(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】定着装置および当該定着装置を備えた画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
G03G15/20 555
(21)【出願番号】P 2018213230
(22)【出願日】2018-11-13
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003443
【氏名又は名称】弁理士法人TNKアジア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100129997
【氏名又は名称】田中 米藏
(72)【発明者】
【氏名】北林 佑太
(72)【発明者】
【氏名】藤井 駿策
【審査官】市川 勝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-004940(JP,A)
【文献】特開2017-122899(JP,A)
【文献】特開2018-106089(JP,A)
【文献】特開2016-114914(JP,A)
【文献】特開2015-028531(JP,A)
【文献】特開2009-098211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に潤滑剤が塗布されたベルト状の定着部材と、
前記定着部材に対向配置され、前記定着部材との間に定着対象の記録媒体が挿通されるニップ部を形成する加圧部材と、
前記定着部材の内周面に接触して当該定着部材を加熱する熱源であって、前記定着部材の移動方向と直交する方向に複数の加熱領域が並設された熱源と、
前記複数の加熱領域の温度をそれぞれ検出する温度検出部と、
前記記録媒体が前記ニップ部に挿通される際に、前記温度検出部にて検出された、前記複数の加熱領域のうち前記記録媒体が通過する位置にある通紙加熱領域の温度を予め定められた制御温度に維持する維持電力を当該通紙加熱領域に対して供給するとともに、前記温度検出部にて検出された、前記複数の加熱領域のうち前記記録媒体が通過しない位置にある非通紙加熱領域の温度を前記通紙加熱領域の温度よりも低い温度でかつ前記通紙加熱領域の温度に対して一定の温度差を保つ温度に維持する電力を当該非通紙加熱領域に対して供給する電力制御部と、を備え、
前記潤滑剤の温度と粘度との関係を示す特性データを予め記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記特性データを用いて、前記通紙加熱領域が前記温度検出部にて検出された温度であるときの潤滑剤の第1粘度と、前記非通紙加熱領域が前記温度検出部にて検出された温度であるときの潤滑剤の第2粘度とを特定する特定部と、
前記特定部にて特定された前記第1粘度と前記第2粘度との粘度差が予め定められた規定値以下であるか否かを判定する判定部と、
前記判定部にて前記粘度差が前記規定値以下でないと判定された場合、前記記憶部に記憶された前記特性データを用いて、前記第1粘度からの粘度差が前記規定値以内の粘度が示す温度を前記非通紙加熱領域の目標温度として特定し、前記通紙加熱領域の温度と前記非通紙加熱領域の目標温度との温度差を前記一定の温度差として設定する設定部と、を備え、
前記電力制御部は、前記非通紙加熱領域の温度を前記設定部にて設定された前記一定の温度差となる前記目標温度に維持する電力を当該非通紙加熱領域に対して供給する定着装置。
【請求項2】
内周面に潤滑剤が塗布されたベルト状の定着部材と、
前記定着部材に対向配置され、前記定着部材との間に定着対象の記録媒体が挿通されるニップ部を形成する加圧部材と、
前記定着部材の内周面に接触して当該定着部材を加熱する熱源であって、前記定着部材の移動方向と直交する方向に複数の加熱領域が並設された熱源と、
前記複数の加熱領域の温度をそれぞれ検出する温度検出部と、
前記記録媒体が前記ニップ部に挿通される際に、前記温度検出部にて検出された、前記複数の加熱領域のうち前記記録媒体が通過する位置にある通紙加熱領域の温度を予め定められた制御温度に維持する維持電力を当該通紙加熱領域に対して供給するとともに、前記温度検出部にて検出された、前記複数の加熱領域のうち前記記録媒体が通過しない位置にある非通紙加熱領域の温度を前記通紙加熱領域の温度よりも低い温度でかつ前記通紙加熱領域の温度に対して一定の温度差を保つ温度に維持する電力を当該非通紙加熱領域に対して供給する電力制御部と、を備え、
前記定着部材の移動方向と直交する方向において、前記通紙加熱領域と前記非通紙加熱領域とに区分され、
前記非通紙加熱領域は、前記定着部材の移動方向と直交する方向において、前記通紙加熱領域に隣接する隣接領域と、前記通紙加熱領域から離れた端部領域とに区分けして構成され、
前記電力制御部は、前記温度検出部にて検出された、前記非通紙加熱領域のうちの前記端部領域の温度を前記通紙加熱領域の温度よりも低い温度でかつ前記通紙加熱領域に対して一定の温度差を保つ温度に維持する電力を当該非通紙加熱領域の前記端部領域に対して供給し、前記非通紙加熱領域のうちの前記隣接領域に電力を供給しない定着装置。
【請求項3】
前記加圧部材または前記定着部材を駆動する駆動源に供給される電流値を測定する電流測定部と、
前記電流測定部にて測定された電流値に基づいてトルク値を算出するトルク算出部と、
前記トルク算出部にて算出されたトルク値が予め定められた閾値を超えるか否かを判定するトルク判定部と、を備え、
前記設定部は、前記トルク判定部にて前記トルク値が前記閾値を超えると判定された場合、前記一定の温度差を予め定められた更に小さい温度差に変更するとともに、前記通紙加熱領域の温度から当該変更後の温度差となる温度を前記非通紙加熱領域の目標温度として特定し、
前記電力制御部は、前記非通紙加熱領域の温度を前記設定部にて設定された前記変更後の温度差となる前記目標温度に維持する電力を当該非通紙加熱領域に対して供給する請求項
1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記定着部材の移動方向と直交する方向において、前記通紙加熱領域と前記非通紙加熱領域とに区分され、
