリケトンコンパウンド。
【請求項2】
前記脂肪族ポリケトンが、5℃~20℃の範囲のガラス転移点、および/または1.1~1.3g/cm3の範囲の密度、および/または0.3~1.2%の吸水率、および/または2~80cm3/10分の範囲のMVRを有することを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリケトンコンパウンド。
【請求項3】
前記脂肪族ポリケトンがターポリマーであることを特徴とする請求項1または2に記載の脂肪族ポリケトンコンパウンド。
【請求項4】
前記脂肪族ポリケトンが、エチレンと、一酸化炭素と、3~5個の炭素原子を有するアルケンとから生成されることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の脂肪族ポリケトンコンパウンド。
【請求項5】
前記脂肪族ポリケトンコンパウンドの製造時に、一酸化炭素およびオレフィンが、ポリマー鎖において厳密に交互に配置されることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の脂肪族ポリケトンコンパウンド。
【請求項6】
98.0~90.0重量%の脂肪族ポリケトンと2.0~10.0重量%の超高分子量ポリエチレンとを混合するステップを含み、
前記脂肪族ポリケトンは、摂氏210~230度の融点、60000~100000の数平均分子量および/または132000~320000の重量平均分子量、2.2~3.2の多分散度を有し、
前記超高分子量ポリエチレンは、100万g/mol超の分子量及び10~300μmの平均粒径を有するものである脂肪族ポリケトンコンパウンドの製造方法。
【請求項7】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の脂肪族ポリケトンコンパウンドを含有することを特徴とする成形体。
【請求項8】
前記成形体は、シール、掻取り要素、カップリング要素、バックアップリング(押出し防止リング)、摩耗バンド、ガイド、および構造部品の少なくとも一つであることを特徴とする請求項7に記載の成形体。
【請求項9】
前記成形体は回転対称の成形体であることを特徴とする請求項7に記載の成形体。
【請求項10】
前記成形体は、1箇所の射出点のみを使用する射出成形プロセスによって製造される成形体であることを特徴とする請求項7から9までのいずれか1項に記載の成形体。
【請求項11】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の脂肪族ポリケトンコンパウンドを用いて成形体を製造する方法。
【請求項12】
前記成形体は回転対称の成形体であることを特徴とする請求項11に記載の成形体製造方法。
【請求項13】
前記成形体は、ロッドシールおよび/もしくはピストンシール、構造部品(シール機能あり/なし)、掻取り要素、カップリング要素、ギア、軸受、バックアップリング(押出し防止リングを含む)、摩耗バンド、及び/またはガイドであることを特徴とする請求項11に記載の成形体製造方法。
【請求項14】
前記方法は、1箇所の射出点のみを使用する射出成形プロセスであることを特徴とする請求項11に記載の成形体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリケトンをベースとするポリケトンコンパウンド、特に、トライボロジー特性が改善されたポリケトンコンパウンドに関する。さらに本発明は、該ポリケトンコンパウンドの製造方法、成形体、特にシールを製造するための該ポリケトンコンパウンドの使用、および該ポリケトンコンパウンドを含有する成形体に関する。
【0002】
背景技術
脂肪族ポリケトンは、一酸化炭素とα-オレフィンとから生成される線状に構築されたポリマーであり、ポリマー鎖内のモノマー単位は、厳密に交互に配置されている。
【0003】
【化1】
【0004】
このクラスのポリマーは、1940年のWalter Reppeの論文、ならびにDuPontで20世紀の50年代に例えば脂肪族モノオレフィンおよびフッ素化エチレンなどの不飽和物質に一酸化炭素を組み込む共重合について研究したMerlin M. Brubakerの論文(特に、米国特許第2,495,286号明細書)において初めて言及された。脂肪族ポリケトンの大規模工業的な合成は、20世紀最後の30年の間に、Eit Drentの指導のもと、Shell Oil Companyの従業員によって、開発、最適化および特許取得された(特に、米国特許第3,689,460号明細書、米国特許第4,818,810号明細書、米国特許第4,921,937号明細書)。ここで、この重合は、メタノール懸濁液中で、または気相反応により固定化触媒を用いて行うことができる(特に、Drent, E.; Mul, W. P.; Smaardijk, A. A. (2001); Polyketones; Encyclopedia Of Polymer Science and TechnologyおよびBianchini, C. (2002); Alternating copolymerization of carbon monoxide and olefins by single-site metal catalysts; Coord. Chem. Rev. 225: 35-66)。触媒またはその前駆体としては、パラジウム(II)錯体が主に使用される(特に、米国特許第3,689,460号明細書;米国特許第3,694,412号明細書;米国特許第4,818,810号明細書;Sen, A.; Lai, T. W. (1982); “Novel palladium(II)-catalyzed copolymerization of carbon monoxide with olefins”; J. Am. Chem. Soc. 104 (12): 3520-3522;Drent, E.; Budzelaar, P. H. M. (1996); “Palladium-Catalyzed Alternating Copolymerization of Alkenes and Carbon Monoxide”; Chem. Rev. 96 (2): 663-682)。メタノール懸濁液中でのパラジウム触媒作用の機序については、Maurice Brookhart(Rix, F. C.; Brookhart, M.; White, P. S. (1996) “Mechanistic Studies of the Palladium(II)-Catalyzed Copolymerisation of Ethylene with Carbon Monoxide”; J. Am. Chem. Soc. 118 (20): 4746-4764)が、パラジウム(II)フェナントロリン触媒の例について研究を行った。
