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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】回転軸部材支持装置及び研削盤
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/06 20060101AFI20230322BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20230322BHJP
   B24B 41/04 20060101ALI20230322BHJP
   B24B 47/12 20060101ALI20230322BHJP
   B23B 19/02 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
F16C32/06 Z
F16C17/02 Z
B24B41/04
B24B47/12
B23B19/02 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019171580
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021046936
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大和 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】荒川 直矢
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-132387(JP,A)
【文献】特開2006-22923(JP,A)
【文献】米国特許第4346947(US,A)
【文献】米国特許第9784312(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-32/00
B24B 41/00-47/00
B23B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸部材の外周面と対向する軸受面に凹状のポケット及びランドを有する静圧流体軸受と、
前記ポケットに潤滑流体を供給する流体供給装置と、
を備える回転軸部材支持装置であって、
前記流体供給装置は、
前記ポケットの供給口に接続される流通路に設けられて、前記潤滑流体を構成する液体を加圧して供給する加圧装置と、
前記加圧装置と前記供給口との間の前記流通路に設けられて、前記加圧装置によって加圧された前記液体に対して気体を混合することにより、前記液体に前記気体が混合された混合潤滑流体を生成し、前記混合潤滑流体を前記ポケットに供給する気液混合装置と、
を備え、
前記静圧流体軸受は、
前記回転軸部材の回転に伴う前記混合潤滑流体の回転により、前記混合潤滑流体における前記液体を主とする液体層を前記軸受面側に形成し、且つ、前記混合潤滑流体における前記液体から分離した前記気体を主とする気体層を前記回転軸部材の外周面側に形成した状態で、前記回転軸部材を支持する、回転軸部材支持装置。
【請求項2】
前記静圧流体軸受は、
前記回転軸部材の回転に伴って回転する前記混合潤滑流体に発生する遠心力により、前記混合潤滑流体における前記液体から前記気体を分離する、請求項1に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項3】
前記静圧流体軸受は、
前記混合潤滑流体に電気エネルギーを加えることにより、前記混合潤滑流体における前記液体から前記気体を分離する、請求項1又は2の回転軸部材支持装置。
【請求項4】
前記気体層は、前記気体の気泡が前記回転軸部材の前記外周面の周方向に複数形成されることにより構成される、請求項1-3のうちの何れか一項に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項5】
前記液体層は、前記ランド側に形成される、請求項1-4のうちの何れか一項に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項6】
前記流体供給装置は、
前記気液混合装置と前記供給口との間にて前記流通路から分岐された排出路に設けられて、前記ポケットに供給する前記混合潤滑流体の圧力を調整する圧力調整弁を備えた、請求項1-5のうちの何れか一項に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項7】
前記流体供給装置は、
前記排出路に配置されて、前記圧力調整弁による圧力の調整に伴って余剰となり、且つ、排出される前記混合潤滑流体における前記気体を除去する気液分離装置を備えた、請求項6に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項8】
前記気液混合装置は、
前記加圧装置によって加圧されて前記流通路の内部を前記供給口に向けて流れる前記液体の流速に起因して発生する負圧により、前記気体を前記流通路の外部から内部に向けて吸引して供給するノズルを備える、請求項1-7のうちの何れか一項に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項9】
前記気液混合装置は、
前記流通路の内部にて前記ノズルよりも下流側に配置されたディフューザを備える、請求項8に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項10】
