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特許7248248豆腐用凝固剤、豆腐用凝固剤組成物およびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】豆腐用凝固剤、豆腐用凝固剤組成物およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/45 20210101AFI20230322BHJP
【FI】
A23L11/45 106A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020520886
(86)(22)【出願日】2018-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2018019555
(87)【国際公開番号】W WO2019224892
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】507108265
【氏名又は名称】泰喜物産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520336838
【氏名又は名称】リェンユンガン リーフォン カルシウム アンド マグネシウム シーオー.,エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 健三
(72)【発明者】
【氏名】土居 康宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸隆
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-117160(JP,A)
【文献】特開2000-050827(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090589(WO,A1)
【文献】特開2015-100280(JP,A)
【文献】特開昭53-133653(JP,A)
【文献】特開2012-217451(JP,A)
【文献】特開2017-200458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 11/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含有する油相と、塩化マグネシウムを含有する水相とを有する油中水型乳化物からなる豆腐用凝固剤であって、
前記豆腐用凝固剤中の塩化マグネシウム(無水物)の濃度が31~42質量%であることを特徴とする豆腐用凝固剤。
【請求項2】
前記油相が10~25質量%および前記水相が75~90質量%である請求項1記載の豆腐用凝固剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の豆腐用凝固剤と、呈味剤および/または改質剤を含有する豆腐用凝固剤組成物。
【請求項4】
呈味剤および/または改質剤が油中水型乳化物である請求項3記載の豆腐用凝固剤組成物。
【請求項5】
少なくとも大豆タンパクを含有する原料に、請求項1または2記載の豆腐用凝固剤または請求項3または4記載の豆腐用凝固剤組成物を添加することを特徴とする豆腐または豆腐様食品の製造方法。
【請求項6】
少なくとも大豆タンパクを含有する原料が豆乳である請求項記載の豆腐または豆腐様食品の製造方法。
【請求項7】
油脂及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含有する油相と、塩化マグネシウムを含有する水相とを有する油中水型乳化物からなる豆腐用凝固剤の製造方法であって、
前記豆腐用凝固剤中の塩化マグネシウム(無水物)の濃度が31~42質量%であり、
前記油相と、前記水相とを、水の沸点以上の温度領域で乳化させることを特徴とする豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項8】
前記水相が、塩化マグネシウム6水和物を水に溶解させたものである請求項記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項9】
前記油相を10~25質量%および前記水相を75~90質量%用いるものである請求項または記載の豆腐用凝固剤の製造方法。
【請求項10】
請求項1または2記載の豆腐用凝固剤に、更に、呈味剤および/または改質剤を配合することを特徴とする豆腐用凝固剤組成物の製造方法。
【請求項11】
