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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/115 20060101AFI20230322BHJP
   B22D 11/04 20060101ALI20230322BHJP
   B22D 11/11 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
B22D11/115 A
B22D11/04 311J
B22D11/115 B
B22D11/115 C
B22D11/115 K
B22D11/11 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019113811
(22)【出願日】2019-06-19
(65)【公開番号】P2020001092
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2018118607
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】望月 翔平
(72)【発明者】
【氏名】七辺 寛幸
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第5023989(JP,B2)
【文献】特許第5023990(JP,B2)
【文献】特許第4967856(JP,B2)
【文献】特開2009-131856(JP,A)
【文献】特開2014-024072(JP,A)
【文献】特開2009-131855(JP,A)
【文献】特開2009-285677(JP,A)
【文献】特開2008-087046(JP,A)
【文献】特開平11-077267(JP,A)
【文献】特開2015-080792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個の磁極鉄芯と、この磁極鉄芯のそれぞれの外周部に巻き回した2個のコイルと、2個の磁極鉄芯を合わせた外周部に巻き回した1個のコイルを有する電磁コイルを、鋳型長辺の外周に、各長辺で同じ個数で、鋳型長辺の外周合計で(2n+2)個(nは自然数)配置し、
鋳型内溶鋼を電磁攪拌する際には、全ての前記電磁コイルにおける各コイルに、電流位相差が90度から120度の3相以上の多相交流電流を通電し、
鋳型内溶鋼に電磁ブレーキを作用させる際には、前記各電磁コイル当たり、前記2個の磁極鉄芯を合わせた外周部に巻き回された1個の前記コイルに直流電流を通電するか、またはこれら3個のコイルに直流電流を通電する、電磁攪拌・電磁ブレーキ兼用電磁コイル装置を用いた鋼の連続鋳造方法であって、
鋳型に供給する前記溶鋼の成分炭素濃度、0.07質量%以上、0.18質量%以下とし、
タンディッシュ内溶鋼の過熱度をΔT(℃、ΔT≧0)、鋳造速度をVc(m/min、Vc>0)として、
浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm未満では、下記(1)式が成立する領域には電磁攪拌を適用し、下記(1)式が成立しない領域には電磁ブレーキを適用する一方、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm以上では、下記(2)式が成立する領域には電磁攪拌を適用し、下記(2)式が成立しない領域には電磁ブレーキを適用することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
「ΔT-8≦-1.14Vc」∩「Vc≦1.74」…(1)
「ΔT-8≦-1.14Vc」∩「Vc≦1.74」もしくは「ΔT≦40」∩「Vc≦1.14」もしくは「ΔT≦33」∩「Vc≦1.24」…(2)
【請求項2】
2個の磁極鉄芯と、この磁極鉄芯のそれぞれの外周部に巻き回した2個のコイルと、2個の磁極鉄芯を合わせた外周部に巻き回した1個のコイルを有する電磁コイルを、鋳型長辺の外周に、各長辺で同じ個数で、鋳型長辺の外周合計で(2n+2)個(nは自然数)配置し、
鋳型内溶鋼を電磁攪拌する際には、全ての前記電磁コイルにおける各コイルに、電流位相差が90度から120度の3相以上の多相交流電流を通電し、
鋳型内溶鋼に電磁ブレーキを作用させる際には、前記各電磁コイル当たり、前記2個の磁極鉄芯を合わせた外周部に巻き回された1個の前記コイルに直流電流を通電するか、またはこれら3個のコイルに直流電流を通電する、電磁攪拌・電磁ブレーキ兼用電磁コイル装置を用いた鋼の連続鋳造方法であって、
鋳型に供給する前記溶鋼の成分炭素濃度、0.0050質量%を超え、0.07質量%未満とし、
タンディッシュ内溶鋼の過熱度をΔT(℃、ΔT≧0)、鋳造速度をVc(m/min、Vc>0)として、
浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm未満では、下記(3)式が成立する領域には電磁攪拌を適用し、下記(3)式が成立しない領域には電磁ブレーキを適用する一方、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm以上では、下記(4)式が成立する領域には電磁攪拌を適用し、下記(4)式が成立しない領域には電磁ブレーキを適用することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
「ΔT-12≦-1.46Vc」∩「Vc≦2.04」…(3)
「ΔT-12≦-1.46Vc」∩「Vc≦2.04」もしくは「ΔT≦40」∩「Vc≦1.24」もしくは「ΔT≦35」∩「Vc≦1.44」…(4)
【請求項3】
2個の磁極鉄芯と、この磁極鉄芯のそれぞれの外周部に巻き回した2個のコイルと、2個の磁極鉄芯を合わせた外周部に巻き回した1個のコイルを有する電磁コイルを、鋳型長辺の外周に、各長辺で同じ個数で、鋳型長辺の外周合計で(2n+2)個(nは自然数)配置し、
