(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータ、燃料電池用セパレータの製造方法、及び熱転写用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20230322BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20230322BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20230322BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20230322BHJP
H01M 8/0254 20160101ALI20230322BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230322BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0206
H01M8/0221
H01M8/0213
H01M8/0254
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019203746
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】両角 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
(72)【発明者】
【氏名】羽柴 美智
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-209265(JP,A)
【文献】特開2019-075336(JP,A)
【文献】特開2009-224294(JP,A)
【文献】特開2009-230880(JP,A)
【文献】国際公開第2005/027248(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038165(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凸部を有する金属板製の基材と、導電性炭素材、導電性粒子、及び熱硬化性の樹脂を含み、前記基材の前記凸部の頂面に設けられた導電層と、を備え、前記導電層が燃料電池の発電部に当接して設けられる燃料電池用セパレータであって、
前記導電性炭素材及び前記導電性粒子は、前記導電層の厚さ方向の全体にわたって前記樹脂内に分散するとともに互いに接触して
おり、
前記導電性粒子は、前記凸部の頂面に形成された酸化被膜よりも硬度が高いチタン化合物からなるとともに、前記酸化被膜を貫通して前記基材に接触している、
燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
複数の凸部を有する金属板製の基材と、導電性炭素材、導電性粒子、及び熱硬化性の樹脂を含み、前記基材の前記凸部の頂面に設けられた導電層と、を備え、前記導電層が燃料電池の発電部に当接して設けられる燃料電池用セパレータを製造する方法であって、
前記導電性炭素材及び前記導電性粒子を前記樹脂内全体に分散させて生成した導電性塗料がフィルムに塗布されている熱転写用シートを、前記凸部の各々の頂面に当接させた状態で前記基材に対して加圧するとともに加熱することにより、前記凸部の各々の頂面に前記導電性塗料を熱転写して前記導電層を形成する、
燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
前記導電性塗料は、導電性炭素材の原料を粉砕するとともに、当該粉砕された導電性炭素材、前記導電性粒子、及び前記樹脂を調合することにより生成される、
請求項2に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂を第1樹脂とするとき、
前記凸部の各々の頂面に前記導電性塗料を熱転写して前記導電層を形成するに先立ち、前記基材のうち前記発電部に対向する表面の全体に熱硬化性の第2樹脂を含む樹脂層を形成する、
請求項2または請求項3に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂を第1樹脂とするとき、
前記フィルムの前記導電性塗料の表面には、熱硬化性の第2樹脂を含む樹脂塗料が塗布されている、
請求項2または請求項3に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項6】
燃料電池用セパレータの基材
に設けられた複数の凸部の各々の頂面に当接させた状態で加圧及び加熱されることで前記
凸部の各々の頂面に導電膜を熱転写することにより
前記凸部の各々の頂面に導電層を形成する熱転写用シートの製造方法であって、
