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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-20
(45)【発行日】2023-03-29
(54)【発明の名称】トーションビームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60G 9/04 20060101AFI20230322BHJP
   B21D 53/88 20060101ALI20230322BHJP
   B21D 22/02 20060101ALI20230322BHJP
   B21D 5/01 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
B60G9/04
B21D53/88 Z
B21D22/02 A
B21D5/01 S
B21D5/01 M
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019020473
(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公開番号】P2020128114
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川田 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 陽平
(72)【発明者】
【氏名】國安 崇雅
(72)【発明者】
【氏名】唐 奇輝
(72)【発明者】
【氏名】向地 武彦
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-311329(JP,A)
【文献】特開2010-194611(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102009017571(DE,A1)
【文献】特開2013-119103(JP,A)
【文献】国際公開第2015/145566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 9/04
B21D 53/88
B21D 22/02
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のトーションビーム型サスペンション装置に使用されるトーションビームの製造方法において、
板材の幅方向中央部を長手方向に沿って膨出させて膨出部を形成する膨出部形成工程と、前記膨出部を挟むように位置する前記板材の一方側板部及び他方側板部を前記膨出部の膨出方向へ湾曲させる湾曲工程と、前記湾曲させた前記一方側板部の前記一端部と前記他方側板部の前記他端部とを接近させる端部曲げ工程とを含むプレス加工によって前記板材を管状に成形する際に、前記端部曲げ工程後に、前記板材の一端部及び他端部をコイニング加工し、
前記コイニング加工では、前記一方側板部を第1側方金型によって前記他方側板部に接近する方向に押し、前記他方側板部を第2側方金型によって前記一方側板部に接近する方向に押すことで、前記一端部及び前記他端部の間に突出して長手方向に延びるように上側金型に設けられた突条部に、前記一端部及び前記他端部を突き当て、
前記コイニング加工の後、前記板材の一端部及び他端部を突き合わせて溶接することを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項2】
請求項に記載のトーションビームの製造方法において、
前記コイニング加工では、1つの前記突条部に対して前記一端部及び前記他端部を突き当てることを特徴とするトーションビームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のトーションビーム型サスペンション装置に使用されるトーションビームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両に設けられているトーションビーム型サスペンション装置は、車幅方向に延びる金属製のトーションビームと、トーションビームの両端部に固定される2本のアームとを備えており、アームが揺動可能に車体に連結されるとともに、このアームには車輪が支持されるようになっている。
【0003】
近年では、燃費向上等の観点から車両の更なる軽量化が求められている。トーションビーム型サスペンション装置においては、パイプを所定の形状に成形することでトーションビームの軽量化を図ることができるが、素材となるパイプはかさばるため、パイプをトーションビームの製造工場まで輸送する際のコスト、即ち輸送コストが高くなる。
【0004】
そこで、例えば特許文献1、2に開示されているように、素材を板材とし、この板材を造管工程でパイプ状に成形し、その後、所定の形状のトーションビームに成形する工程をトーションビームの製造工場で連続的に行うことが考えられている。素材を板材にすれば、積み重ねて輸送できるので輸送効率が高くなり、また、トーションビームの製造工場でコイル材から板材を切り出してもよく、いずれの方法であってもパイプを輸送するのに比べて輸送コストを低減することができる。
