(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】ポリアスパラギン酸ナトリウムで被覆された無機粉体を含む粉体化粧料及びその製造方法、並びに前記粉体化粧料を含む化粧料組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/64 20060101AFI20230322BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20230322BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20230322BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
A61K8/64
A61K8/25
A61K8/02
A61Q1/00
(21)【出願番号】P 2019046321
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】清水 朗理
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正史
(72)【発明者】
【氏名】小川 毅
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-145006(JP,A)
【文献】特開昭57-145007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉体と、
前記無機粉体の表面の一部又は全部を被覆するポリアスパラギン酸ナトリウムと、
を含み、前記ポリアスパラギン酸ナトリウムの量が前記無機粉体と前記ポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対し0.0095質量%~0.075質量%である、粉体化粧料。
【請求項2】
請求項1に記載の粉体化粧料と、水及び油剤から選択される少なくとも1種とを含む化粧料組成物。
【請求項3】
無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとを、前記ポリアスパラギン酸ナトリウムの量が前記無機粉体と前記ポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対し0.0095質量%~0.075質量%となるように混合して、前記無機粉体と前記ポリアスパラギン酸ナトリウムとを含む混合物を得ること、
前記混合物を粉砕すること、並びに
粉砕された前記混合物を乾燥すること、
を含む、粉体化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリアスパラギン酸ナトリウムで被覆された無機粉体を含む粉体化粧料及びその製造方法、並びに前記粉体化粧料を含む化粧料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体(パウダー)化粧料は、粉体の光学的特性により好ましい美観等の特性を与えるものである。しかし、粉体は肌への付着力が不十分な場合があり、また保湿感に乏しいことも多い。
【0003】
粉体の特性の改善に関して、特許文献1(特表2018-513844号公報)は、皮膚密着力を向上させるために感圧粘着性高分子で無機粉体の表面が被覆された複合粉体を開示している。特許文献2(特開2006-265214号公報)は、(a)特定の異形複合粉体、(b)アミノ酸、ポリアミノ酸、これらの誘導体又は塩から選ばれる一種又は二種以上の水溶性成分を配合することを特徴とする、化粧料塗布時の滑らかな伸び広がり、肌への付着力や保湿感、及び皮膚の凹凸を目立たなくする効果に優れる粉体化粧料を開示している。
【0004】
また、水中油型固形化粧料に関して、特許文献3(特開2005-306849
号公報)は、水中油型固形化粧料の化粧持続性を向上させるために、寒天、ポリアスパラギン酸ナトリウム、水及び油剤を配合することを特徴とする水中油型固形化粧料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2018-513844号公報
【文献】特開2006-265214号公報
【文献】特開2005-306849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一実施形態においては、無機粉体の使用感及び肌密着性を向上しつつ、べたつきを抑えた粉体化粧料を提供することを課題とする。また、本発明の一実施形態においては、該粉体化粧料の製造方法、及び前記粉体化粧料を含む化粧料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は以下の態様を含む。
<1>
無機粉体と、
前記無機粉体の表面の一部又は全部を被覆するポリアスパラギン酸ナトリウムと、
