IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人京都工芸繊維大学の特許一覧 ▶ 株式会社安藤・間の特許一覧

<>
  • 特許-制振装置、及び制振構造 図1
  • 特許-制振装置、及び制振構造 図2
  • 特許-制振装置、及び制振構造 図3
  • 特許-制振装置、及び制振構造 図4
  • 特許-制振装置、及び制振構造 図5
  • 特許-制振装置、及び制振構造 図6
  • 特許-制振装置、及び制振構造 図7
  • 特許-制振装置、及び制振構造 図8
  • 特許-制振装置、及び制振構造 図9
  • 特許-制振装置、及び制振構造 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】制振装置、及び制振構造
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20230322BHJP
   F16F 15/06 20060101ALI20230322BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20230322BHJP
   E01D 19/04 20060101ALI20230322BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/06 G
E04H9/02 341C
E04H9/02 341D
E01D19/04 101
H02J7/00 303Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019131124
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021014905
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 奈々子
(72)【発明者】
【氏名】青島 圭汰
(72)【発明者】
【氏名】富岡 佐和子
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 岳郎
(72)【発明者】
【氏名】副島 幸也
(72)【発明者】
【氏名】千野 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】西村 毅
(72)【発明者】
【氏名】澤田 純之
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-256591(JP,A)
【文献】特開2017-089151(JP,A)
【文献】特開平06-212834(JP,A)
【文献】特開2013-177744(JP,A)
【文献】特開2012-046936(JP,A)
【文献】特開2010-281407(JP,A)
【文献】特開2010-139024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 15/06
E04H 9/02
E01D 19/04
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動する対象物に取り付けられ、該対象物の振動を抑制する制振装置において、
重錘と、
一端が前記重錘に固定された重錘用ばねと、
外周にネジが設けられた棒状又は筒状のネジ支柱と、
内周にネジが設けられ、前記ネジ支柱に螺合する回転体と、
前記回転体が前記ネジ支柱の軸周りに回転可能に該回転体を支持する支持体と、を備え、
前記ネジ支柱の軸周りの回転を拘束するように、前記ネジ支柱の一端が前記重錘に固定され、
前記重錘用ばねの他端を前記対象物に固定するとともに、前記支持体の一部を該対象物に固定すると、前記ネジ支柱と前記回転体が前記重錘と該対象物の間に配置され、該対象物の振動に伴って該回転体が該ネジ支柱の軸周りに回転する、
ことを特徴とする制振装置。
【請求項2】
振動する対象物に取り付けられ、該対象物の振動を抑制する制振装置において、
重錘と、
一端が前記重錘に固定された重錘用ばねと、
外周にネジが設けられた棒状又は筒状のネジ支柱と、
内周にネジが設けられ、前記ネジ支柱に螺合する回転体と、
前記回転体が前記ネジ支柱の軸周りに回転可能に該回転体を支持する支持体と、を備え、
前記支持体の一部が、前記重錘に固定され、
前記重錘用ばねの他端を前記対象物に固定するとともに、前記ネジ支柱の軸周りの回転を拘束するように該ネジ支柱の一端を該対象物に固定すると、前記ネジ支柱と前記回転体が前記重錘と該対象物の間に配置され、該対象物の振動に伴って該回転体が該ネジ支柱の軸周りに回転する、
ことを特徴とする制振装置。
【請求項3】
前記回転体の回転に伴って発電する発電素子を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の制振装置。
【請求項4】
整流器と、蓄電池と、をさらに備え、
前記発電素子が発電した交流の電気を直流に変換したうえで前記蓄電池に蓄電させる、
ことを特徴とする請求項3記載の制振装置。
【請求項5】
前記支持体は、挿通孔が設けられた中空の函体であり、
前記ネジ支柱は、前記挿通孔に挿通され、
前記回転体は、ベアリングを介して前記挿通孔で支持された、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の制振装置。
【請求項6】
振動する対象物に制振装置が設置された制振構造において、
前記制振装置は、重錘と、重錘用ばねと、外周にネジが設けられた棒状又は筒状のネジ支柱と、内周にネジが設けられた回転体と、支持体と、を備え、
前記回転体は、前記ネジ支柱に螺合して取り付けられ、
