(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】二重周期格子を有する回折素子
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20230322BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20230322BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B5/18
H04N5/64 511A
(21)【出願番号】P 2019566820
(86)(22)【出願日】2018-05-18
(86)【国際出願番号】 FI2018050371
(87)【国際公開番号】W WO2018220266
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-04-26
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519425693
【氏名又は名称】ディスペリックス オーイー
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ブロムシュテット、カシミール
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-523586(JP,A)
【文献】米国特許第5937115(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0245730(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0284085(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0300966(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0102543(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103245996(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0128911(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01,27/02
G02B 5/18
H04N 5/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路(10、30、40、50)と、
前記導波路(10、30、40、50)の表面または内部に配置された回折式のアウトカップリング領域(16、36、46、56)と、を含む回折素子であって、
前記アウトカップリング領域(16、36、46、56)は互いに対して横方向に配置され、前記導波路(10、30、40、50)内を伝播する光を導波路(10、30、40、50)外に結合するように適合された複数のサブ領域(36A、46A、56A)を含み、
前記サブ領域(36A、46A、56A)は、前記導波路(10、30、40、50)の主面に沿って二次元的に細分化され、
前記サブ領域(36A、46A、56A)はそれぞれ、第1の方向に第1の周期を有し、前記第1の方向とは異なる第2の方向に第2の周期を有する、二重周期格子パターンを含み、
二重周期格子パターンにおける第1の周期の第1の方向と第2の周期の第2の方向との少なくとも1つが異なる格子パターンを有する少なくとも2つのサブ領域(36A、46A、56A)が存在する、回折素子。
【請求項2】
前記少なくとも2つのサブ領域(36A、46A、56A)の前記格子パターンが、前記第1および第2の周期を画定する、異なる形状の周期的に配置された基本要素から形成される点で異なる、請求項
1に記載の回折素子。
【請求項3】
前記少なくとも2つのサブ領域(36A、46A、56A)の前記格子パターンが、素子の射出瞳を拡大し、前記導波路(10、30、40、50)内を伝播する光を出力結合するように適合される、請求項1に記載の回折素子。
【請求項4】
各サブ領域(36A、46A、56A)内において、前記格子パターンの特性が一定である、請求項1に記載の回折素子。
【請求項5】
前記サブ領域(36A、46A)が、前記導波路(10、30、40)の連続領域を覆うように、規則的なグリッドに配置され、
又は、
前記サブ領域(56A)が、前記導波路(50)の連続領域を覆うように、不規則な形態で配置される、請求項1に記載の回折素子。
【請求項6】
前記導波路(10、30、40、50)の2つの対向する表面に設けられた回折式のアウトカップリング領域(16、36、46、56)を含む、請求項1に記載の回折素子。
【請求項7】
前記サブ領域(36A、46A、56A)それぞれの前記二重周期格子パターンが、他のいずれのサブ領域(36A、46A、56A)の二重周期格子パターンとも異なる、請求項1に記載の回折素子。
【請求項8】
前記サブ領域(36A、46A、56A)の前記格子パターンが、それぞれ同じ回折次数ではあるものの異なる回折効率で光を回折するように選択される、請求項1に記載の回折素子。
【請求項9】
前記導波路(10、30、40、50)に配置された1つ以上の回折式のインカップリング領域(34)を含み、前記インカップリング領域(34)は、当該インカップリング領域(34)に向けられた光を、内部全反射を介して前記アウトカップリング領域(16、36、46、56)に伝播するために、前記導波路(10、30、40、50)に回折結合するように適合される、請求項1に記載の回折素子。
【請求項10】
前記サブ領域(36A、46A、56A)の形状および位置、ならびに前記サブ領域(36A、46A、56A)の前記格子パターンが、単一周期格子および同じ導波路(10、30、40、50)材料を使用した際に達成可能なFOVと比較して、単色光のための前記アウトカップリング領域(16、36、46、56)のFOVを、少なくとも一方向において、少なくとも50%拡張するように選択される、請求項1に記載の回折素子。
【請求項11】
前記サブ領域(36A、46A、56A)の数が、10以上であり、前記サブ領域(36A、46A、56A)の各々のサイズは、前記第1の方向および前記第2の方向の両方において、少なくとも10個の格子周期である、請求項1に記載の回折素子。
【請求項12】
前記アウトカップリング領域(16、36、46、56)を含む前記導波路(10、30、40、50)と光学的に機能的に接続される少なくとも1つの第2の導波路(10、30、40、50)を含む、請求項1に記載の回折素子。
【請求項13】
請求項
12に記載の回折素子と、前記回折素子に光を導くように適合された光源とを含む、光学製品。
【請求項14】
前記光学製品がニア・ツー・アイ(NED)ディスプレイ装置、特に仮想現実、拡張現実、または複合現実ディスプレイ装置などのパーソナルディスプレイ装置であり、
前記光源が画像プロジェクタであり、
又は、
前記光学製品が照明装置であり、
又は、
前記光学製品が、液晶ディスプレイ素子などのディスプレイ素子のバックライト素子である、
請求項
13に記載の光学製品。
【請求項15】
導波路(10、30、40、50)に光を導き、
