IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有限会社イグノスの特許一覧 ▶ 国立大学法人秋田大学の特許一覧

特許7248227測色方法、測色システム、測色プログラム、及び、測色用色票
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】測色方法、測色システム、測色プログラム、及び、測色用色票
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/52 20060101AFI20230322BHJP
   G06T 7/90 20170101ALI20230322BHJP
【FI】
G01J3/52
G06T7/90 D
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021507357
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011626
(87)【国際公開番号】W WO2020189660
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2019050531
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305024547
【氏名又は名称】有限会社イグノス
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100142734
【弁理士】
【氏名又は名称】安 裕 希
(72)【発明者】
【氏名】大和田 功
(72)【発明者】
【氏名】寒川 陽美
(72)【発明者】
【氏名】似田貝 正紹
(72)【発明者】
【氏名】景山 陽一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 毅
(72)【発明者】
【氏名】坂本 海斗
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-223642(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0177434(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0071314(US,A1)
【文献】特開2014-041115(JP,A)
【文献】国際公開第2018/004005(WO,A1)
【文献】特開平05-322657(JP,A)
【文献】特開2017-125840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 - G01J 3/52
G06T 7/00 - G06T 7/90
H04N 17/02
G01N 21/00 - G01N 21/61
G01N 21/75 - G01N 21/83
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の色を測定する測色方法であって、
***色空間における色を表す値である色見本基準値が既知であり、且つ色見本基準値が互いに異なる2つ以上の色見本の色見本基準値を取得する基準値取得ステップと、
前記2つ以上の色見本及び前記測定対象が写った画像の画像データに基づいて、前記2つ以上の色見本の前記画像における色を表す値である色見本実測値と、前記測定対象の前記画像における色を表す値である測定対象実測値と、をRGB色空間における値として取得する実測値取得ステップと、
前記2つ以上の色見本の色見本実測値と色見本基準値との相関関係であって、前記測定対象の色が属する色域に応じた相関関係を取得する相関関係取得ステップと、
前記相関関係取得ステップにおいて取得された相関関係を用いて前記測定対象実測値を補正することにより、前記測定対象の色の推定値である測定対象推定値を算出する補正ステップと、を含み、
前記測定対象の色が属する色域が所定の色域である場合、前記2つ以上の色見本の色見本基準値をRGB色空間における値に変換し、前記相関関係取得ステップにおいて前記相関関係をRGB色空間において取得し、前記補正ステップにおいて前記測定対象実測値をRGB色空間において補正し、
前記測定対象の色が属する色域が前記所定の色域以外の色域である場合、前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をL***色空間における値に変換し、前記相関関係取得ステップにおいて前記相関関係をL***色空間において取得し、前記補正ステップにおいて前記測定対象実測値をL***色空間において補正する、測色方法。
【請求項2】
前記所定の色域は、無彩色の色域を含む、請求項1に記載の測色方法。
【請求項3】
前記所定の色域はさらに、高輝度色域又は低輝度色域を含む、請求項2に記載の測色方法。
【請求項4】
前記所定の色域はさらに、低彩度の赤域以外の色域を含む、請求項3に記載の測色方法。
【請求項5】
RGB色空間において前記測定対象実測値を補正することにより算出された測定対象推定値をL***色空間における値に変換するステップをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の測色方法。
【請求項6】
***色空間において前記測定対象実測値を補正することにより算出された測定対象推定値をRGB色空間における値に変換するステップをさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の測色方法。
【請求項7】
前記相関関係取得ステップは、さらに、前記測定対象の色が属する色域に応じて複数種類の回帰分析手法のうちから1つの回帰分析手法を選択し、該選択された回帰分析手法を用いて、前記相関関係を取得する、請求項1~のいずれか1項に記載の測色方法。
【請求項8】
前記相関関係取得ステップは、1次関数を用いた回帰分析と、2次関数を用いた回帰分析と、Fuzzy回帰分析とのうちから1つの回帰分析手法を選択する、請求項に記載の測色方法。
【請求項9】
前記測定対象の色が属する色域を選択するステップをさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の測色方法。
【請求項10】
前記2つ以上の色見本は、前記測定対象に応じて決定される、請求項1~のいずれか1項に記載の測色方法。
【請求項11】
色見本基準値が既知であり、且つ色見本基準値が互いに異なる複数の色見本のうちから、前記測定対象の色が属する色域に応じて前記2つ以上の色見本を選択する選択ステップをさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の測色方法。
【請求項12】
前記選択ステップは、前記測定対象の色が変化し得る範囲の両端の色に近い色見本、及び、該範囲の中央の色に近い色見本を、前記2つ以上の色見本として選択する、請求項11に記載の測色方法。
【請求項13】
前記選択ステップは、前記測定対象が複数存在する場合、測定対象ごとに2つ以上の色見本を選択する、請求項11又は12に記載の測色方法。
【請求項14】
前記複数の色見本は、各々が少なくとも2つの色見本を含む複数の色見本群に分類され、
前記選択ステップは、前記複数の色見本群のうちから、前記測定対象の色が属する色域に応じて色見本群を選択する、請求項11に記載の測色方法。
【請求項15】
前記複数の色見本は、L***色空間を分割することにより画定される複数の領域に基づいて分類されている、請求項14に記載の測色方法。
【請求項16】
前記複数の領域は、
*成分及びb*成分がゼロ近傍である第1の領域と、
***色空間から前記第1の領域を除いた領域を、L*軸、a*軸、及びb*軸の各々において2分割することにより画定される第2~第9の領域と、を含む請求項15に記載の測色方法。
【請求項17】
前記選択ステップは、
前記複数の色見本群及び前記測定対象を撮像することにより、前記複数の色見本群及び前記測定対象が写った画像の画像データを生成する撮像ステップと、
前記撮像ステップにおいて生成された画像データに基づいて、前記複数の色見本群の各々に含まれる少なくとも2つの色見本の各々と前記測定対象との色差を算出する色差算出ステップと、を含み、
前記複数の色見本群のうち、前記色差が最も小さい色見本を含む色見本群に含まれる少なくとも2つの色見本を選択する、請求項1416のいずれか1項に記載の測色方法。
【請求項18】
前記色差算出ステップは、前記画像データに基づいて、前記複数の色見本群の各々に含まれる少なくとも2つの色見本の色見本実測値と前記測定対象実測値とを、RGB色空間における値として取得し、さらに、L***色空間における値に変換して前記色差を算出する、請求項17に記載の測色方法。
【請求項19】
前記測定対象は、液体に含まれる特定物質の濃度、含有量、若しくは特性を測定するための試験紙若しくは試薬を含む溶液、又は、気体に含まれる特定物質の濃度、含有量、若しくは特性を測定するための試験紙である、請求項1~のいずれか1項に記載の測色方法。
【請求項20】
測定対象の色を測定する測色システムであって、
***色空間における色を表す値である色見本基準値が既知であり、且つ色見本基準値が互いに異なる2つ以上の色見本の色見本基準値を取得する基準値取得部と、
前記2つ以上の色見本及び前記測定対象が写った画像の画像データに基づいて、前記2つ以上の色見本の前記画像における色を表す値である色見本実測値と、前記測定対象の前記画像における色を表す値である測定対象実測値と、をRGB色空間における値として取得する実測値取得部と、
前記2つ以上の色見本の色見本実測値と色見本基準値との相関関係であって、前記測定対象の色が属する色域に応じた相関関係を取得する相関関係取得部と、
前記相関関係取得部により取得された相関関係を用いて前記測定対象実測値を補正することにより、前記測定対象の色の推定値である測定対象推定値を算出する補正部と、を含み、
前記測定対象の色が属する色域が所定の色域である場合、前記2つ以上の色見本の色見本基準値をRGB色空間における値に変換し、前記相関関係取得部において前記相関関係をRGB色空間において取得し、前記補正部において前記測定対象実測値をRGB色空間において補正し、
前記測定対象の色が属する色域が前記所定の色域以外の色域である場合、前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をL***色空間における値に変換し、前記相関関係取得において前記相関関係をL***色空間において取得し、前記補正において前記測定対象実測値をL***色空間において補正する、測色システム。
【請求項21】
前記2つ以上の色見本及び前記測定対象を撮像することにより前記画像の画像データを生成する撮像部をさらに備える請求項20に記載の測色システム。
【請求項22】
測定対象の色を測定する測色システムにおいてコンピュータに実行させる測色プログラムであって、
***色空間における色を表す値である色見本基準値が既知であり、且つ色見本基準値が互いに異なる2つ以上の色見本の色見本基準値を取得する基準値取得ステップと、
前記2つ以上の色見本及び前記測定対象が写った画像の画像データに基づいて、前記2つ以上の色見本の前記画像における色を表す値である色見本実測値と、前記測定対象の前記画像における色を表す値である測定対象実測値と、をRGB色空間における値として取得する実測値取得ステップと、
前記2つ以上の色見本の色見本実測値と色見本基準値との相関関係であって、前記測定対象の色が属する色域に応じた相関関係を取得する相関関係取得ステップと、
前記相関関係取得ステップにおいて取得された相関関係を用いて前記測定対象実測値を補正することにより、前記測定対象の色の推定値である測定対象推定値を算出する補正ステップと、を前記コンピュータに実行させ、
前記測定対象の色が属する色域が所定の色域である場合、前記2つ以上の色見本の色見本基準値をRGB色空間における値に変換し、前記相関関係取得ステップにおいて前記相関関係をRGB色空間において取得し、前記補正ステップにおいて前記測定対象実測値をRGB色空間において補正し、
前記測定対象の色が属する色域が前記所定の色域以外の色域である場合、前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をL***色空間における値に変換し、前記相関関係取得ステップにおいて前記相関関係をL***色空間において取得し、前記補正ステップにおいて前記測定対象実測値をL***色空間において補正する、測色プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象の色を測定する測色方法、測色システム、測色プログラム、及び、測色用色票に関する。
【背景技術】
【0002】
測色は、建築材料、化学製品、紙製品、織物等の色彩管理、塗料やインクの検査、印刷機の校正、食物の検査、肌分析など多くの分野において、様々な目的で行われている。測色方法としては、従来、測定対象の分光スペクトルの強度を測定する分光測色計又は色差計等の専用の測色機器を用いる方法や、測定対象と色見本(カラーパッチ)とを目視で比較する方法等が知られている。
【0003】
専用の測色機器を用いる場合、所定の光源条件の下、XYZ、L***等の各種色空間での測色値を高精度で測定することができる。しかしながら、専用の測色機器は、高価、持ち運びが不便、非接触での測定が困難といった問題がある。
【0004】
他方、測定対象と色見本とを目視で比較する方法の場合、測定者の資質や経験により測定結果が異なることがあり、客観的な評価が困難、測定に時間と労力を要するといった問題がある。
【0005】
近年では、測定対象を色見本と共にカメラによって撮像し、両者が写った画像をもとに測定対象の色を推定する技術も知られている。例えば、特許文献1には、予め基準色票を測色し、基準色票と被測色体とを含む被写体を同時または別個に撮像することによりRGBデータを取得し、取得したRGBデータの中から基準色票のRGBデータと被測色体のRGBデータを抽出し、抽出した基準色票のRGBデータと予め測色することにより得られた基準色票のRGBデータとの差分を求め、この差分を用いて被測色体のRGBデータに対して補正する測色方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、カラーチャートに配された複数の見本色の各々の値を測色装置により測定し、カラーチャートと測定対象とを撮像装置により一度に撮像し、測色装置により測定された複数の見本色の各々の値と、撮像装置により撮像された画像を表す画像データに含まれる複数の見本色の各々の値とに基づき、上記画像データが示す測定対象の色の値を、測色装置により測定された場合に特定される測定対象の色の値の推定値に変換する色特定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平5-223642号公報
【文献】特開2017-175568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近ではスマートフォンが広く普及しているため、スマートフォンに内蔵されたカメラを利用することができれば、専用の測色機器を用いることなく、安価且つ手軽に、撮影が可能な環境であれば場所を選ばず、非接触で測色できるようになる可能性がある。
【0009】
