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特許7247582オーディオ信号制御回路、および、オーディオ信号制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】オーディオ信号制御回路、および、オーディオ信号制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/14 20060101AFI20230322BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
H04R3/14
H04R3/00 310
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018247250
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020108072
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五藤 三貴
(72)【発明者】
【氏名】岩山 健
(72)【発明者】
【氏名】デビッド ハットメーカー
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-255050(JP,A)
【文献】特開2013-255049(JP,A)
【文献】特開2013-135238(JP,A)
【文献】特開2017-085328(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141111(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/14
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低域用スピーカが分担する周波数帯域と高域用スピーカが分担する周波数帯域とが交差する周波数を含む周波数帯域を抽出して調整信号を生成する調整信号生成部と、
オーディオ信号から前記調整信号を減算することで、高域用オーディオ信号を生成し、ハイパスフィルタに出力する高域用出力部と、
前記オーディオ信号に前記調整信号を加算することで、低域用オーディオ信号を生成し、ローパスフィルタに出力する低域用出力部と、
前記調整信号生成部は、
前記オーディオ信号から前記調整信号を抽出する第1バンドパスフィルタと、
前記オーディオ信号のレベルを用いて、前記調整信号に対するゲインを設定するゲイン設定部と、
前記ゲインを用いて前記調整信号のレベルを調整するレベル調整部と、
を備える、オーディオ信号制御回路。
【請求項2】
前記ゲイン設定部は、
前記調整信号生成部で抽出する周波数帯域を通過帯域内に含む第2バンドパスフィルタと、
前記第2バンドパスフィルタの出力のレベルを検出するレベル検出部と、
前記レベル検出部の結果を用いて前記ゲインを設定するゲイン演算部と、
を備える、
請求項に記載のオーディオ信号制御回路。
【請求項3】
前記第1バンドパスフィルタの通過帯域の幅は、前記調整信号生成部で抽出する周波数帯域が変化する場合に、その変化する周波数幅によって設定されている、
請求項または請求項に記載のオーディオ信号制御回路。
【請求項4】
低域用スピーカが分担する周波数帯域と高域用スピーカが分担する周波数帯域とが交差する周波数を含む周波数帯域を抽出して調整信号を生成し、
オーディオ信号から前記調整信号を抽出し、
前記オーディオ信号のレベルから、前記調整信号に対するゲインを設定し、
前記ゲインを用いて前記調整信号のレベルを調整し、
前記オーディオ信号から前記調整信号を減算することで、高域用オーディオ信号を生成して、ハイパスフィルタに出力し、
前記オーディオ信号に前記調整信号を加算することで、低域用オーディオ信号を生成して、ローパスフィルタに出力する、
オーディオ信号制御方法。
【請求項5】
前記調整信号を生成するために抽出する周波数帯域を通過帯域内に含むゲイン設定用のオーディオ信号を抽出し、
前記ゲイン設定用のオーディオ信号のレベルを検出し、
前記レベルから前記ゲインを設定する、
請求項に記載のオーディオ信号制御方法。
【請求項6】
前記調整信号の通過帯域の幅は、前記調整信号を生成するために抽出する周波数帯域が変化する場合に、その変化する周波数幅によって設定する、