前記導波路(10、30、40、50)から出力された前記光を、前記導波路(10、30、40、50)に配置された回折式のアウトカップリング領域(16、36、46、56)を使用して結合し、射出瞳を同時に拡大するとともに前記アウトカップリング領域(16、36、46、56)から出力された光を結合でき、前記アウトカップリング領域(16、36、46、56)は、互いに対して横方向に配置された複数の異なるサブ領域(36A、46A、56A)を含み、
前記サブ領域(36A、46A、56A)はそれぞれ、第1の方向に第1の周期を有し、第1の方向とは異なる第2の方向に第2の周期を有する二重周期格子パターンを含み、射出瞳を同時に拡大し、前記アウトカップリング領域(16、36、46、56)から出力された光を、その各位置で少なくとも2つのサブ領域(36A、46A、56A)によって、結合するようにされ
ているとともに、二重周期格子パターンにおける第1の周期の第1の方向と第2の周期の第2の方向との少なくとも1つが異なる格子パターンを有する少なくとも2つのサブ領域(36A、46A、56A)が存在する、視認可能な画像を生成する方法。
【請求項16】
前記光は、
前記導波路(10、30、40、50)上に配置されたインカップリング格子を通じて、または
前記導波路(10、30、40、50)の側面から前記導波路(10、30、40、50)に導かれる、請求項
15に記載の視認可能な画像を生成する方法。
【請求項17】
請求項1に記載の回折素子、または請求項
13に記載の光学製品を使用することを含む、請求項
15または請求項
16に記載の視認可能な画像を生成する方法。
【請求項18】
単一の導波路(10、30、40、50)上に互いに対して横方向に配置された、
第1の周期の第1の方向と第2の周期の第2の方向との少なくとも1つが異なる格子パターンを有する二重周期格子を、回折素子の射出瞳を同時に拡大し、前記回折素子からアウトカップリングされた光を得るため、連続したアウトカップリング領域(16、36、46、56)として使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学系に関する。本発明は、回折光学系に関する。特に、本発明は例えば、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、ニア・ツー・アイ(NED)ディスプレイのような複合現実(MR)用途、及び様々な照明用途に使用できる回折素子に関する。本発明は、回折光学系を利用する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
射出瞳拡大器(EPE)は、回折ディスプレイの射出瞳を増大させるために使用されることがある。従来、EPEは、ディスプレイの光インカップリング格子と光アウトカップリング格子との間の導波路上に配置された、別個の格子である。2D射出瞳拡大器(EPE)を有する従来の単一光ガイドの最大視野(FOV)は、光導波路の屈折率、投影光の波長帯域に依存する。波長帯域が460~630nmであり、光導波路の屈折率が2.0である場合、最大FOVは約33~35度である。単色光の場合、最大FOVは約50度である。FOVを増加させるために、典型的なアプローチは、複数の光導波路を使用することである。
【0003】
2D射出瞳拡大(ライトフィールドは2次元で拡大される)の一例が、米国特許第6580529号公報に開示されている。単一周期格子を用いた瞳拡大については、例えば、米国特許出願公開第2006/0126181号明細書および米国特許第8466953号公報で議論されている。射出瞳拡大のための二重周期格子は、米国特許第8160411号公報に記載されている。
【0004】
このような射出瞳拡大格子を使用する場合、インカップリング、射出瞳拡大、およびアウトカップリング領域のあらゆる配置に対して厳しい制限があり、これは、特に、導波路の表面積の大部分がアウトカップリング以外の目的のために消費され、したがって、不必要に、さらには面倒にも、大きい装置となることを意味する。例えば、スマートグラス等に使用可能ないわゆる「眼鏡」フォームファクタでは、光をアウトカップリングするように機能する導波路の大部分を有することが望ましい。しかしながら、EPEがそのかなりの部分を占める場合、アウトカップリング格子のために残されるスペースはより少ない。また、従来のアプローチでは、プロジェクタの位置が非常に制限される。
射出瞳拡大およびアウトカップリングのための二重周期格子は、国際公開第2017/062139号公報にも開示されている。
【0005】
このように、回折ディスプレイ技術の改善が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第6580529号公報
【文献】米国特許出願公開第2006/0126181明細書
【文献】米国特許第8466953号公報
【文献】米国特許第8160411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は上述の問題の少なくともいくつかを解決し、現在の設計上の制約を軽減し、回折素子の設計のための新規な可能性を提供する解決策を提供することである。
【0008】
本発明の特有の目的は、光のアウトカップリングのため導波路表面積のより大きな部分を使用することを可能にしつつ、依然として素子の射出瞳の拡大を可能にする解決手法を提供することである。また、本発明の目的は、NEDのような回折ディスプレイのFOVを増大させることを可能にする解決手法を提供することである。
【0009】
これらの目的は、以下に記載され、特許請求される本発明によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも部分的に異なる二重周期格子パターンを有する複数のサブ領域から回折素子のアウトカップリング領域を形成することに基づく。これは、光学デバイスにおける光のアウトカップリングのための設計のための新しい自由度を提供し、特に、アウトカップリング領域のサイズおよび達成可能なFOVを増大させる。特に、サブ領域は互いに対して、また導波路に対して、同じ角度で同じ内部周期を有し得るが、それらの基本格子要素の異なる微細構造を有し得る。これにより、射出瞳拡大がアウトカップリング領域内で行われることが可能になり、それにより、別個の射出瞳拡大領域が必要ではなくなる。
【0011】
したがって、本発明は、導波路と、表面上または導波路内に配置された回折アウトカップリング領域とを備える回折素子を提供する。アウトカップリング領域は、互いに対して横方向に配置された複数のサブ領域を含み、導波路内を伝播する光を導波路から結合するように適合される。サブ領域はそれぞれ、第1の方向に第1の周期を有し、第1の方向とは異なる第2の方向に第2の周期を有する二重周期格子パターンを含む。少なくとも2つのサブ領域は、異なる格子パターンを有する。
【0012】
本発明はまた、上記の種類の回折素子と、回折素子の導波路に光を導くように適合された光源とを含む光学製品を提供する。
【0013】
本発明の方法は、光を導波路に結合して、内部全反射を介して導波路内を伝播する光を生成するステップと、導波路から出力されるインカップリングされた光を、上記の種類の回折アウトカップリング領域を使用して結合するステップとを含む。サブ領域は、内部回折によって射出瞳を同時に拡大し、その各位置で光をアウトカップリング領域から結合するように適合され得る。光は導波路の主表面上のインカップリング格子を使用するなどして回折的に、またはプリズムを使用する導波路の側面からなどの他の手段によって、導波路に結合され得る。
【0014】
より具体的には、本発明は、独立請求項に記載されているものであることを特徴とする。
【0015】