を含み、前記ポリアスパラギン酸ナトリウムの量が前記無機粉体と前記ポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対し0.0095質量%~0.075質量%である、粉体化粧料。
<2>
<1>に記載の粉体化粧料と、水及び油剤から選択される少なくとも1種とを含む化粧料組成物。
<3>
無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとを、前記ポリアスパラギン酸ナトリウムの量が前記無機粉体と前記ポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対し0.0095質量%~0.075質量%となるように混合して、前記無機粉体と前記ポリアスパラギン酸ナトリウムとを含む混合物を得ること、
前記混合物を粉砕すること、並びに
粉砕された前記混合物を乾燥すること、
を含む、粉体化粧料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、無機粉体の使用感及び肌密着性を向上しつつ、べたつきを抑えた粉体化粧料が提供される。また、該粉体化粧料の製造方法、及び前記粉体化粧料を含む化粧料組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
更に、本開示において粉体化粧料、化粧料組成物等の組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する複数の物質の合計量を意味する。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。
【0011】
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
更に、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0012】
<粉体化粧料>
本開示に係る粉体化粧料は、
無機粉体と、
前記無機粉体の表面の一部又は全部を被覆するポリアスパラギン酸ナトリウムと、
を含み、前記ポリアスパラギン酸ナトリウムの量が前記無機粉体と前記ポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対し0.0095質量%~0.075質量%である、粉体化粧料(以下、本開示に係る粉体化粧料とも称する)である。
【0013】
特許文献1(特表2018-513844号公報)では、その段落0044に記載のとおり、たとえ感圧粘着性高分子で無機粉体の表面を被覆しても実用に耐えない密着力又は使用感を有する被覆粉体が得られる場合が多々あり、ポリブチルアクリレートとポリビニルピロリドンをそれぞれTiO2に対して3%ずつ用いた場合についてのみ優れた特性が得られたことを記載している(段落0048)。このように、特許文献1による粉体特性改善は、特定のポリマーの組み合わせを特定量用いることを前提とするものであった。
また、特許文献2(特開2006-265214号公報)は、複数の略球状粒子が凝集合一し、表面に複数の凹凸を有する形状の異形複合粉体を用いることを前提とするものであり、実施例においても前記異形複合粉体としてガンツ化成社製のガンツパールGMI-0804を用いる場合のみが記載されており、粉体選択の自由度が少ない。
さらに、特許文献3(特開2005-306849号公報)は、水中油型固形化粧料の化粧持続性を向上させることに関する文献であって、粉体化粧料の特性の改善を課題とするものではない。
【0014】
本開示に係る粉体化粧料は粉体からなり、該粉体は表面の一部又は全部がポリアスパラギン酸ナトリウムで被覆された無機粉体を含む。
本開示においては、特定の量のポリアスパラギン酸ナトリウムによって無機粉体の表面の一部又は全部を被覆することによって、無機粉体の使用感及び肌密着性を向上しつつ、べたつきを抑えるものである。特許文献1~3は、本願規定の量のポリアスパラギン酸ナトリウムによって無機粉体の表面の一部又は全部を被覆することにより上記効果を得ることについては開示しておらず、上記効果は本開示により初めて得られるものである。本開示において、無機粉体又は粉体化粧料の「使用感」とは、例えば、無機粉体又は粉体化粧料の皮膚への伸び広がり、肌なじみ、潤い感、滑らかさ等の、使用者が感じる感触を指す。ここで、べたつき防止により得られる滑らかさも使用感の一種ではあるが、本開示ではべたつき防止に直接言及するために、べたつき防止を使用感と並列して記載する場合がある。
【0015】
ポリアスパラギン酸ナトリウムは、アスパラギン酸ナトリウムのペプチド結合により形成されるポリマーであり、一般に以下の構造単位が繰り返した構造を有している。
【0016】
【0017】
式中、nは繰り返し数である。ポリアスパラギン酸ナトリウムの主鎖中のアミド結合は、α結合でもβ結合でもかまわない。また、これら結合様式は、構造単位毎に同じでもよく、異なっていてもよい。なお、アスパラギン酸のアミノ基が、アスパラギン酸のα位のカルボキシル基と結合した場合がα結合であり、アスパラギン酸のβ位のカルボキシル基と結合した場合がβ結合である。
