(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒の製造装置
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20230320BHJP
B05C 3/109 20060101ALI20230320BHJP
B05C 7/04 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
B01J37/02 101B
B01J37/02 ZAB
B01J37/02 301D
B05C3/109
B05C7/04
(21)【出願番号】P 2022001520
(22)【出願日】2022-01-07
【審査請求日】2023-02-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】中村 宜央
(72)【発明者】
【氏名】須藤 勝義
(72)【発明者】
【氏名】澤 徹宜
(72)【発明者】
【氏名】津田 浩輔
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-276629(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0128354(US,A1)
【文献】特開2018-153718(JP,A)
【文献】特開2006-224071(JP,A)
【文献】特表2017-532190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B05C 3/109
B05C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状体と、前記筒状体内の中間部に設置され該筒状体の軸方向に各々が伸びた複数の孔を有しているハニカム構造体とを有するハニカム基材に、触媒層を形成するための排ガス浄化用触媒の製造装置であって、
前記ハニカム基材を直立させた状態で保持するホルダと、
塗工液を吐出する吐出口を上端に有し、前記ハニカム基材の下方に位置する前記筒状体の開口部に挿入され前記ハニカム構造体の下面と正対するシリンダと、前記シリンダ内に設置され、該シリンダ内に蓄えられた前記塗工液を上方に押し上げることで前記吐出口から前記塗工液を吐出可能にするピストンとを含む供給装置と
を備え、
前記シリンダの前記上端と前記ハニカム構造体の前記下面との間にクリアランスを有することを特徴とする製造装置。
【請求項2】
前記供給装置は、
前記ピストンが固定された基部と、
前記シリンダに対する下方への相対的な移動が規制され前記ハニカム基材の下端と当接する当接部材と、
前記シリンダを上向きに付勢する付勢部材と
を更に含み、
前記ハニカム基材の下端が前記当接部材に当接し、前記基部を押上げることで前記ピストンが前記シリンダに対して相対的に上昇することを特徴とする請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記シリンダの内部空間は、その上側端部で、上方へ向けて拡径していることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造装置。
【請求項4】
前記ピストンの上面に溝が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の製造装置。
【請求項5】
前記ハニカム基材の上端から前記ハニカム基材内の空気を吸引する吸引装置を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の製造装置。
【請求項6】
前記シリンダ内であって、前記ピストンの上方の空間へ前記塗工液を補充する補充装置と、
前記ピストンを押し上げる昇降装置と
を更に備えたことを特徴とする請求項5に記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、容器と一体化された触媒担体、即ち、触媒コンバータのケースに取り付けられたハニカム基材をスラリーでコートする方法が記載されている。この方法では、先ず、容器と一体化された触媒担体の下端面に、垂直方向へ伸びたスラリー通路を有する下座を当接させる。次に、スラリー通路を介して触媒担体の貫通孔内へスラリーを供給するとともに、これら貫通孔内のスラリーを触媒担体の上端面まで押し上げる。その後、この押し上げ動作を停止して、余剰のスラリーの一部を自重によって貫通孔内から落下させる。次いで、触媒担体に上端面側から空気を噴射して、余剰のスラリーの残りを貫通孔内から吹き払う。
【0003】
特許文献2には、モノリス基材であるハニカム基材を、ウォッシュコートスラリーでコートする方法が記載されている。この方法では、先ず、シリンダ内であってピストンヘッドの上方に収容されたスラリーを、その上方に設置されたハニカム基材のチャネル、即ち貫通孔内へ押し込む。次に、ハニカム基材を上下反転させる。その後、ハニカム基材の下端に真空を付与して、余剰のスラリーを貫通孔内から除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-242668号公報