鋳型内溶鋼を電磁攪拌する際には、全ての前記電磁コイルにおける各コイルに、電流位相差が90度から120度の3相以上の多相交流電流を通電し、
鋳型内溶鋼に電磁ブレーキを作用させる際には、前記各電磁コイル当たり、前記2個の磁極鉄芯を合わせた外周部に巻き回された1個の前記コイルに直流電流を通電するか、またはこれら3個のコイルに直流電流を通電する、電磁攪拌・電磁ブレーキ兼用電磁コイル装置を用いた鋼の連続鋳造方法であって、
鋳型に供給する前記溶鋼の成分炭素濃度、0.0050質量%以下とし、
タンディッシュ内溶鋼の過熱度をΔT(℃、ΔT≧0)、鋳造速度をVc(m/min、Vc>0)として、
浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm未満では、下記(5)式が成立する領域には電磁攪拌を適用し、下記(5)式が成立しない領域には電磁ブレーキを適用する一方、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm以上では、下記(6)式が成立する領域には電磁攪拌を適用し、下記(6)式が成立しない領域には電磁ブレーキを適用することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
「ΔT-40≦-3.42Vc」∩「Vc≦1.74」…(5)
「ΔT-40≦-3.42Vc」∩「Vc≦1.74」もしくは「ΔT≦40」∩「Vc≦1.34」…(6)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁攪拌と電磁ブレーキを兼用可能な電磁コイル装置を使用して、鋳型内に供給された溶鋼の流動制御を行いつつ鋼を連続鋳造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造は、2つの吐出口を有する浸漬ノズルを用いて鋳型内に溶鋼を供給するのが一般的である。この一般的な連続鋳造法における鋳型内溶鋼の流動状態を、図4に模式的に示す。浸漬ノズル1の吐出口1aから鋳型3内に供給された溶鋼2は、図4に示すように、鋳型3の短辺3aに衝突した後、上昇流2aと下降流2bに分岐する。このうち、上昇流2aは、メニスカス位置(鋳型内の溶鋼湯面位置)4において浸漬ノズル1へ向かう水平流となる。なお、図4中の5はパウダー、6は凝固シェルを示す。
【0003】
鋳型内における前記溶鋼流動の制御は、操業上ならびに鋳片の品質管理上、極めて重要であり、前記溶鋼流動の制御方法として、浸漬ノズルの形状を工夫する方法、鋳型内の溶鋼に電磁力を作用させる方法などがある。
【0004】
このうち、溶鋼に電磁力を作用させる方法が広く採用されており、浸漬ノズルから鋳型内に吐出された溶鋼に制動力を作用させる電磁ブレーキと、鋳型内に供給された溶鋼を攪拌する電磁攪拌に大別される。
【0005】
電磁ブレーキは、図5に示したように、鋳型3の長辺3bの外周側に設けた電磁コイル7に直流電流を印加して鋳型3を貫通する静磁場を発生させ、浸漬ノズル1から鋳型3内に吐出された溶鋼2の流動に対して反対向きのローレンツ力Fを働かせる手法である。なお、図5中の矢印は、溶鋼2の流れ方向を示す。
【0006】
そして、前記静磁場によって浸漬ノズル1から鋳型3内に吐出された溶鋼2の流動を制動し、凝固シェル6の不均一凝固を抑制すると共に、凝固シェル6の再溶解を防止する。凝固シェルの不均一凝固抑制は、鋳片表面の割れ抑制に効果的であり、凝固シェルの再溶解抑制は、凝固シェルの厚さ不足によるブレークアウト防止に効果的である。なお、ブレークアウトとは、凝固シェルが破断して溶鋼が漏れ出し、連続鋳造の継続が不能となるトラブルをいう。
【0007】
一方、電磁攪拌は、図6に示したように、電磁コイル7に交流電流を印加して鋳型3の長辺3bに沿って一方向に移動する磁場を発生させ、メニスカス位置4の近傍の溶鋼2に鋳型3の長辺3bに沿って一方向のローレンツ力Fを働かせる手法である。
【0008】
このとき、鋳型の固定側と自由側とで、形成させる移動磁場の方向を反対向きとすることで、メニスカス位置近傍の溶鋼に対して、横断面で見た場合に鋳型内を旋回する流れを形成する。ここで、鋳型の固定側とは垂直曲げ型或いは曲げ型の連続鋳造機において円弧の外側を、また、自由側とは円弧の内側を指し、鋳型の厚み方向を特定する。
【0009】
鋳型内のメニスカス位置近傍を旋回する溶鋼流れにより、凝固シェル界面に捕捉される気泡やパウダー等の介在物に対してウォッシング効果が働き、気泡や介在物の溶鋼湯面への浮上促進に効果を奏する。なお、ウォッシング効果とは、凝固シェル-溶鋼界面に流動がある場合に気泡や介在物が付着しにくくなる効果をいう。
【0010】
電磁ブレーキと電磁攪拌は、それぞれに長所と短所を有するが、一般的には、単位時間当たりの溶鋼供給量が多い高スループット鋳造(高速鋳造)時は電磁ブレーキが、また、単位時間当たりの溶鋼供給量が少ない低スループット鋳造(低速鋳造)時は電磁攪拌が用いられている。
【0011】
これらの電磁ブレーキ、電磁攪拌に使用する電磁コイル装置は、通常、何れか一つの機能しか有していない。
【0012】
そこで、例えば特許文献1,2に開示された装置に代表されるような、電磁ブレーキと電磁攪拌の両機能を兼用することが可能な電磁コイル装置(以後、兼用コイル装置と言う。)が開発された。
【0013】
この兼用コイル装置は、電流印加条件を切り替えることにより、同一のコイルを用いて、連続鋳造中、メニスカス位置で電磁攪拌を、また、浸漬ノズルの吐出口部で電磁ブレーキを作用させることが可能である。
【0014】
この兼用コイル装置により、連続鋳造中の電磁攪拌と電磁ブレーキの切り替えによる品質や操業性の改善、設備のコンパクト化などのメリットを享受できるようになった。
【0015】
また、兼用コイル装置を用いた連続鋳造において、電磁ブレーキと電磁攪拌の前記長所や短所を考慮し、特許文献3のように、溶鋼の成分組成と、単位時間当たりの溶鋼供給量によって、電磁攪拌と電磁ブレーキを切り替える手法があるが、この手法で切り替える場合、以下の課題が存在する。
