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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム。
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021203023
(22)【出願日】2021-12-15
(62)【分割の表示】P 2017085899の分割
【原出願日】2017-04-25
(65)【公開番号】P2022027914
(43)【公開日】2022-02-14
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塩見 篤史
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 功
(72)【発明者】
【氏名】大崎 陽子
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-307550(JP,A)
【文献】特開2011-202156(JP,A)
【文献】国際公開第03/059995(WO,A1)
【文献】特開2001-071651(JP,A)
【文献】特開2000-202904(JP,A)
【文献】特開2000-251244(JP,A)
【文献】特開2017-030319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
B29C 55/00-55/30
B29C 61/00-61/10
B29D 7/00- 7/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向ヤング率EMDと幅方向ヤング率ETDとの比(ETD/EMD)が0.8以上1.3以下であって、フィルム全体に対する剛直非晶量が33%以上60%以下、かつフィルム全体に対する剛直非晶量の割合が結晶化度よりも大きく、厚みが3μm以上、9.5μm以下であることを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項2】
長手方向の150℃熱収縮率が3.5%以上5.5%以下であって、かつ長手方向の100℃熱収縮率が1.5%以下である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
フィルム全体に対する可動非晶量が35%未満である請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
フィルム全体に対する剛直非晶量の割合が可動非晶量の2倍以上である請求項1~3のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
フィルム全体に対する結晶化度が25%以上35%以下である請求項1~4のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靭性に優れたポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルム、中でも二軸延伸ポリエステルフィルムは、機械的性質、電気的性質、寸法安定性、透明性、耐薬品性などに優れた性質を有することから磁気記録材料、包装材料などの多くの用途において基材フィルムとして広く使用されており、特に近年、各種用途において靭性に優れるフィルムが求められている。
靭性に優れるフィルムとしては、ポリアミド系樹脂フィルム(特許文献1)や、ポリエステルフィルム(特許文献2、3)が検討されている。ナイロンフィルムは、柔軟性、耐ピンホール性や突き刺し強度といった靭性に優れるため、食品包装材料などとして、多数使用されている。また、特許文献2、3では、靭性を得るために、フィルムを高配向化する検討がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-162702
【文献】特許第5891792号
【文献】特開2014-69384
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリアミド系樹脂フィルムは吸湿による寸法安定性が乏しいため、ボイル処理やレトルト処理を行う食品包装用途や、耐薬品性などに劣る点から、耐薬品性が必要な工業用途に使用することが難しい。また、上記ポリエステルフィルムは、靭性を得るために、フィルムの高配向化しか考慮されておらず、ポリエステルフィルムの靭性向上には余地がある。