請求項乃至請求項のいずれかに記載のオーディオ信号制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一実施形態は、オーディオ信号から高域側オーディオ信号と低域側オーディオ信号を生成して出力するオーディオ信号制御回路、音響機器、音響システム、および、オーディオ信号制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のアンプ装置は、HPF、LPF、BPFを備える。アンプ装置は、接続されるスピーカの仕様に応じて係数αを決定する。アンプ装置は、BPFの出力信号に係数αを乗算した信号を、LPFの出力信号に加算する。アンプ装置は、BPFの出力信号に係数(1-α)を乗算した信号を、HPFの出力信号に加算する。
【0003】
アンプ装置は、HPFの出力信号をツイーターに供給する。アンプ装置は、LPFの出力信号をウーファーに供給する。これにより、アンプ装置は、クロスオーバー周波数を静的に変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-255049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のアンプ装置は、スピーカの仕様に応じて係数を固定している。したがって、特許文献1に記載のアンプ装置は、HPF(高域側フィルタ)のカットオフ周波数とLPF(低域側フィルタ)のカットオフ周波数を、オーディオ信号のレベルに応じて動的に変化させられない。
【0006】
そこで、この発明の一実施形態は、オーディオ信号のレベルに応じて、HPFのカットオフ周波数とLPFのカットオフ周波数を、動的に変化させられるオーディオ信号制御回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
オーディオ信号制御回路は、低域用スピーカが分担する周波数帯域と高域用スピーカが分担する周波数帯域とが交差する周波数を含む周波数帯域を抽出して調整信号を生成する調整信号生成部と、オーディオ信号から調整信号を減算することで、高域用オーディオ信号を生成し、ハイパスフィルタに出力する高域用出力部と、オーディオ信号に調整信号を加算することで、低域用オーディオ信号を生成し、ローパスフィルタに出力する低域用出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
この発明の一実施形態は、オーディオ信号のレベルに応じて、HPFのカットオフ周波数とLPFのカットオフ周波数を動的に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】音響システム1のハードウェア構成を示す図である。
図2】音響システム1の構成を示すブロック図である。
図3】ゲイン設定部22の構成を示すブロック図である。
図4】オーディオ信号Saのレベルが低い場合の音響機器2内の各信号の信号レベルの周波数特性を示す図である。
図5】オーディオ信号Saのレベルが高い場合の音響機器2内の各信号の信号レベルの周波数特性を示す図である。
図6】オーディオ信号制御方法の主処理を示すフローチャートである。
図7】調整信号の生成処理を示すフローチャートである。
図8】調整信号生成部20Aの構成を示すブロック図である。
図9】音響システム1Aの構成を示すブロック図である。
図10】音響システム1Bの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(音響システム1のハードウェア構成)
図1は、音響システム1のハードウェア構成を示す図である。図1に示すように、音響システム1は、プロセッサ90、高域用アンプ410、および、低域用アンプ420、高域用スピーカ501、および、低域用スピーカ502を備える。プロセッサ90は、バス900、CPU91、DSP92、メモリ93、および、I/O94を備える。バス900は、CPU91、DSP92、メモリ93、および、I/O94を相互に接続する。
【0011】
メモリ93は、オーディオ信号制御回路10の各部の動作を行うためのプログラムを含む各種プログラムやデータ等を記憶する。CPU91は、メモリ93に記憶された各種プログラムを実行することで、オーディオ信号制御回路10を実現する。メモリ93が、各種のプログラムやデータを記憶することに限らず、外部記憶装置やネットワークにつながれているサーバ等が、各種のプログラムやデータを記憶してもよい。この場合、CPU91は、サーバ等から各種のプログラムやデータを読み出す。