【0005】
特許文献1、2では、平らな材料を使用し、複数段階のプレス成形工程を経て、製品形状を得る方法が開示されている。どちらの方法も、プレス加工により成形した後、材料の端部同士を突き合わせ、溶接する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5235924号公報
【文献】特開平7-186654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1、2のように、板材をプレス加工した後、端部同士を溶接する場合、その溶接品質は製品の疲労強度を左右する大きな要因となる。例えば、プレス機で切り出したままの状態の材料の端部同士を突き合わせた場合、スプリングバックにより材料が反り、突き合わせ部に隙間ができてしまうことがある。溶接時に隙間があると溶接部の所定の肉厚を得ることができず、溶接部における必要な断面積を確保できなくなり、製品の疲労強度の低下を招き、溶接品質が安定しなくなる。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、板材をプレス加工してから板材の端部同士を突き合わせて溶接することによって筒状のトーションビームを得る場合に、溶接部の溶接品質を高めるとともに安定させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明は、車両のトーションビーム型サスペンション装置に使用されるトーションビームの製造方法において、板材の幅方向中央部を長手方向に沿って膨出させて膨出部を形成する膨出部形成工程と、前記膨出部を挟むように位置する前記板材の一方側板部及び他方側板部を前記膨出部の膨出方向へ湾曲させる湾曲工程と、前記湾曲させた前記一方側板部の前記一端部と前記他方側板部の前記他端部とを接近させる端部曲げ工程とを含むプレス加工によって前記板材を管状に成形する際に、前記端部曲げ工程後に、前記板材の一端部及び他端部をコイニング加工し、前記コイニング加工では、前記一方側板部を第1側方金型によって前記他方側板部に接近する方向に押し、前記他方側板部を第2側方金型によって前記一方側板部に接近する方向に押すことで、前記一端部及び前記他端部の間に突出して長手方向に延びるように上側金型に設けられた突条部に、前記一端部及び前記他端部を突き当て、前記コイニング加工の後、前記板材の一端部及び他端部を突き合わせて溶接することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、板材の一端部及び他端部が溶接前に強く圧縮されているので、スプリングバックによる板材の反りが抑制されるとともに、一端部及び他端部の突き合わせ部分の形状が一致する。その後、板材の一端部及び他端部を突き合わせて溶接することで、一端部及び他端部の間に隙間ができにくくなる。これにより、溶接部の所定の肉厚が得られるので、溶接部における必要な断面積が確保される。
【0011】
また、板材に膨出部を形成した後、膨出部を挟むように位置する板材の一方側板部及び他方側板部を膨出部の膨出方向へ湾曲させ、その後、一方側板部の一端部と他方側板部の他端部とを接近させることができる。一方側板部の一端部と他方側板部の他端部とを接近させた後に、一端部及び他端部がコイニング加工されるので、一端部及び他端部の形状が最終製品の形状に近づいた段階で、コイニング加工を行うことが可能になり、一端部及び他端部の形状精度が高まる。
【0012】
また、上側金型の突条部が板材の一端部及び他端部の間に配置されることになり、この突条部に一端部及び他端部を突き当ててコイニング加工を行うことで一端部及び他端部の形状を揃えることが可能になる。
【0013】
また、一方側金型と他方側金型とで一端部及び他端部を突条部に確実に突き当ててコイニング加工を行うことが可能になる。
【0014】
また、上側金型の一側成形面及び他側成形面に一方側板部及び他方側板部を接触させることで、コイニング加工時に、板材の一端部及び他端部を狙い通りに成形することが可能になる。
【0015】
の発明は、前記コイニング加工では、1つの前記突条部に対して前記一端部及び前記他端部を突き当てることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、上側金型の構造をシンプルにしながら、一端部及び他端部の形状を揃えることが可能になる
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、板材をプレス加工によって管状に成形する際に、板材の一端部及び他端部をコイニング加工し、その後、板材の一端部及び他端部を突き合わせて溶接するようにしたので、溶接部の溶接品質を高めることができるとともに安定させることができる。
【0018】
また、板材に形成した膨出部を挟むように位置する一方側板部及び他方側板部を湾曲させた後、一方側板部の一端部と他方側板部の他端部とを接近させてから、コイニング加工を行うことができるので、一端部及び他端部の形状精度を高めることができ、溶接品質をより一層高めることができる。
