(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、および繊維強化複合材料ならびにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20230322BHJP
C08G 59/38 20060101ALI20230322BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20230322BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
C08G59/38
C08G59/50
C08L63/00 Z
(21)【出願番号】P 2019533239
(86)(22)【出願日】2019-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2019023849
(87)【国際公開番号】W WO2020008847
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2018128729
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019002431
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本遠 和範
(72)【発明者】
【氏名】富岡 伸之
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-150310(JP,A)
【文献】特開2003-277532(JP,A)
【文献】特開2003-103519(JP,A)
【文献】特開2017-159652(JP,A)
【文献】特開2013-181112(JP,A)
【文献】特開平02-198815(JP,A)
【文献】特表2017-506279(JP,A)
【文献】特開2016-147925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04- 5/10、 5/24
B29B 11/16、 15/08- 15/14
B29C 39/00- 39/44、 70/00- 70/88
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08G 59/00- 59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に注入し、含浸させ、該成形型内で硬化する繊維強化複合材料の製造に用いられる、エポキシ樹脂と硬化剤から成るエポキシ樹脂組成物であって、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン[A]が、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して70質量部以上90質量部以下含まれ、4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)[B]が、全硬化剤成分100質量部に対して80質量部以上100質量部以下含まれ、ビスフェノールF型エポキシ樹脂[C]が、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して10質量部以上
25質量部以下含まれており、かつ、30℃および80℃の樹脂粘度をη
30、η
80(単位:mPa・s)とするとき、200≦η
30/η
80≦500、かつ、 50≦ η
80≦180を満たす繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
強化繊維基材が不織布形態のバインダーで連結されたプリフォームである、請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記不織布形態のバインダーの付着量が、強化繊維基材の片面当たり0.5~15g/m
2
の目付となる付着量である、請求項2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維である、請求項1
~3のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
シェル部分にエポキシ基を含むコアシェルゴム粒子を含み、前記コアシェルゴム粒子の体積平均粒子径が50nm以上300nm以下の範囲内にある、請求項1~
4のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基総数(E)と硬化剤中に含まれるアミン化合物の活性水素総数(H)との比であるH/Eが1.1以上1.4以下である、請求項1~
5のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
180℃で40分間硬化したエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度Tgが、180℃以上200℃以下である、請求項1~
6のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
50℃以上120℃以下に加熱した請求項1~
7のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を、90℃以上180℃以下に加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に注入し、含浸させ、該成形型内で硬化する繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項9】
強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維である、請求項
8に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項10】
強化繊維基材が不織布形態のバインダーで連結されたプリフォームである、請求項
8または
9に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物のエポキシ樹脂硬化物と強化繊維基材とが組み合わされてなる、繊維強化複合材料。
【請求項12】
強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維である、請求項
11に記載の繊維強化複合材料。
【請求項13】
強化繊維基材が不織布形態のバインダーで連結されたプリフォームである、請求項
11または
12に記載の繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空・宇宙用部材、自動車用部材等の繊維強化複合材料に好適に用いられる繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物、およびそれを用いた繊維強化複合材料ならびにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂の利点を生かした材料設計が出来るため、航空宇宙分野を始め、スポーツ分野、一般産業分野等に用途が拡大されている。
【0003】
強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等が用いられる。マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも用いられるが、強化繊維への含浸が容易な熱硬化性樹脂が用いられることが多い。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂等が用いられる。
【0004】
繊維強化複合材料の成形方法としては、プリプレグ法、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法、RTM(Resin Transfer Molding)法等の方法が適用される。プリプレグ法は、強化繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸したプリプレグを所望の形状に積層し、加熱することによって成形物を得る方法である。しかし、このプリプレグ法は航空機や自動車等の構造材用途で要求される高い材料強度を有する繊維強化複合材料の生産には向いているが、プリプレグの作製、積層等の多くのプロセスを経ることを必要とするため、少量生産しかできず、大量生産には不向きであり、生産性に問題がある。一方、RTM法は、加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に液状のエポキシ樹脂組成物を注入し、含浸させ、該成形型内で加熱硬化して成形物を得る方法である。この方法であれば成形型を用意することで、プリプレグ作製工程を介さずに短時間で繊維強化複合材料を成形できるだけでなく、複雑な形状の繊維強化複合材料でも容易に成形が可能という利点もある。
【0005】
液状のエポキシ樹脂組成物としては、1液型あるいは2液型エポキシ樹脂組成物が用いられる。1液型エポキシ樹脂組成物とは、エポキシ樹脂、硬化剤を含め、全ての成分が1つに予め混合されたエポキシ樹脂組成物のことである。それに対し、エポキシ樹脂を主成分として含むエポキシ主剤液と硬化剤を主成分として含む硬化剤液とから構成され、使用直前にエポキシ主剤液と硬化剤液の2液を混合して得られるエポキシ樹脂組成物を2液型エポキシ樹脂組成物という。
【0006】
2液型エポキシ樹脂組成物の場合、エポキシ主剤液および硬化剤液共に液状のものとする必要があるため、原料の選択に制限がある。また、エポキシ主剤液と硬化剤液を混合し、金型内に注入する高価な混合注入機が必要となるため、設備投資にかかるコストが大きい。一方で、1液型エポキシ樹脂組成物では、硬化剤成分として高力学特性を発現可能な固形状のものも選択可能であり、さらにエポキシ樹脂と硬化剤の混合工程を必要としないため、混合注入機の設備投資も不要となる。
【0007】
