(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】ステアリング制御装置およびパワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230322BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2018185536
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】石村 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 修司
(72)【発明者】
【氏名】孫 漢宇
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-245918(JP,A)
【文献】特開2010-163109(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014228(WO,A1)
【文献】特開2014-227115(JP,A)
【文献】特開2015-145215(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0094912(US,A1)
【文献】特開平07-129169(JP,A)
【文献】特表2010-530153(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102009047586(DE,A1)
【文献】国際公開第2015/163051(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/075775(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/027663(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング機構を駆動するモータの駆動をハンドルの操作量に従って制御するステアリング制御装置において、
前記ハンドルの操作量に応じたモータトルクを前記モータに指示する第1トルク指令部と、
前記ハンドルの操作量に応じたモータトルクを前記第1トルク指令部と並列に前記モータに指示する第2トルク指令部と、を備え、
前記第2トルク指令部は、前記ハンドルの操作量に対し、前記ステアリング機構に付加される外乱に対応した周波数領域をフィルタで抑制
し、
前記ハンドルが、トーションバーを介して前記ステアリング機構にステアリングトルクを加え、
前記ステアリングトルクを相殺するモータトルクを、前記第1トルク指令部および第2トルク指令部と並列に前記モータに指示する相殺指令部を更に備えるステアリング制御装置。
【請求項2】
前記第2トルク指令部は、前記フィルタとして、帯域制限フィルタとハイパスフィルタとが並列されたフィルタを用いる請求項1に記載のステアリング制御装置。
【請求項3】
前記第2トルク指令部は、前記モータに指示するモータトルクを車速低下に伴って減少させる請求項1または2に記載のステアリング制御装置。
【請求項4】
前記ハンドルが、トーションバーを介して前記ステアリング機構にステアリングトルクを加え、
前記第2トルク指令部のゲインが、前記トーションバーの捻り係数と前記ステアリング機構におけるプラント要素との積に較べて大きい請求項1から3のいずれか1項に記載のステアリング制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のステアリング制御装置と、
前記ステアリング制御装置によって駆動が制御されるモータと、
前記モータによって駆動されるステアリング機構と、
を備えるパワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング制御装置およびパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置のステアリング制御(アシスト制御)として、路面からの外乱の影響を低減する技術が知られている。
例えば、特許文献1には、外乱オブザーバを用いてステアリング系に印加された外乱を推定している構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のようにステアリング系の動特性を数学モデルによって推定する場合、その数学モデルの精度が外乱の推定精度に影響してしまう。そのため、数学モデルを用いた外乱の推定では、外乱補償が複雑となる。
そこで、本発明は、数学モデルを用いず、より簡易な構成で外乱抑制を行うことを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るステアリング制御装置の一態様は、ステアリング機構を駆動するモータの駆動をハンドルの操作量に従って制御するステアリング制御装置において、上記ハンドルの操作量に応じたモータトルクを上記モータに指示する第1トルク指令部と、上記ハンドルの操作量に応じたモータトルクを上記第1トルク指令部と並列に上記モータに指示する第2トルク指令部と、を備え、上記第2トルク指令部は、上記ハンドルの操作量に対し、上記ステアリング機構に付加される外乱に対応した周波数領域をフィルタで抑制する。
【0006】
また、本発明に係るパワーステアリング装置の一態様は、上記ステアリング制御装置と、上記ステアリング制御装置によって制御されるモータと、上記モータによって駆動されるステアリング機構と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、数学モデルを用いず、より簡易な構成で外乱抑制を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明のパワーステアリング装置の一実施形態を示す概略図である。
