IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本化薬株式会社の特許一覧

特許7247428インクジェット用インク、インクジェット記録方法、インクセット、インクメディアセット、及び印刷メディア
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-17
(45)【発行日】2023-03-28
(54)【発明の名称】インクジェット用インク、インクジェット記録方法、インクセット、インクメディアセット、及び印刷メディア
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20230320BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230320BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
C09D11/38
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 112
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022555889
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022016357
(87)【国際公開番号】W WO2022224786
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2021070175
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】梶 優輝
(72)【発明者】
【氏名】松村 阿衣子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭史朗
(72)【発明者】
【氏名】三澤 俊太
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-205783(JP,A)
【文献】特開2017-066215(JP,A)
【文献】特開2016-160388(JP,A)
【文献】特開2017-1392(JP,A)
【文献】特開2015-30801(JP,A)
【文献】特開2021-127419(JP,A)
【文献】特開2009-144006(JP,A)
【文献】特開2016-188328(JP,A)
【文献】特開2018-154118(JP,A)
【文献】特開2017-190418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00- 13/00
B41J 2/01
B41J 2/165- 2/20
B41J 2/21- 2/215
B41M 5/00
B41M 5/50
B41M 5/52
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料及び分散染料から選択される少なくとも1種を含む着色剤と、前記着色剤を除く有機化合物と、水とを含有し、前記水の含有率が60~90質量%であり、前記有機化合物が下記(A)又は(B)の条件を満たす、インクジェット用インク。
(A)
化合物a:下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物;
化合物b:下記式(3)で表される化合物(但し、下記式(1)で表される化合物を除く)及び下記式(4)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物;及び
化合物c:C4-C5のアルカンジオール、下記式(5)で表される化合物、及び下記式(6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物;
を含み、前記インクジェット用インク100質量部中における前記化合物aの総含有量を(a)質量部、前記化合物bの総含有量を(b)質量部、前記化合物cの総含有量を(c)質量部としたとき、(a)≦(c)、0.1≦(c)/(b)≦50の関係を満たす。
(B)
化合物a:下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物;
化合物b:下記式(3)で表される化合物(但し、下記式(1)で表される化合物を除く)及び下記式(4)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物;及び
化合物c:C4-C5のアルカンジオール、下記式(5)で表される化合物、及び下記式(6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物;
を含み、前記インクジェット用インク100質量部中における前記化合物aの総含有量を(a)質量部、前記化合物cの総含有量を(c)質量部としたとき、(a)が0.4より大きく、且つ、(a)>(c)の関係を満たす
【化1】
(式(1)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のC5-C10の炭化水素基を示す。)
【化2】
(式(2)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のC6-C7の炭化水素基を示し、n1は、1又は2を示す。)
【化3】
(式(3)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のC7-C12の炭化水素基を示す。)
【化4】
(式(4)中、Rは、フェニル基又はベンジル基を示し、n2は、1又は2を示す。)
【化5】
(式(5)中、Rは、水素原子又はメチル基を示す。)
【化6】
(式(6)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のC1-C4の炭化水素基を示し、n3は、1又は2を示す。)
【請求項2】
前記有機化合物が前記(A)の条件を満たし、且つ、1<(c)/(b)≦50の関係を満たす、請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインクジェット用インクの液滴をインクジェットヘッドから吐出させて印刷メディアに記録を行う、インクジェット記録方法。
【請求項4】
前記印刷メディアが、インク難吸収性又はインク非吸収性の印刷メディアである、請求項3に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記インクジェットヘッドが、循環機構を備えているヘッドである、請求項3又は4に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のインクジェット用インクと、該インクジェット用インクとは異なる他のインクジェット用インクとを備える、インクセット。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のインクジェット用インク、又は請求項6に記載のインクセットと、印刷メディアとを備える、インクメディアセット。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のインクジェット用インク、又は請求項6に記載のインクセットが備える各インクジェット用インクが付着した印刷メディア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インク、インクジェット記録方法、インクセット、インクメディアセット、及び印刷メディアに関する。
【背景技術】
【0002】
各種のカラー記録方法の中でも代表的方法の1つであるインクジェットプリンタによる記録方法(インクジェット記録方法)は、インクの小滴を発生させ、これを紙等の印刷メディアに付着させ記録を行うものである。近年では商業用途や産業用途での需要が高まり、様々な印刷メディアに対して印刷ができるインクが求められている。
【0003】
カタログ、パンフレット等の商業分野では、コート紙やアート紙といった、普通紙に比べてインク吸収性の低い印刷メディア(以下、「インク難吸収性メディア」ともいう。)が用いられることが多い。また、屋外サイネージ、食品軟包装等の産業分野では、塩化ビニルフィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリオレフィンフィルムといった、インク非吸収性の印刷メディア(以下、「インク非吸収性メディア」ともいう。)が用いられることが多い。
【0004】