【0018】
本開示に係る粉体化粧料においては、ポリアスパラギン酸ナトリウムの重量平均分子量(Mw)は特に限定されず、例えば、1000~120000である。ポリアスパラギン酸ナトリウムの重量平均分子量(Mw)は4000~80000であってもよく、8000~60000であってもよく、12000~40000であってもよく、16000~35000であってもよく、20000~27000であってもよい。
【0019】
本開示に係る粉体化粧料においては、ポリアスパラギン酸ナトリウムの数平均分子量(Mn)は特に限定されず、例えば、1000~80000である。ポリアスパラギン酸ナトリウムの数平均分子量(Mn)は4000~50000であってもよく、7000~30000であってもよく、12000~20000であってもよく、13000~16000であってもよい。
【0020】
なお、本開示において、ポリアスパラギン酸ナトリウムの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、それぞれ、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、測定された値を指す。
解析装置としてLC-Solution(株式会社島津製作所製)、
検出器としてRID-10A(株式会社島津製作所製)、
デガッサーとしてDGU-20A(株式会社島津製作所製)、
ポンプとしてLC-20AD(株式会社島津製作所製)、
オートサンプラーとしてSIL-20A(株式会社島津製作所製)、
送液ユニットとしてCTO-20A(株式会社島津製作所製)、
カラムとしてShodex Asahipak GF-7M HQ×1(昭和電工株式会社製)、
ガードカラムとしてShodex Asahipak GF-1G7B(昭和電工株式会社製)
を用いた。カラムオーブンの温度は45℃とした。標品は、プルラン(Shodex STANDARD P-82(昭和電工株式会社製の標品群キット))であり、そのうちP-5、P-10、P-20、P-50、P-100及びP-200を用いて3次式の検量線を作成した。移動相としては0.1mol/L食塩水を使用した。得られた溶出曲線のうち、ポリマーのメインピークからMw及びMnを算出した。
【0021】
ポリアスパラギン酸ナトリウムは、例えば、特許3384420号公報に記載のように、アスパラギン酸を非水溶性溶媒中200℃~230℃に加熱してポリコハク酸イミドを得ること、及び得られたポリコハク酸イミドを水酸化ナトリウム水溶液中で加水分解してポリアスパラギン酸ナトリウムを製造すること、を含む方法によって得てもよい。非水溶性溶媒としては、水と混合したときに分層する溶媒であって沸点が200℃以上の溶媒が使用可能である。例えば、n-パラフィン、流動パラフィン等の飽和炭化水素化合物、シリコーン系オイル、フッ素系オイル等の中で、200℃以上、好ましくは230℃以上の沸点を有し、さらにその25℃での粘度が100cP以下、好ましくは20cP以下の溶媒を使用することができる。
前駆体としてのポリコハク酸イミドは、マレアミド酸を160℃~330℃の温度で加熱して得ることもできる。また、無水マレイン酸を水溶媒中でアンモニア水と反応させ、その後少なくとも170℃の温度に加熱してポリコハク酸イミドを得ることもできる。あるいは、国際公開公報第2011/102293号に記載のように、無水マレイン酸とアンモニアの反応物及びマレアミド酸から選択される少なくとも1種をモノマーとして用いて重合を行ってポリアスパラギン酸前駆体ポリマーを調製すること、及び得られたポリアスパラギン酸前駆体ポリマーを水酸化ナトリウム水溶液で処理してポリアスパラギン酸ナトリウムを得ること、を含む方法によりポリアスパラギン酸ナトリウムを製造することもできる。
【0022】
ポリアスパラギン酸ナトリウムの製造方法の一例においては、(1)SUS製のバットにL-アスパラギン酸を敷き、窒素雰囲気の常圧下において230℃で4時間オーブン内に静置することで、粉体のポリコハク酸イミドを得て、さらに、(2)得られた粉体のポリコハク酸イミドに蒸留水を加え、溶液の温度が45℃~55℃となるように制御しながら32質量%水酸化ナトリウム水溶液を少量ずつ滴下し、反応マスが流動性を獲得したところで、pH測定を開始し、pHを測定しながら32質量%水酸化ナトリウム水溶液をさらに滴下し、pHがpH10~pH10.5の範囲で変動しなくなった時に滴下を終了して、ポリアスパラギン酸ナトリウムを得る。
【0023】
ポリアスパラギン酸ナトリウムをポリコハク酸イミドの加水分解によって得る場合、ポリマー中には、一部、加水分解されなかったコハク酸イミド構造単位が残留してもよい。言い換えると、本開示に係るポリアスパラギン酸ナトリウムはコハク酸イミド構造単位を一部(例えば全構造単位数の10%以下、又は5%以下、又は1%以下)含有していても、コハク酸イミド構造単位を全く含有していなくてもよい。
