(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援システム及び行動支援方法
(51)【国際特許分類】
G16H 20/00 20180101AFI20230322BHJP
【FI】
G16H20/00
(21)【出願番号】P 2018222467
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-11-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、総務省北陸総合通信局、戦略的情報通信研究開発推進事業「発達障害児者の個人特性に応じた教育支援システムの開発研究」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110814
【氏名又は名称】高島 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】小越 咲子
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】小越 康宏
【審査官】森田 充功
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-059261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者が使用する被験者端末機と前記被験者の支援を行う支援者が使用する支援者端末機、前記被験者端末機及び前記支援者端末機と通信回線を介して接続された管理者サーバと、前記被験者端末機及び前記支援者端末機によって収集され、疾病・障害の分類に応じて予め規定された
疾病・障害コードであるICFコード又はICDコードが紐づけられた前記被験者に関するデータを記録するデータベースとを有し、前記データベースに蓄積された前記データに基づいて個々の被験者の個性に応じた支援の補助を行う行動支援システムにおいて、
前記被験者及び前記支援者とは別の第三者が使用する第三者端末機と、
前記データのうち、前記被験者端末機及び前記支援者端末機を介して、被験者及び支援者を含む予め指定された関係者のみへの公開が許可される第一のデータを記録する第一のデータベースと、
前記データのうち、前記第三者端末機を介して前記第三者にも公開されて利用が許可される第二のデータを記録する第二のデータベース
とを有する前記データベースと、
前記通信回線を介して前記管理者サーバと前記第三者端末機との通信を可能にし、前記管理者サーバを介して前記第三者端末機と前記第二のデータベースとを通信可能にすることで、前記第三者による前記第二のデータの利用を可能とし、前記第三者による前記被験者の支援を行う支援手段の開発を促すAPI(Application Programming Interface)機能を備えたインターフェースと、
を有し、
前記管理者サーバは、
(i) 前記支援者端末又は前記被験者端末から入力された、前記被験者ごとに予め決定されたチェックすべき複数の行動項目と、前記行動項目ごとに紐づけされた一つ又は複数のICFコード又はICDコードとを、データ化して前記被験者ごとに前記第二のデータベースに記録し、
(ii) 前記支援者端末又は前記被験者端末から入力された、前記被験者の前記行動項目ごとの経時的な評価を、データ化して前記第二のデータベースに記録し、
(iii) 前記第三者端末機から、前記インターフェースを介して、第三者が開発しようとする前記支援手段に紐づけられた特定のICFコード又はICDコードに関するデータの開示要求があったときに、前記特定のICFコード又はICDコードに紐づけられて前記第二のデータベースに記録された開示可能な前記被験者に関するデータと、前記被験者ごとの前記行動項目及び前記評価に関するデータを、前記第二のデータとして前記第二のデータベースから読み出して前記第三者端末機に送信し、
(iv) 前記第三者端末機に、前記第三者による前記特定のICFコード又はICDコードに関わる支援手段の開発を促すように前記第二のデータを表示させる
機能を有すること、
を特徴とする疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援システム。
【請求項2】
前記第三者が開発した前記支援手段に、支援しようとする行動項目に関連する一つ又は複数の
ICFコード又はICDコードを紐付けしたことを特徴とする請求項
1に記載の疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援システム。
【請求項3】
前記複数の
ICFコード又はICDコードについて、前記行動項目に関連性の高いものから順に重み付けを行ったことを特徴とする請求項
1又は2に記載の疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援システム。
【請求項4】
一の前記第三者の開発した前記支援手段を他の前記第三者、前記被験者又は前記支援者が利用又は閲覧できるように、
前記管理者サーバ及び前記インターフェースを介して
、他の前記第三者の第三者端末機、前記被験者端末機又は前記支援者端末を通信可能に接続したことを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援システム。
【請求項5】
複数の前記支援手段に紐付けられた
ICFコード又はICDコードと、被験者の行動項目に紐付けられた
ICFコード又はICDコードとから、最適な支援手段がどれなのかを判断する判断手段を備えたことを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援システム。
【請求項6】
別の行動支援システムの前記第一のデータベース及び/又は第二のデータベースに記録されている共通の被験者の行動項目について、
ICFコード又はICDコードの共通性から前記別の行動支援システムとの間で行動項目の関連性を判断し、関連している行動項目についての前記データを前記別の行動支援システムとの間で共有するように機能する類似性判断・リンク機構を備えることを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援システム。
【請求項7】
被験者が使用する被験者端末機と前記被験者の支援を行う支援者が使用する支援者端末機、前記被験者端末機及び前記支援者端末機と通信回線を介して接続された管理者サーバと、前記被験者端末機及び前記支援者端末機によって収集され、疾病・障害