そこで、本発明のポリエステルフィルムは長手方向および幅方向におけるヤング率のバランス、剛直非晶量、結晶化度を特定範囲とすることによって靭性に優れるフィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明では以下の構成とする。
(1)長手方向ヤング率EMDと幅方向ヤング率ETDとの比(ETD/EMD)が0.7以上1.3以下であって、フィルム全体に対する剛直非晶量が33%以上60%以下、かつフィルム全体に対する剛直非晶量の割合が結晶化度よりも大きいこと。
(2)長手方向の150℃熱収縮率が3.5%以上5.5%以下であって、かつ長手方向の100℃熱収縮率が1.5%以下であること。
(3)フィルム全体に対する可動非晶量が35%未満であること。
(4)フィルム全体に対する剛直非晶量の割合が可動非晶量の2倍以上であること。
(5)フィルム全体に対する結晶化度が25%以上35%以下であること。
(6)厚みが3μm以上、9.5μm以下であること。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリエステルフィルムは長手方向ヤング率EMDと幅方向ヤング率ETDとの比(ETD/EMD)が0.7以上1.3以下であって、フィルム全体に対する剛直非晶量が33%以上60%以下、かつフィルム全体に対する剛直非晶量の割合が結晶化度よりも大きいことで、靭性に優れたポリエステルフィルムとすることができるため、靭性の求められる用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のポリエステルフィルム長手方向ヤング率EMDと幅方向ヤング率ETDとの比(ETD/EMD)は0.7以上1.3以下である。ここでヤング率とは(評価方法)(8)ポリエステルフィルムのヤング率に記載の方法にて測定するものである。本発明におけるポリエステルフィルムの靭性はシャルピー衝撃吸収エネルギーの大きさを指標の一つとするものである。シャルピー衝撃吸収エネルギーは、フィルム面方向の配向を高くすることで向上させることができるが、面配向の配向バランスが均一であることも重要である。ここで、シャルピー衝撃吸収エネルギーは評価方法(11)ポリエステルフィルムの靭性に記載の方法にて測定を行うものである。面配向バランスが悪い場合、シャルピー衝撃吸収エネルギーを測定した際に局部的な応力集中が起こり、破壊に至りやすくなってしまうため、シャルピー衝撃吸収エネルギーは低下する。このため、フィルム配向状態の指標となる長手方向ヤング率EMDと幅方向ヤング率ETDの比ETD/EMDは0.7以上1.3以下である。また、ETD/EMDは0.8以上1.2以下が好ましい。特にETD/EMDは0.9以上1.1以下であることが好ましい。また、ヤング率は3.6GPa以上5.0GPa以下であることが好ましい。ヤング率を3.6GPa以上5.0GPa以下とするためには、面積延伸倍率にて13.5倍以上とする方法などが好ましく挙げられる。また、ETD/EMDを0.7以上1.3以下とするには、逐次二軸延伸法の場合、一軸目と2軸目の延伸倍率を同程度にする方法が挙げられる。最終的に得られたフィルムの長手方向、幅方向の屈折率が1.658以上1.68以下であれば、ETD/EMDを0.7以上1.3以下とする上で、一軸目と2軸目の延伸倍率や延伸温度などに制約はなく、公知の方法にて延伸すればよい。
【0008】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルム全体に対する剛直非晶量が33%以上60%以下である。ここで、剛直非晶量は(10)ポリエステルフィルムのバルク構成の測定に記載の方法にて測定できる。剛直非晶が多いほど高いシャルピー衝撃吸収エネルギーを得ることができる。剛直非晶量が60%を超える場合、非晶成分がフィルムバルク構成の大半を占め、フィルムの寸法安定性が著しく低下する。一方、剛直非晶量が33%未満である場合、シャルピー衝撃吸収エネルギーに劣る。フィルムバルク状態については、使用原料の結晶性に加えて、製膜条件によって決定されるものであり、例えばポリエチレンテレフタレートを用いた場合、剛直非晶量を33%以上とするには、少なくともフィルムの面配向係数fnを0.165以上とすることが重要である。ここで、フィルムの面配向係数は評価方法(4)ポリエステルフィルムの屈折率、面配向係数fnに記載の方法にて測定する。