インク難吸収性メディア及びインク非吸収性メディアに対しては、有機溶剤を主溶媒とした溶剤インクや、重合性モノマーを含有させた硬化性インク等の開発が進められてきた。しかし、これらのインクは、自然環境や人体への安全性の問題が多い。そこで、近年は、水を主溶媒とした水性インクの開発が盛んになってきている。
【0005】
水性インクは、一般的に、インク難吸収性メディア上やインク非吸収性メディア上で濡れ広がりにくい性質がある。また、水性インクを印刷メディアに定着させるためには、インク中の水分や有機溶剤を乾燥させる必要がある。
【0006】
特許文献1では、水を主溶媒としながらも、水-オクタノール分配係数の異なる有機溶剤を3種類以上用いることで、インク非吸収性メディアに対して良好な濡れ性を示すインクが得られることが報告されている。しかし、この特許文献1のインクは、乾燥性が不十分であった。また、特許文献2では、添加する樹脂のガラス転移温度、粒子径、及び固形分含有率を工夫したインク組成により、インク非吸収性メディア上でも良好な乾燥性を示すことが報告されている。しかし、この特許文献2のインクは、インク非吸収性メディア上での濡れ性は不十分であった。
【0007】
水性インクでは、一般的に、濡れ性を向上させるために有機溶剤や界面活性剤を用いることが多いが、これらの材料を多く添加するほど、濡れ性は向上するが乾燥性は低下する。一方で、乾燥性を向上させすぎると、インクの液滴が印刷メディアに着弾した後、直ちに乾燥が始まり、十分に濡れ広がる前にインクが定着してしまうため、良好な画質が得られないことがある。このように、水性インクにおいて、濡れ性と乾燥性とは相反する性能であり、これらの両方の効果を満足するインクは未だ提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2020-125382号公報
【文献】特開2020-55943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、インク非吸収性メディア上においても良好な濡れ性を示し、且つ、乾燥性にも優れたインクジェット用インク、そのインクジェット用インクを用いたインクジェット記録方法、そのインクジェット用インクを備えるインクセット、そのインクジェット用インク又はインクセットと印刷メディアとを備えるインクメディアセット、及びそのインクジェット用インク又はインクセットが備える各インクジェット用インクが付着した印刷メディアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
1)
着色剤、前記着色剤を除く有機化合物、及び水を含有し、前記有機化合物が下記(A)~(C)のいずれかの条件を満たす、インクジェット用インク。
(A)
化合物a:下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物;
化合物b:下記式(3)で表される化合物及び下記式(4)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物;及び
化合物c:C4-C5のアルカンジオール、下記式(5)で表される化合物、及び下記式(6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物;
を含み、前記インクジェット用インク100質量部中における前記化合物aの総含有量を(a)質量部、前記化合物bの総含有量を(b)質量部、前記化合物cの総含有量を(c)質量部としたとき、(a)≦(c)、0.1≦(c)/(b)≦50の関係を満たす。
(B)
化合物a:下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物;
化合物b:下記式(3)で表される化合物及び下記式(4)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物;及び
化合物c:C4-C5のアルカンジオール、下記式(5)で表される化合物、及び下記式(6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物;
を含み、前記インクジェット用インク100質量部中における前記化合物aの総含有量を(a)質量部、前記化合物cの総含有量を(c)質量部としたとき、(a)が0.4より大きく、且つ、(a)>(c)の関係を満たす。
(C)
1,5-ペンタンジオール、及び下記式(1)におけるRがC5-C6の炭化水素基である化合物dを含み、前記インクジェット用インク100質量部中における1,5-ペンタンジオールの含有量を(e)質量部、前記化合物dの総含有量を(d)質量部としたとき、(d)が0.3より大きく、且つ、1<(e)/(d)≦50の関係を満たす。
【化1】
(式(1)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のC5-C10の炭化水素基を示す。)
【化2】
(式(2)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のC6-C7の炭化水素基を示し、n1は、1又は2を示す。)
【化3】
(式(3)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のC7-C12の炭化水素基を示す。)
【化4】
(式(4)中、Rは、フェニル基又はベンジル基を示し、n2は、1又は2を示す。)
【化5】
(式(5)中、Rは、水素原子又はメチル基を示す。)
【化6】
(式(6)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のC1-C4の炭化水素基を示し、n3は、1又は2を示す。)
【0011】
2)
前記有機化合物が前記(A)の条件を満たし、且つ、1<(c)/(b)≦50の関係を満たす、1)に記載のインクジェット用インク。
【0012】
3)
前記着色剤が、顔料及び分散染料から選択される少なくとも1種を含む、1)又は2)に記載のインクジェット用インク。
【0013】
4)
1)~3)のいずれか1項に記載のインクジェット用インクの液滴をインクジェットヘッドから吐出させて印刷メディアに記録を行う、インクジェット記録方法。
【0014】
5)
前記印刷メディアが、インク難吸収性又はインク非吸収性の印刷メディアである、4)に記載のインクジェット記録方法。
【0015】
6)
前記インクジェットヘッドが、循環機構を備えているヘッドである、4)又は5)に記載のインクジェット記録方法。
【0016】
7)
1)~3)のいずれか1項に記載のインクジェット用インクと、該インクジェット用インクとは異なる他のインクジェット用インクとを備える、インクセット。
【0017】
8)
1)~3)のいずれか1項に記載のインクジェット用インク、又は7)に記載のインクセットと、印刷メディアとを備える、インクメディアセット。
【0018】
9)
1)~3)のいずれか1項に記載のインクジェット用インク、又は7)に記載のインクセットが備える各インクジェット用インクが付着した印刷メディア。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、インク非吸収性メディア上においても良好な濡れ性を示し、且つ、乾燥性にも優れたインクジェット用インク、そのインクジェット用インクを用いたインクジェット記録方法、そのインクジェット用インクを備えるインクセット、そのインクジェット用インク又はインクセットと印刷メディアとを備えるインクメディアセット、及びそのインクジェット用インク又はインクセットが備える各インクジェット用インクが付着した印刷メディアを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について詳細に説明する。
本明細書において、「C.I.」とは、「カラーインデックス」を意味する。
また、本明細書において、「アルキレン」、「プロピレン」、「アルキル」の用語は、特に断りのない限り、直鎖状及び分岐鎖状の両方の構造を包含する意味で使用する。
【0021】
<インクジェット用インク>
本実施形態に係るインクジェット用インク(以下、単に「インク」ともいう。)は、着色剤、該着色剤を除く有機化合物、及び水を含有する。以下、本実施形態に係るインクに含有される成分について詳細に説明する。なお、以下に説明する各成分は、そのうちの1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
[着色剤]
着色剤としては、顔料、分散染料、溶剤染料等の公知の着色剤を使用することができる。これらの中でも、顔料及び分散染料から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、顔料を含むことがより好ましい。