前記流体供給装置から供給された前記混合潤滑流体における前記液体と前記気体との分離を促進する分離促進器を、前記回転軸部材の前記外周面に設けた、請求項1-9のうちの何れか一項に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項11】
前記分離促進器は、
前記気体の気泡の接触角を大きくすることにより、前記混合潤滑流体における前記気泡を選択的に前記回転軸部材の前記外周面に集める、請求項10に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項12】
前記分離促進器は、
前記回転軸部材の前記外周面に設けられた凹凸を有する、請求項11に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項13】
前記分離促進器は、
前記混合潤滑流体における前記液体を選択的に撥く材料によって形成された、請求項11又は12に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項14】
前記分離促進器は、
前記混合潤滑流体における前記液体を選択的に撥く材料によって膜状に形成された、請求項13に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項15】
前記液体の粘度は、前記気体の粘度よりも大きい、請求項1-14のうちの何れか一項に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項16】
前記液体層の径方向厚みは、前記気体層の径方向厚みよりも大きい、請求項1-15のうちの何れか一項に記載の回転軸部材支持装置。
【請求項17】
請求項1乃至請求項16のうちの何れか一項に記載の回転軸部材支持装置により回転可能に支持されて、砥石車を保持する前記回転軸部材を備えた研削盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸部材支持装置及びこの回転軸部材支持装置を備えた研削盤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転軸部材支持装置に用いられる種々の静圧流体軸受が提案されている。例えば、下記特許文献1には、潤滑流体として水を使用する静圧受け構造の技術が開示されている。又、例えば、下記特許文献2には、加工工程に応じて潤滑流体を水及び空気の一方に切り替える静圧軸受装置の技術が開示されている。
【0003】
又、例えば、下記特許文献3には、回転軸部材の両端に気体を供給する気体供給部を備えると共に、気体供給部の間に液体を供給する液体供給部を備えた流体軸受装置の技術が開示されている。更に、例えば、下記特許文献4には、混入した空気を脱気した油を潤滑流体として用いる静圧軸受装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-240652号公報
【文献】特開2004-308726号公報
【文献】特開2009-216232号公報
【文献】特開2001-82473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、静圧流体軸受を有する回転軸部材支持装置では、粘性抵抗の大きな潤滑流体が用いられる。このため、潤滑流体の粘性抵抗に起因した動力損失が静圧流体軸受において発生し、その結果、電力消費が増大したり、発熱により軸受焼付きが発生したりする虞れがある。
【0006】
このような不具合を防止するため、上述した従来の技術では、潤滑流体の粘性抵抗を低減するように潤滑流体を適宜選択できるようになっている。しかしながら、上述した従来の技術では、潤滑流体を選択可能とするために、静圧流体軸受及び流体供給装置の構造が複雑になるという問題がある。
【0007】
一方、静圧流体軸受及び流体供給装置の構造を簡略化する場合、例えば、静圧流体軸受の小径化する場合がある。静圧流体軸受を小径化した場合には、潤滑流体において発生する粘性抵抗を低減することが可能であり、その結果、動力損失の低減や低発熱化を図ることができる。
【0008】
ところが、動力損失を低減するために静圧流体軸受を小径化すると、静圧流体軸受が支持する回転軸部材の直径も小さくなる。このため、回転軸部材の曲げ剛性が低下し、その結果、回転軸部材が工具(例えば、砥石車等)を支持した際の剛性が不足して、例えば、加工時における寸法精度の低下や固有振動数の低下による振動の発生等が懸念される。このため、回転軸部材支持装置においては、静圧流体軸受における動力損失を低減しながら、回転軸部材の剛性を確保することが重要となる。
【0009】
本発明は、動力損失の低減が可能な静圧流体軸受を有する回転軸部材支持装置及びこの回転軸部材支持装置を備えた研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(回転軸部材支持装置)
回転軸部材支持装置は、回転軸部材の外周面と対向する軸受面に凹状のポケット及びランドを有する静圧流体軸受と、ポケットに潤滑流体を供給する流体供給装置と、を備える回転軸部材支持装置であって、流体供給装置は、ポケットの供給口に接続される流通路に設けられて、潤滑流体を構成する液体を加圧して供給する加圧装置と、加圧装置と供給口との間の流通路に設けられて、加圧装置によって加圧された液体に対して気体を混合することにより、液体に気体が混合された混合潤滑流体を生成し、混合潤滑流体をポケットに供給する気液混合装置と、を備え、静圧流体軸受は、回転軸部材の回転に伴う混合潤滑流体の回転により、混合潤滑流体における液体を主とする液体層を軸受面側に形成し、且つ、混合潤滑流体における液体から分離した気体を主とする気体層を回転軸部材の外周面側に形成した状態で、回転軸部材を支持する。