本発明は、著しい利点を提供する。細分化された二重周期アウトカップリング領域は、アウトカップリングに加えて、ビーム拡大も行うことができるので、別個のビーム拡大領域は必要とされない。したがって、本発明は、導波路の単一領域上において、アウトカップリングおよび射出瞳拡大を組み合わせることを可能にする。これは、アウトカップリング領域が従来の解決手法よりも導波路の表面積の大部分を占めることが可能であり、それでもなお、同じまたはさらに大きな射出瞳寸法および視野を提供できることを意味する。ユーザが視認可能な導波路表面領域全体を本質的に占めるアウトカップリング領域を作ることさえ可能である。これは、ビーム拡大が別個の格子によって、および光線の自由伝播のための導波路の格子のない領域によって実現され、実際の画像生成のために導波路表面の一部のみを割り当てることができない導波路形状とは対照的である。
【0016】
本発明は、単一周期の別個の格子に伴う従来の格子形状の制約を克服する。これらは、どの導波路「モード」をビーム伝播およびビーム拡大の目的に使用可能かということについて非常に厳しい制約を課していたが、これはこれらのモードの利用不足につながり、さらに、導波路によって転送可能な情報量(FOVのサイズ)を制限していた。
【0017】
さらに、従来の解決手法においては、異なる表示方向(画素)および異なる波長によって取られる光路の可能な構成にはほとんど変化がなかったが、これにより格子構造を最適化するときに設計目標(FOV、効率、ライトフィールド均一性など)を満たすために利用可能な設計自由度の数が制限されていた。特に、単一周期の特徴は既に、開始時に利用可能な設計選択の数を著しく減少させていた。本構成は、同じ導波路上で互いに機能的に光学的に接続された複数の異なる構成の二重周期格子を利用することで、これらの制限を克服する。
【0018】
本発明は、従来の射出瞳拡大解決手法のFOVの制約を克服し、単一の導波路幾何形状内で、単色ディスプレイについては少なくとも90°まで、フルカラーディスプレイ(屈折率2.0)については少なくとも70°までのFOVを可能にする。
【0019】
本発明は、いくつかのインカップリング方式に適している。ディスプレイ用途において、導波路上に配置されたインカップリング格子は、回折インカップリングを達成するために使用され得る。しかし、本明細書で紹介された原理は、導波路の1つまたは複数の側面上で、またはプリズムを使用するなど、インカップリングが別の方法で行われる場合に、アウトカップリング領域間で光を効率的に拡散するためにも使用可能である。
従属請求項は、本発明の選択された実施形態を対象とする。
【0020】
いくつかの実施形態においては、サブ領域の回折格子パターンおよびサブ領域の位置が、素子の射出瞳を拡大し、導波路内を伝播する光を同時にアウトカップリングするように選択される、すなわち、これらのタスクの両方を、そのいくつかまたは典型的にはすべての位置で行うように選択される。このようにビーム拡大領域とビーム出力領域とを組み合わせることにより、設計の自由度が増す。具体的には、これによって導波路(レンズ)のサイズが制限される「眼鏡」タイプの用途において直面する課題に応えることがより容易となる。
【0021】
いくつかの実施形態では、サブ領域の格子パターンが導波路内の光を、少なくとも3つの異なる回折次数で回折させ、および導波路から、少なくとも1つの、特に正確に1つの、回折次数を使用して出力させ、アウトカップリング領域の少なくともいくつかのサブ領域、典型的にはその各位置で回折するように適合される。導波路内に複数の回折次数を適用することにより、光をアウトカップリング領域の各位置に効率的に拡散させ、射出瞳を拡大することが可能になる。これはまた、異なる方向(画素)及び異なる波長に対応する光線経路に著しい差をもたらす。
【0022】
いくつかの実施形態では、少なくとも2つのサブ領域およびすべてのサブ領域の格子パターンが第1および第2の周期を画定する、異なる形状の周期的に配置された基本要素から形成される、すなわち、それらが異なる微細構造を有するという点で、互いに対して異なる。
【0023】
一般的に言えば、異なるサブ領域の基本的要素は、異なる横方向形状、高さプロファイル、または横方向形状および高さプロファイルの両方を有し得る。実際には、使用可能な無数の異なる要素形状がある。
【0024】
いくつかの実施形態では、少なくともいくつかの、またはすべてのサブ領域は二重周期バイナリ格子パターンを有する。単一周期のバイナリ格子は有限数の遷移点に関して完全に表すことができるのに対し、二周期格子は複雑な二次元横方向形状をサポートすることができるが、その完全な記述はかなり多くの係数を必要とする。したがって、二重周期パターンを有するバイナリ格子は、単一周期バイナリ格子よりもはるかに複雑であっても、それにより、実質的により多くの設計自由度を提供する。
【0025】
いくつかの実施形態では、少なくともいくつかの、またはすべてのサブ領域は二重周期バイナリ格子パターンを有する。非バイナリプロファイルを使用することは、バイナリプロファイルと比較した場合、設計の可能性をさらに増大させる。
【0026】
いくつかの実施形態では、格子パターンの微細構造が、それぞれ同じ回折次数であるが異なる回折効率を有する光を回折するように選択される点で異なる。実際にこれを達成するために、各サブ領域の格子パターンは、それらの微細構造に関して、任意の他のサブ領域の格子パターンとは異なり得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、サブ領域のそれぞれの格子パターンが同じ第1の周期、同じ第2の周期、および第1の周期と第2の周期との間の同じ角度を有する。第1および第2の周期は、同じであっても異なっていてもよい。さらに、サブ領域の格子パターンは、導波路に対して同じ向きを有し得る。すなわち、各サブ領域の第1の(第2の)周期は、他のサブ領域の第1の(第2の)周期と同じ方向に延在する。これらの因子のうちの1つ以上を一定にすることによって、例えば、複数のインカップリング領域の使用が簡単になる。
【0028】
各サブ領域は内部的に「均質」であるが、これは、格子パターンがサブ領域全体を占めており、その中の格子パターンの特性が周期ごとに(製造公差内で)一定であるという意味である。
【0029】
導波路表面上のサブ領域は、各々が格子の複数の周期を含むが、異なる形状を有し得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、サブ領域が矩形グリッドなどの規則的なグリッドで配置される。あるいは、サブ領域が不規則な形態で配置されてもよい。両方の場合において、それらは、好ましくは導波路の連続領域を覆う、すなわち、互いに直接隣接する。
【0031】
1つの表面のみに配置される代わりに、導波路の2つの対向する表面上に、そのような細分化された回折領域があってもよい。これは、より多くの設計自由度を与えるために、および/または射出瞳拡大の観点から光線伝播をより効率的にするために、使用できる。
【0032】
いくつかの実施形態では、素子は、導波路上に配置された1つ以上の回折インカップリング格子を含み、当該インカップリング格子は、自身に向けられた光を、内部全反射を介してアウトカップリング領域に伝搬させるため、導波路に回折結合するように適合される。この解決手法は、初期光ビームがマイクロプロジェクタから投影され、アウトカップリング領域によって表示される画像を搬送するディスプレイ用途において特に有用である。特に、インカップリング格子は、単一周期または二重周期格子パターンのいずれかを備えている。特に、格子パターンは、アウトカップリングサブ領域と同じ周期及び周期間の角度を有する二重周期パターンとすることができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、アウトカップリング領域が、そのサブ領域の二重周期格子パターンとサブ領域の横方向形状との差によって、素子の射出瞳を拡大し、相対画素位置を保持し、任意選択で、インカップリング光とアウトカップリング光との間の所定の程度まで相対画素強度も保持するように構成される。
