(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】舵装置及び船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 25/38 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
B63H25/38 102
(21)【出願番号】P 2018069059
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000110435
【氏名又は名称】ナカシマプロペラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 康雄
(72)【発明者】
【氏名】深澤 良平
(72)【発明者】
【氏名】大場 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】若生 大輔
(72)【発明者】
【氏名】金子 杏実
(72)【発明者】
【氏名】田原 裕介
(72)【発明者】
【氏名】川島 英幹
(72)【発明者】
【氏名】川北 千春
(72)【発明者】
【氏名】白石 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】拾井 隆道
(72)【発明者】
【氏名】新川 大治朗
(72)【発明者】
【氏名】岡田 善久
(72)【発明者】
【氏名】片山 健太
(72)【発明者】
【氏名】楢村 卓志
(72)【発明者】
【氏名】沼上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】西原 主
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2012-0011482(KR,A)
【文献】欧州特許出願公開第02263936(EP,A1)
【文献】特開昭57-007798(JP,A)
【文献】実開平02-025395(JP,U)
【文献】特開昭56-063598(JP,A)
【文献】実開昭60-049097(JP,U)
【文献】実公昭50-033839(JP,Y1)
【文献】特開昭61-247594(JP,A)
【文献】実開昭58-181698(JP,U)
【文献】中国実用新案第206031741(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のプロペラの後方に取り付けられる舵の舵板として、前記プロペラの中心軸よりも上方に位置する舵板上部に設けた上部捩り部と、前記プロペラの中心軸よりも下方に位置する舵板下部に設けた下部捩り部とを、前記プロペラの回転流に対向するように反対方向に捩るとともに、前記舵板の横断面を翼型に構成し、前記上部捩り部及び前記下部捩り部の前記捩り量を前記翼型のキャンバーの大小により設定し、流向角が大きく流速の速い流れを有効に利用可能なプロペラ位置に相当する舵高さ-0.3Rpから0.2Rpの範囲において
(ここで、舵高さRpは、プロペラ軸中心を0.0とし、舵板上方をプラス、舵板下方をマイナスとし、舵高さをプロペラの直径で無次元化した値)、前記キャンバーを前記翼型のコード長で除したキャンバー比を、前記舵板下部においては-0.04以上-0.005以下の範囲に、前記舵板上部においては+0.005以上+0.03以下の範囲に設定し、かつ前記下部捩り部のキャンバー比の絶対値を前記上部捩り部のキャンバー比の絶対値よりも大きく設定した舵形状を備えたことを特徴とする舵装置。
【請求項2】
前記舵板の前記上部捩り部の上方と前記下部捩り部の下方を前記キャンバーを有さない対称翼型に構成し、前記舵板の前記キャンバーを有する
前記上部捩り部を
上方の前記キャンバーを有さない前記
対称翼型になだらかに収束させ
、前記キャンバーを有する前記下部捩り部を下方の前記キャンバーを有さない前記対称翼型になだらかに収束させたことを特徴とする請求項1に記載の舵装置。
【請求項3】
前記上部捩り部の少なくとも一部及び/又は前記下部捩り部の少なくとも一部を、前記舵板の前縁部で形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の舵装置。
【請求項4】
前記舵板の前縁端と前記プロペラの後縁端との距離を、前記プロペラの直径との比で0.05以上0.5以下に設定したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の舵装置。