【0011】
(研削盤)
研削盤は、上記回転軸部材支持装置により回転可能に支持されて、砥石車を保持する前記回転軸部材を備える。
【0012】
これらによれば、回転軸部材支持装置は、静圧流体軸受に混合潤滑流体を供給することができる。又、回転軸部材支持装置は、回転軸部材を回転させることにより、静圧流体軸受の軸受面側に液体層を形成すると共に回転軸部材の外周面側に気体層を形成する、即ち、気液二層化を実現することができる。これにより、回転軸部材の回転に伴って静圧流体軸受に発生する粘性抵抗を大幅に低減することができる。従って、静圧流体軸受を小径化することなく、回転軸部材の剛性を維持しながら動力の低減を実現することができる。その結果、研削盤の消費電力を低減することができるため、研削盤のランニングコストを削減することができる。
【0013】
又、気液二層化を実現することにより、回転軸部材を回転させる際に必然的に発生する粘性抵抗を低減することができるため、回転軸部材を回転させた際の温度上昇を抑制することができる。これにより、温度上昇に起因して発生する虞のある回転軸部材及び静圧流体軸受の熱変形等を抑制することができる。従って、研削盤による研削加工において、工作物や回転軸部材に取り付けられる研削盤の砥石車の位置決め精度及び再現性を向上させることができ、ひいては工作物の品質向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】回転軸部材支持装置を適用した研削盤の平面図である。
図2図1に示すII-II線に沿った砥石台の断面図である。
図3図2に示す砥石台本体の正面図である。
図4図2に示す流体供給装置の構成を説明するための概略図である。
図5図4に示す気液混合装置の構成を説明するための断面図である。
図6図1に示す静圧流体軸受の構成を示す断面図である。
図7図6に示すVII-VII線に沿った静圧流体軸受及び回転軸部材の断面図である。
図8図7の一部を拡大した断面図である。
図9】速度勾配を説明するための一部断面図である。
図10】第二例に係る分離促進器を説明するための断面図である。
図11】第二例の分離促進器の変形例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1.回転軸部材支持装置の適用対象)
回転軸部材支持装置は、回転軸部材を回転可能に支持する静圧流体軸受を備えた装置、例えば、主軸装置等に適用される。本例では、主軸装置を有する装置として、研削盤を例に挙げて説明する。尚、主軸装置を有する装置以外として、例えば、静圧流体軸受を有して回転軸部材を有する各種測定器や、車両、船、タービン等のシャフト(回転軸部材)を静圧流体軸受によって回転可能に支持する装置等を例示することができる。
【0016】
(2.研削盤1の構成)
静圧流体軸受を有する回転軸部材支持装置を備えた研削盤1について図面を参照しながら説明する。研削盤1は、軸状の工作物Wの研削が可能な砥石台トラバース型円筒研削盤を例示することができる。
【0017】
研削盤1は、図1に示すように、主として、ベッド10と、主軸台20と、心押台30と、砥石支持装置40と、定寸装置50と、制御装置60と、を備えている。尚、図1において、Z軸方向は、トラバース方向であり、X軸方向は、トラバース方向と直角な水平方向であり、Y軸方向は、Z軸方向及びX軸方向と直交する鉛直方向である。
【0018】
ベッド10は、平面矩形状に形成されており、設置面(床)上に固定される。このベッド10の上面には、砥石支持装置40を構成する後述の砥石台トラバースベース41を摺動可能とする一対のZ軸ガイドレール11a,11bが、互いに平行にZ軸方向に沿って延設されて固定されている。一対のZ軸ガイドレール11a,11bの間には、砥石台トラバースベース41をZ軸方向に駆動するためのZ軸ボールねじ11cが配置されている。そして、ベッド10の上面には、Z軸ボールねじ11cを回転駆動するZ軸モータ11dが固定されている。
【0019】
主軸台20は、主軸台本体21と、主軸22と、主軸モータ23と、主軸センタ24と、を備えている。主軸台本体21は、挿通された主軸22を回転可能に支持している。主軸台本体21は、主軸22の軸方向がZ軸方向を向き、且つ、一対のZ軸ガイドレール11a,11bと平行になるように、ベッド10の上面に固定されている。
【0020】
主軸22の一端(図1において紙面左側)には、主軸モータ23が設けられている。これにより、主軸22は、主軸モータ23によって主軸台本体21に対してZ軸周りに回転駆動される。尚、主軸モータ23には、主軸モータ23の回転角を検出するエンコーダが設けられている。又、主軸22の他端(図1において紙面右側)には、軸状の工作物Wの軸方向の一端を支持する主軸センタ24が設けられている。
【0021】
心押台30は、心押台本体31と、心押センタ32と、を備えている。心押台本体31は、挿通された心押センタ32を回転可能に支持している。心押台本体31は、心押センタ32の軸方向がZ軸方向を向くように、且つ、心押センタ32の回転軸が主軸22の回転軸と同軸となるようにベッド10の上面に固定されている。即ち、心押センタ32は、主軸センタ24と共に工作物Wの軸方向の両端を支持し、工作物WがZ軸周りに回転可能となるように配置される。尚、心押センタ32は、工作物Wの長さに応じて、心押台本体31の端面からの突出量の変更が可能となるように構成されている。
【0022】
(3.砥石支持装置40の構成)