【文献】特開2015-62896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、筒状体の端部への塗工液の付着を生じ難くしつつ、筒状体の中間部に設置されたハニカム構造体の一端面に対して塗工液を均一に供給可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、筒状体と、前記筒状体内の中間部に設置され該筒状体の軸方向に各々が伸びた複数の孔を有しているハニカム構造体とを有するハニカム基材に、触媒層を形成するための排ガス浄化用触媒の製造装置であって、前記ハニカム基材を直立させた状態で保持するホルダと、塗工液を吐出する吐出口を上端に有し、前記ハニカム基材の下方に位置する前記筒状体の開口部に挿入され前記ハニカム構造体の下面と正対するシリンダと、前記シリンダ内に設置され、該シリンダ内に蓄えられた前記塗工液を上方に押し上げることで前記吐出口から前記塗工液を吐出可能にするピストンとを含む供給装置とを備え、前記シリンダの前記上端と前記ハニカム構造体の前記下面との間にクリアランスを有することを特徴とする製造装置が提供される。
【0007】
本発明の他の側面によると、前記供給装置は、前記ピストンが固定された基部と、前記シリンダが固定され前記ハニカム基材の下端と当接する当接部材と、前記当接部材を上向きに付勢する付勢部材とを更に含み、前記ハニカム基材の下端が前記当接部材に当接し、前記基部を押上げることで前記ピストンが前記シリンダに対して相対的に上昇することを特徴とする上記側面に係る製造装置が提供される。
【0008】
本発明の更に他の側面によると、前記シリンダの内部空間は、その上側端部で、上方へ向けて拡径していることを特徴とする上記側面の何れかに係る製造装置が提供される。
【0009】
本発明の更に他の側面によると、前記ピストンの上面に溝が設けられていることを特徴とする上記側面の何れかに係る製造装置が提供される。
【0010】
本発明の更に他の側面によると、前記ハニカム基材の上端から前記ハニカム基材内の空気を吸引する吸引装置を更に備えたことを特徴とする上記側面の何れかに係る製造装置が提供される。
【0011】
本発明の更に他の側面によると、前記シリンダ内であって、前記ピストンの上方の空間へ前記塗工液を補充する補充装置と、前記ピストンを押し上げる昇降装置とを更に備えたことを特徴とする上記側面に係る製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、筒状体の端部への塗工液の付着を生じ難くしつつ、筒状体の中間部に設置されたハニカム構造体の一端面に対して塗工液を均一に供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る製造装置のブロック図。
【
図2】
図2は、
図1の製造装置が含んでいる塗工装置が第1状態にある様子を示す断面図。
【
図3】
図3は、
図1の製造装置が含んでいる塗工装置が第2状態にある様子を示す断面図。
【
図4】
図4は、第2状態にある塗工装置の一部を拡大して示す断面図。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る製造方法を示すフローチャート。
【
図7】
図7は、塗工液補充工程及び第2質量測定工程を示す断面図。
【
図9】
図9は、塗工液供給工程を開始した様子を示す断面図。
【
図10】
図10は、塗工液供給工程を完了した様子を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独で又は複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の材質、形状、及び構造等によって限定されるものではない。本発明の技術的思想には、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
なお、同様又は類似した機能を有する要素については、以下で参照する図面において同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は模式的なものであり、或る方向の寸法と別の方向の寸法との関係、及び、或る部材の寸法と他の部材の寸法との関係等は、現実のものとは異なり得る。
【0016】
<1>製造装置
図1は、本発明の一実施形態に係る製造装置のブロック図である。
図2は、
図1の製造装置が含んでいる塗工装置が第1状態にある様子を示す断面図である。
図3は、
図1の製造装置が含んでいる塗工装置が第2状態にある様子を示す断面図である。
図4は、第2状態にある塗工装置の一部を拡大して示す断面図である。
【0017】
図1に示す製造装置1は、排ガス浄化用触媒を製造するための装置である。製造装置1は、塗工装置10と、第1質量計14Aと、第2質量計14Bと、コントローラ17と、入力装置18と、出力装置19とを含んでいる。
【0018】
塗工装置10は、
図2乃至
図4に示すハニカム基材20のハニカム構造体22を、塗工液で塗工するものである。
【0019】
ここで、ハニカム基材20は、筒状体21とハニカム構造体22とを含んでいる。
筒状体21は、円筒形状を有している。筒状体21は、楕円筒形状及び長円筒形状などの他の筒形状を有していてもよい。筒状体21は、例えば、金属製である。
【0020】
筒状体21の外径は、例えば、33乃至89.5mmの範囲内にある。筒状体21の軸方向の寸法、即ち、筒状体21の長さは、例えば、40乃至160mmの範囲内にある。
【0021】
ハニカム構造体22は、筒状体21内の中間部に設置されている。即ち、ハニカム構造体22は、筒状体21の一方の開口部から離間するとともに、筒状体21の他方の開口部からも離間している。
【0022】
ハニカム構造体22は、筒状体21内の中間部とほぼ等しい外形を有している。ハニカム構造体22は、筒状体21の軸方向に各々が伸びた複数の孔を有している。これら孔は、ハニカム構造体22を間に挟んで隣り合った空間の間での通気を可能とする。