に関するICFコード又はICDコードが紐づけられた前記被験者に関するデータを記録するデータベースとを準備し、前記データベースに蓄積された前記データに基づいて個々の被験者の個性に応じた支援の補助を行う行動支援方法において、
前記データのうち、前記被験者端末機及び前記支援者端末機を介して、被験者及び支援者を含む予め指定された関係者のみに公開が許可される第一のデータを記録する第一のデータベースと、前記データのうち、前記第三者端末機を介して前記被験者及び前記支援者以外の第三者にも公開されて利用が許可される第二のデータを記録する第二のデータベースとを有する前記データベースと、
前記通信回線を介して前記管理者サーバと前記第三者端末機との通信を可能にし、前記管理者サーバを介して前記第三者端末機と前記第二のデータベースとを通信可能にすることで、前記第三者による前記第二のデータの利用を可能とし、前記第三者による前記被験者の支援を行う支援手段の開発を促すAPI(Application Programming Interface)機能を備えたインターフェースと
を準備し、
前記第二のデータベースには、前記被験者端末機及び前記支援者端末機から、前記第二のデータとして前記被験者ごとに設定された行動項目及びこの行動項目に関連して紐付けられた複数の
ICFコード又はICDコードからなる関連
ICFコード又はICDコード群が入力され、
前記管理者サーバは、
(i) 前記支援者端末又は前記被験者端末から入力された、前記被験者ごとに予め決定されたチェックすべき複数の行動項目と、前記行動項目ごとに紐づけされた一つ又は複数のICFコード又はICDコードとを、前記第二のデータとして前記被験者ごとに前記第二のデータベースに記録し、
(ii) 前記支援者端末又は前記被験者端末から入力された、前記被験者の前記行動項目ごとの経時的な評価を、前記第二のデータとして前記第二のデータベースに記録し、
(iii) 前記第三者端末機から、前記インターフェースを介して特定のICFコード又はICDコードに関するデータの開示要求があったときに、前記特定のICFコード又はICDコードに紐づけられた前記第二のデータベースに記録された開示可能な前記被験者に関するデータと前記被験者ごと前記行動項目及び前記評価に関するデータとを、前記第二のデータとして前記第二のデータベースから読み出して前記第三者端末機に送信し、
(iv) 前記第三者端末機に、前記第三者による前記特定のICFコード又はICDコードに関わる支援手段の開発を促すように表示させること、
を特徴とする疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援方法。
【請求項8】
前記管理者サーバは、複数の前記支援手段に紐付けられた
ICFコード又はICDコードと、被験者の行動項目に紐付けられた
ICFコード又はICDコードとから、一の被験者について最適な支援手段がどれなのかを判断することを特徴とする請求項
7に記載の疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援方法。
【請求項9】
前記複数の
ICFコード又はICDコードについて、前記行動項目に関連性の高いものから順に重み付けを行ったことを特徴とする請求項
8のいずれかに記載の疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援方法。
【請求項10】
前記第一のデータ及び前記第二のデータを管理する別の行動支援システムと連携し、前記別の行動支援システムの前記第一のデータ及び前記第二のデータの共通の被験者の行動項目について、
前記管理者サーバが前記ICFコード又はICDコードの共通性から前記別の行動支援システムとの間で行動項目の関連性を判断し、関連している行動項目についての前記第一のデータ及び/又は前記第二のデータを前記別の行動支援システムとの間で共有することを特徴とする請求項
7~9のいずれかに記載の疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばICFコードやICDコードなどの疾病・障害コードを用いて、精神疾患者や発達障害児、認知症高齢者などを含む被験者の行動のチェックリストを作成し、前記チェックリストから得点化した行動データに基づいて、被験者を様々な視点から捉えて被験者の個人特性に応じた適切な支援を行ったり、支援手段の開発を促進したりする行動支援システム及び行動支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病や傷害の分類に対して予め規定された疾病・障害コードとしては、例えば世界保健機構(WHO)が定めた国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health, ICF)や、疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:ICD)が知られている。
ここで、国際生活機能分類(ICF)は、健康状態、心身機能、障害の状態を相互影響関係および独立項目として分類し、当事者の視点による生活の包括的・中立的記述をねらいにする医療基準で、個人のあらゆる健康状態に関係した生活機能状態やその個人を取り巻く社会制度、社会資源等をアルファベットと数字を組み合わせてコード化(以下、ICFコード)したものである。 このICFコードによれば、身体及び生活全般の個人情報、すなわち、保健、医療、福祉サービス、ひいては社会システムのあり方の方向性を示す個人情報が、共通化されたルールに基づいて構築される。従って、このICFコードに基づく個人情報(ICF情報)がデータベース化されると、工学分野、保健分野、医療分野、福祉分野を始めとする各種分野で有用となることが期待できる。
【0003】
本発明の発明者は、ICFコードを用いて、AD/HD(注意欠陥/多動性障害)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)などの子どもの発達障害について、発達障害児の個人特性に応じた教育支援システムの開発と、個人特性に適した支援教材や支援環境をマッチングするシステムの提案を、「発達障害児の個人特性に応じた教育支援システムの開発研究の紹介」として発表をしている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】ニューサイエンス社発行Medical Sience Digest 2017年43巻9月号(通巻569号)P9~P14 小越咲子・小越康宏著「発達障害児の個人特性に応じた教育支援システムの開発研究の紹介」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、今後、精神疾患者や発達障害児、認知症高齢者など疾病・障害を有する被験者の様々な個人特性に応じた適切な支援を行うには、ICFコードやICDコードなどの疾病・障害コードとともに収集された被験者の前記個人情報を有効に活用し、多面的な視野から分析を行うことが望まれる。また、精神疾患者や発達障害児、認知症高齢者に限らず、知的障害者や身体障害者、傷病によるリハビリ中の患者などにも適用が可能な被験者の行動支援システムや行動支援方法の開発が望まれている。