前記非通紙加熱領域は、前記定着部材の移動方向と直交する方向において、前記通紙加熱領域に隣接する隣接領域と、前記通紙加熱領域から離れた端部領域とに区分けして構成され、
前記電力制御部は、前記温度検出部にて検出された、前記非通紙加熱領域のうちの前記端部領域の温度を前記通紙加熱領域の温度よりも低い温度でかつ前記通紙加熱領域に対して一定の温度差を保つ温度に維持する電力を当該非通紙加熱領域の前記端部領域に対して供給し、前記非通紙加熱領域のうちの前記隣接領域に電力を供給しない請求項1に記載の定着装置。
【請求項5】
トナー画像を形成する画像形成部と、
前記画像形成部により形成されたトナー画像を前記記録媒体の表面上に定着させる請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載の定着装置と、を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に転写されたトナー画像を熱圧着によって記録媒体に定着させる定着装置および当該定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置は、用紙等の記録媒体に転写されたトナー画像を定着させる定着装置を備えている。定着装置は、一般に、熱源により加熱されるベルト状の定着部材と、定着部材に対向配置された加圧部材とを備え、定着部材と加圧部材との間に形成されたニップ部において、トナー画像を加熱・加圧(熱圧着)により記録媒体上に定着させる。
【0003】
下記の特許文献1には、熱源が定着部材の内周面に接触して当該定着部材を直接に加熱する直接加熱式の定着装置が開示されている。この直接加熱式の定着装置では、熱源に対する定着部材の摺動性を高めるために、定着部材の内周面にグリスが塗布されている。また、熱源は、平板細長形状となっており、当該長手方向が定着部材の幅方向に平行に配置されている。熱源は、当該長手方向に複数の加熱領域が形成され、当該複数の加熱領域のうち記録媒体が通過する位置にある加熱領域を選択的に加熱することで、必要な加熱領域のみを加熱することが可能となっている。これにより、電力消費を抑制し、定着部材の端部の過昇温を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の定着装置では、熱源にて選択加熱を行う際に定着部材の面内での温度ムラが生じ、グリスなどの潤滑剤は温度が低いと粘度が高くなる性質があるため、定着部材に塗布されている潤滑剤の粘度に差が生じる。これにより、定着部材の面内で摺動トルクのムラが発生する。その結果、定着部材のねじれが発生してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、潤滑剤の温度差による定着部材のねじれの発生を低減することを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面にかかる定着装置は、内周面に潤滑剤が塗布されたベルト状の定着部材と、前記定着部材に対向配置され、前記定着部材との間に定着対象の記録媒体が挿通されるニップ部を形成する加圧部材と、前記定着部材の内周面に接触して当該定着部材を加熱する熱源であって、前記定着部材の移動方向と直交する方向に複数の加熱領域が並設された熱源と、前記複数の加熱領域の温度をそれぞれ検出する温度検出部と、前記記録媒体が前記ニップ部に挿通される際に、前記温度検出部にて検出された、前記複数の加熱領域のうち前記記録媒体が通過する位置にある通紙加熱領域の温度を予め定められた制御温度に維持する維持電力を当該通紙加熱領域に対して供給するとともに、前記温度検出部にて検出された、前記複数の加熱領域のうち前記記録媒体が通過しない位置にある非通紙加熱領域の温度を前記通紙加熱領域の温度よりも低い温度でかつ前記通紙加熱領域の温度に対して一定の温度差を保つ温度に維持する電力を当該非通紙加熱領域に対して供給する電力制御部と、を備える定着装置である。
【0008】
また、本発明の別の一局面にかかる画像形成装置は、トナー画像を形成する画像形成部と、前記画像形成部により形成されたトナー画像を前記記録媒体の表面上に定着させる前記定着装置と、を備えた画像形成装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、潤滑剤の温度差による定着部材のねじれの発生を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる定着装置および画像形成装置の構造を示す断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態にかかる定着装置および画像形成装置の電気的構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】本発明の第1実施形態にかかる定着装置の構成を示す断面図である。
【
図4】(A)はヒーターの発熱体部分の構造を示す概略平面図、(B)はヒーターの概略断面図である。
【
図5】用紙サイズに応じた各ヒーター発熱パターンと、ヒーター温度センサー配置例とを示す図である。
【
図6】小サイズの用紙を定着処理するときの各温度センサーの検出温度の推移を示す図である。
【
図7】小サイズの用紙を定着処理するときのヒーター発熱パターンとヒーターの温度分布との関係を示す図である。
【
図8】本発明の第1実施形態にかかる定着装置の温度制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】熱源の各加熱領域間の温度差とトルク差との関係を示す特性データの一例を示す図である。
【
図10】本発明の第2実施形態にかかる定着装置および画像形成装置の電気的構成を示す機能ブロック図である。
【
図11】潤滑剤の温度と粘度との関係を示す特性データの一例を示す図である。
【
図12】本発明の第2実施形態にかかる定着装置の温度制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図13】本発明の第3実施形態にかかる定着装置および画像形成装置の電気的構成を示す機能ブロック図である。