ところで、カメラで測定対象を撮像することにより得られた画像においては、照明の種類、明るさ、日向・日陰といった撮像環境や、カメラの特性等によって、測定対象本来の色、即ち、分光測色計で測定することにより得られる絶対的な色の値(測色値)からのずれが生じていることが多い。この点に関し、上記特許文献1、2においては、測定対象と、絶対的な測色値(真値)が既知である色見本とを同じ条件下で撮像し、色見本の測色値(真値)と画像における色見本の色の値との相関関係を用いて、画像における測定対象の色の値を補正することにより、測定対象の色を推定している。
【0010】
しかしながら、本出願の発明者らが様々な撮像環境の下、様々な色の測定対象について、カメラで撮像することにより得られた画像データに基づいて色の推定演算を試みたところ、測定対象の色や撮像環境などの違いによって、色の推定精度が大きく変動することが判明した。
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、測定対象をカメラで撮像することにより得られた画像データに基づく測色方法において、色の推定精度が変動しにくい、ロバストな測色方法、測色システム、測色プログラム、及び、該測色方法において用いられる測色用色票を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の1つの態様である測色方法は、測定対象の色を測定する測色方法であって、色を表す値である色見本基準値が既知であり、且つ色見本基準値が互いに異なる2つ以上の色見本及び前記測定対象が写った画像の画像データに基づいて、前記2つ以上の色見本の前記画像における色を表す値である色見本実測値と、前記測定対象の前記画像における色を表す値である測定対象実測値と、を取得する実測値取得ステップと、前記2つ以上の色見本の色見本基準値を取得する基準値取得ステップと、前記2つ以上の色見本の色見本実測値と色見本基準値との相関関係であって、前記測定対象の色が属する色域に応じた相関関係を取得する相関関係取得ステップと、前記相関関係取得ステップにおいて取得された相関関係を用いて前記測定対象実測値を補正することにより、前記測定対象の色の推定値である測定対象推定値を算出する補正ステップと、を含むものである。
【0013】
上記測色方法において、前記2つ以上の色見本は、前記測定対象の色域に応じて予め設定されており、前記相関関係取得ステップは、前記測定対象の色域に応じて予め選択された色空間において前記相関関係を取得し、前記補正ステップは、前記測定対象の色域に応じて予め選択された前記色空間において前記測定対象実測値を補正しても良い。
【0014】
上記測色方法において、前記相関関係取得ステップは、前記測定対象の色が属する色域に応じて複数の色空間のうちから1つの色空間を選択し、該選択された色空間における前記相関関係を取得し、前記補正ステップは、前記選択された色空間において前記測定対象実測値を補正しても良い。
【0015】
上記測色方法において、前記実測値取得ステップは、前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をRGB色空間における値として取得し、前記基準値取得ステップは、前記色見本基準値をL***色空間における値として取得し、前記相関関係取得ステップは、前記選択された色空間がRGB色空間以外の色空間である場合、RGB色空間における値として取得された前記色見本実測値及び前記測定対象実測値を、前記選択された色空間における値に変換するステップと、前記選択された色空間がL***色空間以外の色空間である場合、L***色空間における値として取得された前記色見本基準値を、前記選択された色空間における値に変換するステップと、を含んでも良い。
【0016】
上記測色方法において、前記複数の色空間は、RGB色空間と、L***色空間と、HLS色空間と、を含んでも良い。
【0017】
上記測色方法において、前記相関関係取得ステップは、前記測定対象の色が属する色域に応じて複数種類の回帰分析手法のうちから1つの回帰分析手法を選択し、該選択された回帰分析手法を用いて、前記相関関係を取得しても良い。
【0018】
上記測色方法において、前記実測値取得ステップは、前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をRGB色空間における値として取得し、前記基準値取得ステップは、前記色見本基準値をL***色空間における値として取得し、前記相関関係取得ステップは、前記測定対象の色が属する色域に応じて複数種類の回帰分析手法のうちから1つの回帰分析手法を選択すると共に、RGB色空間における値として取得された前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をL***色空間における値に変換し、該変換された前記色見本実測値と前記色見本基準値との前記相関関係を、L***色空間において、選択された回帰分析手法を用いて取得し、前記補正ステップは、L***色空間において前記測定対象実測値を補正しても良い。
【0019】
上記測色方法において、前記実測値取得ステップは、前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をRGB色空間における値として取得し、前記基準値取得ステップは、前記色見本基準値をL***色空間における値として取得し、前記相関関係取得ステップは、前記測定対象の色が属する色域に応じて複数種類の回帰分析手法のうちから1つの回帰分析手法を選択すると共に、L***色空間における値として取得された前記色見本基準値をRGB色空間における値に変換し、該変換された前記色見本基準値と前記色見本実測値との前記相関関係を、RGB色空間において、選択された回帰分析手法を用いて取得し、前記補正ステップは、RGB色空間において前記測定対象実測値を補正しても良い。
【0020】
上記測色方法において、前記実測値取得ステップは、前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をRGB色空間における値として取得し、前記基準値取得ステップは、前記色見本基準値をL***色空間における値として取得し、前記相関関係取得ステップは、前記測定対象の色が属する色域に応じて複数種類の回帰分析手法のうちから1つの回帰分析手法を選択し、RGB色空間における値として取得された前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をHLS色空間における値に変換すると共に、L***色空間における値として取得された前記色見本基準値をHLS色空間における値に変換し、変換された前記色見本実測値と前記色見本基準値との前記相関関係を、HLS色空間において、選択された回帰分析手法を用いて取得し、前記補正ステップは、HLS色空間において前記測定対象実測値を補正しても良い。
【0021】
上記測色方法は、前記測定対象の色が属する色域を選択するステップをさらに含んでも良い。
【0022】
上記測色方法は、色見本基準値が既知であり、且つ色見本基準値が互いに異なる複数の色見本のうちから、前記測定対象の色が属する色域に応じて前記2つ以上の色見本を選択する選択ステップをさらに含み、前記実測値取得ステップは、前記選択ステップにおいて選択された前記2つ以上の色見本の色見本実測値を取得し、前記基準値取得ステップは、前記選択ステップにおいて選択された前記2つ以上の色見本基準値を取得し、前記相関関係取得部は、前記選択ステップにおいて選択された前記2つ以上の色見本の色見本実測値と色見本基準値との相関関係を取得しても良い。
【0023】
上記測色方法において、前記選択ステップは、前記測定対象の色が変化し得る範囲の両端の色に近い色見本、及び、該範囲の中央の色に近い色見本を、前記2つ以上の色見本として選択しても良い。
【0024】
上記測色方法において、前記選択ステップは、前記測定対象が複数存在する場合、測定対象ごとに2つ以上の色見本を選択しても良い。
【0025】
上記測色方法において、前記複数の色見本は、各々が少なくとも2つの色見本を含む複数の色見本群に分類され、前記選択ステップは、前記複数の色見本群のうちから、前記測定対象の色が属する色域に応じて色見本群を選択しても良い。
【0026】
上記測色方法において、前記複数の色見本は、L***色空間を分割することにより画定される複数の領域に基づいて分類されていても良い。
【0027】
上記測色方法において、前記複数の領域は、a*成分及びb*成分がゼロ近傍である第1の領域と、L***色空間から前記第1の領域を除いた領域を、L*軸、a*軸、及びb*軸の各々において2分割することにより画定される第2~第9の領域と、を含んでも良い。
【0028】
上記測色方法において、前記選択ステップは、前記複数の色見本群及び前記測定対象を撮像することにより、前記複数の色見本群及び前記測定対象が写った画像の画像データを生成する撮像ステップと、前記撮像ステップにおいて生成された画像データに基づいて、前記複数の色見本群の各々に含まれる少なくとも2つの色見本の各々と前記測定対象との色差を算出する色差算出ステップと、を含み、前記複数の色見本群のうち、前記色差が最も小さい色見本を含む色見本群に含まれる少なくとも2つの色見本を選択しても良い。
【0029】
上記測色方法において、前記少なくとも2つの色見本の色見本基準値は、L***色空間における値であり、前記色差算出ステップは、前記画像データに基づいて、前記複数の色見本群の各々に含まれる少なくとも2つの色見本の色見本実測値と前記測定対象実測値とを、RGB色空間における値として取得し、さらに、L***色空間における値に変換して前記色差を算出しても良い。
【0030】
上記測色方法において、前記測定対象の色域が、無彩色、高輝度色域、低輝度色域、又は、低彩度若しくは中彩度の赤域であり、前記相関関係取得ステップは、RGB色空間における前記相関関係を取得し、前記補正ステップは、RGB色空間において前記測定対象実測値を補正しても良い。
【0031】
上記測色方法において、前記測定対象の色域が、無彩色、高輝度色域、低輝度色域、及び、低彩度の赤域以外の色域であり、前記相関関係取得ステップは、L***色空間における前記相関関係を取得し、前記補正ステップは、L***色空間において前記測定対象実測値を補正しても良い。
【0032】
本発明の別の態様である測色方法は、測定対象の色を測定する測色方法であって、前記測定対象に応じて決定される2つ以上の色見本であって、色を表す値である色見本基準値が既知であり、且つ色見本基準値が互いに異なる2つ以上の色見本と、前記測定対象と、が写った画像の画像データに基づいて、前記2つ以上の色見本の前記画像における色を表す値である色見本実測値と、前記測定対象の前記画像における色を表す値である測定対象実測値と、を取得する実測値取得ステップと、前記2つ以上の色見本の色見本基準値を取得する基準値取得ステップと、前記2つ以上の色見本の色見本実測値と色見本基準値との相関関係を取得する相関関係取得ステップと、前記相関関係取得ステップにおいて取得された相関関係を用いて前記測定対象実測値を補正することにより、前記測定対象の色の推定値である測定対象推定値を算出する補正ステップと、を含むものである。
【0033】
上記測色方法において、前記2つ以上の色見本は、前記測定対象に応じて予め決定されても良い。
【0034】
上記測色方法は、複数の色見本のうちから、前記測定対象に応じて前記2つ以上の色見本を選択するステップをさらに含んでも良い。
【0035】
上記測色方法において、前記実測値取得ステップは、前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をRGB色空間における値として取得し、前記基準値取得ステップは、前記色見本基準値をL***色空間における値として取得し、前記相関関係取得ステップは、RGB色空間における値として取得された前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をL***色空間における値に変換し、該変換された前記色見本実測値と前記色見本基準値との前記相関関係を、L***色空間において取得し、前記補正ステップは、L***色空間において前記測定対象実測値を補正しても良い。
【0036】
上記測色方法において、前記実測値取得ステップは、前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をRGB色空間における値として取得し、前記基準値取得ステップは、前記色見本基準値をL***色空間における値として取得し、前記相関関係取得ステップは、L***色空間における値として取得された前記色見本基準値をRGB色空間における値に変換し、該変換された前記色見本基準値と前記色見本実測値との前記相関関係を、RGB色空間において取得し、前記補正ステップは、RGB色空間において前記測定対象実測値を補正しても良い。
【0037】
上記測色方法において、前記実測値取得ステップは、前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をRGB色空間における値として取得し、前記基準値取得ステップは、前記色見本基準値をL***色空間における値として取得し、前記相関関係取得ステップは、RGB色空間における値として取得された前記色見本実測値及び前記測定対象実測値をHLS色空間における値に変換すると共に、L***色空間における値として取得された前記色見本基準値をHLS色空間における値に変換し、変換された前記色見本実測値と前記色見本基準値との前記相関関係を、HLS色空間において取得し、前記補正ステップは、HLS色空間において前記測定対象実測値を補正しても良い。
【0038】
上記測色方法において、前記測定対象は、液体に含まれる特定物質の濃度、含有量、若しくは特性を測定するための試験紙若しくは試薬を含む溶液、又は、気体に含まれる特定物質の濃度、含有量、若しくは特性を測定するための試験紙であっても良い。
【0039】
本発明の別の態様である測色システムは、測定対象の色を測定する測色システムであって、色を表す値である色見本基準値が既知であり、且つ色見本基準値が互いに異なる2つ以上の色見本及び前記測定対象が写った画像の画像データに基づいて、前記2つ以上の色見本の前記画像における色を表す値である色見本実測値と、前記測定対象の前記画像における色を表す値である測定対象実測値と、を取得する実測値取得部と、前記2つ以上の色見本の色見本基準値を取得する基準値取得部と、前記2つ以上の色見本の色見本実測値と色見本基準値との相関関係であって、前記測定対象の色が属する色域に応じた相関関係を取得する相関関係取得部と、前記相関関係取得部により取得された相関関係を用いて前記測定対象実測値を補正することにより、前記測定対象の色の推定値である測定対象推定値を算出する補正部と、を備えるものである。
【0040】
本発明の別の態様である測色システムは、測定対象の色を測定する測色システムであって、前記測定対象に応じて決定される2つ以上の色見本であって、色を表す値である色見本基準値が既知であり、且つ色見本基準値が互いに異なる2つ以上の色見本と、前記測定対象と、が写った画像の画像データに基づいて、前記2つ以上の色見本の前記画像における色を表す値である色見本実測値と、前記測定対象の前記画像における色を表す値である測定対象実測値と、を取得する実測値取得部と、前記2つ以上の色見本の色見本基準値を取得する基準値取得部と、前記2つ以上の色見本の色見本実測値と色見本基準値との相関関係を取得する相関関係取得部と、前記相関関係取得部により取得された相関関係を用いて前記測定対象実測値を補正することにより、前記測定対象の色の推定値である測定対象推定値を算出する補正部と、を備えるものである。
