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特許7247741圧力調整弁の製造方法、及び蓄電モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】圧力調整弁の製造方法、及び蓄電モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/317 20210101AFI20230322BHJP
   H01M 50/325 20210101ALI20230322BHJP
   F16K 7/20 20060101ALI20230322BHJP
   F16K 17/02 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
H01M50/317 101
H01M50/325
F16K7/20
F16K17/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019092804
(22)【出願日】2019-05-16
(65)【公開番号】P2020187957
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】濱岡 賢志
(72)【発明者】
【氏名】井上 拓
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩生
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-061850(JP,A)
【文献】国際公開第2006/068095(WO,A1)
【文献】特開2001-210357(JP,A)
【文献】特開平10-289702(JP,A)
【文献】特開平03-159057(JP,A)
【文献】特開2013-062120(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0149728(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/30
F16K 7/20
F16K 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの蓄電モジュールに取り付けられる複数の圧力調整弁の製造方法であって、
前記複数の圧力調整弁の各々は、
複数の貫通孔が形成された底壁部と、
前記貫通孔の一方の開口端を塞ぐ第1面と前記第1面とは反対側に位置する第2面とを有し、弾性部材によって柱状に形成された複数の弁体と、
前記複数の弁体を包囲するように、前記底壁部の縁部に立設された側壁部と、
前記複数の弁体の前記第2面に当接すると共に前記複数の弁体を前記底壁部に対して押圧する押圧面と、前記側壁部の前記底壁部側とは反対側の端部に溶着される被溶着部と、を有する押圧部材と、を有し、
前記被溶着部を前記側壁部の前記端部に溶着する前に、前記弁体の硬度を測定する工程と、
前記測定する工程において測定された前記弁体の硬度と、前記弁体の非圧縮状態における前記第1面から前記第2面までの距離と、予め設定された前記弁体の開弁圧と、に基づいて、前記被溶着部が前記側壁部の前記端部に溶着された後の前記底壁部において前記第1面と接触する接触部分から前記押圧面までの第1距離の目標値を決定する工程と、
前記第1距離が前記目標値となるように、前記被溶着部と前記側壁部の前記端部とを接合する工程と、を前記圧力調整弁毎に実行する、圧力調整弁の製造方法。
【請求項2】
前記接合する工程の前に、前記被溶着部に対する前記押圧面の高さ位置が互いに異なる複数種類の押圧部材の中から前記接合する工程で接合される前記押圧部材を選定することによって、前記第1距離が前記目標値となるように前記被溶着部に対する前記押圧面の高さ位置を調整する工程を更に含む、請求項1に記載の圧力調整弁の製造方法。
【請求項3】
前記被溶着部は、前記側壁部の前記端部に対向する接合用突起を含み、
前記接合する工程は、前記被溶着部を前記側壁部の前記端部に溶着する際に、前記接合用突起の溶かし量を調整すると共に、前記溶着後の前記接合用突起の高さが前記溶着前の前記接合用突起の高さよりも小さくすることにより、前記第1距離が前記目標値となるように調整することを含む、請求項1又は2に記載の圧力調整弁の製造方法。
【請求項4】
前記接合する工程の前に、前記接触部分に対する前記側壁部の前記端部の高さ位置が互いに異なる前記側壁部を有する複数種類の部材の中から前記接合する工程で接合される前記部材を選定することにより、前記第1距離が前記目標値となるように前記接触部分に対する前記側壁部の前記端部の高さ位置を調整する工程を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の圧力調整弁の製造方法。
【請求項5】
複数の圧力調整弁を備え
前記複数の圧力調整弁の各々は、
複数の貫通孔が形成された底壁部と、
前記貫通孔の一方の開口端を塞ぐ第1面と前記第1面とは反対側に位置する第2面とを有し、弾性部材によって柱状に形成された複数の弁体と、
前記複数の弁体を包囲するように、前記底壁部の縁部に立設された側壁部と、
前記複数の弁体の前記第2面に当接すると共に前記複数の弁体を前記底壁部に対して押圧する押圧面と、前記側壁部の前記底壁部側とは反対側の端部に溶着される被溶着部と、を有する押圧部材と、を有し、
記弁体の硬度と、前記弁体の非圧縮状態における前記第1面から前記第2面までの距離と、予め設定された前記弁体の開弁圧と、に基づいて前記弁体の硬度が高いほど長くなるように決定された、前記底壁部において前記第1面と接触する接触部分から前記押圧面までの距離を有している、蓄電モジュール
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄電モジュール用の圧力調整弁の製造方法、及び圧力調整弁に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素二次電池及びリチウムイオン二次電池等の蓄電モジュールは、モジュール本体を備えている。モジュール本体には、電極を含む電池要素が収容されている。モジュール本体には、その内部でのガス発生により内圧が所定圧より上昇した際に内圧を調整するための圧力調整弁が取り付けられる(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の圧力調整弁は、モジュール本体に連通する連通孔を、弾性部材である弁体で塞いでいる。モジュール本体内の圧力が弁体の開弁圧より上昇すると、弁体が弾性変形することにより、弁体による上記連通孔の封止(シール)が解除され、モジュール本体内のガスが排出される。一方、モジュール本体内の圧力が弁体の開弁圧以下になると、弁体によって上記連通孔が再度塞がれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-230799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