熱硬化性の樹脂内全体に導電性炭素材及び導電性粒子を分散させて生成した導電性塗料をフィルムの一方の面に塗布することで前記導電膜を形成する、
熱転写用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータ、燃料電池用セパレータの製造方法、及び熱転写用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、膜電極接合体を有する発電部と、複数の凸部及び凹部が交互に形成され、発電部を挟持する一対の金属製のセパレータとを含む単セルが複数積層されたスタックを備えている(例えば、特許文献1参照)。単セルを構成する各セパレータと発電部との間には、上記凸部及び凹部により区画され、燃料ガスや酸化ガスを供給するガス流路が形成されている。セパレータの基材における発電部に対向する面には、導電性を有するとともに発電部に当接する導電層が形成されている。こうした導電層により、セパレータと発電部との接触抵抗の低減が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料電池の性能の向上を図る上では、セパレータと発電部との接触抵抗の更なる低減が望まれている。
本発明の目的は、セパレータと発電部との接触抵抗を低減することのできる燃料電池用セパレータ、燃料電池用セパレータの製造方法、及び熱転写用シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための燃料電池用セパレータは、複数の凸部を有する金属板製の基材と、導電性炭素材、導電性粒子、及び熱硬化性の樹脂を含み、前記基材の前記凸部の頂面に設けられた導電層と、を備え、前記導電層が燃料電池の発電部に当接して設けられるものであり、前記導電性炭素材及び前記導電性粒子は、前記導電層の厚さ方向の全体にわたって前記樹脂内に分散するとともに互いに接触している。
【0006】
同構成によれば、導電性炭素材及び導電性粒子が、導電層の厚さ方向の全体にわたって樹脂内に分散するとともに互いに接触している。このため、導電層の厚さ方向において、導電性炭素材及び導電性粒子を介した導電経路が形成されやすい。これにより、導電層の導電性を高めることができる。したがって、セパレータと発電部との接触抵抗を低減することができる。
【0007】
また、上記目的を達成するための燃料電池用セパレータの製造方法は、複数の凸部を有する金属板製の基材と、導電性炭素材、導電性粒子、及び熱硬化性の樹脂を含み、前記基材の前記凸部の頂面に設けられた導電層と、を備え、前記導電層が燃料電池の発電部に当接して設けられる燃料電池用セパレータを製造する方法であって、前記導電性炭素材及び前記導電性粒子を前記樹脂内全体に分散させて生成した導電性塗料がフィルムに塗布されている熱転写用シートを、前記凸部の各々の頂面に当接させた状態で前記基材に対して加圧するとともに加熱することにより、前記凸部の各々の頂面に前記導電性塗料を熱転写して前記導電層を形成する。
【0008】
同方法によれば、基材の各凸部に形成された導電層においては、導電性炭素材及び導電性粒子が、当該導電層の厚さ方向の全体にわたって分散しやすくなる。これにより、導電層内において、導電性炭素材と導電性粒子とを介した導電経路が形成されやすくなる。したがって、セパレータと発電部との接触抵抗を低減することができる。
【0009】
上記燃料電池用セパレータの製造方法において、前記導電性塗料は、導電性炭素材の原料を粉砕するとともに、当該粉砕された導電性炭素材、前記導電性粒子、及び前記樹脂を調合することにより生成されることが好ましい。
【0010】
導電性炭素材、導電性粒子、及び熱硬化性の樹脂を含む導電性塗料をフィルムの一方の面に塗布した場合、導電性粒子が自重により下側、すなわちフィルム側に沈降するおそれがある。
【0011】
ここで、導電性塗料においては、粉砕されることで微細になった導電性炭素材が樹脂内全体に分散されていることから、当該導電性塗料の粘度は、粉砕前の導電性炭素材を含む導電性塗料の粘度よりも増加する。これにより、フィルムの一方の面に塗布された導電性塗料において、導電性粒子がフィルム側に沈降することを抑制できる。
【0012】
上記方法によれば、粉砕された導電性炭素材と導電性粒子とを熱硬化性の樹脂内全体に分散させた導電性塗料を容易に生成することができ、当該導電性塗料がフィルムに塗布されている熱転写用シートを容易に製造することができる。
【0013】
上記燃料電池用セパレータの製造方法において、前記樹脂を第1樹脂とするとき、前記凸部の各々の頂面に前記導電性塗料を熱転写して前記導電層を形成するに先立ち、前記基材のうち前記発電部に対向する表面の全体に熱硬化性の第2樹脂を含む樹脂層を形成することが好ましい。
【0014】