【請求項5】
前記舵板上部と前記舵板下部とを別々の上部ユニットと下部ユニットとで構成し、前記舵板を前記上部ユニットと前記下部ユニットとを組み合わせて構成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の舵装置。
【請求項6】
前記上部ユニットと前記下部ユニットが舵軸に装着され、前記下部ユニットに設けた開口部において固定手段により前記舵軸に前記下部ユニットが固定されていることを特徴とする請求項5に記載の舵装置。
【請求項7】
前記舵板に省エネルギー効果を得るための付加物を備えたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の舵装置。
【請求項8】
前記開口部を前記付加物で覆う構成としたことを特徴とする請求項6を引用する請求項7に記載の舵装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の舵装置を備えた船舶であることを特徴とする船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペラにより推進する船舶の舵装置及び船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、舵の前縁部をプロペラ軸心の上下で左右に捩り、プロペラの誘起する回転流を利用して舵翼断面が推進方向の力を発生させることで、プロペラと舵との干渉により推進効率を向上させる舵装置が開発されている。この従来例では、プロペラと舵のみの干渉に着目し、プロペラの回転流によるプロペラ軸上下で対象な流れを想定し、上下対称または、工作上の都合から上下片一方で舵の前縁部をねじっている(特許文献1)。
図7は、プロペラ面における船尾伴流の流速分布図であり、プロペラは上下対称の流れを実際には誘起していないことを示している。
【0003】
なお、特許文献2には、舵板が上下に分割され、分割されたそれぞれの舵板をボルトによって連結することが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、舵板にナットによって舵軸を取り付けること、このナットによる取付部に窓を形成すること、この窓を覆い板で閉鎖することが開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、舵板にプロペラの中心軸に沿ってラダーバルブを設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実願昭60-122626号(実開昭62-31000号)のマイクロフィルム
【文献】特開2016-508923号公報
【文献】実願昭45-51634号(実開昭50-33839号)のマイクロフィルム
【文献】特開2012-162110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プロペラ及び舵は、船体の後方に位置し、船体の誘起する流れ(船尾伴流)の中で共に動作するため、
図7に示すように、プロペラは上下対称の流れを実際には誘起せず、かつ舵の捩りも上下対称、又は上下いずれか一方の捩りでは、より高い推進効率が得られないという問題点がある。
特許文献1から特許文献4については、いずれもプロペラが上下対称の流れを実際には誘起しないことを考慮したものではない。
【0008】
そこで本発明は、舵、プロペラ、及び船体の3つの流れの干渉を考慮して、より高い推進効率が得られる舵装置及び船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載に対応した舵装置においては、船舶のプロペラの後方に取り付けられる舵の舵板として、プロペラの中心軸よりも上方に位置する舵板上部に設けた上部捩り部と、プロペラの中心軸よりも下方に位置する舵板下部に設けた下部捩り部とを、プロペラの回転流に対向するように反対方向に捩るとともに、舵板の横断面を翼型に構成し、上部捩り部及び下部捩り部の捩り量を翼型のキャンバーの大小により設定し、流向角が大きく流速の速い流れを有効に利用可能なプロペラ位置に相当する舵高さ-0.3Rpから0.2Rpの範囲において(ここで、舵高さRpは、プロペラ軸中心を0.0とし、舵板上方をプラス、舵板下方をマイナスとし、舵高さをプロペラの直径で無次元化した値)、キャンバーを翼型のコード長で除したキャンバー比を、舵板下部においては-0.04以上-0.005以下の範囲に、舵板上部においては+0.005以上+0.03以下の範囲に設定し、かつ下部捩り部のキャンバー比の絶対値を上部捩り部のキャンバー比の絶対値よりも大きく設定した舵形状を備えたことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、下部捩り部のキャンバー比の絶対値を上部捩り部のキャンバー比の絶対値よりも大きく設定することで、舵とプロペラだけでなく、船体の流れを考慮した高い推進効率を得ることができる。