砥石支持装置40は、砥石台トラバースベース41と、後に詳述する回転軸部材支持装置70である砥石台42と、工具としての円柱状の砥石車43と、を備えている。砥石台トラバースベース41は、矩形の平板状に形状されており、ベッド10の上面に設けられた一対のZ軸ガイドレール11a,11b上を摺動可能に設けられている。
【0023】
砥石台トラバースベース41は、Z軸ボールねじ11cのナット部材(図示省略)に連結されており、Z軸モータ11dの駆動により一対のZ軸ガイドレール11a,11bに沿って移動する。尚、Z軸モータ11dには、Z軸モータ11dの回転角を検出するエンコーダが設けられている。
【0024】
砥石台トラバースベース41の上面には、砥石台42を摺動可能とする一対のX軸ガイドレール41a,41bが、互いに平行に、且つ、X軸方向に沿って固定されて延設されている。砥石台トラバースベース41の上面に固定された一対のX軸ガイドレール41a,41bの間には、砥石台42をX軸方向に駆動するためのX軸ボールねじ41cが配置されており、X軸ボールねじ41cを回転駆動するX軸モータ41dが配置されている。尚、X軸モータ41dには、X軸モータ41dの回転角を検出するエンコーダが設けられている。
【0025】
砥石台42は、砥石台トラバースベース41の上面に設けられた一対のX軸ガイドレール41a,41b上を摺動可能となるように設けられている。砥石台42は、X軸ボールねじ41cのナット部材(図示省略)に連結されており、X軸モータ41dの駆動により一対のX軸ガイドレール41a,41bに沿って移動可能とされている。これにより、砥石台42は、ベッド10、主軸台20及び心押台30に対して、X軸方向及びZ軸方向(トラバース送り方向)に相対移動可能に構成されている。尚、砥石台42(回転軸部材支持装置70)の詳細については、後述する。
【0026】
定寸装置50は、研削部位における工作物Wの外径を計測するための装置である。定寸装置50は、計測した外径を表す計測信号を制御装置60に出力する。
【0027】
制御装置60は、Z軸モータ11d及びX軸モータ41dを含む各モータの駆動を制御する装置である。制御装置60は、各モータを駆動させることにより、工作物W及び砥石車43をZ軸周りに回転させると共に工作物Wに対する砥石車43のZ軸方向及びX軸方向への相対位置を変更して工作物Wの外周面の研削を行う。
【0028】
(4.回転軸部材支持装置70(砥石台42)の第一例)
砥石台42としての回転軸部材支持装置70は、図2に示すように、砥石台本体71と、回転軸部材72と、静圧流体軸受としての軸受73と、流体供給装置80とを備えている。砥石台本体71は、回転軸部材72を軸受73により回転可能に支持するものである。砥石台本体71の下端部には、図2及び図3に示すように、X軸方向に延びるように形成され、一対のX軸ガイドレール41a,41bに沿って案内される脚部71a,71b(図2においては、脚部71bのみを図示)が設けられている。
【0029】
回転軸部材72は、砥石車43を保持し、回転駆動されるものである。回転軸部材72は、砥石台本体71の上面にて、Z軸周りに回転可能に支持されている。回転軸部材72の一端には、円盤状の砥石車43が同軸で取り付けられている。又、砥石台本体71の上面には、ベルト・プーリ機構D(図1を参照)を介して回転軸部材72を砥石車43と共に回転駆動するための砥石回転用モータMが固定されている。
【0030】
軸受73は、静圧流体軸受であり、図3に示すように、回転軸部材72のZ軸方向に沿って離間した位置にて、回転軸部材72を回転可能に支持するものである。軸受73には、回転軸部材72を静圧支持するために、潤滑流体である後述の混合潤滑流体が調圧されて供給されるようになっている(図2を参照)。尚、軸受73(90)の構成については、後に詳述する。
【0031】
(4-1.流体供給装置80の構成)
流体供給装置80は、図4に示すように、タンク81と、流通路82と、加圧装置としてのポンプ83と、圧力調整弁84と、還流路85と、気液混合装置86と、排出路87と、気液分離装置88とを備えている。タンク81は、図1乃至図3に示すように、砥石台本体71の上部に配設されており、潤滑流体(混合潤滑流体)を構成する液体としての潤滑油を貯留するものである。具体的に、タンク81は、砥石台本体71の上方(図2において紙面上方)となる上面から下方(図2において紙面下方)に向けて凹むように、且つ、上方を開放するように形成されている。又、タンク81は、軸受73(90)の下方に位置する部位を有するように形成されている。
【0032】
流通路82は、図4に示すように、タンク81と軸受73(90)(より詳しくは、後述するポケット94の供給口94a)とを接続しており、タンク81からポンプ83によって汲み上げられた液体としての潤滑油及び後述する混合潤滑流体を流通させる流路である。尚、本例においては、図2に示すように、流通路82を砥石台本体71の外側に配設するようにするが、砥石台本体71の内部に配設することも可能である。
【0033】
加圧装置であるポンプ83は、流通路82を介してタンク81及び軸受73に接続されており、タンク81の貯留された潤滑油を汲み上げ、且つ、潤滑油を加圧して軸受73に供給するものである。具体的に、ポンプ83は、図2に示すように、吸入口83aがタンク81に貯留された潤滑油を浸漬した状態で、砥石台本体71に固定されている。これにより、ポンプ83は、吸入口83aからタンク81に貯留された潤滑油を汲み上げ、所定圧力(例えば、1.5Mpa~2.0Mpa程度)に加圧した潤滑油を流通路82を介して軸受73(90)に供給する。
【0034】