【0024】
本開示に係る粉体化粧料中に含まれる無機粉体は特に限定されず、粉体化粧料用の無機粉体として一般に用いられている無機粉体を用いることができる。無機粉体の形状は球状、板状、針状等の形状であってもよく、多孔質であっても無孔性の形状であってもよい。粒子径も特に限定されず、平均粒径で0.02μm程度の超微粒子サイズ~200μm程度の比較的大きな無機粉体といった範囲の中で、目的に応じて適切なものを選択することができる。なお、ここで平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置等の粒度分布測定装置を用い、無機粉体を水中に分散した状態で測定した各粒子の粒径に基づく各粒子の体積を小粒径側から積算した場合に積算体積が全体積の50%となる粒径値をいう。
無機粉体の平均粒径は、例えば、1μm~100μmの範囲内であってもよく、5μm~60μmの範囲内であってもよい。
【0025】
無機粉体の材質は、一般的な無機粉体、光輝性粉体、有機粉体、色素粉体、複合粉体等のいずれであってもよい。無機粉体の例としては、具体的には、酸化チタン、黒色酸化チタン、コンジョウ、群青、ベンガラ、黄色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、シリカ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、水酸化クロム、カーボンブラック、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、マイカ、合成雲母、合成雲母鉄、セリサイト、タルク、カオリン、炭化珪素、硫酸バリウム、ベントナイト、スメクタイト、窒化硼素等の一般的な無機粉体、オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆マイカ、酸化鉄被覆マイカ、酸化鉄被覆マイカチタン、酸化鉄・酸化チタン焼結体、アルミニウムパウダー等の光輝性無機粉体、微粒子酸化チタン被覆マイカチタン、微粒子酸化亜鉛被覆マイカチタン、硫酸バリウム被覆マイカチタン、酸化チタン内包シリカ、酸化亜鉛内包シリカ等の複合無機粉体が挙げられる。本開示に係る粉体化粧料は、これらの無機粉体のうち任意のものを一種単独で用いてもよいし、二種以上を任意の組み合わせで含んでいてもよい。好ましくは、無機粉体は、タルク、マイカ、酸化チタン又はセリサイトであってもよい。
【0026】
ポリアスパラギン酸ナトリウムを無機粉体と混合することによって、ポリアスパラギン酸ナトリウムは無機粉体表面の一部又は全部を被覆する。ここで、無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対するポリアスパラギン酸ナトリウムの量(無機粉体の表面の一部又は全部を被覆するポリアスパラギン酸ナトリウムの量)を0.0095質量%~0.075質量%の範囲内に制御することによって、ポリアスパラギン酸ナトリウムによって被覆された無機粉体は肌に適用したときの使用感及び肌密着性が向上すると共に、親水性であるポリアスパラギン酸ナトリウムに起因するべとつきも抑えることができる。
【0027】
ポリアスパラギン酸ナトリウムによって被覆された無機粉体の使用感及び肌密着性の向上並びにべとつき抑制の観点から、無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対するポリアスパラギン酸ナトリウムの量は0.0095質量%~0.075質量%であり、0.010質量%~0.075質量%であることが好ましく、0.020質量%~0.070質量%であることがより好ましく、0.030質量%~0.060質量%であることがさらに好ましい。無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対するポリアスパラギン酸ナトリウムの量が0.0095質量%未満であると、無機粉体の使用感向上及び肌密着性向上の効果が十分に得られず、無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対するポリアスパラギン酸ナトリウムの量が0.075質量%超であると、肌に適用したときに無機粉体がべとつくため、使用感が悪化する傾向にある。
【0028】
本開示に係る粉体化粧料においては、無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対するポリアスパラギン酸ナトリウムの量が比較的少なく制御されているため、ポリアスパラギン酸ナトリウムは無機粉体の粒子の表面の一部又は全部を被覆するものの、その被覆量は比較的小さく抑えられ、ポリアスパラギン酸ナトリウムに起因するべとつきを抑制することができる。
【0029】