【
図14】本発明の変形例にかかるヒーター発熱パターンとヒーターの温度分布との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態にかかる定着装置および画像形成装置について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の第1実施形態にかかる定着装置および画像形成装置の構造を示す断面図である。
図2は、本発明の第1実施形態にかかる定着装置および画像形成装置の電気的構成を示す機能ブロック図である。
【0013】
画像形成装置1は、例えば、コピー機能、プリンター機能、スキャナー機能、およびファクシミリ機能のような複数の機能を兼ね備えた複合機である。画像形成装置1は、装置本体11に、原稿読取部5、原稿給送部6、制御ユニット10、画像形成部12、給紙部14、および定着部20等を備えて構成されている。画像形成装置1は、定着装置200を備えている。定着装置200は、定着部20と、後述する動作制御部100(特に、動作制御部100における定着部20の制御を行う構成部分)とを備える。
【0014】
操作部47(
図1参照)は、例えば、画像形成装置1により可能な機能の実行を指示するためのスタートキーや操作者の操作を確定させる決定キー(エンターキー)、更に、数値入力を行うための数値入力キー等を備える。
【0015】
また、操作部47は、操作者への操作案内等を表示する表示部473を備えている。表示部473はタッチパネルになっており、操作者は表示部473に表示される画像やアイコンに触れることで画像形成装置1を操作することができる。
【0016】
制御ユニット10は、プロセッサー、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)などから構成される。プロセッサーは、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等である。
【0017】
制御ユニット10は、上記のROMまたは内蔵HDDに記憶された制御プログラムが上記のCPUに実行されることにより、原稿読取部5、原稿給送部6、画像形成部12、給紙部14、および定着部20等の動作を制御する動作制御部100として機能する。
【0018】
動作制御部100は、電力制御部101と、用紙タイミング判定部102と、記憶部103とを備える。なお、記憶部103には、少なくとも、電力制御部101および用紙タイミング判定部102にて用いる各種のデータ、後述する用紙Pの種類とヒーター212の発熱パターンとを対応付けた記憶テーブルなどの情報が記憶される。
【0019】
画像形成装置1が原稿読取動作を行う場合、動作制御部100による制御のもと、原稿読取部5が原稿給送部6により給送されてくる原稿、または原稿載置ガラス161に載置された原稿の画像を光学的に読み取り画像データを生成する。原稿読取部5により生成された画像データは、内蔵HDD(Hard Disk Drive)またはネットワーク接続されたコンピューター等に保存される。
【0020】
画像形成装置1が画像形成動作を行う場合、動作制御部100による制御のもと、画像形成部12が上記の原稿読取動作により生成された画像データまたは内蔵HDDに記憶されている画像データ等に基づいて、給紙部14から給紙される記録媒体としての用紙Pにトナー画像を形成する。
【0021】
カラー印刷を行う場合、画像形成部12のマゼンタ用の画像形成ユニット12M、シアン用の画像形成ユニット12C、イエロー用の画像形成ユニット12Y、およびブラック用の画像形成ユニット12Bkが、帯電、露光および現像の工程により感光体ドラム121上に各色のトナー画像を形成する。当該形成された各色のトナー画像は、1次転写ローラー126により中間転写ベルト125上で重ね合わされ、カラーのトナー画像となる。当該重ね合わされたカラーのトナー画像は、2次転写ローラー210により搬送路190内を搬送されてきた用紙Pに転写される。このように用紙Pにトナー画像が転写された後、定着部20により定着処理が行われ、定着処理の完了した用紙Pが排出トレイ151に排出される。
【0022】
図3は、定着部20の構成を示す断面図である。定着部20は、定着ローラー21と、加圧ローラー22とを主要な構成として備える。定着ローラー21および加圧ローラー22は、樹脂製のハウジング24内に収容されている。
【0023】
加圧ローラー22は、鉄製の芯金にシリコンゴムの弾性層を設け、その外面を厚さ50μmのPFA樹脂フィルムでコートして構成されている。加圧ローラー22は、
図3の紙面反時計回りに回転可能にハウジング24内に軸支されている。定着処理の際には、加圧ローラー22の回転軸23が動作制御部100による制御のもと、モーター等から構成される回転駆動部95(
図2参照)により回転駆動される。加圧ローラー22は、定着ローラー21との間に定着対象の用紙Pが挿通されるニップ部Nを形成する。なお、加圧ローラー22は、特許請求の範囲における加圧部材の一例となる。
【0024】
定着ローラー21は、ベルト状の定着部材211と、ヒーター212、3個のヒーター温度センサー213a~213c、保持部材214、および、押圧部材215等から構成されている。
【0025】
定着部材211は、外径30mm、厚さ0.03mmのステンレス製ベルトの内面と外面とをフッ素樹脂でコートして構成されている。定着部材211は、
図3の紙面時計回りに回転可能にハウジング24内に軸支されている。定着部材211は、内周面に、グリスなどの潤滑剤が塗布されている。定着部材211は、耐熱樹脂性のパッドからなる押圧部材215により加圧ローラー22に圧接されており、加圧ローラー22の回転にともなって従動回転する。定着部材211は、対向配置された加圧ローラー22との間にニップ部Nを形成し、当該ニップ部Nにおいて挿通された用紙Pにトナー画像を定着させる。
【0026】
ヒーター212は、例えば、セラミックヒーターであり、定着部材211の内周面に接触して当該定着部材211を加熱するヒーターであって、定着部材211の移動方向と直交する方向(