なお、上部捩り部は舵板上部全体に亘って、また下部捩り部は舵板下部全体に亘って形成することも可能である。また、キャンバーによって捩り量を設定することで設計を容易にすることができる。また、下部捩り量を上部捩り量よりも大きくし、かつキャンバー比をこれらの範囲に設定することで、大きな推力を発生させ、舵板の推進方向の推力を主とした省エネ効果を効率的に得ることができる。また、流向角が大きく流速の速い流れを有効に利用することができる。
【0010】
請求項2記載の本発明は、舵板の上部捩り部の上方と下部捩り部の下方をキャンバーを有さない対称翼型に構成し、舵板のキャンバーを有する上部捩り部を上方のキャンバーを有さない対称翼型になだらかに収束させ、キャンバーを有する下部捩り部を下方のキャンバーを有さない対称翼型になだらかに収束させたことを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、スムーズな流れによって抵抗増加を防ぐことができる。
【0011】
請求項3記載の本発明は、上部捩り部の少なくとも一部及び/又は下部捩り部の少なくとも一部を、舵板の前縁部で形成したことを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、前縁部の形状を変えるだけでも捩りを設定できる。
【0012】
請求項4記載の本発明は、舵板の前縁端とプロペラの後縁端との距離を、プロペラの直径との比で0.05以上0.5以下に設定したことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、舵板をプロペラに近づけることで、省エネ効果を更に高めることができる。
【0013】
請求項5記載の本発明は、舵板上部と舵板下部とを別々の上部ユニットと下部ユニットとで構成し、舵板を上部ユニットと下部ユニットとを組み合わせて構成することを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、ユニット化によって組み合わせの自由度を高めることができる。
【0014】
請求項6記載の本発明は、上部ユニットと下部ユニットが舵軸に装着され、下部ユニットに設けた開口部において固定手段により舵軸に下部ユニットが固定されていることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、ユニット化した上部ユニット及び下部ユニットの取り付けを開口部によって容易にできる。
【0015】
請求項7記載の本発明は、舵板に省エネルギー効果を得るための付加物を備えたことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、付加物により、例えば、ハブ渦を低減し、舵板の流れを改善して推進効率を高めることができる。
【0016】
請求項8記載の本発明は、開口部を付加物で覆う構成としたことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、開口部の流れの抵抗を低減する蓋を兼ねることができる。
【0017】
請求項9記載の本発明は、これらの舵装置を備えた船舶であることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、舵とプロペラだけでなく、船体の流れを考慮した高い推進効率を得ることができる船舶を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の舵装置によれば、下部捩り部のキャンバー比の絶対値を上部捩り部のキャンバー比の絶対値よりも大きく設定することで、舵とプロペラだけでなく、船体の流れを考慮した高い推進効率を得ることができる。また、キャンバーによって捩り量を設定することで設計を容易にすることができる。また、下部捩り量を上部捩り量よりも大きくし、かつキャンバー比をこれらの範囲に設定することで、大きな推力を発生させ、舵板の推進方向の推力を主とした省エネ効果を効率的に得ることができる。また、流向角が大きく流速の速い流れを有効に利用することができる。
