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  • 特許-透水性繊維強化シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】透水性繊維強化シート
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
E02D17/20 102A
E02D17/20 102B
E02D17/20 102C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017248215
(22)【出願日】2017-12-25
(65)【公開番号】P2019112862
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-10-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】517229604
【氏名又は名称】住化積水フィルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231431
【氏名又は名称】日本植生株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598130712
【氏名又は名称】ゼンノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光浩
(72)【発明者】
【氏名】木下 昌行
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛
(72)【発明者】
【氏名】戸来 義仁
(72)【発明者】
【氏名】尾上 兼也
(72)【発明者】
【氏名】宮下 昭夫
【合議体】
【審判長】居島 一仁
【審判官】有家 秀郎
【審判官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-156124(JP,A)
【文献】特開2016-204928(JP,A)
【文献】特開2009-019352(JP,A)
【文献】特開2002-180599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一枚以上の不織布と一層以上の繊維補強層とが積層されている透水性繊維強化シートであって、
(1)前記シート中の前記一枚以上の不織布の坪量の総量が30~50g/mであり、(2)前記シート中の前記一層以上の繊維補強層の全体の開口率が77~85%であり、(3)前記シートの引張強度が1000N/100mm~2000N/100mmであり、
(4)法面保護工に用いられるモルタル袋の袋材料である、
ことを特徴とする、透水性繊維強化シート。
【請求項2】
一枚の前記不織布の片面又は両面に前記繊維補強層が積層された構造を有する、請求項1に記載の透水性繊維強化シート。
【請求項3】
前記繊維補強層を挟んで二枚の不織布が積層された構造を有する、請求項1に記載の透水性繊維強化シート。
【請求項4】
前記繊維補強層は、並列された縦軸ヤーンからなる縦軸糸条と、前記縦軸糸条に対して二軸又は三軸に配向する並列された交差軸ヤーンからなる交差軸糸条とを有する網状体であって、当該交差軸糸条は当該縦軸糸条に対して60~90°の角度で配向している、請求項1~3のいずれかに記載の透水性繊維強化シート。
【請求項5】
前記縦軸糸条の間隔が10~20mmであり、且つ、前記交差軸糸条の間隔が10~40mmである、請求項4に記載の透水性繊維強化シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑化土木分野の法面保護工(法面保護工事、法面緑化工事等)に適した透水性及び通気性を有する繊維補強シートに関する。詳細には、本発明の繊維補強シートは、法面に植生工(法面緑化工事)を実施する際に植物の生育基盤の安定化を図るための緑化基礎工に用いるモルタル袋、及び緑化を前提としない法面保護工事において土砂の流出を抑制するためのモルタル袋の袋材料として適している。
【背景技術】
【0002】
土木工事において崩落した崖、切土や盛土により造成された法面、軟弱地盤の補強工事では多岐にわたる繊維補強工法が適用されている。
【0003】
