(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】落下物受け具とこれを用いた落下物報知装置
(51)【国際特許分類】
B61B 1/02 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
B61B1/02
(21)【出願番号】P 2019104402
(22)【出願日】2019-06-04
【審査請求日】2022-05-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.平成30年6月6日~8月31日、東京急行電鉄用賀駅にて運用試験を実施 2.平成30年9月5日、第18回東急電気グループ技術・業務発表会にて発表 3.平成30年11月27日、東京急行電鉄用賀駅にて追加設置を実施 4.平成31年2月8日、第32回鉄道電気テクニカルフォーラム発表会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000157278
【氏名又は名称】丸五ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【氏名又は名称】田中 秀明
(73)【特許権者】
【識別番号】519341913
【氏名又は名称】東急電鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 泰明
(72)【発明者】
【氏名】中野 将之
(72)【発明者】
【氏名】永井 誠一
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】草薙 拓也
(72)【発明者】
【氏名】原 修太郎
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4771698(US,A)
【文献】特開2005-001503(JP,A)
【文献】特開2003-175823(JP,A)
【文献】特開2002-350458(JP,A)
【文献】特開2010-012977(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0108687(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61B 1/02
B61L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駅のホームとレールとの間への落下物を受ける落下物受け具であって、
吊り支持体により吊り下げられた天板から構成され、
吊り支持体は、レール脇の道床又は路盤に設置される固定本体と、前記固定本体から降ろされて天板に接続される弾性吊り下げ体とからなる落下物受け具。
【請求項2】
吊り支持体の固定本体は、天板の上方に張り出す掛止面を設けた請求項1記載の落下物受け具。
【請求項3】
吊り支持体の弾性吊り下げ体は、可撓性を有する長尺部材で、天板に設けた2個1組の貫通孔から両端部を上向きに突出させ、
吊り支持体の固定本体は、前記弾性吊り下げ体の両端部を挟持及び解放自在な保持部を設けた請求項1又は2いずれか記載の落下物受け具。
【請求項4】
吊り支持体の固定本体は、レール脇に固定される下段固定本体と、弾性吊り下げ体を降ろす上段固定本体とから構成され、下段固定本体に対する上段固定本体の連結位置を調整自在とした請求項1~3いずれか記載の落下物受け具。
【請求項5】
駅のホームとレールとの間に落下物があると駅員に報知する落下物報知装置であって、
駅のホームとレールとの間の道床又は路盤から離れた高さで、検知手段としての長尺な検知用可撓体を前記ホームに沿って架設し、引っ張り力を受けると作動する報知部を前記検知用可撓体の少なくとも一端に接続すると共に、天板を前記検知用可撓体に添わせた状態で請求項1~請求項4いずれか記載の落下物受け具を道床又は路盤に設置した落下物報知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駅のホームとレールとの間への落下物(利用客の物や転落した利用客等)を受ける落下物受け具と、これを用いた落下物報知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駅のホームとレールとの間に落下物があると、物を拾うために利用客が勝手に線路内の道床又は路盤に降りたり、転落した利用客が動けなくなったり、列車の通行を阻害する。