【0023】
顔料としては、無機顔料、有機顔料、体質顔料、中空粒子等が挙げられる。
【0024】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物、金属フェロシアン化物、金属塩化物等が挙げられる。
【0025】
本実施形態に係るインクが黒インクであり、且つ、着色剤が無機顔料である場合、該黒インクが含有する無機顔料としては、サーマルブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、ランプブラック、ガスブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの具体例としては、例えば、コロンビア・カーボン社製のRavenシリーズ;キャボット社製のMonarchシリーズ、Regalシリーズ、及びMogulシリーズ;オリオンエンジニアドカーボンズ社製のHiBlackシリーズ、ColorBlackシリーズ、Printexシリーズ、SpecialBlackシリーズ、及びNeroxシリーズ;三菱ケミカル(株)製のMAシリーズ、MCFシリーズ、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、及びNo.2300;等が挙げられる。
【0026】
本実施形態に係るインクが白インクであり、且つ、着色剤が無機顔料である場合、該白インクが含有する無機顔料としては、亜鉛、シリコン、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、ジルコニウム等の金属の酸化物、窒化物、又は酸化窒化物;ガラス、シリカ等の無機化合物;などが挙げられる。これらの中でも、二酸化チタン及び酸化亜鉛が好ましい。
【0027】
有機顔料としては、例えば、アゾ、ジスアゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ジオキサジン、ペリレン、ペリノン、チオインジゴ、アンソラキノン、キノフタロン等の各種の顔料が挙げられる。
【0028】
有機顔料の具体例としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、24、55、73、74、75、83、93、94、95、97、98、108、114、128、129、138、139、150、151、154、155、180、185、193、199、202、213等のイエロー顔料;C.I.Pigment Red 5、7、12、48、48:1、57、88、112、122、123、146、149、150、166、168、177、178、179、184、185、202、206、207、254、255、257、260、264、269、272等のレッド顔料;C.I.Pigment Blue 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、25、60、66、80等のブルー顔料;C.I.Pigment Violet 19、23、29、37、38、50等のバイオレット顔料;C.I.Pigment Orange 13、16、43、68、69、71、73等のオレンジ顔料;C.I.Pigment Green 7、36、54等のグリーン顔料;C.I.Pigment Black 1等のブラック顔料;などが挙げられる。これらの中でも、C.I.Pigment Blue 15:4が好ましい。
【0029】
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、ホワイトカーボン等が挙げられる。体質顔料は、他の着色剤と併用されることが多い。
【0030】
中空粒子としては、例えば、米国特許第4880465号明細書、特許第3562754号公報、特許第6026234号公報、特許第5459460号公報、特開2003-268694号公報、特許第4902216号公報等に記載されている公知の中空粒子を用いることができ、特に、白色顔料として用いることが好ましい。
【0031】
分散染料としては、例えば、C.I.Dispersから選択される染料が好ましい。その具体例としては、例えば、C.I.Dispers Yellow 9、23、33、42、49、54、58、60、64、66、71、76、79、83、86、90、93、99、114、116、119、122、126、149、160、163、165、180、183、186、198、200、211、224、226、227、231、237等のイエロー染料;C.I.Dispers Red 60、73、88、91、92,111、127、131、143、145、146、152、153、154、167、179、191、192、206、221、258、283等のレッド染料;C.I.Dispers Orange 9、25、29、30、31、32、37、38、42、44、45、53、54、55、56、61、71、73、76、80、96、97等のオレンジ染料;C.I.Dispers Violet 25、27、28、54、57、60、73、77、79、79:1等のバイオレット染料;C.I.Dispers Blue 27、56、60、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、202、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368等のブルー染料;などが挙げられる。
【0032】
溶剤染料としては、例えば、C.I.Solventから選択される染料が好ましい。
【0033】
着色剤の平均粒径は、30~300nmであることが好ましく、50~250nmであることがより好ましい。本明細書において平均粒径とは、レーザ光散乱法を用いて測定した粒子の平均粒径を指す。
【0034】
着色剤の含有率は、本実施形態に係るインクの総質量に対して、1~30質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、2~8質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
[有機化合物]
有機化合物は、下記(A)~(C)のいずれかの条件を満たす。
(A)
化合物a:下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物;
化合物b:下記式(3)で表される化合物及び下記式(4)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物;及び
化合物c:C4-C5のアルカンジオール、下記式(5)で表される化合物、及び下記式(6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物;
を含み、本実施形態に係るインク100質量部中における化合物aの総含有量を(a)質量部、化合物bの総含有量を(b)質量部、化合物cの総含有量を(c)質量部としたとき、(a)≦(c)、0.1≦(c)/(b)≦50の関係を満たす。
(B)
化合物a:下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物;
化合物b:下記式(3)で表される化合物及び下記式(4)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物;及び
化合物c:C4-C5のアルカンジオール、下記式(5)で表される化合物、及び下記式(6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物;
を含み、本実施形態に係るインク100質量部中における化合物aの総含有量を(a)質量部、化合物cの総含有量を(c)質量部としたとき、(a)が0.4より大きく、且つ、(a)>(c)の関係を満たす。
(C)
1,5-ペンタンジオール、及び下記式(1)におけるRがC5-C6の炭化水素基である化合物dを含み、本実施形態に係るインク100質量部中における1,5-ペンタンジオールの含有量を(e)質量部、化合物dの総含有量を(d)質量部としたとき、(d)が0.3より大きく、且つ、1<(e)/(d)≦50の関係を満たす。
【0036】
【化7】
【0037】
【化8】
【0038】
【化9】
【0039】
【化10】
【0040】
【化11】
【0041】
【化12】
【0042】