ここで、ポンプ83は、制御装置60と電気的に接続されており、作動が制御装置60によって制御されるようになっている。これにより、ポンプ83は、制御装置60によって回転数が制御されることによって、流通路82を流通する潤滑油の流量や圧力、流速等を調整する。
【0035】
圧力調整弁84は、流通路82から分岐された排出路87において静圧流体軸受である軸受73(90)よりも上流側に配設されている。このように配設されることにより、圧力調整弁84は、軸受73(90)に供給される潤滑油の圧力を所定圧力に調圧する。尚、圧力調整弁84としては、例えば、直動式リリーフ弁等を用いることが可能であり、省略することも可能である。
【0036】
還流路85は、軸受73(90)から排出された潤滑油をタンク81に還流させる流路である。本例において、還流路85は、軸受73(90)の下端部がタンク81に向けて開放されることにより形成されている。これにより、軸受73(90)に供給されて通過した潤滑油は、還流路85を介して、タンク81に自重によって排出される。尚、還流路85については、軸受73(90)及びタンク81を接続するように別途設けられた配管によって構成することも可能である。
【0037】
気液混合装置86は、流通路82に設けられる。気液混合装置86は、ポンプ83によって加圧された液体である潤滑油に対して気体(例えば、空気)を気泡として混合するものである。ここで、気液混合装置86によって潤滑油に気泡として混合される気体の量は、特に限定されるものではなく、例えば、20%程度、より好ましくは10%程度とされる。
【0038】
気液混合装置86は、図5に示すように、気体吸入口86aから吸入した気体をノズル86bを介して流通路82内に供給する。ここで、潤滑油は、ポンプ83によって加圧されて流通路82内を流れている。これにより、気体吸入口86aとノズル86bとの間に存在する気体は、流通路82を流れる潤滑油の流速に起因して発生する負圧による、所謂、ベンチュリー効果が作用することにより、ノズル86bから流通路82の内部即ち潤滑油に向けて吸引される。尚、ベンチュリー効果により気体を吸引することに代えて、例えば、気体吸入口86aから導入された高圧の気体(圧縮空気等)をノズル86bから流通路82即ち潤滑油に向けて吸引することも可能である。
【0039】
ノズル86bによって外部から流通路82の内部に吸引された気体は、後述する軸受隙間Gに対して十分小さいミクロンレベルの大きさに微小化された気泡、所謂、マイクロバブルやナノバブルとして、潤滑油の内部にて存在する。そして、気泡は、流通路82の内部にてノズル86bよりも下流側に配置されたディフューザ86cによって潤滑油の内部に拡散される。本例において、ディフューザ86cは、図5に示すように、ノズル86bよりも下流側にて流通路82を拡管することにより形成される。尚、以下の説明においては、気液混合装置86によって微小化された気泡即ち気体を潤滑油に混合することによって生成された流体を「混合潤滑流体」と称呼する。
【0040】
気液分離装置88は、図4に示すように、タンク81に連通している排出路87にて、圧力調整弁84よりも下流側(即ち、タンク81側)に設けられる。気液分離装置88は、気液混合装置86を介して吐出される混合潤滑流体のうち、例えば、圧力調整弁84による圧力調整(減圧)に伴って余剰となった混合潤滑流体から気体(気泡)と潤滑油とを分離する。気液分離装置88は、周知の気液分離機構を採用することができ、例えば、混合潤滑流体に振動を与えたり、混合潤滑流体を減圧したり、或いは、混合潤滑流体を筒内で旋回させたりすることによって、混合潤滑流体から気体(気泡)と潤滑油とを分離する。
【0041】
そして、気液分離装置88は、分離した気体(気泡)を大気中に排気すると共に気体(気泡)を分離した潤滑油をタンク81に戻す。ここで、タンク81に戻される潤滑油は、微小化された気泡が除去されている。このため、ポンプ83は、タンク81に戻された潤滑油を汲み上げた場合において、所謂、エア噛みを生じることなく、適切に潤滑油を汲み上げて加圧することができる。尚、気液分離装置88は、例えば、混合潤滑流体における気体の液体に対する混合比が小さい場合や、タンク81の容量が大きい場合等においては、適宜省略することが可能である。
【0042】
(4-2.軸受90(73)の構成)
静圧流体軸受である軸受90は、図6に示すように、軸受ハウジング91と、軸受部材92と、軸受面93とを備えている。そして、回転軸部材72の外周面72aには軸受面93を有する円筒状の軸受部材92が軸受ハウジング91の内周面に圧入や焼き嵌め等により嵌着一体化されて構成されている。
【0043】
又、軸受90は、軸受部材92の軸受面93に設けられた、ポケット94と、ランド95と、ドレン溝96とを有している。これにより、軸受90は、回転軸部材72を静圧支持するようになっている。
【0044】
ポケット94は、図6に示すように、軸受部材92の軸受面93から数mm程度の深さを有する凹状、且つ、四角形状に設けられている。ポケット94は、軸受部材92の周方向に沿って複数、例えば、4か所程度(図7を参照)設けられている。ポケット94には、混合潤滑流体を供給する供給口94aが開口されている。供給口94aは、給油供給路91a、環状溝92a及び連通孔92bに連通している。給油供給路91aは、流通路82に連通するように軸受ハウジング91に設けられている。環状溝92aは、軸受部材92の外周に設けられて給油供給路91aに連通している。連通孔92bは、環状溝92aに連通して絞り作用を発生する。
【0045】
ランド95は、軸受部材92の軸受面93において、四角形状のポケット94の周囲に形成されている。ランド95は、軸受面93とほぼ同一の内周面高さを有している。尚、ポケット94及びランド95の形状については、上述した形状及び配置に限定されるものではなく、回転軸部材72を静圧支持可能であれば、如何なる形状及び配置であっても良い。