フィルムの面配向係数を0.165以上とするには、二軸延伸する際の面積延伸倍率を14.0倍以上とする方法などが挙げられる。この上で、逐次二軸延伸後の熱処理温度によって剛直非晶を制御することが好ましく、フィルム製膜中に掛かる最も高い温度(熱処理温度)を、210℃以下とすることが重要である。一方、熱処理温度を230℃以上にすることでも樹脂の融解が開始することに起因して、剛直非晶量は増加する傾向を示すが、熱によるフィルムの結晶化を促進させてしまうため、後述する結晶化度が多くなり、フィルムバルク構成として剛直非晶よりも結晶化度が高くなる。このため、熱処理温度は210℃以下とすることが重要である。フィルムの熱処理温度が210℃を超え、230℃未満である場合、剛直非晶量は33%未満となることがある。ただし、剛直非晶量はフィルムを製膜する原料によっても制御が可能であり、例えば、原料の固有粘度を高くした場合、同じ製膜条件であったとしても剛直非晶量は増加する。通常、二軸延伸フィルムを製膜する上で、使用する原料の固有粘度は0.60以上、1.2以下が好ましい。以上を踏まえ、必要な剛直非晶、諸特性に応じて、原料の選択、面配向係数、熱処理温度を適宜選択する。
【0009】
本発明のポリエステルフィルムは、シャルピー衝撃吸収エネルギーの観点より、剛直非晶量の割合は結晶化度よりも多いことを特徴とする。ここで、結晶化度は(10)ポリエステルフィルムのバルク構成の測定に記載の方法にて測定できる。シャルピー衝撃吸収エネルギーはフィルムの配向を高めること、すなわち、剛性を高めることによってある程度まで向上させることが可能である。このため、ポリエステルフィルムとしては、ヤング率を高めることによってシャルピー衝撃吸収エネルギーをさせることができる。しかしながら、剛性を高めるためにフィルムの配向、結晶化を高めた場合、秩序的に配列した配向、結晶は衝撃を逆に伝播させやすくなり、シャルピー衝撃吸収エネルギーを上昇させるには限界がある。したがって、シャルピー衝撃吸収エネルギーを最大限まで上昇させるためには、フィルムの剛性をたかめつつ、秩序構造の形成を抑制、すなわち結晶化を抑えることが重要である。このため、本発明においては、結晶化度の上昇を抑制しつつ、剛性を向上させることによって、ポリエステルフィルムが持つシャルピー衝撃吸収エネルギーに対するポテンシャルを最大まで引き出すものであり、剛直非晶量の割合は結晶化度よりも多いことを特徴とする。剛直非晶量の割合を結晶化度よりも多くするには、二軸延伸によってフィルムの面配向係数を少なくとも0.164以上に配向させた後、熱処理による結晶化を抑制することが重要である。剛直非晶量の観点より、面配向係数fnは0.166以上、0.172以下とすることが好ましい。二軸延伸後に熱処理をしなかった場合、剛直非晶量はポリエステルフィルムとして理想的に高い状態、すなわち、高いシャルピー衝撃吸収エネルギーを発揮すると考えられるが、フィルムは高度な緊張状態を非晶相が維持するため、常温であっても経時での変化や緩和を免れず、靭性が求められるような用途には不向きな場合がある。このため、各種用途への適用を踏まえると、剛直非晶量の割合を結晶化度よりも多くする上では、二軸延伸後の熱処理温度は170℃以上210℃以下に設定することが好ましい。
【0010】
本発明のポリエステルフィルムは、結晶化度が25%以上35%以下であることが好ましい。結晶化度は延伸による配向結晶化や、熱による結晶化によってフィルムの機械的強度を上昇させることが可能である。結晶化度が25%未満であるとシャルピー衝撃吸収エネルギーが低くなることがあり、結晶化度が35%を超える場合、剛直非晶量が結晶化度よりも多くすることができないことがある。結晶化度を25%以上35%以下とするには、例えば、フィルムの面配向係数を0.160以上、0.170以下とした上で、熱処理温度を170℃以上、240℃以下とすることで調整可能である。
本発明のポリエステルフィルムは、フィルム全体に対する剛直非晶量の割合が可動非晶量の2倍以上であることが好ましい。ここで、可動非晶量は(10)ポリエステルフィルムのバルク構成の測定に記載の方法にて測定できる。ヤング率はフィルムの強度を示す指標であり、大きいほど剛性が高い。また、剛直非晶量に関しても同様にフィルムの強度と相関が強く、シャルピー衝撃吸収エネルギーへの相関が強い。一方、可動非晶に関しては、剛直非晶と同じ非晶ではあるものの、ランダム状態であり、剛性や強度への寄与は非常に小さい。このため、剛性向上には、非晶成分のうち、剛直非晶は可動非晶よりも多いほど好ましく、特に、可動非晶量の割合に対して、2倍以上が剛直非晶である場合、著しいシャルピー衝撃吸収エネルギーの向上が見られる。このため、フィルム全体に対する剛直非晶量の割合が可動非晶量の2倍以上であることが好ましい。フィルム全体に対する剛直非晶量の割合を可動非晶量の2倍以上とするには、フィルムの面配向係数を0.165以上とした上で、二軸延伸後の熱処理温度を190℃以下とする方法が好ましく挙げられる。
