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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】二芯平行電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/06 20060101AFI20230322BHJP
   H01B 7/08 20060101ALI20230322BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20230322BHJP
   H01B 11/00 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
H01B11/06
H01B7/08
H01B7/18 D
H01B11/00 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019561640
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2018047227
(87)【国際公開番号】W WO2019131500
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2017251729
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-004116(JP,U)
【文献】特開2017-004905(JP,A)
【文献】実開昭59-017517(JP,U)
【文献】特開2011-096574(JP,A)
【文献】特表平05-503807(JP,A)
【文献】特開2014-089950(JP,A)
【文献】特開2002-304917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/06
H01B 7/08
H01B 7/18
H01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配置された二本の導体と、
前記二本の導体の周囲に押し出し被覆により形成された絶縁層と、
前記絶縁層の周囲に縦添えで巻き付けられたシールドテープと、
前記シールドテープの内側に配置されたドレイン線と、
前記シールドテープを覆うように形成された外被と、
を備えた二芯平行電線であって、
前記絶縁層の前記二芯平行電線の長さ方向に垂直な断面は、短軸の長さの1.7倍以上2.2倍以下を長軸の長さとする長円形状であり、前記長円形状における外形線と長軸の垂直二等分線との交点を含む部分に溝を有し、
前記溝は、前記ドレイン線の外径または厚みの0.5倍より大きく0.9倍以下の深さに形成され、
前記ドレイン線は、その一部が、前記絶縁層よりも前記シールドテープ側に出るように前記溝に保持されており、
前記絶縁層は、前記長円形状において、前記二本の導体の少なくとも一方の上及び下に位置する前記絶縁層の厚さの最小値/最大値が、長さ5mの範囲において0.85以上1.0以下となるように形成されている、二芯平行電線。
【請求項2】
前記断面において、前記絶縁層は、前記二本の導体が並ぶ方向を左右方向とし、前記左右方向に対する垂直方向を上下方向とするとき、前記二本の導体の上下に左右方向に延びる平坦部を有し、前記二本の導体の左右に半円周部を有し、
前記シールドテープは、前記シールドテープの巻き付け開始位置と巻き付け終了位置との間に、前記シールドテープが重なる重なり部を有し、
前記重なり部は、前記平坦部のいずれか一方に前記平坦部に沿うように配置され、
前記溝は、前記重なり部が配置されていない平坦部に形成されている、請求項1に記載の二芯平行電線。
【請求項3】
前記重なり部は、前記左右方向の長さが、前記二本の導体の中心同士の間隔の0.7倍以上1.3倍以下の長さに形成されている、請求項2に記載の二芯平行電線。
【請求項4】
前記溝は、前記ドレイン線の外径または厚みの0.6倍より大きく0.8倍以下の深さに形成されている、請求項1に記載の二芯平行電線。
【請求項5】
前記溝は、前記ドレイン線の外径または厚みの0.7倍より大きく0.75倍以下の深さに形成されている、請求項4に記載の二芯平行電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二芯平行電線に関する。