【0005】
【化2】
【0006】
1996年以降、脂肪族ポリケトンは、ShellよりCarilon(登録商標)の商品名で初めて大量に市販されるようになった。2003年には、韓国のHyosung社が、脂肪族ポリケトンの研究に着手した(特に、米国特許第7,803,897号明細書)。2015年から、Hyosungは、年間50,000トンの製造能力を有する半連続式の設備によって、POKETON(登録商標)という商品名で脂肪族ポリケトンを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第2,495,286号明細書
【文献】米国特許第3,689,460号明細書
【文献】米国特許第4,818,810号明細書
【文献】米国特許第4,921,937号明細書
【文献】米国特許第3,694,412号明細書
【文献】米国特許第7,803,897号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Drent, E.; Mul, W. P.; Smaardijk, A. A. (2001); Polyketones; Encyclopedia Of Polymer Science and Technology
【文献】Bianchini, C. (2002); Alternating copolymerization of carbon monoxide and olefins by single-site metal catalysts; Coord. Chem. Rev. 225: 35-66
【文献】Sen, A.; Lai, T. W. (1982); “Novel palladium(II)-catalyzed copolymerization of carbon monoxide with olefins”; J. Am. Chem. Soc. 104 (12): 3520-3522
【文献】Drent, E.; Budzelaar, P. H. M. (1996); “Palladium-Catalyzed Alternating Copolymerization of Alkenes and Carbon Monoxide”; Chem. Rev. 96 (2): 663-682
【文献】Rix, F. C.; Brookhart, M.; White, P. S. (1996) “Mechanistic Studies of the Palladium(II)-Catalyzed Copolymerisation of Ethylene with Carbon Monoxide”; J. Am. Chem. Soc. 118 (20): 4746-4764
【0009】
今日では、Hyosungは、一酸化炭素およびエチレンのみから製造される古典的なポリケトンコポリマーの代わりに、ほぼポリケトンターポリマーのみを製造している(図解1)。このポリケトンターポリマーは、一酸化炭素と、エチレンと、好ましくは少量のプロピレンとから製造される。
【0010】
【化3】
【0011】
場合によって、例えば1-ブチレンなどのより長鎖のα-オレフィンもターモノマーとして使用される。
【0012】
コポリマーの代わりにターポリマーを使用する理由は、ターポリマーの著しく低減された脆性にある。欠落率(モノマー単位100万個あたりの欠落については以下を参照:Rix, F. C.; Brookhart, M.; White, P. S. (1996) “Mechanistic Studies of the Palladium(II)-Catalyzed Copolymerisation of Ethylene with Carbon Monoxide”; J. Am. Chem. Soc. 118 (20): 4746-4764)が非常に低いその厳密に交互に構築されたポリマー鎖および多数の極性ケト基ゆえに、一酸化炭素とエチレンとからなるポリケトンコポリマーは、高結晶性であり、非常に硬質であるが、しかし非常に脆くもあり、ポリマー材料としてのその用途の可能性が著しく限られている。合成中に少量のプロピレン(約5%)を添加することによって、結晶性を乱し、融点を255℃(一酸化炭素とエチレンとのコポリマー)から220℃(ターポリマー)に低下させて、脆くない非常に靭性の高いポリマーを得ることに成功している。
【0013】
脂肪族ポリケトンターポリマーは、約30%の結晶化度を有し、例えばポリアミドとは対照的に水分の影響をほとんど受けない優れた機械的特性を特徴とする。未改質ポリケトンの引張弾性率は、ISO 527-1/2に準拠して、約1400~1500MPaである。ISO 527-1/2によると、その降伏伸びは、約25%であり、これらは、他のエンジニアリングプラスチックと比較して、塑性変形なく降伏点までより多くの変形サイクルに耐えることができる。さらに、これらは、広い温度範囲にわたって延性挙動を示し、ここで、300%超の破断時伸びを達成することができる。ISO 179-1/1eU規格に準拠した未充填の未改質ポリケトンターポリマーのシャルピー衝撃強さが非常に高いので、23℃および-30℃のどちらでも破断は起こらない。ISO 179-1/1eA規格に準拠したノッチ付きシャルピー衝撃強さは、ポリマー鎖の長さに応じて、23℃の温度で10~15KJ/m2であり、-30℃の温度で3.5~4.5KJ/m2である。
【0014】
さらに、脂肪族ポリケトンは、特に例えば脂肪族または芳香族炭化水素などの非極性溶媒に対して、優れた耐薬品性を有する。脂肪族ポリケトンは、水または希釈した塩基および酸に対しても、非常に優れた耐久性を有する。25日の期間にわたる80℃の水中での貯蔵試験では、例えば、2.5重量%の重量増加および1.3MPaの降伏応力増加しか示されなかった。25日の期間にわたる80℃の1%の塩酸または1%の水酸化ナトリウム溶液中での貯蔵でも、機械的特性値は悪化しなかった。経時的に脂肪族ポリケトンの分解を引き起こし得るのは、強酸または強塩基のみである。