【0016】
電磁攪拌は、浸漬ノズルから吐出された溶鋼の上昇流からの浸漬ノズルへと向かう流れを加速または打ち消して反対向きの流れとすることで、鋳型断面を旋回する流れを形成している。そして、この旋回流によって、メニスカス位置における溶鋼流速を上昇させ、気泡や介在物の凝固シェルへの捕捉を防止するのと共に、溶鋼温度が低い際に生じるメニスカス位置での皮張りを抑制するので、表面疵の防止に効果がある。
【0017】
しかしながら、鋳型に供給される溶鋼量が多い場合の電磁攪拌適用において、連々鋳直後などの溶鋼温度が高い場合、攪拌流動によって凝固シェルの再溶解が促進される。凝固シェルの再溶解が促進されると、凝固シェルの厚みが不足し、ブレークアウトのリスクが高くなる。なお、連々鋳とは、連続鋳造を中断せず、多数のヒートを連続的に鋳込むことをいい、連々鋳直後は鋳造中の溶鋼温度の低下代を補うために溶鋼温度が高くなっている。
【0018】
一方、電磁ブレーキは、浸漬ノズルから吐出される溶鋼の流速を低下させることで、凝固シェルに衝突する溶鋼の流速を低下させ、不均一凝固に起因する割れの緩和や、凝固シェルの再溶解抑制によるブレークアウト防止に効果がある。特に、溶鋼温度が高い場合には、不均一凝固や凝固シェルの再溶解が顕著になるため、電磁ブレーキは更に重要となる。
【0019】
しかしながら、鋳型に供給される溶鋼量が少ない場合の電磁ブレーキ適用において、溶鋼の温度が低い場合、メニスカス位置における熱流束不足により、メニスカス位置で皮張りが発生し、介在物や気泡性欠陥の増加につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】特許第5023989号公報
【文献】特許第5023990号公報
【文献】特許第4967856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明が解決しようとする課題は、兼用コイル装置を用いて鋼を連続鋳造する際に、供給する溶鋼量だけで電磁攪拌と電磁ブレーキの切り替えを行う場合、操業条件によっては必ずしも十分な効果を得ることができないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の鋼の連続鋳造方法は、
兼用コイル装置の切り替えを最適に行うことを目的としたもので、
例えば、図1に示すような、
2個の磁極鉄芯8aと、この磁極鉄芯8aのそれぞれの外周部に巻き回した2個のコイル8bと、2個の磁極鉄芯8aを合わせた外周部に巻き回した1個のコイル8cを有する電磁コイルを、鋳型長辺3bの外周に、各長辺3bで同じ個数で、鋳型長辺3bの外周合計で(2n+2)個(nは自然数)配置し、
鋳型内溶鋼2を電磁攪拌する際には、全ての前記電磁コイルにおける各コイル8b,8cに、電流位相差が90度から120度の3相以上の多相交流電流を通電し、
鋳型内溶鋼2に電磁ブレーキを作用させる際には、前記各電磁コイル当たり、前記2個の磁極鉄芯8aを合わせた外周部に巻き回された1個の前記コイル8cに直流電流を通電するか、またはこれら3個のコイル8b,8cに直流電流を通電する、兼用コイル装置8を用いた鋼の連続鋳造方法である。
【0023】
そして、本発明では、
鋳型に供給する溶鋼の成分組成と、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔT(℃、ΔT≧0)と、鋳造速度Vc(m/min、Vc>0)及び浸漬ノズルの浸漬深さX(mm、X>0)に応じて、電磁攪拌または電磁ブレーキを選択的に切り替えることを最も主要な特徴としている。なお、本発明において、浸漬ノズルの浸漬深さとは、メニスカス位置から浸漬ノズルの吐出口における鋳造方向中心位置までの距離をいう。
【0024】
ここで、タンディッシュ内溶鋼の過熱度とは、タンディッシュ内の溶鋼温度から液相線温度を引いた差であり、溶鋼の過熱度は、溶鋼の流動性、鋳片の健全性に大きな影響を及ぼす重要な制御因子である。
【0025】
より具体的には、鋳型に供給する溶鋼の成分組成、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔT(℃)、鋳造速度Vc(m/min)及び浸漬ノズルの浸漬深さX(mm)に応じて、以下のように決定する。
【0026】
(鋳型に供給する溶鋼の成分炭素濃度が、0.07質量%以上、0.18質量%以下の場合)
浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm未満の場合は、下記(1)式が成立する領域には電磁攪拌を適用し、下記(1)式が成立しない領域には電磁ブレーキを適用する(図2(a)参照)。
「ΔT-8≦-1.14Vc」∩「Vc≦1.74」…(1)
【0027】
また、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm以上の場合は、下記(2)式が成立する領域には電磁攪拌を適用し、下記(2)式が成立しない領域には電磁ブレーキを適用する(図3(a)参照)。
「ΔT-8≦-1.14Vc」∩「Vc≦1.74」もしくは「ΔT≦40」∩「Vc≦1.14」もしくは「ΔT≦33」∩「Vc≦1.24」…(2)
【0028】
(鋳型に供給する溶鋼の成分炭素濃度が、0.0050質量%を超え、0.07質量%未満の場合)
浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm未満の場合は、下記(3)式が成立する領域には電磁攪拌を適用し、下記(3)式が成立しない領域には電磁ブレーキを適用する(図2(b)参照)。
「ΔT-12≦-1.46Vc」∩「Vc≦2.04」…(3)
【0029】
また、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm以上の場合は、下記(4)式が成立する領域には電磁攪拌を適用し、下記(4)式が成立しない領域には電磁ブレーキを適用する(図3(b)参照)。
