(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】FP作動薬とβ遮断薬を含有する緑内障治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/335 20060101AFI20230322BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20230322BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230322BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230322BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20230322BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230322BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230322BHJP
C07D 313/06 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
A61K31/335
A61P27/06
A61P27/02
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K31/5377
A61K9/08
A61K9/06
C07D313/06 CSP
(21)【出願番号】P 2019560578
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2018047102
(87)【国際公開番号】W WO2019124523
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2017244573
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】山根 晋作
(72)【発明者】
【氏名】中山 仁志
(72)【発明者】
【氏名】長井 一史
(72)【発明者】
【氏名】守行 和美
(72)【発明者】
【氏名】辛川 知弘
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/013651(WO,A1)
【文献】YALE JOURNAL OF BIOLOGY AND MEDICINE,2017年03月,Vol.90, pp.111-118
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 45/00-45/08
A61P 1/00-43/00
C07D 313/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チモロールまたはその薬学的に許容される塩と
併用されることを特徴とする
、2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアート
を含有する緑内障または高眼圧症の治療剤。
【請求項2】
チモロールまたはその薬学的に許容される
塩が、別々または同時に投与されることを特徴とする
、請求項
1に記載の剤。
【請求項3】
点眼剤または眼軟膏である、請求項1または2に記載の剤。
【請求項4】
緑内障または高眼圧症の治療のための、2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートと
、チモロールまたはその薬学的に許容される塩と
の、組み合わせ医薬。
【請求項5】
2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートおよびチモロールまたはその薬学的に許容される塩を含有する配合剤である、請求項4に記載の医薬。
【請求項6】
2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートとチモロールまたはその薬学的に許容される塩とが、別々または同時に投与されることを特徴とする、請求項4に記載の医薬。
【請求項7】
点眼剤または眼軟膏である、請求項
4~6のいずれか一項に記載の医
薬。
【請求項8】
チモロールまたはその薬学的に許容される塩と組み合わせて投与されることを特徴とする
、緑内障または高眼圧症の治療剤の製造のための、2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一態様において、β遮断薬と組み合わせて投与されることを特徴とするFP作動薬を有効成分として含む緑内障治療剤であって、前記FP作動薬が下記式
【0002】
【0003】
(式中、すべての記号は後記と同じ意味を表す。)で示される化合物である緑内障治療剤に関する。
【背景技術】
【0004】
緑内障とは、一時的または永久的な視野欠損、視力低下を起こす視機能障害を特徴とする眼疾患である。眼房水の循環障害により眼房水が蓄積し、持続的に眼圧が上昇するため、視神経が圧迫されることに起因する。緑内障の治療は、眼圧を下げることが有効であり、眼圧を下げるために、例えば薬物治療(点眼薬、内服薬、点滴治療)、レーザー治療、手術治療が施される。
【0005】