【0034】
いくつかの実施形態では、インカップリング格子の各画像画素、およびアウトカップリング領域の、対応する画像画素が導波路内を伝播する少なくとも3つの光線方向によって表され、その凸状の組み合わせは全ての考え得る伝播方向を含む。
いくつかの実施形態では、二重周期格子パターンは、各サブ領域において、素子の射出瞳を拡大するためのインカップリングされた光の複数の異なる回折次数、特に少なくとも3つの異なる回折次数と、素子からの光をアウトカプリングするための1つの回折次数と、を利用することができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、アウトカップリング領域は、上述のサブ領域の上述の二重周期格子パターンによって、インカップリング格子からアウトカップリング領域への、異なる画像画素の考え得る光線経路が互いに著しく異なるように構成される。すなわち、2つの隣接する画素に対応する導波路内の光路の全体は、従来の(単一周期の)格子構造が使用される場合に得られる光路の差と比較すると、互いに著しく異なり得る。特に、異なる画素から発する光線が伝播のある点で異なるサブ領域に当たる場合、経路は異なり、それによって、光線は、異なる強度を有するいくつかの回折次数に回折される。
【0036】
いくつかの実施形態では、サブ領域の横方向の形状および位置、ならびに格子パターンは、単一周期格子および同じ導波路材料を使用した際に達成可能なFOVと比較して、単色光のためのアウトカップリング格子のFOVを、少なくとも一方向において、少なくとも50%、特に少なくとも75%拡張するように選択される。
【0037】
典型的には、サブ領域の数は10以上、例えば10~10000、特に20~3000、例えば20~300である。
【0038】
いくつかの実施形態では、アウトカップリング領域を形成するサブ領域の各々は、その中に含まれる二重周期格子の両方の主方向において少なくとも10の格子周期となるサイズを有する。すなわち、サブ領域の少なくともいくつかの断面には、格子の少なくとも10の全周期が存在する。サイズは、両方の主方向において、例えば、100~5000周期のような10~50000周期とすることができる。
【0039】
いくつかの実施形態では、本素子は、カスケード状に配置された導波路のスタックの一部である。したがって、本素子は、ユーザの眼に直接光を提供する代わりに、システムの別の導波路に供給するように、すなわち別の導波路の光源として働くように適合されてもよい。
【0040】
本発明は、情報を搬送する画像を提示することを目的とする、拡張現実、仮想現実、および複合現実用途、特にニア・ツー・アイ(NED)ディスプレイにおいて使用可能である。しかしながら、本発明はまた、例えばバックライト付きディスプレイのライトパネルのような装飾又は家電照明用途のような、ライトフィールドが特定の情報を運ぶことを意図しない場合を含む他の用途におけるライトフィールドの拡大も可能にする。例えば、液晶ディスプレイでは、バックライト照明がシステムの境界上にあり、一方、光はディスプレイ領域全体にわたって均一に広がらなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、NEDおよびユーザの眼を、側面図で示している。
【
図2】
図2は、NEDおよびユーザの眼を、斜視図で示している。
【
図3】
図3は、一実施形態による回折素子を、概略斜視図で示している。
【
図4】
図4は、アウトカップリング領域を、サブ領域へ規則的に細分化した状態を示している。
【
図5】
図5は、アウトカップリング領域を、サブ領域へ非規則的に細分化した状態を示している。
【
図6】
図6は、本導波路の光学的動作を示している。
【
図7】
図7は、回折素子における波動ベクトルグラフを示す。
【
図8】
図8は、回折素子の異なる構成における波動ベクトルグラフを示す。
【
図9】
図9は、回折素子の異なる構成における波動ベクトルグラフを示す。
【
図10】
図10は、回折素子の異なる構成における波動ベクトルグラフを示す。
【
図11】
図11は、回折素子の異なる構成における波動ベクトルグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
次に、本発明の実施形態およびその利点を、添付の図面を参照してより詳細に説明する。
【0043】
[定義]
「導波路」は、内部全反射を介して光を導くことができる構造を指す。
【0044】
「アウトカップリング領域」は、当該構造が配置された導波路の内部を進む光を、導波路の各位置など、導波路の少なくともいくつかの部分において導波路の外部と結合することができる回折構造である。
【0045】
「射出瞳拡大」とは、光のアウトカップリングが生じ得る領域を拡大するように、制御された方法で導波路内に光を拡散するプロセスを指す。
【0046】
「サブ領域」とは、本明細書では、他のサブ領域に対して、その格子パターンの特性によって区別することが可能なアウトカップリング領域の一部を指す。
【0047】
「二重周期格子パターン」とは、格子が第1の角度(横方向)の第1の周期と、第1の角度とは異なる第2の角度(横方向)で第2の周期とを有するように、周期的構造で配置された基本要素によって形成された格子パターンを指す。したがって、複数の周期毎に定義される方向の間にはゼロでない角度がある。当該角度は例えば、1~90度、例えば、正確に90度とし得る。したがって、本明細書の格子パターンは、2つの周期、周期間の角度、格子の基本要素、すなわち微細構造(「格子特性」)の自由形状の集合、によって特徴付けられる。二重周期格子パターンの2つの周期は両方とも、通常200~800nmなどの1μm以下の光学的回折範囲内にある。各二重周期格子パターンは、光学的に単一の格子を形成するように、単一層、または互いに近接した複数層に配置された基本要素から形成することができる。
【0048】
二重周期サブ領域の中で、一次元の、すなわち、単一周期の格子パターン、空隙、または任意の他の構造を有するサブ領域の使用は、除外されないことに留意されたい。
「基本要素」とは、少なくとも1つの次元で格子を形成し、その屈折率によってその周囲の材料(複数可)とは区別できる、周期的に反復する最小構造を指す。
【0049】
「横方向」とは、導波路の表面およびそれに配置された格子の平面に平行な面内方向(その周期によって定義される)を指す。
【0050】
基本要素の「横方向形状」とは、横方向平面におけるその形跡を指す。典型的な横方向形状には長方形、三角形、六角形、八角形、楕円形および円形が含まれるが、これらに限定されない。ここで、非常に複雑で不規則な横方向形状も同様に可能である。
【0051】
基本要素の「高さプロファイル」とは、側面に垂直であり、当該要素と交差する任意の平面におけるその断面形状を指す。典型的な高さプロファイルには、バイナリ(矩形)、三角形、およびブレーズド形状が含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