「ΔT-12≦-1.46Vc」∩「Vc≦2.04」もしくは「ΔT≦40」∩「Vc≦1.24」もしくは「ΔT≦35」∩「Vc≦1.44」…(4)
【0030】
(鋳型に供給する溶鋼の成分炭素濃度が、0.0050質量%以下の場合)
浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm未満の場合は、下記(5)式が成立する領域には電磁攪拌を適用し、下記(5)式が成立しない領域には電磁ブレーキを適用する(図2(c)参照)。
「ΔT-40≦-3.42Vc」∩「Vc≦1.74」…(5)
【0031】
また、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm以上の場合は、下記(6)式が成立する領域には電磁攪拌を適用し、下記(6)式が成立しない領域には電磁ブレーキを適用する(図3(c)参照)。
「ΔT-40≦-3.42Vc」∩「Vc≦1.74」もしくは「ΔT≦40」∩「Vc≦1.34」…(6)
【発明の効果】
【0032】
本発明の鋼の連続鋳造方法によれば、連続鋳造における操業が安定するのと共に、品質の良好な鋳片を安定的に得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の鋼の連続鋳造方法に使用する兼用コイル装置の一例を説明する図で、(a)は水平断面図、(b)は垂直断面図である。
図2】浸漬ノズルの浸漬深さが230mm未満の場合における本発明による電磁攪拌と電磁ブレーキの適用領域を示した図で、鋳型に供給する溶鋼の成分炭素濃度が、(a)は0.07質量%以上、0.18質量%以下の場合、(b)は0.0050質量%を超え、0.07質量%未満の場合、(c)は0.0050質量%以下の場合である。
図3】浸漬ノズルの浸漬深さが230mm以上の場合における本発明による電磁攪拌と電磁ブレーキの適用領域を示した図2と同様の図である。
図4】連続鋳造法における鋳型内溶鋼の一般的な流動状態を模式的に示す縦断面図である。
図5】浸漬ノズルから鋳型内に吐出された溶鋼に制動力を作用させる電磁ブレーキを適用した場合の鋳型内溶鋼の流動状態を模式的に示した図で、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
図6】浸漬ノズルから鋳型内に吐出された溶鋼を攪拌する電磁攪拌を適用した場合の鋳型内溶鋼の流動状態を模式的に示した図で、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の課題を解決するために発明者らが行った試験の結果について説明し、併せて本発明を実施した場合の効果について説明する。
【0035】
(炭素濃度が0.09質量%の中炭素鋼の連続鋳造)
A.浸漬ノズルの浸漬深さが220mmの場合
鋳造速度Vcが0.80m/min、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが15℃の条件で電磁攪拌を適用した場合、凝固シェル短辺のホワイトライン観察により、凝固不均一度の悪化を確認した。なお、ホワイトラインとは、鋳型内の溶鋼流動により、凝固シェル前面のデンドライト樹枝間における偏析成分の濃化溶鋼が洗い流されて負偏析を形成することにより観察される偏析線であり、鋳型内での凝固シェルの厚みを推測する指標となる。
【0036】
また、鋳造速度Vcが1.17m/min、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが5℃の条件で電磁ブレーキを適用した場合、鋳片表層の高周波超音波探傷(超音波を用いて試験片中の気泡や介在物の分布や径を三次元的にマッピングする手法)により、パウダー等の介在物増加を確認した。
【0037】
B.浸漬ノズルの浸漬深さが230mmの場合
鋳造速度Vcが1.23m/min、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが33℃の条件で電磁攪拌を適用した場合、鋳片表層に異常が発生しないことを確認した。
【0038】
タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが33℃で、鋳造速度Vcを1.23m/minとした場合において、電磁攪拌を適用したスラブは、電磁ブレーキを適用したスラブより、表面の介在物個数が大幅に低減することが確認された。
【0039】
(炭素濃度が0.04質量%の低炭素鋼の連続鋳造)
A.浸漬ノズルの浸漬深さが220mmの場合
鋳造速度Vcが1.46m/min、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが27℃の条件で電磁攪拌を適用した場合、凝固シェル短辺のホワイトライン観察により、凝固不均一度の悪化を確認した。特に、鋳片コーナ部の凝固遅れが顕著であり、鋳片コーナ部に長手方向の割れが生じた。
【0040】
また、鋳造速度Vcが1.12m/min、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが8℃の条件で電磁ブレーキを適用した場合、鋳片表層の高周波超音波探傷により、電磁攪拌を適用した場合よりパウダー等の介在物増加を確認した。
【0041】
B.浸漬ノズルの浸漬深さが230mmの場合
鋳造速度Vcが1.27m/min、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが34℃の条件で電磁攪拌を適用した場合、鋳片表層に異常が発生しないことを確認した。
【0042】
一方、同じ溶鋼過熱度で、鋳造速度Vcを1.33m/minとした場合において、電磁攪拌を適用したスラブは、電磁ブレーキを適用したスラブより、表面の介在物個数が大幅に低減することが確認された。それに加え、電磁ブレーキを適用したスラブと電磁攪拌を適用したスラブを圧延し、圧延後の表面の気泡や介在物起因の欠陥個数を比較した結果、電磁攪拌を適用したスラブの方が気泡や介在物起因の欠陥が少ないことを確認した。