前記した理由からRTM法においては、1液型エポキシ樹脂組成物が用いられることが多いが、高いレベルでの生産性を実現するためには、単に樹脂の硬化時間が短いというばかりでなく、次に挙げる4つの条件を一挙に満たすものであることが具体的に求められる。1つ目に、1液型エポキシ樹脂組成物は輸送中にも硬化反応が進行するため冷凍輸送が必要となるが、その際、取扱性の観点から容器内で樹脂組成物が動かないよう高粘度であること、2つ目に、樹脂組成物が常温保持下でも長時間粘度の上昇が抑えられ安定であること、3つ目に、強化繊維基材への樹脂注入工程の際、樹脂組成物が低粘度であり、含浸性に優れること、4つ目に、180℃の高温で十分な高速硬化ができ、かつ成形後の脱型工程の際、樹脂が十分硬化しており、高耐熱性が付与されることで歪みを生じることが無くスムーズに脱型でき、成形品に高い寸法精度が得られることである。
【0008】
このような現状に対し、硬化剤としてメチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)(M-CDEA)を含む1液型エポキシ樹脂組成物が開示されており、長時間粘度の上昇を抑えられる方法が提案されている(特許文献1)。さらに、フルオレンアミン硬化剤が一部固体として分散した1液型エポキシ樹脂組成物が開示されており、長時間粘度の上昇を抑えられる方法が提案されている(特許文献2)。また、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを含む主剤液とジアミノジフェニルスルホンを含む硬化剤液から成る2液型エポキシ樹脂組成物が開示されており、含浸性に優れ、180℃で十分な高速硬化ができ、かつ成形後の脱型工程の際、樹脂が十分硬化しており、高耐熱性を付与できる方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5808057号公報
【文献】特表平11-511503号公報
【文献】特許第4396274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の特許文献1に記載の方法では、長時間粘度の上昇を抑えることが可能になるものの、樹脂組成物が高粘度であるため、含浸性が不十分であり、また、反応性が低いメチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)(M-CDEA)を含むため、180℃の高温での硬化性も低く、短時間では十分な高耐熱性が発現しないという課題があった。
【0011】
前述の特許文献2に記載の方法では、長時間粘度の上昇を抑えることが可能になるものの、一部固体として分散しているフルオレンアミン硬化剤が凝集する場合があり、その際は冷凍輸送時に低粘度な樹脂相が容器内で動くため、取扱性が悪く、また、樹脂組成物としては高粘度であるため、含浸性が不十分であり、さらに、フルオレンアミン硬化剤の融点が201℃と非常に高く、180℃の高温でも一部溶け残る場合があり、硬化不良を生じ、十分な高耐熱性が発現しないという課題があった。
【0012】
前述の特許文献3に記載の方法では、含浸性に優れ、180℃で十分な高速硬化ができ、かつ成形後の脱型工程の際、樹脂が十分硬化しており、高耐熱性を付与できるため、スムーズに脱型できるものの、2液型エポキシ樹脂組成物は主剤液、硬化剤液共に液状で低粘度であるため、冷凍輸送時に容器内で各液が動いて、取扱性が十分良好とまでは言えない場合があった。
【0013】
このように、従来技術では、前記4つの条件を全て満たすことは困難であるという問題があり、特に1つ目の冷凍輸送時の樹脂取扱性を改善する技術は存在しなかった。そこで、本発明の目的は、斯かる従来技術の欠点を改良し、冷凍輸送時の取扱性が良好で、常温保持下でも長時間粘度の上昇が抑えられ安定であり、強化繊維への含浸性に優れ、180℃の高温で十分な高速硬化ができ、かつ成形後の脱型工程の際、樹脂が十分硬化しており、高耐熱性が付与されることで、スムーズに脱型できるエポキシ樹脂組成物を提供することにある。さらには、かかるエポキシ樹脂組成物を用いることで、湿熱時の0°圧縮強度に優れた繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は次の構成を有する。すなわち、加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に注入し、含浸させ、該成形型内で硬化する繊維強化複合材料の製造に用いられる、エポキシ樹脂と硬化剤から成るエポキシ樹脂組成物であって、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン[A]が、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して70質量部以上90質量部以下含まれ、4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)[B]が、全硬化剤成分100質量部に対して80質量部以上100質量部以下含まれ、ビスフェノールF型エポキシ樹脂[C]が、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して10質量部以上30質量部以下含まれており、かつ、30℃および80℃の樹脂粘度をη30、η80(単位:mPa・s)とするとき、200≦η30/η80≦500、かつ、 50≦ η80≦180を満たす繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物である。
【0015】
また、本発明の繊維強化複合材料は、前記エポキシ樹脂組成物のエポキシ樹脂硬化物と強化繊維基材とが組み合わされてなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、冷凍輸送時の取扱性が良好で、常温保持下でも長時間粘度の上昇が抑えられ安定であり、含浸性に優れ、180℃の高温で十分な高速硬化ができ、かつ成形後の脱型工程の際、樹脂が十分硬化しており、高耐熱性が付与されることで、スムーズに脱型でき、湿熱時の0°圧縮強度が高い繊維強化複合材料が得られる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、説明する。
【0018】
まず、本発明における繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物について説明する。
【0019】
本発明における繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に注入し、含浸させ、該成形型内で硬化する繊維強化複合材料の製造に用いられる、エポキシ樹脂と硬化剤から成るエポキシ樹脂組成物であって、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン[A]が、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して70質量部以上90質量部以下含まれ、4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)[B]が、全硬化剤成分100質量部に対して80質量部以上100質量部以下含まれ、ビスフェノールF型エポキシ樹脂[C]が、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して10質量部以上30質量部以下含まれており、かつ、30℃および80℃の樹脂粘度をη30、η80(単位:mPa・s)とするとき、200≦η30/η80≦500、かつ、 50≦ η80≦180を満たす。
【0020】
[A]、[B]、[C]が上記質量部含まれ、かつ上記の粘度範囲を満たす樹脂組成物により、従来技術では困難であった冷凍輸送時の取扱性の改善を実現し、かつ常温保持下でも長時間粘度の上昇が抑えられ安定であり、含浸性に優れ、180℃の高温で十分な高速硬化ができる。さらに、成形後の脱型工程の際、樹脂が十分硬化しており、高耐熱性が付与されることで、スムーズに脱型でき、得られる繊維強化複合材料の湿熱時の0°圧縮強度の向上も実現できる。
【0021】
本発明における[A]は、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンである。[A]は、エポキシ樹脂硬化物および繊維強化複合材料に高い耐熱性や機械特性を与えるために必要な成分である。ここで[A]のテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンとは、N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、またはこれらの誘導体もしくは異性体を意味する。例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’,5,5’-テトライソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’,5,5’-テトラ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジブロモ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、等を挙げることができる。また、[A]として、これらのテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを2種類以上組み合わせて使用しても構わない。
【0022】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学工業(株)製)、YH434L(新日鉄住金化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、“アラルダイト(登録商標)”MY721(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)等を使用することができる。
【0023】
本発明における[A]は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して70質量部以上90質量部以下含まれていることが必要である。全エポキシ樹脂成分100質量部に対して、[A]が70質量部以上含まれる場合は、エポキシ樹脂硬化物が高い耐熱性を発現し、かつ繊維強化複合材料の湿熱時の0°圧縮強度が向上する。また、[A]が90質量部以下含まれる場合は、樹脂含浸温度における樹脂組成物の粘度が低減し、強化繊維基材への含浸性が向上する。かかる観点から、80質量部以上90質量部以下の範囲内であることが好ましい。なお、本発明において、エポキシ樹脂硬化物とは、エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物を指す。