前記支持体は、前記回転体が前記ネジ支柱の軸周りに回転可能となるように該回転体を支持し、
前記支持体の一部が、前記対象物に固定され、
前記ネジ支柱の軸周りの回転を拘束するように、前記ネジ支柱の一端が前記重錘に固定され、
前記重錘用ばねの一端が前記重錘に固定されるとともに他端が前記対象物に固定されることによって、前記ネジ支柱と前記回転体が該重錘と該対象物の間に配置され、該対象物の振動に伴って該回転体が該ネジ支柱の軸周りに回転し、
前記重錘と前記対象物の間に生じた相対加速度と、前記回転体の回転と、によって該対象物の振動を抑制する、
ことを特徴とする制振構造。
【請求項7】
前記制振装置が、副ばねを、さらに備え、
前記副ばねの一端が前記支持体に固定され他端が前記対象物に固定されることで、前記支持体が該副ばねを介して該対象物に固定された、
ことを特徴とする請求項6記載の制振構造。
【請求項8】
前記制振装置が、第1ダンパ及び第2ダンパを、さらに備え、
前記第1ダンパは、前記対象物と前記重錘との間であって前記重錘用ばねと並列配置となるように配置され、
前記第2ダンパは、前記対象物と前記支持体との間であって前記副ばねと並列配置となるように配置された、
ことを特徴とする請求項7記載の制振構造。
【請求項9】
振動する対象物に制振装置が設置された制振構造において、
前記制振装置は、重錘と、重錘用ばねと、外周にネジが設けられた棒状又は筒状のネジ支柱と、内周にネジが設けられた回転体と、支持体と、を備え、
前記回転体は、前記ネジ支柱に螺合して取り付けられ、
前記支持体は、前記回転体が前記ネジ支柱の軸周りに回転可能となるように該回転体を支持し、
前記支持体の一部が、前記重錘に固定され、
前記ネジ支柱の軸周りの回転を拘束するように、前記ネジ支柱の一端が前記対象物に固定され、
前記重錘用ばねの一端が前記重錘に固定されるとともに他端が前記対象物に固定されることによって、前記ネジ支柱と前記回転体が該重錘と該対象物の間に配置され、該対象物の振動に伴って該回転体が該ネジ支柱の軸周りに回転し、
前記重錘と前記対象物の間に生じた相対加速度と、前記回転体の回転と、によって該対象物の振動を抑制する、
ことを特徴とする制振構造。
【請求項10】
前記制振装置が、副ばねを、さらに備え、
前記副ばねの一端が前記支持体に固定され他端が前記重錘に固定されることで、前記支持体が該副ばねを介して該重錘に固定された、
ことを特徴とする請求項9記載の制振構造。
【請求項11】
前記制振装置が、第1ダンパ及び第2ダンパを、さらに備え、
前記第1ダンパは、前記対象物と前記重錘との間であって前記重錘用ばねと並列配置となるように配置され、
前記第2ダンパは、前記重錘と前記支持体との間であって前記副ばねと並列配置となるように配置された、
ことを特徴とする請求項10記載の制振構造。
【請求項12】
前記制振装置が、前記回転体の回転に伴って発電する発電素子を、さらに備え、
前記対象物の振動に伴って該回転体が該ネジ支柱の軸周りに回転し、前記発電素子が発電する、
ことを特徴とする請求項6乃至請求項11のいずれかに記載の制振構造。
【請求項13】
前記対象物が、端部が支持された梁材又は版材であって、鉛直方向にたわんで振動し、
前記制振装置が、前記梁材又は前記版材の下面側に垂下して設置され、該梁材又は該版材の下方に前記ネジ支柱と前記回転体が配置されるとともに、該ネジ支柱と該回転体の下方に前記重錘が配置された、
ことを特徴とする請求項6乃至請求項12のいずれかに記載の制振構造。
【請求項14】
前記対象物が、端部が支持された梁材又は版材であって、鉛直方向にたわんで振動し、
前記制振装置が、前記梁材又は前記版材の上面側に設置され、該梁材又は該版材の上方に前記ネジ支柱と前記回転体が配置されるとともに、該ネジ支柱と該回転体の上方に前記重錘が配置された、
ことを特徴とする請求項6乃至請求項13のいずれかに記載の制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、振動する対象物の制振に関する技術であり、より具体的には、慣性質量ダンパ(RIMD:Rotating Inertial Mass Damper)を同調質量ダンパ(TMD:Tuned Mass Damper)の素子として使用した制振装置と、これを対象物に設置した制振構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度経済成長期に集中的に整備されてきた建設インフラストラクチャー(以下、「建設インフラ」という。)は、既に相当な老朽化が進んでいることが指摘されている。平成26年には「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言(社会資本整備審議会)」がとりまとめられ、平成24年の笹子トンネルの例を挙げて「近い将来、橋梁の崩落など人命や社会装置に関わる致命的な事態を招くであろう」と警鐘を鳴らし、建設インフラの維持管理の重要性を強く唱えている。
【0003】
代表的な建設インフラの一つである橋梁も、やはりその老朽化が問題となっている。例えば都市高速道路の高架橋などは、1日当たりの断面交通量が10万台近くもあり、しかも大型車混入率が極めて高く、すなわち長年にわたっておびただしい回数の輪荷重とともに鉛直方向の振動(鉛直振動)を受けているため、高架橋を構成する主部材に疲労損傷が生じていることが容易に想像できる。都市高速道路の高架橋に限らず多くの橋梁は日常的に繰り返し鉛直振動を受けており、したがって疲労をはじめとする種々の要因から各種部材に損傷が生じ、これに伴い橋梁の老朽化が進行しているおそれがある。すなわち日常的に発生する鉛直振動は、橋梁にとって有害なものであり、何らかの対策が求められているところである。
【0004】