【0041】
上記測色システムは、前記2つ以上の色見本及び前記測定対象を撮像することにより前記画像の画像データを生成する撮像部をさらに備えても良い。
【0042】
本発明の別の態様である測色プログラムは、測定対象の色を測定する測色システムにおいてコンピュータに実行させる測色プログラムであって、色を表す値である色見本基準値が既知であり、且つ色見本基準値が互いに異なる2つ以上の色見本及び前記測定対象が写った画像の画像データに基づいて、前記2つ以上の色見本の前記画像における色を表す値である色見本実測値と、前記測定対象の前記画像における色を表す値である測定対象実測値と、を取得する実測値取得ステップと、前記2つ以上の色見本の色見本基準値を取得する基準値取得ステップと、前記2つ以上の色見本の色見本実測値と色見本基準値との相関関係であって、前記測定対象の色が属する色域に応じた相関関係を取得する相関関係取得ステップと、前記相関関係取得ステップにおいて取得された相関関係を用いて前記測定対象実測値を補正することにより、前記測定対象の色の推定値である測定対象推定値を算出する補正ステップと、をコンピュータに実行させるものである。
【0043】
本発明の別の態様である測色プログラムは、測定対象の色を測定する測色システムにおいてコンピュータに実行させる測色プログラムであって、前記測定対象に応じて決定される2つ以上の色見本であって、色を表す値である色見本基準値が既知であり、且つ色見本基準値が互いに異なる2つ以上の色見本と、前記測定対象と、が写った画像の画像データに基づいて、前記2つ以上の色見本の前記画像における色を表す値である色見本実測値と、前記測定対象の前記画像における色を表す値である測定対象実測値と、を取得する実測値取得ステップと、前記2つ以上の色見本の色見本基準値を取得する基準値取得ステップと、前記2つ以上の色見本の色見本実測値と色見本基準値との相関関係を取得する相関関係取得ステップと、前記相関関係取得ステップにおいて取得された相関関係を用いて前記測定対象実測値を補正することにより、前記測定対象の色の推定値である測定対象推定値を算出する補正ステップと、をコンピュータに実行させるものである。
【0044】
本発明の別の態様である測色用色票は、測定対象の色を測色する測色方法において用いられる測色用色票であって、基材と、複数の色見本であって、各々が少なくとも2つの色見本を含む複数の色見本群に分類されて前記基材上に配置された複数の色見本と、を備え、前記複数の色見本は、L***色空間を分割することにより画定される複数の領域に対応して分類されているものである。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、測定対象の色が属する色域に応じて、2つ以上の色見本についての色見本実測値と色見本基準値の相対関係を取得するので、このような相対関係を用いることにより、測定対象の色を精度良く推定することができると共に、推定精度が測定対象の色や撮像環境などの影響を受けにくくなる。従って、色の推定精度が変動しにくい、ロバストな測色を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の第1~第4の実施形態に係る測色方法の概要を示すフローチャートである。
図2】本発明の第1の実施形態に係る測色システムの概略構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る測色方法を示すフローチャートである。
図4】複数の色見本及び測定対象を撮像している様子を例示する模式図である。
図5】複数の色見本及び測定対象が写った画像を例示する模式図である。
図6図5に示すRGB色空間において演算を行う処理を示すフローチャートである。
図7図5に示すL***色空間において演算を行う処理を示すフローチャートである。
図8図5に示すHLS色空間において演算を行う処理を示すフローチャートである。
図9】実験1において使用された色見本の測色値を示す表である。
図10】実験1における撮像条件及び結果を示す表である。
図11A】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件1、カラーパッチ、L*成分)。
図11B】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件1、カラーパッチ、a*成分)。
図11C】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件1、カラーパッチ、b*成分)。
図12A】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件1、カラーパッチ、R成分)。
図12B】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件1、カラーパッチ、G成分)。
図12C】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件1、カラーパッチ、B成分)。
図13A】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件2、カラーパッチ、L*成分)。
図13B】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件2、カラーパッチ、a*成分)。
図13C】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件2、カラーパッチ、b*成分)。
図14A】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件2、カラーパッチ、R成分)。
図14B】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件2、カラーパッチ、G成分)。
図14C】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件2、カラーパッチ、B成分)。
図15A】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件5、グレーパッチ、L*成分)。
図15B】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件5、グレーパッチ、a*成分)。
図15C】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件5、グレーパッチ、b*成分)。
図16A】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件5、グレーパッチ、R成分。
図16B】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件5、グレーパッチ、G成分。
図16C】実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである(条件5、グレーパッチ、B成分)。
図17】本発明の第2の実施形態に係る測色方法を示すフローチャートである。
図18A】実験2において使用された色見本のsRGB値を示す表である。
図18B】実験2において測定対象として使用された色見本の測色値を示す表である。
図19】実験2、3の結果を示す表である。
図20】本発明の第2の実施形態において用いられるFuzzy回帰分析を説明するためのグラフである。
図21】本発明の第2の実施形態において用いられるFuzzy回帰分析を説明するためのグラフである。
図22】本発明の第2の実施形態において用いられるFuzzy回帰分析を説明するためのグラフである。
図23A】Fuzzy回帰分析による相関関係を示すグラフ(L*成分)である。
図23B】Fuzzy回帰分析による相関関係を示すグラフ(a*成分)である。
図23C】Fuzzy回帰分析による相関関係を示すグラフ(b*成分)である。
図24】色差がΔE1>ΔEFとなる測定対象の度数分布を示す表である。
図25】本発明の第2の実施形態に係る測色方法の変形例を説明するためのフローチャートである。
図26】本発明の第3の実施形態に係る測色方法を示すフローチャートである。
図27】色域に応じた色見本の選択方法を説明するための模式図である。
図28】色域に応じた色見本の選択方法を説明するための模式図である。
図29】本発明の第4の実施形態における色域に応じた色見本を選択する処理を示すフローチャートである。
図30】本発明の第4の実施形態における色見本の選択方法において使用される測色用色票を示す模式図である。
図31】L***色空間を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施の形態に係る測色方法、測色システム、測色プログラム、及び、測色用色票について、図面を参照しながら説明する。なお、これらの実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0048】
以下の説明において参照する図面は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示しているに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。また、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0049】
図1は、本発明の第1~第4の実施形態に係る測色方法の概要を示すフローチャートである。本発明の第1~第4の実施形態に係る測色方法は、任意の測定対象の色を、該測定対象及び2つ以上の色見本をカメラで撮像することにより生成された画像に基づいて測定する方法である。
【0050】
ここで、色見本とは、色を表す値(以下、色見本基準値ともいう)が既知である色の見本であり、カラーパッチとも呼ばれる。色見本基準値は、所定の照明条件(例えば、CIE標準光源D65)の下、分光測色計や色差計等の専用の測色機器により測定された値である。このような専用の測色機器によって測色を行った場合、色の値は、通常、CIEL***(以下、単にL***と記す)色空間、L**h色空間、ハンターLab色空間、Yxy色空間、XYZ色空間、又は、マンセルhCV色空間等の表色系における値として出力される。
【0051】
図1を参照しながら、第1~第4の実施形態に係る測色方法の概要について説明する。まず、ステップS10において、測定対象の色が属する色域、又は、測定対象の色が属する色域に応じて設定される2つ以上の色見本を選択する。色域の選択方法は特に限定されず、ユーザが目視で選択しても良いし、後述するように、測色システム10が自動で選択しても良い。或いは、測定対象ごとに予め特定の色域を設定しておいても良い。例えば、生化学実験や生体の検査において用いられる試験紙や試薬を含む溶液等を測定対象とする場合、実験又は検査内容によって色域がある程度限定されるからである。この場合、測定対象の色域に応じて予め色見本を設定しておいても良い。また、2つ以上の色見本としては、色見本基準値が互いに異なる色見本が選択される。色見本は、選択された色域に応じて選択されても良いし、色域がある程度決まっている測定対象の場合には、測定対象に応じて直接選択されても良い。
【0052】
続くステップS11において、2つ以上の色見本及び測定対象が写った画像における各色見本及び測定対象の色を表す値を取得する。以下、画像における色見本の色を表す値のことを色見本実測値ともいい、画像における測定対象の色を表す値を測定対象実測値ともいう。
続くステップS12において、上記2つ以上の色見本の色見本基準値を取得する。
【0053】
続くステップS13において、色見本実測値と色見本基準値との相関関係であって、ステップS10において選択された色域に応じた相関関係を取得する。なお、後で詳述するが、取得されている色見本実測値の色空間と色見本基準値の色空間とが互いに異なる場合には、少なくともいずれか一方の値の色空間を予め変換し、共通の色空間における色見本実測値及び色見本基準値にしておく。
【0054】
ここで、互いに異なる色空間の間における値の変換式について説明する。L***色空間とRGB色空間との間では、三刺激値(X,Y,Z)を介して、互いに値を変換することができる。RGB値からL***値への変換には、例えば式(1)~(3)が用いられる。
【0055】
まず、次式(1)によりRGB値の線形化を行う。
【数1】
【0056】
次に、次式(2)によりRGB値を三刺激値(XYZ値)に変換する。
【数2】
【0057】
さらに、次式(3)によりXYZ値をL***値に変換する。ここで、CIE標準光源D65の場合
n=95.039
n=100
n=108.88
である。
【数3】
【数4】
【0058】
また、L***値からRGB値への変換には、例えば式(4)~(6)が用いられる。式(3)において、
【数5】
とすると、
【数6】
【0059】
【数7】
【0060】
このXYZ値を、次式(5)により、線形化されたRGB値に変換する。
【数8】
【0061】
さらに、次式(6)により、RGB値の非線形化を行う。
【数9】
【0062】
また、RGB色空間とHLS(HSI)色空間との間において、RGB値からHLS値への変換には、例えば下記公知の式(7)~(10)が用いられる。以下においては、0~255階調のRGB値(各成分をR’,G’,B’とする)のレンジを0~1.0に変換して使用することとし、変換後のRGB値の各成分をR,G,Bとする。即ち、
R(レンジ:0~1.0)=R’(レンジ:0~255)/255
G(レンジ:0~1.0)=G’(レンジ:0~255)/255
B(レンジ:0~1.0)=B’(レンジ:0~255)/255
である。
【数10】
【0063】
【数11】
【0064】
【数12】
【数13】
ここで、H<0の場合には、Hに2πを加える。また、Lmax=Lminの場合、S=0、H=不定となる。
【0065】
さらに、式(7)により得られたL成分、及び、式(8)により得られたS成分のレンジは0~1.0となるから、次式により、レンジを0~100%に変換することができる。
L’(レンジ:0~100)=L(レンジ:0~1.0)・100
S’(レンジ:0~100)=S(レンジ:0~1.0)・100
【0066】
また、式(10)により得られたH成分のレンジは0~2πとなるから、次式によりレンジを0~360°に変換することができる。
H’(レンジ:0~360)=H(レンジ:0~2π)/π・180
【0067】
また、HLS値からRGB値への変換には、例えば下記公知の式(11)~(14)が用いられる。
【数14】
式(11)において、Xは以下のようにして求められる。
【0068】
【数15】

【数16】
【0069】
【数17】
ただし、0≦R,G,B,S,L≦1、0≦H<2πとし、S=0のときはR=G=B=Lとする。
【0070】
このようにして得られるRGB値の各成分のレンジは0~1.0となるから、次式によりレンジを0~255階調に変換することができる。
R’(レンジ:0~255)=R(レンジ:0~1.0)・255
G’(レンジ:0~255)=G(レンジ:0~1.0)・255
B’(レンジ:0~255)=B(レンジ:0~1.0)・255