【0046】
ドレン溝96は、ポケット94に隣接するように、即ち、ポケット94の軸線方向の両端に位置するように、軸受部材92の軸受面93にて開口して設けられている。ドレン溝96は、軸受部材92及び軸受ハウジング91に設けられた排出孔92c及び排出孔91bに連通している。尚、排出孔92c及び排出孔91bは、還流路85と連通しており、ドレン溝96に流入した潤滑油は、タンク81に排出されて回収される。
【0047】
(4-3.軸受90(73)の作動)
次に、上記のように構成された軸受90(73)の作動を説明する。ポンプ83によってタンク81から汲み上げられた潤滑油は、気液混合装置86を通過することにより、潤滑油に微小化された気泡(気体)が混合された混合潤滑流体となる。混合潤滑流体は、圧力調整弁84によって圧力が調整された状態で流通路82を通り、軸受部材92の外周の環状溝92aから絞り作用をなす連通孔92b及び供給口94aを経て最終的にポケット94に供給される。尚、圧力調整弁84による圧力調整(減圧)に伴って余剰となった混合潤滑流体は、気液分離装置88によって気体と潤滑油とが分離される。そして、気体は大気中に排気され、潤滑油はタンク81に戻される。
【0048】
回転軸部材72は、例えば、6000~10000rpm程度で回転する。ここで、回転軸部材72が軸受部材92に対して偏心していない状態では、回転軸部材72の外周面72aとランド95を含む軸受面93との隙間(軸受隙間)において、回転軸部材72の回転開始に伴って混合潤滑流体がつれ廻りを生じる。尚、軸受隙間は、後述する楔状隙間とは異なり、回転軸部材72及び軸受面93(ランド95)の周方向においてほぼ均一に形成される隙間(例えば、数10マイクロメートル程度)である。そして、混合潤滑流体が定常状態になると、軸受隙間に潤滑油膜が形成され、その結果、静圧が発生する。これにより、偏心していない回転軸部材72は、静圧支持される。
【0049】
尚、ランド95(即ち、軸受面93)と回転軸部材72の外周面72aとの間に軸受隙間が存在する場合には、回転軸部材72の中心軸が偏心していない。このため、ポケット94から流入する混合潤滑流体により、ランド95にはポケット94と同一の静圧が発生する。
【0050】
一方、砥石車43が工作物Wに接触して研削加工を行う場合、回転軸部材72に加工(研削)反力が作用することにより、回転軸部材72の中心軸は偏心する。このように、回転軸部材72の中心軸が偏心すると、回転軸部材72の外径とランド95(即ち、軸受面93)の内径との差異により、中心軸が偏心した側において軸受隙間よりも次第に幅狭となる楔状隙間が形成される。この楔状隙間に混合潤滑流体が回転軸部材72の回転に伴ってつれ廻りを起こし、且つ、大きな流速で引き込まれることにより、ランド95に動圧が発生して回転軸部材72が動圧支持される。
【0051】
(4-4.混合潤滑流体による速度勾配の緩和について)
上述したように、ランド95(軸受面93)と回転軸部材72の外周面72aとの間に形成される軸受隙間(又は楔状隙間)において、ポケット94を介して供給された混合潤滑流体は、回転軸部材72の回転に伴ってつれ廻りする。そして、つれ廻りした混合潤滑流体には、遠心力が発生する。
【0052】
ところで、混合潤滑流体を形成する気体と潤滑油については、通常使用温度において、潤滑油は、気体に比べて、比重及び粘性(粘性率:粘度)が大きくなるように設定されている。このため、つれ廻りによって回転している混合潤滑流体においては、比重の大きな潤滑油には大きな遠心力が発生し、比重が潤滑油よりも小さい気体には潤滑油よりも小さな遠心力が発生する。これにより、軸受隙間Gにおいては、図7及び図8に示すように、大きな遠心力が発生した潤滑油は、ランド95側(軸受面93側)に向けて(外方側に向けて)相対的に移動して集まることにより、潤滑油を主とする液体層Leを形成する。
【0053】
一方、小さな遠心力が発生した気体は、潤滑油の移動により相対的に回転軸部材72の外周面72a側(内方側)に集まることにより、気体を主とする気体層Lgを形成する。即ち、混合潤滑流体がつれ廻りによって回転した状態では、混合潤滑流体は、軸受隙間Gにおいて潤滑油と気体とに分離され、その結果、気体層Lgと液体層Leの気液二層化して存在する。
【0054】
ここで、液体層Leは、混合潤滑流体を構成する液体である潤滑油を主として形成される。この場合、液体層Leにおける潤滑油と気体との構成比は、潤滑油が50%よりも大きく、好ましくは80%以上、より好ましくは90%である。勿論、液体層Leは、潤滑油が100%で形成されても良い。又、気体層Lgは、混合潤滑流体を構成する気体を主として形成される。この場合、気体層Lgにおける気体と潤滑油との構成比は、気体が50%よりも大きく、好ましくは80%以上、より好ましくは90%である。勿論、気体層Lgは、気体が100%で形成されても良い。
【0055】
ここで、回転軸部材支持装置70の使用温度において、ランド95側(軸受面93側)にて液体層Leを形成する潤滑油の粘性は、回転軸部材72の外周面72a側にて気体層Lgを形成する気体の粘性よりも大きくなるように設定される。このため、回転軸部材72が回転する際に、混合潤滑流体が引き起こす粘性抵抗に起因して発生する速度勾配は小さくなる。
【0056】