【0023】
ハニカム構造体22は、例えば、金属製である。この場合、ハニカム構造体22は、例えば、平板と波板との積層体を、波の配列方向へ多重に巻いた構造を有し得る。このようなハニカム構造体22は、平板と波板との間の隙間を貫通孔として有し得る。
【0024】
筒状体21の軸方向におけるハニカム構造体22の寸法、即ち、ハニカム構造体の長さは、例えば、40乃至150mmの範囲内にある。ハニカム構造体22から筒状体21の各開口までの距離は、例えば、5乃至10mmの範囲内にある。
【0025】
塗工装置10は、
図2及び
図3に示すように、ホルダ11と、吸引装置12と、供給装置13と、第3質量計14Cと、補充装置15とを含んでいる。塗工装置10は、
図1に示す搬送装置16A及び昇降装置16Bを更に含んでいる。
【0026】
ホルダ11は、
図2及び
図3に示すように、ハニカム基材20を着脱可能に保持する。ホルダ11は、後述する接続部材121と供給装置13との間で、ハニカム基材20を直立させた状態で保持する。即ち、ホルダ11は、接続部材121と供給装置13との間で、ハニカム基材20を、その筒状体21の軸方向が重力方向と一致するように保持する。
【0027】
ホルダ11は、例えば、ハニカム基材20を把持するメカニカルチャックである。ホルダ11は、他のチャック装置、例えば、負圧を利用してハニカム基材20を保持する真空チャック、又は、磁気を利用してハニカム基材20を保持するマグネットチャックであってもよい。
【0028】
ホルダ11は、後述する接続部材121と供給装置13との間で上下動可能である。また、ホルダ11は、塗工装置10と第1質量計14Aとの間で、及び、塗工装置10と第2質量計14Bとの間で移動可能である。なお、ここでは、ホルダ11は、搬送装置16Aの一部である。
【0029】
吸引装置12は、図示しない真空ポンプと接続部材121とを含んでいる。接続部材121は、例えば、金属製である。接続部材121は、一端が真空ポンプに接続された流路の少なくとも一部を内部に有している。接続部材121は、後述するシリンダの上方の位置に開口を有している。ここでは、接続部材121は、直立した筒状部を含んでいる。接続部材121の開口は、ホルダ11が接続部材121と供給装置13との間で上方へ移動した場合に、上記開口を取り囲んだ縁部に、筒状体21の上方の端面が当接するように設けられている。吸引装置12は、接続部材121の開口を取り囲んだ縁部に筒状体21の上方の端面を当接させ、この状態で真空ポンプを駆動することにより、ハニカム基材20内の空気をその上方の端部から吸引する。
【0030】
供給装置13は、基部131と、ピストン132と、シリンダ部材133と、当接部材134と、付勢部材135とを含んでいる。
【0031】
基部131は、接続部材121の下方に位置している。基部131には、ピストン132が固定されている。基部131は、上下動可能である。
【0032】
ピストン132は、基部131上で直立している。支持部とピストンヘッドとを含んでいる。
【0033】
支持部は、基部131とピストンヘッドとの間に介在している。支持部は、ここでは、ピストンヘッドと比較してより小さな径を有する柱体である。
【0034】
ピストンヘッドは、筒状体21の下方の開口と比較してより小さな径を有しており、シリンダ部材133が含んでいるシリンダ内をその長さ方向に摺動可能な柱体である。ピストンヘッドは、接続部材121の開口を取り囲んだ縁部に筒状体21の上方の端面を当接させた場合に、ハニカム構造体22の真下に位置する。
【0035】
ピストン132の上面には、溝が設けられている。具体的には、ピストンヘッドの上面には、溝が設けられている。これら溝が形成するパターンは、例えば、格子状パターン、放射状パターン、同心状パターン、又はそれらの組み合わせである。これら溝は、例えば、ピストンヘッドの上面がシリンダの吐出口へ近づいた場合に、ピストンヘッドの上面に対して平行な方向への塗工液の移動を促進する。これら溝は省略することができる。
【0036】
シリンダ部材133は、シリンダと板状部とを含んでいる。
シリンダは、塗工液を吐出する吐出口を一端に有している。シリンダは、直立しており、上方の開口を上記の吐出口として有している。ここで、シリンダの吐出口は、シリンダの上方の縁のうち内側の輪郭部である。
【0037】
板状部は、シリンダの下側端部に設けられている。板状部には、シリンダの下側開口の位置に、シリンダの内径よりも小さな径を有する貫通孔が設けられている。
【0038】
シリンダ部材133内には、ピストン132が設置されている。具体的には、シリンダにはピストンヘッドが挿入され、板状部の貫通孔にはピストン132の支持部が挿入されている。シリンダ部材133は、ピストンヘッドに対して相対的に上下動可能である。即ち、ピストンヘッドは、シリンダ部材133内でその長さ方向へ移動可能に設置されている。
【0039】
シリンダの外径は、筒状体21の下方の開口の径と比較してより小さい。シリンダは、ハニカム構造体22への塗工液の塗工時に、ハニカム構造体22から離間し且つハニカム構造体22の下面と正対するように、ハニカム基材20の下方に位置する筒状体21の開口部に挿入される。このようにシリンダが筒状体21の開口部へ挿入された状態において、シリンダの上端とハニカム構造体22の下面とは、それらの間にクリアランスを有する。
【0040】