例えば、法面緑化工事を実施する場合には、植生ネットを法面に施工するだけでは降雨などにより植物の生育基盤が浸食されるおそれがあるため、植物の生育基盤の安定化を図るために、緑化基礎工として、繊維シートからなる筒状の袋に未硬化粉末状態のセメント混合物を充填して棒状モルタル袋としたものを法面に配置することが行われている。
【0004】
棒状モルタル袋は、降雨、湧水等により水分が浸透し、法面の凹凸に追従したまま固化することにより植生ネットとの複合効果により植物の生育基盤を安定化する効果に加えて固化した棒状モルタル袋が法面に小段を形成して植物が永続し易い環境を作る効果がある。かかる緑化基礎工付き植生工は、例えば、特開2016-156124号公報に開示されている。
【0005】
また、モルタル袋は、緑化基礎工に用いられるだけでなく緑化を前提としない法面保護工事において土砂の流出を抑制するためにも幅広く使用することができる。
【0006】
ところで、モルタル袋の袋材料として用いる繊維シートには透水性が求められるので、スパンボンド不織布等が好適であるが、スパンボンド不織布等を単独で使用すると、固化後のモルタル袋が冬季の凍上による膨張と融解の反復作用によって破損し、モルタル袋を用いた法面保護工の持続効果が損なわれる。
【0007】
上記モルタル袋の破損を防ぐためには、モルタル袋の袋材料であるスパンボンド不織布等を繊維により補強することが有効であるが、セメント混合物はスパンボンド不織布等を通して透水、又は透湿することにより固化するため、補強繊維の打ち込み本数(並列間隔)が多過ぎるとモルタル袋表面の開口面積が小さくなり、透水性及び透湿性が阻害される。また、補強繊維の糸条本数が多くなるとモルタル袋の柔軟性が損なわれて法面の凹凸への追従性が悪化する。他方、補強繊維の打ち込み本数が少な過ぎると透水性や柔軟性は良好となるが、補強効果を十分に担保できない。
【0008】
緑化土木分野に普及している繊維補強ネット、メッシュシート等としてはラッセル織り、からみ織りクロスシート等、主に織物構造物が使用されている。
【0009】
例えば、特許文献1には、アラミド繊維、ポリエステル繊維等のネット状物をアクリル樹脂などでディッピング、被覆加工したジオテキスタイルネット等が開示されている。
【0010】
これらのジオテキスタイルネットは施工面にネット状のまま展張し、アンカーピンなどで固定してそのまま使用する用途に耐える設計となっており、基本的に表面が硬くコシが強いネットである。そのため、スパンボンド不織布等との貼り合せや、袋に加工する際、折り畳んだり、屈曲させる、縫製を掛ける等の2次加工には適さない。また、ネット自体の剛直性が、モルタル袋の法面での施工の際にも凹凸追従性を阻害する。
【0011】
他方、農業用の植生ネット、寒冷紗等に関して、例えば、特許文献2には、ポリエチレン素材、ポリエステル素材等のフラットヤーンをラッセル織り等により織編したネットが開示されている。
【0012】
これらのネットは柔軟性や伸縮性に富み、加工性や汎用性に優れるが、スパンボンド不織布等への繊維補強材としてポリオレフィン系フラットヤーンクロスを用いた場合、硬化モルタル材を補強、保持するためには、ヤーンの打ち込み本数を多くすることで引張強度を担保する必要があり、必然的にネットの目空きは小さくなり、結果的に透水性を阻害する。また、ポリオレフィン系フラットヤーンクロスはスパンボンド不織布等と接着させるための接着剤やセメント混合物との接着性に劣るという問題もある。
【0013】
よって、緑化土木分野において汎用性があり、法面保護工事、法面緑化工事等の法面保護工に用いられるモルタル袋の袋材料とした場合に、袋加工性及び透水性に優れており、且つ、モルタル袋の施工性及び固化後の耐久性にも優れた透水性繊維強化シートの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2002-363962号公報
【文献】特開平6-153710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、緑化土木分野において汎用性があり、法面保護工事、法面緑化工事等の法面保護工に用いられるモルタル袋の袋材料とした場合に、袋加工性及び透水性に優れており、且つ、モルタル袋の施工性及び固化後の耐久性にも優れた透水性繊維強化シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記従来技術の問題を改善すべく鋭意研究を重ねた結果、特に不織布と繊維補強層とを組み合わせて作製された特定の透水性繊維強化シートが上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、下記の透水性繊維強化シートに関する。