【0002】
本出願は、2017年12月27日出願の日本出願2017-251729号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
特許文献1には、二本の導体と、二本の導体を覆うように形成された絶縁体と、ドレイン線と、絶縁体及びドレイン線を覆うように形成された遮蔽層と、遮蔽層を覆うように形成された保護シースと、を備えたケーブルが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭57-4116号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る二芯平行電線は、
平行に配置された二本の導体と、
前記二本の導体の周囲に押し出し被覆により形成された絶縁層と、
前記絶縁層の周囲に縦添えで巻き付けられたシールドテープと、
前記シールドテープの内側に配置されたドレイン線と、
前記シールドテープを覆うように形成された外被と、
を備えた二芯平行電線であって、
前記絶縁層のケーブルの長さ方向に垂直な断面は、短軸の長さの1.7倍以上2.2倍以下を長軸の長さとする長円形状であり、前記長円形状における外形線と長軸(図に符号で示す)の垂直二等分線との交点を含む部分に溝を有し、
前記溝は、前記ドレイン線の外径または厚みの0.5倍より大きく0.9倍以下の深さに形成され、
前記ドレイン線は、その一部が、前記絶縁層よりも前記シールドテープ側に出るように前記溝に保持されている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本開示の一実施形態に係る二芯平行電線の構成を示す断面図である。
図2】実施例の電気的特性(Scd21-Sdd21)を説明するための図である。
図3】比較例の電気的特性(Scd21-Sdd21)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
二芯平行電線において、ケーブルの電気的特性を高めるために改善の余地があった。
【0008】
本開示は、電気的特性を向上可能な二芯平行電線を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、電気的特性を向上可能な二芯平行電線を提供することができる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
<本開示の実施形態の概要>
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
【0011】
本開示の一態様に係る二芯平行電線は、
平行に配置された二本の導体と、
前記二本の導体の周囲に押し出し被覆により形成された絶縁層と、
前記絶縁層の周囲に縦添えで巻き付けられたシールドテープと、
前記シールドテープの内側に配置されたドレイン線と、
前記シールドテープを覆うように形成された外被と、
を備えた二芯平行電線であって、
前記絶縁層のケーブルの長さ方向に垂直な断面は、短軸の長さの1.7倍以上2.2倍以下を長軸の長さとする長円形状であり、前記長円形状における外形線と長軸の垂直二等分線との交点を含む部分に溝を有し、
前記溝は、前記ドレイン線の外径または厚みの0.5倍より大きく0.9倍以下の深さに形成され、
前記ドレイン線は、その一部が、前記絶縁層よりも前記シールドテープ側に出るように前記溝に保持されている。
<本開示の実施形態の詳細>
本開示の実施形態に係る二芯平行電線の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
【0012】
なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
(第一実施形態)
図1は、本開示の一実施形態に係る二芯平行電線1の構成を示す断面図である。二芯平行電線1は、例えば、デジタルデータを高速で送受信する通信機器などに用いられる電線として用いることができる。
【0013】
図1に示すように、二芯平行電線1は、二本の導体2と、二本の導体2の周囲に形成された絶縁層3と、を備えている。また、二芯平行電線1は、絶縁層3の周囲に巻き付けられたシールドテープ4と、シールドテープ4の内側に配置されたドレイン線5と、シールドテープ4を覆うように形成された外被6と、を備えている。