【0019】
また、舵板の上部捩り部の上方と下部捩り部の下方をキャンバーを有さない対称翼型に構成し、舵板のキャンバーを有する上部捩り部を上方のキャンバーを有さない対称翼型になだらかに収束させ、キャンバーを有する下部捩り部を下方のキャンバーを有さない対称翼型になだらかに収束させた場合には、スムーズな流れによって抵抗増加を防ぐことができる。
【0020】
また、上部捩り部の少なくとも一部及び/又は下部捩り部の少なくとも一部を、舵板の前縁部で形成した場合には、前縁部の形状を変えるだけでも捩りを設定できる。
【0021】
また、舵板の前縁端とプロペラの後縁端との距離を、プロペラの直径との比で0.05以上0.5以下に設定した場合には、舵板をプロペラに近づけることで、省エネ効果を更に高めることができる。
【0022】
また、舵板上部と舵板下部とを別々の上部ユニットと下部ユニットとで構成し、舵板を上部ユニットと下部ユニットとを組み合わせて構成する場合には、ユニット化によって組み合わせの自由度を高めることができる。
【0023】
また、上部ユニットと下部ユニットが舵軸に装着され、下部ユニットに設けた開口部において固定手段により舵軸に下部ユニットが固定されている場合には、ユニット化した上部ユニット及び下部ユニットの取り付けを開口部によって容易にできる。
【0024】
また、舵板に省エネルギー効果を得るための付加物を備えた場合には、付加物により、例えば、ハブ渦を低減し、舵板の流れを改善して推進効率を高めることができる。
【0025】
また、開口部を付加物で覆う構成とした場合には、開口部の流れの抵抗を低減する蓋を兼ねることができる。
【0026】
また、本発明の船舶によれば、これらの舵装置を備えることで、舵とプロペラだけでなく、船体の流れを考慮した高い推進効率を得ることができる船舶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態による舵装置を備えた船舶の要部構成図
【
図2】本発明の他の実施形態による舵装置の上部捩り部及び下部捩り部を示す断面図
【
図3】船体船尾で作動するプロペラが舵板に誘起する流れを数値シミュレーションした結果を示すグラフ
【
図4】比較例1、実施例1、及び比較例2のキャンバー分布と前縁比とを示す図
【
図5】比較例1、実施例1、及び比較例2の省エネ率の変化と推力減少係数の変化を示すグラフ
【
図6】数値解析によるキャンバー比と前縁比による省エネ率に与える影響を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態による舵装置について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による舵装置を備えた船舶の要部構成図である。
本実施形態の舵装置は、船舶1のプロペラ2の後方に取り付けられる舵板10として、プロペラ2の中心軸Aよりも上方に位置する舵板上部10aに設けた上部捩り部20aと、プロペラ2の中心軸Aよりも下方に位置する舵板下部10dに設けた下部捩り部20dとを、プロペラ2の回転流Bに対向するように反対方向に捩るとともに、下部捩り部20dの捩り量を上部捩り部20aの捩り量よりも大きく設定した舵形状を備えている。
【0029】
舵板10の横断面は翼型に構成し、上部捩り部20a及び下部捩り部20dの捩り量は翼型のキャンバー21a、21dの大小により設定する。キャンバー21a、21dによって捩り量を設定することで設計を容易にすることができる。
舵板10のキャンバー21a、21dを有さない部分30は、対称翼型31に構成し、キャンバー21a、21dを有する部分20、すなわち上部捩り部20a及び下部捩り部20dをキャンバー21a、21dを有さない部分30になだらかに収束させている。キャンバー21a、21dを有する部分20をキャンバー21a、21dを有さない部分30になだらかに収束させることで、スムーズな流れによって抵抗増加を防ぐことができる。
【0030】
舵板10の前縁端10fとプロペラ2の後縁端2bとの距離Cは、プロペラ2の直径Dとの比で0.05以上0.5以下に、より好ましくは0.05以上0.3以下に設定する。C/Dを0.05以上0.5以下に設定し、舵板10をプロペラ2に近づけることで、省エネ効果を更に高めることができる。