また、我が国は地震が頻発する国として知られ、近年では、東北地方太平洋沖地震や、兵庫県南部地震、平成28年熊本地震など大きな地震が発生している。そのため、橋梁に代表される土木構造物や、オフィスビルや集合住宅といった建築構造物などは、想定される地震に対して相当の対策を施したうえで構築されるのが一般的である。
【0005】
上記した鉛直振動や地震振動を含む様々な振動に対する対策としては、耐震(耐振)と免震、そして制振(制震)という3つの対策が挙げられる。このうち耐震は、土木構造物や建築構造物など(以下、総称して「建造物」という。)を堅固な構造にすることによって、振動に抵抗しようという地震対策である。これに対して免震は、地盤と建造物の間に設置した免震装置によって、地盤の揺れを建造物に伝えないという振動対策であり、制振は、建造物に設置された制振装置が、地盤の揺れを吸収するという振動対策である。いわば、耐震が「剛な振動対策」であるのに対して、免震と制振が「柔な振動対策」である。
【0006】
この耐震対策は、建造物そのものの被害は免れるものの、建造物内に配置された機器や家具等は大きく揺れるためその被害は避けられないという短所がある。また免震対策は、一般的に免震装置が高価であるため設置を含む工事費が増大するうえ、基本的には新築時に設置するものであって供用中に追加設置することが難しいなどの短所がある。一方、制振対策は、建造物はもちろん建造物内の家具等の被害を防ぐことができるうえ、工事費を抑えることができ、建造物の状況によっては追加的に対策を施すこともでき、しかも定期的なメンテナンスを軽減できるといった長所がある。そのため近年では、制振対策も比較的多く採用されるようになってきた。
【0007】
従来、制振対策としては、揺れに伴って建造物の一部(例えば、梁)が大きく変形する箇所に粘性減衰を付加する方法(以下、「粘性減衰法」という。)と、揺れ(振幅)が大きい箇所に動吸振器を設置する方法(以下、「同調質量ダンパ法」という。)が主流であった。この粘性減衰法は、同調質量ダンパ法に比して外力の振動数への依存性は小さいものの、粘性減衰要素の変形量が小さいため一般的に振動低減効果は限定的である。
【0008】
一方、同調質量ダンパ法は、共振振動数近傍の振動を効果的に抑制できるものの、同調比に対するロバスト性を向上させるためには梁など(建造物の一部)に対する動吸振器(特に重錘)の質量比を大きくする必要があり、その建造物が負担する荷重が増加することになる。また同調質量ダンパ法は、対象とする梁などの固有周期に極めて近い固有周期を有する重錘を選定して利用することから、様々な揺れに対して相応の効果を発揮するものではなく、換言すれば、目的の揺れのパターンを狙った対策であって対応できる揺れのパターンは極めて限定的である。例えば特許文献1では、同調質量ダンパ(TMD:Tuned Mass Damper)と電磁ダンパを併用した同調質量ダンパ法を提案しているが、重錘の質量を大幅に軽減することはできないし、多様な揺れに対して相応の効果を発揮するものではない。
【0009】
このように粘性減衰法、同調質量ダンパ法ともに短所があることから、近時、慣性質量ダンパ(RIMD:Rotating Inertial Mass Damper)を利用した制振対策(以下、「慣性質量ダンパ法」という。)も用いられるようになってきた。この慣性質量ダンパは、動的な慣性抵抗によって梁などの振動を吸収するものであり、より詳しくは、梁などにボールねじ等を固定するとともに、ボールねじにフライホール等(回転錐)を取り付け、ボールねじ等はその回転は拘束されるが軸方向には可動とされ、一方のフライホール等は軸方向には拘束されるがその回転は可動とされる構造である。梁などの振動に伴ってボールねじ等が軸方向に移動し、これに応じてフライホール等が回転することよって動的な慣性抵抗が生じるわけである。
【0010】
慣性質量ダンパによって生じる慣性抵抗力Fは、ボールねじ等の軸方向の加速度αと、慣性質量ψとの積(F=α×ψ)で表すことができ、そしてこの慣性質量ψは、フライホール等の実際の質量mよりも数百倍~数千倍の値を示す。つまり慣性質量ダンパは、同調質量ダンパのように著しく大きな質量の重錘を用意する必要がない。また慣性質量ダンパ法は、反共振の帯域で効果を発揮することができるものであり、換言すれば、所定範囲内にある振幅の揺れに対しては相応の効果を発揮することができ、すなわち同調質量ダンパ法に比して様々な揺れのパターンに柔軟に対応することができるものである。
【0011】
他方、慣性質量ダンパは、ボールねじ等の軸方向の移動に応じてフライホール等が回転する機構であるため、ボールねじ等の軸方向の移動とともにフライホール等も移動すると機能せず、すなわちフライホール等(あるいはボールねじ等)の軸方向の移動は、ボールねじ等(あるいはフライホール等)に対して拘束されなければならない。したがって、通常、ボールねじ等は、その一端が振動する梁などに固定され、その他端は地盤など軸方向の移動を拘束し得る支持物(以下、「固定支持物」という。)に固定され、その固定支持物から反力が得られる構成とされている。例えば特許文献2では、多層階の建物における上層階の梁と下層階の床との間に回転慣性質量ダンパ(慣性質量ダンパ)を設置する技術を提案しており、やはり回転慣性質量ダンパのねじ軸(ボールねじ等)の下端部は下層階の床(固定支持物)に固定され、下層階の床から反力が得られる構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平06-212834号公報
【文献】特開2012-46936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