この場合、駅員が目視により落下物を確認できれば、物を除去したり、利用客を救助したりする等、すぐに対応できる。しかし、限られた人員の駅員がホーム全体を監視し、落下物を確実に認識することは難しい。こうした事情から、従来、落下物があると遅滞なく駅員に報知する落下物報知装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1は、駅のホームとレールとの間の道床又は路盤から離れた高さで前記ホームに沿って架設される検知用可撓体の一端を固定し、他端を移動自在に設け、前記他端をダッシュポットのシリンダ(又はピストン)に、報知装置をダッシュポットのピストン(又はシリンダ)に接続した落下物報知装置(転落報知装置)を開示する(特許文献1・特許請求の範囲)。検知用可撓体は、金属線が例示されている(特許文献1・第1頁第2欄15行)。また、報知装置は、開閉器を切断すると作動するアラームを例示する(特許文献1・第1頁第2欄18行~20行)。
【0004】
特許文献1が開示する落下物報知装置は、主に転落した利用客を対象に、次のように作動する。利用客が駅のホームとレールとの間に転落すると、利用客が検知用可撓体を下方に撓ませる。撓んだ検知用可撓体は、一端が固定されているため、移動自在な他端がダッシュポットのシリンダを引っ張る。このとき、検知用可撓体の撓みが急激であるため、シリンダに設けたオリフィスから流入する空気が間に合わず、前記シリンダ内が負圧となってピストンを引っ張る。この結果、開閉器が切断され、アラームを作動させる(特許文献1・第2頁第3欄15行~第4欄15行)。
【0005】
特許文献1が開示する落下物報知装置は、寒暖の差により検知用可撓体が伸縮しても、アラームを誤作動させない。寒暖の差により検知用可撓体が伸縮してシリンダが動く場合、シリンダの動きは緩慢で、シリンダに設けたオリフィスから空気を吸気又は排気されて前記シリンダ内が負圧にならないので、ピストンを引っ張らない。この結果、ピストンが止まって開閉器を切断せず、アラームを誤作動させない(特許文献1・第2頁第4欄16行~第5欄8行)。こうして、特許文献1が開示する落下物報知装置は、転落した利用客による検知用可撓体の撓みと寒暖の差による検知用可撓体の伸縮とを区別する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1でも触れているように、落下物報知装置の誤作動を防止することは肝要である。例えば利用客に危険がなく、列車の通行も阻害しない落下物でも報知されると、その度に対応する駅員に労力及び手間が要求され、最悪列車を停止させて運行に支障が生じさせる虞が出てくる。特許文献1が開示する落下物報知装置は、確かに寒暖の差による誤作動を回避できるが、列車の通行に支障のない落下物でも報知されることがあり、駅員の労力及び手間が過剰になる場合があった。そこで、列車の通行に支障のない落下物で落下物報知装置を作動させない補助具を開発し、これを用いた落下物報知装置を検討した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
検討の結果開発したものが、駅のホームとレールとの間への落下物を受ける落下物受け具であって、吊り支持体により吊り下げられた天板から構成され、吊り支持体は、レール脇の道床又は路盤に設置される固定本体と、前記固定本体から降ろされて天板に接続される弾性吊り下げ体とからなる落下物受け具である。本発明の落下物受け具は、駅のホームとレールとの間への落下物を落下物報知装置の検知手段(落下物を検知する手段)に先行して天板で受け、設定重量以上の落下物による衝撃が与えられれば吊り支持体の弾性吊り下げ体を伸張させて天板の姿勢を変化させ、落下物又は姿勢を変化させた天板を落下物報知装置の検知手段に検知させる。落下物受け具は、落下物による衝撃がなくなると落下物の重量によって天板を若干上昇させることもあるが、基本的に前記落下物の重量に応じて下降した状態を維持し、落下物が天板から取り除かれれば、吊り支持体の弾性吊り下げ体を縮退させて天板を初期姿勢に復帰させ、前記検知手段の検知状態を解除する。
【0009】
