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特許7248045電力供給システムの設計支援装置、及び、電力供給システムの設計支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】電力供給システムの設計支援装置、及び、電力供給システムの設計支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20230322BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/32
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021043772
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022143316
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 卓也
【審査官】山本 香奈絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-017157(JP,A)
【文献】国際公開第2013/105259(WO,A1)
【文献】特表2015-515246(JP,A)
【文献】特開2012-249374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備及び蓄電設備を含み、対象システムに電力を供給するための電力供給システムの設計支援装置であって、
前記発電設備の発電量と前記対象システムの電力の需要量との差分の時間変化を表す正味需要量プロファイルに基づいて、前記発電設備の発電設備容量と、前記蓄電設備の蓄電設備容量と、前記対象システムへの供給電力量と関係において、線形関係の係数が変化する点である端点の候補を有する複数の発電設備容量を特定する端点候補特定部と、
前記正味需要量プロファイルに基づいて、前記複数の発電設備容量における前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係を演算する関係演算部と、
前記複数の発電設備容量における前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係に基づいて、前記供給電力量に対する前記発電設備容量に関する偏微分、及び、前記供給電力量に対する前記蓄電設備容量に関する偏微分が変化する点を端点として特定する端点特定部と、
特定した前記端点を含む、前記発電設備容量と、前記蓄電設備容量と、前記供給電力量との関係をユーザに提示する提示部と、
を備えることを特徴とする電力供給システムの設計支援装置。
【請求項2】
前記関係演算部は、前記正味需要量プロファイルにおいて、前記発電量が前記需要量よりも多い時系列的に連続する複数の期、又は、前記需要量が前記発電量よりも多い時系列的に連続する複数の期を集約した集約正味需要量のプロファイルを生成し、前記集約正味需要量のプロファイルに基づいて、前記複数の発電設備容量における前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係を演算する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電力供給システムの設計支援装置。
【請求項3】
特定した前記端点を含み、前記発電設備容量と、前記蓄電設備容量と、前記供給電力量との関係を示すグラフを生成する描画部と、
をさらに備え、
前記提示部は、前記グラフを前記ユーザに提示する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電力供給システムの設計支援装置。
【請求項4】
前記描画部は、前記端点特定部が特定した前記供給電力量に対する前記発電設備容量に関する偏微分、及び、前記供給電力量に対する前記蓄電設備容量に関する偏微分に基づいて、前記グラフとしての凸多面体の平面の法線ベクトルの値をプロットした法線ベクトルプロット図を生成し、
前記提示部は、前記法線ベクトルプロット図を前記ユーザに提示する、
ことを特徴とする請求項3に記載の電力供給システムの設計支援装置。
【請求項5】
前記描画部は、前記発電設備容量と前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係、前記法線ベクトルの値、及び、前記発電設備及び蓄電設備の設備単価に基づいて、前記発電設備の設備単価と、前記蓄電設備の設備単価と、前記電力供給システムのコストであるシステムコストとの関係を示すマップを生成し、
前記提示部は、前記マップを前記ユーザに提示する、
ことを特徴とする請求項4に記載の電力供給システムの設計支援装置。
【請求項6】
コンピュータを、発電設備及び蓄電設備を含み、対象システムに電力を供給するための電力供給システムの設計支援装置として動作させ、
前記コンピュータを、
前記発電設備の発電量と前記対象システムの電力の需要量との差分の時間変化を表す正味需要量プロファイルに基づいて、前記発電設備の発電設備容量と、前記蓄電設備の蓄電設備容量と、前記対象システムへの供給電力量と関係において、線形関係の係数が変化する点である端点の候補を有する複数の発電設備容量を特定する端点候補特定部と、
前記正味需要量プロファイルに基づいて、前記複数の発電設備容量における前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係を演算する関係演算部と、
前記複数の発電設備容量における前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係に基づいて、前記供給電力量に対する前記発電設備容量に関する偏微分、及び、前記供給電力量に対する前記蓄電設備容量に関する偏微分が変化する点を端点として特定する端点特定部と、
特定した前記端点を含む、前記発電設備容量と、前記蓄電設備容量と、前記供給電力量との関係をユーザに提示する提示部と、