【0024】
本発明における[C]は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂である。[C]は、樹脂含浸温度における樹脂組成物の粘度を低減し、強化繊維基材への含浸性を向上させるために必要な成分である。また、[C]は、エポキシ樹脂硬化物および繊維強化複合材料に高い機械特性を与えるために必要な成分である。ここで[C]のビスフェノールF型エポキシ樹脂とは、ビスフェノールFの2つのフェノール性水酸基がグリシジル化された構造を有するものである。
【0025】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807、“jER(登録商標)”1750、“jER(登録商標)”4004P、“jER(登録商標)”4007P、“jER(登録商標)”4009P(以上三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF-170、“エポトート(登録商標)”YDF2001、“エポトート(登録商標)”YDF2004(以上新日鐵住金化学(株))などが挙げられる。また、アルキル置換体であるテトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“エポトート(登録商標)”YSLV-80XY(新日鐵住金化学(株))などが挙げられる。
【0026】
本発明における[C]は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して10質量部以上30質量部以下含まれていることが必要である。全エポキシ樹脂成分100質量部に対して[C]が10質量部以上含まれる場合は、樹脂含浸温度における樹脂組成物の粘度を低減し、強化繊維基材への含浸性を向上させ、未含浸を防ぐことが出来、さらにエポキシ樹脂硬化物において高い靭性及び弾性率を発現する。また、[C]が30質量部以下である場合は、高い耐熱性を発現する。かかる観点から、[C]の含有量は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して10質量部以上25質量部以下の範囲内であることが好ましい。
【0027】
また、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、[A]、[C]以外のエポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して20質量部以下であれば含んでも良い。かかる[A]、[C]以外のエポキシ樹脂としては、[C]を除くビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、トリグリシジルアミン型エポキシ樹脂等から選択される1種以上のエポキシ樹脂が挙げられる。[A]、[C]以外のエポキシ樹脂は、1種類含まれていても2種類以上含まれていても良い。
【0028】
[A]、[C]以外のエポキシ樹脂としては、より具体的には、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、2,2’,6,6’-テトラメチル-4,4’-ビフェノールジグリシジルエーテル、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのジグリシジルエーテル、トリス(p-ヒドロキシフェニル)メタンのトリグリシジルエーテル、テトラキス(p-ヒドロキシフェニル)エタンのテトラグリシジルエーテル、フェノールノボラックグリシジルエーテル、クレゾールノボラックグリシジルエーテル、フェノールとジシクロペンタジエンの縮合物のグリシジルエーテル、ビフェニルアラルキル樹脂のグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、5-エチル-1,3-ジグリシジル-5-メチルヒダントイン、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンイソシアネートの付加により得られるオキサゾリドン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、トリグリシジルアミノフェノール等が挙げられる。その中でも[C]を除くビスフェノール型エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂硬化物の靭性、耐熱性のバランスに優れた寄与を与えるため好ましく用いられる。特に液状ビスフェノール型エポキシ樹脂は強化繊維への含浸性に優れた寄与を与えるため、[A]、[C]以外のエポキシ樹脂として、好ましく用いられる。なお、本発明において、「液状」とは、25℃における粘度が1000Pa・s以下であることを指す。また、「固体状」とは、25℃において流動性をもたない、もしくは極めて流動性が低く、具体的には25℃における粘度が1000Pa・sより大きいことを指す。ここで、粘度は、JIS Z8803(1991)における「円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法」に従い、標準コーンローター(1°34’×R24)を装着したE型粘度計(例えば、(株)トキメック製TVE-30H)を使用して測定する。
【0029】
ここで、[C]を除くビスフェノール型エポキシ樹脂とは、ビスフェノールFを除くビスフェノール化合物の2つのフェノール性水酸基がグリシジル化されたものである。[C]を除くビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらビスフェノール化合物のハロゲン、アルキル置換体、水添品等の2つのフェノール性水酸基がグリシジル化されたものも含まれる。また、ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、単量体に限らず、複数の繰り返し単位を有する高分子量体も好適に使用することができる。エポキシ樹脂硬化物の靭性、耐熱性のバランスの観点から、[C]を除くビスフェノール型エポキシ樹脂を含有させる場合、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して20質量部以下が好ましい。
【0030】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825、“jER(登録商標)”826、“jER(登録商標)”827、“jER(登録商標)”828、“jER(登録商標)”834、“jER(登録商標)”1001、“jER(登録商標)”1002、“jER(登録商標)”1003、“jER(登録商標)”1004、“jER(登録商標)”1004AF、“jER(登録商標)”1007、“jER(登録商標)”1009(以上三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”850(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD-128(新日鐵住金化学(株)製)、“DER(登録商標)”-331、“DER(登録商標)”-332(ダウケミカル社製)などが挙げられる。
【0031】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”EXA-1515(DIC(株)製)などがあげられる。
【0032】
本発明における[B]は、4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)である。[B]は、樹脂組成物の高速硬化を実現し、エポキシ樹脂硬化物および繊維強化複合材料に高い機械特性を与えるために必要な成分である。かかる4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)の市販品としては、“Lonzacure(登録商標)”M-MIPA(Lonza(株)製)などが挙げられる。
【0033】
本発明における[B]は、全硬化剤成分100質量部に対して80質量部以上100質量部以下含まれていることが必要である。全硬化剤成分100質量部に対して、[B]が80質量部以上含まれる場合は、180℃での高温時の高速硬化性が発現する。また、-20℃での低温粘度が高く、冷凍輸送時の取扱性が良好である。さらに25℃での常温粘度も高く、エポキシ及び硬化剤の分子運動が抑制され、硬化反応が抑制される。そのため、常温保持下でも長時間粘度の上昇が抑えられ安定となる。また、一方で80℃での樹脂含浸温度での粘度は十分低く、含浸性が良好である。さらに、繊維強化複合材料の湿熱時の0°圧縮強度が向上する。かかる観点から、[B]の含有量は、全硬化剤成分100質量部に対して90質量部以上100質量部以下の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
また、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、[B]以外の硬化剤として、エポキシ樹脂と反応しうる活性基を有する化合物を、全硬化剤成分100質量部に対して20質量部未満であれば含んでも良い。エポキシ樹脂と反応しうる活性基としては、例えば、アミノ基、酸無水基などが挙げられる。エポキシ樹脂組成物は保存安定性が高いほど好ましいが、一般的に液状の硬化剤は反応性が高いため、[B]以外の硬化剤は、室温で固形であることが好ましい。
【0035】
[B]以外の硬化剤は、芳香族アミンであることが好ましい。また、[B]以外の硬化剤は、耐熱性、および機械特性の観点から、分子内に1~4個のフェニル基を有することがより好ましい。さらに、分子骨格の屈曲性を付与することで樹脂弾性率が向上し、機械特性向上に寄与できることから、エポキシ樹脂の硬化剤の骨格に含まれる少なくとも1個のフェニル基が、オルト位またはメタ位にアミノ基を有するフェニル基である芳香族ポリアミン化合物であることがさらに好ましい。
【0036】
芳香族ポリアミン化合物の具体例をあげると、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、メタキシリレンジアミン、ジフェニル-p-ジアニリンやこれらのアルキル置換体などの各種誘導体やアミノ基の位置の異なる異性体などが挙げられる。これらの硬化剤は単独もしくは2種類以上を併用することができる。中でも、エポキシ樹脂硬化物に高い耐熱性を与える面からジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンが好ましい。