図3に示すZ方向)である長手方向に複数(例えば3個)の加熱領域HA1~HA3が並設されたヒーターである。
【0027】
ここで、ヒーター212の構造を、
図4、
図5を用いて説明する。
図4(A)はヒーターの発熱体部分の構造を示す概略平面図、
図4(B)はヒーターの概略断面図である。
図5は、用紙サイズに応じた各ヒーター発熱パターンと、ヒーター温度センサー配置例とを示す図である。
【0028】
ヒーター212は、
図4(A)に示すように、加熱領域HA1~HA3を構成する抵抗発熱体が長手方向(
図4に示すZ方向)に複数並べられており、これらの抵抗発熱体の両端にそれぞれ電気的に接続された電極が配置されている。ヒーター212は、
図4(B)に示すように、ヒーター基材212aと、グレーズ層212bと、抵抗発熱体212c及び電極212dと、オーバーコート層212eとが厚み方向(
図4に示すX方向)に積層された構造となっている。
【0029】
ヒーター基材212aは、例えば、アルミナや窒化アルミ等の絶縁性セラミック基板であり、低熱容量のプレート形状としている。グレーズ層212bは、例えば、蓄熱層としての役割を果たす。
【0030】
抵抗発熱体212cは、Ag/Pd(銀パラジウム)、RuO2(酸化ルテニウム)、Ta2N(窒化タンタル)等の抵抗発熱体であり、ヒーター基材の長手方向(
図3、
図4に示すZ方向)に沿って、複数形成されている。電極212dは、複数の抵抗発熱体212cの一端側に接続された共通電極212d1と、複数の抵抗発熱体の他端側に接続された選択電極212d2とを備える。選択電極212d2は、
図5に示すように、加熱領域HA1に電力を供給するための電極212d21と、加熱領域HA2に電力を供給するための電極212d22と、加熱領域HA3に電力を供給するための電極212d23とを備える。
【0031】
図5に示すように、電力制御部101により、選択電極212d1の電極212d21に電力が供給されると、加熱領域HA1が発熱する。電力制御部101により、選択電極212d1の電極212d22に電力が供給されると、加熱領域HA2が発熱する。電力制御部101により、選択電極212d1の電極212d23に電力が供給されると、加熱領域HA3が発熱する。
【0032】
電力制御部101は、ヒーター212のフルサイズの加熱(つまり、加熱領域HA1~HA3の全てで加熱)を行う場合には、選択電極212d1の全ての電極212d21~212d23に電力を供給する。また、電力制御部101は、ヒーター212の小サイズの加熱(つまり、加熱領域HA1で加熱)を行う場合には、選択電極212d1の電極212d21に電力を供給するとともに、電極212d22、212d23に後述するように加熱領域HA1と加熱領域HA2、HA3との温度差を一定とする電力を供給する。また、電力制御部101は、ヒーター212の中サイズの加熱(つまり、加熱領域HA1、HA2で加熱)を行う場合には、選択電極212d1の電極212d21、212d22に電力を供給するとともに、電極212d23には後述するように加熱領域HA1、HA2と加熱領域HA3との温度差を一定とする電力を供給する。
【0033】
オーバーコート212e層は、例えば、ヒーター212の定着部材211と接する面に形成され、熱効率を損なわない範囲で抵抗発熱体及び電極を保護する保護層である。オーバーコート層212eの厚みは十分薄く、表面性を良好にする程度が望ましく、ガラスやフッ素樹脂コート等が施されている。
【0034】
ヒーター212は、動作制御部100による制御のもと、定着処理中に加熱動作を行い、定着処理が完了後に加熱動作を停止する。なお、ヒーター212は、特許請求の範囲における熱源の一例となる。なお、ヒーター212は、IHヒーター等の熱源であってもよい。
【0035】
ヒーター温度センサー213a~213cは、ヒーター212に接触して当該ヒーター212の加熱領域HA1~HA3の温度をそれぞれ検出する接触式の温度センサーである。
図5に示すように、ヒーター温度センサー213aは、加熱領域HA1に配置され、加熱領域HA1の温度を検出する。ヒーター温度センサー213bは、加熱領域HA2に配置され、加熱領域HA2の温度を検出する。ヒーター温度センサー213cは、加熱領域HA3に配置され、加熱領域HA3の温度を検出する。ヒーター温度センサー213a~213cは、ヒーター212の加熱領域HA1~HA3の温度値を示す検出信号をそれぞれ電力制御部101に出力する。なお、ヒーター温度センサー213a~213cは、特許請求の範囲における温度検出部の一例となる。
【0036】
保持部材214は、ヒーター212を保持する。例えば、保持部材214は、ヒーター212を収容可能な大きさの収容凹部に、ヒーター温度センサー213a~213cが接触された状態のヒーター212を収容した状態で当該ヒーター212を保持している。
【0037】
また、定着装置200は、用紙搬送ガイド191と、用紙位置検出センサー193とを備えている。用紙搬送ガイド191は、搬送路190から定着部20に向かう用紙Pをニップ部Nに案内するガイド部材である。
【0038】
用紙位置検出センサー193は、定着部20に向かう用紙Pの位置を検出する非接触式の位置検出センサーである。用紙位置検出センサー193は、例えば、ニップ部Nから用紙Pの搬送上流側に予め定められた距離だけ(例えば、定着部材211の1周分だけ)離れた位置に配置されている。用紙位置検出センサー193は、用紙Pの検出を示す検出信号を電力制御部101に出力する。
【0039】