本発明の有効成分として用いられるFP作動薬は、眼疾患等の予防および/または治療剤として有用な医薬品として知られている(特許文献1参照)。なかでも、2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートは、セペタプロスト(Sepetaprost;国際一般名)(以下、化合物Aと略記することがある。)として公知であり、緑内障治療薬としての開発が進められている。
【0006】
緑内障の治療現場では、眼圧下降機序の異なる薬剤を併用することは一般的に行われており、例えば、ザラカム(登録商標)配合点眼液(ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合)、タプコム(登録商標)配合点眼液(タフルプロスト・チモロールマレイン酸塩配合)等が上市されている。
【0007】
一方、特許文献1には化合物Aが実施例16(25)として記載され、化合物A等の緑内障に対する予防および/または治療効果の補完および/または増強のための他の薬物の一例としてβ遮断薬が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、有効な緑内障治療法を見出し、医薬品として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、FP作動薬とβ遮断薬との組み合わせ(以下、本発明の組み合わせと略記することがある。)により、前記課題を解決できることを見出した。
【0011】
本発明は、例えば、下記の実施態様を提供する。
[1] β遮断薬またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて投与されることを特徴とするFP作動薬を有効成分として含む、緑内障または高眼圧症の治療剤であって、前記FP作動薬が2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートである緑内障または高眼圧症の治療剤、
[2] β遮断薬が、チモロール、カルテオロール、レボブノロール、ベタキソロール、ニプラジロール、またはベフノロールである前記[1]に記載の剤、
[3] β遮断薬が、チモロールである前記[1]または[2]に記載の剤、
[4] β遮断薬またはその薬学的に許容される塩と2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートが、別々または同時に投与されることを特徴とする前記[1]ないし[3]のいずれか一項に記載の剤、
[5] 2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートとβ遮断薬またはその薬学的に許容される塩とを組み合わせて投与されることを特徴とする緑内障または高眼圧症の治療のための医薬組成物、
[6] β遮断薬が、チモロール、カルテオロール、レボブノロール、ベタキソロール、ニプラジロール、またはベフノロールである前記[5]に記載の医薬組成物、
[7] β遮断薬が、チモロールである前記[5]または[6]に記載の医薬組成物、
[8] 点眼剤または眼軟膏である前記[5]ないし[7]のいずれか一項に記載の医薬組成物、
[9] 配合剤である前記[5]ないし[8]のいずれか一項に記載の医薬組成物、
[10] 2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートの有効量をβ遮断薬またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて、緑内障または高眼圧症の治療を必要とする患者に、別々にまたは同時に投与することを特徴とする緑内障または高眼圧症の治療方法、
[11] 2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートの有効量を、緑内障または高眼圧症の治療を必要とする患者に投与することを特徴とする緑内障または高眼圧症の治療方法であって、当該方法はβ遮断薬またはその薬学的に許容される塩の有効量を投与することをさらに含む緑内障または高眼圧症の治療方法、
[12] β遮断薬またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて緑内障または高眼圧症の治療に使用される、2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアート、
[13] β遮断薬またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて投与されることを特徴とする緑内障または高眼圧症の治療剤の製造のための、2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートの使用等の実施態様が挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組み合わせは、各薬剤の単剤投与時と比較し、眼圧下降作用を増強し、かつ眼圧下降作用を持続させる効果を有するため、緑内障治療剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)FP作動薬
本発明の組み合わせに用いられるFP作動薬は、一態様において、国際公開第2011/013651号に記載された下記式
【0014】
【0015】
で示される、2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートが挙げられる。