である。
【0071】
続くステップS14において、ステップS13において取得された相関関係を用いて、測定対象実測値を補正する。これにより、測定対象の色を表す推定値(以下、測定対象推定値ともいう)が得られる。
さらに、ステップS15において、測定対象推定値を記憶する。これにより、測色方法は終了する。
【0072】
以下、本発明の各実施形態に係る測色方法、測色システム、測色プログラム、及び測色用色票について、詳細に説明する。
【0073】
(第1の実施形態)
図2は、本発明の第1の実施形態に係る測色システムの概略構成を示すブロック図である。図2に示す測色システム10は、例えば、スマートフォン、タブレット端末、携帯情報端末(PDA)、パーソナルコンピュータ(PC)、ノートPCのように、撮像機能及び画像処理等の演算機能を有する端末装置によって構成される。測色システム10を実現する具体的な機器は特に限定されないが、例えば、携帯性などの利便性を考慮する場合には、スマートフォンやタブレット端末のような携帯可能な端末装置を用いることが好ましい。
【0074】
測色システム10は、通信インタフェース11と、撮像部12と、操作入力部13と、表示部14と、記憶部15と、演算部16とを有する。
【0075】
通信インタフェース11は、当該測色システム10を通信ネットワークに接続し、通信ネットワークに接続された他の機器との間で通信を行うインタフェースである。通信インタフェース11は、例えばソフトモデム、ケーブルモデム、無線モデム、ADSLモデム等を用いて構成される。ここで、通信ネットワークとしては、例えばインターネット回線や電話回線、LAN、専用線、移動体通信網、WiFi(Wireless Fidelity)、ブルートゥース(登録商標)等の通信回線、又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。通信ネットワークは、有線、無線、又はこれらの組み合わせのいずれであっても良い。もっとも、本実施形態においては、必ずしも通信インタフェース11を設ける必要はない。
【0076】
撮像部12は、例えば、スマートフォンに内蔵されたカメラである。撮像部12は、CCDイメージセンサ又はCMOSイメージセンサ等の撮像素子を含み、カラー画像の画像データを生成して演算部16に入力する。
【0077】
操作入力部13は、操作ボタンや、表示部14上に設けられたタッチパネル等の入力デバイスであり、外部からなされる操作に応じた信号を演算部16に入力する。
【0078】
表示部14は、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイであり、演算部16の制御の下で、撮像部12から入力された画像データに基づく画像や、ユーザが入力操作を行うためのアイコンや、テキストメッセージ等を表示する。
【0079】
記憶部15は、例えばROMやRAMといった半導体メモリやハードディスク等のコンピュータ読取可能な記憶媒体であり、プログラム記憶部151と、色見本基準値記憶部152と、画像データ記憶部153と、実測値記憶部154と、相関関数記憶部155と、推定値記憶部156とを含む。
【0080】
プログラム記憶部151は、オペレーティングシステムプログラム及びドライバプログラムに加えて、各種機能を実行するアプリケーションプログラムや、これらのプログラムの実行中に使用される各種パラメータ等を格納する。具体的には、プログラム記憶部151は、撮像部12から入力された画像データと、色見本基準値記憶部152に記憶された色見本基準値とに基づいて、測定対象1の色を推定するための測色プログラムを記憶している。
【0081】
色見本基準値記憶部152は、複数の色見本の色見本基準値を記憶する。色見本基準値は、上述したように、分光測色計や色差計等の専用の測色機器によって予め測定された値である。或いは、色見本の製造者による公称値を色見本基準値として記憶しても良い。色見本基準値記憶部152に記憶される色見本基準値の色空間は特に限定されないが、本実施形態においては、少なくともL***色空間における値を記憶しておく。従って、専用の測色機器による測定値又は公称値が、L***色空間以外の色空間における値で表されている場合には、例えば式(1)~(3)、(11)~(14)等を用いてL***色空間における値に変換しておく。色見本基準値記憶部152は、L***色空間における色見本基準値のみを記憶していても良いし、L***色空間以外の色空間(例えば、RGB色空間、HLS色空間)に変換された色見本基準値も併せて記憶していても良い。以下、L***色空間における色見本基準値のことを色見本基準L***値といい、RGB色空間における色見本基準値のことを色見本基準RGB値といい、HLS色空間における色見本基準値のことを色見本基準HLS値という。
【0082】
画像データ記憶部153は、撮像部12から入力され、後述する画像データ取得部161により画像処理が施された画像データを記憶する。画像データ記憶部153に記憶される画像データのフォーマットは特に限定されず、RGB、YUV、YCbCr、YMCK、RAW、Jpeg、TIFF、Exif、その他、BT.601方式に準拠して出力されるフォーマットで記憶される。なお、本明細書において単にRGBという場合、リニアRGB、sRGB、又は、adobeRGBを含むものとする。
【0083】
実測値記憶部154は、画像データ記憶部153に記憶された画像データに基づいて、複数の色見本及び測定対象が写った画像における各色見本の色見本実測値及び測定対象実測値を記憶する。色見本実測値及び測定対象実測値の色空間は特に限定されないが、本実施形態においては、RGB色空間における色見本実測値及び測定対象実測値を実測値記憶部154に記憶させるものとする。そのため、画像データ記憶部153にRGB以外のフォーマットで画像データが記憶されている場合、該画像データに基づいて取得される色見本実測値及び測定対象実測値を、例えば式(4)~(6)、(11)~(14)等を用いてRGB色空間における値に変換した上で、実測値記憶部154に記憶させる。以下、RGB色空間における色見本実測値及び測定対象実測値のことを、それぞれ、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値という。
【0084】
相関関数記憶部155は、画像に写った複数の色見本の色見本基準値と色見本実測値との間の相関関係を取得する際に実行される回帰分析において使用される相関関数を記憶する。相関関数の種類は特に限定されず、1次関数であっても良いし、2次関数であっても良いし、Fuzzy回帰分析において使用されるFuzzy回帰式であっても良い。
推定値記憶部156は、演算部16により算出された測定対象推定値を記憶する。
【0085】
演算部16は、例えばCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)やFPGA(field-programmable gate array)を用いて構成され、プログラム記憶部151に記憶された各種プログラムを読み込むことにより、測色システム10の各部を統括的に制御すると共に、測定対象の色を測定するための各種演算処理を実行する。詳細には、演算部16により実現される機能部には、画像データ取得部161と、表示制御部162と、色域選択部163と、実測値取得部164と、基準値取得部165と、相関関係取得部166と、補正部167と、が含まれる。これらの各部は、一又は複数のプロセッサ、コンピュータープログラム、或いはその組み合わせによって構成されても良い。
【0086】
画像データ取得部161は、撮像部12により生成された画像データ(RAWデータ)を取得すると共に、この画像データに対してデモザイキング、ホワイトバランス処理、ガンマ補正等の画像処理を施すことにより、表示用の画像データ(RGBデータ等)を生成する。
【0087】
表示制御部162は、表示部14における表示動作を制御する。例えば、表示制御部162は、画像データ取得部161により画像処理が施された画像データに基づく画像や、測定対象の色の測定結果等を所定の態様で表示部14に表示させる。
【0088】
色域選択部163は、測定対象の色が属する色域を選択する。色域の選択処理の詳細については後述する。
【0089】
実測値取得部164は、複数の色見本及び測定対象が写った画像から、各色見本が写った画像領域及び測定対象が写った画像領域を認識し、各画像領域の画素値に基づいて、複数の色見本実測値及び測定対象実測値を取得する。また、実測値取得部164は、取得した色見本実測値及び測定対象実測値に対し、必要に応じて色空間の変換を行う。
【0090】
基準値取得部165は、撮像部12により撮像された色見本の色見本基準値を色見本基準値記憶部152から取得し、必要に応じて色空間の変換を行う。
【0091】
相関関係取得部166は、実測値取得部164により取得された色見本実測値と、基準値取得部165により取得された色見本基準値との相関関係を取得する。
【0092】
補正部167は、相関関係取得部166により取得された相関関係を用いて、実測値取得部164により取得された測定対象実測値を補正することにより、測定対象推定値を算出する。
【0093】
なお、図2に例示する測色システム10は、1つの機器によって構成されても良いが、通信ネットワークを介して接続された複数の機器によって構成されても良い。一例として、撮像部12としての一般的なディジタルカメラと、記憶部15及び演算部16を有するパーソナルコンピュータ(PC)又はノートPCとによって測色システム10を構成しても良い。この場合、ディジタルカメラにおいて生成された画像データを、通信ケーブル又は無線通信を介してPC又はノートPCに転送し、PC又はノートPCにおいて画像データを処理することにより測定対象の色を測定する。
【0094】
別の例として、PC、ノートPC、スマートフォン、タブレット端末等の通信機能を有する端末装置に演算部16を設け、通信ネットワークに接続されたサーバに色見本基準値記憶部152を設けても良い。この場合、演算部16は、通信ネットワークを介してサーバから色見本基準値を取得し、測定対象の色を測定する演算を行うこととしても良い。
【0095】
さらに別の例として、通信ネットワークに接続されたサーバに演算部16及び色見本基準値記憶部152を設けても良い。この場合、PC、ノートPC、スマートフォン、タブレット端末等の通信機能及び表示機能を有する端末装置から、色見本及び測定対象が写った画像の画像データをサーバに送信し、該サーバにおいて測定対象の色を測定する演算を行い、通信ネットワークを介してサーバから端末装置に測定結果を送信し、端末装置に測定結果を表示させても良い。
【0096】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る測色方法を示すフローチャートである。図4は、複数の色見本及び測定対象を撮像している様子を例示する模式図である。図5は、複数の色見本及び測定対象が写った画像を例示する模式図である。
【0097】
本実施形態に係る測色方法においては、まず、ステップS20において、撮像部12は、色見本及び測定対象を撮像する。詳細には、撮像部12が、ユーザ操作に応じて操作入力部13から入力される指示に従い、複数の色見本21a、21b、…が配置された測色用色票20及び測定対象1を撮像し、画像データを生成して演算部16に入力する。図5に示す画像2は、測色用色票20の画像領域2aと、測定対象1の画像領域2cとを含む。このうち、画像領域2aは、色見本21a、21b、…の各々に対応する画像領域2bを含んでいる。
【0098】
続くステップS21において、演算部16は、画像内における色見本及び測定対象の領域を認識する。詳細には、実測値取得部164が、ステップS20において入力された画像データに基づいて、画像2に写った各色見本21a、21b、…の画像領域2b及び測定対象1の画像領域2cを認識する。
【0099】
色見本の画像領域2bは、一例として、測色用色票20及び色見本21a、21b、…の形状を予め測色システム10に入力しておくことにより、パターンマッチングで認識することができる。別の例として、画像2内の所定の領域が、各色見本21a、21b、…の画像領域2bとして認識されるようにしても良い。この場合、ユーザは、表示部14の画面14aを見て、撮像部12の視野内の所定の領域に色見本21a、21b、…が配置されるように調整しながら撮像操作を行うことが好ましい。さらに別の例として、ユーザが画面14aに対して所定の操作(例えばタップ操作)を行うことにより、各色見本21a、21b、…の画像領域2bが選択されるようにしても良い。この場合、実測値取得部164は、操作入力部13から入力される信号に従い、ユーザにより選択された領域を各色見本21a、21b、…の画像領域2bとして認識する。
【0100】
また、測定対象1の画像領域2cについては、一例として、画像2内の所定の領域が画像領域2cとして認識されるようにしても良い。この場合、ユーザは、表示部14の画面14aを見て、撮像部12の視野内の所定の領域に測定対象1が配置されるように調整しながら撮像操作を行うことが好ましい。具体例として、図4に示すように、画面14a内の所定の位置にマーク14bを表示することにより、測定対象1の位置をガイドするようにしても良い。別の例として、ユーザが画面14aに対して所定の操作(例えばタップ操作)を行うことにより、測定対象1の画像領域2cが選択されるようにしても良い。この場合、実測値取得部164は、操作入力部13から入力される信号に従い、ユーザにより選択された領域を測定対象1の画像領域2cとして認識する。
【0101】
続くステップS22において、演算部16は、ステップS21において画像から認識された領域の画素値から、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を取得する。詳細には、実測値取得部164が、色見本21a、21b、…の画像領域2bにおける画素値(R成分、G成分、B成分)を色見本実測RGB値として取得し、測定対象1の画像領域2cにおける画素値(同上)を測定領域実測RGB値として取得する。ここで、色見本実測RGB値として取得される画像領域2bの画素値は、画像領域2b全体の画素の画素値の平均値や中央値等の統計値であっても良いし、画像領域2b内の代表点(例えば、重心点)における画素の画素値であっても良いし、画像領域2b内の所定の複数点(例えば、重心から所定範囲内の複数点)における画素の画素値の平均値や中央値等の統計値であっても良い。測定対象RGB値として取得される画像領域2cの画素値についても同様である。
【0102】
続くステップS23において、演算部16は、測定対象の色が属する色域を選択する。詳細には、色域選択部163が、ステップS22において取得された測定対象実測RGB値に基づいて、大まかに色域を選択する。具体例として、R成分が他の成分と比較して高い場合には赤域、G成分が他の成分と比較して高い場合には緑域、B成分が他の成分と比較して高い場合には青域、RGBの各成分が同程度であれば無彩色(白、黒、グレー)などと、測定対象の色が属する色域を分類することができる。また、輝度や彩度によって、測定対象の色が属する色域を分類しても良い。
【0103】
ここで、本明細書において、高輝度色域とは、L***色空間におけるL*成分(レンジ:0~100)が、100近傍(一例として95以上)の色域のことである。また、低輝度色域とは、L***色空間におけるL*成分が、0近傍(一例として5以下)の色域のことである。