[選択された実施形態の説明]
[一般事項]
次に、本発明を実際に実施するための選択された実施形態および設計規則を紹介する。特に、射出瞳拡大領域とアウトカップリング領域とが組み合わされ、それによって導波路表面のかなりの部分(または、インカップリング領域となり得る部分を除いた導波路表面全体)がアウトカップリング領域として利用可能となる構造が説明される。これは、例えば、アウトカップリング領域が、各眼のレンズの全表面積を占めるような「眼鏡」形状となるよう、ARディスプレイを設計することを可能にする。典型的には、インカップリング領域は、視野の外側(例えば、レンズがフレームに取り付けられる場所)に存在し、したがって、レンズ領域の使用には影響を及ぼさない。
【0053】
提案される構造は、理論的に可能な限り多くの利用可能な導波路「モード」を、ライトフィールド伝播のために利用することができる。この利用を達成するために適用可能な設計規則を紹介する。これらの設計規則では、各画像画素が少なくとも3つの光線方向によって表され、その凸状の組み合わせが、全ての考え得る伝播方向を含む必要がある。この基本的制約とは別に、導波路または導波路の「モード」の伝搬方向の全範囲を、画像/情報伝送に利用できる。
【0054】
本発明は主に、頭部装着型ディスプレイ(HMD)、特にNEDを含む、個人用の着用可能なディスプレイ用途の分野で説明される。これらの用途においては、アウトカップリング領域を使用して、導波路に結合されたオリジナル画像を忠実に表す可視画像を形成し、光がインカップリング位置からアウトカップリング位置に進み、それらの間で射出瞳拡大があるときに、画素カラーおよび相対画素位置を保持することを目的とする。しかしながら、同じ原理を適用して、例えば、LCDディスプレイ又は装飾照明装置用の白色光バックライトさえも成すことができる。
【0055】
[素子構成]
図1および
図2は、拡張現実用途のためのニア・ツー・アイ(NED)装置を示しており、眼の通常のビューに重ね合わされた画像は眼の近くに、典型的には瞳孔18から数センチメートルのところに配置されたアウトカップリング領域16によって生成される。ニア・ツー・アイ装置の1つの可能なフォームファクタは、
図2に示される「眼鏡」フォームファクタであり、ここで、ニア・ツー・アイ装置は、眼鏡レンズと置き換えられるか(視覚補正なし)、またはその上に置かれる(視覚補正あり)。このような構成では、画像は、例えば、プロジェクタまたは他のディスプレイ装置が入射光線12のビームを生成し、入射光線12が導波路10のインカップリング格子14を照射することによって眼鏡フレーム内に生成される。インカップリング格子14において、光は回折され、ライトフィールドは導波路10によってアウトカップリング領域16に運ばれ、そこで光はアウトカップリングされ、ユーザの眼の瞳18を照らす。
【0056】
図2の構成は、1つの特定の例に過ぎず、多くの異なる変形および構成が可能である。すなわち、導波路10と、そのインカップリング領域と、アウトカップリング領域16は、異なるように配置することができる。特にアウトカップリングおよび射出瞳拡大を組み合わせる本開示のアウトカップリング領域を使用する場合、いくつかの変形が可能であるが、それは、別個のアウトカップリング格子の必要性を排除することによって、導波路の表面領域を自由にし、それはまた、例えば、インカップリング格子の配置に関連する他の設計自由度を提供するからである。
【0057】
この構成は、装置が片眼または両眼に画像を提供するようなものであってもよいが、両眼の機能は各眼に1つずつ、2つの別個の装置を使用することによって達成することもできる。ここでは、片眼または各眼別々の構成について説明するが、同じ原理が本発明に含まれる両眼の設定の場合にも等しく十分に適用可能である。
【0058】
図3は、本発明の一実施形態による導波路構造30を概略的に示す。これは、内部全反射が生じる2つの主面30A、30Bと、波動伝播が生じる導波路30(導波路本体とも呼ばれる)と、を含む。導波路30の1つの主面30Aは、回折性の二重周期アウトカップリング領域36によって完全にまたは部分的に覆われているが、このアウトカップリング領域36は、導波路30内のライトフィールド32Eを修正し、導波路30から光線32Gを出力するように結合できる。インカップリング格子34からアウトカップリング領域36に進む波は、符号32Cで示されている。外界からの光線32Hは、(ARのような透視用途において)最小の歪みで格子を通過する。
【0059】
アウトカップリング領域36は、異なる微細構造を有するが、2つの周期間で同じ周期および角度を有し、導波路30上で同じ相互配向を有する、いくつもの二重周期サブ領域36Aに分割される。
【0060】
図3には、導波路30の1つの主面30Aのみにアウトカップリング領域36が設けられた実施形態が示されている。いくつかの実施形態では、主面30A、30Bの両方に、異なる微細構造を有するサブ領域に細分化された類似のまたは異なる種類の二重周期アウトカップリング領域が設けられる。これは、光が導波路30の内部を進むときに、光が各表面30A、30Bで修正されるという利点を有する。
【0061】
異なるアウトカップリング領域構成である2つの実施形態を、
図4および
図5に示す。両方とも、導波路40、50上の領域46、56が、その主面の方向に沿って隣接し合うサブ領域46A、56Aに二次元的に細分化される幾何形状に関するものである。各サブ領域46A、56A内には、特性が変化しない格子パターンがある。すなわち、サブ領域内の格子パターンは、横方向に一定である。細分化は、
図4に示すように、長方形または他の規則的なタイリングからなるもののように規則的であってもよく、あるいは、
図5に示すように、完全に不規則であってもよい。細分化は、これらの端部間、すなわち周期的または擬似周期的であってもよい。
【0062】
いくつかの実施形態では、各サブ領域が同じ横方向形状を有する。いくつかの代替実施形態では、サブ領域のそれぞれは少なくとも1つの他のサブ領域の横方向形状とは異なる横方向形状を有する、すなわち、少なくとも2つの異なるサブ領域形状が存在する。さらに、いくつかの実施形態では、サブ領域のそれぞれは他のサブ領域のそれぞれの横方向形状とは異なる横方向形状を有する。アウトカップリング領域は、全体として、任意の横方向形状を有し得る。
【0063】
導波路の両表面上のアウトカップリング領域が使用される場合、上述の点は、これらの領域の両方に別々に適用される。
【0064】
ここでは、そのような導波路が、主面が平坦の場合を示しているが、本発明は湾曲した表面(特に、球状表面の区画)を有する導波路にも同様に適用可能である。同様に、導波路本体は、ここでは一定の屈折率を有するものとして扱われるが、本発明の範囲内で、他の導波路構造も考慮することができる。例えば、屈折率勾配プロファイル、および回折格子と間隔を置いて配置された一定屈折率材料のスタック、または導波路本体のスタックなどである。
【0065】
1つまたは複数のインカップリング領域は、
図4または
図5には特に示されていない。それらは、アウトカップリング領域から横方向に分離されていてもよく、または隣接していてもよい。特に留意すべきは、
図4または
図5に例示されたサブ領域46A、56Aのいずれも、結合効率を最大にする専用のインカップリング格子パターンが設けられた場合には、特にインカップリング領域、あるいはそのようなものとして機能できることである。いくつかのインカップリング領域が使用される場合、それらをまとめて考慮可能であることに留意されたい。それは、本明細書で議論されるアウトカップリング構成を決定するために、インカップリング機能が異なる領域間でどのように分担されるかを知る必要がないためである。