用紙タイミング判定部102は、用紙位置検出センサー193からの検出信号に基づいて、用紙Pの先端がニップ部Nに到達する到達タイミングを判定する。例えば、用紙タイミング判定部102は、定着部材211の周長L2が80[mm]であり、前記予め定められた距離も80[mm]であり、定着部材211の線速Vが100[mm/s]であった場合には、用紙位置検出センサー193が用紙Pの先端を検出したタイミングから0.8秒(80[mm]/100[mm/s]=0.8秒)経過したタイミングが、用紙Pの先端がニップ部Nに到達する到達タイミングであると判定する。また、用紙タイミング判定部102は、用紙位置検出センサー193からの検出信号に基づいて、用紙Pの後端がニップ部Nに到達する終端タイミングを判定する。例えば、用紙タイミング判定部102は、定着部材211の周長L2が80[mm]であり、前記予め定められた距離も80[mm]であり、定着部材211の線速Vが100[mm/s]であった場合には、用紙位置検出センサー193が用紙Pの後端を検出したタイミングから0.8秒(80[mm]/100[mm/s]=0.8秒)経過したタイミングが、用紙Pの後端がニップ部Nに到達する終端タイミングであると判定する。
【0040】
電力制御部101は、ヒーター温度センサー213a~213cにて検出されたヒーター212の温度が予め定められた制御温度(つまり、定着温度)に維持する維持電力(つまり、ヒーター212の温度を予め定められた定着温度に保つために必要な電力)を算出して、当該維持電力を当該ヒーター212に対して供給する。制御温度は、使用されるトナー種類などにより決定されるが、例えば100℃以上200℃以下の温度であって定着に適した温度(例えば170℃)である。
【0041】
具体的には、電力制御部101は、
図5に示すように、用紙Pの種類に応じて、定着処理の際のヒーター212の発熱パターンを決定する。電力制御部101は、操作者による操作部47への用紙種類の入力、又は、既知の用紙幅検知センサー(図示しない)による検知信号に基づいて、用紙Pの種類を特定することができる。そして、電力制御部101は、記憶部103に記憶された上記記憶テーブルに基づいて、用紙Pの種類に対応するヒーター212の発熱パターンを決定する。
【0042】
続いて、電力制御部101は、例えば、用紙Pの種類が
図5に示す小サイズの場合には、用紙Pがニップ部Nに挿通される際に、ヒーター温度センサー213a~213cにて検出された、複数の加熱領域HA1~HA3のうち用紙Pが通過する位置にある通紙加熱領域(つまり、加熱領域HA1)の温度を予め定められた制御温度(例えば170℃)に維持する維持電力を当該通紙加熱領域(ここでは加熱領域HA1)に対して供給するとともに、ヒーター温度センサー213a~213cにて検出された、複数の加熱領域HA1~HA3のうち用紙Pが通過しない位置にある非通紙加熱領域(つまり、加熱領域HA2、HA3)の温度を通紙加熱領域(ここでは加熱領域HA1)の温度よりも低い温度でかつ通紙加熱領域(ここでは加熱領域HA1)の温度に対して一定の温度差(例えば110℃)を保つ温度(例えば60℃)に維持する電力を当該非通紙加熱領域(ここでは、加熱領域HA2、HA3)に対して供給する。
【0043】
電力制御部101は、
図6、
図7に示すように、ヒーター温度センサー213aにて検出された加熱領域HA1の温度と、ヒーター温度センサー213b、213cにて検出された各加熱領域HA2、HA3の温度との温度差を、一定の温度差(例えば110℃)を保つように複数の加熱領域HA1~HA3への電力を制御している。
【0044】
ここで、第1実施形態にかかる定着装置200の温度制御処理について
図8を用いて説明する。
図8は、第1実施形態にかかる定着装置の温度制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0045】
電力制御部101は、画像形成装置1が例えばユーザーによる印刷指示を受けると、操作者による操作部47への用紙種類の入力、又は、既知の用紙幅検知センサー(図示しない)による検知信号に基づいて、用紙Pの種類を特定する(S1)。電力制御部101は、例えば、用紙Pの種類が、フルサイズ、中サイズ、小サイズの何れであるかを特定する。
【0046】
電力制御部101は、記憶部103に記憶された上記記憶テーブルに基づいて、用紙Pの種類に対応するヒーター212の発熱パターンを決定する(S2)。電力制御部101は、例えば、用紙Pの種類が小サイズの場合には、
図5に示す小サイズの発熱パターンを決定する。
【0047】
用紙タイミング判定部102は、用紙位置検出センサー193からの検出信号に基づいて、用紙Pの先端がニップ部Nに到達する到達タイミングであるか否かを判定する(S3)。具体的には、用紙タイミング判定部102は、用紙位置検出センサー193が用紙Pの先端を検出したタイミングから0.8秒経過したタイミングが、ニップ部Nに到達する到達タイミングであると判定する。
【0048】
用紙タイミング判定部102は、到達タイミングでないと判定した場合(S3でNO)、S3に戻り、到達タイミングを待つ。
【0049】
一方、電力制御部101は、用紙タイミング判定部102にて到達タイミングであると判定された場合(S3でYES)、上記S2にて決定されたヒーター212の発熱パターンに基づいて、ヒーター212の通紙加熱領域の温度を予め定められた制御温度(例えば170℃)に維持する維持電力を算出して、当該維持電力を当該ヒーター212の通紙加熱領域に対して供給するとともに、非通紙加熱領域の温度を通紙加熱領域の温度よりも低い温度でかつ通紙加熱領域の温度に対して一定の温度差を保つ温度に維持する電力を当該非通紙加熱領域に対して供給する(S4)。
【0050】
例えば、電力制御部101は、用紙Pの種類が小サイズの場合には、S2において
図5に示す小サイズのヒーター212の発熱パターンに決定し、S4において、用紙Pがニップ部Nに挿通される際に、ヒーター温度センサー213a~213cにて検出された、複数の加熱領域HA1~HA3のうち用紙Pが通過する位置にある通紙加熱領域(つまり、加熱領域HA1)の温度を予め定められた制御温度(例えば170℃)に維持する維持電力を当該通紙加熱領域(ここでは加熱領域HA1)に対して供給するとともに、ヒーター温度センサー213a~213cにて検出された、複数の加熱領域HA1~HA3のうち用紙Pが通過しない位置にある非通紙加熱領域(つまり、加熱領域HA2、HA3)の温度を通紙加熱領域(ここでは加熱領域HA1)の温度よりも低い温度でかつ通紙加熱領域(ここでは加熱領域HA1)の温度に対して一定の温度差(例えば110℃)を保つ温度(例えば60℃)に維持する電力を当該非通紙加熱領域(ここでは、加熱領域HA2、HA3)に対して供給する。