具体的に、気体は、粘性が小さい即ち粘性抵抗が小さいため、回転する回転軸部材72の外周面72aの回転速度に対する速度低下、換言すれば、速度差が小さくなる。その結果、図9に示すように、回転軸部材72の外周面72aの近傍における気体層Lgの速度勾配は小さくなる。一方、潤滑油は、粘性が大きい即ち粘性抵抗が大きいため、回転する回転軸部材72の外周面72aの回転速度に対する速度低下、換言すれば、速度差が大きくなる。その結果、図9に示すように、ランド95(軸受面93)から気体層Lgまでの間における液体層Leの速度勾配は、気体層Lgの速度勾配に比べて大きくなる。
【0057】
即ち、混合潤滑流体が気体層Lgと液体層Leの気液二層化されて回転軸部材72を支持する場合には、粘性の大きな液体層Leの速度勾配は、粘性の小さな気体層Lgが回転軸部材72に対する速度差を吸収することにより、緩和される。これにより、潤滑油によって生じる粘性抵抗を低減することができ、その結果、回転軸部材72を回転させるために必要な動力を低減することができる。尚、気体層Lgが形成されない場合には、軸受隙間Gの全域に亘って液体層Leが形成される。このため、気体層Lgによって速度差が吸収されないため、図9において破線により示すように、速度勾配が大きくなり、その結果、粘性抵抗が大きくなる。
【0058】
従って、回転軸部材72の曲げ剛性を維持しながら動力損失の低減を実現することができるため、研削盤1の消費電力を低減することができ、その結果、研削盤1のランニングコストを削減することができる。又、混合潤滑流体を用いることにより、回転軸部材72を回転させる際に必然的に発生する粘性抵抗を低減することができる。
【0059】
これにより、例えば、高粘度の潤滑油を用いた場合であっても、回転軸部材72を回転させた際の温度上昇を抑制することができ、その結果、温度上昇に起因して発生する虞のある回転軸部材72及び軸受90(73)の熱変形等を抑制することができる。従って、研削盤1による研削加工において、工作物Wや砥石車43の位置決め精度及び再現性を向上させることができ、ひいては工作物Wの品質向上を実現することができる。
【0060】
又、気液混合装置86によって潤滑油に気泡として混合される気体の量に応じて、例えば、図9に示すように、形成される液体層Leの径方向厚みを気体層Lgの径方向厚みよりも大きくすることができる。このように、液体層Leの径方向厚みが気体層Lgの径方向厚みよりも大きくなることにより、回転軸部材72の回転時における剛性を確保することができる。勿論、例えば、加工時における負荷が小さく必要な剛性が小さい場合には、気体層Lgの径方向厚みを液体層Leの径方向厚みよりも大きくすることも可能である。
【0061】
(4-5.気体層Lgの形成について)
上述したように、気体層Lgは、回転軸部材72の回転に伴って混合潤滑流体が回転することにより、回転軸部材72の外周面72a側に形成される。この場合、気体層Lgは、回転軸部材72の外周面72aの全周に亘り連続的に形成され、且つ、回転軸部材72の軸線方向において外周面72aと軸受面93とが対向する対向部分の全域に連続的に形成されることが好ましい。
【0062】
但し、液体である潤滑油と気体である空気の比重は異なり、又、重力の影響を受けることにより、気体層Lgが、例えば、外周面72aの周方向にて鉛直上方のみや対向部分の一部に部分的に形成される場合がある。或いは、気体層Lgが外周面72aの周方向にて部分的に(不連続的に)複数形成される場合もある。
【0063】
しかしながら、このように、気体層Lgが部分的に(不連続的に)複数形成される場合であっても、上述したように、部分的に形成された気体層Lgは、回転軸部材72に対する速度差を吸収することができる。そして、気体層Lgが形成された部分においては液体層Leの速度差を緩和することができるため、粘性抵抗を低減することができる。
【0064】
従って、気体層Lgが部分的に(不連続的に)複数形成される場合であっても、例えば、軸受隙間Gの全域に液体層Leのみが形成される場合に比べて、粘性抵抗を低減することができる。これにより、回転軸部材72を回転させる場合において、動力損失を低減することができると共に、粘性抵抗に起因する温度上昇を抑制することができる。
【0065】
(5.回転軸部材支持装置70(砥石台42)の第二例)
上述した第一例においては、回転軸部材72の回転に伴って混合潤滑流体がつれ廻りすることによって発生する遠心力に起因して、混合潤滑流体が潤滑油と気体とに分離されるようにした。これに加えて、分離促進器として、回転軸部材72の外周面72aに混合潤滑流体を形成する潤滑油を選択的に撥く撥油部72bを設け、回転軸部材72の外周面72aに混合潤滑流体を形成する気体が集まることを促進するように構成することも可能である。即ち、この第二例においては、物理的な力、例えば、表面張力等を利用することにより、混合潤滑流体を気体層Lgと液体層Leとを有する気液二層化する。以下、具体的に、第二例を説明する。
【0066】
第二例においては、図10に示すように、回転軸部材72の外周面72aにおける所定の領域に撥油部72bが設けられる。撥油部72bは、図10に示すように、液体である潤滑油に対しては接触角θが大きくなるように、換言すれば、置換される気泡に対しては接触角θが小さくなるように形成された微細な凹凸を有する。これにより、撥油部72bに混合潤滑流体が接触した場合、混合潤滑流体を形成する潤滑油は接触角θが大きく(即ち、濡れ難く)なり撥油部72bによって撥かれる。一方、撥油部72bに混合潤滑流体が接触した場合、混合潤滑流体を形成する気泡は接触角θが小さくなり、撥油部72bに対して拡がるように接触する。
【0067】