【0066】
[素子の光学的動作]
細分化された二重周期アウトカップリング領域、および典型的には1つ以上の二重周期インカップリング領域は、各画像画素に対して3つの、典型的にはそれ以上の光線方向の使用を可能にする。これは、インカップリング領域からアウトカップリング領域への光線経路が様々な方向に伝播する光線を含むこと(すなわち、光線は特定の方向に向かう傾向がない)を意味する。これはまた、光線経路が本質的にカオスビリヤードの形態を示すので、異なる画像画素および異なる波長に対する光線経路が互いに著しく異なることを意味する。通常、最適な設計とは、ここで便宜的に分離している個々の光線の特性間の妥協を表すから、設定された設計基準(効率、均一性など)を満たすように導波路構造の性能を最適化する際に、上記ばらつきにより設計上の大きな自由度が得られる。設計基準については、本明細書の後半でより詳細に説明する。
【0067】
二重周期格子を使用すると、単一周期格子を使用する場合よりも設計の自由度が豊富になる。この豊富さは、そのような格子を特徴付けるパラメータの、実質的に二乗された数によるものであるが、それらの2次元(周期性の平面内)特性もまた、より容易に認識できる利点を提供する。実際に、バイナリ格子の場合においては、単一周期バイナリ格子はそれらの周期、高さ、およびそれらの遷移点によって完全に特徴付けられるのに対し、二重周期バイナリ格子はそれらの2つの周期、すなわち、周期間の角度と、自由形状の2次元形状の集合とによって特徴付けられることに留意されたい。形状または領域の自由形状は、二重周期バイナリ格子に、単一周期のバイナリ格子の場合よりも著しく大きな設計自由度を提供する。
【0068】
バイナリ格子は、より複雑な高さの変化を有する格子よりも製造がはるかに容易であることを考えると、これらの設計自由度は、実際の製造製品に関連する利点(パフォーマンスの向上など)に直接的に転換される。しかしながら、ここでの格子が非バイナリであること、すなわち2値を超える高さプロファイルを有することは、除外されない。
【0069】
二重周期格子を使用すると、このような格子が光線のインカップリングおよびアウトカップリングのために使用される場合(例えば、
図7に関する以下の詳細な議論も参照のこと)、伝播モードの環の使用も可能な限り可能となる。本明細書において後で詳述するように、環状領域に対する画像領域の比率の理論上の上限は33%であるが、実際の用途では比率が、単色ディスプレイでは約12%であり、全可視スペクトルを表示するときは8%であり、これはそれぞれ約90°および70°の視野(アスペクト比が16:9であるとき)に変換される。これは、単一周期の格子が使用されるシステムで達成可能な視野50°および35°に対応する、4%および2%の比率と対照的である。さらに、比較的単純な設計規則に従う限りこの高い面積比は、ほとんど任意の導波路幾何形状に対して自動的に利用可能であるが、一方で、個別のフィールド拡張領域が使用されるシステムにおいては、導波路幾何形状に強く依存する最大面積比に到達するために、各形状に対して手動で調整する必要がある。
【0070】
これらの考察は単一の導波路システムに適用されるものの、本発明は複数導波路のセットにおいても使用可能であるが、当該セットは、画像の異なる部分(例えば、空間的に及び/又はスペクトル的に完全に又は部分的に分離された)が異なる導波路内を伝播するシステム、および1つ又は複数の導波路のアウトカップリング領域が、ユーザの眼の代わりに、またはユーザの眼に加えて、および適切な光源の代わりに、1つまたは複数の導波路のインカップリング領域(複数可)にフィード可能なシステムを含む。
【0071】
ここでは、二重周期格子が使用されるから、そのような格子に関連する自由度を利用できる。単一周期格子と比較すると、これらの自由度は、追加の周期および周期間の角度を含む。
【0072】
二重周期格子の使用は、それぞれの格子が、環の内側の入射光線のすべての「モード」と内側の円との間で結合できることを意味する。単一周期格子の場合、導波路の異なる位置でいくつかの格子を使用することによってのみ同じ結果を得ることができるが、これは設計の観点からして問題がある。これは、一つの格子から他の格子への遷移に伝搬が必要であり、したがって、処理が非局所的であり、伝搬方向を慎重に考慮しなければならないためである。
【0073】
二重周期格子により、特に、図の内側の円において非0次モードを有する光線、すなわち、導波路の外側を伝播するが、導波路の内側を伝播しないモードを利用することが可能である。この特徴は、画像伝送のための伝播モード環領域の利用を最大化することを可能にする。望ましくない方向への光の漏洩は、設計規則が守られ、これらの光線の使用が意味する効率の損失が、最適化プロセスによって利用され且つ制御され得る設計自由度である場合、画質を損なわない。
【0074】
[設計原則]
次に、当業者が、異なる目的で本種の様々な素子を実施するため、サブ格子の形状および格子パターンの特性を最適化することを可能にする主要な原理を説明する。
【0075】
ディスプレイ目的で導波路の最適化する目的は、ディスプレイ画素それぞれが、少なくとも1つのインカップリング領域において導波路に結合され、またアウトカップリング領域にわたって十分な空間的周期で複製されるように、インカップリング領域およびアウトカップリング領域のための格子セットを見つけることであり、その結果、アウトカップリング領域から発せられる光線によって生成される、観察者の眼の網膜における画像は、元の画像の忠実な再現となる。
【0076】
忠実な表現の基本的な概念は、オリジナル画像の各画素が、画像の他の画素に対して正しくマッピングされるということである。本幾何形状においては、画像の画素は、インカップリング領域に到達する前に特定の方向に伝播する入射光線によって表される。したがって、忠実な表現とは、最適、または略最適な場合において、以下のことを意味する。
【0077】
I. そのような入射光線がアウトカップリング領域を出た後に、その方向(または、その反射などの単純なマッピング)を保持すべきである。
II. 人間の眼のスペクトル応答に対応するCIE空間への画素スペクトルの投影を維持する。実際には、光の波長の特定の組み合わせが、全体として考慮した場合に、(ほぼ)不変のままであるべきことである。
III. インターピクセル強度関係は変わらない。
IV. 全体の強度(出力強度)が最大化される。
V. 上述の基準I~IVはアイボックス、すなわち、視認されるアウトカップリング領域またはその一部にわたって(ほぼ)均一である。これは人間の眼が、典型的にはディスプレイ装置によって提供される照明に対して静止していないためである。
VI. 全ての瞳孔位置において、各画素に対応する少なくとも1つの光線が眼に到達するが、これは基本的に、そのような光線がアウトカップリング領域から発する空間周波数の下限となる。
【0078】
通常、実際には、上述の基準の全てを正確に満たすことは不可能である。しかしながら、実際的な目的のためには、基準I(光線伝播方向)及びIV(光線出射点のための十分な空間周波数)を正確に満たすだけで十分であることが多い。これは、公知の回折導波路計算によって、明示的に実行することができる。残りの基準は、明示的にまたはコンピュータ最適化によって、ほぼ満たすことができる。通常、これらの基準間におけるトレードオフは許容可能である。したがって、格子の幾何形状、すなわち周期、格子のサブ領域の周期、形状、および位置の間の角度を定めることで十分であり、その結果、基準IおよびVIが満たされる。一方で、十分な設計自由度を有する最適化アルゴリズムを使用して、基準II~Vが十分な精度で満たされる最適化結果解決手法を見出し得ることも保証可能である。特に、最適化アルゴリズムは基準II~Vが所定の程度まで満たされるように、各サブ領域における基本要素、すなわち微細構造の形状を決定するように構成される。