【0031】
舵板上部10aと舵板下部10dとを別々の上部ユニット10Aと下部ユニット10Dとで構成し、舵板10を上部ユニット10Aと下部ユニット10Dとを組み合わせて構成することができる。このように、ユニット化することによって組み合わせの自由度を高めることができる。
上部ユニット10Aと下部ユニット10Dは舵軸40に装着され、下部ユニット10Dに設けた開口部50において、ボルトやナットなどの固定手段60により舵軸40に下部ユニット10Dが固定される。開口部50で固定手段60によって舵軸40に下部ユニット10Dを固定することで、ユニット化した上部ユニット10A及び下部ユニット10Dの取り付けを開口部50によって容易にできる。
また、開口部50を付加物(図示せず)で覆う構成とした場合には、開口部の流れの抵抗を低減する蓋を兼ねることができる。
【0032】
図2は、本発明の他の実施形態による舵装置の上部捩り部及び下部捩り部を示す断面図である。なお、他の構成は
図1に示す構成と同一であるので説明を省略する。
図1に示す上部捩り部20a及び下部捩り部20dは、舵板10の前縁端10fから後縁端までの全体を捩ったキャンバー21a、21dで構成したが、
図2では、上部捩り部20a及び下部捩り部20dを舵板10の前縁部11で形成している。
本実施形態による舵板10は、前縁部11を除く後縁部12を対称翼型としている。上部前縁部11aと下部前縁部11dとは、プロペラ2の回転流Bに対向するように反対方向に捩るとともに、下部前縁部11dの捩り量を上部前縁部11aの捩り量よりも大きく設定している。このように、前縁部11の形状を変えるだけでも捩りを設定できる。
【0033】
なお、
図1では、舵板10の前縁端10fから後縁端までの全体を捩ったキャンバー21a、21dで構成した場合を示し、
図2では、舵板10の前縁部11だけを捩る場合を示したが、
図1に示すキャンバー21a、21dの前縁部を
図2に示す前縁部11で更に捩った構成であってもよい。
このように、上部捩り部20aの少なくとも一部及び/又は下部捩り部20dの少なくとも一部を、舵板10の前縁部11で形成することができる。
【0034】
また、図示は省略するが、バルブやフィン、フィッシュテールのような、省エネルギー効果を得るための付加物を舵板10に、例えば舵板10の左右側面に更に備えてもよい。これらの付加物により、例えば、ハブ渦を低減し、舵板の流れを改善して推進効率を高めることができる。
図1及び
図2で示すような舵装置を備えることで、舵板10とプロペラ2だけでなく、船体の流れを考慮した高い推進効率を得ることができる船舶1を提供することができる。
【0035】
なお、本実施形態による舵装置は、V型船型(例えば、肥大度0.87、接線角度40度)及びU型船型(例えば肥大度0.87、接線角度75度)のいずれにも適用できるが、V型船型の船舶に適している。ここで、V型船型とU型船型は、船尾垂線A.P.から船長(垂線間長)L.P.P.の10%前方の位置における船体のプロペラ軸(軸心)を通る水平な線と船体の接線との成す接線角度と、船体の肥大度とにより区分して定義され、接線角度θ1、θ2が、57度を超える場合の船型がU型船型、57度以下の場合の船型がV型船型と定義される。
【0036】
図3に、船体船尾で作動するプロペラが舵板に誘起する流れを数値シミュレーションした結果を示す。
図3(a)は、船長方向の軸を基準としたときの流向角の舵板高さ方向の分布を示す図、
図3(b)はそのときの流速分布を示す図である。
図3の縦軸で示す舵板高さ方向は、プロペラ軸中心を0.0とし、舵板上方をプラス、舵板下方をマイナスとし、プロペラ2の直径Dで無次元化した値で、+0.5はプロペラ2の上端位置、-0.5はプロペラ2の下端位置を表している。
【0037】
図3(a)に示すように、プロペラ2の中心軸Aよりも下方では、流向角は-0.3Rpより中心側で大きく変化し、その値は最大で30度である。また、プロペラ2の中心軸Aよりも上方では、プロペラ2の中心軸Aよりも下方と比較し、船尾伴流の影響で舵高さ方向の流向角の変化が小さい。
一方、
図3(b)に示すように、流速はプロペラ2の中心軸Aよりも下方が速く、プロペラ2の中心軸Aよりも上方では船体伴流の影響により0.1Rpより急速に減速する。このことから、舵の推進方向の推力を主とした省エネ効果(推進性能の向上)を効率的に得るためには、-0.3Rp~0.2Rpの範囲かつ特にプロペラ2の中心軸Aよりも下方に大きな捩り量を持たせることで、大きな推力を発生させることができる。