【0043】
(炭素濃度が0.002質量%の極低炭素鋼の連続鋳造)
A.浸漬ノズルの浸漬深さが220mmの場合
鋳造速度Vcが1.25m/min、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが42℃の条件で電磁攪拌を適用した場合、凝固シェル短辺のホワイトライン観察により、凝固不均一度の悪化を確認した。
【0044】
また、鋳造速度Vcが1.65m/min、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが34℃の条件で電磁ブレーキを適用した場合、鋳片表層の高周波超音波探傷により、パウダー等の介在物増加を確認した。
【0045】
B.浸漬ノズルの浸漬深さが230mmの場合
鋳造速度Vcが1.33m/min、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが40℃の条件で電磁攪拌を適用した場合、鋳片表層に異常が発生しないことを確認した。
【0046】
また、同じ溶鋼過熱度で、鋳造速度Vcを1.30m/minとした場合において、電磁ブレーキを適用したスラブと電磁攪拌を適用したスラブを圧延し、圧延後の表面の気泡や介在物起因の欠陥個数を比較した。その結果、電磁攪拌を適用したスラブの方が気泡や介在物起因の欠陥が少ないことを確認した。
【0047】
上記結果より、兼用コイル装置を用いて鋼を連続鋳造する際に、鋳造速度Vc、溶鋼の過熱度ΔT、及び浸漬ノズルの浸漬深さXを考慮して電磁攪拌と電磁ブレーキの切り替えを行うことが、生産効率の向上と品質改善に寄与することが判明した。
【0048】
そこで、発明者らは、鋳型の各長辺に、以下に示す仕様の兼用コイル装置を2つずつ、計4つ配置した連続鋳造機を使用した連続鋳造において、電磁攪拌、電磁ブレーキを選択するに際し、鋼の基礎成分である炭素濃度と、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔT、鋳造速度Vc、及び浸漬ノズルの浸漬深さXを変化させて試験を行った。
【0049】
(兼用コイル装置の仕様)
鋳型中心部の電磁力:3000Gauss
周波数:4.0Hz
コイルへの印加電流(起磁力):45000A
交流電流の位相:120°位相の3相交流
【0050】
使用した連続鋳造機は、幅が700~1625mm、厚さが250,270mmの鋳片を製造可能な垂直曲げ型連続鋳造機で、下記表1に示す化学組成の溶鋼を鋳造した。なお、鋼の酸素精錬-真空脱ガス・脱炭プロセスにおいては、炭素濃度の技術的な限界値は0.0005質量%である。
【0051】
【表1】
【0052】
(鋼種A)
鋼種Aは、炭素濃度が、0.07質量%以上、0.18質量%以下の亜包晶鋼であって、不均一凝固が発生しやすい特性があり、ブレークアウトに代表されるトラブルを引き起こす懸念が大きい。一方、建材や自動車の足回り品などで多く用いられるため、後述の極低炭素鋼に比べて表面検査の基準は厳しくない。
【0053】
そこで、鋼種Aでは、発明の効果の指標を、ブレークアウトの発生率は0.5回/年以下、表面格落率は0.4%以下とした。なお、表面格落率とは、コイルの表面検査において要求される表面品位を満たさなかった重量の割合をいい、要求される表面品位は鋼種によって相違する。
【0054】
鋼種Aについて、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔT、鋳造速度Vc、及び浸漬ノズルの浸漬深さXを変化させて鋳造した結果を下記表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
鋼種Aは、特許文献3で開示された手法では、溶鋼の供給量Qが3t/min(鋳造速度Vcに換算すると1.03m/min)未満の場合は電磁攪拌を適用するものである。浸漬ノズルの浸漬深さXが195mm、鋳造速度Vcが0.80m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが5℃、7℃の場合、電磁攪拌を適用すると、表面格落率は0.3%、0.2%で製品歩留まりの改善に効果があった(表2のNo.1,No.2)。一方、電磁ブレーキを適用すると、表面格落率は0.9%、0.6%に悪化した(表2のNo.9,No.10)。
【0057】
また、鋼種Aは、特許文献3で開示された手法では、溶鋼の供給量Qが3t/min(鋳造速度Vcに換算すると1.03m/min)以上の場合は電磁ブレーキを適用するものである。浸漬ノズルの浸漬深さXが200mm、鋳造速度Vcが1.17m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが7℃、15℃の場合、電磁ブレーキを適用すると、ブレークアウトの発生率が0.4回/年、0.5回/年と抑制できた(表2のNo.13,No.14)。一方、電磁攪拌を適用すると、ブレークアウトの発生率が0.9回/年、1.4回/年に増加した(表2のNo.6,No.7)。この場合、表面格落率も0.6%、0.5%に悪化した。
【0058】
しかしながら、鋼種Aにおいて、浸漬ノズルの浸漬深さXが195mm、鋳造速度Vcが0.80m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが15℃の表2のNo.3の場合、ブレークアウトの発生率が1.1回/年と増加した。また、浸漬ノズルの浸漬深さXが200mm、鋳造速度Vcが1.17m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが5℃の表2のNo.12の場合、表面格落率が0.8%と悪化した。
【0059】