【0079】
図6を参照すると、基準I及びVIは共に導波路内の光線の伝播に関係している。光線の伝播方向は、対応する平面波の波動ベクトルを、真空中において、その長さで割ったもの、すなわちベクトルρで表すのが最も便宜的である。説明を簡単にするために、ここでは平面導波路に集中するが、球面導波路についても同様の設計基準が当てはまる。本発明の焦点であるように、我々はまた、二重周期格子のみを考慮する。次に、z軸が導波路の(平面の)主面に垂直であり、一定のz座標とは別に、これらの面上の任意の点をそのx座標およびy座標によって表すことができる座標系を考える。次いで、任意の光線の伝播特性はベクトルρ、ρ
xおよびρ
yのx成分およびy成分によって完全に特定されるが、これらは、さらに、光線が導波路に出入りするときに変化しないままであり、導波路主面で内部全反射によって反射され、または格子によって(0、0)回折次数に回折される。より大きな回折次数は、形成pa+qbのρのシフトによって記述されるが、ベクトルaおよびbは格子の2つの周期および波長に関連しており、整数pおよびqは対応する回折次数である。ベクトルρのz成分は、ρの長さが、光線を伝播させる材料の屈折率nに等しいという事実によって決定される。特に、平面導波路の厚さdは一定であるから、z成分が、光線が主面に当たる2つの連続する位置の間のxy座標系における空間距離rを決定する、ということになる(
図6)。r
x=cρ
x/ρ
z、r
y=cρ
y/ρ
zのベクトルrで、xy-面のシフトを明示的に表すことができる。ここで、cは定数、ρ
z
2=n
2-ρ
x
2-ρ
y
2である。
【0080】
導波路に対する光線の挙動は、ρ
xρ
y空間の図(
図7)によって便宜的に示すことができるが、それぞれの光線は点によって表されており、内側の円は、その半径が導波路の外部の物質の屈折率に等しいが、導波路の外部を伝播する光線を表しており(
図7:A)、外側の円は、その半径が導波路の屈折率に等しいが、導波路の内部を伝播する光線を表している(
図7:A、B)。2つの円によって画定される環(
図7:B)内にある光線は導波路内を伝播するものの、その主面で内部全反射を受ける、すなわち、導波路の「モード」を表している。これらの光線を用いて、導波路の一部から別の部分へと画像を転送することができる。画像自体(
図7:C)は導波路の外側を伝播するから、それは導波路の外側を伝播する光線によって表されなければならず、したがって常に内側の円の内側に位置する。それは、インカップリング領域の格子によって環にシフトされ(
図7:D)、アウトカップリング領域の格子によって戻され得る。導波路の主平面における光線の伝播方向(rの方向)は、原点から図中の光線を表す点(
図7:F)を指すベクトル(
図7:7E)によって直接的に与えられるが、r自身を得るためには、ベクトルの長さにさらに係数c/ρ
zを乗じなければならないことに留意されたい。
【0081】
ここで、光線がインカップリング格子を通って導波路に入り、導波路表面のいずれかの回折格子から別の回折格子に伝播し、最終的にこれらの格子の1つによってアウトカップリングされると仮定する。また、ここで論じる全ての光線が、同じ波長の光に対応すると仮定する。
【0082】
ここでは、単色ディスプレイを1つの有用な応用分野として論じる。しかしながら、これはここに提示する原理の基本的な制限を課すものではなく、当業者は、可視スペクトル内の全ての異なる波長についての設計基準を同時に考慮することによって、設計基準を可視スペクトル全体に直接拡張することができる。
【0083】
基準Iから、すべてのアウトカップリングした光線について、図中の光線位置はインカップリング領域に入った光線と同じでなければならないこと、つまりρxとρyは変わらないことを認めた。光線が導波路を横切るときに通過した回折格子にjで標識を付ける場合、光線経路に沿ったρの全シフトは、pjaj+qjbjの形の寄与率の合計として記述できる。導波路に入る各光線が、各格子において異なる回折次数(異なるpj、qj)に伝播するサブ光線に分かれることを考慮すると、この合計が全てのアウトカップリングされたサブ光線に対して消滅することを保証する第1の段階として、全てのjに対してaj=aおよびbj=bをとることが最も好都合であると認められる。すなわち、我々は、システム内の全格子(インカップリングおよびアウトカップリング)の二重周期性を同じ構成に固定する、すなわち、周期およびそれらの方向の両方を固定する。この構成は、異なる回折次数に対応する伝播光線が、環内または内側の円内のいずれかで重なり合う可能性を依然として起こしたままにしている。
【0084】
aおよびbが、画像の全てのより大きな回折次数が内側の円の外側にあるように、固定された画像形状に対して相対的に選択される場合、これは、画像の全ての回折次数が相互に分離していることを自動的に意味する、と幾何学的に見ることは容易である。内側の円からの(0、0)回折次数を除く全てを除外することは、画像が意図された方向にのみアウトカップリングされることを保証するので、理にかなっている。しかしながら、伝播モード(後述)に環の領域を十分に利用するためには、画像を元の画像と重ならない方向にアウトカップリングさせることが有用である、すなわち、(0、0)次数以外の他の次数が内側の円の内側に寄与を有することを可能にすることが有用である。また、この基準は、環に重なりがないことを保証するのに十分である。
【0085】
基準VIは、アウトカップリング領域内の全ての点Pについて、導波路にインカップリングされるすべての光線について、Pに十分に近い点Qにおいてアウトカップリング領域に到達する(ヒットする)光線経路が必要であると解釈できる。
【0086】
(a)このためには、所与のインカップリング光線に対応する光線経路がアウトカップリング領域を「満たす」ことが必要であり、さらに
(b)「満たす」ことが十分に密であることが必要である。
【0087】
ここでは、(a)に注目するが、それは、導波路を十分に薄くすることによって(a)が(b)を原則として満たしているなら、導波路の厚さを薄くするにつれて定数cが小さくなるからである。さらに、実際には、光線経路の構成を使用して、「満たす」密度を増加させることもできる。任意の所与のインカップルされた光線の考え得る光線経路に関する洞察を得るために、格子の周期を固定し、両方向で-1、0、1よりも大きな回折次数((0、0)次数を除く)が導波路内の伝播光線に対応しないようにする。ただし、これはここに紹介する発明の基本的な制限ではなく、必要に応じてより大きな次数を、分析のために直接組み入れることが可能である。
【0088】
図8に示すように、画像光線(
図8:A)の対応する導波路モード(
図8:B)へのマッピングは、便宜的に図式的に表示できる。この図はまた、特定のインカップルされた光線(
図8:C)が、対応する伝搬方向ベクトル(
図8:E)により、導波路(