既述したとおり道路橋や鉄道橋などは、日常的に作用する活荷重や衝撃荷重等によって振動する。特に、橋台や橋脚などの間に架け渡された主桁や床版(以下、「梁材」という。)は、活荷重(車両や列車の通行による荷重)や衝撃荷重等によって上下にたわむような振動が生じ、基本的には支間中央で最も大きな振幅で振動する。
【0014】
これまで、梁材の振動を抑えるためには制振ダンパ(つまり粘性減衰法)を利用することが多かった。しかしながら制振ダンパは、既述したとおり振動低減効果が限定的であり、しかも梁材のうち支間中央での振動を狙って制振することは難しい。また同調質量ダンパ法は、梁材に対する重錘の質量比を大きくする必要があるうえ、対応できる揺れのパターンが限定的であるという問題がある。特に道路橋や鉄道橋などは、常時荷重(活荷重や衝撃荷重等)による揺れに加えて地震による揺れにも対応する必要があり、しかも交通量や交通の種類(大型車や貨物車の多寡など)によって異なる揺れのパターンに対応しなければならないが、そのために、都度、重錘を取り換えることはできない。
【0015】
さらに、梁材の支間中央の振動を慣性質量ダンパによって制振する対策も、やはり問題を指摘することができる。既述したとおり慣性質量ダンパは、フライホール等(回転錐)を回転させるため、ボールねじ等の端部を固定支持物に固定しなければならない。つまり、梁材の支間中央の振動を対象とする場合、ボールねじ等の一端を梁材の支間中央部に固定したうえで、その他端を下方の地盤に固定しなければならない。渓谷に構築された橋梁などは著しく桁下高が大きいこともあるが、このようなケースでボールねじ等を桁下の地盤に固定するのは現実的ではないし、特に跨道橋や跨線橋などは桁下空間で常に車両や列車が往来しているためそもそもボールねじ等を桁下地盤まで伸ばすことが許されない。
【0016】
ところで、近年、地球温暖化に伴う環境問題が叫ばれる中、温室効果ガスの削減は喫緊の課題とされている。これに応じて発電の方法も次第に変化しており、1980年頃には石油、石炭による発電が全体の約5割を占めていたのに対し、現在ではその割合は3割程度まで減少している。代わりに増加してきたのが原子力発電である。しかしながら、先の東北地方太平洋沖地震では原子炉破損によって放射性物質が大量に漏れ出すという事故が発生し、原子力発電に対する不安が一気に高まった。そのため、原子力エネルギーへの過度な依存から脱却し、安全な再生可能エネルギーの積極的な利用が求められており、再生可能エネルギーを生み出す新たな技術が切望されているところである。
【0017】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち多様な揺れのパターンに対応することができ、しかも固定支持物から反力を得ることなく、対象物の振動を抑制することができる制振装置と、これを対象物に設置した制振構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明は、慣性質量ダンパ(RIMD)を同調質量ダンパ(TMD)の素子として組み込むという点と、慣性質量ダンパの回転錐の回転を利用して発電するという点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0019】
本願発明の制振装置は、振動する対象物に取り付けられるものであって、対象物の振動を抑制する装置であり、重錘と重錘用ばね、ネジ支柱、回転体、支持体を備えたものである。このうちネジ支柱は、その外周にネジが設けられた棒状(あるいは筒状)のものであり、支持体は、回転体がネジ支柱の軸周りに回転可能となるように回転体を支持するものである。なお、重錘用ばねはその一端が重錘に固定され、回転体はその内周に設けられたネジがネジ支柱の外周に螺合することでネジ支柱に取り付けられ、ネジ支柱の軸周りの回転を拘束するようにネジ支柱の一端が重錘に固定される。重錘用ばねの他端を対象物に固定するとともに支持体の一部を対象物に固定すると、ネジ支柱と回転体が重錘と対象物の間に配置される。そして対象物が振動すると、重錘と対象物との間に相対加速度が生じ、これに伴ってネジ支柱が回転体に対して相対的に軸方向に移動し、回転体がネジ支柱の軸周りに回転する。
【0020】
本願発明の制振装置は、支持体の一部が重錘に固定されたものとすることもできる。この場合、重錘用ばねの他端を対象物に固定するとともにネジ支柱の一端を対象物に固定すると、ネジ支柱と回転体が重錘と対象物の間に配置される。
【0021】
本願発明の制振装置は、回転体の回転に伴って発電する発電素子をさらに備えたものとすることもできる。
【0022】
本願発明の制振装置は、発電素子に加え整流器と蓄電池をさらに備えたものとすることもできる。ネジ支柱が2方向(例えば上下方向)に移動する場合、回転体もやはり正反2方向に回転し、そのため発電素子は交流の電気を発電することになる。そこで整流器が、発電素子が発電した交流の電気を直流に変換し、蓄電池がこの直流電気を蓄電する。
【0023】
本願発明の制振装置は、挿通孔が設けられた中空の函体の支持体を備えたものとすることもできる。この場合、ネジ支柱は挿通孔に挿通され、回転体はベアリングを介して挿通孔で支持される。
【0024】
本願発明の制振構造は、振動する対象物に本願発明の制振装置が設置された構造である。 ネジ支柱の一端が重錘に固定された制振装置を用いる場合、支持体の一部を対象物に固定し、重錘用ばねの他端を対象物に固定することによって、制振装置は対象物に設置される。あるいは、副ばねの一端を支持体に固定するとともに他端を対象物に固定することによって、副ばねを介して(いわば間接的に)支持体を対象物に固定することもできる。そして対象物が振動すると、重錘と対象物との間に相対加速度が生じ、これに伴ってネジ支柱が回転体に対して相対的に軸方向に移動し、回転体がネジ支柱の軸周りに回転することによって、対象物の振動を抑制する。