弁体の開弁圧は、弁体の圧縮率及び硬度に依存する。圧力調整弁の製造工程においては、弁体が収容される収容空間の高さを一定にすることにより、弁体の圧縮率が一定になるように管理される場合がある。しかしながら、弁体の硬度は、弁体を構成する材料(例えばポリマー等)の配合率、分布、架橋等のばらつきによって変動し得る。このため、上記のように弁体の圧縮率が一定となるように管理したとしても、弁体の硬度のばらつきに起因して、開弁圧にばらつきが生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は、弁体の硬度のばらつきに起因する開弁圧のばらつきを低減することができる圧力調整弁及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る圧力調整弁の製造方法は、蓄電モジュールに用いられる圧力調整弁の製造方法であって、圧力調整弁は、複数の貫通孔が形成された底壁部と、貫通孔の一方の開口端を塞ぐ第1面と第1面とは反対側に位置する第2面とを有し、弾性部材によって柱状に形成された複数の弁体と、複数の弁体を包囲するように、底壁部の縁部に立設された側壁部と、複数の弁体の第2面に当接すると共に複数の弁体を底壁部に対して押圧する押圧面と、側壁部の底壁部側とは反対側の端部に溶着される被溶着部と、を有する押圧部材と、を有し、被溶着部を側壁部の端部に溶着する前に、弁体の硬度を測定する工程と、弁体の硬度と、弁体の非圧縮状態における第1面から第2面までの距離と、予め設定された弁体の開弁圧と、に基づいて、被溶着部が側壁部の端部に溶着された後の底壁部において第1面と接触する接触部分から押圧面までの距離の目標値を決定する工程と、溶着された後の接触部分から押圧面までの距離が上記目標値となるように、被溶着部と側壁部の端部とを接合する工程と、を含む。
【0007】
上記圧力調整弁の製造方法では、押圧部材が側壁部に溶着される前に弁体の硬度が測定される。そして、弁体の硬度と、弁体の非圧縮状態における長さ(第1面から第2面までの距離)と、予め設定された弁体の開弁圧(設定圧)と、に基づいて、被溶着部が側壁部の端部に溶着された後の接触部分から押圧面までの距離(以下「弁体収容高さ」)が調整される。このように、上記製造方法によれば、弁体の開弁圧が設定圧に近い値となるように、弁体の圧縮率を決定づける弁体収容高さを、弁体の硬度に応じて適切に調整することができる。その結果、弁体の硬度のばらつきに起因する開弁圧のばらつきを低減することができる。
【0008】
上記圧力調整弁の製造方法は、接合する工程の前に、被溶着部に対する押圧面の高さ位置を調整する工程を更に含んでもよい。この構成によれば、例えば、被溶着部に対する押圧面の高さ位置が互いに異なる複数種類の押圧部材の中から適切な寸法を有する押圧部材を選定することにより、弁体収容高さを容易且つ適切に調整することができる。
【0009】
接合する工程は、被溶着部を側壁部の端部に溶着する際の当該端部に対する被溶着部の溶かし量を調整することを含んでもよい。この構成によれば、溶着時における被溶着部の溶かし量を調整することにより、弁体収容高さの細かい調整を行うことができる。
【0010】
上記圧力調整弁の製造方法は、接合する工程の前に、接触部分に対する側壁部の端部の高さ位置を調整する工程を更に含んでもよい。この構成によれば、例えば、接触部分に対する端部の高さ位置が互いに異なる複数種類の側壁部を有する部材の中から適切な寸法を有する部材を選定することにより、弁体収容高さを容易且つ適切に調整することができる。
【0011】
本開示の一側面に係る圧力調整弁は、蓄電モジュールに用いられる圧力調整弁であって、複数の貫通孔が形成された底壁部と、貫通孔の一方の開口端を塞ぐ第1面と第1面とは反対側に位置する第2面とを有し、弾性部材によって柱状に形成された複数の弁体と、複数の弁体を包囲するように、底壁部の縁部に立設された側壁部と、複数の弁体の第2面に当接すると共に複数の弁体を底壁部に対して押圧する押圧面と、側壁部の底壁部側とは反対側の端部に溶着される被溶着部と、を有する押圧部材と、を有し、底壁部において第1面と接触する接触部分から押圧面までの距離は、弁体の硬度と、弁体の非圧縮状態における第1面から第2面までの距離と、予め設定された弁体の開弁圧と、に基づいて調整されている。
【0012】
上記圧力調整弁では、接触部分から押圧面までの距離(弁体収容高さ)が、弁体の硬度と、弁体の非圧縮状態における長さ(第1面から第2面までの距離)と、予め設定された弁体の開弁圧(設定圧)と、に基づいて調整されている。すなわち、上記圧力調整弁では、弁体の開弁圧が設定圧に近い値となるように、弁体の圧縮率を決定づける弁体収容高さが弁体の硬度に応じて適切に調整されている。その結果、弁体の硬度のばらつきに起因する開弁圧のばらつきが低減されている。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、弁体の硬度のばらつきに起因する開弁圧のばらつきを低減することができる圧力調整弁及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る圧力調整弁を備える蓄電モジュールを含んで構成された蓄電装置を示す概略断面図である。
図2】蓄電モジュールの概略断面図である。
図3】蓄電モジュールの概略斜視図である。
図4】蓄電モジュールの一部を示す分解斜視図(一部断面図を含む)である。
図5】圧力調整弁の底面図である。
図6】圧力調整弁の分解斜視図である。
図7】ケースの平面図である。
図8】圧力調整弁の断面図である。
図9】弁体の硬度、弁体収容高さ、及び開弁圧の関係の一例を示す図である。
図10】圧力調整弁の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態が詳細に説明される。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0016】
[蓄電装置の構成]
図1は、本実施形態に係る圧力調整弁を備える蓄電モジュールを含んで構成された蓄電装置の一例を示す概略断面図である。図1に示される蓄電装置1は、例えばフォークリフト、ハイブリッド自動車、電気自動車等の各種車両のバッテリとして用いられる。蓄電装置1は、積層された複数の蓄電モジュール4を含むモジュール積層体2と、モジュール積層体2に対してモジュール積層体2の積層方向D(Z軸方向)に拘束荷重を付加する拘束部材3とを備えている。