1.一枚以上の不織布と一層以上の繊維補強層とが積層されている透水性繊維強化シートであって、
(1)前記シート中の前記一枚以上の不織布の坪量の総量が20~60g/mであり、
(2)前記シート中の前記一層以上の繊維補強層の全体の開口率が50~90%であり、
(3)前記シートの引張強度が1000N/100mm以上であり、
(4)法面保護工に用いられるモルタル袋の袋材料である、
ことを特徴とする、透水性繊維強化シート。
2.一枚の前記不織布の片面又は両面に前記繊維補強層が積層された構造を有する、上記項1に記載の透水性繊維強化シート。
3.前記繊維補強層を挟んで二枚の不織布が積層された構造を有する、上記項1に記載の透水性繊維強化シート。
4.前記繊維補強層は、並列された縦軸ヤーンからなる縦軸糸条と、前記縦軸糸条に対して二軸又は三軸に配向する並列された交差軸ヤーンからなる交差軸糸条とを有する網状体であって、当該交差軸糸条は当該縦軸糸条に対して60~90°の角度で配向している、上記項1~3のいずれかに記載の透水性繊維強化シート。
【発明の効果】
【0018】
本発明の透水性繊維強化シートは、不織布の坪量の総量、繊維補強層の全体の開口率及びシートの引張強度がそれぞれ所定範囲に設定されていることにより、法面保護工事、法面緑化工事等の法面保護工に用いられるモルタル袋の袋材料とした場合に、袋加工性及び透水性に優れており、且つ、モルタル袋の施工性及び固化後の耐久性にも優れている。このような本発明の透水性繊維強化シートは、緑化土木分野において幅広く使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】繊維補強層の一例(縦糸と横糸との二軸の配向例;実施例5で採用した態様)を示す模式図である。
図2】繊維補強層の一例(縦糸と斜め糸との三軸の配向例:実施例1~4で採用した態様)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の透水性繊維強化シートについて詳細に説明する。
【0021】
本発明の透水性繊維強化シートは、一枚以上の不織布と一層以上の繊維補強層とが積層されている透水性繊維強化シートであって、
(1)前記シート中の前記一枚以上の不織布の坪量の総量が20~60g/mであり、
(2)前記シート中の前記一層以上の繊維補強層の全体の開口率が50~90%であり、
(3)前記シートの引張強度が1000N/100mm以上であり、
(4)法面保護工に用いられるモルタル袋の袋材料である、
ことを特徴とする。
【0022】
上記特徴を有する本発明の透水性繊維強化シートは、不織布の坪量の総量、繊維補強層の全体の開口率及びシートの引張強度がそれぞれ所定範囲に設定されていることにより、法面保護工事、法面緑化工事等の法面保護工に用いられるモルタル袋の袋材料とした場合に、袋加工性及び透水性に優れており、且つ、モルタル袋の施工性及び固化後の耐久性にも優れている。このような本発明の透水性繊維強化シートは、緑化土木分野において幅広く使用できる。
【0023】
本発明の透水性繊維強化シートは、一枚以上の不織布と一層以上の繊維補強層とが任意の組み合わせで積層されている。それらの積層態様は、不織布の坪量の総量、繊維補強層の全体の開口率及びシートの引張強度がそれぞれ所定範囲に収まる範囲で特に限定されず、透水性繊維強化シートの最終製品の特性や用途に応じて適宜設定できる。
【0024】
積層態様としては、例えば、一枚の不織布の片面又は両面に繊維補強層が積層された構造を有するものが挙げられる。簡潔には、一枚の不織布の片面又は両面に繊維補強層が積層された構造が挙げられる。また、他の積層態様として、例えば、繊維補強層を挟んで二枚の不織布が積層された構造を有するものが挙げられる。簡潔には、繊維補強層を挟んで二枚の不織布が積層された構造が挙げられる。
【0025】
なお、いずれの積層態様であっても本発明の透水性繊維強化シートにおいて、不織布の坪量の総量は、不織布を一枚用いる場合にはその不織布の坪量を意味し、不織布を二枚以上用いる場合にはそれらの個々の坪量の総量を意味する。また、繊維補強層の全体の開口率は、繊維補強層が一層のみの場合にはその繊維補強層の開口率を意味し、繊維補強層が二層以上の場合(二層以上には間接的に積層される場合を含む)にはそれらの繊維補強層が積層された状態における実際の開口率を意味する。よって、80%の開口率を有する繊維補強層と70%の開口率を有する繊維補強層とを併用する場合には、全体の開口率(実際の開口率)は70%未満の数値となる。