【0011】
本発明のポリエステルフィルムは、シャルピー衝撃吸収エネルギーの観点から、フィルム全体に対する可動非晶量が35%未満であることが好ましい。フィルム全体に対する可動非晶量を35%未満とするにはフィルムの面配向係数を0.160以上、0.170以下とした上で、熱処理温度を170℃以上、240℃以下とすることで調整可能である。
【0012】
本発明のポリエステルフィルムは長手方向の150℃熱収縮率が3.5%以上5.5%以下であって、かつ長手方向の100℃熱収縮率は1.5%以下であることが好ましい。本発明のポリエステルフィルムを使用して、加熱を伴う二次加工、例えばフィルムを他の材料とラミネートする際などドライラミネートでは80℃以上120℃以下の熱、特に100℃近傍の熱が掛かる工程においては、長手方向の熱収縮率が1.5%以下であると、ラミネートした際のシワの発生がなく、歩留まりが良好であり、生産性に優れる。一方、溶融した樹脂をフィルムに直接ラミネートする押出ラミネート工程など、150℃程度の熱が掛かるラミネート工程においては、特にフィルムが25μm以下と薄い場合においては、押出しラミネート時のシワを抑制するにあたり、ラミネート時に掛かる温度の熱収が3.5%以上であるとラミネート時の収縮により、フィルムが展張され、シワを抑制でき、歩留まりが良く生産性に優れる。このため、本発明のポリエステルフィルムは長手方向の150℃熱収縮率が3.5%以上5.5%以下であって、かつ長手方向の100℃熱収縮率は1.5%以下であることが好ましい。長手方向の100℃熱収縮率を1.5%以下とするためには、1.5%以下としたい方向の延伸温度と延伸倍率を特定の範囲とすることが好ましい。具体的には、2軸延伸工程における1軸目の延伸において、2段以上に多段延伸することが好ましく、1段目の延伸温度を樹脂のガラス転移温度Tg+30℃以上Tg+50℃以下で2.5倍以下に延伸し、2段目の延伸温度はフィルムを構成する樹脂のガラス転移温度Tg+35℃以上55℃以下で2倍以上に延伸し、1軸目のトータル延伸倍率が5倍以上となるように延伸する方法が好ましく挙げられる。剛性を高め、かつ100℃熱収を1.5%以下する観点から、フィルム面積延伸倍率は20倍以上であることが特に好ましい。
【0013】
本発明のポリエステルフィルムには、巻き取り性を得る目的等において、本発明の効果を阻害しない範囲において各種粒子を添加してもよい。特に粒子のサイズや種類に制約はなく、無機粒子、有機粒子など自由に選択できる。
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルとは、主鎖における主要な結合をエステル結合とする高分子化合物の総称である。そして、ポリエステル樹脂は、通常ジカルボン酸あるいはその誘導体とグリコールあるいはその誘導体を重縮合反応させることによって得ることができる。なお、ここで、ジカルボン酸単位(構造単位)あるいはジオール単位(構造単位)とは、重縮合によって除去される部分を除かれた2価の有機基を意味し、以下の一般式で表される。
【0014】
ジカルボン酸単位(構造単位): -CO-R-CO-
ジオール単位(構造単位): -O-R’―O-
(ここで、R、R’は二価の有機基。RとR’は同じであっても異なっていてもよい。)
本発明に用いるポリエステルを与える、グリコールあるいはその誘導体としては、エチレングリコール以外に、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、並びに、それらの誘導体が挙げられる。
【0015】