上記式(1)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のC5-C10の炭化水素基を示す。C5-C10の炭化水素基としては、例えば、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、2-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、ネオヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、n-ノニル基、イソノニル基、sec-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。Rとしては、直鎖状又は分岐鎖状のC5-C7の炭化水素基であることが好ましい。
【0043】
上記式(2)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のC6-C7の炭化水素基を示す。C6-C7の炭化水素基としては、例えば、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、ネオヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基等が挙げられる。Rとしては、直鎖状又は分岐鎖状のC6の炭化水素基であることが好ましい。上記式(2)中、n1は、1又は2を示し、2であることが好ましい。
【0044】
上記式(3)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のC7-C12の炭化水素基を示す。C7-C12の炭化水素基としては、例えば、n-ヘプチレン基、1-メチルヘキシレン基、2-メチルヘキシレン基、3-メチルヘキシレン基、1,5-ジメチルペンチレン基、2,4-ジメチルペンチレン基、n-オクチレン基、1-メチルヘプチレン基、2-メチルヘプチレン基、3-メチルヘプチレン基、4-メチルヘプチレン基、1,6-ジメチルヘキシレン基、2,5-ジメチルヘキシレン基、2-エチルペンチレン基、2-エチル-1-プロピルプロピレン基、n-ノニレン基、1-メチルオクチレン基、2-メチルオクチレン基、3-メチルオクチレン基、4-メチルオクチレン基、1,7-ジメチルヘプチレン基、2,6-ジメチルヘプチレン基、3,5-ジメチルヘプチレン基、2-ブチル-2-エチルプロピレン基、n-デシレン基、n-ウンデシレン基、n-ドデシレン基等が挙げられる。Rとしては、直鎖状又は分岐鎖状のC7-C9の炭化水素基であることが好ましい。
【0045】
上記式(4)中、Rは、フェニル基又はベンジル基を示し、フェニル基であることが好ましい。上記式(4)中、n2は、1又は2を示し、2であることが好ましい。
【0046】
上記式(5)中、Rは、水素原子又はメチル基を示し、水素原子であることが好ましい。
【0047】
上記式(6)中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のC1-C4の炭化水素基を示す。C1-C4の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。Rとしては、直鎖状又は分岐鎖状のC3-C4の炭化水素基であることが好ましい。また、上記式(6)中、n3は、1又は2を示し、2であることが好ましい。
【0048】
上記化合物aとしては、例えば、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、1,2-ウンデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘプチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘプチルエーテル等が挙げられ、1,2-ノナンジオール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、及びエチレングリコールモノヘキシルエーテルが好ましい。上記化合物aは、いずれも疎水性の高い化合物であり、インクが印刷メディア上に着弾した後、インク表面に配向しやすい性質を有している。この性質により、インクの表面張力を下げ、印刷メディア上でのインクの濡れ広がりを促進することで、優れた濡れ性が発揮されると考えられる。
【0049】
上記化合物bとしては、例えば、1,7-へプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル等が挙げられ、1,7-へプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、及びジエチレングリコールモノベンジルエーテルが好ましい。上記化合物bは、インクが印刷メディア上に着弾した後、インクと印刷メディアとの界面に配向しやすい性質を有している。この性質により、インクと印刷メディアとの界面にて生じる界面張力を下げ、印刷メディア上でのインクの濡れ広がりを促進することで、優れた濡れ性が発揮されると考えられる。
【0050】
上記化合物cとしては、例えば、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられ、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。上記化合物cは、親水性と疎水性とのバランスが取れた化合物であり、インク中に含まれる水、化合物a、b、dのいずれにも可溶な性質を有している。この性質により、インクの総質量中のうち大部分を水が占めている水性インクにおいても、化合物a、b、dを安定的に溶解させることが可能となり、インクが相分離を起こすのを防ぐことができると考えられる。
【0051】
上記化合物dとしては、例えば、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール等が挙げられる。上記化合物dは、いずれも疎水性の高い化合物であり、インクが印刷メディア上に着弾した後、インク表面及びインクと印刷メディアとの界面の双方に配向しやすい性質を有している。この性質により、インクの表面張力を下げ、且つ、インクと印刷メディアとの界面にて生じる界面張力をも下げ、印刷メディア上でのインクの濡れ広がりを促進することで、優れた濡れ性が発揮されていると考えられる。
【0052】
上記の条件(A)は、有機化合物が上記化合物a~cを含み、本実施形態に係るインク100質量部中における上記化合物aの総含有量を(a)質量部、上記化合物bの総含有量を(b)質量部、上記化合物cの総含有量を(c)質量部としたとき、(a)≦(c)、0.1≦(c)/(b)≦50の関係を満たすというものである。有機化合物が上記の条件(A)を満たす場合、上記(c)/(b)の値は、1を超え、且つ、50以下であることが好ましく、1を超え、且つ、50未満であることがより好ましく、5~30であることがさらに好ましく、6~20であることが特に好ましく、7~19であることが極めて好ましい。有機化合物が上記の条件(A)を満たす場合、本実施形態に係るインク100質量部中における上記化合物aの総含有量は、0.1~10質量部であることが好ましく、0.1~7質量部であることがより好ましく、0.1~5質量部であることがさらに好ましく、0.2~1.0質量部であることが特に好ましい。また、本実施形態に係るインク100質量部中における上記化合物bの総含有量は、0.05~10質量部であることが好ましく、0.05~8質量部であることがより好ましく、0.05~6質量部であることがさらに好ましい。また、本実施形態に係るインク100質量部中における上記化合物cの総含有量は、1~20質量部であることが好ましく、1~15質量部であることがより好ましく、1~10質量部であることがさらに好ましい。
【0053】
有機化合物が上記の条件(A)を満たすことで、インクの相溶性を担保しつつ、乾燥性とインク難吸収性メディア及びインク非吸収性メディアに対する濡れ性とを両立させることが可能となる。特に、上記(c)/(b)の値を0.1~50とすることで、化合物bがインク中で相分離せずに安定的に溶解し、また、インクが十分な濡れ性を発揮する傾向にある。
【0054】
上記の条件(B)は、有機化合物が上記化合物a~cを含み、本実施形態に係るインク100質量部中における上記化合物aの総含有量を(a)質量部、上記化合物cの総含有量を(c)質量部としたとき、(a)が0.4より大きく、且つ、(a)>(c)の関係を満たすというものである。有機化合物が上記の条件(B)を満たす場合、本実施形態に係るインク100質量部中における上記化合物aの総含有量は、0.4質量部を超え、且つ、4質量部以下であることが好ましく、0.5~4質量部であることがより好ましく、0.5~2質量部であることがさらに好ましい。また、本実施形態に係るインク100質量部中における上記化合物bの総含有量は、0.05~5質量部であることが好ましく、0.05~3質量部であることがより好ましく、0.05~2質量部であることがさらに好ましい。また、本実施形態に係るインク100質量部中における上記化合物cの総含有量は、0.1~3.5質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましく、0.1~2質量部であることがさらに好ましい。