【0014】
二本の導体2は、互いに略同一の構造を有し、平行に配置されている。図1に示すL1は、二本の導体2の中心同士の間隔である。
【0015】
導体2は、例えば銅やアルミニウム、またはそれらを主として含む合金などの導体、錫や銀などでメッキされた導体等で形成された単線または撚り線である。導体2に用いられる上記導体の寸法は、AWG(American Wire Gauge)の規格において、例えばAWG26~AWG36である。導体2の断面積は、0.01mm~0.16mmである。
【0016】
絶縁層3は、例えばポリオレフィンなどの誘電率が低い熱可塑性の樹脂で構成されている。絶縁層3は、例えば押出機から供給されて押し出し成形され、導体2に一括被覆されることにより形成されている。絶縁層3は、二芯平行電線1の長さ方向に垂直な断面が、長円形状で形成されている。
【0017】
なお、本明細書において「断面」とは、二芯平行電線の長手方向から見た断面を意味する。また、「長円形状」とは、楕円形状、円形を扁平にした小判型形状、および二本の平行線を円弧状の曲線でつないだ形状等を含む形状を意味する。
【0018】
絶縁層3は、絶縁層3の断面において二本の導体2が並ぶ方向を左右方向とし、この左右方向に対する垂直方向を上下方向とするとき、二本の導体2の上下に、左右方向に延びる平坦部31、32を有している。また、絶縁層3は、二本の導体の左右に、半円周部33、34を有している。
【0019】
絶縁層3の断面は、短軸L2の長さの1.7倍以上2.2倍以下を長軸L3の長さとする長円形状で形成されている(短軸と長軸を図に符号で示す)。より好ましくは、絶縁層3の断面は、短軸L2の2倍を長軸L3の長さとする長円形状で形成されている。本例では、絶縁層3の断面の長円形状は、例えば、AWG26の設計において長軸3.14mm×短軸1.57mm程度、AWG28の設計において長軸2.24mm×短軸1.12mm程度、AWG30の設計において長軸1.80mm×短軸0.90mm程度、AWG36の設計において長軸0.78mm×短軸0.39mm程度である。
【0020】
ここで、絶縁層3の厚さ方向(図1の上下方向)の偏肉率について説明する。厚さ方向の偏肉率とは、導体2の上下それぞれにおける絶縁層3の厚さT1,T2について、厚さの最小値/厚さの最大値の比率である。偏肉率は、二芯平行電線1の長さ方向において、絶縁層3の厚さの最小値/最大値が1.0に近い値であることが好ましい。絶縁層3の厚さ方向の偏肉率が1.0の場合、絶縁層3の厚さT1と厚さT2とは同一である。絶縁層3の厚さT1と厚さT2とが同一の場合、二芯平行電線1は良好な電気的特性を有する。偏肉率は、絶縁樹脂の押し出し条件を調整することにより、1.0に近づけることができる。偏肉率の調整は、例えば絶縁樹脂の押し出し時の樹脂圧、スクリューの速度、導体2の線速、樹脂流路の形状等を調整することにより、行うことができる。
【0021】
二芯平行電線1の電気的特性は、絶縁層3の厚さ方向の偏肉率が小さいと悪化する。良好な電気的特性の観点から許容されうる絶縁層3の偏肉率は0.85以上である。二芯平行電線1の長さ方向において、絶縁層3の厚さは変動し得る。二芯平行電線1の電気的特性を安定させるためには、長さ方向における絶縁層3の厚みの変動は小さいことが望ましい。この絶縁層3の厚さの変動を考慮した好ましい偏肉率は、二芯平行電線1の長さ5mの範囲において、0.85以上1.0以下である。本例では、二本の導体2の少なくとも一方の上方向及び下方向に位置する絶縁層3の厚さの最小値/最大値が、二芯平行電線1の長さ5mの範囲において、0.85以上1.0以下となるように、絶縁層3が形成されている。
【0022】
絶縁層3は、長円形状における外形線と長軸L3の垂直二等分線との交点を含む部分に、溝35を有している。平坦部31、32の両方に溝35が形成されていてもよいが、電気的特性をより向上させるためには、平坦部31,32のうちのいずれか一方に溝35を形成することが好ましい。本例では、溝35は、図1に示すように、平坦部31に形成されている。
【0023】
溝35は、ドレイン線5の外形に合わせた形状に形成されている。ドレイン線5の断面形状が円形である場合、溝35は、その底部がドレイン線5に沿う円弧状に形成される。ドレイン線5の断面が円形以外、例えば矩形の場合、溝35の底部は矩形状に形成される。
【0024】