呈味剤および/または改質剤が、油中水型乳化物である請求項10記載の豆腐用凝固剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型乳化形態で高濃度で塩化マグネシウムを含有する豆腐用凝固剤、豆腐用凝固剤と呈味剤および/または改質剤を含有する豆腐用凝固剤組成物およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐は、豆乳に苦汁等の凝固剤を添加して大豆タンパクを架橋し、ゲル化させることで製造される。この凝固剤としては、穏やかな甘味を付与して大豆風味を引き立てる豆腐に仕上げることができる塩化マグネシウムが多用されている。ただし、塩化マグネシウムの凝固作用(大豆タンパクの架橋・ゲル化)は非常に速攻性であり、豆乳中に均一拡散する前に凝固反応が素早く進行し、ゲル化組織の均質性に優れた高品位な豆腐を得るには、小スケールに限りかつ熟練した技術を要する。大量生産では比較的凝固速度が遅い、硫酸カルシウムやグルコノデルタラクトンが用いられているが、大豆本来の美味しさからは程遠く、消費者の受入れ性が低下している。
【0003】
凝固剤として塩化マグネシウムを用いて均一な大豆タンパク架橋・ゲル組織の豆腐を製造するために、油脂及び乳化剤を導入し、塩化マグネシウムを内相とする油中水型乳化形態によりその速効性を制御した豆腐用凝固剤が開発されてきている。その一つとして、特許文献1、特許文献2に開示されている。植物性油脂およびポリグリセリン脂肪酸エステルを油相とし、塩化マグネシウム水溶液を水相として均質乳化した油中水型乳化凝固剤がある。他方、特許文献3には、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含むプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる油相中に、多価アルコールとデキストリンを含む塩化マグネシウムを混合分散し、微粒子化した凝固剤組成物が提案されている。
【0004】
上記特許文献に記載の油中分散乳化形態の塩化マグネシウム凝固製剤により豆乳凝固プロセスでの塩化マグネシウムの速攻性が大きく制御され、自動豆腐凝固製造システムの普及と相まって、豆腐の大量生産が定着し、ここ15年豆腐製造業の工業的発展が図られてきた一方、豆乳を前記塩化マグネシウム凝固製剤で凝固して製造した豆腐は、画一的な風味・品質であることから、特徴ある大豆、豆乳に由来する特有の風味を有している豆腐を好む消費者も多い。さらに、今までとは違う味や香りの付いた新たな風味の豆腐や、特徴ある食感の豆腐の要求も高くなってきている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載の油中水型乳化物である豆腐用凝固剤は製剤自体の安定性のために、製剤中の塩化マグネシウム濃度に制限がある。つまり、豆乳の凝固工程において凝固剤の添加量が多いため相当する油相成分量の添加も多くなる。その油相成分量の影響で、豆乳自体の風味の低下、塩化マグネシウムの旨さの低下をもたらす。通常の豆乳1000kgに対して、塩化マグネシウム(6水塩換算)で3kgの基準添加量で豆乳凝固をもたらす。特許文献2では、凝固剤中の塩化マグネシウム(6水塩換算)最大濃度40重量%であり、基準添加量を満たすには7.5kgの油中水型乳化物である凝固剤添加が必要であり、豆腐中に油相成分4.5kg含むことになる。また、上記特許文献4に記載の油中水型乳化物である豆腐用凝固剤は、凝固剤中の塩化マグネシウム(6水塩換算)最大55.5重量%含むことが開示されている。この場合でも基準添加量を満たすには5.4kg凝固剤添加が必要であり、豆腐中に油相成分2.4kg含むことになる。
【0006】
また、上記特許文献3に記載の豆腐用凝固剤は、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含むポリオール脂肪酸エステル中への塩化マグネシウムの微粉砕物を分散した凝固剤である。分散した塩化マグネシウムの微粉は50μm以下の粒度分布を有し、湿式粉砕処理のために湿潤・分散助剤として糖類、多価アルコールを含むことを必須としている。そのため、凝固反応にバラツキが生じること、また、大豆に由来する特徴ある豆腐風味が著しく消去され、豆腐製品の特徴付けに欠ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-57002号公報
【文献】特開2000-32942号公報
【文献】特開2006-101848号公報