本開示に係る粉体化粧料は、その効果が損なわれない限り、ポリアスパラギン酸ナトリウムにより表面の一部又は全部が被覆された前記無機粉体以外の、他の粉体を含んでいてもよい。他の粉体の例としては、ポリアスパラギン酸ナトリウムにより表面が被覆されていない状態の、先に例示した無機粉体、有機顔料被覆マイカチタン、ナイロンパウダー、ポリメチルメタクリレートパウダー、アクリロニトリル-メタクリル酸共重合体パウダー、塩化ビニリデン-メタクリル酸共重合体パウダー、ポリエチレンパウダー、ポリスチレンパウダー、オルガノポリシロキサンエラストマーパウダー、ポリメチルシルセスキオキサンパウダー、ポリウレタンパウダー、ウールパウダー、シルクパウダー、結晶セルロースパウダー等の有機粉体、有機タール系顔料、有機色素のレーキ顔料等の色素粉体等が挙げられる。また、本開示に係る粉体化粧料は、その効果が損なわれない限り、後述の粉体化粧料組成物の欄に記載される追加的成分を含んでいてもよい。
【0030】
<粉体化粧料の製造方法>
本開示に係る粉体化粧料の製造方法は、
無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとを、前記ポリアスパラギン酸ナトリウムの量が前記無機粉体と前記ポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対し0.0095質量%~0.075質量%となるように混合して、前記無機粉体と前記ポリアスパラギン酸ナトリウムとを含む混合物を得ること、
前記混合物を粉砕すること、並びに
粉砕された前記混合物を乾燥すること、
を含む。
【0031】
前記製造方法によって、本開示に係る粉体化粧料を製造することができる。ただし、本開示に係る粉体化粧料の製造方法は前記製造方法に限定されるものではなく、他の方法により本開示に係る粉体化粧料を製造することも可能である。
【0032】
無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとの混合は、例えば室温で行ってもよいがこれに限定されず、ポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液が凝固又は沸騰しない任意の温度で行ってもよい。例えば、混合は、5℃~95℃の温度範囲内の温度で行ってもよい。混合の際には、水性媒体が共存していてもよいが、水性媒体は存在しなくてもよい。つまり、前記無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとを混合することは、無機粉体、ポリアスパラギン酸ナトリウム及び水性媒体を混合することを含んでいても、含んでいなくてもよい。前記水性媒体は、単に水であってもよいし、水と水混和性の溶媒との混合溶媒であってもよい。このような水混和性溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等のアルコール、アセトン等が挙げられる。
【0033】
無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとの混合は、ディスパー、ヘンシェルミキサー、レディゲミキサー、ニーダー、V型混合機、ロールミル、ビーズミル、2軸混練機等を用いて行うことができる。混合時間は、例えば1分~1時間としてもよく、2分~20分であってもよい。混合は、例えば、無機粉体に、又は無機粉体と水性媒体とを含む混合液に、ポリアスパラギン酸ナトリウムを添加することで、又はポリアスパラギン酸ナトリウムの水溶液を添加することで行ってもよい。この場合、ポリアスパラギン酸ナトリウムは最初から全量を投入してもよく、部分量ずつ複数回に分けて添加してもよい。
ポリアスパラギン酸ナトリウムの添加量は、無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対して0.0095質量%~0.075質量%に設定する。ポリアスパラギン酸ナトリウムの添加量を無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対して0.0095質量%~0.075質量%に設定することで、本開示に係る粉体化粧料の製造方法により製造される粉体化粧料を肌に適用したときの無機粉体の使用感及び肌密着性が向上すると共に、べとつきも抑えることができる。なお、無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとの混合の際には、無機粉体及びポリアスパラギン酸ナトリウムに加えて、上記の他の粉体、後述の粉体化粧料組成物の欄に記載される追加的成分等も一緒に混合してもよい。
【0034】
前記混合によって得られた無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとを含む混合物、又は前記混合物に加えて水性媒体とを含む混合液は、粉砕処理に供される。粉砕処理は、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、インパクトクラッシャー、コーンクラッシャー、ロールクラッシャー、カッターミル、自生粉砕機、スタンプミル、石臼型、乳鉢、らいかい機、リングミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、アトライター、ビーズミル、アトマイザー等を用いて行うことができる。粉体化粧料の用途に合わせた所望の粒径が得られるように好適な粉砕機を選択すればよい。