【0019】
また、板材の一端部及び他端部の間に配置された上側金型の突条部によってコイニング加工を行うことができるので、一端部及び他端部の形状を揃えることができ、溶接品質をより一層高めることができる。
【0020】
また、一方側金型及び他方側金型を互いに接近する方向に移動させることで、板材の一端部及び他端部を突条部に確実に突き当ててコイニング加工を行うことができる。
【0021】
また、上側金型における一側成形面及び他側成形面にそれぞれ板材の一方側板部及び他方側板部を接触させることで、板材の一端部及び他端部を狙い通りに成形することができる。
【0022】
の発明によれば、上側金型の1つの突条部に対して板材の一端部及び他端部を突き当てるようにしたので、金型の構造をシンプルにしながら、一端部及び他端部の形状を揃えることができる
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る製造方法によって成形されたトーションビームを備えたトーションビーム型サスペンション装置の一部を示す斜視図である。
図2】トーションビームを下方から見た図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4】膨出部を形成する膨出部形成工程の要領を説明する断面図であり、図4Aは型開き状態を示し、図4Bは成形完了状態を示す。
図5】膨出部形成工程後の板材の斜視図である。
図6】トリム工程後の板材を下方から見た図である。
図7】湾曲工程の要領を説明する断面図であり、図7Aは型開き状態を示し、図7Bは成形完了状態を示す。
図8】湾曲工程後の板材の斜視図である。
図9】端曲げ工程の要領を説明する断面図であり、図9Aは型開き状態を示し、図9Bは成形完了状態を示す。
図10】端曲げ工程後の板材の斜視図である。
図11】コイニング工程の要領を説明する断面図であり、図11Aは型開き状態を示し、図11Bは成形完了状態を示す。
図12】コイニング工程後の板材の斜視図である。
図13】最終成形工程の要領を説明する断面図であり、図13Aは型開き状態を示し、図13Bは成形完了状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。尚、この実施形態では、車両前側を単に「前」といい、車両後側を単に「後」というものとする。また、車幅方向を左右方向ともいい、「左」とは車両の左側であり、「右」とは車両の右側である。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係るトーションビーム1を有するトーションビーム型サスペンション装置20の一部を示すものである。このトーションビーム型サスペンション装置20は、車両としての自動車の後輪懸架装置に用いられるものであり、車幅方向に延びるトーションビーム1と、該トーションビーム1の車幅方向の両端部にそれぞれ固定され、車両前後方向に延びる左アーム2及び右アーム2とを備えている。各アーム2の車両前端部にはブッシュ3が設けられており、このブッシュ3を介して各アーム2が車体に対し上下方向に揺動可能に取り付けられるようになっている。一方、各アーム2の車両後端部には、車輪を支持する車輪支持部材4が取り付けられている。また、アーム2には、スプリング(図示せず)を受けるスプリングサポート5がそれぞれ設けられている。トーションビーム型サスペンション装置20の構造は、上述した構造に限られるものではなく、少なくともトーションビーム1と左右のアーム2、2とを備え、左右のアーム2、2の揺動によってトーションビーム1が捩り力を受ける構造のものであればよい。
【0026】
上記トーションビーム1は、閉断面構造の中空トーションビームであり、上述したように捩り力を受ける部材である。この実施形態では、トーションビーム1が管状、即ち中空部材で構成されている場合について説明する。トーションビーム1の素材は、例えば一般構造用炭素鋼の板材(金属製板材)とすることができるが、これに限られるものではなく、従来から中空トーションビームの素材として知られている板材を曲げ加工して中空部材とし、これをトーションビーム1として使用することができる。トーションビーム1の製造方法の詳細については後述する。
【0027】
トーションビーム1の車幅方向の両端部(左右両端部)1a、1aは、略全体が開放されている。これにより、トーションビーム1は、長手方向の両端部が開放された筒状部材または管状と呼ぶこともできる。トーションビーム1の両端部1a、1aが、それぞれ左アーム2及び右アーム2の前後方向中間部の車幅方向内側壁部に対して溶接されている。
【0028】