【0026】
不織布としては、スパンボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法等の各種方法により得られる不織布があるが、不織布表面に毛羽が多い場合には、セメント混合物を袋に充填する際に粉末状であるセメント混合物が繊維に引っ掛かって詰まり、作業性を損なうおそれがある。よって、不織布としては、表面の滑り性、加工性、コスト等の観点からはスパンボンド不織布が好適である。
【0027】
不織布の材質としては限定されず、ポリエステル、ポリプロピレン等が挙げられるが、耐候性、接着性、耐アルカリ性、コスト等の観点からはポリエステルが好適である。その中でもポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。なお、透水性繊維強化シートを袋状に加工し、未硬化状態のセメント混合物を封入してモルタル袋を作製し、施工地に配置する際の施工地凹凸への追従性を考慮すると、不織布の伸度の観点では低伸度であるものが好ましい。
【0028】
不織布の坪量(目付)としては、粗過ぎると充填物であるセメント混合物が加工時又は施工時に不織布から漏れ出し、モルタル袋の所望の強度が低下するおそれや漏れだしたセメント混合物を吸引することによる健康被害のおそれがある。他方、不織布の坪量が密過ぎると透水性の障害となり、モルタル袋の固化に支障があるだけでなく施工地凹凸への追従性が損なわれるおそれがある。
【0029】
不織布は一枚又は二枚以上で使用できるが、透水性繊維強化シートにおける不織布の坪量の総量は20~60g/mであればよく、30~50g/mが好ましい。坪量の総量がかかる範囲内であることにより、セメント混合物を封入してモルタル袋を作製する際の作業性及びモルタル袋の施工地凹凸への追従性を良好な範囲とすることができる。
【0030】
繊維補強層としては、一軸繊維条体(縦軸糸条体)のほか、網状体である組布、織布、編布等が挙げられる。これらの中でも、繊維補強層の高開口率、形状保持、異方性コントロールの容易さ、層としての平滑性等の観点から組布が好適に使用でき、より具体的には、並列された縦軸ヤーンからなる縦軸糸条と、前記縦軸糸条に対して二軸又は三軸に配向する並列された交差軸ヤーンからなる交差軸糸条とを有する網状体であって、当該交差軸糸条は当該縦軸糸条に対して60~90°の角度で配向している二軸組布又は三軸組布が好ましい。その中でも、モルタル袋を作製した際に三軸斜交ヤーンにより螺旋状にモルタル袋を補強できる三軸組布がより好ましい。
【0031】
また、モルタル袋(通常は棒状)はその形状を保持するために異方性、特に長手方向に強度が求められるが、モルタル袋の透水性を損なわずに繊維補強するには、繊維補強層は繊維の打ち込み本数を最小限に抑えた粗目の網状体(ネット)であることが好ましい。
【0032】
これに対して、織布や編布の場合は平織り、からみ織り又はラッセル織りによる作製が挙げられるが、平織りはヤーンの交点が保持されておらず、ヤーンの並列間隔に目ズレが生じ易くなり高開口率を維持し難く、透水性能を阻害する要因となる。また、モルタル袋を縫製する前工程において織布や編布は所定の幅にスリット加工されるが、目ズレによりヤーンが蛇行してスリット刃が縦軸ヤーンを繰り返し切断してしまうおそれがある。また、からみ織りやラッセル織りの場合は織りの構造から繊維量が多くなることが避けられず、高コスト化するだけでなく繊維量が多くなってネットが剛直化してしまい、モルタル袋の柔軟性を損なう要因となる。更に、からみ織りやラッセル織りは、断面形状が円又は楕円形状で織り部は更に節高となるため、モルタル袋へのセメント混合物の充填時の詰まりの原因ともなる。これらの点からも組布からなる網状体が好ましい。
【0033】
補強繊維層を構成するヤーンとしては、透水性やモルタル固化体との接着性の点から、モノフィラメントヤーンよりもマルチフィラメントヤーンが好ましい。ヤーンの材質としてはビニロン繊維、アラミド繊維、PBO繊維、ポリエステル繊維等が挙げられるが、親水性、耐候性、耐アルカリ性、モルタル固化体との接着性等においてビニロン繊維がより好適に使用できる。