として機能させることを特徴とする電力供給システムの設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給システムの設計支援装置、及び、電力供給システムの設計支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エネルギー供給部からエネルギー需要部へエネルギーを供給するエネルギーシステムにおいて、エネルギー供給部から供給されるエネルギー流量、及び、エネルギー供給部の設備容量を最適化するための技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エネルギーの需要及び供給データ、機器特性データ(例えば設備単価、設備由来CO、エネルギー変換効率など)を入力すると、トータルコストあるいはトータルCO排出量を最小化する設備容量、及び、当該設備容量での各時間のエネルギー流量を線形計画法に基づいて演算して出力する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6669148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、発電設備及び蓄電設備を含み、対象システムに電力を供給するための電力供給システムが従来知られている。このような電力供給システムにおいては、発電設備が発電した電力が蓄電設備に蓄えられ、蓄電設備から対象システムに電力が供給される。あるいは、発電設備が発電した電力が直接対象システムに供給される。
【0006】
ここで、ユーザ(例えば電力供給システムの設計者)が、発電設備の発電設備容量と、蓄電設備の蓄電設備容量と、対象システムへ供給される供給電力量との関係を把握したいという要求がある。また、ユーザが、発電設備コスト及び蓄電設備コストに対する最適な発電設備容量及び蓄電設備容量の関係を把握したいという要求がある。また、ユーザが要求する電力コストに対して、それを実現するために必要とされる発電設備コスト及び蓄電設備コストの条件を、ユーザが把握したいという要求がある。
【0007】
例えば、上記関係は、ユーザが電力供給システムを最適化するための一助となり得る。発電設備容量を大きくすればするほど発電設備のコスト(設備自体の費用あるいはランニングコスト)が大きくなり、蓄電設備容量を大きくすればするほど、蓄電設備のコストも大きくなる。ユーザは、対象システムが必要とする電力量を確実に対象システムに供給しつつ、できるだけ発電設備及び蓄電設備のコストを低減したい(つまり、電力供給システムを最適化したい)。ユーザが、発電設備容量と、蓄電設備容量と、対象システムへ供給される供給電力量との関係を把握できれば、電力供給システムの最適化が容易となり得る。
【0008】
本発明の目的は、発電設備及び蓄電設備を含み、対象システムに電力を供給するための電力供給システムに関する、発電設備における発電設備容量と、蓄電設備における蓄電設備容量と、対象システムへ供給される供給電力量との関係を、ユーザが容易に把握できるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、発電設備コスト及び蓄電設備コストに対する最適な発電設備容量及び蓄電設備容量の関係を、ユーザが容易に把握できるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、ユーザが要求する電力コストに対して、それを実現するために必要とされる発電設備コスト及び蓄電設備コストの条件を、ユーザが容易に把握できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、発電設備及び蓄電設備を含み、対象システムに電力を供給するための電力供給システムの設計支援装置であって、前記発電設備の発電量と前記対象システムの電力の需要量との差分の時間変化を表す正味需要量プロファイルに基づいて、前記発電設備の発電設備容量と、前記蓄電設備の蓄電設備容量と、前記対象システムへの供給電力量と関係において、線形関係の係数が変化する点である端点の候補を有する複数の発電設備容量を特定する端点候補特定部と、前記正味需要量プロファイルに基づいて、前記複数の発電設備容量における前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係を演算する関係演算部と、前記複数の発電設備容量における前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係に基づいて、前記供給電力量に対する前記発電設備容量に関する偏微分、及び、前記供給電力量に対する前記蓄電設備容量に関する偏微分が変化する点を端点として特定する端点特定部と、特定した前記端点を含む、前記発電設備容量と、前記蓄電設備容量と、前記供給電力量との関係をユーザに提示する提示部と、を備えることを特徴とする電力供給システムの設計支援装置である。
【0010】
望ましくは、前記関係演算部は、前記正味需要量プロファイルにおいて、前記発電量が前記需要量よりも多い時系列的に連続する複数の期、又は、前記需要量が前記発電量よりも多い時系列的に連続する複数の期を集約した集約正味需要量のプロファイルを生成し、前記集約正味需要量のプロファイルに基づいて、前記複数の発電設備容量における前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係を演算する、ことを特徴とする。
【0011】
望ましくは、特定した前記端点を含み、前記発電設備容量と、前記蓄電設備容量と、前記供給電力量との関係を示すグラフを生成する描画部と、をさらに備え、前記提示部は、前記グラフを前記ユーザに提示する、ことを特徴とする。
【0012】
望ましくは、前記描画部は、前記端点特定部が特定した前記供給電力量に対する前記発電設備容量に関する偏微分、及び、前記供給電力量に対する前記蓄電設備容量に関する偏微分に基づいて、前記グラフとしての凸多面体の平面の法線ベクトルの値をプロットした法線ベクトルプロット図を生成し、前記提示部は、前記法線ベクトルプロット図を前記ユーザに提示する、ことを特徴とする。
【0013】