同方法によれば、基材のうち発電部に対向する表面の全体に樹脂層が形成された後に、当該基材の各凸部に対して導電層が形成される。ここで、導電層に含まれる第1樹脂と、樹脂層に含まれる第2樹脂とは共に熱硬化性の樹脂であるため、基材を加熱することにより第1樹脂と第2樹脂とが共に熱硬化する。このようにして形成されたセパレータによれば、発電部に対向する表面の全体が樹脂層によって覆われるため、基材の上記表面からのイオンの溶出が抑制される。
【0015】
上記燃料電池用セパレータの製造方法において、前記樹脂を第1樹脂とするとき、前記フィルムの前記導電性塗料の表面には、熱硬化性の第2樹脂を含む樹脂塗料が塗布されていることが好ましい。
【0016】
同方法によれば、導電性塗料と樹脂塗料とがフィルムに塗布されている熱転写用シートを用いることにより、基材の各凸部の頂面に樹脂層と導電層とが形成される。導電層は樹脂層を介して基材の各凸部に形成されるため、基材の各凸部の頂面と導電層との密着性を高めることができる。これにより、基材の各凸部の表面と、導電層との間に空隙が生じることを抑制できる。したがって、セパレータと発電部との接触抵抗を低減することができる。
【0017】
また、上記目的を達成するための熱転写用シートの製造方法は、燃料電池用セパレータの基材の表面に当接させた状態で加圧及び加熱されることで前記基材の表面に導電膜を熱転写することにより前記表面に導電層を形成する熱転写用シートの製造方法であって、熱硬化性の樹脂内全体に導電性炭素材及び導電性粒子を分散させて生成した導電性塗料をフィルムの一方の面に塗布することで前記導電層を形成する。
【0018】
同方法によれば、基材の表面に形成された導電層においては、導電性炭素材及び導電性粒子が、当該導電層の厚さ方向の全体にわたって分散しやすくなる。これにより、導電層内において、導電性炭素材と導電性粒子とを介した導電経路が形成されやすくなる。したがって、セパレータと発電部との接触抵抗を低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、セパレータと発電部との接触抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】燃料電池用セパレータ、燃料電池用セパレータの製造方法、及び熱転写用シートの製造方法の第1実施形態について、当該セパレータを有する単セルを中心とした燃料電池スタックの拡大断面図。
【
図3】同実施形態の導電性塗料の生成工程を示す概略図。
【
図4】実施例の導電性塗料及び比較例1の導電性塗料における粘度の測定結果を示すグラフ。
【
図5】同実施形態の導電性塗料が塗布されているフィルムの断面図。
【
図6】同実施形態の樹脂層が形成された基材の断面図。
【
図7】同実施形態の基材に熱転写用シートが載置された状態を示す断面図。
【
図8】同実施形態の基材に導電膜が熱転写されている状態を示す断面図。
【
図9】実施例の導電層、比較例1の導電層、比較例2の導電層、及び比較例3の導電層における接触抵抗の測定結果を示すグラフ。
【
図10】燃料電池用セパレータ、燃料電池用セパレータの製造方法、及び熱転写用シートの製造方法の第2実施形態におけるセパレータの断面図。
【
図11】同実施形態の熱転写用シートの導電性塗料の表面に樹脂塗料が塗布されている状態を示す断面図。
【
図12】同実施形態の基材に熱転写用シートが載置された状態を示す断面図。
【
図13】同実施形態の基材に樹脂塗料及び導電膜が熱転写されている状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
以下、
図1~
図9を参照して、燃料電池用セパレータ、燃料電池用セパレータの製造方法、及び熱転写用シートの製造方法の第1実施形態について説明する。
【0022】
各図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率については実際と異なる場合がある。
図1に示すように、本実施形態の燃料電池用セパレータ(以下、セパレータ20)は、固体高分子形燃料電池のスタック100に用いられるものである。なお、セパレータ20は、後述する第1セパレータ30及び第2セパレータ40の総称である。
【0023】
スタック100は、複数の単セル10が積層された構造を有している。単セル10は、第1セパレータ30及び第2セパレータ40により挟持された膜電極接合体12を有する発電部11を備えている。
【0024】
膜電極接合体12と第1セパレータ30との間には、炭素繊維からなるアノード側ガス拡散層15が設けられている。また、膜電極接合体12と第2セパレータ40との間には、炭素繊維からなるカソード側ガス拡散層16が設けられている。
【0025】
膜電極接合体12は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を有する固体高分子材料からなる電解質膜13と、電解質膜13を挟持する一対の電極触媒層14とを備えている。各電極触媒層14には、燃料電池における反応ガスの電気化学反応を促進するために、例えば白金などの触媒が担持されている。