【0025】
本願発明の制振構造は、支持体の一部が重錘に固定された制振装置が設置された構造とすることもできる。この場合、ネジ支柱の一端を対象物に固定し、重錘用ばねの他端を対象物に固定することによって、制振装置は対象物に設置される。あるいは、副ばねの一端を支持体に固定するとともに他端を重錘に固定することによって、副ばねを介して(いわば間接的に)支持体を重錘に固定することもできる。
【0026】
本願発明の制振構造は、発電素子を備えた制振装置が設置された構造とすることもできる。
【0027】
本願発明の制振構造は、梁材(あるいは版材)の下面に垂下するように制振装置を設置した構造とすることもできる。この梁材(あるいは版材)は、端部が鉛直方向に支持され、鉛直方向にたわんで振動する。この場合、梁材(あるいは版材)の下方にネジ支柱と回転体が配置され、ネジ支柱と回転体のさらに下方に重錘が配置される。
【0028】
本願発明の制振構造は、梁材(あるいは版材)の上面に制振装置を設置した構造とすることもできる。この場合、梁材(あるいは版材)の上方にネジ支柱と回転体が配置され、ネジ支柱と回転体のさらに上方に重錘が配置される。
【発明の効果】
【0029】
本願発明の制振装置、及び制振構造には、次のような効果がある。
(1)常時荷重による振動に加え、地震による鉛直方向の振動に対しても効果的に抑制することができる。
(2)従来の慣性質量ダンパのようにボールねじ等を固定支持物に固定する(反力を得る)必要がないことから、振幅が大きい梁材支間中央の振動も効率的に抑制することができる。
(3)素子として慣性質量ダンパを使用することから、従来の同調質量ダンパのように単に振動のピーク値を下げるだけでなく、反共振の帯域も利用して制振することができる。
(4)反共振の帯域を利用するため、対象物のパラメータ変動に対応した、つまり多様な揺れのパターンに対応した制振が可能となる。
(5)発電素子を備えることによって、発電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】道路橋に本願発明の制振装置が設置された本願発明の制振構造を模式的に示す側面図。
図2】第1制振装置を鉛直面で切断した断面図。
図3】慣性質量ダンパを鉛直面で切断した断面図。
図4】(a)は頂板と底板、4つの側板からなる中空の函体の支持体を示す断面図、(b)は挿通孔を有する底板を示す平面図。
図5】第2制振装置を鉛直面で切断した断面図。
図6】梁材の下方に垂下するように第1制振装置を配置したうえで、この第1制振装置を梁材のうち主桁に設置した本願発明の制振構造を示す部分断面図。
図7】梁材の下方に垂下するように第2制振装置を配置したうえで、この第2制振装置を梁材のうち主桁に設置した本願発明の制振構造を示す部分断面図。
図8】梁材の上方に位置するように第1制振装置を配置したうえで、この第1制振装置を梁材のうち床版に設置した本願発明の制振構造を示す部分断面図。
図9】梁材の上方に位置するように第2制振装置を配置したうえで、この第2制振装置を梁材のうち床版に設置した本願発明の制振構造を示す部分断面図。
図10】(a)は本願発明の制振構造の全体を示す解析用モデル図、(b)は本願発明の制振構造のうち制振装置設置部分を示す解析用モデル図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本願発明の制振装置、及び制振構造の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0032】
1.全体概要
図1は、道路橋に本願発明の制振装置100が設置された本願発明の制振構造を模式的に示す側面図である。この図に示すように本願発明の制振装置100は、例えば橋梁の梁材(主桁や床版)など、振動する対象物に設置することによって、当該対象物(この場合は梁材)の振動を抑制(制振)するものである。特に、図1に示す2基の橋脚の支間中央部分など、比較的振幅が大きい振動が発生する箇所に設置することによって、直接的にその位置の振動を抑制することができるものである。なお本願発明の制振装置、及び制振構造は、振動するあらゆるものを「対象物」とすることができるが、便宜上ここでは、図1に示す道路橋の梁材を対象物とする例で説明する。
【0033】
2.制振装置
本願発明の制振装置100について、図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の制振構造は、本願発明の制振装置100を梁材(対象物)に設置した構造であり、したがってまずは本願発明の制振装置100について説明し、その後に本願発明の制振構造について説明することとする。
【0034】
本願発明の制振装置100は、後述する慣性質量ダンパ(RIMD)を同調質量ダンパ(TMD)の素子として組み込んだものであり、この慣性質量ダンパを配置する向き(上下方向)によって2種類の制振装置100に大別することができる。便宜上ここでは、慣性質量ダンパを第1の向き(上向き)とした制振装置100のことを「第1制振装置101」と、慣性質量ダンパを第2の向き(下向き)とした制振装置100のことを「第2制振装置102」ということとする。以下、第1制振装置101と第2制振装置102それぞれについて順に説明する。
【0035】
(第1制振装置)