望ましくは、前記描画部は、前記発電設備容量と前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係、前記法線ベクトルの値、及び、前記発電設備及び蓄電設備の設備単価に基づいて、前記発電設備の設備単価と、前記蓄電設備の設備単価と、前記電力供給システムのコストであるシステムコストとの関係を示すマップを生成し、前記提示部は、前記マップを前記ユーザに提示する、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、コンピュータを、発電設備及び蓄電設備を含み、対象システムに電力を供給するための電力供給システムの設計支援装置として動作させ、前記コンピュータを、前記発電設備の発電量と前記対象システムの電力の需要量との差分の時間変化を表す正味需要量プロファイルに基づいて、前記発電設備の発電設備容量と、前記蓄電設備の蓄電設備容量と、前記対象システムへの供給電力量と関係において、線形関係の係数が変化する点である端点の候補を有する複数の発電設備容量を特定する端点候補特定部と、前記正味需要量プロファイルに基づいて、前記複数の発電設備容量における前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係を演算する関係演算部と、前記複数の発電設備容量における前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係に基づいて、前記供給電力量に対する前記発電設備容量に関する偏微分、及び、前記供給電力量に対する前記蓄電設備容量に関する偏微分が変化する点を端点として特定する端点特定部と、特定した前記端点を含む、前記発電設備容量と、前記蓄電設備容量と、前記供給電力量との関係をユーザに提示する提示部と、として機能させることを特徴とする電力供給システムの設計支援プログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、発電設備及び蓄電設備を含み、対象システムに電力を供給するための電力供給システムに関する、発電設備における発電設備容量と、蓄電設備における蓄電設備容量と、対象システムへ供給される供給電力量との関係を、ユーザが容易に把握することができる。また、本発明によれば、発電設備コスト及び蓄電設備コストに対する最適な発電設備容量及び蓄電設備容量の関係を、ユーザが容易に把握できるようにすることができる。また、本発明によれば、ユーザが要求する電力コストに対して、それを実現するために必要とされる発電設備コスト及び蓄電設備コストの条件を、ユーザが容易に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る電力供給システムの設計支援装置の構成概略図である。
図2】発電量と需要量のプロファイルの例を示す図である。
図3】正味需要量のプロファイルの例を示す図である。
図4】各残余需要量の逆向き累積正味需要量を示す図である。
図5】1つの期の残余需要量に関する逆向き累積正味需要量から求められる、最大値n、最小値m、パラメータh及びlを示す図である。
図6】1つの期の残余需要量に関する蓄電設備容量と電力利用量の関係を示す図である。
図7】全期の残余需要量に関する蓄電設備容量と電力利用量の関係を示す図である。
図8】全期の残余需要量に関する蓄電設備容量と電力利用率の関係を示す図である。
図9】発電設備容量、蓄電設備容量、及び電力利用率の関係を示す3次元凸多面体を示す図である。
図10】3次元凸多面体を電力利用率軸の正の方向から見た図である。
図11】3次元凸多面体を構成する平面の法線ベクトルプロット図である。
図12】発電設備単価と蓄電設備単価と電力システムコストの関係を示す等高線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1.電力供給システムの設計支援装置10の構成概略>
図1は、本実施形態に係る電力供給システムの設計支援装置10の構成概略図である。本実施形態では、電力供給システムの設計支援装置10はサーバコンピュータであるが、電力供給システムの設計支援装置10としては、以下に説明する機能を発揮する限りにおいてどのようなコンピュータであってもよい。なお、以下に説明する電力供給システムの設計支援装置10が発揮する機能は、複数のコンピュータにおける分散処理によって実現されてもよい。すなわち、電力供給システムの設計支援装置10は、複数のコンピュータ(例えば複数のサーバ)により実現されてもよい。
【0018】
電力供給システムの設計支援装置10は電力供給システムを解析する。電力供給システムは、発電を行う発電設備と、蓄電を行う蓄電設備とを含み、対象システムに電力を供給するためのシステムである。電力供給システムの設計支援装置10は電力供給システムを解析し、発電設備の発電設備容量と、蓄電設備の蓄電設備容量と、対象システムへ供給される供給電力量との関係を演算してユーザに提供する。なお、本実施形態の対象となる電力供給システムに含まれる発電設備は、種々の発電設備であってよい。例えば、風力、太陽光、地熱、潮力、波力などの再生可能エネルギーを使用して再生可能エネルギー発電を行うものであってもよい。また蓄電設備は、充放電可能な2次電池を含む設備である。対象システムとしては、電力を用いて動作するシステムであればどのようなシステムであってもよい。
【0019】
入出力インターフェース12は、電力供給システムの設計支援装置10に対してデータを入出力するために用いられるインターフェースである。入出力インターフェース12としては、例えばネットワークアダプタなどの通信インターフェース、USBコネクタやSDカードスロットなどの記憶媒体インターフェース、例えばマウス、キーボード、タッチパネルあるいはボタンなどの入力インターフェース、及び、ディスプレイあるいはスピーカなどの出力インターフェースを含んで構成される。
【0020】
メモリ14は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、eMMC(embedded Multi Media Card)、ROM(Read Only Memory)あるいはRAM(Random Access Memory)などを含んで構成される。メモリ14には、電力供給システムの設計支援装置10の各部を動作させるための、電力供給システムの設計支援プログラムが記憶される。また、メモリ14には、後述のプロセッサ16が、発電設備の発電設備容量と、蓄電設備の蓄電設備容量と、対象システムへ供給される供給電力量との関係を演算するために必要な種々の情報が記憶される。