【0037】
芳香族ポリアミン化合物の硬化剤の市販品としては、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、MDA-220(三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”W(三菱化学(株)製)、および3,3’-DAS(三井化学(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M-DEA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M-DIPA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M-CDEA(Lonza(株)製)および“Lonzacure(登録商標)”DETDA 80(Lonza(株)製)などが挙げられる。
【0038】
本発明において、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基総数(E)と硬化剤中に含まれるアミン化合物の活性水素総数(H)との比であるH/Eは1.1以上1.4以下であることが好ましい。H/Eは、1.2以上1.3以下であることがより好ましい。H/Eが1.1以上である場合は、良好な硬化性向上の効果およびエポキシ樹脂硬化物の塑性変形能力向上の効果が得られやすくなる。また、H/Eが1.4以下である場合は、高い耐熱性を発現しやすくなる。
【0039】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、コアシェルゴム粒子を含んでいても良い。コアシェルゴム粒子は繊維強化複合材料に高い靭性を与えやすい点で優れている。ここでコアシェルゴム粒子とは、架橋ゴム等のポリマーを主成分とする粒子状のコア部分と、コア部分とは異なるポリマーをグラフト重合するなどの方法でコア表面の一部あるいは全体を被覆した粒子を意味する。
【0040】
前記コアシェルゴム粒子のコア部分を構成する成分としては、共役ジエン系モノマー、アクリル酸エステル系モノマー、メタクリル酸エステル系モノマーより選ばれる1種または複数種から重合されたポリマー、またはシリコーン樹脂などが挙げられる。共役ジエン系モノマーの具体例としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンが挙げることができる。コア部分を構成する成分として用いられるポリマーは、これらの共役ジエン系モノマーを単独でもしくは複数種用いて構成される架橋したポリマーであることが好ましい。特に得られる重合体の性質が良好であり、重合が容易であることから、かかる共役ジエン系モノマーとしてブタジエンを用いること、すなわち、コア部分を構成する成分として用いられるポリマーは、ブタジエンを含むモノマーから重合されたポリマーであることが好ましい。
【0041】
コアシェルゴム粒子のシェル部分は、前記したコア部分にグラフト重合されており、コア部分を構成するポリマー粒子と化学結合していることが好ましい。かかるシェル部分を構成する成分としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物等から選ばれた1種または複数種から重合された重合体が挙げられる。また、該シェル部分を構成する成分には、分散状態を安定化させるために、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に含まれる成分、すなわちエポキシ樹脂またはその硬化剤と反応する官能基が導入されていることが好ましい。このような官能基が導入されている場合、エポキシ樹脂との親和性が向上し、また最終的にはエポキシ樹脂組成物と反応してエポキシ樹脂硬化物に取り込まれることが可能であるため、良好な分散性が達成できる。この結果、少量の配合でも十分な靱性向上効果が得られ、ガラス転移温度Tg、弾性率を維持しつつの靱性向上が可能となる。かかる官能基としては、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基が挙げられる。中でも、該シェル成分と本発明のエポキシ樹脂組成物との親和性を高め、良好な分散性が発現可能となる点でエポキシ基が好ましい。すなわち、前記コアシェルゴム粒子は、シェル部分にエポキシ基を含むコアシェルゴム粒子であることが好ましい。
【0042】
このような官能基をシェル部分に導入する方法としては、このような官能基を含むアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類等の一種類または複数の成分を、モノマーの一部成分としてコア表面にグラフト重合するなどの方法が挙げられる。
【0043】
コアシェルゴム粒子は、体積平均粒子径が50nm以上300nm以下であることが好ましく、50nm以上150nm以下であることがより好ましい。なお、体積平均粒子径はナノトラック粒度分布測定装置(日機装(株)製、動的光散乱法)を用いて測定することができる。あるいは、マイクロトームで作成したエポキシ樹脂硬化物の薄切片をTEM観察し、得られたTEM像から画像処理ソフトを用いて体積平均粒子径を測定することもできる。この場合、少なくとも100個以上の粒子の平均値を用いることが必要である。体積平均粒子径が50nm以上の場合、コアシェルゴム粒子の比表面積が適度に小さくエネルギー的に有利になるため凝集が起きにくく、靱性向上効果が高い。一方、体積平均粒子径が300nm以下の場合、コアシェルゴム粒子間の距離が適度に小さくなり、靱性向上効果が高い。
【0044】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、シェル部分にエポキシ基を含むコアシェルゴム粒子を含み、前記コアシェルゴム粒子の体積平均粒子径が50nm以上300nm以下の範囲内にあることが、より好ましい。繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物が、かかる条件を満たすコアシェルゴム粒子を含むことにより、エポキシ樹脂組成物中に特に一様に良好に分散しやすくなり、優れた靭性向上効果を発現しやすくなる。
【0045】
コアシェルゴム粒子の製造方法については特に制限はなく、公知の方法で製造されたものを使用できる。コアシェルゴム粒子の市販品としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる“パラロイド(登録商標)”EXL-2655(Rohm&Haas社製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる“スタフィロイド (登録商標)”AC-3355、TR-2122(ガンツ化成(株)製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合物からなる“パラロイド(PARALOID)(登録商標)”EXL-2611、EXL-3387(Rohm&Haas社製)等を使用することができる。また、スタフィロイドIM-601、IM-602(以上ガンツ化成(株)製)等の、ガラス転移温度が室温以上のガラス状ポリマーのコア層をTgの低いゴム状ポリマーの中間層で被い、さらにその周りをシェル層で被った、3層構造を有するコアシェルゴム粒子も使用することができる。通常、これらのコアシェルゴム粒子は塊状で取り出されたものを粉砕して粉体として取り扱われており、粉体状コアシェルゴムを再度熱硬化性樹脂組成物中に分散させることが多い。しかしながら、この方法では粒子を凝集のない状態、すなわち一次粒子の状態で安定に分散させることが難しいという問題がある。この問題に対して、コアシェルゴム粒子の製造過程から一度も塊状で取り出すことなく、最終的には熱硬化性樹脂の一成分、例えばエポキシ樹脂中に一次粒子で分散したマスターバッチの状態で取り扱うことができるものを用いることで、好ましい分散状態を得ることができる。このようなマスターバッチの状態で取り扱えるコアシェルゴム粒子としては、例えば、特開2004-315572号公報に記載の方法で製造することができる。この製造方法では、まず、コアシェルゴムを乳化重合、分散重合、懸濁重合に代表される水媒体中で重合する方法を用いてコアシェルゴム粒子が分散した懸濁液を得る。次に、かかる懸濁液に水と部分溶解性を示す有機溶媒、例えばアセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒や、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒を混合後、水溶性電解質、例えば塩化ナトリウムや塩化カリウムを接触させ、有機溶媒層と水層を相分離させ、水層を分離除去して得られたコアシェルゴム粒子が分散した有機溶媒を得る。その後、エポキシ樹脂を混合した後、有機溶媒を蒸発除去し、コアシェルゴム粒子がエポキシ樹脂中に一次粒子の状態で分散したマスターバッチを得る。かかる方法で製造されたコアシェルゴム粒子分散エポキシマスターバッチとしては、(株)カネカから市販されている“カネエース(登録商標)”を用いることができる。
【0046】
コアシェルゴム粒子は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1質量部以上8質量部以下であることがより好ましい。1質量部以上とした場合、高靱性のエポキシ樹脂硬化物が得られやすい。また、10質量部以下とした場合、高弾性率のエポキシ樹脂硬化物が得られやすく、さらに樹脂中のコアシェルゴム粒子の分散性も良好となりやすい。
【0047】
繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物にコアシェルゴム粒子を混合する方法としては、一般に用いられる分散方法を用いることが出来る。例えば三本ロール、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ホモジナイザー、自転・公転ミキサーなどを用いる方法があげられる。また、前述のコアシェルゴム粒子分散エポキシマスターバッチを混合する方法も好ましく用いることが出来る。ただし、一次粒子の状態で分散していても、必要以上の加熱や粘度の低下によって再凝集が起こることがある。したがって、コアシェルゴム粒子の分散・配合、および分散後に他成分と混合・混練する場合は、コアシェルゴム粒子の再凝集が起こらない温度・粘度の範囲で行うことが好ましい。具体的には、組成物により異なるが、例えば、150℃以上の温度で混練した場合、組成物の粘度が下がり凝集が起こる可能性があるので、それより低い温度で混練することが好ましい。ただし、硬化プロセス中で150℃以上に達する場合については、昇温時にゲル化が伴って再凝集が妨げられるから、150℃を超えることが出来る。