【文献】特開2015-100280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、豆乳に分散した際に水相中の塩化マグネシウムを緩やかに放出する「遅効性」に優れた油中水型乳化物の豆腐用凝固剤であって、塩化マグネシウムの濃度が従来よりも高く、風味が十分に反映され、油相成分由来の油っぽさを極力抑えた豆腐用凝固剤を提供する。さらに、本発明は、豆腐に新たな風味・食感を付与できる豆腐用凝固剤組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、油脂及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含有する油相と、塩化マグネシウムを含有する水相とを有する油中水型乳化物からなる豆腐用凝固剤を製造するにあたり、前記油相と、前記水相とを、水の沸点以上の温度領域で乳化させることにより、塩化マグネシウムの濃度が従来よりも高く、風味が十分に反映され、油相成分由来の油っぽさを極力抑えた豆腐用凝固剤が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
また、本発明者らは、豆腐用凝固剤と、呈味剤および/または改質剤を含有する豆腐用凝固剤組成物により、豆腐に新たな風味・食感を付与できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、油脂及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含有する油相と、塩化マグネシウムを含有する水相とを有する油中水型乳化物からなる豆腐用凝固剤であって、
前記豆腐用凝固剤中の塩化マグネシウム(無水物)の濃度が27~42質量%であることを特徴とする豆腐用凝固剤である。
【0012】
また、本発明は、豆腐用凝固剤と、呈味剤および/または改質剤を含有する豆腐用凝固剤組成物である。
【0013】
更に、本発明は、少なくとも大豆タンパクを含有する原料に、上記豆腐用凝固剤または上記豆腐用凝固剤組成物を添加することを特徴とする豆腐または豆腐様食品の製造方法である。
【0014】
また更に、本発明は、油脂及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含有する油相と、塩化マグネシウムを含有する水相とを有する油中水型乳化物からなる豆腐用凝固剤の製造方法であって、
前記油相と、前記水相とを、水の沸点以上の温度領域で乳化させることを特徴とする豆腐用凝固剤の製造方法である。
【0015】
更にまた本発明は、豆腐用凝固剤に、呈味剤及び/または改質剤を配合することを特徴とする豆腐用凝固剤組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の豆腐用凝固剤は、塩化マグネシウムの濃度が従来よりも高く、風味が十分に反映され、油相成分由来の油っぽさを極力抑えたものである。そして、これを用いれば塩化マグネシウムの風味を十分に引出し、かつ、油っぽさ由来の雑味の無い豆腐を提供できる。
【0017】
また、本発明の豆腐用凝固剤組成物は、豆腐に新たな風味・食感を付与できるため、これを用いれば豆腐の風味や食感を変えてバラエティー化することもできる。
【0018】
更に、本発明の豆腐用凝固剤の製造方法は、油相と、水相とを、水の沸点以上の温度領域で乳化させるだけなので、特殊な機械も必要としない。
【0019】
また更に、本発明の豆腐用凝固剤組成物の製造方法も、豆腐用凝固剤に、呈味剤及び/または改質剤を配合するだけなので、特殊な機械も必要としない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の豆腐用凝固剤は、油脂及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含有する油相と、塩化マグネシウムを含有する水相とを有する油中水型乳化物からなる豆腐用凝固剤であって、
前記凝固剤中の塩化マグネシウム(無水物)の濃度が27~42質量%(以下、単に「%」という)、好ましくは27~40%である。
【0021】
上記油相に用いられる油脂は、食用可能なトリグリセリド、ジグリセリドであれば特に制限はなく、例えば、植物性油糧を起源とする植物性油脂等が挙げられる。このような植物性油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、米糠油、ヤシ油、パーム油等の植物油脂やヤシ油を原料とする中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等が挙げられる。
【0022】