図2に示すように、トーションビーム1の車幅方向中間部の所定領域は、略同一断面形状であり、この車幅方向中間部の所定領域は、同一断面部11とされている。一方、トーションビーム1の同一断面部11よりも左側は、トーションビーム1の左端部に向かって断面が徐々に拡大する徐辺部12とされ、また、トーションビーム1の同一断面部11よりも右側は、トーションビーム1の右端部に向かって断面が徐々に拡大する徐辺部12とされている。左側の徐辺部12は、同一断面部11の左端部に連続しており、また、右側の徐辺部12は、同一断面部11の右端部に連続している。徐辺部12の断面の拡大方向は、上下方向及び車両前後方向である。従って、トーションビーム1の同一断面部11の断面形状が、トーションビーム1の左端部及び右端部に比べて小さくなる。
【0029】
図3に示すように、トーションビーム1の下壁部は、上方へ膨出し、かつ下方に開放する膨出部10を有するように形成されている。膨出部10は、トーションビーム1の少なくとも同一断面部11に、車幅方向に連続して形成されており、凹条部と呼ぶこともできる。膨出部10の左側は左側の徐辺部12に達しており、また、膨出部10の右側は右側の徐辺部12に達している。各徐辺部12では、同一断面部11に比べて膨出部10の深さが徐々に浅くなり、両端部1a及びその近傍の下壁部には膨出部10が形成されていない。膨出部10の深さは、膨出部10の上下方向の寸法に相当する。下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状とすることで、トーションビーム1の捩り剛性を最適化することが可能になる。
【0030】
膨出部10の幅は膨出部10の前後方向の寸法に相当する。この膨出部10の幅は、膨出部10の開放部(膨出部10の下端部)に近づけば近づくほど広くなっている。よって、トーションビーム1の下壁部は、膨出部10が形成された部分が下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状を有することになる。
【0031】
また、トーションビーム1の上壁部の前側部分は、前方へ向かって下降傾斜ないし前側へ行くほど下に位置するように湾曲しており、トーションビーム1の下壁部における膨出部10が形成された部分に沿うように延びている。前側部分の内面と、トーションビーム1の下壁部における膨出部10が形成された部分の内面との間には隙間が形成されている。また、トーションビーム1の上壁部の後側部分は、後方へ向かって下降傾斜ないし後側へ行くほど下に位置するように湾曲しており、トーションビーム1の下壁部における膨出部10が形成された部分に沿うように延びている。後側部分の内面と、トーションビーム1の下壁部における膨出部10が形成された部分の内面との間には隙間が形成されている。
【0032】
トーションビーム1の上壁部の前側部分と後側部分とは、膨出部10の断面形状に対応するように、下端部に近づけば近づくほど前後方向の離間距離が長くなるように傾斜ないし湾曲している。このようにトーションビーム1の上壁部を形成することにより、トーションビーム1の膨出部10が形成された部分の断面形状は、上壁部及び下壁部を合わせた全体として、下に開放する略U字状または略V字状に近似した断面形状を有することになる。
【0033】
トーションビーム1の上壁部の前側部分と、膨出部10の前側との間には、前側膨らみ部1dが形成されている。また、トーションビーム1の上壁部の後側部分と、膨出部10の後側との間には、後側膨らみ部1eが形成されている。前側膨らみ部1d及び後側膨らみ部1eは、共に下方へ膨らむ形状とされている。
【0034】
また、トーションビーム1の上壁部の上端部において、トーションビーム1を構成する板材の一端部及び他端部が突き合わせ溶接されている。
【0035】
(トーションビーム1の製造方法)
次に、トーションビーム型サスペンション装置20に使用されるトーションビーム1の製造方法について説明する。トーションビーム1の製造方法は、大きく分けて、膨出部形成工程、トリム工程、湾曲工程、端部曲げ工程、コイニング工程、最終成形工程及び溶接工程を備えている。これら工程を行うことで、板材100をプレス加工によって管状に成形する際に、板材100の一端部101a及び他端部102a(図8に示す)をコイニング加工し、コイニング加工の後、板材100の一端部101a及び他端部102aを突き合わせて溶接することが可能になる。尚、トーションビーム1の製造方法は、これら工程以外の工程を備えていてもよい。
【0036】
図4は、膨出部10を形成する膨出部形成工程の要領を説明する断面図であり、図4Aは型開き状態を示し、図4Bは成形完了状態を示している。膨出部形成工程では、膨出部形成用下側金型30と、膨出部形成用上側金型31とを使用する。膨出部形成用下側金型30は固定型であり、膨出部形成用上側金型31は可動型である。膨出部形成用上側金型31は、図示しない型駆動装置によって上下方向(膨出部形成用下側金型30に接離する方向)に駆動され、図4Aに示す型開き位置と、図4Bに示す型閉じ位置(成形完了位置)とに切り替えられる。
【0037】
膨出部形成用下側金型30の上面は成形面とされており、この成形面には、膨出部10を成形するための凸状面30aが形成されている。膨出部形成用上側金型31の下面は成形面とされており、この成形面には、膨出部10を成形するための凹状面31aが形成されている。
【0038】