【0017】
モジュール積層体2は、複数(ここでは4つ)の蓄電モジュール4と、複数(ここでは3つ)の導電板5とを含む。蓄電モジュール4は、バイポーラ電池であり、積層方向Dから見て矩形状をなしている。蓄電モジュール4は、例えばニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池等の二次電池、又は電気二重層キャパシタである。以下の説明では、ニッケル水素二次電池を例示する。
【0018】
積層方向Dに互いに隣り合う蓄電モジュール4同士は、導電板5を介して電気的に接続されている。モジュール積層体2の積層方向Dの積層端には、蓄電モジュール4に電気的に接続された導電板Pと、絶縁板Fとが順に積層されている。一方の導電板Pには正極端子6が接続され、他方の導電板Pには負極端子7が接続されている。正極端子6及び負極端子7は、例えば導電板Pの縁部から積層方向Dに交差する方向(X軸方向)に引き出されている。正極端子6及び負極端子7により、蓄電装置1の充放電が実施される。
【0019】
蓄電モジュール4間に配置された導電板5の内部には、空気等の冷却用媒体を流通させる複数の流路5aが設けられている。流路5aは、例えば積層方向Dと、正極端子6及び負極端子7の引き出し方向とにそれぞれ交差(直交)する方向(Y軸方向)に沿って延在している。導電板5は、蓄電モジュール4同士を電気的に接続する接続部材としての機能を有している。また、導電板5は、これらの流路5aに冷却用流体を流通させることにより、蓄電モジュール4で発生した熱を放熱する放熱板としての機能を併せ持っている。図1の例では、積層方向Dから見た導電板5の面積は、蓄電モジュール4の面積よりも小さくなっているが、放熱性の向上の観点から、導電板5の面積は、蓄電モジュール4の面積と同じであってもよく、蓄電モジュール4の面積よりも大きくなっていてもよい。
【0020】
拘束部材3は、モジュール積層体2を積層方向Dに挟む一対のエンドプレート8と、エンドプレート8同士を締結する締結ボルト9及びナット10とによって構成されている。エンドプレート8は、積層方向Dから見た蓄電モジュール4、導電板5、及び導電板Pの面積よりも一回り大きい面積を有する矩形の金属板である。各エンドプレート8と導電板Pとの間には、電気絶縁性を有する絶縁板Fが設けられているため、この絶縁板Fにより、エンドプレート8と導電板Pとの間が絶縁されている。
【0021】
エンドプレート8の縁部には、モジュール積層体2よりも外側となる位置に挿通孔8aが設けられている。締結ボルト9は、一方のエンドプレート8の挿通孔8aから他方のエンドプレート8の挿通孔8aに向かって通されている。他方のエンドプレート8の挿通孔8aから突出した締結ボルト9の先端部分には、ナット10が螺合されている。これにより、蓄電モジュール4、導電板5、導電板P、及び絶縁板Fがエンドプレート8によって挟持され、モジュール積層体2としてユニット化されている。また、モジュール積層体2に対し、積層方向Dに拘束荷重が付加されている。
【0022】
[蓄電モジュールの構成]
次に、蓄電モジュール4の構成について詳細に説明する。図2は、図1に示された蓄電モジュールの内部構成を示す概略断面図である。図2に示されるように、蓄電モジュール4は、電極積層体11と電極積層体11を封止する樹脂製の封止体12(枠体)とを有するモジュール本体Mを備えている。電極積層体11は、セパレータ13を介して蓄電モジュール4の積層方向Dに沿って積層された複数の電極によって構成されている。これらの電極は、複数のバイポーラ電極14と、負極終端電極18と、正極終端電極19とを含む。
【0023】
バイポーラ電極14は、一方面15a及び一方面15aの反対側の他方面15bを含む金属板15と、一方面15aに設けられた正極活物質層16と、他方面15bに設けられた負極活物質層17とを有している。正極活物質層16は、正極活物質を含む正極スラリーが金属板15に塗工、乾燥されることにより形成されている。正極活物質としては、例えば水酸化ニッケルが挙げられる。負極活物質層17は、負極活物質を含む負極スラリーが金属板15に塗工、乾燥されることにより形成されている。負極活物質としては、例えば水素吸蔵合金が挙げられる。
【0024】
本実施形態では、金属板15の他方面15bにおける負極活物質層17の形成領域は、金属板15の一方面15aにおける正極活物質層16の形成領域に対して一回り大きくなっている。電極積層体11において、一のバイポーラ電極14の正極活物質層16は、セパレータ13を挟んで積層方向Dの一方に隣り合う別のバイポーラ電極14の負極活物質層17と対向している。電極積層体11において、一のバイポーラ電極14の負極活物質層17は、セパレータ13を挟んで積層方向Dの他方に隣り合う別のバイポーラ電極14の正極活物質層16と対向している。
【0025】
負極終端電極18は、金属板15と、金属板15の他方面15bに設けられた負極活物質層17とを有している。負極終端電極18の金属板15の他方面15bに設けられた負極活物質層17は、セパレータ13を介して、積層方向Dの一端のバイポーラ電極14の正極活物質層16と対向している。負極終端電極18の金属板15の一方面15aは、電極積層体11の積層方向Dにおける一方の外側面を構成し、蓄電モジュール4に隣接する一方の導電板5又は導電板P(図1参照)と電気的に接続されている。
【0026】
正極終端電極19は、金属板15と、金属板15の一方面15aに設けられた正極活物質層16とを有している。正極終端電極19の一方面15aに設けられた正極活物質層16は、セパレータ13を介して、積層方向Dの他端のバイポーラ電極14の負極活物質層17と対向している。正極終端電極19の金属板15の他方面15bは、電極積層体11の積層方向Dにおける他方の外側面を構成し、蓄電モジュール4に隣接する他方の導電板5又は導電板P(図1参照)と電気的に接続されている。
【0027】
金属板15は、例えば表面にめっきが施されたニッケル板や、表面にめっきが施された鋼板などからなる。ここでは、金属板15は、鋼板の表面にニッケルによるめっきを施してなるめっき鋼板によって構成されている。めっき鋼板の基材となる鋼板には、例えば圧延鋼などの普通鋼や、ステンレス鋼などの特殊鋼が用いられる。金属板15の縁部15cは、矩形枠状をなし、正極スラリー及び負極スラリーが塗工されない未塗工領域となっている。
【0028】