【0034】
なお、マルチフィラメントヤーンは繊維束状ヤーンであり、押圧加工により開織して扁平化するため、押圧加工後(透水性繊維強化シートにおける繊維補強層)の状態について説明するとヤーン幅、ヤーン繊度及びヤーン厚さは限定的ではないが、ヤーン幅は1.5~3.5mmが好ましく、2.0~2.5mmがより好ましい。ヤーン繊度は1000~2500dtが好ましく、1500~2000dtがより好ましい。また、ヤーン厚さは100~150μmが好ましく、100~130μmがより好ましい。
【0035】
透水性繊維補強シートにおける繊維補強層の数は一層又は二層以上のいずれでもよいが、全体の開口率(実際の開口率)は50~90%であればよく、70~80%が好ましい。繊維補強層の全体の開口率がかかる範囲内であることにより、透水性繊維補強シートの透水性を損なうことなく補強効果を付与することができる。
【0036】
モルタル袋は天然の崖や法面に設置される長手状の袋状物であることから、曲げ荷重やせん断による破壊に対する耐性が必要となるが、固化後のモルタルは圧縮荷重には強いものの曲げ荷重には弱く、せん断応力により固化後のモルタルが粉砕破壊されるおそれがある。この荷重に対して不織布のみでは十分ではないところ、繊維補強層を組み合わせることにより効果的に補強することができる。
【0037】
なお、網状体及び不織布との積層体は、公知の製造方法によって製造することができる。不織布と貼り合せる網状体が縦軸ヤーン及び斜交軸ヤーンにより構成される三軸組布である場合、例えば、特許第1442884号公報、特許第1725947号公報に記載の製造方法により製造することができる。
【0038】
具体的には、縦軸ヤーンを等間隔で整列させて一軸方向に巻き取りながら、同時に横軸方向にも横軸ヤーンを等間隔で整列させる。当該横軸ヤーンをトラバース移動により斜交配列に引き揃えて斜交軸ヤーンとし、縦軸ヤーンと斜交軸ヤーンとを積層させる。次いで、接着剤を塗布又は含浸させ、余分な接着樹脂を絞り落とした縦軸ヤーン及び斜交軸ヤーンを120~150℃の加熱ロール上で不織布と圧着させて、三軸網状体と貼り合されてなる、シート状に一体化した三軸積層布を製造することができる。
【0039】
また、不織布と貼り合せる網状体が縦軸ヤーン及び横軸ヤーンにより構成される二軸組布である場合、例えば、特許第1699011号公報に記載の製造方法により製造することができる。
【0040】
具体的には、縦軸ヤーンを等間隔で整列させて一軸方向に巻き取りながら、同時に横軸方向にも横軸ヤーンを等間隔で整列させる。当該横軸ヤーンを搬送コンベア上に整列した状態で移送しながら、所定の製品幅毎にヒートカッターで切断する。切断された横軸ヤーンを、微粘着性液体を塗布した大型の仮圧着用ベルトを用いてベルト表面に仮圧着させる。次いで、ベルト表面に仮圧着させた横軸ヤーンを縦軸ヤーンとの積層部まで移送し、積層させる。次いで、縦軸ヤーン及び横軸ヤーンを115~120℃の加熱ロール上で不織布と本圧着させて、二軸網状体と貼り合されてなる、シート状に一体化した二軸積層布を製造することができる。
【0041】
また、不織布と貼り合せる繊維補強層が縦軸のみから構成される一軸繊維条体の場合は、 前述の製法から斜交軸ヤーン、横軸ヤーンの挿入工程を省いたものでよく、具体的には、縦軸ヤーンを等間隔で整列させ一軸方向に巻き取りながら接着剤を塗布または含侵させ、余分な接着樹脂を絞り落とした縦軸ヤーンを120~150℃の加熱ロール上で不織布と圧着させて一軸繊維条体と貼り合わせることにより、シート状に一体化した一軸積層布を製造することができる。このように、交差軸を有さず縦軸ヤーンのみが間隔を空けて整列した一軸繊維条体も本発明で用いる繊維補強層の一態様に含まれる。
【0042】
本発明の透水性繊維強化シートは、その引張強度が1000N/100mm以上であり、1500N/100mm以上が好ましく、引張強度は大きい方がよいが、現実的な上限値は2000N/100mm程度である。なお、本明細書における引張強度の値は、引張強度試験JIS-L-1096(A法)に準拠して機械強度を測定した値である。
【0043】
本発明の透水性繊維強化シートは、緑化土木分野において、透水性(透湿性)や強度が要求される用途に幅広く適用できるが、特に法面保護工事、法面緑化工事等の法面保護工に用いられるモルタル袋の袋材料としての用途に好適である。
【0044】