【0021】
プロセッサ16は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、あるいは、プログラマブル論理デバイスなどを含んで構成される。プロセッサ16は、メモリ14に記憶された電力供給システムの設計支援プログラムに従って、端点候補特定部18、関係演算部20、端点特定部22、描画部24、及び提示部26としての機能を発揮する。以下、端点候補特定部18、関係演算部20、端点特定部22、描画部24、及び提示部26が行う処理の詳細を説明すると共に、電設備の発電設備容量と、蓄電設備の蓄電設備容量と、対象システムへ供給される供給電力量との関係の演算処理の詳細、及び、処理結果のユーザへの提示処理の詳細について説明する。
【0022】
<2.正味需要量のプロファイル>
図2は、発電設備における発電量と、対象システムの電力の需要量とのプロファイルの例を示す図である。発電量は、発電設備容量xと、単位発電設備容量あたりの単位発電量pとの積で表すことができる。図2に示されているのは、発電設備がある発電設備容量xを有するときのプロファイルである。当然ながら、発電設備の発電設備容量xが変われば、プロファイルも変わり得る。また、対象システムにおける電力の需要量をdと表現する。図2に示される通り、発電量x及び需要量dは、時間変化している。なお、本実施形態では、時間を1時間(h)毎に分割し、1つの時間を1つの「期」と呼ぶ。図2(及び図3)において、期は( )付きの数字で表されている。例えば、時刻0~1(h)の時間は1期であり、時刻1~2(h)の時間は2期である。
【0023】
発電量xから需要量dを差し引いた量を正味需要量rと呼ぶ。すなわち、正味需要量rは、以下の式1で表される。
=x-d ・・・(式1)
なお、本明細書において変数tは期を表すものである。
【0024】
上述の通り発電量x及び需要量dは時間変化するため、正味需要量rも時間変化することになる。図3には、発電量x及び需要量dのプロファイルが図2に示すようである場合における、正味需要量rのプロファイルが示されている。図3に示すプロファイルも、発電設備がある発電設備容量xを有するときのプロファイルである。
【0025】
各期において、正味需要量rが正となる場合と負となる場合がある。言うまでもなく、発電量xが需要量dよりも多い期については正味需要量rが正となり、需要量dが発電量xよりも多い期については正味需要量rが負となる。正の正味需要量rを余剰発電量r と呼び、負の正味需要量rを残余需要量r と呼ぶ。図3の例では、2期、5期、6期、8期、10期、及び11期において残余需要量r が生じている。
【0026】
残余需要量r が生じている期においては、電力供給システムは、発電設備からの電力のみでは、対象システムが必要とする電力量を供給することができない。その場合、それ以前に蓄電設備に蓄電した電力を対象システムに供給すればよい。当然ながら、そのときに、対象システムへ供給するのに必要な電力量が蓄電設備に蓄電されている必要がある。
【0027】
発電設備の発電設備容量xを大きくすれば、残余需要量r を生じさせないようにすることができるが、発電設備容量xを大きくすると、発電設備のコスト(設備自体の費用あるいはランニングコスト)も大きくなる。また、蓄電設備の蓄電設備容量を大きくすれば、残余需要量r を生じさせないようにすることができるが、蓄電設備容量を大きくすると、蓄電設備のコストも大きくなる。したがって、需要量dに応じて、発電設備容量と蓄電設備容量を最適化することが望まれる。なお、本明細書における最適化とは、必ずしも理想解を得ることのみを意味するものではなく、理想解に近い解を得ることを含むものである。
【0028】
理想的には、図3において、各期の残余需要量r が、それ以前に生じた余剰発電量r で丁度賄えるのがよい。したがって、蓄電設備の蓄電設備容量を、残余需要量r をそれ以前に生じた余剰発電量r で賄うのに最低限必要な量とするのが良いと言える。
【0029】
<3.端点候補を有する発電設備容量の特定>
発電設備の発電設備容量と、蓄電設備の蓄電設備容量と、対象システムへの供給電力量との3者の関係は、3次元空間における多面体(特に凸多面体)で表現し得る。その凸多面体の頂点は、上記3者の関係において線形関係の係数が変化する点である。本明細書では、これを端点と呼ぶ。換言すれば、端点は、供給電力量に対する発電設備容量に関する偏微分と、供給電力量に対する蓄電設備容量に関する偏微分との両方が変化する点である。端点は、ある対象システムにとっての発電設備容量と蓄電設備容量の最適解を示すものとなり得る。
【0030】
端点候補特定部18は、上述の正味需要量rのプロファイルに基づいて、端点候補を有する複数の発電設備容量(換言すれば端点が生ずる可能性のある発電設備容量)を特定する。
【0031】
端点を生じる可能性があるのは、正味需要量rが以下の式2~式4を満たす場合である。
【0032】
【数1】
【0033】
上記の条件で端点を生じる可能性がある理由については後述する。
また、上記式1から、上記式2~4それぞれの場合における発電設備容量x は、以下の式5~7で表される。
【0034】
【数2】
【0035】
<4.蓄電設備容量と対象システムへの供給電力量との関係の演算>
<4-1.各残余需要量r についての逆向き累積正味需要量の演算>
関係演算部20は、図3に示すような正味需要量rのプロファイルに基づいて、発電設備があるある発電設備容量xである場合における、蓄電設備容量xと、対象システムへの供給電力量との関係を演算する。特に、関係演算部20は、端点候補特定部18が特定した複数の発電設備容量x について、蓄電設備容量と供給電力量との関係を演算する。本実施形態では、関係演算部20は、複数の発電設備容量x について、小さい方から順に、蓄電設備容量と供給電力量との関係を演算する。以下、当該処理の詳細を説明する。
【0036】