図4Aに示すように、膨出部形成用上側金型31を上昇させて型開き位置とした後、トーションビーム1の素材となる板材100を膨出部形成用下側金型30と膨出部形成用上側金型31との間に配置する。板材100は、平板であり、予め所定寸法に切断されたものであってもよいし、トーションビームの製造工場でコイル材から切り出したものであってもよい。トーションビーム1の素材を板材とすることで、パイプを輸送するのに比べて輸送コストを低減することができる。板材100は、僅かに湾曲していてもよいし、撓んでいてもよい。
【0039】
図4Bに示すように、膨出部形成用上側金型31を下降させると、膨出部形成用下側金型30の凸状面30aと、膨出部形成用上側金型31の凹状面31aによって板材100が成形される。これにより、板材100の幅方向(図4の左右方向)中央部を長手方向に沿って膨出させた膨出部10が形成される。その後、板材100を脱型する。図5は、脱型した板材100を上方から見た図である。膨出部10は、板材100の幅方向中央部から長手方向に延びており、板材100の長手方向両端部には達しないように形成され、更に板材100の長手方向の端部に近づくほど膨出高さが低くなっている。
【0040】
次いで、トリム工程を行う。トリム工程では、図6に仮想線で示す切断線に沿って板材100の各部を切断する。トリム工程で使用する刃は従来から周知のものを使用することができる。図6は、板材100の膨出部10の膨出方向と反対側から見た図であり、切断後の形状を示している。このトリム工程では、最終製品を構成するのに必要な板材100の幅方向の寸法が規定される。板材100の幅方向の寸法は、トーションビーム1の周長に対応する寸法であり、この実施形態では、長手方向両側の周長が長手方向中央部の周長よりも長くなっている。また、板材100の長手方向の両縁部には、切欠部100a、100aがそれぞれ形成されている。これら切欠部100a、100aは、後工程で板材100を位置決めするための位置決め部になる部分である。
【0041】
また、トリム工程を行った板材100には、膨出部10を挟むように位置する一方側板部101及び他方側板部102が形成されている。一方側板部101及び他方側板部102は、板材100の長手方向に沿って延びている。また、一方側板部101及び他方側板部102の間に膨出部10が位置しているので、一方側板部101と他方側板部102とは板材100の幅方向に互いに離間して形成されることになる。
【0042】
トリム工程の後、湾曲工程を行う。図7は、膨出部10を挟むように位置する板材100の一方側板部101及び他方側板部102を膨出部10の膨出方向へ湾曲させる湾曲工程の要領を説明する断面図であり、図7Aは型開き状態を示し、図7Bは成形完了状態を示している。湾曲工程では、湾曲工程用下側金型32と、湾曲工程用上側金型33とを使用する。湾曲工程用下側金型32は固定型であり、湾曲工程用上側金型33は可動型である。湾曲工程用上側金型33は、図示しない型駆動装置によって上下方向(湾曲工程用下側金型32に接離する方向)に駆動され、図7Aに示す型開き位置と、図7Bに示す型閉じ位置(成形完了位置)とに切り替えられる。
【0043】
湾曲工程用下側金型32の上面は成形面とされており、この成形面には、図6に示す板材100の一方側板部101及び他方側板部102を膨出部10の膨出方向へ湾曲させるための下側成形面32aが形成されている。下側成形面32aは、一方側板部101を膨出部10の膨出方向へ湾曲させる部分と、他方側板部102を膨出部10の膨出方向へ湾曲させる部分とを有しており、これら部分は上下方向に延びる面で構成されている。また、湾曲工程用上側金型33の下面は成形面とされており、この成形面には、図6に示す板材100の一方側板部101及び他方側板部102を膨出部10の膨出方向へ湾曲させるための上側成形面33aが形成されている。上側成形面33aも、一方側板部101を膨出部10の膨出方向へ湾曲させる部分と、他方側板部102を膨出部10の膨出方向へ湾曲させる部分とを有しており、これら部分は上下方向に延びる面で構成されている。
【0044】
まず、図7Aに示すように、湾曲工程用上側金型33を上昇させて型開き位置にする。そして、図6に示す形状の板材100を湾曲工程用下側金型32と湾曲工程用上側金型33との間に配置する。
【0045】
その後、図7Bに示すように、湾曲工程用上側金型33を下降させると、湾曲工程用上側金型33の上側成形面33aと、湾曲工程用下側金型32の下側成形面32aによって板材100の一方側板部101及び他方側板部102が膨出部10の膨出方向へ湾曲し、上下方向に延びるようになる。その後、板材100を脱型する。図8は、脱型した板材100を膨出部10の膨出方向から見た図であり、一方側板部101及び他方側板部102が互いに接近する方向に折り曲げられている。一方側板部101の端部が板材100の一端部101aであり、他方側板部102の端部が板材100の他端部102aである。尚、トリム工程と湾曲工程の順番は入れ替えてもよい。
【0046】