また、溝35は、ドレイン線5の外径または厚みの0.5倍より大きく0.9倍以下の深さに形成されている。溝35の深さがドレイン線5の外径または厚みの0.5倍よりも浅い場合には、ドレイン線5が溝35から外れて蛇行してしまうおそれがある。溝35の深さがドレイン線5の外径または厚みの0.9倍より大きいと、ドレイン線5は、溝35内に入り込み過ぎてシールドテープ4に対して接触状態が不安定になってしまい、二芯平行電線1の電気的特性が安定しないおそれがある。
【0025】
溝35の深さは、より好ましくは、ドレイン線5の外径の0.6倍以上0.8倍以下である。更に好ましくは、溝35の深さは、ドレイン線5の0.7倍である。本例では、溝35は、その底部が断面円形のドレイン線5に沿う円弧状に形成され、最も深い箇所が0.18mm程度の深さ(ドレイン線の外径の0.72倍)となるように形成されている。このような深さで溝35を形成することにより、ドレイン線5は、絶縁層3よりもシールドテープ4側に出るように溝35に保持され、確実にシールドテープ4と接触する。
【0026】
シールドテープ4は、例えばアルミニウムなどの金属層41をポリエステルなどの樹脂テープに貼り付けまたは蒸着した金属層付樹脂テープで形成されている。シールドテープ4は、絶縁層3の周囲及びドレイン線5の外側に縦添えで巻き付けられている。シールドテープ4は、シールドテープ4の巻き付け開始位置42から巻き付け終了位置43までの領域を重ねて覆う重なり部44を有している。重なり部44は、絶縁層3の平坦部31,32のいずれか一方に配置されている。本例では、図1に示すように、重なり部44は、平坦部32に配置されている。
【0027】
重なり部44は、左右方向(図1における左右方向)の長さが、二本の導体2の中心同士の間隔L1の0.7倍から1.3倍の長さに形成されている。このように構成することにより、二芯平行電線1の電気的特性が安定しやすくなる。
【0028】
シールドテープ4は、金属層41が絶縁層3およびドレイン線5側を向くように巻き付けられている。本例では、シールドテープ4は、縦添えで絶縁層3及びドレイン線5を覆うように巻き付けられている。シールドテープの巻き付け開始位置および巻き付け終了位置が二芯平行電線の長さ方向に平行になるように巻き付けられている。
【0029】
シールドテープ4は、重なり部44に接着剤を設けて、この接着剤で重なり部44におけるシールドテープ4同士を固着させて、シールドテープ4が巻かれた形状を維持しても良い。
【0030】
ドレイン線5は、例えば、銅やアルミニウム等の導体線である。ドレイン線5は、シールドテープ4の内側であって、二芯平行電線1の長尺方向に平行な方向(図1の紙面奥行き方向)に縦添えされ、絶縁層3の溝35内に保持されている。ドレイン線5の断面形状は、円形でも良く、矩形でもよい。
【0031】
本例では、ドレイン線5は、焼きなまし(アニール)処理された錫めっき銅線で、断面が円形で形成されている。ドレイン線5の直径は、例えば0.18~0.3mmである。本例では、AWG26の設計において、溝35の深さは上記した0.18mm程度であり、ドレイン線5の直径は0.25mm程度であるので、ドレイン線5は、ドレイン線5の一部(本例でAWG26の設計では0.07mm程度)が絶縁層3の平坦部31よりもシールドテープ4側に出るように、溝35に保持されている。
【0032】
このように構成されることにより、シールドテープ4の金属層41がドレイン線5に確実に接触するので、二芯平行電線1の電気的特性が安定しやすくなる。また、ドレイン線5が溝35内に保持されるので、ドレイン線5が絶縁層3上で蛇行することが防止される。これにより、二芯平行電線1の電気的特性が向上する。
【0033】
外被6は、例えばポリエステルなどの樹脂テープで形成されている。外被6は、シールドテープ4の外周を覆うように、例えば螺旋状(横巻き)に巻かれている。外被6を構成する樹脂は、耐熱性を高めるために架橋されても良い。本例では、外被6は、ポリエステルテープを同方向に二重に横巻きで巻き付けて形成されている。なお、樹脂テープを二重に巻き付けて外被6を形成する場合、巻き付け方向は同方向に限らず、逆方向でも良い。
【0034】
ところで、例えば高速通信に用いられる二芯平行電線は、電気的特性をより良好にすることが求められている。そのため、ドレイン線の全体を絶縁体に埋没させる従来構成のケーブルでは、ドレイン線が絶縁体に完全に入り込んでドレイン線とシールドテープに隙間ができて電気的特性が十分でない場合があった。