天板は、駅のホームとレールとの間に収まり、かつ落下物報知装置の検知手段を覆う大きさ又は形状の面材であればよく、平坦面を基本とするが、例えば上方に凸な湾曲面でもよい。天板は、駅のホームとレールとの間を埋める均一の幅で、隣り合う天板同士が隙間なく並べば落下物をもれなく受け止めることができるので、平面視長方形が望ましい。天板が平面視長方形である場合、4基の吊り支持体を天板の四隅に配置するとよい。また、天板は、撓んで部分的に凹まない剛性を備え、耐候性を備えていれば素材を問わない。
【0010】
吊り支持体は、伸縮する弾性吊り下げ体を介して天板を吊り下げ状態で支持する。天板は、例えば一端を道床又は路盤に接地させ、他端を吊り支持体に支持された傾斜姿勢でもよい。しかし、複数の検知手段が水平に並んで設定されている落下物報知装置に落下物受け具を適用する場合、検知手段と平行に水平姿勢で支持するため、天板は少なくとも3基の吊り支持体で支持する必要がある。また、初期の姿勢を保ったまま天板を下降させる場合、天板は4基以上の吊り支持体で支持される必要がある。
【0011】
弾性吊り下げ体は、天板に設定重量以上が加わると伸張し、前記設定重量が除去されると縮退して初期状態に復帰する弾性部材である。こうした弾性吊り下げ体は、例えば固定本体から下方の天板を結ぶコイルスプリングや、可撓性を有する長尺部材であるゴムチューブ、ゴムベルトやゴム紐を例示できる。可撓性を有する長尺部材である弾性吊り下げ体は、固定本体から1本降ろして天板を吊り下げるほか、固定本体から複数本降ろして天板を吊り下げもよいし、1本又は複数本を折り返す又は掛け回して天板を吊り下げてもよい。
【0012】
吊り支持体の固定本体は、天板の上方に張り出す掛止面を設けるとよい。吊り下げ状態で支持されている天板は、道床又は路盤との間に吹き込んだ風により浮き上がってしまう虞がある。掛止面は、天板の浮き上がりを抑制又は防止する。ここで、設置された天板が掛止面に下方から押し当てられた状態であると、掛止面に合わせて天板の高さが容易に設定できることになる。更に、弾性吊り下げ体が天板を引っ張り上げていると、天板が掛止面に下方から押し当てられ、がたつきなく姿勢を安定させる。
【0013】
受ける衝撃により天板が下降する落下物の設定重量は、弾性吊り下げ体の弾性率のほか、天板を引っ張り上げる弾性吊り下げ体の引っ張り力によって決定される。そして、弾性率の異なる弾性吊り下げ体を交換したり、同じ弾性吊り下げ体の引っ張り力を加減調整したりすると、落下物受け具の設置後、設定重量を再調整できる。弾性吊り下げ体の引っ張り力を加減調整する構成として、吊り支持体の弾性吊り下げ体は、可撓性を有する長尺部材で、天板に設けた2個1組の貫通孔から両端部を上向きに突出させ、吊り支持体の固定本体は、前記弾性吊り下げ体の両端部を挟持及び解放自在な保持部を設ける構成がある。弾性吊り下げ体の端部は、長尺部材である弾性吊り下げ体の切断端から一定範囲の部分を意味する。
【0014】
可撓性を有する長尺部材である弾性吊り下げ体は、既述したようにゴムチューブやゴムベルトで、U字状に折り返し、折り返し部分を天板の下面に密着させ、両端部を貫通孔から上向きに突出させる。これにより、両端部を固定本体で保持すれば、弾性吊り下げ体を介して天板を吊り下げ状態で支持できる。保持部は、前記弾性吊り下げ体の両端部を挟持することで保持し、弾性吊り下げ体による天板の吊り下げ状態を実現する。また、保持部は、挟持した両端部を解放すれば、弾性吊り下げ体による引っ張り力を加減調整させることができる。
【0015】
また、吊り支持体の固定本体は、レール脇に固定される下段固定本体と、弾性吊り下げ体を降ろす上段固定本体とから構成され、下段固定本体に対する上段固定本体の連結位置を調整自在とするとよい。これにより、掛止面がない又は掛止面が上段固定本体に設けられている場合、天板は、弾性吊り下げ体を介して繋がれた上段固定本体に連れて移動するので、下段固定本体に対する上段固定本体の連結位置に合わせて、落下物報知装置の検知手段に対する位置関係が調整できる。また、掛止面が下段固定本体に設けられている場合、下段固定本体に対する上段固定本体の連結位置に合わせて、落下物報知装置の検知手段に対する位置関係が調整できるほか、天板が掛止面に下方から押し当てられた状態で更に下段固定本体に対する上段固定本体の連結位置を調整すると、弾性吊り下げ体が伸縮して引っ張り力を加減調整できる。
【0016】