セパレータ13は、例えばシート状に形成されている。セパレータ13としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂からなる多孔質フィルム、ポリプロピレン、メチルセルロース等からなる織布又は不織布等が例示される。セパレータ13は、フッ化ビニリデン樹脂化合物で補強されたものであってもよい。
【0029】
封止体12は、例えば絶縁性の樹脂によって、全体として矩形の筒状に形成されている。封止体12は、金属板15の縁部15cを包囲するように電極積層体11の側面11aに設けられている。封止体12は、側面11aにおいて縁部15cを保持している。封止体12は、金属板15の縁部15cに結合された複数の第1封止部21と、積層方向Dに沿って側面11aに延び、第1封止部21のそれぞれに結合された第2封止部22とを有している。第1封止部21及び第2封止部22は、耐アルカリ性を有する絶縁性の樹脂によって構成されている。第1封止部21及び第2封止部22の構成材料としては、例えばポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)などが挙げられる。
【0030】
第1封止部21は、金属板15の一方面15aにおいて縁部15cの全周にわたって連続的に設けられ、積層方向Dから見て矩形枠状をなしている(図3参照)。本実施形態では、バイポーラ電極14の金属板15のみならず、負極終端電極18の金属板15及び正極終端電極19の金属板15に対しても第1封止部21が設けられている。負極終端電極18では、金属板15の一方面15aの縁部15cに第1封止部21が設けられ、正極終端電極19では、金属板15の一方面15a及び他方面15bの双方の縁部15cに第1封止部21が設けられている。
【0031】
第1封止部21は、金属板15の縁部15cに重ねられ、重なり部分Kが形成されている。重なり部分Kにおいて、第1封止部21は、例えば超音波又は熱圧着によって金属板15に気密に溶着されている。第1封止部21は、例えば積層方向Dに所定の厚さを有するフィルムを用いて形成されている。第1封止部21の内側は、積層方向Dに互いに隣り合う金属板15の縁部15c同士の間に位置している。第1封止部21の外側は、金属板15の縁よりも外側に張り出しており、その先端部分は、第2封止部22によって保持されている。積層方向Dに沿って互いに隣り合う第1封止部21同士は、互いに離間していてもよく、接していてもよい。また、第1封止部21の外縁部分同士は、例えば熱板溶着などによって互いに結合していてもよい。
【0032】
電極積層体11において、積層方向Dについて内層に位置する第1封止部21の内縁側には、セパレータ13の縁部を載置するための段部21aが設けられている。段部21aは、第1封止部21を構成するフィルムの外縁部分を内側に折り返すことによって形成されていてもよい。段部21aは、下段を構成するフィルムに上段を構成するフィルムを重ね合わせることによって形成されていてもよい。
【0033】
第2封止部22は、電極積層体11及び第1封止部21の外側に設けられ、蓄電モジュール4の外壁(筐体)を構成している。第2封止部22は、例えば樹脂の射出成型によって形成され、積層方向Dに沿って電極積層体11の全長にわたって延在している。第2封止部22は、積層方向Dを軸方向として延在する矩形の枠状を呈している。第2封止部22は、例えば射出成型時の熱によって第1封止部21の外縁部分に溶着されている。
【0034】
第2封止部22は、積層方向Dにおける両端部にオーバーハング部22aをそれぞれ有している。一方のオーバーハング部22aは、積層方向Dの一端部において第1封止部21の内縁側に張り出し、負極終端電極18を構成する金属板15の一方面15a側に溶着された第1封止部21に結合している。他方のオーバーハング部22aは、積層方向Dの他端部において第1封止部21の内縁側に張り出し、正極終端電極19を構成する金属板15の他方面15b側に溶着された第1封止部21に結合している。一方及び他方のオーバーハング部22aの張り出し長さは、互いに等しくなっており、これらのオーバーハング部22aの先端22bは、積層方向Dから見て金属板15と第1封止部21との重なり部分Kに重なるように位置している。
【0035】
第1封止部21及び第2封止部22は、隣り合う電極の間の内部空間Vを封止する。より具体的には、第2封止部22は、第1封止部21と共に、積層方向Dに沿って互いに隣り合うバイポーラ電極14の間、積層方向Dに沿って互いに隣り合う負極終端電極18とバイポーラ電極14との間、及び積層方向Dに沿って互いに隣り合う正極終端電極19とバイポーラ電極14との間をそれぞれ封止している。これにより、隣り合うバイポーラ電極14の間、負極終端電極18と隣り合うバイポーラ電極14との間、及び正極終端電極19と隣り合うバイポーラ電極14との間には、それぞれ気密に仕切られた内部空間Vが形成されている。本実施形態では、金属板15の一方面15aと、当該金属板15と隣り合う金属板15の他方面15bと、第1封止部21とによって囲われた空間が内部空間Vとなっている。この内部空間Vには、例えば水酸化カリウム水溶液等のアルカリ溶液を含む水系の電解液(不図示)が収容されている。電解液は、セパレータ13、正極活物質層16、及び負極活物質層17内に含浸されている。
【0036】
[圧力調整弁の構成]
次に、圧力調整弁23の構成について詳細に説明する。図3は、蓄電モジュール4の概略斜視図である。図4は、蓄電モジュール4の一部を示す分解斜視図(一部断面図を含む)である。図5は、圧力調整弁23の底面図(底壁部32の外面32a側から見た図)である。図6は、圧力調整弁23の分解斜視図である。図7は、ケース29の平面図である。図8は、圧力調整弁23の断面図である。
【0037】
図3及び図4に示されるように、本実施形態では、複数(ここでは4つ)の圧力調整弁23が、モジュール本体Mの一側面に取り付けられている。具体的には、封止体12を構成する一の壁部12aには、圧力調整弁23が取り付けられる複数(ここでは4つ)の取付領域24が設けられている。図4に示されるように、第1封止部21の各取付領域24には、複数(ここでは6つ)の連通孔25がそれぞれ設けられている。連通孔25は、各取付領域24において3列2段(Y軸方向に3列、Z軸方向に2段)に配列されている。従って、連通孔25は、壁部12aにおいて12列2段に配列されている。各連通孔25は、互いに異なるセルの内部空間Vとそれぞれ連通されている。
【0038】
第2封止部22の各取付領域24には、各連通孔25と連通された複数(ここでは6つ)の連通孔26がそれぞれ設けられている。連通孔26は、各取付領域24において3列2段に配列されている。
【0039】