図8:D)内を伝搬するモードに結合される様子を示す。これらのベクトルρから、先に示したように、主面内の対応する伝搬ベクトルrを計算することができる。インカップリングされた光線に対応する光線経路が主面をヒットする点の集合(満たし)は、負でない整数係数を有するこれらのベクトルrの線形結合として表すことができる。しかしながら、そのような組み合わせがどの程度良好にアウトカップリング領域を満たすかを知るためには、非負の実数係数を考慮することがより便利である。これは、線形結合が、図中のベクトルから直接得ることができる線形結合と等価であるためである。
【0089】
ここで、インカップリング領域およびアウトカップリング領域の位置関係について事前には何も知られていないと仮定する。これによって、アウトカップリング領域の到達可能性または満たし特性は、導波路主面上のすべての点が同じ表面上の任意の他の点から到達可能であるという要件として、簡単に説明できる。この仮定により、本アプローチが従来のアプローチと明確に区別されるが、そこでは、インカップリング領域とアウトカップリング領域との間の特定の構造的関係が仮定され、非常に利用される。具体的には、これらの2つの領域間の関係が知られている場合、インカップルされた光線を表すために使用される導波路モードは、それらが正しい方向に伝播するように選択できる。これには、単一周期格子の格子周期を注意深く配置すること、および選択することが必要である。また、モード環の比較的小さな部分(典型的には四分円の一部)のみを使用して、インカップリングされたイメージを伝播するために使用できることも意味する。これは、モード環の比較的小さな部分(通常は象限の一部)のみを使用して、結合画像を伝播できることを意味する。
【0090】
特定のインカップリング光線が与えられた場合、主面上の任意の他の点から到達可能な主面上のすべての点について、任意の2次元ベクトルは、インカップリング光線を表す伝播モードに対応するベクトルの非負の線形結合として表現可能でなければならない。特に、これはゼロベクトルがこれらのベクトルの凸結合として表現可能でなければならないことを意味するが、これは図中の原点が伝播モードを表す点の凸包の内部点(境界上ではなく内側)でなければならないことを意味する(「原点原理」)。原点は内部点であるから、半径がゼロでない、原点を中心とする球があり、その中に、すべての点(原点からのベクトル)を、モードベクトルの凸の組合せとして表すことができる。この球は、すべての空間を満たすようにスケーリングすることができるので、任意の2次元ベクトルを、モードベクトルの非負の組合せとして表すことができることになる。したがって、到達可能性は「原点原理」と同等であるが、それは、インカップリングされた光線の伝播モードが、光線経路がすべての空間(アウトカップリング領域)を満たすために満足しなければならない最小要件を指定する。したがって、本素子の有利な実用的実装を可能にする設計規則を提供する。この設計規則は直接的な帰結を有しているが、それは、3つ未満の点では内部(非ゼロ領域を有する多角形)を有する凸包を記述できないため、その光線の光線経路がすべての空間を満たせるようにするためには、それぞれインカップルされた光線に対応する少なくとも3つの異なるモードがなければならない(「モード原理」)ということである。設計規則は、
図8および
図9の例によって満足されるが、
図10および
図11の例では違反している(凸包はこれらの例のすべてにおいて点線で表されている)。
【0091】
当然の結果として、完全に伝播する必要のある画像は、伝播モードの環の領域の1/3よりも大きいρ
xρ
y空間の領域を有することができない。この画像領域は、固定されたアスペクト比の場合、FOVに関連するから、この制限は、導波路が平面であり、インカップリングおよびアウトカップリングが格子によって達成される任意のシステムについては、FOV上に決定的な上限を課す。しかしながら、典型的には、この境界はほとんどのインカップリングされた光線が通常3つより多い伝播モードによって表されるから、理論的に達成可能なFOVは大幅に過大評価される(例えば、
図9参照)。
【0092】
実際の導波路の場合、光線経路が主面にヒットする位置は、
図12に示すように、ベクトルrの非負の整数の組合せによって与えられるが、
図8の伝搬モードが適用されるとき、長さ3以下の光線経路が特定の開始位置(塗りつぶされた円)について示されている。最大長さ(ホップ数、主面ヒット数)6、11、21の光線経路が到達した位置の集合を、矩形の主面を有する導波路の場合について
図13に示し、始点に円で印をつける。
【0093】
この例が示すように、設計規則が適用される場合であっても、到達可能な位置は、全ての空間を満たす連続体を形成せず、空間点に分散された離散的な点のセットのみを含む。それによって、設計規則は要件(a)を満たすことになるが、要件(b)については、分散パターンが、導波路の厚さと、関連する光線経路の典型的な長さ(最終結果の結果となるのに十分な強度を搬送する光線経路)とによって設定される長さスケールとともに、導波路幾何形状内の位置の十分な密度をもたらす場合にのみ満たされる。さらに、この密度は、
図14および
図15の例が示すように、導波路主面の有限性および特定の幾何形状によっても影響を受ける。
図14では、始点は主面の角付近に位置しており、
図15では、主面は中央に穴を有する。したがって、実際の導波路設計では、基準VIを満たすために、導波路主面の幾何形状、インカップリング領域の位置、および画像内のすべての画素に利用可能なモードによって提供される伝搬方向に対する導波路の厚さを注意深く分析することによって、上に提示された設計規則を強化させなければならない。
【0094】
所与の入射光線の全ての副光線が横切る光線経路の全体が、入射光線方向に対して極めて敏感であることに留意されたい。これは部分的には伝播モード環内の位置の数が入射光線方向に対してジャンプ不連続性を有し、また部分的に、とられるホップの数が多いこと、および、アウトカップリング領域内の回折格子の空間的分散が、伝播方向の小さな変化が様々な格子の横断をもたらすことを意味することに起因する。さらに、複数の波長を有する用途では、回折次数の波長依存性が、光線経路の全体が発光の波長に極めて敏感であることを意味する。光線経路の大きなばらつきは、波長および伝播方向という意味で近い光線であっても、光線経路に違いがあり、したがって、システムには非常に多くの設計自由度があるが、それらは素子設計の際に利用可能であることを意味している。
【0095】
上記紹介した設計規則から分かるように、本発明の射出瞳拡大およびアウトカップリングの組み合わせによる方式は、本質的に格子の周期性および導波路の厚さにのみ依存し、これらの規則に基づく導波路幾何形状は、任意の数のインカップリング領域をサポートすることができる。複数の光源/画像光源が必要な場合、これらの光源を導波路の外部で明示的に混合する必要がないから、複数のインカップリング領域が有用である。そのような用途の一例は、例えば、単色レーザの三つの組(赤、緑、青)を使用して、システムのインカップリング側にフルカラー画像を生成する場合である。インカップリング領域とアウトカップリング領域との間の特定の幾何学的関係(到達可能性を除く)は必要ないため、複雑な幾何学的形状の導波路にこれを利用することが可能である。
【0096】
上記の議論は、インカップリング格子型NEDの実施に焦点を当てているが、それは、アウトカップリングおよび出射ビーム拡大のために本回折素子を利用して、完全な画像を、導波路内を伝播させるものである。一般的な照明解決手法またはバックライト解決手法においては、表示されるべき特定の画像はないが、目的は導波路内で白色光または他の波長スペクトルを拡散することだけであるから、設計はより簡単である。