図2は、第1制振装置101を鉛直面で切断した断面図である。この図に示すように第1制振装置101は、重錘200と、その一端(この図では下端)が重錘200に固定されたばね材(以下、「重錘用ばね300」という。)、そして慣性質量ダンパ400を含んで構成される。また第1制振装置101は、慣性質量ダンパ400にその一端(この図では下端)が取り付けられるばね材(以下、「副ばね500」という。)を含んで構成することもできる。さらに、重錘用ばね300と並列配置となるようにダンパ(以下、便宜上「第1ダンパ」という。)を重錘200に取り付けたものとすることもできるし、副ばね500と並列配置となるようにダンパ(以下、便宜上「第2ダンパ」という。)を慣性質量ダンパ400に取り付けたものとすることもできる。この第1ダンパと第2ダンパは、オイルダンパなど従来用いられているものを利用するとよい。図2からも分かるように、重錘200と重錘用ばね300によって同調質量ダンパが構成され、この同調質量ダンパの素子として慣性質量ダンパ400が組み込まれることによって第1制振装置101は構成される。なお図2では、2本の重錘用ばね300を具備する第1制振装置101を示しているが、これに限らず第1制振装置101は、3本以上の重錘用ばね300を具備することもできるし、重錘200の質量や形状によっては1本の重錘用ばね300を具備したものとすることもできる。
【0036】
図3は、慣性質量ダンパ400を鉛直面で切断した断面図である。この図に示すように慣性質量ダンパ400は、ネジ支柱410と支持体430、そして回転錐420とボールナット440からなる「回転体」を備えたものである。ネジ支柱410は、外周にネジ(雄ネジ)が設けられた棒状や筒状のものであり、例えばボールネジなどを利用することができる。回転錐420は、中央部に貫通孔(以下、「中心孔」という。)を具備する板状(特に円盤状)のものであって、例えばフライホイールなどを利用することができ、ボールナット440は、回転錐420と同様、中心孔が設けられており、その中心孔の内周にはネジ(雌ネジ)が設けられている。図3では、径が異なる3種類の部品(ボールナット)を組み合わせて1つのボールナット440を形成しているが、これに限らず任意数(1種類や2種類、あるいは4種類以上)の部品からなるボールナット440を用いることもできる。回転体は、双方の中心孔の位置を合わせた状態で、回転錐420をボールナット440に固定することによって形成される。そして、この回転体の中心孔内にネジ支柱410を挿通するとともに、ネジ支柱410外周の雄ネジと回転体(この場合、ボールナット440)内周の雌ネジを螺合することによって、回転体はネジ支柱410に取り付けられる。なお、回転錐420のみで構成される回転体を用いることもでき、この場合は回転錐420の中心孔の内周にはネジ(雌ネジ)を設け、ネジ支柱410外周の雄ネジと回転錐420(すなわち回転体)内周の雌ネジを螺合するとよい。
【0037】
支持体430は、回転体がネジ支柱410の軸周りに回転可能となるように、回転体を支持するものである。また、回転体が支持体430に対して相対的にネジ支柱410の軸方向(図3では上下方向)や軸直角方向(図3では左右方向)に移動しないように、回転体を支持するとよい。支持体430は、例えば図4に示すように中空の函体とすることができる。具体的には、図4(a)に示すように頂板431と底板432、4つの側板433からなる中空の函体(箱型形状)とすることができる。この場合、図4(b)に示すように、底板432の中央付近には、ネジ支柱410を挿通するための円形貫通孔(以下、「挿通孔434」という。)を設けるとよい。なお支持体430は、図4に示すような函体に限らず、ネジ支柱410の軸周りに回転可能となるように回転体を支持することができれば、上方開口の筒状やアーム状など、種々の形状とすることができる。
【0038】
ネジ支柱410の軸周りに回転可能となるように回転体を支持するには、図3に示すように、支持体430の挿通孔434に配置されたボールナット440とベアリング450を利用するとよい。より詳しくは、ネジ支柱410を挿通孔434に挿通してボールナット440をこの挿通孔434に配置し、そしてボールナット440と挿通孔434との間に生じた空隙(クリアランス)に複数のベアリング450を配置する。球状のベアリング450が自在回転することによってボールナット440(つまり、回転体)の回転が自由となり(つまり拘束されず)、またボールナット440と一体となって回転する回転錐420もその回転が自由となり、これによりネジ支柱410の軸周りに回転可能となるように回転体が支持されるわけである。なお、回転体が回転錐420のみで構成される場合は、挿通孔434に回転錐420とベアリング450を配置することによっていわば直接的に回転体(回転錐420)を支持体430で支持することもできる。
【0039】
図2に示すように第1制振装置101は、ネジ支柱410の一端(この図では下端)が重錘200に固定されて形成される。ただしネジ支柱410は、その軸方向の移動(回転錐420やボールナット440に対する相対移動)は自由であるが、軸周りには回転しないように(拘束するように)重錘200に固定される。このような構造とすることによって、ネジ支柱410の軸方向の移動(相対移動)に伴って、ネジ支柱410の外周に螺合し回転体がネジ支柱410の軸周りに回転していく。なお、ネジ支柱410は2方向(図3では上下方向)に移動することができ、したがって回転体も2方向に回転する。例えば、ネジ支柱410が上方向に移動すると回転体が時計回りに回転するケースでは、ネジ支柱410が下方向に移動すると回転体は反時計回りに回転する。
【0040】
図3に示すように慣性質量ダンパ400は、発電用モータなどの発電素子460を備えたものとすることもできる。回転錐420の回転を利用して、発電素子460に発電させるわけである。具体的には、歯車(ギア)とした回転錐420と、発電素子460が具備するギアSCとを噛み合わせ、これにより回転錐420の回転に伴って発電素子460のギアSCが回転し、発電素子460が発電する。発電した電気を蓄電する場合は、発電素子460自身に蓄電させる仕様とすることもできるし、発電素子460とは別に用意した蓄電池に蓄電させる仕様とすることもできる。また、既述したとおり回転錐420は2方向(例えば、時計回りと反時計回り)に回転することもあり、この場合、発電素子460は交流の電気を発電することになる。そこで、慣性質量ダンパ400が蓄電池に加えさらに整流器(コンバータ)を具備することとし、交流の電気を直流に変換したうえで蓄電池に蓄電させる仕様とすることもできる。