【0015】
Hyosungの脂肪族ポリケトンは、様々なコンパウンディング業者によってさらに改良され、例えば、AKROTEK(登録商標)PK(AKRO-PLASTIC GmbH社)、Schulaketon(登録商標)(A. Schulman GmbH社)、WITCOM PK (Witcom Engineering Plastics B.V.社)、またはSUSTAKON(登録商標)(Roechling Sustaplast SE & Co. KG社)などの様々な商品名で市販されている。特定の添加剤を用いてコンパウンディングすることによって、脂肪族ポリケトンの選択された特性をさらに改善または変更することができる。例えば、ここでは、(例えば、市販品であるAKROTEK(登録商標)PK-VM GF15、AKROTEK(登録商標)PK-VM GF30、AKROTEK(登録商標)PK-VM GF50、Schulaketon(登録商標)GF15、Schulaketon(登録商標)GF30、Ketoprix(商標)EKT33G2P、Ketoprix(商標)EKT33G2Pなどにおける)ショートカットガラス繊維によるポリマーの強化、または(例えば、市販品であるAKROTEK(登録商標)PK-HM CF12 schwarz、TECACOMP(登録商標)PK TRM CF20 blackなどにおける)ショートカット炭素繊維によるポリマーの強化、および(例えば、市販品であるAKROTEK(登録商標)PK-VM GF20 FR schwarz、Schulaketon(登録商標)HV 4DEなどにおける)難燃性仕上げを挙げることができる。
【0016】
脂肪族ポリケトンのトライボロジー特性も同様に良好であり、それによって、この脂肪族ポリケトンは、特にシール用途に有益なものとなっている。例えば、汎用トライボメータ(ピン・プレート、プレート:100Cr6、荷重:2.5MPa、ストローク:1.8mm、Ra=0.42、摺動:46Hz)でのリューベック専門大学による試験では、60g/10分のMVRの脂肪族ポリケトンが、0.33の摩擦係数および0.8×106mm3/Nmの比摩耗率を有することが示された。しかしながら、例えば特定のシールに必要とされるようなトライボロジー特性に対する高い要求を満たし得るためには、しばしばトライボロジー添加剤も使用しなくてはならない。これらの添加剤は、使用時に、長時間にわたって転がり接触または滑り接触における大きな力の作用に耐え得る分離膜をポリマー表面と対向滑り面との間に形成する。ここで、市販品、例えば、AKROTEK(登録商標)PK-VM TM、AKROTEK(登録商標)PK-HM TM、TECACOMP(登録商標)PK TRM TF10、Witcom PK/3L1、およびWitcom PK-3L3では、ほぼPTFE粉末またはPTFE粉末/シリコーン油の組み合わせしか存在しない。
【0017】
脂肪族ポリケトン(コポリマーおよびターポリマーの双方)のもう1つの大きな利点は、熱可塑加工が可能であることである。
【0018】
こうした背景から、脂肪族ポリケトンをシールに使用することが望ましいと考えられる。なぜならば、脂肪族ポリケトンは、その硬度にもかかわらず、なおも一定の弾性および高い押出し抵抗、ならびに良好なトライボロジー特性を有するからである。脂肪族ポリケトンは、例えば、ロッドシール、ピストンシール、およびワイパーなどの回転対称の要素に特に有益であり、ここで特に、PTFE、PTFEブロンズ、およびPTFEガラス繊維製のロッドシールおよびピストンシールの可能な代替品として有益であり得る。なぜならば、これらは、以下により詳細に説明するように、射出成形プロセスでの形成が不可能であるからである。ここで、PTFE、PTFEブロンズ、またはPTFEガラス繊維を射出成形可能な脂肪族ポリケトンへと材料変更することは、製造プロセス、製造時間、および製造コストに関して、大きな利点を意味するものと考えられる。ロッドシールは、主に空気圧シリンダおよび油圧シリンダにおいて使用され、出入りするシリンダロッドをシールする役割を果たす。目的は、加圧された作動媒体がシリンダから出るのを防ぐことである。同時に、これを外部の汚染物から保護する必要がある(ワイパー)。他方で、ピストンシールには、ピストンをシリンダバレルに対してシールし、効率的かつ最小限の摩擦でその動きを確実にする役割がある。
【0019】
現在、ロッドシールおよびピストンシールはどちらも、多くの場合、PTFE、PTFEブロンズコンパウンド、またはPTFEガラス繊維コンパウンドから製造されている。なぜならば、これらの材料は、低い摩擦を生じさせ、スティックスリップのない作動を可能にするからである。しかしながら、PTFEシールは、その弾性率が比較的高いので、ロッド表面またはピストン表面と溝底部との間で全体を半径方向に押すことができない。まずシールを広げることによってその押付けを生じさせ、次いでエラストマーシール(通常はOリング)によってさらに強化する必要がある。さらに、テンションリング、押付け要素、またはエナジャイザーとしばしば称されるOリングは、二次シールとしても機能する。PTFEシールリングは、大きな押出し抵抗を有するので、サポートリングなしで高圧でも使用することができる。
【0020】
PTFEおよび変性PTFEは、熱可塑性樹脂ではあるものの、分子量が非常に大きく、かつ溶融粘度が高いので、他の熱可塑性樹脂のように溶融物から加工することはできず、様々なプレス技術および焼結技術によってしか加工することができない。したがって、PTFEまたはPTFEコンパウンド製のシールは、以下のプロセスによって手間をかけて製造される。粉末状のポリマーを室温でプレスして、「グリーン体」とも称されるプリフォームとする。その際、ばらの粉末充填物を押し固めて、特定のプレス圧で圧縮する。最大プレス圧は、粉末の性質に応じて異なり、例えば、非自由流動性のS-PTFEタイプの場合の150barからPTFEコンパウンドの場合の800barまでの範囲にあり得る。通常、プレス工程は、ゆっくりと、均等に、かつ中断することなく行われる。最大圧力に達した後に、この圧力を一定時間(圧力保持時間)にわたって維持して、粒子の流動を可能にし、かつ内部応力ピークまたは不規則性を低減する必要がある。ゆっくりと放圧した後に、この圧縮物を、さらなる脱気または応力補償を可能にすべく、理想的には一定期間にわたって応力なしの状態で貯蔵する。プレス後に、圧縮物を、所定の焼結サイクルにかける。その際、圧縮物に適合した所定の加熱を行い、最後に、調節された焼結炉内にて、最大温度370~380℃で、時間を制御して焼結を行う。約342℃の結晶化融点を上回った後に、PTFEはアモルファス状態に移行し、その際、事前に圧縮した粉末粒子はまとまって焼結して、均質な組織になる。特に、比較的大きなプレス部品の場合、材料の体積が不相応に増加し、場合によっては大きな応力が生じるおそれがあるので、ゆっくりと溶融温度範囲を通過させることが推奨される。融点/ゲル化点に到達していても、またはこれらを上回っていても、プレス部品の焼結は、分子量が高いためにPTFEのゲル安定性が非常に高いので、いわゆる「金型なし」で行われる。