本発明は、このような要求に応えるためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的を達成するために、本発明の発明者は近年利用が促進されつつあるIoT(Internet of Things)に着目した。また、IoTによって収集されたデータの利用を促進し、支援装置や支援方法の開発を促進・拡大するために、API(Application Programming Interface)を利用することとした。情報の収集とデータベースへの入力は、データベースにネットワークで接続された被験者(発達障害の児童生徒、高齢者、知的障害者、身体障害者、傷病によるリハビリ中の患者など)、保護者、教師、専門家(医師、療法士、教育専門家を含む)及びその他の支援者が、パーソナルコンピュータ(PC)、スマートフォン、タブレット端末等の被験者端末機又は支援者端末機で行う。そして、このようにして収集されデータベースに蓄積されたデータは、API等のインターフェースを介して被験者や支援者以外の第三者にも公開され、種々の支援アプリケーションや支援機器、支援方法などの支援手段の開発を促進するとともに、開発された種々のアプリケーションや支援機器を通して、被験者自身の支援だけでなく、支援者による被験者の支援にも役立てられる。
【0007】
具体的に本発明の疾病・障害コードを用いた被験者の行動支援システムは、請求項1に記載するように、被験者が使用する被験者端末機と前記被験者の支援を行う支援者が使用する支援者端末機、前記被験者端末機及び前記支援者端末機と通信回線を介して接続された管理者サーバと、前記被験者端末機及び前記支援者端末機によって収集され、疾病・障害の分類に応じて予め規定された疾病・障害コードであるICFコード又はICDコードが紐づけられた前記被験者に関するデータを記録するデータベースとを有し、前記データベースに蓄積された前記データに基づいて個々の被験者の個性に応じた支援の補助を行う行動支援システムにおいて、前記被験者及び前記支援者とは別の第三者が使用する第三者端末機と、前記データのうち、前記被験者端末機及び前記支援者端末機を介して、被験者及び支援者を含む予め指定された関係者のみへの公開が許可される第一のデータを記録する第一のデータベースと、前記データのうち、前記第三者端末機を介して前記第三者にも公開されて利用が許可される第二のデータを記録する第二のデータベースとを有する前記データベースと、前記通信回線を介して前記管理者サーバと前記第三者端末機との通信を可能にし、前記管理者サーバを介して前記第三者端末機と前記第二のデータベースとを通信可能にすることで、前記第三者による前記第二のデータの利用を可能とし、前記第三者による前記被験者の支援を行う支援手段の開発を促すAPI(Application Programming Interface)機能を備えたインターフェースと、を有し、前記管理者サーバは、(i) 前記支援者端末又は前記被験者端末から入力された、前記被験者ごとに予め決定されたチェックすべき複数の行動項目と、前記行動項目ごとに紐づけされた一つ又は複数のICFコード又はICDコードとを、データ化して前記被験者ごとに前記第二のデータベースに記録し、(ii) 前記支援者端末又は前記被験者端末から入力された、前記被験者の前記行動項目ごとの経時的な評価を、データ化して前記第二のデータベースに記録し、(iii) 前記第三者端末機から、前記インターフェースを介して、第三者が開発しようとする前記支援手段に紐づけられた特定のICFコード又はICDコードに関するデータの開示要求があったときに、前記特定のICFコード又はICDコードに紐づけられて前記第二のデータベースに記録された開示可能な前記被験者に関するデータと、前記被験者ごとの前記行動項目及び前記評価に関するデータを、前記第二のデータとして前記第二のデータベースから読み出して前記第三者端末機に送信し、(iv) 前記第三者端末機に、前記第三者による前記特定のICFコード又はICDコードに関わる支援手段の開発を促すように前記第二のデータを表示させる機能を有する構成としてある。
【0008】
この構成によれば、被験者の行動に関するデータは被験者や支援者から収集され、データベースに蓄積される。この際、前記データには、被験者の行動項目に応じて疾病・障害コードが紐付けられる。また、前記データは、被験者及び支援者を含む予め指定された関係者のみに公開される第一のデータと、支援アプリケーションや支援機器の開発者である第三者にも公開されて利用が許可される第二のデータとに分けられ、前記第一のデータは第一のデータベースに、前記第二のデータは第二のデータベースに記録される。
前記第三者は、前記第二のデータベースにアクセスして前記第二のデータを読み出し、必要な第二のデータを利用して支援アプリケーションや支援機器などの支援手段の開発を行うことができる。なお、前記第二のデータは前記第三者にも公開されることから、被験者を直接的又は間接的に特定できないような匿名性のあるデータであるのが好ましい。例えば被験者を特定できないような行動項目群や各行動項目に対応するICFデータ群又はICDデータ群などを挙げることができる。
【0010】
前記第三者は、関連疾病・障害コードであるICFコード又はICDコードに基づいて、支援機器や支援アプリケーション等の開発を行うことができる。
また、請求項2に記載するように、前記第三者が開発した前記支援手段に、支援しようとする行動項目に関連する一つ又は複数の関連疾病・障害コードであるICFコード又はICDコードを紐付けしてもよい。前記被験者や前記支援者は、複数の支援手段の中から、紐付けされた疾病・障害コードを手掛かりに、前記被験者の個性に応じた最適な支援手段を選択することが可能になる。
【0011】
また、請求項3に記載するように、一つの行動項目や一つの支援手段について複数のICFコード又はICDコードが紐付けされる場合には、当該行動項目や支援手段が支援しようとする行動項目について、関連性の高いものから順に重み付けを行うようにするとよい。このようにすることで、前記被験者の個性に応じた最適な支援手段を選択がより容易になる。
【0012】