【0051】
電力制御部101は、用紙位置検出センサー193からの検出信号に基づいて、用紙Pの後端がニップ部Nに到達するタイミングであるか否かを判定する(S5)。具体的には、電力制御部101は、用紙位置検出センサー193が用紙Pの後端を検出したタイミングから0.8秒経過したタイミングが、ニップ部Nに到達するタイミングであると判定する。
【0052】
電力制御部101は、用紙Pの後端がニップ部Nに到達するタイミングでないと判定した場合(S5でNO)、S5に戻り、用紙Pの後端がニップ部Nに到達するタイミングであると判定した場合(S5でYES)、ヒーター212の発熱パターンにより通紙加熱領域(ここでは加熱領域HA1)の温度を制御温度(例えば170℃)に維持する維持電力の供給と、非通紙加熱領域(ここでは加熱領域HA2、HA3)の温度を通紙加熱領域(加熱領域HA1)の温度に対して一定の温度差(例えば110℃)を保つ温度(例えば60℃)に維持する電力の供給と、を同時に終了する(S6)。
【0053】
ここで、ヒーター212(熱源)の各加熱領域間(つまり、加熱領域HA2、HA3-加熱領域HA1間)の温度差とトルク差との関係について
図9を用いて説明する。
図9は、熱源の各加熱領域間の温度差とトルク差との関係を示す特性データの一例を示す図である。
図9に示すように、ヒーター212の通紙加熱領域(つまり加熱領域HA1)の温度T1を例えば170℃とし、ヒーター212の非通紙加熱領域(つまり加熱領域HA2、HA3)の温度T2を、通紙加熱領域(加熱領域HA1)の温度よりも低い温度でかつ通紙加熱領域(加熱領域HA1)の温度に対して一定の温度差(例えば110℃)を保つ温度(例えば60℃)としているので、温度T1のときのトルク値Tor1と温度T2のときのトルク値Tor2との差から、トルク差Tor12(=Tor1-Tor2)となっている。これに対して、ヒーター212の非通紙加熱領域に電力を供給しない場合には、非通紙加熱領域(つまり加熱領域HA2、HA3)の温度が温度T3(例えば20℃)となっており、温度差が例えば150℃となっており、温度T1のときのトルク値Tor1と温度T3のときのトルク値Tor3との差から、トルク差Tor13(=Tor1-Tor3)>トルク差Tor12となっている。上記したように第1実施形態によれば、トルク差Tor13よりも小さいトルク差Tor12とすることができる。
【0054】
上記S6のあと、動作制御部100は、印刷終了であるか否かを判定する(S7)。動作制御部100は、次の印刷がある場合には印刷終了でないと判定し(S7でNO)、S1に進み、上記のS1~S6が実行される。一方、動作制御部100は、次の印刷がない場合には印刷終了であると判定し(S7でYES)、本処理を終了させる。
【0055】
上記した第1実施形態にかかる定着部20および画像形成装置1によれば、ベルト状の定着部材211は、内周面に潤滑剤が塗布されたものである。加圧ローラー22は、定着部材211に対向配置され、定着部材211との間に定着対象の用紙Pが挿通されるニップ部Nを形成する。ヒーター212は、定着部材211の内周面に接触して定着部材211を加熱する熱源であって、定着部材211の移動方向と直交する方向に複数の加熱領域HA1~HA3が並設されたものである。ヒーター温度センサー213a~213cは、複数の加熱領域HA1~HA3の温度をそれぞれ検出する。電力制御部101は、用紙Pがニップ部Nに挿通される際に、ヒーター温度センサー213a~213cにて検出された、複数の加熱領域HA1~HA3のうち用紙Pが通過する位置にある通紙加熱領域の温度を予め定められた制御温度に維持する維持電力を当該通紙加熱領域に対して供給するとともに、ヒーター温度センサー213a~213cにて検出された、複数の加熱領域HA1~HA3のうち用紙Pが通過しない位置にある非通紙加熱領域の温度を通紙加熱領域の温度よりも低い温度でかつ通紙加熱領域の温度に対して一定の温度差を保つ温度に維持する電力を非通紙加熱領域に対して供給する。このため、ヒーター212にて選択加熱を行う際における定着部材211の面内での温度ムラを一定の温度差に抑制することができ、定着部材211に塗布されている潤滑剤の粘度差を抑制することができる。これにより、定着部材211の面内で摺動トルクのムラの発生を抑制することができる。したがって、潤滑剤の温度差による定着部材211のねじれの発生を低減することができる。また、非通紙加熱領域の温度を通紙加熱領域の温度と同じとする場合に比べて、非通紙加熱領域の温度を通紙加熱領域の温度よりも低い温度としている分だけ、電力消費を抑制することができる。
【0056】
次に、第2実施形態にかかる定着装置および画像形成装置について、
図10~
図12を用いて説明する。
図10は、本発明の第2実施形態にかかる定着装置および画像形成装置の電気的構成を示す機能ブロック図である。
図11は、潤滑剤の温度と粘度との関係を示す特性データの一例を示す図である。
【0057】
上記第1実施形態では、電力制御部101は、通紙加熱領域の温度と非通紙加熱領域の温度との温度差を一定の温度差としているが、第2実施形態では、定着部材211の通紙部と非通紙部との各潤滑剤の粘度差が規定値以内となる温度差に制御する点が、上記第1実施形態とは異なっている。
【0058】
第2実施形態の動作制御部100は、
図10に示すように、記憶部103と、特定部104と、判定部105と、設定部106と、を備える。記憶部103は、潤滑剤の温度と粘度との関係を示す特性データ(
図11参照)を、予め記憶している。
【0059】
特定部104は、記憶部103に記憶された
図11に示す特性データを用いて、通紙加熱領域が温度検出部(例えば、ヒーター温度センサー213a)にて検出された温度であるときの潤滑剤の第1粘度と、非通紙加熱領域が温度検出部(例えば、ヒーター温度センサー213b、213c)にて検出された温度であるときの潤滑剤の第2粘度とを特定する。具体的には、特定部104は、