【0104】
また、本明細書においては、彩度を次のように分類する。まず、明度L*及び色度a*,b*によって表される色の彩度C*は、次式によって表される。
*=√(a*2+b*2
ここで、明度L*のときのa**平面における色度の最大値a* max,b* maxは、明度L*に応じて決まる。例えば、明度L*が50のとき、色度の最大値a* max,b* maxは各々60であり、明度L*が0又は100のとき、色度の最大値a* max,b* maxは各々0である。そこで、明度L*のときの色度の最大値a* max,b* maxによって決まる彩度の最大値C* max(=√(a* max 2+b* max 2))を3等分し、以下のように彩度C*を分類する。
低彩度:0≦C*≦C* max/3
中彩度:C* max/3<C*≦2・C* max/3
高彩度:2・C* max/3<C*≦C* max
【0105】
ただし、ステップS23において測定対象の色が属する色域を選択する際に輝度又は彩度を用いる場合、必ずしも厳密に上記定義に従って輝度又は彩度を分類する必要はない。例えば、上記定義に基づきL***色空間において分類される高輝度、低輝度、低彩度、中彩度、高彩度の各領域を、RGB色空間における領域に予め変換しておき、変換された領域の値に基づいて、ステップS22において取得された測定対象実測RGB値がいずれの領域に属するかを決定しても良い。あくまで、ステップS23においては、画像から認識される測定対象の色が属する色域を大まかに選択すれば良い。
【0106】
続くステップS24において、演算部16は、測定対象の色が属する色域に応じて、演算を行う色空間を決定する。本実施形態においては、RGB色空間、L***色空間、及び、HLS色空間のうちから、ステップS23において選択された色域に応じた色空間が決定されるものとする。一例として、測定対象の色域が、無彩色若しくはその近接色域、輝度が高い高輝度色域、輝度が低い低輝度色域、又は、低彩度若しくは中彩度の赤域である場合には、演算を行う色空間としてRGB色空間が決定され、測定対象の色域が、無彩色若しくはその近接色域、輝度が高い高輝度色域、輝度が低い低輝度色域、及び、低彩度の赤域以外の色域である場合には、演算を行う色空間としてL***色空間又はHLS色空間に決定されることとしても良い。
【0107】
図6は、RGB色空間において演算を行う処理を示すフローチャートである。RGB色空間において演算を行うと決定された場合(ステップS25:「RGB」、ステップS26)、図6のステップS211において、基準値取得部165は、ステップS20において撮像された色見本の色見本基準RGB値を取得する。詳細には、色見本基準値記憶部152が色見本基準L***値しか記憶していない場合、基準値取得部165は、色見本基準値記憶部152から読み出した色見本基準L***値を、例えば式(4)~(6)を用いて色見本基準RGB値に変換する。また、色見本基準値記憶部152が色見本基準RGB値も記憶している場合には、基準値取得部165は、色見本基準値記憶部152から色見本基準値RGB値をそのまま読み出す。
【0108】
続くステップS212において、相関関係取得部166は、色見本基準RGB値と色見本実測RGB値との相関関係を取得する。詳細には、相関関係取得部166は、各色見本21a、21b、…の色見本基準RGB値及び色見本実測RGB値を変数として、成分(R成分、G成分、B成分)ごとに回帰分析を行うことにより、回帰式の係数を成分ごとに求める。
【0109】
続くステップS213において、補正部167は、ステップS212において取得された相関関係を用いて測定対象実測RGB値を補正することにより、測定対象推定RGB値を取得する。ここで、測定対象推定RGB値とは、RGB色空間における測定対象推定値のことである。詳細には、補正部167は、ステップS212において求められた係数を用いて相関関数を作成し、この相関関数に測定対象実測RGB値を代入することにより、測定対象推定RGB値を算出する。
【0110】
続くステップS214において、補正部167は、例えば式(1)~(3)を用いて、測定対象推定RGB値を測定対象推定L***値に変換する。ここで、測定対象推定L***値とは、L***色空間における測定対象推定値のことである。
【0111】
また、ステップS215において、補正部167は、例えば式(7)~(10)を用いて、測定対象推定RGB値を測定対象推定HLS値に変換する。ここで、測定対象推定HLS値とは、HLS色空間における測定対象推定値のことである。
その後、処理はメインルーチンに戻る。なお、ステップS214及びS215はオプションであり、必要に応じて適宜実行すれば良い。
【0112】
図7は、L***色空間において演算を行う処理を示すフローチャートである。L***色空間において演算を行うと決定された場合(ステップS25:「L***」、ステップS27)、図7のステップS221において、実測値取得部164は、例えば式(1)~(3)を用いて、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を、それぞれ、色見本実測L***値及び測定対象実測L***値に変換する。
【0113】
続くステップS222において、基準値取得部165は、ステップS20において撮像された色見本の色見本基準L***値を取得する。即ち、基準値取得部165は、色見本基準値記憶部152から色見本基準L***値をそのまま読み出す。
【0114】
続くステップS223において、相関関係取得部166は、色見本基準L***値と色見本実測L***値との相関関係を取得する。詳細には、相関関係取得部166は、各色見本21a、21b、…の色見本基準L***値及び色見本実測L***値を変数として、成分(L*成分、a*成分、b*成分)ごとに回帰分析を行うことにより、回帰式の係数を成分ごとに求める。
【0115】
続くステップS224において、補正部167は、ステップS223において取得された相関関係を用いて測定対象実測L***値を補正することにより、測定対象推定L***値を取得する。詳細には、補正部167は、ステップS223において求められた係数を用いて相関関数を作成し、この相関関数に測定対象実測L***値を代入することにより、測定対象推定L***値を算出する。
【0116】
続くステップS225において、補正部167は、例えば式(4)~(6)を用いて、測定対象推定L***値を測定対象推定RGB値に変換する。
【0117】
続くステップS226において、補正部167はさらに、例えば式(7)~(10)を用いて、測定対象推定RGB値を測定対象推定HLS値に変換する。
その後、処理はメインルーチンに戻る。なお、ステップS225及びS226はオプションであり、必要に応じて適宜実行すれば良い。
【0118】
図8は、HLS色空間において演算を行う処理を示すフローチャートである。HLS色空間において演算を行うと決定された場合(ステップS25:「HLS」、ステップS28)、図7のステップS231において、実測値取得部164は、例えば式(7)~(10)を用いて、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を、それぞれ、色見本実測HLS値及び測定対象実測HLS値に変換する。
【0119】
続くステップS232において、基準値取得部165は、ステップS20において撮像された色見本の色見本基準HLS値を取得する。詳細には、色見本基準値記憶部152が色見本基準L***値しか記憶していない場合、基準値取得部165は、色見本基準値記憶部152から読み出した色見本基準L***値を、例えば式(4)~(6)を用いて色見本基準RGB値に変換し、さらに、例えば式(7)~(10)を用いて色見本基準RGB値を色見本基準HLS値に変換する。また、色見本基準値記憶部152が色見本基準HLS値も記憶している場合には、基準値取得部165は、色見本基準値記憶部152から色見本基準値HLS値をそのまま読み出す。
【0120】
続くステップS233において、相関関係取得部166は、色見本基準HLS値と色見本実測HLS値との相関関係を取得する。詳細には、相関関係取得部166は、各色見本21a、21b、…の色見本基準HLS値及び色見本実測HLS値を変数として、成分(H成分、L成分、S成分)ごとに回帰分析を行うことにより、回帰式の係数を成分ごとに求める。
【0121】
続くステップS234において、補正部167は、ステップS233において取得された相関関係を用いて測定対象実測HLS値を補正することにより、測定対象推定HLS値を取得する。詳細には、補正部167は、ステップS232において求められた係数を用いて相関関数を作成し、この相関関数に測定対象実測HLS値を代入することにより、測定対象推定HLS値を算出する。
【0122】
続くステップS235において、補正部167は、例えば式(11)~(14)を用いて、測定対象推定HLS値を測定対象推定RGB値に変換する。
【0123】
続くステップS236において、補正部167はさらに、例えば式(1)~(3)を用いて、測定対象推定RGB値を測定対象推定L***値に変換する。
その後、処理はメインルーチンに戻る。なお、ステップS235及びS236はオプションであり、測定対象推定値の利用目的に応じて適宜実行すれば良い。
【0124】
再び図3を参照すると、ステップS29において、演算部16は、ステップS26、S27、又は、S28において算出された測定対象推定値を推定値記憶部156に記憶させる。
その後、本実施形態に係る測色方法は終了する。
【0125】
次に、本実施形態において、色見本実測値と色見本基準値との相関関係を取得し、測定対象実測値を補正する演算を行う色空間を、測定対象の色が属する色域に応じて決定する理由について説明する。
【0126】
本出願の発明者らは、カメラを用いた測色方法における測色値の推定精度を検証するため、様々な撮像環境の下で色見本を撮像することにより色見本実測値を取得し、同じ色見本の色見本基準値との相関を複数の色空間において取得する実験1を行った。
【0127】
(実験1)
実験1において使用された機器は以下のとおりである。
(1)色見本:東洋インキ株に式会社製の色見本帳「カラーファインダー」より抜粋された37色のカラーパッチ及び5色のグレーパッチ(図9参照)。
(2)測色計:ビデオジェット・エックスライト株式会社製のポータブルイメージング分光色差計「x-Rite RM200QC」。
(3)撮像機:Sumsung社製のスマートフォン「Galaxy S8」
【0128】
図9は、実験1において使用された色見本の測色値を示す表である。図9に示す「No.」は、色見本を識別するために、本明細書において便宜的に付与した番号である。図9に示す「公称値」欄の各値は、東洋インキ株式会社のホームページ<URL:https://www.toyoink1050plus.com/color/color-finder/>において公開されているsRGB値である。図9に示す「測色計による測定値」欄の各値は、各色見本を上記測色計により測定することにより得られたL***値である。図9に示す「計算値」欄の各値は、上記測色計による測定値を、式(4)~(6)を用いて変換したRGB値である。
【0129】
実験方法は以下のとおりである。即ち、後述する条件1~10の下で、色見本(カラーパッチ又はグレーパッチ)を撮像することにより画像を生成し、画像内の色見本の画像領域の画素値(RGB値)を取得した。また、この画素値をL***値に変換した。そして、画像に基づいて取得された色見本の色の値を実測値とし、測色計により測定された色見本の色の値(図9参照)を基準値として、実測値と基準値との間の直線近似による相関関係を各色空間の成分ごとに取得し、相関係数を算出した。
【0130】
図10は、実験1における撮像条件及び結果を示す表である。図11A図16Cは、実験1における色見本の実測値と基準値との相関を示すグラフである。
【0131】
図10に示すように、撮像条件として、環境(屋内/屋外、及び、日向/日陰/木陰/蛍光灯/窓際等の照明状態)、天気、照度(lx)、及び、カメラの向きを設定した。カメラの向きに関し、条件1においては、太陽を背面にカメラを構え、直射日光が色見本の正面を照射している状態で撮像を行った。条件2においては、太陽に対面してカメラを構え、直射日光が色見本の背後を照射している状態で撮像を行った。条件3においては、建物を背面にカメラを構え、建物の影に色見本が入っている状態で撮像を行った。条件4においては、建物に対面してカメラを構え、建物とカメラとの間に色見本を配置した状態で撮像を行った。条件5においては、木に対面してカメラを構え、建物とカメラとの間に色見本を配置した状態で撮像を行った。条件6においては、屋内に机を配置し、机と平行にカメラを配置し、色見本を立てた状態で撮像を行った。条件7においては、屋内に机を配置し、机に対面するようにカメラを構え、机上に色見本を寝かせた状態で撮像を行った。条件8、10においては、窓と平行にカメラを構え、屋外の光が窓を介して色見本の側方差し込む状態で撮像を行った。条件9においては、窓に対面してカメラを構え、屋外の光が窓を介して色見本の背後を照射する状態で撮像を行った。
【0132】
図11A図12Cは、条件1においてカラーパッチを撮像した場合の実測値と基準値との相関を示すグラフである。このうち、図11A図11Cにおける実測値は、画像から取得された色見本の画素値(RGB値)をL***値に変換した値であり、基準値は、図9に示す測色計による測定値である。また、図12A図12Cにおける実測値は、画像から取得された色見本の画素値(RGB値)であり、基準値は、図9に示す計算値である。
【0133】
図13A図14Cは、条件2においてカラーパッチを撮像した場合の実測値と基準値との相関を示すグラフである。このうち、図13A図13Cにおける実測値は、画像から取得された色見本の画素値(RGB値)をL***値に変換した値であり、基準値は、図9に示す測色計による測定値である。また、図14A図14Cにおける実測値は、画像から取得された画素値(RGB値)であり、基準値は、図9に示す計算値である。
【0134】
図15A図16Cは、条件5においてグレーパッチを撮像した場合の実測値と基準値との相関を示すグラフである。このうち、図15A図15Cにおける実測値は、画像から取得された色見本の画素値(RGB値)をL***値に変換した値であり、基準値は、図9に示す測色計による測定値である。また、図16A図16Cにおける実測値は、画像から取得された色見本の画素値(RGB値)であり、基準値は、図9に示す計算値である。
【0135】
図10に示すように、同じ条件の下で色見本を撮像したとしても、演算を行う色空間によって相関係数が変動することが判明した。これより、演算を行う色空間が異なれば、相関関数を用いて測定対象実測値を補正する際の補正精度が変動すると考えられる。
【0136】
図10及び図11A図12Cに示すように、条件1の下では、L***色空間及びRGB色空間のいずれにおいても、実測値と基準値との間には高い相関がある。他方、図10及び図13A図14Cに示すように、条件2の下では、L***色空間のうちのL*成分と、RGB色空間の各色成分とにおいて、実測値と基準値との間の相関が低下している。これに対し、a*成分及びb*成分については、条件2においても条件1と同様に、高い相関が維持されている。これより、色味を表すa*成分及びb*成分は、環境の変化に強いと言える。
【0137】