連通孔25,26は、内部空間Vに電解液を注入するための注液孔として機能する。また、連通孔25,26は、電解液が注入された後は、内部空間Vで発生したガスが流れる流路となる。
【0040】
第2封止部22の各取付領域24には、壁部12aから圧力調整弁23に向かって突出した略枠状の接合用突起27がそれぞれ設けられている。接合用突起27は、モジュール本体Mと圧力調整弁23とを接合すると共に、各内部空間Vからのガスがそれぞれ流れる複数(ここでは6つ)の流路28を連通孔26と協働して形成する。従って、流路28は、各取付領域24において3列2段に配列されている。流路28は、X軸方向に垂直な面に沿った断面において矩形状を有している。接合用突起27は、X軸方向から見て、格子状に形成されている。
【0041】
図4及び図6に示されるように、圧力調整弁23は、ケース29と、複数(ここでは6つ)の弁体30と、カバー31(押圧部材)とを有している。ケース29は、例えばPP、PPSまたは変性PPE等の樹脂で形成されている。ケース29は、ケース29とカバー31とが対向する対向方向(X軸方向)から見て略矩形状に形成されている。対向方向は、モジュール本体M(壁部12a)に対する圧力調整弁23の取付方向(後述する接合用突起27の先端27aと接合用突起34の先端34dとが対向する方向)でもある。
【0042】
ケース29は、底壁部32を有している。底壁部32には、モジュール本体Mの各連通孔26とそれぞれ連通された複数(ここでは6つ)の連通孔33(貫通孔)が設けられている。連通孔33は、X軸方向に垂直な面(YZ平面)に沿った断面で円形状を有している(図5参照)。連通孔33は、底壁部32を貫通している。すなわち、連通孔33は、底壁部32の2つの主面のうち一方の主面であるモジュール本体M側の外面32aから他方の主面であるカバー31側の内面32bに向けて貫通している。内面32bは、後述する弁体30の第1面30aと対向している。
【0043】
図5に示されるように、底壁部32の外面32aには、略枠状の接合用突起34が設けられている。接合用突起34は、モジュール本体Mと圧力調整弁23とを接合すると共に、各内部空間Vからのガスがそれぞれ流れる複数(ここでは6つ)の流路35を形成する。接合用突起34は、例えば熱板溶着により、モジュール本体Mの接合用突起27と接合される。接合用突起34は、接合用突起27に対応する形状及び寸法を有している。従って、流路35は、X軸方向に垂直な面(YZ平面)に沿った断面において矩形状を有している。また、接合用突起34は、X軸方向から見て、格子状に形成されている。
【0044】
図4及び図6図8に示されるように、ケース29は、それぞれ底壁部32からカバー31に向かって突出した側壁部36及び隔壁部37を有している。本実施形態では、側壁部36及び隔壁部37は、底壁部32と一体的に形成されている。側壁部36は、複数(ここでは6つ)の弁体30を包囲するように、底壁部32の内面32bの縁部に立設されている。具体的には、側壁部36は、底壁部32の外周縁部の全周にわたって形成されており、ケース29の外壁を構成している。より具体的には、側壁部36は、対向方向から見て、略矩形状に形成された底壁部32の外周縁部に沿って、略矩形枠状に形成されている。
【0045】
隔壁部37は、各弁体30の側面30cを覆うように底壁部32の内面32bに立設されている。すなわち、隔壁部37は、各弁体30が収容される円柱状の収容空間S1を形成している。本実施形態では、隔壁部37と側壁部36の一部とが弁体30の側面30cを包囲することによって、収容空間S1が形成されている。また、本実施形態では、一の弁体30を収容する隔壁部37と当該一の弁体30に隣接する位置に配置された他の弁体30を収容する隔壁部37とは、一体的に形成されている。このように、互いに異なる弁体30を収容する隔壁部37同士は、共有する部分を有していてもよい。
【0046】
本実施形態では、底壁部32の内面32bを基準として、側壁部36のカバー31側の端部36aは、隔壁部37のカバー31側の端部37aよりも高い位置にある。従って、ケース29にカバー31が取り付けられた状態において、カバー31が側壁部36の端部36aに接する一方で、カバー31と隔壁部37の端部37aとは互いに離間している。すなわち、カバー31と隔壁部37の端部37aとの間には空間S2が形成されている。当該空間S2は、内部空間Vから圧力調整弁23の内部に流入したガスの流路として機能する。
【0047】
弁体30は、連通孔33を塞ぐように、収容空間S1に収容されている。弁体30は、ゴム等の弾性部材で形成された円柱状部材である。弁体30は、連通孔33のモジュール本体M側とは反対側(内面32b側)の開口端を塞ぐ第1面30aと、第1面30aとは反対側に位置する第2面30bと、第1面30a及び第2面30bを接続する側面30cとを有している。第1面30aは、底壁部32の内面32bと対向している。第2面30bは、カバー31と対向し、カバー31によって押圧される被押圧面である。弁体30は、第1面30aが底壁部32の内面32bに対して押し付けられた状態で配置されることで、連通孔33を塞いでいる。弁体30は、内部空間Vの圧力に応じて、連通孔33を開閉させる。弁体30の側面30cと隔壁部37の内壁面又は側壁部36の内壁面との間には、隙間Gが設けられている。
【0048】
図6及び図7に示されるように、隔壁部37の内壁面には、弁体30を位置決めするための突出部38が形成されている。突出部38は、隔壁部37の内壁面から内周側へ突出している。突出部38は、弁体30の中心位置が連通孔33の中心軸線からずれて配置された場合に、弁体30の側面30cと接触するように形成されている。このような突出部38により、弁体30の位置ずれを一定の範囲内に抑えることができる。本実施形態では、複数(ここでは6つ)の突出部38が、連通孔33の中心軸線回りに等ピッチで形成されている。
【0049】
図7及び図8に示されるように、底壁部32は、内面32bに形成されたシール部39を含んでいる。シール部39は、内面32bからカバー31に向かって突出し、弁体30に押し付けられる。シール部39は、当該シール部39に対して押し付けられた弁体30の第1面30aと接触することで、連通孔33と隙間Gとの間を開閉可能に封止している。シール部39は、内面32b側の連通孔33の開口端を囲むように形成されている。シール部39は、当該開口端の縁部に沿って、連通孔33の中心軸線を中心とする円環状に形成されている。また、連通孔33の中心軸線を通るXZ平面に沿ったシール部39の断面形状は、内面32bからカバー31に向かって略半円状に盛り上がった形状を呈している。シール部39は、連通孔33の全周を隙間無く囲むように形成されている。これにより、シール部39は、弁体30の第1面30aと隙間無く接触しており、気密性が確保されている。