【
図2】
図2は、電動パワーステアリング装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、パワーアシストがほぼゼロの場合における電動パワーステアリング装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、第2の制御部におけるフィルタ構造を示す図である。
【
図5】
図5は、
図4に示すフィルタ構造によって得られる周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示のステアリング制御装置およびパワーステアリング装置の実施形態を詳細に説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
図1は、本発明のパワーステアリング装置の一実施形態を示す概略図である。
【0010】
図1に示す通り、本実施形態では、コラムタイプの電動パワーステアリング装置が例示される。電動パワーステアリング装置9は、自動車の車輪の操舵機構に搭載される。電動パワーステアリング装置9は、モータ10を内蔵したステアリング制御装置1の動力により操舵力を直接的に軽減するコラム式のパワーステアリング装置である。電動パワーステアリング装置9は、ステアリング制御装置1と、操舵軸914と、車軸913と、を備える。
【0011】
操舵軸914は、ハンドル911からトーションバー915を介して伝達される入力トルクを、車輪912を有する車軸913に伝える。ハンドル911が操作されると操舵角θhが生じ、トーションバー915が捻られてステアリングトルクが生じる。ステアリングトルクはトーションバー915から、車輪912と車軸913と操舵軸914を含んだステアリング機構に伝達される。つまり、ハンドル911は、トーションバーを介してステアリング機構にステアリングトルクを加える。
【0012】
ステアリング制御装置1の動力は、ギヤなどを介して操舵軸914に伝えられる。コラム式の電動パワーステアリング装置9に採用されるモータ10は、エンジンルーム(図示せず)の内部に設けられる。なお、
図1に示す電動パワーステアリング装置9は、一例としてコラム式であるが、本発明のパワーステアリング装置はラック式であってもよい。ステアリング制御装置1は、ステアリング機構を駆動するモータ10の回転角をハンドル911の操作量に従って制御する。
【0013】
トーションバー915から操舵軸914へと伝達されるトルクはトルクセンサ917によって検出される。トルクセンサ917による検出値はステアリング制御装置1に入力され、ステアリング制御装置1の目標出力の算出に用いられる。
【0014】
モータ10の回転軸(出力軸)と操舵軸914とは減速ギヤなどを介して相互に結合されている。このため、操舵軸914を回転させるトルクがモータ10によるトルクであるか他のトルクであるかに関わらず、モータ10と操舵軸914とは常に一緒に回転する。従って、モータ10の回転数からギヤ比などに基づいてステアリング角θsが算出される。このように算出されるステアリング角θsもステアリング制御装置1における目標出力の算出に用いられる。
【0015】
ハンドル911からトーションバー915を経て伝達されるステアリングトルクと、ステアリング制御装置1の動力によるアシストトルクとが操舵軸914に加えられる一方で、セルフアライメントトルクなどが車輪912から車軸913を経て操舵軸914に至り、操舵軸914の回転角であるステアリング角θsが生じる。
図2は、電動パワーステアリング装置9の構成を示すブロック図である。
図2において、θhは操舵角、θsはステアリング角、K
torはトーションバー915の捻り係数、Pはステアリング機構のプラント要素を表している。
【0016】
ハンドル911の操舵角θhとステアリング角θsとの差によってトーションバー915が捻られてトルクが生じる。トーションバー915に生じたステアリングトルクTtorはトルクセンサ917によって検出されてステアリング制御装置1に入力される。
【0017】
ステアリング制御装置1は、第1の制御部11と第2の制御部12とトルク相殺部13と車速フェード部14とを備える。これらの要素のうち、第1の制御部11と第2の制御部12とトルク相殺部13は、モータ10に入力される制御信号の算出と、その制御信号に応じたモータ10の出力とを併せた機能を表す。
【0018】
第1の制御部11と第2の制御部12は、ハンドル911の操作量に応じたモータトルクをモータ10に指示する。また、第2の制御部12は、第1の制御部11と並列にモータトルクをモータ10に指示する。
【0019】
第1の制御部11は、トルクセンサ917によるステアリングトルクTtorの検出値に基づいたフィードバック制御を行う。即ち、トルクの検出値に基づいたアシストトルクをモータ10で発生させることにより、ステアリングトルクTtorを減少させる。この結果、ハンドル911を操作するための操作力が減少する。
【0020】
なお、アシストトルクを発生させるためのフィードバック制御としては、上述したようにトルクを減少させるフィードバック制御(トルク制御)以外に、操舵角θhとステアリング角θsとの差を減少させるフィードバック制御(舵角制御)が用いられてもよい。この舵角制御が用いられる場合には、ハンドル911の操舵角θhを検出する角度センサが備えられ、角度センサの検出値が第1の制御部11に入力される。第1の制御部11は、ハンドルの回転角(操舵角θh)を指令値としてモータ10のトルクを制御する。
【0021】
第2の制御部12は、外乱dの影響を抑制するトルク成分をモータ10に発生させる。後で詳述するように、第2の制御部12は、ハンドル911の操作量に対し、ステアリング機構に付加される外乱dに対応した周波数領域をフィルタで抑制する。第2の制御部12を備えたステアリング制御装置1によれば、数学モデルを用いない簡易な構成のフィルタによって外乱が抑制される。この結果、電動パワーステアリング装置9では滑らかなパワーアシストが実現される。