【0026】
第1セパレータ30は、金属板製の基材31を有している。本実施形態の基材31は、例えば、ステンレス鋼により形成されている。
基材31には、基材31の面方向、すなわち、同図の紙面に直交する方向に沿ってそれぞれ延在する第1凸部32及び第1凹部33が交互に設けられている。第1凸部32及び第1凹部33は複数設けられている。基材31の各第1凸部32は、発電部11、より詳しくはアノード側ガス拡散層15に当接している。
【0027】
第2セパレータ40は、金属板製の基材41を有している。本実施形態の基材41は、例えば、ステンレス鋼により形成されている。
基材41には、基材41の面方向、すなわち、同図の紙面に直交する方向に沿ってそれぞれ延在する第2凸部42及び第2凹部43が交互に設けられている。第2凸部42及び第2凹部43は複数設けられている。基材41の各第2凸部42は、発電部11、より詳しくはカソード側ガス拡散層16に当接している。
【0028】
第1セパレータ30の第1凹部33に対応する部分とアノード側ガス拡散層15とで区画される部分は、例えば、水素ガスなどの燃料ガスが流通されるガス流路とされている。
第2セパレータ40の第2凹部43に対応する部分とカソード側ガス拡散層16とで区画される部分は、例えば、空気などの酸化ガスが流通されるガス流路とされている。
【0029】
また、第1セパレータ30における第1凹部33の底部と、同第1セパレータ30に隣り合う第2セパレータ40の第2凹部43の底部とは、例えば、レーザ溶接などにより互いに接合されている。
【0030】
第1セパレータ30の第1凸部32の裏面に対応する部分と、第2セパレータ40の第2凸部42の裏面に対応する部分とで区画される部分は、冷却水が流通する冷却流路とされている。
【0031】
図2に示すように、セパレータ20における基材31,41のうち発電部11に対向する表面全体には、樹脂層50が設けられている。なお、樹脂層50は、基材31,41のうち上記表面とは反対側の表面には設けられていない。
【0032】
樹脂層50は、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性の樹脂50aを含んでいる。樹脂50aは、第2樹脂の一例である。
また、基材31,41の各凸部32,42の頂面には、樹脂層50を介して導電性を有する導電層60が設けられている。導電層60は、導電性炭素材61、導電性粒子62、熱硬化性の樹脂63、及び溶剤を含んでいる。樹脂63は、第1樹脂の一例である。
【0033】
本実施形態の導電性炭素材61は、例えば、グラファイト粒子である。本実施形態の導電性粒子62は、例えば、窒化チタンである。本実施形態の樹脂63は、例えば、エポキシ樹脂である。本実施形態の溶剤は、例えば、メチルエチルケトン(MEK)である。なお、窒化チタンは、基材31,41の表面に形成された酸化被膜31a,41aよりも硬度が高い。
【0034】
導電性炭素材61及び導電性粒子62は、導電層60の厚さ方向の全体にわたって樹脂63内において分散するとともに互いに接触している。また、導電性粒子62は、各凸部32,42の表面に形成された酸化被膜31a,41aを貫通して基材31,41に接触している。これらにより、各セパレータ30,40には、基材31,41、導電性炭素材61、及び導電性粒子62によって酸化被膜31a,41aを経由しない複数の導電経路が形成されている。
【0035】
次に、第1セパレータ30の製造方法について説明する。なお、第2セパレータ40の製造方法については、第1セパレータ30の製造方法と同一であるため説明を省略する。
図3に示すように、まず、導電性炭素材61の原料、導電性粒子62、樹脂63、及び溶剤を、例えばジェットミルなどの粉砕装置70に投入することで導電性炭素材61の原料を粉砕するとともに、粉砕された導電性炭素材61、導電性粒子62、樹脂63、及び溶剤を調合する。これにより、粉砕された導電性炭素材61と導電性粒子62とを樹脂63内において分散させた導電性塗料60aが生成される。
【0036】
ここで、
図4を参照して、導電性塗料60aの粘度の測定結果について説明する。ここでは、本実施形態の導電性塗料60aを実施例とし、窒化チタンとエポキシ樹脂とを含む導電性塗料を比較例1として、それぞれの粘度を測定した。同図から、実施例の粘度は、比較例1の粘度よりも大きいことが分かる。これは、実施例では、導電性炭素材61の原料が粉砕されたものが樹脂63内に分散されているためであると考えられる。
【0037】
図5に示すように、次に、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂製のフィルム81の一方の面に対して、コータ90により導電性塗料60aを塗布することで導電膜60bを形成する。これにより、熱転写用シート80が製造される。
【0038】