【0048】
本発明において繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物のE型粘度計で測定した30℃および80℃の樹脂粘度をη30、η80(単位:mPa・s)とするとき、200≦η30/η80≦500、かつ、 50≦ η80≦180を満たす必要がある。200≦η30/η80≦500である場合は、-20℃での低温粘度が十分高く、冷凍輸送時の取扱性が良好で、さらに25℃での常温粘度も十分高く、エポキシ及び硬化剤の分子運動が抑制され、硬化反応が抑制される。そのため、各成分を混合し、1分間攪拌後の粘度をη25(T0)、25℃で1ヶ月間静置後の粘度をη25(T1)としたとき、25℃で1ヶ月間静置後の粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)が1.10以下となり、常温保持下でも長時間粘度の上昇が抑えられ安定となる。一方で、80℃での樹脂含浸温度での粘度は十分低く、含浸性が良好となり、粘度の温度依存性が高く、相反する特性を両立することが出来る。また、η80が50mPa・s以上である場合は、樹脂含浸温度での粘度が低くなりすぎず、強化繊維基材への注入時に空気を巻き込んで発生するピットによる未含浸を防ぐことができる。また、η80が180mPa・s以下である場合は、樹脂含浸温度における粘度が十分低いため、強化繊維基材への含浸性が良好で、未含浸を防ぐことが出来る。
【0049】
本発明における繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、180℃で40分間硬化したエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度Tgが180℃以上200℃以下であることが好ましい。繊維強化複合材料の耐熱性は、エポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度に依存する。Tgを180℃以上とすることにより、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性が確保されやすくなる。また、200℃以下とすることにより、エポキシ樹脂組成物の硬化収縮が抑制され、しかも、エポキシ樹脂組成物と強化繊維との熱膨張の違いから生じる繊維強化複合材料の表面品位の悪化を防ぎやすくなる。また、耐熱性と表面品位の関係から、ガラス転移温度Tgが185℃以上200℃以下であることがより好ましい。なお、上述のとおり、硬化時間は、エポキシ樹脂組成物を成形型に注入し始めた時から、脱型開始時までの時間を意味する。ここで、エポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度Tgは、動的粘弾性測定(DMA)装置を用いた測定により求められる。すなわち、樹脂硬化板から切り出した矩形の試験片を用いて、昇温下DMA測定を行い、得られた貯蔵弾性率G’の変曲点の温度をTgとする。測定条件は、実施例に記したとおりである。
【0050】
本発明における繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の硬化性は、成形温度、例えば樹脂組成物の180℃でのガラス化時間に依存する。エポキシ樹脂組成物の180℃でのガラス化時間が短時間であるほど硬化性が高く、繊維強化複合材料を形成するための硬化時間も短縮される。よって、生産性が重要視される航空機、自動車分野で特に用いられるRTM法においては、エポキシ樹脂組成物の180℃におけるガラス化時間は40分以下であることが好ましく、短時間であればあるほど好ましい。ここで、ガラス化時間は次のようにして測定することができる。すなわち、ATD-1000(Alpha Technologies(株)製)等の熱硬化測定装置を用いて所定温度でのエポキシ樹脂組成物の動的粘弾性測定を行い、硬化反応進行に伴うトルク上昇から複素粘性率を求める。このとき、複素粘性率が1.0×107Pa・sに達するまでの時間をガラス化時間とする。
【0051】
本発明の繊維強化複合材料は、例えば、エポキシ樹脂と硬化剤から成るエポキシ樹脂組成物を加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に注入し、含浸させ、該成形型内で硬化することにより得ることができる。その具体的な成形方法としては前記した通り、生産性や得られる成形体の形状自由度といった観点で、RTM法が好適に用いられる。また、かかる繊維強化複合材料を製造する方法においては、成形型に複数の注入口を有するものを用い、エポキシ樹脂組成物を複数の注入口から同時に、または時間差を設けて順次注入するなど、得ようとする繊維強化複合材料に応じて適切な条件を選ぶことが、様々な形状や大きさの成形体に対応できる自由度が得られるために好ましい。かかる注入口の数や形状に制限はないが、短時間での注入を可能にするために注入口は多い程良く、その配置は、成形品の形状に応じて樹脂の流動長を短くできる位置が好ましい。
【0052】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、50℃以上120℃以下に加熱した本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を、90℃以上180℃以下に加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に注入し、含浸させ、該成形型内で硬化する。繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、強化繊維基材への含浸性の点から、エポキシ樹脂組成物の初期粘度と粘度上昇の関係を基に、50℃以上120℃以下の範囲から選択した温度に注入前に加熱される。また、成形型温度は90℃以上180℃以下である。成形型温度を90℃以上180℃以下とすることにより、硬化に要する時間を短縮するのと同時に、脱型後の熱収縮を緩和させることにより、表面品位の良好な繊維強化複合材料を得ることができる。
【0053】
エポキシ樹脂組成物の注入圧力は、通常0.1MPa以上1.0MPa以下である。型内を真空吸引して樹脂組成物を注入するVaRTM(Vacuum assist Resins Transfer Molding)法も用いることができる。注入時間と設備の経済性の点から、エポキシ樹脂組成物の注入圧力は0.1MPa以上0.6MPaが好ましい。また、加圧注入を行う場合でも、樹脂組成物を注入する前に型内を真空に吸引しておくと、ボイドの発生が抑えられ好ましい。
【0054】
繊維強化複合材料の製造方法に用いられる強化繊維基材としては、ホットメルト性のバインダー(タッキファイヤー)を用いて強化繊維織物などのシート状基材を積層、賦形し、所望の製品と近い形状に加工したプリフォームを使用することが多い。ホットメルト性のバインダーとしては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂ともに適用可能である。バインダーの形態としては、特に限定されるものではないが、フィルム、テープ、長繊維、短繊維、紡績糸、織物、ニット、不織布、網状体、粒子などの形態を採用することができる。中でも、粒子形態、または不織布形態が特に好適に使用できる。なお、バインダーが粒子形態である場合をバインダー粒子、バインダーが不織布形態である場合をバインダー不織布という。
【0055】
バインダーの形態として粒子形態を採用する場合、その平均粒子径は10μm以上500μm以下であることが好ましい。ここで平均粒子径はメディアン径を指し、バインダー粒子の平均粒子径は、例えばレーザー回折型粒度分布計などを用いて測定することができる。平均粒子径が10μmよりも小さい場合は、プリフォームとした時の接着強度および作業性が低下する場合がある。かかる観点から、平均粒子径は30μm以上であることがより好ましい。平均粒子径が500μmよりも大きい場合は、プリフォームとした時に強化繊維にうねりが生じ、得られる繊維強化複合材料の力学特性の低下が生じる場合がある。かかる観点から、平均粒子径は300μm以下であることがより好ましい。
【0056】
バインダーの形態として不織布形態を採用する場合、不織布を構成する繊維の平均直径は10μm以上300μm以下であることが好ましい。ここで平均直径は、走査型電子顕微鏡にてバインダー不織布の断面を観察し、任意に選択された100個の繊維について直径を測長し、その算術平均値を算出したものである。繊維の断面形状が真円でない場合、短径をその直径として測定する。平均直径が10μmよりも小さい場合は、プリフォームの接着強度が低下する場合がある。平均直径が300μmよりも大きい場合は、プリフォームの強化繊維にうねりが生じ、得られる繊維強化複合材料の力学特性の低下が生じる場合がある。かかる観点から、平均直径は100μm以下であることがより好ましい。
【0057】
バインダーは強化繊維基材の少なくとも表面に付着させてバインダー付き強化繊維基材として用いられる。また、バインダー付き強化繊維基材は、前記したバインダーを少なくとも表面に有しており、プリフォームに使用される。
【0058】
バインダーを表面に付着させる場合の付着量としては、片面または両面に、好ましくは片面当たり0.5g/m2以上50g/m2以下、より好ましくは1g/m2以上30g/m2以下の目付で付着させる。付着量が0.5g/m2よりも少ない場合、プリフォームとした時の形態固定が難しくなる場合がある。付着量が、50g/m2よりも多い場合、マトリックス樹脂の含浸性が乏しくなり、ボイドが発生する場合がある。
【0059】
本発明において、強化繊維基材が不織布形態のバインダーで連結されたプリフォームであることが好ましい。バインダーの形態として不織布形態を採用することにより、基材上に均一にバインダーを配置することが可能なため、マトリックス樹脂の含浸流路が確保されやすくなる。そのため、特に含浸性に優れ、ボイドが極めて発生しにくくなる。また、粒子形態の場合よりもバインダーの付着量が少ない場合でも、プリフォームとした時の形態固定の効果を同等に維持しやすくなる。さらに、繊維強化複合材料としたときにマトリックス樹脂が本来有する高い耐熱性や力学特性を発現しやすくなる。