【0012】
高域用アンプ410および低域用アンプ420の入力端は、プロセッサ90に接続する。高域用アンプ410は、高域用オーディオ信号を増幅して、高域用スピーカ501に出力する。低域用アンプ420は、低域用オーディオ信号を増幅して、低域用スピーカ502に出力する。
【0013】
(音響システム1の構成)
図2は、音響システム1の構成を示すブロック図である。図2に示すように、音響システム1は、音響機器2、および、スピーカ装置50を備える。音響機器2は、スピーカ装置50に接続する。
【0014】
スピーカ装置50は、高域用スピーカ(高域再生スピーカ)501と、低域用スピーカ(低域再生スピーカ)502を備える。スピーカ装置50の筐体は、高域用スピーカ501と低域用スピーカ502とを収容する。高域用スピーカ501で再生される周波数は、例えば、200Hzから20kHzであり、低域用スピーカ502で再生される中心周波数は、20Hzから400Hzである。高域用スピーカ501と低域用スピーカ502とのクロスオーバー周波数は、例えば、250Hzから350Hz程度に設定されている。クロスオーバー周波数は、低域用スピーカ502が分担する周波数帯域と高域用スピーカ501が分担する周波数帯域とが交差する周波数である。言い換えれば、クロスオーバー周波数は、低域用スピーカ502の周波数特性と高域用スピーカ501の周波数特性とが交差する周波数である。
【0015】
(音響機器2の構成)
音響機器2は、フィルタ処理後の高域用オーディオ信号SaHFを、高域用アンプ410で増幅して、高域用スピーカ501に出力する。高域用スピーカ501は、高域用オーディオ信号SaHFを音に変換して放音する。音響機器2は、フィルタ処理後の低域用オーディオ信号SaLFを、低域用アンプ420で増幅して、低域用スピーカ502に出力する。低域用スピーカ502は、低域用オーディオ信号SaLFを音に変換して放音する。
【0016】
音響機器2は、オーディオ信号制御回路10、高域側フィルタ41、低域側フィルタ42、高域用アンプ410、および、低域用アンプ420を備える。音響機器2の各部は、例えば、上述のプロセッサ90によって実現する。
【0017】
オーディオ信号制御回路10の具体的な構成および処理は、後述する。概略的には、オーディオ信号制御回路10は、入力されたオーディオ信号Saから、調整信号Scを生成する。オーディオ信号制御回路10は、オーディオ信号Saのレベルから調整信号Scのレベルを設定する。オーディオ信号制御回路10は、レベルが設定された調整信号Sckを生成する。
【0018】
オーディオ信号制御回路10は、オーディオ信号Saから調整信号Sckを減算する。この処理によって、オーディオ信号制御回路10は、高域用オーディオ信号SaHを生成し、高域側フィルタ41に出力する。
【0019】
オーディオ信号制御回路10は、調整信号Sckをオーディオ信号Saに加算する。この処理によって、オーディオ信号制御回路10は、低域用オーディオ信号SaLを生成し、低域側フィルタ42に出力する。
【0020】
高域側フィルタ41は、ハイパスフィルタ(HPF)である。高域側フィルタ41のカットオフ周波数fcH0は、例えば、約300Hzである。高域側フィルタ41は、高域用オーディオ信号SaHをフィルタ処理する。高域側フィルタ41は、フィルタ処理後の高域用オーディオ信号SaHFを高域用アンプ410に出力する。高域用アンプ410は、高域用オーディオ信号SaHFを増幅して、高域用スピーカ501に出力する。
【0021】
低域側フィルタ42は、ローパスフィルタ(LPF)である。低域側フィルタ42のカットオフ周波数fcL0は、例えば、約400Hzである。低域側フィルタ42は、低域用オーディオ信号SaLをフィルタ処理する。低域側フィルタ42は、フィルタ処理後の低域用オーディオ信号SaLFを低域用アンプ420に出力する。低域用アンプ420は、低域用オーディオ信号SaLFを増幅して、低域用スピーカ502に出力する。
【0022】
(オーディオ信号制御回路10の構成)
オーディオ信号制御回路10は、調整信号生成部20、高域用出力部31、および、低域用出力部32を備える。調整信号生成部20は、調整信号抽出用BPF21、ゲイン設定部22、および、レベル調整部23を備える。調整信号抽出用BPF21は、本発明の「第1バンドパスフィルタ」に対応する。