上記油相に用いられるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは、ポリグリセリンと縮合リシノール酸とのエステル化生成物であり、自体公知のエステル化反応等で製造することができる。このポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを構成するグリセリン重合体のグリセリン単位数に特に制限はないが、乳化安定性の観点から、グリセリン平均重合度は4~6とすることが好ましい。また、同様の観点から、縮合リシノール酸は、2~5分子のリシノール酸が縮合した構造であることが好ましい。このようなポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとしては、例えば、ポエムPR-100(理研ビタミン(株)製)、SYグリスターCR-310(阪本薬品工業(株)製)、サンソフト818SK(太陽化学(株)製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0023】
上記油相における油脂とポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含有量は特に限定されないが、例えば、質量比で4:1~1:4、好ましくは2:1~1:2である。上記油相は上記成分を混合すればよい。
【0024】
上記水相に用いられる塩化マグネシウムは塩化マグネシウム6水和物である。この塩化マグネシウム6水和物は水相に70~100%、好ましくは75~98%含有させる。
【0025】
上記水相は、水と塩化マグネシウム6水和物とを混合し、水の沸点以上の乳化する温度領域まで加温して溶解させ、その温度を維持して水を蒸発させて、塩化マグネシウム濃度を調整して水相とする。この調製法により、水相は水の沸点以上に加温されるため、水が蒸発して水相の塩化マグネシウム濃度を、単に水や沸騰水に溶解しただけの場合よりも高くできる。具体的に、この水相には、32~47%、好ましくは35~46%の塩化マグネシウム(無水物)が含有される。
【0026】
本発明の豆腐用凝固剤は、上記油相と、上記水相とを水の沸点以上、好ましくは105~160℃の温度領域で、常法に従って乳化させて油中水型乳化物として得られる。また、乳化の際には、減圧下、常圧下、加圧下の何れの圧力でもよいが、常圧下が好ましい。また、乳化の際に用いられる油相と水相の量は特に限定されないが、例えば、油相を10~30%、好ましくは10~25%および前記水相を70~90%、好ましくは75~90%用いることが好ましい。なお、豆腐用凝固剤としての油中水型乳化物の乳化粒子は微細であることが好ましく、乳化の際には、油中水型乳化物の乳化粒子の平均粒径を2.0μm以下、好ましくは1.5μm以下にする。この平均粒径は実施例に記載の方法で測定されるものをいう。
【0027】
上記乳化が終わった後は、適宜冷却することにより、本発明の豆腐用凝固剤が得られる。この豆腐用凝固剤は、凝固剤(油中水型乳化物)中の塩化マグネシウム(無水物)の濃度が27~42%であるため、従来の塩化マグネシウム(無水物)の濃度が低い豆腐用凝固剤よりも、その濃度に応じて少ない添加量で豆乳の凝固ができる。豆腐用凝固剤としての豆乳への添加量が少ない分、それに相当する油相成分量も少なくなり、豆腐の風味改善をもたらす。
【0028】
本発明の豆腐用凝固剤を用いて、豆腐を製造する方法は、特に限定されず、例えば、少なくとも大豆タンパクを含有する原料に、この豆腐用凝固剤を0.2~1.2%添加し、適宜撹拌して分散させ、型に入れ、熟成(冷却)させることにより、豆腐または豆腐様食品が得られる。
【0029】
上記少なくとも大豆タンパクを含有する原料は、特に限定されないが、例えば、豆乳や、豆乳に、更に、乳タンパク、魚タンパク、卵タンパク等の別のタンパクを含有させたもの等が挙げられる。少なくとも大豆タンパクを含有する原料に別のタンパクを含有させる場合には、大豆タンパクと同等量以下で含有させることが好ましい。これら大豆タンパクを含有する原料の中でも豆乳が好ましい。少なくとも大豆タンパクを含有する原料は、上記豆腐用凝固剤を添加する前に、60~80℃程度に加温されていることが好ましい。
【0030】
なお、上記において、型に入れたたまま熟成すれば絹豆腐または絹豆腐様食品が得られ、型に入れた後、少し熟成させた後、それを崩し、更に型に入れ、重しを載せて熟成させることにより木綿豆腐または木綿豆腐様食品が得られる。更にはこれらを油で揚げれば油揚げまたは油揚げ様食品を製造することができる。
【0031】
斯くして得られる豆腐または豆腐様食品は、塩化マグネシウムの濃度が従来よりも高く、風味が十分に反映され、油相成分由来の油っぽさを極力抑えたものとなる。
【0032】
本発明の豆腐用凝固剤組成物は、豆腐用凝固剤と、呈味剤および/または改質剤を含有するものである。