関係演算部20は、図3に示す各残余需要量r に対して電力を供給するために必要となる蓄電設備容量と供給電力量の関係を定量化する。まず、関係演算部20は、時間を遡って、正味需要量rの累積を求める。このようにして求められるものを、逆向き累積正味需要量qtjと呼ぶ。逆向き累積正味需要量qtjは、以下の式8で表される。
【0037】
【数3】
【0038】
式8において、iは期を表す変数であり、変数jは、1~tを取るものとする。つまり、式8は、t期から1期までの正味需要量rの累積を求めることを意味している。
【0039】
図4は、各残余需要量r の逆向き累積正味需要量qtjを示す図である。図3に示す正味需要量rのプロファイルにおいては、上述の通り、2期、5期、6期、8期、10期、及び11期において残余需要量r が生じている。したがって、関係演算部20は、上記各期それぞれについて、逆向き累積正味需要量qtjを求める。図4(a)が2期の逆向き累積正味需要量qtjを示す図であり、図4(b)が5期の逆向き累積正味需要量qtjを示す図であり、図4(c)が6期の逆向き累積正味需要量qtjを示す図であり、図4(d)が8期の逆向き累積正味需要量qtjを示す図であり、図4(e)が10期の逆向き累積正味需要量qtjを示す図であり、図4(f)が11期の逆向き累積正味需要量qtjを示す図である。
【0040】
図4(a)~(f)それぞれにおいて、右端の縦棒は、当該期の残余需要量r の大きさを表す。例えば、図4(a)の縦棒は-1.5(kWh)を示しているが、これは2期における残余需要量r が-1.5(kWh)だからである。縦棒の底から出発している折れ線グラフは、1期ずつ遡ってゼロに達する(逆向き累積正味需要量qtjが残余需要量r の大きさに等しくなる)までの逆向き累積正味需要量qtjを表している。なお、ここでは、以後の計算の必要上、逆向き累積正味需要量qtjが正の値になった場合もゼロとしている。
【0041】
図4(a)、(b)、(d)、及び(e)が示す、2期、5期、8期、及び10期については、その直前の期の余剰発電量r の方が大きい。例えば、2期の残余需要量r は、その直前の1期の余剰発電量r より小さい。したがって、これらの期については、折れ線グラフが1期でゼロに達している。図4(c)及び(f)が示す6期及び11期については、折れ線グラフがゼロに達するまで、複数の期を要しているが、これはこの残余需要量r をすべて余剰発電量r で賄うためには、複数期の余剰発電量r を蓄積することが必要であることを表している。
【0042】
<4-2.各残余需要量r についての蓄電設備容量と供給電力量の関係の演算>
以下の処理は、図4(a)~(f)に示した各残余需要量r について行うが、代表して、図4(f)に示した11期についての関係演算部20の処理を説明する。関係演算部20は、逆向き累積正味需要量qtjに基づいて、蓄電設備容量と供給電力量の関係を求める。
【0043】
図5は、1つの期の残余需要量r に関する逆向き累積正味需要量qtjから求められる、最大値n、最小値m、パラメータh及びlを示す図である。関係演算部20は、逆向き累積正味需要量qtjに基づいて、その最大値n及び最小値mを求める。ただし、考慮するj(遡る期数)の範囲を段階的に狭めながら、あるjの範囲で逆向き累積正味需要量qtjの最大値n及び最小値mを求めていく。なお、変数kは計算の段階を示すものである。
【0044】
最大値nは、以下の式9で表される。
=max(qtj)=qtj2k (ただしj2k-1≧j≧0の範囲) ・・・(式9)
最小値mは、以下の式10で表される。
=min(qtj)=qtj2k+1 (ただしj2k≧j≧0の範囲) ・・・(式10)
【0045】
より具体的な計算手順を以下に示す。まず、k=0では、以下の手順(a)~(c)を実行する。
(a)逆向き累積正味需要量qtjの最大値max(qtj)と、そのときのj=jを求める。最大値max(qtj)の符号は、以下の内容を示すものである。
・最大値max(qtj)<0のとき、残余需要量r 分の電力は、対象システムに供給することはできない。
・最大値max(qtj)≧0のとき、逆向き累積正味需要量qtj≧0となる最小のjを求め、j=jとすると、残余需要量r 分の電力を、(t-j)~t期の余剰発電量r を利用して対象システムに供給可能である。
上記は、以下の式11で表すことができる。
【0046】
【数4】
【0047】
図5の時刻0に点nがプロットされていること、及び、j=10であることを確認されたい。
【0048】
(b)j≧j≧1の範囲で逆向き累積正味需要量qtjの最小値min(qtj)と、そのときのj=jを求める。最小値mは、以下の式12で表される。
=min(qtj)=qtj1 (ただしj≧j≧1の範囲) ・・・(式12)
図5の時刻4に点mがプロットされていること、及び、j=6であることを確認されたい。
【0049】
(c)jが0でないなら、変数kを1インクリメントし、最大値n及び最小値mの計算を繰り返す。j=0であれば、演算を終了する。k≧1における演算において、j2k+1が0でないならば、変数kを1インクリメントし、最大値n及び最小値mの計算を繰り返し、j2k+1=0であれば、nk+1=m、K=k+1として演算を終了する。
【0050】
以上の演算により、図5に示すように、1つの期における逆向き累積正味需要量qtjの最大値n及び最小値m(ただしk=1,2,・・・,K)が求められた。
【0051】
次に、最大値n及び最小値mから、パラメータh及びlを求める。パラメータh及びlは、以下の式13及び式14で表される。
=nK-k-nK-k+1 ・・・(式13)
=nK-k-mK-k ・・・(式14)
【0052】
図5には、パラメータh及びlが示されている。パラメータhは、遡った期に応じて増加する供給(可能)電力量に相当する。パラメータlは、当該残余需要量r にパラメータhの電力を供給するために必要となる蓄電設備容量に相当する。
【0053】
求めたパラメータh及びlを用いて、蓄電設備容量と電力利用量の関係を図6に示すようなグラフで表すことができる。t期の残余需要量r に対して電力を供給するために必要となる蓄電設備容量xbtと電力利用量Q’の関係は次のように定式化される。言い換えると、残余需要量r に対する電力利用量Q’を蓄電設備容量xbtの関数Q’(xbt)として以下の式15のように定式化できる。