【0035】
これに対して、本開示の一態様に係る二芯平行電線1は、以上説明したように、ドレイン線5の一部が絶縁層3よりもシールドテープ4側に出るように、溝35に保持されている。このため、シールドテープ4側に出ているドレイン線5の一部は、絶縁層3の周囲に巻き付けられるシールドテープ4と、確実に接触する。すなわち、ドレイン線5が溝35に入り込んでシールドテープ4が浮いてしまうことがなく、ドレイン線5が溝35から外れて蛇行してしまうことがない。これにより、二芯平行電線1の電気的特定が安定するので、二芯平行電線1の電気的特性を向上させることができる。
【0036】
また、本開示の一態様に係る二芯平行電線1は、溝35が、重なり部44が配置されていない平坦部31に配置されているので、縦添えされたシールドテープ4の巻き付け開始位置42及び巻き付け終了位置43は平坦部32に配置される。このように配置することにより、重なり部44におけるシールドテープ4は平坦部32に重ねられるので、シールドテープ4の縦添えが開きにくくなる。これにより、二芯平行電線1の電気的特性が安定しやすくなる。
【0037】
なお、溝35は、本例では平坦部31のみに形成されているが、二芯平行電線の特性インピーダンスを調整し易くする観点および絶縁層3を製造しやすくする観点からは、平坦部31,32にそれぞれ溝35を形成してもよい。平坦部31,32にそれぞれ溝35が形成された場合、ドレイン線5が両溝または片溝に配置される。ドレイン線がいずれか一方の溝35に配置される場合、ドレイン線5が配置されない溝35は、しわが寄らないように緊張させた状態のシールドテープ4で覆われる。このように構成することにより、シールドテープ4が溝35の中に入り込んで電気的特性が悪くなることを防ぐことができる。
【0038】
次に、本開示の実施例について説明する。下記の実施例、比較例の二芯平行電線を作成し、それぞれの二芯平行電線について電気的特性(Scd21-Sdd21)試験を行った。Scd21-Sdd21とは、差動モード出力に対する相対的なコモンモード出力である。
(実施例)
実施例の二芯平行電線1の構成は、図1に示した第一実施形態の構成であり、下記のように設定した。
【0039】
AWG26の銅線(直径0.41mmの導体2)を二本平行に並べ、その周囲をポリオレフィン(絶縁層3)で押し出し成形より一体被覆した。絶縁層3は、長軸L32.74mm×短軸L21.37mmの長円形状の断面となるように形成した。絶縁層3の上方向の平坦部31には、その底部が円弧状で最も深い箇所の深さが0.18mmの溝35を形成した。
【0040】
焼きなまし(アニール)処理された錫めっき銅線を、断面が円形状となるように形成して、直径0.25mmのドレイン線5を形成した。1本のドレイン線5を、絶縁層3の溝35内に配置した。ドレイン線5は、ドレイン線5の一部(0.07mm)が絶縁層3の平坦部31よりもシールドテープ4側に出るように、溝35に保持させた。
【0041】
真空蒸着法を用いてアルミニウムをポリエステル樹脂テープに蒸着して、アルミニウム蒸着ポリエステル樹脂テープ(シールドテープ4)を形成した。絶縁層3及びドレイン線5の外周面上に、シールドテープ4のアルミニウムの面が内側に配置されるようにして、シールドテープ4を縦添えで巻き付けた。シールドテープ4の外側に、二枚のポリエステルテープを螺旋状に巻きつけて、外被6とした。
【0042】
上記構成の実施例の二芯平行電線1を、長さ5mとして、0GHzから19GHzの高周波信号を伝送し、電気的特性(Scd21-Sdd21)を求めた。
(比較例)
比較例においては、溝35を深さ0.25mmで形成し、ドレイン線5の直径を0.25mmで形成して、ドレイン線5の全体が絶縁層3に埋没する構成とした。その他の構成は実施例の構成と同様の構成とした。
(試験結果)
以上の実施例および比較例について、それぞれ10例の電気的特性(Scd21-Sdd21)の結果を比較した(図2および図3参照)。
【0043】
図2図3を比較して、電気的特性(Scd21-Sdd21)は、比較例では図3に示す通り最大値が-1dBであるが、実施例では図2に示す通り-15dBであり、実施例が良好である。各例のバラツキも図2に示す実施例が良好である。
【0044】