また、本発明に用いるポリエステルを与えるジカルボン酸あるいはその誘導体としては、テレフタル酸以外には、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、並びに、それらの誘導体を挙げることができる。ジカルボン酸の誘導体としてはたとえばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸2-ヒドロキシエチルメチルエステル、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、ダイマー酸ジメチルなどのエステル化物を挙げることができる。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは、本発明の効果を得る上で厚みの制約はなく、用途によって適宜厚みを設定すればよい。ただし、3μm以上9.5μm以下で使用する場合は、長手方向の150℃熱収縮率が3.5%以上5.5%、かつ長手方向の100℃熱収縮率が1.5%以下の範囲であることで、100℃近傍の加熱を伴うラミネート加工時のシワ抑制、150℃の加熱を伴うラミネート加工時のトタン状の歪み抑制に優れた効果を発揮するものである。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムは、靭性が求められる用途に好ましく用いられ特に、リチウムイオンバッテリー用外装材、医薬包装材などに好ましく用いることができる。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法の概略を例示する。まず、ポリエステル原料を公知の方法で溶融押出してポリエステルが結晶化しないように10℃~35℃程度に調整されたキャスティングドラム上に密着性させてキャストシートを得る。密着方法は静電印加法やエアーナイフ法など公知の方法でよい。次いで、得られたキャストシートを公知の方法で二軸に延伸して配向させる。二軸延伸は逐次二軸、同時二軸、チューブラー法など公知の方法でよい。二軸延伸によって得られたフィルムの面配向係数が0.164以上であるならば、延伸倍率、延伸温度の制約は特にない。ただし、100℃熱収縮率を1.5%以下とするためには、2軸延伸工程における1軸目の延伸において、2段以上に多段延伸することが好ましく、1段目の延伸温度を樹脂のガラス転移温度Tg+30℃以上Tg+50℃以下で2.5倍以下に延伸し、2段目では、延伸温度をフィルム構成樹脂のガラス転移温度Tg+35℃以上55℃以下で2倍以上に延伸し、トータル延伸倍率が5倍以上となるように延伸するのが好ましい。二軸延伸後は寸法安定性など観点から熱処理を施すことが好ましい。ポリエステル原料がポリエチレンテレフタレートを主たる構成成分とする場合は170℃以上210℃以下の範囲で1秒~120秒以下の範囲で熱処理することが好ましい。熱処理をした後は必要に応じてコロナなどの表面処理をしてポリエステルフィルムを得る。
【実施例
【0019】
(評価方法)
以下の方法でポリエステルフィルムの製造、評価を行った。
【0020】
(1)ポリエステルの組成
ポリエステル樹脂およびフィルムをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、H-NMRおよび13C-NMRを用いて各モノマー残基や副生ジエチレングリコールについて含有量を定量した。
【0021】
(2)フィルム厚み、層厚み
フィルム全体の厚みを測定する際は、ダイヤルゲージを用いて、フィルムを200mm×300mmに切り出し、各々の試料の任意の場所5ヶ所の厚みを測定し、平均して求めた。また、積層フィルムの各層厚みについては、フィルムをエポキシ樹脂に包埋し、フィルム断面をミクロトームで切り出し、該断面を透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM H7100)で5000倍の倍率で観察することによって求めた。
【0022】
(3)ポリエステルフィルムの長手方向と幅方向
本発明では、ロールで延伸した方向を長手方向とし、その直交方向を幅方向とする。延伸方法が不明である場合は、フィルムの任意の一方向(0°)、該方向から15°、30°、45°、60°、75°、90°、105°、120°、135°、150°、165°の方向の150℃熱収を測定し、最も150℃熱収の高かった方向を長手方向とし、長手方向と直交する方向を長手方向とした。なお、150℃熱収は(5)ポリエステルフィルムの150℃および100℃熱収縮率に記載のとおりに測定する。
【0023】
(4)ポリエステルフィルムの屈折率、面配向係数fn
アッベ屈折率計を用いて面配向係数を測定する層(以下、測定層とする)をガラス面に密着させ、次いでナトリウムD線を光源として、長手方向、幅方向、厚み方向の屈折率(Nx、Ny、Nz)を測定し、下記式より測定層の面配向係数fnを求めた。
・面配向係数fn=(Nx+Ny)/2-Nz