湾曲工程の後、端部曲げ工程を行う。図9は、湾曲工程で湾曲させた板材100の一方側板部101の一端部101a(図8に示す)と他方側板部102の他端部102a(図8に示す)とを接近させる端部曲げ工程の要領を説明する断面図であり、図9Aは型開き状態を示し、図9Bは成形完了状態を示している。
【0047】
端部曲げ工程では、下側金型34と、第1側方金型35と、第2側方金型36と、パッド37とを使用する。下側金型34は固定型である。下側金型34の上面には、板材100の膨出部10内に挿入される挿入部34aが上方へ膨出するように形成されている。第1側方金型35と第2側方金型36とは、下側金型34の上面において挿入部34aを挟むように配置されている。第1側方金型35と第2側方金型36とは、図示しないが駆動装置やカム構造等によって水平方向に移動して、図9Aに示す型開き位置と、図9Bに示す型閉じ位置(成形完了位置)とに切り替えられる。
【0048】
第1側方金型35の成形面35aは、一方側板部101の一端部101aを他方側板部102の他端部102aに接近する方向に湾曲させるための面である。また、第2側方金型36の成形面36aは、他方側板部102の他端部102aを一方側板部101の一端部101aに接近する方向に湾曲させるための面である。
【0049】
パッド37は、板材100の一方側板部101と他方側板部102との間に挿入される部材であり、一方側板部101を第1側方金型35とは反対側から支持し、他方側板部102を第2側方金型36とは反対側から支持するように構成されている。
【0050】
まず、図9Aに示すように、パッド37を上昇させるとともに、第1側方金型35と第2側方金型36を互いに離れる方向に移動させて型開き位置にする。そして、図8に示す形状の板材100を下側金型34に載置するとともに、パッド37を下降させて一方側板部101と他方側板部102との間に挿入する。パッド37を挿入する際には、一方側板部101と他方側板部102が離れる方向に板材100を弾性変形させればよい。
【0051】
その後、図9Bに示すように、第1側方金型35を移動させて成形面35aを板材100の一方側板部101に押し当てる。また、第2側方金型36を移動させて成形面36aを板材100の他方側板部102に押し当てる。これにより、板材100の一方側板部101の一端部101aと他方側板部102の他端部102aとが互いに接近する方向に湾曲する。その後、板材100を脱型する。パッド37を取り出す際には、一方側板部101と他方側板部102が離れる方向に板材100を弾性変形させればよい。図10は、脱型した板材100を膨出部10の膨出方向から見た図であり、一方側板部101の一端部101a及び他方側板部102の他端部102aが互いに接近する方向に折り曲げられている。
【0052】
端部曲げ工程の後、コイニング工程を行う。図11は、板材100の一端部101a及び他端部102aをコイニング加工するコイニング工程の要領を説明する断面図であり、図11Aは型開き状態を示し、図11Bはコイニング加工完了状態を示している。
【0053】
コイニング工程では、下側金型40と、第1側方金型41と、第2側方金型42と、上側金型43とを使用する。下側金型40は固定型である。下側金型40には、板材100の膨出部10内に挿入される挿入部40aが上方へ膨出するように形成されている。第1側方金型41と第2側方金型42とは、下側金型40の挿入部40aを挟むように配置されている。第1側方金型41と第2側方金型42とは、図示しないが駆動装置やカム構造等によって図11Aに示す位置から図11Bに示す位置まで斜め方向に移動して、図11Aに示す型開き位置と、図11Bに示す型閉じ位置(成形完了位置)とに切り替えられる。第1側方金型41の側面41aは、一方側板部101に押し当てられる面(一側成形面)である。また、第2側方金型42の側面42aは、他方側板部102に押し当てられる面(他側成形面)である。
【0054】
また、上側金型43は、図示しない駆動装置によって上下方向(下側金型40に接離する方向)に駆動され、図11Aに示す型開き位置と、図11Bに示す型閉じ位置(コイニング完了位置)とに切り替えられる。上側金型43の下面には、板材100の一端部101a及び他端部102aの間に突出して当該板材100の長手方向に延びるように突条部43aが設けられている。突条部43aは、1つだけ設けられており、突条部43aにおける一側面43bに、板材100の一端部101aの端面が突き当てられ、突条部43aにおける他側面43cに、板材100の他端部102aの端面が突き当てられるようになっている。第1側方金型41の側面41aと第2側方金型42の側面42aとは、突条部43aを挟むように位置する面である。
【0055】
まず、図11Aに示すように、上側金型43を上昇させるとともに、第1側方金型41と第2側方金型42を下側金型40から離れる方向に移動させて型開き位置にする。そして、図10に示す形状の板材100を下側金型40に載置した後、上側金型43を下降させるとともに、第1側方金型41と第2側方金型42を下側金型40に接近する方向に移動させる。すると、第1側方金型41の側面41aが一方側板部101に押し当てられ、また、第2側方金型42の側面42aが他方側板部102に押し当てられる。