シリンダの内部空間は、その上側端部で、上方へ向けて拡径している。シリンダの内部空間は、その上側端部で径が一定であってもよい。但し、シリンダの内部空間が上側端部で上方へ向けて拡径した構造は、ハニカム構造体22の下側端面に対して塗工液を均一に供給するうえで特に有利である。
【0041】
当接部材134は、シリンダに対する下方への相対的な移動が規制されており、基部131を上方へ移動させたときに、ハニカム基材20の下端と当接する。ここでは、当接部材134は、板134Aと、ボルト134Bと、ナット134Cとを含んでいる。
【0042】
板134Aは、シリンダ部材133の板状部の上方に位置している。板134Aには、シリンダの位置に第1貫通孔が設けられている。この第1貫通孔には、シリンダが挿入されている。第1貫通孔の側壁は、複数箇所でシリンダの外面と接触している。これにより、シリンダ部材133に対する径方向への板134Aの移動が規制されている。また、板134Aとシリンダとの間には、1以上の隙間が設けられている。これら隙間は、板134Aの上方の空間と下方の空間との間での通気を可能とする。
【0043】
板134Aには、3以上の第2貫通孔が更に設けられている。これら第2貫通孔は、シリンダを取り囲むように配置されている。ナット134Cは、第2貫通孔の位置で、板134Aの上面に固定されている。ボルト134Bは、ナット134Cと螺合するとともに、第2貫通孔へ上方から挿入され、板134Aの下面から下方へ突き出ている。ボルト134Bの先端は、シリンダ部材133の板状部の上面と当接している。このようにして、当接部材134は、シリンダ部材133の板状部の上に載置されている。従って、当接部材134は、シリンダ部材133と一体に、基部131及びピストン132に対して相対的に上下動可能である。なお、シリンダ部材133の板状部に対する板134Aの高さは、ボルト134Bを回転させることにより調節することができる。
【0044】
付勢部材135は、シリンダを基部131に対して上向きに付勢する。ここでは、付勢部材135は、シリンダ部材133を基部131に対して上向きに付勢する。
【0045】
付勢部材135は、ここでは、基部131とシリンダ部材133の板状部との間に設置されたコイルばねである。付勢部材135は、他のばねであってもよく、ばね以外の弾性体であってもよい。また、付勢部材135は、他の位置に設置してもよい。
【0046】
付勢部材135は、
図2に示すように、当接部材134が筒状体21から離間している場合には、シリンダ部材133の板状部がピストンヘッドの下面周縁部に当接するように、シリンダ部材133を上向きに付勢する。以下、
図2に示す状態を、「第1状態」という。
【0047】
上記の通り、基部131は上下動可能である。それ故、ホルダ11が接続部材121と供給装置13との間でハニカム基材20を保持している状態で基部131を上方へ移動させると、先ず、シリンダが、ハニカム基材20の下方に位置する筒状体21の開口部に挿入される。次いで、
図3に示すように、板134Aのうち、その第1貫通孔を取り囲んでいる部分が、筒状体21の下方の縁と当接する。以下、
図3に示す状態を、「第2状態」という。
【0048】
この状態で、基部131を更に上方へ移動させると、シリンダ部材133及び当接部材134は位置を変化させず、ピストン132が基部131とともに上方へ更に移動する。即ち、基部131を押上げることで、ピストン132がシリンダ部材133に対して相対的に上昇する。以下、
図10に示すように、ピストン132の上方への移動を完了した状態を、「第3状態」という。
【0049】
第2状態及び第3状態において、シリンダは、ハニカム構造体22から離間している。第2状態及び第3状態において、シリンダからハニカム構造体22までの距離D1は、0.5乃至2.5mmの範囲内にあることが好ましく、1乃至1.5mmの範囲内にあることがより好ましい。
【0050】
距離D1を大きくすると、筒状体21の下方の端部内面のうち塗工液が付着し得る領域の面積が大きくなる。距離D1を小さくすると、シリンダがハニカム構造体22へ接触するのを防止するために、より高い位置精度が必要となる。
【0051】
また、後述するように、供給装置13からハニカム構造体22へ塗工液を供給する際には、塗工液の液面をシリンダの吐出口から突出させ、この突出部をハニカム構造体22の下側端面へ接触させる。上記の突出部がハニカム構造体22の下側端面へ接触すると、塗工液は下側端面上でその縁まで広がる。距離D1を小さくすると、塗工液は下側端面上で広がり難くなる。
【0052】
第2状態及び第3状態において、シリンダは、好ましくは筒状体21から離間している。第2状態及び第3状態において、シリンダから筒状体21までの距離D2は、0.5乃至1.5mmの範囲内にあることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
【0053】
第2状態及び第3状態において、シリンダの吐出口から筒状体21までの距離D3は、0.5乃至1.5mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。なお、
図4に示すように、シリンダの内部空間がその上側端部で上方へ向けて拡径している場合、距離D3は距離D2と等しい。
【0054】
距離D2を小さくすると、シリンダを、ハニカム基材20の下方に位置する筒状体21の開口部へ挿入する際に、より高い位置精度が必要となる。距離D3を大きくすると、ハニカム構造体22の下側端面の中央部への塗工液の供給量と、この下側端面の周縁部への塗工液の供給量との差が大きくなる可能性がある。
【0055】