【0054】
【数5】
【0055】
図6は、1つの期の残余需要量r に関する蓄電設備容量と電力利用量(対象システムへの供給電力量)の関係を示す図である。式15をグラフ化したものが図6である。この図から、蓄電設備容量の増加に対して、電力利用量が段階的に増加していくことが分かる。
【0056】
関係演算部20は、各残余需要量r に対して上述の処理を行い、各残余需要量r に関する蓄電設備容量と電力利用量(対象システムへの供給電力量)の関係を演算する。
【0057】
<4-3.蓄電設備容量と電力利用量(供給電力量)の関係の演算>
関係演算部20は、各残余需要量r についての電力利用量関数Q’(xbt)を集約する(具体的には足し合わせる)ことで、与えられた発電量x及び(電力)需要量dのプロファイルに対しての、蓄電設備容量xと、電力利用量Q’の関係を求めることができる。蓄電設備容量xと、電力利用量Q’の関係は以下の式16で表される。
【0058】
【数6】
【0059】
さらに、以下の式17に示すように、電力利用量Q’を需要量dの合計で割ることで、電力利用率yと蓄電設備容量xの関係を求めることができる。
【0060】
【数7】
【0061】
図7には、式16をグラフ化したものが示され、図8には、式17をグラフ化したものが示されている。なお、蓄電設備容量x=0における縦軸の値は、蓄電設備が無くても利用できる電力利用量Q’及び電力利用率yに対応している。グラフの傾きは、電力を供給できる残余需要量r の数に対応している。蓄電設備容量xを大きくしていくと、電力利用量Q’が最大に達した個別の残余需要量r の数が減少していくため、傾きは小さくなる。最終的には1つに残った残余需要量r に電力を供給することになるため、傾きは1となる。
【0062】
<4-4.充放電効率>
蓄電設備への充電及び放電においては、充放電効率を考慮する必要がある。本明細書では、蓄電設備の充放電効率をeとする。特に、充放電効率eを充電効率e(0<e<1)と放電効率e(0<e<1)に分けて考える。ここで、e=e・eとなる。余剰発電量r を蓄電設備に充電するとき、蓄電設備に充電された電力量はe となる。蓄電されている電力を残余需要量r に放電して需要を満たすとき、供給すべき蓄電電力量はr /eとなる。余剰発電量r 及び残余需要量r の電力のやり取りに必要な蓄電設備容量xを、充放電効率eを考慮して求める場合、正味需要量rを以下のように変換すると簡易に計算できる。
【0063】
【数8】
【0064】
残余需要量r は1/eだけかさ増しされているので、蓄電設備を経由した電力利用量Q’には、放電効率eを乗じることで実際の電力利用量Qとなる。
Q=eQ’
以後、正味需要量rは充放電効率eを考慮したものとして扱う。
【0065】
<4-5.蓄電設備容量と電力利用量(供給電力量)の関係を表す数式>
ある発電設備容量xにおける、蓄電設備容量と電力利用量の関係は、図7に示したように区分線形関数となる。その関数は以下の式18で表される。
【0066】
【数9】
【0067】
式18中のnは、残余需要量r の個数に相当する。ただし、連続する残余需要量r を集約して一つと数えるものとする。連続する残余需要量r を集約する処理については後述する。また、Qは、蓄電設備容量がゼロの時の電力利用量であり、以下の式19で表される。
【0068】
【数10】
【0069】
式19において、Jは余剰発電量r が発生している(すなわちx≧dのときの)期の集合、Jは残余需要量r が発生している(すなわちx≦dのときの)期の集合である。この場合の電力利用量には充放電効率eは考慮不要である。
【0070】
次に、蓄電設備容量と電力利用量の関係をあらわす区分線形関数の傾きが変わるxbiの値(式18参照)は、ある期間の残余需要量r 及び余剰発電量r の部分和であることを示す。
【0071】
式8に示す通り、発電設備容量xを固定して、蓄電設備容量と電力利用量の関係を求める場合には、逆向き累積正味需要量qtjが基本の情報となる。jは1~Tを取り得る。ここで、上述の最大値n、最小値m、パラメータh及びlは、以下の式20~23のようにも表される。
【0072】
【数11】
【0073】
ただし、k’=K-kである。jの大小関係は、
1≦j2(K-1)≦j2K-3≦・・・≦j2k+1≦j2k≦・・・≦j≦T
となる。
【0074】
式15で示したように、t期の残余需要量r についての蓄電設備容量と電力利用量の区分線形関数において、傾きが変わる境界は、h及びlで表された。これは、全期における蓄電設備容量と電力利用量の区分線形関数においても同じである。すなわち、式15の傾きが変わる境界であるxbiの値は、ある期間の残余需要量r と余剰発電量r の部分和として以下の式24で表される。
【0075】
【数12】
【0076】
ただし、
【数13】
である。
【0077】
ここで、式24をxで微分すると、以下の式25が得られる。
【0078】
【数14】
【0079】
ある発電設備容量xを固定したときには、蓄電設備容量xと電力利用量Qの関係となり、この2者間で端点は(xbi,Q(xbi))となる。ここで、発電設備容量xを変化させることを考える。式25のdxbi/dxが一定、換言すれば、xbiに対応する正味需要の期間j=J~Jが変わらなければ、端点とはならない。発電設備容量、蓄電設備容量、及び供給電力量の関係を示す凸多面体の稜線にあたるものになる。端点となるのは、式25の値が変化するような発電設備容量xの点である。このような条件を満たし得る条件が、上述の式2~7に示す条件となる。
【0080】
<4-6.ダルマ落としアルゴリズム>
余剰発電量r (又は残余需要量r )が連続して(連続した期で)発生する場合に、正味需要量rのプロファイルを集約することができる。余剰発電量r (又は残余需要量r )が発生するひとまとまりの期間を特定し、特定された期間がt~tであるとする。その期間をjで番号付けをすると、集約正味需要量rsumjは以下の式26で表される。
【0081】
【数15】
【0082】
関係演算部20は、集約正味需要量rsumjのプロファイルに基づいて、前記複数の発電設備容量における前記蓄電設備容量と前記供給電力量との関係を演算する。