図6に示すように、次に、基材31の発電部11に対向する表面の全体に、例えば、スプレーなどにより樹脂50aを含む樹脂層50を形成する。
図7に示すように、次に、熱転写装置110の固定型111上に、発電部11に対向する表面が上を向くようにして基材31を載置する。そして、導電膜60bを下向きにして熱転写用シート80を基材31の各第1凸部32上に載置する。
【0039】
図8に示すように、次に、可動型115を固定型111に向かって降下させることで、固定型111と可動型115とにより基材31及び熱転写用シート80を加圧する。これにより、
図2に示すように、導電性粒子62が樹脂層50及び基材31の酸化被膜31aを貫通して基材31に接触するようになる。
【0040】
図8に示すように、次に、固定型111及び可動型115にそれぞれ設けられた電熱線112,116に通電することにより、エポキシ樹脂である樹脂63及び樹脂50aの熱硬化温度よりも高い所定の温度まで基材31を加熱する。これにより、樹脂層50を熱硬化させるとともに、基材31の各凸部32の頂面に導電膜60bを熱転写して導電層60を形成する。
【0041】
図示は省略するが、最後に、可動型115を固定型111から離間させて熱転写装置110から第1セパレータ30を取り出す。
このようにして第1セパレータ30が製造される。
【0042】
次に、
図9を参照して、導電層60の接触抵抗の測定結果について説明する。ここでは、本実施形態の導電層60を実施例とし、比較例1の導電層、比較例2の導電層、及び比較例3の導電層における接触抵抗の測定結果について説明する。
【0043】
まず、比較例1~比較例3の構成について説明する。
比較例1は、窒化チタンと、エポキシ樹脂とを含んで構成されている。
比較例2は、グラファイト粒子と、エポキシ樹脂とを含んで構成されている。
【0044】
比較例3は、基材31,41の表面に形成され、窒化チタン及びエポキシ樹脂を含む第1層と、第1層の表面に形成され、グラファイト粒子及びエポキシ樹脂を含む第2層とにより構成されている、
なお、接触抵抗の測定は、表面に各導電層が形成された基材31,41の試験片を一対のカーボンクロスで挟持するとともに治具により所定の荷重を加えながら、所定の電流を印加したときの電圧を測定することで求めた。なお、上記カーボンクロスは、アノード側ガス拡散層15及びカソード側ガス拡散層16と同質の材料である。
【0045】
図9から、実施例の接触抵抗は、比較例1~比較例3の接触抵抗よりも低いことが分かる。
比較例1では、上述したように、実施例に比べて粘度が低くなる。このため、比較例1の導電層の形成において、窒化チタンがエポキシ樹脂内において沈降することで、窒化チタンが導電層の厚さ方向において偏在すると考えられる。
【0046】
比較例2では、窒化チタンよりも導電率が小さいグラファイト粒子同士による導電経路が形成されると考えられる。
比較例3では、窒化チタンは第1層に含まれており、グラファイト粒子は第2層に含まれている。このため、第1層では、窒化チタン同士による導電経路が形成され、第2層では、グラファイト粒子同士による導電経路が形成されると考えられる。
【0047】
実施例では、比較例1よりも粘度が高いため、グラファイト粒子(導電性炭素材61)及び窒化チタン(導電性粒子62)が導電層60の厚さ方向の全体にわたってエポキシ樹脂(樹脂63)内に分散しやすいと考えられる。これにより、上記厚さ方向の全体にわたってグラファイト粒子(導電性炭素材61)及び窒化チタン(導電性粒子62)を介した導電経路が形成されやすくなる。
【0048】
以上のことから、実施例の接触抵抗は、比較例1~比較例3の接触抵抗よりも低くなると考えられる。
本実施形態の作用について説明する。
【0049】
導電層60においては、導電性炭素材61及び導電性粒子62が、導電層60の厚さ方向の全体にわたって樹脂63内に分散するとともに互いに接触している。このため、導電層60の厚さ方向において、導電性炭素材61及び導電性粒子62を介した導電経路が形成されやすい。これにより、導電層60の導電性を高めることができる(以上、作用1)。
【0050】
また、導電層60を製造する過程においては、導電性炭素材61及び導電性粒子62を樹脂63内全体に分散させて生成した導電性塗料60aがフィルム81に塗布された熱転写用シート80を用いる。このため、基材31,41の各凸部32,42に形成された導電層60において、導電性炭素材61及び導電性粒子62が、当該導電層60の厚さ方向の全体にわたって分散しやすくなる。これにより、導電層60内において、導電性炭素材61と導電性粒子62とを介した導電経路が形成されやすくなる(以上、作用2)。
【0051】
また、導電性炭素材61、導電性粒子62、及び熱硬化性の樹脂63を含む導電性塗料60aをフィルム81の一方の面に塗布した場合、導電性粒子62が自重により下側、すなわちフィルム81側に沈降するおそれがある。
【0052】