図11に示すように、ヒーター212の通紙加熱領域(つまり加熱領域HA1)が温度Temp1であるときの潤滑剤の第1粘度Vi1と、ヒーター212の非通紙加熱領域(つまり加熱領域HA2、HA3)が温度Temp2であるときの潤滑剤の第2粘度Vi2とを特定する。
【0060】
判定部105は、特定部104にて特定された潤滑剤の第1粘度と第2粘度との粘度差が、予め定められた規定値以下であるか否かを判定する。具体的には、判定部105は、
図11に示すように、潤滑剤の第1粘度Vi1と第2粘度Vi2との粘度差が、予め定められた規定値Viref以下であるか否かを判定する。例えば、
図11では、潤滑剤の第1粘度Vi1と第2粘度Vi2との粘度差は、規定値Virefを超える値となっている。
【0061】
設定部106は、判定部105にて潤滑剤の粘度差が、予め定められた規定値以下でないと判定された場合、記憶部103に記憶された前記特性データを用いて、第1粘度からの粘度差が規定値以内の粘度が示す温度を非通紙加熱領域の目標温度として特定し、通紙加熱領域の温度と非通紙加熱領域の目標温度との温度差を一定の温度差として設定する。具体的には、設定部106は、
図11に示すように、判定部105にて第1粘度Vi1と第2粘度Vi2との粘度差Vi12が、予め定められた規定値Viref以下でないと判定された場合、記憶部103に記憶された前記特性データを用いて、第1粘度Vi1から規定値Viref以内の粘度Vi3が示す温度Temp3を非通紙加熱領域の目標温度として特定し、通紙加熱領域の温度と非通紙加熱領域の目標温度(つまり、温度Temp3)との温度差を一定の温度差として設定する。
【0062】
電力制御部101は、非通紙加熱領域の温度を設定部106にて設定された一定の温度差となる目標温度(つまり、温度Temp3)に維持する電力を非通紙加熱領域に対して供給する。すなわち、電力制御部101は、
図11に示すように、非通紙加熱領域の温度を、目標温度(つまり、温度Temp3)に引き上げ、当該目標温度(つまり、温度Temp3)に維持する電力を非通紙加熱領域に対して供給する。これにより、定着部材211の通紙部と非通紙部の潤滑剤の粘度差が規定値以内となる温度差に制御することができる。
【0063】
ここで、第2実施形態にかかる定着装置200の温度制御処理について
図12を用いて説明する。
図12は、第2実施形態にかかる定着装置の温度制御処理の一例を示すフローチャートである。S1~S7は上記第1実施形態と同じであるため、第2実施形態にかかるS11~S14について説明する。
【0064】
S4のあと、特定部104は、
図11に示す特性データを用いて、ヒーター212の通紙加熱領域(つまり加熱領域HA1)が温度Temp1であるときの潤滑剤の第1粘度Vi1と、ヒーター212の非通紙加熱領域(つまり加熱領域HA2、HA3)が温度Temp2であるときの潤滑剤の第2粘度Vi2とを特定する(S11)。
【0065】
判定部105は、
図11に示す特性データを用いて、潤滑剤の第1粘度Vi1と第2粘度Vi2との粘度差が、予め定められた規定値Viref以下であるか否かを判定する(S12)。例えば、
図11では、潤滑剤の第1粘度Vi1と第2粘度Vi2との粘度差は、規定値Virefを超える値となっている。
【0066】
設定部106は、判定部105にて第1粘度Vi1と第2粘度Vi2との粘度差が、予め定められた規定値以下でないと判定された場合(S12でNO)、
図11に示す特性データを用いて、第1粘度Vi1からの粘度差が規定値Viref以内の粘度が示す温度Temp3を非通紙加熱領域の目標温度として特定し、通紙加熱領域の温度と非通紙加熱領域の目標温度(つまり、温度Temp3)との温度差を一定の温度差として設定する(S13)。
【0067】
電力制御部101は、非通紙加熱領域の温度を設定部106にて設定された一定の温度差となる目標温度(つまり、温度Temp3)に維持する電力を非通紙加熱領域に対して供給する(S14)。すなわち、電力制御部101は、
図11に示すように、非通紙加熱領域の温度を、目標温度(つまり、温度Temp3)に引き上げ、当該目標温度(つまり、温度Temp3)に維持する電力を非通紙加熱領域に対して供給する。
【0068】
上記第2実施形態によれば、記憶部103は、潤滑剤の温度と粘度との関係を示す特性データ(
図11参照)を予め記憶する。記憶部103に記憶された
図11に示す特性データを用いて、通紙加熱領域が温度検出部(例えば、ヒーター温度センサー213a)にて検出された温度であるときの潤滑剤の第1粘度と、非通紙加熱領域が温度検出部(例えば、ヒーター温度センサー213b、213c)にて検出された温度であるときの潤滑剤の第2粘度とを特定する。判定部105は、潤滑剤の第1粘度Vi1と第2粘度Vi2との粘度差が、予め定められた規定値Viref以下であるか否かを判定する。設定部106は、判定部105にて潤滑剤の粘度差が、予め定められた規定値以下でないと判定された場合、記憶部103に記憶された前記特性データを用いて、第1粘度からの粘度差が規定値以内の粘度が示す温度を非通紙加熱領域の目標温度として特定し、通紙加熱領域の温度と非通紙加熱領域の目標温度との温度差を一定の温度差として設定する。電力制御部101は、非通紙加熱領域の温度を設定部106にて設定された一定の温度差となる目標温度(つまり、温度Temp3)に維持する電力を非通紙加熱領域に対して供給する。これにより、ヒーター212にて選択加熱を行う際における定着部材211の面内での粘度差を確実に規定値以下にすることができる。これにより、定着部材211の面内で摺動トルクのムラの発生を更に抑制することができる。したがって、潤滑剤の温度差による定着部材211のねじれの発生を更に低減することができる。
【0069】
次に、第3実施形態にかかる定着装置および画像形成装置について、
図13を用いて説明する。
図13は、本発明の第3実施形態にかかる定着装置および画像形成装置の電気的構成を示す機能ブロック図である。
【0070】
第3実施形態では、加圧ローラー22のトルク値が予め定められた閾値を超える場合に、一定の温度差を予め定められた更に小さい温度差に変更するとともに、通紙加熱領域の温度を、当該変更後の温度差となる温度に更に引き上げる点が、上記第2実施形態とは異なっている。