【0033】
本発明の豆腐用凝固剤組成物に用いられる豆腐用凝固剤は、塩化マグネシウム(無水物)の濃度が高くないと、少なくとも大豆タンパクを含有する原料を凝固させる量で使用した際に、呈味剤および/または改質剤の量が少なく、効果が得られない。そのため、豆腐用凝固剤における塩化マグネシウム(無水物)濃度は、16%以上、好ましくは20~42%、より好ましくは24~42%、特に好ましくは27~42%である。このような塩化マグネシウム(無水物)の濃度の豆腐用凝固剤は、特に限定されるものではなく、特開2015-100280号公報に記載のもの、上記した本発明の豆腐用凝固剤等を用いることができるが、特に、本発明の豆腐用凝固剤が、上記したように凝固剤(油中水型乳化物)中の塩化マグネシウム(無水物)の濃度が高く、呈味剤および/または改質剤を有効量で配合できるため好ましい。
【0034】
豆腐用凝固剤の水相(塩化マグネシウム水溶液)との合一を避けるために、呈味剤および/または改質剤は油中水型乳化物として含有させることが好ましい。この油中水型乳化物に用いる油相は、上記豆腐用凝固剤の油相と同様に、植物性油脂とポリグリセリン縮合リシノール酸エステルからなるもので、必要に応じて、他の乳化剤、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等を配合できる。呈味剤および/または改質剤において脂溶性のものはこの油相に溶解し、水溶性のものは微粉状態でこの油相に分散配合することができる。この油中水型乳化物に用いる水相は、水溶性の呈味剤および/または改質剤を用いることができる。豆腐用凝固剤組成物における、豆腐用凝固剤や呈味剤および/または改質剤の配合量は特に限定されないが、例えば、豆腐用凝固剤に対して、呈味剤および/または改質剤を含む油中水型乳化物を5~40%、好ましくは10~25%である。この場合、豆腐用凝固剤組成物中の塩化マグネシウム(無水物)の濃度は、16~40%、好ましくは20~38%である。
【0035】
また、本発明の上記豆腐用凝固剤組成物は、豆乳の凝固に作用する塩化マグネシウムと、凝固した豆腐様食品に呈味を付与する呈味剤および/または凝固した豆腐様食品の組織を改質する改質剤を含有する。よって、豆乳に対する塩化マグネシウムの分散凝固作用と同時に、呈味剤および/または改質剤が分散作用することから、呈味剤および/または改質剤の有する機能が著しく効果的に発揮される。
【0036】
この本発明の豆腐用凝固剤組成物に用いられる呈味剤は特に限定されないが、例えば、ゆず、レモン、桃、マンゴー、リンゴ、オレンジ、メロン、スイカ、イチゴ、トマト等の果物や野菜、酵母、香辛料等のエキス、または香料、醤油、味噌、蛋白分解物等の調味料、果糖、砂糖、オリゴ糖、ステビア、キシリトール、アスパルテーム等の甘味料等が挙げられる。これらの呈味剤の中でもエキス、調味料、オリゴ糖が好ましい。
【0037】
また、この本発明の豆腐用凝固剤組成物に用いられる改質剤は特に限定されないが、例えば、風味を変える糖分解酵素、タンパク分解酵素、脂肪分解酵素、食感を変える増粘安定剤、ゲル化剤、蛋白結合酵素、色を変える色素、澱粉等が挙げられる。これらの改質剤の中でも増粘安定剤、蛋白結合酵素が好ましい。
【0038】
これら呈味剤及び/または改質剤の形状は特に限定されず、液状、粉末状等でよい。呈味剤及び/または改質剤を含む油中水型乳化物を調製は、常法に従って調製することができる。また、油中水型乳化物中の呈味剤及び/または改質剤の濃度は高い方が良く、例えば、30~80%、好ましくは50~80%である。
【0039】
上記した本発明の豆腐用凝固剤組成物も、本発明の豆腐用凝固剤と同様にして豆腐または豆腐様食品、更にはこれらを油で揚げた油揚げまたは油揚げ様食品を製造することができる。
【0040】
斯くして得られる豆腐または豆腐様食品は、その製造工程で味抜けし易い「水晒し」工程、蛋白変性により収縮し易い「ボイル殺菌」工程を経る木綿豆腐、ソフト木綿、寄せ豆腐、絹ごし豆腐、充填豆腐等においても、安定した呈味の付与、食感の改善をもたらす。
【実施例
【0041】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
実 施 例 1
豆腐用凝固剤の製造:
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(サンソフトNo.818SK:太陽化学社製)70g、菜種サラダ油(日清オイリオ社製)180gを配合した油相を130℃まで昇温し、ホモミキサー(TKホモミキサーMARKII:プライミクス社製)をセットした。別途容器に塩化マグネシウム6水塩(MgCl・6HO)(クリスタリン:赤穂化成社製)680gに水100g加えて130℃まで昇温し、完全溶解液とした。これを130℃保持により水を蒸発させて全重量を750gにしたものを水相とし、前述の油相中にホモミキサー回転数7000rpm下で投入した。水相全量投入後1分間撹拌を続け、豆腐用凝固剤の油中水型乳化物1000gを得た。