図15A図16Cに示すように、グレーパッチについては、L***色空間とRGB色空間とで、実測値と基準値との相関状態が大きく異なっている。即ち、図15Aに示すように、L*成分については実測値と基準値との間に高い相関が見られるものの、a*成分及びb*成分についてはほとんど相関が見られない。これに対し、図16A図16Cに示すように、RGB色空間においては、各色成分において、実測値と基準値との間に高い相関が見られる。
【0138】
このような実験結果より、本出願の発明者らは、色見本の実測値と基準値との相関関係を取得するに当たって、相関係数が撮像条件の影響を受けにくいロバストな色成分とそうでない色成分とが存在するという知見を得た。そこで、本実施形態においては、色見本の実測値と基準値との相関関係を取得し、測定対象実測値を補正する演算を行う色空間を、測定対象の色が属する色域に応じて決定することとした。具体例として、上述したように、測定対象が無彩色域若しくはその近接色域、輝度が高い高輝度色域、輝度が低い低輝度色域、又は、低彩度若しくは中彩度の赤域である場合にはRGB色空間を選択し、測定対象が無彩色若しくはその近接色域、輝度が高い高輝度色域、輝度が低い低輝度色域、及び、低彩度の赤域以外の色域である場合にはL***色空間を選択することが挙げられる。
【0139】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態によれば、測定対象の色が属する色域に応じた色空間において色見本実測値と色見本基準値との相関関係を取得し、この相関関係を用いて測定対象実測値を補正するので、測定対象の色を、色域によらず精度良く推定できると共に、撮像環境などの変化によっても推定精度が変動しにくい、ロバストな測色を実現することが可能となる。
【0140】
また、本発明の第1の実施形態によれば、スマートフォンやタブレット端末等の汎用の端末装置を測色システム10として使用することにより、測定対象の色を精度良く、安価且つ手軽に測定することが可能となる。
【0141】
また、本発明の第1の実施形態によれば、スマートフォンやタブレット端末等の携帯可能な端末装置を測色システム10として使用することにより、このような端末装置を使用可能な環境であればどのような場所であっても、測定対象の色を測定することができる。従って、建築物の壁の色、自動車や船舶等の乗り物の色、農作物(葉や果実)の色等を、屋外の現場において手軽に且つ精度良く測定することが可能となる。また、血液検査、水質検査、土壌検査等が行われる現場において、試験紙や試薬を含む溶液等の色を精度良く測定することができ、分析結果をその場で得ることも可能となる。
【0142】
(変形例1-1)
上記第1の実施形態においては、測定対象の色が属する色域を、測定対象実測RGB値に基づいて測色システム10が判断することとしたが(ステップS23参照)、ユーザが判断することとしても良い。この場合、ユーザは、測定対象の色を目視で確認し、この色が属する色域を、操作入力部13を用いて測色システム10に入力する。これに応じて、色域選択部163が、操作入力部13から入力された信号に従って測定対象1の色域を選択する。
【0143】
(変形例1-2)
生化学実験や生体の検査等で用いられる試験紙や試薬を含む溶液等を測定対象とする場合など、測定対象によって色域がある程度定まる場合には、測定対象ごとに予め色域を設定しておいても良い。例えば、環境自然水、浄水、汚水、産業用加工水、薬品(薬液)、食品水、化学薬品水等の液体に含まれる特定物質の濃度、含有量、若しくはpH等の特性を測定するための試験紙又は試薬を含む溶液、血液、尿、骨髄液等の生体液に含まれる特定物質の濃度、含有量、若しくはpH等の特性を測定するための試験紙、固体からの抽出液(食品抽出液、土壌抽出液)に含まれる特定物質の濃度、含有量、若しくはpH等の特性を測定するための試験紙又は試薬を含む溶液、気体に含まれる特定物質(化学ガス等)の濃度、含有量、若しくはpH等の特性を測定するための試験紙などを測定対象とする場合、赤域、青域、緑域といった特定の色域を予め設定しておくことができる。
【0144】
この場合、図3のステップS23においては、測色による分析対象や測定対象(分析に使用される試験紙又は試薬等)を、操作入力部13を用いて測色システム10に入力することにより、色域が自動設定されるようにしても良い。或いは、分析対象や測定対象を入力することにより、色域に応じた色空間が自動設定されるようにしても良い。
【0145】
また、測色による分析対象や、分析に使用される試験紙又は試薬等の測定対象ごとに、予め色域が設定されたプログラムを用意しておいても良い。この場合、色域に応じた色空間も予め定まることになるから、分析対象や測定対象に応じて、相関関係を取得する色空間を予め設定してプログラミングしておいても良い。従って、この場合には、図3のステップS23~S25が省略され、ステップS26~S28のいずれかが分析対象や測定対象に応じて予め決定される。つまり、この場合、分析対象や測定対象に基づき、例えばL***色空間において演算を行うことが設定されているとすると、色見本及び測定対象を撮像することにより、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を取得し(ステップS20~S22)、その後、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を色見本実測L***値及び測定対象実測L***値にそれぞれ変換し(図7のステップS221)、色見本実測L***値と色見本L***基準値との相関関係を取得し(ステップS222、S223)、取得した相関関係を用いて測定対象推定L***値を取得し(ステップS224)、必要に応じて測定対象推定L***値をRGB値又はHLS値に変換した上で測定対象推定値を記憶する(ステップS29)という一連の処理が実行される。
【0146】
(第2の実施形態)
図17は、本発明の第2の実施形態に係る測色方法を示すフローチャートである。なお、本実施形態に係る測色方法を実行する測色システムの概略構成は、上記第1の実施形態と同様であり(図2参照)、演算部16に含まれる各部が実行する処理の詳細が、上記第1の実施形態と異なる。
【0147】
第2の実施形態に係る測色方法のうち、図17に示すステップS30~S32については、上記第1の実施形態と同様である(図3のステップS20~S22参照)。
【0148】
ステップS32に続くステップS33において、実測値取得部164は、ステップS32において取得された色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を、それぞれ、色見本実測L***値及び測定対象実測L***値に変換する。
【0149】
続くステップS34において、基準値取得部165は、ステップS30において撮像された色見本の色見本基準L***値を、色見本基準値記憶部152から取得する。
【0150】
続くステップS35において、色域選択部163は、測定対象の色が属する色域を選択する。色域の選択方法は、図3のステップS23と同様である。
【0151】
続くステップS36において、相関関係取得部166は、ステップS35において選択された色域に応じて、回帰分析の手法を選択する。回帰分析の手法の選択方法の一例として、ステップS35において選択された色域が、推定精度が低下し易い色域であるか否かを判定し、この判定結果に応じて回帰分析の手法を選択する方法が挙げられる。例えば、R,G,Bの各成分のうち、R成分が相対的に高い色域(赤域)を、推定精度が低下し易い色域として判定することができる。また、選択される手法としては、1次関数を用いた回帰分析、2次関数を用いた回帰分析、Fuzzy回帰分析等が挙げられる。
【0152】
具体例として、推定精度が比較的安定しており、比較的高い推定精度が得られる色域が選択されている場合、1次関数を用いた回帰分析が選択される。また、推定精度が比較的低下し易い色域が選択されている場合、2次関数を用いた回帰分析が選択される。推定精度がさらに低下し易い色域が選択されている場合や、画像における画素値のばらつきが大きい場合には、Fuzzy回帰分析が選択される。Fuzzy回帰分析については後述する。
【0153】
ステップS37において、相関関係取得部166は、ステップS35において選択された手法を用いて回帰分析を行うことにより、色見本基準L***値及び色見本実測L***値との相関関係を取得する。
【0154】
続くステップS38において、補正部167は、ステップS37において取得された相関関係を用いて測定対象実測L***値を補正することにより、測定対象推定L***値を取得する。
【0155】
続くステップS39において、演算部16は、測定対象推定L***値を推定値記憶部156に記憶させる。なお、この際、必要に応じて、測定対象推定L***値を測定対象推定RGB値や測定対象推定HLS値に変換し、推定値記憶部156に記憶させても良い。
【0156】
次に、ステップS36において判定される「推定精度の低下し易さ」について説明する。本出願の発明者らは、色域に応じた補正精度の変動を検証するための実験2を行った。
【0157】
(実験2)
実験2において使用された機器は以下のとおりである。
(1)色見本:東洋インキ株式会社製の色見本帳「カラーファインダー」より抜粋された10色のカラーパッチ(図18A参照)。
(2)測定対象:東洋インキ株式会社製の色見本帳「カラーファインダー」より抜粋された50色のカラーパッチ(図18B参照)。
(3)測色計:ビデオジェット・エックスライト株式会社製の分光測色計「ColorMunki Photo」(モデル番号:cmunph)
(4)撮像機:Sumsung社製のスマートフォン「Galaxy S8」
【0158】
ここで、図18Aに示す「コード」は、色見本を識別するために、本明細書において便宜的に付与した符号である。図18Aに示す「公称値」欄の各値は、東洋インキ株式会社のホームページ<URL:https://www.toyoink1050plus.com/color/color-finder/>において公開されているsRGB値である。また、図18Bに示す「No.」は、色見本を識別するために、本明細書において便宜的に付与した番号である。図18Bに示す「公称値」欄の各値は、上記東洋インキ株式会社のホームページにおいて公開されているsRGB値である。図18Bに示す「測色計による測定値」欄の各値は、各色見本を上記測色計「ColorMunki Photo」によって測定することにより得られたL***値である。図18Bに示す「計算値」欄の各値は、上記測色計による測定値を、式(4)~(6)を用いて変換したRGB値である。
【0159】
撮像環境は以下のとおりである。即ち、暗幕室内に机を設置し、机上に色見本を水平に載置し、机の真上にD65光源をセットした。このとき、色見本近傍の照度は約1500lxであった。また、色見本から約10cm離れた位置にスマートフォンを横向きに立てて固定した。
【0160】
実験方法は以下のとおりである。まず、10色の色見本を撮像することにより、色見本実測RGB値(sRGB値)を取得し、これらの色見本実測RGB値を色見本実測L***値に変換した。また、同じ10色の色見本を、上記測色計を用いて測定することにより、色見本基準L***値を取得した。そして、色見本基準L***値と色見本実測L***値との直線近似式及び2次曲線近似式による相関関係を取得した。
【0161】
また、50色の測定対象を撮像することにより、測定対象実測RGB値(sRGB値)を取得し、これらの測定対象実測RGB値を測定対象実測L***値に変換した。そして、測定対象実測L***値を、上記直線近似式及び2次曲線近似式に代入することにより、測定対象推定L***値を取得した。この測定対象推定L***値と測色計による測定値との間における各成分の誤差と色差ΔEを算出した。
【0162】
なお、測定対象推定L***値(L* 1,a* 1,b* 1)と測色計による測定値(L* 2,a* 2,b* 2)との色差ΔEは、次式(15)によって与えられる。
【数18】
【0163】
図19は、実験2、3(実験3については後述)の結果を示す表である。図19に示すように、2次曲線近似による相関を用いた場合、直線近似による相関を用いた場合と比較して、色差ΔEの最大値が小さくなっており、推定精度が向上していると言える。他方、測定対象の色のR成分がG成分及びB成分よりも高い場合、2次曲線近似の方が推定精度が低くなることもあった。
【0164】
このような実験結果より、本出願の発明者らは、色見本基準値と色空間実測値との相関関係を取得する際には、多くの場合、直線近似よりも2次曲線近似を行った方が、測定対象の色の推定精度を向上させることができるという知見を得た。そこで、基本的には、直線近似により色見本基準値と色空間実測値との相関を求め、推定精度が低下し易い色域については、2次曲線近似による相関を求めることにより、推定精度が低下し易い色域については推定精度の低下を防ぐことができると共に、それ以外の色域については演算コストを抑制することができるという効果を得ることができる。
【0165】
次に、ステップS36において選択され得るFuzzy回帰分析について説明する。図20図22は、本実施形態において用いられるFuzzy回帰分析を説明するためのグラフである。
【0166】
Fuzzy回帰分析は、線形回帰モデルにおいて回帰係数がFuzzy数である結果、この回帰モデルにより推定された出力値もFuzzy数になるという仮定の下、Fuzzy数である回帰係数(Fuzzy係数)を求める問題である(参考:石渕久生、「ファジィ回帰分析」、日本ファジィ学会誌、第4巻、第1号、第52~60頁、1992年発行)。Fuzzy係数としては、対称三角形Fuzzy数やその他種々のFuzzy数が用いられ、区間係数とすることもある。回帰係数が区間である場合には、その線形回帰モデルの出力値も区間となる。Fuzzy係数は、線形計画法や最小2乗法に基づく方法等により求めることができる。
【0167】
本実施形態においては、撮像環境による外乱や、カメラの露出補正等に起因するあいまいさを含む取得画像における撮像値(実測RGB値を変換した実測L***値)をFuzzy数と仮定し、区間線形モデルによるFuzzy回帰分析を行うことにより、Fuzzy回帰式を算出する。
【0168】
具体的には、式(16-1)に示すように、見本色の測色値の真値(見本色基準値)を目的変数Y(Xp)とし、見本色の画像から取得した実測値(見本色実測値)を説明変数Xpとして設定し、回帰係数Ai(i=0,1)を対称三角Fuzzy数として求める。
【数19】
【0169】
そして、Fuzzy数である回帰係数Aiの中心ai及び幅eiを求めることで、Fuzzy回帰直線の式を作成する。式(16-2)、(16-3)において、a(X)は、Y(Xp)の中心(平均値)、e(X)は、Y(Xp)の幅(撮像値のばらつき)を示す。また、ai,eiは、それぞれ、Fuzzy数Aiの中心及び幅を示す。つまり、式(16-2)に示すa(X)は、Fuzzy数である目的変数Y(Xp)の中心を通る直線であり、撮像値のばらつきを考慮した平均値を表す。また、式(16-3)に示すe(X)は、撮像値の標準偏差の2倍に相当する。つまり、図20に示すように、a(X)を中心としてe(X)を用いて回帰式に幅をもたせることで、あいまいさ(撮像値のばらつき)を包含した回帰分析を行うことができる。なお、図20は、与えられた区間において全ての入力データ(撮像値)を包含し、幅が最小となる係数を算出するMIN問題を用いた場合のグラフを示している。