また、請求項4に記載するように、一の前記第三者の開発した前記支援手段を他の前記第三者、前記被験者又は前記支援者が利用又は閲覧できるように、前記管理者サーバ及び前記インターフェースを介して、他の前記第三者の第三者端末機、前記被験者端末機又は前記支援者端末を通信可能とすれば、一の前記第三者が開発した前記支援手段を、他の前記第三者、前記被験者又は前記支援者が閲覧したり利用したりすることが可能になる。
例えば、一の第三者が開発した支援アプリケーションを、被験者や支援者が端末機にインストールして利用したり、支援機器の開発を行う別の第三者が、前記一の第三者の開発した支援アプリケーションや支援機器を閲覧又は利用等して、これら支援手段の改良や別の行動支援に転用したりすることが可能になる。
【0013】
請求項5に記載するように、複数の前記支援手段に紐付けられたICFコード又はICDコードと、被験者の行動項目に紐付けられたICFコード又はICDコードとから、最適な支援手段がどれなのかを判断する判断手段を設けてもよい。このようにすれば、複数の支援手段の中から当該被験者に最適な支援手段を選択することが可能になる。
【0014】
一人の被験者が学校や支援センター、病院、リハビリ施設、介護施設など、複数の支援施設を利用している場合において、各施設で個別に行動支援システムが運用されている場合、これらを相互にリンクさせることが、一人の被験者に対してより多面的なデータを収集することができる。
この際、別々の行動支援システムで別々の行動項目が定義されていることが多い。相互にリンクをさせるには、これら複数の行動支援システムについて前記行動項目を互いに関連付ける必要がある。そこで請求項6に記載の発明では、別の行動支援システムの前記第一のデータベース及び/又は第二のデータベースに記録されている共通の被験者の行動項目について、ICFコード又はICDコードの共通性から前記別の行動支援システムとの間で行動項目の関連性を判断し、関連している行動項目についての前記データを前記別の行動支援システムとの間で共有するように機能する類似性判断・リンク機構を備える構成としてある。
【0015】
本発明の課題は、請求項7~10に記載の支援方法によっても解決することができる。
請求項7に記載の発明は、被験者が使用する被験者端末機と前記被験者の支援を行う支援者が使用する支援者端末機、前記被験者端末機及び前記支援者端末機と通信回線を介して接続された管理者サーバと、前記被験者端末機及び前記支援者端末機によって収集され、疾病・障害に関するICFコード又はICDコードが紐づけられた前記被験者に関するデータを記録するデータベースとを準備し、前記データベースに蓄積された前記データに基づいて個々の被験者の個性に応じた支援の補助を行う行動支援方法において、
前記データのうち、前記被験者端末機及び前記支援者端末機を介して、被験者及び支援者を含む予め指定された関係者のみに公開が許可される第一のデータを記録する第一のデータベースと、前記データのうち、前記第三者端末機を介して前記被験者及び前記支援者以外の第三者にも公開されて利用が許可される第二のデータを記録する第二のデータベースとを有する前記データベースと、前記通信回線を介して前記管理者サーバと前記第三者端末機との通信を可能にし、前記管理者サーバを介して前記第三者端末機と前記第二のデータベースとを通信可能にすることで、前記第三者による前記第二のデータの利用を可能とし、前記第三者による前記被験者の支援を行う支援手段の開発を促すAPI(Application Programming Interface)機能を備えたインターフェースと を準備し、前記第二のデータベースには、前記被験者端末機及び前記支援者端末機から、前記第二のデータとして前記被験者ごとに設定された行動項目及びこの行動項目に関連して紐付けられた複数のICFコード又はICDコードからなる関連ICFコード又はICDコード群が入力され、前記管理者サーバは、(i) 前記支援者端末又は前記被験者端末から入力された、前記被験者ごとに予め決定されたチェックすべき複数の行動項目と、前記行動項目ごとに紐づけされた一つ又は複数のICFコード又はICDコードとを、前記第二のデータとして前記被験者ごとに前記第二のデータベースに記録し、(ii) 前記支援者端末又は前記被験者端末から入力された、前記被験者の前記行動項目ごとの経時的な評価を、前記第二のデータとして前記第二のデータベースに記録し、(iii) 前記第三者端末機から、前記インターフェースを介して特定のICFコード又はICDコードに関するデータの開示要求があったときに、前記特定のICFコード又はICDコードに紐づけられた前記第二のデータベースに記録された開示可能な前記被験者に関するデータと前記被験者ごと前記行動項目及び前記評価に関するデータとを、前記第二のデータとして前記第二のデータベースから読み出して前記第三者端末機に送信し、(iv) 前記第三者端末機に、前記第三者による前記特定のICFコード又はICDコードに関わる支援手段の開発を促すように表示させる方法としてある。
【0016】
請求項8に記載するように、前記管理者サーバは、複数の前記支援手段に紐付けられたICFコード又はICDコードと、被験者の行動項目に紐付けられたICFコード又はICDコードとから、一の被験者について最適な支援手段がどれなのかを判断するようにしてもよい。また、請求項9に記載するように、前記複数のICFコード又はICDコードについて、前記行動項目に関連性の高いものから順に重み付けを行ってもよい。
【0017】
請求項10に記載するように、前記第一のデータ及び前記第二のデータを管理する別の行動支援システムと連携し、前記別の行動支援システムの前記第一のデータ及び前記第二のデータの共通の被験者の行動項目について、前記管理者サーバが前記ICFコード又はICDコードの共通性から前記別の行動支援システムとの間で行動項目の関連性を判断し、関連している行動項目についての前記第一のデータ及び/又は前記第二のデータを前記別の行動支援システムとの間で共有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、一人の被験者に対して極めて多様なデータを収集することが可能になり、当該被験者に最適な支援を行うことが可能になる。そして、収集された豊富なデータから、例えば一つの行動の評価と他の一つ又は複数の行動の評価との関連性を見いだすことも可能で、当該一つの行動に対して行った支援が他の一つ又は複数の行動の評価に対してどのような影響を与えたかを分析することによって、当該被験者に対して多方面的な支援が可能になる。