【0021】
PTFEまたはPTFEコンパウンド、例えばPTFEブロンズなどからシールを製造することについての前述の説明から、製造の手間が非常に多く、かつ高コストに繋がることが分かる。
【0022】
したがって、回転対称のシール、特にロッドシールおよびピストンシールに脂肪族ポリケトンを使用することができれば、非常に有利であり得る。なぜならば、脂肪族ポリケトンは、優れた機械的特性を有し、通常使用されるPTFEまたはPTFEコンパウンドとは対照的に、射出成形プロセスでの加工が可能なためである。
【0023】
しかしながら、実際の試験において、これはさほど容易には可能でないことが判明した。すなわち、回転対称のシールの重要な基準は、以下に示すように、そのウェルドライン強度である。脂肪族ポリケトン/PTFEコンパウンドから製造されたロッドシールおよびピストンシールは、PTFE、PTFEブロンズ、またはPTFEガラス繊維製のロッドシールおよびピストンシールと同等のトライボロジー特性を有し、かつ同等の漏れ値をもたらすが、これらは、ウェルドライン強度が低いことを理由に、ロッドシールもしくはピストンシールまたは同様の回転対称のシールとしての使用には適していない。
【0024】
熱可塑性材料を使用する場合、回転対称のシールは、通常、プラスチック射出成形プロセスによって製造される。そのような回転対称のキャビティを埋めるには、複数の手段、例えば、A)リング注入部(Ringangusse(uはウムラウト付))もしくはシールド注入部(Schirm-Angusse(uはウムラウト付))、B)ポイントゲートもしくはトンネルゲート、またはC)ホットランナーシステムがある。
【0025】
シールド注入部またはリング注入部(A)には、注入部のジオメトリを後続の作業過程で本来のリング形状の製品から切り離す必要があるという欠点があり、これには、相応するコストが生じる。したがって、これらの注入部変形例は、多くの場合、効率的な製造のためには例外的にしか使用されない。
【0026】
より新しくかつコスト面で都合の良い製造変形例としては、ポイントゲートまたはトンネルゲート(B)(ゲート=注入部)が確立されている。ここで、プラスチックは、通常、唯一の射出点を経由してキャビティに入ることができる。そのように製造された製品は、すでに射出成形機からの排出時に注入部のジオメトリから切り離されるので、通常、後処理は不要である(そのまま使用可能である)。注入部は、いわばそれ自体が自身をせん断する。
【0027】
しかしながら、そのような横方向に射出された製品は、多くの場合、射出点の反対側に、いわゆる合流箇所(ウェルドライン)、すなわちメルトフロントが合流する箇所を有する。このウェルドラインは、強度の弱い箇所であり、プラスチック製品において所定の破断点を招き得る。製品がウェルドラインでどの程度良好に保持されるかは、例えば、射出圧力、溶融物温度、および金型温度などの要因のみならず、材料の選択および添加剤の影響によっても決まる。
【0028】
実際の試験において、射出成形されたシールの場合、例えば、AKROTEK(登録商標)PK-VM TM、TECACOMP(登録商標)PK TRM TF10、Witcom PK/3L1、およびWitcom PK-3L3などの市販のPTFE充填ポリケトンコンパウンドによって、ウェルドライン強度が著しく低下し、そのため、構造部材が、すでにわずかな力の作用のもとウェルドラインで破断し、したがってポイントゲートまたはトンネルゲートプロセスにさほど適していないことが判明した。さらに、適用試験において、例えばAKROTEK(登録商標)PK-VM TMなどのPTFE充填ポリケトンコンパウンドから射出成形されたロッドシールは、シリンダに組み込む際に、取付用ペンチを用いて剛性のシールを大幅に変形させる必要があるので、ウェルドラインで破断することが判明した。
【0029】
市販のTribo-PKコンパウンドから製造されたロッドシールの場合、この変形によって、ウェルドラインで破断が生じる。
【0030】
発明の概要
したがって、本発明は、射出成形で加工可能であり、かつ高いウェルドライン強度を特徴とするポリケトンコンパウンドを提供することを課題とする。さらに、該ポリケトンコンパウンドは、シール用途に必要とされる良好なトライボロジー特性および高い押出し抵抗を示すことが望ましい。
【0031】
この課題は、90.0~98.0重量%の脂肪族ポリケトンと2.0~10.0重量%の超高分子量ポリエチレンとを含み、前記脂肪族ポリケトンは、摂氏210~230度の融点、60000~100000の数平均分子量および/または132000~320000の重量平均分子量、2.2~3.2の多分散度を有し、前記超高分子量ポリエチレンは、100万g/mol超の分子量及び10~300μmの平均粒径を有するものである脂肪族ポリケトンコンパウンドによって解決される。
【0032】
本発明によれば、「コンパウンド」という用語は、従来的な意味で、互いにブレンドできない少なくとも2つのポリマーを含有するプラスチックであると理解されるか、あるいはポリマーに加えて、充填剤、強化材料、またはポリマーと多相系を形成する他の添加剤、例えばトライボロジー添加剤を含有するプラスチックであると理解される。ここで、本発明によるポリケトンコンパウンドは、脂肪族ポリケトンおよび超高分子量ポリエチレンと一緒に、互いにブレンドできない少なくとも2つのポリマーを含有する。
【0033】