【0023】
調整信号抽出用BPF21は、オーディオ信号Saをバンドパスフィルタ処理することで、調整信号Scを生成する。調整信号抽出用BPF21の通過帯域は、クロスオーバー周波数を含む。調整信号抽出用BPF21の通過帯域の低域側カットオフ周波数は、低域側フィルタ42のカットオフ周波数fcL0よりも低い。さらに、調整信号抽出用BPF21の通過帯域の高域側カットオフ周波数は、高域側フィルタ41のカットオフ周波数fcH0よりも高い。
【0024】
これにより、調整信号Scの帯域は、クロスオーバー周波数を含む。調整信号Scの帯域の上限周波数は、カットオフ周波数fcH0程度であり、且つカットオフ周波数fcH0よりも高周波数である。調整信号Scの帯域の下限周波数は、カットオフ周波数fcL0程度であり、カットオフ周波数fcL0よりも低周波数である。なお、高域側フィルタ41のカットオフ周波数fcH0と調整信号Scの帯域の上限周波数との差は、所望とする高域用スピーカ501の出力特性等に応じて、適宜調整が可能である。また、低域側フィルタ42のカットオフ周波数fcL0と調整信号Scの帯域の下限周波数との差は、所望とする低域用スピーカ502の出力特性等に応じて、適宜調整が可能である。
【0025】
図3は、ゲイン設定部22の構成を示すブロック図である。図3に示すように、ゲイン設定部22は、ゲイン設定用のBPF221、レベル検出部222、および、ゲイン演算部223を備える。
【0026】
ゲイン設定用のBPF221は、オーディオ信号Saをバンドパスフィルタ処理する。ゲイン設定用のBPF221のQは、調整信号抽出用BPF21のQと異なる。ゲイン設定用のBPF221は、フィルタ処理後のゲイン設定用のオーディオ信号Scgを出力する。ゲイン設定用のBPF221は、本発明の「第2バンドパスフィルタ」に対応する。ゲイン設定用のBPF221の通過帯域は、調整信号抽出用BPF21と同じであってもよく、異なっていてもよい。ゲイン設定用のBPF221の通過帯域は、オーディオ信号Saにおけるクロスオーバー周波数付近のレベルが検出できる周波数帯域であればよい。さらに、ゲイン設定用のBPF221の通過帯域は、オーディオ信号Saにおけるクロスオーバー周波数よりも高域側であればよい。すなわち、ゲイン設定用のBPF221の通過帯域は、高域用スピーカ501で再生する周波数帯域のレベルが検出できる周波数帯域であればよい。
【0027】
レベル検出部222は、例えば、ゲイン設定用のオーディオ信号Scgのエンベロープを検出する。レベル検出部222は、エンベロープから、ゲイン設定用のオーディオ信号ScgのレベルLscgを検出する。
【0028】
ゲイン演算部223は、レベルLscgを用いて、調整信号Scに対するゲインKを決定する。より具体的には、ゲイン演算部223は、ゲイン設定用閾値THを予め記憶している。ゲイン演算部223は、レベルLscgとゲイン設定用閾値THとを比較する。ゲイン演算部223は、レベルLscgがゲイン設定用閾値TH以上であれば、所定値からなるゲインKを設定する。ゲイン演算部223は、レベルLscgがゲイン設定用閾値TH未満であれば、調整信号Scのレベルを0に抑圧するようにゲインKを設定する。
【0029】
レベル調整部23は、例えば、可変増幅器である。レベル調整部23は、調整信号Scに対してゲインKを乗算することで、レベル調整後の調整信号Sckを生成する。
【0030】
このように、調整信号生成部20は、オーディオ信号Scgのレベルがゲイン設定用閾値TH以上であれば、0でない所定レベルの調整信号Sckを出力する。一方、調整信号生成部20は、オーディオ信号Scgのレベルがゲイン設定用閾値TH未満であれば、0レベルの調整信号Sckを出力する。
【0031】
高域用出力部31は、オーディオ信号Saから、レベル調整後の調整信号Sckを減算することで、高域用オーディオ信号SaHを生成する。高域用出力部31は、高域用オーディオ信号SaHを、高域側フィルタ41に出力する。
【0032】
低域用出力部32は、オーディオ信号Saに、レベル調整後の調整信号Sckを加算することで、低域用オーディオ信号SaLを生成する。低域用出力部32は、低域用オーディオ信号SaLを、低域側フィルタ42に出力する。
【0033】