一方、浸漬ノズルの浸漬深さXを230mmとした場合、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが33℃では鋳造速度Vcが1.23m/minで電磁攪拌を適用しても(表2のNo.8)、また、浸漬ノズルの浸漬深さXを255mmとした場合、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが40℃では鋳造速度Vcが1.10m/minで電磁攪拌を適用しても(表2のNo.4)、表面格落率はどちらも0.2%で製品歩留まりの改善に効果があった。
【0060】
つまり、鋼種Aの連続鋳造において、特許文献3で開示された手法のように、溶鋼の供給量Qだけで電磁攪拌と電磁ブレーキの切り替えを行う場合、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTによっては、表面格落率が悪化したり、ブレークアウトの発生率が増加する場合があった。
【0061】
これに対して、浸漬ノズルの浸漬深さXが195mm、200mm、205mmの場合、鋼種Aの連続鋳造において、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTと、鋳造速度Vcを用い、「ΔT-8≦-1.14Vc」∩「Vc≦1.74」が成立するか否かで電磁攪拌と電磁ブレーキの切り替えを行う場合、表2に示すように、表面格落率が悪化したり、ブレークアウトの発生率が増加することはなかった。
【0062】
すなわち、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm未満の、表2のNo.1,No.2は「ΔT-8≦-1.14Vc」∩「Vc≦1.74」が成立するので、特許文献3で開示された手法と同様、電磁攪拌を適用する。しかしながら、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが15(℃)の場合は「ΔT-8≦-1.14Vc」∩「Vc≦1.74」が成立しないので、本発明では、電磁ブレーキを適用する(表2のNo.11)。この表2のNo.11の場合、ブレークアウトの発生率が0.4(回/年)に抑制でき、安定鋳造に効果があった。
【0063】
また、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm未満の、表2のNo.13,No.14は「ΔT-8≦-1.14Vc」∩「Vc≦1.74」が成立しないので、特許文献3で開示された手法と同様、電磁ブレーキを適用する。しかしながら、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが5℃の場合は「ΔT-8≦-1.14Vc」∩「Vc≦1.74」が成立するので、本発明では、電磁攪拌を適用する(表2のNo.5)。この表2のNo.5の場合、表面格落率が0.2%に抑制でき、製品歩留まり改善に効果があった。
【0064】
一方、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm以上の場合の表2のNo.4は、「ΔT-8≦-1.14Vc」∩「Vc≦1.74」が成立しないが「ΔT≦40」∩「Vc≦1.14」が成立するので電磁攪拌を適用する。同様に、表2のNo.8も、「ΔT-8≦-1.14Vc」∩「Vc≦1.74」が成立しないが「ΔT≦33」∩「Vc≦1.24」が成立するので、No.15のように電磁ブレーキを適用するのではなく、電磁攪拌を適用する。
【0065】
(鋼種B)
鋼種Bは、炭素濃度が、0.01質量%以上、0.065質量%以下の低炭素鋼である。亜包晶鋼に比べて不均一凝固は発生しにくく、操業上の懸念は小さい。また、建材や自動車の足回り品などで多く用いられるため、後述の極低炭素鋼に比べて表面検査の基準は厳しくない。
【0066】
そこで、鋼種Bでは、発明の効果の指標を、ブレークアウトの発生率は0.4回/年以下、表面格落率は0.4%以下とした。
【0067】
鋼種Bについて、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔT、鋳造速度Vc、及び浸漬ノズルの浸漬深さXを変化させて鋳造した結果を下記表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
鋼種Bは、特許文献3で開示された手法では、溶鋼の供給量Qが4t/min(鋳造速度Vcに換算すると1.40m/min)未満の場合は電磁攪拌を適用するものである。浸漬ノズルの浸漬深さXが195mm、鋳造速度Vcが1.12m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが8℃、10℃の場合、電磁攪拌を適用すると、表面格落率は共に0.4%で製品歩留まりの改善に効果があった(表3のNo.1,No.2)。一方、電磁ブレーキを適用すると、表面格落率は1.2%、0.9%と悪化した(表3のNo.11,No.12)。
【0070】
また、鋼種Bは、特許文献3で開示された手法では、溶鋼の供給量Qが4t/min(鋳造速度Vcに換算すると1.40m/min)以上の場合は電磁ブレーキを適用するものである。浸漬ノズルの浸漬深さXが195mm、鋳造速度Vcが1.65m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが10℃、13℃の場合、電磁ブレーキを適用すると、ブレークアウトの発生率が0.2回/年、0.4回/年と抑制できた(表3のNo.16,No.17)。一方、電磁攪拌を適用すると、前記溶鋼の過熱度ΔTが13℃の場合は、ブレークアウトの発生率は0.5回/年と増加し、表面格落率も0.5%と悪化した(表3のNo.10)。また、前記溶鋼の過熱度ΔTが10℃の場合は、ブレークアウトの発生率が0.2回/年と変化はないものの、表面格落率が0.5%と悪化した(表3のNo.9)。また、浸漬ノズルの浸漬深さXが220mm、鋳造速度Vcが1.46m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが27℃の場合も、電磁攪拌を適用すると、ブレークアウトの発生率は0.5回/年と増加した(表3のNo.7)。