【0055】
有機化合物が上記の条件(B)を満たすことで、インクの相溶性を担保しつつ、乾燥性とインク難吸収性メディア及びインク非吸収性メディアに対する濡れ性とを両立させることが可能となる。特に、(a)を0.4以下とすることで、化合物aがインク中で相分離せずに安定的に溶解し、また、インクが十分な乾燥性を発揮する傾向にある。
【0056】
上記の条件(C)は、有機化合物が1,5-ペンタンジオール及び上記化合物dを含み、本実施形態に係るインク100質量部中における1,5-ペンタンジオールの含有量を(e)質量部、化合物dの総含有量を(d)質量部としたとき、(d)が0.3より大きく、且つ、1<(e)/(d)≦50の関係を満たすというものである。有機化合物が上記の条件(C)を満たす場合、上記(e)/(d)の値は、2~30であることが好ましく、5~20であることがより好ましい。有機化合物が上記の条件(C)を満たす場合、本実施形態に係るインク100質量部中における1,5-ペンタンジオールの含有量は、0.3質量部を超え、且つ、20質量部以下であることが好ましく、0.5~10質量部であることがより好ましく、1~7質量部であることがさらに好ましい。また、本実施形態に係るインク100質量部中における上記化合物dの総含有量は、0.3~5質量部であることが好ましく、0.3~3質量部であることがより好ましく、0.4~2質量部であることがさらに好ましい。
【0057】
有機化合物が上記の条件(C)を満たすことで、インクの相溶性を担保しつつ、乾燥性とインク難吸収性メディア及びインク非吸収性メディアに対する濡れ性とを両立させることが可能となる。特に、上記(e)/(d)の値を1超とすることで、化合物dがインク中で相分離せず、安定的に溶解する傾向にあり、上記(e)/(d)の値を50以下とすることで、インクが十分な濡れ性を発揮する傾向にある。また、上記(d)を0.3超とすることで、インクが十分な濡れ性を発揮する傾向にあり、上記(d)を4以下とすることで、インク中で化合物dが相分離せずに安定的に溶解し、また、インクが十分な乾燥性を発揮する傾向にある。
【0058】
[水]
水としては、金属イオン等の不純物の含有量が少ない水、すなわち、イオン交換水、蒸留水等が好ましい。
【0059】
水の含有率は、本実施形態に係るインクの総質量に対して、50~90質量%であることが好ましく、60~90質量%であることがより好ましく、70~90質量%であることがさらに好ましい。
【0060】
[その他の成分]
本実施形態に係るインクは、必要に応じて、分散剤、有機溶剤、界面活性剤、防黴剤、防腐剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、消泡剤、水溶性紫外線吸収剤、酸化防止剤、樹脂エマルション等のインク調製剤を含有していてもよい。各インク調製剤の含有量は、インクの用途等に応じて任意に設定することができる。
【0061】
(分散剤)
分散剤としては、例えば、スチレン及びその誘導体;ビニルナフタレン及びその誘導体;α,β-エチレン性不飽和性カルボン酸の脂肪族アルコールエステル;(メタ)アクリル酸及びその誘導体;マイレン酸及びその誘導体;イタコン酸及びその誘導体;ファール酸及びその誘導体;酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びそれらの誘導体;等のモノマーから選択される少なくとも2種類のモノマー(好ましくは、このうち少なくとも1種類が親水性のモノマー)から構成される共重合体が挙げられる。親水性のモノマーとしては、アクリル酸やメタクリル酸など、重合後にカルボキシ基が残るモノマーが挙げられる。
【0062】
このような共重合体としては、例えば、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらの中でも、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、及びポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体が好ましく、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、及び(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体がより好ましく、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体がさらに好ましく、メタクリル酸エステル-メタクリル酸共重合体が特に好ましい。共重合体の種類としては、例えば、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、塩の形態であってもよい。
【0063】
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」の用語は、「アクリル」及び「メタクリル」の両方を含む意味で用いる。「(メタ)アクリレート」等も同様である。
【0064】
分散剤は、合成することも市販品として入手することもできる。
【0065】
合成により得られる分散剤としては、例えば、国際公開第2013/115071号に開示されたA-Bブロックポリマーが挙げられる。国際公開第2013/115071号に開示されたA-BブロックポリマーのAブロックを構成するモノマーは、(メタ)アクリル酸、及び直鎖状又は分岐鎖状のC4アルキル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種類のモノマーであり、メタクリル酸及びn-ブチルメタクリレートから選択される少なくとも1種類のモノマーが好ましく、これら2種類のモノマーを併用するのがより好ましい。また、国際公開第2013/115071号に開示されたA-BブロックポリマーのBブロックを構成するモノマーは、ベンジルメタクリレート及びベンジルアクリレートから選択される少なくとも1種類のモノマーであり、ベンジルメタクリレートが好ましい。A-Bブロックポリマーの具体例としては、国際公開第2013/115071号の合成例3~8に開示されたブロック共重合体が挙げられる。
【0066】
市販品として入手可能な分散剤としては、例えば、Joncyrl 62、67、68、678、687(BASF社製のスチレン-アクリル系共重合体);アロンAC-10SL(東亜合成(株)製のポリアクリル酸);BYKJET 9151、9152、9170、9171(BYK社製の湿潤分散剤);等が挙げられる。
【0067】
分散剤の質量平均分子量(MW)は、3000~50000であることが好ましく、7000~25000であることがより好ましい。分散剤の質量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフ法(GPC法)により測定することができる。具体的には、GPC装置としてHLC-8320GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSK gel Super MultIpore HZ-H(東ソー(株)製、内径4.6mm×15cm)を2本用い、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、標準試料としてTSK Standard(東ソー(株)製)を用いて測定することができる。
【0068】
分散剤の酸価は、50~300mgKOH/gであることが好ましく、80~275mgKOH/gであることがより好ましく、80~250mgKOH/gであることがさらに好ましい。
【0069】
分散剤は、着色剤と混合した状態で使用することができる。また、着色剤の表面の一部又は全部を分散剤で被覆した状態で使用することもできる。あるいは、これらの両方の状態を併用してもよい。
【0070】
本実施形態に係るインクが分散剤を含有する場合、着色剤の総質量に対する分散剤の総質量の比は、0.01~1.0であることが好ましく、0.05~0.6であることがより好ましく、0.1~0.5であることがさらに好ましい。