【0050】
カバー31は、ケース29の開口を塞ぐ板状部材である。カバー31は、例えばPP、PPSまたは変性PPE等の樹脂で形成されている。カバー31は、ケース29の開口端面(すなわち、側壁部36の端部36a)に溶着により接合されている。カバー31は、複数の弁体30をケース29の底壁部32に押し付ける押圧部材として機能する。
【0051】
カバー31は、底壁部32に対向する内面31aと、内面31aとは反対側の外面31bと、を有する。内面31aのうち、カバー31の厚み方向から見たカバー31の平面視において、側壁部36の端部36aと重なる部分(略矩形環状の縁部31a1)には、当該端部36aに溶着される接合用突起31c(被溶着部)が設けられている。内面31aのうち縁部31a1よりも内側の部分は、複数(ここでは6つ)の弁体30の第2面30bに当接すると共に当該複数の弁体30を底壁部32(本実施形態は、シール部39)に対して押圧する押圧面31a2を構成している。本実施形態では、押圧面31a2は、外面31bを基準として縁部31a1よりもケース29に向かって突出している。ただし、押圧面31a2は縁部31a1と面一であってもよいし、縁部31a1の方が押圧面31a2よりもケース29に向かって突出していてもよい。カバー31の接合用突起31cは、側壁部36の端部36aに対して、例えば超音波溶着によって接合されている。
【0052】
接合用突起31cは、内面31aの縁部31a1の全周にわたって略矩形環状に形成されている。接合用突起31cのXZ平面に沿った断面形状は、内面31a側からケース29側に向かって先細りとなるテーパ状に形成されている。カバー31をケース29に取り付ける際には、接合用突起31cが側壁部36の端部36aに押し付けられながら超音波溶着が実施される。これにより、接合用突起31cの先端側の一部が溶かされて、押圧面31a2がケース29側に押し込まれる。
【0053】
図6に示されるように、カバー31には、圧力調整弁23の内部のガスを圧力調整弁23の外部に排気するための排気口41が設けられている。本実施形態では一例として、矩形板状を有するカバー31の一対の対角部のそれぞれに、X軸方向に延びる断面円形状の排気口41が設けられている。排気口41は、対向方向から見て弁体30と重ならないように配置されている。なお、排気口41が設けられる位置及び形状、並びに排気口41の個数は、この例に限られない。
【0054】
図4及び図8に示されるように、圧力調整弁23において、ケース29の連通孔33は、第2封止部22の連通孔26及び第1封止部21の連通孔25を介してモジュール本体Mの内部空間Vと連通されている。内部空間Vの圧力が弁体30の開弁圧よりも低いときは、連通孔33が弁体30によって塞がれた閉弁状態に維持される。内部空間Vの圧力が上昇して上記開弁圧以上になると、弁体30が底壁部32から離間するように弾性変形し、連通孔33の閉塞が解除された開弁状態となる。その結果、内部空間Vからのガスは、弁体30の側面30cと隔壁部37の内壁面との隙間G(収容空間S1)を介して、隔壁部37とカバー31との間に形成された空間S2へと流通する。そして、当該ガスは、空間S2から排気口41を介して圧力調整弁23の外部へと排気される。
【0055】
図8に示される弁体収容高さd1は、弁体30の硬度と、弁体30の非圧縮状態における長さL(すなわち、第1面30aから第2面30bまでの距離。図10の(A)参照)と、予め設定された弁体30の開弁圧(設定圧)と、に基づいて調整されている。弁体収容高さd1は、ケース29とカバー31とを溶着した後における収容空間S1の高さであり、底壁部32において弁体30の第1面30aと接触する接触部分(本実施形態では、第1面30aと最初に接触するシール部39の先端部39a)から押圧面31a2までの距離である。なお、本実施形態では、一の圧力調整弁23には、複数(ここでは6つ)の弁体30が収容されるが、当該複数の弁体30として同一条件により製造された弁体30(例えば同一の材料から切り出された弁体30等)が使用されること等により、当該複数の弁体30間では、弁体30の硬度について顕著な差はないものとする。一方、一の圧力調整弁23に使用される弁体30と他の圧力調整弁23の弁体30との間では、弁体30の硬度について顕著な差(ばらつき)が生じ得るものとする。
【0056】
図9は、弁体30の一例(長さLが8.4mmである弁体)の硬度(本実施形態では一例として、ショアA硬度)、弁体収容高さd1、及び開弁圧の関係の一例を示す図である。弁体30の開弁圧は、弁体30の圧縮率(圧縮量/非圧縮状態における長さL)と、弁体30の硬度と、によって決定づけられる。従って、シミュレーション又は実験等により、図9に示されるようなテーブル情報が得られる。
【0057】
上述した弁体収容高さd1の調整は、例えば以下のようにして行われている。まず、ケース29にカバー31を溶着する前に、弁体30の長さL及び硬度が測定される。次に、弁体30の開弁圧が設定圧に近い値となるように、弁体30の圧縮率の狙い値が定められる。上述したように、圧縮率は「圧縮量/長さL」により求まる値であり、また、ここでは長さLは既知であるため、圧縮率の狙い値を定めることは、圧縮量の狙い値を定めることと同義である。従って、図9に示されるテーブル情報を参照することにより、弁体30の硬度及び圧縮量の組に対応する開弁圧がなるべく設定圧に近い値となるように、圧縮量の狙い値を定めることができる。例えば、設定圧が「0.43MPa」であり、弁体30の硬度が「47」であり、圧縮量を0.1mm単位で調整可能な場合には、当該設定圧「0.43MPa」に最も近い開弁圧「0.42MPa」に対応する「0.9mm」を圧縮量の狙い値として定めることができる。また、これにより、当該圧縮量の狙い値に対応する弁体収容高さd1(すなわち、「長さL-圧縮量の狙い値」)も「7.5mm」に定まる。
【0058】
本実施形態の蓄電モジュール4では、圧力調整弁23毎に、弁体収容高さd1が、上記のように調整されている。これにより、圧力調整弁23間で、開弁圧のばらつきが低減されている。仮に、上述したような弁体30の硬度に応じた弁体収容高さd1の調整を行わない場合、すなわち、弁体30の硬度に関わらずに弁体収容高さd1が常に一定となるように管理する場合、圧力調整弁23間で、弁体30の硬度のばらつきに起因して、開弁圧のばらつきが大きくなるおそれがある。
【0059】