第3質量計14Cは、供給装置13の下方に設置されている。第3質量計14Cは、供給装置13の質量を測定する。例えば、第3質量計14Cは、塗工液が補充された直後の供給装置13の質量、即ち、供給装置13と塗工液との合計質量MC1を測定する。また、第3質量計14Cは、塗工直後の供給装置13の質量、即ち、供給装置13と塗工液の残留分との合計質量MC2を測定する。
【0056】
補充装置15は、図示しないタンクと、図示しない定量ポンプと、図示しない送液管と、ノズルヘッド151と、図示しない移動機構とを含んでいる。
【0057】
タンクは、塗工液を収容している。
塗工液は、ハニカム構造体22の隔壁上に形成する触媒層又はその一部の原料であって、溶液又はスラリーである。塗工液は、例えば、触媒金属を含んだ溶液、耐熱性担体及び助触媒の少なくとも一方を含んだスラリー、又は、触媒金属と耐熱性担体及び助触媒の少なくとも一方とを含んだスラリーである。触媒金属と耐熱性担体及び助触媒の少なくとも一方とを含んだスラリーにおいて、触媒金属は、分散媒中に溶解していてもよく、分散媒中に分散していてもよく、耐熱性担体及び助触媒の少なくとも一方に担持されていてもよい。
【0058】
触媒金属は、例えば、白金、パラジウム及びロジウム化合物などの白金族金属;鉄及び銅などのその他の遷移金属;リチウム及びカリウムなどのアルカリ金属;バリウムなどのアルカリ土類金属;又はそれらの2以上である。
【0059】
耐熱性担体は、例えば、アルミナなどの耐火無機酸化物である。助触媒は、例えば、セリア及びセリア-ジルコニア複合酸化物などの酸素貯蔵材料;アルカリ金属を含んだ窒素酸化物(NOX)吸蔵材料;ゼオライトなどの炭化水素吸着剤;又はそれらの2以上である。
【0060】
分散媒は、例えば、水である。分散媒は、有機溶剤であってもよく、有機溶剤と水との混合物であってもよい。
【0061】
塗工液は、添加剤、例えば、ヒドロキシエチルセルロースなどの増粘剤、分散安定剤及びバインダを更に含むことができる。塗工液がヒドロキシエチルセルロースなどの増粘剤を含む場合、その濃度は、0.3乃至1質量%の範囲内とすることが好ましく、
塗工液は、粘度E1が90乃至2280cpsの範囲内にあり且つ粘度E100が20乃至152cpsの範囲内にあることが好ましく、ここで、粘度E1及び粘度E100は、25℃の温度環境下において、市販のせん断粘度計を用いて測定される粘度である。
【0062】
塗工液の粘度を高くすると、毛細管現象によるハニカム構造体22の吸液が抑制され、塗工液をハニカム構造体22の下側端面の縁まで広げ易くなる。但し、塗工液の粘度を高くすると、吸引装置12の吸引力をより強くする必要を生じ得る。
【0063】
定量ポンプは、タンクと送液管の一端とに接続されている。定量ポンプは、タンク内の塗工液から一定量を量り取り、これを送液管の一端へ排出する。定量ポンプは、例えば、ピストンポンプ及びプランジャポンプなどの往復ポンプである。
【0064】
送液管の他端には、ノズルヘッド151が接続されている。ノズルヘッド151は、シリンダの上方の補充位置と、そこから離れた待機位置との間で移動可能である。ノズルヘッド151は、補充位置に位置させた状態で定量ポンプを駆動することにより、一定量の塗工液をシリンダ内へ吐出する。
【0065】
移動機構は、補充位置と待機位置との間でノズルヘッド151を移動させる。移動機構は、モータを含むことができる。移動機構の一例は、ノズルヘッド151を支持したロボットアームである。
【0066】
搬送装置16Aは、塗工装置10と第1質量計14Aとの間で、及び、塗工装置10と第2質量計14Bとの間でホルダ11を移動させる。搬送装置16Aは、ホルダ11とともに、第1質量計14Aから塗工装置10へのハニカム基材20の搬送と、塗工装置10から第2質量計14Bへのハニカム基材20の搬送とを可能とする。ここでは、搬送装置16Aは、ホルダ11を含んでいる。搬送装置16Aは、モータを更に含むことができる。一例によると、搬送装置16Aは、ホルダ11と、これを先端で上下動可能に支持したロボットアームとを含んでいる。
【0067】
昇降装置16Bは、ピストンヘッドをシリンダ内で、その長さ方向へ移動させる。ここでは、昇降装置16Bは、供給装置13を昇降させる。昇降装置16Bは、リニアアクチュエータを含むことができる。リニアアクチュエータは、機械式、油圧式、空圧式、及び磁気式の何れであってもよい。リニアアクチュエータは、例えば、油圧シリンダ又は電動アクチュエータである。
【0068】
第1質量計14Aは、塗工装置10による塗工前のハニカム基材20の質量MS1を測定する。
【0069】
第2質量計14Bは、塗工装置10による塗工後のハニカム基材20の合計質量MS2を測定する。
【0070】
コントローラ17は、処理部17Aと記憶部17Bとを含んでいる。
処理部17Aは、中央処理装置(CPU)を含んでいる。記憶部17Bは、処理部17Aに接続されている。記憶部17Bは、処理部17Aが読み込むプログラムや、処理部17Aから供給されたデータを記憶する不揮発性メモリを含んでいる。
【0071】
コントローラ17は、吸引装置12、第1質量計14A、第2質量計14B、第3質量計14C、補充装置15、搬送装置16A、昇降装置16B、入力装置18、及び出力装置19に接続されている。コントローラ17は、入力装置18を介してオペレータが入力する指令及び情報、並びに、第1質量計14A、第2質量計14B及び第3質量計14Cが出力する信号等に基づいて、吸引装置12、補充装置15、搬送装置16A、昇降装置16B、及び出力装置19の動作を制御する。
【0072】