以上の結果から、ドレイン線5の全体を絶縁層3に埋没させた構成の二芯平行電線よりも、ドレイン線5の一部が絶縁層3よりもシールドテープ4側に出るように溝35にドレイン線5を保持した二芯平行電線1の方が、良好な電気的特性(Scd21-Sdd21)であることが確認できた。
【0045】
以上、本開示を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本開示の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本開示を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【0046】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様について付記する。
[付記1]
本開示の一態様に係る二芯平行電線は、
平行に配置された二本の導体と、
前記二本の導体の周囲に押し出し被覆により形成された絶縁層と、
前記絶縁層の周囲に縦添えで巻き付けられたシールドテープと、
前記シールドテープの内側に配置されたドレイン線と、
前記シールドテープを覆うように形成された外被と、
を備えた二芯平行電線であって、
前記絶縁層のケーブルの長さ方向に垂直な断面は、短軸の長さの1.7倍以上2.2倍以下を長軸の長さとする長円形状であり、前記長円形状における外形線と長軸の垂直二等分線との交点を含む部分に溝を有し、
前記溝は、前記ドレイン線の外径または厚みの0.5倍より大きく0.9倍以下の深さに形成され、
前記ドレイン線は、その一部が、前記絶縁層よりも前記シールドテープ側に出るように前記溝に保持されている。
【0047】
上記構成の二芯平行電線によれば、溝はドレイン線の外径または厚みの0.5倍より大きく0.9倍以下の深さに形成されるとともに、ドレイン線はその一部が絶縁層よりもシールドテープ側に出るように溝に保持されている。このため、ドレイン線はシールドテープに確実に接触するとともに、ドレイン線は蛇行せずに溝に保持される。これにより、二芯平行電線の電気的特性が安定しやすくなり、電気的特性を向上させることができる。
[付記2]
また、上記の付記1の二芯平行電線において、
前記絶縁層は、前記断面において、前記二本の導体が並ぶ方向を左右方向とし、前記左右方向に対する垂直方向を上下方向とするとき、前記二本の導体の上下に左右方向に延びる平坦部を有し、前記二本の導体の左右に半円周部を有し、
前記シールドテープは、前記シールドテープの巻き付け開始位置と巻き付け終了位置との間に、前記シールドテープが重なる重なり部を有し、
前記重なり部は、前記平坦部のいずれか一方に配置され、
前記ドレイン線は、前記重なり部が配置されていない平坦部に一本配置されていてもよい。
【0048】
この構成によれば、シールドテープの重なり部は平坦部のいずれか一方に配置されているとともに、ドレイン線は重なり部が配置されていない平坦部に配置されている。このため、縦添えのシールドテープが開きにくくなると共に、二芯平行電線の電気的特性が安定しやすくなる。これにより、二芯平行電線の電気的特性を向上させることができる。
[付記3]
また、上記の付記1の二芯平行電線において、
前記重なり部は、前記左右方向の長さが、前記二本の導体の中心同士の間隔の0.7倍以上1.3倍以下の長さに形成されていてもよい。
【0049】
この構成によれば、二芯平行電線の電気的特性が安定しやすくなる。これにより、二芯平行電線の電気的特性を向上させることができる。
[付記4]
また、上記の付記1~付記3のいずれかに記載の二芯平行電線において、
前記絶縁層は、前記長円形状において、前記二本の少なくともいずれかの導体の上方向及び下方向に位置する前記絶縁層の厚さの最小値/最大値が、長さ5mの範囲において0.85以上1.0以下となるように形成されていてもよい。
【0050】
この構成によれば、各導体の厚さ方向の位置ずれが少ないため、二芯平行電線の電気的特性をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 二芯平行電線
2 導体
3 絶縁層
4 シールドテープ
5 ドレイン線
6 外被
31、32 平坦部
33、34 半円周部
35 溝
41 金属層
42 巻き付け開始位置
43 巻き付け終了位置
44 重なり部
L1 (導体2の中心同士の)間隔
L2 短軸
L3 長軸
図1
図2
図3