例えば、弁体収容高さd1を常に「7.5mm」となるように管理する場合について考える。ここで、複数の圧力調整弁23の各々で用いられる弁体30の硬度について、45から49までのばらつきが生じ得るとする。また、圧縮量はケース29にカバー31を溶着する際の接合用突起31cの溶かし量に依存するが、当該溶かし量に関して、±0.1mm程度の誤差が生じ得るとする。すなわち、圧縮量に関して上記誤差が生じ得るとする。この場合、硬度が45の弁体30が使用される圧力調整弁23では、開弁圧の取り得る範囲は「0.33MPa~0.41MPa」となる。一方、硬度が49の弁体30が使用される圧力調整弁23では、開弁圧の取り得る範囲は「0.44MPa~0.53MPa」となる。このように、弁体30の硬度に応じて弁体収容高さd1を調整しない場合、各圧力調整弁23の開弁圧は、比較的広い範囲「0.33MPa~0.53MPa」でばらつくことになる。
【0060】
一方、本実施形態のように、弁体収容高さd1を弁体30の硬度に応じて調整する場合には、開弁圧のばらつきを低減できる。具体的には、図9の例では、硬度が45の弁体30が使用される圧力調整弁23では、弁体収容高さd1(狙い値)が7.3mmに調整されることにより、溶着の際に生じ得る圧縮量の誤差(±0.1mm)を考慮したとしても、開弁圧は「0.41MPa~0.48MPa」の範囲に収まる。また、硬度が46の弁体30が使用される圧力調整弁23では、弁体収容高さd1が7.4mmに調整されることにより、開弁圧は「0.39MPa~0.47MPa」の範囲に収まる。また、硬度が47の弁体30が使用される圧力調整弁23では、弁体収容高さd1が7.5mmに調整されることにより、開弁圧は「0.38MPa~0.46MPa」の範囲に収まる。また、硬度が48の弁体30が使用される圧力調整弁23では、弁体収容高さd1が7.6mmに調整されることにより、開弁圧は「0.38MPa~0.45MPa」の範囲に収まる。また、硬度が49の弁体30が使用される圧力調整弁23では、弁体収容高さd1が7.7mmに調整されることにより、開弁圧は「0.38MPa~0.44MPa」の範囲に収まる。
【0061】
このように、弁体収容高さd1を弁体30の硬度に応じて調整することにより、各圧力調整弁23に収容される弁体30の硬度に関わらずに弁体収容高さd1を一律に設定する場合と比較して、圧力調整弁23間での開弁圧のばらつきを効果的に低減することができる。特に、蓄電モジュール4は、圧力調整弁23の開弁圧の取り得る範囲の上限値(すなわち、内部空間Vで生じ得る内圧の上限値)に耐え得るだけの内圧強度を備える必要がある。弁体収容高さd1を弁体30の硬度に応じて調整することにより、上記上限値を抑えることができるため、蓄電モジュール4に要求される耐圧性要件を緩和することができる。これにより、蓄電モジュール4の部材及び構造について、設計自由度を向上させることができる。
【0062】
[圧力調整弁の製造方法]
次に、圧力調整弁23の製造方法について説明する。まず、圧力調整弁23の製造工程の概要を説明する。図10の(A)に示されるように、複数(ここでは6つ)の収容空間S1の各々に非圧縮状態の弁体30を配置した後、カバー31の押圧面31a2を各弁体30の第2面30bに当接させて、カバー31をケース29側に押し込む。これにより、図10の(B)に示されるように、接合用突起31cの先端が側壁部36の端部36aに当接した状態となる。この状態から、図示しない超音波溶着機をカバー31の外面31bに接触させ、超音波振動をカバー31に加えながら、カバー31をケース29側に押し込む。これにより、接合用突起31cの先端側の一部(及び端部36aの一部)が溶け出し、押圧面31a2がケース29側に押し込まれる。その結果、図8に示されるように、接合用突起31cの先端側の一部が溶けて潰された状態で、カバー31がケース29に接合されることになる。なお、実際には溶け出した接合用突起31cの一部がバリとなるが、図8においては当該バリの図示を省略している。ここで、溶着後の縁部31a1と端部36aとの距離d2は、接合用突起31cの先端側の一部が溶け出す分だけ、溶着前の接合用突起31cの高さd3よりも小さくなる。上記距離d2は、超音波溶着時の接合用突起31cの溶かし量によって変化する。
【0063】
上記の製造工程の概要を踏まえて、本実施形態に係る圧力調整弁23の製造方法の詳細について説明する。
【0064】
(弁体の硬度を測定する工程)
まず、カバー31の接合用突起31cを側壁部36の端部36aに溶着する前に、弁体30の硬度を測定する。弁体30の硬度の測定には、使用される硬度の規格に応じて定められた公知の測定手法が用いられる。本実施形態では、室温(20℃)でのショアA硬度が使用されるため、ショアA硬度について定められた公知の測定手法を用いればよい。
【0065】
(弁体収容高さの目標値を決定する工程)
続いて、上述の測定により取得された弁体30の硬度と、弁体30の非圧縮状態における長さL(ここでは、「8.4mm」)と、予め設定された弁体30の開弁圧(設定圧)と、に基づいて、弁体収容高さd1の目標値を決定する。図9の例において、設定圧が「0.43MPa」であり、弁体30の硬度が「47」であり、圧縮量を0.1mm単位で調整可能な場合には、当該設定圧「0.43MPa」に最も近い開弁圧「0.42MPa」に対応する「7.5mm」が、弁体収容高さの目標値として決定される。
【0066】
(接合する工程)
続いて、弁体収容高さd1が上述のように決定された目標値となるように、接合用突起31cと側壁部36の端部36aとを接合する。すなわち、上述のように決定された弁体収容高さの目標値に基づいて、接合用突起31cが側壁部36の端部36aに溶着された後の接触部分(本実施形態では、シール部39の先端部39a)から押圧面31a2までの距離(すなわち、図8に示される弁体収容高さd1)を調整する。具体的には、カバー31をケース29に溶着した後の弁体収容高さd1を、上記目標値(ここでは7.5mm)になるべく近い値となるように調整する。以下、このような調整方法の例について説明する。以下に説明する第1~第3の例は、単独で用いられてもよいし、複数組み合わせて用いられてもよい。
【0067】
(第1の例)
圧力調整弁23の製造方法は、上記接合する工程の前に、接合用突起31cに対する押圧面31a2の高さ位置を調整する工程を更に含み得る。具体的には、本実施形態では、弁体収容高さd1を調整するために、溶着前の接合用突起31cの先端から押圧面31a2までの対向方向(X軸方向)に沿った距離d4(図10の(A)参照)が調整されてもよい。距離d4を大きくすることにより(すなわち、カバー31における押圧面31a2を含む部分の厚みを大きくすることにより)、弁体収容高さd1を小さくすることができる。逆に、距離d4を小さくすることにより(すなわち、カバー31における押圧面31a2を含む部分の厚みを小さくすることにより)、弁体収容高さd1を大きくすることができる。従って、例えば、接合用突起31cに対する押圧面31a2の高さ位置(例えばカバー31における押圧面31a2を含む部分の厚み寸法)が互いに異なる複数種類のカバー31を予め用意しておき、その中から適切な寸法(適切な距離d4)を有するカバー31を選定することにより、弁体収容高さd1を適切且つ容易に調整することができる。