また、第三者に対して第二のデータを開放することで、第三者は前記第二のデータを活用して行動項目に対応した様々な支援アプリケーションや支援機器、支援方法等の支援手段の開発が可能になる。被験者や支援者においては、支援手段に紐付けられた疾病・障害コードから、当該被験者に最適な支援手段の選択が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、この実施形態では、被験者として発達障害児を例に挙げ、疾病・障害コードとしてICFコード(その児童版であるICF-CYも含む)を例に挙げて説明するが、本発明は、精神疾患者、高齢者、知的障害者、身体障害者、傷病によるリハビリ中の患者など、ICFコードやICDコードなどの疾病・障害コードを用いた行動支援が可能な全ての被験者に広く適用が可能である。
【0020】
図1は、発達障害児(以下、被験者という)の行動と各行動に対するICFコードの紐づけとの関係を説明する図である。
(a)に示すように、ある被験者のチェックすべき行動項目には、例えば「学校の宿題をした」「朝ごはんをしっかり食べた」「間をあけずに登校できた」「あいさつできた」「弟とケンカをしなかった」などの評価すべき行動項目が含まれる。前記行動項目としては、予め400項目程度が準備されており、予め当該被験者に応じた行動項目が、保護者、教師、専門家(医師、療法士、教育専門家を含む)及びその他の支援者(以下、「支援者」と総称する)によって選択される。選択された行動項目は、その後の被験者の行動状態に応じて、適宜に変更や削除、修正が可能である。選択される行動項目の数は、被験者の発達障害の程度等に応じて様々であるが、25~50程度を目安とすることができる。このようにして選択された各行動項目については、支援者が毎日チェックを行い、達成の度合いが複数段階(図示の例では五段階)の評価として記録される。
【0021】
各行動項目は、世界保健機構(WHO)が定めた国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health, ICF)のコード(ICFコード)に紐付けされる。
ICFコードは、b(心身機能),s(身体構造),d(活動と参加),e(環境因子)の構成要素と各レベルの数字とを組み合わせたもので、国際的に共通な分類として行動項目が表現される。なお、一つの行動項目は必ずしも一つのICFコードで表現されるとは限らず、複数のICFコードで表現されることが多い。
【0022】
例えば、「学校の宿題をした」は、「行為の誘発,すなわち意識的または無意識的な行為への推進力を生む精神機能」(b1301)、「所定の時間,集中する精神機能」(b1400)、「日々の手続きや義務に必要なことを達成するために,単純な行為または複雑で調整された行為を遂行すること」(d2302)の三つのICFコードで表現することができる。
各行動項目には、例えば「7:朝ごはんをしっかり食べた」「20:学校の宿題をした」などのように項目番号が付され、
図1(b)に示すように、各行動項目の項目番号とともに、対応する一つ又は複数のICFコードがデータベースに記録される。
【0023】
一つの行動項目に複数のICFコードを付する場合は、ICFコードに重み付けを行うようにするとよい。例えば
図1(b)に示すように、ICFコード1,2,3,・・のように、一つの行動項目に対してより近い(より重い)ICFコードから順に、重み付けを行う。重みは、例えば100,90,70,・・・のように数値としてもよいし、1,2,3・・・やA,B,C・・・のように予め設定されたランクとしてもよい。
このような重み付けを行うことで、被験者及び支援者以外の第三者が開発した支援機器や支援アプリケーション、支援方法など、特定の被験者の支援に利用が可能な支援手段が複数存在し、当該支援手段の各々にICFコードが紐付けされている場合に、複数の支援手段の中から、重み付けされたICFコードを目安として当該被験者に最適な前記支援手段を選択することが可能になる。また、特定の被験者に対する本発明のような支援システムが、学校や支援施設、病院のように複数の施設で別々に運用されているような場合に、これら複数の支援システムにおいて重み付けされたICFコードを目安として、互いの支援システム間で共通する行動項目をリンクさせることができる。
【0024】
また、行動項目ごとに評価された内容は、点数として被験者ごとに行動項目番号と関連付けてデータベースに記録される。例えば
図1(c)に示すように、被験者(被験者は各人にID(識別情報)が割り振られ、IDによって管理される)ごとに行動項目番号と当該行動項目のその日の評価(点数)がデータベースに記録される。
【0025】
図2は、本発明の行動支援システムの一実施形態にかかり、その構成を説明する図である。
この実施形態の行動支援システム1は、この行動支援システム1を管理する管理者サーバ10及びこの管理者サーバ10を介して第一のデータの読み書きが行われる第一のデータベース11と、管理者サーバ10を介して第一のデータベース11と被験者が使用する被験者端末機12及び支援者が使用する支援者端末機13とをアクセス可能に接続する第一のネットワークN1と、webAPIの機能を備えたAPIサーバ20と、このAPIサーバ20を介して第二のデータの読み書きが行われる第二のデータベース21と、API20を介して第二のデータベース21と被験者が使用する被験者端末機12、支援者が使用する支援者端末機13、被験者が所持するICタグとの間で通信を行うRFIDリーダ21及び支援アプリケーションや支援機器など支援手段の開発を行う第三者の第三者端末機23とをアクセス可能に接続する第二のネットワークN2とを有する。
【0026】
なお、前記第一のデータ及び前記第二のデータは、例えば、被験者を特定できるような個人に関するデータを含むものを第一のデータとし、支援手段の開発を促すために第三者に開放してもよいデータを第二のデータとすることができる。前記第一のデータとしては、被験者の住所、氏名、学校名、通所施設名及び被験者ごとの行動項目及び各行動項目に対応するICFコード群、評価結果などを挙げることができる。また、第二のデータとしては、第三者に開示しても被験者を直接的又は間接的に特定できないような匿名性のあるデータであるのが好ましい。第二のデータとしては、例えば被験者を特定できないような行動項目群や各行動項目に対応するICFデータ群などを挙げることができる。前記第一のデータ及び前記第二のデータは、明確に区別されていてもよいが、一部が重複していてもよい。
また、説明の便宜上、
図2では第一のネットワークN1と第二のネットワークN2、管理者用サーバ10とAPIサーバ20、第一のデータベース11と第二のデータベース21とはそれぞれ別個のものとして記載するが、これらは物理的に一つのネットワーク、サーバ又はデータベースであってもよい。
【0027】