【0041】
第1制振装置101は、ネジ支柱410の一端が重錘200に固定されることから、図2に示すように重錘200が下方となる姿勢にすると、頂板431が上方となるように支持体430が配置される。なお、第1制振装置101が副ばね500を含む場合、副ばね500は慣性質量ダンパ400の上方に配置され、その一端(図では下端)が支持体430の一部(図では頂板431)に固定される。
【0042】
(第2制振装置)
図5は、第2制振装置102を鉛直面で切断した断面図である。この図に示すように第2制振装置102は、第1制振装置101と同様、重錘200と重錘用ばね300、そして慣性質量ダンパ400を含んで構成され、副ばね500を含んで構成することもできる。さらに、第1制振装置101と同様、重錘用ばね300と並列配置となるように第1ダンパを重錘200に取り付けたものとすることもできるし、副ばね500と並列配置となるように第2ダンパを慣性質量ダンパ400に取り付けたものとすることもできる。これら第2制振装置102を構成する重錘200や重錘用ばね300、慣性質量ダンパ400、副ばね500は、第1制振装置101で説明したものと同様のものである。
【0043】
第2制振装置102と第1制振装置101が異なる点は、重錘200に対する慣性質量ダンパ400の向き(姿勢)である。図2に示す第1制振装置101の場合、ネジ支柱410が重錘200側(図では下側)となるように慣性質量ダンパ400を配置したうえでネジ支柱410の一端(図では下端)を重錘200に固定しているが、図5に示す第2制振装置102の場合、ネジ支柱410が重錘200とは異なる側(図では上側)となるように慣性質量ダンパ400を配置したうえで支持体430の一部(図では頂板431)を重錘200に固定している。
【0044】
図5では、副ばね500の一端(図では下端)を重錘200に固定するとともに他端(図では上端)を頂板431に固定することで、副ばね500を介して(いわば間接的に)慣性質量ダンパ400を重錘200に固定している。あるいは、この副ばね500に代えて、鋼管や鉄筋などばね材ではない他の部品を用いて、慣性質量ダンパ400を重錘200に固定することもできるし、慣性質量ダンパ400と重錘200の間に副ばね500などを配置することなく、すなわち直接的に慣性質量ダンパ400を重錘200に固定することもできる。
【0045】
3.制振構造
次に本願発明の制振構造について図を参照しながら説明する。なお、本願発明の制振構造は、ここまで説明した制振装置100を梁材(対象物)に設置した構造であり、したがって制振装置100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の制振構造に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.制振装置」で説明したものと同様である。
【0046】
図6は、梁材の下方に垂下するように第1制振装置101を配置したうえで、この第1制振装置101を梁材のうち主桁GRに設置した本願発明の制振構造を示す部分断面図である。この図では、重錘200が最も下に位置するように第1制振装置101が配置され、2本の重錘用ばね300の上端がそれぞれ主桁GRに固定されている。また慣性質量ダンパ400は、ネジ支柱410が下方に、支持体430のうち頂板431が上方となるように配置されている。そして、副ばね500の下端を頂板431に固定するとともに上端を主桁GRに固定することで、副ばね500を介して(いわば間接的に)慣性質量ダンパ400を主桁GRに固定している。あるいは、この副ばね500に代えて、鋼管や鉄筋などばね材ではない他の部品を用いて、慣性質量ダンパ400を主桁GRに固定することもできるし、慣性質量ダンパ400と主桁GRの間に副ばね500などを配置することなく、すなわち直接的に慣性質量ダンパ400を主桁GRに固定することもできる。また第1制振装置101が第1ダンパや第2ダンパを具備する場合、第1ダンパは主桁GRと重錘200との間であって重錘用ばね300と並列となるように配置され、第2ダンパは主桁GRと慣性質量ダンパ400(頂板431)との間であって副ばね500と並列となるように配置される。
【0047】
図7は、梁材の下方に垂下するように第2制振装置102を配置したうえで、この第2制振装置102を梁材のうち主桁GRに設置した本願発明の制振構造を示す部分断面図である。この図では、重錘200が最も下に位置するように第2制振装置102が配置され、2本の重錘用ばね300の上端がそれぞれ主桁GRに固定されている。また慣性質量ダンパ400は、ネジ支柱410が上方に、支持体430のうち頂板431が下方となるように配置されている。そしてネジ支柱410の上端が、軸周りには回転しないように(拘束するように)主桁GRに固定されている。また第2制振装置102が第1ダンパや第2ダンパを具備する場合、第1ダンパは主桁GRと重錘200との間であって重錘用ばね300と並列となるように配置され、第2ダンパは慣性質量ダンパ400(頂板431)と重錘200との間であって副ばね500と並列となるように配置される。
【0048】