【0038】
このように、舵高さ-0.3Rp~0.2Rp、特にプロペラ2の中心軸Aよりも下方のキャンバー比0.00~0.04の範囲で可能な限り大きなキャンバー比をとると大きな推力が得られる。また、舵板上部10aでは、船体伴流の影響により流速が0.1Rpより極端に遅くなるため、翼断面に変化を付けることは、省エネの観点からも舵軸40が舵内部に入るため、構造上の観点からも好ましくない。
【0039】
図4及び
図5を用いて模型船を用いた水槽試験による舵装置の省エネ効果について説明する。
図4は、比較例1、実施例1、及び比較例2のキャンバー分布と前縁比とを示しており、
図4(a)は比較例1のキャンバー分布、
図4(b)は実施例1のキャンバー分布、
図4(c)は比較例2のキャンバー分布、
図4(d)は比較例1の前縁比、
図4(e)は実施例1の前縁比、
図4(f)は比較例2の前縁比である。
図4における縦軸は、舵板高さである。
図4(a)(b)(c)における横軸は、キャンバー21a、21dを翼型のコード長で除したキャンバー比、
図4(d)(e)(f)における横軸は、前縁部11の前端の変化量を翼型のコード長で除した前縁比である。
【0040】
比較例1は、標準舵を実用的範囲としたもの、実施例1は舵板高さが-0.3Rp~+0.2Rpの範囲において、上下非対称にキャンバー比と前縁部11の変化を加えたもの、比較例2は実施例1のリアクション量を舵板10上下で対称な変化としたものである。
【0041】
図5は、比較例1、実施例1、及び比較例2の省エネ率の変化と推力減少係数の変化を示すグラフである。
図5(a)に示すように、模型船を用いた水槽試験による燃料削減効果は、比較例1に対して比較例2は省エネ率が向上しているが、実施例1は比較例2に対して高い省エネ率を示している。
また
図5(b)に示すように、スラスト力の寄与率を示す推力減少係数においても、実施例1は、比較例1及び比較例2に対して高い効果を示している。
【0042】
図6は、数値解析によるキャンバー比と前縁比による省エネ率に与える影響を示すグラフであり、縦軸は省エネ率の推定値である。
図6(a)は横軸がキャンバー比、それぞれの折れ線が前縁比、
図6(b)は横軸が前縁比、それぞれの折れ線がキャンバー比を示している。
図6(a)に示すように、キャンバー比は0.005以上0.04以下で省エネ効果が高いが、0.005以上0.03以下、更には0.01以上0.02以下がより好ましい。
また、
図6(b)に示すように、前縁比は、0.1以上で省エネ効果が高いが、0.1以上0.2以下がより好ましい。
【0043】
図3に示す数値シミュレーションの結果、
図4及び
図5に示す模型船を用いた水槽試験による舵装置の省エネ効果、
図6に示す数値解析によるキャンバー比と前縁比による省エネ率に与える影響から、キャンバー21a、21dを翼型のコード長で除したキャンバー比を、舵板下部10dにおいては-0.04以上-0.005以下の範囲に、舵板上部10aにおいては+0.005以上+0.03以下の範囲に設定することが好ましい。下部捩り量を上部捩り量よりも大きくし、かつキャンバー比をこれらの範囲に設定することで、大きな推力を発生させ、舵板10の推進方向の推力を主とした省エネ効果を効率的に得ることができる。
また、キャンバー21a、21dは、舵板下部10dにおいては舵板下部10dの上下方向の-0.5以上0.0以下の範囲に、舵板上部10aにおいては舵板上部10aの上下方向の0.0以上+0.4以下の範囲に形成することが好ましく、流向角が大きく流速の速い流れを有効に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の舵装置によれば、船体の流れを考慮した高い推進効率を得ることができ、V型船型及びU型船型のいずれの船舶にも適用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 船舶
2 プロペラ
2b 後縁端
10 舵板
10a 舵板上部
10d 舵板下部
10f 前縁端
10A 上部ユニット
10D 下部ユニット
11 前縁部
11a 上部前縁部
11b 下部前縁部
12 後縁部
20 キャンバー有する部分
20a 上部捩り部
20d 下部捩り部
21a、21d キャンバー
30 キャンバー有さない部分
31 対象翼型
40 舵軸
50 開口部
60 固定手段
A 中心軸
B 回転流
C 距離
D 直径