本発明の落下物受け具を用いた落下物報知装置は、次のように構成できる。すなわち、駅のホームとレールとの間の道床又は路盤から離れた高さで、検知手段としての長尺な検知用可撓体を前記ホームに沿って架設し、引っ張り力を受けると作動する報知部を前記検知用可撓体の少なくとも一端に接続すると共に、天板を前記検知用可撓体に添わせた状態で本発明の落下物受け具を道床又は路盤に設置した落下物報知装置である。検知手段としての長尺な検知用可撓体は、弾性を有さず、落下物の接触によっても切断しにくい糸条が好ましく、ピアノ線やワイヤーを例示できる。
【0017】
本発明の落下物報知装置は、検知手段としての長尺な検知用可撓体を前記ホームに沿って架設し、引っ張り力を受けると外部に報知する報知部を前記検知用可撓体の少なくとも一端に接続した既設の落下物報知装置(特許文献1相当)に、本発明の落下物受け具を追加設置した構成を含む。報知部は、検知用可撓体から引っ張り力を受ける報知装置単独で構成される場合や、特許文献1が開示するように、検知用可撓体が接続されるダッシュポットと前記ダッシュポットが接続される報知装置とから構成される場合を含む。
【0018】
本発明の落下物報知装置は、天板が下降して変位した場合のみ、落下物による衝撃を受けた天板又は落下物が検知用可撓体を撓ませて報知部に引っ張り力を加え、前記報知部が外部に報知する。ここで、「天板を検知用可撓体に添わせる」とは、検知用可撓体を天板の上面又は下面に当接させる状態のほか、検知用可撓体を天板の上面又は下面に近接させる状態を含む。検知用可撓体を天板の上面に添わせた場合、落下物による衝撃を受けた天板が下降すると前記落下物が検知用可撓体を撓ませる。また、検知用可撓体を天板の下面に添わせた場合、落下物による衝撃を受けて下降する天板が検知用可撓体を撓ませる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の落下物受け具は、設定重量未満で降下しない天板を用いることにより、落下物報知装置の検知手段が検知する落下物を、前記設定重量を閾値として選別する。これにより、列車の通行に支障のない落下物で落下物報知装置を作動させないことができる。ここで、落下物報知装置の検知手段は、天板が大きく変位しないと作動しないもの(例えば特許文献1の検知用可撓体)もあるところ、本発明の落下物受け具は、弾性吊り下げ体の伸張する範囲で天板を大きく変位させることができるため、大きな変位を要する検知手段を用いた特許文献1記載の落下物報知装置にも利用できる利点がある。
【0020】
吊り支持体の固定本体に設けた掛止面は、天板と道床又は路盤との間に吹き込む風による天板の浮き上がりを抑制又は防止する。更に、弾性吊り下げ体が引っ張り上げる天板を押し当てることにより、天板をがたつかせることなく安定させる。これにより、天板ががたつくことによる落下物報知装置の検知手段の誤作動を防止できる。また、天板の姿勢が安定しているため、弾性吊り下げ体が不必要に伸縮することがなく、弾性吊り下げ体の経時的な劣化を抑制したり、過剰な伸縮に起因する破損を回避したりしうる効果もある。
【0021】
吊り支持体の弾性吊り下げ体を可撓性を有する長尺部材とし、天板から両端部を上向きに突出させると共に、吊り支持体の固定本体に前記両端部を保持部により挟持及び解放自在にすると、弾性吊り下げ体による天板の引っ張り力を加減調整して、天板が下降する衝撃を与える落下物の設定重量を調整できる。これにより、落下物受け具を設置した後、落下物の選別条件の変更があって設定重量を調整したい場合はもちろん、部材の劣化等に伴う経時的な設定重量の変動を調整により元に戻すことができる。
【0022】
吊り支持体の固定本体が、連結位置を調整自在な下段固定本体及び上段固定本体から構成されると、落下物報知装置の検知手段に対する天板の位置関係を調整したり、弾性吊り下げ体の引っ張り力を加減調整したりできる。落下物報知装置の検知手段に対する天板の位置関係の調整は、落下物受け具を設置した後、前記位置関係を調整して最適化できることを意味し、落下物受け具の設置の容易さをもたらす。また、弾性吊り下げ体の引っ張り力の加減調整は、上述通り、落下物の選別条件の変更に伴う設定重量の調整や、経時的な設定重量の変動を調整する利点をもたらす。
【0023】