ここで、導電性塗料60aにおいては、粉砕されることで微細になった導電性炭素材61が樹脂63内全体に分散されていることから、当該導電性塗料60aの粘度は、粉砕前の導電性炭素材61を含む導電性塗料60aの粘度よりも増加する。これにより、フィルム81の一方の面に塗布された導電性塗料60aにおいて、導電性粒子62がフィルム81側に沈降することを抑制できる(以上、作用3)。
【0053】
本実施形態の効果について説明する。
(1)セパレータ20は、複数の凸部32,42を有する金属板製の基材31,41と、導電性炭素材61、導電性粒子62、及び熱硬化性の樹脂63を含み、基材31,41の各凸部32,42の頂面に設けられた導電層60とを備える。導電性炭素材61及び導電性粒子62は、導電層60の厚さ方向の全体にわたって樹脂63内に分散するとともに互いに接触している。
【0054】
こうした構成によれば、上記作用1を奏することから、セパレータ20と発電部11との接触抵抗を低減することができる。
(2)セパレータ20の製造において、フィルム81に導電性塗料60aが塗布されることで導電膜60bが形成された熱転写用シート80を、各凸部32,42の頂面に当接させた状態で基材31,41に対して加圧するとともに加熱することにより、各凸部32,42の頂面に導電膜60bを熱転写して導電層60を形成するようにした。
【0055】
こうした方法によれば、上記作用2を奏することから、セパレータ20と発電部11との接触抵抗を低減することができる。
(3)導電性炭素材61の原料を粉砕するとともに、当該粉砕された導電性炭素材61、導電性粒子62、及び樹脂63を調合することにより導電性塗料60aを生成するようにした。
【0056】
こうした方法によれば、上記作用3を奏することから、粉砕された導電性炭素材61と導電性粒子62とを熱硬化性の樹脂63内全体に分散させた導電性塗料60aを容易に生成することができ、当該導電性塗料60aがフィルム81に塗布されている熱転写用シート80を容易に製造することができる。
【0057】
(4)各凸部32,42の頂面に導電膜60bを熱転写して導電層60を形成するに先立ち、基材31,41のうち発電部11に対向する表面の全体に熱硬化性の樹脂50aを含む樹脂層50を形成するようにした。
【0058】
こうした方法によれば、基材31,41のうち発電部11に対向する表面の全体に樹脂層50が形成された後に、当該基材31,41の各凸部32,42に対して導電層60が形成される。ここで、導電層60に含まれる第1樹脂としての樹脂63と、樹脂層50に含まれる第2樹脂としての樹脂50aとは共に熱硬化性の樹脂であるため、基材31,41を加熱することにより樹脂63と樹脂50aとが共に熱硬化する。このようにして形成されたセパレータ20によれば、発電部11に対向する表面の全体が樹脂層50によって覆われるため、基材31,41の上記表面からのイオンの溶出が抑制される。
【0059】
(5)熱転写用シート80の製造において、熱硬化性の樹脂63内全体に導電性炭素材61及び導電性粒子62を分散させて生成した導電性塗料60aをフィルム81の一方の面に塗布することで導電膜60bを形成するようにした。
【0060】
こうした方法によれば、上記効果(2)に準じた効果を奏することができる。
<第2実施形態>
以下、
図10~
図13を参照して、燃料電池用セパレータ、燃料電池用セパレータの製造方法、及び熱転写用シートの製造方法の第2実施形態について、第1実施形態との相異点を中心に説明する。
【0061】
なお、第2実施形態において、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付すとともに、第1実施形態と対応する構成については、第1実施形態の符号「**」に「200」を加算した「2**」を付すことにより、重複する説明を省略する。
【0062】
各図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率については実際と異なる場合がある。
図10に示すように、セパレータ220は、基材31,41の各凸部32,42の頂面にのみ樹脂層250が設けられている。なお、本実施形態の基材31,41は、例えば、チタン合金により形成されている。
【0063】
樹脂層250は、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性の樹脂250aを含んでいる。樹脂250aは、第2樹脂の一例である。
また、基材31,41の各凸部32,42の頂面には、樹脂層250を介して導電層60が設けられている。
【0064】
次に、第1セパレータ230の製造方法について説明する。なお、第2セパレータ240の製造方法については、第1セパレータ230の製造方法と同一であるため説明を省略する。また、第1実施形態と同様な工程についての説明を省略する。
【0065】
図11に示すように、フィルム81の一方の面に対して、コータ290により導電性塗料60aを塗布することで導電膜60bを形成する。