(5)ポリエステルフィルムの150℃および100℃熱収縮率
フィルムを長手方向および幅方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。サンプルに100mmの間隔で標線を描き、3gの錘を吊して150℃および100℃いずれかの温度に加熱した熱風オーブン内に30分間設置し加熱処理を行った。熱処理後の標線間距離を測定し、加熱前後の標線間距離の変化から熱収縮率を算出し、熱収縮率とした。測定は長手方向および幅方向に5サンプル実施して平均値で評価を行った。
【0024】
(6)150℃加熱工程を含むラミネート後の状態
ラミネート時の張り合わせ温度が150℃となるように加熱溶融したポリプロピレン樹脂をA4サイズにカットしたフィルムに3Nにて3秒押し付け、その後のラミネートシートの状態を目視で確認し、以下のように判定を行った。
○:全くシワがない
△:若干シワがある
(7)100℃加熱工程を含むラミネート後の状態
100℃に加熱したニップロールにA4サイズにカットしたフィルムと25μmのポリプロピレンキャストシートとを、ローラーに巻き込むように3Nにて押し付け、ラミネーとを行い、その後ラミネートシートの状態を目視で確認し、以下のように判定を行った。
○:全くシワがない
△:若干シワがある
(8)ポリエステルフィルムのヤング率
フィルム長手方向および幅方向に、長さ150mm、幅10mmの短冊状のサンプルを切り出して用いた。ヤング率はJIS Z1702に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機を用いて測定した。測定は下記の条件で行い、試料数10にて、それぞれについてその測定をして、平均値をとった。
測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA-100”
試料サイズ:幅10mm×試長間50mm
引張り速度:300mm/分
測定環境:温度23℃、湿度65%RH。
【0025】
(9)ポリエステルフィルムのガラス転移温度
JIS K7122 (1987)に準じて、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置ロボットDSC-RDC220を、データ解析には“ディスクセッション”SSC/5200を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/min、サンプル量5mgとして測定した。
【0026】
(10)ポリエステルフィルムのバルク構成の測定
i)可動非晶量
TA Instruments社製温度変調DSCを用い、試料5mgを窒素雰囲気下、0℃から150℃まで2℃/minの昇温速度、温度変調振幅±1℃、温度変調周期60秒で測定した。測定によって得られたガラス転移温度での比熱差を求め、以下の式より算出した。
可動非晶量(%)=(比熱差)/(ポリエステル完全非晶物の比熱差理論値)×100
ポリエチレンテレフタレート完全非晶物の比熱差理論値=0.4052J/(g℃)
また、本発明ではポリエチレンテレフタレートユニットが89モル%以上であるものについては、ポリエチレンテレフタレートの完全非晶物の比熱差理論値を参照した。
【0027】
ii)結晶化度
JIS K7122 (1987)に準じて、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置ロボットDSC-RDC220を、データ解析には“ディスクセッション”SSC/5200を用いて、フィルムサンプル5mgをアルミニウム製受け皿上で室温から300°まで昇温速度20℃/分で昇温し、300℃で5分間保持した。そのとき、測定によって得られた吸熱ピーク熱量ΔHm、冷結晶化熱量ΔHc、完全結晶PETの融解熱量ΔHm(140.1J/g)より、下記式によって算出した。
結晶化度(%)=(ΔHm-ΔHc)/ΔHm×100
iii)剛直非晶量
剛直非晶量は、測定によって得られた可動非晶量、結晶化度より、以下の計算式にて算出した。
剛直非晶量(%)=100-(可動非晶量+結晶化度)。
【0028】
(11)ポリエステルフィルムの靭性