【0016】
また、FP作動薬の別の態様として、国際公開第2011/013651号に記載された一般式(I)
【0017】
【0018】
(式中、すべての記号は国際公開第2011/013651号に記載されたものと同じ意味を表す。)で示される化合物、その塩またはその溶媒和物、またはそのプロドラッグが挙げられる。
【0019】
本発明においては、特に指示しない限り異性体はこれをすべて包含する。例えば、アルキル基には直鎖のものおよび分枝鎖のものが含まれる。さらに、二重結合、環、縮合環における幾何異性体(E体、Z体、シス体、トランス体)、不斉炭素原子の存在等による光学異性体(R、S体、α、β配置、エナンチオマー、ジアステレオマー)、旋光性を有する光学活性体(D、L、d、l体)、クロマトグラフ分離による極性体(高極性体、低極性体)、平衡化合物、回転異性体、これらの任意の割合の混合物、ラセミ混合物は、すべて本発明に含まれる。また、本発明においては、互変異性体による異性体をもすべて包含する。
【0020】
また、本発明における光学異性体は、100%純粋なものだけでなく、50%未満のその他の光学異性体が含まれていてもよい。
【0021】
化合物Aは、国際公開第2011/013651号に記載された実施例1→実施例2→実施例3→実施例4→実施例5→実施例6→実施例7→実施例8→実施例9→実施例10(1)→実施例11→実施例12→実施例13→実施例14→実施例15→実施例16(25)に従って製造することができる。
【0022】
本発明の組み合わせに用いられる化合物Aの投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、例えば、点眼剤であれば成人一人当たり、一回につき、好ましくは0.000001~5%(w/v)、より好ましくは0.00001~0.05%(w/v)の濃度のものを1回量1~数滴を1日1~数回(例えば、1~8回)点眼すればよい。また、眼軟膏であれば好ましくは0.000001~5%(w/w)、より好ましくは0.00001~0.05%(w/w)の濃度のものを1日1~数回(例えば、1~4回)塗布すればよい。
【0023】
(2)β遮断薬
本発明において、β遮断薬は、交感神経のアドレナリン受容体のうち、β-アドレナリン受容体、β1、β2およびβ3の各受容体のいずれかを遮断する薬剤であって、緑内障治療に用いられる薬剤であれば特に限定されないが、例えば、チモロール(timolol)、カルテオロール(certeolol)、レボブノロール(levobunolol)、ベタキソロール(betaxolol)、ニプラジロール(nipradilol)、ベフノロール(befunolol)、またはそれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。なかでも、チモロールマレイン酸塩が好ましい。
【0024】
本発明の組み合わせに用いられるβ遮断薬の投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、医薬品としての製造承認を受けた用量または当該用量よりも低用量で適用することができる。具体的な投与量としては、チモロールであれば、0.1~0.5%(w/v)、好ましくは0.25~0.5%(w/v)が挙げられる。カルテオロールであれば、0.1~2%(w/v)、好ましくは1~2%(w/v)が挙げられる。レボブノロールであれば、0.1~0.5%(w/v)、好ましくは0.25~0.5%(w/v)が挙げられる。ベタキソロールであれば、0.1~0.5%(w/v)、好ましくは0.25~0.5%(w/v)が挙げられる。ニプラジロールであれば、0.1~0.25%(w/v)、好ましくは0.25%(w/v)が挙げられる。ベフノロールであれば、0.1~0.25%(w/v)、好ましくは0.25%(w/v)が挙げられる。
【0025】
本発明において、塩とは、薬学的に許容される塩が好ましく、また水溶性のものが好ましい。薬学的に許容される塩としては、アルカリ金属(カリウム、ナトリウム等)の塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)の塩、アンモニウム塩、薬学的に許容される有機アミン(テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、リジン、アルギニン、N-メチル-D-グルカミン等)の塩、酸付加物塩(無機酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩等)、有機酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩、グルコン酸塩等)等)等が挙げられる。
【0026】
上記のβ遮断薬はいずれも上市された化合物であることから、毒性は十分に低いものであり、医薬品として安全に使用することができる。
【0027】
本発明の組み合わせは、緑内障または高眼圧症の治療に用いるため、FP作動薬およびβ遮断薬ともに当該疾患の治療に適した剤形、例えば、点眼剤、眼軟膏等が好ましく、それぞれ別個の剤形であっても構わない。また、本発明の組み合わせは、別個の製剤であっても構わないし、投薬コンプライアンスを考慮し、両剤を適切な分量で含有する配合剤、例えば、配合点眼剤、配合眼軟膏も好ましい。
【0028】