入力装置18は、オペレータがコントローラ17へ指令及び情報を入力するためのヒューマンインターフェースデバイスである。入力装置は、例えば、釦、キーボード、マウス、タッチパネル、及び音声入力装置の1以上である。
【0073】
出力装置19は、オペレータが認識可能な警告情報を出力する。出力装置19は、例えば、ディスプレイ、警告灯、音声案内装置及びブザーの1以上である。ディスプレイは、例えば、液晶ディスプレイ又は有機エレクトロルミネッセンスディスプレイである。警告灯は、例えば、発光ダイオードを含む。
【0074】
<2>製造方法
上記の製造装置1を使用すると、例えば、以下の方法により排ガス浄化用触媒を製造することができる。
【0075】
図5は、本発明の一実施形態に係る製造方法を示すフローチャートである。
図6は、第1質量測定工程を示す断面図である。
図7は、塗工液補充工程及び第2質量測定工程を示す断面図である。
図8は、第1搬送工程を示す断面図である。
図9は、塗工液供給工程を開始した様子を示す断面図である。
図10は、塗工液供給工程を完了した様子を示す断面図である。
図11は、吸引工程を示す断面図である。
図12は、第2搬送工程を示す断面図である。
図13は、第3質量測定工程を示す断面図である。
【0076】
ここで説明する方法では、先ず、オペレータが、入力装置18を介して、製造開始の指令をコントローラ17へ入力する。この際、オペレータは、入力装置18を介して、製造すべき排ガス浄化用触媒の数などの情報を、コントローラ17へ更に入力することもできる。
【0077】
次に、オペレータは、
図6に示すように、ハニカム基材20を第1質量計14Aの計量皿上に載置する。第1質量計14Aは、ハニカム基材20の質量M
S1を測定する(ステップS1)。第1質量計14Aは、この測定結果に対応した信号を、コントローラ17へ出力する。
【0078】
コントローラ17は、第1質量計14Aが出力する信号から、ハニカム基材20が第1質量計14Aの計量皿上に載置されたと判断する。そして、コントローラ17は、第1質量計14Aが測定したハニカム基材20の質量MS1を記憶する。
【0079】
次に、コントローラ17は、ノズルヘッド151が待機位置から補充位置へと移動するように、移動機構の動作を制御する。続いて、コントローラ17は、予め定められている量の塗工液30をノズルヘッド151が吐出するように、補充装置15の動作を制御する。このとき、シリンダ内であってピストン132の上方には、空間が存在している。
図7に示すように、ノズルヘッド151が吐出した塗工液30は、この空間内に貯留される。このようにして、補充装置15は、供給装置13へ、具体的には、シリンダ内の上記空間へ塗工液を補充する(ステップS2)。
【0080】
その後、供給装置13が計量皿上に載置された第3質量計14Cは、供給装置13とこれに補充された塗工液との合計質量MC1を測定する(ステップS3)。第3質量計14Cは、この測定結果に対応した信号をコントローラ17へ出力する。コントローラ17は、第3質量計14Cが測定した合計質量MC1を記憶する。
【0081】
次に、コントローラ17は、ホルダ11が塗工装置10又は第2質量計14Bから第1質量計14Aへ移動し、そこで、ホルダ11がハニカム基材20を保持するように搬送装置16Aの動作を制御する。続いて、コントローラ17は、ホルダ11が第1質量計14Aから塗工装置10へ移動するように、搬送装置16Aの動作を制御する。これにより、ハニカム基材20を、供給装置13と接続部材121との間の塗工位置へ搬送する(ステップS4)。
【0082】
次に、コントローラ17は、ノズルヘッド151が補充位置から待機位置へと移動するように、移動機構の動作を制御する。続いて、コントローラ17は、供給装置13が上昇するように、昇降装置16Bの動作を制御する。
【0083】
供給装置13が上昇すると、
図8に示すように、シリンダの上側部分が筒状体21の下側の開口部内へ侵入するとともに、板134Aのうち、その第1貫通孔を取り囲んでいる部分が、筒状体21の下側の縁と当接する。供給装置13が更に上昇すると、当接部材134がハニカム基材20をホルダ11とともに押し上げ、筒状体21の上方の端面が、接続部材121の開口を取り囲んだ縁部に当接する。即ち、上述した第1状態から第2状態へ変化する。第2状態において、シリンダは、ハニカム構造体22から離間しており、好ましくは筒状体21からも離間している。
【0084】
供給装置13が更に上昇すると、
図9に示すように、シリンダ部材133及び当接部材134は位置を変化させず、ピストン132が基部131とともに上方へ更に移動する。シリンダ部材133が位置を変化させずに、ピストン132が上方へ移動すると、塗工液30の液面は、表面張力によってシリンダの吐出口から突き出る。ピストン132が更に上方へ移動すると、塗工液30の液面はハニカム構造体22の下側端面と接触し、塗工液30は下側端面上でその縁まで広がる。
【0085】
供給装置13が更に上昇すると、毛細管現象とピストン132が塗工液30へ与える圧力とによって、塗工液30の液面は、ハニカム構造体22の下側端面よりも上方へ移動する。そして、ピストン132の上方への移動を完了すると、ピストンヘッドの上面の高さは、シリンダの吐出口とほぼ等しい高さとなる。この第3状態では、
図10に示すように、供給装置13に貯留されていた塗工液30のほぼ全量がハニカム構造体22内へ移動している。なお、ピストンヘッドの上面は、ハニカム構造体22の下側端面へ接触させてもよく、ハニカム構造体22の下側端面へ接触させなくてもよい。
【0086】