モルタル袋を作製する際は、本発明の透水性繊維補強シートを袋状(棒状)に加工し、内容物である未硬化のセメント混合物を封入すればよい。そして、モルタル袋は、法面の凹凸に追従させるように配置した後、降雨、湧水等により袋内に水分を浸透させて凹凸に追従したまま固化することにより法面保護工としての機能を発揮する。これにより、降雨などによる法面の浸食(土砂の流出)などを抑制し、特に緑化基礎工の場合には植物の生育基盤の安定化を図ることができる。この効果は、植生工(法面緑化工事)の場合には緑化基礎工に続く工程で用いられる植生ネットとの複合効果により、より確実なものとすることができる。また、固化した棒状モルタル袋が法面に小段を形成することにより土砂の流出を抑制し、植物が永続し易い環境を作る効果も得られる。
【実施例
【0045】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。なお、実施例3は参考例である。
【0046】
実施例1(三軸組布+スパンボンド不織布)
第1のヤーンとして、株式会社クラレ製ビニロン繊維(2000dt)のマルチフィラメントヤーンを用意し、縦軸ヤーンとした。また、第2のヤーンとして、同じくビニロン繊維(2000dt)を用意し、斜交軸ヤーンとした。
【0047】
縦軸ヤーン及び斜交軸ヤーンにより、積層装置を用いて三軸組布を作製した。具体的には縦軸ヤーンを等間隔で整列させて、一軸方向に巻き取りながら同時に横軸方向にも横軸ヤーンを等間隔で整列させた。当該横軸ヤーンをトラバース移動により斜交配列に引き揃えて斜交軸ヤーンとし、縦軸ヤーンと斜交軸ヤーンとを積層させて三軸組布を得た。
【0048】
次いで、三軸組布をエマルションプール槽に搬送し、積層状態を保持させたまま水溶性エマルション溶液に含侵させた。三軸組布から余分なエマルション溶液をピンチロールで絞り取った後、130℃の加熱ロール上で一軸方向より挿入された株式会社ツジトミ製PETスパンボンド不織布(坪量30g)と積層、圧着させて、三軸組布とPETスパンボンド不織布とをシート状に一体化した透水性繊維強化シートを得た。
【0049】
作製した透水性繊維強化シートは、図2に示すように斜交軸ヤーン(斜め糸a5、斜め糸b6)の両方の面に隣り合う縦軸ヤーン(縦糸1群3、縦糸2群4)が片面づつ、交互に配置された状態でPETスパンボンド不織布と圧着されており、斜交軸ヤーンの斜交角θは、縦軸ヤーンに対して60°であった。また、縦軸ヤーンの間隔は10mm、斜交軸ヤーンの間隔は40mmであり、糸幅は縦軸、斜交軸ともに2mm、三軸組布の開口率は77%であった。
【0050】
実施例2~4(三軸組布+スパンボンド不織布)
繊維補強層の条件及びスパンボンド不織布の坪量を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして三軸組布とPETスパンボンド不織布とをシート状に一体化した透水性繊維強化シートを得た。
【0051】
実施例5(二軸組布+スパンボンド不織布)
第1のヤーンとして、株式会社クラレ製ビニロン繊維(2000dt)のマルチフィラメントヤーンを用意し、縦軸ヤーンとした。また、第2のヤーンとして、同じくビニロン繊維(2000dt)を用意し、横軸ヤーンとした。
【0052】
縦軸ヤーン及び横軸ヤーンにより、積層装置を用いて二軸組布を作製した。具体的には縦軸ヤーンを等間隔で整列させて、一軸方向に巻き取りながら同時に横軸方向にも横軸ヤーンを等間隔で整列させた。当該横軸ヤーンを搬送コンベア上に整列させた状態で移送させ、所定の製品幅にヒートカッターで切断した後、縦軸ヤーンと横軸ヤーンとを積層させて二軸組布を得た。
【0053】
次いで、二軸組布をエマルションプール槽に搬送し、積層状態を保持させたまま水溶性エマルション溶液に含侵させた。二軸組布から余分なエマルション溶液をピンチロールで絞り取った後、130℃の加熱ロール上で一軸方向より挿入された株式会社ツジトミ製PETスパンボンド不織布(坪量30g)と積層、圧着させて、二軸組布とPETスパンボンド不織布とをシート状に一体化した透水性繊維強化シートを得た。
【0054】
作製した透水性繊維強化シートは、図1に示すように横軸ヤーン2の配向角θは、縦軸ヤーン1に対して90°であった。また、縦軸ヤーン1の間隔は10mm、横軸ヤーン2の間隔は40mmであり、糸幅は縦軸、横軸ともに2mm、二軸組布の開口率は77%であった。
【0055】
実施例6(一軸糸条体+スパンボンド不織布)