【0071】
しかしながら、鋼種Bにおいて、浸漬ノズルの浸漬深さXが195mm、鋳造速度Vcが1.12m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが13℃の表3のNo.3の場合、表面格落率が0.5%と悪化した。また、浸漬ノズルの浸漬深さXが195mm、鋳造速度Vcが1.65m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが8℃の表3のNo.15の場合、表面格落率が0.6%と悪化した。
【0072】
一方、浸漬ノズルの浸漬深さXを230mmとした場合、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが34℃では鋳造速度Vcが1.27m/min、1.33m/minで電磁攪拌を適用しても、また、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが40℃では鋳造速度Vcが1.24m/minで電磁攪拌を適用しても、表面格落率は0.2%、0.3%で製品歩留まりの改善に効果があった(表3のNo.5,No.6,No.4)。
【0073】
つまり、鋼種Bの連続鋳造においても、特許文献3で開示された手法のように、溶鋼の供給量Qだけで電磁攪拌と電磁ブレーキの切り替えを行う場合、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTによっては、表面格落率が悪化したり、ブレークアウトの発生率が増加する場合があった。
【0074】
これに対して、浸漬ノズルの浸漬深さXが195mm、220mmの場合、鋼種Bの連続鋳造において、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTと、鋳造速度Vcを用い、「ΔT-12≦-1.46Vc」∩「Vc≦2.04」が成立するか否かで電磁攪拌と電磁ブレーキの切り替えを行う場合、表3に示すように、表面格落率が悪化したり、ブレークアウトの発生率が増加することはなかった。
【0075】
すなわち、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm未満の、表3のNo.1,No.2は「ΔT-12≦-1.46Vc」∩「Vc≦2.04」が成立するので、特許文献3で開示された手法と同様、電磁攪拌を適用する。しかしながら、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが13℃の場合は「ΔT-12≦-1.46Vc」∩「Vc≦2.04」が成立しないので、本発明では、電磁ブレーキを適用する(表3のNo.13)。この表3のNo.13の場合、表面格落率が0.2%に抑制でき、製品歩留まり改善に効果があった。
【0076】
また、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm未満の、表3のNo.13,No.16,No.17は「ΔT-12≦-1.46Vc」∩「Vc≦2.04」が成立しないので、特許文献3で開示された手法と同様、電磁ブレーキを適用する。しかしながら、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが8℃の場合は「ΔT-12≦-1.46Vc」∩「Vc≦2.04」が成立するので、本発明では、電磁攪拌を適用する(表3のNo.8)。この表3のNo.8の場合、表面格落率が0.2%に抑制でき、製品歩留まり改善に効果があった。
【0077】
一方、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm以上の場合の表3のNo.4は、「ΔT-12≦-1.46Vc」∩「Vc≦2.04」が成立しないが「ΔT≦40」∩「Vc≦1.24」が成立するので電磁攪拌を適用する。また、同様に表3のNo.6は「ΔT-12≦-1.46Vc」∩「Vc≦2.04」が成立しないが「ΔT≦35」∩「Vc≦1.44」が成立するので、表3のNo.14のように電磁ブレーキを適用することなく、電磁攪拌を適用する。
【0078】
(鋼種C)
鋼種Cは、炭素濃度が、0.0005質量%以上、0.0050質量%以下の極低炭素鋼であって、不均一凝固は発生しにくいが、固相線温度と液相線温度の差が小さいため、鋳型内で皮張りが生じやすい特性がある。また、自動車用の外板素材として多く用いられるため、表面検査の基準も厳しい。
【0079】
そこで、鋼種Cでは、発明の効果の指標を、ブレークアウトの発生率は0.2回/年以下、表面格落率は1.7%以下とした。
【0080】
鋼種Cについて、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔT、鋳造速度Vc、及び浸漬ノズルの浸漬深さXを変化させて鋳造した結果を下記表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
鋼種Cは、特許文献3で開示された手法では、溶鋼の供給量Qが5t/min(鋳造速度Vcに換算すると1.74m/min)未満の場合は電磁攪拌を適用するものである。浸漬ノズルの浸漬深さXが200mm、鋳造速度Vcが1.51m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが32℃、35℃の場合、電磁攪拌を適用すると、表面格落率は0.8%、0.9%で製品歩留まりの改善に効果があった(表4のNo.4,No.5)。一方、電磁ブレーキを適用すると、表面格落率は2.2%、1.9%と悪化した(表4のNo.12,No.13)。また、浸漬ノズルの浸漬深さXが220mm、鋳造速度Vcが1.65m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが34℃の場合、電磁攪拌を適用すると、表面格落率は0.9%で製品歩留まりの改善に効果があった(表4のNo.7)。一方、電磁ブレーキを適用すると、表面格落率は1.9%と悪化した(表4のNo.15)。