【0060】
具体的には、粒子形態を含めた通常のバインダーを表面に付着させる場合の付着量は、上述のとおり、片面または両面に、好ましくは片面当たり0.5g/m2以上50g/m2以下、より好ましくは1g/m2以上30g/m2以下の目付で付着させるのに対し、不織布形態では、プリフォームとした時の形態固定の効果を同等に維持しながら、0.5~15g/m2の目付にすることも可能である。
【0061】
プリフォームは、前記したバインダーを少なくとも表面に有するバインダー付き強化繊維基材を積層し、形態を固定してなる。バインダーを、加熱により強化繊維基材の少なくとも片面の少なくとも表面に付着させてバインダー付き強化繊維基材とした後、これを複数枚積層することにより、バインダーを少なくとも積層の層間に有する積層体が得られる。これを加熱および冷却をし、バインダーが基材層間を固着して形態を固定することで、バインダーを少なくとも積層の層間に有するプリフォームが得られる。
【0062】
通常、プリフォームは、バインダーが付着したバインダー付き強化繊維基材を所定の形状に切り出し、型の上で積層し、適切な熱と圧力を加えて作製することができる。加圧の手段はプレスを用いることもできるし、真空バッグフィルムで囲って内部を真空ポンプで吸引して大気圧により加圧する方法を用いることもできる。
【0063】
本発明における強化繊維基材を構成する強化繊維は特に限定されないが、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維等が挙げられる。これらの強化繊維を2種以上混合して用いても構わない。中でも、より軽量で、より耐久性の高い繊維強化複合材料を得るために、炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが好ましい。特に、材料の軽量化や高強度化の要求が高い用途においては、優れた比弾性率と比強度を有することから、本発明の繊維強化複合材料において、強化繊維基材を構成する強化繊維が炭素繊維であることが好ましい。
【0064】
炭素繊維としては、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維を用いることが可能であるが、耐衝撃性の点から引張弾性率が230GPa以上400GPa以下の引張弾性率を有する炭素繊維であることが好ましい。また、強度の観点からは、高い剛性および機械強度を有する複合材料が得られることから、引張強度が4.4GPa以上6.5GPa以下の炭素繊維であることが好ましい。また、引張伸度も重要な要素であり、1.7%以上2.3%以下の高強度高伸度炭素繊維であることが好ましい。従って、引張弾性率が少なくとも230GPaであり、引張強度が少なくとも4.4GPaであり、引張伸度が少なくとも1.7%であるという特性を兼ね備えた炭素繊維が最も適している。
【0065】
炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800G-24K、“トレカ(登録商標)”T800S-24K、“トレカ(登録商標)”T700G-24K、“トレカ(登録商標)”T300-3K、および“トレカ(登録商標)”T700S-12K(以上東レ(株)製)等が挙げられる。
【0066】
本発明の繊維強化複合材料は、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物のエポキシ樹脂硬化物と強化繊維とが組み合わされてなる。繊維強化複合材料が、特に航空機分野で用いられる場合には、高い耐熱性や曲げ強度等の力学特性が要求される。本発明の繊維強化複合材料は、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度を通常、180℃以上200℃以下とすることができるため、耐熱性に優れ、かつエポキシ樹脂硬化物が有している高い機械特性が反映される。そのため、本発明の繊維強化複合材料は、湿熱時の0°圧縮強度であるH/W0°圧縮強度が高く、1100MPa以上、より好ましい様態では1200MPa以上という、高いH/W0°圧縮強度を示すことができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により、本発明における繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物等についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例1、及び実施例11は、それぞれ参考例1、及び参考例11とする。
【0068】
<樹脂原料>
各実施例・比較例の樹脂組成物を得るために、以下の樹脂原料を用いた。なお、表中の樹脂組成物の欄における各成分の数値は含有量を示し、その単位は、特に断らない限り「質量部」である。
【0069】
1.[A]テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン
・“アラルダイト(登録商標)”MY721(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製):テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン。
【0070】
2.[C]ビスフェノールF型エポキシ樹脂
・“エピクロン(登録商標)”830(EPC830)(DIC(株)製):ビスフェノールF型エポキシ樹脂(粘度:3.5Pa・s(25℃))。
【0071】
3.[A],[C]以外のエポキシ樹脂
・“エピクロン(登録商標)”850(EPC850)(DIC(株)製):ビスフェノールA型エポキシ樹脂(粘度:13Pa・s(25℃))。
【0072】
4.[B]4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)
・“Lonzacure(登録商標)”M-MIPA(Lonza(株)製):4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)。
【0073】
5.[B]以外の硬化剤
・“Lonzacure(登録商標)”M-DEA(Lonza(株)製):4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)
・“Lonzacure(登録商標)”M-CDEA(Lonza(株)製):4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)。
【0074】
6.添加剤
・“カネエース(登録商標)”MX-416(“アラルダイト(登録商標)”MY721:75質量%/コアシェルゴム粒子(体積平均粒子径:100nm、コア部分:架橋ポリブタジエン[Tg:-70℃]、シェル部分:メタクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート/スチレン共重合ポリマー):25質量%のマスターバッチ、(株)カネカ製)
・“スタフィロイド (登録商標)”AC-3355(ガンツ化成(株)製):(コアシェルゴム粒子(体積平均粒子径:500nm、コア部分:架橋ポリブチルアクリレート、シェル部分:架橋ポリスチレン、ガンツ化成(株)製)。
【0075】
<エポキシ樹脂組成物の調製>
表に記載した含有割合で各成分を混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0076】
<樹脂硬化板の作製>
上記で調製したエポキシ樹脂組成物を減圧下で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中に注入した。180℃の温度で40分間硬化させ、厚さ2mmの樹脂硬化板を得た。
【0077】
<バインダーの作製>
下記製造方法に従ってバインダーを作製した。
【0078】
(バインダー1の製造方法)
1個のオリフィスを設けた口金から吐出したナイロン12(結晶性のポリアミド、融点:176℃、ガラス転移温度:50℃)の繊維を、先端に衝撃板を設けたアスピレータと圧縮空気を用いて延伸した後、金網状に散布して捕集した。金網上に捕集した繊維シートを、加熱プレス機を用いて熱接着し、不織布形態のバインダー1を作製した。
【0079】
(バインダー2の製造方法)
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC(株)製“EPICLON(登録商標)”N-660)15質量部、ビスフェノール型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製“jER(登録商標)”825)25質量部、ポリエーテルスルホン(住友化学(株)製“スミカエクセル(登録商標)”PES5200P)60質量部を180℃の温度条件にて小型二軸押出機(S1KRCニーダー、(株)栗本鐵工所)を使用して混練を行ってバインダー樹脂組成物を調製した。調製したバインダー樹脂組成物をハンマーミル(PULVERIZER、ホソカワミクロン(株)製)にて、孔サイズ1mmのスクリーンを使用し、液体窒素を用いて凍結粉砕して粒子形態のバインダー2を得た。かかる粒子を目開きサイズ150μmと75μmの篩いに通し、目開きサイズ75μmの篩いに残ったバインダー粒子を評価に使用した。
【0080】
<バインダー付き強化繊維基材の作製>
得られたバインダーを、炭素繊維一方向織物(平織、縦糸:炭素繊維T800S-24K-10C 東レ(株)製、炭素繊維目付295g/m2、縦糸密度7.2本/25mm、横糸:ガラス繊維ECE225 1/0 1Z 日東紡(株)製、横糸密度7.5本/25mm)の片面に付着させた。付着量は、バインダー1の場合は10g/m2、バインダー2の場合は20g/m2とした。その後、遠赤外線ヒーターを使用して加熱し、バインダーを融着させ、片側表面にバインダーが付与されたバインダー付き強化繊維基材を得た。
【0081】
<プリフォームの作製>
得られたバインダー付き強化繊維基材を395mm×395mmにカットした後、4層のバインダー付き強化繊維基材を、炭素繊維方向を0°として、0°方向に揃えて4枚積層した。得られた積層体をアルミニウム製の平面状成形型の面上に配置し、その上をバッグ材(ポリアミドフィルム)とシーラントにて密閉した。成形型とバッグ材により形成されたキャビティを真空にした後、成形型を熱風乾燥機に移し、室温から90℃の温度まで、1分間に3℃ずつ昇温した後、90℃の温度下で2時間加熱した。その後、キャビティの真空状態を保ちながら大気中にて60℃以下に冷却した後、キャビティを大気解放してプリフォームを得た。