第1のヤーンとして、株式会社クラレ製ビニロン繊維(2000dt)のマルチフィラメントヤーンを用意し、縦軸ヤーンとした。
【0056】
縦軸ヤーンを等間隔で整列させて、一軸糸条体を得た。
【0057】
次いで、一軸糸条体をエマルションプール槽に搬送し、水溶性エマルション溶液に含侵させた。一軸糸条体から余分なエマルション溶液をピンチロールで絞り取った後、130℃の加熱ロール上で一軸方向より挿入された株式会社ツジトミ製PETスパンボンド不織布(坪量30g)と積層、圧着させて、一軸糸条体とPETスパンボンド不織布とをシート状に一体化した透水性繊維強化シートを得た。
【0058】
縦軸ヤーンの間隔は10mm、糸幅は2mm、一軸糸条体の開口率は80%であった。
【0059】
比較例1(スパンボンド不織布のみ)
株式会社ツジトミ製PETスパンボンド不織布(坪量30g)のみを透水性シートとして用意した(繊維補強層なし)。
【0060】
比較例2(スパンボンド不織布のみ)
株式会社ツジトミ製PETスパンボンド不織布(坪量80g)のみを透水性シートとして用意した(繊維補強層なし)。
【0061】
比較例3~6(三軸組布+スパンボンド不織布)
繊維補強層の条件及びスパンボンド不織布の坪量を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして三軸組布とPETスパンボンド不織布とをシート状に一体化した透水性繊維強化シートを得た。
【0062】
試験例1
<透水性繊維強化シート及び透水性シートの引張強度>
引張強度試験JIS-L-1096(A法)に準拠して各シートの機械強度を測定した。測定結果を表1に併せて示す。
<袋加工性、モルタル袋の施工性及び透水性>
透水性繊維強化シート及び透水性シートを、スリッター機で長手方向に100mm幅にて帯状にスリットし、幅50mm、長さ1000mmの長手袋状に製袋した後、内部に未硬化粉末状態のセメント混合物(以下、「セメント混合物」と略記)を充填し、直径約30mmの棒状モルタル袋とした。
【0063】
ここで、袋加工性の評価基準は、
◎…セメント混合物の漏出は認めらなかった
○…スパンボンド個体差によりセメント混合物の若干の漏出が認められた
△…充填時から目視確認できる程度のセメント混合物の少量の漏出が認められた
×…充填時からセメント混合物の多量の漏出が認められた
とした。評価結果を表1に併せて示す。
【0064】
モルタル袋の施工性(凹凸追従の形状評価)としては施工対象の法面において、100mm程度の凹凸のある箇所を選定し、この凹凸部に沿って追従するかを実際の作業によって確認した。ここで、施工性の評価基準は、
◎…凹凸追従性が良好であり、モルタル袋の破損も認められなかった
○…凹凸追従性は良好であるがやや固めであり、モルタル袋の破損は認められなかった
△…凹凸追従性は固めであり、モルタル袋の破損は認められなかった
×…凹凸追従性は固く屈曲困難であり、モルタル袋の破損も認められた
とした。評価結果を表1に併せて示す。
【0065】
モルタル袋の透水性に関しては、スパンボンド不織布の坪量及び繊維補強層の開口率に依存するが、スパンボンド不織布の坪量に依るところが大きく、坪量20g/m未満のスパンボンドを使用した場合には、施工作業中に袋に充填した未硬化粉末状態のセメント混合物の粉漏れが激しく、また、60g/m超過のスパンボンドを使用した場合は水分の浸透性が著しく低下してしまい、モルタル袋の表面がほとんど撥水状態となってしまい、モルタル袋を硬化させることが困難であった。
【0066】
評価の手順としては、セメント混合物を充填したモルタル袋を屋外平地上に静置し、1回~数回に分けて降雨5~20mmに相当する散水を行った。養生後、散水を行ったモルタル袋を長手方向と垂直方向にそれぞれ切断し、断面の固化状況からセメント混合物への水分の浸透性、即ち透水性の良否を目視確認して性能評価を行った。これらの評価は1試験箇所において3回反復させて実施した。
【0067】
ここで、透水性の評価基準は、
◎…芯部まで透水し、全体の固化状態は良好と認められた
○…透水し、固化状態は良好だが若干の個体差が認められた
△…透水し、固化しているが、一部に固化不良が認められた
×…透水不足で固化していないモルタル袋が多数認められた
とした。評価結果を表1に併せて示す。
【0068】
【表1】
【符号の説明】
【0069】
1.縦糸
2.横糸
3.縦糸1群
4.縦糸2群
5.斜め糸a
6.斜め糸b
図1
図2