これとは対照的に、ブレンドとは、物理的に混合(混和)された2つ以上のポリマーから構成される組み合わせを示す。均質なブレンドは、単一の相を有する。不均質なブレンドは、少なくとも2つの相を有する。均質なブレンドは、個別のポリマーの特性を示さなくなり、場合によって元のポリマーの特性とは著しく異なり得る独自の新しい特性を有する(Kulshreshtha, A. K. (2002) “Handbuch zu Polymermischungen und Verbundstoffen (Vol.1)”, iSmithers Rapra PublishingまたはSperling, L.H. (2005) “Einfuehrung in die physikalische Polymerwissenschaft”, John Wiley & Sonsを参照)。
【0034】
本発明によれば、脂肪族ポリケトンに0.5~15重量%の超高分子量ポリエチレンを混入させることによって、摩擦および摩耗に関するそれらのトライボロジー特性を、これらが、市販の摩擦改質されたポリケトンコンパウンドのトライボロジー特性と同等であり、それでいて、同時に著しくより良好なウェルドライン強度および高い押出し抵抗を有するように、改善することができる。
【0035】
先に説明したように、PTFEで摩擦改質された市販の脂肪族ポリケトンコンパウンドと比較して改善された本発明によるポリケトンコンパウンドのウェルドライン強度は、これによって、例えば、1箇所の射出点しか使用されない射出成形プロセスの最新かつコスト面で都合の良い変法でシールを製造することが可能になるので、非常に有利である。ここで得られる製品は、高い押出し抵抗を特徴とする。この高い押出し抵抗は、動的なシール用途に特に有利である。なぜならば、これがなければ、シールの使用期間にわたって押出しフラグ(Extrusionsfahnen)が形成され、それによって、漏れまたはシールの早期故障が生じる可能性があるからである。同時に、本発明による脂肪族ポリケトンコンパウンドは、PTFEのもの、PTFE/ブロンズコンパウンドのもの、またはPTFEで摩擦改質された市販のポリケトンコンパウンドのものとおよそ同等の滑り特性およびトライボロジー特性を有する。驚くべきことに、20重量%のPTFEが充填された脂肪族ポリケトンの滑り特性およびトライボロジー特性に匹敵するには、それぞれポリケトンコンパウンドの総重量を基準として、0.5~15重量%、さらにより好ましくは2.0~8.0重量%、特に5.0~7.5重量%の超高分子量ポリエチレンですでに十分であると判明した。さらに、本発明の脂肪族ポリケトンコンパウンドが、例えば、取り付けペンチを用いてピストン空間に剛性ピストンシールを組み込む場合などに生じる変形荷重を受けても破断しないのに対し、20重量%のPTFEで改質された市販のポリケトンコンパウンドから構成された同じ構造のシールが、組み込み試験の75~90%においてウェルドラインで破断することは驚くべきことであった。ウェルドライン強度の改善は、おそらく、トライボロジー添加剤の割合が5~19.5重量%、好ましくは12~18重量%、特に12.5~15重量%ほど低いことによって説明することができる。1箇所の射出点のみでシールを射出成形する場合、射出プロセス中に、どちらかといえば無極性のトライボロジー添加剤が、極性ポリケトンと金型壁との間の界面に移動すると考えられる。したがって、2つのフローフロントが合流するウェルドラインの領域には、これらの添加剤が特に高濃度で存在し、20重量%のPTFEで改質された市販のポリケトンコンパウンドの場合には、接着の問題が生じ、ひいては後でウェルドラインが破断する。含有する超高分子量ポリエチレンが15重量%未満である本発明によるポリケトンコンパウンドは、添加剤の割合がより少ないので、この問題を示さない。
【0036】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、本発明による脂肪族ポリケトンは、トライボロジー添加剤、すなわち超高分子量ポリエチレンと、必要に応じて存在するさらなるトライボロジー添加剤、例えば、シリコーン油、PTFE粉末、グラファイト、硫化モリブデン、窒化ホウ素との総割合が、20重量%未満、好ましくは5重量%未満、特に2.5重量%未満である。とはいうものの、先に記載の添加剤は、例えば、0.1重量%~19.5重量%の量で存在し得る。
【0037】
本発明によれば、超高分子量ポリエチレン(超高分子量ポリエチレンは、しばしばUHMWPEと省略される)とは、ウベローデ粘度計を用いて測定(140℃でデカヒドロナフタレン中の希釈溶液)した場合に、100万g/mol超、好ましくは300万~700万g/mol、特に300万~500万g/molの分子量を有するポリエチレンであると理解される。この高分子量ゆえに、超高分子量ポリエチレンは溶融しない。これは、例えばLD-PEまたはHD-PEなどの溶融性プラスチックと比較して有利である。なぜならば、UHMWPEは、脂肪族ポリケトン溶融物に入れてコンパウンディングする際に、それ自体は溶融せずに固体粒子の形態でポリマーマトリックス中に存在し続けるからである。UHMWPE粒子は無極性であるので、極性の脂肪族ポリケトンマトリックスと非相溶性であり、したがって界面に蓄積する。それによって、ポリケトンコンパウンドは、一方では摩擦抵抗を低減し他方では材料の摩耗を低減する耐摩耗性粒子をその表面に有する。
【0038】
UHMWPEとは対照的に、LD-PEおよびHD-PEは、約110℃または約135℃の溶融範囲を有する溶融性ポリエチレンであり、これらは、脂肪族ポリケトン溶融物に混入させると完全に溶融し、ポリマーマトリックス中に分配され、その際にブレンドを形成する(例えば、独国特許第69513864号明細書翻訳文(DE69513864T2)、国際公開第96/06889号に記載されている)。この場合、完成した材料ブレンド中にはPEの離散粒子は存在しないので、先の段落において固体UHMWPE粒子によって挙げられた利点を達成することはできない。
【0039】
さらに、UHMWPEは、分子量が著しくより高く、かつそれに付随して分子間相互作用がより大きいので、LD-PEおよびHD-PEよりも著しく良好な耐摩耗性および耐衝撃性を有する。
【0040】
超高分子量ポリエチレンは、メタロセン触媒合成によってモノマーエチレンから得ることができ、通常、100,000~250,000個のモノマー単位からなるポリマー鎖が生じる。したがって、本発明によれば、100,000~250,000個のモノマー単位からなるポリマー鎖を有する超高分子量ポリエチレンが好ましい。