本発明の落下物受け具を用いた落下物報知装置は、設定重量で検知する落下物を選別し、列車の通行に支障のない落下物で報知しなくなる。本発明の落下物報知装置は、本発明の落下物受け具と検知手段及び報知部を一体に構成することが望ましい。しかし、本発明の落下物報知装置は、別体である本発明の落下物受け具を既設の落下物報知装置に追加して、現場で簡単に構成することもできる。これは、本発明の落下物受け具が、外部電源等を必要せず、既設の落下物報知装置と物理的な関係のないことから導かれる効果であり、本発明の落下物報知装置を普及しやすくしている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の落下物受け具を用いた落下物報知装置の本例を表す斜視図である。
【
図2】本発明の落下物受け具を用いた落下物報知装置の別例を表す斜視図である。
【
図3】本例の落下物受け具を構成する吊り支持体の斜視図である。
【
図4】本例の落下物受け具を構成する吊り支持体の正面図である。
【
図5】本例の落下物受け具を構成する吊り支持体の背面図である。
【
図6】本例の落下物受け具を構成する吊り支持体の平面図である。
【
図7】本例の落下物受け具を構成する吊り支持体の右側面図である。
【
図8】本例の落下物受け具を構成する吊り支持体の分解斜視図である。
【
図9】設定重量Ms未満の重量Maである落下物が落下した状態の吊り支持体を表す右側面図である。
【
図10】設定重量Ms未満の重量Maである落下物が落下した状態の吊り支持体を表す背面図である。
【
図11】設定重量Ms以上の重量Mbである落下物が落下した状態の吊り支持体を表す右側面図である。
【
図12】設定重量Ms以上の重量Mbである落下物が落下した状態の吊り支持体を表す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。本発明の落下物受け具2を用いた落下物報知装置1は、例えば
図1に見られるように、駅のホームとレールとの間の路盤5から離れた高さで、長尺な検知用可撓体11を前記ホームに沿って架設して一端を固定端部13に固定し、引っ張り力を受けると作動する報知部12を前記検知用可撓体11の他端に接続すると共に、天板4を前記検知用可撓体11に下方から添わせた状態で、複数の落下物受け具2を路盤5に設置して構成される。隣り合う落下物受け具2は、天板4の高さを揃え、検知用可撓体11の延在方向に向きを揃えながら、隙間を小さくして並べる。
【0026】
本例の検知用可撓体11は、伸縮せずに可撓性を発揮するワイヤーである。検知用可撓体11は、一端が固定端部13に固定されているため、落下物が落ちてくると撓んで他端を引っ張り、前記他端が接続された報知部12に引っ張り力を加え、作動させる。本例の固定端部13は、路盤5に固定した板金状の支柱であるが、検知用可撓体11が架設する高さで一端を固定できれば、構成を問わない。検知用可撓体11は、天板4が下降する重量の落下物が落下してくると、天板4が下降する範囲で、前記落下物が当たる部分を撓ませる(後掲
図11及び
図12参照)。
【0027】
報知部12は、検知用可撓体11から引っ張り力を受けると、落下物が落ちたことを外部に直接報知する、又は外部に報知信号を出力し、外部の報知手段を作動させて報知する。報知部12は、特許文献1が開示するダッシュポットでアラームのスイッチを入切する構成を例示できる。本例の報知部12は、引っ張り力を受けて外部に報知信号を出力し、報知手段であるスピーカー121から警告音を発する。図示を省略するが、スピーカー121に代えて、又はスピーカー121に加えて警告を表示するモニタを報知手段として用いてもよい。
【0028】
本例の落下物受け具2は、検知用可撓体11の延在方向に長い平面視長方形の天板4を、四隅の吊り支持体3で吊り下げ状態で支持する。吊り下げ支持体3は、路盤5に固定される下段固定本体31と、前記下段固定本体31に対して上下方向の位置を調整して連結される上段固定本体32と、前記上段固定本体32から降ろされた弾性吊り下げ体33とから構成される。天板4は、弾性吊り下げ体33に引っ張り上げられ、上段固定本体32が有する掛止面321に下方から押し当てられ、例えば天板4の下方に風が吹き込んだとしても、がたつきなく支持される。
【0029】
別例の落下物報知装置1は、