【0022】
トルク相殺部13は、ステアリングトルクTtorを相殺するモータトルクを、第1の制御部11および第2の制御部12と並列にモータ10に指示する。このようなトルク相殺部13によってステアリングトルクTtorが相殺されるので、第2の制御部12による外乱抑制の作用が鮮鋭化する。
【0023】
車速フェード部14は、車速VSに応じたゲインを算出し、第2の制御部12およびトルク相殺部13に入力されるステアリングトルクT
torに対してゲインを掛ける。車速フェード部14で算出されるゲインは、車速VSが低い程小さく、車速VSがゼロに近づくにつれてゲインもゼロに近づく。この結果、第2の制御部12およびトルク相殺部13がモータに指示するモータトルクは、車速低下に伴って減少し、車速VSがゼロに近づくにつれてフェードアウトする。この結果、低速時や停車時には外乱抑制の働きを下げることができる。なお、車速フェード部14は、
図2に示す例では、第2の制御部12およびトルク相殺部13への入力値を車速VSに対して適応制御させるが、車速フェード部14は、例えばMAPデータを用いて入力値を減少させてもよい。また、車速フェード部14は、
図2に示す例では、第2の制御部12およびトルク相殺部13への入力値を減少させるが、車速フェード部14は、モータ10に対する指示値を適応制御やMAPデータによって減少させてもよい。
以下、第2の制御部12について詳細に説明する。
図3は、パワーアシストがほぼゼロの場合における電動パワーステアリング装置9の構成を示すブロック図である。
【0024】
第2の制御部12によって抑制される外乱dの影響は、第1の制御部11によるパワーアシストがほぼゼロとなる範囲で最も大きくなる。トルク相殺部13が備えられているので、パワーアシストがほぼゼロの場合には、電動パワーステアリング装置9は、
図3に示すように、第2の制御部12のみを制御器としたフィードバック系と考えることができる。この結果、第2の制御部12による外乱dの抑制作用も鮮鋭化する。
【0025】
図3に示す構成において、ステアリング機構の入力に印加される外乱dからトーションバートルク(ステアリングトルク)までの伝達特性は、下記の式(1)で表される。
【数1】
【0026】
ここで、第2の制御部12のゲインC
3(s)がトーションバーの捻り係数とステアリング機構におけるプラント要素との積K
torP(s)に較べて大きいと外乱dに対して低感度化が実現される。そして、第2の制御部12のC
3(s)にはフィルタによって周波数特性が与えられ、抑制したい外乱dの周波数範囲が指定される。
図4は、第2の制御部12におけるフィルタ構造を示す図である。
【0027】
第2の制御部12は、一例として、入力信号に対して並列に作用する帯域制限フィルタ121とハイパスフィルタ122を備える。換言すると、第2の制御部12は、フィルタとして、帯域制限フィルタとハイパスフィルタとが並列されたフィルタを用いる。
【0028】
また第2の制御部12は、各フィルタ121,122を経た信号それぞれにゲインを掛ける各増幅器123,124も備える。そして、各フィルタ121,122と各増幅器123,124とを並列に経た各信号が加算器125で加算されて出力信号となる。
【0029】
第2の制御部12では、並列の帯域制限フィルタ121とハイパスフィルタ122とが用いられるので、帯域制限フィルタ121とハイパスフィルタ122との組み合わせによって外乱抑制に適したフィルタ特性が得られる。
ここで、帯域制限フィルタ121のフィルタ特性としては、例えば下記式(2)の特性が好ましい。
【数2】
但し、ω
SUSは、ステアリングリング機構におけるサスペンションの固有振動数である。
図5は、
図4に示すフィルタ構造によって得られる周波数特性を示す図である。
図5には、上記式(1)で表された伝達特性のシミュレーション結果が示されている。
【0030】
図5の上段には入力に対する出力のゲインが示され、下段には入力信号の位相と出力信号の位相との差分値が示される。各グラフの横軸は、入力信号の周波数を示す。
【0031】
図5中に示された一点鎖線のラインL1,L4は、帯域制限フィルタ121による寄与のみが考慮されたシミュレーション結果を表す。また、
図5中に示された点線のラインL2,L5は、ハイパスフィルタ122による寄与のみが考慮されたシミュレーション結果を表す。そして、
図5中に示された実線のラインL3,L6は、帯域制限フィルタ121とハイパスフィルタ122との両方の寄与が考慮されたシミュレーション結果を表す。
【0032】
帯域制限フィルタ121による緩やかなピークを有する周波数特性と、ハイパスフィルタ122による右肩上がりの周波数特性とが組み合わされることにより、100Hz未満の周波数領域におけるゲインが抑制された周波数特性が得られることがわかる。このような周波数特性は、ステアリング機構に与えられる外乱dを効率よく抑制することができ、外乱dの影響が少ないパワーアシストが実現される。
【0033】
なお、上記説明では、ステアリング制御装置1にモータ10が内蔵された例が示されているが、本発明のステアリング制御装置は、モータを内蔵しない制御側のみの装置であってもよい。
【0034】
上述した実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0035】
1 :ステアリング制御装置
9 :電動パワーステアリング装置
10 :モータ
11 :第1の制御部
12 :第2の制御部
13 :トルク相殺部
14 :車速フェード部
121 :帯域制限フィルタ
122 :ハイパスフィルタ
911 :ハンドル
912 :車輪
913 :車軸
914 :操舵軸
915 :トーションバー
917 :トルクセンサ