被験者端末機12は、被験者である児童・生徒が所持するもので、予め被験者ごとに識別情報(ID)が付与されている。また、被験者端末機12には、この実施形態の支援システムを実行するために必要なアプリケーションが予めインストールされている。このアプリケーションの機能には、例えば、学校などの施設に出入りしたことを検知し記録するRFIDリーダ22との間で通信を行うICタグ機能のほか、被験者の位置情報を検出するGPSなどの位置情報検出機能などが含まれている。被験者端末機12は上記機能を備えた専用機であってもよいが、スマートフォンなど市販の携帯端末機を利用することが可能である。そして、RFIDリーダ22が読み取った前記ICタグの情報や、GPSによる被験者端末機12の位置情報などは、第一のネットワークN1から管理者サーバ10を介して第一のデータベース11に、被験者のIDと関連付けた履歴として記録される。
【0028】
支援者端末機13は、パーソナルコンピュータ(PC)やスマートフォン、タブレット端末等の情報通信機器で、予め支援者ごとに識別情報(ID)が付与されている。この支援システムを実行するために必要なアプリケーションが予めインストールされている。このアプリケーションには、第一のデータベース11にアクセスするために必要なIDの確認機能が備えられている。そのため、支援者端末機13から第一のデータベース11にアクセスするために、支援者は、予めに管理者サーバ10を管理する管理者に対してアクセスの申請を行う必要がある。前記管理者は、支援者が使用する支援者端末機13のIDと、被験者及び被験者端末機12のIDやICタグなどの情報とを関連付けて登録する。
誰がどのデータにアクセスできるかは、管理サーバ10において自由に設定することが可能で、例えば、特定の被験者の保護者は、当該被験者に関するデータのみにアクセスしてデータの読み取りや書き込みが行え、教師や他の支援者は担任のクラスや担当の地域など複数の被験者に関するデータにアクセスしてデータの読み取りや書き込みが行える。
【0029】
被験者に関するデータ(被験者データ)、これら読み取りや書き込みの履歴は、読み取りや書き込みを行った者のID及び被験者のIDとともに、読み取り・書き込み履歴として第一のデータベース11に記録される。
このように、管理者サーバ10の管理下にある第一のネットワークN1は、特定の者のみが第一のデータベース11に記録された特定のデータにアクセスできるもので、概念的にはクローズドネットワークに近いものである。
【0030】
この実施形態において第二のデータベース21には、例えば被験者の時間割や被験者の登下校行動、被験者IDなど、被験者を特定できない匿名性のデータが記録される。また、
図1(b)に示したようなリスト、すなわち、行動項目ID、その内容及び関連するICFコードも、第三者に開示可能な第二のデータとして第二のデータベース21に記録され、第三者による支援手段の開発等の用に供される。被験者が特定できないのであれば、所定の被験者ID(匿名)と、この被験者IDに割り付けられた行動項目IDのリストも、第三者に開示可能な第二のデータとして、第二のデータベース21に記録してもよい。
【0031】
第二のデータベース21に記録された第二のデータは、支援機器や支援アプリケーションなどの支援手段の開発等を行おうとする第三者に開放し、前記第三者による開発等を促すものであるから、前記第三者が第三者端末機23からAPIサーバ20及び第二のネットワークN2を介して、第二のデータベース21にアクセスできるようになっている。予め、第三者の申請により第三者に識別情報(ID)とともに第二のデータベース21へのアクセス権を付与し、このIDとアクセス権に基づいて前記第三者が第二のデータベース21から第二のデータを読み出すようにすることが好ましい。
【0032】
第二のデータベース21に記録された第二のデータは、管理者サーバ10及びAPIサーバ20、第一のネットワークN1を介して、第一のデータベース11と共有される。なお、第一のデータベース11に記録された特定のデータについて、被験者が特定されないことを前提として、管理者サーバ10、第一のネットワークN1及びAPIサーバ20を介して、第二のデータベース21と共有させることも可能である。
【0033】
このように、APIサーバ20の管理下にある第二のネットワークN2は、第一のデータベース11や第二のデータベース21のデータを広く第三者にも開放することで、当該第三者により支援アプリケーションや支援機器、支援方法の開発を促すものであるから、概念的にはオープンネットワークに近いものである。
【0034】
[本発明の支援システム作用の説明]
上記構成の本発明の行動支援システム1の作用を以下に説明する。
以下では、小学校に通学する被験者Aの一日の行動をモデルに説明する。このモデルでは、被験者Aの保護者、学校の担任、担当保健医又は担当保健師などの専門家がそれぞれ支援者端末機13を所持する。被験者Aは、登下校時に使用するランドセルに装着された被験者端末機12を所持している。また、小学校の玄関や教室の出入口に、被験者Aの登下校や教室への出入りを検知するRFIDリーダ22が設置されている。また、被験者端末機12はGPS機能も備えていて、被験者端末機12の位置情報を取得できるようになっている。
【0035】
各端末機12,13には、この行動支援システム1を起動し、各端末機12,13から第一のデータ及び第二のデータを収集するデータ収集アプリケーションや、各端末機12,13によって収集された第一のデータを管理者サーバ10に送信し第二のデータをAPIサーバ20に送信するとともに、管理者サーバ10又はAPIサーバ20から送信された第一のデータ、第二のデータ又はメッセージを受信する通信アプリケーションなどが予めインストールされている。各端末機12,13にはそれぞれ固有のIDが付与されていて、管理者サーバ10及びAPIサーバ20には、各端末機12,13の前記IDと被験者AのIDとを関連付けて、第一のデータベース11に第一のデータが、第二のデータベース21に第二のデータが記録される。この場合、被験者Aを特定できない形(例えば被験者AのIDのみ)で、RFIDリーダ22によって検知された登校又は下校のデータを含む被験者Aの行動に関するデータ、被験者Aの支援のために設定された行動項目ID、各行動項目IDに関連する一つ又は複数のICFコード(重み付けされている場合は重み付けされた関連ICFコード群)、被験者Aに対する支援者の毎日の評価などが第二のデータに含まれる。
【0036】
第一のデータベース11には、被験者Aのチェックすべき行動内容が、項目番号及びICFコードとともに記録されている。
以下の表1に項目番号順の行動内容及び各行動内容に紐づけされるICFコードの一例を示す。なお、以下の表では、ICFコードの一部を「・・・」としてその記載を省略してある。