図2に見られるように、検知用可撓体11に上方から天板4の下面を添わせた構成で、天板4が下降する衝撃を与える重量の落下物が落下してくると、下降する天板4が全体で検知用可撓体11を押さえて撓ませる。本例の落下物報知装置1は、検知用可撓体11が上方から視認でき、切断等の不具合に際して交換しやすい利点がある。これに対し、別例の落下物報知装置1は、天板4が検知不要な落下物から検知用可撓体11を保護したり、天板4の広い部分で検知用可撓体11を撓ませて確実に報知部12を作動させたりすることのできる利点がある。
【0030】
本例の吊り支持体3は、
図3~
図8に見られるように、直交する固定面311及び起立面313を有する板金部材の下段固定本体31と、直交する掛止面321及び連結面324を有する板金部材の上段固定本体32と、前記下段固定本体31に端部が保持され、前記上段固定本体32から降ろされたゴムチューブである弾性吊り下げ体33とから構成される。天板4は、天板4の短手方向(検知用可撓体11の延在方向に直交する方向)に線対称に2つ、天板4の長手方向(検知用可撓体11の延在方向)に横並びで2つ、合計4つの吊り下げ支持体3で支持される。
【0031】
下段固定本体31は、水平な固定面311から垂直な起立面313を起こして構成される側面視L字状の板金部材である。固定面311は、やや横長な平面視長方形の金属板で、天板4の短手方向に延びる固定用長孔312を有し、路盤5に設けた固定用ボルト51を前記固定用長孔312から突出させ、固定用ナット52を前記固定用ボルト51に締め付けて、路盤5に固定する。吊り下げ支持体3は、固定面311の固定用長孔312の範囲で固定用ボルト51の突出位置を変えることにより線対称な位置関係にある吊り支持体3との間隔が調整できる。また、吊り下げ支持体3は、固定用ボルト51を軸として水平回転させることにより、天板4に対する吊り支持体3の水平向きが調整できる。
【0032】
起立面313は、固定面311と同幅かつ縦長な正面視長方形の金属板で、正面側(
図3中左下側)の概ね上半分の範囲に、上下方向に延びる連結用長孔314を左右対称に2本並べて設け、上下中間付近に、弾性吊り下げ体33の保持部を構成する保持枠316を取り付け、前記保持枠316下方に前記弾性吊り下げ体33の端部を差し込む押え用枠318を設けている。本例の起立面313は、弾性吊り下げ体33が伸縮する際に擦れる虞のある上縁を面取りし、前記弾性吊り下げ体33の物理的な損耗又は損傷を抑制又は防止している。
【0033】
連結用長孔314は、上段固定本体32に設けた左右一対の連結用ボルト325を、上下方向の任意の位置から突出させ、連結用ナット326を締め付けることにより、起立面313の背面と連結面324の正面とを接面させた状態で、下段固定本体31及び上段固定本体32を連結させる。連結用ボルト325は、連結用長孔314に沿って上下方向にしか突出する位置を変更できない。これにより、上段固定本体32は、下段固定本体31に対して左右の位置関係をずらすことなく、上下方向の位置関係だけが調整できる。
【0034】
保持用枠316は、横長の正面視長方形である押さえ面の左右両端に、起立面313に向けて凸なリブを形成した平面視コ字状の板金部材である。保持用枠316は、押さえ面中央に設けたボルト孔から、起立面313の正面側に設けた保持用ボルト315を貫通させ、起立面313と共に弾性吊り下げ体33を挟持した状態で保持用ナット317を締め付け、起立面313に固定される。リブは、保持用枠316と起立面313との隙間を規制し、前期隙間が狭くなり過ぎて、弾性吊り下げ体33が圧壊することを防止する。保持用枠316は、保持用ボルト315に締め付ける保持用ナット317を二重にし、前記保持用ナット317の緩みを抑制又は防止して、弾性吊り下げ体33を挟持する状態を保つ。
【0035】
押さえ用枠318は、平面視コ字状に折り曲げた金属製の棒体である。弾性吊り下げ体33は、端部が保持用枠316に収まれば保持できるが、この場合、保持用枠316の押さえ込みを緩めると端部が前記保持用枠316から遠く離れ、再び押さえ込む作業が大変になる。そこで、本例の弾性吊り下げ体33は、保持用枠316から端部が十分に突出する長さとし、緩めた保持用枠315に端部を抜き差しして天板4の吊り下げ具合を調整可能にしている。ところが、保持用枠316から突出する端部は、前記保持用枠316の押さえ込みにより跳ね上がり、邪魔になる。押さえ用枠318は、保持用枠316からはみ出した弾性吊り下げ体33の端部を通し、前記端部の跳ね上げを防止する。
【0036】