次に、導電膜60bの表面に樹脂250aを含む樹脂塗料250bを塗布する。これにより、熱転写用シート280が製造される。
【0066】
図12に示すように、次に、樹脂塗料250bを下向きにして熱転写用シート280を基材31の各第1凸部32上に載置する。
図13に示すように、次に、可動型115を固定型111に向かって降下させることで、固定型111と可動型115とにより、基材31及び熱転写用シート280を加圧するとともに加熱する。これにより、
図9に示すように、各第1凸部32の頂面に樹脂塗料250bと導電膜60bとを熱転写して樹脂層250と導電層60とを形成する。
【0067】
このようにして、第1セパレータ230が製造される。
本実施形態の作用について説明する。
導電性塗料60aと樹脂塗料250bとがフィルム81に塗布されている熱転写用シート280を用いることにより、基材31,41の各凸部32,42の頂面に樹脂層250と導電層60とが形成される。導電層60は樹脂層250を介して基材31,41の各凸部32,42に形成されるため、基材31,41の各凸部32,42の頂面と導電層60との密着性を高めることができる。これにより、基材31,41の各凸部32,42の表面と、導電層60との間に空隙が生じることを抑制できる(以上、作用4)。
【0068】
本実施形態の効果について説明する。
本実施形態のセパレータ220、セパレータ220の製造方法、及び熱転写用シート280の製造方法によれば、第1実施形態における効果(1)~(3)及び(5)に加えて、新たに以下に示す効果が得られるようになる。
【0069】
(6)セパレータ220の製造において、フィルム81の導電性塗料60aの表面に熱硬化性の樹脂250aを含む樹脂塗料250bを塗布するようにした。
こうした方法によれば、上記作用4を奏することから、セパレータ220と発電部11との接触抵抗を低減することができる。
【0070】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・樹脂層50を基材31,41の両面に形成するようにしてもよい。
【0071】
・樹脂層50の形成を省略して、基材31,41の各凸部32,42の頂面に導電層60を直接形成することもできる。また、樹脂層250の形成を省略して、基材31,41の各凸部32,42の頂面に導電層60を直接形成することもできる。
【0072】
・第1樹脂としての樹脂63と、第2樹脂としての樹脂50aとは異なる種類の熱硬化性の樹脂であってもよい。また、第1樹脂としての樹脂63と、第2樹脂としての樹脂250aとは異なる種類の熱硬化性の樹脂であってもよい。
【0073】
・導電性炭素材61の原料のみを粉砕装置70により粉砕した後に、粉砕された導電性炭素材61、導電性粒子62、樹脂63、及び溶剤を調合するようにしてもよい。
・所定の大さを有する導電性炭素材61を予め用意するとともに、当該導電性炭素材61、導電性粒子62、樹脂63、及び溶剤を調合することにより導電性塗料60aを生成するようにしてもよい。
【0074】
・粉砕装置70により導電性粒子62を粉砕するようにしてもよい。
・粉砕装置としては、例えばビーズミルなど、ジェットミル以外の装置を採用することもできる。
【0075】
・グラファイト粒子に加えて、あるいは、これに代えて、カーボンブラックなどの他の導電性炭素材を用いることもできる。
・窒化チタンに代えて、炭化チタンや硼化チタンなどの他の導電性粒子を用いることもできる。
【0076】
・基材31,41をステンレス鋼、やチタン合金以外の他の金属板材により形成することもできる。こうした金属としては、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金などが挙げられる。
【0077】
・樹脂63,50a,250aは、エポキシ樹脂に限定されず、他に例えば、フェノール樹脂などの他の熱硬化性樹脂であってもよい。
【符号の説明】
【0078】
10…単セル、11…発電部、12…膜電極接合体、13…電解質膜、14…電極触媒層、15…アノード側ガス拡散層、16…カソード側ガス拡散層、20…セパレータ、30…第1セパレータ、31…基材、31a…酸化被膜、32…第1凸部、33…第1凹部、40…第2セパレータ、41…基材、41a…酸化被膜、42…第2凸部、43…第2凹部、50…樹脂層、50a…樹脂、60…導電層、60a…導電性塗料、60b…導電膜、61…導電性炭素材、62…導電性粒子、63…樹脂、70…粉砕装置、80…熱転写用シート、81…フィルム、90…コータ、100…スタック、110…熱転写装置、111…固定型、112…電熱線、115…可動型、116…電熱線、220…セパレータ、230…第1セパレータ、240…第2セパレータ、250…樹脂層、250a…樹脂、250b…樹脂塗料、280…熱転写用シート、290…コータ。