【0043】
実 施 例 2
豆腐用凝固剤の製造:
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル80g、菜種サラダ油90g、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン(ココナードMT:花王社製)20gを配合した油相を140℃まで昇温し、ホモミキサーをセットした。別途容器に塩化マグネシウム6水塩800gに水50g加えて140℃まで昇温し、完全溶解液とした。これを140℃保持により水を蒸発させて全重量を810gにした水相を、前述の油相中にホモミキサー回転数7000rpm下で投入した。水相全量投入後1分間撹拌を続け、豆腐用凝固剤の油中水型乳化物1000gを得た。
【0044】
比 較 例 1
豆腐用凝固剤の製造:
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル20g、菜種サラダ油380gを油相とし、これを70℃まで昇温し、ホモミキサーをセットした。別途容器に塩化マグネシウム6水塩360gに水240g加えて、溶解したものを水相とした。これを前述の油相中にホモミキサー回転数7000rpm下で投入した。水相全量投入後、15分間撹拌を続け、豆腐用凝固剤の油中水型乳化物1000gを得た。
【0045】
比 較 例 2
豆腐用凝固剤の製造:
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル70g、菜種サラダ油230gを油相とし、これを70℃まで昇温し、ホモミキサーをセットした。別途容器に塩化マグネシウム6水塩460gに水240g加えて、溶解したものを水相とした。これを前述の油相中にホモミキサー回転数7000rpm下で投入した。水相全量投入後、15分間撹拌を続け、豆腐用凝固剤の油中水型乳化物1000gを得た。
【0046】
試 験 例 1
豆腐用凝固剤(油中水型乳化粒子)の粒径分布測定:
上記、実施例1~2、比較例1~2で製造した豆腐用凝固剤を20℃で一週間保存し、レーザー回析式粒度分布計(商品名:SALD-2200 島津製作所社製)を用いて平均粒径、標準偏差径(体積基準、屈折率1.70-0.20i)を測定した。その結果を表1に示した。
【0047】
試 験 例 2
豆腐の製造と評価:
カナダ産大豆(銀河W4)を原料として得たBrix12の豆乳を原料とし、上記で製造した豆腐用凝固剤を用いて豆腐を製造した。具体的には、80℃に調温した10kgの豆乳を0.5kg/秒の流速管内にて、豆腐用凝固剤が豆乳中の塩化マグネシウム濃度が0.2%になるように連続添加し、添加直後にTKホモミキサー7000rpmを通した分散処理液を型箱(430×300×120:SUS製)に流し込み、全量流し込み後20分間熟成して絹豆腐を得た。この際、全量流し込み後、型箱内での流動性が無くなる(豆乳の凝固開始)までの時間(秒)を測定した。また、豆腐の硬さを丸型(棒)〇調式テンションゲージで測定した。更に、この型箱中の絹豆腐をホイッパー等で均一に崩し、均等なプレス圧をかけて脱ホエー水、再成型して木綿豆腐を得て、絹豆腐の重量に対する木綿豆腐の重量比を測定し、これを木綿豆腐としての回収率とした。この回収率は豆腐の保水力を示す。また、木綿豆腐の風味と木綿豆腐の油っぽさを以下の評価基準で評価した。これらの結果も表1に示した。
【0048】
<絹豆腐の風味評価基準>
(評価)(内容)
◎ : 大豆の風味と塩化マグネシウムの甘みを強く感じる
〇 : 大豆の風味と塩化マグネシウムの甘みを感じる
△ : 大豆の風味と塩化マグネシウムの甘みを僅かに感じる
× : 大豆の風味と塩化マグネシウムの甘みは全く感じない
【0049】
<木綿豆腐の油っぽさ評価基準>
(評価)(内容)
◎ : 油相成分由来の油性感、異味を全く感じない
〇 : 油相成分由来の油性感、異味をほとんど感じない
△ : 油相成分由来の油性感、異味をやや感じる
× : 油っぽさ、異味が後々まで残る
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示されるように、水の沸点以上で乳化した油中水型乳化物は塩化マグネシウム濃度が高いにも関わらず平均粒径の小さな、より粒径分布の揃った(標準偏差小)ものである。塩化マグネシウムの濃度に依存して、豆乳中への油相成分量の減少があり、この効果が指数関数的に、絹豆腐の風味発現、木綿豆腐の油っぽさの抑制に働いている。さらに、油中水型乳化物の水相(塩化マグネシウム水溶液)の粒径が小さいこと、粒径分布が揃っていることは、凝固組織の緻密性を左右することから、遅効性の安定化、硬度、さらに、木綿豆腐の回収率に優位である。