上段固定本体32は、水平な掛止面321から垂直な連結面324を下ろして構成される側面視L字状の板金部材である。掛止面321は、下段固定本体31の起立面313と同幅かつ横長な平面視長方形の金属板で、天板4の長手方向に延びる挿通長孔322を有している。本例の挿通長孔322は、正面寄り(
図3中左下寄り)に、掛止面321の厚みの2倍の外径を有する金属棒を嵌め込んで固定し、前記金属棒が覗く上半分を迂回用ブロック323としている。迂回用ブロック323は、下段固定本体31から上方へ延ばしてきた弾性吊り下げ体33を天板4に向けて折り返す際、前記弾性吊り下げ体33の曲率半径を大きくして、弾性吊り下げ体33の屈曲を防止する。
【0037】
本例の掛止面321は、弾性吊り下げ体33で引き上げた天板4を下方から接面状態で押し当てることにより、前記天板4のがたつきを抑制又は防止する。また、本例の掛止面321は、天板4を下方から接面状態で押し当てて天板4の高さを制限することにより、前記天板4の高さを決定する働きを有する。本例の天板4は、検知用可撓体11に下方から上面を添わせる高さにしている。これから、掛止面321の下面と検知用可撓体11の下縁とを上下方向に一致させると、前記掛止面321の下面に接面状態となる天板4は、自ずと検知用可撓体11に下方から上面を添わせる高さに設定される。
【0038】
連結面324は、下段固定本体31の起立面313と同幅かつ横長な金属板で、正面側(
図3中左下側)の下半分から、前記起立面313に設けた連結用長孔314と同じ間隔で並ぶ左右一対の連結用ボルト315を突出している。上段固定本体32は、連結用長孔314における連結用ボルト315が突出する位置を加減することにより、下段固定本体31に対する上下方向の位置(高さ)を調整する。こうした上段固定本体32の高さ調整は、上述の通り、掛止面321を介した天板4の高さ調整の意味も有する。
【0039】
天板4は、剛性及び耐候性を備えた樹脂板で、吊り支持体3により支持される四隅に、弾性吊り下げ体33を通す左右一対の貫通孔42を設けると共に、前記貫通孔42に挟まれた範囲の下面側に、弾性吊り下げ体33を掛け回す半円弧状の掛け回しブロック41を固着している。天板4は、剛性及び耐候性を備えたものであればよいため、例えば絶縁を施した金属板やセラミックス板、撥水性又は耐水性を高めて耐候性を付与した木製板でもよい。また、天板4下方の路盤5や天板4の下面に添わせた検知用可撓体11の状態を視認するため、透明な素材(樹脂、ガラス又はセラミックス)を一部又は全部に用いた天板4を構成してもよい。このほか、天板4は、剛性を確保するため、例えば検知用可撓体11を沿わせない下面(
図1参照)又は上面(
図2参照)に補強桟を掛け渡してもよい。
【0040】
掛け回しブロック41は、U字状に折り返し、天板4の貫通孔42から両端部を上向きに突出させた弾性吊り下げ体33の折り返し部分を下方から掛合させる(
図8参照)。これにより、伸長した弾性吊り下げ体33は、縮もうとする弾性力を掛け回しブロック41全体に満遍なく加え、天板4を引き上げる。弾性吊り下げ体33は、可撓性を有するので、天板4の貫通孔42を抜けたところで折り曲げ、折り返し部分を直接天板4の下面に掛合させることもできる。しかし、天板4の貫通孔42を抜けたところで折り曲げた弾性吊り下げ体33は、弾性力が折り返し部分のほとんどが縮もうとする弾性力を天板4に加えることがなく、前記弾性力が貫通孔42の縁部に集中する結果、前記貫通孔42の縁部に擦れて破損する虞がある。掛け回しブロック41は、こうした弾性吊り下げ体33の破損を回避させる。
【0041】
弾性吊り下げ体33は、可撓性及び伸縮性を備えたゴムチューブである。本例の弾性吊り下げ体33は、U字状に折り返し、天板4の貫通孔42から両端部を上向きに突出させ、上段固定本体32の掛止面321の挿通長孔322を通した前記両端部を迂回ブロック323に掛け回し、連結面324から下段固定本体31の起立面313に添わせながら前記両端部を連結用ナット326の間を下ろし、保持用枠316と起立面313とで挟持させて、前記両端部を下段固定本体32に保持する。保持用枠316から下方に突出する両端部は、既述したように、押さえ用枠318に差し込み、跳ね上げが防止される。
【0042】