【0071】
第3実施形態の定着装置200は、
図13に示すように、加圧ローラー22を駆動する駆動源(例えばモーター)に供給される電流値を測定する電流測定部221を備える。電流測定部221は、例えば電流計である。
【0072】
第3実施形態の動作制御部100は、
図13に示すように、トルク算出部107と、トルク判定部108とを備える。記憶部103は、潤滑剤の温度と粘度との関係を示す特性データ(
図11参照)を、予め記憶している。
【0073】
トルク算出部107は、電流測定部221にて測定された電流値に基づいて、記憶部103に予め記憶された換算式を用いてトルク値を算出する。例えば、トルク値Tは、電流測定部221にて測定された電流値Iに比例し、次の式(1)で表される。
T = Kt×I ……(1)
但し、I:電流[A]、Kt:トルク定数[Nm/A]
【0074】
トルク判定部108は、トルク算出部107にて算出されたトルク値が、予め定められた閾値を超えるか否かを判定する。記憶部103は、予め定められた閾値を予め記憶している。
【0075】
設定部106は、トルク判定部108にてトルク値が閾値を超えると判定された場合、前記一定の温度差を予め定められた更に小さい温度差に変更するとともに、非通紙加熱領域の温度から当該変更後の温度差となる温度を前記非通紙加熱領域の目標温度として特定する。
【0076】
電力制御部101は、非通紙加熱領域の温度を設定部106にて設定された前記変更後の温度差となる前記目標温度に維持する電力を当該非通紙加熱領域に対して供給する。
【0077】
上記第3実施形態によれば、加圧ローラー22の駆動源(例えばモーター)のトルク値が閾値を超えているか否かを確認することができる。また、加圧ローラー22の駆動源(例えばモーター)のトルク値が閾値を超えている場合には、定着部材211の通紙部(つまり、定着部材211においてヒーター212の通紙加熱領域により加熱される部分)の潤滑剤の粘度に対して、定着部材211の非通紙部(つまり、定着部材211においてヒーター212の非通紙加熱領域により加熱される部分)の潤滑剤の粘度が高くなっていることにより、定着部材211の非通紙部の摺動性が悪化している可能性があるため、ヒーター212の非通紙加熱領域の温度を上げて、通紙加熱領域と非通紙加熱領域との一定の温度差を更に小さい温度差に変更することで、定着部材211の通紙部と非通紙部とのトルク差を低減でき、定着装置200全体としてのトルクを改善することができる。したがって、潤滑剤の温度差による定着部材211のねじれの発生を更に低減することができる。
【0078】
なお、加圧ローラー22を駆動するのではなく、定着部材211を駆動する駆動源(例えばモーター)を備える場合には、電流測定部221は、定着部材211を駆動する駆動源(例えばモーター)に供給される電流値を測定すればよい。
【0079】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず種々の変形が可能である。
【0080】
<変形例>
なお上記実施形態では、
図7に示すように、複数の加熱領域HA1~HA3のうち用紙Pが通過しない位置にある非通紙加熱領域(つまり、加熱領域HA2、HA3)の温度を通紙加熱領域(加熱領域HA1)の温度よりも低い温度でかつ通紙加熱領域(加熱領域HA1)の温度に対して一定の温度差(例えば110℃)を保つ温度(例えば60℃)に維持する電力を当該非通紙加熱領域(加熱領域HA2、HA3)に対して供給しているが、これに限定されない。
【0081】
電力制御部101は、
図14に示すように、非通紙加熱領域における加熱領域HA3の温度を通紙加熱領域(加熱領域HA1)の温度よりも低い温度でかつ通紙加熱領域(加熱領域HA1)の温度に対して一定の温度差(例えば110℃)を保つ温度(例えば60℃)に維持する電力を当該加熱領域HA3に対して供給し、非通紙加熱領域における加熱領域HA2に電力を供給しないとしてもよい。
【0082】
具体的には、
図14に示すように、非通紙加熱領域は、定着部材211の移動方向と直交する方向において、通紙加熱領域に隣接する隣接領域(ここでは加熱領域HA2)と、通紙加熱領域から離れた端部領域(ここでは加熱領域HA3)とに区分けして構成されている。
【0083】
電力制御部101は、ヒーター温度センサー213cにて検出された、非通紙加熱領域のうちの端部領域(加熱領域HA3)の温度を通紙加熱領域の温度よりも低い温度でかつ通紙加熱領域の温度に対して一定の温度差を保つ温度に維持する電力を当該非通紙加熱領域の端部領域(加熱領域HA3)に対して供給し、非通紙加熱領域のうちの隣接領域(加熱領域HA2)に電力を供給しない。
【0084】
上記変形例によれば、非通紙加熱領域の隣接領域(加熱領域HA2)および端部領域(加熱領域HA3)に電力を供給する場合に比べて、隣接領域(加熱領域HA2)に電力を供給しない分だけ省電力化を図ることができる。さらに、非通紙加熱領域の隣接領域(加熱領域HA2)は、通紙加熱領域(加熱領域HA1)と非通紙加熱領域の端部領域(加熱領域HA3)との間に位置しているので、定着部材211の通紙部(通紙加熱領域により加熱される部分)と定着部材211の非通紙部のうちの端部部分(非通紙加熱領域の端部領域(加熱領域HA3)により加熱される部分)とからの熱が、定着部材211の通紙部と非通紙部の端部部分とで挟まれる部分に伝達され、定着部材211の当該挟まれる部分の粘度を下げることができる。このため、定着部材211の面内での粘度差を抑制できる。
【符号の説明】
【0085】
1 画像形成装置
10 制御ユニット
12 画像形成部
20 定着部
21 定着ローラー
22 加圧ローラー(加圧部材)
100 動作制御部
101 電力制御部
103 記憶部
104 特定部
105 判定部
106 設定部
107 トルク算出部
108 トルク判定部
200 定着装置
211 定着部材
212 ヒーター(熱源)
213a~213c ヒーター温度センサー(温度検出部)
221 電流計測部