フィルムサンプルの長手方向、幅方向にそれぞれ10mm×50mmに切り出した試験サンプルを各方向について10枚用意する。東洋精機製作所製シャルピー衝撃試験機(容量:10Kg/cm、ハンマー重量:1.019Kg、ハンマーの空持ち上げ角度:127°、軸心より重心までの距離:6.12cm)に試験サンプルの長尺(50mm)側を固定し、試験温度25℃で各方向の測定を行った(計10回)。各方向それぞれの平均値を試験サンプルの断面積(試験サンプル厚み×試験サンプル幅)で除し、MJ/mの単位に換算して、長手方向と幅方向のシャルピー衝撃吸収エネルギーを求めた。得られたシャルピー衝撃吸収エネルギーより、フィルムの靭性を以下のとおりに判定した。
◎:長手方向幅方向いずれも10MJ/m以上である。
○:少なくとも長手方向幅方向の平均値が10MJ/m以上である。
△:少なくとも長手方向幅方向の平均値が9MJ/m以上である。
×:長手方向幅方向の平均値が9MJ/m以上である。
【0029】
以下では実施例9、10を参考例9、10と読み替えるものとする。
(ポリエステルの製造)
製膜に供したポリエステル樹脂は各実施例および比較例につき以下のように準備した。

【0030】
(ポリエステルA)実施例1~4、7~15、比較例1~3
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が99モル%、ジエチレングリコール成分が1モル%であるポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.65)。
【0031】
(ポリエステルB)実施例5
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が99モル%、ジエチレングリコール成分が1モル%であるポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.70)。
【0032】
(ポリエステルC)実施例6
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が99モル%、ジエチレングリコール成分が1モル%であるポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.75)。
【0033】
(粒子マスターA)実施例1~15、比較例1~3
ポリエステルA中に平均粒子径2μmの凝集シリカ粒子を粒子濃度2質量%で含有したポリエチレンテレフタレート粒子マスター(固有粘度0.62)。
【0034】
(実施例1~15、比較例1~3)
表1に示したポリエステル種、粒子マスターをそれぞれ真空乾燥機にて180℃4時間乾燥し、水分を十分に除去した後、単軸の押出機に表1に示した含有量で供給、280℃で溶融し、フィルター、ギヤポンプを通し、異物の除去、押出量の均整化を行った後、Tダイより20℃に温度制御した冷却ドラム(最大高さ0.2μmのハードクロムメッキ)上にシート状に吐出し、未延伸フィルムを得た。その際、Tダイのリップと冷却ドラム間の距離は35mmに設定し、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して14kVの電圧で静電印加させ、冷却ドラムに密着をさせた。また、シートの冷却ドラムの通過速度は25m/分、シートの冷却ドラムとの接触長さは、2.5mとした。
【0035】
続いて、該未延伸フィルムを60~70℃の温度に加熱したロール群で予熱した後、1段目、2段目について、それぞれ表2に示した温度の加熱ロールを用いて長手方向(縦方向)に表2に示した倍率に延伸し、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。
【0036】
次いで、一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持しながらテンター内の80℃の温度の予熱ゾーンに導き、表1示す温度に保たれた幅方向の加熱ゾーンで長手方向に直角な方向(幅方向)にそれぞれ表1に示した倍率に延伸した。さらに引き続いて、テンター内の熱処理ゾーンで表2に示した熱固定温度にて20秒間の熱処理を施し、表2に示した弛緩率にて弛緩した。次いで、均一に徐冷し、表2に示した厚さのポリエステルフィルムを得た。ポリエステルフィルムの特性は表3、4、5に示したとおりである。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のポリエステルフィルムは、長手方向ヤング率EMDと幅方向ヤング率ETDとの比(ETD/EMD)が0.7以上1.3以下であって、フィルム全体に対する剛直非晶量が33%以上60%以下、かつフィルム全体に対する剛直非晶量の割合が結晶化度よりも大きいことによって靭性が必要な用途に好適に使用することができる。