【0071】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1-C6アルカノール;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルピロリジン-2-オン等のラクタム;1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オン又は1,3-ジメチルヘキサヒドロピリミド-2-オン等の環式尿素類;アセトン、2-メチル-2-ヒドロキシペンタン-4-オン、エチレンカーボネート等のケトン、ケトアルコール、又はカーボネート;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール(好ましくは、分子量400、800、1540、又はそれ以上のもの)、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール等のC2-C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ、若しくはポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ジグリセリン、ヘキサン-1,2,6-トリオール、トリメチロールプロパン等のC3-C9ポリオール(トリオール);エチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル(好ましくは、C7-C10のトリエチレングリコールエーテル、又はC4-C13のモノ、ジ、若しくはトリプロピレングリコールエーテル);1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のC6-C9アルカンジオール(但し、上記式(1)、(3)に含まれるものを除く。);γ-ブチロラクトン;ジメチルスルホキシド;等が挙げられる。
【0072】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系、シリコーン系、及びフッ素系の各界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、シリコーン系及びフッ素系から選択される界面活性剤が好ましく、生体や環境への安全性の観点からはシリコーン系界面活性剤がより好ましい。
【0073】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N-アシルアミノ酸又はその塩、N-アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0074】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(例えば、花王(株)製のエマルゲン A-60、A-90、A-500)等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレングリコール(又はアセチレンアルコール)系(例えば、エボニックジャパン(株)製のサーフィノール 104、104PG50、82、420、440、465、485;オルフィン STG;等);ポリグリコールエーテル系;などが挙げられる。
【0075】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。その一例としては、エアープロダクツ社製のダイノール 960、980;日信化学工業(株)製のシルフェイス SAG001、SAG002、SAG003、SAG005、SAG503A、SAG008、SAG009、SAG010;BYK社製のBYK-345、347、348、349、3450(別名:BYKLPX 23289)、3451(別名:BYKLPX 23347)、3455、LP-X23288、LP G20726;Evonic Tego Chemie社製のTEGO Twin 4000、TEGO Wet KL 245、250、260、265、270、280;等が挙げられる。
【0076】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。市販品としては、例えば、Chemours社製のCapstone FS-30、FS-31等が挙げられる。
【0077】
(防黴剤)
防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン-1-オキシド、p-ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン及びその塩等が挙げられる。
【0078】
(防腐剤)
防腐剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリールスルホン系、ヨードプロパギル系、ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8-オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物の具体例としては、例えば、ペンタクロロフェノールナトリウム等が挙げられる。ピリジンオキシド系化合物の具体例としては、例えば、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム等が挙げられる。イソチアゾリン系化合物の具体例としては、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンマグネシウムクロライド、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤の具体例としては、例えば、無水酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、アーチケミカル社製の商品名プロクセルGXL(S)、プロクセルLV、プロクセルXL-2(S)等が挙げられる。
【0079】
(pH調整剤)
pH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;ケイ酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;リン酸二ナトリウム等の無機塩基;などが挙げられる。
【0080】
(キレート試薬)
キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0081】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0082】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、シリコーン系、シリカ鉱物油系、オレフィン系、アセチレン系等の化合物が挙げられる。市販の消泡剤としては、例えば、信越化学工業(株)製のサーフィノールDF37、DF58、DF110D、DF220、MD-20、オルフィンSK-14等が挙げられる。
【0083】
(水溶性紫外線吸収剤)
水溶性紫外線吸収剤としては、例えば、スルホ化されたベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ-ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。
【0084】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機系の褪色防止剤としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、複素環類等が挙げられる。
【0085】
(樹脂エマルション)
本実施形態に係るインクは、印刷メディアに対するインクの定着性向上を目的として、樹脂エマルションを含有していてもよい。本実施形態に係るインクが樹脂エマルションを含有することで、印刷メディアに印刷した画像の耐水性、耐擦過性、耐アルコール性等の画像堅牢度が向上する傾向にある。樹脂エマルションとしては、ポリマーエマルション及びワックスエマルションから選択される少なくとも1種が好ましい。
【0086】
ポリマーエマルションとしては、例えば、ウレタン系、ポリエステル、アクリル系、酢酸ビニル系、塩化ビニル系、スチレン-アクリル系、アクリル-シリコーン系、スチレン-ブタジエン系の各ポリマーを含有するエマルションが挙げられる。これらの中でも、ウレタン系、アクリル系、及びスチレン-ブタジエン系から選択されるポリマーのエマルションが好ましい。
【0087】