【0037】
【0038】
[被験者Aの行動評価]
各項目についての評価は支援者が行い、
図1(a)のよう評価点を付ける。この作業は、支援者が支援者端末機13を用いて行動支援システム1を起動させて行い、評価結果は管理者サーバ10を介して第一のデータベース11に第一のデータとして記録される。また、被験者AのIDとともに、APIサーバ20を介して第二のデータベース21に第二のデータとして記録されるようにしてもよい。保護者、教師、専門家などは、被験者Aについての評価結果を第一のデータベース11から適宜読み出し、例えば
図3や
図4のような評価グラフを各他端末機13のディスプレイに表示させることができる。
【0039】
図3のグラフでは、横軸が日付、縦軸が評価点数を示しており、一定期間(例えば一週間)内の評価点数の推移を表している。例えば週の初めに「宿題ができた」について一週間の評価点数の目標値を定め、評価平均値が当該目標値を越えた場合には、次の週には一段高い目標値を設定する。
また、ICFコードで定義された一定の行動について評価点を集計し、
図4に示すようなグラフを得ることもできる。
図4に示すグラフは、時間割機能に関係するICFコード:b1641(組織化と計画)、d2302(日課の達成)、d2305(自分の時間の管理)という三つの行動について、ICFコードが共通する項目の評価点を集計し、より上位概念の行動についての評価を行うことができる。
【0040】
図3や
図4に示すような評価結果から、被験者Aの様々な個人特性を分析することが容易になり、評価結果の推移から、当該被験者Aの個人特性に応じた適切な支援を行うことが可能になる。
このように本発明の行動支援システムでは、被験者Aの個々の細かい行動項目の評価、分析、支援の検討だけでなく、各行動項目に紐づけられたICFコードを用いることで、より多面的な行動の評価、分析及び支援の検討を行うことが可能になる。
【0041】
[行動項目間でのリンク]
ICFコードが紐づけられた機能についてはさらに上位の機能をICFコードで設定することが可能で、かつ、この上位機能に下位機能として複数の機能をリンクさせることも可能である。
図5は、一つの上位概念機能の下に複数の下位概念機能をICFコードにより紐付けした本発明の行動支援システムの概念図である。
図5に示す例では、上位概念機能である自己チェックシステム(ICFコード:b1641(組織化と計画))の下に、心身機能を示すICFコード「b1」を手掛かりに、
図4に示したような時間割機能(ICFコード:b1641(組織化と計画)、d2302(日課の達成)、d2305(自分の時間の管理))、睡眠サポート機能(ICFコード:b1300(活力レベル)、b134(睡眠機能))、防犯機能(ICFコード:b1400(注意の維持)、d2300(定められた日課に従うこと)、d2306(時間的な要求に従うこと))の三つの下位概念機能を紐付けしている。
このように、ICFコードを用いて一つの上位概念機能の下に複数の下位概念機能を紐付けすれば、共通の上位概念機能を介して、上下だけでなく左右にも機能を関連付けることができ、より多面的な行動の評価、分析及び支援の検討を行うことが可能になる。
【0042】
[他の行動支援システムとの連携]
被験者Aが通う学校や通所施設、病院などで、ICFコードを利用した本発明のような行動支援システムが運用されている場合、これらを相互にリンクさせれば、被験者Aに対してより多面的なデータを収集することが可能になり、最適な支援を行うことが可能なる。
しかし、これら個々の行動支援システムでは、別々の行動項目が定義されていたり、同じ行動項目であっても異なる表現で定義づけられていることが多い。
このような場合でも本発明では、各行動支援システム間で設定されているICFコードの共通性から、共通性・類似性の高い行動項目を抽出することで、複数の行動支援システム間での連携が可能になる。
【0043】
図6は、他の行動支援システムとのリンクを示す概念図で、行動支援システム1A,1B,1Cは、類似性判断・リンク機構3によってICFコードの類似性の判断と、類似性が高い場合のリンクが行われる。行動支援システム1A,1B,1Cのそれぞれは、
図1に示した行動支援システム1と同じ構成である。また、類似性判断・リンク機構3は、行動支援システム1A,1B,1Cとは別に設けてもよいが、行動支援システム1A,1B,1Cのいずれかの管理サーバ10又はAPIサーバ20に設けてもよい。
図6の例では、例えば学校で運用されている行動支援システム1Aの行動項目Aと、通所施設で運用されている行動支援システム1Bの行動項目Bと、病院で運用されている行動支援システム1Cの行動項目Cとが、ICFコードb1103で関連しており、その類似性が高い場合には、類似性判断・リンク機構3は行動項目A,B,Cを互いにリンクさせ、行動支援システム1A,1B,1Cのデータベースに記録された被験者Aのデータを共有させて、各行動支援システム1A,1B,1Cの評価に反映する。
この際、行動項目A,B,Cにおいて複数のICFコードに重み付けがなされていると、行動項目A,B,Cの各々における共通するICFコードの重みによって、関連性又は類似性の高低を判断することができる。
【0044】
図7は、類似性判断・リンク機構3が行う類似性判断の一例を説明するものである。
(a)の例では、行動支援システム1Aの行動項目Aと行動支援システム1Bの行動項目BとのICFコードの比較を行う。この例では、行動項目Aの三つのICFコードに対して行動項目BのICFコードの二つが共通していることから、行動項目Aに対する行動項目Bの類似性を66%と判断している。複数のICFコードに重み付けが行われている場合は、重み付けの重さを係数として前記類似性に掛け合わせる。
【0045】
そして、類似性判断・リンク機構3において予め類似性が60%以上であれば二つの項目が関連すると予め定義しておけば、類似性判断・リンク機構3は行動支援システム1Aの行動項目Aに対し行動支援システム1Bの行動項目Bが関連している判断して、行動支援システム1Aにおける被験者Aの行動項目Aの評価に、行動支援システム1Bにおける被験者Aの行動項目Bの評価を反映させる。
このように、本発明の行動支援システムでは、別々の行動支援システム1A,1B,1Cで別々に表現された行動項目A,B,Cであっても、被験者Aのデータを行動支援システム1A,1B,1C間で共有させることができる。
【0046】
(a)の場合とは逆に、例えば行動項目A,B,Cを上位表現で定義するような場合、同様の表現で行動項目A,B,Cを定義する場合も考えられる。しかし、行動項目A,B,Cの表現が共通しているように見えても、必ずしも行動項目A,B,Cの内容が共通しているとは限らない。