【0170】
Fuzzy回帰直線の式から推定値を算出する手法としては、まず、Fuzzy推論法を用いてFuzzy出力区間を作成する。即ち、図21に示すように、ある任意の値(y1,y2,y3,y4,…)でFuzzy回帰直線をスライスする。次に、各スライスレベルに対応する推定ファジィ出力集合(即ち、推定値の候補群)を取得する。次に、図22に示すように、各推定値の候補がそれぞれのスライスレベルにどれだけ属しているかの指標である帰属度を算出する。さらに、帰属度をもとに推定値を算出する。
【0171】
(実験3)
本出願の発明者らは、上述したFuzzy回帰分析による補正の有効性を検証するための実験3を行い、測定対象推定L***値(L* 1,a* 1,b* 1)と測色計による測定値(L* 2,a* 2,b* 2)との間における各成分の誤差と色差ΔEを算出した。実験3において使用された機器、及び、各種測定値の取得方法は、上記実験2と同様である。各種測定値としては、10色の色見本の色見本実測RGB値及びこれを変換した色見本実測L***値、並びに、50色の測定対象の測定対象実測RGB値及びこれを変換した測定対象実測L***値である。また、色差ΔEの算出方法も、直線近似式及び2次曲線近似式の代わりにFuzzy回帰分析を用いたことを除けば、上記実験2と同様である。
【0172】
図23A図23Cは、10色の色見本の色見本実測L***値(撮像値)と色見本基準L***値(真値)とのFuzzy回帰分析による相関関係を示すグラフである。このうち、図23AはL*成分の相関を示し、図23Bはa*成分の相関を示し、図23Cはb*成分の相関を示す。ここで、Fuzzy回帰分析においては、幅を表す係数e0及びe1が大きいほどあいまいさが包含されるグラフとなる。そのため、図23Aに示すように、上限及び下限を示す上下のグラフが離れている方が、良好な補正を行うことができると考えられる。実験3においては、a*成分及びb*成分(図23B図23C参照)と比較して、L*成分(図23A参照)の方が良好な補正を行うことができるという結果が得られた。この結果から、Fuzzy回帰分析は、屋外環境で撮像したり、色域が限定されない一般的な物体の色を測定したりする場合など、画像における画素値がばらつくと予測される場合に適していると言える。
【0173】
Fuzzy回帰分析による相関を用いて測定対象L***値を補正した場合の補正値と真値(図18Bに示す測色計による測色値)との色差ΔEの統計値を、図19に示す。Fuzzy回帰分析による相関を用いた場合、直線近似による相関を用いた場合と比較して、色差ΔEの最大値が小さくなっており、推定精度が向上していると言える。
【0174】
実験3においてはさらに、図18Bに示す測定対象の中から、直線近似に基づいて算出された色差ΔE(以下、ΔE1と記す)よりも、Fuzzy回帰分析に基づいて算出された色差ΔE(以下、ΔEFと記す)の方が小さくなる測定対象を抽出した。そして、全ての測定対象と、ΔE1>ΔEFとなる測定対象について、それぞれ、L***値の成分ごとに度数分布を作成した。ΔE1>ΔEFとなる測定対象は、つまり、Fuzzy回帰分析の方が推定精度が高くなる測定対象である。
【0175】
図24に示すように、L*成分については、全ての測定対象の分布と比較して、色差がΔE1>ΔEFとなる測定対象の分布が、値の大きい方にシフトしている。これは、測定対象の色が明るい場合には、Fuzzy回帰分析を用いた方が色の推定精度が向上することを示唆している。また、b*成分については、全ての測定対象の分布と比較して、ΔE1>ΔEFとなる測定対象の分布が、値の小さい方にシフトしている。これは、測定対象の色の青みが強い場合には、Fuzzy回帰分析を用いた方が色の推定精度が向上することを示唆している。
【0176】
このように、本発明の第2の実施形態によれば、測定対象の色域に応じて、色見本実測値と色見本基準値との相関関係を求める回帰分析手法を選択するので、色の推定精度低下の防止と、演算コストの抑制とを両立することが可能となる。
【0177】
(変形例2-1)
上記第2の実施形態においては、測定対象の色が属する色域を、測定対象実測RGB値に基づいて測色システム10が判断することとしたが(図17のステップS35)、ユーザが判断することとしても良い。この場合、ユーザは、測定対象の色を目視で確認し、この色が属する色域を、操作入力部13を用いて測色システム10に入力する。これに応じて、色域選択部163が、操作入力部13から入力された信号に従って測定対象1の色域を選択する。
【0178】
(変形例2-2)
生化学実験や生体の検査等で用いられる試験紙や試薬を含む溶液等を測定対象とする場合など、測定対象によって色域がある程度定まる場合には、測定対象ごとに予め色域を設定しておいても良い。この場合、図17のステップS35においては、測色による分析対象や測定対象(分析に使用される試験紙又は試薬等)を、操作入力部13を用いて測色システム10に入力することにより、色域が自動設定されるようにしても良い。或いは、分析対象や測定対象を入力することにより、色域に応じた回帰分析手法が自動設定されるようにしても良い。
【0179】
或いは、測色による分析対象や、分析に使用される試験紙又は試薬等の測定対象ごとに、予め色域が設定されたプログラムを用意しておいても良い。この場合、色域に応じて選択される回帰分析手法(ステップS36)も予め定まることになるから、分析対象や測定対象に応じて、回帰分析手法を予め設定してプログラミングしておいても良い。従って、この場合には、図17のステップS35、S36を省略することもできる。つまり、この場合、分析対象や測定対象に基づき、例えば1次関数を用いて相関関係を取得することが設定されているとすると、色見本及び測定対象を撮像することにより、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を取得し(ステップS30~S32)、その後、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を色見本実測L***値及び測定対象実測L***値にそれぞれ変換し(ステップS33)、1次関数を用いて色見本実測L***値と色見本L***基準値との相関関係を取得し(ステップS34、S37)、取得した相関関係を用いて測定対象推定L***値を取得し(ステップS38)、必要に応じて測定対象推定L***値をRGB値又はHLS値に変換した上で測定対象推定値を記憶する(ステップS39)という一連の処理が実行される。
【0180】
(変形例2-3)
上記第2の実施形態においては、L***色空間において色見本実測値と色見本基準値との相関関係を取得すると共に、測定対象実測値を補正することとしたが、RGB色空間やHLS色空間においてこれらの処理を行うこととしても良い。RGB色空間において上記処理を行う場合には、色見本基準L***値を色見本基準RGB値に変換した上で、色見本基準RGB値と色見本実測RGB値との相関関係を求め、この相関関係を用いて測定対象実測RGB値を補正すれば良い。また、HLS色空間において上記処理を行う場合には、色見本基準L***値を色見本基準RGB値に変換し、さらに色見本基準HLS値に変換すると共に、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を色見本実測HLS値及び測定対象実測HLS値にそれぞれ変換し、色見本基準HLS値と色見本実測HLS値との相関関係を求め、この相関関係を用いて測定対象実測HLS値を補正すれば良い。
【0181】
(変形例2-4)
上記第2の実施形態のように、測定対象の色域に応じて回帰分析手法を選択する処理を、第1の実施形態と組み合わせても良い。図25は、第2の実施形態の変形例2-4における演算処理を示すフローチャートである。
【0182】
図3のステップS25において、演算を行う色空間として例えばL***色空間が決定された場合(ステップS25:L***)、図25のステップS241において、実測値取得部164は、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を、それぞれ、色見本実測L***値及び測定対象実測L***値に変換する。続くステップS242において、基準値取得部165は、ステップS20において撮像された色見本の色見本基準L***値を取得する。
【0183】
ステップS243において、相関関係取得部166は、図3のステップS23において選択された色域に応じて、回帰分析の手法を選択する。手法の選択方法及び選択される手法については、図17のステップS36と同様である。具体例として、選択された色域の推定精度の低下し易さに応じて、1次関数を用いた回帰分析、2次関数を用いた回帰分析、Fuzzy回帰分析等の手法の中から1つの手法が選択される。
【0184】
ステップS244において、相関関係取得部166は、ステップS243において選択された手法を用いて回帰分析を行うことにより、色見本基準L***値と色見本実測L***値との相関関係を取得する。その後のステップS245~S247は、図7のステップS224~S226と同様である。
【0185】
また、図3のステップS25において、演算を行う色空間として、RGB色空間又はHLS色空間が決定された場合であっても(図6図8参照)、同様にして第2の実施形態における処理を組み合わせることができる。
【0186】
本変形例2-4によれば、測定対象の色が属する色域に応じて、色見本の実測値と基準値との相関関係を取得する演算を行う色空間、及び、その相関関係を求める回帰分析手法を選択するので、測定対象の色の推定精度を向上させることができると共に、演算コストを抑制することが可能となる。
【0187】
(変形例2-5)
上記変形例2-4においても、上述した変形例2-2と同様に、分析対象や測定対象ごとに、予め色域が設定されたプログラムを用意しておいても良い。この場合、色域に応じて、演算を行う色空間及び回帰分析手法を予め設定してプログラミングしておいても良い。つまり、この場合、分析対象や測定対象に基づき、例えばL***色空間において1次関数を用いて相関関係を取得することが設定されているとすると、色見本及び測定対象を撮像することにより、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を取得し、その後、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を色見本実測L***値及び測定対象実測L***値にそれぞれ変換し、1次関数を用いて色見本実測L***値と色見本L***基準値との相関関係を取得し、取得した相関関係を用いて測定対象推定L***値を取得し、必要に応じて測定対象推定L***値をRGB値又はHLS値に変換した上で測定対象推定値を記憶するという一連の処理が実行される。
【0188】
(第3の実施形態)
図26は、本発明の第3の実施形態に係る測色方法を示すフローチャートである。なお、本実施形態に係る測色方法を実行する測色システムの概略構成は、上記第1の実施形態と同様であり(図2参照)、演算部16に含まれる各部が実行する処理の詳細が、上記第1の実施形態と異なる。
【0189】
まず、ステップS50において、ユーザは、測定対象に応じて色見本を選択する。図27及び図28は、色見本の選択方法を説明するための模式図である。
【0190】
測定対象の色が、連続的に変化する特定の色の範囲に含まれると考えられる場合、該特定の色の範囲に含まれる2つ以上の代表色の各々に対して色差ΔEが比較的小さい色を、該特定の色の範囲に対応する色域の色見本(例えば見本帳)の中から選択することが好ましい。例えば、生化学実験や生体の検査等で用いられる試験紙や試薬を含む溶液は、特定の色の範囲において連続的に変化する。従って、このような試験紙等を測定対象とする場合には、上述した色見本の選択方法を用いることができる。また、壁の色や育成中の植物などの経時的な変化を測定する場合も、上述した色見本の選択方法を用いることができる。具体例として、図27に示すように、ある色域の色見本群30(色見本30a~30i)の中から、測定対象の色が変化し得る(又は存在し得る)範囲の両端の色に近い色見本30a、30iと、この範囲の中央の色に近い色見本30eとが選択され、これらの色見本30a、30e、30iを含む測色用色票31が作成される。或いは、これらの色見本30a、30e、30iを含む既製の測色用色票があれば、それを使用しても良い。
【0191】
また、測定対象の色が複数の色域にわたって変化し得る場合(例えばリトマス試験紙のように、色が赤域~青域にわたって変化する場合)や、測定対象が複数存在する場合(例えば、複数の物体の色を測定する場合や、1つの物体の複数箇所の色を測定する場合)においても、基本的には、測定対象の色が変化し得る(存在し得る)範囲の代表色に近い色(色差ΔEが小さい色)を、各色域の色見本から選択すれば良い。ただし、各色域の色見本の間で共用できる色見本があれば、その色見本を選択することが好ましい。トータルの色見本数を低減できるからである。例えば、図28の場合、まず、第1の色域の色見本群33(色見本33a~33i)の中から、測色対象の色が当該色域において変化し得る(又は存在し得る)範囲の両端に近い色見本33a、33iと、この範囲の中央の色に近い色見本33eとが選択される。第2の色域の色見本群34(色見本34a~34i)についても、同様に、測色対象の色が当該色域において変化し得る(又は存在し得る)範囲の両端の色及び中央の色に近い色見本が選択される。しかしながら、例えば、色見本群33に含まれる色見本33aと、色見本群34に含まれる色見本34bとが同じ又は近傍の色である場合、好ましくは、色見本群34からは、この色見本34bと、中央近傍の色見本34eと、他端近傍の色見本34iとが選択される。結局、2つの色見本群33、34から、5つの色見本33a(34b)、33e、33i、34e、34iが抽出され、これらの色見本を含む測色用色票35が作成される。或いは、これらの色見本33a(34b)、33e、33i、34e、34iを含む既製の測色用色票があれば、それを使用しても良い。
【0192】
再び図26を参照すると、ステップS50に続くステップS51において、測色システム10は、色見本及び測定対象の色の実測値を取得する。詳細には、まず、撮像部12が、図3のステップS20と同様にして、ステップS50において選択された色見本及び測定対象を撮像する。これにより、選択された色見本及び測定対象が写った画像の画像データが生成され、演算部16に入力される。続いて、演算部16が、図3のステップS21と同様にして、入力された画像データに基づいて、画像内における色見本及び測定対象の領域を認識する。さらに、演算部16が、図3のステップS22と同様にして、画像から認識された領域の画素値から、色見本実測値及び測定対象実測値を取得する。
【0193】
続くステップS52において、演算部16は、選択された色見本の色見本基準値を取得する。ここで、選択された色見本を演算部16が特定する方法は特に限定されない。例えば、ユーザが色見本を特定する情報(例えば色コード)を、操作入力部13を用いて入力し、操作入力部13から入力された信号に基づいて、演算部16が色見本を特定することとしても良い。或いは、色見本の近傍に色見本を特定する情報(例えばバーコード)を表示しておき、演算部16が画像から当該情報を自動的に読み取ることにより色見本を特定することとしても良い。或いは、測色用色票における色見本の位置情報を測色システム10に予め保存しておき、演算部16が、色見本が写った画像から位置情報を解析して色見本を特定することとしても良い。