【0035】
粉砕処理後の混合物については、必要に応じて、任意に濾過を行ってもよい。濾過を行うことで、所望の粒径の無機粉体を回収することができ、また、水性媒体が存在する場合は無機粉体を水性媒体と分離することで乾燥を容易なものとすることができる。濾過に用いるフィルターの孔径は、所望の粒径に合わせて選択することができる。
【0036】
前記粉砕後の混合液中の混合物を乾燥させることで、又は任意に行われる前記濾過により得られる無機粉体を乾燥させることで、表面の一部又は全部がポリアスパラギン酸ナトリウムによって被覆された無機粉体を含む粉体化粧料が得られる。乾燥の手法は特に限定されない。乾燥は、自然乾燥により行ってもよく、減圧下で行ってもよく、加熱下で行ってもよい。減圧をする場合には、例えば絶対圧力で1kPa~20kPa程度に減圧をすればよく、加熱をする場合には、例えば60℃~90℃程度に加熱して乾燥させればよい。
【0037】
乾燥により得られた、表面の一部又は全部がポリアスパラギン酸ナトリウムによって被覆された無機粉体は、任意に、前述した他の粉体と混合されてもよい。
【0038】
<化粧料組成物>
本開示に係る粉体化粧料は、単独で粉体として用いてもよいが、本開示に係る粉体化粧料と、水及び油剤から選択される少なくとも1種とを含む化粧料組成物の形態で用いてもよい。すなわち、本開示に係る化粧料組成物は、本開示に係る粉体化粧料と、水及び油剤から選択される少なくとも1種とを含む化粧料組成物である。このような化粧料組成物の中で用いられた場合であっても、本開示に係る粉体化粧料は、無機粉体の使用感向上、肌密着性向上、べとつき防止といった効果を奏する。
【0039】
油剤の例としては、パラフィンワックス、セレシンワックス、オゾケライト、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャトロプスワックス、ポリエチレンワックス、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、ポリイソブチレン、ポリブテン等の炭化水素、カルナウバロウ、ミツロウ、ラノリンワックス、キャンデリラ等の天然ロウ類、トリベヘン酸グリセリル、ロジン酸ペンタエリトリットエステル、ホホバ油、セチルイソオクタネート、ミリスチン酸イソプロピル、トリオクタン酸グリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、ジペンタエリトリット脂肪酸エステル等のエステル、ステアリン酸、ベヘニン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸、セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール、オリーブ油、ヒマシ油、ミンク油、モクロウ等の油脂、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリンアルコール等のラノリン誘導体、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)等のアミノ酸誘導体、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカン、パーフルオロオクタン等のフッ素系油剤等が挙げられる。
【0040】
本開示に係る化粧料組成物は、その効果を損なわない限り、上記の粉体化粧料、水、油剤以外の成分を含んでいてもよい。このような追加的成分の例としては、化粧料に通常使用される成分、例えば、水混和性溶媒、界面活性剤、油ゲル化剤、多価アルコール類や保湿剤などの水溶性成分、紫外線吸収剤、防腐剤、美容成分、香料等を挙げることができる。
【0041】
本開示に係る化粧料組成物は、本開示に係る粉体化粧料を、水及び油剤から選択される少なくとも1種及び任意に前述の他の成分と混合することによって製造することができる。
【0042】
本開示に係る粉体化粧料及び本開示に係る化粧料組成物の形態(化粧料の製品形態)は特に限定されず、目的に応じて適切に選択することができる。本開示に係る粉体化粧料又は本開示に係る化粧料組成物は、例えば、パウダー、パウダーパクト、ツーウェイケーキ、パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、クリームファンデーション、コンシーラー、BBクリーム、CCクリーム、化粧下地、プライマー、アイシャドー、又はブラッシャであってもよい。
【0043】
上述のとおり、本開示に係る粉体化粧料及び化粧料組成物によれば、無機粉体の使用感及び肌密着性を向上しつつ、べたつきを抑えるという効果を奏する。
【実施例】
【0044】