【0082】
<繊維強化複合材料の作製>
得られたプリフォームを400mm×400mm×1.2mmの板状キャビティを有する金型に、セットし、型締めを行った。続いて、金型を90℃に加熱した後、前記のようにして調整され、予め80℃に加熱されたエポキシ樹脂組成物を、樹脂注入装置を用いて、注入圧0.2MPaで金型内に注入した。エポキシ樹脂組成物の注入開始後、40分(硬化時間)で金型を開き、脱型して、繊維強化複合材料を得た。
【0083】
<評価>
各実施例における評価は以下の通りに行った。なお、測定n数は特に断らない限り、n=1である。
【0084】
1.調製直後の樹脂組成物の粘度の測定
測定すべき検体を、JIS Z8803(1991)における「円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法」に従い、標準コーンローター(1°34’×R24)を装着したE型粘度計を使用して、30℃あるいは80℃に保持した状態で測定した。E型粘度計としては、(株)トキメック製TVE-30Hを用いた。なお、検体としては、各成分を混合し、1分間攪拌後のエポキシ樹脂組成物を用いた。30℃で測定した粘度をη30、80℃で測定した粘度をη80とした。
【0085】
2.25℃で1ヶ月間静置後の粘度上昇割合
測定すべき検体を、JIS Z8803(1991)における「円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法」に従い、標準コーンローター(1°34’×R24)を装着したE型粘度計を使用して、25℃に保持した状態で測定した。E型粘度計としては、(株)トキメック製TVE-30Hを用いた。なお、検体としては、各成分を混合し、1分間攪拌後あるいは25℃で1ヶ月間静置後のエポキシ樹脂組成物を用いた。1分間攪拌後の粘度をη25(T0)、25℃で1ヶ月間静置後の粘度をη25(T1)とし、25℃で1ヶ月間静置後の粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。
【0086】
3.冷凍輸送時の取扱性
測定すべき検体を、500ml容器に300g分取し、-20℃保持下での液面の動きを基に取扱性の評価を行った。容器を45°傾けた際に液面が全く動くことなく、その重心が傾ける前の状態から不変であり、運搬が容易である場合はAと判定した。一方、45°傾けた際に液面が少しでも動いて、その重心に変化が生じる場合は運搬が容易ではないとし、Bと判定した。なお、検体としては、各成分を混合し、1分間攪拌後のエポキシ樹脂組成物を用いた。
【0087】
4.ガラス化時間
測定すべき検体を、熱硬化測定装置ATD-1000(Alpha Technologies(株)製)を用いて180℃に加熱したステージにサンプルを投入し、周波数1.0Hz、歪み1%で動的粘弾性測定を行い、複素粘性率を求めた。このとき、複素粘性率が1.0×107Pa・sに達するまでの時間をガラス化時間とした。なお、検体としては、各成分を混合し、1分間攪拌後のエポキシ樹脂組成物を用いた。
【0088】
5.エポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度Tg測定
樹脂硬化板から幅12.7mm、長さ40mmの試験片を切り出し、DMA(TAインスツルメンツ社製ARES)を用いてTg測定を行った。測定条件は、昇温速度5℃/分である。測定で得られた貯蔵弾性率G’の変曲点での温度をTgとした。
【0089】
6.繊維強化複合材料のH/W0°圧縮強度測定
前記のようにして得られた繊維強化複合材料を、0°方向と長さ方向とが同じになるようにして、長さ79.4mm×幅12.7mmにカットし、0°圧縮強度用試験片を作製した。この試験片について、72℃温水中に14日間浸漬した後、繊維強化複合材料の0°圧縮強度を測定した。0°圧縮強度の測定は、ASTM D695に準拠し、試験機として、材料万能試験機(インストロン・ジャパン(株)製 4208型インストロン)を用い、測定時のクロスヘッドスピードを1.27mm/min、測定温度を82℃とした。
【0090】
(実施例1~4)
前記のようにして、[A]、[B]、[C]および[B]以外の硬化剤を表1に記載した含有割合で配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。表2に記載したとおり、η25(T0)、η30、η80を測定し、それぞれのエポキシ樹脂組成物を25℃で1ヶ月間静置し、粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。また、エポキシ樹脂組成物の冷凍輸送時の取扱性を評価し、180℃におけるガラス化時間を測定した。さらにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を用いて、樹脂硬化板および繊維強化複合材料を作製し、ガラス転移温度TgおよびH/W0°圧縮強度を測定した。実施例1~4における変更点は[A]、[B]、[C]および[B]以外の硬化剤の含有割合のみである。いずれの場合も、200≦η30/η80≦500、かつ、 50≦ η80≦180を満たし、冷凍輸送時の取扱性が良好で、η25(T1)/η25(T0)も1.1以下と25℃常温保持下の安定性も良好、さらに強化繊維への含浸性も良好であった。また、180℃におけるガラス化時間も40分以下と硬化性良好で、エポキシ樹脂硬化物のTgは180℃以上、繊維強化複合材料についても、H/W0°圧縮強度が1100MPa以上と耐熱性、力学特性も良好であった。
【0091】
(実施例5~7)
前記のようにして、[A]、[B]、[C]および[B]以外の硬化剤を表1、表3に記載した含有割合で配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。表2、表4に記載したとおり、η25(T0)、η30、η80を測定し、それぞれのエポキシ樹脂組成物を25℃で1ヶ月間静置し、粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。また、エポキシ樹脂組成物の冷凍輸送時の取扱性を評価し、180℃におけるガラス化時間を測定した。さらにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を用いて、樹脂硬化板および繊維強化複合材料を作製し、ガラス転移温度TgおよびH/W0°圧縮強度を測定した。実施例5~7における変更点はH/Eのみである。いずれの場合も、200≦η30/η80≦500、かつ、 50≦ η80≦180を満たし、冷凍輸送時の取扱性が良好で、η25(T1)/η25(T0)も1.1以下と25℃常温保持下の安定性も良好、さらに強化繊維への含浸性も良好であった。また、180℃におけるガラス化時間も40分以下と硬化性良好で、エポキシ樹脂硬化物のTgは180℃以上、繊維強化複合材料についても、H/W0°圧縮強度が1100MPa以上と耐熱性、力学特性も良好であった。
【0092】
(実施例8~10)
前記のようにして、[A]、[B]、[C]および[B]以外の硬化剤、添加剤を表3に記載した含有割合で配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。表4に記載したとおり、η25(T0)、η30、η80を測定し、それぞれのエポキシ樹脂組成物を25℃で1ヶ月間静置し、粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。また、エポキシ樹脂組成物の冷凍輸送時の取扱性を評価し、180℃におけるガラス化時間を測定した。さらにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を用いて、樹脂硬化板および繊維強化複合材料を作製し、ガラス転移温度TgおよびH/W0°圧縮強度を測定した。実施例8~10における変更点は添加剤種およびH/Eである。いずれの場合も、200≦η30/η80≦500、かつ、 50≦ η80≦180を満たし、冷凍輸送時の取扱性が良好で、η25(T1)/η25(T0)も1.1以下と25℃常温保持下の安定性も良好、さらに強化繊維への含浸性も良好であった。また、180℃におけるガラス化時間も40分以下と硬化性良好で、エポキシ樹脂硬化物のTgは180℃以上、繊維強化複合材料についても、H/W0°圧縮強度が1100MPa以上と耐熱性、力学特性も良好であった。
【0093】
(実施例11)
前記のようにして、[A]、[B]、[C]および[B]以外の硬化剤を表3に記載した含有割合で配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。表4に記載したとおり、η25(T0)、η30、η80を測定し、それぞれのエポキシ樹脂組成物を25℃で1ヶ月間静置し、粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。また、エポキシ樹脂組成物の冷凍輸送時の取扱性を評価し、180℃におけるガラス化時間を測定した。さらにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を用いて、樹脂硬化板および繊維強化複合材料を作製し、ガラス転移温度TgおよびH/W0°圧縮強度を測定した。実施例1からの実施例11における変更点はバインダー種のみである。いずれの場合も、200≦η30/η80≦500、かつ、 50≦ η80≦180を満たし、冷凍輸送時の取扱性が良好で、η25(T1)/η25(T0)も1.1以下と25℃常温保持下の安定性も良好、さらに強化繊維への含浸性も良好であった。また、180℃におけるガラス化時間も40分以下と硬化性良好で、エポキシ樹脂硬化物のTgは180℃以上、繊維強化複合材料についても、H/W0°圧縮強度が1100MPa以上と耐熱性、力学特性も良好であった。
【0094】
(比較例1)