本例の弾性吊り下げ体33は、迂回用ブロック323や掛け回しブロック41に滑らかに掛け回され、屈曲する部分がないので、落下物による衝撃を受けて天板4が下降すると、天板4の掛け回しブロック41に掛け回した部分から保持用枠316に押さえられた両端部までに至る部分を全体的に伸長させることができる。これにより、弾性吊り下げ体33は、大きな伸縮量を実現する。天板4は、設定重量Ms以上である重量Mbの落下物7が落ちてきた際(
図11及び
図12参照)、報知部12に引っ張り力を加える程度に検知用可撓体11を撓ませるまで下降できればよい。本例の弾性吊り下げ体33が確保する伸縮量は、前記天板4に要求される下降量を満足する。
【0043】
また、本例のように、ゴムチューブである弾性吊り下げ体33を折り返して天板4を支持する構成は、吊り支持体2がそれぞれ2本の弾性吊り下げ体33を有する構成に相当する。このように、吊り支持体2が弾性吊り下げ体33を2本有する構成は、弾性吊り下げ体33単体での弾性率が低くても(伸縮しやすくても)、設定重量Msを高く設定することができる。落下物報知装置1が作動する設定重量Msは、1kg~10kgの範囲で設定することが想定されることから、ゴムチューブである弾性吊り下げ体33を折り返して天板4を支持する構成の採用は、弾性率の低いゴムチューブを弾性吊り下げ体33としながら、設定重量Msを前記範囲に設定しやすくする利点がある。
【0044】
本例の落下物報知装置1による落下物6,7の検知を、落下物受け具2の働きに即して説明する。まず、弾性吊り下げ体33が伸長し始める設定重量Ms未満の重量Maである落下物6が検知用可撓体11の上に落ちてきた場合、
図9及び
図10に見られるように、重量Maである落下物6の衝撃を受けても、弾性吊り下げ体33を伸長させて天板4を下降させることがない。天板4が下降しないので、当然に検知用可撓体11は撓むことがなく、検知用可撓体11の他端も引っ張られないので、報知部12も作動しない。こうして、設定重量Ms未満の重量Maである落下物6が検知用可撓体11の上に落ちてきた場合、本例の落下物報知装置1は外部に報知することがない。
【0045】
次に、弾性吊り下げ体33が伸長し始める設定重量Ms以上の重量Mbである落下物7が検知用可撓体11の上に落ちてきた場合、
図11及び
図12に見られるように、重量Mbである落下物7の衝撃を受けて、弾性吊り下げ体33を伸長させて天板4が下降する。このとき、落下物7が検知用可撓体11に乗っていれば、前記検知用可撓体11は落下物7の衝突に応じて撓み、検知用可撓体11の他端を引っ張って、報知部12を作動させる。こうして、設定重量Ms以上の重量Mbである落下物7が検知用可撓体11の上に落ちてきた場合、本例の落下物報知装置1は外部に報知する。
【0046】
本例の落下物報知装置1は、設定重量Msにより、外部への報知が選択される。設定重量Msは、弾性吊り下げ体33が伸長し、天板4が下降し始める衝撃を前記天板4に与える落下物の重量である。そして、弾性吊り下げ体33が伸長し始める負荷の大きさは、保持用枠316が保持する弾性吊り下げ体33の両端部の位置により加減できる。例えば、予め弾性吊り下げ体33が伸長していれば、既に縮む方向の弾性力が発生しており、重い落下物が天板4に落ちてこないと、弾性吊り下げ体33を更に伸長させ、天板4を下降させない。ここで、本例の落下物報知装置1は、天板4を掛止面321に下方から押し当てた状態で設置されるため、天板4の高さが変わることはない。
【0047】
こうして、本例の落下物報知装置1は、保持用枠316が保持する弾性吊り下げ体33の両端部の位置の変更により、設定重量Msを調整できる。また、弾性吊り下げ体33が経時的に劣化して天板4を引っ張り上げる力が変化すると設定重量Msが変化するところ、前述同様、保持用枠316が保持する弾性吊り下げ体33の両端部の位置の変更により、設定重量Msを再設定できる。そして、本発明の落下物報知装置1は、検知用可撓体11が検知できる落下物を、前記検知用可撓体11の架設状態や報知部12の内部調整によることなく、保持用枠316が保持する弾性吊り下げ体33の両端部の位置の変更で対応できる利点を得る。
【符号の説明】
【0048】
1 落下物報知装置
11 検知用可撓体
12 報知部
13 固定端部
2 落下物受け具
3 吊り支持体
31 下段固定本体
32 上段固定本体
33 弾性吊り下げ体
4 天板
41 掛け回しブロック
42 貫通孔
5 路盤
51 固定用ボルト
52 固定用ナット
6 小さい落下物
7 大きい落下物