このように、昇降装置16Bは、供給装置13を上昇させる。供給装置13は、上昇することにより、ハニカム基材20へ、具体的にはハニカム構造体22へ塗工液30を供給する(ステップS5)。昇降装置16Bが供給装置13を上昇させる速度は、50乃至150mm/秒の範囲内とすることが好ましい。
【0087】
次に、コントローラ17は、ハニカム基材20内の空気をその上方の端部から吸引するように、吸引装置12の動作を制御する(ステップS6)。これにより、塗工液30の液面は更に上方へ移動し、
図11に示すように、ハニカム構造体22に、塗工液30からなる塗工層が隔壁上に形成された塗工部22Aと、塗工層30Cが形成されていない非塗工部22Bとが生じる。ここでは、ハニカム構造体22の下側部分にのみ塗工液を塗工しているが、ハニカム構造体22の全体へ塗工液を塗工してもよい。即ち、非塗工部22Bは省略することができる。
【0088】
次に、コントローラ17は、供給装置13が第3質量計14Cの計量皿上へ載置されるまで下降するように、昇降装置16Bの動作を制御する。続いて、コントローラ17は、ホルダ11が塗工装置10から第2質量計14Bへ移動するように、搬送装置16Aの動作を制御する。これにより、ハニカム基材20を塗工位置から搬送する(ステップS7)。
【0089】
供給装置13が下降すると、ハニカム基材20もホルダ11とともに僅かに下降し、筒状体21の上方の端面は、接続部材121の開口を取り囲んだ縁部から離間する。コントローラ17は、供給装置13が下降した後に、筒状体21の上方の端面が接続部材121に当接したままとなるように、搬送装置16Aの動作を制御するとともに、この状態で、ハニカム基材20内の空気をその上方の端部から吸引するように、吸引装置12の動作を制御してもよい。この吸引動作によると、
図11を参照しながら説明した吸引動作と比較して、ハニカム構造体22の下方の空間と上方の空間との間に生じさせる圧力差を大きくすることができる。従って、この追加の吸引動作を行うことにより、ハニカム構造体22に占める塗工部22Aの割合を大きくすること、例えば、ハニカム構造体22の全体を塗工部22Aとすることができる。
【0090】
計量皿上に供給装置13が載置された第3質量計14Cは、供給装置13と塗工液30の残留分との合計質量MC2を測定する(ステップS8)。第3質量計14Cは、この測定結果に対応した信号をコントローラ17へ出力する。コントローラ17は、第3質量計14Cが測定した合計質量MC2を記憶する。
【0091】
図13に示すように、塗工後のハニカム基材20が計量皿上に載置された第2質量計14Bは、ハニカム基材20と塗工層30Cとの合計質量M
S2を測定する(ステップS9)。第2質量計14Bは、この測定結果に対応した信号をコントローラ17へ出力する。コントローラ17は、第2質量計14Bが測定した合計質量M
S2を記憶する。
【0092】
次に、コントローラ17は、合計質量MC1と合計質量MC2との差MC1-MC2を算出する。また、コントローラ17は、合計質量MS2と質量MS1との差MS2-MS1を算出する。
【0093】
コントローラ17は、差MC1-MC2を、予め記憶している下限値MCL及び上限値MCUと対比する。また、コントローラは、差MS2-MS1を、予め記憶している下限値MSL及び上限値MSUと対比する(ステップS10)。
【0094】
コントローラ17は、差MC1-MC2が不等式(1)に示す関係を満たし、且つ、差MS2-MS1が不等式(2)に示す関係を満たしている場合に、塗工量は適切であったと判断する。
MCL<MC1-MC2<MCU …(1)
MSL<MS2-MS1<MSU …(2)
コントローラ17は、差MC1-MC2が不等式(1)に示す関係を満たしていないか、又は、差MS2-MS1が不等式(2)に示す関係を満たしていない場合に、塗工量は不適切であった可能性があると判断する。この場合、コントローラ17は、オペレータが認識可能な警告情報を出力するように、出力装置19の動作を制御する(ステップS11)。以上のようにして、製造装置1による処理を終了する。
【0095】
その後、このようにして塗工を行ったハニカム基材20に対し、必要に応じて、1以上の塗工を更に行う。次いで、これを焼成することにより、排ガス浄化用触媒を得る。
【0096】
<3>効果
上記のハニカム基材20では、ハニカム構造体22は、筒状体21内の中間部に設置されており、筒状体21の何れの端部内にも設置されていない。このようなハニカム基材20への塗工液の塗工は、例えば、筒状体21の一方の端部を塗工液に浸漬させ、他方の端部からハニカム基材20内の空気を吸引することにより行うことができる。しかしながら、この方法では、筒状体21のうち塗工液に浸漬させた部分と、筒状体21の内面のうち塗工液に浸漬させた部分からハニカム構造体22までの領域とに、塗工液が付着する。
【0097】
塗工層のうち筒状体21の外面に形成された部分は、排ガスの浄化に寄与しない。塗工層のうち筒状体21の端部内面に形成された部分も、塗工層のうちハニカム構造体22の隔壁上に形成された部分ほど効率的に排ガスを浄化し得ない。即ち、塗工層のうち筒状体21の端部に形成された部分が占める割合が大きくなると、排ガス浄化性能は殆ど向上せず、高コストになる。
【0098】
また、筒状体21が金属製である場合、排ガス浄化用触媒と他の金属部品との溶接の妨げになるのを防止するべく、筒状体21の端部から塗工層の少なくとも一部を除去する必要がある。このような追加の工程も、排ガス浄化用触媒の低コスト化を妨げる。
【0099】