以下の実施例により実施形態を更に説明するが、本開示は以下の実施例によって何等限定されるものではない。また、実施例の組成物における含有成分量を示す「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0045】
<実施例1>
重量平均分子量22000のポリアスパラギン酸ナトリウムの水溶液を、無機粉体に添加した。無機粉体としてはタルク又はセリサイトを用いた。無機粉体の量に対するポリアスパラギン酸ナトリウムの添加量は、表1に示す所定量(ポリアスパラギン酸ナトリウムの量と無機粉体の量との合計量に対してポリアスパラギン酸ナトリウムの量が0.040質量%)となるようにした。ポリアスパラギン酸ナトリウムの所定量の半分を添加したところで一旦添加を止め、ヘンシェルミキサー(型番FM10C/I:日本コークス工業株式会社製)で3000rpm(回転/分)で3分間混合した。さらに、ポリアスパラギン酸ナトリウムの所定量の残りの半分を添加し、前記ヘンシェルミキサーで3000rpm(回転/分)で3分間混合した。また、ポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を作るのに用いたポリアスパラギン酸ナトリウムは、以下のようにして得た。まず、SUS製のバットにL-アスパラギン酸を敷き、窒素雰囲気の常圧下において230℃で4時間オーブン内に静置することで、粉体のポリコハク酸イミドを得た。得られた粉体のポリコハク酸イミドに蒸留水を加え、溶液の温度が45℃~55℃となるように制御しながら32質量%水酸化ナトリウム水溶液を少量ずつ滴下した。反応マスが流動性を獲得したところで、pH測定を開始し、pHを測定しながら32質量%水酸化ナトリウム水溶液をさらに滴下し、pHがpH10~pH10.5の範囲で変動しなくなった時に滴下を終了して、ポリアスパラギン酸ナトリウムを得た。
【0046】
ヘンシェルミキサーによる混合後の混合液をアトマイザー(型番K2-1、不二パウダル株式会社製)にかけて固形分を粉砕した。アトマイザーによる粉砕は、スクリーン径を2mmφとし、スクリューピッチを20mmとし、段付きライナーを用いて行った。また、粉砕時間は30分~60分とした。得られた粉砕物を孔径2mmの濾布を用いて濾過し、濾布上の無機粒子を回収した。
【0047】
回収された無機粉体を、器具乾燥機で乾燥した。乾燥温度及び乾燥時間は、80℃で3時間の乾燥後に40℃で一晩放置による乾燥とした。乾燥の結果、ポリアスパラギン酸ナトリウムにより表面の一部又は全部が被覆された無機粉体(以下、「混合粉体」とも称する)を得た。得られた無機粉体を実施例1の無機粉体と称する。
【0048】
<実施例2、実施例3、実施例4、比較例1及び比較例2>
実施例2においては、無機粉体に添加するポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を、半分量ずつ分割してではなく一括で添加したこと以外は実施例1と同様にして、混合粉体を得た。また、実施例3、実施例4、比較例1及び比較例2においては、無機粉体に添加するポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液の濃度を表1に記載のとおり変更することで、無機粉体中におけるポリアスパラギン酸ナトリウムの量を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、混合粉体を得た。
【0049】
こうして得られた、ポリアスパラギン酸ナトリウムにより表面の一部又は全部が被覆された無機粉体(混合粉体)を用いて、専門パネラーによる肌に適用した場合の使用感の評価を行った。具体的には、化粧品評価専門パネルの手の甲に直径3cmの円の部位を設け、実施例1の混合粉体を40mg、指で塗布し、指で伸び広げる際の感触を評価した。評価は、滑らかな使用感並びに肌への付着力及び保湿感について行った。評価後の手の甲は十分に洗浄、すすぎを行い、水気をよくふき取ったのち、実施例2、実施例3、実施例4、比較例1、及び比較例2それぞれの混合粉体も同様に評価した。結果を表1に示す。
【0050】
[滑らかな使用感]
A: とても滑らかな使用感である。
B: 多少滑らかな使用感である。
C: 滑らかさがほとんど感じられない使用感である。
【0051】
[肌への付着力及び保湿感」
A: 肌への付着力及び保湿感について優れている。
B: 肌への付着力が多少あり、保湿感も多少感じられる。
C: 肌への付着力がほとんど無く、保湿感もほとんど感じられない。
【0052】
【0053】
表1に示した結果から分かるように、無機粉体の表面の一部又は全部を被覆するポリアスパラギン酸ナトリウムの量が無機粉体とポリアスパラギン酸ナトリウムとの合計量に対して0.0095質量%~0.075質量%となるように、ポリアスパラギン酸ナトリウムで無機粉体を被覆することにより、向上した使用感及び肌密着性を有し、且つべたつきが抑えられた(つまり使用感が滑らかな)粉体化粧料が提供されることが分かる。