【0083】
集約正味需要量rsumjのプロファイルは、時系列的に正と負の成分が交互に並ぶものとなる。ここで、簡単のため、r=0は余剰発電量r とみなすこととし、集約正味需要量rsumjのプロファイルの第1期は正(余剰発電量r )、最終期は負(残余需要量r )となるものとする。これは、元のプロファイルの集約開始期を適宜調整することで対応可能である。余剰発電量r と残余需要量r の成分数は等しくなり、その数をmとすると、集約正味需要量rsumjのプロファイルの成分数は2mとなる。
【0084】
集約正味需要量rsumjのプロファイルについて、絶対値が最小の期を求め、その期をjと表す。これは、以下の式27で表現される。
|rsumj*|=min(|rsumj|) ・・・(式27)
集約正味需要量rsumjのプロファイルの各期の成分に対して、以下の式28で表される次の操作を施し、rsum’jを得る。
【0085】
【数16】
【0086】
この操作は、容量|rsumj*|の蓄電設備を導入した場合に、最大限の余剰発電量r を残余需要量r に供給した後の集約正味需要量rsumjのプロファイルを求めることに対応する。充放電により、余剰発電量r は充電分だけ、残余需要量r は放電分だけゼロに近づく。なお、式28では、蓄電設備の充放電効率eが考慮されていないが、上述の充放電効率eを考慮してもよい。最大限の余剰発電量r を残余需要量r に供給することは最大限の充放電をすることに等しく、それはすなわち容量|rsumj*|に対して充電率(SOC)0から1の充放電をm回行うことに等しい。
【0087】
集約後のプロファイルrsum’jは、j=jでゼロとなる。それ以外のjでは、元のrsumjから絶対値は減少するが符号は変わらないままである。ゼロとなるj=jの前後の成分、rsumj*-1とrsumj*+1は、同符号である。
【0088】
sum’jのうち、j=j-1、j、j+1という3つの期を集約し、以下の式29で表される、新たな集約正味プロファイルrnewj’を得る。
【0089】
【数17】
【0090】
newj’も余剰発電量r と残余需要量r の成分数は等しくなり、その成分数は2m-2となる。
【0091】
以上のように、プロファイルの集約→充放電により、一つのプロファイルをゼロ化→プロファイルの集約という操作を繰り返すと、1操作毎にプロファイルの成分数を2つ減らすことができる。最終的に、m+1回の操作により、プロファイルを1つに集約できる。k回目の集約後のプロファイルをrsumj とする。k=1ではrを集約したものがrsumj となり、そのときの成分数を2mとする。ここで、添字のiは発電設備容量xのidに対応するものである。rsumj では成分数は、2(m―k+1)となる。rsumj での蓄電設備容量の増分Δxbkと、そのときの電力利用量の増分ΔQは以下の式30及び31で表される。
【0092】
【数18】
【0093】
蓄電設備容量と電力利用量の関係は、区分線形関数となる。xbk-1≦x≦xbkの範囲での傾き∂Q/∂xは、(m-k+1)であり、これはこの領域でのフルサイクル充放電回数に等しい。区分線形関数で傾きが変化する境界の点xbkは以下の式32で表される。
【0094】
【数19】
【0095】
ただしΔxb0=0である。xbkにおける電力利用量は以下の式33で表される。
【0096】
【数20】
【0097】
ただしΔQ=0である。
【0098】
蓄電設備を介して余剰発電量r から残余需要量r に電力を供給することは、余剰発電量r を砂山と見立て、残余需要量r を穴と見立てたときの、当該砂山を「ダルマ落としのダルマ」に読み替えて、各集約段階で最小の高さ(あるいは深さ)に等しいダルマを落として穴に埋めていくことで、一つずつダルマ及び穴を消していくのと同じようにイメージすることができる。したがって、上記アルゴリズムをダルマ落としアルゴリズムと呼ぶ。
【0099】
<5.発電設備容量と、蓄電設備容量と、供給電力量との関係における端点の特定>
<5-1.数式的表現>
端点特定部22は、関係演算部20が演算した複数の発電設備容量における、蓄電設備容量と供給電力量との関係に基づいて端点を特定する。具体的には、端点特定部22は、供給電力量に対する発電設備容量に関する偏微分、及び、供給電力量に対する蓄電設備容量に関する偏微分が変化する点を端点として特定する。以下、端点特定部22の処理を具体的に説明する。
【0100】
発電設備容量xと、蓄電設備容量xと、供給電力量(すなわち電力利用量Q)との3者の関係は、以下の式34で表される。
【0101】
【数21】
【0102】
ただし、xはxbn-k≦x≦xbn-k+1なる範囲にあるときである。右辺を2行目のように変形できるのは、xb0=0であり、右辺1行目のxbiの係数は隣り合う項で打ち消し合い全て1となるためである。
【0103】
式34は、式18と実質的に同一である。式18は、発電設備容量xを固定したときの式であるが、式19に示す通り、Q及びxbiはxの関数なので、Q=Q(x,x)のように2変数関数として表される。
【0104】
式34の(すなわち電力利用量の)蓄電設備容量xについての偏微分は以下の式35で表される。
【0105】
【数22】
【0106】
式34の(すなわち電力利用量の)発電設備容量xについての偏微分は以下の式36で表される。
【0107】
【数23】
【0108】
ただし、Jは、残余需要量r が発生している(すなわちx≦dのときの)期の集合である。Jは、xbiに対応する期間の期の集合である。
【0109】
対象システムの電力の需要量dの合計をDとする。すなわち、Dは以下の式37で表わされる。
【0110】
【数24】
【0111】
電力利用量QをDで除したものが電力利用率yとなる(y=Q/D)。
【0112】
発電設備容量xと、蓄電設備容量xと、電力利用量Qとの3者の関係を表す3次元凸多面体の各面の法線ベクトルの成分は以下の式38で表される。
【0113】
【数25】
【0114】
式38に式35及び式36を当てはめることができる。なお、電力利用量の変化率と、第3成分を1(=∂y/∂y)としたベクトル(∂y/∂x,∂y/∂x,1)が、凸多面体の1平面の法線ベクトルとなる。