ポリマーエマルションの市販品としては、例えば、スーパーフレックス 420、470、890(以上、第一工業製薬(株)製のウレタン系樹脂エマルション);ハイドラン HW-350、HW-178、HW-163、HW-171、AP-20、AP-30、WLS-201、WLS-210(以上、DIC(株)製のウレタン系樹脂エマルション);0569、0850Z、2108(以上、JSR(株)製のスチレン-ブタジエン系樹脂エマルション);AE980、AE981A、AE982、AE986B、AE104(以上、(株)イーテック製のアクリル系樹脂エマルション);NeoCryl A-1105、A-1125、A-1127(以上、DSM Coating Resin社製のアクリル樹脂エマルション);NeoCryl A-655(DSM Coating Resin社製のスチレン-アクリル樹脂エマルション);等が挙げられる。
【0088】
ワックスエマルションとしては、天然ワックス又は合成ワックスを水性媒体に分散させたエマルションを用いることができる。
【0089】
天然ワックスエマルションとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;モンタンワックス等の褐炭系ワックス;カルナバワックス、キャンデリアワックス等の植物系ワックス;蜜蝋、ラノリン等の動植物系ワックス;などの各ワックスのエマルションが挙げられる。
【0090】
合成ワックスエマルションとしては、例えば、ポリアルキレンワックス(好ましくは、ポリC2-C4アルキレンワックス)、酸化ポリアルキレンワックス(好ましくは、酸化ポリC2-C4アルキレンワックス)、パラフィンワックス等のエマルションが挙げられる。これらの中でも、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、及びパラフィンワックスから選択されるワックスのエマルションが好ましい。
【0091】
ワックスの平均粒径は、インクジェットヘッドの目詰まりを防止するため、50nm~5μmであることが好ましく、100nm~1μmであることがより好ましい。
【0092】
ワックスエマルジョンの市販品としては、例えば、CERAFLOUR 925、929、950、991、AQUACER 498、515、526、531、537、539、552、1547、AQUAMAT 208、263、272;MINERPOL 221(以上、BYK社製);三井ハイワックス NL100、NL200、NL500、4202E、1105A、2203A、NP550、NP055、NP505(以上、三井化学(株)製);KUE-100、11(以上、三洋化学工業(株)製);HYTEC P-5300、E-6500、9015、6400(以上、東邦化学工業(株)製);等が挙げられる。
【0093】
本実施形態に係るインクが樹脂エマルションを含有する場合、その固形分としての含有率は、1~20質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましい。樹脂エマルションの固形分としての含有率を1質量%以上とすることで、印刷メディアに対する良好な定着性を示す傾向にある。また、樹脂エマルションの固形分としての含有率を20質量%以下とすることで、インクの吐出性及び保存安定性が良好となる傾向にある。
【0094】
[インクの調製方法等]
本実施形態に係るインクの調製方法としては、特に制限されず、公知の調製方法を採用することができる。その一例としては、例えば、着色剤及び分散剤を含有する分散液を調製し、この分散液に、水、上記化合物a~c等の有機化合物、及び必要に応じてインク調製剤を加えて混合する方法が挙げられる。
【0095】
分散液の調製方法としては、例えば、転相乳化法、酸析法、界面重合法、in-situ重合法、液中硬化被膜法、コアセルベーション(相分離)法、液中乾燥法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等が挙げられる。これらの中でも、転相乳化法、酸析法、及び界面重合法が好ましく、転相乳化法がより好ましい。
【0096】
転相乳化法により分散液を調製する場合、例えば、2-ブタノン等の有機溶剤に分散剤を溶解し、中和剤の水溶液を加えて乳化液を調製する。得られた乳化液に着色剤を加えて分散処理を行う。このようにして得られた液から有機溶剤と一部の水とを減圧留去することにより、目的とする分散液を得ることができる。
【0097】
分散処理は、サンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等を用いて行うことができる。例えば、サンドミルを用いるときは、粒子径0.01~1mm程度のビーズを使用し、ビーズの充填率を適宜設定して分散処理を行うことができる。上記のようにして得られた分散液に対して、濾過、遠心分離等の操作をすることにより、分散液に含有される粒子の粒子径を揃えることができる。分散液の調製中に泡立ちが生じるときは、公知のシリコーン系、アセチレングリコール系等の消泡剤を極微量加えることができる。
【0098】
本実施形態に係るインクは、金属陽イオンの塩化物(例えば、塩化ナトリウム)、金属硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム)等の無機不純物の含有率が少ないことが好ましい。このような無機不純物は、市販品の着色剤に含まれることが多い。無機不純物の含有率の目安は、おおよそ着色剤の総質量に対して1質量%以下程度であり、下限は分析機器の検出限界以下、すなわち0質量%が理想である。無機不純物の少ない着色剤を得る方法としては、例えば、逆浸透膜を用いる方法;着色剤の固体をメタノール等のC1-C4アルコール及び水の混合溶媒中で懸濁撹拌し、着色体を濾過分離して、乾燥する方法;イオン交換樹脂で無機不純物を交換吸着する方法;等が挙げられる。
【0099】
本実施形態に係るインクは、精密濾過しておくことが好ましい。精密濾過には、メンブランフィルター、ガラス濾紙等を用いることができる。精密濾過を行うときのフィルター等の孔径は、通常0.5~20μm、好ましくは0.5~10μmである。
【0100】
本実施形態に係るインクは、保存安定性、再分散性、発色性、及び彩度にも優れる。また、本実施形態に係るインクを用いて記録された印刷画像は、耐光性、耐熱性、耐酸化ガス性(例えば、耐オゾンガス性)等の各種堅牢性にも優れる。また、本実施形態に係るインクは、画像形成の際の塗工ムラが少なく、画像形成性にも優れる。
【0101】
<インクセット、インクメディアセット>
本実施形態に係るインクセットは、上述した本実施形態に係るインクと、該インクとは異なる他のインクとを備えるものである。他のインクとしては、本実施形態に係るインクと構成が異なるものであれば特に限定されないが、本実施形態に係るインクと色相が異なるものが好ましい。
【0102】
また、本実施形態に係るインクセットは、上述した本実施形態に係るインク又はインクセットと、印刷メディアとを備えるものである。
【0103】
印刷メディアとしては、特に制限されないが、インク難吸収性又はインク非吸収性の印刷メディアが好ましく、インク非吸収性の印刷メディアがより好ましい。インク難吸収性の印刷メディアとしては、例えば、インク受容層を有しない普通紙、グラビア印刷やオフセット印刷等に用いられるメディア、アート紙、コート紙、マット紙、キャスト紙等が挙げられる。また、インク非吸収性の印刷メディアとしては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PP(ポリプロピレン)フィルム、塩化ビニルシート、ガラス、ゴム等が挙げられる。
【0104】
<インクジェット記録方法>
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、上述した本実施形態に係るインクの液滴をインクジェットヘッドから吐出させて印刷メディアに記録を行うものである。インクの吐出を行うインクジェットプリンタのインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0105】
本実施形態に係るインクジェット記録方法には、インク中の着色剤の含有率の低いインクを小さい体積で多数射出して画質を改良する方法;実質的に同じ色相で、インク中の着色剤の含有率が異なる複数のインクを用いて画質を改良する方法;無色透明のインクと、着色剤を含有するインクとを併用することにより、印刷メディアに対する着色剤の定着性を向上させる方法;等も含まれる。
【0106】