【0041】
好ましくは、超高分子量ポリエチレンの平均粒径は、10μm~300μmの範囲、さらにより好ましくは20μm~50μmの範囲、特に38μmである。さらなる好ましい実施形態では、超高分子量ポリエチレンの粒子は、75μmよりも小さい。例えば、ポリエチレンのD50値は、好ましくは75μm未満であり、かつ/またはD95は、好ましくは75μm未満である。超高分子量ポリエチレンの比重は、好ましくは0.93~0.94g/cm3である。かさ密度は、好ましくは0.3~0.6g/cm3、より好ましくは0.32~0.5g/cm3である。分子量は、好ましくは300万~700万g/mol、さらにより好ましくは300万~500万g/molである。
【0042】
本発明によれば、脂肪族ポリケトンおよび超高分子量ポリエチレンは、本発明による脂肪族ポリケトンコンパウンドの主成分である。ここで、本発明によれば、ポリケトンコンパウンド中の脂肪族ポリケトンの割合は、それぞれポリケトンコンパウンドの総重量を基準として、85.0~99.5重量%、好ましくは90.0~99.5重量%、さらにより好ましくは92.0~98.0%の重量%、特に92.5~95.0重量%である。さらに、本発明によれば、ポリケトンコンパウンド中の超高分子量ポリエチレンの割合は、それぞれポリケトンコンパウンドの総重量を基準として、0.5~15重量%、好ましくは0.5~10重量%、さらにより好ましくは2.0~8.0重量%、特に5.0~7.5重量%である。
【0043】
本発明の好ましい実施形態では、脂肪族ポリケトンは、0.1重量%~2.0重量%、特に0.5重量%~1.5重量%の割合のさらなるトライボロジー添加剤、例えばシリコーン油を有する。
【0044】
本発明の好ましい実施形態では、脂肪族ポリケトンは、DIN EN 11357-1の方法に従って測定した場合に、210~230℃、特に220~222℃の融点を有する。ガラス転移点は、5℃~20℃、好ましくは10℃~15℃、特に11℃~13℃の範囲にある。脂肪族ポリケトンの密度は、ISO 1183の方法に従って測定した場合に、好ましくは1.1~1.3g/cm3の範囲、特に1.24g/cm3である。脂肪族ポリケトンの吸水率は、ISO 1110の方法に従って測定した場合に、70℃および相対湿度62%で、0.3~1.2%、特に0.8~0.9%である。そのMVRは、ISO 1133の方法に従って測定した場合に、240℃および試験重量2.16kgで、好ましくは2~80cm3/10分の範囲、特に6~60cm3/10分の範囲にある。
【0045】
本発明の好ましい実施形態では、脂肪族ポリケトンは、好ましくは、エチレンと、一酸化炭素と、3~5個の炭素原子を有するアルケン、好ましくはプロピレンおよび/またはブチレン、特にプロピレンとから生成されたターポリマーである。ここで、一酸化炭素およびオレフィンは、ポリマー鎖において厳密に交互に配置されることが好ましい。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、脂肪族ポリケトンは、分子量平均値である60000~100000のMn(数平均分子量)および/または132000~320000のMw(重量平均分子量)を有する。ここで、多分散度は、好ましくは2.2~3.2にある。
【0047】
本発明によるポリケトンコンパウンドは、シリコーン油および他の液体潤滑剤または固体潤滑剤を含有していてもよい。さらに、組成物の特性を改善または別の様式で変更するために、特に、老化防止剤、充填剤、難燃剤、および顔料などのさらなる一般的なポリマー添加剤、ならびに他のポリマー材料が含有されていてもよい。例えばシリコーン油などの液体潤滑剤の含有量は、好ましくは0.0~2.0重量%、特に好ましくは0.0~1.5重量%、特に0.0~1.0重量%である。
【0048】
本発明の好ましい実施形態では、脂肪族ポリケトンコンパウンドは、ルイス試験台上で、速度v=0.84m/s、圧力p=0.84MPa、かつ無潤滑状態で測定した場合に、0.1~0.4、さらにより好ましくは0.1~0.3、特に0.1~0.25の摩擦係数μを有する。さらに、本発明の好ましい実施形態では、脂肪族ポリケトンコンパウンドは、ルイス試験台上で、速度v=0.84m/s、圧力p=0.84MPa、かつ無潤滑状態で測定した場合に、1×10-7~1×10-4mm3/Nm、さらにより好ましくは1×10-7~1×10-5mm3/Nmの平均比摩耗量を有する。
【0049】
さらに、本発明による脂肪族ポリケトンコンパウンドは、好ましくは、DIN EN ISO 527-2/1A/50に従って測定した場合に、1600MPa~1850MPaの引張弾性率を有し、DIN EN ISO 527-2/1A/50に従って測定した場合に、55MPa~65MPaの引張強度を有し、かつ/またはDIN EN ISO 527-2/1A/50に従って測定した場合に、20%~40%の破断時伸びを有する。
【0050】
さらに、本発明による脂肪族ポリケトンコンパウンドは、実施例2に記載のようなトライボロジー試験において、好ましくは、試験の全期間にわたってμ=0.38~0.42の摩擦係数、「定常状態」にわたってμ=0.38~0.40の摩擦係数、試験の全期間にわたって10×10-6~20×10-6の比摩耗量、および/または「定常状態」にわたって2×10-6~5×10-6の比摩耗量を有する。
【0051】
本発明のさらなる対象は、99.5~85.0重量%の脂肪族ポリケトンと0.5~15重量%の超高分子量ポリエチレンとを混合するステップ、さらにより好ましくは98.0~92.0重量%の脂肪族ポリケトンと2.0~8.0重量%の超高分子量ポリエチレンとを混合するステップ、特に95.0~92.5重量%の脂肪族ポリケトンと5.0~7.5重量%の超高分子量ポリエチレンとを混合するステップを含む、脂肪族ポリケトンコンパウンドの製造方法である。ここで、重量のデータは、脂肪族ポリケトンコンパウンドの総重量を基準とする。
【0052】