更に、塗工層のうち筒状体21の端部に形成された部分が占める割合が大きくなると、塗工層のうちハニカム構造体22の隔壁上に形成された部分の量を正確に把握することが困難になる。即ち、製造した排ガス浄化用触媒が設計通りの性能を発揮するものであるかを、塗工量から推定することが困難になる。
【0100】
上記の製造装置1では、ハニカム基材20の下方に位置する筒状体21の開口部へシリンダを挿入し、シリンダの吐出口から吐出させた塗工液をハニカム構造体22の下側端面へ供給する。それ故、筒状体21の下方の端部に塗工液は殆ど付着せず、筒状体21の上方の端部にも塗工液は付着しない。従って、上記の製造装置1によると、排ガス浄化用触媒を低コストで製造することが可能となる。更に、質量測定により、製造装置1における異常の早期発見が可能となるとともに、質量測定による不合格品の選別の精度が向上し、それ故、品質管理が容易になる。
【0101】
また、シリンダがハニカム構造体22の下側端面と接触した状態で、シリンダの吐出口からハニカム構造体22の下側端面へ塗工液を供給すると、ハニカム構造体22の下側端面周縁部へ十分な量の塗工液を供給できない。
【0102】
上記の製造装置1では、シリンダの吐出口からハニカム構造体22の下側端面へ塗工液を供給する際に、シリンダをハニカム構造体22の下側端面から離間させる。それ故、ハニカム構造体22の下側端面に対して、塗工液を均一に供給することが可能である。
【0103】
このように、上記の製造装置1によると、筒状体の端部への塗工液の付着を生じ難くしつつ、筒状体の中間部に設置されたハニカム構造体の一端面に対して塗工液を均一に供給することが可能である。
【0104】
<4>変形例
上記の製造装置及び製造方法には、様々な変形が可能である。
例えば、第1質量計14A及び第2質量計14Bの一方は、省略してもよい。例えば、第2質量計14Bを省略し、第1質量計14Aを利用して、塗工前後でハニカム基材20の質量を測定してもよい。
【0105】
コントローラ17による塗工量の適否に関する判断は、差MS2-MS1を下限値MSL及び上限値MSUと対比することなしに、差MC1-MC2を下限値MCL及び上限値MCUと対比することによって行ってもよい。この場合、第1質量計14A及び第2質量計14Bは省略することができる。
【0106】
或いは、コントローラ17による塗工量の適否に関する判断は、差MC1-MC2を下限値MCL及び上限値MCUと対比することなしに、差MS2-MS1を下限値MSL及び上限値MSUと対比することによって行ってもよい。この場合、第3質量計14Cは省略することができる。
【0107】
コントローラ17による塗工量の適否に関する判断では、閾値として上限値及び下限値を設定しているが、閾値として上限値及び下限値の一方のみを設定してもよい。例えば、コントローラ17による塗工量の適否に関する判断では、差MS2-MS1を上限値MSUと対比することなしに、下限値MSLと対比してもよい。また、コントローラ17による塗工量の適否に関する判断では、差MC1-MC2を下限値MCLと対比することなしに、上限値MCUと対比してもよい。
【0108】
コントローラ17による塗工量の適否に関する判断は、行わなくてもよい。この場合、第1質量計14A、第2質量計14B、第3質量計14C及び出力装置19は、省略することができる。
【0109】
第1質量計14Aの計量皿上へのハニカム基材20の載置は、手動で行う代わりに、自動で行ってもよい。
【0110】
製造装置1は、それが自動で行う動作の1以上を、手動で行うように変更してもよい。例えば、補充装置15、搬送装置16A、及び昇降装置16Bの1以上が行う動作を、手動で行うように変更してもよい。例えば、搬送装置16Aを省略し、ホルダ11を塗工位置に上下動可能に設置して、ホルダ11へのハニカム基材20の着脱を手動で行ってもよい。
【0111】
製造装置1は、コントローラ17による制御の一部又は全てを、手動で行うように変更してもよい。例えば、コントローラ17による制御の全てを手動で行うように変更した場合、コントローラ17及び入力装置18は省略することができる。
【符号の説明】
【0112】
1…製造装置、10…塗工装置、11…ホルダ、12…吸引装置、13…供給装置、14A…第1質量計、14B…第2質量計、14C…第3質量計、15…補充装置、16A…搬送装置、16B…昇降装置、17…コントローラ、17A…処理部、17B…記憶部、18…入力装置、19…出力装置、20…ハニカム基材、21…筒状体、22…ハニカム構造体、30…塗工液、30C…塗工層、121…接続部材、131…基部、132…ピストン、133…シリンダ部材、134…当接部材、134A…板、134B…ボルト、134C…ナット、135…付勢部材。
【要約】
【課題】筒状体の端部への塗工液の付着を生じ難くしつつ、筒状体の中間部に設置されたハニカム構造体の一端面に対して塗工液を均一に供給可能とする。
【解決手段】排ガス浄化用触媒の製造装置1は、筒状体21と、筒状体内の中間部に設置されたハニカム構造体22とを有するハニカム基材20に、触媒層を形成するためのものである。製造装置は、ハニカム基材を直立させた状態で保持するホルダ11と、供給装置13とを備えている。供給装置は、塗工液を吐出する吐出口を上端に有し、ハニカム基材の下方に位置する筒状体の開口部に挿入されハニカム構造体の下面と正対するシリンダと、シリンダ内に設置され、シリンダ内に蓄えられた塗工液を上方に押し上げることで吐出口から塗工液を吐出可能にするピストン132とを含んでいる。シリンダの上端とハニカム構造体の下面との間にクリアランスを有している。
【選択図】
図2