(オーディオ信号制御回路10を備える音響機器2の作用効果の説明)
このような構成を用いることで、オーディオ信号制御回路10を備える音響機器2は、次に示すような作用効果を得られる。
【0034】
(オーディオ信号Saが低レベルの場合)
図4は、オーディオ信号Saのレベルが低い場合の音響機器2内の各信号の信号レベルの周波数特性を示す図である。
【0035】
調整信号Scは、オーディオ信号Saを、調整信号抽出用BPF21でバンドパスフィルタ処理した信号である。したがって、調整信号Scのレベルは、オーディオ信号Saのレベルと略同じである。
【0036】
ゲイン設定用のオーディオ信号Scgは、オーディオ信号Saをゲイン設定部22のBPF221でバンドパスフィルタ処理した信号である。したがって、ゲイン設定用のオーディオ信号Scgのレベルは、オーディオ信号Saのレベルと略同じである。この際、上述のように、ゲイン設定部22のBPF221のQと調整信号抽出用BPF21のQとは異なるので、図3に示すように、調整信号Scの周波数特性とゲイン設定用のオーディオ信号Scgの周波数特性とは、異なる。この結果、ゲイン設定用のオーディオ信号Scgと調整信号Scとは、それぞれに最適な周波数特性となる。
【0037】
図4に示すように、ゲイン設定用のオーディオ信号Scgのレベルは、ゲイン設定用閾値TH未満で場合、ゲインKは、調整信号Scのレベルが0になるような値である。したがって、図4に示すように、レベル調整後の調整信号Sckは、全周波数帯域にて0レベルの信号である。
【0038】
(低域側の処理)
低域用オーディオ信号SaLは、レベル調整後の調整信号Sckをオーディオ信号Saに加算した信号である。レベル調整後の調整信号Sckは0レベルの信号であるので、低域用オーディオ信号SaLは、オーディオ信号Saと同じである。
【0039】
図4の周波数特性F42に示すようなカットオフ周波数fcL0の低域側フィルタ42は、低域用オーディオ信号SaLをフィルタ処理する。フィルタ処理後の低域用オーディオ信号SaLFは、図4(最下段の左側のグラフ)に示す周波数特性を有する。フィルタ処理後の低域用オーディオ信号SaLFは、低域用オーディオ信号SaLにおけるカットオフ周波数fcL0よりも低域側の成分から構成される信号である。
【0040】
低域用オーディオ信号SaLは、オーディオ信号Saと同じである。したがって、フィルタ処理後の低域用オーディオ信号SaLFは、オーディオ信号Saにおけるカットオフ周波数fcL0よりも低域側の成分の信号である。これにより、低域側のカットオフ周波数fcL0は変化しない。
【0041】
(高域側の処理)
高域用オーディオ信号SaHは、レベル調整後の調整信号Sckをオーディオ信号Saから減算した信号である。レベル調整後の調整信号Sckは0レベルの信号であるので、高域用オーディオ信号SaHは、オーディオ信号Saと同じである。
【0042】
図4の周波数特性F41に示すようなカットオフ周波数fcH0の高域側フィルタ41は、高域用オーディオ信号SaHをフィルタ処理する。フィルタ処理後の高域用オーディオ信号SaHFは、図4(最下段の右側のグラフ)に示す周波数特性を有する。フィルタ処理後の高域用オーディオ信号SaHFは、高域用オーディオ信号SaHにおけるカットオフ周波数fcH0よりも高域側の成分から構成される信号である。
【0043】
高域用オーディオ信号SaHは、オーディオ信号Saと同じである。したがって、フィルタ処理後の高域用オーディオ信号SaHFは、オーディオ信号Saにおけるカットオフ周波数fcH0よりも高域側の成分の信号である。これにより、高域側のカットオフ周波数fcH0は変化しない。
【0044】
(オーディオ信号Saが高レベルの場合)
図5は、オーディオ信号Saのレベルが高い場合の音響機器2内の各信号の信号レベルの周波数特性を示す図である。
【0045】
調整信号Scは、オーディオ信号Saをバンドパスフィルタ処理した信号である。したがって、調整信号Scのレベルは、オーディオ信号Saのレベルと略同じである。
【0046】
同様に、ゲイン設定用のオーディオ信号Scgは、オーディオ信号Saをバンドパスフィルタ処理した信号である。したがって、ゲイン設定用のオーディオ信号Scgのレベルは、オーディオ信号Saのレベルと略同じである。この際、ゲイン設定部22のBPF221のQと調整信号抽出用BPF21のQとは、異なる。これにより、図4に示すように、調整信号Scの周波数特性とゲイン設定用のオーディオ信号Scgの周波数特性とは、異なる。この結果、ゲイン設定用のオーディオ信号Scgと調整信号Scとは、それぞれに最適な周波数特性を有する。