本発明の行動支援システムでは、(a)のようにICFコードによって行動項目A,B,Cの関連性・類似性を判断しているので、このような場合に生じ得る誤った評価の発生を防止できる。
(b)の例では、行動支援システム1Aの行動項目Aと行動支援システム1Cの行動項目DのICFコードの比較を行っている。この例では三つのICFコードのいずれも共通していないから、その類似性は0%となる。そのため類似性判断・リンク機構3は、行動支援システム1Aの行動項目Aと行動支援システム1Cの行動項目Dとは関連していないと判断して、行動項目A,Dを関連付けの対象から除外する。
【0047】
このような行動支援システム1A,1B,1Cのリンクは、例えば、学校や通所施設、病院など各種支援施設で異なる行動支援システム1A,1B,1Cを運営しているような場合に、共通の被験者Aの行動データを多種多様に収集して、異なる行動支援システム1A,1B,1Cで当該行動データを共有することが可能になり、各種支援施設や支援者においてより多面的な行動の評価、分析及び支援の検討を行うことが可能になる。
また、本発明の行動支援システムでは、収集した豊富なデータを分析することで、一つの行動項目の評価と他の一つ又は複数の行動の評価との関連性を見つけだし、当該一つの行動に対して行った支援が他の一つ又は複数の行動の評価に対してどのような影響を与えたかを支援者に知らしめ、支援者間はもちろん支援施設を横断して支援に関する情報を共有することが可能になり、特定の被験者Aに対して各種支援施設や支援者によるより適切かつ多面的な支援を行うことが可能になる。
【0048】
[第三者による支援手段の開発促進]
図8は、第三者であるメーカーA,B,Cが公開された第二のデータに基づいてそれぞれ支援機器A,B,Cを開発した場合の説明図である。
公開された第二のデータとメーカーA,B,Cにより支援機器A,B,Cの開発は以下のように行われる。
例えば、ある種の障害においては、睡眠(不眠、寝入りの悪さ、寝起きの悪さ及び睡眠の質)と深い関係があるとされるものがある。これらに関連付けられる行動項目とICFコードは、例えば
図7に示すように、覚醒状態の制御(b1103)、動機付け(b1301)、時間管理(b1642)、日課(目標)の達成(d2032)、自分の時間の管理(d2305)などである。
【0049】
例えばメーカーAは、動機付け(b1301)、時間管理(b1642)、日課(目標)の達成(d2032)、自分の時間の管理(d2305)に基づいて、新たな目覚まし時計(支援機器A:ICFコード:b1301,b1642,d2032,d2305)を開発したとする。又、メーカーBは、覚醒状態の制御(b1103)、動機付け(b1301)、時間管理(b1642)に基づいて、時間の経過ごとに予め設定された温度に調節される電気毛布(支援機器B:ICFコード:b1103,b1301,b1642)を開発したとする。さらに、メーカーCは、覚醒状態の制御(b1103)、動機付け(b1301)に基づいて、入眠するまで予め指定されたリラックス音楽を流す音響機器(支援機器C:ICFコード:b1103,b301)を開発したとする。
【0050】
一方、被験者Aによる評価の結果は「対象者は入眠が難しい日が多く,日中行
動チェックでも授業中寝てしまうことも多い。すぐに眠れる日もあるが,寝付けない日もある。温度に感覚過敏があるようだ。電気毛布などで温かくすると眠くなり寝付くことはできるが,しばらくすると暑くておきてしまう。」というものであったとする。評価の結果、この被験者Aに紐付けられたICFコードは、覚醒状態の制御(b1103)、動機付け(b1301)、時間管理(b1642)であったとする。
支援者は、被験者Aに紐付けられたICFコードから、メーカーBが開発した電気毛布(支援機器B)が最適であると判断することができる。
【0051】
[支援手段の選択補助]
図8の例では、第三者であるメーカーA,B,Cが開発した支援機器A,B,Cに紐付けされたICFコードから、支援者が被験者Aの所定の行動項目の支援に最適な支援機器を選択するものであった。
支援機器が多種多様に亘る場合、支援者が一つ一つICFコードをチェックしながら最適な支援機器を選択することは面倒であり困難である。
そこで、
図9の行動支援システム1では、
図6に示したような類似性判断を行う類似性判断手段3′を備えていて、支援機器A,B,C・・・に紐付けされたICFコードと、被験者Aに紐付けられたICFコードとの関連性・類似性から、複数の支援機器A,B,C・・・の中から、一つ又は複数の最適な支援機器を選択できるようにしている。
【0052】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記の実施形態では発達障害児を例に挙げて説明したが、本発明は認知症高齢者や知的障害者、身体障害者、傷病によるリハビリ中の患者など他の被験者にも適用が可能である。また、上記の実施形態ではICFコードを用いた場合を例に挙げて説明したが、本発明は疾病及び関連保健問題の国際統計分類のコード(ICDコード)を用いた場合にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】発達障害児の行動と各行動に対するICFコードの紐づけとの関係を説明する図である。
【
図2】本発明の行動支援システムの構成の一実施形態を説明する図である。
【
図3】収集されたデータに基づいて作成されたある被験者の行動評価グラフの一例である。
【
図4】収集されたデータに基づいて作成されたある被験者の行動評価グラフの一例である。
【
図5】複数の下位機能をリンクさせて一つの上位機能にリンクさせた本発明の行動支援システムの概念図である。
【
図6】他の行動支援システムとのリンクを示す概念図である。
【
図7】類似性判断・リンク機構が行う類似性判断の一例を説明する図である。
【
図8】第三者であるメーカーA,B,Cが公開された第二のデータに基づいてそれぞれ支援機器A,B,Cを開発した場合の説明図である。
【
図9】
図8の実施形態の行動支援システムに類似性判断手段を設けた
図8の実施形態の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1,1A,1B,1C 行動支援システム
10 管理者サーバ
11 第一のデータベース
12 被験者端末機
13 支援者端末機
20 APIサーバ
21 第二のデータベース
22 RFIDリーダ
23 第三者端末機
3 類似性判断・リンク機構
3′ 類似性判断手段
N1 第一のネットワーク
N2 第二のネットワーク