インクジェット記録方式としては、公知の方式を採用することができる。その一例としては、例えば、電荷制御方式、ドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式ともいう。)、音響インクジェット方式、サーマルインクジェット方式等が挙げられる。また、インクジェット記録方式は、マルチパス方式及びシングルパス方式(1パス印刷方式)のいずれであってもよい。産業用インクジェットプリンタにおいては、印刷速度を高速にする目的で、ラインヘッド型のインクジェットプリンタを用いたシングルパスでの印刷も好ましく行われる。また、近年、ノズル付近までインクを循環させることによりノズル近傍でのインクの乾燥を防ぐ機構をもつ循環ヘッドが盛んに開発されている。本実施形態に係るインクは、このような循環ヘッドにも好適に使用される。
【0107】
印刷メディアに記録するときは、例えば、インクを含有する容器(インクタンク)をインクジェットプリンタの所定の位置に装填し、上記の印刷方法で印刷メディアに記録する。なお、各色のインクを含有する容器をインクジェットプリンタの所定の位置に装填し、上記の印刷方法で印刷メディアに記録することにより、フルカラーの印刷を実現することもできる。
【0108】
なお、インク受容層を有しない印刷メディアを用いるときは、表面改質処理を施すことも好ましく行われる。表面改質処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理等が挙げられる。表面改質処理の効果は、経時的に減少していくことが一般的に知られている。このため、表面改質処理工程とインクジェット記録工程とを連続して行うことが好ましく、表面改質処理工程をインクジェット記録工程の直前に行うことがより好ましい。
【0109】
上述した全ての事項について、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましく、より好ましいもの同士の組み合わせはさらに好ましい。好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ、より好ましいものとさらに好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
【実施例
【0110】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、実施例により限定されるものではない。以下において、実施例21、22はいずれも参考例と読み替えるものとする。
【0111】
実施例においては、特に断りのない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%をそれぞれ意味する。また、分散液中の顔料固形分の定量が必要なときは、(株)エイ・アンド・デイ製のMS-70を用い、乾燥重量法により求めた。顔料固形分は、固形分の全量から、顔料固形分のみを算出した換算値である。
【0112】
<調製例1:シアン分散液1の調製>
国際公開第2013/115071号の合成例3を追試することにより、ブロック共重合体を得た。得られたブロック共重合体の酸価は105mgKOH/g、質量平均分子量は25000であった。得られたブロック共重合体(6部)を2-ブタノン(30部)に溶解させ、均一な溶液とした。この液に、28%アンモニア水溶液(0.68部)をイオン交換水(53部)に溶解させた液を加え、1時間撹拌して乳化液を得た。この乳化液にC.I.Pigment Blue 15:4(大日精化工業(株)製、CHROMOFINE BLUE 4851)(20部)を加え、1500rpmの条件下で15時間、サンドグラインダー中で分散処理を行った。得られた液にイオン交換水(100部)を滴下し、濾過して分散用ビーズを取り除いた後、エバポレータで2-ブタノン及び水の一部を減圧留去し、顔料固形分12%のシアン分散液1を得た。
【0113】
<調製例2:シアン分散液2の調製>
BYKJET 9151(BYK社製)(8部)をイオン交換水(72部)に溶解し、1時間撹拌した。得られた溶液にC.I.Pigment Blue 15:4(大日精化工業(株)製、Chromofine blue 4851)(20部)を加え、1500rpmの条件下で15時間、サンドグラインダー中で分散処理を行った。得られた液にイオン交換水(70部)を滴下し、濾過して分散用ビーズを取り除くことにより、顔料固形分11.6%のシアン分散液2を得た。
【0114】
<調製例3:シアン分散液3の調製>
Joncyrl 68(BASF社製、質量平均分子量:13000)(9部)及びトリエタノールアミン(6部)をイオン交換水(75部)に溶解し、1時間撹拌した。得られた溶液にC.I.Pigment Blue 15:4(大日精化工業(株)製、Chromofine blue 4851)(30部)を加え、1500rpmの条件下で15時間、サンドグラインダー中で分散処理を行った。得られた液にイオン交換水(40部)を滴下し、濾過して分散用ビーズを取り除くことにより、顔料固形分18.7%のシアン分散液3を得た。
【0115】
<実施例1~27及び比較例1~12>
調製例1~3で得たシアン分散液1~3を、下記表1~3に記載の各成分と混合した後、孔径3μmのメンブランフィルターで濾過することにより、実施例1~27及び比較例1~12の各インクを得た。インクの総質量中における着色剤の含有率は、いずれも3.5%となるように調整した。表1~3中の各成分の欄の数値はその成分の使用量(部)を表し、「-」はその成分を使用していないことを意味する。
【0116】
表1~3中の樹脂エマルションの詳細は以下のとおりである。
A-1127:NeoCryl A-1127(アクリル樹脂エマルション、DSM Coating Resin社製、固形分44.0%)
P5300:HYTEC P-5300(ポリプロピレンワックスエマルション、東邦化学工業(株)製、固形分30.5%)
AQ-515:AQUACER 515(ポリエチレンワックスエマルション、BYK社製、固形分34.6%)
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
<評価>
[相溶性評価]
実施例1~27及び比較例1~12の組成のうちシアン分散液以外の材料を含む混合液を調製し、混合液の相溶性を評価した。結果を下記表4~6に示す。相溶性が不足しているとインクの均一性が低下し、濡れ性の効果を十分に発揮できなくなるため、下記評価基準がAであることが実用上好ましい。
-相溶性評価基準-
A:均一であり完全に混合している状態
B:液面に油滴はないが、懸濁しており、完全には溶解していない状態
C:混合液の液面に油滴が浮いており、完全には溶解していない状態
D:混合液中の成分が分離しており、全く溶解していない状態
【0121】
[接触角測定]
PETフィルム(東洋紡(株)製、E5102)を基材として使用し、上記で得た各インクとPETフィルムとの接触角を測定し、下記評価基準に従って評価した。具体的には、接触角計としてDM-501Hi(協和界面科学(株)製)を使用し、液滴量を2μLとして、インク着弾10秒後の接触角を25℃で測定した。結果を下記表4~6に示す。接触角の数値が低い程、PETフィルムに対してインクがよく濡れ広がっていることを意味するため、下記評価基準がB以上であることが実用上好ましい。下記表6中、「-」は、インク材料が混合しないため、インクとしての評価が不可であったことを示す。
-接触角評価基準-
A:接触角≦15°
B:15°<接触角≦20°
C:20°<接触角≦30°
D:30°<接触角
【0122】
[乾燥性評価]
PETフィルム(東洋紡(株)製、E5102)を基材として使用し、上記で得た各インクをマイクロピペットにて20μL滴下し、70℃条件下にて静置した。フィルムを5分おきに取り出し、別の新たなPETフィルムをインク滴の載ったPETフィルムの上に静かに重ねて10秒静置後に剥がした。その際、インクが上に重ねたPETフィルムに転写したか否かを確認し、転写が起こらなくなった時点での70℃条件下に置かれていた時間を乾燥時間とし、下記評価基準に従って評価した。結果を下記表4~6に示す。下記評価基準がB以上であることが実用上好ましい。下記表6中、「-」は、インク材料が混合しないため、インクとしての評価が不可であったことを示す。
-乾燥性評価基準-
A:乾燥時間≦15分
B:15分<乾燥時間≦30分
C:30分<乾燥時間≦60分
D:60分<乾燥時間
【0123】
【表4】
【0124】
【表5】
【0125】
【表6】
【0126】
上記表4~6に示すとおり、実施例1~27のインクは、比較例1~12のインクに比べてPETフィルムに対する濡れ性に優れており、相溶性及び乾燥性についても同等以上であった。この結果から、実施例1~27のインクは、相溶性、濡れ性、及び乾燥性を兼ね備えた優れたインクであることが分かる。