【0047】
図5に示すように、ゲイン設定用のオーディオ信号Scgのレベルは、ゲイン設定用閾値TH以上である。この場合、ゲインKは、調整信号Scのレベルが0にならない所定値である。したがって、図5に示すように、レベル調整後の調整信号Sckは、上述のクロスオーバー周波数を含む所定の周波数帯域のみで所定レベルの信号である。言い換えれば、レベル調整後の調整信号Sckは、クロスオーバー周波数付近においてレベルが部分的に高くなる信号である。
【0048】
(低域側の処理)
低域用オーディオ信号SaLは、レベル調整後の調整信号Sckをオーディオ信号Saに加算した信号である。レベル調整後の調整信号Sckは、クロスオーバー周波数付近においてレベルが部分的に高くなる信号である。したがって、図5に示すように、低域用オーディオ信号SaLは、オーディオ信号Saに対して、クロスオーバー周波数付近においてレベルが部分的に高くなる信号である。
【0049】
図5の周波数特性F42に示すようなカットオフ周波数fcL0を有する低域側フィルタ42は、低域用オーディオ信号SaLをフィルタ処理する。これにより、フィルタ処理後の低域用オーディオ信号SaLFは、図5(最下段の左側のグラフ)に示す周波数特性を有する。
【0050】
図5に示すように、低域用オーディオ信号SaLFは、主として、低域用オーディオ信号SaLにおけるカットオフ周波数fcL0よりも低域側の成分の信号である。さらに、低域用オーディオ信号SaLにおけるレベルが部分的に高い周波数帯域は、低域側フィルタ42のカットオフ周波数fcL0を跨いでいる。これにより、フィルタ処理後の低域用オーディオ信号SaLFにおけるカットオフ周波数fcL0よりも高域側は、カットオフ周波数fcL0よりも低域側と同程度の信号レベルの部分を有する。
【0051】
このため、フィルタ処理後の低域用オーディオ信号SaLFは、カットオフ周波数fcL0が高域側にシフトしてカットオフ周波数fcLcとなった場合と同等の周波数特性を有する。
【0052】
したがって、オーディオ信号Saのレベルが高い場合、音響機器2は、フィルタ処理後の低域用オーディオ信号SaLFとして、低域側フィルタ42のカットオフ周波数を高域側にシフトしたものと同等のものを出力できる。
【0053】
(高域側の処理)
高域用オーディオ信号SaHは、レベル調整後の調整信号Sckをオーディオ信号Saから減算した信号である。レベル調整後の調整信号Sckは、クロスオーバー周波数付近においてレベルが部分的に高くなる信号である。したがって、図5に示すように、高域用オーディオ信号SaHは、オーディオ信号Saに対して、クロスオーバー周波数付近においてレベルが部分的に低くなる信号である。
【0054】
図5の周波数特性F41に示すようなカットオフ周波数fcH0の高域側フィルタ41は、高域用オーディオ信号SaHをフィルタ処理する。図5に示すフィルタ処理後の高域用オーディオ信号SaHFは、図5(最下段の右側のグラフ)に示す周波数特性を有する。
【0055】
図5に示すように、高域用オーディオ信号SaHFは、主として、高域用オーディオ信号SaHにおけるカットオフ周波数fcH0よりも高域側の成分の信号である。さらに、高域用オーディオ信号SaHにおけるレベルが部分的に低い周波数帯域は、高域側フィルタ41のカットオフ周波数fcH0を跨いでいる。これにより、フィルタ処理後の高域用オーディオ信号SaHFにおけるカットオフ周波数fcH0よりも高域側は、信号レベルが低い部分を有する。
【0056】
このため、フィルタ処理後の高域用オーディオ信号SaHFは、カットオフ周波数fcH0が高域側にシフトしてカットオフ周波数fcHcとなった周波数特性を有する。
【0057】
したがって、オーディオ信号Saのレベルが高い場合、音響機器2は、フィルタ処理後の高域用オーディオ信号SaHFとして、高域側フィルタ41のカットオフ周波数を高域側にシフトしたものと同等のものを出力できる。
【0058】
このように、オーディオ信号Saのレベルが高い場合に、音響機器2は、高域側フィルタ41のカットオフ周波数および低域側フィルタ42のカットオフ周波数、すなわち、クロスオーバー周波数を高域側にシフトできる。
【0059】