【0068】
(第2の例)
上記接合する工程は、接合用突起31cを側壁部36の端部36aに溶着する際の端部36aに対する接合用突起31cの溶かし量を調整することを含み得る。具体的には、弁体収容高さd1を調整するために、上述した超音波溶着時の溶かし量(高さd3-距離d2)が調整されてもよい。溶かし量を大きくすることにより(すなわち、距離d2を小さくすることにより)、弁体収容高さd1を小さくすることができる。逆に、溶かし量を小さくすることにより(すなわち、距離d2を大きくすることにより)、弁体収容高さd1を大きくすることができる。このように超音波溶着時の溶かし量を調整することにより、弁体収容高さd1の細かい調整を行うことができる。
【0069】
(第3の例)
圧力調整弁23の製造方法は、上記接合する工程の前に、接触部分(本実施形態ではシール部39の先端部39a)に対する側壁部36の端部36aの高さ位置を調整する工程を更に含み得る。具体的には、弁体収容高さd1を調整するために、接触部分(本実施形態ではシール部39の先端部)から端部36aまでの対向方向(X軸方向)に沿った距離d5(図10の(A)参照)が調整されてもよい。距離d5を大きくすることにより、弁体収容高さd1を大きくすることができる。逆に、距離d5を小さくすることにより、弁体収容高さd1を小さくすることができる。従って、例えば、シール部39の先端部39aに対する端部36aの高さ位置(すなわち、側壁部36の高さ寸法)が互いに異なる複数種類のケース29(側壁部36を有する部材)を予め用意しておき、その中から適切な寸法(適切な距離d5)を有するケース29を選定することにより、弁体収容高さd1を容易且つ適切に調整することができる。
【0070】
[作用効果]
以上述べた圧力調整弁23の製造方法では、カバー31が側壁部36に溶着される前に弁体30の硬度が測定される。そして、弁体30の硬度と、弁体30の非圧縮状態における長さL(第1面30aから第2面30bまでの距離)と、予め設定された弁体30の開弁圧(設定圧)と、に基づいて、接合用突起31cが側壁部36の端部36aに溶着された後の弁体収容高さd1が調整される。このように、上記製造方法によれば、弁体30の開弁圧が設定圧に近い値となるように、弁体30の圧縮率を決定づける弁体収容高さd1を、弁体30の硬度に応じて適切に調整することができる。その結果、弁体30の硬度のばらつきに起因する開弁圧のばらつきを低減することができる。これにより、製品(圧力調整弁23)間の開弁圧のばらつきを低減することができる。
【0071】
また、本実施形態の圧力調整弁23では、弁体収容高さd1が、弁体30の硬度と、弁体30の非圧縮状態における長さLと、予め設定された弁体30の開弁圧(設定圧)と、に基づいて調整されている。すなわち、圧力調整弁23では、弁体30の開弁圧が設定圧に近い値となるように、弁体30の圧縮率を決定づける弁体収容高さd1が弁体30の硬度に応じて適切に調整されている。その結果、弁体30の硬度のばらつきに起因する開弁圧のばらつきが低減されている。これにより、製品(圧力調整弁23)間の開弁圧のばらつきが低減されている。
【0072】
[変形例]
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば、各部の形状及び材料等は、適宜に変更されてもよい。例えば、圧力調整弁23に収容される弁体30の個数及び弁体30の形状は、上記実施形態に限定されない。例えば、弁体30は、多角形柱状部材であってもよい。この場合、隔壁部37は、弁体30の形状に応じた形状の収容空間S1を形成するように形成されればよい。また、排気口41,141は、カバー31以外の部材(例えばケースの側壁部等)に設けられてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、特定の長さL(8.4mm)を有する弁体30を用いる場合について説明したが、圧力調整弁23間で、異なる長さLを有する弁体30が用いられてもよい。この場合、用いられる可能性がある弁体30の長さL毎に、図9に示したようなテーブル情報が予め用意されてもよい。また、弁体30の硬度を測定した後に、弁体収容高さd1を調整することに代えて(又は加えて)、弁体30の長さLが調整されてもよい。例えば、弁体30の第1面30a側又は第2面30b側に対して削り加工等を行うことにより、弁体30の長さLを短くする処理等が行われてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、同一の圧力調整弁23に収容される複数の弁体30間で、弁体30の硬度に顕著なばらつきがない場合を想定したが、当該複数の弁体30間で、弁体30の硬度に顕著なばらつきが生じる可能性がある場合も考えられる。このような場合には、例えば、上述した弁体30の硬度を測定する工程において、当該複数の弁体30の各々の硬度を測定し、各弁体30の硬度から代表値(例えば、平均値等)を取得してもよい。そして、弁体収容高さd1の目標値を決定する工程においては、上記代表値に基づいて弁体収容高さd1の目標値が決定されてもよい。或いは、上述したように、開弁圧が取り得る範囲の上限値が大きくなると、蓄電モジュール4に課される耐圧性要件が厳しくなることから、これを防ぐために、例えば以下のような処理が実行されてもよい。すなわち、弁体30の硬度を測定する工程において、当該複数の弁体30の各々の硬度を測定し、各弁体30の硬度の最大値を取得してもよい。そして、弁体収容高さd1の目標値を決定する工程においては、上記最大値に基づいて弁体収容高さd1の目標値が決定されてもよい。これにより、開弁圧が取り得る範囲の上限値を抑えることができ、蓄電モジュール4に課される耐圧性要件を緩和することができる。
【符号の説明】
【0075】
4…蓄電モジュール、23…圧力調整弁、30…弁体、30a…第1面、30b…第2面、31…カバー(押圧部材)、31a2…押圧面、31c…接合用突起(被溶着部)、32…底壁部、33…連通孔(貫通孔)、36…側壁部、36a…端部、39a…先端部(接触部分)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10