【0115】
<5-2.端点発生条件1 x=0のとき>
-=0で∂Q/∂xが変化するxを考える。
【0116】
【数26】
【0117】
であるから、∂Q/∂xが変化するのは、Jの要素が変化するときである。Jは、残余需要量r が発生している期の集合であるから、その要素が変化するときとは、それまで(r<0)であった期tが(r>0)の期になるとき、すなわち、r=0あるいはx=dとなるときである。よって、x=d/pのとき、x=0で端点となる。すなわち、(x,x,y)=(d/p,0,y)は端点である。
【0118】
<5-3.端点発生条件2 x=xbhのとき>
=xbhで∂Q/∂xが変化するxを考える。この条件では、2つの場合が考えられる。1つ目は、
【数27】
を構成するJの要素が変化するとき、2つ目は、xbh=xbh+1となるときである。
【0119】
<5-3-1.Jの要素が変化するとき>
bhは、t期の残余需要量r がの計算から得られる結果の1つとする。すなわち、式8に示した逆向き累積正味需要量qtjに対する操作により得られるlあるいはl+hとする。なお、Jのhは添字であり、hのhとは無関係である。jの要素が変化する場合は、次の3つが考えられる。
【0120】
(i)n<0だったものがn=0になるとき
なお、nは、
【数28】
であり、逆向き累積正味需要量qtjの最大値である。
<0では、l=n-m、l+h=n-mであるが、n=0では、l+h=-mとなる。xbh=l+hのとき、n<0→n=0でJの要素が変化する。
【0121】
【数29】
となるとき、端点が発生する。
【0122】
(ii)n>qtj(ただしj2k<j<j2k-1)だったものが、n=qtjとなるとき(n=max(qtj)=qtj2k(ただしj2k-1≧j≧0の範囲))
このときもJの要素が変化する。
【0123】
(iii)m<qtj(ただしj2k+1<j<j2(k+1))だったものが、m=qtjとなるとき(m=min(qtj)=qtj2k+1(ただしj2k≧j≧0の範囲))
このときもJの要素が変化する。
【0124】
上記(ii)及び(iii)のケースでは、
【数30】
となることに対応する(jk’’及びjk’’’は適当なj)。
【0125】
<5-3-2.xbh=xbh+1となるとき>
この場合も、xbh、xbh+1が、それぞれ
【数31】
と表されるから、
【数32】
となるときに端点が発生する(jk’’及びjk’’’は適当なj)。
【0126】
端点特定部22は、上述の演算により、端点を特定する。
【0127】
<6.演算結果の描画>
描画部24は、関係演算部20が演算した、発電設備容量xと、蓄電設備容量xと、供給電力量(すなわち電力利用量Q)又は電力利用率との3者の関係を表すグラフを描画する。特に、描画部24は、端点特定部22が特定した端点を含む(端点が明示された)上記グラフを描画する。図9は、描画部24により生成された、発電設備容量と、蓄電設備容量と、電力利用率との3者の関係を示す凸多面体の例が示されている。図9においては、一部の端点にPの番号を付し、凸多面体の一部の平面にSの番号を付している。
【0128】
また、図10には、図9に示した凸多面体を上から(すなわち電力利用率軸の正の方向から)見た図が示されている。描画部24は、端点特定部22の演算過程で得られた偏微分値、すなわち、凸多面体の各面の法線ベクトル(∂y/∂x,∂y/∂x)を可視化する。図11に、描画部24が生成した、3次元凸多面体を構成する平面の法線ベクトルの値をプロットした法線ベクトルプロット図が示されている。なお、図10に示された図と図11に示された法線ベクトルプロット図は双対関係にある。図11に示した法線ベクトルプロット図は、コスト設定(発電コスト及び蓄電コスト)と最適解の対応関係を網羅的に表すものである。
【0129】
発電設備容量x、蓄電設備容量x、及び電力利用率y(x,x,y)と、法線ベクトルの値、すなわち発電、蓄電設備の単価(∂y/∂x,∂y/∂x)=(p,p)、及び、バックアップ電源の運用コストpと設備単価Iをもちいて、発電設備、蓄電設備、及びバックアップ電源からなる電力供給システムの電力システムコストLsys(円/kWh)は、以下の式39で表される。
sys=p+p+p(1-y)+I ・・・(式39)
ただし、(x,x,y)は(p,p)が与えられたときの最適導入量及び最適電力利用率である。
【0130】
式39により、発電設備単価及び蓄電設備単価と、その単価での最適導入量及び最適電力利用率に基づく、電力供給システムのコストであるシステムコストの関係を得ることができる。描画部24は、当該関係示すマップを描画する。当該マップの例が図12に示されている。図12に示されたマップは等高線図であり、図12に示される線は、同じ電力システムコストを得られる蓄電設備単価と発電設備単価の組を示すものである。
【0131】
<7.ユーザへの情報の提示>
提示部26は、描画部24が生成したグラフ(凸多面体)あるいはマップをユーザに提供する。例えば、入出力インターフェース12に含まれるディスプレイに上記グラフやマップを表示させる。あるいは、上記グラフやマップを示すデータをユーザ端末に送信して、ユーザ端末のディスプレイに表示させる。なお、提示部26は、必ずしも描画部24が生成したグラフやマップをユーザに提示する必要はなく、種々の態様で、少なくとも、端点特定部22が特定した端点を含む、発電設備容量と、蓄電設備容量と、供給電力量(又は電力利用率)との関係を示す情報をユーザに提示することができる。
【0132】
ユーザは、提示部26により提示された情報により、発電設備における発電設備容量と、蓄電設備における蓄電設備容量と、対象システムへ供給される電力量との関係を容易に把握することができる。
【0133】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0134】
10 電力供給システムの設計支援装置、12 入出力インターフェース、14 メモリ、16 プロセッサ、18 端点候補特定部、20 関係演算部、22 端点特定部、24 描画部、26 提示部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12