【0052】
実 施 例 3
呈味剤を含有する豆腐用凝固剤組成物およびこれを用いた豆腐の製造:
菜種サラダ油270g、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル30gを配合した油相を80℃まで加温し、ホモミキサーをセットした。フラクトオリゴ糖シロップ(商品名:メイオリゴGY 明治社製)700gを80℃に加温し、前記油相中にホモミキサー回転数7000rpm下で滴下投入した。フラクトオリゴ糖シロップ全量投入後、10分間撹拌を続け、フラクトオリゴ糖(呈味剤)を含有する油中水型乳化物1000gを得た。
【0053】
実施例1で得た豆腐用凝固剤850gと、前記フラクトオリゴ糖を含有する油中水型乳化物150gを、M-Revo(羽根の無い撹拌機:エムレボジャパン社製)撹拌下で混合して、フラクトオリゴ糖を含有する豆腐用凝固剤組成物1000gを得た。
【0054】
豆乳1000gにこのフラクトオリゴ糖を含有する豆腐用凝固剤組成物6gを添加し、凝固させて絹ごし豆腐を得た。この絹ごし豆腐は、水晒し、ボイル殺菌後も、まろやかな甘さ有するものであった。
【0055】
実 施 例 4
改質剤を含有する豆腐用凝固剤組成物およびこれを用いた豆腐の製造:
菜種サラダ油450g、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル50gを配合した油相を40℃に加温し、M-Revoをセットした。この油相中に、1200rpm撹拌下、トランスグルタミナーゼ製剤(商品名:アクティバスーパーカード 味の素社製)500gを分散させて、トランスグルタミナーゼ製剤(改質剤)を含有する油中水(粉末)型乳化物1000gを得た。
【0056】
実施例1で得た豆腐用凝固剤750gと前記トランスグルタミナーゼ製剤を含有する油中水(粉末)型乳化物250gを、M-Revo撹拌下で混合して、トランスグルタミナーゼ製剤を含有する豆腐用凝固剤組成物1000gを得た。
【0057】
豆乳1000gにこのトランスグルタミナーゼ製剤を含有する豆腐用凝固剤組成物8gを添加し、凝固させて充填豆腐を得た。この充填豆腐は、弾力性に富む、滑らかな食感を有するものであった。
【0058】
実 施 例 5
呈味剤および改質剤を含有する豆腐用凝固剤組成物およびこれを用いた
豆腐の製造:
菜種サラダ油340g、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル60gを配合した油相を80℃まで加温し、M-Revoをセット回転数1200rpm下で、改質剤としてキサンタンガム製剤(商品名:エコーガムF DSP五協フード&ケミカル製)200gを分散した。この分散乳化物にホモミキサーをセットし、回転数7000rpm下、品温80℃の呈味剤としてのキャラメルシロップ(商品名:Sundae Syrup HERSHEY製)400gを滴下投入し、全量投入後10分間撹拌を続け、呈味剤(キャラメルシロップ)および改質剤(キサンタンガム製剤)を含有する油中水型乳化物1000gを得た。
【0059】
次に、菜種サラダ油270g、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル30gを配合した油相を80℃まで加温し、ホモミキサー回転数7000rpm撹拌下、塩化マグネシウム6水塩(クリスタリン 赤穂化成製)490gを水210gに溶解した塩化マグネシウム水溶液を滴下投入し、全量投入後15分間撹拌を続け、油中水型乳化物の豆腐用凝固剤を1000g得た。
【0060】
前記呈味剤および改質剤を含有する油中水型乳化物250gと前記油中水型乳化物の豆腐用凝固剤750gを、M-Revo回転数1200rpm下で混合して、呈味剤及び改質剤を含有する豆腐用凝固剤組成物1000gを得た。
【0061】
80℃の豆乳(Bx12)1000gに、前記キャラメルシロップおよびキサンタンガム製剤を含有する豆腐用凝固剤組成物10gを添加し、凝固させて、常法に従い木綿豆腐を製造した。この木綿豆腐は、ほのかな甘みと香ばしい風味を有する、ジューシーな食感の全く新規な木綿豆腐であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の豆腐用凝固剤および豆腐用凝固剤組成物は、豆腐または豆腐様食品の製造に利用することができる。

以 上