【0056】
図11Bに示すように、上側金型43が完全に下降すると、板材100の一端部101a及び他端部102aの間に突条部43aが位置することになる。この状態で、第1側方金型41の側面41aを一方側板部101に押し当てて、一方側板部101を他方側板部102に接近する方向に押圧することで、板材100の一端部101aを突条部43aの一側面43bに突き当てることができる。また、第2側方金型42の側面42aを他方側板部102に押し当てて、他方側板部102を一方側板部101に接近する方向に押圧することで、板材100の他端部102aを突条部43aの他側面43cに突き当てることができる。これにより、板材100の一端部101a及び他端部102aを、上側金型43、第1側方金型41及び第2側方金型42によって強く圧縮してコイニング加工することができる。コイニング加工は、材料を強く圧縮する加工方法であるため、板材100の一端部101a及び他端部102aのスプリングバック現象を抑制することができる。また、コイニング加工を行うことにより、板材100の一端部101a及び他端部102aの形状を一致させることができ、突き合わせたときの隙間を無くす、あるいは極小化することができる。
【0057】
コイニング工程の後、最終成形工程を行う。図13は、板材100の形状を最終形状にするための最終成形工程の要領を説明する断面図であり、図13Aは型開き状態を示し、図13Bは成形完了状態を示している。
【0058】
最終成形工程では、最終成形用下側金型45と、最終成形用上側金型46とを使用する。最終成形用下側金型45は固定型であり、最終成形用上側金型46は可動型である。最終成形用上側金型46は、図示しない型駆動装置によって上下方向(最終成形用下側金型45に接離する方向)に駆動され、図13Aに示す型開き位置と、図13Bに示す型閉じ位置(成形完了位置)とに切り替えられる。
【0059】
最終成形用下側金型45の上面は成形面とされており、この成形面には、板材100の膨出部10を最終形状にするための下側成形面45aが形成されている。また、最終成形用上側金型46の下面は成形面とされており、この成形面には、板材100の一方側板部101及び他方側板部102を最終形状にするための上側成形面46aが形成されている。
【0060】
まず、図13Aに示すように、最終成形用上側金型46を上昇させて型開き位置にする。そして、図12に示す形状の板材100を最終成形用下側金型32に載置する。
【0061】
その後、図13Bに示すように、最終成形用上側金型46を下降させると、最終成形用上側金型46の上側成形面46aと、最終成形用下側金型45の下側成形面45aによって板材100が最終形状となるように成形される。このとき、図示しないが、長手方向両側から板材100を押して端面を成形する。その後、板材100を脱型する。
【0062】
最終成形工程の後、溶接工程を行う。溶接工程では、板材100の一端部101aと他端部102aとを突き合わせた状態でアーク溶接する。板材100の一端部101aと他端部102aとは予めコイニング加工されているので、スプリングバックによる板材100の反りが抑制されるとともに、一端部101a及び他端部102aの突き合わせ部分の形状が一致する。その後、板材100の一端部101a及び他端部102aを突き合わせて溶接することで、一端部101a及び他端部102aの間に隙間ができにくくなる。これにより、溶接部の所定の肉厚が得られるので、溶接部における必要な断面積が確保される。
【0063】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態に係るトーションビームの製造方法によれば、板材100をプレス加工によって管状に成形する際に、板材100の一端部101a及び他端部102aをコイニング加工し、その後、板材100の一端部101a及び他端部102aを突き合わせて溶接するようにしたので、溶接部の溶接品質を高めることができるとともに安定させることができる。
【0064】
また、板材100に形成した膨出部10を挟むように一方側板部101及び他方側板部102を湾曲成形した後、一方側板部101の一端部101aと他方側板部102の他端部102aとを接近させてから、コイニング加工を行うことができるので、一端部101a及び他端部102aの形状精度を高めることができ、溶接品質をより一層高めることができる。
【0065】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明に係るトーションビームの製造方法は、例えば車両のトーションビーム型サスペンション装置に使用されるトーションビームを製造する場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 トーションビーム
2 アーム
10 膨出部
20 トーションビーム型サスペンション装置
100 板材
101 一方側板部
101a 一端部
102 他方側板部
102a 他端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13