【0083】
また、鋼種Cは、特許文献3で開示された手法では、溶鋼の供給量Qが5t/min(鋳造速度Vcに換算すると1.74m/min)以上の場合は電磁ブレーキを適用するものである。浸漬ノズルの浸漬深さXが200mm、鋳造速度Vcが1.74m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが35℃、42℃の場合、電磁ブレーキを適用すると、ブレークアウトの発生率が共に0.1回/年と抑制でき、安定鋳造に効果があった(表4のNo.17,No.18)。一方、電磁攪拌を適用すると、ブレークアウトの発生率が0.4回/年、0.5回/年と増加した(表4のNo.9,No.10)。前記溶鋼の過熱度ΔTが42℃の場合は、表面格落率も2.5%と悪化した(表4のNo.10)。
【0084】
しかしながら、鋼種Cにおいて、浸漬ノズルの浸漬深さXが200mm、鋳造速度Vcが1.51m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが42℃の表4のNo.6の場合、ブレークアウトの発生率が0.4%と悪化した。また、浸漬ノズルの浸漬深さXが200mm、鋳造速度Vcが1.74m/minでタンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが32℃の表4のNo.16の場合、表面格落率が2.7%と悪化した。
【0085】
一方、浸漬ノズルの浸漬深さXを230mmとした場合、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが40℃では鋳造速度Vcが1.30m/minで電磁攪拌を適用しても、表面格落率は1.0%で製品歩留まりの改善に効果があった(表3のNo.2)。
【0086】
つまり、鋼種Cの連続鋳造においても、特許文献3で開示された手法のように、溶鋼の供給量Qだけで電磁攪拌と電磁ブレーキの切り替えを行う場合、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTによっては、表面格落率が悪化したり、ブレークアウトの発生率が増加する場合があった。
【0087】
これに対して、浸漬ノズルの浸漬深さXが220mmの場合、鋼種Cの連続鋳造において、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔT℃と、鋳造速度Vcを用い、「ΔT-40≦-3.42Vc」∩「Vc≦1.74」が成立するか否かで電磁攪拌と電磁ブレーキの切り替えを行う場合、表4に示すように、表面格落率が悪化したり、ブレークアウトの発生率が増加することはなかった。
【0088】
すなわち、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm未満の、表4のNo.4,No.5は「ΔT-40≦-3.42Vc」∩「Vc≦1.74」が成立するので、特許文献3で開示された手法と同様、電磁攪拌を適用する。しかしながら、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが42℃の、表4のNo.1,No.6の場合は「ΔT-40≦-3.42Vc」∩「Vc≦1.74」が成立しないので、本発明では、電磁攪拌を適用せず、電磁ブレーキを適用する(表4のNo.14)。この表4のNo.14の場合、表面格落率が1.1%に抑制でき、製品歩留まり改善に効果があった。
【0089】
また、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm未満の、表4のNo.17、No.18は「ΔT-40≦-3.42Vc」∩「Vc≦1.74」が成立しないので、特許文献3で開示された手法と同様、電磁ブレーキを適用する。しかしながら、タンディッシュ内溶鋼の過熱度ΔTが32℃の場合は「ΔT-40≦-3.42Vc」∩「Vc≦1.74」が成立するので、本発明では、電磁攪拌を適用する(表4のNo.8)。この表4のNo.8の場合、表面格落率が1.0%に抑制でき、製品歩留まり改善に効果があった。
【0090】
一方、浸漬ノズルの浸漬深さXが230mm以上の場合の表4のNo.2,No.3は、「ΔT-40≦-3.42Vc」∩「Vc≦1.74」が成立しないが、「ΔT≦40」∩「Vc≦1.34」が成立するので、表4のNo.11のように電磁ブレーキを適用するのではなく、電磁攪拌を適用する。
【0091】
上記の試験結果より、兼用コイル装置を用いて鋼を連続鋳造する際には、鋳造速度、浸漬ノズルの浸漬深さとタンディッシュ内溶鋼の過熱度により電磁攪拌と電磁ブレーキの切り替えを行うことで、鍋交換直後などの鋳型への溶鋼の供給量が少なく、かつ溶鋼の過熱度が高い場合にもブレークアウトの発生率を低減することができる。また、鋳込み末期などの鋳型への溶鋼供給量が多く、かつ溶鋼の過熱度が低い場合にも表面格落率を低減することができる。
【0092】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0093】
例えば、交流電流は3相でなくても、電流位相差が90度から120度であればそれ以上でも良い。
【0094】
また、上記試験に使用した成分濃度の溶鋼でなくても、請求項に規定する範囲の炭素濃度を有する溶鋼であれば、本発明方法を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上の本発明は、連続鋳造であれば、湾曲型、垂直型など、どのような方式の連続鋳造であっても適用できる。また、スラブの連続鋳造だけでなくブルームの連続鋳造にも適用できる。
【符号の説明】
【0096】
2 溶鋼
3 鋳型
3b 長辺
8 兼用コイル装置
8a 磁極鉄芯
8b コイル
8c コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6