通常、高域用スピーカ501の出力の許容範囲は、低域用スピーカ502の出力の許容範囲よりも低い。このため、オーディオ信号Saのレベルが高くなり、高域用スピーカ501への入力が大きくなると、音質が低下し、音のバランスも崩れてしまう。しかしながら、オーディオ信号制御回路10および音響機器2の構成を用いることによって、オーディオ信号Saのレベルが高い場合にカットオフ周波数が実質的に高くなる。したがって、高域用スピーカ501の負荷は、軽減する。これにより、音質の低下は抑制され、音のバランスは安定する。
【0060】
なお、上述の説明では、オーディオ信号Saのレベルが高い場合を一例だけ示した。しかしながら、上述の構成を備えることによって、オーディオ信号Saのレベルがゲイン設定用閾値TH以上の場合に、オーディオ信号Saのレベルに応じて、カットオフ周波数のシフト量は変化する。これにより、音量に影響されることなく、音質の低下は抑制され、音のバランスは安定する。
【0061】
また、上述の構成を用いることによって、オーディオ信号制御回路10は、調整信号Scの波形と、ゲイン設定用のオーディオ信号Scgの波形とを異ならせることができる。これにより、オーディオ信号制御回路10は、調整信号Scを、カットオフ周波数の調整に適する波形にすることができる。すなわち、オーディオ信号制御回路10は、調整信号Scの帯域幅を、クロスオーバー周波数のシフトする周波数幅に合わせる。これにより、音響機器2は、クロスオーバー周波数付近(カットオフ周波数付近)でのレベル特性を最適化できる。また、オーディオ信号制御回路10は、ゲイン設定用のオーディオ信号Scgを、オーディオ信号Saのレベルの検出に適する波形にすることができる。これにより、オーディオ信号制御回路10は、オーディオ信号Saのレベルを、高精度に検出できる。
【0062】
また、上述の構成を用いることによって、音響機器2は、高域側フィルタ41および低域側フィルタ42を可変フィルタで構成しなくてもよい。さらに、オーディオ信号制御回路10は、カットオフ周波数をシフトさせるための回路構成を簡素化できる。これにより、オーディオ信号制御回路10および音響機器2のリソースは、少なく抑えることができる。
【0063】
また、上述のように、調整信号Scのレベルを調整することによって、音響機器2は、カットオフ周波数のシフト量を最適化できる。
【0064】
(オーディオ信号制御方法の説明)
図6は、オーディオ信号制御方法の主処理を示すフローチャートである。図7は、調整信号の生成処理を示すフローチャートである。なお、以下では、各処理の具体的な内容は、上述しており、説明を省略する。
【0065】
演算装置は、オーディオ信号Saから調整信号Scを生成する(図6:S11)。より具体的には、演算装置は、オーディオ信号Saをバンドパスフィルタ処理することで、調整信号Scを抽出して生成する(図7:S111)。演算装置は、バンドパスフィルタ処理したオーディオ信号Saのレベルを検出する(図7:S112)。
【0066】
演算装置は、オーディオ信号Saのレベルがゲイン設定用閾値TH以上であれば(図7:S113:YES)、調整信号ScのゲインKを所定値に設定する(図7:S114)。演算装置は、ゲインKを調整信号Scに乗算して、調整信号Scのレベルを調整する(図7:S115)。演算装置は、オーディオ信号Saのレベルがゲイン設定用閾値TH未満であれば(図7:S113:NO)、調整信号Scのレベルが”0”になるようにゲインKを設定する(図7:S116)。
【0067】
演算装置は、オーディオ信号Saから、レベル調整後の調整信号Sckを減算し(S121)、高域側フィルタ41へ出力する(S131)。演算装置は、オーディオ信号Saに、レベル調整後の調整信号Sckを加算し(S122)、低域側フィルタ42へ出力する(S132)。
【0068】
(調整信号生成部20Aの構成)
調整信号生成部は、図8に示す構成であってもよい。図8は、調整信号生成部20Aの構成を示すブロック図である。以下では、調整信号生成部20Aにおける調整信号生成部20と同じ箇所の説明は省略する。
【0069】
調整信号生成部20Aは、調整信号抽出用BPF21、ゲイン設定部22A、および、レベル調整部23を備える。ゲイン設定部22Aは、レベル検出部222、および、ゲイン演算部223を備える。調整信号抽出用BPF21は、レベル検出部222とレベル調整部23とに、調整信号Scを出力する。