本発明の組み合わせにおいて、FP作動薬およびβ遮断薬を別個の製剤で用いる場合、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、FP作動薬およびβ遮断薬を一定の時間をおいて別々に投与することを意味し、その投与順番として、FP作動薬を先に投与し、β遮断薬を後に投与してもよいし、β遮断薬を先に投与し、FP作動薬を後に投与してもよい。
【0029】
本発明の組み合わせで用いられる点眼剤、眼軟膏は、汎用されている技術を用いて製剤化することができる。例えば、点眼剤であれば、添加物として、等張化剤、緩衝剤、pH調節剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、保存剤等を適宜配合することができる。また、pH調節剤、増粘剤、分散剤などを添加し、薬物を懸濁化させることによって、安定な点眼剤を得ることもできる。
【0030】
[毒性]
本発明の組み合わせの毒性は十分に低いものであり、医薬品として安全に使用することができる。
【0031】
[医薬品への適用]
本発明の組み合わせによって治療される疾患の一態様として、緑内障、高眼圧症が挙げられる。緑内障としては、例えば、急性閉塞隅角緑内障、慢性閉塞隅角緑内障、続発閉塞隅角緑内障、原発開放隅角緑内障、続発開放隅角緑内障、先天性緑内障、正常眼圧緑内障、房水産生過多緑内障が挙げられる。
【0032】
本発明において、本発明の組み合わせは、(1)治療効果の補完および/または増強、(2)動態・吸収改善、投与量の低減、および/または(3)副作用の軽減のために、さらに他の緑内障治療剤と組み合わせて、投与してもよい。
本発明において、他の緑内障治療剤としては、公知のものであればよく、例えば、交感神経作動薬(α2アゴニスト:例えば、塩酸アプラクロニジン等、β2アゴニスト:例えば、塩酸ジピベフリン等)、副交感神経作動薬(例えば、塩酸ピロカルピン、カルバコール、デメカリウム、エコチオフェートまたは臭化ジスチグミン等)、交感神経抑制薬(α1ブロッカー:例えば、塩酸ブナゾシン等)、プロスタグランジン系薬物(例えば、イソプロピルウノプロストン、ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラヴォプロスト、EP2アゴニスト、EP4アゴニストまたはDPアゴニスト等)、炭酸脱水酵素阻害薬(例えば、アセタゾラミド、ジクロフェナミド、メタゾラミド、塩酸ドルゾラミド、またはブリンゾラミド等)、高張浸透圧薬(例えば、グリセリン、グリセリンおよび果糖の配合製剤、またはイソソルビド等)、ROCK(Rhoキナーゼ)阻害薬(例えば、Y-27632等)、NMDA拮抗薬が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアート(化合物A)を使用した。化合物Aは、公知の方法、例えば、国際公開第2011/013651号に記載された実施例1→実施例2→実施例3→実施例4→実施例5→実施例6→実施例7→実施例8→実施例9→実施例10(1)→実施例11→実施例12→実施例13→実施例14→実施例15→実施例16(25)に従って製造することができる。
【0035】
生物学的実施例1:眼圧下降作用
被験物質として、化合物Aおよびβ遮断薬を用いた。化合物Aは、媒体(0.3w/v%クエン酸ナトリウム、0.5w/v%ポリソルベート80、および0.8w/v%塩化ナトリウムを含む水溶液)を用いて3μg/mLの溶液を調製した。β遮断薬として、チモロール(商品名:チモプトール(登録商標)0.5%点眼液、参天製薬株式会社)を使用した。
【0036】
予め十分に馴化を行った雄性イヌ(TOYO Beagle、使用開始時16~42月齢)に、媒体および被験物質投与の約1時間前に両眼の眼圧を測定し、点眼前の眼圧値とした。その後、処置眼に被験物質若しくは媒体を各30μL点眼投与し、投与約2、4、6、8、24時間後に両眼の眼圧を測定した。眼圧は、局所麻酔剤である0.4%塩酸オキシブプロカイン(ベノキシール(登録商標)点眼液0.4%、参天製薬株式会社)を点眼し、局所麻酔下に空圧圧平式眼圧計(モデル30クラシック、ライカート社)にて測定した。測定は、3回連続して安定した値(連続して得られた測定値の差が0.5mmHg以内)が得られるまで行った。得られた3回の測定値の平均を眼圧値(mmHg)とし、小数点以下1桁まで表示した。
【0037】
被験物質及び媒体投与前の眼圧値から各測定時間の眼圧値を減算した値を眼圧下降幅とし、各測定時間において各個体の眼圧下降幅を平均した値を平均眼圧下降幅とした。各測定時間における平均眼圧下降幅のうち、最大値を最大眼圧下降幅とした。また、投与24時間後の平均眼圧下降幅を投与24時間後の眼圧下降幅とした。その結果を表1に示す。なお、群名において薬剤名が2つある場合には、投与順序を意味し、例えば、化合物A-チモロール群は同眼に化合物Aを先に投与し、チモロールをその後に投与することを意味する。
【0038】
【0039】
その結果、化合物Aおよびチモロールの併用は、投与順序に関係なく、各単剤と比較して強い眼圧下降作用を示すことが分かった。また、化合物Aおよびチモロールの併用は、投与24時間後まで持続する眼圧下降作用がみられ、さらに最大眼圧下降作用を発揮する時間も各単剤と比べて長くなる効果があることも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の組み合わせは、顕著な眼圧下降作用を発揮するため、緑内障または高眼圧症の治療に有用である。