実施例1において、[C]を増量し、表5に記載した含有割合で配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。表6に記載のとおり、η25(T0)、η30、η80を測定し、それぞれのエポキシ樹脂組成物を25℃で1ヶ月間静置し、粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。また、エポキシ樹脂組成物の冷凍輸送時の取扱性を評価し、180℃におけるガラス化時間を測定した。さらにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を用いて、樹脂硬化板および繊維強化複合材料を作製し、ガラス転移温度TgおよびH/W0°圧縮強度を測定した。200≦η30/η80≦500、かつ、 50≦ η80≦180を満たし、冷凍輸送時の取扱性が良好で、η25(T1)/η25(T0)も1.08と25℃常温保持下の安定性も良好、さらに強化繊維への含浸性も良好であった。ただし、180℃におけるガラス化時間は45分と硬化性は不良で、エポキシ樹脂硬化物のTgが170℃、繊維強化複合材料についても、H/W0°圧縮強度が1090MPaと耐熱性、力学特性ともに不良であった。
【0095】
(比較例2)
実施例1において、[C]の代わりにEPC850を使用し、表5に記載した含有割合で配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。表6に記載のとおり、η25(T0)、η30、η80を測定し、それぞれのエポキシ樹脂組成物を25℃で1ヶ月間静置し、粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。また、エポキシ樹脂組成物の冷凍輸送時の取扱性を評価し、180℃におけるガラス化時間を測定した。さらにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を用いて、樹脂硬化板および繊維強化複合材料を作製し、ガラス転移温度TgおよびH/W0°圧縮強度を測定した。200≦η30/η80≦500、かつ、 50≦ η80≦180を満たし、冷凍輸送時の取扱性が良好で、η25(T1)/η25(T0)も1.07と25℃常温保持下の安定性も良好、さらに強化繊維への含浸性も良好であった。また、180℃におけるガラス化時間は38分、エポキシ樹脂硬化物のTgも185℃と硬化性、耐熱性ともに良好であったが、繊維強化複合材料のH/W0°圧縮強度が1090MPaと力学特性が不良であった。
【0096】
(比較例3)
実施例1において、[A]および[B]以外の硬化剤を増量し、[C]を配合することなく、表5に記載した含有割合で配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。表6に記載のとおり、η25(T0)、η30、η80を測定し、それぞれのエポキシ樹脂組成物を25℃で1ヶ月間静置し、粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。また、エポキシ樹脂組成物の冷凍輸送時の取扱性を評価し、180℃におけるガラス化時間を測定した。さらにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を用いて、樹脂硬化板および繊維強化複合材料を作製し、ガラス転移温度TgおよびH/W0°圧縮強度を測定した。200≦η30/η80≦500を満たさず、冷凍輸送時の取扱性が不良で、η25(T1)/η25(T0)も1.11と25℃常温保持下の安定性も不良であったが、強化繊維への含浸性は良好であった。また、180℃におけるガラス化時間が41分と硬化性は不良であったが、エポキシ樹脂硬化物のTgは182℃、繊維強化複合材料についても、H/W0°圧縮強度が1190MPaと耐熱性、力学特性ともに良好であった。
【0097】
(比較例4)
実施例1において、[A]および[B]以外の硬化剤を増量し、[C]を配合することなく、表5に記載した含有割合で配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。表6に記載のとおり、η25(T0)、η30、η80を測定し、それぞれのエポキシ樹脂組成物を25℃で1ヶ月間静置し、粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。また、エポキシ樹脂組成物の冷凍輸送時の取扱性を評価し、180℃におけるガラス化時間を測定した。さらにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を用いて、樹脂硬化板および繊維強化複合材料を作製し、ガラス転移温度TgおよびH/W0°圧縮強度を測定した。200≦η30/η80≦500を満たさず、冷凍輸送時の取扱性が不良で、η25(T1)/η25(T0)も1.12と25℃常温保持下の安定性も不良であったが、強化繊維への含浸性は良好であった。また、180℃におけるガラス化時間が43分と硬化性は不良であり、エポキシ樹脂硬化物のTgは185℃と耐熱性は良好であったものの、繊維強化複合材料についても、H/W0°圧縮強度が1050MPaと力学特性は不良であった。
【0098】
(比較例5)
実施例1において、[A]を増量し、[B]の代わりにM-CDEAのみを使用し、[C]を配合することなく、表5に記載した含有割合で配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。表6に記載のとおり、η25(T0)、η30、η80を測定し、それぞれのエポキシ樹脂組成物を25℃で1ヶ月間静置し、粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。また、エポキシ樹脂組成物の冷凍輸送時の取扱性を評価し、180℃におけるガラス化時間を測定した。さらにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を用いて、樹脂硬化板および繊維強化複合材料を作製し、ガラス転移温度TgおよびH/W0°圧縮強度を測定した。200≦η30/η80≦500、かつ、 50≦ η80≦180を満たし、冷凍輸送時の取扱性が良好で、η25(T1)/η25(T0)も1.05と25℃常温保持下の安定性も良好、さらに強化繊維への含浸性も良好であった。ただし、180℃におけるガラス化時間は180分と硬化性は不良で、エポキシ樹脂硬化物のTgが150℃、繊維強化複合材料についても、H/W0°圧縮強度が800MPaと耐熱性、力学特性ともに不良であった。
【0099】
(比較例6)
実施例8において、[A]を増量し、[C]を配合することなく、表5に記載した含有割合で配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。表6に記載のとおり、η25(T0)、η30、η80を測定し、それぞれのエポキシ樹脂組成物を25℃で1ヶ月間静置し、粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。また、エポキシ樹脂組成物の冷凍輸送時の取扱性を評価し、180℃におけるガラス化時間を測定した。さらにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を用いて、樹脂硬化板および繊維強化複合材料を作製し、ガラス転移温度TgおよびH/W0°圧縮強度を測定した。50≦ η80≦180を満たさず、強化繊維への含浸性が不良であった。一方、η30/η80は370と冷凍輸送時の取扱性は良好で、η25(T1)/η25(T0)も1.06と25℃常温保持下の安定性も良好であった。また、180℃におけるガラス化時間は35分、エポキシ樹脂硬化物のTgは185℃、繊維強化複合材料についても、H/W0°圧縮強度が1210MPaと硬化性、耐熱性、力学特性ともに良好であった。
【0100】
(比較例7)
実施例8において、[A]および[B]を増量し、[C]を配合することなく、表5に記載した含有割合で配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。表6に記載のとおり、η25(T0)、η30、η80を測定し、それぞれのエポキシ樹脂組成物を25℃で1ヶ月間静置し、粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。また、エポキシ樹脂組成物の冷凍輸送時の取扱性を評価し、180℃におけるガラス化時間を測定した。さらにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を用いて、樹脂硬化板および繊維強化複合材料を作製し、ガラス転移温度TgおよびH/W0°圧縮強度を測定した。50≦ η80≦180を満たさず、強化繊維への含浸性が不良であった。一方、η30/η80は450と冷凍輸送時の取扱性は良好で、η25(T1)/η25(T0)も1.04と25℃常温保持下の安定性も良好であった。また、180℃におけるガラス化時間は38分、エポキシ樹脂硬化物のTgは181℃、繊維強化複合材料についても、H/W0°圧縮強度が1260MPaと硬化性、耐熱性、力学特性ともに良好であった。
【0101】
(比較例8)
実施例8において、[A]および[B]を増量し、[C]を配合することなく、表5に記載した含有割合で配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。表6に記載のとおり、η25(T0)、η30、η80を測定し、それぞれのエポキシ樹脂組成物を25℃で1ヶ月間静置し、粘度上昇割合η25(T1)/η25(T0)を求めた。また、エポキシ樹脂組成物の冷凍輸送時の取扱性を評価し、180℃におけるガラス化時間を測定した。さらにそれぞれのエポキシ樹脂組成物を用いて、樹脂硬化板およびバインダー種を変更した繊維強化複合材料を作製し、ガラス転移温度TgおよびH/W0°圧縮強度を測定した。50≦ η80≦180を満たさず、強化繊維への含浸性が不良であった。一方、η30/η80は450と冷凍輸送時の取扱性は良好で、η25(T1)/η25(T0)も1.04と25℃常温保持下の安定性も良好であった。また、180℃におけるガラス化時間は38分、エポキシ樹脂硬化物のTgは181℃、繊維強化複合材料についても、H/W0°圧縮強度が1100MPaと硬化性、耐熱性、力学特性ともに良好であった。
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、冷凍輸送時の取扱性、常温保持下の安定性、強化繊維への含浸性に優れ、プロセス性が良好で、さらに高速硬化性および高耐熱性にも優れるため、RTM法等によって高強度な繊維強化複合材料を高い生産性で提供可能となる。これにより、特に航空機、自動車用途への繊維強化複合材料の適用が進み、更なる軽量化による燃費向上、地球温暖化ガス排出削減への貢献が期待できる。