【0070】
このような構成によって、調整信号生成部20Aは、ゲイン設定用のオーディオ信号を抽出するBPFを省略できる。これにより、調整信号生成部20Aの構成は、さらに簡素になる。
【0071】
(音響システム1Aおよび音響機器2Aの構成)
音響システムおよび音響機器は、図9に示す構成であってもよい。図9は、音響システム1Aの構成を示すブロック図である。以下では、音響システム1Aにおける音響システム1と同じ箇所の説明は省略する。
【0072】
音響システム1Aは、音響機器2Aとスピーカ装置50とを備える。音響機器2Aは、オーディオ信号制御回路10、高域側フィルタ41、低域側フィルタ42、高域用アンプ410、低域用アンプ420、高域側レベル制御部43、低域側レベル制御部44を備える。
【0073】
高域側レベル制御部43は、所謂リミッタ回路またはコンプレッサ回路である。高域側レベル制御部43は、高域用アンプ410の出力側に接続し、高域用スピーカ501に接続する。なお、高域側レベル制御部43は、高域用アンプ410の入力側に接続していてもよい。
【0074】
低域側レベル制御部44は、所謂リミッタ回路またはコンプレッサ回路である。低域側レベル制御部44は、低域用アンプ420の出力側に接続し、低域用スピーカ502に接続する。なお、低域側レベル制御部44は、低域用アンプ420の入力側に接続していてもよい。
【0075】
上述のように、高域用スピーカ501の出力の許容範囲が、低域用スピーカ502の出力の許容範囲よりも低い場合、高域側レベル制御部43に設定される抑圧用のスレッショルドは、低域側レベル制御部44に設定される抑圧用のスレッショルドよりも低い。この場合、オーディオ信号Saのレベルが高くなると、高域側レベル制御部43は、低域側レベル制御部44よりも先に、レベル制御を行ってしまう。この場合にも、上述のような音質の低下が生じてしまう。しかしながら、オーディオ信号制御回路10および音響機器2Aの構成を備えることによって、高域側レベル制御部43は、レベル制御を抑制する。これにより、音質の低下は生じ難い。
【0076】
(音響システム1Bの構成)
音響システムは、図10に示す構成であってもよい。図10は、音響システム1Bの構成を示すブロック図である。以下では、音響システム1Bにおける音響システム1と同じ箇所の説明は省略する。
【0077】
音響システム1Bは、音響機器2、スピーカ装置51、および、スピーカ装置52を備える。スピーカ装置51は、高域用スピーカ501を備える。スピーカ装置52は、低域用スピーカ502を備える。このように、音響システム1Bでは、高域用スピーカ501と低域用スピーカ502とは別体である。このような構成であっても、音響システム1Bは、上述の音響システム1と同様の作用効果を得る。
【0078】
なお、放音の態様は、上述に限るものではない。具体的には、音響システムは、高域用スピーカ501と低域用スピーカ502とを備えていればよい。例えば、音響システムは、高域用スピーカ501と低域用スピーカ502とを装備するイヤホンやヘッドホンを用いる。また、音響システムは、フィルタ処理後の高域用オーディオ信号SaHFおよびフィルタ処理後の低域用オーディオ信号SaLFをネットワーク等を介して送信する。音響システムは、送信されたフィルタ処理後の高域用オーディオ信号SaHFおよびフィルタ処理後の低域用オーディオ信号SaLFを高域用スピーカ501と低域用スピーカ502で放音する。
【0079】
本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
1、1A、1B:音響システム
2、2A:音響機器
10:オーディオ信号制御回路
20、20A:調整信号生成部
21:調整信号抽出用BPF
22、22A:ゲイン設定部
23:レベル調整部
31:高域用出力部
32:低域用出力部
41:高域側フィルタ
42:低域側フィルタ
43:高域側レベル制御部
44:低域側レベル制御部
50、51、52:スピーカ装置
90:プロセッサ
91:CPU
92:DSP
93:メモリ
94:RAM
95:I/O
900:バスライン
221:BPF
222:レベル検出部
223:ゲイン演算部
410:高域用アンプ
420:低域用アンプ
501:高域用スピーカ
502:低域用スピーカ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10