脂肪族ポリケトンコンパウンドの各成分を、好ましくは押出技術を用いて混合する。ここで、押出機としては、好ましくは、同方向回転二軸押出機のみならず、異方向回転二軸押出機、遊星ローラ押出機、および連続混練機も使用される。単軸押出機は、どちらかというと運搬に適しており、コンパウンディングには適していないので、本発明による脂肪族ポリケトンコンパウンドの製造にはさほど適していない。一実施形態では、脂肪族ポリケトンを、70℃~90℃で4時間の期間にわたって予め乾燥させ、続いて、フィーダー、好ましくは重量分析フィーダーによって二軸押出機に供給する。ここで、導入ゾーンの温度は、好ましくは50℃~100℃の範囲にあり、押出機ゾーンの温度は、好ましくは225℃~254℃である。超高分子量ポリエチレンを、好ましくは、さらなるフィーダー、好ましくは重量分析フィーダーを介してポリマー溶融物に供給する。押出機のダイから出た後に、ロッドを、好ましくはコンベヤベルトに載置し、水および/または空気によって冷却し、それから下流の造粒機で粉砕する。製造した造粒体を乾燥させて、冷却プロセスによって導入された水分を除去することが有利である。
【0053】
本発明によれば、脂肪族ポリケトンおよび超高分子量ポリエチレンを、これらが脂肪族ポリケトンコンパウンドの主成分をなすような量的比率で、互いに、かつ場合によって存在するさらなる成分と混合する。ポリケトンを、好ましくは99.5~90.0重量%、さらにより好ましくは98.0~92.0重量%、特に95.0~92.5重量%の量でコンパウンドに供給する。さらに、超高分子量ポリエチレンを、好ましくは0.5~10.0重量%、さらにより好ましくは2.0~8.0重量%、特に5.0~7.5重量%の量でコンパウンドに供給する。超高分子量ポリエチレンの量が10重量%未満であると、押出機のダイの閉塞を特に容易に防止することができるので有利である。
【0054】
すなわち、超高分子量ポリエチレンは、凝集して押出機のダイの領域に集まり、これを閉塞させる傾向がある。しかしながら、10重量%超の超高分子量ポリエチレンを有するコンパウンドを、同様に先に記載のプロセスを使用して、特に少ないバッチで製造することは可能である。ただし、UHMWPEの凝集およびそれに付随する押出機のダイの閉塞ゆえ、連続的な製造のための特別な技術的措置を講じることが有利である。
【0055】
本発明による脂肪族ポリケトンコンパウンドは、例えば、押出成形、圧縮成形、および射出成形などの従来の成形プロセスによって様々な製品に加工することができ、これらの製品は、良好なトライボロジー特性を必要とする用途に特に適している。
【0056】
本発明のさらなる対象は、本発明のポリケトンコンパウンドを含有する、成形体、好ましくは回転対称の成形体、特に、ロッドシールおよび/もしくはピストンシールなどのシール、構造部品(シール機能あり/なし)、掻取り要素、カップリング要素、バックアップリング(押出し防止リング)、摩耗バンド、ならびに/またはガイドである。
【0057】
好ましい実施形態では、成形体は、実施例2に記載のように、曲げ試験において120N超のウェルドライン強度を有する。さらに、成形体は、実施例2に記載のように、最大クロスヘッド距離(43.31mm)での曲げ試験において、好ましいことにウェルドラインで破断しない。
【0058】
本発明による脂肪族ポリケトンコンパウンドは、射出成形プロセスによって、特に1箇所の射出点、例えばポイントゲートまたはトンネルゲートのみを使用する射出成形プロセスによって製造される成形体に特に適している。
【0059】
さらに本発明は、成形品、好ましくは回転対称性の成形体、特に、ロッドシールおよび/もしくはピストンシールなどのシール、構造部品(シール機能あり/なし)、掻取り要素、カップリング要素、ギア、軸受、バックアップリング、特に押出し防止リング、摩耗バンド、ならびに/またはガイドを製造するための本発明による脂肪族ポリケトンコンパウンドの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】ウェルドライン強度を評価するために、実施例1で製造したコンパウンドから、1箇所の射出点のみを有する射出成形プロセスで5個のロッドシールを製造する際に従った形状を示す図である。
図2】本発明によるコンパウンド製のロッドシールを実用途に近い条件下で油圧試験台上で複数回試験した際の試験台の概略図である。
【0061】
本発明を、実施例によって以下により詳細に説明する。
【0062】
実施例1:本発明によるポリケトンコンパウンドの製造
脂肪族ポリケトンを供給するためのBASIC 401タイプの固体フィーダー(SCHOLZ Dosiertechnik GmbH社)と、超高分子量ポリエチレンを供給するためのBASIC 300タイプの固体フィーダー(SCHOLZ Dosiertechnik GmbH社)と、ロッドを載置するためのコンベヤベルトと、載置したポリマーロッドを冷却するための水冷却部と、載置したロッドを粉砕するためのPRIMO 60Eタイプの下流の造粒機(Maag Automatik GmbH社)とを備えるZSE 27 iMAXXタイプの27mm二軸押出機(Leistritz社)(軸直径:28.3mm、フライト深さ:5.6mm(遊びなし)、Da/Di=1.66、最大トルク:256Nm、軸回転数:600~1200rpm)において、本発明によるトライボロジー改質されたポリケトンコンパウンドを製造した。
【0063】
脂肪族ポリケトンとしては、AKRO-PLASTIC GmbH社のAKROTEK(登録商標)PK-VM natur(4774)を使用した。AKROTEK(登録商標)PK-VM natur(4774)は、流動性の高い非強化ポリケトンタイプである。その融点は、DIN EN 11357-1の方法に従って測定した場合に、220℃であり、その密度は、ISO 1183の方法に従って測定した場合に、1.24g/cm3であり、その吸水率は、ISO 1110の方法に従って測定した場合に、70℃および相対湿度62%で、0.8~0.9%であり、そのMVRは、ISO 1133の方法に従って測定した場合に、60cm3/10分である。
【0064】
超高分子量ポリエチレンとしては、Nordmann Rassmann社のINHANCE UH-1700を使用した。UHMWPE粒子の平均粒径は38μmであり、すべての粒子が75μmよりも小さい。INHANCE UH-1700は、周囲のポリマーにおけるそのより良好な分散性およびより良好な接着性を可能にするために表面処理された粒子を有するUHMWPEタイプである。この材料は、0.93~0.94g/cm3の比重、0.32~0.5g/cm3のかさ密度、および300万~500万g/molの分子量を有する。
【0065】