従って、外周面72aに撥油部72bを有する回転軸部材72が回転すると、第一例と同様に、混合潤滑流体に遠心力が発生する。この場合においても、比重の大きな潤滑油は大きな遠心力によって回転軸部材72から軸受面93に向けて移動する。このとき、撥油部72bは、接触している潤滑油を撥くことにより、潤滑油を軸受面93に向けて移動させることを促進する。
【0068】
一方で、比重の小さな気泡には小さな遠心力が発生し且つ潤滑油の軸受面93に向けた移動に伴って回転軸部材72の外周面72a即ち撥油部72bに向けて相対的に移動する。そして、気泡は撥油部72bの表面で拡がりながら接触するため、撥油部72bは気泡を回転軸部材72の外周面72aに集めることを促進する。
【0069】
これにより、気体層Lgと液体層Leとの気液二層化を効率よく行うことができる。従って、上述した第一例と同様に、潤滑油によって生じる粘性抵抗を低減することができ、その結果、回転軸部材72を回転させるために必要な動力を低減することができる。
【0070】
(5-1.分離促進器の変形例)
ここで、回転軸部材72の外周面72aに凹凸を有する撥油部72bを形成することに代えて、図11に示すように、潤滑油を選択的に撥く撥油性材料から膜状に形成された撥油膜72cを回転軸部材72の外周面72aに設ける(コーティングする)ことも可能である。ここで、撥油性材料としては、例えば、テフロン(登録商標)や、シリコン或いはアクリル、炭化シリコン(SiC)等を例示することができる。
【0071】
この場合においても、撥油部72bと同様に、気泡の接触角θを大きくすることができるため、混合潤滑流体の気体層Lgと液体層Leを有する気液二層化を促進することができる。尚、凹凸を有する撥油部72bを撥油性材料から即ち回転軸部材72とは異なる材料から形成し、形成した撥油部72bを回転軸部材72の外周面72aに固定することも可能である。或いは、凹凸を有する撥油部72bの表面に対して撥油性材料をコーティングすることも可能である。
【0072】
(6.回転軸部材支持装置70(砥石台42)の第三例)
上述した第一例においては、回転軸部材72の回転に伴って混合潤滑流体がつれ廻りすることによって発生する遠心力に起因して、混合潤滑流体が潤滑油と気泡とに分離されるようにした。又、上述した第二例においては、回転軸部材72の外周面72aに撥油部72bを設けることにより、物理的な力(例えば、表面張力等)を利用して混合潤滑流体を潤滑油と気泡とに分離することを促進するようにした。
【0073】
第三例においては、上述した第一例及び第二例に代えて又は加えて、電気エネルギーを混合潤滑流体に加えることにより、混合潤滑流体が潤滑油と気体(気泡)とに分離されることを助長するように構成する。具体的に、混合潤滑流体がつれ廻りして回転すると、液体である潤滑油は、例えば、軸受面93との摩擦により静電気が生じて帯電する。この場合、例えば、回転軸部材72及び軸受90(73)に対して、帯電した潤滑油が軸受面93に向けて移動するように電気的なエネルギーとして電圧を付与する。
【0074】
このように、回転軸部材72及び軸受90(73)に電圧を付与することにより、混合潤滑流体を形成し且つ帯電した潤滑油は軸受面93側に向けて移動して集まり液体層Leを形成する。一方、混合潤滑流体を形成する気体(気泡)は、潤滑油の軸受面93に向けた移動に伴い、相対的に回転軸部材72の外周面72a側に向けて移動して集まり気体層Lgを形成する。
【0075】
又、例えば、混合潤滑流体に電気エネルギーとして電流を付与することにより、潤滑油に溶解している気体を分離することもできる。この場合においても、混合潤滑流体が回転している状態において、潤滑油は軸受面93側にて液体層Leを形成する。一方、溶解していた気体は、潤滑油の軸受面93に向けた移動に伴い、相対的に回転軸部材72の外周面72a側に向けて移動して集まり気体層Lgを形成する。従って、この第三例においても、上記第一例及び第二例と同様の効果が得られる。
【0076】
尚、混合潤滑流体に電気エネルギーとして電流を付与する場合には、回転軸部材72及び軸受90(73)を電気防錆することが可能となる。従って、この場合には、混合潤滑流体を構成する液体として水を用いることが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1…研削盤、10…ベッド、11a,11b…軸ガイドレール、11c…Z軸ボールねじ、11d…軸モータ、20…主軸台、21…主軸台本体、22…主軸、23…主軸モータ、24…主軸センタ、30…心押台、31…心押台本体、32…心押センタ、40…砥石支持装置、41…砥石台トラバースベース、41a,41b…軸ガイドレール、41c…X軸ボールねじ、41d…軸モータ、42…砥石台(回転軸部材支持装置)、43…砥石車、50…定寸装置、60…制御装置、70…回転軸部材支持装置、71…砥石台本体、71a,71b…脚部、71b…脚部、72…回転軸部材、72a…外周面、72b…撥油部(分離促進器)、72c…撥油膜(分離促進器)、73…軸受(静圧流体軸受)、80…流体供給装置、81…タンク、82…流通路、83…ポンプ(加圧装置)、83a…吸入口、84…圧力調整弁、85…還流路、86…気液混合装置、86a…気体吸入口、86b…ノズル、86c…ディフューザ、87…排出路、88…気液分離装置、90…軸受(静圧流体軸受)、91…軸受ハウジング、91a…給油供給路、91b…排出孔、92…軸受部材、92a…環状溝、92b…連通孔、92c…排出孔、93…軸受面、94…ポケット、94a…供給口、95…ランド、96…ドレン溝、D…ベルト・プーリ機構、G…軸受隙間、Le…液体層、Lg…気体層、M…砥石回転用モータ、W…工作物、θ…接触角
図1
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