演算部16は、特定した色見本の色見本基準値を、色見本基準値記憶部152から読み出す。
【0194】
続くステップS53において、演算部16は、色見本実測値と色見本基準値との相関関係を取得する。即ち、色見本実測値及び色見本基準値を変数として、成分ごとに回帰分析を行うことにより、回帰式の係数を成分ごとに求める。この演算を行う色空間については、特定の色空間(例えばL***色空間)に固定しても良いし、第1の実施形態と同様に、複数の色空間のうちから、測定対象の色が属する色域に応じて(即ち、選択された色見本に応じて)色空間を選択しても良い。また、回帰分析手法としても、特定の関数(例えば1次関数)を用いた回帰分析に固定しても良いし、第2の実施形態と同様に、複数種類の回帰分析手法のうちから、測定対象の色が属する色域に応じて(即ち、選択された色見本に応じて)手法を選択しても良い。
【0195】
続くステップS54において、演算部16は、ステップS53において取得された相関関係を用いて測定対象実測値を補正することにより、測定対象推定値を取得する。なお、測定対象推定値を取得した後、必要に応じて、測定対象推定値を別の色空間における値に変換しても良い。
【0196】
さらに、ステップS55において、演算部16は、ステップS54において取得された測定対象推定値を推定値記憶部156に記憶させる。
【0197】
以上説明したように、本発明の第3の実施形態によれば、測定対象に応じて色見本を選択するので、測定対象の色に、よりフィットした相関関係を取得することができる。従って、測定対象の色の推定精度を向上させることができると共に、安定した精度で測定対象の色を推定することが可能となる。
【0198】
また、本発明の第3の実施形態において、さらに、色見本の基準値と実測値との相関関係を取得し、測定対象実測値を補正する演算を行う色空間を、選択された色見本に応じて決定することにより、測定対象の色の推定精度をさらに向上させることができると共に、推定精度の安定性もさらに向上させることも可能となる。
【0199】
また、本発明の第3の実施形態において、さらに、選択された色見本に応じて相関関係を求める回帰分析手法を選択することにより、演算コストの抑制と、推定精度低下の防止とを両立することも可能となる。
【0200】
(変形例3-1)
上記第3の実施形態においては、測色対象に応じて2つ以上の色見本を選択することとしたが、特定の測色対象に合わせて、予め色見本を決定しておいても良い。生化学実験や生体の検査等で用いられる試験紙や試薬を含む溶液等を測定対象とする場合には、測定対象の色域や、測定対象の色が変化する範囲が予め判っているからである。このような測定対象として、具体的には、環境自然水、浄水、汚水、産業用加工水、薬品(薬液)、食品水、化学薬品水等の液体に含まれる特定物質の濃度、含有量、若しくはpH等の特性を測定するための試験紙又は試薬を含む溶液、血液、尿、骨髄液等の生体液に含まれる特定物質の濃度、含有量、若しくはpH等の特性を測定するための試験紙、固体からの抽出液(食品抽出液、土壌抽出液)に含まれる特定物質の濃度、含有量、若しくはpH等の特性を測定するための試験紙又は試薬を含む溶液、気体に含まれる特定物質(化学ガス等)の濃度、含有量、若しくはpH等の特性を測定するための試験紙などが挙げられる。
【0201】
このような測定対象の場合、具体例として、試験紙又は試験溶液の反応色の範囲の両端近傍及び中間色近傍の3つの色を色見本として決定すれば良い。中間色としては、好ましくは、色の変化が大きい変曲点に相当する色を決定すると良い。測定対象の色が複数の色域にまたがる場合には、上記第3の実施形態と同様に、各色域における反応色の範囲の両端近傍及び中間色近傍の色を色見本としても良い。
【0202】
この場合、色見本実測値と色見本基準値との相関関係を取得し、測定対象実測値を補正する色空間(例えば、L***色空間、RGB色空間、HLS色空間。第1の実施形態参照)や、相関関係を取得するための回帰分析手法(例えば、1次関数又は2次関数を用いた回帰分析、Fuzzy回帰分析。第2の実施形態参照)も、測定対象又は2つ以上の色見本の色域に応じて予め決定しておいても良い。つまり、特定の試験紙といった測定対象や、使用される2つ以上の色見本に各種処理が適合するように予め設定されたプログラムを用意しておくことができる。この場合、図26のステップS50は省略され、例えば、分析対象や測定対象に応じて予め決定された2つ以上の見本色及び測定対象を撮像することにより、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を取得し(ステップS51)、上記2つ以上の色見本の色見本L***基準値を色見本基準値記憶部152から読み出し(ステップS52)、その後、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を色見本実測L***値及び測定対象実測L***値にそれぞれ変換した上で、色見本実測L***値と色見本L***基準値との相関関係を取得し(ステップS53)、取得した相関関係を用いて測定対象推定L***値を取得し(ステップS54)、必要に応じて測定対象推定L***値をRGB値又はHLS値に変換した上で測定対象推定値を記憶する(ステップS55)という一連の処理が実行される。
【0203】
本変形例によれば、測色による分析対象や測定対象に応じて予め決定された2つ以上の色見本を用いることにより、色見本実測値と色見本基準値との間の相関性を高くすることができる。従って、そのような両者の相関関係を用いて測定対象実測値を補正することにより、測定対象の色を高精度で推定することが可能となる。
【0204】
また、本変形例によれば、測定対象又は2つ以上の色見本の色域に応じて、相関関係を取得する色空間や、相関関係の取得に用いる回帰分析手法を、予め適切に決定しておくことができる。そのため、測色による分析対象や測定対象に応じて予め決定された2つ以上の色見本と共に測定対象を撮像し、予め決定された色空間において、予め決定された手法を用いて回帰分析を行うことにより、色見本実測値と色見本基準値の相関関係を精度良く取得することができる。従って、このような相関関係を用いて測定対象実測値を補正することにより、測定対象の色を高精度で推定することが可能となる。
【0205】
このような測色方法を用いることにより、血液検査、水質検査、土壌検査等が行われる現場において、試験紙や試薬を含む溶液等の色を精度良く測定することができ、分析結果をその場で得ることも可能となる。また、試験紙等の所定の位置における色の変化を精度良く検出することもできる。例えば、抗原抗体反応を利用した検査の一種であるイムノクロマト法のように、テストライン及びコントロールラインにおける色の変化を検出する検査法においても、これらのラインにおける色を精度良く測定することができるので、当該検査の判定を正確且つ安定的に行うことが可能となる。
【0206】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態に係る測色方法は、上記第3の実施形態に係る測色方法(図26参照)において、色域に応じた色見本を選択する処理(ステップS50)を測色システム10が実行するというものである。なお、本実施形態に係る測色方法を実行する測色システムの概略構成は、上記第1の実施形態と同様であり(図2参照)、演算部16に含まれる各部が実行する処理の詳細が、上記第1の実施形態と異なる。
【0207】
図29は、本実施形態における色域に応じた色見本を選択する処理を示すフローチャートである。また、図30は、本実施形態における色見本の選択方法において使用される測色用色票を示す模式図である。図30に示す測色用色票40は、基材40aと、該基材40a上に、色域ごとに分類されて配置された複数の色見本とを含む。図30において、色見本は、複数の色見本群41~49に分類されている。図2に示す色見本基準値記憶部152には、これらの色見本群41~49に含まれる複数の色見本(図30においては36色)の色見本基準値が記憶されている。
【0208】
図31は、L***色空間を示す模式図である。図30に示す複数の色見本は、L***色空間を分割することにより画定される複数の領域に対応して分類されている。詳細には、L***色空間を、a*成分及びb*成分がゼロ近傍である第1の領域と、L***色空間から第1の領域を除いた領域をL*軸、a*軸、及びb*軸の各々において2分割した第2~第9の領域とに分割することにより、無彩色域、明度が高い青域、明度が低い青域、明度が高い黄色域、明度が低い黄色域、明度が高い緑域、明度が低い緑域、明度が高い赤域、及び、明度が低い赤域が画定される。
【0209】
色域に応じた色見本を選択する際には、まず、ステップS520において、撮像部12が、複数の色見本群を含む測色用色票及び測定対象を撮像する。即ち、図30に示す測色用色票40を、測定対象と共に撮像する。これにより、測色用色票40及び測定対象が写った画像の画像データが演算部16に入力される。
【0210】
続くステップS521において、演算部16は、画像内における測色用色票内の色見本及び測定対象の領域を認識する。詳細には、実測値取得部164が、ステップS520において入力された画像データに基づいて、画像に写った各色見本群41~49に含まれる複数の色見本の画像領域及び測定対象の画像領域を認識する。これらの画像領域の認識方法は、図3のステップS21と同様である。
【0211】
続くステップS522において、演算部16は、画像から認識された領域の画素値から、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値を取得する。色見本実測RGB値については、各色見本群41~49に含まれる複数の色見本の各々について取得される。
【0212】
続くステップS523において、演算部16は、色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値をそれぞれ、色見本実測L***値及び測定対象実測L***値に変換する。
【0213】
続くステップS524において、演算部16(色域選択部163)は、色見本実測L***値と測定対象実測L***値との色差ΔE(式(16)参照)を算出する。
【0214】
続くステップS525において、色域選択部163は、色差ΔEが最も小さい色見本が属する色見本群に含まれる色見本を選択する。例えば、色見本群41~49に含まれる36個の色見本のうち、色見本群43に含まれる色見本43aの色差ΔEが最も小さい場合、色見本群43に含まれる4つの色見本43a~43dが選択される。
【0215】
続くステップS526において、演算部16は、選択された色見本の色見本基準L***値を取得する。例えば、4つの色見本43a~43dが選択された場合、演算部16は、これらの色見本43a~43dの色見本基準値を色見本基準値記憶部152から読み出す。
その後、処理はメインルーチンに戻る。
【0216】
続くステップS51においては、ステップS50において生成された画像データに基づいて、選択された色見本及び測定対象の実測値が取得される。詳細には、ステップS522において取得された色見本実測RGB値及び測定対象実測RGB値、或いは、ステップS523において変換された色見本実測L***値及び測定対象実測L***値がそのまま用いられる。
【0217】
以上説明したように、本発明の第4の実施形態によれば、複数の色見本のうちから、測定対象の色域に応じた色見本を適切に、且つ自動で選択することができる。従って、測定対象の色に、よりフィットした相関関係を簡単に取得することができ、そのような相関関係を用いることにより、測定対象の色の推定精度を向上させることができると共に、安定した精度で測定対象の色を推定することが可能となる。
【0218】
(変形例4-1)
上記第4の実施形態において、色見本の実測値と基準値との相関関係を取得し、測定対象実測値を補正する演算(図26のステップS53、S54参照)を行う色空間を、選択された色見本(色見本群)に応じて決定しても良い。この場合、色見本群ごとに(即ち、図31に示すL***色空間を分割した領域に対応する色域ごとに)、上記演算を行う色空間を予め設定しておくと良い。具体例として、図30に示す測色用色票40のうち、無彩色域の色見本群41、明度が低い青域の色見本群43、明度が低い黄色域の色見本群45、明度が低い緑域の色見本群47、又は、明度が低い赤域の色見本群49が選択された場合には、RGB色空間が決定されるように設定しても良い。また、明度が高い青域の色見本群42、明度が高い黄色域の色見本群44、明度が高い緑域の色見本群46、又は、明度が高い赤域の色見本群48が選択された場合には、L***色空間が決定されるように設定しても良い。
【0219】
このように、測定対象の色域に応じて色見本を選択すると共に、選択された色見本に応じて演算を行う色空間を決定することにより、測定対象の色をさらに精度良く且つ安定的に推定することが可能となる。
【0220】
(変形例4-2)
上記第4の実施形態において、色見本の実測値と基準値との相関関係を取得する際に(図26のステップS53参照)、ステップS525において選択された色見本(色見本群)に応じて、相関関係を求める回帰分析手法を選択しても良い。例えば、図30に示す測色用色票40のうち、明度が高い赤域の色見本群48又は明度が低い赤域の色見本群49が選択された場合には2次関数を用いた回帰分析が選択され、それ以外の場合には1次関数を用いた回帰分析が選択されるようにしても良い。
【0221】
このように、測定対象の色域に応じて色見本を選択すると共に、選択された色見本に応じて相関関係を求める回帰分析手法を選択することにより、演算コストの抑制と、推定精度低下の防止とを両立することも可能となる。
【0222】
(変形例4-3)
1つの測定対象の面積が広い場合には、測定対象の領域を複数の区画に分割し、区画ごとに色域を判定しても良い。なお、変形例4-1のように、区画の色域に応じて演算を行う色空間を決定する場合には、測定対象推定値を算出した後で、該測定対象推定値を、全区画で共通の色空間における値に変換すれば良い。
【符号の説明】
【0223】
1…測定対象、2…画像、2a,2b,2c…画像領域、10…測色システム、11…通信インタフェース、12…撮像部、13…操作入力部、14…表示部、14a…画面、14b…マーク、15…記憶部、16…演算部、20…測色用色票、21a,21b,…,30a~30i,33a~33i,34a~34i…色見本、30,33,34,41~49…色見本群、31,35,40…測色用色票、40a…基材、43a~43d…色見本、151…プログラム記憶部、152…色見本基準値記憶部、153…画像データ記憶部、154…実測値記憶部、155…相関関数記憶部、156…推定値記憶部、161…画像データ取得部、162…表示制御部、163…色域選択部、164…実測値取得部、165…基準値取得部、166…相関関係取得部、167…補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図15C
図16A
図16B
図16C
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21
図22
図23A
図23B
図23C
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31