脂肪族ポリケトンを、BASIC 401タイプの固体フィーダーによって押出機の充填ゾーンに送った。充填ゾーンの温度を、50℃に設定した。押出機の12箇所の加熱ゾーンを、230℃~245℃の範囲の温度に設定した。ダイの温度は230℃であった。ポリマーの材料温度を測定したところ、238℃であった。材料の総スループットは、19.97kg/hであった。AKROTEK(登録商標)PK-VMのスループットは18.97kg/hであり、Inhance UH-1700のスループットは1.0kg/hであった。完成したコンパウンドを、単孔ダイを介してコンベヤベルトに排出し、噴霧水で冷却し、造粒機に供給した。造粒体は、水での冷却によって残留水分がなおも多く付着しているので、80℃で30~45分にわたって乾燥させた。
【0066】
コンパウンドを射出して試験片とする前に、造粒体を80℃で4時間にわたって再び乾燥させた。
【0067】
実施例2:実施例1で得られたポリケトンコンパウンドの機械的試験およびトライボロジー試験
機械的試験およびトライボロジー試験用の試験片を、Arburg GmbH & Co. KG社の320C 600-100 Allrounderタイプの射出成形機で製造した。射出成形金型としては、Axxicon Moulds社のAIM(商標)Quick Change Moldを使用した。機械的試験用のS1A引張棒およびトライボロジー試験用のルイス試験片を製造した。
【0068】
このコンパウンドについて、引張弾性率が、DIN EN ISO 527-2/1A/50に従って測定した場合に、1725±10MPaであり、引張強度が、DIN EN ISO 527-2/1A/50に従って測定した場合に、58.7±0.2MPaであり、破断時伸びが、DIN EN ISO 527-2/1A/50に従って測定した場合に、28.2±7.1%であることが機械的試験から判明した。
【0069】
トライボロジー試験をLewis Research Inc.社のLRI-1a-タイプのルイス試験台上で実施した。対向滑り面としては、化学組成100Cr6のD2鋼/52100を用いた。無潤滑状態で試験を実施した。速度は、v=0.84m/sであり、接触圧力pは、0.84MPaであった。どちらのパラメーターも、連続作動時に温度が54℃~58℃になるように選択した。このコンパウンドは、これらの試験条件下で、試験の全期間にわたってμ=0.275の摩擦係数、「定常状態」にわたってμ=0.269の摩擦係数、試験の全期間にわたって6.556×10-6の比摩耗量、および「定常状態」にわたって1.862×10-6の比摩耗量を示した。本発明によるコンパウンドとの比較のために、PTFEで改質されたAKROTEK(登録商標)PK-VM TMおよび未改質のAKROTEK(登録商標)PK-VMを測定した。未改質のAKROTEK(登録商標)PK-VMは、同様の試験条件下で、試験の全期間にわたってμ=0.412の摩擦係数、「定常状態」にわたってμ=0.390の摩擦係数、試験の全期間にわたって15.641×10-6の比摩耗量、および「定常状態」にわたって3.814×10-6の比摩耗量を示した。トライボロジー改質されたAKROTEK(登録商標)PK-VM TMは、同様の試験条件下で、試験の全期間にわたってμ=0.221の摩擦係数、「定常状態」にわたってμ=0.214の摩擦係数、試験の全期間にわたって2.087×10-6の比摩耗量、および「定常状態」にわたって1.670×10-6の比摩耗量を示した。PTFEで改質されたベンチマークであるAKROTEK(登録商標)PK-VM TMは、PTFE約20重量%で本発明のコンパウンド(トライボロジー添加剤5重量%)よりかなり多くのトライボロジー添加剤を含有するものの、より良好な結果が最低限にしか得られないことが判明した。
【0070】
ウェルドライン強度を評価するために、実施例1で製造したコンパウンドから、図1に示されている形状(1:ロッド直径50mm)に従って、1箇所の射出点のみを有する射出成形プロセスで5個のロッドシールを製造し、続いて、曲げ試験にかけた。ウェルドラインおよび反対側の射出点が水平に整列し、荷重突起物(Druckfinne)(スタンプ直径:25mm)がウェルドラインおよび射出点に対して90°の角度でシールに押し付けられるように、シールを試験装置内にそれぞれ配置した。支持点によって作業を行った。荷重突起物に5Nの予備応力を加え、続いて、これを5mm/分で動かした。最大クロスヘッド距離は、43.3cmであった。実施例1で製造したトライボロジー改質されたポリケトンコンパウンドは、この試験構成において、ウェルドラインで破断を示さなかった。試験した5つのロッドシールすべてにおいて、荷重突起物を最大クロスヘッド距離まで動かしたところ、シールは破断しなかった(表1を参照)。
【0071】
【表1】
【0072】
本発明によるポリケトンコンパウンドとの比較において、約20重量%のPTFEで摩擦改質された市販のポリケトンコンパウンド製のロッドシールを同様の試験条件下で試験した。試験した4つのロッドシールのうち3つが、32.3~35.4mmのクロスヘッド距離および96.7~105.4Nの圧縮力により破断した(表2を参照)。
【0073】
【表2】
【0074】
さらに、現在のベンチマークであるPTFE/ブロンズコンパウンド製のロッドシールに対して、本発明によるコンパウンド製のロッドシールを、実用途に近い条件下で、油圧試験台上で複数回試験した。試験台の概略図は、図2に図示されている。試験台は、以下の構成要素を有する:押出ギャップ(1)、試験シール(2)、ガイド(3)、圧力チャンバー(4)。ロッドの動き(5)は、水平である。試験台の設定は、以下の通りである。
ストローク 400mm
速度 0.3m/秒
圧力 400bar(40MPa)
温度 100℃
試験期間 50,000回のダブルストローク
油 Shell Tellus 46
【0075】
連続使用における漏れおよび押出し安定性を評価した。ここで、PTFE/ブロンズコンパウンドは、約40000回のストローク後に、ギャップ押出により損傷し、その後、漏れが、50000回のストローク後の実施時間の終わりまでに、20滴から90滴へと4倍以上になった。実施例1の説明に従って製造した本発明によるポリケトンコンパウンド製のシールは、50000回のストロークの実施時間全体にわたって押出しに対して安定である(終了まで漏れ約20滴)。
図1
図2