図8は、梁材の上方に位置するように第1制振装置101を配置したうえで、この第1制振装置101を梁材のうち床版SLに設置した本願発明の制振構造を示す部分断面図である。この図では、重錘200が最も上に位置するように第1制振装置101が配置され、2本の重錘用ばね300の下端がそれぞれ床版SLに固定されている。また慣性質量ダンパ400は、ネジ支柱410が上方に、支持体430のうち頂板431が下方となるように配置されている。そして、副ばね500の上端を頂板431に固定するとともに下端を床版SLに固定することで、副ばね500を介して(いわば間接的に)慣性質量ダンパ400を床版SLに固定している。あるいは、この副ばね500に代えて、鋼管や鉄筋などばね材ではない他の部品を用いて、慣性質量ダンパ400を床版SLに固定することもできるし、慣性質量ダンパ400と床版SLの間に副ばね500などを配置することなく、すなわち直接的に慣性質量ダンパ400を床版SLに固定することもできる。また第1制振装置101が第1ダンパや第2ダンパを具備する場合、第1ダンパは重錘200と床版SLとの間であって重錘用ばね300と並列となるように配置され、第2ダンパは慣性質量ダンパ400(頂板431)と床版SLとの間であって副ばね500と並列となるように配置される。
【0049】
図9は、梁材の上方に位置するように第2制振装置102を配置したうえで、この第2制振装置102を梁材のうち床版SLに設置した本願発明の制振構造を示す部分断面図である。この図では、重錘200が最も上に位置するように第2制振装置102が配置され、2本の重錘用ばね300の下端がそれぞれ床版SLに固定されている。また慣性質量ダンパ400は、ネジ支柱410が下方に、支持体430のうち頂板431が上方となるように配置されている。そしてネジ支柱410の下端が、軸周りには回転しないように(拘束するように)床版SLに固定されている。また第2制振装置102が第1ダンパや第2ダンパを具備する場合、第1ダンパは重錘200と床版SLとの間であって重錘用ばね300と並列となるように配置され、第2ダンパは重錘200と慣性質量ダンパ400(頂板431)との間であって副ばね500と並列となるように配置される。
【0050】
図6図9に示す制振構造は、梁材の振動を抑制(制振)するため、制振装置100(第1制振装置101や第2制振装置102)を梁材に設置しているが、梁材に設置された(連結された)他の部材に制振装置100を設置することもできる。例えば、梁材の振動を抑制(制振)するために、床版SL上に設置された壁高欄などに制振装置100を設置することもできるし、橋梁の構造部材であるアーチやトラスに制振装置100を設置することもできる。
【0051】
本願発明の制振構造は、重錘200と重錘用ばね300によって構成された同調質量ダンパやダンパ(制振装置100がダンパを具備するケース)が梁材の振動を吸収するとともに、同調質量ダンパの素子として組み込まれた慣性質量ダンパ400(RIMD)が振動を吸収することで、梁材の振動を抑制(制振)することができる。梁材の振動と重錘200の振動が異なるため、梁材と重錘200には相対加速度が生じ、またネジ支柱410が回転体に対して相対的に軸方向(上下方向)に移動することから回転体が回転するわけである。
【0052】
図10は、本願発明の制振構造の運動方程式を求めるための解析用モデル図である。なお図10(a)に示す記号のうち、fは梁材を振動させる外力であり、yは支点(すなわち、地盤あるいは橋台や橋脚など)の変位、xは梁材のうち制振装置100設置位置での変位、xは慣性質量ダンパ400の変位、xは重錘200の変位である。また図10(b)に示す記号のうち、mは梁材の質量であり、cは梁材の減衰定数、kは梁材のばね定数、cは第1ダンパの減衰定数(つまり、第1ダンパを具備するケース)、kは重錘用ばね300のばね定数、ψは慣性質量ダンパ400の慣性質量であり、cは第2ダンパの減衰定数(つまり、第2ダンパを具備するケース)、kは副ばね500のばね定数である。この場合、本願発明の制振構造の運動方程式は下式のとおり求めることができる。
【数1】
【0053】
既述したとおり、慣性質量ダンパ400によって生じる慣性抵抗力は、ネジ支柱410の軸方向の加速度と慣性質量との積で表すことができ、この慣性質量は回転錐420の実際の質量よりも数百倍~数千倍の値を示す。そして、この慣性質量ダンパ400を使用することによって、同調質量ダンパの振動系特性を適宜変更することができ、その結果、従来の同調質量ダンパのように単に振動のピーク値を下げるだけでなく、反共振の帯域も利用して制振することができるわけである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本願発明の制振装置、及び制振構造は、道路橋、鉄道橋、歩道橋など種々の用途の橋梁に利用でき、さらに橋梁のほかオフィスビルやマンションなどの床面にも利用することができる。本願発明によれば、供用中の建造物の振動を抑制することができ、ひいては建造物の長寿命化につながることを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0055】
100 本願発明の制振装置
101 (制振装置のうちの)第1制振装置
102 (制振装置のうちの)第2制振装置
200 (制振装置の)重錘
300 (制振装置の)重錘用ばね
400 (制振装置の)慣性質量ダンパ
410 (慣性質量ダンパの)ネジ支柱
420 (慣性質量ダンパの)回転錐
430 (慣性質量ダンパの)支持体
431 (支持体の)頂板
432 (支持体の)底板
433 (支持体の)側板
434 (支持体の)挿通孔
440 (慣性質量ダンパの)ボールナット
450 (慣性質量ダンパの)ベアリング
460 (慣性質量ダンパの)発電素子
500 (制振装置の)副ばね
GR 主桁
SL 床版
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10